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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01B |
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管理番号 | 1330057 |
異議申立番号 | 異議2016-700800 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-09-01 |
確定日 | 2017-05-24 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5871762号「導電膜形成用組成物および導電膜の製造方法」の請求項1?6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5871762号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第5871762号の請求項1?6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5871762号の請求項1?6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年9月27日に特許出願され、平成28年1月22日に特許の設定登録がされ、その後、本件特許に対し、特許異議申立人半谷仁(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年10月28日付けで当審から取消理由が通知され、平成29年1月5日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、平成29年1月18日付けで当審から訂正拒絶理由が通知され、平成29年2月21日付けで特許権者から意見書及び手続補正書が提出され、これに対して申立人から平成29年3月22日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 平成29年2月21日付けの手続補正書によって補正された本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「金属銅粒子および/または酸化銅粒子」と記載されているのを、「酸化銅粒子」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2?6も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4に「前記金属銅粒子および酸化銅粒子」と記載されているのを、「前記酸化銅粒子」に訂正する。請求項4の記載を引用する請求項5?6も同様に訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び独立特許要件 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1における「金属銅粒子および/または酸化銅粒子」という記載から「金属銅粒子および/または」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正前の請求項1?6について、請求項2?6は、請求項1の記載を引用し、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正事項1に係る訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正事項1によって生じる請求項1と請求項4の記載の不整合を解消するためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正前の請求項4?6について、請求項5、6は、請求項4の記載を引用し、訂正事項2によって記載が訂正される請求項4に連動して訂正されるものであるから、訂正事項2に係る訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。 (3)独立特許要件について また、本件訂正請求においては、請求項1?6の一群の請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 (4)小括 以上によれば、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立について 1 本件訂正発明 上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求により訂正された請求項1?6に係る発明(以下、「本件訂正発明1?6」という。)は、それぞれ、平成29年2月21日付けの手続補正書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 銅含有ポリマーと、酸化銅粒子と、溶媒とを含み、 前記銅含有ポリマーが、 銅イオンおよび/または銅塩と、 前記銅イオンおよび/または前記銅塩と相互作用する官能基を有するポリマーとを含み、 前記銅イオンおよび/または前記銅塩が前記官能基を介して前記ポリマーに連結されており、 前記官能基が、アミノ基、アミド基、ピリジル基、ヒドロキシル基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも一つを含む、 導電膜形成用組成物。 【請求項2】 前記官能基がアミノ基、カルボキシル基、アミド基、およびピリジル基からなる群から選択される基である、請求項1に記載の導電膜形成用組成物。 【請求項3】 前記銅含有ポリマー中における銅イオンおよび銅塩の合計含有量が20質量%以上である、請求項1または2に記載の導電膜形成用組成物。 【請求項4】 前記銅含有ポリマーの含有量が、前記酸化銅粒子の合計質量100質量部に対して、2?50質量部である、請求項1?3のいずれかに記載の導電膜形成用組成物。 【請求項5】 前記銅塩がギ酸銅である、請求項1?4のいずれかに記載の導電膜形成用組成物。 【請求項6】 請求項1?5のいずれかに記載の導電膜形成用組成物を基材上に付与して、塗膜を形成する工程と、 前記塗膜に対して加熱処理および/または光照射処理を行い、導電膜を形成する工程とを備える、導電膜の製造方法。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1?6に係る特許に対して平成28年10月28日付けで当審から特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。なお、取消理由において採用しなかった特許異議申立理由はない。 「第1 手続の経緯 特許第5871762号(以下、「本件特許」という。)は、その特許出願が平成24年 9月27日にされ、その設定の登録が平成28年 1月22日にされたものである。 その後、本件特許の請求項1?6に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」?「本件特許6」ということがある。)について、平成28年 9月 1日に特許異議申立人半谷仁により特許異議の申立てがされた。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、「本件特許発明1?6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものである。 第3 記載要件 理由1(明確性)本件特許発明1?6は、特許請求の範囲の記載が下記の(1)の点で不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 (1)本件特許発明1?6は、「銅イオンおよび/または銅塩がポリマーの官能基を介してポリマーに連結されており」との発明特定事項を有しているが、この発明特定事項は特許異議申立書の第22頁下から第4行?第23頁第6行に記載された理由により明確ではないから、本件特許発明1?6は明確ではない。 したがって、本件特許1?6は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 第4 新規性・進歩性 理由2 (新規性)本件特許発明1?6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 理由3 (進歩性)本件特許発明1?6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 1 本件特許発明 ・・・ 2 引用文献 引用文献1:特開2009-256218号公報 (甲第1号証) 引用文献2:特開2010-176976号公報 (甲第2号証) 引用文献3:国際公開第2010/074119号(甲第3号証)」 3 当審の判断 (1)明確性要件違反(特許法第36条第6項2号)について ア 取消理由において引用した、特許異議申立書の22頁下から第4行?23頁第6行に記載された明確性要件違反の異議申立理由の内容は以下のとおりである。 