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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て成立) B62D |
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管理番号 | 1330152 |
判定請求番号 | 判定2017-600015 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2017-03-29 |
確定日 | 2017-07-21 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4752929号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号装置説明書及びイ号図面に示す「車両の組立ライン」は、特許第4752929号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 本件判定の請求の趣旨は、イ号装置説明書及び図面に示す車両の組立ライン(以下「イ号装置」という。)は、特許第4752929号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。 第2 手続の経緯 本件特許発明に係る出願は、平成21年2月16日の出願であって、平成23年6月3日に特許権の設定登録がなされたものである。 その後、平成29年3月29日に本件判定が請求され、これに対し、同年5月26日に被請求人から判定請求答弁書が提出されたものである。 第3 本件特許発明 本件特許発明は、特許第4752929号に係る願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(判定請求書の2?3頁の(3)に倣い、構成要件ごとに分説し、記号A?Gを付した。以下「構成要件A」などという。) A 車体を支持した状態で床面上を移動することにより、前記車体をラインに沿って搬送する搬送装置を複数備え、 B 前記複数の搬送装置に支持される各車体に対して足回り部品が組み付けられる車両の組立ラインであって、 C 前記複数の搬送装置は、前記各車体を、前記各車体の前後方向が前記各車体の搬送方向に直交する姿勢に支持する支持部と、該支持部を上面に固定する基台と、を有し、 D 前記支持部は、搬送方向に対して直交する方向に延びる前記基台の中心線を中心として線対称に配置される、上流側支持部及び下流側支持部を有し、 E 前記搬送装置に支持された状態の前記各車体の下方の空間を搬送方向に沿って連通し、前記各車体に対して足回り部品の組み付けの際に使用する工具の搬送用の搬送通路が形成され、 F 前記各搬送装置における、前記各搬送装置に支持された状態の前記各車体の下方において、前記搬送通路とは独立して、前記足回り部品の配置用の部品空間が形成される、 G 車両の組立ライン。 第4 当事者の主張 1 請求人の主張の概要 請求人は、平成29年3月29日付け判定請求書において、概略、以下のとおり主張している。 (1)本件特許発明の分説した構成要件に即してイ号装置を特定すると、以下のとおり認定できる。 a 車体を支持した状態で床面上を移動することにより、車体をラインに沿って搬送する搬送装置を複数備え、 b 複数の搬送装置に支持される各車体に対して足回り部品が組み付けられる車両の組立ラインであって、 c 複数の搬送装置は、各車体を、各車体の前後方向が各車体の搬送方向に直交する姿勢に支持する支持部と、該支持部を上面に固定する基台と、を有し、 d 支持部は、上流側支持部及び下流側支持部を有し、各支持部は支柱、メインアーム、及びアームから成り、メインアーム、及びアームは支柱上部の支柱支持金具を介して支持されており、上流側支持部及び下流側支持部の各メインアーム、及び各アームは、搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置され、上流側支持部及び下流側支持部の各上流側支柱及び下流側支柱は、高さ方向の中間部分が内側支柱構成部と外側支柱構成部とに分割されて構成され、内側支柱構成部は搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置されるものの、外側支柱構成部は基台の搬送方向中心線に対して互いに逆方向に偏倚して配置され、結果として上流側支柱中心線と下流側支柱中心線は基台の搬送方向中心線に対して互いに逆方向に偏倚した位置となり、各上流側支柱及び下流側支柱は全体として基台の搬送方向中心線と搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線との交点を中心として“点対称”に配置され、 e 搬送装置に支持された状態の各車体の下方の空間を搬送方向に沿って連通し、各車体に対して足回り部品の組み付けの際に使用する工具の搬送用の搬送通路が形成され、 f 各搬送装置における、各搬送装置に支持された状態の各車体の下方において、搬送通路とは独立して、足回り部品の配置用の部品空間が形成される、 g 車両の組立ライン(3頁10行?4頁8行、及びイ号装置説明書:以下、分説した構成を「構成a」などという。)