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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1330135
異議申立番号 異議2017-700279  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-16 
確定日 2017-07-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6022546号発明「硬化性放熱組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6022546号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯

特許第6022546号(設定登録時の請求項の数は16。以下、「本件特許」という。)は、国際出願日である平成25年2月21日にされたとみなされる特願2014-507522号(優先権主張 平成24年3月30日及び同年5月18日)の特許出願に係るものであって、平成28年10月14日に設定登録がされ、平成29年3月16日付け(受理日:同年同月17日)で本件特許に対し特許異議申立人柏木 里実から特許異議の申立てがされたものである。



第2 本件発明

特許第6022546号の請求項1ないし16に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
異なる圧縮破壊強度をもつ2種のフィラー(ただし、前記2種のフィラーは同一物質である場合は除く。)と熱硬化性樹脂(C)を含み、前記2種のフィラーの圧縮破壊強度比[圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)の圧縮破壊強度/圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の圧縮破壊強度]が5?1500であって、圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)の平均粒子径の範囲は20?100μm、圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の平均粒子径の範囲は10?120μmであることを特徴とする硬化性放熱組成物。
【請求項2】
圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)の圧縮破壊強度が100?1500MPaであり、圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の圧縮破壊強度が1.0?20MPaである請求項1記載の硬化性放熱組成物。
【請求項3】
前記フィラー(A)が窒化アルミニウムまたはアルミナである請求項2記載の硬化性放熱組成物。
【請求項4】
前記フィラー(B)が六方晶窒化ホウ素凝集粒である請求項2記載の硬化性放熱組成物。
【請求項5】
前記2種のフィラー以外に他の無機フィラーを含む請求項1記載の硬化性放熱組成物。
【請求項6】
前記他の無機フィラーが、水酸化アルミニウム、ヒュームドシリカ、及び酸化チタンから選ばれる請求項5記載の硬化性放熱組成物。
【請求項7】
圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)及び圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の総含有量が50?95質量%であるか、または圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)、圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)及び前記他の無機フィラーの総含有量が50?95質量%であり、かつ圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)と圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の質量比率[(A)/(B)]が0.1?10の範囲である請求項1?6のいずれかに記載の硬化性放熱組成物。
【請求項8】
さらに熱可塑性樹脂(D)を含み、前記熱硬化性樹脂(C)と前記熱可塑性樹脂(D)との合計100質量部に対して、熱硬化性樹脂(C)70?95質量部を含有する請求項1記載の硬化性放熱組成物。
【請求項9】
熱硬化性樹脂(C)が、エポキシ基及び(メタ)アクリロイル基の少なくとも1種類の反応性基を1分子中に3個以上有し、前記反応性基1個あたりの分子量が200未満であり、かつ数平均分子量が1000未満である第1の熱硬化性樹脂(C-1)を含有する請求項8記載の硬化性放熱組成物。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂(D)が、ポリビニルブチラール樹脂及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも1種類を含有する請求項8記載の硬化性放熱組成物。
【請求項11】
さらに溶剤を含有する請求項1?10のいずれかに記載の硬化性放熱組成物。
【請求項12】
請求項1?11のいずれかに記載の硬化性放熱樹脂組成物からなる膜を支持膜と被覆膜との間に形成させた接着シート。
【請求項13】
請求項1?11のいずれかに記載の硬化性放熱樹脂組成物を支持膜に塗布し、前記の塗布された面の一部または全面に被覆膜を被せて得られる積層体を、ロールプレスで加熱及び加圧することを特徴とする接着シートの製造方法。
【請求項14】
請求項1?11のいずれかに記載の硬化性放熱樹脂組成物を2つの支持膜に塗布し、前記の一方の支持膜に塗布された面と他方の支持膜に塗布された面とを貼り合わせて得られる積層体を、ロールプレスで加熱及び加圧することを特徴とする接着シートの製造方法。
【請求項15】
請求項1?11のいずれかに記載の硬化性放熱組成物を70?200℃の温度範囲、かつ1?100MPaの圧力で加熱成形することを特徴とする、空隙率が5%以下であり、厚み方向の熱伝導率が10W/m・K以上である放熱硬化物の製造方法。
【請求項16】
請求項13または14に記載の方法により接着シートを製造し、得られた接着シートに基材を載せた積層体を70?200℃の温度範囲、かつ0.1?10MPaの圧力で加熱成形することを特徴とする、空隙率が5%以下であり、厚み方向の熱伝導率が10W/m・K以上である放熱硬化物の製造方法。」

以下、特許第6022546号の請求項1ないし16に係る発明を、それぞれ、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明16」といい、本件特許発明1ないし16を総称して「本件特許発明」ということもある。



第3 特許異議の申立ての概要

特許異議申立人柏木 里実(以下、単に「異議申立人」という。)は、証拠として特開平11-26661号公報(以下、「甲1」という。)、特開2011-144234号公報(以下、「甲2」という。)、国際公開第2011/104996号(以下、「甲3」という。)、特開2011-90868号公報(以下、「甲4」という。)及び特開2011-6586号公報(以下、「甲5」という。)を提出し、特許異議の申立てとして要旨以下のとおり主張している。

1.特許法第29条第2項について
請求項1ないし16に係る発明は、甲1に記載された発明と甲2ないし甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第113条第2項に該当し取り消すべきものである。(以下、「取消理由1」という。)

2.特許法第36条第4項第1号について
請求項1ないし16に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4項に該当し取り消すべきものである。(以下、「取消理由2」という。)



第4 甲1ないし甲5の記載及び甲1に記載された発明

1.甲1の記載
甲1には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】 六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに集合してなる松ボックリ状窒化ホウ素を付加反応型液状シリコーン固化物に含有させてなることを特徴とする放熱スペーサー。」(特許請求の範囲請求項1)

(2)「【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに集合してなる松ボックリ状窒化ホウ素を付加反応型液状シリコーン固化物に含有させてなることを特徴とする放熱スペーサーである。」(段落【0008】)

(3)「本発明の放熱スペ-サ-におけるマトリックスは、付加反応型液状シリコーンの固化物である。その原料としては、一分子中にビニル基とH-Si基の両方を有する一液性のシリコーン、又は末端あるいは側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサンと末端あるいは側鎖に2個以上のH-Si基を有するオルガノポリシロキサンとの二液性のシリコーンなどをあげることができる。このような付加反応型液状シリコーンの市販品としては、例えば東レダウコーニング社製、商品名「CY52-283A/B」がある。放熱スペーサーの柔軟性と熱伝導性は、液状シリコーンの架橋密度や、以下に説明する窒化ホウ素の充填量などによって調整することができる。」(段落【0010】)

(4)「本発明で使用される松ボックリ状窒化ホウ素は、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が凝集してその粒径が45μm以上となったものを20重量%以上含有しているものであり、高結晶性で配向性が殆どないことが特徴である。このような松ボックリ状窒化ホウ素の結晶性と配向性の評価は、粉末X線回析法によって行うことができる。」(段落【0012】)

(5)「本発明の放熱スペーサーは、上記松ボックリ状窒化ホウ素を30?60体積%好ましくは40?55体積%含有していることが好ましい。30体積%未満では充分な熱伝導性が得られず、また60体積%を越えると柔軟性が著しく損なわれ、所期の目的を達成することができない。
本発明の放熱スペーサーにあっては、上記松ボックリ状窒化ホウ素以外の熱伝導性フィラーを含有させることもできる。例えば、アルミナ、マグネシア等の球状粒子は柔軟性を高め、アルミニウム、銅、銀、金、炭化珪素等は熱伝導性を高める。絶縁性を付与したい場合は、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ、マグネシア等を配合することもできる。これらの熱伝導性フィラーの形状は、球状、粉状、繊維状、針状、鱗片状など如何なるものでも良い。粒度は、平均粒径1?100μm程度である。また、放熱スペーサー中の含有量は、熱伝導性フイラ-の種類によっても異なるが、30体積%以下特に5?20体積%が好ましい。」(段落【0016】?【0017】)

