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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1330390 |
審判番号 | 不服2016-10368 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-07-08 |
確定日 | 2017-07-13 |
事件の表示 | 特願2014-232878「イルベサルタンを含有する錠剤」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月26日出願公開、特開2015- 57422〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年2月20日(優先権主張 平成25年3月1日)の出願である特願2014-30993号の一部を平成26年11月17日に新たな特許出願としたものであって、平成27年2月6日に手続補正書が提出され、平成27年9月30日付け拒絶理由通知に対して平成27年12月16日に意見書及び手続補正書が提出された後、平成28年3月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年7月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 平成28年7月8日提出の手続補正書による手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成28年7月8日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 本件補正は、特許法第121条第1項の審判の請求と同時にしたものであって、特許請求の範囲を、 補正前(平成27年12月16日提出の手続補正書を参照)の 「 【請求項1】 イルベサルタンを含有し、錠剤の密度が1.12?1.23mg/mm^(3)、錠剤の体積が320?360mm^(3)、錠剤のバンド厚みが2.5?2.9mmおよび錠剤の厚みが4.7?5.1mmである錠剤。 【請求項2】 さらに、崩壊剤を含有する請求項1記載の錠剤。 【請求項3】 さらに、乳糖を含有する請求項1または2記載の錠剤。 【請求項4】 さらに、結晶セルロースを含有する請求項1?3のいずれかに記載の錠剤。 【請求項5】 さらに、ヒプロメロースを含有する請求項1?4のいずれかに記載の錠剤。 【請求項6】 さらに、軽質無水ケイ酸を含有する請求項1?5のいずれかに記載の錠剤。 【請求項7】 さらに、ステアリン酸マグネシウムを含有する請求項1?6のいずれかに記載の錠剤。 【請求項8】 イルベサルタンの含量が180?220mgであり、錠剤の総重量が380?430mgである請求項1?7のいずれかに記載の錠剤。 【請求項9】 請求項1?8のいずれかに記載の錠剤をヒプロメロースで被覆したフィルムコーティング錠剤。」から、 補正後の 「 【請求項1】 イルベサルタン、崩壊剤および賦形剤を含有し、錠剤の密度が1.12?1.23mg/mm^(3)、錠剤の体積が320?360mm^(3)、錠剤のバンド厚みが2.5?2.9mm、錠剤の厚みが4.7?5.1mmおよび錠剤の表面積が275?290mm^(2)である錠剤。 【請求項2】 乳糖を含有する請求項1記載の錠剤。 【請求項3】 結晶セルロースを含有する請求項1または2記載の錠剤。 【請求項4】 さらに、ヒプロメロースを含有する請求項1?3のいずれかに記載の錠剤。 【請求項5】 さらに、軽質無水ケイ酸を含有する請求項1?4のいずれかに記載の錠剤。 【請求項6】 さらに、ステアリン酸マグネシウムを含有する請求項1?5のいずれかに記載の錠剤。 【請求項7】 イルベサルタンの含量が180?220mgであり、錠剤の総重量が380?430mgである請求項1?6のいずれかに記載の錠剤。 【請求項8】 請求項1?7のいずれかに記載の錠剤をヒプロメロースで被覆したフィルムコーティング錠剤。」(下線部が補正箇所である。) に補正するものである。 2.補正の適否 (1)補正前後の発明特定事項を対比すると、本件補正は、次のア?ウのとおりのものと認められる。 ア 補正前の請求項2において、「賦形剤」を含有するとの事項を、発明を特定するために必要な事項として新たに加えるとともに、 イ 補正前の請求項2において、「錠剤の表面積が275?290mm^(2)」との事項を、発明を特定するために必要な事項として新たに加え、 ウ 補正前の請求項1を引用する請求項2を、請求項1を引用しない形式にした上で、補正前の請求項1を削除し、それに伴い、補正前の請求項2?9の項番を修正するとともに、引用する請求項の項番を修正して、補正前の請求項2?9に対応すると認められる補正後の請求項1?8とする。 ここで、上記アは、錠剤には賦形剤が通常含まれるものであるところ、平成27年9月30日付け拒絶理由通知において理由3.(サポート要件)として示された事項についてする明りようでない記載の釈明であって、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる事項を目的とするものと認められる。 