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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09K |
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管理番号 | 1330137 |
異議申立番号 | 異議2017-700444 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-05-02 |
確定日 | 2017-07-21 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6023934号発明「地盤注入用固結材及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6023934号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6023934号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成24年3月13日の出願であって、平成28年10月21日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人野中治美(以下、単に、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 2.本件発明 特許第6023934号の請求項1?10の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1?10の発明を、項番号に応じて「本件発明1」などという。)。 「【請求項1】 コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、並びに、硫酸を含有する地盤注入用固結材であって、 (1)前記地盤注入用固結材は、前記硫酸100質量部に対して、更にリン酸系化合物、クエン酸系化合物及び硫酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を2?50質量部含有し、 (2)前記地盤注入用固結材は、SiO_(2)濃度が10質量%超過であり、前記SiO_(2)中、前記コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下である、 ことを特徴とする地盤注入用固結材。 【請求項2】 一軸圧縮強度(28日強度)が420kN/m^(2)以上である、請求項1に記載の地盤注入用固結材。 【請求項3】 前記珪酸ソーダは、SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が2.0?5.2であり、且つ、SiO_(2)濃度が24?30質量%である、請求項1又は2に記載の地盤注入用固結材。 【請求項4】 前記コロイダルシリカは、SiO_(2)の平均粒子径が3?30nmであり、且つ、SiO_(2)濃度が20?50質量%である、請求項1?3のいずれかに記載の地盤注入用固結材。 【請求項5】 既存の岸壁、護岸又は構造物の耐震補強及び/又は周囲の地盤改良に用いる、請求項1?4のいずれかに記載の地盤注入用固結材。 【請求項6】 前記耐震補強は、レベル2地震動に対する耐震補強である、請求項5に記載の地盤注入用固結材。 【請求項7】 コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、並びに、硫酸を含有する地盤注入用固結材の製造方法であって、 (1)前記地盤注入用固結材は、SiO_(2)濃度が10質量%超過であり、前記SiO_(2)中、前記コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下であり、 (2)前記硫酸100質量部に対して、更にリン酸系化合物、クエン酸系化合物及び硫酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を2?50質量部混合した混合液を調製し、次いで前記混合液に前記珪酸ソーダ及び前記コロイダルシリカを同時又は順不同で混合することを特徴とする製造方法。 【請求項8】 前記地盤注入用固結材は、一軸圧縮強度(28日強度)が420kN/m^(2)以上である、請求項7に記載の製造方法。 【請求項9】 既存の岸壁、護岸又は構造物の耐震補強及び/又は周囲の地盤改良に用いる地盤注入用固結材を製造する、請求項7又は8に記載の製造方法。 【請求項10】 前記耐震補強は、レベル2地震動に対する耐震補強である、請求項9に記載の製造方法。」 3.申立理由の概要 申立人は、証拠として特開2010-116759号公報(甲第1号証。以下、申立人の提出した甲各号証を項番号に応じて、単に「甲1」などという。)、米倉亮三、島田俊介、大野康年、「恒久グラウト・本設注入工法-薬液注入の耐久性と耐震補強の設計施工-」、株式会社山海堂、2007年8月29日、初版第1刷、p52-63、p144-145(甲2)、島田俊介、佐藤武、多久実、「最先端技術の薬液注入工法」、理工図書株式会社、平成7年10月31日、3版、p110-111(甲3)、特許第4766532号公報(甲4)、及び、特開2011-241305号公報(甲5)を提出し、次の(1)?