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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B24B
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 B24B
審判 査定不服 特37 条出願の単一性( 平成16 年1 月1 日から) 特許、登録しない。 B24B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B24B
管理番号 1331118
審判番号 不服2016-6505  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-02 
確定日 2017-08-10 
事件の表示 特願2012-89571「ワーク研磨方法と、ワーク保持具と、ワーク安定器と、ワーク研磨装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日出願公開,特開2013-215851〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成24年4月10日の出願であって,その主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年 9月11日付け:拒絶理由の通知
平成27年11月16日 :意見書,手続補正書の提出
平成28年 1月26日付け:拒絶査定(謄本送達日同年2月2日)
平成28年 5月 2日 :審判請求書と同時に手続補正書の提出


第2 平成28年5月2日にされた手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成28年5月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正の内容

(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により,特許請求の範囲の記載は,次のとおり補正された(以下,請求項1に係る発明から順に「補正後発明1」,「補正後発明2」,「補正後発明3」,・・・という。)。

【請求項1】
回転する研磨具に接触させて研磨するワークを保持するワーク保持具であって、
前記ワーク保持具は、研磨具の上方に設置固定できる設置部と、設置部から上方に突出する保持部を備え、
前記保持部は細長の保持部材数本が設置部の上方に縦向きに突設され、且つ平面視リング状に配置されてそれら数本の保持部材間に、細長いワークを収容できるセット空間を備え、
前記セット空間は保持部材の細長方向両端に貫通開口しており、ワークを縦向きにして一方の開口部からセット空間内に差し込んで収容すると、当該ワークの下端が他方の開口部から突出して、前記研磨具に接触できるようにしてある、
ことを特徴とするワーク保持具。

【請求項2】
請求項1記載のワーク保持具において、
平面視リング状に配置された二本以上の保持部材は互いに接近する方向に移動させてリング径を小さくするとセット空間を狭くすることができ、離れる方向に移動させてリング径を大きくするとセット空間を広くすることができる、
ことを特徴とするワーク保持具。

【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のワーク保持具のセット空間内にセットされたワークを安定させるワーク安定器において、
前記ワーク安定器はほぼ逆円錐台の独楽形の錘と、その外側に水平に突出する横長のバランスアームを備え、
前記錘は二以上が上下に間隔をあけて連結軸で連結され、
バランスアームは二本を一対としてあり、一対のバランスアームは錘の外周面の対向箇所から、錘の外側に水平に突設されており、
錘の下部は前記ワークに脱着可能である、
ことを特徴とするワーク安定器。

【請求項4】
請求項3記載のワーク安定器において、
中継具を備え、中継具は一端が連結軸に、他端が保持具内にセットされたワークに脱着可能である、
ことを特徴とするワーク安定器。

【請求項5】
請求項4記載のワーク安定器において、
中継具は、ワークがコイルスプリングの場合に、コイルスプリングの一端からコイルスプリングの内側空間内に差し込み可能な細長であり、連結軸に脱着可能な連結軸側端から、ワークに脱着可能なワーク側端に向けて次第に先細りであり、そのワーク側端を前記内側空間内に差し込むと当該コイルスプリングの内周面に接触する太さである、
ことを特徴とするワーク安定器。

【請求項6】
ワークを研磨する研磨装置において、
回転式の研磨具と、ワーク保持具と、ワーク安定器を備え、
前記ワーク保持具は請求項1又は請求項2記載のワーク保持具であり、その設置部が研磨具の上方に当該研磨具の研磨面から離して設置され、
前記ワーク安定器は請求項3から請求項5のいずれか1項に記載のワーク安定器であり、ワーク安定器の錘の下部が前記ワーク保持具のセット空間内に収容されてセットされたワークに脱着可能である、
ことを特徴とするワーク研磨装置。