また、上記ウは、請求項の削除を目的とする補正であって、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる事項を目的とするものと認められる。 一方、上記イは、補正前の請求項2に係る発明を特定するために必要な事項とはされていなかった事項を、発明を特定するために必要な事項として新たに加えるものであるから、特許法第17条の2第5項第2号にいう「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、……に限る。)」には該当せず、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものとは認められない。また、上記イは、特許法第17条の2第5項第1号、第3号又は第4号のいずれかに掲げる事項を目的とするものにも該当しない。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 (2)ここで仮に、上記イが、特許法第17条の2第5項第2号にいう「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、……に限る。)」に該当し、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものであって、本件補正が、特許法第17条の2第5項の規定に違反してなされたものではないとした場合に、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、念のため、以下において検討する。 (2-1)本願補正発明1 本願補正発明1は、前記1.に示したように、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「 【請求項1】 イルベサルタン、崩壊剤および賦形剤を含有し、錠剤の密度が1.12?1.23mg/mm^(3)、錠剤の体積が320?360mm^(3)、錠剤のバンド厚みが2.5?2.9mm、錠剤の厚みが4.7?5.1mmおよび錠剤の表面積が275?290mm^(2)である錠剤。」 (2-2)発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、以下ア?ケの記載がある(下線は当審で付したものである)。 なお、上記のとおり、手続の経緯において3回の手続補正がなされているが、いずれも特許請求の範囲についてなされたものであり、発明の詳細な説明については、補正されていない。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、イルベサルタンを含有する錠剤、特に錠剤の密度を制御することによって、良好な崩壊性を有する錠剤に関する。」 イ 「【0004】 イルベサルタンの製剤としては、錠剤が知られている(特許文献1)。しかし、イルベサルタンの水への溶解度が低く、製剤中のイルベサルタンの含量が増すと、錠剤のサイズが大きくなり、錠剤の崩壊時間が延長する場合がある。錠剤の崩壊時間が延長する場合、イルベサルタンの吸収性が低下する可能性があり、また、吸収にばらつきが生じる場合もある。特許文献1には、崩壊性を改善した製剤については、記載されていない。 【0005】 錠剤の崩壊時間を改善する手段としては、錠剤中の添加物の種類および配合量を変更する場合がある(特許文献2、3)。しかし、使用する添加物によっては、薬物が分解する場合や逆に崩壊時間が延長する場合もある。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】特開平8-333253 【特許文献2】特表2003-176242 【特許文献3】特表2005-533045」 ウ 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 従って、イルベサルタンの含量を増し、錠剤のサイズが大きくなり、また錠剤の添加物の種類および配合量にも関わらず、崩壊時間の遅延を防止できる錠剤の開発が求められていた。」 エ 「【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、イルベサルタンを含有する錠剤の崩壊時間の遅延を防止するために、鋭意検討した結果、錠剤の密度を1.12?1.23mg/mm^(3)とすることにより、その効果は顕著である。」 オ 「【発明の効果】 【0010】 本発明のイルベサルタン含有製剤(以下、「本製剤」という。)の崩壊時間は速い。また、錠剤の硬度も実用性に耐えられるすぐれた製剤である。 【図面の簡単な説明】 【0011】 【図1】実施例で用いた錠剤を横から見た図 【図2】錠剤の密度を変更した場合のイルベサルタン含有錠剤の崩壊時間」 カ 「【0018】 本製剤は、錠剤の密度によって規定することができる。錠剤の密度は、錠剤の質量を錠剤の体積で除した値で算出することができ、錠剤体積・表面積シュミレーションソフト(Tablet CAD)によって測定することができる。本製剤における錠剤の密度は、1.12?1.23mg/mm^(3)、好ましくは1.13?1.23mg/mm^(3)、より好ましくは1.15?1.23mg/mm^(3)である。この錠剤の密度の範囲と異なれば、錠剤の崩壊時間が延長する恐れがある。 