(4)を根拠として、本件特許を取り消すべきものである旨主張している。 (1)特許法第29条第1項第3号、請求項1、2について〔同法第113条第2項(特許異議申立書における「第113条第2号」という記載は、「第113条第2項」の誤記と認める。「第113条第4号」という記載についても、「第113条第4項」の誤記と認める。)〕 本件発明1?2は、甲1に記載の発明である。 (2)特許法第29条第2項、請求項1?10について(同法第113条第2項) ア 本件発明1は、甲1に記載された発明から想到容易である。 イ 本件発明2は、甲1に記載された発明、又は、甲1、甲2に記載された発明から想到容易である。 ウ 本件発明3は、甲1、甲3に記載された発明から想到容易である。 エ 本件発明4は、甲1、甲2に記載された発明から想到容易である。。 オ 本件発明5は、甲1、甲4に記載された発明から想到容易である。 カ 本件発明6は、甲1、甲4に記載された発明から想到容易である。 キ 本件発明7は、甲1、甲5に記載された発明から想到容易である。 ク 本件発明8は、甲1、甲5に記載された発明、又は、甲1、甲2、甲5に記載された発明から想到容易である。 ケ 本件発明9は、甲1、甲4、甲5に記載された発明から想到容易である。 コ 本件発明10は、甲1、甲4、甲5に記載された発明から想到容易である。 (3)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)、請求項1?10について(同法第113条第4項) ア 本件発明1、7は、「硫酸100質量部に対して、更にリン酸系化合物、クエン酸系化合物及び硫酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を2?50質量部含有する」ことを発明特定事項としている。 しかしながら、本件明細書に示された調製例1?9中、本件発明1に係る添加剤の含有量の範囲「2?50質量部」に含まれるのは調製例1、2、5のみであって、残る調製例3、7?9はいずれも「2?50質量部」の範囲外であるにもかかわらず、すべての調製例が、「SiO_(2)濃度10質量%超過でありながら作液状況が良好」なものとなっている。 よって、本件明細書の記載は、本件発明1、7に係る「2?50質量部」の範囲とすることで発明の効果が得られることを示しているものとはいえず、本件発明1、7に係る「2?50質量部」との発明特定事項は本件の発明の詳細な説明の記載により裏付けられていないので、本件発明1、7及びこれに従属する本件発明2?6、8?10はサポート要件を満足しないものである。 イ 本件発明1、7は、「SiO_(2)中、コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下である」ことを発明特定事項としている。 しかしながら、本件明細書中、本件発明1に係るユロイダルシリカに由来するSiO_(2)量の範囲「40質量%以下」と、これに含まれない40質量%を超える範囲において、効果に明確な相違があることは示されていない。 よって、本件明細書の記載は、本件発明1、7に係る「40質量%以下」の範囲とすることで発明の効果が得られることを示しているものとはいえず、本件発明1、7に係る「40質量%以下」との発明特定事項は本件の発明の詳細な説明の記載により裏付けられていないので、本件発明1、7およびこれに従属する本件発明2?6、8?10はサポート要件を満足しないものである。 (4)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)、請求項1?10について(同法第113条第4項) 本件発明1、7は、「SiO_(2)中、コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下である」ことを発明特定事項としている。しかしながら、「コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下」とは、「コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が0質量%」の場合も含むものであって、これは本件発明1、7における「コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、並びに、硫酸を含有する地盤注入用固結材」との発明特定事項と矛盾するものといえるので、本件発明1、7およびこれに従属する本件発明2?6、8?10は、「SiO_(2)中、コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下である」との発明特定事項を含む結果、不明確なものとなっており、明確性要件を満足しないものである。 4.判断 (1)特許法第29条第1項第3号、請求項1、2について ア 甲1?甲5の記載 (ア)甲1 甲1には、「地盤改良工法」(発明の名称)について、次の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 コンクリート構造物または土中埋設物の地盤に、リン酸化合物および/または金属イオン封鎖剤を含む非アルカリ性シリカ溶液を注入して、地盤を改良する地盤改良工法であって、 前記非アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度が、次式、 (A)2wt%≦[SiO_(2)]≦50wt% (式中、[SiO_(2)]は溶液中のシリカ濃度(%)を示す)を満たし、 前記非アルカリ性シリカ溶液のリンイオン濃度が、次式、 (B)3000ppm≦[P]≦100000ppm (式中、[P]は溶液中のリンイオン濃度(ppm)を示す)を満たし、 硫酸イオンおよび/または海水からの影響を防護することを特徴とする地盤改良工法。 