。 (2)イ号装置の構成a?c、e?gは、本件特許発明の構成要件A?C、E?Gに相当し、イ号装置は本件特許発明の構成要件A?C、E?Gを具備している(4頁10?12行)。 (3)構成要件Dにおける「線対称」について、「上流側支持部」及び「下流側支持部」が、搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置されることから、その上流側支持部及び下流側支持部を構成するそれぞれの支柱、メインアーム、アームが、「搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置される」ものであると解釈するのが相当であり、メインアーム、アームのみがそれぞれ上流側支持部及び下流側支持部を構成し、それら上流側支持部及び下流側支持部を構成を構成するメインアーム、アームのみが、「搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置される」ものであると解釈するのは適切でない(8頁下から5行?9頁4行)。 (4)イ号装置の構成dは、上流側支持部及び下流側支持部を構成して車体を支持可能とする太さ断面を有するそれぞれの支柱は、「搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置され」てなく、その構成を異にするから、イ号装置の構成dは構成要件Dを具備していない(9頁14行?10頁4行)。 2 被請求人の主張の概要 被請求人は、平成29年5月26日付け判定請求答弁書において、概略、以下のとおり主張している。 (1)イ号図面及びその説明書に示すイ号装置は、請求人が提出した判定請求書に添付したイ号装置説明書のa?g、図1?5に基づく。イ号装置説明書の項目a?gを、請求人がイ号装置を説明するものとして答弁書において言及する(3頁11?14行)。 (2)請求人は、本件特許発明の上記構成要件A?C、E?Gの充足を認めているので、以下に、イ号装置が構成要件Dを充足しているか否かについて検討する(3頁下から5?3行:なお、被請求人は、判定請求答弁書において、本件特許発明を構成要件(A)?(E)に分説するが、上記「第3」のとおり、本件特許発明は構成要件A?Gに分説することとする。)。 (3)構成要件Dにおける「線対称」とは、辞書中において以下のように説明されている。 「1本の直線に関して、ある二点が、相互間をその直線によって垂直二等分される位置関係にあること。図形では、1本の直線を折り目としてある図形が完全に重なり合うこと。この直線を対称軸という。」(デジタル大辞泉、小学館)(4頁10?15行) (4)構成要件Dは、a)基台上において、支持部の固定される部分が線対称に配置されている、b)基台上に固定された支持部のうち、車体の姿勢を決める部分が、線対称に配置されている、c)支持部が上記a)およびb)の両方を満たす位置関係にある、の3通りの解釈が可能であるが、「支持部」は車体の姿勢を決めることが主たる機能であるから、a)のように、基台上において支持部が固定された部分の位置関係のみを特定するような位置関係を示していると解釈することは妥当ではない。また、構成要件Cにおいて、「支持部」と「基台」とが固定されたことが規定されているにも関わらず、構成要件Dにおいて「支持部」と「基台」との位置関係が特定されていないことから、c)のようにa)、b)両方を満たす位置関係にある、と限定して解釈するべきではない。したがって、構成要件Dは、上記b)のように、「基台上に固定された支持部のうち、車体の姿勢を決める部分が、上流側と下流側に線対称に配置されている」ことを表していると解釈するのが妥当である(4頁21行?5頁13行)。 (5)本件特許発明の構成要件Dが、仮に、上記c)のように解釈された場合についても、イ号装置説明書を参照すると、支持部を基台に固定している支柱の少なくとも一部は、基台上において線対称に配置され、車体の姿勢を固定するアーム部も線対称に配置された構成を有している。つまり、イ号装置においては、本件特許発明の構成要件A?Gの構成に加えて、基台上において点対称となる位置に更に支柱を追加したに過ぎず、本件特許発明を利用した構成である(5頁下から5行?6頁4行)。 (6)イ号装置は、「支持部は、上流側支持部及び下流側支持部を有し、各支持部は支柱、メインアーム、及びアームから成り」、「上流側支持部及び下流側支持部の各メインアーム、及び各アームは、搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置され」、支柱のうち「内側支柱構成部は搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置される」のであるから、イ号装置は、本件特許発明の構成要件Dを充足し、本件特許発明の全ての構成要件A?Gを充足する(8頁11?18行)。 第5 判断 1 イ号装置について イ号装置の構成について、請求人と被請求人において争いはないから(上記「第4 2(1)」)、当審では、イ号装置を上記「第4 1(1)」のとおりものであると特定して認定する。 