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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1329754 |
審判番号 | 不服2016-4207 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-03-18 |
確定日 | 2017-06-19 |
事件の表示 | 特願2011- 26688「エッチングマスク付基材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月 6日出願公開、特開2012-169316〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年2月10日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成25年11月 6日 審査請求・手続補正書 平成26年11月27日 拒絶理由通知 平成27年 1月21日 意見書・手続補正書 平成27年 4月27日 拒絶理由通知 平成27年 6月24日 意見書・手続補正書 平成27年12月18日 拒絶査定 平成28年 3月18日 審判請求・手続補正書 平成29年 2月 6日 拒絶理由通知(当審) 平成29年 4月 6日 意見書・手続補正書 第2 本願発明 本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成29年4月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 被エッチング基材を準備する工程と、該被エッチング基材の表面に感光材を塗布し、レーザ露光により、露光・現像せしめてレジストパターンを形成する工程と、該被エッチング基材及びレジストパターンの表面にDLC被覆膜を形成する工程と、該レジストパターン上に形成されたDLC被覆膜を該レジストパターンごと剥離せしめて該被エッチング基材の表面にエッチングマスクとなるDLCパターンを形成する工程と、を含むエッチングマスク付基材の製造方法であり、 前記感光材が塗布される前記被エッチング基材が、Cu、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Zn、Mg、Fe、ステンレス鋼、Ni、Ni-Cr、Sn、Ti、Ti合金、Si、SiO_(2)、ガラス、Crからなる群から選ばれた一種の材料からなることを特徴とするエッチングマスク付基材の製造方法。」 第3 当審拒絶理由の概要 平成29年2月6日付けで当審より通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は、次のとおりである。 「3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ……(中略)…… 3.理由3(進歩性)について (1)請求項1について 下記のとおり、本願の請求項1に係る発明(以下『本願発明1』という。)は、引用文献1に記載された発明(以下『引用発明』という。)と、引用文献2及び3に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 ア 引用文献1の段落[0028]ないし[0031]、[0042]及び[0043]並びに[図1]には、『基板10』上に『軟磁性層11』、『シード層12』、『中間層13』、『磁気記録層14』及び『貴金属薄膜層17』を形成し、『貴金属薄膜層17』及び『磁気記録層14』をエッチングすることが記載されている。 したがって、引用発明における、『基板10』上に『軟磁性層11』、『シード層12』、『中間層13』、『磁気記録層14』及び『貴金属薄膜層17』を形成したものは、本願発明1における『被エッチング基材』に相当するといえる。 また、引用発明において、『基板10』上に『軟磁性層11』、『シード層12』、『中間層13』、『磁気記録層14』及び『貴金属薄膜層17』を形成することは、『被エッチング基材を準備する工程』であるといえる。 そうすると、本願発明1と引用発明は、『被エッチング基材を準備する工程』を備える点において、共通するといえる。 イ 引用文献1の段落[0032]、[0033]及び[図1]には、『磁気記録層14』上に『DLC膜15』を形成することが記載されている。 また、引用文献1の段落[0033]ないし[0041]には、『DLC膜15』の上に『レジスト16』を塗布し、電子ビーム描画装置によるリソグラフィー技術を用いて『レジスト16』に凹凸パターンを転写し、『レジスト16』の凸部をマスクとして『DLC膜15』をエッチングすることにより、『DLC膜15』をパターン加工することが記載されている。 また、引用文献1の段落[0042]及び[図1]には、上記パターン加工した『DLC膜15』をエッチングマスクとして『貴金属薄膜層17』及び『磁気記録層14』をエッチングすることが記載されており、上記『DLC膜15』は『エッチングマスク』であるといえ、引用文献1の[図1](e)に記載されたものは、『エッチングマスク付基材』であるといえる。 そうすると、本願発明1と引用発明は、『エッチングマスク付基材の製造方法』である点において共通するといえる。 ウ 上記アのとおり、引用発明における、『基板10』上に『軟磁性層11』、『シード層12』、『中間層13』、『磁気記録層14』及び『貴金属薄膜層17』を形成したものは、本願発明1における『被エッチング基材』に相当するといえる。 また、引用文献1の段落[0028]ないし[0031]の記載より、引用発明における『基板10』はガラス基板、若しくはアルミニウム又はシリコンを主要原料とする基板であるといえ、『軟磁性層11』はNi又はFeを含むものであるといえ、『シード層12』はCoNiFeSiからなるものであるといえ、『磁気記録層14』はPt、Ni、又はFeを含むものであるといえ、『貴金属薄膜層17』はAu、Pt、又はPdを材料とするものであるといえる。 そうすると、本願発明1と引用発明は、『被エッチング基材が、Cu、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Zn、Mg、Fe、ステンレス鋼、Ni、Ni-Cr、Sn、Ti、Ti合金、Si、SiO_(2)、ガラス、Crからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料からなる』点において共通するといえる。 エ 以上から、本願発明1と引用発明とは、下記(ア)の点で一致し、下記(イ)の点で相違すると認める。 (ア)一致点 『被エッチング基材を準備する工程を含むエッチングマスク付基材の製造方法であり、 前記被エッチング基材が、Cu、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Zn、Mg、Fe、ステンレス鋼、Ni、Ni-Cr、Sn、Ti、Ti合金、Si、SiO_(2)、ガラス、Crからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料からなることを特徴とするエッチングマスク付基材の製造方法。』 (イ)相違点 本願発明1は『該被エッチング基材の表面に感光材を塗布し、レーザ露光により、露光・現像せしめてレジストパターンを形成する工程』、『該被エッチング基材及びレジストパターンの表面にDLC被覆膜を形成する工程』、及び『該レジストパターン上に形成されたDLC被覆膜を該レジストパターンごと剥離せしめる工程』を備えるのに対し、引用発明はこれらの工程を備えない点。 オ 上記相違点について検討する。パターン加工されたDLC膜を基材上に形成するために、基材上に感光材を塗布し、光露光・現像せしめてレジストパターンを形成し、基材及びレジストパターンの表面にDLC膜を形成し、レジストパターン上に形成されたDLC膜をレジストパターンごと剥離せしめることは、引用文献2(2ページ上左欄3行ないし上右欄3行及び3ページ上左欄13行ないし下左欄12行)及び引用文献3(段落[0007]ないし[0021]及び[0037]ないし[0040])に記載されているように、周知技術である。 