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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B01J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B01J |
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管理番号 | 1330118 |
異議申立番号 | 異議2017-700038 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-01-16 |
確定日 | 2017-07-04 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5973999号発明「メタクリル酸製造用触媒及びそれを用いたメタクリル酸の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5973999号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5973999号の請求項1?7に係る特許についての出願は、2012年11月16日(優先権主張2011年11月17日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年7月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人「一條 淳」により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1?7に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのもの(以下、「本件発明1?7」という。)と認められる。 【請求項1】 メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するために用いるメタクリル酸製造用触媒であって、下記一般式 Mo_(a)P_(b)V_(c)Cu_(d)Y_(e)Z_(f)Z´_(f´)O_(g) (式中Mo、P、V、CuおよびOはモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素をそれぞれ表す。Yはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Zはアンモニウムを表し、Z´はアンチモンを表す。a、b、c、d、e、f、f´及びgは各元素の原子比率を表し、a=10とした時、bは0.1以上で4以下、cが0.01以上で4以下、dが0.01以上で1以下、eが0.5以上で1.0以下、fが0より大きく3以下、f´が0以上で3より小さく、gは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。) で表される組成を有し、かつモリブデン、リン、バナジウム、銅を必須の成分として含むヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩中においてモリブデン10原子に対するアルカリ金属原子の原子比率をA、前記ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩中のモリブデン10原子に対する銅原子の原子比率をB、価数をCとしたとき、 α = A +( B × C ) 0.7 ≦ α ≦ 1.1 の条件を満足するように、カウンターカチオンであるプロトンをアルカリ金属イオンで置換したメタクリル酸製造用触媒。 【請求項2】 Yがセシウムである請求項1記載のメタクリル酸製造用触媒。 【請求項3】 a=10とした時、dが0.1以上で0.3以下の条件を満足する請求項1または2に記載のメタクリル酸製造用触媒。 【請求項4】 a=10とした時、dが0.15以上で0.25以下の条件を満足する請求項1?3のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒。 【請求項5】 該触媒が成形触媒であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒。 【請求項6】 請求項1?請求項5のいずれか1項に記載の触媒を使用することを特徴とするメタクロレイン、イソブチルアルデヒド及びイソ酪酸を気相接触酸化することによるメタクリル酸の製造方法。 【請求項7】 eが0.6以上で0.9以下の条件を満たす、請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒。 第3 申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として、甲第1号証、甲第2号証(以下、「甲1」、「甲2」という。)を提出し、請求項1?7に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許を取り消すべきものであること、及び、請求項1?7に係る発明は、甲1?2に記載の発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。 