「本件特許発明1において、銅イオンおよび/または銅塩がポリマーの官能基を介してポリマーに『連結』されていることが規定されている。 しかし、本件明細書において、この『連結』がいかなる技術的意義を有するものであり、いかなる化学的又は物理的形態を意味するのか、また、いかなる手段により『連結されている』ことを確認できるのか、何ら記載されていない。 そうすると、ある具体的な物が本件特許発明1の範囲に含まれるか否かについて、当業者が理解できるように記載されているとはいえず、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2?6も同様に不明確である。 よって、請求項1?6に係る本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。」 イ 特許請求の範囲に記載された用語の意義は、願書に添付した明細書の記載を考慮して解釈するものとされるところ(特許法第70条第2項)、本件特許の願書に添付した明細書には以下の事項が記載されている。 (ア)「【0010】 ・・・ ・・・銅含有ポリマーは、銅イオンおよび/または銅塩と、銅イオンおよび/または銅塩と相互作用する官能基(以後、相互作用性基とも称する)を有するポリマー(以後、配位性ポリマーとも称する)とを含む。形成される導電膜中に銅含有ポリマーが含まれることにより、配位性ポリマー中の相互作用性基が導電膜中の金属銅と相互作用すると共に、配位性ポリマーの相互作用性基以外の部分(有機成分)が基材と密着する。つまり、導電膜中において配位性ポリマーが金属銅と基材との両方に相互作用し、両者の密着を助けるプライマーとしての役割を果たす。また、銅含有ポリマー中に銅イオンまたは銅塩が含まれることにより、加熱処理または光照射処理を施した際に、それらが還元して金属銅が生成する。この生成した金属銅は、組成物に含まれる金属銅粒子や、酸化銅粒子が加熱処理または光照射処理によって還元されて生成する金属銅と、結着する。通常、ポリマーのような有機物と金属銅とは相分離状態を形成しやすく、金属銅が相互に独立したドメイン(領域)を形成しやすい。そのため、バインダーポリマーを含む導電膜中では金属銅が離散した状態で分布してしまい、導電性が劣化する場合が多かった。しかし、本発明においては、銅含有ポリマー中に含まれる銅イオンまたは銅塩が還元して金属銅を形成するため、有機物のドメインによって離散した状態にあった金属銅同士を連結し、結果として優れた導電性が達成される。」 (イ)「【0012】 (銅含有ポリマー) 銅含有ポリマーは、銅イオンおよび/または銅塩と、銅イオンおよび/または銅塩と相互作用する官能基(以後、相互作用性基とも称する)を有するポリマー(以後、配位性ポリマーとも称する)とを含む。銅イオンおよび/または銅塩は、相互作用性基を介してポリマーに連結されている。 ・・・」 (ウ)「【0017】 配位性ポリマー中には、アミノ基、アミド基、ピリジル基、ヒドロキシル基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも一つの官能基(以後、これらの総称として単に官能基とも称する)が含まれる。これらの基は、上述した銅イオンおよび銅塩と相互作用する。なお、相互作用としては、例えば、水素結合、配位結合、イオン結合などを含む。 ・・・」 (エ)「【0018】 配位性ポリマー中における上記官能基の導入位置は特に制限されず、主鎖、側鎖、または末端などが挙げられる。 ・・・」 (オ)「【実施例】 【0062】 以下の実施例により、本発明について更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 ・・・ 【0100】 ・・・本発明の導電膜形成用組成物を使用した場合、優れた導電性および密着性を有する銅薄膜を得ることができた。 ・・・」 (カ)「【0101】 一方、所定の官能基を有する銅含有ポリマーを使用していない比較例1?4では、導電性または密着性の少なくとも一方が劣っていた。 ・・・」 ウ 上記(イ)?(エ)によれば、「銅イオンおよび/または銅塩」は、「銅イオンおよび銅塩と相互作用する」「アミノ基、アミド基、ピリジル基、ヒドロキシル基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも一つの官能基」である「相互作用性基」を「主鎖、側鎖、または末端など」に有する「配位性ポリマー」と、この「相互作用性基」を介して連結されており、「相互作用としては、例えば、水素結合、配位結合、イオン結合などを含む」とされるところ、本件訂正発明1にいう「前記銅イオンおよび/または前記銅塩が前記官能基を介して前記ポリマーに連結されており」とは、「前記銅イオンおよび/または前記銅塩」が「前記ポリマー」と分離した状態で存在するのではなく、両者が「アミノ基、アミド基、ピリジル基、ヒドロキシル基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも一つの官能基」である「相互作用性基」を介して「水素結合、配位結合、イオン結合など」によって結合した状態にあることをいうものと解される。 そして、上記の解釈は、上記(ア)にあるように、導電膜中において相互作用性基を有する配位性ポリマーが金属銅と基材との両方に相互作用し、両者の密着を助けるプライマーとしての役割を果たすことで金属銅と基材が密着すること、及び、加熱処理または光照射処理を施した際に、銅含有ポリマー中に含まれる銅イオンまたは銅塩が還元されて金属銅が生成し、この金属銅が酸化銅粒子が還元されて生成された金属銅同士を連結し離散状態になることを防ぐことで優れた導電性が達成されることとも整合し、かかる作用機序は、上記(オ)、(カ)にある実施例及び比較例の記載によっても裏付けられている。 また、周知の測定手段等によって、「前記銅イオンおよび/または前記銅塩」が「前記ポリマー」と分離した状態で存在するのではなく、両者が「相互作用性基」を介して「水素結合、配位結合、イオン結合など」によって結合した状態にあることを確認することは、当業者にとって格別の困難を要することとはいえない。 エ 意見書における申立人の主張について (ア)申立人は、平成29年3月22日付けで提出した意見書において、「『前記銅イオンおよび/または前記銅塩が前記官能基を介して前記ポリマーに連結されており』という規定は、『溶媒の存在下、前記銅イオンおよび/または前記銅塩と前記ポリマーとを混合することにより製造されるポリマー』を意味すると当業者であれば解釈できます。」という平成29年2月21日付けで特許権者から提出された意見書の主張を「意見1」とした上で、この意見1に対し、当業者は、「溶媒の存在下、前記銅イオンおよび/または前記銅塩と前記ポリマーとを混合すること」という混合条件の特定されない記載では、「前記銅イオンおよび/または前記銅塩が前記官能基を介して前記ポリマーに連結されて」いると理解することができないから、上記意見1によっても、「前記銅イオンおよび/または前記銅塩が前記官能基を介して前記ポリマーに連結されており」という記載は不明確である旨、主張する。 しかし、上記ウで検討したとおり、本件訂正発明1にいう「前記銅イオンおよび/または前記銅塩が前記官能基を介して前記ポリマーに連結されており」とは、「前記銅イオンおよび/または前記銅塩」が「前記ポリマー」と分離した状態で存在するのではなく、両者が「アミノ基、アミド基、ピリジル基、ヒドロキシル基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも一つの官能基」である「相互作用性基」を介して「水素結合、配位結合、イオン結合など」によって結合した状態にあることをいうものと解され、上記意見1にある「溶媒の存在下、前記銅イオンおよび/または前記銅塩と前記ポリマーとを混合することにより製造されるポリマー」という特定がなくても明確であるから、申立人の上記主張を採用することはできない。 (イ)また、申立人は、上記意見書において、「相互作用として、水素結合、配位結合、イオン結合などが記載されている点を考慮しても、各基と銅イオンおよび銅塩との相互作用としてはどのようなものかは本願明細書に記載されているといえます。」という特許権者から提出された上記意見書における主張を「意見2」とした上で、この意見2に対し、「本件明細書の記載を参酌すれば、水素結合、配位結合、及びイオン結合は『相互作用』のあくまで一例であり、『相互作用』すなわち請求項1の『連結』が、水素結合、配位結合、及びイオン結合以外の場合を含むことは明らかである。例えば、分子間力に基づくファンデルワールス結合は『連結』であるのか否か、本件明細書の記載に基づき当業者は理解することはできない。」と主張する。 