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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1329540
審判番号 不服2016-15174  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-07 
確定日 2017-06-14 
事件の表示 特願2013- 83698「酸化ケイ素薄膜の高温原子層堆積」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月21日出願公開,特開2013-236073〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年4月12日(パリ条約による優先権主張2012年4月12日,アメリカ合衆国,2013年4月5日,アメリカ合衆国)の出願であって,平成26年8月15日付けで拒絶理由が通知され,同年12月11日に意見書及び手続補正書が提出され,平成27年7月21日付けで拒絶理由が通知され,同年10月27日に意見書及び手続補正書が提出され,平成28年6月2日付けで拒絶査定され,同年10月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,平成29年1月12日に上申書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成28年10月7日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理 由]
1 補正の内容
平成28年10月7日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし17を補正して,補正後の請求項1,2とするものであって,補正前後の請求項の記載は,各々次のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
a.基材を反応器内に用意する工程,
b.少なくとも1つのケイ素前駆体を前記反応器内に導入する工程,
c.前記反応器をパージガスでパージする工程,
d.酸素源を前記反応器内に導入する工程,及び
e.前記反応器をパージガスでパージする工程
を含み,所望の厚さの酸化ケイ素が堆積するまで工程bから工程eが繰り返され,
550?800℃の1又は複数の温度及び50ミリトール(mT)?760トールの1又は複数の圧力で実施される,基材上に酸化ケイ素膜を堆積させる方法であって,
前記少なくとも1つのケイ素前駆体が,ジエチルアミノトリエチルシラン,ジメチルアミノトリエチルシラン,エチルメチルアミノトリエチルシラン,t‐ブチルアミノトリエチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリエチルシラン,ジイソプロピルアミノトリエチルシラン,ピロリジノトリエチルシラン,ジエチルアミノトリメチルシラン,ジメチルアミノトリメチルシラン,エチルメチルアミノトリメチルシラン,t‐ブチルアミノトリメチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリメチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノトリメチルシラン,ピロリジノトリメチルシラン,ジエチルアミノジメチルシラン,ジメチルアミノジメチルシラン,エチルメチルアミノジメチルシラン,t‐ブチルアミノジメチルシラン,イソ‐プロピルアミノジメチルシラン,ジイソプロピルアミノジメチルシラン,ピロリジノジメチルシラン,ジエチルアミノジエチルシラン,ジメチルアミノジエチルシラン,エチルメチルアミノジエチルシラン,t‐ブチルアミノジエチルシラン,イソ‐プロピルアミノジエチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノジエチルシラン,ピロリジノジエチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジメチルシラン,ジピロリジノジメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジエチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジエチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジエチルシラン,ビス(ジイソプロピルアミノ)ジエチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジエチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジエチルシラン,ジピロリジノジエチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)メチルビニルシラン,ジピロリジノメチルビニルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノメチルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノジメチルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)フェニルシラン,トリス(ジメチルアミノ)メチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)エチルシラン,及びそれらの混合物からなる群より選択されるか,または
前記少なくとも1つのケイ素前駆体が,メトキシトリメチルシラン,エトキシトリメチルシラン,イソ‐プロポキシトリメチルシラン,tert‐ブトキシトリメチルシラン,tert‐ペントキシトリメチルシラン,フェノキシトリメチルシラン,アセトキシトリメチルシラン,メトキシトリエチルシラン,エトキシトリエチルシラン,イソ‐プロポキシトリエチルシラン,tert‐ブトキシトリエチルシラン,tert‐ペントキシトリエチルシラン,フェノキシトリエチルシラン,アセトキシトリエチルシラン,メトキシジメチルシラン,エトキシジメチルシラン,イソ‐プロポキシジメチルシラン,tert‐ブトキシジメチルシラン,tert‐ペントキシジメチルシラン,フェノキシジメチルシラン,アセトキシジメチルシラン,メトキシジメチルフェニルシラン,エトキシジメチルフェニルシラン,イソ‐プロポキシジメチルフェニルシラン,tert‐ブトキシジメチルフェニルシラン,tert‐ペントキシジメチルフェニルシラン,フェノキシジメチルフェニルシラン,アセトキシジメチルフェニルシラン,ジメトキシジメチルシラン,ジエトキシジメチルシラン,ジ‐イソプロポキシジメチルシラン,ジ‐t‐ブトキシジメチルシラン,ジアセトキシジメチルシラン,ジメトキシジエチルシラン,ジエトキシジエチルシラン,ジ‐イソプロポキシジエチルシラン,ジ‐t‐ブトキシジエチルシラン,ジアセトキシジエチルシラン,ジメトキシジ‐イソプロピルシラン,ジエトキシジ‐イソプロピルシラン,ジ‐イソプロポキシジ‐イソプロピルシラン,ジ‐t‐ブトキシジ‐イソプロピルシラン,ジアセトキシジ‐イソプロピルシラン,ジメトキシメチルビニルシラン,ジエトキシメチルビニルシラン,ジ‐イソプロポキシメチルビニルシラン,ジ‐t‐ブトキシメチルビニルシラン,ジアセトキシメチルビニルシラン,1,1,3,4‐テトラメチル‐1‐シラ‐2,5‐ジオキサシクロペンタン,1,1,3,3,4,4‐ヘキサメチル‐1‐シラ‐2,5‐ジオキサシクロペンタン,及びそれらの混合物からなる群より選択される,方法。
【請求項2】
前記パージガスが,窒素,ヘリウム,及びアルゴンからなる群より選択される,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸素源が,酸素,過酸化物,酸素プラズマ,水蒸気,水蒸気プラズマ,過酸化水素,及びオゾン源からなる群より選択される,請求項1に記載の方法。
【請求項4】
f.水蒸気又はヒドロキシル源を前記反応器内に導入する工程,及び
g.前記反応器をパージガスでパージする工程
を工程eの後にさらに含む,請求項1に記載の方法。
【請求項5】
a.基材を反応器内に用意する工程,
b.少なくとも1つのケイ素前駆体を前記反応器内に導入する工程,
c.前記反応器をパージガスでパージする工程,
d.酸素源を前記反応器内に導入する工程,
e.前記反応器をパージガスでパージする工程,
f.水蒸気又はOH源を前記反応器内に導入する工程,及び
g.前記反応器をパージガスでパージする工程
を含み,所望の厚さが堆積するまで工程bから工程gが繰り返され,
プロセス温度が550?800℃であり,圧力が50ミリトール(mT)?760トールである,酸化ケイ素を堆積させる方法であって,
前記少なくとも1つのケイ素前駆体が,ジエチルアミノトリエチルシラン,ジメチルアミノトリエチルシラン,エチルメチルアミノトリエチルシラン,t‐ブチルアミノトリエチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリエチルシラン,ジイソプロピルアミノトリエチルシラン,ピロリジノトリエチルシラン,ジエチルアミノトリメチルシラン,ジメチルアミノトリメチルシラン,エチルメチルアミノトリメチルシラン,t‐ブチルアミノトリメチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリメチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノトリメチルシラン,ピロリジノトリメチルシラン,ジエチルアミノジメチルシラン,ジメチルアミノジメチルシラン,エチルメチルアミノジメチルシラン,t‐ブチルアミノジメチルシラン,イソ‐プロピルアミノジメチルシラン,ジイソプロピルアミノジメチルシラン,ピロリジノジメチルシラン,ジエチルアミノジエチルシラン,ジメチルアミノジエチルシラン,エチルメチルアミノジエチルシラン,t‐ブチルアミノジエチルシラン,イソ‐プロピルアミノジエチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノジエチルシラン,ピロリジノジエチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジメチルシラン,ジピロリジノジメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジエチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジエチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジエチルシラン,ビス(ジイソプロピルアミノ)ジエチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジエチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジエチルシラン,ジピロリジノジエチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)メチルビニルシラン,ジピロリジノメチルビニルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノメチルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノジメチルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)フェニルシラン,トリス(ジメチルアミノ)メチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)エチルシラン,及びそれらの混合物からなる群より選択されるか,または
前記少なくとも1つのケイ素前駆体が,メトキシトリメチルシラン,エトキシトリメチルシラン,イソ‐プロポキシトリメチルシラン,tert‐ブトキシトリメチルシラン,ert‐ペントキシトリメチルシラン,フェノキシトリメチルシラン,アセトキシトリメチルシラン,メトキシトリエチルシラン,エトキシトリエチルシラン,イソ‐プロポキシトリエチルシラン,tert‐ブトキシトリエチルシラン,tert‐ペントキシトリエチルシラン,フェノキシトリエチルシラン,アセトキシトリエチルシラン,メトキシジメチルシラン,エトキシジメチルシラン,イソ‐プロポキシジメチルシラン,tert‐ブトキシジメチルシラン,tert‐ペントキシジメチルシラン,フェノキシジメチルシラン,アセトキシジメチルシラン,メトキシジメチルフェニルシラン,エトキシジメチルフェニルシラン,イソ‐プロポキシジメチルフェニルシラン,tert‐ブトキシジメチルフェニルシラン,tert‐ペントキシジメチルフェニルシラン,フェノキシジメチルフェニルシラン,アセトキシジメチルフェニルシラン,ジメトキシジメチルシラン,ジエトキシジメチルシラン,ジ‐イソプロポキシジメチルシラン,ジ‐t‐ブトキシジメチルシラン,ジアセトキシジメチルシラン,ジメトキシジエチルシラン,ジエトキシジエチルシラン,ジ‐イソプロポキシジエチルシラン,ジ‐t‐ブトキシジエチルシラン,ジアセトキシジエチルシラン,ジメトキシジ‐イソプロピルシラン,ジエトキシジ‐イソプロピルシラン,ジ‐イソプロポキシジ‐イソプロピルシラン,ジ‐t‐ブトキシジ‐イソプロピルシラン,ジアセトキシジ‐イソプロピルシラン,ジメトキシメチルビニルシラン,ジエトキシメチルビニルシラン,ジ‐イソプロポキシメチルビニルシラン,ジ‐t‐ブトキシメチルビニルシラン,ジアセトキシメチルビニルシラン,1,1,3,4‐テトラメチル‐1‐シラ‐2,5‐ジオキサシクロペンタン,1,1,3,3,4,4‐ヘキサメチル‐1‐シラ‐2,5‐ジオキサシクロペンタン,及びそれらの混合物からなる群より選択される,方法。
【請求項6】
前記パージガスが,窒素,ヘリウム,及びアルゴンからなる群より選択される,請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記酸素源が,酸素,酸素プラズマ,亜酸化窒素,水蒸気,水蒸気プラズマ,過酸化水素,及びオゾン源からなる群より選択される,請求項5に記載の方法。
【請求項8】
a.基材を反応器内に用意する工程,
b.少なくとも1つのケイ素前駆体を前記反応器内に導入する工程,
c.前記反応器をパージガスでパージする工程,
d.酸素源を前記反応器内に導入する工程,及び
e.前記反応器をパージガスでパージする工程
を含み,所望の厚さが堆積するまで工程bから工程eが繰り返され,
プロセス温度が550?800℃であり,圧力が50ミリトール(mT)?760トールであり,前記ケイ素前駆体が少なくとも1つの固着官能基及びSi‐Me基を含む不動態化官能基を有する,酸化ケイ素を堆積させる方法であって,
前記少なくとも1つのケイ素前駆体が,ジエチルアミノトリメチルシラン,ジメチルアミノトリメチルシラン,エチルメチルアミノトリメチルシラン,t‐ブチルアミノトリメチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリメチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノトリメチルシラン,ピロリジノトリメチルシラン,ジエチルアミノジメチルシラン,ジメチルアミノジメチルシラン,エチルメチルアミノジメチルシラン,t‐ブチルアミノジメチルシラン,イソ‐プロピルアミノジメチルシラン,ジイソプロピルアミノジメチルシラン,ピロリジノジメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジメチルシラン,ジピロリジノジメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)メチルビニルシラン,ジピロリジノメチルビニルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノメチルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノジメチルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)メチルシラン,及びそれらの混合物からなる群より選択されるか,または
前記少なくとも1つのケイ素前駆体が,メトキシトリメチルシラン,エトキシトリメチルシラン,イソ‐プロポキシトリメチルシラン,tert‐ブトキシトリメチルシラン,tert‐ペントキシトリメチルシラン,フェノキシトリメチルシラン,アセトキシトリメチルシラン,メトキシジメチルシラン,エトキシジメチルシラン,イソ‐プロポキシジメチルシラン,tert‐ブトキシジメチルシラン,tert‐ペントキシジメチルシラン,フェノキシジメチルシラン,アセトキシジメチルシラン,メトキシジメチルフェニルシラン,エトキシジメチルフェニルシラン,イソ‐プロポキシジメチルフェニルシラン,tert‐ブトキシジメチルフェニルシラン,tert‐ペントキシジメチルフェニルシラン,フェノキシジメチルフェニルシラン,アセトキシジメチルフェニルシラン,ジメトキシジメチルシラン,ジエトキシジメチルシラン,ジ‐イソプロポキシジメチルシラン,ジ‐t‐ブトキシジメチルシラン,ジアセトキシジメチルシラン,ジメトキシメチルビニルシラン,ジエトキシメチルビニルシラン,ジ‐イソプロポキシメチルビニルシラン,ジ‐t‐ブトキシメチルビニルシラン,ジアセトキシメチルビニルシラン,1,1,3,4‐テトラメチル‐1‐シラ‐2,5‐ジオキサシクロペンタン,1,1,3,3,4,4‐ヘキサメチル‐1‐シラ‐2,5‐ジオキサシクロペンタン,及びそれらの混合物からなる群より選択される,方法。
【請求項9】
前記酸素源が,酸素,過酸化物,酸素プラズマ,亜酸化窒素,水蒸気,水蒸気プラズマ,過酸化水素,及びオゾン源からなる群より選択される,請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記プロセス温度が550?750℃である,請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記圧力が50ミリトール(mT)?100トールである,請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記固着官能基がアミノ基である,請求項8に記載の方法。
【請求項13】
8に記載の方法。
【請求項14】
前記固着官能基がアルコキシ基である,請求項8に記載の方法。
【請求項15】
2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン,2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン,及び2‐メチルピロリジノトリメチルシランからなる群より選択されるケイ素含有前駆体。
【請求項16】
2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン,2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン,及び2‐メチルピロリジノトリメチルシランからなる群より選択されるケイ素含有前駆体を含んでなる組成物。
【請求項17】
ジメチルアミノトリメチルシランおよびジエチルアミノトリメチルシランからなる群より選択されるケイ素含有前駆体を含んでなる組成物。」