【請求項2】 前記非アルカリ性シリカ溶液が水ガラスに起因するシリカを含む場合、前記非アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度が、次式、 (A)2wt%≦[SiO_(2)]≦10wt% (式中、[SiO_(2)]は溶液中のシリカ濃度(%)を示す)を満たす請求項1記載の地盤改良工法。 【請求項3】 前記非アルカリ性シリカ溶液が、次式、 [P]/[SiO_(2)]=60?5000 (式中、[P]は溶液中のリンイオン濃度(ppm)を示し、[SiO_(2)]は溶液中のシリカ濃度(%)を示す)を満たす請求項1または2記載の地盤改良工法。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、地盤改良工法に関し、詳しくは、地下水中に含まれるコンクリート構造物や土中埋設物を劣化するイオン、特に海水や硫酸イオン等から既存のコンクリート構造物や土中埋設物、または掘削後建造するコンクリート構造物や土中埋設物を防護する地盤注入工法に係り、特にリン酸化合物、並びにまたは金属イオン封鎖剤を含む非アルカリ性シリカ(以下「マスキングシリカ溶液」という)によってコンクリート表面のCa^(2+)やMg^(2+)を取り込んでコンクリート表面にシリカの防護被覆層(以下「マスキングシリカ」という)を形成して、コンクリート構造物の劣化を防ぐと共に非アルカリ性シリカの反応生成物を少なくして水質保全性と耐久性に優れた固結を可能にする地盤改良工法に関する。」 「【0012】 そこで本発明の目的は、注入領域全体におけるシリカグラウトの反応生成物の影響をより最小限におさえ、コンクリート構造物または土中埋設物をより保護する効果のある強固な保護膜をコンクリートの表面に形成すると共に、シリカのゲル耐久性がより優れた固結を可能にする地盤改良工法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、特定のシリカ濃度およびリンイオン濃度に調整することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。 【0014】 即ち、本発明の地盤改良工法は、コンクリート構造物または土中埋設物の地盤に、リン酸化合物および/または金属イオン封鎖剤を含む非アルカリ性シリカ溶液を注入して、地盤を改良する地盤改良工法であって、 前記非アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度が、次式、 (A)2wt%≦[SiO_(2)]≦50wt% (式中、[SiO_(2)]は溶液中のシリカ濃度(%)を示す)を満たし、 前記非アルカリ性シリカ溶液のリンイオン濃度が、次式、 (B)3000ppm≦[P]≦100000ppm (式中、[P]は溶液中のリンイオン濃度(ppm)を示す)を満たし、 硫酸イオンおよび/または海水からの影響を防護することを特徴とする。 【0015】 また、本発明の地盤改良工法は、前記非アルカリ性シリカ溶液が水ガラスに起因するシリカを含む場合、前記非アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度が、次式、 (A)2wt%≦[SiO_(2)]≦10wt% (式中、[SiO_(2)]は溶液中のシリカ濃度(%)を示す)を満たすことが好ましく、前記非アルカリ性シリカ溶液が、次式、 [P]/[SiO_(2)]=60?5000 (式中、[P]は溶液中のリンイオン濃度(ppm)を示し、[SiO_(2)]は溶液中のシリカ濃度(%)を示す)を満たすことが好ましい。」 「【0039】 また、上記非アルカリ性シリカ溶液は、水ガラスのアルカリを除去した酸性シリカ溶液、あるいは酸性シリカ溶液にアルカリを加えたものである。かかる非アルカリ性シリカ溶液は、水ガラス中のアルカリを酸で除去したシリカ溶液、水ガラスをイオン交換樹脂またはイオン交換膜で脱アルカリした酸性活性シリカ、酸性活性シリカに水ガラスを加えたアルカリ性シリカ、アルカリ性シリカを加熱増粒したコロイダルシリカ、水ガラスと酸を混合した酸性シリカの酸の一部またはすべてを、陰イオン交換樹脂または陰イオン交換膜で脱した活性シリカ、これらに水ガラスと酸を混合した酸性シリカ溶液、あるいはこれらのコロイド状のシリカ溶液に水ガラスと酸からなる酸性シリカゾル溶液を加えた酸性シリカ溶液をいう。具体的には、シリカ溶液をイオン交換樹脂またはイオン交換膜に通過させ、得られる活性珪酸水溶液を加熱等によって数万あるいはそれ以上の分子量に縮合し、アルカリまたは水ガラスを加えて弱アルカリ性に安定化し、20?30%のSiO_(2)濃度に濃縮したコロイダルシリカと酸を混合した酸性シリカ溶液、上記コロイダルシリカと水ガラスと酸の混合物からなる酸性シリカ溶液、あるいは酸性活性シリカと水ガラスと酸からなる酸性シリカを用いることができる。」 