(6)「実施例1?4
オルトほう酸(H_(3) BO_(3) )20Kgとメラミン(C_(3) N_(6) H_(6) )19Kgと炭酸カルシウム(CaCO_(3) )1Kgをヘンシェルミキサーで混合し、それを温度90℃、湿度90%の雰囲気下に6時間保持してほう酸メラミン塩を得た。これを窒素雰囲気中、1800℃で2時間焼成した後、焼成物を粉砕、酸処理、洗浄、乾燥して松ボックリ状窒化ホウ素を製造した。
次に、得られた松ボックリ状窒化ホウ素を乾式振動篩い(ホソカワミクロン社製パウダーテスターPT-E型)により45μmの上下に分級した。その結果、45μm以上の凝集粒子の割合は26重量%であり、分級した凝集粒子についてSEM観察を行ったところ、特願平8-28768号願書に添付された図6と同程度の凝集粒子であることを確認した。また、GIは1.28、OIは16.5であった。
液状シリコーンとして、A液(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン)とB液(H-Si基を有するオルガノポリシロキサン)の二液性の付加反応型液状シリコーン(東レダウコーニング社製、商品名「CY52-283」)をA液対B液の混合比を表1に示す配合(体積%)で混合し、これに上記により製造された分級前の松ボックリ状窒化ホウ素、平均粒径17μmのアルミナ粉(昭和電工社製、商品名「AS-30」)、又は平均粒径18μmの窒化珪素粉(電気化学工業社製、商品名「デンカ窒化けい素」)を表1に示す割合(体積%)で混合してコンパウンドを調合した後、それをプレス法で所望の厚さに成型し、次いで熱風乾燥機で150℃で24時間加熱・硬化させて本発明の放熱スペーサー(厚み1?5mm)を製造した。
・・・
上記で得られた放熱スペーサーについて、以下に従うアスカーC硬度と熱伝導率を測定した。それらの結果を表1に示す。
(1)硬度:放熱スペーサーを50mm×50mmにカットし、数枚重ねて厚みを10mmとし、アスカーC硬度計にて測定した。
(2)熱伝導率:放熱スペーサーをTO-3型にカットし、TO-3型銅製ヒーターケースと銅板との間にはさみ、トルクレンチにより締め付けトルク200g-cmをかけてセットした後、銅製ヒーターケースに電力5Wを印加して4分間保持し、銅製ヒーターケースと銅板との温度差(℃)を測定し、(1)式により熱抵抗(℃/W)を求め、この熱抵抗値を用いて(2)式により熱伝導率(W/mK)を算出した。
熱抵抗(℃/W)=温度差(℃)/電力(W)・・・・(1)
熱伝導率(W/mK)={厚み(m)}/{熱抵抗(K/W)×測定面積(m^(2) )}・・・・(2)
【表1】

表1より、本発明の放熱スペーサーは、アスカーC硬度が60未満と柔軟性に優れ、しかも熱伝導率が2W/m・K以上と高熱伝導性であることがわかる。」(段落【0024】?【0036】)

(7)「【発明の効果】本発明の放熱スペーサーは熱伝導性と柔軟性に優れているため、発熱性電子部品の搭載された回路基板に押しつけても応力が小さく、また高密度化され発熱性電子部品の搭載された回路基板にも良好な密着性を保った状態で放熱を行うことができる。」(段落【0037】)

2.甲1に記載された発明
摘示(1)?(7)を総合すると、甲1には、放熱スペーサーに用いられる加熱・硬化前の硬化性組成物に着目すれば、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

「六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集してその粒径が45μm以上となったものを20重量%以上含有してなる松ボックリ状窒化ホウ素を放熱スペーサー中に30?60体積%の量、及び、
上記松ボックリ状窒化ホウ素以外の平均粒径1?100μm程度の熱伝導性フィラーを放熱スペーサー中に30体積%以下の量で、
付加反応型液状シリコーンに含有させてなる、
放熱スペーサー用硬化性組成物。」

3.甲2の記載
甲2には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】
平均粒子径20?60μm、下記で定義された配向性指数が2?20の六方晶窒化ホウ素の凝集粉末と平均粒子径0.1?1μmの酸化アルミニウム粉末の熱伝導性フィラー60?73体積%、シリコーン樹脂27?40体積%を含有してなる樹脂組成物。
配向性指数は、粉末X線回折法による(002)面の回折線の強度I002と(100)面の回折線の強度I100との比(I002/I100)である。
【請求項2】
シリコーン樹脂が重量平均分子量15000?30000と重量平均分子量400000?600000のビニル基をもつオルガノポリシロキサンであり、その体積比が7:3?5:5であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂組成物を用いた放熱部材。」(特許請求の範囲請求項1?3)

(2)「以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いる六方晶窒化ホウ素の凝集粉末は、平均粒子径が20?60μmである必要があり、さらに平均粒子径は35?45μmの範囲のものが好ましい。平均粒子径が60μmより大きくなる粒子と粒子が接触した際のすき間が大きくなり、熱伝導性が減少する傾向にある。反対に平均粒子径が20μmより小さくなると熱伝導性材料の充填性が悪くなる傾向にあり、熱伝導性が減少する傾向にある。
六方晶窒化ホウ素は、鱗片状又は多角板状の形態が一般的であり、六方晶窒化ホウ素の凝集粉末とは、その一次粒子を複合集合させた粉末である。六方晶窒化ホウ素の凝集状態は、粉末X線回折法による配向性指数で評価することができる。配向性指数とは、粉末X線回折法による(002)面の回折線の強度I002と(100)面の回折線の強度I100との比(I002/I100)である。六方晶窒化ホウ素粉末は一般的にI002≧I100であるため、配向性指数は1以上となる。配向性指数が小さくなるほど無配向性を示し、配向性指数が1のとき完全無配向となる。配向性が大きくなるにつれて、配向性指数は大きくなる。本願発明の六方晶窒化ホウ素の凝集粉末の配向性指数は2?20であり、好ましくは2?10である。配向性指数が20より大きくなると、熱伝導性が減少する傾向にある。
六方晶窒化ホウ素の凝集粉末の配向性指数は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子を結合剤もしくは、熱処理を行うことによって、調整することができる。」(段落【0008】)

(3)「本発明で用いる酸化アルミニウム粉末は平均粒子径が0.1?1μmである必要があり、さらに平均粒子径は0.3?0.5μmの範囲のものが好ましい。本発明で酸化アルミニウム粉末を充填せず、上記窒化ホウ素凝集粉末のみを使用した場合、凝集粉末間に空隙が存在しやすくなり、樹脂組成物化が困難となるとともに、熱伝導性も悪くなる傾向にある。平均粒子径が1μmより大きくなると窒化ホウ素粉末凝集体と接する酸化アルミニウム粒子の数が減少し、熱伝導性が減少する傾向にある。反対に平均粒子径が0.1μmより小さくなると酸化アルミニウム粉末の充填性が悪くなり、熱伝導性が減少する傾向にある。」(段落【0009】)

(4)「【表1】

」(段落【0026】)

