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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
管理番号 1329806
審判番号 不服2014-25500  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-12 
確定日 2017-06-28 
事件の表示 特願2009-531463「シリコンポリマー、シリコン化合物の重合方法、及びそのようなシリコンポリマーから薄膜を形成する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月17日国際公開、WO2008/045327、平成22年 2月25日国内公表、特表2010-506001〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、2007年10月4日(パリ条約に基づく優先権主張:2006年10月6日、2007年3月5日及び2007年10月4日、いずれも米国)の国際出願日になされたものとみなされる特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成21年 2月10日 国内書面(願書)
平成21年 4月 9日 翻訳文(明細書等)
平成22年10月 4日 出願審査請求
同日 上申書・手続補正書
平成25年 3月 4日付け 拒絶理由通知
平成25年 9月10日 意見書・手続補正書
平成26年 1月23日付け 拒絶理由通知
平成26年 4月25日 意見書・手続補正書
平成26年 8月 6日付け 拒絶査定
平成26年11月10日 出願人名義変更
平成26年12月12日 本件審判請求・手続補正書
平成27年 1月16日付け 前置審査移管
平成27年 2月25日付け 前置報告書
平成27年 2月27日付け 前置審査解除
平成27年 5月18日 上申書
平成28年 6月10日付け 拒絶理由通知
平成28年11月 4日 意見書・手続補正書

第2 当審が通知した拒絶理由の概要
当審が平成28年6月10日付けで通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

「第2 拒絶理由

しかるに、本願は以下の拒絶理由を有するものである。

1.本願は、明細書の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)の規定を満たしていない。
2.本願は、明細書の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)の規定を満たしていない。



1.理由1について

(1)本願請求項1には、
「水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含むオリゴマー及び/又はポリマー」であって、当該「オリゴマー及び/又はポリマー(の混合物)」が、「500から1500g/モルの分子量を有する」こと及び「シリコン、ゲルマニウム及び水素に関して少なくとも99.9%の原子純度を有する」ことがそれぞれ記載されている。
また、同請求項6には、
「水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含むオリゴマー及び/又はポリマー」であって、当該「オリゴマー及び/又はポリマー(の混合物)」が、「15から1000個のSi、Ge、又は、Si及びGe単位の鎖長を有する」こと及び「シリコン、ゲルマニウム及び水素に関して少なくとも99.9%の原子純度を有する」ことがそれぞれ記載されている。
しかるに、上記各記載は、下記ア.及びイ.の点で技術的に意味が不明であるから、上記請求項1及び6並びに同各項を引用する請求項2ないし5及び請求項7ないし10の各記載では、同各項に係る発明が明確でない。

ア.上記請求項1及び6の「500から1500g/モルの分子量を有する」なる記載は、「オリゴマー及び/又はポリマーが「500から1500g/モルの平均分子量を有する」ことを意味するのか、「オリゴマー及び/又はポリマーの全ての分子が500から1500g/モルの分子量を有する」こと(すなわち、500g/モル未満の分子種及び1500g/モルを超える分子種が存在しないこと)を意味するのか、それ以外の意味であるのか、不明である。

イ.上記請求項1及び6には、「水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含む」こと及び「シリコン、ゲルマニウム及び水素に関して少なくとも99.9%の原子純度を有する」ことにより、上記「オリゴマー及び/又はポリマー」が、実質的に「水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウム」のいずれかの原子の組合せのみを含むことが規定されるとともに、「分子量」の範囲につき規定されているものとは認められるものの、当該「オリゴマー及び/又はポリマー」がいかなる化学構造を有するものであるか規定されておらず、いかなる化学構造を有する「オリゴマー及び/又はポリマー」であるのか不明である。
(なお、例えば、エイコサ(パーヒドロシラン)(ケイ素数20個の直鎖状のパーヒドロポリシラン)、エイコサ(モノヒドロシラン)(ケイ素数20個の直鎖状の不飽和ヒドロポリシラン)とシクロエイコサ(ジヒドロシラン)(ケイ素数20個の環状のポリジヒドロシラン)とは、互いに化学構造が全く異なるとともに、組成式も異なる(水素数が異なる)から、全く別種の化合物であるところ、いずれも上記請求項1又は6に記載の事項を具備するものである。)

(2)本願請求項1又は6には、それぞれ、「オリゴマー及び/又はポリマーの混合物を、少なくとも65モル%含む組成物」又は「オリゴマー及び/又はポリマーの混合物を、少なくとも75モル%含む組成物」と記載されているが、当該「組成物」は種々の成分が混合されたものであることが当業者に自明であり、組成物全体のモル重量又はモル体積は一義的に決定できるものではなく、組成物が何モルあるか、すなわち組成物1モルあたり「オリゴマー及び/又はポリマーの混合物」が何モルの割合で占めるかの「モル%」で組成比が決定されるものでもないことも当業者に自明である。
してみると、本願請求項1又は6の上記記載では、「混合物」が占める組成比をいかなる範囲(重量比、質量比又は体積比等)に規定しようとするものか不明であるから、上記請求項1及び6並びに同各項を引用する請求項2ないし5及び請求項7ないし10の各記載では、同各項に係る発明が明確でない。
また、本願請求項11又は14には、それぞれ、「少なくとも75モル%の前記オリゴマー又はポリマーは、・・単位の鎖長を有し、・・原子純度を有する」又は「少なくとも65モル%の前記ポリマーが・・分子量を有する」なる記載があるが、上記と同様の理由により、当該「鎖長」、「原子純度」及び「分子量」を有するオリゴマー又はポリマーの量をいかなる範囲(重量比、質量比又は体積比等)に規定しようとするものか不明であるから、上記請求項11及び14並びに同各項を引用する請求項12、13及び15の各記載では、同各項に係る発明が明確でない。
・・(中略)・・
(5)理由1に係るまとめ
以上のとおりであるから、本願請求項1、6、11及び14並びに同各項を引用する請求項2ないし5、7ないし10、12、13及び15の記載では、各項に係る発明が明確でない。