(補正後)
「【請求項1】
a.基材を反応器内に用意する工程,
b.少なくとも1つのケイ素前駆体を前記反応器内に導入する工程,
c.前記反応器をパージガスでパージする工程,
d.酸素源を前記反応器内に導入する工程,該酸素源は,水,酸素(O_(2)),酸素プラズマ,オゾン(O_(3)),一酸化二窒素(N_(2)O),二酸化窒素(NO_(2)),一酸化炭素(CO),二酸化炭素(CO_(2))及びこれらの組み合わせからなる群から選択される,及び
e.前記反応器をパージガスでパージする工程
を含み,所望の厚さの酸化ケイ素が堆積するまで工程bから工程eが繰り返され,
600?800℃の1又は複数の温度及び50ミリトール(mT)?760トールの1又は複数の圧力で実施される,基材上に酸化ケイ素膜を堆積させる方法であって,
前記少なくとも1つのケイ素前駆体が,ジエチルアミノトリメチルシラン,ジメチルアミノトリメチルシラン,エチルメチルアミノトリメチルシラン,t‐ブチルアミノトリメチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリメチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノトリメチルシラン,ピロリジノトリメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジメチルシラン,ジピロリジノジメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)メチルビニルシラン,ジピロリジノメチルビニルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)フェニルシラン,トリス(ジメチルアミノ)メチルシラン,2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン,2‐メチルピロリジノトリメチルシランからなる群より選択される,方法。
【請求項2】
前記パージガスが,窒素,ヘリウム,及びアルゴンからなる群より選択される,請求項1に記載の方法。」

2 補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項1の「酸素源を前記反応器内に導入する工程」を,補正後の請求項1の「酸素源を前記反応器内に導入する工程,該酸素源は,水,酸素(O_(2)),酸素プラズマ,オゾン(O_(3)),一酸化二窒素(N_(2)O),二酸化窒素(NO_(2)),一酸化炭素(CO),二酸化炭素(CO_(2))及びこれらの組み合わせからなる群から選択される」とすること。

(2)補正事項2
補正前の請求項1の「550?800℃の1又は複数の温度」を,補正後の請求項1の「600?800℃の1又は複数の温度」とすること。

(3)補正事項3
補正前の請求項1の「前記少なくとも1つのケイ素前駆体が,ジエチルアミノトリエチルシラン,ジメチルアミノトリエチルシラン,エチルメチルアミノトリエチルシラン,t‐ブチルアミノトリエチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリエチルシラン,ジイソプロピルアミノトリエチルシラン,ピロリジノトリエチルシラン,ジエチルアミノトリメチルシラン,ジメチルアミノトリメチルシラン,エチルメチルアミノトリメチルシラン,t‐ブチルアミノトリメチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリメチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノトリメチルシラン,ピロリジノトリメチルシラン,ジエチルアミノジメチルシラン,ジメチルアミノジメチルシラン,エチルメチルアミノジメチルシラン,t‐ブチルアミノジメチルシラン,イソ‐プロピルアミノジメチルシラン,ジイソプロピルアミノジメチルシラン,ピロリジノジメチルシラン,ジエチルアミノジエチルシラン,ジメチルアミノジエチルシラン,エチルメチルアミノジエチルシラン,t‐ブチルアミノジエチルシラン,イソ‐プロピルアミノジエチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノジエチルシラン,ピロリジノジエチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジメチルシラン,ジピロリジノジメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジエチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジエチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジエチルシラン,ビス(ジイソプロピルアミノ)ジエチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジエチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジエチルシラン,ジピロリジノジエチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)メチルビニルシラン,ジピロリジノメチルビニルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノメチルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノジメチルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)フェニルシラン,トリス(ジメチルアミノ)メチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)エチルシラン,及びそれらの混合物からなる群より選択されるか,または
前記少なくとも1つのケイ素前駆体が,メトキシトリメチルシラン,エトキシトリメチルシラン,イソ‐プロポキシトリメチルシラン,tert‐ブトキシトリメチルシラン,tert‐ペントキシトリメチルシラン,フェノキシトリメチルシラン,アセトキシトリメチルシラン,メトキシトリエチルシラン,エトキシトリエチルシラン,イソ‐プロポキシトリエチルシラン,tert‐ブトキシトリエチルシラン,tert‐ペントキシトリエチルシラン,フェノキシトリエチルシラン,アセトキシトリエチルシラン,メトキシジメチルシラン,エトキシジメチルシラン,イソ‐プロポキシジメチルシラン,tert‐ブトキシジメチルシラン,tert‐ペントキシジメチルシラン,フェノキシジメチルシラン,アセトキシジメチルシラン,メトキシジメチルフェニルシラン,エトキシジメチルフェニルシラン,イソ‐プロポキシジメチルフェニルシラン,tert‐ブトキシジメチルフェニルシラン,tert‐ペントキシジメチルフェニルシラン,フェノキシジメチルフェニルシラン,アセトキシジメチルフェニルシラン,ジメトキシジメチルシラン,ジエトキシジメチルシラン,ジ‐イソプロポキシジメチルシラン,ジ‐t‐ブトキシジメチルシラン,ジアセトキシジメチルシラン,ジメトキシジエチルシラン,ジエトキシジエチルシラン,ジ‐イソプロポキシジエチルシラン,ジ‐t‐ブトキシジエチルシラン,ジアセトキシジエチルシラン,ジメトキシジ‐イソプロピルシラン,ジエトキシジ‐イソプロピルシラン,ジ‐イソプロポキシジ‐イソプロピルシラン,ジ‐t‐ブトキシジ‐イソプロピルシラン,ジアセトキシジ‐イソプロピルシラン,ジメトキシメチルビニルシラン,ジエトキシメチルビニルシラン,ジ‐イソプロポキシメチルビニルシラン,ジ‐t‐ブトキシメチルビニルシラン,ジアセトキシメチルビニルシラン,1,1,3,4‐テトラメチル‐1‐シラ‐2,5‐ジオキサシクロペンタン,1,1,3,3,4,4‐ヘキサメチル‐1‐シラ‐2,5‐ジオキサシクロペンタン,及びそれらの混合物からなる群より選択される」を,補正後の請求項1の「前記少なくとも1つのケイ素前駆体が,ジエチルアミノトリメチルシラン,ジメチルアミノトリメチルシラン,エチルメチルアミノトリメチルシラン,t‐ブチルアミノトリメチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリメチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノトリメチルシラン,ピロリジノトリメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジメチルシラン,ジピロリジノジメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)メチルビニルシラン,ジピロリジノメチルビニルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)フェニルシラン,トリス(ジメチルアミノ)メチルシラン,2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン,2‐メチルピロリジノトリメチルシランからなる群より選択される」とすること。
すなわち,補正前の請求項1において,「前記少なくとも1つのケイ素前駆体」として用いることができる選択肢として特定されていた「ケイ素前駆体」の集合から,「ジエチルアミノトリエチルシラン」等のケイ素前駆体,及び,「それらの混合物」という選択肢を削除し,補正後の請求項1において,前記集合に,新たに「2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン」及び「2‐メチルピロリジノトリメチルシラン」を加えること。

(4)補正事項4
補正前の請求項3ないし17を削除すること。

3 補正の目的の適否についての検討
・補正事項3について
特許法第17条の2第5項は,拒絶査定不服審判を請求する場合において,特許請求の範囲についてする補正は,(i)第36条第5項に規定する請求項の削除,(ii)特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。),(iii)誤記の訂正,及び,(iv)明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)のいずれかの事項を目的とするものに限られることを規定する。
そして,補正事項3は,補正前の請求項1において,「前記少なくとも1つのケイ素前駆体」として用いることができる選択肢として択一的に記載されていた「ケイ素前駆体」の集合に,補正後の請求項1において,新たに「2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン」及び「2‐メチルピロリジノトリメチルシラン」が加わるように補正をするものである。
そうすると,補正事項3を含む本件補正によって,補正前の請求項1においては含まれていなかった,「前記少なくとも1つのケイ素前駆体」が,「2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン」あるいは「2‐メチルピロリジノトリメチルシラン」である態様が,補正後の請求項1に新たに含まれることとなり,その範囲において,特許請求の範囲が拡がったということができるから,補正事項3を含む本件補正は,「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的としたものであるとは認められない。
さらに,補正事項3を含む請求項1についての補正が,「第36条第5項に規定する請求項の削除」,「誤記の訂正」あるいは「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」のいずれかの事項を目的とするものであるとも認めることはできない。
したがって,補正事項3を含む本件補正は,特許法第17条の2第5項に規定する,いずれの事項を目的とするものでもない。

4 むすび
したがって,本件補正は,他の補正要件については検討するもでもなく,特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお,審判請求人は,審判請求書において,
「(3-2-2)請求項1で,「該酸素源は,水,酸素(O_(2)),酸素プラズマ,オゾン(O_(3)),一酸化二窒素(N_(2)O),二酸化窒素(NO_(2)),一酸化炭素(CO),二酸化炭素(CO_(2))及びこれらの組み合わせからなる群から選択される」を追加する補正は,原請求項3および明細書の段落0030に基づいて,特許請求の範囲を減縮するものです。
(3-2-3)請求項1で,「550?800℃」を「600?800℃」とする補正は,明細書の段落0052に基づいて,特許請求の範囲を減縮するものです。
(3-2-4)請求項1で,「ジエチルアミノトリエチルシラン」他のケイ素前駆体を削除する補正は,特許請求の範囲を減縮するものです。
(3-2-5)請求項1で,「2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン,2‐メチルピロリジノトリメチルシラン」を追加する補正は,原請求項16に基づくものです。
(3-2-6)審判請求人は,上記の補正に伴って,原請求項3?17を削除しました。
(3-2-7)特許請求の範囲における上記以外の補正は,上記の補正に伴って,記載を明瞭にするものです。」と,補正の適法性を主張する。
しかしながら,上記記載においては,「酸素源」等についての補正については,「特許請求の範囲を減縮するもの」等の,特許法第17条の2第5項の規定に沿った説明をするが,請求項1で,「2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン,2‐メチルピロリジノトリメチルシラン」を追加した補正については,「原請求項16に基づくもの」とのみ説明するだけであって,当該補正が,特許法第17条の2第5項のいずれの規定に適合したものであるかについては説明がされていない。
したがって,審判請求人の補正の適法性についての上記主張は不十分であって,採用することができない。
なお,審判請求人が平成29年1月12日に提出した上申書の内容を検討しても,上記判断は妥当なものと認められる。

〔予備的判断〕
なお,仮に,補正事項3を含む本件補正が特許法第17条の2第5項の規定に違反しないとしても,下記のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

すなわち,補正事項3は,補正前の請求項1において,「前記少なくとも1つのケイ素前駆体」として用いることができる選択肢として特定されていた「ケイ素前駆体」の集合から,「ジエチルアミノトリエチルシラン」等のケイ素前駆体,及び,「それらの混合物」という選択肢を削除する補正を含むから,請求項1についての本件補正は,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とした補正を含むこととなる。
しかしながら,以下で検討するように,補正後の請求項1に係る発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

5 進歩性についての検討
(1)補正後の発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)は,以下のとおりである。(以下,再掲。)

「【請求項1】
a.基材を反応器内に用意する工程,
b.少なくとも1つのケイ素前駆体を前記反応器内に導入する工程,
c.前記反応器をパージガスでパージする工程,
d.酸素源を前記反応器内に導入する工程,該酸素源は,水,酸素(O_(2)),酸素プラズマ,オゾン(O_(3)),一酸化二窒素(N_(2)O),二酸化窒素(NO_(2)),一酸化炭素(CO),二酸化炭素(CO_(2))及びこれらの組み合わせからなる群から選択される,及び
e.前記反応器をパージガスでパージする工程
を含み,所望の厚さの酸化ケイ素が堆積するまで工程bから工程eが繰り返され,
600?800℃の1又は複数の温度及び50ミリトール(mT)?760トールの1又は複数の圧力で実施される,基材上に酸化ケイ素膜を堆積させる方法であって,
前記少なくとも1つのケイ素前駆体が,ジエチルアミノトリメチルシラン,ジメチルアミノトリメチルシラン,エチルメチルアミノトリメチルシラン,t‐ブチルアミノトリメチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリメチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノトリメチルシラン,ピロリジノトリメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジメチルシラン,ジピロリジノジメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)メチルビニルシラン,ジピロリジノメチルビニルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)フェニルシラン,トリス(ジメチルアミノ)メチルシラン,2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン,2‐メチルピロリジノトリメチルシランからなる群より選択される,方法。」

(2)引用例とその記載事項,及び,引用発明
原査定の拒絶理由通知で引用した,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である下記の引用例1-4には,図面とともに,以下の事項が記載されている。(下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

ア 引用例1:特開2008-135633号公報
(引1a)「【請求項1】
基板を収容した処理室に原料ガスを供給する第1の工程と,
前記処理室に残留する前記原料ガスを前記処理室から排出する第2の工程と,
前記処理室にOを含有する酸化性ガスを供給する第3の工程と,
前記処理室に残留する前記酸化性ガスを前記処理室から排出する第4の工程と,
を少なくとも備え,
前記第1?第4の工程を複数回繰り返して前記基板上に所望の薄膜を生成する半導体デバイスの製造方法であって,
前記酸化性ガスは,前記第1?第4の工程の繰り返し数を基準に少なくとも2種類のガスが使い分けられる,半導体デバイスの製造方法。」