4.甲3の記載
甲3には、以下のとおりの記載がある。
(1)「[請求項1]
無機充填材及び熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物であって、
前記無機充填材は、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子から構成される二次焼結粒子を含み、且つ前記二次焼結粒子の少なくとも一部が、5μm以上80μm以下の最大空隙径を有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
[請求項3]
前記無機充填材は、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[請求項7]
無機充填材をBステージ状態の熱硬化性樹脂マトリックス中に分散してなるBステージ熱伝導性シートであって、
前記無機充填材は、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子から構成される二次焼結粒子を含み、且つ前記二次焼結粒子の少なくとも一部が、5μm以上80μm以下の最大空隙径を有することを特徴とするBステージ熱伝導性シート。」(特許請求の範囲請求項1、3及び7)

(2)「本実施の形態の熱硬化性樹脂組成物に用いられる熱硬化性樹脂マトリックス成分は、熱伝導性シートのベース(母材)となる熱硬化性樹脂マトリックス5を与える成分である。この熱硬化性樹脂マトリックス成分は、熱硬化性樹脂及び硬化剤を一般に含む。
熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
・・・
そこで、上記の問題を解決するために、本実施の形態の熱硬化性樹脂組成物は、特定の密着性付与剤を特定の割合で含むことが好ましい。この密着性付与剤を配合することによって、二次焼結粒子の空隙に密着性付与剤と共に熱硬化性樹脂マトリックス成分を浸透させ易くするとともに、ハンドリング性を低下させることなく、熱硬化性樹脂マトリックス5と二次焼結粒子との間の密着性を高めた熱伝導シートを得ることが可能になる。
・・・
密着性付与剤8は、・・・可撓性樹脂である。・・・
可撓性樹脂の例としては、・・・ポリビニルブチラール、・・・これらの可撓性樹脂の中でも、熱硬化性樹脂マトリックス5と二次焼結粒子との間の密着性を向上させる効果の点で、ビスフェノール型エポキシ樹脂及びスチレン系ポリマーが好ましい。
・・・
スチレン系ポリマーの中でも、エポキシ基を有するスチレン系ポリマーが好ましい。
・・・
本実施の形態の熱硬化性樹脂組成物は、当該組成物の粘度を調整する観点から、溶剤をさらに含むことができる。溶剤としては、特に限定されず、使用する熱硬化性樹脂や無機充填材の種類にあわせて公知のものを適宜選択すればよい。かかる溶剤の例としては、トルエンやメチルエチルケトンなどが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
熱硬化性樹脂組成物における溶剤の配合量は、混練が可能な量であれば特に限定されず、一般的に、熱硬化性樹脂と無機充填剤との合計100質量部に対して40質量部以上300質量部以下である。」(段落[0027]?[0048])

5.甲4の記載
甲4には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】
樹脂組成物が、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機フィラーを有し、エポキシ樹脂と硬化剤のいずれか一方又は双方がナフタレン構造を含有し、無機フィラーが六方晶窒化ホウ素を含み、無機フィラーが樹脂組成物全体の70?85体積%であり、当該樹脂組成物をシート状にした絶縁シート。
【請求項2】
無機フィラーが、平均粒子径10?400μmである粗粉と、平均粒子径0.5?4.0μmである微粉とからなる請求1記載の絶縁シート。
【請求項9】
樹脂組成物を二枚の支持膜の間に積層する積層工程と、積層工程後の積層物を、樹脂組成物の厚みが50?500μmになるように成形する成形工程を有する絶縁シートの製造法であって、樹脂組成物が、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機フィラーを有し、エポキシ樹脂と硬化剤のいずれか一方又は双方がナフタレン構造を含有し、無機フィラーが六方晶窒化ホウ素を含み、無機フィラーが樹脂組成物全体の70?85体積%である樹脂組成物である絶縁シートの製造方法。
【請求項10】
成形工程での成形手段がロールプレスであり、成形時の樹脂組成物の温度が5?300℃である請求項9記載の絶縁シートの製造方法。」(特許請求の範囲請求項1、2、9及び10)

(2)「無機フィラーは、平均粒子径10?400μmである粗粉と、平均粒子径0.5?4.0μmである微粉とからなるのが好ましい。無機フィラーを粗粉と微粉に分けることにより、粗粉間に微粉を充填することができ、これにより無機フィラーの充填率を上げることができる。無機フィラーを粗粉と微粉で形成する場合、粗粉の配合比率は70%以上が好ましく、更に好ましくは75%以上である。粗粉比率が低くなると樹脂組成物の流動性が低下し、緻密に充填された成型体ができなくなる傾向にあるためである。」(段落【0023】)

(3)「絶縁シートの製造方法において、成形工程での成形手段はロールプレスであるのが好ましく、成形時の樹脂組成物の温度は5?300℃が好ましい。成形時の樹脂組成物の温度が低くなると、低温を維持する装置環境が煩雑となって作業性に支障が出る傾向にあり、成形時の樹脂組成物の温度が高くなるとロールプレス及び支持膜の熱膨張により均一な厚みの絶縁シートを得ることが困難となるので好ましくない。成形時の温度を係る範囲にすることにより、絶縁シートをBステージ状態に保持することができる。絶縁シートをCステージ状態にするためには、より高温で処理することが好ましい。
絶縁シートの製造方法において、支持膜は、樹脂組成物との接触側に離型処理を施した高分子フィルム、又は、金属箔であることが好ましい。樹脂組成物との接触側に離型処理を施した高分子フィルム、又は、金属箔を用いることにより、より耐熱性を安定的に保持できる。」(段落【0031】?【0032】)

(4)「【表1】

」(段落【0038】)

(5)「シート状への成形にあっては、図1に示すように、実施例1の樹脂組成物3を、下面支持膜4と上面支持膜5で挟みつつ120℃に設定した上ロール1と下ロール2の間を通過させたロールプレスを用いて2000kg/10cmの線圧で薄膜状に半硬化した絶縁シート6に成形した。その後、表1の製造方法の欄の後処理工程の欄に示すように、半硬化状態の絶縁シートを50枚積層し、ホットプレスを用い150℃で1時間の加熱処理をして一体化させ、さらに厚さ方向に切断してその切断面を平面とする絶縁シートを作成した。」(段落【0042】)

(6)「

」(【図1】)

6.甲5の記載
甲5には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】
熱硬化性樹脂中に無機充填材を含有する熱硬化性樹脂組成物であって、
前記無機充填材は、平均長径が8μm以下の窒化ホウ素の一次粒子からなる二次凝集体(A)と、平均長径が8μmを超え20μm以下の窒化ホウ素の一次粒子からなる二次凝集体(B)とを40:60?98:2の体積比で含み、且つ前記無機充填材の含有量は40体積%以上80体積%以下であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を0.5MPa以上50MPa以下のプレス圧で加圧しながら硬化させてなることを特徴とする熱伝導性樹脂シート。」(特許請求の範囲請求項1及び5)

