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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H02K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H02K 審判 全部申し立て 2項進歩性 H02K |
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管理番号 | 1331177 |
異議申立番号 | 異議2016-700600 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-07-07 |
確定日 | 2017-06-23 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5844204号発明「ステータコアおよびそれを用いた回転電動機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5844204号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第5844204号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5844204号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成27年11月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人西山智裕により請求項1ないし6に対して特許異議の申立てがされ、平成28年9月23日付けで取消理由が通知され、平成28年11月28日付けで意見書の提出がされ、平成29年1月11日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、平成29年3月16日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年4月26日付けで特許異議申立人から意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数である」と記載されているのを「前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数である(ただし、n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pを満たすものを除く)」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に「前記溶接溝は、前記スロットと対応する箇所に設けられることを特徴とする請求項1に記載のステータコア」と記載されているのを「インナーロータ型の回転電動機のステータコアであって、厚み方向に積層された複数の鉄心片であり、それぞれの内周側に複数のスロットおよび複数のティースが形成され、それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置される複数の溶接溝を有し、対応する溶接溝における固着によって径方向に歪ませる力が内在する、複数の鉄心片を備え、前記ステータコアのスロット数をS、前記回転電動機の磁極数をPとするとき、前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数であり、前記溶接溝は、前記スロットと対応する箇所に設けられることを特徴とするステータコア」に訂正する。 (3)訂正事項3 明細書の段落【0008】に「ステータコアは、厚み方向に積層された複数の鉄心片を備える。複数の鉄心片は、それぞれの内周側に複数のスロットおよび複数のティースが形成され、それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置される複数の溶接溝が形成され、対応する溶接溝における固着によって径方向に歪ませる力が内在する。」に記載されているのを「ステータコアは、厚み方向に積層された複数の鉄心片であり、それぞれの内周側に複数のスロットおよび複数のティースが形成され、それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置される複数の溶接溝を有し、対応する溶接溝における固着によって径方向に歪ませる力が内在する、複数の鉄心片を備える。」に訂正し、同段落に「溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数である」に記載されているのを「溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数である(ただし、n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pを満たすものを除く)」に訂正する。 2.訂正の目的の適否,新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、請求項1及び当該請求項を引用する請求項2,4?6について、訂正前の請求項に係る発明に包含される事項の一部であり、かつ甲第1号証に記載された事項である、溶接溝の個数Nが「n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pを満たすもの」のみを請求項に記載した事項から除外するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 訂正事項2は、訂正前の請求項3の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 訂正事項3は、前記訂正事項1に係る請求項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 そして、これらの訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。ただし、訂正後の請求項4?6は、依然として、請求項1及び3の双方を引用しているから、訂正後の請求項1及び3は、一群の請求項を構成し、訂正後の請求項3を請求項1とは別の訂正単位として扱うことはできない。 3.まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正後の請求項〔1-6〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件特許 特許第5844204号の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。)