【0019】 本製剤は、錠剤のバンド厚みによって規定することができる。「バンド厚み」とは、錠剤側面の平らな部分の高さを表し、ノギスによって測定することができる。本製剤における錠剤のバンド厚みは、2.5?2.9mm、好ましくは2.5?2.85mm、より好ましくは2.5?2.8mmである。この錠剤の厚みの範囲と異なれば、錠剤の崩壊時間が延長する恐れがある。 【0020】 本製剤は、錠剤の厚みによって規定することができる。錠剤厚みは、錠剤の丸み部分(cup depth)の最上部から、反対面の丸み部分の最下部までの長さを表し、シックネスゲージによって測定することができる。本製剤における錠剤厚みは、4.7?5.1mm、好ましくは4.7?5.05mm、より好ましくは4.7?5.0mmである。この錠剤の厚みの範囲と異なれば、錠剤の崩壊時間が延長する恐れがある。 【0021】 本製剤は、錠剤の体積によって規定することができる。錠剤の体積は、錠剤体積・表面積シュミレーションソフト(Tablet CAD)によって測定することができる。本製剤における錠剤の体積は、325?360mm^(3)、好ましくは325?350mm^(3)、より好ましくは325?345mm^(3)である。この錠剤の体積の範囲と異なれば、錠剤の崩壊時間が延長する恐れがある。 【0022】 本製剤は、錠剤の表面積によって規定することができる。錠剤の表面積は、錠剤体積・表面積シュミレーションソフト(Tablet CAD)によって測定することができる。本製剤における錠剤の表面積は、275?290mm^(2)、好ましくは275?287mm^(2)、より好ましくは275?285mm^(2)である。この錠剤の表面積の範囲と異なれば、錠剤の崩壊時間が遅延する恐れがある。」 キ 「【0023】 本製剤は、崩壊剤を含有する。崩壊剤としては、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格または医薬品添加物規格等に収載されているものを使用することができる。具体的には、クロスカルメロースナトリウム(FMC-旭化成)、クロスポビドン、カルメロースカルシウム(五徳薬品)やカルボキシメチルスターチナトリウム(松谷化学(株)、木村産業(株))、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられ、好ましくはクロスカルメロースナトリウムである。 【0024】 本製剤中の崩壊剤の含量は、製剤全量に対し、0.5?10重量%、好ましくは0.75?9重量%、より好ましくは1?8重量%である。これらの含量より多ければ、錠剤の硬度低下の可能性や錠剤サイズが大きくなることで服用性に支障が生じる可能性があり、少なければ、錠剤の崩壊時間が延長する恐れがある。」 ク 「【0025】 本製剤は、賦形剤を含有してもよく、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格または医薬品添加物規格等に収載されている剤を使用することができる。賦形剤として、具体的には、乳糖、結晶セルロース、果糖、精製白糖、白糖、精製白糖球状顆粒、無水乳糖、白糖・デンプン球状顆粒、半消化体デンプン、ブドウ糖、ブドウ糖水和物、粉糖、プルラン、β-シクロデキストリン、アミノエチルスルホン酸、アメ粉、塩化ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリシン、グルコン酸カルシウム、L-グルタミン、酒石酸、酒石酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、デキストラン40、デキストリン、乳酸カルシウム、ポビドン、マクロゴール(ポリエチレングリコール)1500、マクロゴール1540、マクロゴール4000、マクロゴール6000、無水クエン酸、DL-リンゴ酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、L-アスパラギン酸、アルギン酸、カルメロースナトリウム、含水二酸化ケイ素、クロスポビドン、グリセロリン酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、小麦粉、コムギデンプン、コムギ胚芽粉、小麦胚芽油、米粉、コメデンプン、酢酸フタル酸セルロース、酸化チタン、酸化マグネシウム、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、第三リン酸カルシウム、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、天然ケイ酸アルミニウム、トウモロコシデンプン、トウモロコシデンプン造粒物、バレイショデンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、無水リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム造粒物、リン酸二水素カルシウム等が挙げられ、好ましくは乳糖および結晶セルロースである。 【0026】 本製剤中の賦形剤の含量は、製剤全量に対し、20?70重量%、好ましくは25?60重量%、より好ましくは30?50重量%である。」 