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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 A01K 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A01K |
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管理番号 | 1331521 |
審判番号 | 無効2015-800198 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2015-10-27 |
確定日 | 2017-06-28 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5641624号発明「魚釣用電動リール」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第5641624号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第5641624号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第5641624号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許を無効とすることを求める事件であって、手続の経緯は、以下のとおりである。 平成25年 7月30日 本件出願(特願2013-157270号) (原出願:特願2011-152514号、 原出願日:平成23年7月11日) 平成26年11月 7日 設定登録(特許第5641624号) 平成27年10月27日 本件無効審判請求 平成28年 1月12日 被請求人より答弁書提出 平成28年 3月 1日 審理事項通知書(起案日) 平成28年 3月25日 請求人より口頭審理陳述要領書提出 平成28年 4月15日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出 平成28年 5月10日 請求人より上申書提出 平成28年 5月13日 被請求人より上申書提出 平成28年 5月17日 口頭審理 平成28年 5月17日 (口頭審理後)請求人より上申書提出 平成28年 6月 7日 被請求人より上申書提出 平成28年 6月28日 請求人より上申書提出 平成28年 9月30日 審決の予告(起案日) 平成28年12月 5日 被請求人より訂正請求書提出 平成28年12月 6日 被請求人より上申書提出 平成29年 1月12日 請求人より弁駁書提出 平成29年 1月18日 補正許否の決定(起案日) 平成29年 2月22日 被請求人より答弁書(2)提出 第2 本件発明 1 本件発明(訂正前の本件発明) 本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、 前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、 前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、 前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、 を有する魚釣用電動リールにおいて、 前記操作部材は、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記側板の上部の表面から露出している、ことを特徴とする魚釣用電動リール。」 2 本件特許の明細書の記載事項 本件特許の明細書には、以下のとおり記載されている(抜粋)。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、魚釣用電動リールに関する。 【背景技術】 【0002】 従来、魚釣用電動リールは、主に深場の釣りに適用させるべく、仕掛けの放出から巻き取りに至るまで、釣竿を船縁に装着された竿掛けに置いたままの状態で行えるように構成されたものが多いが、最近では、手持ち状態で操作が行えるように工夫されたものが知られている。 【0003】 例えば、魚釣用電動リールのスプールを巻き取り操作する(モータ出力を連続的に可変操作する)ための操作部材を、様々な位置に配置することが知られている。例えば、特許文献1には、リール本体の側方の前方側に、モータ出力を調整するスライドレバー式の操作部材を前後方向に移動可能に支持したもの、或いは、リール本体の後方に、モータ出力を調整する回転式の操作部材を回転可能に支持したものが開示されている。また、特許文献2には、制御ケースの上面から円板状の回転摘み(操作部材)の一部を露出させ、上方から親指を押し付けながら回転操作することで、モータ出力を連続的に可変させる構成が開示されている。さらに、特許文献3には、左側板上に、プッシュボタン式のモータ出力操作部材を設置したものが開示されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2001-169700号 【特許文献2】特開2003-92959号 【特許文献3】特開2001-169701号 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 上記したように、最近の魚釣用電動リールでは、ルアーフィッシングに用いられる魚釣用(ベイトキャスティング)リールと同様、手持ち状態で操作することが可能なタイプも望まれているが、従来のモータ出力を調整する操作部材の配置を工夫した魚釣用電動リールでは、操作性の面でさらに改良すべき余地がある。すなわち、釣竿とリール本体を把持する片手の親指での操作と把持の両面で満足できるものとはなっておらず、特に、釣竿とリール本体を把持する片手で、モータの出力調整操作をあらゆるシーン(単なる仕掛け回収のような巻き取りや、魚を誘う場合に応じた複雑(緩急)な巻き取り操作等)に適宜対応できるものとはなっていない。また、急激な魚の引きに対して把持状態が不安定になったり、親指が届いても、力を入れることができない位置に操作部材(操作部)があり、所望の巻き取り状態が得られない可能性もある。 【0006】 本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに、その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき、更には、操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供することを目的とする。」 「【発明の効果】 【0009】 本発明によれば、釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに、その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき、更には、操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールが得られる。」 「【発明を実施するための形態】」 「【0020】 前記制御ケース15の後方部分、特に、図4に示すように、スプール7のフランジ7fの前端位置Pfよりも後方側には、駆動モータ8の出力を調整する操作部材30が配置されている。本実施形態の操作部材30は、制御ケース15の後方側で、左側板5Aの上部で回転可能となるように支持されており、制御ケース15に対して、スプール軸7aと略平行に支持された支軸31の左側板側端部に、略前後方向D1に向けて回転操作可能に装着されている。また、本実施形態の操作部材30は、親指を前後方向にスライドさせて、親指の腹部で転がし操作が可能となるように略円筒形状に構成されており、その操作面30a(親指を接触させて操作される外表面であり、操作部30aとも称する)の略上半分の円弧領域が露出した状態となっている。このため、制御ケース15の左側板側には、操作部材30の操作部30aを露出させるように、左側に開口する凹陥部15Aが形成されており、操作部材30は、凹陥部15Aに収容された状態となっている。」 「【0023】 前記操作部材30(操作部30a)は、上記したように、上方から押え付けて転がすような操作ができるよう露出した状態で回転可能に支持されているが、図5に示すように、周辺の表面(本実施形態では、制御ケース15の凹所15Bの表面15d)に対して、その操作部(操作面)30aが突出した状態となっている。具体的に、本実施形態の略円筒形状の操作部材30(操作部30a)は、直径Dが12mmに形成されており、表面15dに対して突出高さhが3.6mmとなるように設置されている。また、操作部30aの表面には、転がし操作する際に、滑り難いように、周方向に連続する凹凸30bを形成しておくことが好ましい。 【0024】 この場合、操作部材30は、リール本体を確実に把持した状態で、安定して転がす操作ができるように、前記突出高さhについては、0.5?12mmの範囲に設定しておくことが好ましい。これは、突出高さhが0.5mm未満となると、親指の接触面積が小さくなり過ぎて、滑りが生じる等、操作性が悪くなるためである。また、12mmを超えてしまうと、大きく突出した状態となってしまい、その周辺部の把持圧力が小さくなって、把持安定度が低下してしまうためである。」 「【0029】 また、上記したように、前記支軸31は、前記スプール7の回転軸(スプール軸7a)と略平行となるように回転可能に支持されているため、前記操作部材30は、略前後方向(釣竿の方向;矢印D1に示す方向)に変位できるようになっている。この操作部材30は、リール本体5を掌で把持した状態で操作することから、操作部材30に親指を当接させた際、親指の位置が大きく横にずれることがなく、特に、外側にずれることがないため、把持安定性が高くなる。この場合、操作部材30を回転させた際の指(親指)の位置の横方向のずれを考慮すると、上記した略平行の範囲については、スプール7の回転軸に対して±30°の範囲内であれば良い。すなわち、±30°の範囲内であれば、リール本体5を把持保持した状態で、操作部材30を自由に回転しても、親指の位置が横方向にずれ難くなり、リール本体を把持保持した際のバランスが悪くなることがなくなる。なお、本実施形態のリール本体5は、釣竿とともに片手で把持して操作可能な大きさに構成されており、上記した操作部材30は、リール本体5を、竿取付部5aを介して釣竿に装着した際に、図8及び図9に示すように、釣竿Rとともにリール本体5を把持保持した状態の手の親指Tが届く位置に配設されている。」 「【0040】 上記したように構成される操作部材40は、図12に示すように、その表面の操作部40aの直径Dが12mmで、その周辺部となる左サイドプレート4aの表面4fに対して、所定の高さh(5.5mm)だけ突出するように支持されている。これにより、上記した第1実施形態と同様な操作を行うことが可能となる。もちろん、第1実施形態と同様、操作部40aの直径Dについては、10?24mmにすることが好ましく、その突出高さについては、0.5?12mmに設定しておくことが好ましい。」 「【0046】 以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、駆動モータの出力を調整する操作部材が、左右側板上で、略前後方向に回転可能に支持され、かつ、その周辺部に対して僅かに(具体的には、0.5mm?12mm)突出した構造であれば良く、その設置位置や設置方法、周辺部の形状など、適宜変形することが可能である。また、操作部材の設置位置や形状については、リール本体の大きさ(手持ちタイプ、中型タイプ、大型タイプ)や対象魚に応じて適宜変形することが可能である。さらに、操作部材の操作角度を検知する検知手段についても、その構成や設置方法等、適宜変形することが可能である。」 第3 訂正請求について 被請求人は、審決の予告があった後、本件特許について、平成28年12月5日に訂正請求書(当該訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)を提出している。 本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は、上記訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(下線は訂正箇所を示す。)。 「【請求項1】 リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、 前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、 前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、 前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、 を有する魚釣用電動リールにおいて、 前記操作部材は、釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に前記側板の上部の表面から露出し、前記円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5?12mmの範囲に設定されている、ことを特徴とする魚釣用電動リール。」 そこで、本件訂正の適否について検討する。 1 訂正内容 本件訂正は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記操作部材は、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記側板の上部の表面から露出している」とあるのを、「前記操作部材は、釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に前記側板の上部の表面から露出し、前記円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5?12mmの範囲に設定されている」と訂正する。 (2)訂正事項2 明細書の段落【0007】に「前記操作部材は、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記側板の上部の表面から露出している」とあるのを、「前記操作部材は、釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に前記側板の上部の表面から露出し、前記円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5?12mmの範囲に設定されている」と訂正する。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的の適否について 訂正事項1は、「操作部材」について、その配置位置及び操作態様を「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」、及び「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能」であることに、また、その露出する部分の突出高さを「円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5?12mmの範囲に設定されている」ことに特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としているといえる。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて 上記アで説示したように、訂正事項1は、訂正前に特定されていた「操作部材」についてより具体的に特定するものであって、発明のカテゴリー、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。 ウ 願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて 「操作部材」が「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」、及び「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能」であることは、上記第2の2で摘記した本件特許の明細書(願書に添付した明細書)の段落【0020】【0023】【0029】に記載されており、また、「操作部材」が「円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5?12mmの範囲に設定されている」ことは、同段落【0024】【0040】に記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的としているといえる。 また、訂正事項2は、訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)で検討したように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。 3 請求人の主張について 請求人は、訂正事項1において、操作部材の配設位置を「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」と特定したとしても、せいぜいリールの把持方法を特定するにとどまり、リール本体の大きさや形状を構成として特定するものではないから、本件訂正は特許請求の範囲を減縮するものとはいえないので不適法である旨主張する(弁駁書3?4頁)。 しかしながら、本件訂正は、「操作部材」について、その配設位置を「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」と限定したものであるから、特許請求の範囲を減縮したものであるといえる。 したがって、請求人の主張は採用できない。 4 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、結論のとおり、本件訂正を認める。 そして、本件訂正は認められたので、本件発明は訂正された本件訂正発明である。 第4 請求人の主張 1 請求人が主張する無効理由の概要 請求人は、本件発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、平成28年3月25日付け口頭審理陳述要領書、同年5月10日付け上申書、同年5月17日付け上申書、同年6月28日付け上申書を参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第60号証を提出している。 また、請求人が主張する無効理由1ないし5は、本件訂正発明に対しても主張される一方、本件訂正発明に対して新たに無効理由6(弁駁書98頁22行?103頁9行)及び無効理由7(弁駁書103頁10?16行)が主張された。 (1)無効理由1(サポート要件及び明確性要件違反) 本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、また、明確でないから、特許法第36条第6項第1号及び第2号に違反し、その特許は、同法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。 (2)無効理由2(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如) 本件発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2、3号証に記載された技術事項、及び、周知技術に基いて、本件特許出願前に、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、その特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。 (3)無効理由3(甲第2号証を主引例とする進歩性欠如) 本件発明は、甲第2号証に記載された発明、甲第1、3号証に記載された技術事項、及び、周知技術に基いて、本件特許出願前に、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、その特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。 (4)無効理由4(甲第3号証を主引例とする進歩性欠如) 本件発明は、甲第3号証に記載された発明、甲第1、2号証に記載された技術事項、周知技術、及び、公然実施された発明(甲第24号証)に基いて、本件特許出願前に、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、その特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。 (5)無効理由5(公然実施発明を主引例とする進歩性欠如) 本件発明は、公然実施された発明(甲第24号証「VS700AC-HP」)、甲第1、2号証に記載された技術事項、及び、周知技術に基いて、本件特許出願前に、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、その特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。 (6)無効理由6(公然実施発明を主引例とする進歩性欠如) 本件訂正発明は、公然実施された発明(甲第24号証「VS300」)、及び、周知技術に基いて、本件特許出願前に、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、その特許は無効とされるべきである。 (7)無効理由7(明確性要件違反) 本件訂正発明の「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており」は不明確であるから、特許法36条6項2号に適合せず、その特許は無効とされるべきである。 (証拠方法) 提出された証拠は、以下のとおりである。 