(2)「本発明者らは、上記のような問題を解決すべく鋭意研究した結果、窒化ホウ素の二次凝集体を無機充填材として含有する熱硬化性樹脂組成物において、窒化ホウ素の二次凝集体の凝集強度が、プレス工程における窒化ホウ素の二次凝集体の変形又は崩壊と密接に関係しており、凝集強度が異なる2種類の二次凝集体を所定の体積比で含む無機充填材を、所定の含有量で配合することで、プレス工程の際に、一方の二次凝集体(凝集強度が小さい二次凝集体)を優先的に変形又は崩壊させつつ、熱伝導性樹脂シートの熱伝導性を主に担う他方の二次凝集体(凝集強度が大きい二次凝集体)の変形又は崩壊を抑制し、熱伝導性樹脂シートの厚さ方向の熱伝導性及び電気絶縁性の両方を同時に向上させ得ることを見出した。
すなわち、本発明は、熱硬化性樹脂中に無機充填材を含有する熱硬化性樹脂組成物であって、前記無機充填材は、平均長径が8μm以下の窒化ホウ素の一次粒子からなる二次凝集体(A)と、平均長径が8μmを超え20μm以下の窒化ホウ素の一次粒子からなる二次凝集体(B)とを40:60?98:2の体積比で含み、且つ前記無機充填材の含有量は40体積%以上80体積%以下であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
また、本発明は、上記の熱硬化性樹脂組成物を0.5MPa以上50MPa以下のプレス圧で加圧しながら硬化させてなることを特徴とする熱伝導性樹脂シートである。」(段落【0007】)

(3)「凝集強度が小さい二次凝集体(B)は、熱硬化性樹脂組成物の製造工程では変形又は崩壊することはほとんどないが、熱伝導性樹脂シートの製造工程(プレス工程)で変形又は崩壊し、二次凝集体(A)同士の応力を緩和させると共に、ボイドの発生を抑制することができる。」(段落【0014】)

(4)「さらに、熱伝導性樹脂シート1では、熱伝導性を向上させるために、無機充填材を高充填化させることができる。一般的に、無機充填材を高充填化させるとシート内にボイドが発生するため、プレス工程でのプレス圧を大きくする必要があるが、上記したように、熱硬化性樹脂組成物において、凝集強度が異なる2種類の窒化ホウ素の二次凝集体(A)及び(B)を含む無機充填材を用いているため、熱硬化性樹脂組成物を所定のプレス圧で加圧しながら硬化させても、二次凝集体(A)3に加えられる圧力が二次凝集体(B)4の変形又は崩壊によって緩和される。すなわち、二次凝集体(A)3が変形又は崩壊する前に二次凝集体(B)4が優先的に変形又は崩壊し、二次凝集体(A)3の変形又は崩壊を防止する。その結果、熱伝導性に対する寄与が大きい二次凝集体(A)3が、熱伝導性樹脂シート中で保持されるため、熱伝導性樹脂シートの熱伝導性を飛躍的に向上させることが可能となる。さらに、二次凝集体(B)4が、二次凝集体(A)3の間に均一に分散すると共に、変形又は崩壊することによってボイドが生じることなく充填されるため、熱伝導性樹脂シートの電気絶縁性も向上する。」(段落【0029】)

(5)「(実施例1)
液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828:ジャパンエポキシレジン株式会社製)100質量部、及び硬化剤である1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール(キュアゾール2PN-CN:四国化成工業株式会社製)1質量部を、溶剤であるメチルエチルケトン166質量部に添加して攪拌混合した。この溶液に、二次凝集体No.Aと二次凝集体No.Dとを70:30の体積比で混合した無機充填材を、溶剤を除いた全成分の合計体積に対して60体積%となるように添加して予備混合した。この予備混合物を三本ロールにてさらに混練し、二次凝集体No.A及びDが均一に分散された熱硬化性樹脂組成物を調製した。
次に、熱硬化性樹脂組成物を、厚さ105μmの放熱部材上にドクターブレード法にて塗布した後、110℃で15分間、加熱乾燥させることによって、厚さが100μmでBステージ状態の熱伝導性樹脂シートを作製した。
次に、放熱部材上に形成したBステージ状態の熱伝導性樹脂シートを、熱伝導性樹脂シート側が内側になるように2枚重ねた後、10?20MPaのプレス圧で加圧しながら120℃で1時間加熱し、さらに160℃で3時間加熱することで、熱伝導性樹脂シートのマトリックスである熱硬化性樹脂を完全に硬化させ、2つの放熱部材に挟まれた熱伝導性樹脂シートを得た。」(段落【0037】?【0038】)



第5 取消理由1及び2についての判断

1.取消理由1(特許法第29条第2項)について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集して・・・なる松ボックリ状窒化ホウ素」及び「上記松ボックリ状窒化ホウ素以外の・・・熱伝導性フィラー」は、本件特許発明1の「異なる圧縮破壊強度をもつ2種のフィラー(ただし、前記2種のフィラーは同一物質である場合は除く。)」に相当するといえ、甲1発明における「松ボックリ状窒化ホウ素以外の平均粒径1?100μm程度の熱伝導性フィラー」は、甲1の摘示(5)からも、凝集粒子である旨の記載はなく一次粒子で含有されるものと認められるから、本件特許発明1における「圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)」に相当し、甲1発明における「松ボックリ状窒化ホウ素」は、本件特許発明1における「圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)」に相当するといえる。
そして、甲1発明の「付加反応型液状シリコーン」は、甲1の摘示(6)から「熱風乾燥機で150℃で24時間加熱・硬化させ」るものであることは明らかであるから、本件特許発明1の「熱硬化性樹脂(C)」に相当する。
また、甲1発明の「放熱スペーサー用硬化性組成物」は、本件特許発明1の「硬化性放熱組成物」に相当する。

イ そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「異なる圧縮破壊強度をもつ2種のフィラー(ただし、前記2種のフィラーは同一物質である場合は除く。)と熱硬化性樹脂(C)を含む、硬化性放熱組成物。」
の点で一致し、以下の相違点1?3で相違する。

[相違点1]
2種のフィラー(ただし、前記2種のフィラーは同一物質である場合は除く。)の圧縮破壊強度比[圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)の圧縮破壊強度/圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の圧縮破壊強度]が、本件特許発明1では、「5?1500」であると特定しているのに対し、甲1発明では、そのような特定がない点。

[相違点2]
圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)(六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集して・・・なる松ボックリ状窒化ホウ素)の平均粒子径の範囲が、本件特許発明1では、「10?120μm」と特定しているのに対し、甲1発明では、「粒径が45μm以上となったものを20重量%以上含有してなる」と特定している点。

[相違点3]
圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)(松ボックリ状窒化ホウ素以外の・・・熱伝導性フィラー)の平均粒子径の範囲が、本件特許発明1では、「20?100μm」と特定しているのに対し、甲1発明では、「1?100μm程度」と特定している点。