は、前記訂正請求により訂正された訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された下記の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 インナーロータ型の回転電動機のステータコアであって、 厚み方向に積層された複数の鉄心片であり、それぞれの内周側に複数のスロットおよび複数のティースが形成され、それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置される複数の溶接溝を有し、対応する溶接溝における固着によって径方向に歪ませる力が内在する、複数の鉄心片を備え、 前記ステータコアのスロット数をS、前記回転電動機の磁極数をPとするとき、前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数である(ただし、n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pを満たすものを除く)ことを特徴とするステータコア。 【請求項2】 前記溶接溝は、前記ティースと対応する箇所に設けられることを特徴とする請求項1に記載のステータコア。 【請求項3】 インナーロータ型の回転電動機のステータコアであって、 厚み方向に積層された複数の鉄心片であり、それぞれの内周側に複数のスロットおよび複数のティースが形成され、それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置される複数の溶接溝を有し、対応する溶接溝における固着によって径方向に歪ませる力が内在する、複数の鉄心片を備え、 前記ステータコアのスロット数をS、前記回転電動機の磁極数をPとするとき、前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数であり、 前記溶接溝は、前記スロットと対応する箇所に設けられることを特徴とするステータコア。 【請求項4】 S=18、P=16であり、N=6であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のステータコア。 【請求項5】 前記複数の鉄心片はそれぞれ、ティースごとに分割形成されたティース片を円環状に連結して形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のステータコア。 【請求項6】 請求項1から4のいずれかに記載のステータコアと、前記ステータコアの前記複数のスロットそれぞれに巻装される複数の巻線と、を有するステータと、 永久磁石を有するロータと、 を備えることを特徴とする回転電動機。」 2.取消理由の概要 当審において、訂正前の請求項1、2、5及び6に係る特許に対して平成29年1月11日付けの取消理由通知(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)甲第1号証(特開2001-258225号公報)により、請求項1、2及び6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)甲第1号証、及び甲第2号証(特開2005-348474号公報)に記載されている周知技術により、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 3.甲号証の記載 (1)甲第1号証 (1-1)甲第1号証には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付加した。)。 (ア)「【請求項1】 極数がP、電機子鉄心の溝数がSのモータにおいて、 前記電機子鉄心に等間隔で設けられる凹部の数Nが、溝数がS未満であって、下式で表されることを特徴とするモータ。 N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/P」 (イ)「【0003】 【発明が解決しようとする課題】・・・(中略)・・・一般的に、電機子鉄心は、鋼板にカシメを設けて積層しているが、歯が小型に作られているため、カシメを設けると磁束の通りが悪くなり、性能が低下する恐れがあった。」 (ウ)「【0005】本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、コギングトルクの発生を防ぎながら性能を向上させ得るモータを提供することにある。」 (エ)「【0011】 【発明の実施の形態】以下、本発明の第1実施形態に係るモータについて図を参照して説明する。図1(A)は、第1実施形態の電気式動力舵取装置に用いられるモータの断面を示し、図1(B)は、図1(A)中の電機子鉄心のB-B断面を示している。該モータ10は、回転子20と固定子30とから構成され、回転子20は、シャフト22の外周に4個の永久磁石24を配設して成る。固定子30は、電機子鉄心32の歯32aに、コイル34を巻回して成る。」 (オ)「【0013】電機子鉄心32は次のように製造される。先ず、電機子鉄心の図示形状に対応する通孔を設けた型の上に、珪素鋼板を載置して打ち抜き、この打ち抜きと同時にカシメ36を形成し、型の通孔内に鋼板に重ねて行くことで製造される。」 (カ)「【0016】即ち、極数P、電機子溝数Sのモータにおいて、電機子鉄心の歯32aに等間隔で設けられるカシメの数Nを、下式で表される数にすることで、カシメのある歯とない歯とのアンバランスに起因するコギングトルクの発生を防ぐことができる。 【数1】 N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/P」 (キ)「【0018】例えば、第1実施形態のモータは、極数Pが4極、電機子溝数Sが12溝であるため、4と12との最小公倍数である12を4で割った数3の整数倍である3,6,9であれば、コギングトルクを発生させることがない。この極数Pと電機子溝数Sと、コギングトルクを発生させないカシメの数Nとの関係を図2中に示す。」 (ク)「【0028】・・・(中略)・・・更に、図8(B)に示すように、溶接溝40を、N個設けることでも、溶接溝のアンバランスに起因するコギングトルクの発生を防ぐことができる。」 さらに、特に記載事項(エ)並びに図1(A)、7及び8(B)の記載からみて、モータはインナーロータ型であること、及び電機子鉄心は内周側に複数の歯および複数の溝が形成されていることが理解できる。 特に記載事項(オ)及び図1(B)からみて、電機子鉄心は、珪素鋼板を厚み方向に積層して構成されることが理解できる。 特に記載事項(ア)及び(ク)並びに図8(B)の記載からみて、電機子鉄心のバックヨークの外周側に複数の溶接溝が等間隔で設けられること、及び該複数の溶接溝のうち少なくとも1つが前記電機子鉄心の前記歯に対応する箇所に設けられることが理解できる。 (1-2)そうすると、これらの記載からみて、甲第1号証には、本件特許発明に倣って整理すれば、次の発明が記載されていると認められる。 