2 構成要件A?C及びE?Gについて イ号装置が本件特許発明の構成要件A?C及びE?Gを充足することについて当事者間には争いがないが(上記「第4 1(2)」及び「第4 2(2)」)、以下、念のため検討する。 (1)構成要件Aについて イ号装置の構成aは、「車体を支持した状態で床面上を移動することにより、車体をラインに沿って搬送する搬送装置を複数備え」というものであるから、イ号装置の「搬送装置」は、その機能・構造に照らして、本件特許発明の「搬送装置」に相当するものといえる。 したがって、イ号装置は、本件特許発明の構成要件Aを充足する。 (2)構成要件B及びGについて イ号装置の構成bは、「複数の搬送装置に支持される各車体に対して足回り部品が組み付けられる車両の組立ラインであって」というものであって、イ号装置の構成gは、「車両の組立ライン」というものであるから、イ号装置の「車両の組立ライン」は、その機能・構造に照らして、本件特許発明の「車両の組立ライン」に相当するものといえる。 したがって、イ号装置は、本件特許発明の構成要件B及びGを充足する。 (3)構成要件Cについて イ号装置の構成cは、「複数の搬送装置は、各車体を、各車体の前後方向が各車体の搬送方向に直交する姿勢に支持する支持部と、該支持部を上面に固定する基台と、を有し」というものであるから、イ号装置の「支持部」と「基台」とを有する「複数の搬送装置」は、その機能・構造に照らして、本件特許発明の「支持部」と「基台」とを有する「複数の搬送装置」に相当するものといえる。 したがって、イ号装置は、本件特許発明の構成要件Cを充足する。 (4)構成要件Eについて イ号装置の構成eは、「搬送装置に支持された状態の各車体の下方の空間を搬送方向に沿って連通し、各車体に対して足回り部品の組み付けの際に使用する工具の搬送用の搬送通路が形成され」というものであるから、イ号装置の「工具の搬送用の搬送通路」は、その機能・構造に照らして、本件特許発明の「工具の搬送用の搬送通路」に相当するものといえる。 したがって、イ号装置は、本件特許発明の構成要件Eを充足する。 (5)構成要件Fについて イ号装置の構成fは、「各搬送装置における、各搬送装置に支持された状態の各車体の下方において、搬送通路とは独立して、足回り部品の配置用の部品空間が形成される」というものであるから、イ号装置の「足回り部品の配置用の部品空間」は、その機能・構造に照らして、本件特許発明の「足回り部品の配置用の部品空間」に相当するものといえる。 したがって、イ号装置は、本件特許発明の構成要件Fを充足する。 3 構成要件Dについて (1)本件特許発明の構成要件Dは「前記支持部は、搬送方向に対して直交する方向に延びる前記基台の中心線を中心として線対称に配置される、上流側支持部及び下流側支持部を有し」というものであるところ、構成要件Dの意義について、上記「第4 1(3)」及び「第4 2(4)」のとおり当事者間に争いがあるので、以下検討する。 (2)特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定められ(特許法第70条第1項)、特許請求の範囲に記載された用語の意義は、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して解釈される(同条第2項)。また、明細書に特許請求の範囲に記載された用語に関する特別な説明や定義が存しない場合には、当業者が理解する一般的な意味として解釈されるべきである。 ア 特許請求の範囲の記載 構成要件Dに係る特許請求の範囲の記載は、「前記支持部は、搬送方向に対して直交する方向に延びる前記基台の中心線を中心として線対称に配置される、上流側支持部及び下流側支持部を有し」というものであるから、「搬送方向に対して直交する方向に延びる前記基台の中心線を中心として線対称に配置される」対象は、「上流側支持部」と「下流側支持部」である。また、構成要件Dにおける「前記支持部」とは、構成要件Cで特定されるとおり「前記各車体を、前記各車体の前後方向が前記各車体の搬送方向に直交する姿勢に支持する」ものである。 そして、「線対称」の語義について検討するに、広辞苑第六版(株式会社岩波書店)の「線対称」の項には、「二つの図形が、ある直線を軸とする対称移動によって移り合うとき、それらの図形は線対称であるという。」と記載されており、また、被請求人も上記「第4 2(3)」のとおり、「線対称」とは、「1本の直線に関して、ある二点が、相互間をその直線によって垂直二等分される位置関係にあること。図形では、1本の直線を折り目としてある図形が完全に重なり合うこと。」を意味する用語であることを認めているから、「線対称」の語義は、そのような一般的な意味として理解することができる。特許請求の範囲に「線対称」がこれと異なる意義で用いられていることを示す記載はない。 以上によれば、構成要件Dは、「支持部」が「前記各車体を、前記各車体の前後方向が前記各車体の搬送方向に直交する姿勢に支持する」ものであって、「上流側支持部及び下流側支持部を有し」、上記「上流側支持部及び下流側支持部」が「搬送方向に対して直交する方向に延びる前記基台の中心線を中心として線対称に配置される」と解するのが相当である。 