2.理由2について
本願明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0006】?【0011】)からみて、本願発明の解決課題は、「(i)水素と(ii)シリコン及び/又はゲルマニウムとから本質的になるオリゴシラン又はポリシランを含み、450から約2300g/モルの分子量を有する組成物であって、この組成物をコーティングし又は印刷し(任意選択で紫外線照射と同時に又は直後の紫外線照射と共に)、オリゴ及び/又はポリシラン膜を形成し、次いで硬化した後に、0.1原子%以下の炭素含量を有する非晶質水素化半導体膜を形成する組成物」及び当該「式A_(n)H_(2n+2)のシラン化合物及び/又は式c-A_(m)H_(2m)のシクロシラン化合物を、第7?12族の遷移金属元素(又はその基材固着誘導体)から本質的になる不均一系触媒と一緒にして、オリゴシラン又はポリシランを形成するステップ(但しAは、それぞれの場合に独立に、Si又はGeであり、nは1から10の整数であり、mは4から6の整数である)と、オリゴシラン又はポリシランから触媒を除去するステップとを含む、オリゴシラン又はポリシランを作製する方法」の提供にあるものと認められる。
しかるに、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、
(a)上記請求項1又は請求項6に記載された事項で特定される「組成物」を使用して硬化させた場合全て(例えば、炭素含有溶媒を使用して液相配合物とした場合等を含む)において、上記「0.1原子%以下の炭素含量を有する非晶質水素化半導体膜を形成する」なる解決課題を解決できるであろうと当業者が認識することができる作用機序につき開示されていないとともに、
(b)上記請求項11又は請求項14に記載された事項で特定される「方法」により作製した場合全て(例えば、Rhブラック以外の第7?12族の遷移金属元素不均一系触媒を使用した場合等を含む)において、上記「0.1原子%以下の炭素含量を有する非晶質水素化半導体膜を形成する」なる解決課題を解決できるような「オリゴシラン又はポリシラン」を作製できるであろうと当業者が認識することができる作用機序についても開示されていない。
また、特に実施例に係る記載(【0078】?【0080】)を検討しても、「Rhブラック」又は「Ruブラック」なる遷移金属不均一化触媒を使用して、シクロペンタシラン又はシクロペンタシランと直鎖状ヘプタシランとの混合物を重合した場合なる極めて限られた場合につき記載されているのみであり、他の第7?12族の遷移金属不均一触媒を使用した場合、Ge含有モノマーを使用した場合及び他のシラン化合物(例えば直鎖状の式A_(n)H_(2n+2)のシラン化合物等)のみを使用した場合などについては記載されていない。
また、請求項11又は請求項14に記載された方法で作製された「オリゴシラン又はポリシラン」を含有する請求項1又は6に記載された「組成物」を使用した場合に、上記解決課題(「0.1原子%以下の炭素含量を有する非晶質水素化半導体膜を形成する」こと)を解決できるであろうと当業者が認識できるような本願出願前(優先日前)における当業者の技術常識が存するものとも認められない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、請求項11又は請求項14に記載された方法で作製された「オリゴシラン又はポリシラン」を含有する本願請求項1又は6に記載された「組成物」に係る発明が、上記解決課題を解決できるであろうと当業者が認識することができるように記載したものということはできないから、本願請求項1、6、11又は14に記載された事項により特定される発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものということはできない(平成17年(行ケ)10042号判決参照。)。
したがって、本願請求項1、6、11又は14及び同項を引用する請求項2ないし5、7ないし10、12、13又は15に記載された事項で特定される各発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができない。」

第3 当審の判断
当審は、上記拒絶理由通知における理由1及び2は、いずれも、平成28年11月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲について、依然として成立するものであり、本願は拒絶すべきものと判断する。以下詳述する。