「【0055】 本発明における第2の発明は、コンクリート構造物または土中埋設物の地盤に、非アルカリ性シリカ溶液を注入して、地盤を改良する地盤改良工法であって、非アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度が、次式、 (A)2wt%≦[SiO_(2)]≦50wt% (式中、[SiO_(2)]は溶液中のシリカ濃度(%)を示す)を満たし、非アルカリ性シリカ溶液のリンイオン濃度が、次式、 (B)3000ppm≦[P]≦100000ppm (式中、[P]は溶液中のリンイオン濃度(ppm)を示す)を満たし、コンクリート構造物または土中埋設物の近傍の地盤を、リン酸化合物および/または金属イオン封鎖剤を有効成分とする非アルカリ性シリカ溶液、あるいはリン酸化合物および/または金属イオン封鎖剤と、硫酸化合物を有効成分とする非アルカリ性シリカ溶液で固結し、近傍の地盤の周りの地盤を、硫酸化合物を有効成分とするシリカ溶液、あるいは近傍の地盤よりも少ない量のリン酸化合物および/または金属イオン封鎖剤と、硫酸化合物を有効成分とする非アルカリ性シリカ溶液で固結することを特徴とするものであり、地盤改良工法において、リン酸系化合物の濃度が、コンクリート構造物等の近傍の地盤で高く、かつ、コンクリート構造物等から離れるにしたがって低くなるものである。コンクリート構造物等の外周である近傍の地盤(近傍領域)でのリン酸系化合物の濃度を高くすることで、より確実にコンクリート構造物等の表面に被膜を形成でき、一方、近傍の地盤の周りの地盤(離れた領域)ではリン酸系化合物の濃度が低いためコストを低減でき、しかもリン酸反応生成物の量を少なくすることができ、かつ全固結領域の水溶性反応生成物を少なくできて水質の環境負荷を抑制できる。即ち、本発明は、水ガラスのアルカリを除去した非アルカリ性シリカ溶液を注入するに当たって、反応剤としてリン酸と硫酸を併用したシリカグラウトを用いるという上記従来技術(特許第3072346号公報)の考えではなく、複数のリン酸含有量の異なる酸性シリカ溶液を併用して、改良すべき注入範囲のコンクリートの位置との関連を考慮した上で、注入領域に対してリン酸量の異なる固結領域を組合せて配置を行うことにより、リン酸化合物の使用量の低減と注入対象領域の全体での全反応生成物の溶出を低減し、コンクリートの保護機能を効果的に得られるものである。」 「【実施例】 【0058】 以下、本発明を実施例によって詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 (実施例1) シリカ溶液(水ガラス)62mlに、硫酸、キレート剤入り硫酸、キレート剤を水で希釈し加え全量を400mlとなるよう配合し、ゲルタイムとpHを測定した。このときのシリカ濃度は配合液が6%となるように調整した。結果を図1および2に示す。ここでキレート剤は75%リン酸であり硫酸は75%硫酸である。 【0059】 図2において、pH(20℃)とゲルタイムの関係を示す。硫酸単独、キレート剤(リン酸)入り硫酸、キレート剤(リン酸)単独、いずれの場合も、pHとゲルタイムの関係は等しく、pHが低くなるほどゲルタイムが長く、pH3付近で1000分のゲルタイムが得られる。 【0060】 図1では、同一pH、即ち、同ゲルタイムに対してキレート剤(リン酸)単独の非アルカリ性シリカ溶液(マスキングシリカ溶液)では多い添加量を必要とし、硫酸単独では少ない添加量ですみ、キレート剤(リン酸)入りの硫酸の非アルカリ性シリカ溶液(マスキングシリカ溶液)は両者の中間となる。図1において、硫酸(キレート剤入り)は75%硫酸と75%リン酸を7:3の質量比で混合したものである。このことから、長いゲルタイムを調整するためには、硫酸のみ、またはキレート入り硫酸の場合は、硫酸の比率が多い方が少量の反応剤ですむ。従って、シリカ溶液の反応生成物も少なくなることがわかる。以上の試験結果より、コンクリート構造体等の周辺の注入領域を固結するに当たって、水溶性反応生成物を少なくし、かつコンクリートの劣化を防ぐためにはコンクリート構造体等の近傍領域にキレート剤含有シリカ溶液を注入し、コンクリート構造体等から離れた領域では硫酸含有非アルカリ性シリカ溶液(マスキングシリカ溶液)、またはリン酸化合物および/または金属イオン封鎖剤をコンクリート近傍よりも少なく含有するシリカ溶液で固結することによって可能である。また、硫酸イオンを含有する非アルカリ性シリカ溶液において,効果的なマスキングシリカを形成するには硫酸イオンおよびリン酸イオンが、9:1?1:9(ppm)が好ましい。 「【0073】 (実施例2‐1) 実験方法 図3は、コンクリート構造物への非アルカリ性シリカ溶液の影響を観察するため,容器3A中にモルタル供試体の周辺を薬液2のゲルで固結し密閉した図と容器3A中の固結物を密封容器3Bに移して養生水19中に養生した図を重ねて示している。図3にて、直径5cm、高さ10cmで体積196cm^(3)のモルタル供試体1を、体積500cm^(3)(直径m=7cm、高さ13cm)の容器3A中に設置し、モルタル供試体1の外周にモルタル供試体1と同体積に相当する厚み1cmとなるように非アルカリ性シリカ溶液(薬液)2を充填しゲル化させた。その後、地下水存在下でのコンクリート構造物への薬液2の影響を観察するため、直径n=17cmの密閉容器3B、容器3A中に固結物を入れ、ゲル周囲に養生水19を2000?20000ml充填した。1、3、12、36ヶ月養生しモルタル供試体1の一軸圧縮強度と、養生水(ゲル)のpHの変化とコンクリートへの影響を測定した。 