イ 本件明細書等の記載 (ア)本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面をも併せて「本件明細書等」という。)及び図面には、以下の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様。) a 発明が解決しようとする課題 「【0010】 本発明は、各車体に対する足回り部品の組み付け作業を効率的に行うことが可能な車両の組立ラインを提供する。」 b 課題を解決するための手段 「【0011】 請求項1に記載の車両の組立ラインは、車体を支持した状態で床面上を移動することにより、前記車体をラインに沿って搬送する搬送装置を複数備え、前記複数の搬送装置に支持される各車体に対して足回り部品が組み付けられる車両の組立ラインであって、前記複数の搬送装置は、前記各車体を、前記各車体の前後方向が前記各車体の搬送方向に直交する姿勢に支持する支持部と、該支持部を上面に固定する基台と、を有し、前記支持部は、搬送方向に対して直交する方向に延びる前記基台の中心線を中心として線対称に配置される、上流側支持部及び下流側支持部を有し、前記搬送装置に支持された状態の前記各車体の下方の空間を搬送方向に沿って連通し、前記各車体に対して足回り部品の組み付けの際に使用する工具の搬送用の搬送通路が形成され、前記各搬送装置における、前記各搬送装置に支持された状態の前記各車体の下方において、前記搬送通路とは独立して、前記足回り部品の配置用の部品空間が形成される。」 c 発明を実施するための形態 「【0016】 以下に、本発明に係る車両の組立ラインの実施の一形態である車両の組立ライン1について、図面を参照して説明する。 ・・・ 【0021】 支持部13は、基台11の上面に固定されており、車体2を所定の高さ(作業者が車体2に対して足回り部品を円滑に組み付け可能な高さで、例えば作業者の身長よりも僅かに低い位の高さ)に支持する。 支持部13は、鉄を主成分とし、十分な剛性を有する部材であり、上流側支持部14及び下流側支持部15を有する。上流側支持部14及び下流側支持部15は、同一形態に構成され、基台11上において、搬送方向に所定間隔を開けて配置されており、左右方向に延びる基台11の中心線を中心にして線対称に配置されている。車両の組立ライン1に対して、上流側支持部14が上流側に配置されており、下流側支持部15が下流側に配置されている。そして、支持部13は、上流側支持部14と下流側支持部15との間で車体2を横向きの姿勢(車体2の前後方向が搬送方向に沿う向き)に支持する。 【0022】 上流側支持部14は、支柱14a、メインアーム14b、及びアーム14c・14cを有する。 支柱14aは、円柱形状を有し、一端が基台11の左右中央位置(車体2の搬送方向と直交する方向の中央位置)に固定され、他端が上方に突出し、車体2を支持可能な径(例えば、200πmm前後)を有する。 メインアーム14bは、棒形状を有し、中央部が支柱14aに固定され、両端が左右方向に突出し、基台11に対して所定の高さ位置(例えば、1600mm前後)に配置されている。メインアーム14bは、右端部を左右方向に伸縮でき、これにより左右方向の長さを変更できる。 アーム14c・14cは、棒形状を有し、一端がメインアーム14bの左下端部及び右下端部にそれぞれ固定され、他端が下流側(下流側支持部15)に向かって水平に突出している。右側のアーム14cの他端部には、上方に向かって突出する固定ピン14dが固定されている。 【0023】 下流側支持部15は、支柱15a、メインアーム15b、及びアーム15c・15cを有する。支柱15a、メインアーム15b、アーム15c・15cの形態は上流側支持部14の支柱14a、メインアーム14b、アーム14c・14cの形態と同一であり、右側のアーム15cには、固定ピン14dと同様の固定ピン15dが固定されている。 なお、ここでは支柱15a、メインアーム15b、及びアーム15c・15cについての詳細な説明は省略する。」 d 図面 本件特許発明に係る車両の組立ラインとして以下の図が示されている。 (イ)以上によれば、本件特許発明は、「各車体に対する足回り部品の組み付け作業を効率的に行うことが可能な車両の組立ラインを提供する」ことを技術課題とし(上記a)、かかる課題を解決するために、「車両の組立ライン」は、少なくとも「各車体を、前記各車体の前後方向が前記各車体の搬送方向に直交する姿勢に支持する支持部」と「該支持部を上面に固定する基台」とを有するものであって、「前記支持部は、搬送方向に対して直交する方向に延びる前記基台の中心線を中心として線対称に配置される、上流側支持部及び下流側支持部を有」するように構成したものと理解することができるから(上記b)、構成要件Dは、上記課題を解決するための手段として位置付けられることが明らかである。 また、本件明細書には、上記「上流側支持部」及び「下流側支持部」の構成について、両者が、「同一形態」に構成されること、基台上において「搬送方向に所定間隔を開けて」配置されること、左右方向に延びる基台の中心線を中心にして「線対称」に配置されること、及び、車両の組立ラインに対して上流側支持部が「上流側」に配置され、下流側支持部が「下流側」に配置されること、が記載されており(上記c:段落【0021】)、かかる配設構成は、本件特許発明の構成要件Dと整合し、さらに、上記アで述べた構成要件Dの解釈と矛盾するものでもない。 