(引1b)「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体デバイスの製造方法に関し,特に,半導体デバイス製造工程においてALD(Atomic Layer Deposition)法による酸化膜形成工程で下地の酸化を防ぐ手法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化膜を形成する場合のALD法について説明する。SiウエハにALD法を用いて酸化膜を形成するには,例えば,原料ガスにTDMAS(トリスジメチルアミノシラン)とO_(3)とN_(2)と用いる。TDMAS供給→N_(2)パージ→O_(3)供給→N_(2)パージの成膜シーケンスを1サイクルとし,これを繰り返すことで1原子層ずつ酸化膜を堆積する。
【0003】
図1は基板温度550℃,TDMASの流量,照射時間を0.7slm,5秒,O_(3)の流量,時間を5slm,30秒で成膜した場合のcycle数と膜厚の関係を示したものである。図1で,0cycleの膜厚11ÅはSiウエハ昇温後にALD法による成膜なしの状態の膜厚である。これに対して図1の直線はSiウエハ昇温後にALD法による成膜ありの膜厚(10cycleの膜厚と50cycleの膜厚を直線で結ぶ)を示したものであるが,この直線によると,0cycle時の膜厚が19Åである。よってALD法による成膜後はSiの下地が8Å酸化されていることがわかる。図2は図1の場合と同じ条件でO_(3)の照射時間のみを6秒に短縮した場合を示したものであるが,この場合もSiの下地が2.9Å酸化されていることがわかる。従ってTDMASとO_(3)を原料ガスに使用したALD法による成膜ではO_(3)の酸化能力が強いためにSiの下地を酸化してしまう問題があり,O_(3)の照射時間を短縮してもSiの下地酸化を防ぐことが難しいという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って,本発明の主な目的は,下地の酸化状態を制御可能なALD法による酸化膜形成工程を備える半導体デバイスの製造方法を提供することにある。」

(引1c)「【0014】
処理室201へは複数種類,ここではTDMAS,O_(3)(orO_(2))ガス,N_(2)ガスを供給する。開閉弁である第1のバルブ243aを開きTDMASタンク100にN_(2)ガスを供給すると気泡が発生し,その蒸気が開閉弁である第2のバルブ243b,第3のバルブ243cを介し,更にガスノズル237を介して処理室201に供給される。N_(2)ガスの流量は第1のマスフローコントローラ241aで制御する。O_(3)はオゾン発生器101内部でO_(2)を無声放電させることにより生成され,開閉弁である第4のバルブ243d,流量制限装置(流量制限手段)である第2のマスフローコントローラ241b,開閉弁である第5のバルブ243e,更にガスノズル249を介して処理室201に供給されている。オゾン発生器101でO_(2)を無声放電させない場合はO_(3)の生成がないのでO_(2)が処理室201に供給される。」

(引1d)「【0018】
次にALD法による成膜例について,まず,本発明を適用しない場合でのTDMAS及びO_(3)ガスを用いてSiO_(2)膜を成膜する例で説明する。
【0019】
CVD(Chemical Vapor Deposition)法の中の1つであるALD(Atomic Layer Deposition)法は,ある成膜条件(温度,時間等)の下で,成膜に用いる2種類(またはそれ以上)の原料となる処理ガスを1種類ずつ交互に基板上に供給し,1原子層単位で吸着させ,表面反応を利用して成膜を行う手法である。
【0020】
利用する化学反応は,たとえばSiO_(2)(二酸化珪素)膜形成の場合,ALD法ではTDMAS(HSi[N(CH_(3))_(2)]_(3)(トリスジメチルアミノシラン)とO_(3)(オゾン)を用いて300?600℃の低温で高品質の成膜が可能である。また,ガス供給は,複数種類の反応性ガスを1種類ずつ交互に供給する。そして,膜厚制御は,反応性ガス供給のサイクル数で制御する。(たとえば,成膜速度が1Å/サイクルとすると,20Åの膜を形成する場合,処理を20サイクル行う。)
【0021】
まず成膜しようとするウエハ200をボート217に装填し,処理室201に搬入する。搬入後,次の3つのステップを順次実行する。
【0022】
(ステップ1)
ステップ1では,ガス排気管231のバルブ243fを閉じて排気を止める。この時バルブ243a,243bを開き,TDMASタンクにN_(2)を0.7slm供給し,気泡を発生させる。次にバルブ243cを開き,発生した蒸気を処理室201へ供給する。ガス排気管231のバルブ243fが閉じ処理室201内の圧力は急激に上昇して約7Torrまで昇圧される。TDMASを供給するための時間は5秒設定した。このときのウエハ温度は300?600℃の範囲内の所望の温度で維持される。
【0023】
(ステップ2)
ステップ2ではバルブ243cを閉じ,バルブ243fを開けて処理室201を真空排気し,残留するTDMASの成膜に寄与した後のガスを排除する。また,この時にはN_(2)等の不活性ガスを処理室201に供給すると,更に残留するTDMASの成膜に寄与した後のガスを処理室201から排除する効果が高まる。
【0024】
(ステップ3)
ステップ3では,オゾン発生器101からO_(3)をガスを流す。バルブ243d,243eを開け,マスフローコントローラ241bにより流量調整されたO_(3)ガスをノズル233から処理室201へ供給する。この時バルブ243fの弁度の開度を調整し,処理室201内の圧力を4Torrにする。O_(3)の供給により,ウエハ200の表面に化学吸着したTDMASとO_(3)とが表面反応(化学吸着)して,ウエハ200上のSiO_(2)膜が成膜される。
【0025】
(ステップ4)
ステップ4ではバルブ243eを閉じ,バルブ243fを開けて処理室201を真空排気し,残留するTDMASの成膜に寄与した後のガスを排除する。また,この時にはN_(2)等の不活性ガスを処理室201に供給すると,更に残留するO_(3)の成膜に寄与した後のガスを処理室201から排除する効果が高まる。
【0026】
上記ステップ1?4を1サイクルとし,このサイクルを複数回繰り返すことによりウエハ上に所定膜厚のSiO_(2)を成膜する。
【0027】
このような成膜シーケンスでは前述したように下地材料を酸化してしまう問題がある。
【0028】
本発明はこの従来技術の問題を解決するために考案されたものである。以下にその一例を示す。
【0029】
本発明者達は,Siの下地酸化を防ぐのに原料ガスをO_(3)より酸化力の小さいO_(2)を使用することを検討し,TDMASとO_(2)を原料ガスに使用してALD法で成膜を行うことを考えた。図4に図1と同様な条件でTDMASとO_(2)を原料ガスに使用してALD法で成膜を行った場合のcycle数と膜厚の関係を示す。図4よりSiウエハ昇温後で成膜ない場合の膜厚(Si wafer initial thickness)と直線で示すSiウエハ昇温後でTDMASとO_(2)を原料ガスに使用したALD法による成膜ありの場合の0cycle時の膜厚が一致しており,Siの下地が酸化されないことが実証できた。
【0030】
次にO_(3)のみの照射で膜厚が飽和するまでの酸化膜厚を測定した。O_(3)のみ照射した場合はALD法による成膜はされないのでSiの下地が酸化されるのみである。よって飽和するまでの酸化膜厚は最大のSi下地の酸化膜厚と考えることができる。図5にO_(3)のみを照射した場合のO_(3)照射時間と酸化膜厚との関係を示す。図5より約22Åで酸化膜厚が飽和しており,Siを下地にした場合最大で22Å酸化されると考えられる。
【0031】
この結果を元に,従来の膜質を維持しながら下地酸化を削減するために22ÅまではTDMASとO_(2)を原料ガスに使用してALD法(TDMAS-O_(2))で成膜を行い,それ以上の堆積はTDMASとO_(3)を原料ガスに使用してALD法(TDMAS-O_(3))で成膜を行った。」

(引1e)「【0035】
また,本発明の好ましい実施例は,SiO_(2)膜に限らず,Al_(2)O_(3)膜,HfO膜にも適用可能である。使用するガス種はO_(3),O_(2),N_(2)以外にAl_(2)O_(3)膜の場合はAlソースとしてTMA(トリメチルアルミニウムAl(CH_(3))_(3))を使用し,HfO膜の場合はHfソースとしてTDMAHf(テトラジメチルアミノハフニウムHf[N(CH_(3))_(2)]_(4))を使用する。」

イ 引用発明
そうすると,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

・引用発明1
「a.成膜しようとするウエハをボートに装填し,処理室に搬入する工程,
b.下記のステップ1?4を1サイクルとし,このサイクルを複数回繰り返すことによりウエハ上に所定膜厚のSiO_(2)を成膜する工程
を含む,ウエハ上に酸化ケイ素膜を堆積させる方法。
(ステップ1)ガス排気管のバルブを閉じて排気を止め,TDMASタンクにN_(2)を0.7slm供給し,気泡を発生させ,発生した蒸気を処理室へ供給し,処理室内の圧力を約7Torrまで昇圧し,TDMASを5秒供給するステップであって,このときのウエハ温度は300?600℃の範囲内の所望の温度で維持するステップ。
(ステップ2)処理室を真空排気し,残留するTDMASの成膜に寄与した後のガスを排除するステップであって,N_(2)等の不活性ガスを処理室に供給して,更に残留するTDMASの成膜に寄与した後のガスを処理室から排除する効果を高めるステップ。
(ステップ3)オゾン発生器からO_(3)ガスを処理室に供給するステップであって,この時バルブの弁度の開度を調整し,処理室内の圧力を4Torrにし,O_(3)の供給により,ウエハの表面に化学吸着したTDMASとO_(3)とが表面反応(化学吸着)して,ウエハ上にSiO_(2)膜が成膜されるステップ。
(ステップ4)処理室を真空排気し,残留するTDMASの成膜に寄与した後のガスを排除するステップであって,N_(2)等の不活性ガスを処理室に供給して,更に残留するO_(3)の成膜に寄与した後のガスを処理室から排除する効果を高めるステップ。」

ウ 引用例2:特開2012-9899号公報
(引2a)「【請求項1】
第1の誘電率および少なくとも1つの表面を有するケイ素含有誘電体材料の層の誘電率を回復させる方法であって,ケイ素含有誘電体材料の該層の該第1の誘電率が第2の誘電率に増加しており,該方法は,
ケイ素含有誘電体材料の該層の該少なくとも1つの表面と,ケイ素含有流体とを接触させるステップ,そして,
ケイ素含有誘電体材料の該層の該少なくとも1つの表面を,紫外線照射,熱,および電子ビームからなる群から選択されるエネルギー源に曝すステップ,の各ステップを含み, ケイ素含有誘電体材料の該層を該エネルギー源に曝した後で,ケイ素含有誘電体材料の該層が,該第2の誘電率より低い第3の誘電率を有する,方法。」
<途中省略>
【請求項9】
該接触ステップが,化学気相堆積工程によって行われる,請求項1の方法。
【請求項10】
該ケイ素含有流体が,メチルトリメトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,メチルトリ-n-プロポキシシラン,メチルトリイソプロポキシシラン,エチルトリメトキシシラン,エチルトリエトキシシラン,ジメチルジメトキシシラン,ジメチルジエトキシシラン,ジエチルジメトキシシラン,ジエチルジエトキシシラン,ジエトキシメチルシラン,1,1,3,3-テトラメトキシ-1,3-ジメチルジシロキサン,1,1,3,3-テトラエトキシ-1,3-ジメチルジシロキサン,1,1,3,3-テトラメトキシ-1,3-ジフェニルジシロキサン,1,3-ジメトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン,1,3-ジエトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン,1,3-ジメトキシ-1,1,3,3-テトラフェニルジシロキサン,1,3-ジエトキシ-1,1,3,3-テトラフェニルジシロキサン,2,2,4,6,6-ペンタメチル-2,4,6-トリシラ-ヘプタン,1-メチル-1-エトキシシラシクロペンタン,1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジシラシクロブタン,1,3-ジメチル-1,3-ジエトキシ-1,3-ジシラシクロブタン,ビス(トリメチルシリルメチル)ベンゼン,(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン,ビス(ジメトキシメチルシリル)メタン,ビス(ジエトキシメチルシリル)メタン,ビス(ジメトキシフェニルシリル)メタン,ビス(ジエトキシフェニルシリル)メタン,ビス(メトキシジメチルシリル)メタン,ビス(エトキシジメチルシリル)メタン,ビス(メトキシジフェニルシリル)メタン,ビス(エトキシジフェニルシリル)メタン,ヘキサメチルジシラザン,ヘキサメチルシクロトリシラザン,ヘプタメチルジシラザン,オクタメチルシクロテトラシラザン,ノナメチルトリシラザン,ジメチルシクロシラザン,アセトキシトリメチルシラン,メトキシトリメチルシラン,エトキシトリメチルシラン,3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン,3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン,ジメチルアミノトリメチルシラン,アミノメチルトリメチルシラン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,テトラメチルシクロテトラシロキサン,メチルトリアセトキシシラン,メチルエトキシシラシクロプロパン,ヘキサメチルシラブタン,ジメチルジアセトキシシラン,およびジ-tert-ブトキシジアセトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種である,請求項9の方法。
【請求項11】
該ケイ素含有流体が,ヘキサメチルジシラザン,ヘキサメチルシクロトリシラザン,ヘプタメチルジシラザン,オクタメチルシクロテトラシラザン,ノナメチルトリシラザン,ジメチルシクロシラザン,アセトキシトリメチルシラン,メトキシトリメチルシラン,エトキシトリメチルシラン,3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン,3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン,ジメチルアミノトリメチルシラン,アミノメチルトリメチルシラン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,テトラメチルシクロテトラシロキサン,ヘキサメチルシクロトリシロキサン,デカメチルシクロペンタシラン,ドデカメチルシクロヘキサシラン,2,2,4,6,6-ペンタメチル-2,4,6-トリシラ-ヘプタン,1-メチル-1-エトキシシラシクロペンタン,1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジシラシクロブタン,1,3-ジメチル-1,3-ジエトキシ-1,3-ジシラシクロブタン,ビス(トリメチルシリルメチル)ベンゼン,ジメチルジメトキシシラン,ジメチルジエトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,メチルトリメトキシシラン,および(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリエトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種である,請求項10の方法。」