【請求項7】
請求項6記載の研磨装置において、
回転式の研磨具の上に、当該研磨具の研磨面から離して支持台が設けられ、
前記支持台に開口部があり、支持台の上にワーク保持具の設置部が設置され、ワーク保持具のセット空間が前記開口部の上方に配置され、セット空間内に収容してセットしたワークの下端研磨面が前記セット空間の下端開口部から下方に突出し、更に支持台の開口部から下方に突出して研磨具の研磨面に接触可能である、
ことを特徴とするワーク研磨装置。

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成27年11月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は次のとおりである(以下,請求項1に係る発明から順に「補正前発明1」,「補正前発明2」,「補正前発明3」,・・・という。)。

【請求項1】
回転する研磨具にワークを接触させてワークを研磨する方法であって、
研磨具と保持具の間に隙間をあけて研磨具の上に保持具を配置し、
保持具に貫通されたセット空間内にワークを収容し、当該ワークの端面をセット空間から下方に突出させて当該端面を前記研磨具に接触させ、錘を備えたワーク安定器を前記ワークの上に載せて、当該ワーク安定器の荷重を前記セット空間内のワークに掛けて、ワークの傾きや横ブレを抑制して当該ワークを安定させ、その安定状態で研磨具を回転させて前記端面を研磨する、
ことを特徴とするワーク研磨方法。

【請求項2】
請求項1記載のワーク研磨方法において、
ワークがコイルスプリングであり、
ワーク安定器をセット空間内のコイルスプリングの内側空間に差し込んで、ワーク安定器の荷重を前記ワークに掛ける、
ことを特徴とするワーク研磨方法。

【請求項3】
回転する研磨具に接触させて研磨するワークを保持するワーク保持具であって、
前記ワーク保持具は、研磨具の上方に設置固定できる設置部と、設置部から突出する保持部を備え、
前記保持部は細長いワークを収容できる細長のセット空間を備え、
前記セット空間は細長方向両端に貫通開口しており、ワークを一方の開口部からセット空間内に差し込んで収容すると、当該ワークの先端が他方の開口部から突出できるようにしてある、
ことを特徴とするワーク保持具。

【請求項4】
請求項3記載のワーク保持具において、
保持部は二本以上の棒状の保持部材が間隔をあけて平面視リング状に配置され、それら二本以上の保持部材の間にセット空間が形成されたもの又は一本の筒であって内部にセット空間を備えたものであり、前記二本以上の保持部材の場合は、保持部材を互いに接近する方向に移動させるとセット空間が狭くなり、離れる方向に移動させるとセット空間が広くなり、一本の筒の場合はその筒を内径の大きな筒と交換することによりセット空間を広くでき、内径の小さな筒と交換することによりセット空間を狭くすることができる、
ことを特徴とするワーク保持具。

【請求項5】
請求項3又は請求項4記載のワーク保持具において、
セット空間がコイルスプリングをその一端側から差し込んで収容できる細長である、
ことを特徴とするワーク保持具。

【請求項6】
回転する研磨具に接触させて研磨するワークを安定させるワーク安定器において、
請求項3から請求項5のいずれか1項に記載のワーク保持具のセット空間内に収容されたワークに脱着可能な中継具と、前記ワークに荷重を掛ける独楽形の錘と、当該錘よりも外側に水平に突出する二本以上の横長のバランスアームを備え、
前記二本以上のバランスアームは、錘の外周面の周方向均等角度の数箇所から錘の外側に水平に突出する、
ことを特徴とするワーク安定器。

【請求項7】
請求項6記載のワーク安定器において、
二以上の独楽形の錘を備え、それら錘が上下に間隔をあけて一本の連結軸に連結され、バランスアームが軸方向上の錘からその外側に突出している、
ことを特徴とするワーク安定器。

【請求項8】
請求項6又は請求項7記載のワーク安定器において、
中継具は、ワークがコイルスプリングの場合に、そのコイルスプリングの内側空間内に差し込み可能な細長であり、細長軸方向先端側に向けて次第に先細りになる外形であり、前記内側空間内に差し込むと当該内側空間の外周面に接触する太さである、
ことを特徴とするワーク安定器。