「インナーロータ型であるモータの電機子鉄心であって、 内周側に複数の溝および複数の歯が形成され、バックヨークの外周側に複数の溶接溝が等間隔で設けられ、 珪素鋼板を厚み方向に積層して構成され、該電機子鉄心の形状に対応する通孔を設けた型の上に、珪素鋼板を載置して打ち抜き、型の通孔内に鋼板に重ねて行くことで製造され、 前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、 P=4,S=12,N=3、又は P=4,S=12,N=6 の組合せを含む、 N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/P である、 電機子鉄心。」(以下、「引用発明1」という。) 「インナーロータ型であるモータの電機子鉄心であって、 内周側に複数の溝および複数の歯が形成され、バックヨークの外周側に複数の溶接溝が等間隔で設けられ、 珪素鋼板を厚み方向に積層して構成され、該電機子鉄心の形状に対応する通孔を設けた型の上に、珪素鋼板を載置して打ち抜き、型の通孔内に鋼板に重ねて行くことで製造され、 前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、 P=4,S=12,N=3、又は P=4,S=12,N=6 の組合せを含む、 N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/P であり、 前記複数の溶接溝のうち少なくとも1つが前記電機子鉄心の前記歯に対応する箇所に設けられる、 電機子鉄心。」(以下、「引用発明2」という。) 「インナーロータ型であるモータの電機子鉄心であって、 内周側に複数の溝および複数の歯が形成され、バックヨークの外周側に複数の溶接溝が等間隔で設けられ、 珪素鋼板を厚み方向に積層して構成され、該電機子鉄心の形状に対応する通孔を設けた型の上に、珪素鋼板を載置して打ち抜き、型の通孔内に鋼板に重ねて行くことで製造され、 前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、 P=4,S=12,N=3、又は P=4,S=12,N=6 の組合せを含む、 N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/P である電機子鉄心の前記歯に、コイルを巻回して成る固定子と、 シャフトの外周に永久磁石を配設して成る回転子と、 から構成されるモータ。」(以下、「引用発明3-1」という。) 「インナーロータ型であるモータの電機子鉄心であって、 内周側に複数の溝および複数の歯が形成され、バックヨークの外周側に複数の溶接溝が等間隔で設けられ、 珪素鋼板を厚み方向に積層して構成され、該電機子鉄心の形状に対応する通孔を設けた型の上に、珪素鋼板を載置して打ち抜き、型の通孔内に鋼板に重ねて行くことで製造され、 前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、 P=4,S=12,N=3、又は P=4,S=12,N=6 の組合せを含む、 N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/P であり、 前記複数の溶接溝のうち少なくとも1つが前記電機子鉄心の前記歯に対応する箇所に設けられる電機子鉄心の前記歯に、コイルを巻回して成る固定子と、 シャフトの外周に永久磁石を配設して成る回転子と、 から構成されるモータ。」(以下、「引用発明3-2」という。) (2)甲第2号証 甲第2号証には、図面とともに、次の記載がある。 (ケ)「【0015】 固定子1は、極歯単位で円周方向に12分割して積層した鉄心1aと巻線1cとからなり、絶縁処理した各極歯に集中巻回した巻線1cを施した後、環状に分割面を接合して構成される(図2)。この鉄心1は極歯中央の外周に凹部1bを備えており、環状接合時の精度確保を容易にしている。その後、凹部1bおよび鉄心1の外周に伝熱部材6を塗布し、アルミ製のフレーム3を焼バメして固定子1の外周部に固定する。」 4.判断 (1)本件特許発明1について ア 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(特許法第29条第1項)について 本件特許発明1と引用発明1又は2とを対比すると、引用発明1又は2の「モータ」、「電機子鉄心」、「溝」、「歯」及び「溶接溝」は、その構成及び機能からみて、それぞれ、本件特許発明1の「回転電動機」、「ステータコア」、「スロット」、「ティース」及び「溶接溝」に相当する。そして、本件特許発明1は、「前記ステータコアのスロット数をS、前記回転電動機の磁極数をPとするとき、前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数である(ただし、n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pを満たすものを除く)」という事項を有するのに対し、引用発明1又は2は、「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、P=4,S=12,N=3、又はP=4,S=12,N=6の組合せを含む、N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」という事項を有する。 引用発明1又は2の「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、」「N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」ことを満たす、ステータコア(電機子鉄心)のスロット(溝)の数と前記溶接溝の数の組合せは、本件特許発明1の「前記ステータコアのスロット数をS、前記回転電動機の磁極数をPとするとき、前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数である(ただし、n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pを満たすものを除く)」ことを満たさない。 さらに、引用発明1又は2において具体的に特定された、前記モータの極数、前記ステータコアの前記スロットの数及び前記溶接溝の数の組合せである「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、P=4,S=12,N=3、又はP=4,S=12,N=6」も、本件特許発明1の「前記ステータコアのスロット数をS、前記回転電動機の磁極数をPとするとき、前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数である(ただし、n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pを満たすものを除く)」ことを満たさない。 