I.本願の請求項に記載された事項
平成28年11月4日付けで手続補正された本願の請求項1ないし21には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
オリゴマー及び/又はポリマーの混合物を含み、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物におけるオリゴマー及び/又はポリマーのそれぞれは、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含み、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも65モル%は、500から1500g/モルの分子量分布を有する組成物であって、前記組成物において、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含む全てのオリゴマー及び/又はポリマーの総量が100モル%であり、
前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物は、シリコン、ゲルマニウム及び水素に関して少なくとも99.9%の原子純度を有する、組成物。
【請求項2】
前記オリゴマー及び/又はポリマー、水素及びシリコンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも75モル%は、500から1500g/モルの前記分子量分布を有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記分子量分布は、ゲル透過クロマトグラフィによって測定される
請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
シクロペンタシラン又はヘプタシランが前記ゲル透過クロマトグラフィの参照として用いられる
請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物と、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物が可溶性である溶媒と、を含む液相配合物から半導体膜を形成する方法であって、前記方法は、
前記液相配合物を基板上にコーティング又は印刷するステップと、
コーティングされ又は印刷された前記液相配合物を、非晶質の水素化半導体を形成すべく加熱するステップと、
前記非晶質の水素化半導体をアニール及び/又は照射して、少なくとも部分的に結晶化し及び/又は前記非晶質の水素化半導体の水素含量を減少させ、前記半導体膜を形成するステップと
を含む方法。
【請求項7】
前記液相配合物をコーティング又は印刷することは、オリゴ又はポリマー膜を形成し、コーティングされ又は印刷された前記液相配合物を加熱するステップは、前記オリゴ又はポリマー膜を硬化するステップを含み、前記非晶質の水素化半導体膜は、0.05原子%以下の炭素含量及び0.05原子%以下の酸素含量を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
オリゴマー及び/又はポリマーの混合物を含み、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物におけるオリゴマー及び/又はポリマーのそれぞれは、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含み、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも75モル%は、15から1000個のSi、Ge、又は、Si及びGe単位の鎖長を有する組成物であって、前記組成物において、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含む全てのオリゴマー及び/又はポリマーの総量が100モル%であり、
前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物は、シリコン、ゲルマニウム及び水素に関して少なくとも99.9%の原子純度を有する、組成物。
【請求項9】
前記オリゴマー及び/又はポリマーが、水素及びシリコンを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも80モル%は、15から1000個のSi、Ge、又は、Si及びGe単位の鎖長を有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記鎖長は、ゲル透過クロマトグラフィによって測定される
請求項8から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
シクロペンタシラン又はヘプタシランが前記ゲル透過クロマトグラフィの参照として用いられる
請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
請求項6に記載の組成物と、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物が可溶性である溶媒と、を含む液相配合物から半導体膜を形成する方法であって、前記方法は、
前記液相配合物を基板上にコーティング又は印刷するステップと、
コーティングされ又は印刷された前記液相配合物を、非晶質の水素化半導体を形成すべく加熱するステップと、
前記非晶質の水素化半導体をアニール及び/又は照射して、少なくとも部分的に結晶化し及び/又は前記非晶質の水素化半導体の水素含量を減少させ、前記半導体膜を形成するステップと
を含む方法。
【請求項14】
前記液相配合物をコーティング及び/又は印刷することは、オリゴ又はポリマー膜を形成し、コーティングされ又は印刷された前記液相配合物を加熱するステップは、前記オリゴ又はポリマー膜を硬化するステップを含み、前記非晶質の水素化半導体膜は、0.05原子%以下の炭素含量及び0.05原子%以下の酸素含量を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
a)式A_(n)H_(2n+2)の化合物及び/又は式c-A_(m)H_(2m)の化合物を、第7?12族遷移金属元素又はその基材固着誘導体からなる不均一系触媒と一緒に合わせて、オリゴマー又はポリマーを形成するステップであって、Aがそれぞれの場合に独立に、Si又はGeであり、nは1から10の整数であり、mは4から6の整数であるステップと、
b)前記触媒を、前記オリゴマー又はポリマーから除去するステップと、を含む、オリゴマー又はポリマーを作製する方法であって、
少なくとも75モル%の前記オリゴマー又はポリマーは、15から1000個のSi、Ge、又は、Si及びGe単位の鎖長を有し、シリコン、ゲルマニウム及び水素に関して少なくとも99.9%の原子純度を有する、方法。
【請求項16】
第7?12族遷移金属が、Rh、Fe、Ru、Co、Ir、Ni、Pd、及びPtからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
触媒が、A原子100個に対して遷移金属原子0.01から10個の量で存在し、
前記触媒を前記オリゴマー又はポリマーから除去するステップが、一緒に合わせた触媒とオリゴマー又はポリマーとを濾過するステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
a)式A_(a)H_(2a+2-b)R_(b)の化合物及び/又は式c-A_(m)H_(pm)R^(1)_(rm)の化合物を、元素金属触媒又は式R^(3)_(x)R^(4)_(y)R^(5)_(z)MX_(w)の触媒(又はその多核若しくは基材固着誘導体)と一緒に合わせることによって、式H-[(A_(a)H_(2a-b)R_(b))_(n)-(c-A_(m)H_((pm-2))R^(1)_(rm))_(q)]-Hのポリマー又はその分岐状若しくは架橋形態を形成するステップと、
b)前記触媒を前記ポリマーから除去するステップと、
c)前記ポリマーがアリール基を有する場合、前記ポリマーを脱アリール化するステップと、
を含む、ポリマーの作製方法であって、
前記ポリマーが、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含み、シリコン、ゲルマニウム及び水素に関して少なくとも99.9%の原子純度を有し、少なくとも65モル%の前記ポリマーが500から1500g/モルの分子量分布を有する、方法。
[式中、Aは、それぞれの場合に独立に、Si又はGeであり、
3≦a≦100であり、
R及びR^(1)は、それぞれの場合に独立に、水素、アリール、又は-A_(c)H_(2c+1-d)R^(2)_(d)であり(但し、R^(2)は、アリール又はHであり、cは1から4の整数である);
q=0の場合にn×a≧6であり、
n=0の場合にq≧2であり、
n及びqが共に0でない場合は(n+q)≧2であり;
mは、3から8の整数であり、
p=2-rであり、
rは0又は1又は2であり;
Mは、Rh、Fe、Ru、Os、Co、Ir、Ni、Pd、及びPtからなる群から選択された金属であり、
x、y、z、及びwのそれぞれは、0から5の整数であり、3≦(w+x+y+z)≦6であり;
R^(3)、R^(4)、及びR^(5)は、それぞれの場合に独立に、置換又は非置換シクロペンタジエニル、インデニル、フルオレニル、アリル、ベンジル、シリル、(ペル)アルキルシリル、ゲルミル、(ペル)アルキルゲルミル、水素化物、ホスフィン、アミン、硫化物、一酸化炭素、ニトリル、イソニトリル、シロキシル、ゲルモキシル、ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ、ヒドロカルビルホスフィノ、ヒドロカルビルアミノ、又はヒドロカルビルスルフィドリガンドであり、又はR^(3)、R^(4)、及びR^(5)の2個以上が一緒になって、多座ホスフィン、アミン、オキソ、及び/又はカルビドリガンドであってもよく;
Xは、ハロゲン、又はハロゲン均等物である。]
【請求項19】
前記触媒を前記ポリマーから除去するステップが、前記ポリマーと吸収剤とを接触させ、又は前記ポリマーが可溶性であり前記触媒が不溶性である溶媒を、触媒を沈殿させるために添加し、次いで沈殿した触媒を濾過するステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
オリゴマー及び/又はポリマーの混合物を含み、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物におけるオリゴマー及び/又はポリマーのそれぞれは、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含み、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも65モル%は、500から1500g/モルの分子量分布を有する組成物の製造方法であって、前記製造方法は、
第7?12族遷移金属を用いた触媒重合によって前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物を形成するステップを含み、
前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物は、シリコン、ゲルマニウム及び水素に関して少なくとも99.9%の原子純度を有する、組成物の製造方法。
【請求項21】
オリゴマー及び/又はポリマーの混合物を含み、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物におけるオリゴマー及び/又はポリマーのそれぞれは、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含み、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも75モル%は、15から1000個のSi、Ge、又は、Si及びGe単位の鎖長を有する組成物の製造方法であって、前記製造方法は、
第7?12族遷移金属を用いた触媒重合によって前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物を形成するステップを含み、
前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物は、シリコン、ゲルマニウム及び水素に関して少なくとも99.9%の原子純度を有する、組成物の製造方法。」
(以下、上記各請求項に記載された事項で特定される発明を、項番に従い「本願発明1」ないし「本願発明21」という。また、それらを併せて「本願発明」ということがある。)