そして、本件明細書には、本件特許発明の実施の形態として、上記「上流側支持部」及び「下流側支持部」が、「支柱」、「メインアーム」及び「アーム」を有する構造として構成されることが記載されるとともに(上記c:段落【0022】?段落【0023】)、図面(上記d)には、「上流側支持部」及び「下流側支持部」を構成する「支柱」、「メインアーム」及び「アーム」のそれぞれが、搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として、「線対称」に配置された構成が示されている。 そうすると、本件特許発明において、「上流側支持部」及び「下流側支持部」を具現化した構成が、「支柱」、「メインアーム」及び「アーム」を有する構造である場合には、それら「上流側支持部」及び「下流側支持部」を構成する「支柱」、「メインアーム」及び「アーム」のそれぞれが、搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として「線対称」に配置されたものと解するのが自然である。 (ウ)ここで、被請求人は、構成要件Dの解釈について、a)基台上において、支持部の固定される部分が線対称に配置されている、b)基台上に固定された支持部のうち、車体の姿勢を決める部分が、線対称に配置されている、c)支持部が上記a)およびb)の両方を満たす位置関係にある、の3通りの解釈が可能であるが、上記b)の解釈が妥当である、旨主張する(上記「第4 2(4)」)。 しかし、上記アで述べたとおり、特許請求の範囲には、「搬送方向に対して直交する方向に延びる前記基台の中心線を中心として線対称に配置される」対象が、「上流側支持部及び下流側支持部」として特定されているのであるから、そもそも、構成要件Dについて、上記a)?c)の3通りに解釈が可能となるものではない。 そして、上記(イ)で述べたとおり、本件特許発明における「上流側支持部」及び「下流側支持部」を具現化した構成が、「支柱」、「メインアーム」及び「アーム」を有する構造である場合には、それら「上流側支持部」及び「下流側支持部」を構成する「支柱」、「メインアーム」及び「アーム」のそれぞれが、搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置されたものと解するのが自然であること、また、本件明細書には、「支柱」、「メインアーム」及び「アーム」の3要素によって構成される「上流側支持部」及び「下流側支持部」について、その一部の要素を欠いた構成(例えば「支柱」を欠いた構成)についてまで「上流側支持部」及び「下流側支持部」を構成し得るとの記載はなく、さらに、その一部を欠いた構成においては、搬送する車体を支持できなくなり、「上流側支持部」及び「下流側支持部」として機能し得なくなること、また、本件明細書には、構成要件Dの「線対称に配置される、上流側支持部及び下流側支持部」について、上流側支持部と下流側支持部の一部を欠いた構成が線対称に配置されると解する根拠もないこと、以上を併せ考慮すれば、上記a)?c)の解釈のうち、上記b)の解釈が妥当とする理由はない。 したがって、被請求人の上記主張は採用できない。 ウ 以上を踏まえて、イ号装置が本件特許発明の構成要件Dを充足するか否か検討する。 (ア)イ号装置の構成dを判定請求答弁書7頁下から6行?8頁10行の記載に倣って分説すれば、 d1 支持部は、上流側支持部及び下流側支持部を有し、各支持部は支柱、メインアーム、及びアームから成り、メインアーム、及びアームは支柱上部の支柱支持金具を介して支持されており、 d2 上流側支持部及び下流側支持部の各メインアーム、及び各アームは、搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置され、 d3 上流側支持部及び下流側支持部の各上流側支柱及び下流側支柱は、高さ方向の中間部分が内側支柱構成部と外側支柱構成部とに分割されて構成され、 d4 内側支柱構成部は搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置されるものの、 d5 外側支柱構成部は基台の搬送方向中心線に対して互いに逆方向に偏倚して配置され、結果として上流側支柱中心線と下流側支柱中心線は基台の搬送方向中心線に対して互いに逆方向に偏倚した位置となり、各上流側支柱及び下流側支柱は全体として基台の搬送方向中心線と搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線との交点を中心として“点対称”に配置され、 となる(以下、分説した構成を「構成d1」などという。)。 (イ)これによれば、イ号装置は、「支持部」が、「上流側支持部」及び「下流側支持部」を有して構成され、上記各支持部は「支柱」、「メインアーム」及び「アーム」から構成されるものであり(構成d1)、また、上記支持部の「支柱」は、「内側支柱構成部」と「外側支柱構成部」とに分割されて構成されるものである(構成d3)。 