ケ 「【実施例】 【0058】 以下、実施例、比較例および参考例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。製造した錠剤は、下記試験法によって、錠剤の崩壊時間、硬度及び溶出率を測定した。 (1)錠剤の製造方法 表1に錠剤の処方を示す。1錠あたりのイルベサルタン量が200mg、錠剤総重量が400mgとなるように錠剤の製造をおこなった。すなわち、イルベサルタン、乳糖、結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウムおよびヒプロメロースを添加し、高速撹拌造粒機(深江パウテック アーステクニク社製)を用いて造粒した。得られた造粒物を流動層造粒乾燥機(パウレック社製)に投入し、給気温度85度で乾燥した後、パワーミル(昭和化学機械工作所製)を用いて整粒した。整粒した顆粒に、クロスカルメロースナトリウム、軽質無水ケイ酸およびステアリン酸マグネシウムを加えて、混合し、得られた製錠顆粒を打錠用杵臼(長径×短径,14×7.3mm)を用いて打錠圧4?16kNにて単発打錠機(JTトーシ社製)によって、静的圧縮を行い、錠剤を得た。打錠圧を調整することによって、錠剤のバンド厚みを変え、錠剤密度を調整した。 (2)崩壊試験法 第十五改正日本薬局方崩壊試験法を準用し、試験液は日本薬局方規定の精製水を用い、補助盤なしにおける崩壊時間を測定した。試験は3錠で行い、その平均値を示す。崩壊時間は、イルベサルタンの吸収性を考慮し、300秒(5分)以下を目標とした。 (3)硬度試験法 錠剤硬度計(ERWEKA International AG製)を用いて錠剤の硬度を測定した。試験は6?10錠で行い、その平均値を示す。 (4)溶出試験法 本試験法は、錠剤中のイルベサルタンの溶出率を測定する。溶出試験装置を使用し、試験液として日局溶出試験第2液(pH6.8)900mLを用い、第十六改正日本薬局方溶出試験法第2法(パドル法)により、毎分50rpmで行った。 溶出試験開始10分、20分、30分及び40分間後の溶出液を孔径0.45μmのフィルターでろ過し、紫外吸光光度計を用いて吸収波長244nmにて吸光度を測定した。 別に、イルベサルタン標準物質約44mgを精密に量り、メタノール20mLを加えた。更に、日局溶出試験第2液を加えて正確に200mLとし、標準溶液とした。 (5)錠剤の密度、体積、表面積、バンド厚み、厚みの測定 錠剤の密度、体積および表面積は、錠剤体積・表面積シュミレーションソフト(Tablet CAD)によって測定した。また、錠剤のバンド厚みは、ノギスによって、錠剤の厚みは、シックネスゲージによって測定した。 【表1】 【表2】 【表3】 (4)結果 錠剤密度を変更した錠剤のバンド厚み、体積、表面積、崩壊時間および錠剤硬度を表2に、錠剤密度と崩壊時間の関係を図2に示す。その結果、錠剤密度が大きくなれば、崩壊時間が速くなるが、錠剤密度が1.20mg/mm^(3)よりも大きくなれば、崩壊時間が遅くなり、錠剤密度が1.23mg/mm^(3)の場合、崩壊時間が300秒以上となった。従って、崩壊時間を300秒以内に調整する場合、錠剤密度は、1.12?1.23mg/mm^(3)が最適であった。また、実施例3と比較例1の溶出挙動を比較すると、崩壊時間が速い実施例3で溶出率が速くなった。上記実施例2の錠剤を下記の表4の処方でコーティングすることができる。 【表4】 」 なお、上記摘示オで引用される図1、上記摘示オ及び上記摘示ケで引用される図2は、願書に添付された以下のものである。 「 【図1】 【図2】 」 (2-3)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきといえる。 これを本件について検討すると、上記適示ア?ウより、本願補正発明1の課題は、イルベサルタンの含量を増し、錠剤のサイズが大きくなり、また錠剤の添加物の種類および配合量にも関わらず、崩壊時間の遅延を防止できる錠剤を提供することであるといえる。 これに対して、発明の詳細な説明には、錠剤の密度、錠剤の体積、錠剤のバンド厚み、錠剤の厚み、錠剤の表面積を規定することができることが記載され(上記摘示エ?カ)、日本薬局方、日本薬局方外医薬品企画又は医薬品添加物規格等に収載されている崩壊剤、賦形剤などを含有することができることが記載される(上記摘示キ?ク)。また、イルベサルタン、乳糖、結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム及びヒプロメロースを高速攪拌造粒機を用いて得られた造粒物を整粒した顆粒に、それぞれ所定量のクロスカルメロースナトリウム、形質無水ケイ酸およびステアリン酸マグネシウムを加えて混合して得られた製錠顆粒を打錠して得られた、1錠あたりのイルベサルタン量200mgであり、1錠あたりの成分配合量がイルベサルタン含有造粒物382mg、クロスカルメロースナトリウム10mg、形質無水ケイ酸4mg、ステアリン酸マグネシウム4mgである錠剤総重量400mgの錠剤(但し、イルベサルタン含有造粒物にもクロスカルメロースナトリウムが含有されているため、錠剤中のクロスカルメロースナトリウム総含有量は不明である。)について、打錠圧を調整することによって、錠剤のバンド厚みを変え、錠剤密度を調整して、崩壊時間などを測定した結果が、実施例1?4および比較例1?2として記載されている(上記摘示ケ)。 