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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08G
審判 査定不服 特39条先願 特許、登録しない。 C08G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1329623
審判番号 不服2014-24525  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-01 
確定日 2017-06-21 
事件の表示 特願2011-521622「分子鎖端を有する半芳香族ポリアミド」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月11日国際公開、WO2010/015785、平成23年12月22日国内公表、特表2011-530614〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2009年(平成21年)8月6日(パリ条約による優先権主張 2008年8月8日、同年10月3日、フランス)を国際出願日とする出願であって、平成25年7月5日付けで拒絶理由が通知され、同年11月8日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年1月24日付けで拒絶理由が通知され、同年3月18日及び同19日に意見書及び同19日に手続補正書が提出され、同年7月22日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年12月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、平成27年1月8日付けで前置報告がされ、同年3月27日に付けで上申書が提出され、平成28年6月15日付けで拒絶理由が通知され、同年12月21日に意見書が提出されたものである。


第2 本願発明

本願の特許請求の範囲の請求項1?27に係る発明は、平成26年12月1日に補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?27に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「下記の一般式:
A/X.T
〔上記式中、
Aはアミノ酸から得られる単位、ラクタムから得られる単位および式(C_(a)ジアミン)・(C_(b)二塩基酸)で表される単位から選ばれ(ここで、aはジアミン中の炭素原子の数を表し、bは二塩基酸中の炭素原子の数を表し、aおよびbは各々、4から36の間にあり、単位AがC_(b)二塩基酸が式(C_(a)ジアミン)・(C_(b)二塩基酸)で表される場合、上記C_(b)二塩基酸は直鎖または分岐鎖を有する脂肪族二塩基酸および脂環式二塩基酸の中から選択される)、
X.Tは、C_(x)脂肪族直鎖ジアミンとテレフタール酸との重縮合で得られる単位を表し(ここで、xはC_(x)ジアミン中の炭素原子の数を表し、xは10から36の間にある)〕で表される少なくとも2種類の異なる単位から成るコポリアミドにおいて、
アミン鎖末端の含有量が20μeq/g以上で、
酸鎖末端の含有量が100μeq/g以下で、
非反応性鎖末端の含有量が20μeq/g以上である
ことを特徴とするコポリアミド。」


第3 拒絶の理由の概要

平成28年6月15日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶理由は、以下のものを含むものである。

「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.この出願の下記の請求項に係る発明は、同一出願人が同日出願した下記の出願の発明と同一と認められるから、この通知書と同日に発送した特許庁長官名による別紙指令書に記載した届出がないときは特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。
4.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

理由3.
・請求項 : 1-27
・出願 : A.特願2014-243484号

理由4.
・請求項:1-27
・刊行物:1、3

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2005-54191号公報(以下、「刊行物1」という。)
3.国際公開第2006/098434号(以下、「刊行物3」という。) 」