確かに、本件明細書の段落【0017】には、「水素結合、配位結合、イオン結合」は、「相互作用」の例として記載されているものの、本件明細書に接した当業者であれば、これら以外の手段によって、「前記銅イオンおよび/または前記銅塩」が「アミノ基、アミド基、ピリジル基、ヒドロキシル基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも一つの官能基」である「相互作用性基」を介して結合した状態にある場合であっても、上記ウで検討したとおり、導電膜中において相互作用性基を有する配位性ポリマーが金属銅と基材との両方に相互作用し、両者の密着を助けるプライマーとしての役割を果たすことで金属銅と基材が密着すること、及び、加熱処理または光照射処理を施した際に、銅含有ポリマー中に含まれる銅イオンまたは銅塩が還元されて金属銅が生成し、この金属銅が酸化銅粒子が還元されて生成された金属銅同士を連結し離散状態になることを防ぐことで優れた導電性が達成されるのであれば、このような結合状態についても、「前記銅イオンおよび/または前記銅塩が前記官能基を介して前記ポリマーに連結されており」といえることを理解できるから、申立人の上記主張についても採用することはできない。 オ 以上のとおりであるから、訂正後の請求項1?6に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。 (2)甲第1号証に基づく新規性・進歩性欠如(特許法第29条第1項第3号、第2項)について ア 特開2009-256218号公報(甲第1号証。以下「甲1」ということがある。他の甲号証についても同様。)に記載された発明(甲1発明)の認定 (ア)甲1には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 以下の式1で示される化合物およびギ酸銅を配合してなる銅前駆体組成物。 【化1】 (式中Xは、 【化2】 であり、R^(1),R^(2)はそれぞれ独立に炭素数1?6の置換基を有してもよいアルキル基を示す。また、R^(3)は炭素数4?10の2価基を示す。)」 「【請求項3】 さらに溶媒を含む請求項1または2に記載の銅前駆体組成物。 【請求項4】 さらにポリマー成分を含む請求項1?3のいずれかに記載の銅前駆体組成物。 【請求項5】 さらに銅粒子を含む請求項1?3のいずれかに記載の銅前駆体組成物。 【請求項6】 請求項1?5のいずれかに記載の銅前駆体組成物を基板上に塗布し、加熱処理することによる銅膜の製造方法。 【請求項7】 前記式1で示される化合物とギ酸銅とを混合して得られる銅錯体。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、エレクトロニクス用配線の形成などに有用な、低温で熱分解する銅前駆体組成物と、該銅前駆体組成物を用いた銅膜の製造方法に関する。」 「【0018】 本明細書中でいう銅前駆体組成物とは、熱分解により金属銅を生成する化合物である銅前駆体を含有する組成物のことを指し、本発明の銅前駆体組成物は、以下の式1で示される化合物とギ酸銅を配合することにより得られる。 【0019】 【化3】 【0020】 (式中Xは 【0021】 【化4】 【0022】 であり、R^(1),R^(2)はそれぞれ独立に炭素数1?6の置換基を有してもよいアルキル基を示す。また、R^(3)は炭素数4?10の2価基を示す。)。」 「【0030】 式1で示される化合物とギ酸銅とを配合し、本発明の銅前駆体組成物を得るにあたって、ギ酸銅としては無水ギ酸銅(II)、ギ酸銅(II)・二水和物、ギ酸銅(II)・四水和物などを用いることができる。また、ギ酸銅はそのまま混合してもよく、水溶液、有機溶媒溶液、有機溶媒懸濁液として混合してもよい。 【0031】 式1で示される化合物とギ酸銅を配合して本発明の銅前駆体組成物を製造する場合、式1で示される化合物を、ギ酸銅1等量に対して2?4等量程度加えることが好ましい。また、式1で示される化合物をそのまま混合してもよく、また、溶媒中で混合してもよい。式1で示される化合物とギ酸銅の配合は、0?100℃程度の温度の下で適切な攪拌機や混合機を用いて混合すればよい。 【0032】 式1で示される化合物とギ酸銅とを配合して得られた本発明の銅前駆体組成物中には、主成分として式1で示される化合物とギ酸アニオンを配位子として有する銅錯体が生成する。式1で示される化合物とギ酸アニオンを配位子として有する銅錯体の代表的な例としては[Cu(HCOO)_(2)(XCH_(2)CH(OH)CH_(2)OH)_(2)](ここで、Xは前記定義に同じ。)が挙げられる。 【0033】 式1で示される化合物およびギ酸銅を配合してなる銅前駆体組成物中には、その条件に応じて前述の銅錯体の他に溶媒や未反応の式1の化合物が含まれうるが、式1の化合物とギ酸銅を無溶媒で2:1の等量比で混合した場合は、ほぼ前述の銅錯体からなる銅前駆体組成物が得られる。 【0034】 前記方法によって得られる本発明の銅前駆体組成物は150℃以下の低温で熱分解して金属銅を生成する・・・。・・・ 【0035】 本発明の銅前駆体組成物は、液状であり、適切な溶媒を選ぶことで、式1で示される化合物およびギ酸銅以外の成分を任意の比率で混合することができ、そのような混合物についても本発明の銅前駆体組成物に含まれる。 【0036】 本発明の銅前駆体組成物に好ましく含まれうるその他の成分の第1は溶媒である。溶媒は、式1で示される化合物およびギ酸銅を配合した段階で溶媒が含まれていてもよく、その後に追加して加えても良い。溶媒は銅前駆体組成物の濃度、粘度等を調整するために有用である。 【0037】 溶媒には公知のあらゆる溶媒が使用可能で、複数種混合して用いてもよい。・・・ 【0038】 本発明の銅前駆体組成物に好ましく含まれうるその他の成分の第2はポリマー成分である。ポリマー成分は、基板との接着性向上、銅膜の堅牢性向上に有効である。ポリマー成分は、組成物中に溶解させてもよく、微粒子として分散させてもよいが、組成物を熱分解する温度では分解しないものである必要がある。好ましいポリマーとしては、アクリル系ポリマー(すなわち(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルなどのアクリル系モノマーの重合体またはそれらの共重合体)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタンなど公知のポリマーが使用可能である。ポリマー成分の好ましい含有量は、組成物中の不揮発分、すなわち組成物から溶媒を除いた成分、に対し0?50重量%である。 【0039】 本発明の銅前駆体組成物に好ましく含まれうるその他の成分の第3は導電性粒子である。導電性粒子としては、金属や炭素の粒子があげられ、金属粒子としては、金、銀、銅、ニッケルなどの粒子があげられる。熱分解により生じた銅と一体化できるという点で銅粒子が最も好ましい。銅粒子のような導電性粒子は、熱分解の前後で体積変化をもたらさないので、これを適宜配合することは銅膜の内部応力を低減させるために有用である。銅粒子としては球状、棒状、板状、樹状などのあらゆる形状のものを利用することができる。大きさとしては平均短径が10nm?10μmのものが好ましく。大きさや形状の異なる銅粒子を混合して用いてもよい。好ましい銅粒子の形状は球状のものであり、好ましい大きさとしては平均粒径10?100nmである。銅粒子の好ましい配合量は、銅前駆体組成物中の不揮発分に対し、0?90重量%である。 【0040】 なお、前記第1?3のその他の成分以外で本発明の銅前駆体組成物に含まれうるその他の成分としては、レベリング剤、消泡剤、揺変剤など、塗布・印刷に用いる液状組成物に通常含まれる成分が挙げられるが、それらには限定されない。」 「【0043】 本発明の銅膜の製造方法では、前記銅前駆体組成物を基板に塗布した後、加熱処理を行って、銅膜を形成する。加熱処理の温度は特に制限されず、好ましくは70?350℃の範囲から選択されるが、本発明の銅前駆体組成物は低温でも銅膜を析出させることが可能であり、その特長を生かすためには、70?200℃で加熱処理することがより好ましく、70?150℃で加熱処理することがさらに好ましい。加熱処理の時間は特に制限はないが、好ましくは30秒から1時間の範囲で選択される。 【0044】 加熱処理の手段としては、熱風オーブン、ホットプレート、赤外線ヒーター、マイクロ波ヒーターなどを用いることができる。また、加熱処理は大気中で行っても非酸化性雰囲気中で行ってもよい。 【0045】 また加熱処理にレーザーを用いることもできる。レーザーを用いると局所的な加熱が可能になるため、本発明の銅前駆体組成物を全面に塗布した場合でも、レーザーを照射した箇所だけ銅膜を作製することができる。」 (イ)上記(ア)の請求項1、3?5、及び段落【0038】の記載からみて、甲1には、銅前駆体組成物に関し、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「以下の式1で示される化合物およびギ酸銅を配合してなる銅前駆体組成物であって、さらに溶媒、ポリマー成分及び銅粒子を含み、前記ポリマー成分が、アクリル系ポリマー(すなわち(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルなどのアクリル系モノマーの重合体またはそれらの共重合体)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタンなど公知のポリマーである銅前駆体組成物。 【化1】 (式中Xは、 【化2】 であり、R^(1),R^(2)はそれぞれ独立に炭素数1?6の置換基を有してもよいアルキル基を示す。また、R^(3)は炭素数4?10の2価基を示す。)」 イ 本件訂正発明1と甲1発明の一致点・相違点の認定 本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「銅前駆体組成物」は、「基板に塗布した後、加熱処理を行って、銅膜を形成する」(段落【0043】)ためのものであり、銅膜が導電膜であることは明らかであるから、両者は「導電膜形成用」である点で用途が一致する。 したがって、両者は、「溶媒を含む導電膜形成用組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 本件訂正発明1は「酸化銅粒子」を含むのに対して、甲1発明は「銅粒子」を含む点。 (相違点2) 本件訂正発明1では「銅含有ポリマーが、 銅イオンおよび/または銅塩と、 前記銅イオンおよび/または前記銅塩と相互作用する官能基を有するポリマーとを含み、 前記銅イオンおよび/または前記銅塩が前記官能基を介して前記ポリマーに連結されており、 前記官能基が、アミノ基、アミド基、ピリジル基、ヒドロキシル基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも一つを含む」のに対して、 甲1発明では「アクリル系ポリマー(すなわち(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルなどのアクリル系モノマーの重合体またはそれらの共重合体)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタンなど公知のポリマーである」「ポリマー成分」が、本件訂正発明1における上記「銅含有ポリマー」に相当するものであるのか否かが不明である点。 ウ 相違点の判断 事案に鑑み、相違点2について検討する。 (ア)上記(1)ウで検討したとおり、本件訂正発明1にいう「前記銅イオンおよび/または前記銅塩が前記官能基を介して前記ポリマーに連結されており」とは、「前記銅イオンおよび/または前記銅塩」が「前記ポリマー」と分離した状態で存在するのではなく、両者が「アミノ基、アミド基、ピリジル基、ヒドロキシル基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも一つの官能基」である「相互作用性基」を介して「水素結合、配位結合、イオン結合など」によって結合した状態(以下、「結合状態」という。)にあることをいうものと解される。 (イ)そこで、甲1発明における「ポリマー成分」が上記の結合状態にあるか否かについて検討すると、上記ポリマー成分のうち、「(メタ)アクリルアミド・・・の重合体」、「ポリビニルピロリドン」及び「ポリアミド」はアミド基を有するポリマーであり、また、「(メタ)アクリル酸・・・の重合体」は、カルボキシル基を有するポリマーであるから、上記ポリマー成分は、本件訂正発明1の「相互作用性基」を有している。 しかし、甲1には、「ポリマー成分は、基板との接着性向上、銅膜の堅牢性向上に有効である。ポリマー成分は、組成物中に溶解させてもよく、微粒子として分散させてもよいが、組成物を熱分解する温度では分解しないものである必要がある。」(段落【0038】)との記載はあるものの、ポリマー成分が銅イオン及び/又は銅塩と結合状態にあるか否かについての明示的な記載はなく、実施例の記載(段落【0047】?段落【0062】)においても、ポリマー成分を含んだ銅前駆体組成物の例は記載されていない。 (ウ)一方、本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には、「銅含有ポリマー」の製造方法について、以下の記載がある。 「【0015】 カルボン酸の銅塩としては・・・ポリマーと相互作用しやすい点から、ギ酸銅がより好ましい。」 「【0029】 銅含有ポリマーの製造方法は特に制限されず、公知の方法が採用できる。例えば、銅イオンおよび/または銅塩が含まれる溶液中に配位性ポリマーを所定量加えて、所定時間混合することにより製造することができる。つまり、溶媒の存在下、銅イオンおよび/または銅塩と配位性ポリマーとを混合することにより、銅含有ポリマーを製造できる。 混合条件は使用される配位性ポリマーの種類に応じて適宜最適な条件が選択されるが、効率よく銅含有ポリマーを製造できる点で、0?100℃(好ましくは20?60℃)の条件下で0.3?10時間(好ましくは0.5?3時間)混合することが好ましい。」 ・・・」 「【0063】 (合成例1) ナスフラスコに、銅塩であるギ酸銅・四水和物2.26g、メタノール80mlを入れ、窒素気流下、室温で3時間攪拌した。そこへポリエチレンイミン(30wt%水溶液)2.87gを加え、4時間攪拌した。・・・ 【0064】 (合成例2) ナスフラスコに、ギ酸銅・四水和物2.26g、メタノール80mlを入れ、窒素気流下、室温で3時間攪拌した。そこへポリジメチルアクリルアミド(30wt%水溶液)6.60gを加え、4時間攪拌した。・・・ 【0065】 (合成例3) ナスフラスコに、ギ酸銅・四水和物2.26g、メタノール80mlを入れ、窒素気流下、室温で3時間攪拌した。そこへポリ4-ビニルピリジン(30wt%メチルエチルケトン溶液)7.00gを加え、4時間攪拌した。・・・ 【0066】 (合成例4) ナスフラスコに、ギ酸銅・四水和物2.26g、メタノール80mlを入れ、窒素気流下、室温で3時間攪拌した。そこへポリアクリル酸(30wt%水溶液)4.80gを加え、4時間攪拌した。・・・ 【0067】 (合成例5) ナスフラスコに、ギ酸銅・四水和物2.26g、メタノール80mlを入れ、窒素気流下、室温で3時間攪拌した。そこへポリ4-ヒドロキシスチレン(30wt%メチルエチルケトン溶液)8.01gを加え、4時間攪拌した。・・・ 【0068】 (合成例6) ナスフラスコに、ギ酸銅・四水和物2.26g、メタノール80mlを入れ、窒素気流下、室温で3時間攪拌した。そこへポリジメチルアミノエチルアクリレート(30wt%水溶液)9.55gを加え、4時間攪拌した。・・・ 【0069】 (合成例7) ナスフラスコに、ギ酸銅・四水和物2.26g、メタノール80mlを入れ、窒素気流下、室温で3時間攪拌した。そこへポリビニルアルコール(30wt%水溶液)2.94gを加え、4時間攪拌した。・・・ 【0070】 (合成例8) ナスフラスコに、銅塩である酢酸銅・一水和物2.26g、メタノール80mlを入れ、窒素気流下、室温で3時間攪拌した。そこへポリエチレンイミン(30wt%水溶液)2.87gを加え、4時間攪拌した。・・・ 【0071】 (合成例9) ナスフラスコに、ギ酸銅・四水和物96mg、メタノール80mlを入れ、窒素気流下、室温で3時間攪拌した。そこへポリエチレンイミン(30wt%水溶液)2.87gを加え、4時間攪拌した。・・・ 【0072】 (合成例10) ナスフラスコに、ギ酸銅・四水和物192mg、メタノール80mlを入れ、窒素気流下、室温で3時間攪拌した。そこへポリエチレンイミン(30wt%水溶液)2.87gを加え、4時間攪拌した。・・・」 (エ)上記(ウ)の記載によれば、ポリマーと相互作用しやすいとされるギ酸銅(段落【0015】)を銅塩に用いた場合の合成例1?7、9、10(段落【0063】?段落【0069】、段落【0071】?段落【0072】)においても、ギ酸銅・四水和物とメタノールを窒素気流下の室温で3時間攪拌した上で、各種ポリマーの水溶液又はメチルエチルケトン溶液と混合し、さらに4時間攪拌して銅含有ポリマーを合成しているところ(なお、銅塩に酢酸銅・一水和物を用いた合成例8(段落【0070】)についても撹拌時間は上記各合成例と同一である。)、かかる記載に照らせば、本件訂正発明1にいう銅含有ポリマーを合成するためには、相互作用性基を有するポリマーと銅塩とを単に混合するのみでは足りず、両者が結合状態となるまで窒素気流下、所定温度で所定時間にわたって撹拌を継続する必要があるということができる。 (オ)そうすると、甲1発明における「ポリマー成分」は、本件訂正発明1にいう「相互作用性基」を有しているものの、甲1には、ポリマー成分が銅イオン及び/又は銅塩と結合状態にあるか否かについての明示的な記載はなく、実施例の記載(段落【0047】?