【0074】 図3の容器中に充填した薬液2としては、下記表3の配合のものを使用し、シリカ溶液に硬化剤として、硫酸単独、リン酸単独、硫酸・リン酸併用を配合し、ゲル化時間を約1日とした。下記表3において、硬化剤中のキレート剤としてはリン酸系化合物であるリン酸を配合し、キレート濃度(リンイオン濃度)の違いによるモルタル供試体1の一軸圧縮強度への影響を測定した。表3中、シリカ溶液は3号水ガラス、硫酸は75%硫酸、キレート剤は75%リン酸を使用した。 【0075】 【表3】 ※1 容器内部のゲル化物のpH ※2 キレート剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを使用」 (イ)甲2 甲2には、次の記載がある。 「 」(第53頁) 「 」(第62頁) 「 」(第144頁) (ウ)甲3 甲3には、次の記載がある。 「 」(第110頁) (エ)甲4 甲4には、「地盤注入工法」(発明の名称)について、次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、地盤注入工法(以下、単に「注入工法」とも称する)に関し、詳しくは、地下水中に含まれるコンクリート構造物や土中埋設物を劣化させるイオン、特に、海水や硫酸イオン等から、既存のまたは地盤改良後に建造されるコンクリート構造物や土中埋設物を防護するための地盤注入工法に関する。特に、リン酸化合物等のキレート剤を含むキレート系非アルカリ性シリカ(以下「マスキングシリカ溶液」と称する)によってコンクリート表面のCa^(2+)やMg^(2+)を取り込んでコンクリート表面にシリカの防護被覆層(以下「マスキングシリカ」と称する)を形成して、地下水面下に存在するコンクリート構造物の劣化または劣化コンクリート構造物の補修を防ぐことができるとともに、反応生成物を最小限にすることができる環境保全性の高い地盤注入工法に関する。さらには、地盤中の耐震補強を施すべきインフラ、例えば、電信・電話が設けられている共同溝や、トンネル、地中管、ガス管、マンホール、上下水道管等の中空部を有するコンクリート構造物やコンクリート枕、鋼管杭等の、地下水面下に存在するコンクリートや金属からなる中空構造物(土中構造物を構成する壁面のうち、一面が地盤に面し、かつ、他の一面が大気に面しているものを意味する)の劣化防止が可能な地盤改良工法に関する。」 「【0010】 一方で、近年、地震の多発に伴い、コンクリート構造物や土中埋設物等の液状化対策工等の耐震補強が社会的問題になってきている。これを解決するためには、大容量の土を経済的に土粒子間に浸透させて、耐久性のある地盤を形成することが要求される。そのために、数時間から十数時間という長いゲル化時間を有する耐久性グラウトを、注入孔間隔を広範囲(1.5m?4m)とし、低吐出で土粒子間に浸透させながら固結しなくてはならない。このためには、水ガラスの劣化要因であるアルカリを酸で除去して、数時間?十数時間のゲル化時間を持ちながら耐久性に優れた酸性領域のシリカ溶液であるシリカゾルや、水ガラスをイオン交換処理して脱アルカリし、更に増粒したシリカコロイドを用いる必要がある。この場合、長いゲル化時間を得るために低いpHの酸性値を設定しなくてはならないので、酸性領域のシリカ溶液のコンクリート構造物への影響を検討する必要があり、過剰の硫酸または硫酸ソーダ等の水溶性反応生成物が地下水に溶出することによる環境負荷や、コンクリート構造物または土中埋設物への影響が課題となる。」 (オ)甲5 甲5には、「地盤注入用固結材の製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。 「【0011】 本発明の地盤注入用固結材の製造方法は、コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、及び酸濃度が4?35質量%の酸水溶液を混合する地盤注入用固結材の製造方法であって、 (1)前記酸水溶液を調製するために用いる、酸濃度が50?80質量%の酸原液及び水を予め別々に計量しておき、 (2)前記地盤注入用固結材を調製する容器に、先ず前記水を供給開始した後、前記酸原液を供給開始し、次いで残りの成分を順不同で供給開始する、 ことを特徴とする地盤注入用固結材の製造方法。 【0012】 上記特徴を有する本発明の製造方法は、酸濃度が4?35質量%の酸水溶液を調製するために用いる、酸濃度が50?80質量%の酸原液及び水を予め別々に計量するため、酸原液及び水の計量精度が高く、地盤注入用固結材のpHを所望の範囲に調整し易い。よって、所望のゲルタイムを有する地盤注入用固結材を精度良く調製することができる。また、水及び酸原液を順に供給開始し、その後に残りの成分を順不同で供給開始するため、白濁及び部分ゲルの発生を抑制して地盤注入用固結材を調製することができる。」 「【0022】 上記酸としては限定されないが、硫酸及び/又はリン酸が好ましい。これらの酸は複数種類を混合して使用することもできる。本発明における酸原液としては、酸濃度が50?80質量%の酸原液が使用でき、市販品をそのまま使用できる。酸原液の量は、地盤注入用固結材の所望のゲルタイム(即ちpH)に応じて設定する。」 イ 甲1に記載された発明の認定(甲1発明) 甲1の【0075】の【表3】の記載からみて、「配合9」は、シリカ溶液として、コロイダルシリカ10ml及び水ガラス52mlと、硬化剤として、硫酸(キレート剤入り)10mlと、残りが水の、全量400mlの溶液(薬液)であることが記載されているといえる。 