また、感光材を光露光するに際し、レーザ光を用いることは、引例を挙げるまでもなく周知技術であり、当業者であれば適宜採用することができたものである。 したがって、引用発明において、パターン加工されたDLC膜を基材上に形成する際に、『DLC膜15』の上に『レジスト16』を塗布し、電子ビーム描画装置によるリソグラフィー技術を用いて『レジスト16』に凹凸パターンを転写し、『レジスト16』の凸部をマスクとして『DLC膜15』をエッチングする方法に代えて、基材上に感光材を塗布し、レーザ露光・現像せしめてレジストパターンを形成し、基材及びレジストパターンの表面にDLC膜を形成し、レジストパターン上に形成されたDLC膜をレジストパターンごと剥離せしめる方法を採用することによって、上記相違点に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。 カ また、本願発明1の奏する作用効果は、引用発明及び上記周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 キ よって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明(引用発明)と、引用文献2及び3に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 ……(中略)…… <引 用 文 献 等 一 覧> 1.特開2011-23052号公報 2.特開平1-104761号公報(周知技術を示す文献) 3.特開平5-270986号公報(周知技術を示す文献)」 第4 当審の判断 1 引用文献及び周知文献の記載事項並びに引用発明及び周知技術 (1)引用文献1の記載事項と引用発明 ア 引用文献1の記載事項 当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2011-23052号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(当審注.下線は、参考のために当審において付したものである。以下において同じ。)。 「【0027】 以下、図面を引用して本発明のパターンドメディア型磁気記録媒体の製造方法にかかる実施例1について説明する。 図1に、本発明のパターンドメディア型磁気記録媒体の製造方法を説明するために、凹凸パターン形成工程を示す基板の概略断面図を示す。 【0028】 本発明にかかる磁気記録媒体では、基板10としてガラス基板を用いる。ただし、アルミニウムあるいはシリコンなどを主要材料とする基板でも可能である。 前記基板10上に、Co、Ni、Feなど少なくとも一つを含む軟磁性材料をスパッタリングして5?100nmの厚みの軟磁性層11を形成する。具体的には、CoZrNbからなる軟磁性層11を45nmの厚さに形成する。 【0029】 次に、この軟磁性層11の表面に、中間層となるRuなどの結晶配向を制御するために、結晶性のシード層12を10nm以下の厚みでスパッタリング法により成膜する。具体的にはCoNiFeSiからなるシード層12を5nmの膜厚に形成する。続いて中間層13となるRuなどを1?10nmの厚みでスパッタリング法により成膜する。具体的にはRuを10nmの膜厚に形成する。 【0030】 その後、磁気記録層14となるCo、Cr、Pt、Ni、Feなどを少なくとも一つを含む強磁性材料をスパッタリング法などにより5?50nmの厚みで形成する。具体的にはCoCrPt-SiO_(2)からなるグラニュラー層(図示せず)を8nmの厚さに形成し、Ru層(図示せず)を0.2nmの厚さに形成し、そしてCoCrPtB層(図示せず)を8nmの厚さに形成した垂直磁気記録層14とする。 【0031】 その後、Au、Pt、Ir、RhおよびPdから少なくとも1種類の貴金属材料をスパッタリング法などにより0.1?5nmの厚みで貴金属薄膜層17として成膜する。好ましくは1?2nmの厚みで成膜する。 【0032】 次に、第一保護層としてDLC(Diamond Like Carbon)などのカーボンをCVD(Chemical Vapor Deposition)法により10nm?30nmの厚みで成膜し、DLC膜15とする。このDLC膜15は、磁気記録層14に凹凸パターンを形成する際のエッチングマスクとして用いる。磁気記録層14の表面に形成される凹凸パターンのピッチ幅はその上のマスク厚さによる影響を受けるため、マスクとしてのDLC膜15の膜厚は、想定する磁気記録層14の表面凹凸パターンのピッチ幅を考慮して決められる。 【0033】 次に、前述のようにして決められた膜厚に成膜したDLC膜15をパターン加工するために、このDLC膜15の表面に形成されるレジスト16のマスクの厚さもやはり前記表面凹凸パターンのピッチ幅を考慮して決める(図1(a))。レジスト16としてはSOG(Spin On Glass)が、DLC膜15の表面にスピンコートあるいはスプレーコートなどにより50?200nmの厚みで塗布される。 【0034】 別途、Ni、シリコン、ガラスなどを基盤材料として用い、その表面に前記ピッチ幅の凹凸パターンが形成されるスタンパを用いたナノインプリント法により、前述のDLC膜15の表面に塗布されているSOG(Spin On Glass)からなるレジスト16に前記凹凸パターンを転写する(図1(b))。 【0035】 レジスト16には、アクリル系樹脂が主成分である紫外線硬化型、熱可塑性あるいは熱硬化型などの樹脂材料を用いることも可能である。レジスト16は下層のDLC膜15に凹凸パターンをエッチングで形成するマスクとなるため、DLC膜15に対し選択エッチングレートの大きいレジスト16を選ぶ必要がある。SOGからなるレジストはその目的に好適なレジストである。 ・・・ 【0039】 このSOGからなるレジスト16の残膜部を、フッ素系ガスを用いた反応性イオンエッチングにより除去し、DLC膜15の表面を露出させる(図1(c))。 この際、レジスト16の凸部もフッ素系ガスイオンによりエッチングされるため、フッ素系ガスイオンによるエッチング時には、基板バイアス印加あるいはグリッド電極によりイオンの異方性を強くし、基板に対してできるだけ垂直にイオンを入射することが好ましい。具体的にはCF_(4)ガスを用いて、RFを100Wから1000Wのパワーでプラズマを発生させ、基板バイアスを10Wから200Wのパワーで印加するか、グリッド電極に100Vから2000Vの電圧を印加して加工を行う(図1(c))。 【0040】 次に、残ったレジスト16の凸部をマスクとして、DLC膜15を下層にある第二保護層となる貴金属薄膜層17の表面が露出するまで、O_(2)ガスを用いた反応性イオンエッチングにより選択的に除去する。この際、酸素イオンの異方性を基板バイアスあるいはグリッド電極により制御し、DLC膜15に形成される凹形状の側壁テーパ角を任意に形成することで、凹部上部の開口部の幅に対し凹部底の貴金属薄膜層17の表面露出の幅を任意に狭くすることが可能となる。 【0041】 また、このエッチング加工の際、圧力を制御することでも酸素イオンの異方性を制御することができる。また、酸素イオンとSOGからなるレジスト16は反応性に乏しく、マスクであるレジスト16は物理的なエッチング加工を支配的に受けるだけなので、凸形状のレジスト幅の減少は少ない。具体的にはO_(2)ガスを用いて、RFを100Wから1000Wのパワーでプラズマを発生させ、基板バイアスを10Wから200Wのパワーで印加するか、グリッド電極に100Vから2000Vのイオン加速電圧を印加してDLC膜15のエッチング加工を行う(図1(d))。 【0042】 DLC膜15の加工後、フッ素系ガスを用いた反応性イオンエッチングによりSOGからなるレジスト16を剥離する(図1(e))。 その後、DLC膜15をエッチングマスクとして、Arガスなどの不活性ガスを用いたイオンビームエッチングにより貴金属薄膜層17および磁気記録層14を加工する。