【請求項9】
ワークを研磨する研磨装置において、
回転式の研磨具と、ワーク保持具と、ワーク安定器を備え、
前記ワーク保持具は請求項3から請求項5のいずれか1項に記載のワーク保持具であり、前記研磨具の上方に当該研磨具の研磨面から離して設置され、
前記ワーク安定器は、請求項6から請求項8のいずれか1項に記載のワーク安定器である、
ことを特徴とするワーク研磨装置。

【請求項10】
請求項9記載の研磨装置において、
回転式の研磨具の上に支持台が設けられ、
前記支持台に開口部があり、支持台の上にワーク保持具が設置され、ワーク保持具のセット空間が前記開口部の上に配置され、セット空間内に収容したワークの下端が前記支持台の下端開口部から下方に突出して研磨具に接触する、
ことを特徴とするワーク研磨装置。

2 補正の適否
(1)特許をすることができないものか否かの判断が示された発明

本件補正前に請求人が拒絶理由通知を受けた時点での特許請求の範囲及び当該拒絶理由は,本件出願の出願当初に願書に最初に添付された特許請求の範囲及び平成27年9月11日付けの拒絶理由通知によれば,それぞれ次のとおりである。

「特許請求の範囲
【請求項1】
ワークを研磨具で研磨する方法であって、研磨具の上に縦向きに配置された保持具のセット空間内にワークを入れて当該ワークの下端研磨面を研磨具に接触させ、ワークの上に錘を載せてワークに研磨具方向への荷重を掛けてワークの傾きや横ブレを抑制(防止)し、その状態で研磨具を回転させてワークの下端研磨面を研磨することを特徴とするワーク研磨方法。
【請求項2】
研磨するワークを保持するワーク保持具であって、研磨具の上方に設置固定できる設置部と、研磨具の上方に突出する保持部を備え、保持部はワークを垂直又は略垂直に収容してセット可能なセット空間を備え、セット空間はその上下方向に貫通開口して、上方開口部からセット空間内に収容したワークの下端研磨面が下方開口部から突出して研磨具に接触可能であることを特徴とするワーク保持具。
【請求項3】
請求項2記載のワーク保持具において、保持部が二本以上の保持部材が間隔をあけてリング状に配置されてそれら二本以上の保持部材の内側にセット空間が形成されたもの、又は一本の筒であり、前記二本以上の保持部材の場合は、保持部材をセット空間の内側方向に移動させるとセット空間が狭くなり、外側方向に移動させるとセット空間が広くなるようにし、一本の筒の場合はその筒を内径の大きな筒と交換することによりセット空間を広くでき、内径の小さな筒と交換することによりセット空間を狭くすることができることを特徴とするワーク保持具。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載のワーク保持具のセット空間内に収容されたワークを安定させるワーク安定器であり、そのワーク安定器は独楽形の錘と、その外側に水平に突出する横長のバランスアームを備えたことを特徴とするワーク安定器。
【請求項5】
請求項4記載のワーク安定器において、二以上の錘が上下に間隔をあけて一本の連結軸で連結されたことを特徴とするワーク安定器。
【請求項6】
請求項4又は請求項5記載のワーク安定器において、バランスアームを二本以上備え、それらバランスアームは錘の周方向対向位置から外側に水平に突出されたことを特徴とするワーク安定器。
【請求項7】
研磨具に接触するワークを研磨具の回転により研磨する研磨装置であって、研磨具と、ワーク保持具と、錘を備え、前記ワーク保持具が請求項2又は請求項3記載のワーク保持具であり、ワーク保持具は前記研磨具の上方に設置され、セット空間内に収容されるワークの下端研磨面が前記研磨具に接触可能であることを特徴とするワーク研磨装置。
【請求項8】
請求項7記載のワーク研磨装置において、錘にバランスアームが取付けられたことを特徴とするワーク研磨装置。
【請求項9】
研磨具の上に支持台が研磨具から浮かせて設置され、この支持台に通孔が開口され、支持台の上にワーク保持具が設置され、ワーク保持具はそのセット空間が前記通孔の上に配置されて前記支持台の上に設置され、セット空間内に収容したワークの下端研磨面が前記支持台の通孔から下方に突出して研磨具に接触するようにしたことを特徴とするワーク研磨装置。」
(以下,請求項1に係る発明から順に「当初発明1」,「当初発明2」,「当初発明3」,・・・という。)