II.理由1(特許法第36条第6項第2号、いわゆる「クレームの明確性」)について

(1)本願請求項1には、
「オリゴマー及び/又はポリマーの混合物を含み、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物におけるオリゴマー及び/又はポリマーのそれぞれは、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含み、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも65モル%は、500から1500g/モルの分子量分布を有する組成物であって、前記組成物において、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含む全てのオリゴマー及び/又はポリマーの総量が100モル%であり、
前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物は、シリコン、ゲルマニウム及び水素に関して少なくとも99.9%の原子純度を有する、組成物。」と記載されている。
また、同請求項8には、
「オリゴマー及び/又はポリマーの混合物を含み、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物におけるオリゴマー及び/又はポリマーのそれぞれは、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含み、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも75モル%は、15から1000個のSi、Ge、又は、Si及びGe単位の鎖長を有する組成物であって、前記組成物において、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含む全てのオリゴマー及び/又はポリマーの総量が100モル%であり、
前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物は、シリコン、ゲルマニウム及び水素に関して少なくとも99.9%の原子純度を有する、組成物。」と記載されている。
しかるに、上記各記載は、下記ア.及びイ.の点で技術的に意味が依然として不明であるから、上記請求項1及び8並びに同各項を引用する請求項2ないし5及び請求項9ないし12の各記載では、同各項に係る発明が依然として明確でない。

ア.上記請求項1の「前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも65モル%は、500から1500g/モルの分子量分布を有する組成物」なる記載は、「オリゴマー及び/又はポリマー」の「モル%」なる割合を表す数値につき、技術常識に照らしても、その技術的意味が依然として不明である。
また、上記請求項8の「前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも75モル%は、15から1000個のSi、Ge、又は、Si及びGe単位の鎖長を有する組成物」なる記載についても、「オリゴマー及び/又はポリマー」の「モル%」なる割合を表す数値につき、技術常識に照らしても、その技術的意味が依然として不明である。
(なお、上記「モル%」による割合に係る表現の点については、下記(2)の説示も参照のこと。)
したがって、上記各請求項の記載では、いずれも、当該「組成物」がいかなる「オリゴマー及び/又はポリマー」なる構成分子成分からなるものであるのか依然として不明瞭である。

イ.上記請求項1及び8には、「水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含む」こと及び「シリコン、ゲルマニウム及び水素に関して少なくとも99.9%の原子純度を有する」ことにより、上記「オリゴマー及び/又はポリマー」が、実質的に「水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウム」のいずれかの原子の組合せのみを含むことが規定されるとともに、特定の「分子量」の範囲(請求項1)並びに特定の「Si及び/又はGeからなる単位の鎖長」の範囲(請求項8)につき規定されているものとは認められる。
しかしながら、当該「オリゴマー及び/又はポリマー(の分子)」がいかなる化学構造を有するものであるか規定されておらず、いかなる化学構造を有する「オリゴマー及び/又はポリマー(の分子)」であるのか依然として不明である。
(なお、例えば、エイコサ(パーヒドロシラン)(ケイ素数20個の直鎖状のパーヒドロポリシラン)、エイコサ(モノヒドロシラン)(ケイ素数20個の直鎖状の不飽和ヒドロポリシラン)とシクロエイコサ(ジヒドロシラン)(ケイ素数20個の環状のポリジヒドロシラン)とは、互いに分子の化学構造が全く異なるとともに、組成式も異なる(水素数が異なる)から、全く別種の化合物であるところ、いずれも上記請求項1又は8に記載の事項を具備するものである。)

(2)
ア.本願請求項1又は8には、それぞれ、
「前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも65モル%は、500から1500g/モルの分子量分布を有する組成物」及び「前記組成物において、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含む全てのオリゴマー及び/又はポリマーの総量が100モル%であり」との記載(請求項1)
並びに
「前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも75モル%は、15から1000個のSi、Ge、又は、Si及びGe単位の鎖長を有する組成物」及び「前記組成物において、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含む全てのオリゴマー及び/又はポリマーの総量が100モル%であり」との記載(請求項8)
がそれぞれ存する。
しかるに、当該「組成物」は分子量がそれぞれ異なる種々の成分が混合されたものであることが当業者に自明であり、組成物全体のモル重量又はモル体積は一義的に決定できるものではないから、「組成物」が全体で何モルあるのか決定することは不可能であること及び当該「組成物」中に存する構成成分が占める組成比につき、組成物1モルあたり「オリゴマー及び/又はポリマー(の混合物)」が何モルの割合で占めるかの「モル%」で組成比が決定されるものではないことが当業者に自明である。
してみると、本願請求項1又は8の上記記載では、上記「組成物」における「オリゴマー及び/又はポリマー(の混合物)」が占める組成比をいかなる範囲(重量比、質量比又は体積比等)に規定しようとするものか不明であるから、上記請求項1及び8並びに同各項を引用する請求項2ないし5及び請求項9ないし12の各記載では、同各項に係る発明が依然として明確でない。

イ.本願請求項15、18、20又は21には、それぞれ、
「少なくとも75モル%の前記オリゴマー又はポリマーは、・・単位の鎖長を有し、・・原子純度を有する」(請求項15)、
「少なくとも65モル%の前記ポリマーが・・分子量分布を有する」(請求項18)、
「前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも65モル%は、・・の分子量分布を有する」(請求項20)
又は
「前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも75モル%は、・・単位の鎖長を有する」(請求項21)
なる記載が存する。
しかるに、これらの記載は、上記ア.で説示した理由と同様の理由により、当該「鎖長」、「原子純度」、「分子量分布」を有するオリゴマー又はポリマー(の混合物)の量をいかなる範囲(重量比、質量比又は体積比等)に規定しようとするものか不明であるから、上記請求項15、18、20又は21並びに同各項を引用する請求項16、17及び19の各記載では、同各項に係る発明が依然として明確でない。