この際、貴金属薄膜層17はArガスなどの不活性ガスに対しては、スパッタ率が高くエッチングレートが速いため、加工し易い(図1(f))。 【0043】 貴金属薄膜層17および磁気記録層14をエッチング加工した後、エッチングマスクであるDLC膜15をO_(2)ガスを用いた反応性イオンエッチングにより除去する(図1(g))。」 イ 引用発明 上記アの引用文献1の記載と当該技術分野における技術常識より、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「基板10上に、軟磁性層11、シード層12、中間層13、及び磁気記録層14を形成する工程と、 Au、Pt、Ir、RhおよびPdから少なくとも1種類の貴金属材料を貴金属薄膜層17として成膜する工程と、 DLC膜15を成膜する工程と、 レジスト16をマスクとして前記DLC膜15をパターン加工する工程と、 レジスト16を除去する工程と、 前記パターン加工されたDLC膜15をエッチングマスクとして前記貴金属薄膜層17をエッチング加工する工程と、 を含む、パターンドメディア型磁気記録媒体の製造方法。」 (2)引用文献2及び3、周知文献1ないし3の記載事項並びに周知技術1 ア 引用文献2の記載事項 当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開平1-104761号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 「〔目的〕 本発明は、基板上に形成されたダイヤモンド状炭素膜を容易に微細パターン化することを目的とするものである。 〔構成〕 本発明は、基板上にパターン化したレジスト層を形成した後、その上にダイヤモンド状炭素膜を形成し、ついでリフト・オフ法によりそのレジストおよびレジスト上のダイヤモンド状炭素膜を除去することを特徴とするパターン化ダイヤモンド状炭素膜の製法に関する。 本発明のレジスト層は、IC等の製造工程で使用されているのと同様の方法で目的とする基板上にパターン模様をもって形成する。 レジスト材料としては、ポジ型レジスト(東京応化OFPR800,TSMR8800,シュプレ1350,1400)、ネガ型レジスト(東京応化OMR-80)がある。 このようにして形成されたレジストパターン上にダイヤモンド状炭素膜を形成する。」(2ページ上左欄3行?上右欄3行) 「〔実施例〕 実施例1 本実施例は我々の開発した硬質炭素膜のリフト・オフ法を液晶駆動用のMIM素子に適用した例である。但し第1図に示したのは全工程中のリフト・オフ法を使用した部分のみ示した。基板1上に下部電極パターン2が形成されており、これに硬質炭素膜の不必要な部分にレジストパターン3を形成する。レジスト材料としてはポジ型、ネガ型どちらでもよく、膜厚は3000Å?4μm(望ましくは5000Å?2μm)であった。 この上から硬質炭素膜4をプラズマCVD法あるいはイオンビーム法、熱フィラメント法等にて形成した。硬質炭素膜4の膜厚は数100Å?数1000Å(通常は250?3000Å)でレジストの変質を考えて比較的低温で製膜する必要がある。プラズマCVD法の場合には室温?200℃(望ましくは室温?150℃)である。 次に、レジスト剥離液もしくはアセトン等の有機溶剤を用いてレジスト3を剥離することにより、レジスト上の硬質炭素膜4(不必要な部分)が除去され、必要とされる部分のみ硬質炭素膜4がパターンされることになる。 実施例2 本実施例は本発明をTFT(Thin Film Transister)に適用した例である。基板1に半導体薄膜5及びソース電極6、ドレイン電極7が形成されている。これに硬質炭素膜の不必要な部分にレジストパターン3を形成する。レジスト材料及び膜厚は実施例1と同様である。次にこの上から硬質炭素膜4をプラズマCVD法あるいはイオンビーム法、熱フィラメント法等で形成した。硬質炭素膜4の膜厚は500?2000Åが適当であり、製膜温度は実施例1と同様室温?150℃が望ましい。 次に実施例1と同様の方法で硬質炭素膜4をリフト・オフしてゲート絶縁膜とした。さらに最上部にゲート電極7を形成し、TFTが完成する。」(3ページ上左欄13行?下左欄12行) イ 引用文献3の記載事項 当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開平5-270986号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 「【0007】すなわち、前記課題を解決するための本発明は、基板の表面におけるダイヤモンド膜を形成すべき部分に、レジストによるパターン膜を形成した後、前記基板の表面全体にダイヤモンド状炭素膜を形成し、溶剤により前記パターン膜を溶解すると共にその表面上にある前記ダイヤモンド状炭素膜を前記基板の表面から除去した後、前記基板の表面全体を傷付け処理し、次いで前記基板の表面に気相法によるダイヤモンド膜の合成を行なうことにより、前記パターン膜形成部分に選択的にダイヤモンド膜を形成することを特徴とするダイヤモンド膜の選択形成法である。 【0008】以下に、本発明について詳細に説明する。本発明の方法は、 1)基板の表面におけるダイヤモンド膜を形成すべき部分にレジストによりパターン膜を形成する工程(以下、パターン膜形成工程と称する。)、 2)基板の表面全体にダイヤモンド状炭素膜(以下においてこれをDLCと略称することがある。)を被覆形成する工程(以下、DLCコーティング工程と称する。)、 3)溶剤によりパターン膜を溶解すると共にその表面にあるダイヤモンド状炭素膜を基板の表面から除去する工程(以下、DLC除去工程と称する。)、 4)砥粒により基板の表面全体を傷付け処理する工程(以下、傷付け処理工程と称する。)、 5)基板の表面に気相法によるダイヤモンド膜を形成する工程(以下、ダイヤモンド膜形成工程と称する。)の5つの工程を有する。以下、順を追って前記各工程について説明する。 【0009】-パターン膜形成工程- 前記パターン膜形成工程では、レジストを用いて基板表面にパターン膜が形成される。更に詳述すると、このパターン膜形成工程では、例えば、フォトレジストを含有するパターン膜形成用塗布液を前記基板の表面全体に塗布し、これを乾燥してからフォトマスクを介して紫外線等の光を照射し、露光部分を除去しあるいは未露光部分を除去することによりパターン膜が形成される。 ・・・ 【0014】-DLCコーティング工程- DLCコーティング工程では、例えば図2に示すように、前記パターン膜2を形成した基板1の表面全体にダイヤモンド状炭素膜(DLC)3が被覆形成される。前記DLCコーティングを行なう方法としては、特に制限はなく、例えば、PVD法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法等の従来法を好適に用いることができる。これらの中で特に好ましいのは、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法である。 ・・・ 【0020】-DLC除去工程- DLC除去工程では、前記の工程で形成されたレジストによるパターン膜とその表面にあるダイヤモンド状炭素膜とが基板の表面から除去される。前記レジストによるパターン膜の除去は、レジストが可溶な溶剤を用いて溶解除去することにより達成される。このような溶剤としては、例えば、アセトン、ジメチルホルムアミド、硫酸と過酸化水素との2:1の混合液などを挙げることができる。前記溶剤は、用いたレジストの種類に応じて選択することができる。 【0021】なお、ダイヤモンド状炭素は前記溶剤に溶解することはないが、前記溶剤を使用すると、レジストによるパターン膜が容易に溶剤に溶解し、その溶解と同時に前記パターン膜の表面に形成されたダイヤモンド状炭素膜の下に空間が生じ、該ダイヤモンド状炭素膜は非常に不安定な状態となり、結果として容易に除去されるようになる。一方、基板の表面におけるパターン膜の存在しない部分に直接に被覆形成されたダイヤモンド状炭素膜は、基板と密着しているので、溶剤で処理しても除去されることはない。