(引2b)「【0002】
本発明は, <途中省略> そうした膜は,集積回路(”IC”)等の半導体デバイスの製造中で絶縁材料として使用される。」

(引2c)「【0031】
本発明に用いられるケイ素含有流体は,例えば,誘電体材料を生成するために典型的に用いられるもの等の例えば,シリカ含有前駆体を含む。用いられるケイ素含有流体のタイプは,例えば,接触ステップで用いられる所望の方法によることができる。
【0032】
以下のケイ素含有流体は,スピンオン堆積工程またはCVD工程のいずれにおける本発明での使用に適する。したがって,以下のケイ素含有流体の少なくとも一つは,任意選択的に溶媒と共に接触ステップと関連して適用されるであろう組成物を典型的には生成する。溶媒は,用いられる場合,好ましくは約50℃?約300℃の範囲内で,さらに好ましくは約70℃?約250℃の範囲内で沸点を有する溶媒である。好適な溶媒は,アルコール類,アルデヒド,ケトン,エステル,アミド,グリコール,グリコールエーテル,水,エーテル,エポキシド,アミン,およびそれらの混合物を含む。溶媒の具体例は,シクロヘキサノン,2-ヘキサノン,2-ペンタノン,1-ペンタノール,1-ブタノール,2-プロパノール,プロピレングリコールプロピルエーテル,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート,乳酸エチル,ペンチルアセテート,プロピレングリコール,プロピレングリコールモノメチルエーテル,N,N-ジメチルホルムアミド,およびそれらの混合物を含む。溶媒が用いられる態様において,シリカ含有流体は,残りが,溶媒および任意選択的に,例えば,触媒,流れ助剤,湿潤剤,pH調整剤,腐食阻害剤,イオン強度調整剤,および界面活性剤等の添加物で,流体の全質量の好ましくは約0.001?99質量%,およびさらに好ましくは約0.01?約90質量%を構成する。そうした添加物は,存在する場合,混合物のpHを変化させ,シリカ含有流体が濡らすことにおいて補助し,そして流体が相互作用する表面を改質することにより小さな構造と相互作用し,流体の粘性,表面張力,および溶解度パラメーターを変化させる機能を有することができる。そうした添加物は,銅の腐食を最小化し,そしてBEOL工程により作り出される損傷と欠陥へのケイ素含有流体の反応性を高めるよう機能することもできる。」

エ 引用例3:特表2009-538989号公報
(引3a)「【発明を実施するための形態】
【0033】
<途中省略> 高品質の応用例(マイクロエレクトロニクス,透過バリア,光学応用例)に使用されるプラズマでは,粉塵の形成は重大な問題である。」

(引3b)「【0055】
本発明では,反応ガスとしての酸素は多くの利点を有するが,他の反応ガス,例えば水素,二酸化炭素,アンモニア,窒素酸化物なども使用することができる。
【0056】
本発明では,前駆物質は(それだけには限らないが)以下から選択することができる。W(CO)_(6),Ni(CO)_(4),Mo(CO)_(6),Co_(2)(CO)_(8),Rh_(4)(CO)_(12),Re_(2)(CO)_(10),Cr(CO)_(6),又はRu_(3)(CO)_(12),ペンタエトキシタンタル(Ta(OC_(2)H_(5))_(5)),テトラキス(ジメチルアミノ)チタン(又はTDMAT),SiH_(4),CH_(4),B_(2)H_(6)又はBCl_(3),WF_(6),TiC_(l4),GeH_(4),Ge_(2)H_(6)Si_(2)H_(6)(GeH_(3))_(3)SiH,(GeH_(3))_(2)SiH_(2),ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO),テトラメチルジシロキシサン(TMDSO),1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルジシロキサン,ヘキサメチルシクロテトラシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタンシロキサン,テトラエトキシシラン(TEOS),メチルトリメトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,ジメチルジメトキシシラン,ジエトキシジメチルシラン,トリメチルエトキシシラン,メチルトリメトキシシラン,エチルトリエトキシシラン,n-プロピルトリメトキシシラン,n-プロピルトリエトキシシラン,n-ブチルトリメトキシシラン,i-ブチルトリメトキシシラン,n-ヘキシルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリエトキシシラン,アミノメチルトリメチルシラン,ジメチルジメチルアミノシラン,(ジメチルアミノ)トリメチルシラン,アリルアミノトリメチルシラン,(ジエチルアミノ)ジメチルシラン,1-トリメチルシリルピロール,1-トリメチルシリルピロリジン,イソプロピルアミノメチルトリメチルシラン,ジエチルアミノトリメチルシラン,(トリメチルシリル)アニリン,2-ピペリジノエチルトリメチルシラン,3-ブチルアミノプロピルトリメチルシラン,3-ピペリジノプロピルトリメチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)メチルシラン,1-(トリメチルシリル)イミダゾール,ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ブチルアミノ)ジメチルシラン,2-アミノエチルアミノメチルジメチルフェニルシラン,3-(4-メチルピペラジノプロピル)トリメチルシラン,ジメチルフェニルピペラジノメチルシラン,ブチルジメチル-3-ピペラジノプロピルシラン,ジアニリノジメチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルシラン,1,1,3,3-テトラメチルジシラザン,1,3-ビス(クロロメチル)-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン,ヘキサメチルジシラザン,1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン,ジブチルスズジアセタート,アルミニウムイソプロポキシド,トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム,ジブチルジエトキシスズ,ブチルスズトリス(2,4-ペンタンジオナト),テトラエトキシスズ,メチルトリエトキシスズ,ジエチルジエトキシスズ,トリイソプロピルエトキシスズ,エチルエトキシスズ,メチルメトキシスズ,イソプロピルイソプロポキシスズ,テトラブトキシドスズ,ジエトキシスズ,ジメトキシスズ,ジイソプロポキシスズ,ジブトキシスズ,ジブチリロキシスズ,ジエチルスズ,テトラブチルスズ,ビス(2,4-ペンタンジオナト)スズ,アセトアセトナトエチルスズ,(2,4-ペンタンジオナト)エトキシスズ,(2,4-ペンタンジオナト)ジメチルスズ,ジアセトメチルアセタートスズ,ジアセトキシスズ,ジブトキシジアセトキシスズ,ジアセトキシスズジアセトアセトナート,スタンナン,塩化スズ,テトラクロロスタンナン,トリエトキシチタン,トリメトキシチタン,トリイソプロポキシチタン,トリブトキシチタン,テトラエトキシチタン,テトライソプロポキシチタン,メチルジメトキシチタン,エチルトリエトキシチタン,メチルトリプロポキシチタン,トリエチルチタン,トリイソプロピルチタン,トリブチルチタン,テトラエチルチタン,テトライソプロピルチタン,テトラブチルチタン,テトラジメチルアミノチタン,ジ(2,4-ペンタンジオナト)ジメチルチタン,トリ(2,4-ペンタンジオナト)エチルチタン,トリス(2,4-ペンタンジオナト)チタン,トリス(アセトメチルアセタト)チタン,トリアセトキシチタン,ジプロキシプロピオニルオキシチタン,ジブチルオキシチタン,水素化モノチタン,水素化ジチタン,トリクロロチタン,テトラクロロチタン,テトラエチルシラン,テトラメチルシラン,テトライソプロピルシラン,テトラブチルシラン,テトライソプロポキシシラン,ジ(2,4-ペンタンジオナト)ジエチルシラン,メチルトリエトキシシラン,エチルトリエトキシシラン,シランテトラハイドライド,ジシランヘキサハイドライド,テトラクロロシラン,メチルトリクロロシラン,ジエチルジクロロシラン,イソプロポキシアルミニウム,トリス(2,4-ペンタンジオナト)ニッケル,ビス(2,4-ペンタンジオナト)マンガン,イソプロポキシほう素,トリ-n-ブトキシアンチモン,トリ-n-ブチルアンチモン,ジ-n-ブチルビス(2,4-ペンタンジオナト)スズ,ジ-n-ブチルジアセトキシスズ,ジ-t-ブチルジアセトキシスズ,テトライソプロポキシスズ,ジ(2,4-ペンタンジオナト)亜鉛,及びこれらの組合せさらに,例えば欧州特許出願公開第1351321号,又は欧州特許出願公開第1371752号に記載されている前駆物質を使用することもできる。一般に前駆物質は,2?500ppmの濃度であり,例えば全ガス組成の約50ppmで使用される。」

オ 引用例4:国際公開2010/064306号
(引4a)「技術分野
[0001]本発明は,半導体装置の製造方法に係り,特に配線を有する半導体装置の製造方法に関する。」(第1ページ第3-5行)

(引4b)「[0046]化学式(7)で表される部分を有するケイ素化合物の具体例としては,例えば次の化合物が挙げられる。すなわち,ジメチルアミノトリメチルシランが挙げられる。 <途中省略> また,ジエチルアミノトリメチルシランが挙げられる。また,ジエチルアミノトリエチルシランが挙げられる。」(第16ページ第4行-第19ページ第14行)

(引4c)「[0063]また,ダメージ回復処理に用いるケイ素化合物には,上述したケイ素化合物以外の成分が含有されていてもよい。例えば,ケイ素化合物には,例えば,粘度を低下させるための溶媒が更に含有されていてもよい。
[0064]ケイ素化合物を用いたダメージ回復処理は,ケイ素化合物を絶縁膜102表面に接触させ,絶縁膜102表面のSi-OH基とケイ素化合物とを反応できる処理であれば特に限定されるものではない。例えば,以下に述べる処理を用いることができる。
[0065]すなわち,ダメージ回復処理としては,ケイ素化合物の蒸気に,絶縁膜102表面を曝すベーパ処理を適用することができる。ベーパ処理は,ケイ素化合物の蒸気を,絶縁膜102表面に導いて接触させることができればよい。ベーパ処理では,例えば,ケイ素化合物の蒸気をキャリアガスによって移動することにより,ケイ素化合物の蒸気を,絶縁膜102表面に導いて接触させてもよい。」(第63ページ第10-20行)

(引4d)「・・・ケイ素化合物としてジメチルアミノトリメチルシランを用いたベーパ処理を1分間行った・・・」(第71ページ第27-28行)

(3)本願補正発明1の進歩性について
本願補正発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「ウエハ」,「処理室」は,それぞれ,本願補正発明1の「基材」,「反応器」に相当する。

イ 引用発明1の「TDMAS」は,ケイ素前駆体の一種といえる。したがって,引用発明1の「(ステップ1)ガス排気管のバルブを閉じて排気を止め,TDMASタンクにN_(2)を0.7slm供給し,気泡を発生させ,発生した蒸気を処理室へ供給し,処理室内の圧力を約7Torrまで昇圧し,TDMASを5秒供給するステップであって,このときのウエハ温度は300?600℃の範囲内の所望の温度で維持するステップ。」は,本願補正発明1の「少なくとも1つのケイ素前駆体を前記反応器内に導入する工程」に相当する。

ウ 引用発明1の「N_(2)等の不活性ガス」は,パージガスといえる。
したがって,引用発明1の「(ステップ2)処理室を真空排気し,残留するTDMASの成膜に寄与した後のガスを排除するステップであって,N_(2)等の不活性ガスを処理室に供給して,更に残留するTDMASの成膜に寄与した後のガスを処理室から排除する効果を高めるステップ。」及び「(ステップ4)処理室を真空排気し,残留するTDMASの成膜に寄与した後のガスを排除するステップであって,N_(2)等の不活性ガスを処理室に供給して,更に残留するO_(3)の成膜に寄与した後のガスを処理室から排除する効果を高めるステップ。」は,いずれも,本願補正発明1の「前記反応器をパージガスでパージする工程」に相当する。

エ 引用発明1の「(ステップ3)オゾン発生器からO_(3)ガスを処理室に供給するステップ」は,本願補正発明1の「酸素源を前記反応器内に導入する工程,該酸素源は,水,酸素(O_(2)),酸素プラズマ,オゾン(O_(3)),一酸化二窒素(N_(2)O),二酸化窒素(NO_(2)),一酸化炭素(CO),二酸化炭素(CO_(2))及びこれらの組み合わせからなる群から選択される」に相当する。

オ 引用発明1の「(ステップ1)ガス排気管のバルブを閉じて排気を止め,TDMASタンクにN_(2)を0.7slm供給し,気泡を発生させ,発生した蒸気を処理室へ供給し,処理室内の圧力を約7Torrまで昇圧し,TDMASを5秒供給するステップであって,このときのウエハ温度は300?600℃の範囲内の所望の温度で維持するステップ。」及び「(ステップ3)オゾン発生器からO_(3)ガスを処理室に供給するステップであって,この時バルブの弁度の開度を調整し,処理室内の圧力を4Torrにし,O_(3)の供給により,ウエハの表面に化学吸着したTDMASとO_(3)とが表面反応(化学吸着)して,ウエハ上にSiO_(2)膜が成膜されるステップ。」における,「処理室内の圧力を約7Torrまで昇圧」,「ウエハ温度は300?600℃の範囲内の所望の温度で維持」,及び,「処理室内の圧力を4Torrにし」との特定から,本願補正発明1と,引用発明1は,「600?800℃の1又は複数の温度及び50ミリトール(mT)?760トールの1又は複数の圧力で実施される,基材上に酸化ケイ素膜を堆積させる方法」である点で一致すると認められる。

カ よって,本願補正発明1と引用発明1とは,以下の点で一致し,また,相違する。
<一致点>
a.基材を反応器内に用意する工程,
b.少なくとも1つのケイ素前駆体を前記反応器内に導入する工程,
c.前記反応器をパージガスでパージする工程,
d.酸素源を前記反応器内に導入する工程,該酸素源は,水,酸素(O_(2)),酸素プラズマ,オゾン(O_(3)),一酸化二窒素(N_(2)O),二酸化窒素(NO_(2)),一酸化炭素(CO),二酸化炭素(CO_(2))及びこれらの組み合わせからなる群から選択される,及び
e.前記反応器をパージガスでパージする工程
を含み,所望の厚さの酸化ケイ素が堆積するまで工程bから工程eが繰り返され,
600?800℃の1又は複数の温度及び50ミリトール(mT)?760トールの1又は複数の圧力で実施される,基材上に酸化ケイ素膜を堆積させる方法。

<相違点>
本願補正発明1では,「前記少なくとも1つのケイ素前駆体」が,「ジエチルアミノトリメチルシラン,ジメチルアミノトリメチルシラン,エチルメチルアミノトリメチルシラン,t‐ブチルアミノトリメチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリメチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノトリメチルシラン,ピロリジノトリメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジメチルシラン,ジピロリジノジメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)メチルビニルシラン,ジピロリジノメチルビニルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)フェニルシラン,トリス(ジメチルアミノ)メチルシラン,2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン,2‐メチルピロリジノトリメチルシランからなる群より選択される」ものであるのに対して,引用発明1では,「TDMAS」である点。