そうすると、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 イ 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第36条第6項第1号)について 本件特許明細書を参照すると、本件特許に係る発明が解決しようとする課題は「コギングトルクを低減した回転電動機の提供」(段落0007)であって、該コギングトルクが大きくなる理由としては、「第1の要因は、溶接溝18の個数Nが、磁極数Pの約数となっていること、第2の要因は、溶接後のステータコア100が、楕円形状に変形していることである。」(段落0016)。 そして、「第1の要因の検討結果から、溶接溝18の個数Nは、磁極数Pの非約数であることが望ましい。これを第1条件という。」(段落0018)との記載からみて、少なくとも「溶接溝の個数Nは、磁極数Pの非約数であ」れば、溶接溝の個数Nが磁極数Pの約数であるものよりもコギングトルクが低減できるといえる。 さらに、「前記溶接溝の個数Nは、」「スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数であ」れば、N個の溶接溝は、多くともm×b-1個おきに、ステータコアのスロット及びティースとの位置関係が同じになるから(ただし、N=m×a×b。a,bはスロット数Sの約数のうち任意の2つ(a>b),mは1以上の整数。)、各溶接溝において溶接することにより生じる鉄心片を径方向に歪ませる力は、多くともm×b-1個おきにおおむね同じとなり、ステータコアの全周でみれば周期的に変化するものとなる。そうすると、鉄心片の真円からの歪みは抑制されたものとなり、コギングトルクが低減できるといえる。 以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲の請求項1に前記課題を解決するための手段が反映されていないとはいえない。 ウ 特許異議申立人の意見について (ア)特許異議申立人西山智裕は、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明の単なる設計変更の域を出ておらず、甲第1号証に基づいて発明容易である旨主張している。 しかしながら、本件特許発明1を特定する事項である「前記ステータコアのスロット数をS、前記回転電動機の磁極数をPとするとき、前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数である(ただし、n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pを満たすものを除く)」ことは、甲第1号証に示唆もされておらず、本件出願時において本件出願時において周知でもない。 そして、本件特許発明1は、当該事項を採用することにより、前記課題を解決するものである(前記イ参照)。 したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ)特許異議申立人西山智裕は、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第3号証に基づいて、容易に発明できたものである旨主張している。 しかしながら、甲第3号証には、本件特許発明1を特定する事項である「前記回転電動機の磁極数をPとするとき、前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数であ」ることは記載も示唆もされていない。そうすると、甲第1号証に記載された発明において、「前記ステータコアのスロット数をS、前記回転電動機の磁極数をPとするとき、前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数」「(ただし、n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pを満たすものを除く)」とすることが、甲第3号証に記載された技術に基いて当業者が容易に想到し得るとはいえない。 そして、本件特許発明1は、当該事項を採用することにより、前記課題を解決するものである(前記イ参照)。 したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件特許発明2について ア 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(特許法第29条第1項)について 本件特許発明2は、本件特許発明1を減縮したものであり、本件特許発明1と同様の理由で、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 イ 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第36条第6項第1号)について 前記「第3 4.(1)イ」において検討したとおり、本件特許請求の範囲の請求項1に課題を解決するための手段が反映されていないとはいえないから、請求項1を引用する請求項2に課題を解決するための手段が反映されていないともいえない。 ウ 特許異議申立人の意見について (ア)特許異議申立人西山智裕は、本件特許発明2は、甲第1号証に基づいて発明容易である旨主張している。 しかしながら、前記「第3 4.(1)ウ(ア)」において検討したとおり、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (イ)特許異議申立人西山智裕は、本件特許発明2は、甲第1号証及び甲第3号証に基づいて発明容易である旨主張している。 しかしながら、前記「第3 4.(1)ウ(イ)」において検討したとおり、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明3について ア 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について (ア)特許法第29条第2項について 本件特許発明3と引用発明1又は2とを対比すると、両者は、前者が「溶接溝は、前記スロットに対応する箇所に設けられる」のに対し、後者は、前記複数の溶接溝を前記電機子鉄心の前記溝又は歯のいずれに対応する箇所に設けるか特定されていない(引用発明1)又は「前記複数の溶接溝のうち少なくとも1つが前記電機子鉄心の前記歯に対応する箇所に設けられる」(引用発明2)点(以下、「本件特許発明3相違点」という。)で少なくとも相違し、当該相違点に係る前者を特定する事項は、甲第1号証に示唆もされていない。さらに、引用発明1又は2は、前記電機子鉄心の歯に設けられるカシメに代えて、前記溶接溝を前記電機子鉄心のバックヨークの外周側に設けるものであるから、引用発明1又は2において、前記溶接溝を前記電機子鉄心の前記溝に対応する箇所に設けるようにすることは、単なる設計事項とはいえず、たとえ「溶接溝は、スロットに対応する箇所に設けられる」ことが本件出願時において周知であったとしても、当業者が容易になし得る事項ともいえない。 