したがって、図3に示すように、基板1の表面におけるパターン膜の形成されなかった部分に、ダイヤモンド状炭素膜3がパターン状に残留した状態になる。 ・・・ 【0037】 【実施例】以下、本発明の実施例およびその比較例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 (実施例1) -パターン膜形成工程- Siウエハーの基板の表面に、ネガ型フォトレジスト(富士薬品工業(株)製:LMR-33)からなるパターン膜形成用塗布液を、毎分5,000rpmのスピナーで塗布することにより、基板の表面にレジスト層を形成した。塗布後、前記塗布膜を60℃で30分間かけて加熱した。次に、図5に示すように、一辺50μmの正方形からなる露光用窓5を互いに50μmの間隔を設けて行列状に配列してなるフォトマスクを、基板上のレジスト層の上に配置し、Xe-Hgランプ(波長300nm以下)で露光(30mJ/cm^(2))した。露光後100℃で30分かけて加熱し、さらに、同社製のLMR用現像液Cタイプを用いて、未感光の部分を20℃で80秒間かけて除去し、同社製のLMRリンス液にて、20℃で20秒間かけてリンスを行ない、パターン膜の形成を行なった。 【0038】-DLCコーティング工程- RF平行平板型のプラズマCVD装置を用い、酸素供給量10sccM、圧力0.1Torr、RF出力200Wにて、15秒間アッシングしてレジストを完全に除去した後、以下の条件でダイヤモンド状炭素膜を形成した。 【0039】導入原料ガスの種類及びその流量:CH_(3)、10sccm、 系内の圧力:10^(-2)Torr、 RF出力:150W、 反応時間:30分 結果として、厚みが約1,000Åであり、ヌープ硬度が5,000Kg/mm^(2)であるダイヤモンド状炭素膜が、基板の表面に被覆された。 【0040】-ダイヤモンド状炭素膜の除去工程- 前記基板を、アセトンで洗浄し、基板の表面のパターン膜を溶解除去すると共に、前記パターン膜の表面に形成されたダイヤモンド状炭素膜も同時に除去した。」 ウ 周知文献1の記載事項 本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2009-111004号公報(以下「周知文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 「【0057】 次に、図2を参照して、工程(S90)として、DLC絶縁膜形成工程が実施される。この工程(S90)では、n^(-)SiC層20上に、第2の主面20Bに接するようにダイヤモンドライクカーボンからなる絶縁膜が形成される。具体的には、図8を参照して、まず、ソースコンタクト電極80が形成されたn^(-)SiC層20の第2の主面20B上に、レジストが塗布された後、露光および現像が行なわれ、所望の絶縁膜としてのゲート絶縁膜30(図1参照)の形状に応じた領域に開口を有するレジスト膜92が形成される。次に、レジスト膜92が形成された第2の主面20B上に、水素を含有するDLC膜35が成膜される。 ・・・ 【0060】 その後、上記レジスト膜92上のDLC膜35がレジスト膜92とともに除去される(リフトオフ)。これにより、図9に示すように、50原子%以上65原子%以下の水素を含むDLCからなるゲート絶縁膜30が、一方のn^(+)ソース領域22の上部表面から他方のn^(+)ソース領域22の上部表面にまで延在するようにn^(-)SiC層20の第2の主面20B上に接触して形成される。」 エ 周知文献2の記載事項 本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開平11-278990号公報(以下「周知文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 「【0007】特開平5-270986号公報、同7-10690号公報には、DLC膜成膜前にフォトレジストによるパターニングを基板上に施し、DLC膜成膜後にレジストごとDLCを除去する方法が記載されている。しかし、レジスト工程等のための余分な時間や複雑工数を必要とし、製造コストの増大を招く。」 オ 周知文献3の記載事項 本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2010-10276号公報(以下「周知文献3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 「【0049】 本発明におけるめっき用導電性基材の製造方法の一例を図面を用いて説明する。 図4は、めっき用導電性基材の製造方法を示す工程の一例を断面図で示したものである。 【0050】 導電性基材2の上に感光性レジスト層(感光性樹脂層)5が形成されている(図4(a))。この積層物の感光性レジスト層(感光性樹脂層)5に対し、フォトリソグラフ法を適用して感光性レジスト層5をパターン化する(図4(b))。パターン化は、パターンが形成されたフォトマスクを感光性レジスト層5の上に載置し、露光した後、現像して感光性レジスト層5の不要部を除去して突起部6を残すことにより行われる。突起部6の形状とそれからなる凸状パターンは、導電性基材2上の凹部4とそのパターンに対応するよう考慮される。 ・・・ 【0052】 前記した(B)除去可能な凸状パターンが形成されている導電性基材の表面に、絶縁層を形成する工程について、説明する。 突起部6からなる凸状パターンを有する導電性基材2の表面に絶縁層3を形成する(図4(c))。 【0053】 絶縁層としてDLC薄膜を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、アーク放電法、イオン化蒸着法等の物理気相成長法、プラズマCVD法等の化学気相成長法等のドライコーティング法を採用し得るが、成膜温度が室温から制御できる高周波やパルス放電を利用するプラズマCVD法が特に好ましい。 ・・・ 【0057】 次に、前記した(C)絶縁層が付着している凸状パターンを除去する工程について説明する。絶縁層3が付いている状態(図4(c)参照)で、突起部6からなる凸状パターンを除去する(図d(d)参照)。」 カ 周知技術1 上記アないしオより、「パターン加工されたDLC膜を基材上に形成するために、基材の表面に感光材を塗布し、光露光により、露光・現像せしめてレジストパターンを形成し、基材及びレジストパターンの表面にDLC膜を形成し、レジストパターン上に形成されたDLC膜をレジストパターンごと剥離せしめ、基材の表面にDLCパターンを形成すること」は、引用文献2及び3並びに周知文献1ないし3にみられるように、本願の出願前に当該技術分野において周知の技術と認められる(以下、当該周知の技術を「周知技術1」という)。 (3)周知文献4ないし6の記載事項及び周知技術2 ア 周知文献4の記載事項 本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2008-218866号公報(以下「周知文献4」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 「【0002】 半導体装置の製造工程では、シリコンなどからなる円盤状の基板(ウェハー)に複数の回路を形成し、これらの回路を切り分けることで半導体素子を作製する。 この回路のパターン形成はフォトリソグラフィ工程によって行われ、一般に、ウェハー表面にシリコン酸化膜や、シリコン窒化膜、ポリシリコン膜などからなる各層を形成したウェハー表面上に、さらにフォトレジストを膜状に塗布し、加熱によりフォトレジスト膜を固化した後、フォトマスクを通じて露光し現像すると、フォトマスクに描かれた素子・回路のパターンをフォトレジスト膜に転写することができる。 【0003】 フォトレジストは、感光した部分が溶解する「ポジ型」と、感光した部分が残る「ネガ型」があるが、パターンの微細化にはポジ型が有利であるとも言われている。 いずれも露光後に現像処理を行うと、不要な部分のフォトレジストが除去され、レジストパターンがウェハー上に現れる。 