キ 上記相違点についての検討
(ア)上記摘記(引1a)ないし(引1e)から,引用例1には,以下の事項が記載されているものと理解される。
(i)「半導体デバイスの製造方法に関し,特に,半導体デバイス製造工程においてALD(Atomic Layer Deposition)法による酸化膜形成工程で下地の酸化を防ぐ手法」(【0001】)に係る【技術分野】に属する技術的事項が記載されていること。
(ii)【背景技術】として,「SiウエハにALD法を用いて酸化膜を形成するには,例えば,原料ガスにTDMAS(トリスジメチルアミノシラン)とO_(3)とN_(2)と用いる。TDMAS供給→N_(2)パージ→O_(3)供給→N_(2)パージの成膜シーケンスを1サイクルとし,これを繰り返すことで1原子層ずつ酸化膜を堆積する」製造方法が知られていたこと,及び,「TDMASとO_(3)を原料ガスに使用したALD法による成膜ではO_(3)の酸化能力が強いためにSiの下地を酸化してしまう問題があり,O_(3)の照射時間を短縮してもSiの下地酸化を防ぐことが難しいという問題があった。」(【0003】)という課題が存在したこと。
(iii)引用例1の特許請求の範囲に記載された発明の,【発明が解決しようとする課題】は,主に,「下地の酸化状態を制御可能なALD法による酸化膜形成工程を備える半導体デバイスの製造方法を提供すること」にあること。
(iv)前記【発明が解決しようとする課題】を解決する引用例1の請求項1に記載された発明は,「基板を収容した処理室に原料ガスを供給する第1の工程と,前記処理室に残留する前記原料ガスを前記処理室から排出する第2の工程と,前記処理室にOを含有する酸化性ガスを供給する第3の工程と,前記処理室に残留する前記酸化性ガスを前記処理室から排出する第4の工程と,を少なくとも備え,前記第1?第4の工程を複数回繰り返して前記基板上に所望の薄膜を生成する半導体デバイスの製造方法」という,【背景技術】の欄にも記載されている公知の製造方法を前提とした上で,当該製造方法において「前記酸化性ガスは,前記第1?第4の工程の繰り返し数を基準に少なくとも2種類のガスが使い分けられる」(【請求項1】)ことを発明の本質的事項とすること。
すなわち,上記(i)ないし(iv)より,引用例1には,酸化性ガスとして,O_(3)を使用した場合の,O_(3)の酸化能力が強くSiの下地を酸化してしまうという課題を,酸化性ガスとして,少なくとも2種類のガスを使い分けることによって解決したことが記載されていると認められる。

(イ)一方,引用例1に記載されている「TDMAS」は,引用例1の【背景技術】の欄の「SiウエハにALD法を用いて酸化膜を形成するには,例えば,原料ガスにTDMAS(トリスジメチルアミノシラン)とO_(3)とN_(2)と用いる。」との記載からも明らかなように,原料ガスとして用いることができる材料として,「例えば」として例示された材料にすぎない。
そして,酸化膜を形成するにあたり,原料ガスとして「TDMAS」を選択する特段の理由は,本願の発明の詳細な説明には記載されておらず,また,原料ガスとして「TDMAS」を用いた場合に,他のガスを用いた場合と比較して,優れた効果を奏することを示す実験結果が本願の発明の詳細な説明に提示されているともいえない。
加えて,引用例1の上記摘記(1a)に記載された請求項1には,前駆体となる材料は,単に「原料ガス」とのみ特定されており,さらに,引用例1の上記摘記(1e)には,「使用するガス種はO_(3),O_(2),N_(2)以外にAl_(2)O_(3)膜の場合はAlソースとしてTMA(トリメチルアルミニウムAl(CH_(3))_(3))を使用し,HfO膜の場合はHfソースとしてTDMAHf(テトラジメチルアミノハフニウムHf[N(CH_(3))_(2)]_(4))を使用する。」として,原料ガスとして「TDMAS」以外の材料を使用することが記載されている。
すなわち,引用例1に記載された,「下地の酸化状態を制御可能なALD法による酸化膜形成工程を備える半導体デバイスの製造方法を提供すること」という課題の解決において,原料ガスが「TDMAS」であることは必須の事項であるとは認められない。
してみれば,引用例1に接した当業者であれば,引用例1の上記各記載から,引用例1で用いられている「TDMAS」は,酸化膜を形成する際の原料ガスの一つとして単に例示されたものにすぎないと理解することが自然といえる。

(ウ)そして,引用例2ないし4の上記摘記した記載から,集積回路等の半導体デバイス(マイクロエレクトロニクス)の製造の技術分野において,本願補正発明1において特定されるケイ素前駆体に含まれる,「ジエチルアミノトリメチルシラン」,「ジメチルアミノトリメチルシラン」,「ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン」等の材料を,ケイ素前駆体として用いることが知られていたことが理解できる。

(エ)そうすると,引用例1の記載に接した当業者は,引用例1で用いられている「TDMAS」が,酸化膜を形成する際の原料ガスの一つとして単に例示されたものにすぎないと理解することができ,また,引用例2ないし4の記載より,当該技術分野では,「ジエチルアミノトリメチルシラン」,「ジメチルアミノトリメチルシラン」,「ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン」等の材料を,ケイ素前駆体として用いることが知られていたと理解できるから,引用発明1において,酸化膜を形成する際の原料ガスとして用いられている「TDMAS」に替えて,他の材料,例えば,引用例2ないし4に記載されている「ジエチルアミノトリメチルシラン」,「ジメチルアミノトリメチルシラン」,「ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン」等の材料を用いることは,当業者が適宜なし得たことと認められる。
そして,これらの材料を用いたことによる効果は,本願の発明の詳細な説明の記載からは,格別のものであるとは認められない。

(カ)なお,審判請求人は,審判請求書において,以下のように主張する。
「そして,引用文献1に記載された原料ガスのTDMASは,Si-H基を有するものです。更に,引用文献1に記載された発明は,反応は,300?600℃の低温で行うことが教示されています(引用文献1の段落0020)。
これに対して,上記の補正後の本願発明では,H-Si基を有する化合物は排除されています。
審判請求人は,Si-H基を有するケイ素前駆体を用いた場合に対する,Si-H基を有さないケイ素前駆体を用いた原子層堆積(ALS)における酸化ケイ素膜の堆積への効果の優位性を明らかにするために,本願の対応する米国特許(米国特許出願番号13/857507;米国特許第9460912号として登録済み)の審査過程で提出された,本願発明者の一人であるシンチアン レイ博士(Dr. Xinjian Lei)による宣言書(declaration)(添付資料1)およびその翻訳文(添付資料2)ならびに該宣言書に添付された証拠A(Exhibit A)(添付資料3)を添付資料として提出します。(なお,必要であれば,審判請求人は,証拠Aの翻訳文を提出する用意があります。)
シンチアン レイ博士の宣言書に添付された証拠A(Exhibit A)は,シンチアン レイ博士が行った,または同博士の指示の下に行われた実験結果を示したものです。これらの実験では,アミノシラン(DIPASおよびBTBAS)およびアルキルアミノシラン(DMATMSおよびDMADMPS)前駆体の両方が,高温(すなわち550℃超)での原子層堆積(ALS)による性能を評価されています(同博士の宣言書の第8段落)。
証拠Aのスライド3(添付資料3では第4頁と表記されている)のグラフを参照すると,600℃超の温度では,3つのSi-OH基を有するアミノシランDIPASは,より化学蒸気堆積のように挙動し,ここでは堆積速度は,急速に増加して,膜の非均一性をもたらします(5%超)。
証拠Aのスライド4(添付資料3では第5頁と表記されている)のグラフには,2つのSi-OH基を有するアミノシランBTBASでの同様の挙動が示されており,そこではBTBASは550℃超でより化学蒸気堆積のように挙動し,そのような温度での非均一性は10%超です。従って,証拠Aのスライド3および4(添付資料3では第4および5頁と表記されている)には,アミノシラン前駆体(すなわち,複数のSi-OHを有する化合物)は,高温のALD酸化ケイ素の堆積には好適ではないことを示しています(同博士の段落10?12)。
証拠Aのスライド6,7および8のグラフには,2種のアルキルアミノシラン化合物,DMATMSおよびDMADMPSの原子層堆積を示しています。アルキルアミノシランは,Si-OHを有してはおらず,Si-MeまたはSi-フェニル基を有しています。Si-OHを有するアミノシランの挙動とは対照的に,証拠Aのスライド6,7および8のグラフには,アルキルアミノシランが,高温ALD堆積に極めて好適であることを示しています。DIPASおよびBTBASとは異なり,DMATMSおよびDMADMPSは,700℃以下の温度では,CVD状態には移行しないで,5%未満の非均一性を示しており,Si-Me基またはSi-フェニル基は高温ALD酸化ケイ素堆積に好適であることを示しています。従って,Si-H基を有するアミノシランBTBASおよびDIPASは,高温(550℃超)のALD酸化ケイ素堆積には好適ではなくて,低温(500℃未満)のALD酸化ケイ素堆積により好適です。対照的に,アルキルDMATMSおよびDMADMPSは,高度に共形的な(conformal)酸化ケイ素膜を堆積するための,高温(600℃以上)でのALD堆積に非常に好適です(同博士の宣言書の段落13?15)。
このような,Si-H基を含むケイ素前駆体と比較した,Si-H基を含まないケイ素前駆体による,特に高温(600℃以上)での原子層堆積への効果は,Si-H基を含む原料ガスを用いて,300?600℃の低温で(引用文献1の段落0020)で原子層堆積を行うことのみを開示する引用文献1からは到底示唆されるものではないものと思料します。
そして,引用文献2?6に記載された発明は,平成27年10月27日提出の意見書でも述べたとおり,引用文献1と組み合わせても,本願発明を示唆するものではないものと思料します。」

しかしながら,前記「Si-H基を含むケイ素前駆体と比較した,Si-H基を含まないケイ素前駆体による,特に高温(600℃以上)での原子層堆積への効果」という技術的知見は,本願の発明の詳細な説明又は図面には記載されておらず,また,本願の優先権の主張の日前における技術常識に照らして,本願の発明の詳細な説明又は図面の記載から自明なものであるとも認められない。
したがって,仮に前記効果が存在したとしても,本願の発明の詳細な説明に記載されておらず,また,本願の優先権の主張の日前における技術常識に照らして,本願の発明の詳細な説明又は図面の記載から自明なものであるとも認められない効果に基づく審判請求人の前記主張は採用することができない。

加えて,審判請求書において,「DIPASおよびBTBASとは異なり,DMATMSおよびDMADMPSは,700℃以下の温度では,CVD状態には移行しないで,5%未満の非均一性を示しており,Si-Me基またはSi-フェニル基は高温ALD酸化ケイ素堆積に好適であることを示しています。」と自認するように,審判請求人の主張する効果は,本願補正発明1が特定する,「600?800℃の1又は複数の温度」範囲の一部である「700℃以下の温度」についてのみ示されているだけであって,審判請求書において示された「Dep Rate and Non-Unifomity:DMATMS」のグラフの形状からは,むしろ,800℃近傍では,CVD状態に移行して,5%以上の非均一性を示すことが推認される。
してみれば,審判請求人の主張する前記効果を,「600?800℃の1又は複数の温度及び50ミリトール(mT)?760トールの1又は複数の圧力で実施される」ことを発明特定事項として含む本願補正発明1の効果としては認めることができない。したがって,審判請求人の前記主張は採用することができない。

ク 小括
以上のとおり,仮に,本件補正が,補正要件を満たすものであったとしても,本願補正発明1は,引用例1に記載された発明と引用例2ないし4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 サポート要件について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である(知財高判平成17年11月11日(平成17年(行ケ)10042号)「偏光フィルムの製造法」大合議判決を参照。) 。
以下,上記の観点に立って,本件のサポート要件について検討する。

(2)本願の特許請求の範囲の記載について
本願補正発明1は,以下のとおりのものである。(以下,再掲。)

「【請求項1】
a.基材を反応器内に用意する工程,
b.少なくとも1つのケイ素前駆体を前記反応器内に導入する工程,
c.前記反応器をパージガスでパージする工程,
d.酸素源を前記反応器内に導入する工程,該酸素源は,水,酸素(O_(2)),酸素プラズマ,オゾン(O_(3)),一酸化二窒素(N_(2)O),二酸化窒素(NO_(2)),一酸化炭素(CO),二酸化炭素(CO_(2))及びこれらの組み合わせからなる群から選択される,及び
e.前記反応器をパージガスでパージする工程
を含み,所望の厚さの酸化ケイ素が堆積するまで工程bから工程eが繰り返され,
600?800℃の1又は複数の温度及び50ミリトール(mT)?760トールの1又は複数の圧力で実施される,基材上に酸化ケイ素膜を堆積させる方法であって,
前記少なくとも1つのケイ素前駆体が,ジエチルアミノトリメチルシラン,ジメチルアミノトリメチルシラン,エチルメチルアミノトリメチルシラン,t‐ブチルアミノトリメチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリメチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノトリメチルシラン,ピロリジノトリメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジメチルシラン,ジピロリジノジメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)メチルビニルシラン,ジピロリジノメチルビニルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)フェニルシラン,トリス(ジメチルアミノ)メチルシラン,2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン,2‐メチルピロリジノトリメチルシランからなる群より選択される,方法。」