ウ 相違点1について
(ア)相違点1が実質的な相違点であるかどうかについて以下に検討する。
甲1発明における「六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集して・・・なる松ボックリ状窒化ホウ素」は、本件特許発明1における「圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)」の具体例として挙げられた六方晶窒化ホウ素(hBN)の凝集粒と同じ範疇に属するものではあるが、六方晶窒化ホウ素(hBN)の凝集粒で共通するものであっても、それらの圧縮破壊強度が異なる値となることは、例えば、甲5の第4 6.(2)?(4)で摘示したことからも理解されるものである以上、全ての六方晶窒化ホウ素(hBN)の凝集粒が本件明細書の実施例で示された程度の圧縮破壊強度の値を有するものであるとはいえない。そうすると、甲1発明における「六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集して・・・なる松ボックリ状窒化ホウ素」の圧縮破壊強度が本件特許発明1における「圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)」の具体例として挙げられた六方晶窒化ホウ素(hBN)の凝集粒の圧縮破壊強度と同等のものであるとまではいえない。
また、甲1発明における「上記松ボックリ状窒化ホウ素以外の・・・熱伝導性フィラー」は、第4 1.(5)に摘示のとおり、アルミナ、マグネシア、アルミニウム、銅、銀、金、炭化珪素、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウムなどさまざまなものが列挙されており、これらのものの圧縮破壊強度もさまざな値を有するものであって、しかも、これらのものが同じフィラーであっても結晶構造等の違いによって圧縮破壊強度もさまざな値を有するものであることから、甲1発明における松ボックリ状窒化ホウ素以外の熱伝導性フィラーが全て甲1発明における松ボックリ状窒化ホウ素の圧縮破壊強度の5?1500倍の圧縮破壊強度を有するものであるとまではいえない。
(イ)異議申立人は、異議申立書において、「甲1には破壊強度の記載はないが、アルミナ、窒化アルミニウム(本件特許発明のフィラー(A)に相当)と、六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに集合してなる松ボックリ状窒化ホウ素(本件特許発明のフィラー(B)に相当)は共通していることから、実質同一である。
万一異なるとすれば、圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)については、甲2を引用する。本件特許権者は、平成28年7月7日提出の意見書2頁『4』の『(2)』の11?14行において、本件特許発明のフィラー(A)(B)の圧縮破壊強度は、甲2に相当すると自認している。
以上から、甲1又は甲2は、本件特許発明1の構成要件Bと共通する。」(16頁3?12行)と主張している。
しかしながら、甲1に各フィラーの圧縮破壊強度の値が記載されていないのは、(ア)で述べたとおりであって、甲1発明における松ボックリ状窒化ホウ素の圧縮破壊強度の値が本件明細書の実施例と同程度であるとまではいえないこと、及び、甲1発明における松ボックリ状窒化ホウ素以外の熱伝導性フィラーについても、アルミナや窒化アルミニウムに限らず、それら以外にもマグネシア、アルミニウム、銅、銀、金、炭化珪素、窒化ホウ素、窒化珪素などさまざまなものが列挙されており、これらのものの圧縮破壊強度もさまざな値を有するものであって、これらの熱伝導性フィラーが全て甲1発明における松ボックリ状窒化ホウ素の圧縮破壊強度の5?1500倍の圧縮破壊強度を有するものであるとまではいえないことも、(ア)で述べたとおりである。
また、甲2は、第4 3.で摘示したとおり、六方晶窒化ホウ素の凝集粉末と酸化アルミニウム粉末とを併用するものであって、甲1発明における「松ボックリ状窒化ホウ素」と「松ボックリ状窒化ホウ素以外の熱伝導性フィラー」とは、そもそもそれぞれが異なるものであることから、本件特許発明1と甲1発明とにおける2種のフィラーの圧縮破壊強度比の対比においては無関係なものである。
よって、異議申立人の主張は採用することができない。
(ウ)したがって、相違点1は実質的な相違点である。
(エ)相違点1が想到容易であるかどうかについて以下に検討する。
相違点1に係る構成の本件特許発明1における技術的意義は、本件特許明細書の記載(段落【0007】)からみて、圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)と圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)を、一定の圧縮破壊強度比となるように熱硬化性樹脂に配合することにより厚み方向の熱伝導率が高く空隙率が小さい硬化性放熱組成物を提供するものであることが理解される。
一方、甲1には、第4 1.(1)?(7)で摘示したとおり、甲1発明の「六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集して・・・なる松ボックリ状窒化ホウ素」及び「上記松ボックリ状窒化ホウ素以外の・・・熱伝導性フィラー」の各々の圧縮破壊強度に関し一切記載も示唆もされておらず、まして両者の圧縮破壊強度比の値に関し一切記載も示唆もされておらず、当該圧縮破壊強度比の値を所定値とすることにより、厚み方向の熱伝導率が高く空隙率が小さい放熱スペーサー用硬化性組成物を提供するという技術思想を示すものとはいえない。
そうすると、甲1発明において、厚み方向の熱伝導率が高く空隙率が小さい放熱スペーサー用硬化性組成物を提供するという課題を認識し、斯かる課題を解決しようとする動機があるとはいえない。
また、甲2?甲5には、熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性樹脂組成物が記載されている(第4 3.?6.)ものの、2種のフィラー(ただし、前記2種のフィラーは同一物質である場合は除く。)の圧縮破壊強度比[圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)の圧縮破壊強度/圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の圧縮破壊強度]が「5?1500」であるものを用いることは記載されておらず、それにより厚み方向の熱伝導率が高く空隙率が小さい硬化性放熱組成物が得られることについて記載も示唆もない。
そうである以上、甲1及び甲2?甲5の記載を参酌したとしても、厚み方向の熱伝導率が高く空隙率が小さい放熱スペーサー用硬化性組成物を提供するための具体的な解決手段として、2種のフィラーの圧縮破壊強度比[圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)の圧縮破壊強度/圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の圧縮破壊強度]を「5?1500」とすることを導き出すことは、たとえ当業者であっても困難なことである。
そして、本件特許発明1における相違点1に係る効果は、厚み方向の熱伝導率が高く空隙率が小さい硬化性放熱組成物を提供するというものであり、そのような効果は、甲1及び甲2?甲5を参酌したとしても、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。
(オ)以上のとおりであるから、相違点1は想到容易とはいえない。