ところで、錠剤に含まれる崩壊剤については、その種類および配合量によって、錠剤成形圧力と崩壊時間との関係が変化すること(必要なら、三宅由子 他2名,口腔内速崩壊錠の製剤設計-崩壊剤のスクリーニング-,平成21年度三重県工業研究所研究報告,No.34,p.30-37(2010)(特に、図4、図5、図7、図9、図11、図12)、三宅由子 他1名,口腔内速崩壊錠の製剤設計(第2報)-ロータリー打錠機による錠剤成形とキャッピング防止(攪拌造粒法)-,平成22年度三重県工業研究所研究報告,No.35,p.22-27(2011)(特に、図2、図3、図4、図5)、日比野剛 他1名,口腔内速崩壊錠の製剤設計(第3報)-ロータリー打錠機による錠剤成形とキャッピング防止(流動層造粒法)-,平成22年三重県工業研究所研究報告,No.35,p.28-36(2011)(特に、図2、図3、図4、図5、図6、図7)、日比野剛 他1名,口腔内速崩壊錠の製剤設計(第4報)-炭酸カルシウムを主薬とする口腔内速崩壊錠の試作-,平成23年三重県工業研究所研究報告,No.36(2012)(特に、図2、図3、図4)を参照のこと。)が本願出願時に知られており、また、水に易溶の薬物を比較的多量に含む錠剤では、崩壊剤の添加量を増減しても、崩壊時間はあまり変化しない一方、水との接触角が90°以上で濡れにくく、かつ水に難溶の薬物を比較的多量に含む錠剤では、崩壊剤の添加量が少ない場合、その崩壊時間は著しく長くなり、このとき崩壊剤の添加量を多くすると、錠剤は極めて速やかに崩壊するようになること(必要なら、塩路雄作「固形製剤の製造技術」、株式会社シーエムシー出版、2003年1月27日普及版第1刷発行、p.19?21「2.2 崩壊剤」の項を参照のこと。)が、本願出願時の技術常識であったと認められる。 そして、発明の詳細な説明に記載された実施例において錠剤の密度を打錠圧すなわち錠剤成形圧力によって調整している(上記摘示ケ)ことにも示されるように、錠剤の密度は錠剤成形圧力が強く影響して定まるものであることや、上記のような技術常識等を踏まえれば、当業者は、錠剤の崩壊時間と密度との関係は、錠剤の組成(例えば、崩壊剤の種類および配合量等)によって異なると認識するといえる。 他方、本願補正発明1は、崩壊剤や賦形剤等の添加物の種類および配合量を特定しないものであって、上記実施例とは崩壊剤や賦形剤等の添加物の種類および配合量がまったく異なるものも含まれ、上記のような技術常識等を踏まえれば、そのようなものにおいては崩壊時間と密度との関係が実施例とは大きく異なると当業者に認識されるといえるところ、発明の詳細な説明には、崩壊剤の種類又は量を変更して錠剤の崩壊時間を測定した結果等、錠剤の添加物の種類および配合量にも関わらず、崩壊時間が同様の傾向となることを当業者が認識できるように説明する記載はない。 そればかりか、発明の詳細な説明には、「本製剤中の崩壊剤の含量は、製剤全量に対し、0.5?10重量%、好ましくは0.75?9重量%、より好ましくは1?8重量%である。これらの含量より多ければ、錠剤の硬度低下の可能性や錠剤サイズが大きくなることで服用性に支障が生じる可能性があり、少なければ、錠剤の崩壊時間が延長する恐れがある。」(上記摘示キの段落【0024】)として、崩壊剤の配合量が少なければ錠剤の崩壊時間が遅延する恐れがあることまで記載されている。 そうすると、発明の詳細な説明に接した当業者は、本願補正発明1の範囲全体にわたって上記課題を解決できると認識できないといえる。 したがって、本願補正発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。 よって、本願補正発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 (2-4)審判請求人の主張について 審判請求人による審判請求書の請求の理由におけるサポート要件についての主張は、以下のア?イに述べるとおり、いずれも採用できない。 ア 錠剤は、水によって崩壊するので、錠剤が水に触れる面積によっても崩壊性は異なるが、請求項1のパラメータによって、錠剤の水に触れる面積がおおよそ特定でき、本願の課題である錠剤の崩壊性を解決できるように発明が明細書中に開示されている、との主張について。 上記のとおり、本願補正発明1の課題は「イルベサルタンの含量を増し、錠剤のサイズが大きくなり、また錠剤の添加物の種類および配合量にも関わらず、崩壊時間の遅延を防止できる錠剤を提供する」ことであると認められるところ、審判請求人は、イルベサルタン、崩壊剤および賦形剤を含有する錠剤において、錠剤の水に触れる面積がおおよそ特定できることによって「錠剤の添加物の種類および配合量にも関わらず、崩壊時間の遅延を防止できる」ことの根拠を何ら示していない。 したがって、主張アは採用できない。 イ 崩壊剤は、錠剤等の固形製剤を服用した時、消化管内で湿潤して製剤を微粒子(一次粒子)まで崩壊、分散させることを目的として用いられる添加剤であり、錠剤等の固形製剤の崩壊性に最も影響を与える。すなわち、崩壊剤は、錠剤崩壊の主要な役目を果たす。また、賦形剤は、錠剤の大部分を占め、錠剤外部から水が浸入する経路を賦形剤中に形成し、この進入する水によって崩壊剤が膨潤、錠剤が崩壊するので、崩壊剤とともに、錠剤の崩壊性に大きく影響する、との主張について。 