(3)理由1に係るまとめ
以上のとおり、本願請求項1ないし12及び15ないし21の記載では、各項に係る発明が依然として明確でないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)の規定を満たしていない。

III.理由2(特許法第36条第6項第1号、いわゆる「明細書のサポート要件」)について
本願明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0006】?【0011】)からみて、本願発明の解決課題は、「(i)水素と(ii)シリコン及び/又はゲルマニウムとから本質的になるオリゴシラン又はポリシランを含み、450から約2300g/モルの分子量を有する組成物であって、この組成物をコーティングし又は印刷し(任意選択で紫外線照射と同時に又は直後の紫外線照射と共に)、オリゴ及び/又はポリシラン膜を形成し、次いで硬化した後に、0.1原子%以下の炭素含量を有する非晶質水素化半導体膜を形成する組成物」及び当該「式A_(n)H_(2n+2)のシラン化合物及び/又は式c-A_(m)H_(2m)のシクロシラン化合物を、第7?12族の遷移金属元素(又はその基材固着誘導体)から本質的になる不均一系触媒と一緒にして、オリゴシラン又はポリシランを形成するステップ(但しAは、それぞれの場合に独立に、Si又はGeであり、nは1から10の整数であり、mは4から6の整数である)と、オリゴシラン又はポリシランから触媒を除去するステップとを含む、オリゴシラン又はポリシランを作製する方法」の提供にあるものと認められる。
しかるに、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、
(a)上記請求項1又は請求項8に記載された事項で特定される「組成物」を使用して硬化させた場合(例えば、炭素含有溶媒を使用して液相配合物とした場合等を含む)において、上記「0.1原子%以下の炭素含量を有する非晶質水素化半導体膜を形成する」なる解決課題を解決できるであろうと当業者が認識することができる作用機序につき開示されていないとともに、
(b)上記請求項15ないし21に記載された事項で特定される「方法」により作製した場合(例えば、Rhブラック以外の第7?12族の遷移金属元素不均一系触媒を使用した場合等を含む)において、上記「0.1原子%以下の炭素含量を有する非晶質水素化半導体膜を形成する」なる解決課題を解決できるような「オリゴマー又はポリマー(の混合物)」あるいは「組成物」を作製・製造できるであろうと当業者が認識することができる作用機序についても開示されていない。
また、特に実施例に係る記載(【0078】?【0080】)を検討しても、『「Rhブラック」又は「Ruブラック」なる遷移金属不均一化触媒を使用して、シクロペンタシラン又はシクロペンタシランと直鎖状ヘプタシランとの混合物を重合した場合』なる極めて限られた場合につき記載されているのみであり、「他の第7?12族の遷移金属不均一触媒を使用した場合」、「Ge含有モノマーを使用した場合」及び「他のシラン化合物(例えば直鎖状の式A_(n)H_(2n+2)のシラン化合物等)のみを使用した場合」などについては記載されていない。
また、請求項15又は請求項18に記載された方法で作製された「オリゴマー又はポリマー(の混合物)」を使用し、請求項20又は21に記載された方法で製造された請求項1又は8に記載された「組成物」を使用した場合に、上記解決課題(「0.1原子%以下の炭素含量を有する非晶質水素化半導体膜を形成する」こと)を解決できるであろうと当業者が認識できるような本願出願前(優先日前)における当業者の技術常識が存するものとも認められない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、請求項15又は請求項18に記載された方法で作製された「オリゴマー又はポリマー(の混合物)」を使用し、請求項20又は21に記載された方法で製造された請求項1又は8に記載された「組成物」に係る発明が、上記解決課題を解決できるであろうと当業者が認識することができるように記載したものということはできないから、本願請求項1、8、15、18、20又は21及び同各項を引用する請求項2ないし7、9ないし14、16、17又は19に記載された事項で特定される各発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものということはできない(平成17年(行ケ)10042号判決参照。)。
したがって、本願請求項1ないし21の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)の規定を満たしていない。

IV.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成28年11月4日付け意見書において、下記1.の主張を行い、もって、上記当審が通知した拒絶理由1及び2は解消している旨主張しているので、以下検討する。

1.審判請求人の主張内容
審判請求人が上記意見書において主張する内容のうち、上記II.及びIII.でそれぞれ検討した拒絶理由に関する主張内容は、以下の(1)のア.及びイ.並びに(2)のとおりである。

(1)「(1)特許法第36条第6項第1号の拒絶理由について」の欄
(審決注:「特許法第36条第6項第2号」の誤記であるものと認められる。)

ア.上記理由1の(1)の点について
「(a)
審判官殿は、請求項1および6について、下記ア.及びイ.の点で技術的に意味が不明であるから、上記請求項1及び6並びに同各項を引用する請求項2ないし5及び請求項7ないし10の各記載では、同各項に係る発明が明確でないと、認定されている。