「理由

1.(発明の単一性)この出願は、下記の点で特許法第37条に規定する要件を満たしていない。

2.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(発明の単一性)について

1-1.特別な技術的特徴に基づく審査対象の決定
請求項1に係る発明は、引用文献1により新規性が欠如しており、特別な技術的特徴を有しない。
したがって、それまでに特別な技術的特徴の有無を判断した請求項1に係る発明を、審査対象とする。

1-2.審査の効率性に基づく審査対象の決定
請求項2-9に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明ではない。そして、請求項2-9に係る発明は、特別な技術的特徴に基づいて審査対象とされた発明を審査した結果、実質的に追加的な先行技術調査や判断を必要とすることなく審査を行うことが可能である発明ではなく、当該発明とまとめて審査を行うことが効率的であるといえる他の事情も無い。

したがって、請求項2-9に係る発明は、発明の単一性の要件以外の要件についての審査対象としない。

●理由2(新規性)、3(進歩性)について

・請求項1
・理由2、3
・引用文献等1
・備考
・・・

●理由4(明確性)について
・・・

<引用文献等一覧>

1.特開平3-66555号公報」


ここで,上記拒絶理由によれば,本件補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについて判断がされた発明は,当初発明1であるところ,この発明と,上記1(2)の補正前発明1ないし10の内容とを照らし合わせれば,当初発明1が,平成27年11月16日にされた手続補正により,補正前発明1及び2に補正されたものといえる。そうすると,結局,本件補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについて判断がされた発明は補正前発明1及び2となる。

(2)引用例に記載された発明

ア 原査定の拒絶理由に引用され,本願の出願前に頒布された特開平3-66555号公報(以下「引用例」という。)には,図とともに次の記載がある。

(ア)「砥石4の上方には、互いに離間して設けられた下部スプリング支え1と上部スプリング支え2とが配設れており、両スプリング支え1,2に形成された開口1a,2aにコイルスプリング3の下部および上部がそれぞれゆるく挿入され、コイルスプリング3が垂直状態に保持されている。上記コイルスプリング3の下端面は砥石4に載置された状態とされ、上部スプリング支え2から上方に突出しているコイルスプリング3の上端面には、所定重量の錘6が載置されている。
しかして、上記コイルスプリング3には上記錘6によって一定量の荷重が加わり、コイルスプリング3の下端面が砥石4に対して所定の力で圧接される。したがって、砥石4の回転によって、所定加圧力のもとで、コイルスプリング3の端面の研摩が行なわれ、一定量の端面研摩を行なうことができる。」(第2ページ左下欄第4-20行)

(イ)第1図には,砥石4の上方に隙間をあけて,それぞれが開口を有する下部スプリング支え1及び上部スプリング支え2が配置されており,下部スプリング支えの開口1a及び上部スプリング支えの開口2aとが縦方向に並ぶことによって,コイルスプリング3が貫通できる空間を形成し,当該空間内のコイルスプリング3は下部スプリング支えの開口1a及び上部スプリング支えの開口2aによって縦方向に保持され,かつ,当該コイルスプリング3は,下端で下部スプリング支え1から突出して砥石4と接触するとともに上端で錘6と接触しているコイルスプリングの端面研磨方法が看取される。