段落【0062】)においても、ポリマー成分を含んだ銅前駆体組成物の例は記載されておらず、甲1発明におけるポリマー成分が銅イオン及び/又は銅塩と結合状態にあるということはできない。 また、甲1には、「ポリマー成分は、組成物中に溶解させてもよく」(段落【0038】)という記載があるものの、上記(エ)で検討したとおり、本件特許に係る合成例では、メタノールに溶解した状態のギ酸銅・四水和物と、水又はメチルエチルケトンに溶解した状態の各種ポリマーを結合状態とするために、窒素気流下の室温で、さらに4時間の撹拌を要しているから、上記記載をもって、甲1発明におけるポリマー成分が銅イオン及び/又は銅塩と結合状態にあるということもできない。 さらに、甲1には、ポリマー成分と銅イオン及び/又は銅塩が結合状態となるように、混合状条件等を最適化することの記載も示唆もないから、甲1発明において、当業者が上記相違点2に係る事項を採用する動機付けも存在しない。 エ 小括 以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。 同様の理由により、請求項1を引用する請求項2?6に係る発明である本件訂正発明2?6についても、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。 (3)甲第2号証に基づく新規性・進歩性欠如(特許法第29条第1項第3号、第2項)について ア 特開2010-176976号公報(甲2)に記載された発明(甲2発明)の認定 (ア)甲2には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 金属微粒子、銅前駆体、及び還元剤を含有する導電膜形成用組成物。 【請求項2】 金属微粒子が、金微粒子、銀微粒子、銅微粒子、白金微粒子、及びパラジウム微粒子からなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1に記載の導電膜形成用組成物。 【請求項3】 金属微粒子の平均粒子径が、1?400nmの範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電膜形成用組成物。 【請求項4】 銅前駆体が銅塩であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の導電膜形成用組成物。 【請求項5】 銅前駆体が、銅とアセチルアセトン誘導体との錯塩、及び銅カルボン酸塩からなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の導電膜形成用組成物。 【請求項6】 銅カルボン酸塩が、ギ酸銅、酢酸銅、トリフルオロ酢酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、イソ酪酸銅、2-メチル酪酸銅、2-エチル酪酸銅、吉草酸銅、イソ吉草酸銅、ピバリン酸銅、ヘキサン酸銅、ヘプタン酸銅、オクタン酸銅、2-エチルヘキサン酸銅、ノナン酸銅、シュウ酸銅、マロン酸銅、安息香酸銅、及びクエン酸銅からなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項5に記載の導電膜形成用組成物。」 「【請求項22】 さらに、金属微粒子の酸化及び/又は凝集を抑制するための配位性化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項21のいずれかに記載の導電膜形成用組成物。 【請求項23】 配位性化合物が、アルカンチオール、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂式カルボン酸、ポリヒドラゾン化合物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、及びポリエチレンオキシドからなる群より選ばれる一種又は二種以上の化合物であることを特徴とする請求項22に記載の導電膜形成用組成物。」 「【請求項30】 さらに、銅イオン安定化剤、導電膜平滑化剤、表面張力調整剤、粘度調整剤からなる群より選ばれる一種又は二種以上の添加剤を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項29のいずれかに記載の導電膜形成用組成物。 「【請求項32】 金属微粒子に、銅前駆体、及び還元剤を添加、混合することを特徴とする請求項1乃至請求項31のいずれかに記載の導電膜形成用組成物の製造方法。 【請求項33】 請求項1乃至請求項31のいずれかに記載の導電膜形成用組成物を基板に塗布し、加熱することを特徴とする導電膜の形成方法。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、導電膜形成用組成物及びその製造方法、並びに導電膜の形成方法に関するものであり、特にエレクトロニクス分野で配線基板の回路パターン形成用塗布液、回路パターン形成方法として好適に用いることができる。」 「【0062】 まず、本発明の導電膜形成用組成物について説明する。 【0063】 本発明の導電膜形成用組成物は、金属微粒子、銅前駆体、及び還元剤を含む。 【0064】 本発明の導電膜形成用組成物において、金属微粒子としては、特に限定するものではないが、例えば、金、銀、銅、白金、及びパラジウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属種を含有するものである。これらの金属種は、単体であってもその他の金属との合金であっても差し支えない。これらの中でもコスト面、入手の容易さ、及び導電膜形成時の触媒能から、銀、銅、及びパラジウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属種を含有することが好ましい。これら以外の金属微粒子を使用しても差し支えないが、銅前駆体の銅イオンにより金属微粒子が酸化を受けたり、触媒能が低下若しくは発現せず、銅前駆体から金属銅への還元析出速度が低下するおそれがあるため、上記した金属微粒子を使用することが望ましい。 【0065】 本発明の導電膜形成用組成物において、金属微粒子は平均粒子径が1?400nmの範囲のものである。金属微粒子の粒子径が1nm未満になると、金属表面の活性が非常に高くなり、酸化されたり、溶解するおそれがある。また、400nmを超えると、長期保存した場合に金属微粒子が沈降することがある。よって、上記範囲内であることが望ましい。」 「【0070】 本発明の導電膜形成用組成物において、銅前駆体としては、銅イオンを含有する化合物であればよく、特に限定するものではないが、例えば、銅イオンと、無機アニオン種及び/又は有機アニオン種とからなる銅塩を用いることができる。それらの中でも、銅カルボン酸塩、及び銅とアセチルアセトン誘導体との錯塩からなる群より選ばれる一種又は二種以上を用いることが好ましい。 【0071】 具体的には、銅カルボン酸塩としては、例えば、ギ酸銅・・・等が好適なものとして挙げられる。・・・」 「【0073】 本発明の導電膜形成用組成物において、還元剤としては、銅イオンを金属銅まで還元できる還元力を有する化合物であればよく、特に限定するものではないが、例えば、ヒドラジン類、ジオール類、2-アミノエタノール類、ヒロドキシルアミン類、α-ヒドロキシケトン類、アルデヒド類、及びギ酸からなる群より選ばれる一種又は二種以上であることが好ましい。」 「【0219】 本発明の導電膜形成用組成物は、上記成分に加えて、金属微粒子同士の凝集及び/又は酸化を抑制する、配位性化合物を含有しても一向に差し支えない。 【0220】 本発明の導電膜形成用組成物において、配位性化合物としては、特に制限するものではないが、例えば、チオール基、ニトリル基、アミノ基、ヒドロキシル基、又はヒドロキシカルボニル基からなる群より選ばれる一種又は二種以上の極性官能基を有する単分子化合物や、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる群より選ばれる一種又は二種以上のヘテロ原子を分子構造内に有するポリマー等が挙げられる。このような単分子化合物としては、例えば、アルカンチオール、脂肪族アミン、芳香族アミン、又は脂式カルボン酸が挙げられ、ポリマーとしては、例えば、ポリヒドラゾン化合物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、及びポリエチレンオキシド等が挙げられる。」 「【0225】 本発明の導電膜形成用組成物は、上記成分に加えて、銅イオン安定化剤、導電膜平滑化剤、濃度調整剤、表面張力調整剤、粘度調整剤等の添加剤を含有しても良い。」 「【0228】 本発明の導電膜形成用組成物において、濃度調整剤、表面張力調整剤、粘度調整剤としては、特に制限するものではないが、例えば、各成分が溶解し、反応しない有機溶媒が挙げられ、所望の濃度、表面張力、粘度となるように適宜添加すればよい。