このレジストパターンを利用して、さらにエッチングや成膜・リフトオフなどを行うことで、目的とする回路をウェハー上に作成することができる。 【0004】 近年では、半導体デバイスの微細化に伴い、レジストパターンに要求される最小線幅も小さくなるとともに、KrFやArF等の短波長のエキシマレーザーが露光光源の主流となっている。こうした短波長の露光光源において露光強度が弱い場合、化学増幅型フォトレジストが多く用いられている。」 イ 周知文献5の記載事項 本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2009-87760号公報(以下「周知文献5」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 「【0128】 4.発光層パターニング工程 本実施態様における発光層パターニング工程は、残存する上記フォトレジスト層を除去して、上記フォトレジスト層上の上記発光層をリフトオフする工程である。 【0129】 フォトレジスト層を除去する方法としては、ポジ型フォトレジストを用いた場合は、フォトレジスト層を露光し、現像する方法等を用いることができる。 【0130】 フォトレジスト層を露光する方法としては、一般的な方法を用いることができ、例えば、フォトマスクを介して露光する方法、レーザー描画法、基板側から露光する方法など、一般的な方法を用いることができる。」 ウ 周知文献6の記載事項 本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2010-10175号公報(以下「周知文献6」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 「【0076】 フォトレジスト層への露光方法は特に制限はなく、キセノンランプ、ハロゲンランプ、水銀ランプなどによるマスクを介してフラッシュ露光を行っても良く、またレーザ光を用いて走査露光を行うことも可能であり、レーザ露光は、露光面積を微小サイズに絞ることが容易で高解像度の画像形成が可能となることから、好適に用いることができる。」 エ 周知技術2 上記アないしウより、「フォトレジストを光露光してレジストパターンを形成する際に、レーザ光を用いること」は、周知文献4ないし6にみられるように、本願の出願前に当該技術分野において周知の技術と認められる(以下、当該周知の技術を「周知技術2」という)。 2 本願発明と引用発明との対比 (1)本願発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明における「貴金属薄膜層17」は、「前記パターン加工されたDLC膜15をエッチングマスクとして前記貴金属薄膜層17をエッチング加工する工程」においてエッチング加工されるものであるから、「被エッチング基材」であるといえる。 そして、引用発明における「Au、Pt、Ir、RhおよびPdから少なくとも1種類の貴金属材料を貴金属薄膜層17として成膜する工程」は、「被エッチング基材を準備する工程」であるといえる。 そうすると、本願発明と引用発明とは、「被エッチング基材を準備する工程」を含む点において共通するといえる。 イ 引用発明における「DLC膜15を成膜する工程」、「レジスト16をマスクとして前記DLC膜15をパターン加工する工程」及び「レジスト16を除去する工程」において形成される「パターン加工されたDLC膜15」は、「DLCパターン」であるといえる。 また、引用発明においては、「前記パターン加工されたDLC膜15をエッチングマスクとして前記貴金属薄膜層17をエッチング加工する工程」において「パターン加工されたDLC膜15」をエッチングマスクとして用いているのであるから、引用発明における「パターン加工されたDLC膜15」は、「エッチングマスクとなる」ものであるといえる。 さらに、上記1(1)アの引用文献1の記載(段落【0031】、【0032】及び【0040】)及び引用文献1の【図1】(b)ないし(e)の記載より、引用発明における「パターン加工されたDLC膜15」は、「貴金属薄膜層17」の表面に形成されるものであるといえ、上記アのとおり、引用発明における「貴金属薄膜層17」は「被エッチング基材」であるといえるから、引用発明における「パターン加工されたDLC膜15」は「被エッチング基材」の表面に形成されるものであるといえる。 以上より、引用発明における「DLC膜15を成膜する工程」、「レジスト16をマスクとして前記DLC膜15をパターン加工する工程」及び「レジスト16を除去する工程」は、「被エッチング基材の表面にエッチングマスクとなるDLCパターンを形成する工程」であるといえる。 そうすると、本願発明と引用発明とは、「被エッチング基材の表面にエッチングマスクとなるDLCパターンを形成する工程」を含む点において共通し、後述する相違点において相違するといえる。 ウ 引用発明における「貴金属薄膜層17」は「Au、Pt、Ir、RhおよびPdから少なくとも1種類の貴金属材料」を成膜したものであり、「Au、Pt、Ir、RhおよびPd」から選ばれた一種の材料からなるものを含むものと認められる。 そして、上記アのとおり、引用発明における「貴金属薄膜層17」は「被エッチング基材」であるといえる。 そうすると、本願発明と引用発明とは、「被エッチング基材が、Cu、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Zn、Mg、Fe、ステンレス鋼、Ni、Ni-Cr、Sn、Ti、Ti合金、Si、SiO_(2)、ガラス、Crからなる群から選ばれた一種の材料からなる」点において共通し、後述する相違点において相違するといえる。 エ 上記1(1)アの引用文献1の記載(段落【0031】、【0032】及び【0040】)及び引用文献1の【図1】(e)の記載より、引用発明においては、中間生産物として、「貴金属薄膜層17」の表面に「パターン加工されたDLC膜15」が付いたもの(以下「中間生産物」という。)が製造されるといえる。 そして、引用発明における「貴金属薄膜層17」は「基材」であるといえ、引用発明における「パターン加工されたDLC膜15」は「エッチングマスク」であるといえるから、引用発明における中間生産物は、「エッチングマスク付基材」であるといえる。 以上より、引用発明は、「エッチングマスク付基材」を製造する方法を包含するものであるといえる。 そうすると、本願発明と引用発明とは、「エッチングマスク付基材の製造方法」である点において共通するといえる。 (2)以上から、本願発明と引用発明とは、下記アの点で一致し、下記イの点で相違すると認める。 ア 一致点 「被エッチング基材を準備する工程と、 該被エッチング基材の表面にエッチングマスクとなるDLCパターンを形成する工程と、を含むエッチングマスク付基材の製造方法であり、 前記被エッチング基材が、Cu、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Zn、Mg、Fe、ステンレス鋼、Ni、Ni-Cr、Sn、Ti、Ti合金、Si、SiO_(2)、ガラス、Crからなる群から選ばれた一種の材料からなることを特徴とするエッチングマスク付基材の製造方法。」 イ 相違点 本願発明は「該被エッチング基材の表面に感光材を塗布し、レーザ露光により、露光・現像せしめてレジストパターンを形成する工程」と、「該被エッチング基材及びレジストパターンの表面にDLC被覆膜を形成する工程」を含み、「該レジストパターン上に形成されたDLC被覆膜を該レジストパターンごと剥離せしめ」ることによって「被エッチング基材の表面にエッチングマスクとなるDLCパターンを形成する」ものであり、「被エッチング基材」は「感光材が塗布される」ものであるのに対し、引用発明は「DLC膜15を成膜する工程と、レジスト16をマスクとして前記DLC膜15をパターン加工する工程と、レジスト16を除去する工程」によって「貴金属薄膜層17」(被エッチング基材)の表面に「パターン加工されたDLC膜15」(エッチングマスクとなるDLCパターン)を形成するものであり、「貴金属薄膜層17」(被エッチング基材)に感光材が塗布されるとは特定しない点。 