甲第1号証:特開2001-169700号公報 甲第2号証:特開2003-92959号公報 甲第3号証:特開2000-83538号公報 甲第4号証:特開2000-270736号公報 甲第5号証:1999リョービ釣用品カタログ 甲第6号証:特開2005-204567号公報 甲第7号証:特開2006-87426号公報 甲第8号証:特開2005-95086号公報 甲第9号証:2006ダイワ釣用品カタログ 甲第10号証:2010ダイワ釣用品カタログ 甲第11号証:特開2001-45933号公報 甲第12号証:特開2001-169701号公報 甲第13号証:特開2000-342137号公報 甲第14号証:特開2002-51674号公報 甲第15号証:特開2002-95394号公報 甲第16号証:特開2000-316437号公報 甲第17号証:特開2002-125540号公報 甲第18号証:特開2013-17415号公報 甲第19号証:意匠登録第1067072号の類似意匠登録第1号公報 甲第20号証:意匠登録第1193824号公報 甲第21号証:特開2002-150894号公報 甲第22号証:本件出願に係る平成26年4月25日付け拒絶理由通知書 甲第23号証:本件出願に係る平成26年6月12日付け意見書 甲第24号証:2002リョービ釣用品カタログ (VS700AC-HP)(VS300) 甲第25号証:VS700AC Hi-POWER 取扱説明書 甲第26号証:VS700AC Hi-POWERの写真 甲第27号証:VS700AC Hi-POWER 分解図 甲第28号証:報告書(ダイヤル式操作部材の寸法) 甲第29号証の1:日本人の手の寸法データ 甲第29号証の2:日本人の手の寸法データ 甲第30号証:2004年ダイワ船カタログ 甲第31号証:LEOBRITZ150のホームページ (http://daiwa.globeride.co.jp/special/leo150/) 甲第32号証:特開2013-215214号公報(本件公開公報) 甲第33号証:本件出願に係る平成25年7月30日付け上申書 甲第34号証:本件出願に係る平成26年6月12日付け手続補正書 甲第35号証:2000リョービ釣用品カタログ (VS700AC) 甲第36号証:リョービ電動リールパンフレット (VS700AC、VS700AT-S等) 甲第37号証:2001リョービ釣用品カタログ (VS700AC) 甲第38号証:’07 手持ちコンセプト ROD REEL 甲第39号証:Adventure電動VS700AC Hi-POWERの写真 甲第40号証:スーパータナセンサーS 300DXの写真 甲第41号証:スーパータナコン・S500CPの写真 甲第42号証:Adventure電動SS700AT-Sの写真 甲第43号証:Adventure電動VS300の写真 甲第44号証:2015ダイワ釣用品カタログ (シーボーグ200J) 甲第45号証:技術説明書 甲第46号証:1996ダイワ釣用品総合カタログ (スーパータナコン・X-CP、Z-SW) 甲第47号証:技術説明書(2) 甲第48号証:特開平11-113462号公報 甲第49号証:特開2006-149370号公報 甲第50号証:1998ダイワ釣用品総合カタログ (スーパータナコン・S500CP(甲41)、X500CP) 甲第51号証:チタノス電動丸ED6000、スーパータナコン・X500、 及びスーパータナコン・S500CPの写真 甲第52号証:Adventure電動VS500AT-S、 及びスーパータナセンサーS 300DXの写真 甲第53号証:スーパータナコンX・300W、 及びスーパータナコン・S500CP(甲41)の写真 甲第54号証:特開平11-123038号公報 甲第55号証:技術説明書(3) 甲第56号証:1999リョービ釣用品カタログ 甲第57号証:特開2004-229601号公報 甲第58号証:技術説明書(4) 甲第59号証:技術説明書(5) 甲第60号証:報告書 2 無効理由の具体的な主張 (1)無効理由1(サポート要件及び明確性要件違反) 本件発明は「前記操作部材は、・・・直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記側板の上部の表面から露出している」との構成を有するものであるところ、その特定する直径等については明細書【0025】に「前記操作部材30の直径Dについては、10?24mmの範囲のものを用いることが好ましい。これは、直径が10mm未満のものを用いると、親指との接触面積が小さくなり過ぎて、滑りが生じる等、操作性が悪くなるためである。また、24mmを超えてしまうと、周辺部(本体)の把持領域が少なくなり、把持安定度が低下するためである。なお、操作部材30の軸方向長さLについては、親指を押え付けて安定して転がし操作ができるように、2.0?20mmとしておくことが好ましい。」との作用効果が記載されている。 しかし、操作部は操作部材のうち側板の上部の表面から露出している外表面の円弧領域であるから、操作部材の直径の大きさを特定しても親指が接触する部分の面積を特定することはできない。操作部材の直径が同じ10mmであっても、露出している外表面の円弧領域の大きさによって、親指との接触面積は大きくなることもあれば小さくなりすぎることもあり、仮に10mm以上のものであっても露出している外表面の円弧領域が小さければ「親指との接触面積が小さくなり過ぎて、滑りが生じる等、操作性が悪くなる」。 また、操作部は操作部材のうち側板の上部の表面から露出している外表面の円弧領域であるから、操作部材の直径の大きさを特定しても、周辺部(本体)の把持領域の大きさを特定することはできない。操作部材の直径が同じ24mmであっても、露出している外表面の円弧領域の大きさによって、周辺部(本体)の把持領域は大きくなることもあれば小さくなりすぎることもあり、仮に直径が「24mmを超えてしま」っても露出する外表面の円弧領域が小さければ「周辺部(本体)の把持領域」を十分に確保することができ、「周辺部(本体)の把持領域が少なくなり、把持安定度が低下する」ということはない。 このように、「前記操作部材は、・・・直径が10?24mm」という構成によって、「直径が10mm未満のものを用いると、親指との接触面積が小さくなり過ぎて、滑りが生じる等、操作性が悪くなるためである。また、24mmを超えてしまうと、周辺部(本体)の把持領域が少なくなり、把持安定度が低下するためである。」という課題を解決し作用効果を奏することはできない。 したがって、本件発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、特許法第36条第6項第1号の規定に違反する。 また、本件発明は、発明を特定するための事項に技術的な不備があって、請求項の記載から発明を明確に把握することができないものであり、特許法第36条第6項第2号の規定に違反する。 (審判請求書9頁10行?10頁19行を参照。) (2)無効理由2(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如) ア 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証の図5及び図6(b)には、本件発明の構成に合わせて整理すると、以下の発明が記載されている。(以下「甲1発明」という。) 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、を有する魚釣用電動リールにおいて、前記操作部材は、前記制御ケースの前後方向の中央から少し後方側に偏倚した前後方向の所定領域において、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に略円弧状にスライド可能に装着されるとともに、その外表面の突起状の摘みが操作部として前記側板の上部の表面から露出している、ことを特徴とする魚釣用電動リール。」 イ 本件発明と甲1発明との対比 本件発明と甲1発明とを対比すると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、を有する魚釣用電動リールにおいて、前記操作部材は、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて移動可能に装着されるとともに、その外表面が操作部として前記側板の上部の表面から露出している、ことを特徴とする魚釣用電動リール。」 <相違点1> 本件発明では、操作部材が「制御ケースの後方側」に配置されているのに対して、甲1発明では、制御ケースの前後方向の中央から少し後方側に偏倚した前後方向の所定領域に配置されている点。 <相違点2> 本件発明では、操作部材が、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面が円弧領域であるのに対して、甲第1号証では、操作部材が、スライドレバー形状で寸法が明記されておらず、その外表面が突起状の摘みである点。 <相違点3> 本件発明では、操作部材が(前後方向に)回転可能に装着されているのに対して、甲1発明では、操作部材が(前後方向に)略円弧状にスライド可能に装着されている点。 ウ 相違点の検討 (ア)相違点1の検討 甲第1号証では、操作部材は制御ケースの前後方向の中央から後方側に偏倚した前後方向の所定領域において前後方向に移動可能に配置されているから、甲第1号証の操作部材も、実質的に、「制御ケースの後方側」に配置されていると言える。 仮に、甲1発明が、「制御ケースの後方側」と言えないにしても、操作部材をより後方に下げて制御ケースの後方側に配置することは当業者が容易になし得ることにすぎない。すなわち、親指が届きやすい操作部材の具体的配置はリールの大きさや形状等に応じて設計されるものであり、操作部材をより後方に下げて制御ケースの後方側に配置することは設計事項にすぎない。 また、甲第1号証には、同じ作用効果を奏する別の実施形態として、操作部材を(側板の上部)で制御ケースの後方側に配置した図3、図4及び図8が記載されているから、これらを参酌して、操作部材をより後方に下げて制御ケースの後方側に配置することは容易に想到し得ることであるし、リールを片方の手で把持しその手の親指で操作部材を操作する際のリールの操作性の向上のためにモータ出力等を調整する操作部材を側板の上部で制御ケースの後方側に配置することは、周知技術(甲2、甲1、甲3、甲4、甲12)であるから、これを参酌して、操作部材をより後方に下げて制御ケースの後方側に配置することは容易に想到し得ることである。 さらに、甲第2号証には操作部材を制御ケースの後方側に配置した構成(図9)、甲第3号証には操作部材(出力調整レバー)を側板の上部で制御ケースの後方側に配置した構成(図1、【0029】等)が記載されているから、これらを単独又は重畳して適用して相違点1に係る構成を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。 (イ)相違点2の検討 a 操作部材の形態について 魚釣用電動リールのモータ出力の調整を行う操作部材としてスライド式のもの又はレバー式のものとダイヤル式のものは周知慣用な置換手段であるから(甲1、甲2、甲13)、スライドレバー形状の操作部材(特に、図6(b)の略円弧方向に回転操作させるものはダイヤル式に近いものである)を、略円筒形状に形成され外表面の円弧領域(円弧形状)が露出するダイヤル式の操作部材に変えることは、たんなる設計事項にすぎず、当業者が当然になし得ることにすぎない。 また、甲第1号証の図8には、図5及び図6(b)の実施形態と同じ作用効果を奏する別の実施形態として、ダイヤル式の操作部材(略円筒形状の操作部材の外表面の円弧領域(円弧形状)が操作部として周囲の露出している操作部材)が記載されているから、これを適用してスライドレバー形状の操作部材を略円筒形状に形成され外表面の円弧領域(円弧形状)が露出するダイヤル式の操作部材に変えることは当業者が容易に想到し得ることである。 さらに、甲第2号証の図9には、図7に示される略円筒形状に形成され外表面の円弧領域が露出するダイヤル式の操作部材(操作部5)が記載されているところ、甲第2号証も甲第1号証も本件発明も課題及び作用効果を共通にしているから、甲1発明に甲第2号証の図9を適用して相違点に係る構成を得ることは当業者が容易に想到し得ることである。 b 操作部材の大きさについて そもそも操作部材の大きさを適した寸法にすることは具体的状況において当業者が当然に考慮することである。 本件明細書の【0025】には、「前記操作部材30の直径Dについては、10?24mmの範囲のものを用いることが好ましい。これは、直径が10mm未満のものを用いると、親指との接触面積が小さくなり過ぎて、滑りが生じる等、操作性が悪くなるためである。また、24mmを超えてしまうと、周辺部(本体)の把持領域が少なくなり、把持安定度が低下するためである。なお、操作部材30の軸方向長さLについては、親指を押え付けて安定して転がし操作ができるように、2.0?20mmとしておくことが好ましい。」と説明されているが、記載要件違反の項で主張したように、直径を特定しても、露出する外表面の部分を特定することにはならず、明細書に記載された作用効果を奏することはない上に、魚釣用電動リールの一般的な大きさに照らすと、直径が10?24mmの範囲はごく通常の範囲といえる。軸方向長さも、親指で接触させて操作するものであることに照らすと、幅が小さすぎると操作性が悪くなるのは自明のことであるし、また、人の親指の幅(平均約20mm、甲29の1・2)を超える程度までがよいことも自明のことにすぎず、軸方向長さが2?20mmの範囲はごく通常の範囲であることは明らかである。甲第1号証の図8の操作部材や甲第2号証の図9の操作部材も、明細書に寸法が記載されていないものの、リール本体と比較するとおよそこの範囲にあるとみられる。 さらに、魚釣用電動リールと同様に、人が片方の手で機器を把持してその親指で操作する略円筒形上のダイヤル式の操作部材の大きさとして、本件発明が規定する直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmという範囲は、たとえば、携帯ラジオ、カメラ等の(特定の分野の当業者に限定されることなく)誰しもが日常的に扱う機器においても、ごく通常の範囲で常識的なものすぎない(甲28)。 したがって、大きさの点も当業者が設計事項として容易に想到し得るものである。 以上のとおり、相違点2に係る構成は、甲第1号証に基づいて、又はさらに甲第2号証若しくは周知技術(甲1、甲13、甲2)を適用して、当業者が容易に想到し得るものである。 (ウ)相違点3の検討 本件発明では、操作部材が前後方向に回転可能に装着されているのに対して、甲1発明の操作部材は、「略円弧方向Tにスライド操作する」ものであるところ、円弧方向にスライドするということは円弧すなわちある中心点を中心とした円周の一部分に沿って移動することであるから実質的にある点を中心に回転することと変わりはないし、仮に回転可能なものであることがはっきりしないとしても回転可能なものに変更することは設計事項にすぎない。本件発明の作用効果からすれば、操作部材が(ダイヤル式のように)回転可能なものであるか(スライド式のように)スライド可能なものであるかは特に技術的意義を有しないところ、魚釣用電動リールのモータ出力の調整を行う操作部材としてスライド式のものとダイヤル式のものは周知慣用な置換手段(甲1、甲13、甲2)である上に、甲第1号証の図5及び図6(b)は略円弧方向に操作されダイヤル式に近いものであるものであるから、これをダイヤル式のように回転可能なものに変更することは当業者が当然になし得る設計事項にすぎない。 また、甲第1号証には同じ作用効果を奏する別の実施形態として、回転可能な操作部材である図8の実施形態及び図3、図4の実施形態が記載されているから、これらを参酌して相違点3にかかる構成を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。 さらに、甲第2号証(図9)及び甲第3号証(図1)には回転可能な操作部材が開示されているから、甲1発明にこれらを単独又は重畳して適用して、相違点3に係る構成を得ることは当業者が容易に想到し得ることである。 (審判請求書24頁下から5行?37頁13行を参照。) (3)無効理由3(甲第2号証を主引例とする進歩性欠如) ア 甲第2号証に記載された発明 甲第2号証には、本件発明の構成に合わせて整理すると、以下の発明が記載されている。(以下「甲2発明」という。) 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、を有する魚釣用電動リールにおいて、前記操作部材は、制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上方に、回動変位可能に(具体例として斜め方向に向けて回転可能に)装着されるとともに、略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が、操作部として、側板間上面の表面(具体例として制御ケースの表面)から露出している、ことを特徴とする魚釣用電動リール。」 イ 本件発明と甲2発明との対比 本件発明と甲2発明とを対比すると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、を有する魚釣用電動リールにおいて、前記操作部材は、制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に回転可能に装着されるとともに、略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として露出している、ことを特徴とする魚釣用電動リール。」 <相違点1> 本件発明では、操作部材の外表面の円弧領域が、側板の上部の表面から露出しているのに対して、甲2発明では、側板間上面の表面(具体例として制御ケースの表面)から露出している点。 <相違点2> 本件発明では、操作部材が前後方向に回転可能に装着されているのに対して、甲2発明では、操作部材が回動変位可能に(具体例として斜め方向に回転可能)に装着されている点。 <相違点3> 本件発明では、操作部材の直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmであるのに対して、甲2発明では、操作部材の寸法が明記されていない点。 ウ 相違点の検討 (ア)相違点1の検討 本件発明の課題及び作用効果からすれば、操作部材はリールの上部の表面から露出しておれば足りるから、操作部材が側板の表面から露出するようにするか、側板間上面の表面である制御ケースの表面から露出するようにするかは、設計者が適宜選択し得る事項にすぎず、当業者は相違点1に係る構成を当然に想到し得る。 また、甲第1号証(図5及び図6(b))には操作部材(操作部40a)が(制御ケースの後方側で)側板の表面から露出した状態で配置された構成が記載されており、また、甲第3号証においても操作部材(出力調整レバー39)が(制御ケースの後方側で)側板の表面から露出した状態で配置された構成が記載されている。 甲2発明も甲第1号証も甲第3号証も本件発明もいずれも同様の作用効果を有するものであり、甲2発明に甲第1号証の図5及び図6(b)又は甲第3号証の発明を組み合わせるべき動機づけがある。 したがって、甲2発明に甲第1号証(図5及び図6(b))又は甲第3号証の発明を単独又は重畳して適用して相違点1に係る構成を得ることは容易に想到し得る。 (イ)相違点2の検討 魚釣用電動リールにおいてモータ出力の調整を行う操作部材は前後方向に回転操作することが最も一般的であり、操作部材を前後方向に回転操作することも周知技術(甲1(図3及び図4、図8)、甲3、甲4、甲17(図9)等)である。 甲2発明は、本件発明と同様に、操作部材の配置位置等によってリールを片方の手で把持しその手の親指での操作部材の操作性を確保するという作用効果を奏するものである。 そして、甲2発明は、モータ出力調節体Bの操作部5を「リール本体Aを握持保持した状態の手の親指で移動操作可能な位置に回動変位可能に設け」ることによって前記作用効果を奏するものであるから、操作部材(モータ出力調整体の操作部)の操作方向を、具体例として示されている図9の斜め方向から一般的な前後方向に変えることに支障はなく、設計事項として又は操作部材を前後方向に回転操作する周知技術(甲1、甲3、甲4、甲17等)を適用して当業者が容易になし得ることである。 (ウ)相違点3の検討 操作部材の大きさは単なる設計事項であり、当業者が当然に想到し得るものであることは前記(2)ウ(イ)bで述べたとおりである。 (審判請求書37頁14行?46頁4行を参照。) (4)無効理由4(甲第3号証を主引例とする進歩性欠如) ア 甲第3号証に記載された発明 甲第3号証には、本件発明の構成に合わせて整理すると、以下の発明が記載されている。(以下「甲3発明」という。) 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、を有する魚釣用電動リールにおいて、前記操作部材は、制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、レバー形状に形成され、その外表面のレバー形状が操作部として前記側板の上部の表面から露出している、ことを特徴とする魚釣用電動リール。」 イ 本件発明と甲3発明との対比 本件発明と甲3発明とを対比すると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、を有する魚釣用電動リールにおいて、前記操作部材は、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、外表面が操作部として前記側板の上部の表面から露出している、ことを特徴とする魚釣用電動リール。」 <相違点> 本件発明では、操作部材が、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面が円弧領域であるのに対して、甲3発明では、操作部材が、レバー形状で寸法が明記されておらず、その外表面が摘み部39aと補強部39bを有するレバー形状で円弧領域ではない点。 ウ 相違点の検討 (ア)操作部材の形態について 本件発明や甲第3号証の発明の課題及び作用効果において、操作部材のかかる方式ないし形状の違い(ダイヤル式で外表面が円弧形状か、レバー方式でレバー形状か)に差はない一方、魚釣用電動リールのモータ出力の調整を行う操作部材としてレバー式のものとダイヤル式のものは周知慣用な置換手段であるから(甲1、甲13、甲14、甲15)、甲第3号証の摘み部39aと補強部39bを有するレバー形状の操作部材をダイヤル式の操作部材に代え、略円筒形状に形成され外表面の円弧領域(円弧形状)が露出するように構成することは、設計事項として又は周知技術を適用して、当業者が当然になし得ることにすぎない。 また、甲第1号証の図8には、略円筒形状に形成され外表面の円弧領域が露出するダイヤル式の操作部材(モータ出力調整体40)が記載され、また、甲第2号証の図9には、略円筒形状に形成され外表面の円弧領域が露出するダイヤル式の操作部材(操作部5)が記載されているから、甲3発明に甲第1号証又は甲第2号証を適用してレバー形状の操作部材を、略円筒形状に形成され外表面の円弧領域(円弧形状)が露出するダイヤル式の操作部材に変えることは当業者が容易に想到し得ることである。 (イ)操作部材の大きさについて 本件発明が特定する操作部材の大きさが単なる設計事項であり当業者が容易に想到し得るものであることは、前記(2)ウ(イ)bで述べたとおりである。 (ウ)「側板の上部」について 仮に、甲3発明の操作部材が側板の後部周面上に配置され「側板の上部に」配置されるものでないとしても、側板の(後部の)上部に配置することは当業者が容易に想到し得ることである。 すなわち、モータ出力調整手段の配置位置は具体的なリールの大きさ等によって設計されるものであるところ、甲第3号証のモータ出力調整手段をリールの後部を把持した手の親指が届きやすい位置として、側板の(後部の)上部に配置することは設計事項にすぎない。