甲1:特開2006-314923号公報 甲2:特開平4-367737号公報 第4 当審の判断 1.甲号証の記載 甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加したものである。以下同じ。)。 摘記1-1:「【特許請求の範囲】【請求項1】 モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須の活性成分とする触媒の製造方法であって、これら必須成分を含有する化合物と水を混合したスラリーを乾燥し、次いで得られた乾燥粉末を焼成し、これを成型することを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法」 摘記1-2:「【技術分野】 【0001】 本発明は、高活性、高選択性、充分な機械的強度を有するヘテロポリ酸触媒を使用してメタクロレイン、イソブチルアルデヒドまたはイソ酪酸を気相接触酸化してメタクリル酸を製造するための触媒の製造方法に関する。」 摘記1-3:「【課題を解決するための手段】【0006】 モリブデン、リン、バナジウム、セシウム、アンモニア、銅、およびアンチモンを必須成分とするヘテロポリ酸部分中和塩において、その機械的強度を向上させ、かつ高いメタクリル酸収率を実現させるべく鋭意検討した結果、その前駆体スラリーまたは水溶液を乾燥して得られる顆粒を成型前に焼成することで成形性が著しく向上し、工業的に満足な機械強度を持つ触媒を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。」 摘記1-4:「【0011】 本発明において、活性成分含有化合物の使用割合は、その原子比がモリブデン10に対して、バナジウムが通常0.1以上で6以下、好ましくは0.3以上で2.0以下、リンが通常0.5以上で6以下、好ましくは0.7以上で2.0以下、セシウムが通常0.01以上で4.0以下、好ましくは0.1以上で2.0以下、アンモニア(通常アンモニウム基として含有される)が通常0.1以上で10.0以下、好ましくは0.5以上で5.0以下、アンチモンが通常0.01以上で5以下、好ましくは0.05以上で2.0以下である。必要により用いるその他の活性成分の種類及びその使用割合は、その触媒の使用条件等に合わせて、最適な性能を示す触媒が得られるように、適宜決定される。なお本発明中に記載される触媒の原子比(組成)は原料仕込み段階のものであり、酸素を除いた値である。 【0012】 以降、上記の工程に従って実施形態を説明する。 スラリー調製 本発明において、触媒調製用に用いられる活性成分含有化合物は、該化合物としては活性成分元素の、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酸化物又は酢酸塩等が挙げられる。好ましい化合物をより具体的に例示すると硝酸カリウム又は硝酸コバルト等の硝酸塩、酸化モリブデン、五酸化バナジウム、三酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化亜鉛又は酸化ゲルマニウム等の酸化物、正リン酸、リン酸、硼酸、リン酸アルミニウム又は12タングストリン酸等の酸(又はその塩)等が挙げられる。また、セシウム化合物として酢酸セシウム又は水酸化セシウム及びセシウム弱酸塩を、また、アンモニウム化合物として酢酸アンモニウム又は水酸化アンモニウムを使用するのが好ましい。銅化合物としては酢酸銅(酢酸第一銅、酢酸第二銅、塩基性酢酸銅又は酸化第二銅等、好ましくは酢酸第二銅)または酸化銅(酸化第一銅、酸化第二銅)を使用すると好ましい。これら活性成分含有化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。スラリーは、各活性成分含有化合物と水とを均一に混合して得ることができる。スラリーを調製する際の活性成分含有化合物の添加順序は、モリブデン、バナジウム、リン及び必要により他の金属元素を含有する化合物を充分に溶解し、その後セシウム含有化合物、アンモニウム含有化合物、銅含有化合物を添加するのが好ましい。スラリー調製時にアンチモン含有化合物を添加する場合は、必須の活性成分含有化合物のうち、最後に添加するのが好ましいが、より好ましくは、アンチモン含有化合物以外の活性成分を含有するスラリーを得た後、乾燥し、この粉末とアンチモン含有化合物を混合した後焼成するか、この粉末を焼成したのちアンチモン含有化合物を混合する。スラリーを調製する際の温度は、モリブデン、リン、バナジウム、及び必要により他の金属元素を含有する化合物を充分溶解できる温度まで加熱することが好ましい。また、セシウム含有化合物、アンモニウム含有化合物を添加する際の温度は、通常0?35℃、好ましくは10?30℃程度の範囲であるほうが、得られる触媒が高活性になる傾向があるため、10?30℃まで冷却することが好ましい。スラリーにおける水の使用量は、用いる化合物の全量を完全に溶解できるか、または均一に混合できる量であれば特に制限はないが、乾燥方法や乾燥条件等を勘案して適宜決定される。