また、【0074】には、「配合9」の水ガラスは3号水ガラスであり、硫酸は75%硫酸、キレート剤は75%リン酸であることが記載されている。 そうすると、甲1には、「配合9」として、 「シリカ溶液として、コロイダルシリカ10ml及び3号水ガラス52mlと、 硬化剤として、75%硫酸(75%リン酸入り)10mlと、 残りが水とを含有する、全量400mlの薬液」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 ウ 対比・判断 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「コロイダルシリカ」、「75%硫酸」及び「75%リン酸」は、本件発明1の「コロイダルシリカ」、「硫酸」及び「リン酸系化合物」に、それぞれ相当する。 甲1発明の「75%リン酸」は、本件発明1の「添加剤」に相当し、甲1発明の「75%硫酸」に「75%リン酸」が含まれる構成は、本件発明1の「硫酸」「に対して、更にリン酸系化合物、クエン酸系化合物及び硫酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を」「含有」する構成に相当する。 甲1発明の「3号水ガラス」は、技術常識に照らせば「珪酸ソーダ」とも呼ばれるものであるから、本件発明1の「珪酸ソーダ」に相当する。 また、本件発明1の「地盤注入用固結材」と甲1発明の「薬液」とは、薬液である点で共通する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、並びに、硫酸を含有する薬液であって、 (1)前記薬液は、リン酸系化合物、クエン酸系化合物及び硫酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を含有する、 薬液。」である点で一致し、次の相違点1?4で相違する。 (相違点1) 薬液の用途について、本件発明1は、「地盤注入用固結材」であるのに対し、甲1発明の「薬液」は、地盤注入用固結材として用いられるかどうかは不明な点。 (相違点2) 添加剤の硫酸100質量部に対する含有量について、本件発明1は、「2?50質量部」なのに対して、甲1発明の「リン酸」の量は不明な点。 (相違点3) SiO_(2)濃度について、本件発明1は、「10質量%超過」なのに対し、甲1発明は、不明な点 (相違点4) SiO_(2)中、コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量について、本件発明1は、「40質量%以下」であるのに対し、甲1発明は、不明な点。 ここで、相違点について検討する。 事案に鑑み、まず、相違点3について検討する。 (相違点3について) 甲1発明の「コロイダルシリカ」のSiO_(2)濃度は、明らかではないものの、【0039】には、「20?30%のSiO_(2)濃度に濃縮したコロイダルシリカと酸を混合した酸性シリカ溶液・・・を用いることができる。」という記載があり、「%」は、質量%として、コロイダルシリカのSiO_(2)濃度が30%だと仮定すると、コロイダルシリカ10ml(10gとする)には、SiO_(2)は、約3g含まれることになる。 そして、技術常識に照らせば、3号水ガラスには、約30%のSiO_(2) が含まれるから、52mlの水ガラス(52gとする)には、約15.6gのSiO_(2)が含まれるということができる。 そうすると、全量400ml(400gとする)の薬液中に、約4.65質量%〔=(3+15.6)/400×100%〕のSiO_(2)が含まれる蓋然性が高いということができる。 また、申立人は、特許異議申立書の21頁の表において、配合9は、6.2%のシリカ(SiO_(2))濃度を有すると記載している。なお、その導出根拠は記載していない。 してみると、申立人の主張を考慮しても、配合9の薬液中に、「10質量%超過」のSiO_(2)が含まれるということはできない。 そして、コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、並びに、硫酸を含有する薬液において、SiO_(2)濃度を10質量%超過とすることについて、甲1には記載も示唆もない。 したがって、相違点3は、実質的な相違点であって、相違点1、2及び4について検討するまでもなく、本件発明1と甲1発明とは、同一とはいえない。 また、本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明1と甲1発明とは、同一とはいえない。 よって、申立人の上記「3.(1)」の主張は理由がない。 (2)特許法第29条第2項、請求項1?10について 甲1の【請求項1】及び【0015】には、「非アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度が、次式、 (A)2wt%≦[SiO_(2)]≦50wt% (式中、[SiO_(2)]は溶液中のシリカ濃度(%)を示す)を満たし、 前記非アルカリ性シリカ溶液のリンイオン濃度が、次式、 (B)3000ppm≦[P]≦100000ppm (式中、[P]は溶液中のリンイオン濃度(ppm)を示す)を満たし」と記載され、 【請求項3】には、それらの濃度比について、「[P]/[SiO_(2)]=60?5000(式中、[P]は溶液中のリンイオン濃度(ppm)を示し、[SiO_(2)]は溶液中のシリカ濃度(%)を示す)を満たす」と記載され、 【0001】には、「本発明は、・・・リン酸化合物、並びにまたは金属イオン封鎖剤を含む非アルカリ性シリカ(以下「マスキングシリカ溶液」という)によってコンクリート表面のCa^(2+)やMg^(2+)を取り込んでコンクリート表面にシリカの防護被覆層(以下「マスキングシリカ」という)を形成して、コンクリート構造物の劣化を防ぐと共に非アルカリ性シリカの反応生成物を少なくして水質保全性と耐久性に優れた固結を可能にする地盤改良方法に関する。」