・・・」 「【0231】 次に本発明の導電膜形成用組成物の製造方法について説明する。 【0232】 本発明の導電膜形成用組成物は、上記した、金属微粒子、銅前駆体、及び還元剤を混合することで製造することができる。 【0233】 本発明の導電膜形成用組成物の製造方法において、混合方法に特に制限はなく、公知の方法を利用できる。混合する順序に関しても特に制限はないが、例えば、金属微粒子に、順次、銅前駆体、及び還元剤を添加し、混合する方法等が挙げられる。また、配位性化合物を含有させる場合には、例えば、予め上記した金属微粒子に配位させてから、この金属微粒子に、順次、銅前駆体、及び還元剤を添加し、混合することが好ましい。 【0234】 本発明の導電膜形成用組成物の製造方法において、製造工程では溶媒を添加してもよい。添加する溶媒としては、銅前駆体、及び還元剤が溶解し、それらと反応しないものであれば、特に限定するものではないが、例えば、水、アルコール類、エーテル類、エステル類、炭化水素類及び芳香族炭化水素類から選ばれる一種、又は相溶性のある二種以上の混合物が挙げられる。」 「【0243】 本発明の導電膜の形成方法においては、本発明の導電膜形成用組成物を基板上に塗布した後に、加熱することによって、銅前駆体を還元剤により還元させると共に、有機物を分解、揮発させることにより除去される。 【0244】 本発明の導電膜の形成方法において、加熱は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。・・・また、不活性ガス中には、金属微粒子の酸化に大きな影響を与えない程度ならば酸素を含んでいても良く、その濃度は、通常2000ppm以下であり、500ppm以下がさらに好ましい。 【0245】 本発明の導電膜の形成方法において、加熱温度は、銅前駆体が還元剤により還元され、有機物が分解、揮発する温度であれば、特に制限はない・・・。・・・」 (イ)上記(ア)の請求項30における「銅イオン安定化剤、導電膜平滑化剤、表面張力調整剤、粘度調整剤からなる群より選ばれる一種又は二種以上の添加剤」の例として、段落【0228】には「有機溶媒」が記載されているから、請求項1、2、4、22、23、30及び段落【0028】の記載からみて、甲2には、導電膜形成用組成物に関し、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。 「金属微粒子、銅前駆体、還元剤及び有機溶媒を含有する導電膜形成用組成物であって、前記金属微粒子が銅微粒子であり、前記銅前駆体が銅塩であり、さらに、前記金属微粒子の酸化及び/又は凝集を抑制するための配位性化合物を含有し、前記配位性化合物が、アルカンチオール、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂式カルボン酸、ポリヒドラゾン化合物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、及びポリエチレンオキシドからなる群より選ばれる一種又は二種以上の化合物である導電膜形成用組成物。」 イ 本件訂正発明1と甲2発明の一致点・相違点の認定 本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「有機溶媒」は、本件訂正発明1の「溶媒」に相当するから、両者は、「溶媒を含む導電膜形成用組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点3) 本件訂正発明1は「酸化銅粒子」を含むのに対して、甲2発明は「金属微粒子」として「銅微粒子」を含有する点。 (相違点4) 本件訂正発明1では「銅含有ポリマーが、 銅イオンおよび/または銅塩と、 前記銅イオンおよび/または前記銅塩と相互作用する官能基を有するポリマーとを含み、 前記銅イオンおよび/または前記銅塩が前記官能基を介して前記ポリマーに連結されており、 前記官能基が、アミノ基、アミド基、ピリジル基、ヒドロキシル基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも一つを含む」のに対して、 甲2発明では「アルカンチオール、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂式カルボン酸、ポリヒドラゾン化合物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、及びポリエチレンオキシドからなる群より選ばれる一種又は二種以上の化合物である」「配位性化合物」が、本件訂正発明1における上記「銅含有ポリマー」に相当するものであるのか否かが不明である点。 ウ 相違点の判断 事案に鑑み、相違点3について検討する。 (ア)甲2発明の「金属微粒子」に関し、甲2には、以下の記載がある。 「【請求項22】 さらに、金属微粒子の酸化及び/又は凝集を抑制するための配位性化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項21のいずれかに記載の導電膜形成用組成物。」 「【0064】 ・・・金属微粒子としては、特に限定するものではないが、例えば、金、銀、銅、白金、及びパラジウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属種を含有するものである。・・・これら以外の金属微粒子を使用しても差し支えないが、銅前駆体の銅イオンにより金属微粒子が酸化を受けたり・・・するおそれがあるため、上記した金属微粒子を使用することが望ましい。」 「【0065】 ・・・金属微粒子の粒子径が1nm未満になると、金属表面の活性が非常に高くなり、酸化されたり、溶解するおそれがある。」 「【0219】 本発明の導電膜形成用組成物は・・・金属微粒子同士の凝集及び/又は酸化を抑制する、配位性化合物を含有しても一向に差し支えない。」 「【244】 本発明の導電膜の形成方法において、加熱は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。・・・また、不活性ガス中には、金属微粒子の酸化に大きな影響を与えない程度ならば酸素を含んでいても良・・・い。」 (イ)上記(ア)の記載によれば、甲2には、「金属微粒子」の酸化が望ましくないものであって、これを回避すべきことが一貫して記載されているから、甲2発明における「金属微粒子」として酸化銅粒子を用いることは、その動機付けを欠くものであって、むしろ、阻害要因があるというべきものである。 また、甲2には、「金属微粒子」に加えて酸化銅粒子を用いる動機付けも見当たらない。 申立人は、平成29年3月22日付けの意見書で、甲4?9を援用して「銅導電性ペーストの技術分野において、その原料として銅粉及び/又は酸化銅粉を使用すること、そして酸化銅粉の場合はその後に銅に還元することは当業者の技術常識である。」(第2頁第16行?第18行)と主張するが、仮にそうであったとしても、上記のとおりであるから、甲2発明において、上記相違点3に係る事項を採用することは、当業者であっても容易になし得たこととはいえない。 (ウ)なお、甲2発明は「還元剤」を含有するが、還元剤に関し、甲2には、「本発明の導電膜形成用組成物において、還元剤としては、銅イオンを金属銅まで還元できる還元力を有する化合物であればよく」(段落【0073】)、「本発明の導電膜の形成方法においては、本発明の導電膜形成用組成物を基板上に塗布した後に、加熱することによって、銅前駆体を還元剤により還元させると共に、有機物を分解、揮発させることにより除去される。」(段落【0243】)、「本発明の導電膜の形成方法において、加熱温度は、銅前駆体が還元剤により還元され、有機物が分解、揮発する温度であれば、特に制限はない・・・。」(段落【0245】)と記載されるとおり、還元剤は、銅前駆体を還元するために用いられるものであって、酸化銅粒子の使用を前提に、これを還元するために用いることは予定されていないから、甲2発明が還元剤を含有することは、上記(イ)の判断を左右するものではない。 エ 小括 以上のとおりであるから、相違点4について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。 同様の理由により、請求項1を引用する請求項2?6に係る発明である本件訂正発明2?6についても、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。 (4)甲第3号証に基づく新規性・進歩性欠如(特許法第29条第1項第3号、第2項)について ア 国際公開第2010/074119号(甲3)に記載された発明(甲3発明)の認定 (ア)甲3には、以下の事項が記載されている。 