ア.審判官殿は、『上記請求項1及び6の「500から1500g/モルの分子量を有する」なる記載は、「オリゴマー及び/又はポリマーが「500から1500g/モルの平均分子量を有する」ことを意味するのか、「オリゴマー及び/又はポリマーの全ての分子が500から1500g/モルの分子量を有する」こと(すなわち、500g/モル未満の分子種及び1500g/モルを超える分子種が存在しないこと)を意味するのか、それ以外の意味であるのか、不明である。』と認定されている。
当該補正により、「500から1500g/モル」の「分子量分布」を有することが明らかとなった。例えば、本願明細書には、「他の実施形態では、分子量(分子量分布又は平均分子量でよい)が、約500から約1500g/モル」(段落0064)でよいことが開示されている。
イ.審判官殿は、『当該「オリゴマー及び/又はポリマー」がいかなる化学構造を有するものであるか規定されておらず、いかなる化学構造を有する「オリゴマー及び/又はポリマー」であるのか不明である。』と認定されている。
当該補正により、「組成物」は、「オリゴマー及び/又はポリマーの混合物」を含み、「前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物におけるオリゴマー及び/又はポリマーのそれぞれは、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含み、前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも65モル%は、500から1500g/モルの分子量分布を有する」ことが明らかとなった。
即ち、「組成物」は、所定の「分子量分布」を有する「オリゴマー及び/又はポリマーの混合物」を含み、特に、「少なくとも65モル%」が「500から1500g/モルの分子量分布」を有し、その他の35モル%以下が500g/モルよりも小さい又は1500g/モルよりも大きい分子量分布を有することが明らかとなった。
本願発明は、紫外線重合を用いた場合と比較して、当該分子量分布の「オリゴマー及び/又はポリマー」を得ることができる。
ここで、下記の特許掲載公報等には、「化学構造」を具体的に特定しなくとも、特許された複数の発明が開示されている。また、文献(ii)においては、「GPC法により測定した重量平均分子量(Mw)が1×10^(4)?1000×10^(4)であるオレフィン重合体」(請求項1)が「化学構造」を十分に特定せずに特許されている。
(i)特許第5890426号公報
(ii)特許第5844891号公報
(iii)特公平03205411号公報
(iv)特許第5295789号公報
(v)特公平07228629号公報
したがって、「オリゴマー及び/又はポリマー」の具体的な化学構造を特定せずとも、請求項1に記載の発明の技術的意味が明確である。請求項6についても同様である。」

イ.上記理由1の(2)の点について
「(b)
審判官殿は、『本願請求項1又は6には、それぞれ、「オリゴマー及び/又はポリマーの混合物を、少なくとも65モル%含む組成物」又は「オリゴマー及び/又はポリマーの混合物を、少なくとも75モル%含む組成物」と記載されているが、当該「組成物」は種々の成分が混合されたものであることが当業者に自明であり、組成物全体のモル重量又はモル体積は一義的に決定できるものではなく、組成物が何モルあるか、すなわち組成物1モルあたり「オリゴマー及び/又はポリマーの混合物」が何モルの割合で占めるかの「モル%」で組成比が決定されるものでもないことも当業者に自明である。
してみると、本願請求項1又は6の上記記載では、「混合物」が占める組成比をいかなる範囲(重量比、質量比又は体積比等)に規定しようとするものか不明であるから、上記請求項1及び6並びに同各項を引用する請求項2ないし5及び請求項7ないし10の各記載では、同各項に係る発明が明確でない。』と認定されている。
上述の通り、例えば請求項1において、「組成物」は、所定の「分子量分布」を有する「オリゴマー及び/又はポリマーの混合物」を含み、特に、「少なくとも65モル%」が「500から1500g/モルの分子量分布」を有し、その他の35モル%以下が500g/モルよりも小さい又は1500g/モルよりも大きい分子量分布を有することが明らかとなった。
ここで、当業者であれば、予め定められた「分子量分布」を有する「オリゴマー及び/又はポリマーの混合物」において、「500から1500g/モル」を有するものが、何モル%含まれるかを計算することは、例えば、「ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)」等の技術を用いれば容易である。
また、一例として、2014年12月12日付の審判請求書に記載の通り、「参考資料2の証拠C」を用いた方法によれば、予め定められた「分子量分布」を有する「オリゴマー及び/又はポリマーの混合物」から、「50mol%未満(約48.5%)の成分を500g/mol?1500g/molの分子量範囲に有する」ことを算出することも可能である(詳細は参考資料2の説明を参照)。
さらに、下記の特許掲載公報等には、「分子量分布」を開示しているものの化学構造を特定していないものも特許されている。また、文献(ii)においては、「GPC法により測定した重量平均分子量(Mw)が1×10^(4)?1000×10^(4)であるオレフィン重合体」(請求項1)についてクレームされており、「重量平均分子量(Mw)」が「GPC法により測定」されていることが明らかである。
(i)特許第5890426号公報
(ii)特許第5844891号公報
(iii)特公平03205411号公報
(iv)特許第5295789号公報
(v)特公平07228629号公報
よって、当業者であれば、請求項の記載から十分に「組成物」を特定することができるので、請求項に記載の発明は明確である。また、特許される程度に十分に明確に記載されている。
なお、請求項1では、「前記組成物において、水素及びシリコン、水素及びゲルマニウム、又は、水素、シリコン及びゲルマニウムを含む全てのオリゴマー及び/又はポリマーの総量が100モル%」であることが記載されている。これにより、「前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも65モル%は、500から1500g/モルの分子量分布を有する」との記載の比較の対象がより明確である。」

(2)「(2)特許法第36条第6項第2号の拒絶理由について」の欄
(審決注:「特許法第36条第6項第1号」の誤記であるものと認められる。)