たとえば、甲第3号証の図1及び図2等のモータ出力調整手段を少し前方にずらした位置すなわち(コントロールボックスの後方側で)側板(後部の)上部に配置することは設計事項にすぎない。 また、「VS700AC Hi?POWER」(甲24?26)は、(コントロールボックス(「制御ケース」)の後方側で)側板の後部の上部に配置されているアクセルレバー(「操作部材」)をリールの後部を把持した手の親指で操作できるものである。 そして、リールを把持した手の指による操作部材の操作性がカタログ(甲24)に特色としてうたわれており、本件発明及び甲3発明と課題及び作用効果を共通にしている。 したがって、出願前の公然実施品である「VS700AC Hi?POWER」又は甲第24号証のカタログを適用して、甲第3号証のモータ出力調整手段を側板の後部の上部に配置することは容易に想到し得ることである。 (審判請求書46頁5行?53頁7行を参照。) (5)無効理由5(公然実施発明を主引例とする進歩性欠如) ア 公然実施された発明 (ア)平成14年(2002年)に株式会社上州屋から魚釣用電動リール「Adventure電動 VS700AC Hi?POWER」が発売された。 このリールの構成について、カタログ(甲24)の14頁の写真及び取扱説明書(甲25)の「4-1 各部の名称」の頁には、リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、電動巻き上げの変速(すなわちモータの出力調整)を行うためのアクセルレバー(「操作部材」)と、が記載され、アクセルレバー(「操作部材」)に関して「電動巻き上げの変速を行います。」と記載されている。また、カタログの14頁の写真及び「4-1 各部の名称」の頁には、リール本体の上部にコントロールボックス(「制御ケース」)が設けられていること、及びコントロールボックスの上面には表示パネルが設けられていることが示されている。また、同写真及び「4-2 コントロールボックスの各部の名称」の頁には、表示パネルの周囲に、ON/OFFスイッチ、船べり/糸送りスイッチ、棚・底スイッチ、瞬動スイッチが配置されていることが示され、「4-2 コントロールボックスの各部の名称」の頁には、「ON/OFFスイッチ」の説明として、「モーターの移動、停止を行います。」等の記載があり、「6-4 電動巻き上げと変速」の頁には、「ON/OFFスイッチによるモーターの起動と停止 アクセルレバーでのスピード調整」、「ON/OFFスイッチを押してください。モーターを起動します。もう一度押すと停止します。」と記載されている。これらの記載から、リール本体にスプールを回転駆動する駆動モータが設けられていること、及び前記の各種スイッチによって駆動モータを制御する制御部がコントロールボックスに収容されていることが記載されていることは明らかである。そして、主にカタログ(甲24)の14頁の写真から明らかなように、アクセルレバーは、コントロールボックスの後方側で右の側板の(後部の)上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、レバー形状に形成され、親指を接触させて操作される外表面のレバー形状が操作部として側板の(後部の)上部の表面に露出している。また、アクセルレバーは、下方領域が側板の内側方に収容されている。 以上は、実製品(甲26)及び分解組立図(甲27)からもわかる。 (イ)以上のとおり、公然実施されたリールは、リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、駆動モータの出力を調整するアクセルレバーと、駆動モータを制御する制御部を収容したコントロールボックスとを有する魚釣用電動リールであり、レバー形状のアクセルレバーは、コントロールボックスの後方側で、右の側板の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、その外表面のレバー形状が操作部として側板の上部の表面に露出している。 ここで、本件発明と甲第24号証の公然実施発明とを対比すると、甲第24号証の公然実施発明の右の側板は本件発明の「側板」に相当し、スプールは「スプール」に相当し、モータは「駆動モータ」に相当し、アクセルレバーは「操作部材」に相当し、コントロールボックスは「制御ケース」に相当する。 そうすると、甲第24号証の公然実施発明は、本件発明の構成に合わせて整理すると、以下の構成を有している。(以下「公然実施発明」という。) 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、を有する魚釣用電動リールにおいて、前記操作部材は、制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、レバー形状に形成され、その外表面のレバー形状が操作部として前記側板の上部の表面に露出している、ことを特徴とする魚釣用電動リール。」 イ 本件発明と公然実施発明との対比 本件発明と公然実施発明とを対比すると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、を有する魚釣用電動リールにおいて、前記操作部材は、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、外表面が操作部として前記側板の上部に露出している、ことを特徴とする魚釣用電動リール。」 <相違点1> 本件発明では、操作部材が、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面が円弧領域であるのに対して、公然実施発明では、操作部材が、レバー形状であって、円筒形状の操作部材としては寸法が特定できず、その外表面が円弧領域ではない点。 <相違点2> 本件発明では、操作部材が側板の上部の表面から露出しているのに対して、公然実施発明では、操作部材が側板の上部の表面に露出している点。 ウ 相違点の検討 (ア)相違点1の検討 相違点1は、本件発明と甲3発明との対比における相違点1と同じである。したがって、本件発明と甲3発明との対比の場合と同様に、相違点1は容易に想到し得ることである。 (イ)相違点2の検討 相違点2は、本件発明の操作部材が略円筒形状に形成され外表面の円弧領域が周囲の表面から露出するダイヤル式の操作部材であるのに対して、公然実施発明が、(その一部が側板の内側方に配置された)レバー式のものである点であることに由来している。 しかし、魚釣用電動リールのモータ出力の調整を行う操作部材としてレバー式のものとダイヤル式のものは周知慣用な置換手段であるから(甲1、甲13、甲14、甲15)、レバー形状の操作部材をダイヤル式の操作部材に変え、略円筒形状に形成され外表面の円弧領域(円弧形状)が周囲の表面から露出するように構成することは、設計事項として又は周知技術を適用して、当業者が容易になし得ることにすぎない。 また、甲第1号証の図8には、略円筒形状に形成され外表面の円弧領域が操作部として周囲の表面から露出するダイヤル式の操作部材(モータ出力調整体40)が記載され、甲第2号証の図9には、略円筒形状に形成され外表面の円弧領域が操作部として周囲の表面から露出するダイヤル式の操作部材(操作部5)が記載されている。したがって、公然実施発明に甲第1号証又は甲第2号証を適用して、レバー形状の操作部材を、略円筒形状に形成され外表面の円弧領域(円弧形状)が側板の表面から露出するダイヤル式の操作部材に変えることは当業者が容易に想到し得ることである。 (審判請求書53頁8行?57頁8行を参照。) (6)本件訂正発明の進歩性欠如について ア 魚釣用電動リールにおいて片方の手でリール本体と釣竿を把持しその手の親指でモータ出力を調整する操作部材を操作する際の操作性(操作性・把持性)の向上という本件訂正発明の課題は、自明かつ周知なものであり、また、その解決のために操作部材の配置位置等を工夫した電動リールが多数公開され実施されてきた(甲1?甲6、甲9、甲10、甲24、甲30、甲31、甲35?38等)。 したがって、当業者にとって、釣竿とともにリール本体を片方の手で把持しその手の親指でモータ出力を調整する操作部材を操作する際の操作性(操作性・把持性)の向上という本件訂正発明の課題の解決のために、甲第1号証等に記載されている(片方の手でリール本体を把持しその手の親指でモータ出力を調整する操作部材を操作する際の操作性・把持性の向上という課題を解決するための)解決手段を(適宜組み合わせて)適用しようとする動機付けがあり、本件訂正発明は甲第1号証に、釣竿とともにリール本体を片方の手で把持しその手の親指でモータ出力を調整する操作部材を操作する周知技術(甲1?甲6、甲9、甲10、甲24、甲30、甲31、甲35?38等)、その一例としての公然実施された「Adventure電動VS300」、「シーボーグ250FB」、「シーボーグ150S」若しくは「LEOBRITZ150」の各リール及び公知文献であるそのカタログ(甲24、甲32、甲38、甲10)等、甲第6号証のいずれか又は複数を適用・参酌することで、容易に想到し得ることは明らかである。他の主引例についても同様である。 イ 本件訂正発明は、甲第1号証等に、手持ち状態で使用するリールにおいては片手でリール本体と釣竿をともに把持する技術常識・周知技術、手持ち状態で使用する電動リールについて(釣竿とともにリール本体を片手で把持して釣りをする)ベイトリールのようにするという要望(乙1の89頁・100頁、甲24等)、さらには(ベイトリールのように)釣竿とリール本体を片手で把持しその手の親指で操作部材を操作し片手で釣りができるという一般的な要望(甲24、甲56等)、電動リールを小型化すると手持ち状態の使用において把持性・操作性が高まるという技術常識及びかかる電動リールの周知技術(乙1、甲9、甲10、甲24、甲30、甲31、甲38、甲46等)のいずれか又は複数を適用・参酌することで、容易に想到し得るものである。他の主引例についても同様である。 (弁駁書69?73頁) (7)無効理由6(公然実施発明を主引例とする進歩性欠如) ア 甲第24号証の発明 2002年に販売されたリール「VS300」(甲24のカタログ、甲43の写真、甲59の技術説明書(5)、乙第7号証の取扱説明書)に開示された技術事項を、本件訂正発明の構成に合わせて整理すると、以下の発明が開示されている(以下「甲24発明」という。)。 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を調整する変速スイッチ及びON/OFFスイッチと、前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、を有する魚釣用電動リールにおいて、前記変速スイッチ及びON/OFFスイッチは、釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で、前記制御ケースの左右の側板側の表面に押圧可能に装着されるとともに、その外表面の円形領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて押圧操作可能に前記制御ケースの左右の側板側の上部の表面から露出していることを特徴とする魚釣用電動シール。」 イ 本件訂正発明と甲24発明との対比 <一致点> 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、前記シール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケ一スと、を有する魚釣用電動リールにおいて、前記操作部材は、釣竿とともにリール本体を把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で操作可能に装着されるとともに、その外表面が操作部として前記釣竿とともにリール本体を把持保持した状態の手の親指で押え付けて操作可能にリールの表面から露出している、ことを特徴とする魚釣用電動リール。」 <相違点1> 本件訂正発明では、操作部材が、少なくとも左右の側板のー方の上部にその側板の表面から露出した状態で設けられているのに対して、甲24発明では、制御ケースの左右の側板側の表面から露出した状態で設けられている点。 <相違点2> 本件訂正発明は、操作部材が、略円筒形状に構成され、前後方向に回転操作可能に装着されるとともに、その外表面の円弧領域が操作部として前後方向に回転操作可能に装着されているのに対して、甲24発明では、ボタン形状であって上下方向に押圧操作可能に装着されるとともに、その外表面の円形領域が操作部として押圧可能に装着されている点。 <相違点3> 本件訂正発明では、操作部材が、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mm(の略円筒形状)に形成され、円弧領域となる操作面の側板の表面に対する突出高さが0,5?12mmの範囲に設定されているのに対して、甲24発明では、(ボタン形状で)寸法(直径・軸方向長さ・突出高さ)が明記されていない点。 ウ 相違点の検討 (ア)相違点1の検討 制御ケースや側板の大きさや形は、設計上の自由度が高く、意匠的な要素を含め設計者が適宜変更することができるものであり(たとえば、「側板」であるカバーを大きくすることは適宜変更可能である)、操作部材が側板の表面から露出するようにするか制御ケースの表面から露出するようにするかは、設計者が適宜選択し得る事項にすぎない。そして、シールを把持した手の親指の届きやすい位置として、モータ出力等を調整する操作部材を制御ケースの後方側で側板の上部に配置することは周知のことである(甲2、甲1、甲3、甲4、甲12、甲24等)。 (イ)相違点2の検討 魚釣用電動リールにおいて、各種操作部材は置換可能なものであり、ボタン式のものをダイヤル式のものに置換することも周知のことで、甲第24号証のボタン式のものを略円筒形状に構成されたダイヤル式のものに変更することは容易に想到し得ることにすぎない。そして、略円筒形状に構成されたダイヤル式のものに変更する際に、一般的で合理的な操作方向である前後方向にすることは設計事項として又は周知技術(甲1(図8)、甲19、甲17(図9))を適用して当然に想到し得ることである。 また、略円筒形状に構成されたダイヤル式のものに変更した場合、操作部材の一部(外表面)の円弧領域を操作部として露出させることは、設計事項として又は(操作部材の一部(外表面)の円弧領域を操作部としてリールの上部の表面から露出させる)周知技術(甲1(図8)、甲2(図9等)、甲17(図9))を適用して当然になし得ることである。 (ウ)相違点3の検討 操作部材の各寸法については、先に主張したように設計事項として又は技術常識(甲28、甲60)を適用して容易に想到し得るものにすぎない。 (弁駁書98?103頁を参照。) (8)無効理由7(明確性要件違反) 操作部材の配設位置を「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」と特定したとしても、リール本体の大きさや形状を構成として特定するものではなく、また、人によって手の大きさは異なるから、同じリールであっても釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置は異なるので、本件訂正発明の「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」は不明確である。 (弁駁書3、103頁を参照。) 第5 被請求人の主張 1 主張の概要 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張する無効理由には理由がないことを主張し、請求人の主張に対して後記2のとおり反論している(平成28年1月12日付け答弁書(以下「答弁書」という。)、同年4月15日付け口頭審理陳述要領書、同年5月13日付け上申書、同年6月7日付け上申書を参照。)。また、証拠方法として乙第1号証ないし乙第16号証(乙第10号証は欠番)を提出している。 また、被請求人は、本件訂正発明は、無効理由1ないし7によって無効とされるべきものではないと主張している(平成28年12月6日付け上申書、平成29年2月22日付け答弁書(2)(以下「答弁書(2)」という。)を参照。)。 (証拠方法) 提出された証拠は、以下のとおりである。 乙第1号証:最新電動リール完全攻略(2002年11月25日、株式会社桃園書房発行)の抜粋 乙第2号証:釣り用語集(かみやフィッシングクラブ、2015年12月22日のインターネット画像) 乙第3号証:沖釣りがわかる本(2004年4月10日発行、株式会社地球丸)の抜粋 乙第4号証:必釣!初めての船釣り(2005年4月2日発行、株式会社学習研究社)の抜粋 乙第5号証:釣り情報2011年9月1日号(辰巳出版株式会社)の抜粋 乙第6号証:特開2014-217278号公報 乙第7号証:請求人が提出した甲第31号証の電動リール(VS300AC)の取扱説明書 乙第8号証:特開平7-222544号公報 乙第9号証:報告書 乙第11号証の1:特開2001-275532号公報 乙第11号証の2:特開2006-42607号公報 乙第11号証の3:特開2002-171879号公報 乙第12号証:特開2006-333777号公報 乙第13号証の1:平成23年版 株式会社シマノカタログ抜粋 乙第13号証の2:平成23年版 グローブライド株式会社カタログ抜粋 乙第13号証の3:平成22年版 株式会社エイテックカタログ抜粋 乙第14号証:つり丸2000年7月1日号抜粋 乙第15号証の1及び2:独立行政法人産業技術総合研究所によるAlST日本人の手の寸法データ、「統計量」及び「寸法項目一覧」 乙第16号証:報告書 2 無効理由に対する具体的な反論 (1)無効理由1(サポート要件及び明確性要件違反)に対して 操作部材が側板の上部の表面から露出する程度は無限定ではなく、本件明細書段落【0024】に記載のとおり、操作性の観点から一定の限界がある。また、本件発明の操作部材は略円筒形状であり、かつ回転可能に、側板の上部の表面から露出する構成を特定しているため、本件発明の操作部材の「直径が10?24mm」との構成であれば、側板の表面から露出する高さは、通常直径の半分の12mm以下となることが理解できる。その範囲において、操作部材の「直径が10mm未満のものを用いると、親指との接触面積が小さくなり過ぎて、滑りが生じる等、操作性が悪くな」り、また、「24mmを超えてしまうと、周辺部(本体)の把持領域が少なくなり、把持安定度が低下する」のであって(段落【0025】)、本件発明で特定されている直径10?24mmという具体的な数値範囲によって本件明細書段落【0025】に記載されている作用効果を奏することは十分に理解できる。 したがって、本件発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できることは明らかであり、また、発明を特定するための事項に技術的な不備がないことも明らかであり、サポート要件及び明確性の要件を充足する。 (答弁書3頁11行?4頁12行を参照。) (2)進歩性に関する無効理由について 本件発明は、釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに、その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき、更には、操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供することを目的として、操作部材を、 ア その装着位置を制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に装着すること、 イ 左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で装着すること、 ウ 前後方向に回転可能に装着すること、 エ 操作部材を直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成すること の全ての構成によって課題を解決している。 請求人は、進歩性に関する無効理由において、これらの構成を細かく分けて相違点を認定し容易想到性が肯定される旨主張しているが、上記のとおり本件発明は全ての構成によって課題を解決しているのであるから、このような発明の解決課題にかかる技術的観点を考慮することなく、相違点を細かく分けて認定することは不適切である(知財高裁平成22年10月28日判決(平成22年(行ケ)第10064号)参照)。 (答弁書4頁14行?5頁3行を参照。) (3)無効理由2(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如)に対して ア 本件発明と甲1発明との対比 本件発明と甲1発明とは、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明の操作部材は、制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前後方向に回転可能に装着されているのに対して、甲1発明は、【図6】(b)のモータ出力調節体40が制御ケースの左側方側(制御ケースの前後方向の中央から少し後方側に偏倚した前後方向の所定領域)に配置されるとともに、左側板の表面から露出した状態でモータ出力調節体40の操作部40aを略円弧方向Tにスライド操作することによってモータ出力を増減調節するよう装着されている点。 <相違点2> 本件発明の操作部材は直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成されているのに対して、甲1発明のモータ出力調節体40の操作部40aは、突起状の摘まみであり、また、その寸法が不明な点。 イ 相違点に係る構成を容易に想到することができないこと (ア)相違点1について 請求人は、甲第1号証の操作部材は、実質的に、「制御ケースの後方側」に配置されている」と主張するが、甲1の図5から明らかなとおり、モータ出力調節体40が制御ケースの左側方側に配置されていることは明らかである。 そして、相違点1に係る構成、すなわち、操作部材は、制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前後方向に回転可能に装着されているとの構成は、請求人の提出するいずれの公知文献にも開示されておらず、相違点1に係る構成について甲1発明に組み合わせる技術がない。 また、「釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに、その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき、更には、操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供する」との課題は、請求人の提出するいずれの公知文献にも開示も示唆もされていない。甲1発明は、釣り人がリール本体4を握持した状態で且つ指や手の無理のない姿勢でモータ出力調節体40を変位操作することを目的としたものである。