第4 当審の判断

1.拒絶理由1.(1)について
特許請求の範囲請求項1において、「単位AがC_(b)二塩基酸が式(C_(a)ジアミン)・(C_(b)二塩基酸)で表される場合」との記載がある。本願明細書の記載及び技術常識を考慮しても、「式(C_(a)ジアミン)・(C_(b)二塩基酸)で表される」ものが何であるのか(「単位A」であるのか、「C_(b)二塩基酸」であるのか)が分からないから、当該記載の意味するところは不明確である。
したがって、特許請求の範囲請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2.拒絶理由2.について
特許請求の範囲請求項1において、「アミン鎖末端の含有量が20μeq/g以上で、酸鎖末端の含有量が100μeq/g以下で、非反応性鎖末端の含有量が20μeq/g以上である」との記載がある。
そして、本願明細書【0014】の「3つのタイプの分子鎖端を制御することにより、調合中および調合後に、そして、添加物の存在の有無に拘らず、満足すべき特性を有する生成物を得るとともに、処理条件も良好なものとすることができる」との記載から、本願発明の課題は、「アミン鎖末端の含有量が20μeq/g以上、酸鎖末端の含有量が100μeq/g以下、非反応性鎖末端の含有量が20μeq/g以上」とすることによって、満足すべき特性を有するコポリアミドを提供することにあるものと認める。
一方、本願明細書には、コポリアミドが多くの(過剰の)アミノ基を有すると、「調合及びその後の転化反応中に架橋が起って、最終生成物になってしまう傾向がある。これは、高温においても生じ、生成物を所望の用途に適しないものにしてしまう。」(同【0008】)、「調合中に顕著な粘度上昇をもたらし、また、多分酸指数が有意に増加する。」(同【0115】;なお「多分酸」は「多分散」の誤記と認める。)、「エージング中にポリアミドの多分散指数が増加する。」(同【0119】)との記載があって、所望のものが得られないことが記載されている。
そうしてみると、特許請求の範囲請求項1では「アミン鎖末端の含有量」の下限値しか規定されていないが、本願発明の課題を達成するためには、コポリアミド中のアミノ基末端の含有量の上限についても規定することが必要であると認められるから、本願明細書の発明の詳細な説明が、技術常識を参酌することにより、当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる程度に記載されているとはいえない。
したがって、特許請求の範囲請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.拒絶理由3.について
特願2014-243484号は、本願の分割出願であり、平成28年11月18日に特許の設定登録がされ、同年12月14日に特許公報が発行されている。その特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「先願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「下記の一般式:
A/X.T
〔上記式中、Aはアミノ酸から得られる単位、ラクタムから得られる単位および式(C_(a)ジアミン)・(C_(b)二塩基酸)で表される単位から選ばれ、ここで、aはジアミン中の炭素原子の数を表し、bは二塩基酸中の炭素原子の数を表し、aおよびbは各々4から36の間にあり、
X.Tは直鎖の脂肪族C_(x)ジアミンとテレフタール酸の重縮合から得られる単位を表し、ここで、xはC_(x)ジアミン中の炭素原子の数を表し、xは、9から36の間にある〕
で表される少なくとも2種類の異なる単位から成るコポリアミドであって、
アミンから成る分子鎖端の含有量が25?100μeq/gであり、
酸から成る分子鎖端の含有量が15?80μeq/gであり、
未反応分子鎖端の含有量が35?200μeq/gである、
ことを特徴とするコポリアミド。」

本願発明と先願発明とで、C_(x)ジアミン中の炭素原子の数xは重複している。そして、本願発明の「アミン鎖末端の含有量」、「酸鎖末端の含有量」は、先願発明の「アミンから成る分子鎖端の含有量」、「酸から成る分子鎖端の含有量」とそれぞれ重複している。また、本願発明の「非反応性鎖末端」は先願発明の「未反応分子鎖端」に相当するものと認められるところ、その含有量は重複している。
そうしてみると、本願発明と先願発明とに差異があるものとすることができない。
そして、平成28年6月15日付けの特許法第39条第6項による指令書を発出しているが、これを受けての協議結果の届出もなされていない。
したがって、本願発明は、先願発明と同一であり、かつ、特許法第39条第8項の規定により、本願については協議が成立しなかったものとみなされるから、特許法第39条第2項の規定により、本願発明は特許を受けることができない。

4.拒絶理由4.について
(1)刊行物1の請求項1を引用する請求項11には、
「アミノウンデカン酸(X)と、1,10-デカンジアミン(Y)と、テレフタル酸(Ar)との縮合で得られたX/Y,Arで表されるコポリアミド」
に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
引用発明の「アミノウンデカン酸(X)」は本願発明のAに相当する。引用発明の「1,10-デカンジアミン(Y)」は、炭素数10の直鎖アルキル基の両末端にアミノ基が結合した化合物であるから、本願発明のC_(10)脂肪族直鎖ジアミンである。そして引用発明で使用されている三種類の原料化合物の構造に着目すれば、引用発明においても、「少なくとも2種類の異なる単位からなるコポリアミド」が製造されていることは明らかである。
そうしてみると、本願発明と引用発明とは、前者は「アミン鎖末端の含有量が20μeq/g以上で、酸鎖末端の含有量が100μeq/g以下で、非反応性鎖末端の含有量が20μeq/g以上である」と特定するのに対して、後者ではそのような特定がない点で相違する。