3 相違点についての検討 上記1(2)カのとおり、「パターン加工されたDLC膜を基材上に形成するために、基材の表面に感光材を塗布し、光露光により、露光・現像せしめてレジストパターンを形成し、基材及びレジストパターンの表面にDLC膜を形成し、レジストパターン上に形成されたDLC膜をレジストパターンごと剥離せしめ、基材の表面にDLCパターンを形成すること」(周知技術1)は、本願出願前に周知の技術であった。 そうすると、引用発明において、「貴金属薄膜層17」(被エッチング基材)の表面に「パターン加工されたDLC膜15」(エッチングマスクとなるDLCパターン)を形成するために、「DLC膜15を成膜する工程と、レジスト16をマスクとして前記DLC膜15をパターン加工する工程と、レジスト16を除去する工程」に代えて、上記周知技術1を適用し、「貴金属薄膜層17」(被エッチング基材)の表面に感光材を塗布し、光露光・現像せしめてレジストパターンを形成し、基材及びレジストパターンの表面にDLC膜を形成し、レジストパターン上に形成されたDLC膜をレジストパターンごと剥離せしめ、「貴金属薄膜層17」(基材)の表面に「パターン加工されたDLC膜15」(エッチングマスクとなるDLCパターン)を形成することは、当業者であれば容易になし得たことである。 また、上記1(3)エのとおり、「フォトレジストを光露光してレジストパターンを形成する際に、レーザ光を用いること」(周知技術2)は、本願出願前に周知の技術であったから、引用発明に対して周知技術1を適用する際に、レーザー光を用いてフォトレジストを光露光することは、当業者であれば適宜なし得たことである。 以上より、引用発明に対して周知技術1及び2を適用し、上記相違点に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。 4 本願発明の作用効果について 本願明細書の段落【0008】には、本願発明の効果として、「すなわち、本発明では、いわゆるリフトオフとよばれる手法を用いているため、サイドエッチングの問題が生じず、エッチングによってDLCパターニングを形成する場合と比べて高精細を実現することができる。」と記載されている。しかしながら、DLC膜をエッチングする方法に代えて周知技術1を用いた場合にサイドエッチングが生じないのは当然のことであり、また、明細書の上記記載からは、従来技術と比較して具体的にどの程度の高精細化を実現することが可能であるのかが不明である。 また、本願明細書の段落【0037】には、本願発明の「被エッチング基材」をニッケルとした実施態様に関し、「そして、凹部パターン22の形成されたニッケル層の表面を4ヘッド型研磨機(株式会社シンク・ラボラトリー製研磨機)を用いて研磨し、図5に示す高精細なパターン付製品を得た。図5において、このパターン付製品の表面を光学顕微鏡で観察したところ、凹部パターン22の線幅は14μmであり、深度は5μmであった。」と記載されているものの、従来技術との比較がなされておらず、従来技術と比較した場合の効果は不明である。 また、本願発明のうち、「被エッチング基材」がニッケル以外であるものについては、本願明細書の段落【0038】に「また、Cu、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Zn、Mg、Fe、ステンレス鋼、Ni-Cr、Sn、Ti、Ti合金、Si、SiO_(2)、ガラス、Cr及びMoをそれぞれ基材としたものについても前記Niの実施例と同様にしてエッチングマスク付基材を作製した。これらエッチングマスク付基材の表面を光学顕微鏡で観察したところ、高精細なエッチングマスク付基材が観察された。」と記載されているに過ぎず、従来技術と比較した場合の具体的な効果は不明である。 以上より、従来技術と比較した場合の本願発明の具体的な効果は不明であると言わざるを得ないから、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2の奏する作用効果から予測することのできない格別の作用効果を奏するものであるとはいえない。 5 当審の判断についてのまとめ 以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 6 請求人の主張について (1)請求人は、平成29年4月6日付けの意見書(以下、単に「意見書」という。)において、「審判長殿は、上記した一致点の認定に当たり、本願発明1と引用文献1の記載内容を比較検討し箇条書き(ア、イ、ウ)しております。引用文献1の引用部分については異論はありませんが、審判長殿の判断部分には本願発明1の構成についての誤解に起因する誤りを含んでおります。本願発明1でいう『被エッチング基材』は図1の符号12で示されるもので(本願明細書【0025】)、その表面に感光材14が塗布されるものです(本願明細書【0027】)。具体的には、本願明細書の実施例に記載されるように、版母材(アルミ中空ロール)に銅メッキ層及びニッケルメッキ層を形成した場合には、ニッケルメッキ層を基材としてその表面に感光膜を塗布するものです(本願明細書【0031】参照)。つまり、上記実施例では版母材の上に銅メッキ層及びニッケルメッキ層の2層を形成しておりますが、この場合はニッケルメッキ層が被エッチング基材であって、銅メッキ層は被エッチング基材ではありません。つまり、本願発明においては、複数の層が存在する場合には、感光材が塗布される最上層を被エッチング基材と定義しているものです。まずもって、この被エッチング基材の定義について、審判長殿は誤解しておりその後の議論がこの誤解をもとに行われているために、全ての議論が誤りを含んだものとなっているものであります。 以下に誤りを含む拒絶理由通知書の該当箇所を指摘します。 (I) 拒絶理由通知書の〈3.理由3(進歩性)について〉〈(1)請求項1について〉において、『したがって、引用発明における、『基板10』上に『軟磁性層11』、『シード層12』、『中間層13』、『磁気記録層14』及び『貴金属薄膜層17』を形成したものは、本願発明1における『被エッチング基材』に相当するといえる。』という指摘は誤りです。 本願の図1から明らかなように、被エッチング基材12は一層で、本願明細書の実施例に記載の例でいえば、版母材、銅メッキ層(これらは本願の図面には図示されておりません)の上に形成されたニッケルメッキ層、つまり最上層の一層のみです。引用文献1においては、審判長殿が指摘するように、『基板10』上に『軟磁性層11』、『シード層12』、『中間層13』、『磁気記録層14』及び『貴金属薄膜層17』を形成したものが教示されており、審判長殿はこれらの複数層の総体を『被エッチング基材』と認定しておりますが、これは明かに誤りです。これらの層の内で本願発明1の被エッチング基材12に対応するものは、最上層である『貴金属薄膜層17』ということになります。審判長殿は引用文献1の『貴金属薄膜層17』のみを本願発明1の被エッチング基材12に対応するものと特定せず、上記した複数の層をまとめて本願発明1の被エッチング基材12に相当すると判断しているのは第1の誤りといえます。」との主張をしている。 上記の主張について検討する。当審拒絶理由が通知された時点における請求項1(すなわち、平成29年4月6日付け手続補正書による補正前の請求項1)には、「前記感光材が塗布される前記被エッチング基材が、Cu、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Zn、Mg、Fe、ステンレス鋼、Ni、Ni-Cr、Sn、Ti、Ti合金、Si、SiO_(2)、ガラス、Crからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料からなる」と記載されていたのであるから、被エッチング基材が2種以上の材料からなるものを包含していたことは明らかである。