特に、甲第1号証には、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明においていずれもリール本体を握持保持することが記載されており(請求項3、段落【0024】、【0030】、【0032】)、段落【0024】には、「釣竿又はリール本体4を保持する手を持ち換えるだけで手動魚釣操作と電動魚釣操作のいずれか一方の操作形態に切り換えることができ」ると記載されて、一方の手がリール本体、他方の手が釣竿を保持することが明記されており、片手のみで釣竿とリール本体を把持することは記載も示唆もない。したがって、甲1発明のモータ出力調整体40に替えて、片手で釣竿とリール本体を把持した状態を前提としてその操作部材の装着位置を設計する動機づけはない。したがって、甲1発明のモータ出力調節体40の配置・装着態様に代えて、相違点1係る構成を採用する動機づけはない。 請求人は、操作部材を回転可能に装着すること、及び、制御ケースの後方側に配置することは、設計事項ないし周知技術であると主張するが、相違点1に係る構成の全てを開示した文献は存在しないこと、さらに組み合わせる動機づけのないことは上記のとおりである。 甲2、甲1、甲3、甲4、甲12の各文献は、「釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに、その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき、更には、操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供する」ことについてはもちろんのこと、操作部材を側板の上部の表面から露出した状態で制御ケースの後方側に前後方向に回転可能に配置することについて、記載も示唆もない。したがって、甲第1号証の図3及び図4、並びに図8におけるモータ出力調節体40を適用しても、相違点1に係る構成を容易に想到することはできない。 以上のとおり、相違点1に係る構成は、いずれの文献にも記載されておらず、また、甲1発明に当該構成を採用する動機づけもないのであるから、当業者は相違点1に係る構成を容易に想到することができないことは明らかである。 (イ)相違点2について 「釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに、その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき、更には、操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供する」との課題、作用効果は、甲第1号証のみならず、いずれの文献にも開示も示唆もされておらず、新規な課題、作用効果である。したがって、当該課題の解決のために、操作部材の形状を定めることは設計事項とはいえないことは明らかであり、また、甲1発明に接した当業者が、当該課題の解決のために、操作部材の形状や寸法を定めることの動機づけがないことも明らかである。 また、操作部材においてレバー式及びスライド式とダイヤル式は相互に置換可能であるとの請求人の主張の根拠として引用されている各文献は、いずれも具体的な配置位置・態様を前提としたものか、若しくは、抽象的に置換できると述べるものの、置換後の配置位置や態様が明らかではないものであり、そのため、少なくとも、電動リールにおいてレバー式やスライド式の操作部材を、配置位置や配置態様を無視してダイヤル式に置換してよいという技術常識ないし技術は開示されていないのであって、操作部材において配置位置や配置態様をそのままにレバー式及びスライド式とダイヤル式は相互に置換可能であるということはない。 請求人は、甲1発明に甲1の図8のモータ出力調整体40や甲2の図9の操作部5を適用して相違点に係る構成を容易に想到できる旨主張するが、配置位置や配置態様と関係なく甲1の図8のモータ出力調整体40や甲2の図9の操作部5を、甲1発明のモータ出力調節体40の操作部40aと置換する動機はない。また、甲1の図8のモータ出力調整体40や甲2の図9の操作部5は、操作部材を側板の上部の表面から露出した状態で制御ケースの後方側に前後方向に回転可能に配置するものでもないため、これらの部材を甲1発明に適用したとしても、本件発明を想到することにはならない。 次に、モータ出力を調整する操作部材の寸法は、いずれの文献にも開示されていない。この点、請求人は、携帯ラジオやカメラなど別の技術分野のダイヤルの寸法を根拠に、相違点2に係る構成が日常的に扱う機器の通常の範囲に過ぎないと主張するが、これらは全く異なる技術分野のダイヤルの寸法であり、かつ、その目的も異なる。したがって、これらのダイヤルの寸法が同じような数値範囲にあったとしても、これをもって、当業者が、魚釣用電動リールにおいて同様の寸法の範囲の操作部材とすることを容易に想到することはあり得ない。 以上のとおり、相違点2に係る構成は設計事項とはいえず、当業者が当該構成を容易に想到することができないことは明らかである。 (答弁書37頁下から7行?44頁7行を参照。) (4)無効理由3(甲第2号証を主引例とする進歩性欠如)に対して ア 本件発明と甲2発明との対比 本件発明と甲2発明とは、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明の操作部材は、制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前後方向に回転可能に装着されているのに対して、甲2発明の操作部5は、制御ケース13の上部後方側に露出した状態で傾斜方向に回転可能に装着されている点。 <相違点2> 本件発明の操作部材は直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成されているのに対して、甲2発明の操作部5は、その寸法が明記されていない点。 イ 相違点に係る構成を容易に想到することができないこと (ア)相違点1について 相違点1に係る構成について甲2発明に組み合わせる技術がないこと、また、甲2発明の操作部5の配置・装着態様に代えて、相違点1に係る構成を採用する動機づけはないことは、前記(3)イ(ア)で述べたことと同様である。特に、甲第2号証には、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明においていずれもリール本体を握持保持することが記載されており(請求項1、段落【0003】、【0004】、【0005】、【0006】、【0008】、【0011】、【0015】、【0016】、【0020】、【0022】、【0026】)、図面においても、リール本体のみを保持した状態が示されおり(【図1】、【図3】、【図11】、【図12】)、他方で片手のみで釣竿とリール本体を把持することは記載も示唆もない。したがって、甲2発明の操作部5に替えて、片手で釣竿とリール本体を把持した状態を前提としてその操作部材の装着位置等を設計する動機づけはないのである。 また、甲2発明は、甲1発明のように、モ-タ出力調節体を側板の上方部や側板間に配設した部材の後ろ側に設けたものは、モータ出力調整操作が行い難く、リール本体の十分な保持を図りながら釣場の状況に応じたモータによる自動巻き取り操作を容易かつ確実に行えない、という課題を解消するように着想されたものであり、そのため、操作部5を、側板の上部ではなく、スプール11上方の側板間の上面より突出させる(制御ケース13の上面に透孔を形成してそこから突出させる)という構成を必須要件としたものである。したがって、甲2発明に接した当業者は、甲2発明の操作部5の配置・装着態様に代えて、側板の上部に調整部材を装着することを内容とする相違点1(甲2発明)にかかる構成を採用するにあたり阻害要因がある。 さらに、甲第2号証の段落【0020】には、「第2実施例では、モ-タ出力調節体Bは回動式バリアブルレジスタ16と回動ツマミからなる操作部5で構成されて操作部5の上部は制御ケ-ス13の透孔から外部に突出されると共に透孔と操作部5は前記第1実施例に対して親指の回動移動操作の軌跡に略沿って傾斜して配置され、操作部5の位置はリ-ル本体Aのスプ-ル11上方で側板2、3間上面より突出する状態でかつリ-ル本体Aを握持保持した状態の手の親指で移動操作可能な位置に回動変位可能に設けている。」と記載されているところ、甲第2号証の図9のように、左手の人差し指をリール前方に向けた態様でリール本体を保持すると、その親指の自然な移動操作は左右方向ないし傾斜方向であって、前後方向ではない。そのため、甲2発明を主引例とした場合に、操作部5を前後方向に操作可能とすることを想到することはできない。 以上のとおり、相違点1に係る構成は、いずれの文献にも記載されておらず、また、甲2発明に当該構成を採用する動機づけもなく、むしろ阻害要因があるのであること等から、当業者は、相違点1に係る構成を容易に想到することができないことは明らかである。 (イ)相違点2について 操作部材の大きさについて容易に想到できないことは、前記(3)イ(イ)に記載した理由と同様である。 (答弁書44頁8行?47頁末行を参照。) (5)無効理由4(甲第3号証を主引例とする進歩性欠如)に対して ア 本件発明と甲3発明との対比 本件発明と甲3発明とは、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明の操作部材は、制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前後方向に回転可能に装着されているのに対して、甲3発明の出力調整レバー39は、側板3及び枠板1bの外面上に前後方向に回転可能に設けられ、且つ側板3の後部周面上に配置されている点。 <相違点2> 本件発明の操作部材は直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面が円弧領域であるのに対して、甲3発明の出力調整レバー39は、平板状の摘み部39aと補強部39bにより構成されており、また、その寸法が明記さていない点。 イ 相違点に係る構成を容易に想到することができないこと (ア)相違点1について 相違点1に係る構成について甲3発明に組み合わせる技術がないこと、また、甲3発明の出力調整レバー39の配置・装着態様に代えて、相違点1に係る構成を採用する動機づけはないことは、前記(3)イ(ア)で述べたことと同様である。特に、甲第3号証には、発明の詳細な説明において釣竿を握持保持することが記載されおり(段落【0003】、【0004】、【0039】、【0040】、【0041】)、また、発明の実施品である「アドベンチャー電動VS700AT」でも、そのカタログ(甲5)には、釣竿のみを把持することが示されており、他方で、片手のみで釣竿とリール本体を把持することは記載も示唆もない。したがって、甲3発明の出力調整レバー39に替えて、片手で釣竿とリール本体を把持した状態を前提としてその操作部材の装着位置等を設計する動機づけはないのである。 (イ)相違点2について 操作部材の形態及び大きさについて容易に想到できないことは、前記(3)イ(イ)に記載した理由と同様である。 (答弁書48頁1行?51頁下から10行を参照。) (6)無効理由5(公然実施発明を主引例とする進歩性欠如)に対して ア 本件発明と公然実施発明との対比 本件発明と公然実施発明(VS700AC)とは、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明の操作部材は、制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から、その外表面の円弧領域が露出した状態で前後方向に回転可能に装着されているのに対して、公然実施発明のパワーレバーは、制御ケースの後方側で、前後方向に回転可能に装着されているが、レバー形状であり、かつ、側板上部の周面上に湾曲面を設けると共に、この湾曲面の周面上に装着したものである点。 <相違点2> 本件発明の操作部材は直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面が円弧領域であるのに対して、公然実施発明のパワーレバーは、レバー形状であって、パワーレバーの回転の中心点からレバーの端部までがレバーの横方向が23mm(直径に換算する46mm)、軸方向の長さが35mmであり、その外表面が円弧領域ではない点。 イ 相違点に係る構成を容易に想到することができないこと (ア)相違点1について 相違点1に係る構成について公然実施発明(VS700AC)に組み合わせる技術がないこと、また、公然実施発明のパワーレバーの形状・装着態様に代えて、相違点1係る構成を採用する動機づけはない。 相違点1に係る構成、すなわち、操作部材は、制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から、その外表面の円弧領域が露出した状態で前後方向に回転可能に装着されているとの構成は、いずれの文献にも開示されていないことは、前記(3)イ(ア)に記載のとおりであり、相違点1に係る構成について公然実施発明に組み合わせる技術がない。 また、「釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに、その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき、更には、操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供する」との課題は、VS700ACに関する書面(甲24?甲27)はもちろんのこと、いずれの文献にも開示も示唆もされていない。特に、甲24には、VS700ACのアクセルレバーは、「操作性を重視したレバー位置と形状でパーミング状態での巻上げ・やりとりもOK!」と記載されているが、実際にどのような把持状態で操作をするのか明らかではない。実際に、甲3発明の実施品である「アドベンチャー電動VS700AT」と同様の把持態様で把持した上でVS700ACのパワーレバーを操作することは困難であるし、また、釣竿とリール本体を把持した手の指はもちろんのこと、リール本体を把持した手の指でパワーレバーを操作することも困難である(乙9)。したがって、VS700ACのパワーレバーの配置・装着態様に代えて、相違点1に係る構成を採用する動機づけはない。 (イ)相違点2について 操作部材の形態及び大きさについて容易に想到できないことは、前記(3)イ(イ)に記載した理由と同様である。 (答弁書51頁下から9行?54頁14行を参照。) (7)本件訂正発明の進歩性欠如との理由に対して ア 主引例をはじめ、リール本体を把持した手の指で操作部材を操作する電動リールは、比較的大きな電動リールであるが故にそのような構成を採用したものであって、釣竿とリール本体とを片手で把持する電動リールにおいて、本件訂正発明の構成を採用する動機付けはない。 また、釣竿とリール本体とを片手で把持する電動リールについても、限定的な課題を解決するためにボタン式の部材が採用されているにすぎず、釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに、モータ出力を多段階に調整して所望の巻き取り状態を得るという構成を採用したものではないし、そのような構成を採用する動機づけもない。 その他の電動リールに関する特許文献やパンフレットを見ても、甲1発明等の主引例の構成を、釣竿とリール本体とを片手で把持する電動リールに採用する動機はなく、したがって、本件訂正発明を容易に想到するものではない。 (答弁書(2)32頁を参照。) イ 甲1発明等を仮に小型化して、釣竿とリール本体を片手で把持できるとすれば、ベイトリールや小型の電動リールと同様にリール本体を把持した手ではない手の指で糸巻操作をすればよいのであって、釣竿とリール本体を把持した手の指で操作部材を操作する必要性がない。したがって、そもそも甲1発明等と同様の構成を、ベイトリールのように片手でリール本体と釣竿をともに把持する電動リールにおいて採用することの動機はない。 (答弁書(2)35頁を参照。) (8)無効理由6(公然実施発明を主引例とする進歩性欠如)に対して 甲24発明は、小型化のために機能をそぎ落とす目的で、モータ出力の調節のための操作部材を、制御ケースの上面に2つのボタンを備えるシンプルな構成としたものであるから、このボタン式の操作部材に代えて、円筒形状に構成し、当該親指で押え付けて前後方向に転がし(回転)操作が可能となるように少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で制御ケースに配設されるとともに、制御ケースに支持された支軸に前後方向に回転可能に装着する操作部材に代える動機付けもなければ、ましてやこのような複雑な操作部材を採用することに阻害要因がある。 (答弁書(2)39頁を参照。) (9)無効理由7(明確性要件違反)に対して リールを備えた釣竿を使用する対象者の手の大きさは一定の範囲に収まるものであり(乙15の1及び2を参照)、そのような手の大きさの範囲で、釣竿とリール本体を片手で把持保持できる大きさ、形状の電動リールは当業者であれば想定でき、そして、その状態で側板の上部であって、その手の親指が届く位置も自ずと設定することができる。 したがって、本件訂正発明の「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」は、明確である。 (答弁書(2)4頁を参照。) 第6 証拠について 1 甲第1号証について (1)甲第1号証に記載された事項 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は審決で付加した。以下同様。)。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、手動魚釣操作と電動魚釣操作の切換を容易に且つ誤操作すること無く確実に行うことができると共に、リール本体の重量バランスの偏寄を緩和させた魚釣操作性に優れた魚釣用電動リールに関する。」 イ 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】 ところで、従来の魚釣用電動リールでは、上述したモータ出力調節体(電動魚釣操作部)と、スプールに釣糸を巻回するための手動巻取用ハンドル(手動魚釣操作部)とが、小型化及び小スペース化されたリール本体の同一側部に配設されている。この場合、これら両操作部の配置位置が相互に近接してしまうため、リール本体の一側部の構成配置が煩雑化し、その結果、手動魚釣操作と電動魚釣操作の切換を誤操作し易くなってしまう。 【0004】 また、上記の両操作部をリール本体の同一側部に配設したことによって、リール本体の重量バランスが一側部に偏寄して、リール本体の安定性が低下し、その結果、魚釣操作性が低下してしまう。 【0005】 本発明は、このような問題を解決するために成されており、その目的は、手動魚釣操作と電動魚釣操作の切換を容易に且つ誤操作すること無く確実に行うことができると共に、リール本体の重量バランスの偏寄を緩和させた魚釣操作性に優れた魚釣用電動リールを提供することにある。」 ウ 「【0006】 【課題を解決するための手段】 このような目的を達成するために、本発明の魚釣用電動リールは、リール本体に回転可能に支持されたスプールと、このスプールを駆動するためのスプール駆動モータと、このスプール駆動モータのモータ出力を増減変更するための変速装置と、前記リール本体の一側部に設けられ、スプールを回転させることによって手動魚釣操作を行うことが可能な手動巻取用ハンドルとを備えており、前記リール本体の手動巻取用ハンドルが装着される一側部を除くリール本体には、モータ出力を増減調節することによって電動魚釣操作を行うことが可能なモータ出力調節体を変位可能に設けたことを特徴とする。」 エ 「【発明の実施の形態】 【0008】 図1及び図2に示すように、リール本体4の一側部(図中右側)には、手動巻取用ハンドル2が取り付けられており、このリール本体4の左右フレーム(図示しない)の間には、スプール軸6が軸受によって回転可能に支持されていると共に、このスプール軸6を囲繞するようにスプール8が配置されている。」 「【0013】 また、左右フレームの間には、釣糸巻取時にスプール8を回転駆動させるスプール駆動モータ24(以下、モータと言う)が保持されており、このモータ24には、左フレーム方向(反ハンドル側)に延出した左側駆動軸26、及び、右フレーム方向(ハンドル側)に延出した右側駆動軸28が設けられている。」 「【0021】 このような魚釣用電動リールには、モータ出力(モータ24の回転運動)を増減調節することによって電動魚釣操作を行うことが可能なモータ出力調節体40が設けられている。本実施の形態では、モータ出力調節体40は、リール本体4の反ハンドル側(上記一側部に対向した反ハンドル側)に設けられている。具体的には、モータ出力調節体40は、リール本体4の反ハンドル側で且つ前方側(釣糸繰出方向側)の上部(更に具体的には、スプール8の回転軸芯6’よりも上方側)に前後方向に向けて回動可能に取り付けられている。なお、本実施の形態では、その一例として、リール本体4の右側にハンドル2を配置し且つ左側にレバー形態のモータ出力調節体40を配置したが、逆に、リール本体4の左側にハンドル2を配置し且つ右側にモータ出力調節体40を配置しても良いことは言うまでも無い。」 「【0024】 以上の実施の形態では、ハンドル2とモータ出力調節体40がリール本体4の左右の両側部に振り分け配置されているため、釣竿又はリール本体4を保持する手を持ち換えるだけで手動魚釣操作と電動魚釣操作のいずれか一方の操作形態に切り換えることができ、手動魚釣操作と電動魚釣操作の切換を容易に且つ誤操作すること無く確実に行えるようになる。」 「【0026】 また、モータ出力調節体40をスプール8の回転軸芯よりも上方側に配置したことによって、釣り人がリール本体4を握持した状態で且つ指や手の無理のない姿勢でモータ出力調節体40を変位操作することができる。この結果、釣り場の状況に応じたモータ出力の幅広い増減調節が可能となる。 【0027】 なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されることは無く、以下のように構成することが可能である。 【0028】 第1の変形例として、例えば図3及び図4に示すように、モータ出力調節体40を、リール本体4の反ハンドル側で且つ後方側(釣糸巻取方向側)の上部(具体的には、スプール8の回転軸芯6’よりも上方側)に回転可能に取り付けても同様の作用効果を得ることができる。 【0029】 また、上述した実施の形態及び第1の変形例では、回転操作式のモータ出力調節体40を例にとって説明したが、第2の変形例として、例えば図5に示すように、モータ出力調節体40をリール本体の反ハンドル側において、スライド操作式に構成しても良い。この場合、スライド操作方法としては、例えば図6(a)に示すように、操作部40aを直線方向Sにスライド操作することによってモータ出力を増減調節する形態や、例えば図6(b)に示すように、操作部40aを略円弧方向Tにスライド操作することによってモータ出力を増減調節する形態を適用することが可能である。」 「【0031】 また、表示ケース50には、糸長や棚位置等を表示する表示部51に加え、モータ出力を、その出力値に応じて発光素子等によりアナログ的に視認できるアナログ表示部52(最大出力の40%であれば、発光素子を4個点灯)及び/又はデジタル表示部53(最大出力の40%であれば、液晶表示部に40を表示)を設けておくことが好ましい。このような表示部を設けることで、現在のモータの出力状態を直ちに認識することができ、魚釣操作性がさらに向上する。 【0032】 図8は、本発明の第3の実施形態を示す図である。 この実施の形態では、スプール8の後方の側板間に配設されているサムレスト55に、前後方向に回転操作可能なモータ出力調節体40を設けている。この場合、モータ出力調節体40はリール本体を保持した手の指の操作によって容易に回転可能であり、その出力はモータ出力調節体40の回転両(審決注:「両」は「量」の誤記である。)に関係無く、アナログ表示部52やデジタル表示部53によって容易に認識可能となっている。 【0033】 このような実施の形態においても、上記した実施の形態と同様な作用効果を得ることができる。尚、図中Pは、リール本体4の側板内に設けられたモータ出力調節体40の回転量によって変化する抵抗値を、図示しないリール本体4内の制御装置へ入力するポテンショメータである。」 「【0035】 以上のように、本発明においては、モータ出力調節体40を、リール本体4の手動巻取用ハンドル2が設けられる側板以外の様々な部分に配設することが可能である。」 オ 図面について (ア)図3及び図4には、モータ出力調節体40が、リール本体4の後方側で、一方の側方部に前後方向に回転可能に装着された態様が図示されている。 (イ)図5には、モータ出力調節体40の操作部40aが、リール本体4の一方の側方上部に、その表面から露出した状態で、前後方向に移動可能に設けられた態様が図示されている。 (ウ)図6(b)には、図5の一態様(一変形)として、操作部40aが、前後方向に略円弧状に移動可能に設けられた態様が図示されている。 (エ)図8には、モータ出力調節体40の操作部が、略円筒形状で、リール本体4の後方側の中央部に、露出した状態で、前後方向に回転可能に設けられた態様が図示されている。 (オ)段落【0008】の「リール本体4の左右フレーム(図示しない)の間には、スプール軸6が軸受によって回転可能に支持されていると共に、このスプール軸6を囲繞するようにスプール8が配置されている」との記載事項、段落【0032】の「スプール8の後方の側板間に配設されている」との記載事項、及び、段落【0033】の「リール本体4の側板」との記載事項を踏まえると、図3、図5、及び、図8には、スプール8がリール本体4の左右側板間に設けられていることが図示されているといえる。なお、リール本体が左右の側板から構成されることは、甲第2号証(段落【0010】など参照。)に開示されているように自明である。 (2)甲第1号証に記載の発明の認定 甲第1号証の「制御装置」は、上記(1)エで摘記した段落【0021】、【0033】の記載事項から、スプール駆動モータ24を制御するものであると解される。加えて、同段落【0031】の記載事項、及び、制御装置がその性質上からケース内に納められるものであることを踏まえると、「制御装置」は「表示ケース50」に収容されていると解される。 よって、甲第1号証には、上記(1)で摘記した事項及び図示内容、特に図5及び図6(b)の態様からみて、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「リール本体4の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプール8と、前記リール本体4に設けられ、スプール8を回転駆動するスプール駆動モータ24と、前記スプール駆動モータ24の出力を調節するモータ出力調節体40と、前記スプール駆動モータ24を制御する制御装置を収容した表示ケース50と、を有する魚釣用電動リールにおいて、前記モータ出力調節体40の操作部40aが、リール本体4の一方の側方上部に、その表面から露出した状態で、前後方向に略円弧状に移動可能に設けられている、魚釣用電動リール。」 2 甲第2号証について (1)甲第2号証に記載された事項 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第2号証には、次の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、リ-ル本体に回転自在に支持されたスプ-ルを巻き取り駆動するモ-タを備えた魚釣用電動リ-ルの改良に関する。」 イ 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】 解決しようとする問題点は、出力調節部材がハンドル側にあって手動操作と電動操作の切換えが誤操作し易くなったり、重量偏倚し、リ-ル本体の安定性も劣ってしまったり、モ-タ出力調節体を設けた位置がリ-ル本体を握持保持した状態での手の親指の自然な移動操作で操作し難い位置にあってリ-ル本体の十分な保持を図りながら釣場の状況に応じたモ-タによる自動巻き取り操作を容易かつ確実に行えないことである。 【0005】 本発明の目的は前記欠点に鑑み、リ-ルを保持した状態を維持しながら手の親指の自然な移動操作でモ-タ出力を調節操作し易い魚釣用電動リ-ルを提供することである。」 ウ 「【0006】 【課題を解決するための手段】 上記課題を解決するために、請求項1に係わる本発明は、リ-ル本体に回転可能に支持されたスプ-ルと、該スプ-ルを駆動するためのスプ-ル駆動モ-タと、該スプ-ル駆動モ-タのモ-タ出力を増減調節するモ-タ出力調節体を、前記リ-ル本体に手動操作可能に設けられた魚釣用電動リ-ルにおいて、前記モ-タ出力調節体の操作部を前記リ-ル本体のスプ-ル上方の側板間上面より突出する状態でかつリ-ル本体を握持保持した状態の手の親指で移動操作可能な位置に変位可能に設けたことを要旨とするものである。」 エ 「【発明の実施の形態】【実施例】 【0010】 魚釣用電動リ-ルのリ-ル本体Aは枠体1とリ-ル側板2、3で構成されている。枠体1は左右両側枠1a、1bと図示しない支柱とリ-ル脚10の固定板1cと指載せ板1dが一体に、かつ左右両側枠1a、1bが平行に保持されて左右両側枠1a、1bの外側には夫々リ-ル側板2、3が取り付けられている。リ-ル側板2、3の夫々内側の両側枠1a、1b間にはスプ-ル11がスプ-ル軸12に固定されて回転可能に支持されている。両側枠1a、1b間の前方上側に制御ケ-ス13が載せられて固定され、制御ケ-ス13に表示部14と複数の押し釦15とモ-タ出力調節体Bが設けられている。 【0011】 モ-タ出力調節体Bは回動式バリアブルレジスタ(可変抵抗器)16と回動ツマミからなる操作部5で構成されて操作部5の上部は制御ケ-ス13の透孔から外部に突出され、操作部5の位置はリ-ル本体Aのスプ-ル11上方で側板2、3間上面より突出する状態でかつリ-ル本体Aを握持保持した状態の手の親指で移動操作可能な位置に回動変位可能に設けている。操作部5には変位量が目視できる指標部5aが形成されている。バリアブルレジスタ16は電源に対して直列抵抗器式に接続されたり、分圧抵抗器式に接続されている。制御ケ-ス13の下方に穿設された透孔1e、1fにモ-タ収容ケ-ス17が嵌合されて取り付けられている。モ-タ収容ケ-ス17内にはスプ-ル駆動モ-タ18と減速機構を内蔵したボックス19が収容されて蓋体20で閉塞され、スプ-ル駆動モ-タ18は蓋体20で保持されている。 【0012】 スプ-ル駆動モ-タ18の給電コ-ド21、22は蓋体20から引き出され、給電コ-ド21はモ-タ出力調節体Bの回動式バリアブルレジスタ16に接続され、給電コ-ド22と回動式バリアブルレジスタ16に接続された給電コ-ド23は制御回路を通した後、リ-ル側板2の下側後部に突出部2aが形成されて背面に設けられた給電接続部24の内部端子に接続されている。モ-タ収容ケ-ス17内のスプ-ル駆動モ-タ18の回転軸25にボックス19内の減速機構が連結され、減速機構の出力軸26はモ-タ収容ケ-ス17から突出されて歯車27が固定されている。枠体1の左側枠1aから突出したスプ-ル軸12には歯車28が回り止め嵌合されて抜け止めされている。歯車28は中間歯車29を介して歯車27に噛合されている。スプ-ル11はスプ-ル駆動モ-タ18とリ-ル側板3の外側に設けたハンドル30で回転される。 【0013】 歯車27にはスプ-ル11の回転数や糸長計測用のマグネット31が固定されている。リ-ル本体Aのリ-ル側板2の内側の左側枠1aの外側には保持部32が突出固定されてマグネット31と対向する位置にホ-ル素子、リ-ドスイッチ等の磁気センサ-33、34が固定されている。図6の制御回路のブロック図で、磁気センサ-33に糸長演算回路35と巻取/繰出し判別回路36に接続されている。磁気センサ-34は巻取/繰出し判別回路36に接続されている。糸長演算回路35と巻取/繰出し判別回路36はCPUからなる制御回路37に接続され、制御回路37には表示部14と記憶手段38と比較手段39と前記複数の押し釦15のスイッチが接続されている。記憶手段38と比較手段39が接続されている。 【0014】 糸長演算回路35はマグネット31が固定された歯車27の一回転を磁気センサ-33で検出して糸長に変換する回路である。巻取/繰出し判別回路36は磁気センサ-33、34のどちらが先にマグネット31を検出したかを判別する回路で、スプ-ル11が釣糸40の繰出しで回転されると、磁気センサ-34が先にマグネット31を検出するので釣糸繰出し信号を出力し、磁気センサ-33が先にマグネット31を検出する時は釣糸巻取信号を出力するように構成されている。表示部14にはスプ-ル11の回転数やスプ-ル11に巻回される釣糸40の繰り出しや巻き取りによる糸長のほか糸張力等を表示するようにしてもよい。 【0015】 魚釣用電動リ-ルの動作は、スプ-ル11に釣糸40が巻回されるためにスプ-ル駆動モ-タ18が回転されると、ボックス19内の減速機構を介してスプ-ル軸12とスプ-ル11が回転される。制御ケ-ス13の透孔から外部に突出されたモ-タ出力調節体Bの操作部5が、リ-ル本体Aのスプ-ル11上方で側板2、3間上面より突出する状態でかつリ-ル本体Aを握持保持した状態の手の親指で回動変位操作されると、回動式バリアブルレジスタ16の抵抗値が調節されてスプ-ル駆動モ-タ18の回転数が変速される。」 オ 「【0019】 図9は第2実施例で、図9は魚釣用電動リ-ルの平面図である。 【0020】 第2実施例では、モ-タ出力調節体Bは回動式バリアブルレジスタ16と回動ツマミからなる操作部5で構成されて操作部5の上部は制御ケ-ス13の透孔から外部に突出されると共に透孔と操作部5は前記第1実施例に対して親指の回動移動操作の軌跡に略沿って傾斜して配置され、操作部5の位置はリ-ル本体Aのスプ-ル11上方で側板2、3間上面より突出する状態でかつリ-ル本体Aを握持保持した状態の手の親指で移動操作可能な位置に回動変位可能に設けている。他の構成は前記第1実施例と略同一である。」 カ 図面について (ア)図7には、操作部5が回動式バリアブルレジスタ16の回転軸に装着されている構成が図示されている。また、図7から操作部5は略円筒形状であることが見て取れる。 (イ)図9には、操作部5が、制御ケース13の後方側で、その表面から露出した状態で配設されているとともに、斜め方向に回動変位可能である構成が図示されている。 (2)甲第2号証に記載の発明の認定 甲第2号証の「制御ケース13」には、上記(1)エで摘記した段落【0010】ないし【0015】の記載事項から、CPUからなる制御回路37などの制御装置が収容されていると解される。また、その制御装置はスプール駆動モータ18を制御するものともいえる。 よって、甲第2号証には、上記(1)で摘記した事項及び図示内容、特に図9の態様からみて、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「リール本体Aの左右側板2,3間に設けられ、釣糸が巻回されるスプール11と、前記リール本体Aに設けられ、スプール11を回転駆動するスプール駆動モータ18と、前記スプール駆動モータ18の出力を調節するモータ出力調節体Bと、表示部14とモータ出力調節体Bとスプール駆動モータ18を制御する制御装置が設けられた制御ケース13と、を有する魚釣用電動リールにおいて、前記モータ出力調節体Bは回動式バリアブルレジスタ(可変抵抗器)16とその回転軸に装着された回動ツマミからなる操作部5で構成され、前記操作部5は、側板2、3間で、前記制御ケース13の後方側で、その表面から露出した状態に配設されるとともに、斜め方向に回動変位可能である、魚釣用電動リール。」 3 甲第3号証について (1)甲第3号証に記載された事項 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第3号証には、次の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、モータ出力調整手段を備えた魚釣用電動リールに関する。」 イ 「【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】 特開平5-153888号公報が開示する電動リールは、スプール駆動モータの駆動速度を出力停止状態から多段階に調整するモータ出力調整手段を設けることによって、該モータ出力調整手段を操作するのみで電動巻き上げのスタート及び速度調節を任意に行うことができるようになっている。 【0003】 しかし、この電動リールはモータ出力調整手段である出力調整レバーをリール本体のハンドル側の側板上における前部に備えるものであるため、ハンドルを回動操作する手をハンドルから離してモータ出力の調整をしなければならない。また、出力調整レバーをリール本体の反ハンドル側に設けることも考えられるが、その場合は釣竿を把持する他の手でリール本体のハンドル側を把持してモータ出力調整をしなければならない。 【0004】 このため、大きな獲物を取り込む場合のように両方の手でリールの前部と後部とを把持した場合には、モータ出力調整をしながら獲物とのやりとりをすることができず、釣場の移動等で早く仕掛けを巻き取りたい場合にハンドルを操作しながらモータの出力調整とモータの停止操作をすることができないという問題がある。 【0005】 また、この電動リールは、モータ出力調整手段の出力調整レバーをリール本体の側部に設けるものであるため、獲物とのやりとり等で釣竿を左右に振って船縁等に電動りールをぶつけたり、獲物の取り外しや餌の取り替え時に電動リールを落としたりした場合に、出力調整レバーが損傷しやすいという問題がある。また、ハンドルを操作する手が出力調整レバーに接触しやすく、そのため不意にモータが作動して獲物を取り逃がしたりしてしまう等の問題もある。」 ウ 「【0006】 【課題を解決するための手段】 上記課題を解決するため、請求項1の発明は、リール本体(1)の側板(2,3)間に手動ハンドル(7)により回転可能に支持されたスプール(4)と、該スプール(4)を回転駆動するリール本体(1)又はスプール(4)内に装着されたスプール駆動モータ(8)と、該スプール駆動モータ(8)のモータ出力を出力停止状態から多段階に調整可能に上記リール本体(1)に変位操作可能に設けられたモータ出力調整手段(38,39等)とを備えた魚釣用電動リールにおいて、上記モータ出力調整手段(38,39等)がリール本体(1)の側板(2又は3)の後部周面上に配置された魚釣用電動リールを採用する。 【0007】 また、請求項2の発明は、上記リール本体(1)の側板(2,3)間における上記スプール(4)の後方に、上記スプール(4)と上記手動ハンドル(7)及び上記スプール駆動モータ(8)とを駆動連結した釣糸巻き上げ状態と該駆動連結を解除した釣糸繰り出し状態との間で切り換えるクラッチ機構(15等)の操作部(20)が設けられた請求項1に記載の魚釣用電動リールを採用する。」 エ 「【発明の実施の形態】」 「【0010】 図1乃至図4に示されるように、この魚釣用両軸受型電動リールは、リール本体1の左右の枠板1a,1b上に側板2,3を一体的に有し、両側板2,3間にスプール4を有する。スプール4は、左右両枠板1a,1bにボールベアリング5,6を介して回転可能に支承され、以下に述べるようにハンドル7又はモータ8で駆動するようになっている。」 「【0018】 一方、図3及び図4に示されるように、スプール4を駆動するためのモータ8がリール本体1の左右の枠板1a,1b間に筒状のモータケース23を介して横置きで固定されている。モータ8は図示しないバッテリにより駆動する。図5に示されるように、モータ8の駆動、停止等を行うための制御装置は、リール本体1の上部に載置されたコントロールボックス24中に設けられている。この場合モータはリール本体内に配置しているが、スプール内に配置するようにしても良い。」 「【0024】 ・・・モータ8によりスプール4を回転させると、歯車列25及び第1と第2の遊星歯車装置16,17が減速機として作用し、モータ8の回転数よりも少ない回転数でスプール4が回転し、その回りに釣糸を巻き取る。」 「【0027】 モータ出力調整手段は、図1、図2、図5及び図6中、右側の枠板1bと側板3との間であってリール後部におけるクラッチレバー20のやや上方の個所に設けられており、右側の枠板1bと側板3との間に収められて側板3の内面に固定された可変抵抗器であるポテンショメータ38と、該ポテンショメータ38のワイパを有する作動軸38aに固定される出力調整レバー39とを具備している。この実施の形態ではモータ出力調整手段としてポテンショメータ38を用いているが、リードスイッチ等他の手段を用いることもできる。 【0028】 ポテンショメータ38の作動軸38aは、枠板1bを側板3と反対側に貫通し、ブッシュ45を介して枠板1bに回転可能に支持されている。作動軸38aの枠板1bを貫通した先端にはナット46が螺合している。作動軸38aの中央から先端に亘る個所は横断面非円形に形成され、そこには円盤状の作動板47が作動軸38aと共回り可能に取り付けられている。 【0029】 出力調整レバー39は、このリールの外部から操作することができるように側板3及び枠板1bの外面上に設けられ、且つ側板3の後部周面上に配置されている。また、出力調整レバー39はハンドル側の側板3に設けるのが操作性を高める上で望ましいが、反ハンドル側の側板2に設けるようにしてもよい。出力調整レバー39が当てられる側板3及び枠板1bの外面は、上記作動軸38aを中心として湾曲する湾曲面48とされ、出力調整レバー39はこの湾曲面48に被さる摘み部39aと上記ナット46に被さる補強部39bとを有する。摘み部39aは止めネジ49及びカラー50を介して上記作動板47に固定され、補強部39bは上記ナット46に被さるように固定されることにより、出力調整レバー39は上記作動軸38aに固定される。止めネジ49及びカラー50は側板3上の湾曲面に沿って形成された長孔51を貫通している。」 オ 「【0039】 【発明の効果】 請求項1に係る発明によれば、モータ出力調整手段をリール本体の両側板の後部周面上に配置したので、大きな獲物を取り込み中等に両方の手でリールの前部と後部とを把持した場合でも、リールの後部を把持した手でモータ出力調整手段を操作しながらの獲物とのやりとりができる。また、釣場の移動等で早く仕掛けを巻き取りたい場合にもハンドル側の手でハンドルを回動しながら他方の釣竿のリール後部を把持した手でモータ出力調整を行いつつ釣糸を巻き取ることができ、仕掛けの巻き上げ完了時におけるモータ停止操作も迅速に行うことができ、仕掛けの巻き取り過ぎによる竿折れ等のトラブルを防止することができる。更に、モータ出力調整手段がリール本体の両側板の周面上に配置され、リール本体の側方に突出しないので、獲物とのやりとり等で釣竿を左右に振って船縁等に電動リールをぶつけたり、獲物の取り外しや餌の取り替え時に電動リールを落としたりしても、モータ出力調整手段にまで損傷が及ぶようなことがない。 【0040】 請求項2に係る発明によれば、クラッチ機構の操作部がリール本体の側板間の上記スプールの後方に設けられるので、獲物とのやりとり中に獲物が突っ込んだ場合等のモータ出力を停止しての釣糸のフリー繰り出し、釣糸繰り出し中の当たり感知時におけるモータ駆動による巻き取り等の切換を迅速に行うことができる。また、手持ち釣りでの仕掛けの棚位置の調整時に、クラッチ機構を操作しての釣糸の繰り出しとモータ出力調整手段を操作しての釣糸の巻き取りとを釣竿を把持した手で迅速かつ容易に行うことができる。」 カ 図面について 上記エの段落【0027】,【0029】の記載事項を踏まえて第1及び2図を見ると、出力調整レバー39は前後方向に回転可能であるといえる。 (2)甲第3号証に記載の発明の認定 甲第3号証には、上記(1)で摘記した事項及び図示内容からみて、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 「リール本体1の側板2,3間に回転可能に支持された釣糸を巻き取るスプール4と、該スプール4を回転駆動するリール本体1に装着された駆動モータ8と、該駆動モータ8のモータ出力を出力停止状態から多段階に調整可能にする出力調整レバー39と、リール本体1の上部に載置されたコントロールボックス24中に設けられた駆動モータ8の駆動、停止等を行うための制御装置とを備えた魚釣用電動リールにおいて、出力調整レバー39は、リール本体1の側板3及び枠板1bの外面上に設けられ、且つ側板3の後部周面上に配置されている、魚釣用電動リール。」 4 公然実施(甲第24号証)について (1)公然実施された電動リール 請求人は、電動リール「VS700AC Hi-POWER 」が平成14年に発売されたことに基づいて、当該電動リールが公然実施されたものであることを主張し、証拠として、当該電動リールが掲載されたカタログ(甲第24号証)、同取扱説明書(甲第25号証)、及び、当該電動リールを撮影した写真(甲第26号証)を提出している。 被請求人は、当該電動リールが公然実施されたものであることを争っていない。 (2)公然実施された発明 ア 甲第24号証(カタログ)の14頁の写真と、甲第25号証(取扱説明書)の「4-1 各部の名称」の頁には、 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、 電動巻き上げの変速を行うためのアクセルレバーと、 リール本体の上部に設けられたコントロールボックスと、 からなる魚釣用電動リール。」 が開示されているといえる。 イ 甲第25号証(取扱説明書)の「4-2 コントロールボックスの各部の名称」の頁には、「コントロールボックスの表示パネルの周囲に、ON/OFFスイッチ、船べり/糸送りスイッチ、棚・底スイッチ、瞬動スイッチが配置されていること」が開示されているとともに、「ON/OFFスイッチ」の説明として、「モーターの移動、停止を行います。」と記載されている。また、同「6-4 電動巻き上げと変速」の頁には、「ON/OFFスイッチによるモーターの起動と停止 アクセルレバーでのスピード調整」、「ON/OFFスイッチを押してください。モーターを起動します。もう一度押すと停止します。」と記載されている。これらの記載から、リール本体にスプールを回転駆動する駆動モータが設けられているとともに、前記の各種スイッチによって駆動モータを制御する制御部がコントロールボックスに収容されていると解することができる。 ウ 甲第24号証(カタログ)の14頁の写真、及び、甲第26号証の写真からは、アクセルレバーは、コントロールボックスの後方側で右の側板の後部の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、レバー形状に形成され、その操作部が側板の後部の上部の表面に露出していることが見て取れる。 エ 甲第24号証(カタログ)の14頁の左下には、「アクセルレバー」について「魚の引きにあわせたスピード調整が可能。操作性を重視したレバーの位置と形状で、パーミング状態での巻き上げ・やりとりもOK」と記載されている。 オ 上記アないしエから、次の発明(以下「公然実施発明」という。)が本件原出願前に公然実施されたものであると認められる。 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、 スプールを回転駆動する駆動モータと、 電動巻き上げの変速を行うためのアクセルレバーと、 リール本体の上部に設けられ、駆動モータを制御する制御部が収容されているコントロールボックスと、 からなる魚釣用電動リールにおいて、 アクセルレバーは、コントロールボックスの後方側で右の側板の後部の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、レバー形状に形成され、その操作部が側板の後部の上部の表面に露出している、魚釣用電動リール。」 5 周知技術であることを示す証拠について (1)甲第4号証について 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第4号証には、次の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、モータ出力調整手段を備えた魚釣用電動リールに関する。」 イ 「【従来の技術】」 「【0005】 かかる問題点を解決するため、本出願人は、モータ出力調整手段をリール本体の後部に回動操作可能に設けることで、釣竿に取り付けた電動リールの後方を把持した手によってモータ出力調整手段を操作することができるようにした電動リールを先の出願において提案した。」 (2)甲第5号証について 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第5号証(カタログ)には、次の事項が記載されている。 ア 「ワンハンドAT ワンハンドATは『A』アクセルレバーと『T』タナトリクラッチが親指1本で操作出来る理想なレイアウト。リールをホールドしている手で電動巻き取り&棚取りが可能となり、左手はワンハンドATの操作、右手はロッド操作に集中できます。」(26頁左欄) イ 「アクセルレバー 魚の引きに合わせたスピード調整が可能なアクセルレバー。操作性を重視したレバーの位置と形状で、パーミング状態での瞬動巻上げも可能。アクセル感覚で使いこなせるアクセルレバーは片手操作の白眉です。・・・」(26頁右下欄) ウ 26頁の写真からは、竿を把持した手の親指でアクセルレバーを操作する様子が見て取れる。 (3)甲第6号証について 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第6号証には、次の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、リール本体に回転自在に取り付くスプールを巻取り駆動するスプールモータを備えた魚釣用電動リールに関する。」 イ 「【背景技術】」 「【0004】 ところで、実際に電動リールを使用する場合、リール本体の枠体の下部に設けた脚部を釣竿側のリール取付部(リールシート)に装着,固定して、釣竿と共にリール全体を手で握持して釣糸の繰出しや巻取り等の魚釣り操作が行われる。」 ウ 「【発明が解決しようとする課題】」 「【0006】 このため、この電動リールによれば、リール全体を手でしっかり保持し難く、また、魚信を容易,確実に感知することができない虞がある。更に、片手で電動リールと釣竿を保持し乍ら、クラッチの切換操作やスプールへのサミング操作も容易に行えない等の課題を残していた。本発明は斯かる実情に鑑み案出されたもので、更なるリール全体の小型,軽量化を図って操作性に優れた電動リールを提供することを目的とする。」 エ 「【発明を実施するための最良の形態】」 「【0022】 そして、寸動スイッチ53の操作でスプールモータ17が駆動して、微妙な棚位置調整やシャクリ操作ができるようになっているが、寸動スイッチ53とパワーレバー51は別回路となっており、パワーレバー51の操作中に寸動スイッチ53を操作すると、スプールモータ17は寸動スイッチ53の押圧操作時のみ駆動し、また、寸動スイッチ53からパワーレバー51の操作に切り換える際には、安全性を考慮して一度パワーレバー51をモータ出力「0」の位置まで戻さなければ、パワーレバー51によるスプールモータ17の駆動ができないように構成されている。 【0023】 また、図1に示すように寸動スイッチ53に隣接して表示器63後方の操作パネル61上には、凹状の指載置部69が左右方向に設けられており、指載置部69の側板5側は大きく平面視円形状に広がり、また、指載置部69の底部は親指の指先に合わせて略弧状に窪んだ形状とされている。そして、指載置部69の側板7側に前記寸動スイッチ53が隣接して配設されており、このように表示器63後方の操作パネル47上に親指の指載置部69を設けたことで、実釣時に本実施形態に係る電動リール71の確実な握持が可能となる。 【0024】 更に、上述の如く指載置部69の側板7側に寸動スイッチ53を隣接して配設した構造上、指載置部69に載置した親指による寸動スイッチ53の誤操作の虞があるため、寸動スイッチ53を囲繞する環状の隆起部73が、周辺の操作パネル61より上方へ一体に突設されており、指載置部69に載置した親指が側板7側にズレたときに、親指が隆起部73の外周に接触して釣人にその旨を気付かせると同時に、親指による寸動スイッチ53の誤操作を隆起部73が積極的に防止するようになっている。」 「【0032】 加えて、本実施形態は、・・・ 実釣時に、電動リール71を保持する手の親指を指載置部69に載置することで、電動リール71の小型化と相俟って電動リール71をより確実に保持することができ、また、電動リール71を保持した状態で指載置部69から親指をクラッチレバー49にずらしてこれを押圧操作すれば、クラッチ機構47がクラッチONからクラッチOFFに切り換わることとなる。 【0033】 従って、本実施形態によれば、電動リール71を保持した状態でのクラッチの切換操作が容易となり、電動リール71に於て、手巻き感覚の魚釣り操作が可能となると共に、電動リール71を保持する手の親指を無理なく指載置部69に載置できるため、電動リール71を容易且つ確実に保持できる利点を有する。・・・」 (4)甲第7号証について 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第7号証には、次の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、魚釣用電動リールの給電方法に関し、特に、釣糸が巻回されるスプールの駆動用モータに給電するための魚釣用電動リールの給電方法に関する。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】」 「【0011】 本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、釣竿およびリール本体を保持した状態で操作する際に支障となるコードを不要とし、釣竿の保持スペースを制限することなく、スプール駆動モータに給電して電動巻き上げ操作することのできる魚釣用電動リールの給電方法を提供することを目的とする。」 ウ 「【発明の効果】」 「【0019】 また、スプールを支持するスプール軸より前方且つ下方の反ハンドル側側板に設けた給電接続部に連結部を介して接続される携帯用電源装置を、給電接続部の下方に配置する場合には、リールと釣竿を握持する保持スペースを携帯用電源装置が邪魔することなく形成でき、リール及び釣竿を保持しながらの魚釣り操作(電動巻き上げ操作や合わせ操作等)を支障なく円滑に行うことができる。」 エ 「【発明を実施するための最良の形態】」 「【0034】 また、スプールSを支持するスプール軸Saより前方且つ下方の反ハンドル側側板14aに設けた給電接続部32に連結部56を介して接続される携帯用電源装置50を、給電接続部32の下方に配置する場合には、リール10と釣竿8を握持する保持スペースE(図2に二点鎖線で範囲を示すスペース)を携帯用電源装置50が邪魔することなく形成でき、リール10及び釣竿8を保持しながらの魚釣り操作(電動巻き上げ操作や合わせ操作等)を支障なく円滑に行うことができる。」 オ 図面について 図1ないし5には、リール及び釣竿を片方の手で保持する態様が図示されている。 (5)甲第8号証について 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第8号証には、次の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、リール本体の側板間に回転自在に支持されたスプールを、釣糸巻取り状態と釣糸放出状態の両状態に切換えるクラッチ機構を備えた魚釣用リールの改良に関する。」 イ 「【背景技術】」 「【0004】 そこで、リールを保持した手の指でクラッチ機構を、ON→OFFおよびOFF→ONの両状態に切換え可能とし、釣糸放出状態時に魚が食い付いても切換部材を指で移動操作するだけでスプールを釣糸巻取り状態に切換えて素早い竿の合わせ操作を行なえるようにする技術が従来から知られている・・・」 (6)甲第10号証について 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第10号証(カタログ)には、次の事項が記載されている。 ア 「一日中手持ちでも疲れ知らずの、手持ちコンセプトに最適な小型電動リール」(4頁左下欄) イ 4頁上部及び5頁中央下部の写真からは、片方の手でリールを把持している様子が見て取れる。 ウ 4頁中央下部の写真からは、リールを把持した片方の手で操作部材を操作する様子が見て取れる。 (7)甲第12号証について 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第12号証には、次の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、リール本体に装着したスプールモータのモータ出力を調節可能とした魚釣用電動リールに関する。」 イ 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】 しかし乍ら、一般に圧力センサ7への押圧力や押圧状態の感度は釣人によって様々で微妙に異なり、而も、上記電動リール1は圧力センサ7による出力調節の程度が目視できず、また、モータ出力の状態が指9を通して実感できずに、専ら押す力の度合いだけでモータ出力を調節するものであるため、状況に応じたモータ出力を容易に設定することができない欠点が指摘されていた。 【0006】 本発明は斯かる実情に鑑み案出されたもので、状況に応じたスプールモータのモータ出力が容易に設定可能な電動リールを提供することを目的とする。」 ウ 「【発明の実施の形態】」 「【0015】 而して、本実施形態に係る電動リール41は、上述の如き従来と同様の構成に加え、操作パネル37近傍の側板17に、リール本体15を握持する左手42の親指42aで押圧操作可能な操作スイッチ(モータ出力調節部)43を出没可能に設けて、当該操作スイッチ43の押圧変位操作で、スプールモータ25のモータ出力を連続的に増減変更可能としたものである。」 エ 図面について 図1からは、モータ出力調節用の操作スイッチ43が、リール本体15の後方側方の上部に配置されていることが見て取れる。 (8)甲第13号証について 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第13号証には、次の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、スプールを駆動するスプールモータのモータ出力を、リール本体に装着したモータ出力調節体の操作で連続的に調節可能とした魚釣用電動リールに関する。」 イ 「【発明の実施の形態】」 「【0034】 更にまた、上記実施形態では、クラッチ切換手段とモータ出力調節体をそれぞれレバー形状のクラッチレバー49とパワーレバー73で構成したが、例えば従来周知のようにリール本体にクラッチモータを装着して、操作パネル上のクラッチ切換スイッチの操作でクラッチ機構をON/OFFに切り換える電動リールや、例えば特開平5-153888号公報の図5で開示されているスライドスイッチをモータ出力調節体として装着した電動リールにも本発明を適用することが可能であるし、レバー形状に代えてクラッチ切換手段やモータ出力調節体を、それぞれ円筒形状のダイヤル式にしてもよい。」 (9)甲第14号証について 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第14号証には、次の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、モータ制御装置、特に、スプールを糸巻取方向に回転させるモータを増減速制御する電動リールのモータ制御装置に関する。」 イ 「【発明の実施の形態】」 「【0026】 変速操作部SKは、モータ12の通常の回転速度(第1速度)を増減するために設けられており、上下に並べて配置された増速スイッチSK1と減速スイッチSK2とを有している。・・・」 「【0056】 (b)前記実施形態では、2つのスイッチSK1,SK2により変速操作部SKを構成しているが、リール本体1に揺動自在に設けられたレバー部材や回動自在に設けられたダイヤル部材等の移動操作部材により変速操作部SKを構成してもよい。・・・」 (10)甲第15号証について 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第15号証には、次の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、スプールを駆動するスプールモータを備えた魚釣用電動リールに関する。」 イ 「【発明の実施の形態】」 「【0017】 また、図1及び図4に示すようにハンドル15が取り付く側板7の側部前方には、既述した特許第2977978号公報の電動リールと同様、スプールモータ13のモータ出力を増減して釣糸の巻取り速度を調節するパワーレバー(変速手段)51が、ハンドル15の回転方向と同方向へ所定の角度(120°)に亘って回転操作可能に取り付けられており、パワーレバー51は側板7に内蔵されたポテンショメータ53に連結されている。」 「【0030】 従って、本実施形態によっても、釣人の望む巻取り速度や繰出し速度で仕掛けを巻き取ったり繰り出すことができ、この結果、釣場の状況変化や対象魚等に応じて、幅広い微妙な釣糸の繰出しや巻取り操作が行えることとなった。尚、上記各実施形態では、変速手段としてパワーレバーを用いたが、ダイヤル式の変速手段をリール本体に装着して、これを変速手段として用いてもよい。」 (11)甲第17号証について 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第17号証には、次の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、スイッチによる操作性の向上を図った魚釣用リールに関する。」 イ 「【発明の実施の形態】」 「【0036】 また、図9及び図10は請求項1乃至請求項4の第二実施形態を示し、本実施形態は、制御ボックス61のハンドル43側の一側部に装着した上記実施形態の円盤状のジョグダイヤル67に代え、図示するようにジョグダイヤル85を円筒形状に成形し、そして、これを表示器41に隣接させて、制御ボックス49の後端側に矢印A,B方向へ回転操作可能且つ矢印C方向へ押圧操作可能に装着したもので、ジョグダイヤル85は、魚釣用リール87を保持した手の指で操作可能とされている。」 ウ 図面について 図9には、前後方向に回転操作するジョグダイヤル85が図示されている。 (12)甲第24号証について 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第24号証(カタログ)には、次の事項が記載されている。 ア 8?11頁には、「ベイト機能搭載超小型電動リール」として「Adventure電動VS300」が記載されている。 イ 10?11頁には、大きさが「L95mm、W85mm、H48mm」であること、重さが「390g」であることが記載されている。 ウ 11頁下段には、「ニューコンセプトシンプル機能・・・2スイッチによる簡単操作を実現」、「スライドクラッチ&リターンレバー・・・手持ち姿勢&片手でクラッチのON/OFF操作をする」、「スピード2段切り替え」と記載されている。 エ 9頁右上の写真からは、リールと釣竿を片方の手で把持しその手の親指で操作部材を操作する様子が見て取れる。 そして、甲第24号証で開示された「超小型電動リール」「Adventure電動VS300」(公知であることに争いはない。)においては、当該カタログの記載事項、並びに、当該電動リールに係る甲第43号証の写真、及び、甲第59号証の技術説明書(5)、乙第7号証の取扱説明書からみて、以下の発明が開示されている(以下「甲24発明」という。)。 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を調整する変速スイッチ及びON/OFFスイッチと、前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、を有する魚釣用電動リールにおいて、前記変速スイッチ及びON/OFFスイッチは、ボタン形状に構成され、釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で、前記制御ケースの左右の側板側の表面に押圧可能に装着されるとともに、その外表面の円形領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて押圧操作可能に前記制御ケースの左右の側板側の上部の表面から露出している、魚釣用電動シール。」 (13)甲第30号証について 請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件原出願前に頒布された甲第30号証(カタログ)には、次の事項が記載されている。 ア 8頁左側中段の写真からは、片方の手でリールと釣竿を把持している様子が見て取れる。 イ 同頁左下の写真からは、リールと釣竿を片方の手で把持しその手の親指で操作部材を操作する様子が見て取れる。 第7 無効理由1(サポート要件及び明確性要件違反)の検討 1 サポート要件の適否について 請求人は、本件訂正発明の「前記操作部材は、・・・直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として・・・前記側板の上部の表面から露出し」ているとの構成は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に違反すると主張する。 そこで、請求人の主張を踏まえて、サポート要件の適否を検討する。 (1)本件特許明細書の記載事項 本件特許明細書には、以下のとおり記載されている(下線は審決で付した。以下同様。)。なお、本件訂正の訂正箇所は段落【0007】のみである。 「【0023】 前記操作部材30(操作部30a)は、上記したように、上方から押え付けて転がすような操作ができるよう露出した状態で回転可能に支持されているが、図5に示すように、周辺の表面(本実施形態では、制御ケース15の凹所15Bの表面15d)に対して、その操作部(操作面)30aが突出した状態となっている。具体的に、本実施形態の略円筒形状の操作部材30(操作部30a)は、直径Dが12mmに形成されており、表面15dに対して突出高さhが3.6mmとなるように設置されている。また、操作部30aの表面には、転がし操作する際に、滑り難いように、周方向に連続する凹凸30bを形成しておくことが好ましい。 【0024】 この場合、操作部材30は、リール本体を確実に把持した状態で、安定して転がす操作ができるように、前記突出高さhについては、0.5?12mmの範囲に設定しておくことが好ましい。これは、突出高さhが0.5mm未満となると、親指の接触面積が小さくなり過ぎて、滑りが生じる等、操作性が悪くなるためである。また、12mmを超えてしまうと、大きく突出した状態となってしまい、その周辺部の把持圧力が小さくなって、把持安定度が低下してしまうためである。 【0025】 また、前記操作部材30の直径Dについては、10?24mmの範囲のものを用いることが好ましい。これは、直径が10mm未満のものを用いると、親指との接触面積が小さくなり過ぎて、滑りが生じる等、操作性が悪くなるためである。また、24mmを超えてしまうと、周辺部(本体)の把持領域が少なくなり、把持安定度が低下するためである。なお、操作部材30の軸方向長さLについては、親指を押え付けて安定して転がし操作ができるように、2.0?20mmとしておくことが好ましい。」 (2)検討 本件訂正発明の「前記操作部材は、・・・直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として・・・前記側板の上部の表面から露出し」ているとの構成は、上記(1)で摘記した段落【0023】及び【0025】に記載されているから、本件訂正発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 (3)請求人の主張について ア 請求人は、操作部は操作部材のうち側板の上部の表面から露出している外表面の円弧領域であるから、操作部材の直径の大きさを特定しても親指が接触する部分の面積を特定することはできないので、「操作部材は、・・・直径が10?24mm」という構成によって、段落【0025】に記載の「直径が10mm未満のものを用いると、親指との接触面積が小さくなり過ぎて、滑りが生じる等、操作性が悪くなるためである。また、24mmを超えてしまうと、周辺部(本体)の把持領域が少なくなり、把持安定度が低下するためである。」という課題を解決し作用効果を奏することはできず、本件訂正発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである旨主張する。 イ しかしながら、請求人の主張は以下のとおり採用できない。 (ア)本件特許明細書に「前記操作部材30(操作部30a)は、上記したように、上方から押え付けて転がすような操作ができるよう露出した状態で回転可能に支持されているが、図5に示すように、周辺の表面(本実施形態では、制御ケース15の凹所15Bの表面15d)に対して、その操作部(操作面)30aが突出した状態となっている。」(段落【0023】)と記載されているように、操作部材(操作部)は側板の上部の表面から露出した部分で操作するものであるから、その露出した部分の面積や形状が操作性に影響することは明らかである。 (イ)操作部材の直径の大きさによって親指が接触する部分の面積が直ちに決まるわけではないが、操作部材の直径の大きさが親指との接触面積に影響を与える(突出高さが同じであれば、直径が大きいほど、接触面積も大きくなり得る)ことは自明であるから、本件発明の「操作部材は、・・・直径が10?24mm」という構成は、親指との接触面積に影響を及ぼし、操作性の向上に寄与するものというべきである。 (ウ)そして、本件特許明細書の段落【0025】に記載されている作用効果が奏することは、段落【0024】でも言及されている操作部材の突出高さを適切なものとすることを前提とすれば、十分に理解できる。 (エ)よって、本件訂正発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえない。 2 明確性要件の適否について 請求人は、本件訂正発明の「前記操作部材は、・・・直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として・・・前記側板の上部の表面から露出し」ているとの構成は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号(明確性要件)に違反すると主張する。 そこで、請求人の主張を踏まえて、明確性要件の適否を検討する。 (1)検討 ア 「操作部材は、・・・直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され」との事項(文言)から、「操作部材」の形状が「略円筒形状」であり、その大きさとして「直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mm」であることが理解できる。 イ 「前記操作部材は、・・・略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として・・・前記側板の上部の表面から露出し」ているとの事項(文言)から、「略円筒形状」をした「操作部材」の「外表面」の一部が、側板の上部の表面から露出し、その露出した円弧領域を操作部とするものであることが理解できる。 ウ よって、本件訂正発明の「前記操作部材は、・・・直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として・・・前記側板の上部の表面から露出し」ているとの構成は、明確であるから、本件訂正発明は明確であるといえる。 (2)請求人の主張について ア 請求人は、「操作部材は、・・・直径が10?24mm」という構成によって、段落【0025】に記載の「直径が10mm未満のものを用いると、親指との接触面積が小さくなり過ぎて、滑りが生じる等、操作性が悪くなるためである。また、24mmを超えてしまうと、周辺部(本体)の把持領域が少なくなり、把持安定度が低下するためである。」という課題を解決し作用効果を奏することはできないから、本件訂正発明は、発明を特定するための事項に技術的な不備があって、請求項の記載から発明を明確に把握することができないものである旨主張する。 しかしながら、上記1(3)イで述べたように、本件訂正発明の「操作部材は、・・・直径が10?24mm」によって本件特許明細書の段落【0025】に記載されている作用効果を奏することは十分に理解できるといえるので、請求人の主張は採用できない。 3 むすび 以上のとおり、本件訂正発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、明確であるから、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしている。 第8 無効理由2(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如)の検討 1 対比 (1)本件訂正発明と甲1発明(上記第6の1(2)を参照。)とを対比すると、甲1発明の「リール本体4」は本件訂正発明の「リール本体」に相当し、 以下同様に、 「スプール8」は「スプール」に、 「スプール駆動モータ24」は「駆動モータ」に、 「(スプール駆動モータ24の出力を)調節する」ことは「(駆動モータの出力を)調整する」ことに、 「モータ出力調節体40の操作部40a」は「操作部材」に、 「(スプール駆動モータ24を制御する)制御装置」は「(駆動モータを制御する)制御部」に、 「(制御装置を収容した)表示ケース50」は「(制御部を収容した)制御ケース」に、 それぞれ相当する。 (2)したがって、本件訂正発明と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点1で相違する。 (一致点) 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、 前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、 前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、 前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、 を有する魚釣用電動リール。」 (相違点1) 操作部材について、 本件訂正発明では、「操作部材は、釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に前記側板の上部の表面から露出し、前記円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5?12mmの範囲に設定されている」のに対して、 甲1発明では、「モータ出力調節体40の操作部40aが、リール本体4の一方の側方上部に、その表面から露出した状態で、前後方向に略円弧状に移動可能に設けられている」点。 2 判断 (1)相違点1について ア 本件訂正発明は、「最近の魚釣用電動リールでは、ルアーフィッシングに用いられる魚釣用(ベイトキャスティング)リールと同様、手持ち状態で操作することが可能なタイプも望まれているが、従来のモータ出力を調整する操作部材の配置を工夫した魚釣用電動リールでは、・・・釣竿とリール本体を把持する片手の親指での操作と把持の両面で満足できるものとはなっておらず、特に、釣竿とリール本体を把持する片手で、モータの出力調整操作をあらゆるシーン(単なる仕掛け回収のような巻き取りや、魚を誘う場合に応じた複雑(緩急)な巻き取り操作等)に適宜対応できるものとはなっていない」(段落【0005】)との「問題に着目してなされたものであり、釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに、その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき、更には、操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供することを目的」(段落【0006】)として、「操作部材は、釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に前記側板の上部の表面から露出し、前記円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5?12mmの範囲に設定されている」(請求項1)構成とすることにより、「釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに、その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき、更には、操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールが得られる」(段落【0009】)ものである。 イ 甲1発明は、上記第6の1(1)のとおり、従来の魚釣用電動リールでは、モータ出力調節体と手動巻取用ハンドルとが、小型化及び小スペース化されたリール本体の同一側部に配設されているため、両操作部の配置位置が相互に近接してしまい、手動魚釣操作と電動魚釣操作の切換を誤操作し易いという問題があり(段落【0003】)、また、両操作部をリール本体の同一側部に配設したことによって、リール本体の重量バランスが一側部に偏寄して、リール本体の安定性が低下するという問題があったことに鑑み(段落【0004】)、手動魚釣操作と電動魚釣操作の切換を容易に且つ誤操作すること無く確実に行うことができるとともに、リール本体の重量バランスの偏寄を緩和させた魚釣操作性に優れた魚釣用電動リールを提供することを目的とし(段落【0005】)、かかる課題の解決手段として、リール本体の手動巻取用ハンドルが装着される一側部を除くリール本体にモータ出力調節体を変位可能に設けるという構成を採用したことにより(段落【0006】)、上記課題に応じた効果を奏するものである。また、甲1発明では、「モータ出力調節体40の操作部40aが、リール本体4の一方の側方上部に、その表面から露出した状態で」設けることにより、釣り人がリール本体を握持した状態で、かつ指や手の無理のない姿勢でモータ出力調節体を変位操作することができるという作用効果をも奏している(段落【0026】)。 ウ また、甲第1号証(上記第6の摘記事項を参照。以下同様。)には、モータ出力調節体40を、リール本体4の手動巻取用ハンドル2が設けられる側板以外の様々な部分に配設することが可能であることが記載されており(段落【0035】)、実施形態として、図5及び図6(b)に基づく甲1発明のほか、モータ出力調節体をリール本体の反ハンドル側で、かつ後方側(釣糸巻取方向側)の上部に回転可能に取り付けたもの(図3及び4に記載の「第1の実施形態」の「第1の変形例」)や、スプールの後方の側板間に配設されているサムレストに、前後方向に回転操作可能に設けたもの(図8に記載の「第3の実施形態」)なども開示されており、この形態の場合でも、リール本体を把持した手の指の操作によってモータ出力調節体を容易に回転可能であることが記載されていることに照らせば、甲第1号証には、小型化された魚釣用電動リールにおいて、リール本体を保持した手の指による操作性の向上を考慮して、モータ出力調節体の配置や形状(操作形態)を変更することについての示唆があるといえる。 エ ところで、電動リールを装着した釣竿を片手で把持し、把持した手の親指でモータ出力調整などのスプール回転制御に係る操作部材を容易に操作しようとすることは、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証、甲第24号証、甲第30号証に記載されているように本件原出願前において周知の課題であり、そのような作用効果を奏するものも本件原出願前から種々知られている。特に甲第5号証、甲第10号証、甲第24号証、甲第30号証のカタログに開示されている魚釣用電動リールは、手のひらにのる程度に小型化、軽量化が図られており、駆動モータの出力を制御する操作部材の操作性の向上を指向したものであるとともに、甲第24号証の「VS300」については、釣竿とリール本体とを片手で把持し、その把持した手の親指で駆動モータの出力を制御する操作部材(「変速」スイッチ)を操作することを予定したものであるといえる。また、甲第6号証には、その記載事項からみて、駆動モータの出力を制御する寸動スイッチ53をリール本体と釣竿とを片手で把持した状態で操作することが開示されているといえる。 オ 上記イないしエを踏まえると、当業者において、釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を図るため、操作部材の配設位置や形態に係る周知技術を適用して、甲1発明のモータ出力調節体をより操作性のよいものに変更することには、動機付けがあるということができる。 カ 操作部材の配設位置について、甲第2号証には、リール本体を保持した手の親指でモータ出力を調節する操作部5(操作部材)を操作し易いようにすること、及び、操作部5(操作部材)を側板2、3間で、制御ケース13の後方側に配置した構成が記載されている。また、甲第3号証には、リール本体を両方の手で把持した場合に、リール本体の後部を把持した手でモータ出力を調節する出力調整レバー39(操作部材)を操作し易いようにすること、及び、出力調整レバー39(操作部材)をリール本体1の側板3及び枠板1bの外面上に設けられ、且つ側板3の後部周面上に配置した構成が記載されている。そもそも、電動リールにおいて、駆動モータの出力を調整する操作部材をリール本体の側方後方側に配置することは、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第12号証に記載されているように本件原出願前に周知である。以上のこと、及び上記ウないしオで述べたことを踏まえると、釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を考慮して、甲1発明のモータ出力調節体を、制御ケースの後方側に配置することにし、「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」で「制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に」「その外表面」が「前記側板の上部の表面から露出」するように配設することは、当業者が容易に想到できたことである。 キ 次に、電動リールにおいて、駆動モータの出力を調整する操作部材が、ダイヤル式やレバー形状のように回転可能なものも、スライド式のようにスライド可能なものも存在し、それらが置換可能であることは、甲第13号証、甲第14号証に記載されているように本件原出願前に周知である。また、電動リールにおいて、操作部材を制御ケースに配設するとともに、制御ケースに支持された支軸に回転可能に装着することは、甲第2号証に記載されているように本件原出願前に周知である。加えて、甲第1号証には、円筒状のモータ出力調節体を前後方向に回転操作可能に設けたもの(「第3の実施形態」)が記載されており、そもそも、甲第2号証には、図7からみて略円筒形状といえる回動ツマミからなる操作部5(操作部材)が記載されているとともに、甲第17号証には、前後方向に回転操作する円筒形状のジョグダイヤル85(操作部材)が記載されているように、円筒形状の操作部材は、本件原出願前から周知である。以上のことを踏まえると、甲1発明のモータ出力調節体をスライド式のものからダイヤル式の略円筒形状のものに置き換え、リール本体を構成する制御ケースに支持された支軸に前後方向に回転可能に装着されたものとすることは、当業者が容易に想到できたことである。そして、上記カの配置とともにそのような構成を備えた場合、略円筒形状に形成された操作部材の露出した外表面の円弧領域が操作部となり、操作部材の前後方向への回転操作は、その操作部を親指で押え付けるようにして行われ得るものであることは明らかである。 ク 加えて、甲1発明のモータ出力調節体を指や手の無理のない姿勢で操作することができるように、モータ出力調節体の大きさを適した寸法にすることは、当業者であれば当然に考慮することであって、略円筒形状に形成したモータ出力調節体の直径及び軸方向長、並びに突出高さを、人の指先の可動域及び親指の幅(甲第29号証の1及び2の計測結果では、親指の第1指関節幅の平均値が、男性では20.1mm、女性では17.6mm、男女平均では19.1mmとされている。)に応じて、「直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mm」並びに「突出高さが0.5?12mm」の範囲内のものとすることは,当業者が適宜選択することのできる設計的事項にすぎないというべきである。また、携帯ラジオ、カメラ等の機器において、操作部材の大きさとして、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmという範囲は、ごく通常の範囲で常識的なものである(甲第28号証参照。)。ところで、本件特許明細書の段落【0025】には、「操作部材30の直径Dについては、10?24mmの範囲のものを用いることが好ましい。これは、直径が10mm未満のものを用いると、親指との接触面積が小さくなり過ぎて、滑りが生じる等、操作性が悪くなるためである。また、24mmを超えてしまうと、周辺部(本体)の把持領域が少なくなり、把持安定度が低下するためである。なお、操作部材30の軸方向長さLについては、親指を押え付けて安定して転がし操作ができるように、2.0?20mmとしておくことが好ましい。」と、また、段落【0024】には、「操作部材30は、リール本体を確実に把持した状態で、安定して転がす操作ができるように、前記突出高さhについては、0.5?12mmの範囲に設定しておくことが好ましい。これは、突出高さhが0.5mm未満となると,親指の接触面積が小さくなり過ぎて、滑りが生じる等、操作性が悪くなるためである。また、12mmを超えてしまうと、大きく突出した状態となってしまい、その周辺部の把持圧力が小さくなって、把持安定度が低下してしまうためである。」との記載があるのみで、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mm、突出高さが0.5?12mmという構成を備えるものと、この構成を備えないものとの操作性に関する比較結果等については何らの記載もないから、上記数値範囲に臨界的意義があるということはできない。結局、上記数値範囲は、人の指先の可動域及び親指の幅から通常想定される範囲を規定したものにすぎないというべきである。 ケ 以上のとおりであるから、本件訂正発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 3 被請求人の主張について 被請求人は、甲1発明のようなリール本体を把持した手の指で操作部材を操作する電動リールは、比較的大きな電動リールであるが故にそのような構成を採用したものであって、釣竿とリール本体とを片手で把持する電動リールにおいて、本件訂正発明の構成を採用する動機付けはなく、また、釣竿とリール本体とを片手で把持する電動リールについても、限定的な課題を解決するためにボタン式の部材が採用されているにすぎず、釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに、モータ出力を多段階に調整して所望の巻き取り状態を得るという構成を採用したものではないし、そのような構成を採用する動機づけはなく、仮に甲1発明を小型化して、釣竿とリール本体を片手で把持できるとすれば、ベイトリールや小型の電動リールと同様にリール本体を把持した手ではない手の指で糸巻操作をすればよいのであって、釣竿とリール本体を把持した手の指で操作部材を操作する必要性がないから、、そもそも甲1発明と同様の構成を、ベイトリールのように片手でリール本体と釣竿をともに把持する電動リールにおいて採用することの動機はない旨主張する。 しかしながら、たとえ甲第1号証に記載された魚釣用電動リールが、リール本体のみを把持した手やその指でモータ出力調節体を操作することを前提としたものであったとしても、上記2で説示したように、甲第1号証には、小型化された魚釣用電動リールにおいて、リール本体を把持した手の指による操作性の向上を考慮して、モータ出力調節体の配置を変更することについての示唆があるということができ、また、魚釣用電動リールは、本件原出願前から、手のひらにのる程度に小型化、軽量化が図られており、このように小型化、軽量化した魚釣用電動リールでは、釣竿とリール本体とを片手で把持し、その把持した手の親指で駆動モータの出力を制御する操作部材を操作することが指向されていたといえる。また、そもそも、甲1発明を含め甲第1号証に記載されたものは、小型化された魚釣用電動リールであって、手持ち状態での使用も予定されるものであると理解されるから、当業者であれば、甲1発明において、釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を図ることを容易に想到し得たということができる。 以上に照らせば、釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を図るため、操作部材の配設位置や形態に係る周知技術を適用して、甲1発明のモータ出力調節体をより操作性のよいものに変更することには、動機付けがあるといえる。 よって、被請求人の主張は採用できない。 4 むすび 以上のとおり、本件訂正発明は、甲1発明、甲第2、3号証に記載された技術事項、及び、周知技術に基いて、本件特許出願前に、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 したがって、本件訂正発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 第9 無効理由3(甲第2号証を主引例とする進歩性欠如)の検討 1 対比 (1)本件訂正発明と甲2発明(上記第6の2(2)を参照。)とを対比すると、甲2発明の「リール本体A」は本件訂正発明の「リール本体」に相当し、 以下同様に、 「(リール本体Aの)左右側板2,3」は「(リール本体の)左右側板」に、 「スプール11」は「スプール」に、 「スプール駆動モータ18」は「駆動モータ」に、 「(スプール駆動モータ18の出力を)調節する」ことは「(駆動モータの出力を)調整する」ことに、 「回動ツマミからなる操作部5」は「操作部材」に、 「制御装置」は「制御部」に、 「制御ケース13」は「制御ケース」に、 それぞれ相当する。 (2)したがって、本件訂正発明と甲2発明とは、次の一致点で一致し、相違点2-1で相違する。 (一致点) 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、 前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、 前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、 前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、 を有する魚釣用電動リール。」 (相違点2-1) 操作部材について、 本件訂正発明では、「操作部材は、釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に前記側板の上部の表面から露出し、前記円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5?12mmの範囲に設定されている」のに対して、 甲2発明では、「操作部5は、側板2、3間で、前記制御ケース13の後方側で、その表面から露出した状態に配設されるとともに、斜め方向に回動変位可能である」点。 