エ 相違点2について
(ア)相違点2が実質的な相違点であるかどうかについて以下に検討する。
甲1発明における「六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集して・・・なる松ボックリ状窒化ホウ素」は、本件特許発明1における「圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)」の具体例として挙げられた六方晶窒化ホウ素(hBN)の凝集粒と同じ範疇に属するものではあるが、六方晶窒化ホウ素(hBN)の凝集粒で共通するものであっても、それらの平均粒子径が異なる値となることは、例えば、甲2の第4 3.(4)や甲4の第4 5.(4)で摘示したことからも理解されるものである以上、全ての六方晶窒化ホウ素(hBN)の凝集粒が本件特許発明1で特定された平均粒子径10?120μmを有するものであるとはいえない。そうすると、甲1発明における「六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集して・・・なる松ボックリ状窒化ホウ素」の平均粒子径が本件特許発明1における「圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)」の平均粒子径10?120μmと重複一致するものであるとまではいえない。
確かに、甲1発明における「六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集して・・・なる松ボックリ状窒化ホウ素」は、「粒径が45μm以上となったものを20重量%以上含有してなる」ものではあるものの、当該松ボックリ状窒化ホウ素の平均粒子径は不明であるといわざるを得ず、「粒径が45μm以上となったものを20重量%以上含有してなる」「六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集して・・・なる松ボックリ状窒化ホウ素」であれば、必ず「平均粒子径10?120μm」を満足するとまではいえない。
(イ)したがって、相違点2は実質的な相違点である。
(ウ)相違点2が想到容易であるかどうかについて以下に検討する。
相違点2に係る構成の本件特許発明1における技術的意義は、本件特許明細書の記載(段落【0016】)からみて、圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の平均粒子径が10μm未満では圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の変形、破壊を効率よく行えず、120μmを超えると基材に塗布したときに平滑性が失われるものであることが理解される。
一方、甲1には、第4 1.(1)?(7)で摘示したとおり、甲1発明の「六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集して・・・なる松ボックリ状窒化ホウ素」の平均粒子径に関し一切記載も示唆もされておらず、当該平均粒子径の値を所定値の範囲とすることにより、当該松ボックリ状窒化ホウ素の変形、破壊を効率よく行え、基材に塗布したときに平滑性に優れる放熱スペーサー用硬化性組成物を提供するという技術思想を示すものとはいえない。
そうすると、甲1発明において、松ボックリ状窒化ホウ素の変形、破壊を効率よく行え、基材に塗布したときに平滑性に優れる放熱スペーサー用硬化性組成物を提供するという課題を認識し、斯かる課題を解決しようとする動機があるとはいえない。
また、甲2?甲5には、六方晶窒化ホウ素の凝集粉末フィラーを含有する熱伝導性樹脂組成物が記載されており(第4 3.?6.)、それらの中には平均粒子径が10?120μmであるものも記載されているものの、甲1発明における「六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集して・・・なる松ボックリ状窒化ホウ素」と同じものは記載されておらず、六方晶窒化ホウ素の凝集粉末フィラーの平均粒子径が10?120μmであることにより六方晶窒化ホウ素の凝集粉末の変形、破壊を効率よく行え、基材に塗布したときに平滑性に優れる硬化性放熱組成物が得られることについて記載も示唆もない。一方、甲1発明において、「六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集して・・・なる松ボックリ状窒化ホウ素」の平均粒子径を10?120μmとすることの動機付けは見当たらないし、また、当該松ボックリ状窒化ホウ素に代えて、例えば甲2に記載された六方晶窒化ホウ素の凝集粉末を用いることの動機付けも見当たらない。
そうである以上、甲1及び甲2?甲5の記載を参酌したとしても、「六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集して・・・なる松ボックリ状窒化ホウ素」の凝集粉末の変形、破壊を効率よく行え、基材に塗布したときに平滑性に優れる放熱スペーサー用硬化性組成物を得るための具体的な解決手段として、当該松ボックリ状窒化ホウ素の平均粒子径を「10?120μm」とすることを導き出すことは、たとえ当業者であっても困難なことである。
そして、本件特許発明1における相違点2に係る効果は、圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の凝集粉末の変形、破壊を効率よく行え、基材に塗布したときに平滑性に優れる硬化性放熱組成物を提供するというものであり、そのような効果は、甲1及び甲2?甲5を参酌したとしても、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。
(エ)異議申立人は、異議申立書において、「甲2には、『六方晶窒化ホウ素の凝集粉末は、平均粒子径が20?60μm』(甲2【0008】)と記載されているから、本件特許発明1の構成要件Dは甲1と甲2から当業者には容易である。」(16頁26?31行)と主張している。
しかしながら、確かに、甲2においては、六方晶窒化ホウ素の凝集粉末の平均粒子径が20?60μmである必要があることが記載されている(第4 3.(2))ものの、第4 3.(3)の摘示によれば、斯かる数値範囲はあくまでも平均粒子径が0.1?1μmである酸化アルミニウム粉末と併用し、充填性を向上させ、凝集粉末間に空隙が存在しないようにして、熱伝導性に優れたものを得る際に必要な六方晶窒化ホウ素の凝集粉末の平均粒子径の範囲であって、その数値範囲を、窒化ホウ素も相違し、平均粒子径が0.1?1μmである酸化アルミニウム粉末と併用するものでもない甲1発明における松ボックリ状窒化ホウ素の平均粒子径にそのまま適用できるものではない。
よって、異議申立人の主張は採用することができない。
(オ)以上のとおりであるから、相違点2は想到容易とはいえない。

オ 小括
以上のとおり、相違点1及び2はいずれも想到容易とはいえないのであるから、相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲1ないし甲5に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明2ないし16について
本件特許発明2ないし16は、本件特許発明1に係る組成物を直接あるいは間接的に引用してなるものであるから、甲2ないし甲5に第4 3.?6.で摘示したとおりの記載があるとしても、本件特許発明1と同様に、甲1発明及び甲1ないし甲5に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1ないし16は甲1に記載された発明と相違するものであり、斯かる相違点は甲1?甲5に記載された事項から想到容易とはいえないのであるから、本件特許発明1ないし16は、甲1に記載された発明及び甲1?甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件特許発明1ないし16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではなく、同法第113条第2項に該当し取り消すべきものであるとはいえない。

2.取消理由2(特許法第36条第4項第1号)について
異議申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を考慮すると、本件特許明細書の実施例には、圧縮破壊について一切のデータがなく、効果も不明であり、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないと主張している。

しかしながら、少なくとも本件特許明細書(段落【0057】?【0091】)には実施例として、
「【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
フィラー及びその圧縮破壊強度:
[フィラー(A)]
圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)として、下記のフィラーを使用した。
(1)CB-A50S:昭和電工(株)製の平均粒子径50μmの球状アルミナ、
(2)FAN-f50-J:古河電子(株)製の平均粒子径50μmの窒化アルミニウム、
(3)GB301S:ポッターズ・バロティーニ(株)製の平均粒子径50μmのガラスビーズ、
(4)ハイジライト HT-32I:昭和電工(株)製の平均粒子径8μmの水酸化アルミニウム。
[フィラー(B)]
圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)として、下記のフィラーを使用した。
(1)UHP-2:昭和電工(株)製hBN凝集粒分級品、
(2)PTX-60S:平均粒径60μmのモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製hBN凝集粒、
(3)PT-405:平均粒径40μmのモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製hBN凝集粒、
(4)TECO-20091045-B:平均粒径63μmのモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製hBN凝集粒。
フィラーの圧縮破壊強度は、前述した方法で(株)島津製作所の微小圧縮試験機 MCT-510にて測定した。結果を表1に示す。
【表1】