そして、本願明細書の段落【0032】ないし【0037】には、版母材(アルミ中空ロール)に銅メッキ層及びニッケルメッキ層を形成することが記載されているのであるから、特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合的に解釈すれば、当審拒絶理由が通知された時点における請求項1に記載された「被エッチング基材」は、複数の材料からなる積層体においては、その全体を意味するものと解するのが自然である。 したがって、当審拒絶理由における「被エッチング基材」についての認定は妥当なものといえるから、請求人の上記主張を採用することはできない。 なお、本審決では、上記2(1)ア及びウのとおり、引用発明における「貴金属薄膜層17」が「被エッチング基材」に相当するものであると認定しているが、これは、平成29年4月6日付け手続補正書による補正(以下「当審拒絶理由に対する補正」という。)により、請求項1の「前記感光材が塗布される前記被エッチング基材が、Cu、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Zn、Mg、Fe、ステンレス鋼、Ni、Ni-Cr、Sn、Ti、Ti合金、Si、SiO_(2)、ガラス、Crからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料からなる」との記載が「前記感光材が塗布される前記被エッチング基材が、Cu、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Zn、Mg、Fe、ステンレス鋼、Ni、Ni-Cr、Sn、Ti、Ti合金、Si、SiO_(2)、ガラス、Crからなる群から選ばれた一種の材料からなる」と補正され、請求項1に記載された「被エッチング基材」が、複数の材料からなる積層体全体ではなく、最上層のみを意味するものであることが明確となったことに伴い、引用発明と本願発明との対応関係を修正したものである。 そして、当審拒絶理由における認定(すなわち、引用発明における「『基板10』上に『軟磁性層11』、『シード層12』、『中間層13』、『磁気記録層14』及び『貴金属薄膜層17』を形成したもの」が「被エッチング基材」に相当するとの認定)と、本審決における認定(すなわち、引用発明における「貴金属薄膜層17」が「被エッチング基材」に相当するとの認定)とは、「被エッチング基材」に下層が含まれるか否かという点においてのみ相違し、「貴金属薄膜層17」がエッチングされるという点においては変わりがなく、また、補正後の本願発明は、「被エッチング基材」の下層の構成には特徴を有しない。 そうすると、上記の認定の変更は、当審拒絶理由における、本願発明が引用発明と周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとの結論には何ら影響しない。 以上より、上記の認定の変更は、当審拒絶理由に対する補正に伴い、引用発明と本願発明の対応関係を修正したもので、これによって、当審拒絶理由の結論に影響は及ばないから、上記の認定の変更が、当審拒絶理由における容易想到性の理由を実質的に変更しないことは明らかである。 (2)請求人は、意見書において、「さらに、本願発明1においては、本願の図1(a)に示されるように、被エッチング基材12上には感光材14が塗布され、図1(b)に示されるように、この感光材の塗布膜を露光・現像せしめてレジストパターン16が形成され(本願明細書【0027】)、図1(c)に示されるように、この基材12及びレジストパターン16の表面にDLC被覆膜18を形成するものです(本願明細書【0028】)。 これに対して、引用文献1においては、【0028】?【0031】に上記した『基板10』上に『軟磁性層11』、『シード層12』、『中間層13』、『磁気記録層14』及び『貴金属薄膜層17』を形成する説明がなされ、次いで、図1(a)に示されるように、『貴金属薄膜層17』の上にDLC膜15が形成され、このDLC膜15の上にレジスト16が形成されることが記載されております(引用文献1【0032】?【0036】)。つまり、この引用文献1の『貴金属薄膜層17』、DLC膜15及びレジスト16の膜の配置は、引用文献1の図1(a)と本願の図1(a)?(c)を見比べれば明白ですが、DLC膜18と感光材層14の設置順が真逆になっており、しかも本願発明1においては感光材層14を露光・現像せしめてレジストパターン16を形成した後にDLC膜18を形成しており、つまりDLC膜18は形成した当初から凹凸形状をなしているものです。一方、引用文献1においては、『貴金属薄膜層17』上にDLC膜15を平坦形状で形成し、その上にレジスト16を形成しているものです。このように、本願発明1の被エッチング基材12に対応すると考えられる『貴金属薄膜層17』(後述するように、実際はこの『貴金属薄膜層17』は本願発明1の被エッチング基材12に対応するものではありませんが)の上に形成されるDLC膜15及びレジスト16の形成順序及び形成態様は、本願発明1の感光材層14及びそれからレジストパターン16の形成及びそのレジストパターン16上への凹凸形状のDLC膜18の形成とは全く別異のものであり、同等と考えられるものではありません。」との主張をしている。 上記の主張について検討する。引用発明に対して周知技術1を適用した場合には、「貴金属薄膜層17」上にレジストパターンを形成し、その上にDLC膜を形成することは、当業者にとって明らかである。 したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 (3)請求人は、意見書において、「さらにまた、上記では引用文献1の『貴金属薄膜層17』が本願発明1の被エッチング基材12に対応するものとして議論を進めたわけですが、実のところ『貴金属薄膜層17』は本願発明1の被エッチング基材12に対応するものでもありません。本願発明1の被エッチング基材12は、本願の図1(d)に示されるように、被エッチング基材12の表面にDLCパターン20を形成したエッチングマスク付基材10となり、さらに処理されると凹部パターン22が被エッチング基材12の表面に形成されたパターン付製品24となるもので、処理途中で消えることなく最終製品まで基材として残存するものです。ところが、引用文献1の『貴金属薄膜層17』はその図1(h)に示されるように、最磁気記録層14が形成されると最終的には除去されるものであり、本願発明1の被エッチング基材12のように最終製品まで基材として残るものとはその役割が明らかに異なるもので、両者を同等と考えることは不可能です。」との主張をしている。 上記の主張について検討する。明細書の記載及び本願出願時の技術常識を参酌しても、「被エッチング基材」との語を「最終製品まで基材として残るもの」に限定して解釈すべき理由はない。そして、引用発明における「貴金属薄膜層17」は、基材であり、エッチングされるものであるから、「被エッチング基材」といえるものである。 したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 なお、仮に本願発明の「被エッチング基材」を「最終製品まで基材として残るもの」に限定して解釈したとしても、引用発明における各工程をいずれの事業者が実施するのかは単なる人為的取決めに過ぎず、引用発明における中間生産物(すなわち、引用文献1の【図1】(e)に記載された、「貴金属薄膜層17」の表面に「パターン加工されたDLC膜15」が付いたもの)を製品として他の事業者に譲渡し、他の事業者が後続の工程を実施することも普通に行い得ることであり、その場合には「貴金属薄膜層17」が「最終製品まで基材として残るもの」となるのであるから、いずれにせよ、請求人の上記主張を採用することはできない。 (4)請求人は、意見書において、「(オ)審判長殿は上記(B)工程、(C)工程、及び(D)工程が、引用文献2及び引用文献3に記載されるように周知技術であると述べております。御庁の審査基準によれば『周知技術とは、その技術分野において一般的に知られている技術であって、例えば、これに関し、相当多数の公知文献が存在し、又は業界に知れわたり、あるいは、例示する必要がない程よく知られている技術』とされています。審判長殿は2件の公知文献をあげて(B)工程、(C)工程、及び(D)工程が周知技術であると認定しておりますが、2件の公知文献は相当多数の公知文献といえるのでしょうか。