崩壊剤、賦形剤はいずれも添加物であり(本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0023】および【0025】でも、崩壊剤、賦形剤として、医薬品添加物規格に収載されている剤を使用できる旨の記載がある)、審判請求人は審判請求書の請求の理由において、崩壊剤、賦形剤が錠剤の崩壊性に大きな影響を与える旨を述べている。それにもかかわらず、審判請求人は、本願補正発明1により「錠剤の添加物の種類および配合量にも関わらず、崩壊時間の遅延を防止できる」ことの根拠を何ら示していない。 したがって、主張イは採用できない。 (2-5)小括 以上検討したところによれば、本願補正発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、平成28年7月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項の規定に違反してなされたものではないと仮定しても、本願補正発明1は、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 (3)補正の適否の結論 以上のとおり、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成28年7月8日提出の手続補正書による手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成27年12月16日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された発明特定事項により特定される以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 イルベサルタンを含有し、錠剤の密度が1.12?1.23mg/mm^(3)、錠剤の体積が320?360mm^(3)、錠剤のバンド厚みが2.5?2.9mmおよび錠剤の厚みが4.7?5.1mmである錠剤。 【請求項2】 さらに、崩壊剤を含有する請求項1記載の錠剤。 【請求項3】 さらに、乳糖を含有する請求項1または2記載の錠剤。 【請求項4】 さらに、結晶セルロースを含有する請求項1?3のいずれかに記載の錠剤。 【請求項5】 さらに、ヒプロメロースを含有する請求項1?4のいずれかに記載の錠剤。 【請求項6】 さらに、軽質無水ケイ酸を含有する請求項1?5のいずれかに記載の錠剤。 【請求項7】 さらに、ステアリン酸マグネシウムを含有する請求項1?6のいずれかに記載の錠剤。 【請求項8】 イルベサルタンの含量が180?220mgであり、錠剤の総重量が380?430mgである請求項1?7のいずれかに記載の錠剤。 【請求項9】 請求項1?8のいずれかに記載の錠剤をヒプロメロースで被覆したフィルムコーティング錠剤。」 したがって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)は、以下のとおりのものである。 「イルベサルタンを含有し、錠剤の密度が1.12?1.23mg/mm^(3)、錠剤の体積が320?360mm^(3)、錠剤のバンド厚みが2.5?2.9mmおよび錠剤の厚みが4.7?5.1mmである錠剤。」 2.原査定の拒絶の理由の概要およびその検討 原査定の拒絶の理由は、平成27年9月30日付け拒絶理由通知に示したとおり、「この出願は、特許請求の範囲の記載が……特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」という理由を含むものである。 そこで、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について検討するに、本願発明1は、上記第2の2.(2-1)に示した本願補正発明1が引用する補正後の請求項1における、錠剤に含有される成分の「崩壊剤および賦形剤」という特定事項および「錠剤の表面積が275?290mm^(2)」という特定事項を有しないものであるが、「崩壊剤および賦形剤」を含有し、かつ「錠剤の表面積が275?290mm^(2)」である場合を包含するものであることは明らかであるから、上記第2の2.で述べたのと同様の理由により、本願特許請求の範囲の記載は、第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第4 まとめ 以上のとおり、請求項1に関して、本願特許請求の範囲の記載は、第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-05-09 |
結審通知日 | 2017-05-16 |
審決日 | 2017-05-30 |
出願番号 | 特願2014-232878(P2014-232878) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 長岡 真 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
前田 佳与子 山本 吾一 |
発明の名称 | イルベサルタンを含有する錠剤 |
代理人 | 山内 秀晃 |
代理人 | 杉田 健一 |