通常スラリー調製用化合物の合計質量100質量部に対して、200?2000質量部程度である。水の量は多くてもよいが、多過ぎると乾燥工程のエネルギーコストが高くなり、また完全に乾燥できない場合も生ずるなどデメリットが多い。」 摘記1-5:「【0020】 以下、本発明で得られる触媒を使用するのに最も好ましい原料である、メタクロレインを使用した気相接触反応につき説明する。 気相接触酸化反応には分子状酸素又は分子状酸素含有ガスが使用される。メタクロレインに対する分子状酸素の使用割合は、モル比で0.5?20の範囲が好ましく、特に1?10の範囲が好ましい。反応を円滑に進行させることを目的として、原料ガス中に水をメタクロレインに対しモル比で1?20の範囲で添加することが好ましい。 原料ガスは酸素、必要により水(通常水蒸気として含む)の他に窒素、炭酸ガス、飽和炭化水素等の反応に不活性なガス等を含んでいてもよい。 また、メタクロレインはイソブチレン、第三級ブタノール、及びメチルターシャリーブチルエーテルを酸化して得られたガスをそのまま供給してもよい。 気相接触酸化反応における反応温度は通常200?400℃、好ましくは250?360℃、原料ガスの供給量は空間速度(SV)にして、通常100?6000hr^(-1)、好ましくは300?3000hr^(-1)である。 また、接触酸化反応は加圧下または減圧下でも可能であるが、一般的には大気圧付近の圧力が適している。」 摘記1-6:「【0022】 実施例1 1)触媒の調製 純水5680mlに三酸化モリブデン800gと五酸化バナジウム40.43g、及び85質量%正燐酸73.67gを添加し、92℃で3時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。続いて、この溶液を15?20℃に冷却して、撹拌しながら9.1質量%の水酸化セシウム水溶液307.9gと、14.3質量%の酢酸アンモニウム水溶液689.0gを徐々に添加し、15?20℃で1時間熟成させて黄色のスラリーを得た。 続いて、さらにそのスラリーに6.3質量%の酢酸第二銅水溶液709.9gを徐々に添加し、さらに15?20℃で30分熟成した。 続いて、このスラリーを噴霧乾燥し顆粒を得た。得られた顆粒の組成は Mo_(10)V_(0.8)P_(1.15)Cu_(0.4)Cs_(0.3)(NH_(4))_(2.3) である。 この顆粒320gを空気流通下310℃で5時間かけて焼成し予備焼成顆粒を得た。予備焼成により約4質量%の質量減があった。これに三酸化アンチモン22.7gと強度向上材(セラミック繊維)45gとを均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.5mm)300gに20質量%エタノール水溶液をバインダーとして、転動造粒法により被覆成型した。次いで得られた成型物を空気流通下において380℃で5時間かけて本焼成を行い目的とする被覆触媒を得た。 得られた触媒の組成は Mo_(10)V_(0.8)P_(1.15)Cu_(0.4)Cs_(0.3)(NH_(4))_(2.3)Sb_(1.0) である。」 甲2には、以下の事項が記載されている。 摘記2-1:「【0001】【産業上の利用分野】 本発明はメタクロレインの気相接触酸化によりメタクリル酸を製造する際に使用する触媒の調製法に関するものである。」 摘記2-2:「【0003】【発明が解決しようとする課題】 本発明は、メタクロレインからメタクリル酸を有利に製造する新規な触媒の調製法の提供を目的としている。 【0004】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、従来の触媒調製法を改善すべく鋭意研究した結果、従来の方法で調製された触媒を使用する場合よりもメタクリル酸が高収率で得られる新規な触媒の調製法を見い出した。本発明は、メタクロレインを分子状酸素で気相接触酸化しメタクリル酸を製造するための触媒であって、一般式 P_(a) Mo_(b) V_(c) X_(d) Y_(e) Z_(f) O_(g) (ここで式中P、Mo、V及びOはそれぞれリン、モリブデン、バナジウム及び酸素を示し、Xは砒素、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀及びホウ素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Yは鉄、銅、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、マンガン、バリウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Zはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f及びgは各元素の原子比率を表し、b=12のときa=0.5?3、c=0.01?3、d=0?3、e=0?3、f=0.01?3であり、gは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子数である。)