「[請求項1] (A)平均粒子径が0.2?30μmである、融点が700℃以上の金属粒子と、 (B)平均粒子径が0.2?18μmである、融点が200℃以上700℃未満の金属粒子と、 (C)硝酸銅、シアン化銅、オクタン酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、シュウ酸銅、安息香酸銅及び銅アセチルアセトナートからなる群より選択される銅含有化合物;アミノ化合物;並びに場合により有機溶媒を混合してなるペーストと、 (D)熱硬化性樹脂と を含有する、外部電極用導電性ペースト。」 「[0012] 本発明の外部電極用導電性ペーストは、(A)平均粒子径が0.2?30μmである、融点が700℃以上の金属粒子と、(B)平均粒子径が0.2?18μmである、融点が200℃以上700℃未満の金属粒子と、(C)硝酸銅、シアン化銅、オクタン酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、シュウ酸銅、安息香酸銅及び銅アセチルアセトナートからなる群より選択される銅含有化合物;アミノ化合物;並びに場合により有機溶媒を混合してなるペーストと、(D)熱硬化性樹脂とを含有することを特徴とする。 [0013] (A)は、外部電極に導電性を付与するための成分であり、平均粒子径が0.2?30μmである、融点が700℃以上の金属粒子ならば、特に限定されない。・・・ [0014] (A)としては、Ag、Cu、Ni、Pd、Au及びPtの金属粒子が挙げられる。優れた導電性が比較的容易に得られることから、Agの粒子が好ましい。 [0015] また、Ag、Cu、Ni、Pd、Au及びPtの合金であって、融点が700℃以上の粒子が挙げられる。優れた導電性が比較的容易に得られることから、Ag合金の粒子が好ましい。 [0016] 合金の粒子としては、Ag、Cu、Ni、Pd、Au及びPtからなる群より選ばれる2種以上の元素で構成される合金の粒子が挙げられ、2元系のAg合金としては、AgCu合金、AgAu合金、AgPd合金、AgNi合金等が挙げられ、3元系のAg合金としては、AgPdCu合金、AgCuNi合金等が挙げられる。 [0017] さらに、合金の粒子としては、Ag、Cu、Ni、Pd、Au及びPtから選ばれる1種以上の元素と他の1種以上の元素で構成される合金の粒子であって、合金としての融点が700℃以上の粒子が挙げられる。他の元素としては、Zn、Al、Snが挙げられ、SnとAgとの2元系の合金の場合、SnとAgの重量比が、25.5:74.5よりもAgの比率が多いAgSn合金を使用することができる。」 「[0020] (B)は、外部電極に導電性を付与するための成分であるとともに、セラミック複合体の内部電極との接合性を向上するのに寄与する成分であり、平均粒子径が0.2?18μmである、融点が200℃以上700℃未満の金属粒子であるならば、特に限定されない。・・・ [0021] (B)としては、Sn、In、Zn及びBiの金属粒子が挙げられる。(B)は、非Pbであることが好ましい。 [0022] また、Sn、In及びBiの合金であって、200℃以上700℃未満の粒子が挙げられる。優れた導電性が比較的容易に得られることから、Sn合金が好ましい。合金の粒子としては、Sn、In及びBiからなる群より選ばれる2種以上の元素で構成される合金の粒子が挙げられ、2元系の合金としては、SnIn合金が挙げられる。 [0023] さらに、合金の粒子としては、Sn、In及びBiから選ばれる1種以上の元素と他の1種以上の元素で構成される合金の粒子であって、合金としての融点が200℃以上700℃未満の粒子が挙げられる。他の元素としては、例えばAg、Cu、Ni、Zn、Al、Pd、Au及びPtが挙げられ、Sn、In及びBiから選ばれる1種以上の元素と、Ag、Cu、Ni、Zn、Al、Pd、Au及びPtから選ばれる1種以上の元素とで構成される合金が挙げられる。具体的には、SnZn合金、SnAg合金、SnCu合金、SnAl合金、InAg合金、InZn合金、BiAg合金、BiNi合金、BiZn合金又はBiPb合金等の2元系合金で、融点が200℃以上700℃未満の粒子が挙げられ、3元系の合金としては、SnAgCu合金、InAgCu合金又はBiAgCu合金等の3元系の合金で、融点が200℃以上700℃未満の粒子が挙げられる。 [0024] SnとAgとの2元系の合金の場合、SnとAgの重量比が25.5:74.5よりもSnの比率が多い合金を使用することができる。特に、重量比が50:50?89:11のSnAg合金が好ましい。 [0025] (B)の・・・平均粒子径は・・・酸化防止の点から、2?16μmが好ましく、7?14μmがより好ましい。 [0026] (C)は、硝酸銅、シアン化銅、オクタン酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、シュウ酸銅、安息香酸銅及び銅アセチルアセトナートからなる群より選択される銅含有化合物;アミノ化合物;及び場合により有機溶媒を混合してなるペーストである。」 「[0028] 上記の銅含有化合物としては、アミノ化合物への可溶化の点から、ギ酸銅(無水物)、ギ酸銅(二水和物)、ギ酸銅(四水和物)、酢酸銅又は酢酸銅(一水和物)が好ましい。特に、ギ酸銅(四水和物)、酢酸銅(無水物)が好ましい。」 「[0032] 作業性等の点から、場合により、アルコール類、ケトン類、エーテル類、芳香族炭化水素類等の有機溶媒を添加して、粘度を調整することができる。」 「[0039] (C)は、特定の銅含有化合物、アミノ化合物及び場合により有機溶媒を配合し、混合することにより調製することができる。混合は、好ましくは20?65℃、より好ましくは20?50℃で、発熱反応が終了するまで攪拌する。 [0040] (D)は、バインダとして機能するものであり、熱硬化性樹脂であれば、特に限定されない。具体的には、尿素樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂のようなアミノ樹脂;ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型、ベンゼン環を多数有した多官能型であるテトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型又はトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型、脂環式等のエポキシ樹脂;オキセタン樹脂;レゾール型、アルキルレゾール型、ノボラック型、アルキルノボラック型、アラルキルノボラック型のようなフェノール樹脂;シリコーンエポキシ、シリコーンポリエステルのようなシリコーン変性有機樹脂、ビスマレイミド、ポリイミド樹脂等が挙げられる。・・・」 「[0044] エポキシ樹脂を用いる場合、硬化機構としては・・・アミノ樹脂やフェノール樹脂を、エポキシ樹脂の硬化剤として機能させてもよい。・・・ [0045] 中でも、フェノール樹脂によって硬化するエポキシ樹脂が好ましい。・・・」 「[0065] 本発明の外部電極用導電性ペーストは、(A)、(B)、(C)、(D)及び場合により(E)を配合し、また必要に応じて希釈剤を添加して、所望の電子部品のセラミック複合体に印刷又は塗布する方法に応じて、適切な粘度に調整することができる。・・・[0066] 希釈剤に用いられる有機溶剤としては・・・が例示される。・・・」 「[0068] 外部電極用導電性ペーストは、配合成分を、ライカイ機、プロペラ撹拌機、ニーダー、ロール、ポットミル等のような混合手段により、均一に混合して調製することができる。調製温度は、特に限定されないが、例えば常温で、具体的には20?30℃で調製することができる。 [0069] このようにして得られた外部電極用導電性ペーストを用いて、外部電極を有する積層セラミック電子部品を公知の方法に従って形成することができる。例えば外部電極用導電性ペーストを、積層セラミックコンデンサのセラミック複合体の内部電極取り出し面に、スクリーン印刷、転写、浸漬塗布等、任意の方法で印刷又は塗布する。・・・。次いで、外部電極を得るために、例えば80?450℃で、具体的には200?350℃で硬化をさせることができる。また、80?160℃で乾燥させた後、200?350℃で硬化させることもできる。なお、(B)、(C)の配合の効果を十分に発揮させるためには、硬化温度は250?350℃であることが好ましい。本発明の外部電極用導電性ペーストは、硬化の際に、特に不活性ガス雰囲気下に置く必要がないため、簡便である。」 (イ)上記(ア)の請求項1、段落[0014]及び段落[0040]の記載からみて、甲3には、外部電極用導電性ペーストに関し、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。 