イ 上記(1)によれば,引用例には,
「回転する砥石にコイルスプリングを接触させてコイルスプリングを研摩する方法であって,
砥石と下部スプリング支えとの間に隙間をあけて前記砥石の上に前記下部スプリング支え及び上部スプリング支えを配置し,
前記下部スプリング支え及び前記上部スプリング支えの開口によって形成される空間内で前記コイルスプリングを保持し,前記コイルスプリングの下端面を下部スプリング支えの開口から下方に突出させて当該下端面を前記砥石に接触させ,錘を前記コイルスプリングの上端面に載置して,当該錘の荷重を加えて,砥石の回転によって前記下端面を研摩する,
コイルスプリングの研摩方法。」(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3)本件補正についての特許法第17条の2第4項の判断

補正後発明1と補正前発明1及び2とを対比すると,両者間の同一の又は対応する技術的特徴は,
「回転する研磨具に接触させてワークを研磨するにあたり,研磨具の上に配置されたワーク保持具を用いる技術であって,当該ワーク保持具は,ワークを縦向きにセットできるセット空間を有し,当該セット空間は下方で開口していることでワークの下端をワーク保持具から下方に突出させて研磨具に接触させることができるワーク保持具である,という研磨技術。」(以下,「共通特徴」という。)と認められる。

次に,上記共通特徴と引用発明とを対比すると,引用発明の「回転する砥石」,「コイルスプリング」,「砥石の上に配置された下部スプリング支え及び上部スプリング支え」及び「前記下部スプリング支え及び前記上部スプリング支えの開口によって形成される空間であって,コイルスプリングの下端面を下部スプリング支えの開口から下方に突出させて当該下端面を砥石に接触させる事項」がそれぞれ,上記共通特徴の「回転する研磨具」,「ワーク」,「研磨具の上に配置されたワーク保持具」及び「ワークを縦向きにセットできるセット空間であって,当該セット空間は下方で開口していることでワークの下端をワーク保持具から下方に突出させて研磨具に接触させることができる事項」に相当する。

してみると,上記共通特徴は,引用発明が備えている構成であり,特許法施行規則第25条の8第2項に規定する「発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴」に該当しないから,「特別な技術的特徴」であるとはいえない。また,補正前発明1及び2と,補正後発明1との間に,他に同一の又は対応する特別な技術的特徴は存在しない。
そうすると,補正前発明1及び2と補正後発明2ないし7との関係について検討するまでもなく,補正前発明1及び2と補正後発明1ないし7との間に,同一の又は対応する特別な技術的特徴は存在しない。

(4)特許法第17条の2第4項の規定についての小括

したがって,本件補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された全ての発明(補正前発明1及び2)と,審判請求時に補正された請求項1ないし7に係る発明(補正後発明1ないし7)とは,発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものではない。

よって,本件補正は,特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(5)本件補正の目的について

ア 補正後発明3に係る補正について,その目的を検討する。

イ 補正後発明3に係る補正は,特許法第17条の2第5項第1号又は第3号でいう「請求項の削除」又は「誤記の訂正」を目的とするものでないことは,明らかである。

ウ 補正前発明1及び2は方法のカテゴリーの発明であり,補正前発明3ないし5は「ワーク保持具」の発明であって,これらの発明をさらに限定しても「ワーク安定器」の発明となることはないから,補正後発明3は,補正前発明1ないし5のいずれかに記載された発明特定事項をさらに限定したものとはいえない。

また,補正前発明6には,上記1(2)【請求項6】のとおり,
「回転する研磨具に接触させて研磨するワークを安定させるワーク安定器において、
請求項3から請求項5のいずれか1項に記載のワーク保持具のセット空間内に収容されたワークに脱着可能な中継具と、前記ワークに荷重を掛ける独楽形の錘と、当該錘よりも外側に水平に突出する二本以上の横長のバランスアームを備え、
前記二本以上のバランスアームは、錘の外周面の周方向均等角度の数箇所から錘の外側に水平に突出する」と記載されており,「・・・ワーク保持具のセット空間内に収容されたワークに脱着可能な中継具」を備えることが発明特定事項とされている。そして,本件補正前に特許請求の範囲に記載されていた発明において,「ワーク安定器」の発明は,上記補正前発明6ないし8であるから,本件補正前の「ワーク安定器」の発明である補正前発明6ないし8の全てが,「中継具」を発明特定事項としている。