したがって、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (イ)特許法第36条第6項第1号について 前記「第3 4.(1)イ」において検討したとおり、少なくとも「溶接溝の個数Nは、磁極数Pの非約数であ」れば、溶接溝の個数Nが磁極数Pの約数であるものよりもコギングトルクが低減できるといえ、さらに、「前記溶接溝の個数Nは、」「スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数であ」れば、鉄心片の真円からの歪みは抑制されたものとなり、コギングトルクが低減できるといえる。 以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲の請求項3に前記課題を解決するための手段が反映されていないとはいえない。 (4)本件特許発明4について ア 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について (ア)特許法第29条第2項について 本件特許発明4は、ステータコアのスロット数S=18、回転電動機の磁極数P=16、溶接溝の個数N=6である。 一方、甲第1号証に記載された発明は、N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pの関係を満たすものであるが、本件特許発明4の前記スロット数S、前記磁極数P及び前記溶接溝の個数Nは、当該関係を満たさない。そして、甲第1号証に記載された発明において、前記スロット数S、前記磁極数P及び前記溶接溝の個数Nを前記関係を満たさないものとすることは、当業者が容易になしえる事項であるとはいえない。 (イ)特許法第36条第6項第1号について 6は18の約数であるから、本件特許発明4の6個の溶接溝は鉄心片の剛性が互いに等しい6箇所に均等に配置されると認められる。 イ 特許異議申立人の意見について 特許異議申立人西山智裕は、本件特許発明4は、甲第1号証、甲第3号証に基づいて発明容易である旨主張している。なお、意見書の「3.(3)エ.(iii)」には「本件特許発明4は、引用発明1の単なる設計変更の域を出ておらず、本件特許発明4は、甲第1号証、甲第2号証に基づいて発明容易である。」と記載されているが、意見書の「3.(1)(2)」の記載から前記趣旨の主張であると判断した。 しかしながら、甲第3号証にも、本件特許発明4の前記スロット数S、前記磁極数P及び前記溶接溝の個数Nは記載されていないし、示唆もない。 したがって、本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件特許発明5について ア 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(特許法第29条第2項)について 本件特許発明5は、本件特許発明1又は3を減縮したものである。 本件特許発明1を減縮した本件特許発明5と引用発明1又は2とを対比すると、前記「第3 4.(1)ア」において検討したのと同様に、両者は、前者が「前記ステータコアのスロット数をS、前記回転電動機の磁極数をPとするとき、前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数である(ただし、n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pを満たすものを除く)」のに対し、後者は「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、P=4,S=12,N=3、又はP=4,S=12,N=6の組合せを含む、N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」点(以下、「本件特許発明5-1相違点」という。)で少なくとも相違する。そして、当該相違点に係る前者を特定する事項は、前記「第3 4.(1)ウ(ア)」において検討したとおり、甲第1号証には示唆もされておらず、さらには甲第2号証にもなく、本件出願時において周知でもない。 次に、本件特許発明3を減縮した本件特許発明5と引用発明1又は2とを対比すると、前記「第3 4.(3)ア(ア)」において検討したのと同様に、両者は、前記本件特許発明3相違点と同様の相違点で少なくとも相違し、当該相違点に係る前者を特定する事項は、甲第1号証に示唆もされていない。そして、溶接溝を電機子鉄心の溝に対応する箇所に設けることは、甲第2号証にも記載も示唆もない。さらに、引用発明1又は2は、前記「第3 4.(3)ア(ア)」において検討したとおり、前記電機子鉄心の歯に設けられるカシメに代えて、前記溶接溝を前記電機子鉄心のバックヨークの外周側に設けるものであるから、引用発明1又は2において、前記溶接溝を前記電機子鉄心の前記溝に対応する箇所に設けるようにすることは、単なる設計事項とはいえず、たとえ「溶接溝は、スロットに対応する箇所に設けられる」ことが本件出願時において周知であったとしても、当業者が容易になし得る事項ともいえない。 したがって、本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第36条第6項第1号)について 前記「第3 4.(1)イ」及び前記「第3 4.(3)ア(イ)」において検討したとおり、本件特許請求の範囲の請求項1及び3に課題を解決するための手段が反映されていないとはいえないから、請求項1又は3を引用する請求項5に課題を解決するための手段が反映されていないともいえない。 ウ 特許異議申立人の意見について 特許異議申立人西山智裕は、本件特許発明5は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証に基づいて発明容易である旨主張している。 前記アで述べたとおり、本件特許発明5は、本件特許発明1又は3を減縮したものである。しかしながら、特許異議申立人は、本件特許発明3は甲第1号証、甲第3号証に基づいて発明容易である旨の主張をしていないので、本件特許発明1を減縮した本件特許発明5についてのみ、以下検討する。 前記「第3 4.(1)ウ(イ)」において検討したとおり、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。さらに前記アで検討したとおり、前記本件特許発明5-1相違点に係る、本件特許発明1を減縮した本件特許発明5を特定する事項は、甲第2号証にも記載も示唆もされておらず、本件出願時において周知でもない。 そうすると、本件特許発明1を減縮した本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)本件特許発明6について ア 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(特許法第29条第1項)について 本件特許発明6を特定する事項は、本件特許発明1を特定する事項又は本件特許発明3を特定する事項の全てを含む。 ここで、本件特許発明3について検討すると、前記「第3 4.(3)ア(ア)」において検討したとおり、甲第1号証には、溶接溝を電機子鉄心の溝に対応する箇所に設けることは記載も示唆もされていないので、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 そうすると、当該理由、及び本件特許発明1について前記「第3 4.(1)ア」において検討した理由と同様の理由により、本件特許発明6と引用発明3-1又は3-2は同一ではなく、本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 イ 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について (ア)特許法第29条第2項について 本件特許発明1を引用する本件特許発明6と引用発明3-1又は3-2とを対比すると、前記「第3 4.(1)ア」、同「(5)ア」において検討したのと同様に、両者は、前記本件特許発明5-1相違点と同様の相違点で少なくとも相違する。そして、当該相違点に係る前者を特定する事項は、甲第1号証には示唆もされておらず、さらには甲第2号証にもなく、本件出願時において周知でもない。 本件特許発明3を引用する本件特許発明6と引用発明3-1又は3-2とを対比すると、前記「第3 4.(3)(ア)ア」、同「(5)ア」において検討したのと同様に、両者は、前記本件特許発明3相違点と同様の相違点で少なくとも相違し、引用発明3-1又は3-2において、前記溶接溝を前記電機子鉄心の前記溝に対応する箇所に設けるようにすることは、当業者が容易になし得る事項とはいえない。 したがって、本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (イ)特許法第36条第6項第1号について 前記「第3 4.(1)イ」及び前記「第3 4.(3)ア(イ)」において検討したとおり、本件特許請求の範囲の請求項1及び3に課題を解決するための手段が反映されていないとはいえないから、請求項1又は3を引用する請求項6に課題を解決するための手段が反映されていないともいえない。 ウ 特許異議申立人の意見について 特許異議申立人西山智裕は、本件特許発明6は、甲第1号証および甲第3号証、または甲第1号証、甲第2号証および甲第3号証に基づいて発明容易である旨主張している。 前記アで述べたとおり、本件特許発明6は、本件特許発明1を特定する事項又は本件特許発明3を特定する事項を全て含むものである。しかしながら、特許異議申立人は、本件特許発明3は甲第1号証、甲第3号証に基づいて発明容易である旨の主張をしていないので、本件特許発明1を引用する本件特許発明6についてのみ、以下検討する。 前記「第3 4.(1)ウ(イ)」において検討したとおり、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。さらに、本件特許発明1を引用した本件特許発明6と引用発明3-1又は3-2とを対比すると、前記「第3 4.(5)ア」で検討したのと同様に、両者は、前記本件特許発明5-1相違点と同様の相違点で少なくとも相違し、当該相違点に係る前者を特定する事項は、甲第2号証にも記載も示唆もされておらず、本件出願時において周知でもない。 そうすると、本件特許発明1を引用する本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて又は甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 5.むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかに本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ステータコアおよびそれを用いた回転電動機 【技術分野】 【0001】 本発明は、インナーロータ型の回転電動機に関し、特に積層型のステータコア(固定子鉄心)を有する回転電動機に関する。 【背景技術】 【0002】 回転電動機のひとつに、インナーロータ型のブラシレスモータ(以下、単に回転電動機ともいう)が知られている。回転電動機は、インナーロータとアウターステータを備える。アウターステータは、ステータコアと、それに巻装された巻線(コイル)を有し、ステータコアは、プレス加工により切断、成形された薄型の鉄心片が積層されて構成される。図1(a)、(b)は、回転電動機のステータコア100の構成を示す図である。図1(a)は、鉄心片10の平面図であり、図1(b)は、鉄心片10の断面図であり、図1(c)はステータコア100全体を示す斜視図である。鉄心片10は、環状のヨーク12、複数のティース(歯部)14、複数のスロット(溝)16、複数の溶接溝18を備える。 【0003】 複数のヨーク12は、環状のヨーク12から内側に突起している。隣接する2つのティース14の間には、巻線(不図示)が巻装されるスロット16が設けられる。ヨーク12の外側には、複数の溶接溝18が設けられる。 【0004】 図1(c)に示すように、ステータコア100は円筒形状を有し、複数の鉄心片10が積層されて構成される。複数の鉄心片10同士は、ヨーク12の外側に設けられた溶接溝18において溶接によって機械的に接続される。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】 特開2007-14129号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 回転電動機は、固定子巻線に電流を流さない状態において、ロータを回転させたときに回転角に応じて脈動する抗力が発生する。これはコギングトルクと称され、回転電動機を回転制御する際の外乱となり、装置の精度低下、効率の低下、騒音、振動の原因となるため、低減することが望まれる。 【0007】 本発明は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、コギングトルクを低減した回転電動機の提供にある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明のある態様、インナーロータ型の回転電動機のステータコアに関する。ステータコアは、厚み方向に積層された複数の鉄心片であり、それぞれの内周側に複数のスロットおよび複数のティースが形成され、それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置される複数の溶接溝を有し、対応する溶接溝における固着によって径方向に歪ませる力が内在する、複数の鉄心片を備える。ステータコアのスロット数をS、回転電動機の磁極数をPとするとき、溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数である(ただし、n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pを満たすものを除く)。 【0009】 この態様によると、溶接前に実質的に真円状の鉄心片が、溶接後に楕円状に変形するのを抑制でき、それによりコギングトルクを低減することができる。 【0010】 本発明の別の態様は、回転電動機に関する。回転電動機は、ステータおよび永久磁石を有するロータを備える。ステータは、上述のステータコアと、ステータコアの複数のスロットそれぞれに巻装される複数の巻線と、を有する。 この態様によれば、コギングトルクが低減されるため、高効率化、静音化、低振動化などの効果を得ることができる。 【発明の効果】 【0011】 本発明によれば、回転電動機のコギングトルクを低減できる。 【図面の簡単な説明】 【0012】 【図1】 図1(a)、(b)は、回転電動機のステータコアの構成を示す図である。 【図2】 図2(a)、(b)は、磁極数P=16、スロット数S=18、N=6である鉄心片の構成を示す平面図である。 【図3】 図2(a)の鉄心片を用いたステータコアおよび図1(a)の鉄心片を用いたステータコアそれぞれの、溶接による径方向の歪みの計算結果を示すチャート図である。 【図4】 実施の形態に係るステータコアを備える回転電動機の構成を示す断面図である。 【図5】 N=8、N=6それぞれにおける、高調波と、コギングトルクの計算結果を示す図である。 【図6】 変形例に係る鉄心片の構成を示す平面図である。 【発明を実施するための形態】 【0013】 以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。 【0014】 本発明者らは、図1に示すステータコア100について、コギングトルクを低減するための検討を行い、以下の着想を得た。なおこの検討により得られた知見は、当業者に周知ではなく、本発明者らが独自に認識したものである。 【0015】 図1のステータコア100では、図1のステータコア100は、スロット数S=18であり、溶接溝18の個数としてN=8が選択されている。このようなステータコア100を用いて構成された回転電動機について、コギングトルクを解析したところ、コギングトルクは1.15[N・m]であり、さらに低減する必要がある。 【0016】 本発明者らは、図1のステータコア100のコギングトルクが大きい理由として以下の2つの要因を見いだした。第1の要因は、溶接溝18の個数Nが、磁極数Pの約数となっていること、第2の要因は、溶接後のステータコア100が、楕円形状に変形していることである。 【0017】 第1の要因について説明する。コギングトルクは、ロータの永久磁石の極数Pとスロット数Nの最小公倍数Xの脈動となって現れ、その大きさは脈動数Xに反比例する。したがってコギングトルクを低減するためには、脈動数Xを大きくすればよいことが知られている。 また、N個の溶接溝18において溶接されたステータコア100では、N次高調波が生ずる。上述のように磁極数Pとスロット数Sの最小公倍数Xの脈動が生ずるため、溶接溝18の個数Nは、磁極数Pを避けることが望ましい。また溶接溝18の個数Nが磁極数Pの約数である場合にも同様である。 【0018】 第1の要因の検討結果から、溶接溝18の個数Nは、磁極数Pの非約数であることが望ましい。これを第1条件という。 【0019】 第2要因について説明する。図1を参照すると、ある溶接溝18[1]、18[5]は、ティース14と対応する箇所に位置し、別の溶接溝18[3]、18[7]は、スロット16と対応する箇所に位置し、別の溶接溝18[2]、18[4]、18[6]、18[8]は、ティース14とスロット16の境界付近に位置する。鉄心片10の剛性は、必ずしも回転対称ではなく、ティース14の箇所とスロット16の箇所とでは、剛性が異なっている。したがって図1の鉄心片10を複数の溶接溝18において溶接すると、溶接溝18ごとに剛性が異なることにより、鉄心片10が楕円状に変形する。ステータコア100が楕円状に変形すると、2次高調波の成分が大きくなり、これによりコギングトルクが増大する。これが第2要因の原因である。なお、溶接溝18の分布に応じて、鉄心片10が真円から歪むという知見は当業者に知られたものではなく、本発明者らが初めて見いだしたものである。 【0020】 第2の要因の検討結果から、複数の溶接溝18は、溶接後に鉄心片10が真円を保つように配置されることが望ましく、複数の溶接溝18それぞれが、鉄心片10の剛性が互いに等しい複数の箇所に均等に配置されることが望ましい。このためには、溶接溝18の個数Nは、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数であることが望ましい。これを第2条件という。 【0021】 以上の考察から、コギングトルクを低減するためには、第1条件および第2条件を満たすように溶接溝18の個数Nおよび配置を決定すればよい。 【0022】 以下、磁極数P=16、スロット数S=18の回転電動機について、具体的に好ましい溶接溝の配置を説明する。 第1条件を考慮すると、溶接溝18の個数Nから、16の約数(1,2,4,8,16)が除外される。 【0023】 第2条件を考慮する。スロット数S=18の約数は、1,2,3,6,9,18である。約数のうち任意の2つの公倍数は、2,3,6,9,12,18,27,36,・・・54,108,162であり、これらの数が溶接溝18の個数Nに許容される候補となる。 【0024】 第1条件および第2条件をともに満たす個数Nは、3,6,9,12,18,27,36,54,108,162となる。以下ではN=6の場合について、その効果を説明する。 【0025】 図2(a)、(b)は、磁極数P=16、スロット数S=18、N=6である鉄心片10の構成を示す平面図である。たとえば鉄心片10は、プレス加工により切断、成形される。6個の溶接溝18[1]?18[6]は、実質的に等間隔に、すなわち60度ごとに配置される。図2(a)の鉄心片10では、6個の溶接溝18は、ティース14と対応する箇所に配置される。図2(b)の鉄心片10では、6個の溶接溝18は、スロット16と対応する箇所に配置される。 【0026】 以上が実施の形態に係るステータコア100の構成である。続いてその利点を説明する。 【0027】 図3は、図2(a)の鉄心片10を用いたステータコア100および図1(a)の鉄心片10を用いたステータコア100それぞれの、溶接による径方向の歪みの計算結果を示すチャート図である。計算は、FEM(有限要素法)構造解析を用いて行っており、図1(a)のN=8のモデルと、図2(a)のN=6のモデルについて行った。