で表される組成を有する触媒成分に、平均粒径0.01?10μmの高分子有機化合物を添加し、成型し、熱処理することを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の調製法である。」 摘記2-3:「【0010】触媒成分の原料としては各元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、ハロゲン化物などを組合せて使用することができる。例えば、モリブデン原料としてはパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、塩化モリブデン等、バナジウム原料としてはメタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、塩化バナジウム等が使用できる。」 摘記2-4:「【0013】 【実施例】以下、本発明による触媒の調製法及び、それを用いての反応例を具体的に説明する。実施例、比較例中、メタクロレインの反応率、生成するメタクリル酸の選択率は以下のように定義される。」 摘記2-5:「【0016】実施例1 パラモリブデン酸アンモニウム100部、メタバナジン酸アンモニウム1.66部及び硝酸カリウム4.77部を純水300部に溶解した。これに85%リン酸8.16部を純水10部に溶解したものを加え、さらに三酸化アンチモン2.75部を加え攪拌しながら95℃に昇温した。つぎに、硝酸銅1.14部を純水30部に溶解したものを加え、混合液を加熱攪拌しながら蒸発乾固した。得られた固形物を130℃で16時間乾燥後、平均粒径0.15μmのポリメタクリル酸メチル(以下PMMAと略す)を乾燥固形物100部に対し3部添加して混合した後加圧成型し、空気流通下に380℃で5時間熱処理したものを触媒として用いた。得られた触媒の酸素以外の元素の組成(以下同じ)はP_(1.5)Mo_(12)V_(0.3)Sb_(0.4)Cu_(0.1)K_(1)であった。本触媒を反応管に充填し、メタクロレイン5%、酸素10%、水蒸気30%、窒素55%(容量%)の混合ガスを反応温度270℃、接触時間3.6秒で通じた。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタクロレイン反応率80.3%、メタクリル酸選択率81.4%であった。」 摘記2-6:「【0019】実施例2 三酸化モリブデン100部、五酸化バナジウム2.63部、85%リン酸6.67部を純水800部と混合する。これを還流下で3時間加熱攪拌した後、酸化銅0.92部を加え、再び還流下で2時間加熱攪拌した。このスラリーを50℃まで冷却し、重炭酸セシウム8.98部を純水30部に溶解したものを加え15分間攪拌する。つぎに、硝酸アンモニウム10部を純水30部に溶解したものを加え、混合液を100℃に加熱攪拌しながら蒸発乾固した。得られた固形物を130℃で16時間乾燥後、平均粒径5μmのポリスチレンを乾燥固形物100部に対し3部添加して混合後加圧成型し、空気流通下に380℃で3時間熱処理したものを触媒として用いた。この触媒の組成はP_(1.5)Mo_(12)V_(0.5)Cu_(0.2)Cs_(0.8)であった。この触媒を用いて、反応温度を285℃とした以外は実施例1と同じ反応条件で反応を行なったところ、メタクロレイン反応率84.9%、メタクリル酸選択率85.7%であった。」 2.引用発明の認定 摘記1-2、1-5、1-6より、甲1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「メタクロレインを分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してメタクリル酸を製造するために用いるメタクリル酸製造用触媒であって、触媒の組成がMo_(10)V_(0.8)P_(1.15)Cu_(0.4)Cs_(0.3)(NH_(4))_(2.3)Sb_(1.0)であるメタクリル酸製造用触媒。」 3.発明の対比 引用発明の触媒も分子量酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化されているといえるため、触媒組成はMo_(10)V_(0.8)P_(1.15)Cu_(0.4)Cs_(0.3)(NH_(4))_(2.3)Sb_(1.0)Oであると認められる。 ここで、本件発明1と引用発明とを対比すると、 「メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するために用いるメタクリル酸製造用触媒であって、下記一般式 Mo_(a)P_(b)V_(c)Cu_(d)Y_(e)Z_(f)Z´_(f´)O_(g) (式中Mo、P、V、CuおよびOはモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素をそれぞれ表す。Yはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Zはアンモニウムを表し、Z´はアンチモンを表す。