しかしながら,補正後発明3は,中継具を発明特定事項とする記載はないから,「ワーク安定器」の発明である補正前発明6ないし8のいずれかを補正後発明3とする補正は,補正前発明6ないし8の発明特定事項の一部を削除するものである。

さらに,補正前発明9及び10は「ワーク研磨装置」の発明であって,「ワーク安定器」の発明ではなく,補正前発明6ないし8のいずれかを直接又は間接引用するものでもあるから,補正前発明9又は10を補正後発明3とする補正も,補正前発明6ないし8の発明特定事項の一部を削除するものである。

したがって,補正後発明3に係る補正は,特許法第17条の2第5項第2号でいう「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではない。

エ 上記平成27年9月11日付けの拒絶理由通知,平成28年1月26日付け拒絶査定のいずれにおいても,「ワーク安定器」の「中継具」に関して明瞭でない記載である旨の拒絶の理由が示されていないことは明らかである。

したがって,補正後発明3に係る補正は,特許法第17条の2第5項第4号でいう「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものともいえない。

(6)特許法第17条の2第5項の規定についての小括

したがって,上記(5)アないしエのとおり,本件補正は,特許法第17条の2第5項に掲げられる事項のいずれをも目的としない補正を含むものである。

よって,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成27年11月16日に手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり,上記第2[理由]1(2)【請求項1】で摘記したとおりの補正前発明1である。

2 引用発明

引用発明は,前記第2[理由]2(2)イに記載されたとおりのものである。

3 対比・判断

補正前発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「砥石」,「コイルスプリング」,「下部スプリング支え及び上部スプリング支え」及び「前記下部スプリング支え及び前記上部スプリング支えの開口によって形成される空間」及び「錘」はそれぞれ,補正前発明1の「研磨具」,「ワーク」,「ワーク保持具」,「セット空間」及び「錘を備えたワーク安定器」に相当する。

イ 引用発明の「前記下部スプリング支え及び前記上部スプリング支えの開口によって形成される空間」は,下部及び上部スプリング支えの開口の上下に空間が広がっており,縦向きの「コイルスプリング」を収容できるものであることから,「貫通された」空間であることは明らかである。

ウ 補正前発明1の「当該ワーク安定器の荷重を前記セット空間内のワークに掛けて、ワークの傾きや横ブレを抑制して当該ワークを安定させ」るという記載の「ワークの傾きや横ブレを抑制」する事項は,本願明細書を参酌しても「当該ワーク安定器の荷重を前記セット空間内のワークに掛け」た結果を記述したにすぎないとしか認めることができないから,引用発明の「錘を前記コイルスプリングの上端面に載置して,当該錘の荷重を加えて,砥石の回転によって前記下端面を研摩する」という事項が補正前発明1の「錘を備えたワーク安定器を前記ワークの上に載せて、当該ワーク安定器の荷重を前記セット空間内のワークに掛けて、ワークの傾きや横ブレを抑制して当該ワークを安定させ、その安定状態で研磨具を回転させて前記端面を研磨する」に相当する。

エ 以上のとおりであって,引用発明は補正前発明1の全ての発明特定事項を備えたものであるから,補正前発明1は引用例に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号の発明に該当する。


第4 むすび

以上のとおり,補正前発明1は,特許法第29条第1項第3号の発明に該当するから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-09 
結審通知日 2017-06-13 
審決日 2017-06-26 
出願番号 特願2012-89571(P2012-89571)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B24B)
P 1 8・ 56- Z (B24B)
P 1 8・ 65- Z (B24B)
P 1 8・ 57- Z (B24B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 貴志  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 長清 吉範
渡邊 真
発明の名称 ワーク研磨方法と、ワーク保持具と、ワーク安定器と、ワーク研磨装置  
代理人 小林 正英  
代理人 小林 正治  

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