(2)引用発明に係るコポリアミドは「流体の貯蔵または輸送装置(特に自動車で使用(さ)れる装置)で用いられる」(刊行物1【0011】)ものであって、「熱機械的強度に優れ、成形が容易で、可撓性が維持されるポリアミド」(刊行物1【0003】)であるが、使用目的に応じたより優れたポリアミドを得るために引用発明を改良することは、当業者の通常の創意工夫の範囲内の事項であると認められる。
ここで、刊行物3(請求の範囲、[0018]、[0025]等)には、半芳香族ポリアミド樹脂の「分子鎖の末端基の少なくとも10%が末端封止剤によって封止」され、「分子鎖の末端アミノ基量が60μ当量/g以上120μ当量/g以下」とし、末端アミノ基量 (μ当量/g)/末端カルボキシル基量 (μ当量/g)の値を6以上とすることによって、「耐熱性、低吸水性、寸法安定性、および、耐クリープ性などに優れ、かつ、高い滞留安定性と優れた力学強度を有するポリアミド樹脂組成物を得ることができる」ことが示されている。なお「高い滞留安定性」とは、その[0132]によれば、樹脂の射出前後での粘度安定性を意味していることは明らかである。
引用発明のコポリアミドについても、末端のアミノ基量を「60μ当量/g?120μ当量/g」程度とすること、さらには末端のカルボキシル基量を「末端アミノ基量 (μ当量/g)/末端カルボキシル基量 (μ当量/g)が6以上」の条件を満たす量として、また、一定以上の末端封止剤によって封止することを試みることに格別の困難性があるものとすることができないし、その際の最適な末端アミノ基量、カルボキシル基量、末端封止剤によってもたらされる非反応性鎖末端量の範囲を上限値や下限値で規定することに格別の創意を要するものとすることができない。
そして、そのようにして成し得た本願発明の効果も、刊行物3(たとえば、[0030]?[0032])で示されている範囲内のものであって、当業者に予想外の格別顕著な効果であるとすることができない。

(3)そうしてみると、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物3に記載された事項により、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第5 意見書での主張

審判請求人は、平成28年12月21日に提出した意見書で、
「拒絶理由3で指摘された本願の分割出願A(特願2014-243484号)は特許請求の範囲を減縮した後に特許査定され、平成28年12月14日に特許第6041850号として特許公報が発行されました。本出願人はこの分割出願の異議申立て期限(平成28年6月14日)後に異議申立てがないことを確認した時に本願を取り下げる予定です。
従って、上記の確認がとれるまで本願の審理を中断して頂きたくお願い致します。
異議申立てが無いことは平成28年7月14日頃までには確認がとれると考えますので、その時点で取り下げ書を提出致します。また、異議申立てが有った場合には、上申書で拒絶理由1?4に対して詳細に釈明致します。」
と主張するものである。
しかしながら、審理を中断して欲しいとする期間が約半年と長く、拒絶理由通知に対応する期間を実質的に延長することになり、第三者との公平性を著しく欠くこととなるので、上記の「本願の審理を中断」との主張を採用することはできない。


第6 結び

以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件及び特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。また、本願発明は、同一出願人が同日出願した先願発明と同一と認められ、指令書に記載した届出がないから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。さらに本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明についてさらに検討するまでもなく、本願はこれらの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-17 
結審通知日 2017-01-24 
審決日 2017-02-06 
出願番号 特願2011-521622(P2011-521622)
審決分類 P 1 8・ 4- Z (C08G)
P 1 8・ 121- Z (C08G)
P 1 8・ 537- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡辺 陽子  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 前田 寛之
守安 智
発明の名称 分子鎖端を有する半芳香族ポリアミド  
代理人 越場 隆  

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