a、b、c、d、e、f、f´及びgは各元素の原子比率を表し、a=10とした時、bが1.15、cが0.8、dが0.4、fが2.3、f´が1.0) で表される組成を有し、かつモリブデン、リン、バナジウム、銅を必須の成分として含むメタクリル酸製造用触媒」の点で両者が一致し、以下の3点で相違する。 相違点1:本件発明1は、触媒の組成比がモリブデン10原子に対し、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素が0.5以上1.0以下の比であるのに対し、引用発明は、触媒の組成比がモリブデン10原子に対し、セシウム原子が0.3の比である点。 相違点2:本件発明1は、モリブデン、リン、バナジウム、銅を必須の成分として含むヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩中においてモリブデン10原子に対するアルカリ金属原子の原子比率をA、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩中のモリブデン10原子に対する銅原子の原子比率をB、価数をCとしたとき、 α = A +( B × C ) 0.7 ≦ α ≦ 1.1 の条件を満足するように、カウンターカチオンであるプロトンをアルカリ金属イオンで置換したものであるのに対し、 引用発明は、上記事項について、モリブデン、リン、バナジウム、銅を必須の成分として含むヘテロポリ酸系触媒(摘記1-1、1-3)を使用することしか記載されていない点。 相違点3:本件発明1は、酸素の組成比gが各々の元素の酸化状態によって定まる数値であるのに対し、引用発明は、酸素の組成比について明記されていない点。 4.相違点の判断 ・相違点1?2について 甲2には、P_(1.5)Mo_(12)V_(0.5)Cu_(0.2)Cs_(0.8)なる触媒組成が記載されており(摘記2-6)、これをMo10原子として各成分に比率計算すると、甲2には、Mo_(10)P_(1.25)V_(0.42)Cu_(0.17)Cs_(0.67)の組成比の触媒が記載されているといえる。 ここで、本件発明1は、触媒組成について、モリブデン10原子に対し、NH_(4)が0超?3の比で含まれるのに対し、甲2には、触媒を合成する際に、アンモニウム塩を用いることは記載されているものの、触媒中にNH_(4)がどの程度残存しているのかについては記載されておらず、含有量(組成比)が不明である。 また、甲2には、セシウムの組成比について、実施例にモリブデン10原子に対し、セシウム原子を0.67の組成比とすることが記載されているのみで、当該組成比にすることの技術的意義について何等記載されておらず、さらに、引用発明と甲2に記載の触媒とでは、モリブデン10原子に対するリン、バナジウム、銅の組成比もセシウムと同じく異なっており、そして、引用発明及び甲2には、他の成分の組成比を変更せずに、セシウムの組成比のみを変更する技術的な理由も示唆も記載されていないから、引用発明において、甲2に記載の触媒における、モリブデン10原子に対する触媒中の各元素の組成比のうち、セシウム原子の組成比のみを0.67に変更するとの事項のみを適用する理由を見い出すことができない。 よって、相違点1は実質的な相違点であり、引用発明において、相違点1に係る事項を構成することはできない。 なお、仮に、引用発明のモリブデン10原子に対するセシウム原子の組成比を0.67とした場合であっても、α=0.67+(0.4×2)=1.47となり、本件発明1で特定する範囲を満たさない。 そして、引用発明に甲2に記載の発明を適用する際に、αの範囲を満たすように、セシウムに加えて銅の組成比も変更する理由がないから、仮に相違点1が実質的な相違点でなかったとしても、相違点2が実質的な相違点であり、引用発明において、相違点2に係る事項を構成することはできない。 よって、甲1?甲2に記載の技術的事項から、上記相違点1?2を解消することは、当業者が容易になし得たことではない。 したがって、上記相違点1?2に係る発明特定事項を有する本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1?甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、相違点3について検討するまでもなく、申立理由(特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項)には理由がない。 本件発明1を引用する本件発明2?7についても同様である。 5.特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、摘記1-4に、 「本発明において、活性成分含有化合物の使用割合は、その原子比がモリブデン10に対して、バナジウムが通常0.1以上で6以下、好ましくは0.3以上で2.0以下、リンが通常0.5以上で6以下、好ましくは0.7以上で2.0以下、セシウムが通常0.01以上で4.0以下、好ましくは0.1以上で2.0以下、アンモニア(通常アンモニウム基として含有される)が通常0.1以上で10.0以下、好ましくは0.5以上で5.0以下、アンチモンが通常0.01以上で5以下、好ましくは0.05以上で2.0以下である。」