(3)本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明について
ア 本願明細書の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。
(ア)「【背景技術】
【0003】
熱酸化は,半導体用途の二酸化ケイ素などの高純度且つ高度に共形の酸化ケイ素膜(SiO_(2))を堆積させるのに一般的に使用されるプロセスである。しかしながら,熱酸化プロセスは,非常に遅い堆積速度,例えば,700℃にて0.03Å/sであり,大量の製造プロセスでそれを非実用的なものにしている(例えば,Wolf, S., "Silicon Processing for the VLSI Era Vol. 1 - Process Technology", Lattice Press, CA, 1986を参照のこと)。
【0004】
原子層堆積(ALD)及びプラズマ強化原子層堆積(PEALD)は,低温(<500℃)にて二酸化ケイ素(SiO_(2))の共形膜を堆積させるのに使用されるプロセスである。ALDプロセスとPEALDプロセスでは共に,前駆体と反応性気体(例えば,酸素又はオゾンなど)が,特定のサイクル数で別々に律動的に送られて,サイクルごとに二酸化ケイ素(SiO_(2))の単分子層を形成する。しかしながら,これらのプロセスを使用して低温で堆積する二酸化ケイ素(SiO_(2))は,半導体用途に有害であるレベルの不純物,例えば,炭素(C),窒素(N),又はその両方などを含むこともある。これを解消するためには,1つの解決法は,例えば,500℃以上に堆積温度を上げることである。しかしながら,これらのより高い温度では,半導体産業で用いられてきた従来の前駆体は,自己反応する傾向があって,熱分解し,そしてALD様式よりむしろCVD様式で堆積する。CVD様式の堆積は,特に半導体用途における高アスペクト比構造でALD堆積と比較して,共形性が低下する。加えて,CVD様式の堆積は,ALD様式の堆積よりも膜又は物質の厚さが制御しにくい。」

(イ)「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって,熱に基づく堆積プロセスを置き換えるために,原子層堆積(ALD)プロセス又はALD型プロセス,例えば,これだけに限定されるものではないが,サイクリック化学気相成長プロセスを使用した高品質の,不純物の少ない,高度に共形的な酸化ケイ素膜を形成するためのプロセスを開発する必要がある。さらに,ALD又はALD型プロセスで,1又は複数の膜特性,例えば,純度及び/又は密度など,を改善するために,高温堆積(例えば,500℃の1又は複数の温度での堆積)を開発することが望まれる場合もある。」

(ウ)「【課題を解決するための手段】
【0009】
原子層堆積(ALD)又はALD型プロセスにおいて,高温にて,例えば,500℃以上の1又は複数の温度にて,酸化ケイ素材料又は膜の堆積のためのプロセスを,本明細書中に記載している。
【0010】
1つの実施形態では,
a.基材を反応器内に用意する工程,
b.少なくとも1つのケイ素前駆体を前記反応器内に導入する工程,
c.前記反応器をパージガスでパージする工程,
d.酸素源を前記反応器内に導入する工程,及び
e.前記反応器をパージガスでパージする工程
を含み,所望の厚さの酸化ケイ素が堆積するまで工程bから工程eが繰り返され,500?800℃の1又は複数の温度及び50ミリトール(mT)?760トールの1又は複数の圧力で実施される,酸化ケイ素を堆積させる方法が提供される。
【0011】
別の実施形態では,
a.基材を反応器内に用意する工程,
b.少なくとも1つのケイ素前駆体を前記反応器内に導入する工程,
c.前記反応器をパージガスでパージする工程,
d.酸素源を前記反応器内に導入する工程,
e.前記反応器をパージガスでパージする工程,
f.水蒸気又はヒドロキシル源を前記反応器内に導入する工程,及び
g.前記反応器をパージガスでパージする工程
を含み,所望の厚さの酸化ケイ素が堆積するまで工程bから工程gが繰り返され,500?800℃の1又は複数の温度及び50ミリトール(mT)?760トールの1又は複数の圧力で実施される,酸化ケイ素を堆積させる方法が提供される。この又は他の実施形態では,酸素源は,酸素,酸素プラズマ,水蒸気,水蒸気プラズマ,過酸化水素,酸化窒素,及びオゾンからなる群より選択される。
【0012】
本明細書で記載される少なくとも1つのケイ素前駆体は,
I.R^(1)R^(2)_(m)Si(NR^(3)R^(4))_(n)X_(p)
(式中,R^(1),R^(2)及びR^(3)は,それぞれ独立に,水素,直鎖又は分岐鎖のC_(1)?C_(10)アルキル基,及びC_(6)?C_(10)アリール基から選択され,R^(4)は,直鎖又は分岐鎖のC_(1)?C_(10)アルキル基,C_(6)?C_(10)アリール基,及びC_(3)?C_(10)アルキルシリル基から選択され,ここで,R^(3)とR^(4)は環式環構造を形成するために連結するか又はR^(3)とR^(4)は環式環構造を形成するために連結せず,XはCl,Br及びIからなる群より選択されるハライドであり,mは0?3であり,nは0?2であり,pは0?2であり,m+n+p=3である)並びに
II.R^(1)R^(2)_(m)Si(OR^(3))_(n)(OR^(4))_(q)X_(p)
(式中,R^(1)及びR^(2)は,それぞれ独立に,水素,直鎖又は分岐鎖のC_(1)?C_(10)アルキル基,及びC_(6)?C_(10)アリール基から選択され,R^(3)及びR^(4)は,それぞれ独立に,直鎖又は分岐鎖のC_(1)?C_(10)アルキル基,及びC_(6)?C_(10)アリール基から選択され,ここで,R^(3)とR^(4)は環式環構造を形成するために連結するか又はR^(3)とR^(4)は環式環構造を形成するために連結せず,XはCl,Br及びIからなる群より選択されるハライド原子であり,mは0?3であり,nは0?2であり,pは0?2であり,m+n+p=3である)からなる群より選択される。」

(エ)「【実施例】
【0054】
[実施例1:ジメチルアミノトリメチルシランを用いた酸化ケイ素膜の原子層堆積]
酸化ケイ素膜の原子層堆積を,次の前駆体を用いて行った:ジメチルアミノトリメチルシラン(DMATMS)。堆積を,実験室スケールのALDプロセスツールで行った。ケイ素前駆体を,蒸気ドローによってチャンバーに供給した。全てのガス(例えば,パージガス,反応ガス又は前駆体及び酸素源)を,堆積ゾーンに入る前に100℃に余熱した。ガス及び前駆体の流量を,高速作動するALDダイアフラムバルブで制御した。堆積に用いた基材は,12インチの長さのシリコンストリップであった。基材の温度を確認するために,熱電対をサンプルホルダーに取り付けた。酸素源ガスとしてオゾンを用いて,堆積を行った。堆積パラメーターを表7に与える。
<途中省略>
【0056】
所望の厚さに達するまで,工程2?6を繰り返す。膜の厚みと屈折率を,膜からの反射データをあらかじめ設定しておいた物理モデルに当てはめることによって,FihnTek 2000SE偏光解析器(例えば,ローレンツ振動子モデル)を使用して計測した。ウェットエッチ速度を,脱イオン水中の49%フッ化水素(HF)酸の1%溶液を使用することで実施した。熱酸化物ウェハーを,溶液濃度を確認するための各バッチの基準として使用した。H_(2)O溶液中の1%HFに関する典型的な熱酸化物ウェハーのウェットエッチ速度は,0.5Å/sである。エッチング前後のそれぞれの膜の厚みを,ウェットエッチ速度について計算するために使用した。膜中の炭素濃度と窒素濃度を,Dynamic Secondary Ions Mass Spectrometry(SIMS)技術を用いて分析した。不均質性(%)を,以下の方程式を使用して,6点の測定から計算した:不均質性(%)=((最大-最小)/(2*平均))。膜密度を,X線反射測定(XRR)を用いて特徴づけした。表II(審決注.ウェハー温度500℃ないし650℃における,DMATMS投与によって堆積したSiO_(2)膜の堆積速度が,いずれも1.22ないし1.32Å/サイクルであり,不均質性が,0.8ないし1.5%であり,C濃度が,2.25E+19ないし3.82E+19原子数/cc,N濃度が,1.68E+18ないし2.51E+18原子数/ccであること等が示されている。)には,500?650℃のウェハー温度にて,一定投与(8秒)のDMATMS前駆体を用いて堆積させたSiO_(2)膜の特性をまとめる。
<途中省略>
【0058】
DMATMSから堆積した酸化ケイ素の膜密度は,2.08?2.23g/ccに及んだ。
【0059】
図3は,650℃にてDMATMSを用いて堆積させた熱酸化物とSiO_(2)とのリーク電流と絶縁破壊の比較を表しており,DMATMSを使用した酸化ケイ素が,熱酸化物に匹敵する電気的性質を有することを実証している。1?5MV/cm(典型的な動作電圧)でのリーク電流は,熱酸化物の典型的なデバイス動作電圧の大きさの1桁分以内である。
【0060】
ALD様式の堆積を確認するために,複数回の前駆体投与をオゾン導入前に使用して,堆積が自己制限的であることを保証する。堆積工程を,以下で表III内に挙げる。
<途中省略>
【0062】
工程2aと2bを繰り返して,ケイ素前駆体の複数回投与を導入した。堆積速度と不均質性の両方を,表IV(審決注.【0063】の表IVには,ウェハー温度650℃における,DMATMSの投与が,2秒,2+2秒,2+2+2秒の場合の,堆積速度が,いずれも1.17ないし1.36Å/サイクルであり,不均質性が,1.2ないし2.0%であることが示されている。)で報告する。
<途中省略>
【0064】
堆積速度は,650℃におけるALD様式の堆積を確認する前駆体投与の増加に伴って自己制限的挙動と飽和状態を示している。」

(オ)「【0065】
[実施例2:ジエチルアミノトリメチルシランを用いた酸化ケイ素膜の原子層堆積]
酸化ケイ素膜の原子層堆積は,実施例1の表Iに挙げたジエチルアミノトリメチルシラン(DEATMS)使用工程である。500?650℃にて一定の前駆体投与(8秒)でDEATMSを用いて堆積させたSiO_(2)膜の堆積速度と膜不均質性を,表IV(審決注.【0065】の表IVには,ウェハー温度500℃ないし650℃における,DEATMS投与によって堆積したSiO_(2)膜の堆積速度が,いずれも1.10ないし1.27Å/サイクルであり,不均質性が,0.5ないし2.5%であることが示されている。)に示した。
<途中省略>
【0069】
工程2aと2bを繰り返して,ケイ素前駆体の複数回投与をシミュレートする。堆積速度と不均質性の両方を,表VI(審決注.ウェハー温度650℃における,DEATMS投与が,2秒,2+2秒,2+2+2秒,2+2+2+2秒の場合の,堆積速度が,いずれも1.01ないし1.35Å/サイクルであり,不均質性が,2.3ないし2.8%であることが示されている。)で報告する。
<途中省略>
【0071】
堆積速度は,650℃におけるALD様式の堆積を確認する前駆体投与の増加に伴って自己制限的挙動と飽和状態を示している。」

(カ)「【0072】
[実施例3:DMATMSを用いたパターンケイ素基材上の酸化ケイ素膜の原子層堆積]
SiO_(2)膜を,DMATMSを用いてパターンシリコンウェハー上に堆積させた。堆積プロセスを,650℃にて8秒の,酸素源ガスとしてのオゾンと前駆体の二連パルスを使用して実施した。基材上に堆積した膜を,電界放射型走査電子顕微鏡(FESEM)Hitachi S‐4800SEMを使用して計測した。サンプルを,断面ホルダーに乗せ,そして2kVの加速電圧で稼働したSEMを使用して調べられた。サンプル断面のSiO_(2)厚の測定を,溝の上部,側壁,及び底部で行なった。SiO_(2)膜のSEM断面の精査で,素晴らしい段差被覆率(>96%)を示したので,そのプロセスが確かにALDプロセスであると確認した。」

(キ)【0073】
[実施例4:ジエチルアミノトリエチルシラン(Diethylaminotriethylsilane)(DEATES)を用いた酸化ケイ素膜の原子層堆積]
酸化ケイ素膜の堆積を,ケイ素前駆体であるジエチルアミノトリエチルシラン(DEATES)とオゾンを使用して行なった。使用した堆積工程は,実施例1の表Iに挙げてある。表VIIには,500?650℃のウェハー温度にてDEATESを使用して堆積させたSiO_(2)膜の堆積速度と不均質性をまとめてある。
<途中省略>
【0075】
表VII(審決注.ウェハー温度500℃ないし650℃における,DEATES投与によって堆積したSiO_(2)膜の堆積速度が,500℃の0.91Å/サイクルから,650℃の2.53Å/サイクルへと増加しており,不均質性が,650℃で,24.8%となっていることが示されている。)を参照すると,堆積速度及び不均質性は,600℃において増加し(600℃において一部のCVD反応で示された),そして650℃におけるCVD反応で更に増加した。」

(ク)「【0076】
[実施例5:メトキシトリメチルシラン(Methoxytrimethylsilane)を用いた酸化ケイ素膜の原子層堆積]
酸化ケイ素膜の原子層堆積を,ケイ素前駆体であるメトキシトリメチルシランを使用して行なった。堆積は,実施例1の表Iで列挙したプロセス工程を用いて650℃にてオゾンを使用することで実施した。基材温度を650℃に設定した。堆積速度は,約0.3Å/サイクルであった。」

(ケ)「【0077】
[実施例6:クロロトリメチルシラン(Chlorotrimethylsilane)を用いた酸化ケイ素膜の原子層堆積]
酸化ケイ素膜の原子層堆積を,ケイ素前駆体であるクロロトリメチルシランを使用して行なった。堆積を,酸素源ガスとしてオゾンを使用して実施し,堆積プロセスパラメーターは,実施例1の表Iと同じである。基材温度を650℃に設定した。堆積速度は0.5Å/サイクルであった。」

(コ)「【0078】
[実施例7:ヘキサメチルジシラザンを用いた酸化ケイ素膜の原子層堆積]
酸化ケイ素膜の原子層堆積を,ケイ素前駆体であるヘキサメチルジシランを使用して行なった。堆積を,実施例1の表Iに挙げたプロセス工程を用いて,650℃にてオゾンを使用して実施した。堆積速度は,約1.3Å/サイクルであった。」