ここで、イ号装置の「上流側支持部」及び「下流側支持部」の配設態様について検討すると、それら「上流側支持部」及び「下流側支持部」を構成する各「メインアーム」及び各「アーム」は、確かに、搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置されるものということができる(構成d2)。 しかし、「上流側支持部」及び「下流側支持部」を構成する各「支柱」において、各「内側支柱構成部」は搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置されるものの(d4)、各「外側支柱構成部」は基台の搬送方向中心線に対して互いに逆方向に偏倚して配置され、結果として、「上流側支柱」及び「下流側支柱」は全体として基台の搬送方向中心線と搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線との交点を中心として「点対称」に配置されることになるから、かかる「上流側支柱」及び「下流側支柱」の配置構成をして、搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として「線対称」に配置されたものということはできない。 したがって、イ号装置は、本件特許発明の構成要件Dを充足するものということができない。 (ウ)ところで、被請求人は、イ号装置においては、本件特許発明の構成要件A?Gの構成に加えて、基台上において点対称となる位置に更に支柱を追加したに過ぎず、本件特許発明を利用した構成である旨(上記「第4 2(5)」)、及び、イ号装置は、「支持部は、上流側支持部及び下流側支持部を有し、各支持部は支柱、メインアーム、及びアームから成り」(構成d1の一部)、「上流側支持部及び下流側支持部の各メインアーム、及び各アームは、搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置され」(構成d2)、支柱のうち「内側支柱構成部は搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置される」(構成d4)のであるから、イ号装置は、本件特許発明の構成要件Dを充足する旨主張する(上記「第4 2(6)」)。 しかし、イ号装置において、「上流側支持部」及び「下流側支持部」を構成する「支柱」は、あくまでも「内側支柱構成部」と「外側支柱構成部」を具備して構成されるものであって、そのいずれか一の支柱構成部のみで支柱が構成されるものではない。 したがって、基台上において点対称となる位置に更に支柱を追加したものということはできないし、また、「内側支柱構成部」が搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置されるものであるとしても、「外側支柱構成部」は基台の搬送方向中心線に対して互いに逆方向に偏倚して配置されることから、「内側支柱構成部」と「外側支柱構成部」を具備して構成される「支柱」を、搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として「線対称」に配置されたものということはできない。 そして、上記「イ(イ)」で述べたとおり、本件特許発明における「上流側支持部」及び「下流側支持部」の具現化した構成が、「支柱」、「メインアーム」及び「アーム」を有する構造である場合には、それら「上流側支持部」及び「下流側支持部」を構成する「支柱」、「メインアーム」及び「アーム」のそれぞれが、搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として線対称に配置されたものと解するのが自然であるところ、イ号装置は、「内側支柱構成部」と「外側支柱構成部」を具備して構成される「支柱」の配設態様が、搬送方向に対して直交する方向に延びる基台の中心線を中心として「線対称」に配置されたものということはできないのであるから、イ号装置は、本件特許発明の構成要件Dを充足するものではない。 したがって、被請求人の主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおり、イ号装置は、本件特許発明の構成要件Dを充足しないから、イ号装置は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2017-07-13 |
出願番号 | 特願2009-33218(P2009-33218) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZA
(B62D)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 沼田 規好 |
特許庁審判長 |
和田 雄二 |
特許庁審判官 |
氏原 康宏 一ノ瀬 覚 |
登録日 | 2011-06-03 |
登録番号 | 特許第4752929号(P4752929) |
発明の名称 | 車両の組立ライン |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 大橋 康史 |
代理人 | 特許業務法人スズエ国際特許事務所 |