樹脂成分:
[熱硬化性樹脂(C-1)]
(1)エポキシ樹脂1:4官能型エポキシ樹脂、数平均分子量420、エポキシ当量118g/eq、新日鉄住金化学株式会社製、製品名:エポトートYH-434L、
(2)エポキシ樹脂2:4官能ナフタレン型エポキシ樹脂、数平均分子量560、エポキシ基当量166g/eq、DIC株式会社製、製品名:エピクロンHP-4700、
(3)アクリル樹脂1:3官能型アクリル樹脂、数平均分子量423、官能基当量141g/eq、日立化成工業株式会社製、製品名:ファンクリルFA-731A。
[熱硬化性樹脂(C-2)]
(1)エポキシ樹脂3:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量190g/eq、新日鉄住金化学株式会社製、製品名:エポトートYD-128、
(2)エポキシ樹脂4:ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量 160g/eq 新日鉄住金化学株式会社製、製品名:エポトートYDF-870GS、
(3)エポキシ樹脂5:多官能型エポキシ樹脂、数平均分子量1280、エポキシ当量218g/eq、DIC株式会社製、製品名:エピクロンN-680、
(4)エポキシ樹脂6:多官能型エポキシ樹脂、数平均分子量400、エポキシ当量250g/eq DIC株式会社製、製品名:エピクロンHP-7200L、
(5)アクリル樹脂2:6官能型アクリル樹脂、数平均分子量1260、官能基等量141g/eq、日本化薬株式会社製、製品名:カヤラッドDPCA-60。
[熱可塑性樹脂(D)]
(1)ポリビニルブチラール樹脂:数平均分子量53,000、積水化学株式会社製、製品名:エスレックSV-02、
(2)ポリエステル樹脂:数平均分子量22,000、日本合成化学株式会社製、製品名:SP182。
[その他の熱硬化性樹脂]
(1)フェノール樹脂:多官能型フェノール樹脂、数平均分子量470、水酸基当量108g/eq、新日鉄住金化学株式会社製、製品名:SN-395、
(2)フェノール樹脂:フェノールノボラック樹脂、昭和電工株式会社、製品名:ショウノールBRN-5834Y。
[硬化触媒]
(1)イミダゾール化合物:1-(シアノエチル)-2-ウンデシルイミダゾール、四国化成株式会社製、製品名:キュアゾールC11Z-CN、
(2)有機過酸化物:クメンハイドロパーオキサイド、日本油脂株式会社製、製品名:パークミルH-80。
樹脂成分の分析方法:
[数平均分子量]
ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定を行った。なお、測定には昭和電工社製Shodex GPC System-21(カラム KF-802,KF-803、KF-805)を用い、測定条件はカラム温度40℃、溶出液テトラヒドロフラン、溶出速度1ml/分。標準ポリスチレン換算分子量(Mw)で表示した。
成形物の評価方法:
[密度(比重)]
全ての実施例、及び比較例において測定された成形物の比重はザルトリウス・メカトロニクス・ジャパン(株)の電子天秤(CP224S)と比重/密度測定キット(YDK01/YDK01-OD/YDK01LP)を用いて空気中での成形体の質量と水中での成形体の質量を測定し、下記の式(3)を用いて比重を算出した。
【数3】
(省略)
式中、ρは固体の比重、ρ(fl)は液体の密度、W(a)は空気中における固体の質量、W(fl)は液体中における固体の質量を表し、密度測定の液体としては全て水を使用している。
[熱伝導率]
硬化性放熱組成物を用いて作製した厚み200?500μmの成形物を10mm×10mmに切断し、熱伝導率測定装置 LFA447 NanoFlash(NETZSCH社製)を使用することで25℃における熱拡散率を測定した。さらに別途求めた比熱及び比重から下記の式(2)により熱伝導率を算出した。
【数4】
(省略)
[空隙率]
成形体の空隙率に関しては実施例あるいは比較例に示される樹脂、及び各フィラーの質量%から成形体の理論比重を計算する。また、実際に成形した成形体の比重を式(3)により算出する。これらの数値を下記の式(4)を用いて空隙率を算出した。
【数5】
(省略)
実施例1:
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(製品名:エポトートYD-128、新日鉄住金化学(株)製)17.6質量部、圧縮破壊強度が低いフィラーとして窒化ホウ素凝集粒(UHP-2,昭和電工(株)製)を66.5質量部、圧縮破壊強度が高いフィラーとして窒化アルミニウム(FAN-f50-J,古河電子(株)製)15.9質量部を配合したのち、自転・公転ミキサー((株)シンキー製,泡取り練太郎)を用いて混練りし、目的の硬化性放熱樹脂組成物を得た。この硬化性放熱樹脂組成物を、熱プレスを用いて所定(10MPa)の圧力で130℃で30分加熱成形し、シート状にして硬化させた成形硬化板を作製し、熱伝導率を測定したところ厚み方向の熱伝導率は16.4W/m・Kと高い値を示した。また、上記の方法により成形体の空隙率を計算したところ0.20%であった。
実施例2?12:
表2に示す組成で、実施例1と同様の方法にて硬化性放熱組成物及び成形硬化板を作製し、熱伝導率を測定し、空隙率を計算した。結果を表2に示す。
比較例1?5:
表3に示す組成で、実施例1と同様の方法にて硬化性放熱組成物及び成形硬化板を作製し、熱伝導率を測定し、空隙率を計算した。結果を表3に示す。
実施例13:シートの作製(1)
表4に記載した通り、(C-1)成分のN,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(製品名:YH-434L、新日鉄住金化学(株)製)35質量部、(C-2)成分のビスフェノールA型エポキシ樹脂(製品名:エポトートYD-128 新日鉄住金化学株式会社製)10質量部、熱可塑性樹脂成分(D)のポリビニルブチラール樹脂(製品名 エスレック SV-02 積水化学工業株式会社)25質量部、フェノールノボラック樹脂(製品名 ショウノール BRN-3824Y 昭和電工株式会社製)10質量部、多官能型フェノール樹脂(製品名:SN-395 新日鉄住金化学株式会社製)20質量部に溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(和光純薬株式会社製)150質量部を加えて樹脂成分を溶解した。さらに硬化触媒として、1-(シアノエチル)-2-ウンデシルイミダゾール(製品名 キュアゾール C11Z-CN 四国化成工業株式会社)0.3質量部を加えた。調製した樹脂溶液に圧縮破壊強度が高いフィラー(A)として窒化アルミニウム(製品名:FAN-f50-J、古河電子株式会社製)309質量部、圧縮破壊強度が小さいフィラーとして窒化ホウ素凝集粒(製品名:TECO20091045-B,モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ合同会社製)71質量部、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテル650質量部を配合し、自転公転ミキサー((株)シンキー製,泡取り練太郎)を用いて混練りし、実施例13の硬化性放熱組成物を得た。
このように調製した硬化性放熱組成物を厚み75μmのPETフィルムに溶剤乾燥後の塗膜が約150μmとなるように自動バーコーター(テスター産業(株)製PI-1210)で塗装し、常圧70℃×20分さらに70℃×20分間真空乾燥により溶剤を乾燥することによりPETフィルムに放熱硬化性組成物の塗膜が形成されたシートを得た。該シートの放熱硬化性組成物が形成された面同士を貼り合わせ、卓上小型ロールプレス(テスター産業製)を用い、温度90℃、加圧圧力 10MPa、ロール速度0.3m/分の条件で3回加熱・加圧することにより、厚み約200μmの実施例13の接着シートを得た。
実施例14:シートの作製(2)
実施例13と同じ配合の硬化性放熱組成物を用い、以下の方法にして接着シートを作製した。
硬化性放熱組成物を厚み75μmのPETフィルムに溶剤乾燥後の塗膜が約300μmとなるように自動バーコーター(テスター産業(株)製PI-1210)で塗装し、常圧70℃×20分さらに70℃×20分間真空乾燥により溶剤を乾燥することによりPETフィルムに放熱硬化性組成物の塗膜が形成されたシートを得た。このシートにPETフィルムを被覆し、卓上小型ロールプレス(テスター産業製)を用い、温度90℃、加圧圧力 10MPa、ロール速度0.3m/分の条件で3回加熱・加圧することにより、厚み約200μmの実施例14の接着シートを得た。
実施例15?22、比較例6?12:
表4及び表5に示した配合で、実施例13と同様の方法にて厚さ約200μmの実施例15?22及び比較例6?12の接着シートを作製した。
接着シートの評価試験:
実施例13?22及び比較例6?12で作製した各接着シートについて、下記の方法で絶縁破壊電圧、ガラス転移温度、作業性、成形性、柔軟性、接着性、耐電圧、熱伝導率及び空隙率を測定した。結果をまとめて表4及び5に示す。
[絶縁破壊電圧の測定方法]
周波数50Hzの交流電源を、毎分5kVの速度で5kVまで昇圧後、1分間保持、毎分5kVの速度で0kVまで降圧するサイクルを行う。サイクル中に1mA以上の通電が確認された時点で、絶縁破壊したと判断した。なお、試験には菊水電工業株式会社製 耐電圧/絶縁抵抗測定装置 TOS9201を用い、電極にはΦ25mm円柱/Φ75mm円柱形状の物を用いた。
[硬化後のガラス転移温度]
所定の方法で作製した接着シートを20mm四方の型枠に25枚重ねた状態で20mm四方の型枠に入れ、温度180℃、圧力3MPaでプレス硬化した。得られた成形物はシートの面方向を試験片の高さになるように切削加工し高さ10mm、幅5mm四方の試験片を得た。この試験片についてTMA法でガラス転移温度を測定した。測定条件は、昇温速度毎分10K、荷重5gの条件である。測定装置としてエスアイアイ・ナノテクノロジー株式社製 EXSTAR TMA/SS7000を用いた。
[作業性]
所定の方法で作製した接着シートについて23℃に保管した後に、支持フィルムからの離形性、及び、硬化前シートの柔軟性について確認を行った。離形性は支持フィルムを剥がしたときにシートに破損の有無で判断した。柔軟性については、硬化前シートを支持フィルムがついた状態でΦ50mmの円柱に巻き付けてシートの破損の有無で判断した。破損しなかった場合を○、破損した場合を×と判定した。
[成形性]
所定の方法で作製した接着シートを50mm×50mmに切断し、支持フィルムを剥がした。70mm×70mm×35μmと40mm×40mm×35μmの電解銅箔に挟んだ状態で、温度180℃、圧力3MPaでプレス硬化した。得られた片面銅張シートについて、銅箔がシートに埋め込まれている事、埋め込まれた銅箔の周囲にクラックが発生していないことを確認した。クラックの有無は、絶縁破壊電圧試験を行い、1.0kV未満で通電が確認した物をクラックが発生していると判断した。クラックが発生しなかった場合を○、クラックが発生した場合を×と判定した。
[柔軟性]
所定の方法で作成した接着シートについて50mm×50mmに切断し、支持フィルムを剥がした。70mm×70mm×35μmの電解銅箔で挟んだ状態で、温度180℃、圧力3MPaでプレス硬化した。得られた両面銅張シートから、片方のみ銅箔を剥がし、片面銅張シートを作成した。この片面銅張シートについて銅箔を外側にした状態で、Φ100mmの円柱に巻き付けてシートの破損の有無で柔軟性を判断した。シートが破損しなかった場合を○、破損した場合を×と判定した。
[接着性]
所定の方法で作製した接着シートを100mm×30mmに切断し、支持フィルムを剥がした。150mm×30mm×1mmのアルミ板と150mm×30mm×35μmの電解銅箔に挟んだ状態で、温度180℃、圧力3MPaでプレス硬化した。得られた片面銅張アルミ板貼り付けシートについて、中心部分の幅10mm以外の銅箔を除去し、90℃剥離強度用試験片を作成した。この試験片についてJIS-C6481に準拠して測定し、0.5kN/m以上の剥離強度を有している場合を接着性良好で○とし、0.5kN/m未満の剥離強度では接着性不良で×と判定した。
[耐電圧]
所定の方法で作製した接着シートを50mm×50mmに切断し、支持フィルムを剥がした。70mm×70mm×35μmの電解銅箔で挟んだ状態で、温度180℃、圧力3MPaでプレス硬化した。得られた両面銅張シートから、両面の銅箔を剥がし、硬化シート単体を得た。この硬化シート単体5枚を用いて下記の条件で絶縁破壊電圧試験を行った。絶縁破壊電圧5kV以上の合格率が80%以上の場合を耐電圧良好として○、合格率80%未満の場合は耐電圧不良として×と判定した。
[熱伝導率]
所定の方法で作製した接着シートについて50mm×50mmに切断し、支持フィルムを剥がした。70mm×70mm×35μmの電解銅箔で挟んだ状態で、温度180℃、圧力3MPaでプレス硬化した。得られた両面銅張シートから、両面の銅箔を剥がし、硬化シート単体を得た。この硬化シート単体について、10mm×10mmに切断した後に熱伝導率測定装置 LFA447 NanoFlash(NETZSCH社製)を使用することで25℃における熱拡散率を測定した。熱伝導率は前述した成型体の熱伝導率と同様の方法で算出した。
[空隙率]
成型体の空隙率と同じ方法にて、硬化した接着シートの空隙率を測定した。
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

表2及び表3の結果の通り、熱硬化性樹脂と圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)、とりわけ窒化アルミニウムと圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)、とりわけhBN凝集粒を組み合わせることにより、厚み方向への熱伝導率が高い硬化物が得ることができた。
さらに、表4及び表5の結果の通り、熱硬化性樹脂と圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)と圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)、とりわけhBN凝集粒を組み合わせることにより、シートの製造工程を経た後でも、厚み方向への熱伝導率が高く、同時に成形体内の空隙率が低い状態を維持した硬化物が得ることができた。また、実用物性も良好であった。
実施例13?22の接着シートは実用物性に問題は見られず、熱伝導率も良好であった。同じ組成で放熱樹脂層同士を貼り合わせ工程を経なかった実施例14は実施例13に比べて熱伝導率は良くなった。
比較例6は、熱硬化性樹脂(C-1)を全樹脂成分に対して25質量%未満配合したものであり、シートのガラス転移温度が低く耐熱性が劣る。熱硬化性樹脂成分(C-1)の代わりに数平均分子量が1000以上の多官能エポキシ樹脂を配合した比較例7では、多官能エポキシ樹脂を配合しているためガラス転移温度は高いが、接着シートのハンドリング性、成形性、耐電圧性が劣った。熱硬化性樹脂(C-1)の代わりに官能基密度が低いエポキシ樹脂を配合した比較例8では、ガラス転移温度が低く耐熱性が劣った。熱硬化性樹脂(C-1)の代わりに官能基密度が低いアクリル樹脂を配合した比較例9は、ガラス転移温度が低く耐熱性が劣った。熱可塑性樹脂(D)を配合しない比較例10では安定してシート化が出来なかった。熱可塑性樹脂(D)の配合量が少ない比較例11はシートの柔軟性、接着性、耐電圧が劣った。熱可塑性樹脂(D)の配合量の多い比較例12はシートの耐熱性、成形性、耐電圧が劣った。」
と記載されており、使用する各原料はもちろん、成形硬化板や接着シートのプレス圧等の製造条件も明確に記載されていると認められるものである。
そうすると、斯かる記載に基づけば、その限りにおいて本件特許発明を実施することができることは明らかである。
また、本件特許明細書の「本発明の硬化性放熱樹脂組成物において、破壊強度が異なる2種類のフィラーを用いているため、空隙の部分に変形・破壊した破壊強度が小さいフィラー(B)が入り込み、空隙が発生しない。」(段落【0041】)との記載に鑑みれば、成形硬化板や接着シートを製造するに際して、各原料を混練した硬化性放熱樹脂組成物を熱プレスする条件として、圧縮破壊強度が大きいフィラー(A)は破壊せずに、圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)は破壊するようなプレス圧を設定することは当然のことであり、得られた成形硬化板や接着シートの状態を確認しつつ、それに基づいてプレス圧を適宜変更しつつ、その最適値を設定することは、当業者にとり過度の試行錯誤が必要になるものであるとはいえない。
そして、本件特許発明において、本件特許明細書の実施例において具体的に用いられている樹脂組成物以外のものにおいても、本件特許明細書の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、原料の種類や配合割合などを適宜変更することにより、当業者であれば本件特許発明に係る硬化性放熱組成物を製造することができると認められるのであるから、本件特許明細書の記載が、当業者にとり過度の試行錯誤が必要になるものであるとはいえない。
そうすると、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているから、特許異議申立人によるこの主張は採用することができない。
以上のとおり、請求項1ないし16に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるとはいえないから、同法第113条第4項に該当し取り消すべきものであるとはいえない。



第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-30 
出願番号 特願2014-507522(P2014-507522)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柴田 昌弘  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 上坊寺 宏枝
小野寺 務
登録日 2016-10-14 
登録番号 特許第6022546号(P6022546)
権利者 昭和電工株式会社
発明の名称 硬化性放熱組成物  
代理人 大家 邦久  
代理人 林 篤史  

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