(サ)「【0079】
[実施例8:ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシランを使用した酸化ケイ素膜のALD堆積]
ビスジメチルアミノジメチルシラン(BDMADMS)を,ケイ素前駆体として使用した。BDMADMSは,R^(1)R^(2)_(m)Si(NR^(3)R^(4))_(n)(式中,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4)は,メチルであり,n=2,そしてm=1。)の一般構造を有する。
【0080】
堆積を,実験室スケールのALDプロセスツールにより実施した。堆積を,酸素源ガスとしてのオゾンと,表Iのものと同じ堆積プロセスパラメーターを使用して実施した。
【0081】
500?650℃にて一定の前駆体投与(8秒)でBDMADMSを使用して堆積させた酸化ケイ素膜の堆積速度と膜不均質性を,表VIII(審決注.ウェハー温度300℃ないし650℃における,BDMADMS投与によって堆積したSiO_(2)膜の堆積速度が,300℃で,0.67Å/サイクル,500℃で0.96Å/サイクル,650℃で1.72Å/サイクルであり,不均質性が,2.1ないし5.0%であることが示されている。)にまとめる:
<途中省略>
【0083】
二連前駆体パルスプロセスを使用して,ALD様式をさらに検証した。表IXには,一連の8秒パルスと二連の8秒パルスを用いた膜の堆積速度と不均質性に示す。
<途中省略>
【0085】
表IX(審決注.ウェハー温度650℃における,前駆体パルスが,8秒の場合の堆積速度が1.72Å/サイクル,不均質性が5.0%であり,8+8秒の場合の堆積速度が2.05Å/サイクル,不均質性が7.8%であることが示されている。)に示すとおり,二連前駆体パルスを使用したとき,堆積速度が有意に増加し,そして均質性は低下し,そしてそれは,いくらのCVD様式の堆積を意味した。」

(シ)「【0086】
[実施例9:2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシランの合成]
添加漏斗,冷却管,及び機械式スターラーを備えた1000ml容の三つ口丸底フラスコの中に,113g(1.0mol)の2,6‐ジメチルピペリジン及び500mlのヘキサンを加えた。撹拌しながら,50.5g(0.5mol)のクロロトリメチルシランを,添加漏斗を通して滴下して加えた。添加が完了した後,反応混合物を6時間還流した。室温まで冷まし,混合物は濾過した。固体をヘキサンで洗浄し,そして,そのヘキサン溶液を濾液と合わせた。溶媒であるヘキサンを蒸留によって取り除いた。分別蒸留によって134gの2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシランを得た。収率は75%であった。図2に提供したマススペクトルで,それが185(M),170(M‐15)にフラグメントを有するジメチルピペリジノトリメチルシランであることを確認した。」

イ 本願の明細書の発明の詳細な説明に記載された事項について
(ア)上記(3)アより,本願の明細書の発明の詳細な説明には,本願に係る発明は,原子層堆積(ALD)又はALD型プロセスにおいて,高温にて,例えば,500℃以上の1又は複数の温度にて,酸化ケイ素材料又は膜の堆積のためのプロセスに関するものであって(【0009】),熱酸化プロセスは,非常に遅い堆積速度,例えば,700℃にて0.03Å/sであり,大量の製造プロセスでそれを非実用的なものにしており(【0003】),一方,低温(<500℃)にて二酸化ケイ素(SiO_(2))の共形膜を堆積させるのに使用されるプロセスである原子層堆積(ALD)及びプラズマ強化原子層堆積(PEALD)は,二酸化ケイ素(SiO_(2))が,低温で堆積されるので,半導体用途に有害であるレベルの不純物,例えば,炭素(C),窒素(N),又はその両方などを含むこともあり,他方,これを解消するために,例えば,500℃以上に堆積温度を上げると,これらのより高い温度では,半導体産業で用いられてきた従来の前駆体は,自己反応する傾向があって,熱分解し,そしてALD様式よりむしろCVD様式で堆積して,特に半導体用途における高アスペクト比構造でALD堆積と比較して,共形性が低下し,加えて,CVD様式の堆積は,ALD様式の堆積よりも膜又は物質の厚さが制御しにくいこと(【0004】)が,背景技術,及び,発明が解決しようとする課題として記載されている。
そうすると,本願の明細書の発明の詳細な説明の記載より,本願に係る発明の課題は,大量の製造プロセスにおいて用いられ得るように,熱酸化プロセスよりも堆積速度を速くするために,プロセス温度を高温に,すなわち600?800℃に上げると,半導体産業で用いられてきた従来の前駆体は,自己反応する傾向があって,熱分解し,そしてALD様式よりむしろCVD様式で堆積して,特に半導体用途における高アスペクト比構造でALD堆積と比較して,共形性が低下し,膜又は物質の厚さが制御しにくかったことにあるものと認められる。

(イ)上記(3)アより,本願の明細書の発明の詳細な説明には,本願に係る発明の構成と作用効果との関係について,以下の事項が記載されていると認められる。

a.ケイ素前駆体が,「ジメチルアミノトリメチルシラン(DMATMS)」であるときに,500?650℃のウェハー温度にて堆積したSiO_(2)膜の膜密度が,2.08?2.23g/ccに及び,650℃にて堆積したSiO_(2)のリーク電流と絶縁破壊が,熱酸化物に匹敵する電気的性質を有し,1?5MV/cm(典型的な動作電圧)でのリーク電流は,熱酸化物の典型的なデバイス動作電圧の大きさの1桁分以内であり,650℃における堆積速度が,DMATMSを,2秒,2+2秒,2+2+2秒で投与した場合のいずれもにおいても,1.17ないし1.36Å/サイクルであり,不均質性が,1.2ないし2.0%であることから,ALD様式の堆積を確認する前駆体投与の増加に伴って自己制限的挙動と飽和状態を示すことが理解でき,素晴らしい段差被覆率(>96%)を示すこと(実施例1,実施例3)。
b.ケイ素前駆体が,「ジエチルアミノトリメチルシラン(DEATMS)」であるときに,ウェハー温度500℃ないし650℃における,DEATMS投与によって堆積したSiO_(2)膜の堆積速度が,いずれも1.10ないし1.27Å/サイクルであり,不均質性が,0.5ないし2.5%であり,ウェハー温度650℃における,DEATMS投与が,2秒,2+2秒,2+2+2秒,2+2+2+2秒の場合の,堆積速度が,いずれも1.01ないし1.35Å/サイクルであり,不均質性が,2.3ないし2.8%であることから,堆積速度が,650℃におけるALD様式の堆積を確認する前駆体投与の増加に伴って自己制限的挙動と飽和状態を示すことが理解できること(実施例2)。
c.ケイ素前駆体が,「ジエチルアミノトリエチルシラン(DEATES)」であるとき,ウェハー温度500℃ないし650℃における,DEATES投与によって堆積したSiO_(2)膜の堆積速度が,500℃の0.91Å/サイクルから,650℃の2.53Å/サイクルへと増加しており,不均質性が,650℃で,24.8%となっていることから,堆積速度及び不均質性は,600℃において増加し(600℃において一部のCVD反応で示された),そして650℃におけるCVD反応で更に増加することが理解できること(実施例4)。
d.ケイ素前駆体が,「メトキシトリメチルシラン」であるとき,基材温度を650℃に設定すると,堆積速度が,約0.3Å/サイクルとなること(実施例5)。
e.ケイ素前駆体が,「クロロトリメチルシラン」であるとき,基材温度を650℃に設定すると,堆積速度が,約0.5Å/サイクルとなること(実施例6)。
f.ケイ素前駆体が,「ヘキサメチルジシラン」であるとき,基材温度を650℃に設定すると,堆積速度が,約1.3Å/サイクルとなること(実施例7)。
g.ケイ素前駆体が,「ビスジメチルアミノジメチルシラン(BDMADMS)」であるとき,この前駆体は,R^(1)R^(2)_(m)Si(NR^(3)R^(4))_(n)(式中,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4)は,メチルであり,n=2,そしてm=1。)の一般構造を有するものであるが,ウェハー温度300℃ないし650℃における,BDMADMS投与によって堆積したSiO_(2)膜の堆積速度が,300℃で,0.67Å/サイクル,500℃で0.96Å/サイクル,650℃で1.72Å/サイクルであり,不均質性が,2.1ないし5.0%であり,ウェハー温度650℃において,二連前駆体パルスを使用したとき,前駆体パルスが,8秒の場合の堆積速度が1.72Å/サイクル,不均質性が5.0%であり,8+8秒の場合の堆積速度が2.05Å/サイクル,不均質性が7.8%となり,堆積速度が有意に増加し,そして均質性は低下し,そしてそれは,いくらのCVD様式の堆積を意味すること(実施例8)。
h.ケイ素前駆体である「2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン」が,2,6‐ジメチルピペリジンにヘキサンを加えて,撹拌しながら,クロロトリメチルシランを,添加漏斗を通して滴下して加えて,反応混合物を6時間還流し,室温まで冷まし,混合物は濾過して,固体をヘキサンで洗浄し,そして,そのヘキサン溶液を濾液と合わせて,溶媒であるヘキサンを蒸留によって取り除き,分別蒸留を行うことによって得られること(実施例9)。

(4)サポート要件についての検討
ア 上記(2)によれば,本願補正発明1は,「600?800℃の1又は複数の温度」で実施されること,及び,「ジエチルアミノトリメチルシラン,ジメチルアミノトリメチルシラン,エチルメチルアミノトリメチルシラン,t‐ブチルアミノトリメチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリメチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノトリメチルシラン,ピロリジノトリメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジメチルシラン,ジピロリジノジメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)メチルビニルシラン,ジピロリジノメチルビニルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)フェニルシラン,トリス(ジメチルアミノ)メチルシラン,2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン,2‐メチルピロリジノトリメチルシランからなる群より選択される」少なくとも1つのケイ素前駆体を用いることを発明特定事項として含む,基材上に酸化ケイ素膜を堆積させる方法に係る発明である。

イ 他方,上記(3)イ(イ)のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願補正発明1における「ケイ素前駆体」のうち,「ジメチルアミノトリメチルシラン(DMATMS)」(実施例1,実施例3)及び「ジエチルアミノトリメチルシラン(DEATMS)」(実施例2)については,いずれも,500?650℃のウェハー温度にて堆積した場合に,1.10ないし1.37Å/サイクル程度のALD様式の堆積を示し,不均質性も2.8%以下であることが示されている。
しかしながら,同じく本願補正発明1の「ビスジメチルアミノジメチルシラン(BDMADMS)」(実施例8)については,ウェハー温度650℃において,二連前駆体パルスを使用したとき,前駆体パルスが8秒の場合の堆積速度が1.72Å/サイクル,不均質性が5.0%であるのに対して,前駆体パルスが8+8秒の場合には,堆積速度が2.05Å/サイクル,不均質性が7.8%となり,堆積速度が有意に増加し,そして均質性は低下し,そしてそれは,いくらのCVD様式の堆積を意味すると記載されており,さらに,同じく本願補正発明1の「2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン」については,堆積の態様が示されていない。また,本願補正発明1において特定されている,これら以外のシリコン前駆体についても,堆積速度及び不均質性の値が示されていない。
そして,前駆体の所定の温度での堆積速度と堆積膜の不均質性を,当該ケイ素前駆体の構造式から定量的に予測する手段は本願の発明の詳細な説明に記載されておらず,また,本願の優先権主張の日前において技術常識であったとも認められない。

ウ 上記(3)イ(ア)のとおり,本願に係る発明は,原子層堆積(ALD)又はALD型プロセスにおいて,高温にて酸化ケイ素材料又は膜の堆積のためのプロセスに関するもので,ALD様式よりむしろCVD様式で堆積して,共形性が低下し,膜又は物質の厚さが制御しにくかったとの課題を解決しようとするものである。
そして,上記(3)イ(イ)のとおり,実施例1の「ジメチルアミノトリメチルシラン(DMATMS)」においては,650℃における堆積速度は,DMATMSを,2秒,2+2秒,2+2+2秒で投与した場合のいずれにおいても,堆積速度が,1.17ないし1.36Å/サイクルであり,不均質性が1.2ないし2.0%と,自己制限的挙動と飽和状態を示すことから,本願に係る発明の上記課題が解決されるものと解される。
しかしながら,上記イ(イ)のとおり,実施例8の「ビスジメチルアミノジメチルシラン(BDMADMS)」においては,ウェハー温度650℃において,二連前駆体パルスを使用したとき,前駆体パルスが,8秒の場合の堆積速度が1.72Å/サイクル,8+8秒の場合の堆積速度が2.05Å/サイクルとなり,不均質性が7.8%となることから,本願補正発明1において特定される前駆体のなかにおいても,前駆体の種類によって,一のサイクル毎に堆積する膜厚が異なることが理解される。
そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明の記載より,本願に係る発明において,ケイ素前駆体の種類によって,堆積速度及び不均質の値が異なると認められるから,発明の詳細な説明において堆積速度及び不均質性の値が示されていないケイ素前駆体を用いた場合にまで,ALD様式の堆積を示し,不均質性を低い値に抑えることができるという課題を解決することはできるとは認めることはできない。

エ 加えて,上記(3)イ(イ)より,実施例8の「ビスジメチルアミノジメチルシラン(BDMADMS)」においては,堆積したSiO_(2)膜の堆積速度は,300℃で,0.67Å/サイクル,500℃で0.96Å/サイクル,650℃で1.72Å/サイクルであることが示されていることから,ウェハー温度が上昇するに従って,一のサイクル毎に堆積する膜厚が厚くなることが理解される。
そうすると,本願補正発明1において,「ビスジメチルアミノジメチルシラン(BDMADMS)」を,本願補正発明1の「600?800℃の1又は複数の温度及び50ミリトール(mT)?760トールの1又は複数の圧力で実施」という発明特定事項における上限の温度,すなわち,ウェハー温度を800℃で実施した場合には,その堆積速度はさらに大きくなり,一のサイクル毎に堆積する膜厚が,二酸化ケイ素(SiO_(2))の単分子層の厚さを超えて,CVD様式の堆積となるものと認められ,本願に係る発明の上記の課題が解決できないことは明らかといえる。

オ 以上より,本願の発明の詳細な説明の記載からは,本願の優先権主張の日前における技術常識に照らしても,本願補正発明1において特定されている全てのシリコン前駆体について,本願補正発明1の「工程bから工程eが繰り返され」る工程を,「600?800℃の1又は複数の温度及び50ミリトール(mT)?760トールの1又は複数の圧力で実施」した場合に,ALD様式の堆積を示し,不均質性を低い値に抑えるという,本願に係る発明の課題を解決できると認めることはできない。
したがって,本願補正発明1は,発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。