と記載され、 【0013】には、「本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、特定のシリカ濃度およびリンイオン濃度に調整することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されていることから、甲1発明は、コンクリート表面のCa^(2+)やMg^(2+)を取り込んでコンクリート表面にシリカの防護被覆層を形成するために、アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度([SiO_(2)])及び非アルカリ性シリカ溶液のリンイオン濃度([P])の両方を特定の範囲にしたものであるということができる。 そうすると、甲1発明において、リンイオン濃度([P])を調整しないで、単に、シリカ濃度を高くしても、コンクリート表面のCa^(2+)やMg^(2+)を取り込んでコンクリート表面にシリカの防護被覆層が得られるかどうかは明らかではないことから、甲1発明において、アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度([SiO_(2)])のみを高くすることは、想定されていないというべきである。 さらに、【0015】には、「前記非アルカリ性シリカ溶液が水ガラスに起因するシリカを含む場合、前記非アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度が、次式、 (A)2wt%≦[SiO_(2)]≦10wt%・・・を満たすことが好ましい。」という記載されており、甲1発明は、水ガラスに起因するシリカを含むものであるから、甲1発明のSiO_(2)濃度は、10wt%(質量%)以下であることが望ましいといえる。 また、甲2?甲5のいずれにも、コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、並びに、硫酸を含有する薬液において、SiO_(2)濃度を10質量%超過とすることについては、記載も示唆もない。 以上のことから、SiO_(2)濃度が10質量%超過ではない甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項である、「10質量%超過」のSiO_(2)が含まれるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。 (申立人の主張について) 申立人は、特許異議申立書において、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項は、「目的とするSiO_(2)の濃度」を規定しているに過ぎないから、この発明特定事項には、技術的意義も臨界的意義も存在せず、SiO_(2)濃度を10質量%超過とすることには、困難性がない旨主張している。 しかしながら、本件明細書の【0038】?【0042】には、SiO_(2)濃度を10、12、14質量%とした場合の地盤注入用固結材を用いて砂を固めた供試体の一軸圧縮強さについて記載されており、【0041】の【表4】によれば、「いずれの添加剤を用いた場合でも、SiO_(2)濃度が10質量%超過となることにより、有意に供試体の一軸圧縮強度が高められることが分かる。」(【0042】)といえることから、SiO_(2)濃度を10質量%超過とする技術的意義は存在するということができる。 そして、本件発明1では、SiO_(2)濃度を10質量%超過とすることにより、明細書記載の格別顕著な作用効果を奏するものであるから、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。 (まとめ) 以上のとおり、甲1発明において、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到するということはできないから、相違点1、2及び4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2?甲5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 また、本件発明2?6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2?6は、甲1発明及び甲2?甲5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 そして、本件発明7は、「コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、並びに、硫酸を含有する地盤注入用固結材の製造方法であって、(1)前記地盤注入用固結材は、SiO_(2)濃度が10質量%超過であ」る点を発明特定事項とするところ、本件発明7と甲1発明とは、上記相違点3と同様な相違点を有することは明らかであって、本件発明1と同様に、本件発明7は、甲1発明及び甲2?