このような判断を今後も行う予定であるとすれば、審査基準の『相当多数の公知文献が存在し』という規定自体が有名無実化しますので、『複数の公知文献が存在し』と変更する必要があるものと思料します。常識的に考えて、『2件の公知文献』が『相当多数の公知文献』と同義であるとは到底考えられません。なお、公知文献の公開日乃至公知日が古いからと言って周知技術にならないものが多数存在することはいうまでもありません。」との主張をしている。 上記の主張について検討する。上記1(2)アないしオのとおり、周知技術1は、多数の文献に記載され、当該技術分野において広く知られたものであるといえるから、周知技術1が周知であるとした当審拒絶理由及び本審決の認定に誤りがあるとはいえない。 したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 なお、仮に周知技術1が周知の技術とはいえないとしても、引用発明に対して引用文献2及び3に記載された発明を適用することについて困難があったとはいえないから、本願発明が引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの結論に影響はない。 (5)請求人は、意見書において、「ところで、引用文献2及び3に記載された周知技術を引用発明に適用するにあたり、まず、引用発明における『DLC膜15』の上に『レジスト16』を塗布するという根幹的な手順である膜形成の順序が変更となり、つまり引用発明とは真逆の手順によりレジスト(パターン)の上にDLC膜を形成することになり、これに伴って『レジスト16』に対するリソグラフィー技術の適用の順序や『DLC膜15』に対するエッチングの有無などの大きな手順上の変更が必要となります。このような手順上の大きな変更は当業者といえども発明的な努力なしには容易になしうるものではありません。」との主張をしている。 上記の主張について検討する。上記(2)のとおり、引用発明に対して周知技術1を適用した場合には、「貴金属薄膜層17」上にレジストパターンを形成し、その上にDLC膜を形成することは明らかであり、そのような手順とすることは、当業者であれば普通に行い得たことである。 したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 (6)請求人は、意見書において、「実際上の問題としては、引用発明(引用文献1)の出願日は2009年7月14日であり、引用文献2の公開日は1989年4月21日で、引用文献3の公開日は1993年10月19日です。引用発明は引用文献2が公知となってから20年後に出願され、引用文献3が公知となってから16年後に出願されたものです。このように20年前及び16年前に公知となった引用文献2や引用文献3の周知技術が知られていても、引用発明においては『『DLC膜15』の上に『レジスト16』を塗布し、電子ビーム描画装置によるリソグラフィー技術を用いて『レジスト16』に凹凸パターンを転写し、『レジスト16』の凸部をマスクとして『DLC膜15』をエッチングする方法』を採用しているものです。つまり、引用発明の完成過程においては、引用文献2や引用文献3の技術を採用しても良好な結果がえられず、旧来の上記した『『レジスト16』の凸部をマスクとして『DLC膜15』をエッチングする方法』を採用して良好な結果をえて引用発明が完成されたものと推測されます。引用文献2や引用文献3の周知技術が存在していても、単純にそのまま適用すればよいものではなく、適用技術の内容に応じて他の公知の技術との比較検討や取捨選択が行われて初めて発明的な技術が完成されることになることが、引用発明の発明過程からみてとれるものです。 ところで、引用文献1(引用発明)の出願日は2009年7月14日で、本願の出願日(2011年2月10日)の1年半前です。引用発明と本願発明の属する技術業界の技術水準は同程度と考えるのが妥当と思われますが、上述したように引用発明においては旧来の上記した『『レジスト16』の凸部をマスクとして『DLC膜15』をエッチングする方法』を採用しており、一方、本願発明1においては、引用文献1には全く記載されていない(B)工程、(C)工程及び(D)工程を採用しているものです。 審判長殿は、本願発明1において、引用文献2及び3に記載されている(B)工程、(C)工程及び(D)工程を引用発明に適用するのは当業者にとって容易であると判断しているものです。しかしながら、当業者である引用発明の発明者は引用文献2及び3記載の周知技術が存在するにも拘わらず旧来の上記した『『レジスト16』の凸部をマスクとして『DLC膜15』をエッチングする方法』を採用しているものです。ということは、DLCパターン形成にあたり、引用文献2及び3記載の周知技術が存在するにしても直ちにその周知技術を採用するものではなく、種々の技術を検討して最終的に当該発明に適した技術を選定して発明を完成するものであり、このような発明手順は当業者にとっても容易になしうるものでないことは自明であります。従って、引用発明が完成する際の手順と同様に本願発明の発明者は種々の技術を検討した結果、本願発明のDLCパターンの形成には(A)工程及び構成要素(E)を含めて(B)工程、(C)工程及び(D)工程を採用するのが、高精細なパターニングを達成する上でも最適であるとして本願発明を完成したものであり、当業者といえども容易になしうるものではありません。・・・審判長殿は、本願発明1の奏する作用効果は格別顕著なものではないと述べておりますが、本願発明は近年の電子部品の精密化に対応すべく、より高精細なパターニングを実現したもので、実用的価値は非常に高いものであります。」との主張をしている。 上記の主張について検討する。引用文献1には、周知技術1を採用しなかった理由について何ら記載されておらず、「引用発明の完成過程においては、引用文献2や引用文献3の技術を採用しても良好な結果がえられず、旧来の上記した『『レジスト16』の凸部をマスクとして『DLC膜15』をエッチングする方法』を採用して良好な結果をえて引用発明が完成されたものと推測されます。」との請求人の主張には根拠がない。 また、採用することが可能なあらゆる周知技術を明細書中に網羅的に記載することは実際上不可能であるから、引用文献1において周知技術1についての記載がないからといって、そのことが直ちに、引用発明に対して周知技術1を適用することが困難であったことの根拠とならないことは当然である。 そして、上記4のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2の奏する作用効果から予測することのできない格別の作用効果を奏するものであるとはいえないのであるから、本願発明に対して周知技術1及び2を適用することは、当業者であれば容易になし得たことであると言わざるを得ない。 したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 (7)以上のとおり、上記(1)ないし(6)に摘記した請求人の主張はいずれも採用することができない。また、請求人のその他の主張を考慮しても、本願発明が引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの結論を覆すに足りる根拠を見いだすことができない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明(引用発明)並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-04-25 |
結審通知日 | 2017-04-26 |
審決日 | 2017-05-09 |
出願番号 | 特願2011-26688(P2011-26688) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 杢 哲次、溝本 安展 |
特許庁審判長 |
鈴木 匡明 |
特許庁審判官 |
須藤 竜也 加藤 浩一 |
発明の名称 | エッチングマスク付基材の製造方法 |
代理人 | 石原 進介 |