カ なお,出願人は,平成27年10月27日に提出した意見書において,以下のように主張する。
「(4)理由A;特許法第36条第6項第1号による拒絶理由について
審査官殿は,本願請求項1,5および8の発明について,これらの請求項で規定されたケイ素前駆体が,実施例に記載されたもの以外のものを含むことを理由として,拒絶理由を述べられています。
しかしながら,本願請求項1?14の発明は,特定の要件を含む,基材上に酸化ケイ素膜を堆積させる方法の発明であり,請求項15?17の発明は,酸化ケイ素を得るためのケイ素含有前駆体もしくはそれを含む組成物の発明です。従って,本願請求項1,5,8および15?17で列挙したケイ素前駆体は,基材上に酸化ケイ素膜を形成させるという特性を有する点で極めて限定されたものです。そして,これらの請求項で規定するケイ素前駆体は,固着官能基と不動態化官能基の両方を有し,更に,その固着官能基がアミノ基,アルコキシ基などであり,不動態化官能基がメチル,エチル,フェニル基などであるという,共通の化学構造を有するものです。一方,本願明細書の実施例には,固着官能基が,メチルアミノ基,エチルアミノ基,メトキシ基,ジメチルアミノ基,ジメチルピペリジノ基である場合,および不動態化官能基がメチル基およびエチル基である場合が例示的に記載されています。従って,本願明細書の段落0018?0029他の記載および本願明細書の実施例の記載を参酌すれば,発明の詳細な説明に開示された内容を請求項に係る発明の範囲にまで拡張ないし一般化できるとはいえないとする合理的な理由はないものと思料します。」
以下,上記主張について検討する。
上記(3)イ(ア)で検討したように,本願補正発明1が解決しようとする課題は,「熱酸化プロセスよりも堆積速度を速くするために,プロセス温度を高温に,すなわち600?800℃に上げると,半導体産業で用いられてきた従来の前駆体は,自己反応する傾向があって,熱分解し,そしてALD様式よりむしろCVD様式で堆積して,特に半導体用途における高アスペクト比構造でALD堆積と比較して,共形性が低下し,膜又は物質の厚さが制御しにくかったこと」にあるものと認められる。
そして,発明の詳細な説明に開示された内容を請求項に係る発明の範囲にまで拡張ないし一般化できるといえるためには,請求項に係る発明の範囲が,前記課題を解決できると認識できる範囲のものであることを要するところ,出願人の前記主張は,発明の課題を,「基材上に酸化ケイ素膜を堆積させる特性を有する点で極めて限定されたもの」であることを主張するものである。
しかしながら,単に「基材上に酸化ケイ素膜を堆積させる特性を有する」というだけでは,基材上にCVD様式で酸化ケイ素膜を堆積する場合を含むこととなるが,この場合には,共形性の低下,及び,膜又は物質の厚さの制御といった課題は解決されないことは明らかである。
したがって,審判請求人の前記主張は,課題の認定が適切でないから採用することができない。

キ 小括
以上のとおり,仮に,本件補正が,補正要件を満たすものであったとしても,本願補正発明1は,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年10月7日に提出された手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし請求項17に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明17」という。)は,平成27年10月27日に提出された手続補正書により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項17に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,本願発明1及び本願発明17は以下のとおりである。

「【請求項1】
a.基材を反応器内に用意する工程,
b.少なくとも1つのケイ素前駆体を前記反応器内に導入する工程,
c.前記反応器をパージガスでパージする工程,
d.酸素源を前記反応器内に導入する工程,及び
e.前記反応器をパージガスでパージする工程
を含み,所望の厚さの酸化ケイ素が堆積するまで工程bから工程eが繰り返され,
550?800℃の1又は複数の温度及び50ミリトール(mT)?760トールの1又は複数の圧力で実施される,基材上に酸化ケイ素膜を堆積させる方法であって,
前記少なくとも1つのケイ素前駆体が,ジエチルアミノトリエチルシラン,ジメチルアミノトリエチルシラン,エチルメチルアミノトリエチルシラン,t‐ブチルアミノトリエチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリエチルシラン,ジイソプロピルアミノトリエチルシラン,ピロリジノトリエチルシラン,ジエチルアミノトリメチルシラン,ジメチルアミノトリメチルシラン,エチルメチルアミノトリメチルシラン,t‐ブチルアミノトリメチルシラン,イソ‐プロピルアミノトリメチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノトリメチルシラン,ピロリジノトリメチルシラン,ジエチルアミノジメチルシラン,ジメチルアミノジメチルシラン,エチルメチルアミノジメチルシラン,t‐ブチルアミノジメチルシラン,イソ‐プロピルアミノジメチルシラン,ジイソプロピルアミノジメチルシラン,ピロリジノジメチルシラン,ジエチルアミノジエチルシラン,ジメチルアミノジエチルシラン,エチルメチルアミノジエチルシラン,t‐ブチルアミノジエチルシラン,イソ‐プロピルアミノジエチルシラン,ジ‐イソプロピルアミノジエチルシラン,ピロリジノジエチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジメチルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジメチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジメチルシラン,ジピロリジノジメチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)ジエチルシラン,ビス(ジメチルアミノ)ジエチルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)ジエチルシラン,ビス(ジイソプロピルアミノ)ジエチルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)ジエチルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)ジエチルシラン,ジピロリジノジエチルシラン,ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(エチルメチルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(ジ‐イソプロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(イソ‐プロピルアミノ)メチルビニルシラン,ビス(tert‐ブチルアミノ)メチルビニルシラン,ジピロリジノメチルビニルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノメチルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノジメチルシラン,2,6‐ジメチルピペリジノトリメチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)フェニルシラン,トリス(ジメチルアミノ)メチルシラン,トリス(ジメチルアミノ)エチルシラン,及びそれらの混合物からなる群より選択されるか,または
前記少なくとも1つのケイ素前駆体が,メトキシトリメチルシラン,エトキシトリメチルシラン,イソ‐プロポキシトリメチルシラン,tert‐ブトキシトリメチルシラン,tert‐ペントキシトリメチルシラン,フェノキシトリメチルシラン,アセトキシトリメチルシラン,メトキシトリエチルシラン,エトキシトリエチルシラン,イソ‐プロポキシトリエチルシラン,tert‐ブトキシトリエチルシラン,tert‐ペントキシトリエチルシラン,フェノキシトリエチルシラン,アセトキシトリエチルシラン,メトキシジメチルシラン,エトキシジメチルシラン,イソ‐プロポキシジメチルシラン,tert‐ブトキシジメチルシラン,tert‐ペントキシジメチルシラン,フェノキシジメチルシラン,アセトキシジメチルシラン,メトキシジメチルフェニルシラン,エトキシジメチルフェニルシラン,イソ‐プロポキシジメチルフェニルシラン,tert‐ブトキシジメチルフェニルシラン,tert‐ペントキシジメチルフェニルシラン,フェノキシジメチルフェニルシラン,アセトキシジメチルフェニルシラン,ジメトキシジメチルシラン,ジエトキシジメチルシラン,ジ‐イソプロポキシジメチルシラン,ジ‐t‐ブトキシジメチルシラン,ジアセトキシジメチルシラン,ジメトキシジエチルシラン,ジエトキシジエチルシラン,ジ‐イソプロポキシジエチルシラン,ジ‐t‐ブトキシジエチルシラン,ジアセトキシジエチルシラン,ジメトキシジ‐イソプロピルシラン,ジエトキシジ‐イソプロピルシラン,ジ‐イソプロポキシジ‐イソプロピルシラン,ジ‐t‐ブトキシジ‐イソプロピルシラン,ジアセトキシジ‐イソプロピルシラン,ジメトキシメチルビニルシラン,ジエトキシメチルビニルシラン,ジ‐イソプロポキシメチルビニルシラン,ジ‐t‐ブトキシメチルビニルシラン,ジアセトキシメチルビニルシラン,1,1,3,4‐テトラメチル‐1‐シラ‐2,5‐ジオキサシクロペンタン,1,1,3,3,4,4‐ヘキサメチル‐1‐シラ‐2,5‐ジオキサシクロペンタン,及びそれらの混合物からなる群より選択される,方法。」

「【請求項17】
ジメチルアミノトリメチルシランおよびジエチルアミノトリメチルシランからなる群より選択されるケイ素含有前駆体を含んでなる組成物。」

2 進歩性について
(1)本願発明1について
ア 引用例とその記載事項,及び,引用発明
原査定の拒絶理由通知で引用した,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である上記の引用例1-4には,図面とともに,上記「第2 5(2)」に摘記した事項が記載されている。

進歩性の判断
本願発明1のケイ素前駆体に,「2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン」及び「2‐メチルピロリジノトリメチルシラン」を付加し,他の特定事項を限定したものである本願補正発明1が,前記「第2 5(3)本願補正発明1の進歩性について」で判断したとおり,引用例1に記載された発明と引用例2ないし4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと判断されることから,本願発明1も同様に,引用例1に記載された発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(2)本願発明17について
ア 引用例とその記載事項,及び,引用発明
(ア)原査定の拒絶理由通知で引用した,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である上記の引用例1-4には,図面とともに,上記「第2 5(2)」に摘記した事項が記載されている。

(イ)そうすると,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明2」)が記載されているといえる。

・引用発明2
「a.成膜しようとするウエハをボートに装填し,処理室に搬入する工程,
b.下記のステップ1?4を1サイクルとし,このサイクルを複数回繰り返すことによりウエハ上に所定膜厚のSiO_(2)を成膜する工程
を含む,ウエハ上に酸化ケイ素膜を堆積させる方法に用いる,TDMASタンクに格納されたTDMAS。
(ステップ1)ガス排気管のバルブを閉じて排気を止め,TDMASタンクにN_(2)を0.7slm供給し,気泡を発生させ,発生した蒸気を処理室へ供給し,処理室内の圧力を約7Torrまで昇圧し,TDMASを5秒供給するステップであって,このときのウエハ温度は300?600℃の範囲内の所望の温度で維持するステップ。
(ステップ2)処理室を真空排気し,残留するTDMASの成膜に寄与した後のガスを排除するステップであって,N_(2)等の不活性ガスを処理室に供給して,更に残留するTDMASの成膜に寄与した後のガスを処理室から排除する効果を高めるステップ。
(ステップ3)オゾン発生器からO_(3)ガスを処理室に供給するステップであって,この時バルブの弁度の開度を調整し,処理室内の圧力を4Torrにし,O_(3)の供給により,ウエハの表面に化学吸着したTDMASとO_(3)とが表面反応(化学吸着)して,ウエハ上にSiO_(2)膜が成膜されるステップ。
(ステップ4)処理室を真空排気し,残留するTDMASの成膜に寄与した後のガスを排除するステップであって,N_(2)等の不活性ガスを処理室に供給して,更に残留するO_(3)の成膜に寄与した後のガスを処理室から排除する効果を高めるステップ。」

イ 対比・判断
(ア)本願発明17と引用発明2との対比
ア 引用発明2の「TDMAS」と,本願発明17の「ジメチルアミノトリメチルシランおよびジエチルアミノトリメチルシランからなる群より選択されるケイ素含有前駆体を含んでなる組成物」は,「ケイ素含有前駆体を含む物」である点で一致する。
よって,本願発明17と引用発明2とは,以下の点で一致し,また,相違する。
<一致点>
ケイ素含有前駆体を含む物。

<相違点>
・相違点1:ケイ素含有前駆体が,本願発明17では,「ジメチルアミノトリメチルシランおよびジエチルアミノトリメチルシランからなる群より選択されるケイ素含有前駆体」であるのに対して,引用発明2では,「TDMAS」である点。

・相違点2:本願発明17が,ケイ素含有前駆体の「組成物」であるのに対して,引用発明2では,そのような特定がされていない点。

イ 上記相違点についての検討
・相違点1について
上記「第2 5(3)キ」で検討したように,引用例1に接した当業者であれば,引用例1で用いられている「TDMAS」は,酸化膜を形成する際の原料ガスの一つとして単に例示されたものにすぎないと理解することが自然といえる。
一方,引用例2ないし4の上記摘記した記載から,集積回路等の半導体デバイス(マイクロエレクトロニクス)の製造の技術分野において,本願発明17において特定されるケイ素前駆体に含まれる,「ジメチルアミノトリメチルシラン」および「ジエチルアミノトリメチルシラン」が知られていたことが理解できる。
してみれば,TDMASではない,他のケイ素前駆体を用いることが想定されているものと理解される引用発明2において,ケイ素前駆体として,公知の材料である「ジメチルアミノトリメチルシランおよびジエチルアミノトリメチルシランからなる群より選択されるケイ素含有前駆体」を用いることは当業者が適宜なし得たことである。

・相違点2について
引用例2の上記摘記(2c),引用例4の上記摘記(4c)の記載に照らして,ケイ素含有前駆体に,任意選択的に溶媒等を添加して,「組成物」を生成することは格別のこととは認められない。
加えて,本願発明17は,「組成物」と特定するだけであって,「ケイ素含有前駆体」に添加して「組成物」を生成する他の構成材料を何ら特定していないから,本願発明17において,「組成物」としたことによる特段の効果を認めることはできない。
したがって,引用発明2において,相違点2について本願発明17の構成とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

ウ 小括
以上のとおり,本願の請求項17に係る発明は,引用例1に記載された発明と引用例2ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


3 サポート要件について
本願発明1のケイ素前駆体に,「2,5‐ジメチルピロリジノトリメチルシラン」及び「2‐メチルピロリジノトリメチルシラン」を付加し,他の特定事項を限定したものである本願補正発明1が,前記「第2 6(4)サポート要件についての検討」で判断したとおり,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないと判断されることから,本願発明1も同様に,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものと認められる。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1および請求項17に係る発明は,引用例1に記載された発明と引用例2ないし4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
さらに,本願の特許請求の範囲の記載は,請求項1の記載によって特許を受けようとする発明が,発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められないから,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2017-01-16 
結審通知日 2017-01-17 
審決日 2017-01-30 
出願番号 特願2013-83698(P2013-83698)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 537- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 正山 旭  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 加藤 浩一
河口 雅英
発明の名称 酸化ケイ素薄膜の高温原子層堆積  
代理人 出野 知  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 木村 健治  
代理人 胡田 尚則  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 青木 篤  

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