甲5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 また、本件発明8?10は、本件発明7を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明7と同様に、本件発明8?10は、甲1発明及び甲2?甲5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 よって、申立人の上記「3.(2)」の主張は理由がない。 (3)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)、請求項1?10について ア 添加剤の含有量について、本件特許発明1に係る含有量の範囲外の調製例が、「SiO_(2)濃度10質量%超過でありながら作液状況が良好」なものとなっていることが本件明細書に記載されているとしても、本件特許発明1に係る範囲に含まれる調製例が、「SiO_(2)濃度10質量%超過でありながら作液状況が良好」なものであることは、本件明細書に記載されているのであるから、本件特許発明1、7に係る「2?50質量部」の範囲とすることで本件発明の効果が得られることは、発明の詳細な説明に示していると認められる。 イ 本件明細書の【0020】には、「上記コロイダルシリカと珪酸ソーダの割合(混合割合)に関しては、地盤注入用固結材中のSiO_(2)(換算値)において、コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下(好ましくは15?40質量%)となるように割合を調整する。コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%を超えると固結強度が十分に得られなくなるおそれがある。また、コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が15質量%未満となると地盤注入用固結材に収縮低減効果を十分に与えられないおそれがある。」と記載され、【0045】には、「表5の結果より、SiO_(2)中のコロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が増えるにつれて一軸圧縮強さが低下することが分かる。なお、コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が90質量%になると地盤注入用固結材はゲル化しないことも分かった。一軸圧縮強さの点からはコロイダルシリカに由来するSiO_(2)量は40質量%以下とすることが望ましい。」と記載されており、「SiO_(2)中、コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下である」点についての、技術的な意義が記載されていると認められる。 ウ したがって、申立人の上記「3.(3)ア、イ」の主張は理由がない。 (4)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)、請求項1?10について 申立人は、「コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下」とは、「コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が0質量%」の場合も含まれると主張しているものの、本件発明は、コロイダルシリカを含有するものであるから、「コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が0質量%」となる場合は明らかに含まれない。 そうすると、「コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下」という記載は、「コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、並びに、硫酸を含有する地盤注入用固結材」との発明特定事項と矛盾するものではなく、不明確とはいえない。 したがって、申立人の上記「3.(4)」の主張は理由がない。 5.むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-07-13 |
出願番号 | 特願2012-56239(P2012-56239) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C09K)
P 1 651・ 537- Y (C09K) P 1 651・ 113- Y (C09K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 井上 恵理 |
特許庁審判長 |
國島 明弘 |
特許庁審判官 |
原 賢一 川端 修 |
登録日 | 2016-10-21 |
登録番号 | 特許第6023934号(P6023934) |
権利者 | 東亜建設工業株式会社 富士化学株式会社 |
発明の名称 | 地盤注入用固結材及びその製造方法 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |