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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01C
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01C
管理番号 1331261
異議申立番号 異議2017-700352  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-11 
確定日 2017-08-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第6005826号発明「カーナビゲーションシステムおよびカーナビゲーションシステムのデータ更新方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6005826号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6005826号の請求項1及び2に係る特許(以下、「請求項1及び2に係る特許」という。また、請求項毎に「請求項1に係る特許」などという。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成23年3月10日に出願した特願2011-53321号の一部を平成27年6月5日に新たな特許出願とした特願2015-114826号の一部を、平成27年11月4日に新たな特許出願としたものであって、平成28年9月16日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年4月11日に特許異議申立人特許業務法人にじいろ特許事務所(以下、単に「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
請求項1及び2に係る特許に係る発明(以下、発明毎に「本件発明1」などという。)は、本件出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
カーナビゲーションシステムであって、
地図情報を含むデータが記録されるデータ記録手段と、
該データ記録手段に記録されるデータと当該データよりも新しいデータとの比較により相違するデータが抽出された更新差分データを、ネットワークを介して受信する通信手段と、
前記更新差分データに基づいて前記新しいデータを作成するために利用されるメモリ手段と、
前記データ記録手段に記録されるデータのうち更新対象となるデータを読み出して前記メモリ手段に一時的に記録させ、当該メモリ手段に記録されたデータのうち前記新しいデータと相違するデータを前記更新差分データに基づいて変更することにより前記新しいデータを前記メモリ手段に作成し、作成された当該新しいデータに基づいて前記データ記録手段に記録されるデータを更新させる制御手段と、
経路案内を行っているか否かを判断する経路案内判断手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記データ記録手段に記録されるデータのうち更新対象となるデータのデータ量が前記メモリ手段のデータ記録容量よりも大きい場合において、前記経路案内判断手段が経路案内を行っていると判断しているときには、前記カーナビゲーションシステムの再起動を行わず、前記経路案内を継続させ、
前記データ記録手段に記録されるデータのうち更新対象となるデータのデータ量が前記メモリ手段のデータ記録容量よりも大きい場合において、前記経路案内判断手段が経路案内を行っていないと判断した後に、前記カーナビゲーションシステムの再起動を行うこと
を特徴とするカーナビゲーションシステム。
【請求項2】
カーナビゲーションシステムのデータ更新方法であって、
通信手段が、データ記録手段に記録された地図情報を含むデータと、当該データよりも新しいデータとの比較により、相違するデータとして抽出された更新差分データを、ネットワークを介して受信する通信ステップと、
制御手段が、前記データ記録手段に記録されるデータのうち更新対象となるデータを読み出して、メモリ手段に一時的に記録させ、当該メモリ手段に記録されたデータのうち前記新しいデータと相違するデータを前記更新差分データに基づいて変更することにより、前記新しいデータを前記メモリ手段に作成し、作成された当該新しいデータに基づいて前記データ記録手段に記録されるデータを更新させるデータ更新ステップと、
経路案内判断手段が、経路案内を行っているか否かを判断する経路案内判断ステップと
を備え、
前記制御手段は、
前記データ記録手段に記録されるデータのうち更新対象となるデータのデータ量が前記メモリ手段のデータ記録容量よりも大きい場合において、前記経路案内判断手段が経路案内を行っていると判断しているときには、前記カーナビゲーションシステムの再起動を行わず、前記経路案内を継続させ、
前記データ記録手段に記録されるデータのうち更新対象となるデータのデータ量が前記メモリ手段のデータ記録容量よりも大きい場合において、前記経路案内判断手段が経路案内を行っていないと判断した後に、前記カーナビゲーションシステムの再起動を行うこと
を特徴とするカーナビゲーションシステムのデータ更新方法。」

第3 特許異議申立の理由の概要
1 証拠方法
(1)甲第1号証:特開2006-126457号公報
(2)甲第2号証:特開2009-20254号公報
(3)甲第3号証:特開2010-266449号公報
(4)甲第4号証:特開2007-108034号公報

2 理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、本件発明1及び2は、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証に記載の事項、甲第3号証に示される従来周知の技術及び甲第4号証に示される従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1及び2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1及び2に係る特許は取り消すべきものである旨、及び請求項1及び2の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである旨を主張している。

第4 当審の判断
[1]特許法第29条第2項
1 甲第1号証ないし甲第4号証について
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、「地図データ更新方法、地図データ更新システム、地図情報サーバ及び車載装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【0025】
以下、本発明に係る地図データ更新システムの一実施形態を図面を参照して詳しく説明する。その中で併せて地図データ更新方法についても説明する。図1は、本実施形態の地図データ更新システムの全体構成をブロック図で示したものである。地図データ更新システム1は、地図情報サーバ2、車載装置3、携帯端末4とを備えて構成される。車載装置3と携帯端末4は通常、複数設けられるが図1では例として一式のみを示している。
【0026】
地図情報サーバ2、車載装置3、携帯端末4は汎用の通信ネットワーク5を介して情報交換可能に接続されている。通信ネットワーク5としては、例えばインターネット、携帯電話網等を使用することができる。
【0027】
地図情報サーバ2は、車載装置3に対してそれらが保有する地図データを更新するための更新地図データを配信することを目的とするコンピュータ装置である。地図情報サーバ2は、コンピュータ本体21、磁気ディスク記憶装置(以下、HDDという。)22を備える。コンピュータ本体21は図示しない入力装置、出力装置、通信装置をも備え、通信装置を介して通信ネットワーク5に接続されている。
【0028】
磁気ディスク記憶装置22には、更新地図データベース、利用者データベース、それにコンピュータ本体21を動作させるプログラムが格納されている。更新地図データベースは更新地図データを格納しておくデータベースで、新たな更新地図データが発生するとそのデータがそれを特定する情報と共に図示しない入力装置からコンピュータ本体21を経由して追加格納される。
【0029】
・・・(中略)・・・
【0030】
利用者は、監視地域を地域名、道路名、道路種別等で登録する。地図データは、多数の小区域の区分地図データに分割して記憶され、区分地図データ単位で利用や更新が行なわれる。従って地図情報サーバ2内では、利用者が登録した地域、道路等がどの区分地図データに属するかを予め判断して、その区分地図データを特定するIDを利用者毎に利用者データベースに格納しておく。
【0031】
・・・(中略)・・・
【0032】
車載装置3は、常時、地図データを保有して使用する装置である。本実施形態では、車載装置3の例としてカーナビゲーション装置を取りあげて説明する。車載装置3は、主制御装置6と補助制御装置7の2つの制御装置により構成される。主制御装置6は、カーナビゲーション機能を備える部分で、制御回路61、GPS受信機62、操作スイッチ群63、表示装置64、音声出力装置65、HDD39、バッテリー66を備えて構成される。」(段落【0025】ないし【0032】)

(イ)「【0034】
制御回路61は、主制御装置6の動作全般を制御する機能を有するものでマイクロコンピュータを主体に構成されている。内部にはCPU、RAM、ROM、それらを接続するバス、I/Oインターフェース等を備える。HDD39内には、地図データを収納する地図データベース、カーナビゲーション機能を発揮させるためのマップマッチング処理、経路探索、経路案内などを行なうプログラム、及び後述する地図データ更新のためのプログラムが格納されている。車載装置3としてカーナビゲーション装置を取りあげているので、主制御装置6にはこの他に車速センサ、車体方位センサ、距離センサ等が必要により取り付けられる。
【0035】
補助制御装置7は、通信装置72と補助制御回路71とを備える。補助制御装置7は、制御回路61と地図情報サーバ2との間の情報交換を仲介する。補助制御回路71は、通信装置72と制御回路61との間で情報交換を仲介すると共に、後述するように地図データ更新に際して補助的な役割を果たす。
【0036】
・・・(中略)・・・
【0037】
次に、このような構成の下で車載装置3が保有する地図データの更新を行なう制御の流れをフロー図を参照しながら説明する。図2、図3は、地図情報サーバ2のコンピュータ本体21、携帯端末4の制御回路41、車載装置3の制御回路61と補助制御回路71が行なう制御フロー、及びそれらの相互関係を示したものである。
【0038】
更新処理は、地図情報サーバ2のコンピュータ本体21が更新地図データが発生したことを検知することから始まる(ステップS1)。先に説明したように地図情報サーバ2は更新地図データベースを備えており、新たな更新地図データはそれを特定する情報と共に読み込まれて更新地図データベースに格納される。新たな更新地図データが格納されたことから更新地図データの発生を検知できるので、それを検出したならばステップS2に移る。
【0039】
ステップS2では、発生した更新地図データについての更新案内を通知する利用者を利用者データベースから抽出する。地図情報サーバ2が備える利用者データベースには、先に説明したように利用者が登録した監視地域が記憶され、その監視地域が属する区分地図データのIDが利用者毎に記憶されている。従って、発生した更新地図データに含まれる1ないし複数の区分地図データのIDを検索キーワードとして、そのIDが監視地域として登録されている利用者を検索することで更新案内を送るべき利用者を抽出することができる。」(段落【0034】ないし【0039】)

(ウ)「【0043】
地図情報サーバ2側では、携帯端末4から送られた送信情報を受けとり(ステップS4)、更新地図データの送信を要求されているか否かを判断する(ステップS5)。要求されていなければ何もせずにステップS1に戻る。要求されている場合にはステップS6に移り、要求された更新項目の更新地図データを更新地図データベースから抽出する。続く図3のステップS7では、抽出した更新地図データを利用者の車載装置3に対して送信する。利用者の車載装置3の通信アドレスは利用者データベースから読み出す。
【0044】
利用者の車載装置3の補助制御装置7は、常時、電源が供給されているので送信された更新地図データを受信して記憶する(ステップA1)。次に補助制御装置7は、主制御装置6に電源が供給されているか否か、即ち、主制御装置6が動作状態にあるか否かをチェックする(ステップA2)。主制御装置6の電源のON/OFFは、補助制御装置7に外部から入力されているスタート信号STに従って補助制御装置7がスイッチSW1をON/OFFして制御している。従って、補助制御装置7は主制御装置6の電源のON/OFF状態を内部で把握しているので、更新地図データの受信を終えた時に主制御装置6の電源がON状態にあるか否かを判定できる。
【0045】
ON状態でなければステップA3にてスイッチSW1をONして電源を供給し、ステップA4に移る。既にON状態となっている場合には、直ちにステップA4移る。ステップA4では、ステップA1で受信した更新地図データを主制御装置6に渡す。
車載装置3の主制御装置6は、更新地図データを受けとって内部のメモリに記憶する(ステップB1)。続くステップB2においては、主制御装置6はHDD39内の地図データベースに格納されている地図データが使用中であるか否かをチェックする。
【0046】
ステップA3において主制御装置6の電源がONされた直後であれば、主制御装置6内の他のプログラムはまだ起動されていない。従って、その場合には地図データは使用されていないと判定できる。また、ステップA2において主制御装置6の電源が既にONと判定された場合、即ち、主制御装置6が動作状態にあると判定された場合においても、地図データが使用されている場合と使用されていない場合とがある。主制御装置6内では、多数のプログラムがマルチタスクで実行される。そして、各種プログラムの中には地図データを使用するプログラムと使用しないプログラムとが存在する。例えば、ナビゲーションと関係のない技術計算プログラム、会計処理のプログラム等が地図データを使用することは通常はない。従って、地図データを使用するプログラムのIDを予め登録して記憶しておき、それらのプログラムが起動状態にあるか否かをチェックすれば、地図データが使用中であるか否かを判定することができる。
【0047】
地図データを使用するプログラムが起動されている場合には地図データが使用されている可能性があるので、その場合には再びステップB2に戻って同じチェックを繰り返し、使用が終了するまで待つ。使用中の可能性がなくなったならばステップB3に移り、受けとった更新地図データでもって地図データベースに格納されている地図データの更新を実行する。」(段落【0043】ないし【0047】)

(エ)「【0054】
・・・(中略)・・・地図データ更新手段は、車載装置3の制御回路61、HDD39に格納された地図データベース、及び地図更新のためのプログラムにより構成される。」(段落【0054】)

イ 甲第1号証記載の事項
上記アから、次の事項が分かる。
(カ)上記ア(ア)の、特に段落【0032】から、車載装置3は、主制御装置6及び補助制御装置7の2つの制御装置により構成されること並びに車載装置3は、常時、地図データを保有して使用する装置であり、例としてカーナビゲーション装置が挙げられることが分かる。

(キ)上記ア(ア)の、特に段落【0032】から、車載装置3の主制御装置6は、カーナビゲーション機能を備え、制御回路61、GPS受信機62、操作スイッチ群63、表示装置64、音声出力装置65、HDD39及びバッテリー66を備えて構成されることが分かる。

(ク)上記ア(イ)の、特に段落【0034】から、主制御装置6の制御回路61は、主制御装置6の動作全般を制御する機能を有し、マイクロコンピュータを主体に構成されていること、及び制御回路61の内部にはCPU、RAM、ROM、それらを接続するバス及びI/Oインターフェースを備えることが分かる。

(ケ)上記ア(イ)の、特に段落【0034】から、車載装置3のHDD39内には、地図データを収納する地図データベース、カーナビゲーション機能を発揮させるためのマップマッチング処理、経路探索、経路案内などを行うプログラム及び地図データ更新のためのプログラムが格納されていることが分かる。

(コ)上記ア(イ)の、特に段落【0035】から、補助制御装置7は、通信装置72及び補助制御回路71を備え、制御回路61と地図情報サーバ2との間の情報交換を仲介することが分かる。

(サ)上記ア(イ)の、特に段落【0038】から、地図情報サーバ2の備える更新地図データベースに新たな更新地図データが格納されたことをコンピュータ本体21が検知することが分かる。

(シ)上記ア(ア)の、特に段落【0027】及び上記ア(ウ)の、特に段落【0043】から、地図情報サーバ2側で更新地図データを更新地図データベースから抽出し、抽出した更新地図データを、通信ネットワーク5を介して車載装置3に送信し、車載装置3の補助制御装置7は、送信された更新地図データを、受信して記憶することが分かる。

(ス)上記ア(ウ)の、特に段落【0045】から、補助制御装置7は、受信した更新地図データを主制御装置6に渡し、主制御装置6は、更新地図データを受けとって内部のメモリに記憶することが分かる。

(セ)上記ア(ウ)の、特に段落【0045】ないし【0047】から、主制御装置6は、HDD39内の地図データベースに格納されている地図データが使用中であるか否かをチェックし、地図データを使用するプログラムが起動されている場合には、地図データが使用されている可能性があるので、使用が終了するまで待ち、使用中の可能性がなくなったら、受けとった更新地図データでもって地図データベースに格納されている地図データの更新を実行することが分かる。

ウ 甲第1号証発明
上記ア及びイから、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されていると認める。

<甲第1号証発明>
「車載装置3であって、
地図データが記録されるHDD39と、
該HDD39に記録される前記地図データより新しい、更新地図データを、通信ネットワーク5を介して受信する通信装置72を備える補助制御装置7と、
前記更新地図データに基づいてHDD39内の地図データベースに格納されている前記地図データの更新に利用される、主制御装置6内部のメモリと、
主制御装置6と、
を備え、
主制御装置6は、地図データベースに格納されている地図データの更新手段を備えており、
地図データベースに格納されている地図データの更新を行う際、主制御装置6は、地図データベースに格納されている地図データが使用中であるか否かをチェックし、地図データを使用するプログラムが起動されている場合には、地図データが使用されている可能性があるので、使用が終了するまで待ち、使用中の可能性がなくなったら、受けとった更新地図データでもって地図データベースに格納されている地図データの更新を実行する
車載装置3。」

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載
甲第2号証には、「地図データ配信システム及び地図データ更新方法」に関し、図面とともに、次の記載がある。

(ア)「【0011】
本発明の第1の実施の形態の地図データ配信システムは、地図配信サーバ11及び車載機12を備える。地図配信サーバ11及び車載機12は、ネットワーク120を介して接続される。地図配信サーバ11は、地図データを車載機12に配信する。車載機12は、配信された地図データを受信して格納する。格納された地図データを使用して地図情報を表示し、利用者からの指示に基づいて、ナビゲーション機能を実行する。」(段落【0011】)

(イ)「【0035】
更新済みデータ蓄積部210は、データベース202に格納された地図データに地図配信サーバ11から配信された差分データを適用することによって生成された更新済みデータを一時的に格納する。具体的には、生成された更新済みデータがデータベース202に格納されるまで、更新済みデータ蓄積部210に格納される。更新済みデータ蓄積部210は、図示するように外部記憶装置146に格納されてもよいが、生成される更新済みデータが小さい場合又は演算処理装置131のメモリ142の容量が大きい場合には、メモリ142に格納されてもよい。
【0036】
更新波及範囲判定部203は、配信された差分データによって更新される範囲である波及範囲を判定する。地図データ検索部204は、利用者の指示に基づいて、地図データを検索する。アプリケーション実行部205は、利用者の指示に基づいて、要求された地図データを表示したり、経路誘導などのナビゲーション機能を実行したりする。差分データ取得部206は、地図配信サーバ11から差分データを取得する。
【0037】
また、更新済みデータ生成部207、アプリケーション監視部208、更新済みデータ検索部209、更新済みデータ蓄積部210及び更新済みデータ転送部211は、更新済みデータ管理部201を構成する。更新済みデータ管理部201は、地図配信サーバ11から配信された差分データに基づいて、データベース202に格納された地図データを更新する。
【0038】
更新済みデータ生成部207は、データベース202に格納された地図データ及び配信された差分データに基づいて、更新済み地図データを生成する。アプリケーション監視部208は、アプリケーションの実行状態を監視する。更新済みデータ検索部209は、要求された更新済み地図データを検索する。更新済みデータ転送部211は、更新済み地図データをデータベース202に格納する。」(段落【0035】ないし【0038】)

(ウ)「【0071】
車載機12のCPU141は、すべての更新済みデータの生成が完了すると、生成された更新済みデータをデータベース202に反映するための更新済みデータ転送処理611を実行する。更新済みデータ転送処理611は、すべての更新済みデータが更新済みデータ蓄積部210からデータベース202に転送及び格納されるまで繰り返し実行される。そして、更新されたデータが大量の場合には、更新済みデータ転送処理611が完了するまでには多くの時間を必要とする。」(段落【0071】)

(エ)「【0092】
差分データ取得処理では、更新波及エリアIDリスト1010から波及範囲となるエリアの差分データ格納領域を一時記憶領域に割り当てる。そして、割り当てられた差分データ格納領域に、各エリアの差分データを格納する。
【0093】
具体的には、車載機12のCPU141は、まず、地図更新データ1013のエリア1差分データ1011を格納するために、エリア1の差分データ格納領域1020を作成する。そして、地図更新データ1013に含まれるエリア1差分データ1011をエリア1の差分データ格納領域1020に記録する。エリア2など他の更新波及エリアの差分データも同様に記録する。そして、地図更新データ1014及び1015に対しても更新波及エリアに対して差分データを取得し、エリアごとの差分データを対応する差分データ格納領域に格納する。
【0094】
車載機12のCPU141は、差分データ取得処理801が終了し、車載機12の一時記憶領域に更新対象エリアの差分データを格納すると、差分データを反映させた更新済みデータを作成する。図9の902は、更新対象のデータをデータベースから取得した時点の一時記憶領域の状態を示している。また、図9の903は、データベースから取得された更新対象データに差分データを適用した後の一時記憶領域の状態を示している。(後略)
【0095】
図11は、本発明の第1の実施の形態の更新済みデータ生成処理610の手順を示す図である。
【0096】
車載機12のCPU141は、利用者による操作によって、アプリケーション実行部205から地図データの更新要求を受け付けると、差分データ取得部206の処理を実行する。車載機12のCPU141は、更新要求に含まれる指定された更新対象の地域などの情報に基づいて、端末通信部212を介して地図配信サーバ11に必要な差分データを要求する。
【0097】
車載機12のCPU141は、地図配信サーバ11から差分データを受信すると、更新済みデータ生成部207を実行することによって、データベース202に格納されたデータに受信した差分データを反映させることによって、更新済みデータを生成する。そして、生成された更新済みデータは、更新済みデータ蓄積部210に格納される。更新が要求された地域のすべての更新済みデータの生成が完了すると、更新済みデータ生成処理310を終了する。
【0098】
また、車載機12のCPU141は、更新済みデータ生成処理310が終了する直前に、常駐しているアプリケーション監視部208の処理によって、バッファに格納されたデータを破棄するバッファ破棄信号を動作中のアプリケーションに対して送信する。すべての更新済みデータの生成が完了した場合には、更新前のデータではなく、更新後のデータを使用するためである。
【0099】
車載機12のCPU141は、アプリケーション実行部205の処理において、バッファ破棄信号を受信すると、実行中のアプリケーションが保持している地図データを破棄する。その後、更新波及範囲判定部203の処理を介して必要な地図データを取得する。必要な地図データを取得するためのデータの流れについては、図14及び図15にて後述する。
【0100】
車載機12のCPU141は、更新済みデータ生成処理610が終了すると、更新済みデータ転送部211を実行し、更新済みデータ転送処理611を開始する。更新済みデータ転送処理611は、作成された更新済みデータをデータベースに反映させる。図9の最下段に、更新済みデータを更新済みデータ蓄積部210からデータベース202に反映させるデータの流れを示している。また、更新済みデータ転送処理611の実行中にアプリケーションによって地図データが要求された場合には、更新済みデータ蓄積部210に記録されている更新済みデータを応答する。以下、更新済みデータ転送処理611の手順について説明する。
【0101】
図12は、本発明の第1の実施の形態の更新済みデータ転送処理611のデータフローを示す図である。更新済みデータ転送処理611は、車載機12のCPU141によって更新済みデータ転送部211が処理されることによって実行される。
【0102】
車載機12のCPU141は、アプリケーション実行部205によって実行されているアプリケーションの処理負荷に基づいて、処理負荷が小さい場合に、データベース202に更新済みデータを転送し、データベース202に更新済みデータを反映させる。」(段落【0092】ないし【0102】)

(オ)「【0106】
車載機12のCPU141は、まず、更新済みデータ転送処理611と並行して実行されているアプリケーションの動作状況を取得するアプリケーション監視処理を実行する(ステップ1301)。アプリケーション監視処理では、公知の技術を利用してアプリケーションによる処理負荷が高いか否かを判定する。
【0107】
また、車載機12のCPU141は、アプリケーション監視処理において、地図データの取得要求についても監視し、アプリケーションによって地図データの取得要求が送信されたか否かを判定する(ステップ1303)。アプリケーションによって地図データの取得要求が送信された場合には(ステップ1303の結果が「y」)、地図データ検索部204を処理することによって、アプリケーション要求データ検索処理を実行し(ステップ1305)、さらに、要求された地図データが取得されるまで待機する。
【0108】
車載機12のCPU141は、アプリケーション要求データ検索処理において、更新波及範囲に含まれる地図データが要求された場合には、更新済みデータ検索部209を実行することによって更新済みデータを取得する。また、更新波及範囲以外の地図データが要求された場合には、データベース202から地図データを取得する。アプリケーション要求データ検索処理の詳細については、図16にて後述する。
【0109】
また、車載機12のCPU141は、アプリケーションによって地図データの取得要求が送信されていない場合には(ステップ1303の結果が「n」)、アプリケーションによる処理の負荷を所定の閾値と比較し、負荷が大きいか否かを判定する(ステップ1304)。アプリケーションによる負荷が大きい場合には(ステップ1304の結果が「y」)、データの更新処理を実行せずにアプリケーション監視処理に戻る(ステップ1301)。
【0110】
車載機12のCPU141は、アプリケーションによる処理の負荷が大きくない場合には(ステップ1304の結果が「n」)、更新済みデータ蓄積部210に格納された更新済みデータを転送し(ステップ1306A)、さらに、データベース202に反映させる(ステップ1306B)。」(段落【0106】ないし【0110】)

イ 甲第2号証技術
上記ア及び図9の記載から、甲第2号証には、次の技術(以下、「甲第2号証技術1」という。)が記載されていると認める。

<甲第2号証技術1>
「ナビゲーション機能を有する車載機12において、地図配信サーバ11からネットワーク120を介して取得した地図更新データの差分データを格納する差分データ格納領域を一時記憶領域に割り当てて作成し、差分データを差分データ格納領域に記録し、更新対象データをデータベース202から一時記憶領域に取得し、一時記憶領域でデータベース202から取得した更新対象データに差分データを適用して更新済みデータを生成し、生成した更新済みデータを更新済みデータ蓄積部210に格納し、更新済みデータ蓄積部210に格納された更新済みデータをデータベース202に転送してデータベース202に更新済みデータを反映させる技術。」

また、上記アの記載から、甲第2号証には、次の技術(以下、「甲第2号証技術2」という。)が記載されていると認める。

<甲第2号証技術2>
「ナビゲーション機能を有する車載機12において、アプリケーションによる処理の負荷を所定の閾値と比較して負荷が大きいか否かを判定し、アプリケーションによる負荷が大きい場合には、データの更新処理を実行せずにアプリケーション監視処理を継続し、アプリケーションによる負荷が大きくない場合には、更新済みデータ蓄積部210に格納された更新済みデータを転送し、データベース202に反映させる技術。」

(3)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載
甲第3号証には、「地図データ処理装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

「【0022】
以上のように、この実施の形態1によれば、地図データ種別、地図データサイズ等により、一括で更新処理を行なった場合の処理時間、必要な記憶容量等を判定し、一括更新を行うデータを決定し、更新処理を行い、その他のデータは必要になるたびに動的更新処理を行うことで、ナビゲーション機能の動作速度に影響を与えることなく、かつナビゲーション機能が使用できなくなる時間を最小限にして最新地図データへの更新を行うことの可能な地図データ処理装が得られる効果がある。」(段落【0022】)

イ 甲第3号証技術
上記アの記載から、甲第3号証には、次の技術(以下、「甲第3号証技術」という。)が記載されていると認める。

<甲第3号証技術>
「地図データの更新をデータに応じて一括更新処理と動的更新処理とを選択的に行う地図データ処理装置において、一括で更新処理を行った場合の処理時間及び必要な記憶容量を判定し、一括更新を行うデータを決定して更新処理を行うとともに、その他のデータは必要になるたびに動的更新処理を行うことで、ナビゲーション機能の動作速度に影響を与えることなく、かつナビゲーション機能が使用できなくなる時間を最小限にして最新地図データへの更新を行う技術。」

(4)甲第4号証
ア 甲第4号証の記載
甲第4号証には、「ナビゲーション装置、地図情報更新方法、および、地図情報更新用プログラム」に関し、図面とともに次の記載がある。

「【0037】
図2は、DVD63に格納されている情報の一例である。この例では、DVD63には、地図情報管理情報631および更新データ632が格納されている。ここで、地図情報管理情報631は、更新データ632を構成するファイル群の詳細を示す情報であり、グループ管理情報631a、機能管理情報631b、および、ファイル管理情報631cを有している。グループ管理情報631aは、ファイルの更新単位としてのグループを管理する情報である。機能管理情報631bは、ファイルが実現する機能を示す情報である。ファイル管理情報631cは、各ファイルの詳細を示す情報である。一方、更新データ632は、更新しようとするデータであり、複数のファイルによって構成されている。
【0038】
ユーザは、図1に示すナビゲーション装置50が装着された車両のエンジンを始動し、ナビゲーション装置50の電源がオンの状態とする。そして、ユーザは、DVD63を、DVD駆動装置61の図示せぬ挿入口に挿入する。すると、DVD駆動装置61は、DVD63に格納されている情報を読み出し、当該DVD63が地図情報更新用のDVDであることを認識する。すると、CPU51は、DVD63またはHDD53に格納されている更新用のプログラム(以下、「更新プログラム」と称する。)を読み出し、メモリ54に格納して、これを実行する。
【0039】
更新プログラムが実行されると、図3に示す以下の処理が実行される。
【0040】
ステップS10:CPU51は、HDD53の空き容量を取得する。すなわち、CPU51は、HDD53において、使用されていない領域の容量(例えば、5GB)を計算し、変数D1に格納する。
【0041】
ステップS11:CPU51は、DVD63に格納されている更新データ632の容量を計算し、変数D2に格納する。具体的には、更新データの容量として4GBが変数D2に格納される。
【0042】
ステップS12:CPU51は、変数D1に格納されている値(HDD53の空き容量)と、変数D2に格納されている値(更新データ632のサイズ)とを比較し、D1<D2であるか否かを判定する。その結果、D1<D2である場合には、ステップS16に進み、それ以外の場合にはステップS13に進む。
【0043】
ステップS13:CPU51は、HDD53の展開用のディレクトリに、全ての更新データをコピーする。具体的には、CPU51は、DVD駆動装置61に対して更新データ632を読み出すように要求する。その結果、DVD駆動装置61は、DVD63から更新データ632を読み出し、CPU51に供給する。CPU51は、DVD駆動装置61から供給された全ての更新データを、HDD53の展開用のディレクトリ(例えば、更新データ用のディレクトリ)にコピーする。
【0044】
ステップS14:CPU51は、地図情報の参照先を変更する。すなわち、CPU51は、制御プログラム53bが参照する地図情報の参照先となるディレクトリを、これまでのディレクトリから、ステップS13において更新データがコピーされたディレクトリに変更する。その結果、制御プログラム53bは、ステップS13においてコピーされた更新データを参照することになる。なお、制御プログラム53bの参照先を変更するのではなく、ディレクトリの名称を変更するようにしてもよい。具体的には、「current」が現在参照先のディレクトリである場合、更新データをまずディレクトリ「new」にコピーし、コピーが終了した場合にはディレクトリ名を「new」から「current」に変更するようにしてもよい。
【0045】
ステップS15:CPU51は、制御プログラム53bを再起動する。ステップS15において、制御プログラム53bの参照先が変更されているので、再起動された後は、制御プログラム53bは、更新された新たな地図情報に基づいて、自車位置の表示処理、検索処理、経路探索処理、および、経路案内処理等を実行する。なお、再起動が正常に行われた場合には、既存の地図情報(古い地図情報)をHDD53から削除する。再起動が正常に行われない場合には、参照先を既存の地図情報に変更することで、少なくとも古いバージョンのナビゲーションの機能を使用することができる。」(段落【0037】ないし【0045】)

イ 甲第4号証技術1
上記アの記載から、甲第4号証には、次の技術(以下、「甲第4号証技術1」という。)が記載されていると認める。

<甲第4号証技術1>
「ナビゲーション装置において、地図情報が更新された場合に制御プログラムを再起動し、再起動した後は、更新された地図情報に基づいて自車位置の表示処理、検索処理、経路探索処理及び経路案内処理を実行する技術。」

ウ 甲第4号証技術2
また、上記アの、特に段落【0037】ないし【0042】の記載から、甲第4号証には、次の技術(以下、「甲第4号証技術2」という。)が記載されていると認める。

<甲第4号証技術2>
「ナビゲーション装置において、HDD53の空き容量と地図情報更新用のDVD63に格納された更新データ632のサイズとを比較し、HDD53の空き容量が更新データ632のサイズ未満でない場合は、地図情報の更新を行う技術。」

2 対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲第1号証発明とを対比すると、甲第1号証発明における「車載装置3」は、その構造、機能又は技術的意義からみて、本件発明1における「カーナビゲーションシステム」に相当し、以下同様に、「地図データ」は「地図情報を含むデータ」に、「HDD39」は「データ記録手段」に、「通信ネットワーク5」は「ネットワーク」に、「更新地図データ」は「新しいデータ」に、それぞれ相当する。

また、甲第1号証発明における「該HDD39に記録される前記地図データより新しい、更新地図データを、通信ネットワーク5を介して受信する通信装置72を備える補助制御装置7」は、本件発明1における「該データ記録手段に記録されるデータと当該データよりも新しいデータとの比較により相違するデータが抽出された更新差分データを、ネットワークを介して受信する通信手段」と、「データを、ネットワークを介して受信する通信手段」という限りにおいて共通する。

また、甲第1号証発明における「前記更新地図データに基づいてHDD39内の地図データベースに格納されている前記地図データの更新に利用される、主制御装置6内部のメモリ」は、本件発明1における「前記更新差分データに基づいて前記新しいデータを作成するために利用されるメモリ手段」と、「データに基づいて新しいデータを作成するために利用されるメモリ手段」という限りにおいて共通する。

また、甲第1号証発明における「主制御装置6」の備える「地図データベースに格納されている地図データの更新手段」は、本件発明1における「前記データ記録手段に記録されるデータのうち更新対象となるデータを読み出して前記メモリ手段に一時的に記録させ、当該メモリ手段に記録されたデータのうち前記新しいデータと相違するデータを前記更新差分データに基づいて変更することにより前記新しいデータを前記メモリ手段に作成し、作成された当該新しいデータに基づいて前記データ記録手段に記録されるデータを更新させる制御手段」と、「前記データ記録手段に記録されるデータを更新させる」手段という限りにおいて共通する。

そうすると、本件発明1と甲第1号証発明とは、「カーナビゲーションシステムであって、
地図情報を含むデータが記録されるデータ記録手段と、
データを、ネットワークを介して受信する通信手段と、
データに基づいて、新しいデータを作成するために利用されるメモリ手段と、
前記データ記録手段に記録されるデータを更新させる手段と、
を備える、
カーナビゲーションシステム。」という点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1においては「経路案内を行っているか否かを判断する経路案内判断手段」を備えるのに対し、甲第1号証発明においては、主制御装置6が、地図データを使用するプログラムが起動状態であるか否かをチェックすることによって地図データが使用中であるか否かのチェックを行うものの、「経路案内を行っているか否かを判断する経路案内判断手段」を備えるか否か不明である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
「データを、ネットワークを介して受信する」ことに関し、本件発明1における「該データ記録手段に記録されるデータと当該データよりも新しいデータとの比較により相違するデータが抽出された更新差分データを、ネットワークを介して受信する」のに対し、甲第1号証発明においては「該HDD39に記録される前記地図データより新しい、更新地図データを、通信ネットワーク5を介して受信する」点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点3>
「データに基づいて新しいデータを作成するために利用されるメモリ手段」に関し、本件発明1においては「前記更新差分データに基づいて前記新しいデータを作成するために利用されるメモリ手段」であるのに対し、、甲第1号証発明においては「前記更新地図データに基づいて地図データベースに格納されている前記地図データの更新に利用されるメモリ」である点(以下、「相違点3」という。)。

<相違点4>
「前記データ記録手段に記録されるデータを更新させる手段」に関し、本件発明1においては、「前記データ記録手段に記録されるデータのうち更新対象となるデータを読み出して前記メモリ手段に一時的に記録させ、当該メモリ手段に記録されたデータのうち前記新しいデータと相違するデータを前記更新差分データに基づいて変更することにより前記新しいデータを前記メモリ手段に作成し、作成された当該新しいデータに基づいて前記データ記録手段に記録されるデータを更新させる制御手段」であるのに対し、甲第1号証発明においては、「主制御装置6が実行する、地図データベースに格納されている地図データの更新」である点(以下、「相違点4」という。)。

<相違点5>
本件発明1においては「前記制御手段は、前記データ記録手段に記録されるデータのうち更新対象となるデータのデータ量が前記メモリ手段のデータ記録容量よりも大きい場合において、前記経路案内判断手段が経路案内を行っていると判断しているときには、前記カーナビゲーションシステムの再起動を行わず、前記経路案内を継続させ、前記データ記録手段に記録されるデータのうち更新対象となるデータのデータ量が前記メモリ手段のデータ記録容量よりも大きい場合において、前記経路案内判断手段が経路案内を行っていないと判断した後に、前記カーナビゲーションシステムの再起動を行う」のに対し、甲第1号証発明においては「地図データベースに格納されている地図データの更新を行う際、主制御装置6は、地図データベースに格納されている地図データが使用中であるか否かをチェックし、地図データを使用するプログラムが起動されている場合には、地図データが使用されている可能性があるので、使用が終了するまで待ち、使用中の可能性がなくなったら、受けとった更新地図データでもって地図データベースに格納されている地図データの更新を実行する」点(以下、「相違点5」という。)。

イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点5について検討する。
ナビゲーション装置という、甲第1号証発明と共通の技術分野に属する甲第4号証技術1は、地図情報が更新された場合に、再起動を行った後、更新された新たな地図情報に基づいて自車位置の表示処理、検索処理、経路探索処理及び経路案内処理等を実行するものである。
しかし、甲第4号証技術1は、地図情報が更新された後、更新データ632のサイズがHDD53の空き容量より大きい場合において、経路案内を行っているか否かの判断を行っているものとはされていない。
また、甲第4号証技術2は、HDD53の空き容量が更新データ632のサイズ未満でない場合に、地図情報の更新を行うものの、地図情報が更新された後、更新データ632のサイズがHDDの空き容量より大きい場合において、経路案内を行っているか否かの判断を行っているものとはされていない。
さらに、甲第1号証発明は、地図データの更新を行うものであるものの、再起動を行うか否かについては不明である。
そうすると、甲第1号証発明及び甲第4号証技術のいずれにおいても、再起動を行う条件について不明であるから、甲第1号証発明に甲第4号証技術を適用したとしても、当業者が、相違点5に係る本件発明1の発明特定事項とすることを容易に想到し得たとはいえない。
また、甲第2号証技術1、甲第2号証技術2及び甲第3号証技術のいずれにおいても、再起動を行う技術ではなく、したがっていつ再起動を行うのか不明であるから、甲第1号証発明に甲第2号証技術1,甲第2号証技術2及び甲第3号証技術を適用したとしても、当業者が、相違点5に係る本件発明1の発明特定事項とすることを容易に想到し得たとはいえない。

そして、本件発明1は、「前記データ記録手段に記録されるデータのうち更新対象となるデータのデータ量が前記メモリ手段のデータ記録容量よりも大きい場合において、前記経路案内判断手段が経路案内を行っていると判断しているときには、前記カーナビゲーションシステムの再起動を行わず、前記経路案内を継続させ、前記データ記録手段に記録されるデータのうち更新対象となるデータのデータ量が前記メモリ手段のデータ記録容量よりも大きい場合において、前記経路案内判断手段が経路案内を行っていないと判断した後に、前記カーナビゲーションシステムの再起動を行う」との発明特定事項を備えることにより、「カーナビゲーションシステムにおける情報の更新処理を、経路案内処理の妨げにならずに行う」という効果を奏するものである。

したがって、相違点1ないし4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証発明、甲第2号証技術1、甲第2号証技術2、甲第3号証技術及び甲第4号証技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2
本件発明2は、実質的に本件発明1のナビゲーションシステムのデータ更新方法という発明であるから、上記(1)ア及びイにおける検討を踏まえると、本件発明2は、甲第1号証発明、甲第2号証技術1、甲第2号証技術2、甲第3号証技術及び甲第4号証技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 特許異議申立書における申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、甲第1号証発明に甲第4号証技術を適用することは当業者であれば容易に想到し得る旨(異議申立書第18ページ2ないし6行)を述べている。
しかし、甲第1号証には段落【0049】に「・・・使用される地図データは、決定している案内経路を含む区分地図データとそれに隣接する区分地図データのみと考えられる。このような場合には、使用されなる可能性のない地域の地図データについてはそのプログラムが起動中であったとしても、地図データの更新を実行しても差し支えない。・・・」と、【0050】に「・・・地図データを使用するプログラムが起動されている場合にそのプログラムにより使用中の区分地図データ、使用される可能性の高い区分地図データ、使用する可能性の殆どない区分地図データを区別して知る必要がある。そのためには、例えばそのプログラムがその区別を地図データベースに書き込むようにすればよい。そのようにしておけば、地図データベースに書き込まれたその区別をチェックすることにより、更新対象地域の区分地図データが使用中か否かを判定することができる。使用する可能性のない殆どない区分地図データとして書き込まれていれば、その区分地図データはプログラムが起動中であっても更新することができる。」と、さらに【0053】に「・・・地図データが使用中であるか否かがチェックされて使用中でない場合には直ぐさま更新が実行される。従って、利用者は車両に・・・搭乗していた場合には更新終了時点から直ぐに更新された最新の地図データを使用することができる効果を奏する。」記載されるように、更新終了後すぐに、すなわち再起動を行うことなく更新した地図データを用いることができるものであるから、甲1号証発明は、甲第4号証技術のような、再起動を行うものか不明である。そうすると、甲第4号証技術に例示されるような、地図データの更新後に再起動を行う技術が周知技術であったとしても、再起動を行うか不明である甲第1号証発明において、再起動を行う周知技術である甲第4号証技術を採用することは、動機を欠くものである。

したがって、申立人の主張は採用できない。

5 まとめ
よって、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号に該当しない。

[2]特許法第36条第6号第1号
1 判断
本件特許明細書等の段落【0046】には、「キーシリンダ部16は、キーの回動位置(あるいは、車両の動作状態)に基づいて、車両2がACCのオフ状態であるか否かを検出する役割を有している。キーシリンダ部16により検出されたACCのオン/オフ情報は、ACC情報としてCPU15へ出力される。CPU15では、ACC情報を取得することによって、ACCのオフ状態を検出することが可能となり、このACCのオフ状態の検出等によって、経路案内が行われているか否かの判断を行うことが可能となる。」と、ACCのオフ状態の検出等によって経路案内が行われているか否かの判断を行うことが具体的に記載されている。
そうすると、本件発明1及び2の「前記データ記録手段に記録されるデータのうち更新対象となるデータのデータ量が前記メモリ手段のデータ記録容量よりも大きい場合において、前記経路案内判断手段が経路案内を行っていると判断しているときには、前記カーナビゲーションシステムの再起動を行わず、前記経路案内を継続させ、前記データ記録手段に記録されるデータのうち更新対象となるデータのデータ量が前記メモリ手段のデータ記録容量よりも大きい場合において、前記経路案内判断手段が経路案内を行っていないと判断した後に、前記カーナビゲーションシステムの再起動を行うこと」のうち、「経路案内判断手段が経路案内を行っていると判断」及び「経路案内判断手段が経路案内を行っていないと判断」することの一実施例として、ACCのオン/オフ状態を検出していることが、発明の詳細な説明に記載されていると、当業者であれば理解することができる。
ここで、本件特許明細書等の段落【0012】に「カーナビゲーションシステムにおける情報の更新処理を、経路案内処理の妨げにならずに行うことが可能なカーナビゲーションシステムおよびカーナビゲーションシステムのデータ更新方法を提供する」と記載されるように、本件発明1及び2が解決しようとする課題は、カーナビゲーションシステムにおける情報の更新処理を、「経路案内処理の妨げにならずに」行うことにある。
そして、本件発明1及び2は、上記一実施例に限定されるものではなく、「経路案内判断手段が経路案内を行っていると判断」及び「経路案内判断手段が経路案内を行っていないと判断」することにより、かかる課題を解決し得ることは、当業者にとって明らかである。
さらに、本件発明1及び2が、かかる課題が解決できることが当業者が認識できるよう記載された範囲を超えるものでもない。

したがって、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

2 特許異議申立書における申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、本件特許明細書等には、段落【0028】及び【0093】に、ACCがオフにセットされている場合(経路案内処理を行っていない場合)については記載があるものの、経路案内判断手段が経路案内を行っていると判断しているときに経路案内を継続するということは具体的に何ら記載されていない旨を述べ、さらに、仮にACCがオンにセットされた場合、経路案内を行っているということであるとしても、本件特許明細書等の発明の詳細な説明において、ACCがオンにセットされた状態であれば、経路案内が必ず行われるということを開示または示唆する記載もないから、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1及び2の範囲まで本件特許明細書等の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない旨を述べている。(特許異議申立書18ページ16行ないし19ページ15行)
しかし、上記1において検討したとおり、ACCのオン/オフ状態を検出することは、本件発明1及び2の一実施例であることを当業者が理解でき、本件特許明細書等の発明の詳細な説明において、ACCがオンにセットされた状態であれば、経路案内が必ず行われるということを開示又は示唆する記載の有無にかかわらず、かかる一実施例が本件発明1及び2の課題を解決できることは明らかである。

そうすると、特許異議申立書における、申立人の、本件特許明細書等の発明の詳細な説明において、ACCがオンにセットされた状態であれば、経路案内が必ず行われるということを開示または示唆する記載もないから、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1及び2の範囲まで本件特許明細書等の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない旨の主張は、採用することができない。

3 まとめ
よって、請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではないから、同法113条第4号に該当しない。

第5 むすび
上記第4のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-07-31 
出願番号 特願2015-216305(P2015-216305)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01C)
P 1 651・ 537- Y (G01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 崇雅  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 三島木 英宏
金澤 俊郎
登録日 2016-09-16 
登録番号 特許第6005826号(P6005826)
権利者 クラリオン株式会社
発明の名称 カーナビゲーションシステムおよびカーナビゲーションシステムのデータ更新方法  
代理人 殿元 基城  

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