溶接による変形は、溶接溝18それぞれに対して、鉄心片10の外側から中心方向に向けて加重を与えることで模擬している。チャート中の1?18はそれぞれティース14の位置を示している。N=8の場合、鉄心片10が楕円形状に変形するのに対して、N=6の場合、変形が抑制されており、溶接後においても真円に近い形状を維持できる。 【0028】 図4は、実施の形態に係るステータコア100を備える回転電動機1の構成を示す断面図である。回転電動機1は、ステータ2とロータ4を備える。ロータ4は、永久磁石を有し、その磁極数Pは16である。ステータ2は、複数の鉄心片10を積層し、複数の溶接溝18において溶接することにより形成されるステータコア100と、ステータコア100のティース14を軸としてスロット16の部分に巻装される巻線20を備える。 【0029】 図4の回転電動機1は、実施の形態に係るステータコア100を備えているため、コギングトルクを低減することができる。図5は、N=8、N=6それぞれにおける、高調波と、コギングトルクの計算結果を示す。N=8の場合、溶接により鉄心片10が楕円形に変形し、それによって2次高調波および8次高調波が顕著に表れることがわかる。このときのコギングトルクは1.15[N・m]である。N=6の場合、溶接による鉄心片10の変形が抑制されるため、2次高調波、8次高調波が低減される。その結果、コギングトルクは0.20[N・m]とN=8の場合の1.15[N・m]に比べて82%低減できる。 【0030】 コギングトルクの低減によって、回転電動機1は、装置の精度の向上、効率の上昇、騒音、振動の低減などの効果を得ることができる。 【0031】 以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。 【0032】 実施の形態では、鉄心片10が一体形成される場合を説明したが、本発明はそれには限定されない。図6は、変形例に係る鉄心片10の構成を示す平面図である。鉄心片10は、複数S個のティース片22に分割して形成される。複数のティース片22が円環状に連結されることにより、鉄心片10が形成される。個々のティース片22はティース14の中央においてさらに2つのティース片22a、22bに分割されてもよい。 【0033】 図6に示すように、鉄心片10が複数のティース片22の連結により形成される場合においても、図1の鉄心片10と同様に、溶接による変形が発生しうる。したがって複数のティース片を有する鉄心片10についても、第1条件、第2条件を満たすように溶接溝18の個数Nを決定することにより、コギングトルクを低減できる。 【0034】 実施の形態では、スロット数S=18、磁極数P=16の場合を説明したが、本発明はそれには限定されず、任意のスロット数S、任意の磁極数Pの組み合わせに適用可能である。 【0035】 以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。 【符号の説明】 【0036】 1...回転電動機、2...ステータ、4...ロータ、100...ステータコア、10...鉄心片、12...ヨーク、14...ティース、16...スロット、18...溶接溝、20...巻線、22...ティース片。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 インナーロータ型の回転電動機のステータコアであって、 厚み方向に積層された複数の鉄心片であり、それぞれの内周側に複数のスロットおよび複数のティースが形成され、それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置される複数の溶接溝を有し、対応する溶接溝における固着によって径方向に歪ませる力が内在する、複数の鉄心片を備え、 前記ステータコアのスロット数をS、前記回転電動機の磁極数をPとするとき、前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数である(ただし、n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pを満たすものを除く)ことを特徴とするステータコア。 【請求項2】 前記溶接溝は、前記ティースと対応する箇所に設けられることを特徴とする請求項1に記載のステータコア。 【請求項3】 インナーロータ型の回転電動機のステータコアであって、 厚み方向に積層された複数の鉄心片であり、それぞれの内周側に複数のスロットおよび複数のティースが形成され、それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置される複数の溶接溝を有し、対応する溶接溝における固着によって径方向に歪ませる力が内在する、複数の鉄心片を備え、 前記ステータコアのスロット数をS、前記回転電動機の磁極数をPとするとき、前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数であり、 前記溶接溝は、前記スロットと対応する箇所に設けられることを特徴とするステータコア。 【請求項4】 S=18、P=16であり、N=6であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のステータコア。 【請求項5】 前記複数の鉄心片はそれぞれ、ティースごとに分割形成されたティース片を円環状に連結して形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のステータコア。 【請求項6】 請求項1から4のいずれかに記載のステータコアと、前記ステータコアの前記複数のスロットそれぞれに巻装される複数の巻線と、を有するステータと、 永久磁石を有するロータと、 を備えることを特徴とする回転電動機。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-06-13 |
出願番号 | 特願2012-89108(P2012-89108) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(H02K)
P 1 651・ 121- YAA (H02K) P 1 651・ 537- YAA (H02K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 槻木澤 昌司 |
特許庁審判長 |
中川 真一 |
特許庁審判官 |
久保 竜一 矢島 伸一 |
登録日 | 2015-11-27 |
登録番号 | 特許第5844204号(P5844204) |
権利者 | 住友重機械工業株式会社 |
発明の名称 | ステータコアおよびそれを用いた回転電動機 |
代理人 | 村田 雄祐 |
代理人 | 三木 友由 |
代理人 | 森下 賢樹 |
代理人 | 富所 輝観夫 |
代理人 | 森下 賢樹 |
代理人 | 富所 輝観夫 |
代理人 | 村田 雄祐 |
代理人 | 三木 友由 |