「審判官殿は、『・・(中略)・・したがって、本願請求項1、6、11又は14及び同項を引用する請求項2ないし5、7ないし10、12、13又は15に記載された事項で特定される各発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができない。』と認定されている。
しかしながら、下記の通り、請求項に係る発明は、発明の詳細な説明において記載された発明に対応する。例えば、「本発明の組成物のいくつかの実施形態では、薄い半導体膜の炭素含量が、0.05原子%以下である」(段落0067)ことが開示されている。
そして、「一般に、1種の組成物は、オリゴシラン及び/又はポリシラン(本明細書に記載されている)と、オリゴシラン及び/又はポリシランが可溶な溶媒とを含有する」(段落0070)ことが開示され、「組成物から生成された半導体薄膜の純度を改善するために、インク組成物は、オリゴ/ポリシランと溶媒とから本質的になることが好ましい」(段落0071)ことが記載されている。さらに、「溶媒」に関し、「広く様々な溶媒を含めることができる」(段落0070)ことが記載されている。
このように、本願明細書には、本願発明による効果を得るために十分で包括的な開示がなされている。以上の通り、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
一方で、液相配合物からの炭素を小さくすることが唯一の課題ではない。例えば、本明細書の発明の背景において、「生成物は、比較的高い分子量のポリシランであるが、これは、無極性有機溶媒中であっても、処理し難く又は不溶性である可能性がある」(段落0004)ことが開示されている。そして、「ポリシラン」の可溶性については、段落0017、0040、0070等に開示されている。
また、本明細書の発明の背景において、「分岐が最小限に抑えられた(又は分岐がない)実質的に線状ポリ(シクロペンタシラン)を含有する。そのようなポリ(シクロペンタシラン)は、無極性溶媒中比較的可溶性であることが予測され、ポリ(シクロペンタシラン)を含有するインクの粘度を増大させて、このインクを基板上にコーティング又は印刷するプロセスをさらに促進させる可能性がある」(段落0005)ことが開示されている。
これに対して、「本発明のポリシラン材料は、低炭素含量を有し、スピンコート又は印刷(例えば、インクジェット印刷)を介してシリコン薄膜を作製するのに優れた物理的性質を有する」(段落0016)ことが記載されている。そして、「本発明の方法は、紫外線重合よりも良好な、生成物の分子量分布及び分子量範囲の制御をもたらすことができ、より高い安定性(ニート及び/又は溶液中)及びより長い保存寿命(例えば、様々な温度及び/又はその他の貯蔵条件で)をオリゴ/ポリシランに与えることができる」(段落0030)ことが記載されている。
加えて、「本発明の方法は、PhSiH3から調製された比較例であるポリシランよりも、大きな平均分子量(重量又は数平均分子量でもよく、及び/又はポリシラン鎖中のシリコン原子の平均数に反映させることができる)を有するポリシラン混合物を提供することができる」(段落0051)ことが記載されている。
このように、本願明細書には、複数の解決すべき課題が記載されており、本願発明によりこれらの課題の少なくとも1つを解決できることが開示されている。よって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえる。」

2.検討
そこで、審判請求人の上記(1)のア.及びイ.並びに(2)の各主張につき以下検討する。

(1)上記1.(1)の主張について
上記1.(1)のア.及びイ.の各主張につき併せて検討する。

a.審判請求人の上記ア.及びイ.の各主張を検討するにあたり、審判請求人は、(i)ないし(v)の特許掲載公報等に、「化学構造」を具体的に特定しなくとも、特許された複数の発明が開示されており、また、文献(ii)においては、「GPC法により測定した重量平均分子量(Mw)が1×10^(4)?1000×10^(4)であるオレフィン重合体」(請求項1)が「分子量分布」は開示されているものの「化学構造」を十分に特定せずに特許されているから、「オリゴマー及び/又はポリマー」の具体的な化学構造を特定せずとも、「組成物」に係る本願発明は、明確である旨主張しているので、前提としてまず検討する。
上記(i)ないし(v)の各特許文献(審決注:上記(iii)及び(v)の文献はいずれも存在しないので、それぞれ特許公開公報の番号であるとして検討した。)を検討すると、上記各特許文献に記載された発明は、いずれも、重合に関与する官能基及び重合後のポリマー構成単位の化学構造が当業者にとってその技術常識に照らして自明な「(α-)オレフィン類」、「スチレン」又は「ジエン類」などのモノマーからなるポリマーに係るものであり、当該各ポリマーの化学構造は、当業者がその技術常識に照らして一義的に明らかなものである。
それに対して、本願発明における「オリゴマー及び/又はポリマー(の混合物)」については、本願明細書の発明の詳細な説明を参酌すると、(シクロ)ヒドロシラン化合物をモノマーとし、脱水素カップリングにより重合することのみが理解できるものの(【0015】)から理解できるものの、当業者の技術常識照らしても、当該モノマーに係る脱水素が行われるSi部位(重合位置)が決まったものではないから、重合後のポリマー構成単位の化学構造は不明であり、もって、ポリマーの化学構造は、当業者がその技術常識に照らしても不明であるものと理解するほかはない。
(なお、使用する7?12族遷移金属触媒からみて、特にシクロヒドロシラン化合物をモノマーとした場合、開環カップリング重合が生起する可能性さえ存するものと認められる。)
なお、「重量平均分子量(Mw)」は、GPC測定における試料(組成)物1種に対して1個の値となる物性値であって、試料(組成)物中に含まれる個々の(ポリマー)分子の分子量の分散度合いである「分子量分布」を直接に表す物性値ではないことが、当業者に自明であって、ましてやポリマーの化学構造に直接関係する物性値でもない。
してみると、構成成分であるポリマーの化学構造が不明な「組成物」に係る本願発明は、当業者がその技術常識に照らしてポリマーの化学構造が明らかな上記各特許文献に記載された発明とは、開示を要求される範囲が異なり、上記各特許文献に記載された発明につき特許が付与されているからといって、「組成物」に係る本願発明につき、ポリマーの化学構造を明らかにせずに、発明が明確であり、特許を付与すべきであるということはできない。
したがって、審判請求人の上記特許文献に基づく主張は、当を得ないものである。