「(A)平均粒子径が0.2?30μmである、融点が700℃以上で、Ag、Cu、Ni、Pd、Au及びPtが挙げられる金属粒子と、 (B)平均粒子径が0.2?18μmである、融点が200℃以上700℃未満の金属粒子と、 (C)硝酸銅、シアン化銅、オクタン酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、シュウ酸銅、安息香酸銅及び銅アセチルアセトナートからなる群より選択される銅含有化合物;アミノ化合物;並びに場合により有機溶媒を混合してなるペーストと、 (D)熱硬化性樹脂、具体的には、尿素樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂のようなアミノ樹脂;ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型、ベンゼン環を多数有した多官能型であるテトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型又はトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型、脂環式等のエポキシ樹脂;オキセタン樹脂;レゾール型、アルキルレゾール型、ノボラック型、アルキルノボラック型、アラルキルノボラック型のようなフェノール樹脂;シリコーンエポキシ、シリコーンポリエステルのようなシリコーン変性有機樹脂、ビスマレイミド、ポリイミド樹脂等と を含有する、外部電極用導電性ペースト。」 イ 本件訂正発明1と甲3発明の一致点・相違点の認定 本件訂正発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「有機溶媒」は、本件訂正発明1の「溶媒」に相当する。また、甲3発明における「外部電極」が導電膜であり、「ペースト」が組成物であることは明らかであるから、両者は、「溶媒を含む導電膜形成用組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点5) 本件訂正発明1は「酸化銅粒子」を含むのに対して、甲3発明は「(A)平均粒子径が0.2?30μmである、融点が700℃以上で、Ag、Cu、Ni、Pd、Au及びPtが挙げられる金属粒子」を含有する点。 (相違点6) 本件訂正発明1では「銅含有ポリマーが、 銅イオンおよび/または銅塩と、 前記銅イオンおよび/または前記銅塩と相互作用する官能基を有するポリマーとを含み、 前記銅イオンおよび/または前記銅塩が前記官能基を介して前記ポリマーに連結されており、 前記官能基が、アミノ基、アミド基、ピリジル基、ヒドロキシル基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも一つを含む」のに対して、 甲3発明では「具体的には、尿素樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂のようなアミノ樹脂;ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型、ベンゼン環を多数有した多官能型であるテトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型又はトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型、脂環式等のエポキシ樹脂;オキセタン樹脂;レゾール型、アルキルレゾール型、ノボラック型、アルキルノボラック型、アラルキルノボラック型のようなフェノール樹脂;シリコーンエポキシ、シリコーンポリエステルのようなシリコーン変性有機樹脂、ビスマレイミド、ポリイミド樹脂等」である「熱硬化性樹脂」が、本件訂正発明1における上記「銅含有ポリマー」に相当するものであるのか否かが不明である点。 ウ 相違点の判断 事案に鑑み、相違点5について検討する。 (ア)甲3には、甲3発明における「(A)平均粒子径が0.2?30μmである、融点が700℃以上で、Ag、Cu、Ni、Pd、Au及びPtが挙げられる金属粒子」について、上記ア(ア)にあるとおり、単体の金属(段落[0014])及び、合金(段落[0015]?段落[0017])を用いる例が記載されているが、酸化銅粒子のような金属酸化物からなる粒子を用いることについての記載はない。 (イ)また、甲3には、甲3発明における「(B)平均粒子径が0.2?18μmである、融点が200℃以上700℃未満の金属粒子」について、上記ア(ア)にあるとおり、単体の金属(段落[0021])及び、合金(段落[0022]?段落[0024])を用いる例が記載されているほか、酸化防止を図ること(段落[0025])も記載されている。 (ウ)以上によれば、甲3では、甲3発明における「(A)平均粒子径が0.2?30μmである、融点が700℃以上で、Ag、Cu、Ni、Pd、Au及びPtが挙げられる金属粒子」についても、酸化防止を図ることを前提とし、酸化銅粒子のような金属酸化物からなる粒子を用いることは、望ましくないこととして予定されていないというべきであって、さらに、甲3には、「金属粒子」に加えて酸化銅粒子を用いる動機付けも見当たらないから、甲3発明において、上記相違点5に係る事項を採用することは、当業者であっても容易になし得たこととはいえない。 そして、以上の判断は、平成29年3月22日付けの意見書で、甲4?9を援用してなされた、申立人による「銅導電性ペーストの技術分野において、その原料として銅粉及び/又は酸化銅粉を使用すること、そして酸化銅粉の場合はその後に銅に還元することは当業者の技術常識である。」(第2頁第16行?第18行)との主張によって左右されるものではない。 エ 小括 以上のとおりであるから、相違点6について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲3発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。 同様の理由により、請求項1を引用する請求項2?6に係る発明である本件訂正発明2?6についても、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。 第4 結論 以上によれば、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正請求により訂正された請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正請求により訂正された請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 銅含有ポリマーと、酸化銅粒子と、溶媒とを含み、 前記銅含有ポリマーが、 銅イオンおよび/または銅塩と、 前記銅イオンおよび/または前記銅塩と相互作用する官能基を有するポリマーとを含み、 前記銅イオンおよび/または前記銅塩が前記官能基を介して前記ポリマーに連結されており、 前記官能基が、アミノ基、アミド基、ピリジル基、ヒドロキシル基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも一つを含む、 導電膜形成用組成物。 【請求項2】 前記官能基がアミノ基、カルボキシル基、アミド基、およびピリジル基からなる群から選択される基である、請求項1に記載の導電膜形成用組成物。 【請求項3】 前記銅含有ポリマー中における銅イオンおよび銅塩の合計含有量が20質量%以上である、請求項1または2に記載の導電膜形成用組成物。 【請求項4】 前記銅含有ポリマーの含有量が、前記酸化銅粒子の合計質量100質量部に対して、2?50質量部である、請求項1?3のいずれかに記載の導電膜形成用組成物。 【請求項5】 前記銅塩がギ酸銅である、請求項1?4のいずれかに記載の導電膜形成用組成物。 【請求項6】 請求項1?5のいずれかに記載の導電膜形成用組成物を基材上に付与して、塗膜を形成する工程と、 前記塗膜に対して加熱処理および/または光照射処理を行い、導電膜を形成する工程とを備える、導電膜の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-05-12 |
出願番号 | 特願2012-215257(P2012-215257) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(H01B)
P 1 651・ 121- YAA (H01B) P 1 651・ 537- YAA (H01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 神野 将志 |
特許庁審判長 |
鈴木 正紀 |
特許庁審判官 |
小川 進 長谷山 健 |
登録日 | 2016-01-22 |
登録番号 | 特許第5871762号(P5871762) |
権利者 | 富士フイルム株式会社 |
発明の名称 | 導電膜形成用組成物および導電膜の製造方法 |
代理人 | 三和 晴子 |
代理人 | 伊東 秀明 |
代理人 | 三橋 史生 |
代理人 | 渡辺 望稔 |
代理人 | 伊東 秀明 |
代理人 | 三橋 史生 |
代理人 | 渡辺 望稔 |
代理人 | 三和 晴子 |