が記載されており、摘記1-5には、触媒の組成がMo_(10)V_(0.8)P_(1.15)Cu_(0.4)Cs_(0.3)(NH_(4))_(2.3)Sb_(1.0)であることが記載されているから、甲1に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)は、 「メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するために用いるメタクリル酸製造用触媒であって、 下記一般式 Mo_(a)P_(b)V_(c)Cu_(d)Y_(e)Z_(f)Z´_(f´)O_(g) (式中Mo、P、V、CuおよびOはモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素をそれぞれ表す。Yはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Zはアンモニウムを表し、Z´はアンチモンを表す。a、b、c、d、e、f、f´及びgは各元素の原子比率を表し、a=10とした時、bは0.5以上で6以下、cが0.1以上で6以下、dが0.4、eが0.01以上で4.0以下、fが0.1以上10.0以下、f´が0.01以上で5以下、gは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。) で表される組成を有するメタクリル酸製造用触媒。」であり、 甲1発明と本件発明1とを対比すると、 「メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するために用いるメタクリル酸製造用触媒であって、 下記一般式 Mo_(a)P_(b)V_(c)Cu_(d)Y_(e)Z_(f)Z´_(f´)O_(g) (式中Mo、P、V、CuおよびOはモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素をそれぞれ表す。Yはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Zはアンモニウムを表し、Z´はアンチモンを表す。a、b、c、d、e、f、f´及びgは各元素の原子比率を表し、a=10とした時、bは0.1以上で4以下、cが0.01以上で4以下、dが0.01以上で1以下、eが0.5以上で1.0以下、fが0より大きく3以下、f´が0以上で3より小さく、gは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。)で表される組成を有するメタクリル酸製造用触媒」の点が一致点であり、上記3.の相違点2と同様の相違点がある旨を主張している。 ここで、甲1発明のモリブデン10原子に対する銅の組成比は0.4であり、セシウムの組成比が0.5以上1.0以下であるから、αは1.3以上 1.8以下となり、本件発明1の範囲を満たさない。 また、上記4.で検討したように、αの範囲を満たすように、セシウムに加えて銅の組成比も変更する理由がないから、上記の点で一致しているとしても、相違点2が実質的な相違点であり、引用発明において、相違点2に係る事項を構成することはできない。 以上の点から、特許異議申立人の主張は採用できない。 また、特許異議申立人は、「ここで、本件特許明細書の【0032】の実施例1と甲第1号証の【0022】実施例1とを比較すると、全く同じ材料を用いて、全く同じ手順で触媒の調製が行われ、そして、全く同じ組成の触媒が得られている」(特許異議申立書第15頁第3行?第5行)とも主張しているが、本件特許明細書【0032】に記載の実施例1は、平成27年8月10日付け手続補正書による補正によって、本件発明1で特定する組成比(セシウムの組成比)を満たさないものとなったため、参考例に相当するものであるから、当該主張も採用出来ない。 6.まとめ 以上のとおりであるから、請求項1?7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するものでも、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。 第5.むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-06-22 |
出願番号 | 特願2013-518904(P2013-518904) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B01J)
P 1 651・ 113- Y (B01J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 延平 修一 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
後藤 政博 山本 雄一 |
登録日 | 2016-07-22 |
登録番号 | 特許第5973999号(P5973999) |
権利者 | 日本化薬株式会社 |
発明の名称 | メタクリル酸製造用触媒及びそれを用いたメタクリル酸の製造方法 |
代理人 | 小笠原 亜子佳 |
代理人 | 特許業務法人 信栄特許事務所 |