b.上記a.においても示したとおり、「分子量分布」は、試料(組成)物中に含まれる個々の(ポリマー)分子の分子量の分散度合いであるものと認められ、個々の(ポリマー)分子の分子量又はポリマー(混合物)の平均分子量を意味するものではない。
(ちなみに、「分子量分布」を表す物性値としては、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)の値(「多分散度」ともいう。)が当業界で周知慣用である(必要ならば上記文献(i)参照。)。)
なお、「モル%」で表現された割合については、上記II.(2)ア.で説示したとおりの理由により、技術的に意味が不明である。
また、GPC測定による得られる測定値につき検討すると、GPC測定で得られる測定値(チャート)は、その測定原理からみて、横軸を流出時間(本願発明においては、ポリマー分子の分子量(無名数又はg/モル)を表す。)、縦軸を粒子の検出頻度(本願発明においては、ポリマー分子の数を表す。)とし、各分子量を有する分子の個数を測定時間中、連続的に測定したものである(必要ならば原審における平成26年4月25日付け意見書に添付された「参考資料2」の証拠B(EXHIBIT B)を参照。)から、GPC測定による得られる測定値に基づいて、各分子量を有する分子の個数の分布(及びそれを統計処理してなる「平均分子量」など)が判明するのみであり、さらに、ポリマー分子の化学構造が判明している場合にのみ、当該GPC測定による得られる測定値に基づいて、そのポリマー分子の分子量からその重合度(本願発明における「ポリマーのSi、Ge、又は、Si及びGe単位の鎖長」)(の分布)が算出できるものである(なお、ポリマー分子の化学構造が不明である場合には、上記重合度を算出することができない。)。
しかるに、本願明細書及び図面につき検討しても、横軸がSi反復単位(数)となっているGPCデータのみ(【図2】、【図5】ないし【図7】、【図9】及び【図10】参照)であり、横軸が流出時間(本願発明においては、ポリマー分子の分子量(無名数又はg/モル)を表す。)となっているGPCデータが存するものではない。
してみると、本願明細書及び図面の記載を参酌しても、請求項1の「前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも65モル%は、500から1500g/モルの分子量分布を有する組成物」なる記載及び上記請求項8の「前記オリゴマー及び/又はポリマーの混合物における前記オリゴマー及び/又はポリマーの少なくとも75モル%は、15から1000個のSi、Ge、又は、Si及びGe単位の鎖長を有する組成物」なる記載につき、その技術的意義を当業者が理解することができるものではない。
したがって、審判請求人の上記(1)のア.及びイ.の主張は、いずれも技術的根拠を欠くものであり、当を得ないものである。

(2)上記1.(2)の主張について
本願明細書の発明の詳細な説明には、審判請求人が主張するとおり、「本発明のポリシラン材料は、低炭素含量を有し、スピンコート又は印刷(例えば、インクジェット印刷)を介してシリコン薄膜を作製するのに優れた物理的性質を有する」(【0016】)こと、「本発明の方法は、紫外線重合よりも良好な、生成物の分子量分布及び分子量範囲の制御をもたらすことができ、より高い安定性(ニート及び/又は溶液中)及びより長い保存寿命(例えば、様々な温度及び/又はその他の貯蔵条件で)をオリゴ/ポリシランに与えることができる」(【0030】)こと、「本発明の方法は、PhSiH_(3)から調製された比較例であるポリシランよりも、大きな平均分子量(重量又は数平均分子量でもよく、及び/又はポリシラン鎖中のシリコン原子の平均数に反映させることができる)を有するポリシラン混合物を提供することができる」(【0051】)こと、「本発明の組成物のいくつかの実施形態では、薄い半導体膜の炭素含量が、0.05原子%以下である」(【0067】)こと、「一般に、1種の組成物は、オリゴシラン及び/又はポリシラン(本明細書に記載されている)と、オリゴシラン及び/又はポリシランが可溶な溶媒とを含有する」(【0070】)こと、「組成物から生成された半導体薄膜の純度を改善するために、インク組成物は、オリゴ/ポリシランと溶媒とから本質的になることが好ましい」(【0071】)こと及び「溶媒」に関し、「広く様々な溶媒を含めることができる」(【0070】)ことなどが記載されてはいるものの、これらの事項は、シラン化合物に基づく半導体膜製造の技術分野における「シラン材料」の望ましい物性などにつき単に記載したものに過ぎず、本願発明の「作成する方法」による「組成物」が上記各事項に係る物性を示すことを客観的に認識することができるような記載ではない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明には、審判請求人が主張するとおり、発明の背景として「生成物は、比較的高い分子量のポリシランであるが、これは、無極性有機溶媒中であっても、処理し難く又は不溶性である可能性がある」(【0004】)こと及び「分岐が最小限に抑えられた(又は分岐がない)実質的に線状ポリ(シクロペンタシラン)を含有する。そのようなポリ(シクロペンタシラン)は、無極性溶媒中比較的可溶性であることが予測され、ポリ(シクロペンタシラン)を含有するインクの粘度を増大させて、このインクを基板上にコーティング又は印刷するプロセスをさらに促進させる可能性がある」(【0005】)ことがそれぞれ記載されてはいるものの、発明の詳細な説明における他の記載を検討しても、無極性溶媒中への溶解性につき本願発明の目的とすることが開示されておらず(【0006】?【0011】参照)、本願発明の「作成する方法」による「組成物」が上記「溶解性」に係る物性を示すことを認識できるような記載もないから、当該「溶解性」に係る事項が、本願発明の課題であると認めることはできない。
なお、本願明細書及び図面には、実施例1で製造したシラン材料とシクロアルカン溶媒を使用してインクを構成した後、そのインクを用いて高純度の半導体膜が形成できたことが記載されている(【0078】?【0079】及び【図12】)が、そもそも「実施例1で製造したシラン材料」が請求項1又は8に記載された事項を具備する「組成物」であることを把握できる記載はないから、当該記載に基づき、「本発明の組成物のいくつかの実施形態では、薄い半導体膜の炭素含量が、0.05原子%以下である」こと又は上記本願発明の他の課題を解決できるものと客観的に把握することはできない。
してみると、審判請求人の上記1.(2)の主張は、本願明細書及び図面の記載に基づかないものであるか、技術的根拠を欠くものであって、当を得ないものである。

(3)小括
以上のとおり、審判請求人の上記意見書における主張は、いずれも当を得ないものであるから、採用することができず、上記II.及びIII.で説示した当審の理由1及び2に係る検討結果を左右するものではない。

V.当審の判断のまとめ
以上を総合すると、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第4 まとめ
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないものであるから、同法第49条第4号の規定に該当し、その余につき検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-30 
結審通知日 2017-01-31 
審決日 2017-02-13 
出願番号 特願2009-531463(P2009-531463)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 周史  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
橋本 栄和
発明の名称 シリコンポリマー、シリコン化合物の重合方法、及びそのようなシリコンポリマーから薄膜を形成する方法  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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