2 判断 (1)相違点2-1について ア 甲2発明は、「リ-ルを保持した状態を維持しながら手の親指の自然な移動操作でモ-タ出力を調節操作し易い魚釣用電動リ-ルを提供すること」(段落【0005】)を課題とするものである。 イ また、電動リールを装着した釣竿を片手で把持し、把持した手の親指でモータ出力調整などのスプール回転制御に係る操作部材を容易に操作しようとすることは、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証、甲第24号証、甲第30号証に記載されているように本件原出願前において周知の課題であり、そのような作用効果を奏するものも本件原出願前から種々知られている。特に甲第5号証、甲第10号証、甲第24号証、甲第30号証のカタログに開示されている魚釣用電動リールは、手のひらにのる程度に小型化、軽量化が図られており、駆動モータの出力を制御する操作部材の操作性の向上を指向したものであるとともに、甲第24号証の「VS300」については、釣竿とリール本体とを片手で把持し、その把持した手の親指で駆動モータの出力を制御する操作部材(「変速」スイッチ)を操作することを予定したものであるといえる。また、甲第6号証には、その記載事項からみて、駆動モータの出力を制御する寸動スイッチ53をリール本体と釣竿とを片手で把持した状態で操作することが開示されているといえる。 ウ 甲第1号証には、モータ出力調節体40の操作部40a(操作部材)の配置や形状(操作形態)について、図5及び図6(b)に記載の実施形態(甲1発明)のほかに、図3及び4に記載の実施形態や、図8に記載の実施形態が記載されているから、甲第1号証には、操作部40a(操作部材)の配置や形状(操作形態)を変更することが開示されているといえる。 エ 甲第3号証には、リール本体を両方の手で把持した場合に、リール本体の後部を把持した手でモータ出力を調節する出力調整レバー39(操作部材)を操作し易いようにすること、及び、出力調整レバー39(操作部材)をリール本体1の側板3及び枠板1bの外面上に設けられ、且つ側板3の後部周面上に配置した構成が記載されている。 オ 電動リールにおいて、駆動モータの出力を調整する操作部材をリール本体の側方後方側に配置することは、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第12号証に記載されているように本件原出願前に周知である。 カ 電動リールにおいて、モータ出力の調整を行う操作部材を前後方向に回転操作することは、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第17号証に記載されているように本件原出願前に周知である。 キ 甲2発明の回動ツマミからなる操作部5(操作部材)は、図7からみて略円筒形状といえる。そもそも、甲第1号証の図8に記載の実施形態には、円筒形状の操作部(操作部材)が記載されており、また、甲第17号証には、前後方向に回転操作する円筒形状のジョグダイヤル85(操作部材)が記載されているように、円筒形状の操作部材は、本件原出願前から周知である。 ク 上記アで述べた課題、及び上記イで説示したことを踏まえると、甲2発明において、操作部5(操作部材)の配置や形状(操作形態)を操作し易いように変更しようとすることは、当業者が容易に着想し得ることであって、上記イないしキに記載した操作部材の配置や形状(操作形態)に係る公知技術及び周知技術を踏まえると、当業者であれば、甲2発明の操作部5(操作部材)を、釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を考慮して、制御ケース13の後方側で、左右の側板2,3の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で制御ケース13に配設するとともに、略円筒形状とし、前後方向に回転可能に装着された形態に変更することは、容易に想到し得たことといえる。 ケ 加えて、甲2発明の操作部材を指や手の無理のない姿勢で操作することができるように、操作部材の大きさを適した寸法にすることは、当業者であれば当然に考慮することであって、略円筒形状に形成した操作部材の直径及び軸方向長、並びに突出高さを、人の指先の可動域及び親指の幅(甲第29号証の1及び2の計測結果では、親指の第1指関節幅の平均値が、男性では20.1mm、女性では17.6mm、男女平均では19.1mmとされている。)に応じて、「直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mm」並びに「突出高さが0.5?12mm」の範囲内のものとすることは,当業者が適宜選択することのできる設計的事項にすぎないというべきである。また、携帯ラジオ、カメラ等の機器において、操作部材の大きさとして、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmという範囲は、ごく通常の範囲で常識的なものである(甲第28号証参照。)。なお、先に述べたように、本件訂正発明における直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mm、突出高さが0.5?12mmとの数値範囲に臨界的意義があるということはできず、上記数値範囲は、人の指先の可動域及び親指の幅から通常想定される範囲を規定したものにすぎないというべきである。 コ 以上のとおりであるから、本件訂正発明の相違点2-1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 3 被請求人の主張について 被請求人は、上記第8の無効理由2に係る主張と同様の主張をしているが、上記第8の3で述べたように、採用することができない。 4 むすび 以上のとおり、本件訂正発明は、甲2発明、甲第1、3号証に記載された技術事項、及び、周知技術に基いて、本件特許出願前に、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 したがって、本件訂正発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 第10 無効理由4(甲第3号証を主引例とする進歩性欠如)の検討 1 対比 (1)本件訂正発明と甲3発明(上記第6の3(2)を参照。)とを対比すると、甲3発明の「リール本体1」は本件訂正発明の「リール本体」に相当し、 以下同様に、 「(リール本体1の)左右側板2,3」は「(リール本体の)左右側板」に、 「スプール4」は「スプール」に、 「駆動モータ8」は「駆動モータ」に、 「(駆動モータ8のモータ出力を)出力停止状態から多段階に調整可能にする」ことは「(駆動モータの出力を)調整する」ことに、 「出力調整レバー39」は「操作部材」に、 「制御装置」は「制御部」に、 「コントロールボックス24」は「制御ケース」に、 それぞれ相当する。 (2)したがって、本件訂正発明と甲3発明とは、次の一致点で一致し、相違点3-1で相違する。 (一致点) 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、 前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、 前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、 前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、 を有する魚釣用電動リール。」 (相違点3-1) 操作部材について、 本件訂正発明では、「操作部材は、釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に前記側板の上部の表面から露出し、前記円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5?12mmの範囲に設定されている」のに対して、 甲3発明では、「出力調整レバー39は、リール本体1の側板3及び枠板1bの外面上に設けられ、且つ側板3の後部周面上に配置されている」点。 2 判断 (1)相違点3-1について ア 電動リールを装着した釣竿を片手で把持し、把持した手の親指でモータ出力調整などのスプール回転制御に係る操作部材を容易に操作しようとすることは、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証、甲第24号証、甲第30号証に記載されているように本件原出願前において周知の課題であり、そのような作用効果を奏するものも本件原出願前から種々知られている。特に甲第5号証、甲第10号証、甲第24号証、甲第30号証のカタログに開示されている魚釣用電動リールは、手のひらにのる程度に小型化、軽量化が図られており、駆動モータの出力を制御する操作部材の操作性の向上を指向したものであるとともに、甲第24号証の「VS300」については、釣竿とリール本体とを片手で把持し、その把持した手の親指で駆動モータの出力を制御する操作部材(「変速」スイッチ)を操作することを予定したものであるといえる。また、甲第6号証には、その記載事項からみて、駆動モータの出力を制御する寸動スイッチ53をリール本体と釣竿とを片手で把持した状態で操作することが開示されているといえる。 イ 甲第1号証には、モータ出力調節体40の操作部40a(操作部材)の配置や形状(操作形態)について、図5及び図6(b)に記載の実施形態(甲1発明)のほかに、図3及び4に記載の実施形態や、図8に記載の実施形態が記載されているから、甲第1号証には、操作部40a(操作部材)の配置や形状(操作形態)を変更することが開示されているといえる。 ウ 電動リールにおいて、駆動モータの出力を調整する操作部材をリール本体の側方後方側に配置することは、甲第3号証のほかに、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第12号証に記載されているように本件原出願前に周知である。 エ 電動リールにおいて、モータ出力の調整を行う操作部材を前後方向に回転操作することは、甲第3号証のほかに、甲第1号証、甲第4号証、甲第17号証に記載されているように本件原出願前に周知である。 オ 上記第6の4のとおり、「アクセルレバーは、コントロールボックスの後方側で右の側板の後部の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、レバー形状に形成され、その操作部が側板の後部の上部の表面に露出している、魚釣用電動リール。」は公然実施されている。また、甲第24号証(カタログ)には、「アクセルレバー」について「魚の引きにあわせたスピード調整が可能。操作性を重視したレバーの位置と形状で、パーミング状態での巻き上げ・やりとりもOK」と記載されている。 カ 甲第1号証には、円筒状のモータ出力調節体を前後方向に回転操作可能に設けたもの(「第3の実施形態」)が記載されており、また、甲第2号証には、図7からみて略円筒形状といえる回動ツマミからなる操作部5(操作部材)が記載されており、さらに、甲第17号証には、前後方向に回転操作する円筒形状のジョグダイヤル85(操作部材)が記載されているように、円筒形状の操作部材は、本件原出願前から周知である。 キ 操作性を向上させることは一般的な課題であり、甲3発明においても、出力調整レバー39(操作部材)の配置や形状(操作形態)を操作し易いように変更しようとすることは、当業者が容易に着想し得ることであって、上記アないしカに記載した操作部材の配置や形状(操作形態)に係る公知技術及び周知技術を踏まえると、当業者であれば、甲3発明の出力調整レバー39(操作部材)を、釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を考慮して、コントロールボックス24(制御ケース)の後方側で、左右の側板2,3の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で設けるとともに、前後方向に回転可能に装着された円筒形状からなる形態に変更することは、容易に想到し得たことといえる。 ク 加えて、甲3発明の操作部材を指や手の無理のない姿勢で操作することができるように、操作部材の大きさを適した寸法にすることは、当業者であれば当然に考慮することであって、略円筒形状に形成した操作部材の直径及び軸方向長、並びに突出高さを、人の指先の可動域及び親指の幅(甲第29号証の1及び2の計測結果では、親指の第1指関節幅の平均値が、男性では20.1mm、女性では17.6mm、男女平均では19.1mmとされている。)に応じて、「直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mm」並びに「突出高さが0.5?12mm」の範囲内のものとすることは,当業者が適宜選択することのできる設計的事項にすぎないというべきである。また、携帯ラジオ、カメラ等の機器において、操作部材の大きさとして、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmという範囲は、ごく通常の範囲で常識的なものである(甲第28号証参照。)。なお、先に述べたように、本件訂正発明における直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mm、突出高さが0.5?12mmとの数値範囲に臨界的意義があるということはできず、上記数値範囲は、人の指先の可動域及び親指の幅から通常想定される範囲を規定したものにすぎないというべきである。 ケ 以上のとおりであるから、本件訂正発明の相違点3-1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 3 被請求人の主張について 被請求人は、上記第8の無効理由2に係る主張と同様の主張をしているが、上記第8の3で述べたように、採用することができない。 4 むすび 以上のとおり、本件訂正発明は、甲3発明、甲第1、2号証に記載された技術事項、周知技術、及び、公然実施発明(甲第24号証)に基いて、本件特許出願前に、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 したがって、本件訂正発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 第11 無効理由5(公然実施発明を主引例とする進歩性欠如)の検討 1 対比 (1)本件訂正発明と公然実施発明(上記第6の4(2)を参照。)とを対比すると、公然実施発明の「電動巻き上げの変速を行うためのアクセルレバー」及び「コントロールボックス」は、その技術的意味、構造及び機能などからみて、本件訂正発明の「駆動モータの出力を調整する操作部材」及び「制御ケース」にそれぞれ相当する。 (2)したがって、本件訂正発明と公然実施発明とは、次の一致点で一致し、相違点4-1で相違する。 (一致点) 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、 前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、 前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、 前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、 を有する魚釣用電動リール。」 (相違点4-1) 操作部材について、 本件訂正発明では、「操作部材は、釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に前記側板の上部の表面から露出し、前記円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5?12mmの範囲に設定されている」のに対して、 公然実施発明では、「アクセルレバーは、コントロールボックスの後方側で右の側板の後部の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、レバー形状に形成され、その操作部が側板の後部の上部の表面に露出している」点。 2 判断 (1)相違点4-1について ア 甲第24号証(カタログ)には、「アクセルレバー」について「魚の引きにあわせたスピード調整が可能。操作性を重視したレバーの位置と形状で、パーミング状態での巻き上げ・やりとりもOK」と記載されている。 イ 電動リールを装着した釣竿を片手で把持し、把持した手の親指でモータ出力調整などのスプール回転制御に係る操作部材を容易に操作しようとすることは、甲第24号証のほかに、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証、甲第30号証に記載されているように本件原出願前において周知の課題であり、そのような作用効果を奏するものも本件原出願前から種々知られている。特に甲第5号証、甲第10号証、甲第24号証、甲第30号証のカタログに開示されている魚釣用電動リールは、手のひらにのる程度に小型化、軽量化が図られており、駆動モータの出力を制御する操作部材の操作性の向上を指向したものであるとともに、甲第24号証の「VS300」については、釣竿とリール本体とを片手で把持し、その把持した手の親指で駆動モータの出力を制御する操作部材(「変速」スイッチ)を操作することを予定したものであるといえる。また、甲第6号証には、その記載事項からみて、駆動モータの出力を制御する寸動スイッチ53をリール本体と釣竿とを片手で把持した状態で操作することが開示されているといえる。 ウ 甲第1号証には、モータ出力調節体40の操作部40a(操作部材)の配置や形状(操作形態)について、図5及び図6(b)に記載の実施形態(甲1発明)のほかに、図3及び4に記載の実施形態や、図8に記載の実施形態が記載されているから、甲第1号証には、操作部40a(操作部材)の配置や形状(操作形態)を変更することが開示されているといえる。 エ 電動リールにおいて、駆動モータの出力を調整する操作部材をリール本体の側方後方側に配置することは、甲第1号証、甲第3号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第12号証に記載されているように本件原出願前に周知である。 オ 電動リールにおいて、モータ出力の調整を行う操作部材を前後方向に回転操作することは、公然実施発明のほかに甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第17号証に記載されているように本件原出願前に周知である。 カ 甲第1号証には、円筒状のモータ出力調節体を前後方向に回転操作可能に設けたもの(「第3の実施形態」)が記載されており、また、甲第2号証には、図7からみて略円筒形状といえる回動ツマミからなる操作部5(操作部材)が記載されており、さらに、甲第17号証には、前後方向に回転操作する円筒形状のジョグダイヤル85(操作部材)が記載されているように、円筒形状の操作部材は、本件原出願前から周知である。 キ 操作性を向上させることは一般的な課題であるところ、上記アを踏まえると、公然実施発明においても、アクセルレバー(操作部材)の配置や形状(操作形態)を操作し易いように変更しようとすることは、当業者が容易に着想し得ることであって、上記イないしカに記載した操作部材の配置や形状(操作形態)に係る公知技術及び周知技術を踏まえると、当業者であれば、公然実施発明のアクセルレバー(操作部材)を、釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を考慮して、コントロールボックス(制御ケース)の後方側で、左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で設けるとともに、前後方向に回転可能に装着された円筒形状からなる形態に変更することは、容易に想到し得たことといえる。 ク 加えて、公然実施発明の操作部材を指や手の無理のない姿勢で操作することができるように、操作部材の大きさを適した寸法にすることは、当業者であれば当然に考慮することであって、略円筒形状に形成した操作部材の直径及び軸方向長、並びに突出高さを、人の指先の可動域及び親指の幅(甲第29号証の1及び2の計測結果では、親指の第1指関節幅の平均値が、男性では20.1mm、女性では17.6mm、男女平均では19.1mmとされている。)に応じて、「直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mm」並びに「突出高さが0.5?12mm」の範囲内のものとすることは,当業者が適宜選択することのできる設計的事項にすぎないというべきである。また、携帯ラジオ、カメラ等の機器において、操作部材の大きさとして、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmという範囲は、ごく通常の範囲で常識的なものである(甲第28号証参照。)。なお、先に述べたように、本件訂正発明における直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mm、突出高さが0.5?12mmとの数値範囲に臨界的意義があるということはできず、上記数値範囲は、人の指先の可動域及び親指の幅から通常想定される範囲を規定したものにすぎないというべきである。 ケ 以上のとおりであるから、本件訂正発明の相違点4-1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 3 被請求人の主張について 被請求人は、上記第8の無効理由2に係る主張と同様の主張をしているが、上記第8の3で述べたように、採用することができない。 4 むすび 以上のとおり、本件訂正発明は、公然実施発明(甲第24号証)、甲第1、2号証に記載された技術事項、及び、周知技術に基いて、本件特許出願前に、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 したがって、本件訂正発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 第12 無効理由6(公然実施発明を主引例とする進歩性欠如)の検討 1 対比 本件訂正発明と甲24発明(上記第6の5(12)を参照。)とを対比すると、次の一致点で一致し、相違点5-1で相違する。 (一致点) 「リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、前記シール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケ一スと、を有する魚釣用電動リールにおいて、前記操作部材は、釣竿とともにリール本体を把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で操作可能に装着されるとともに、その外表面が操作部として前記釣竿とともにリール本体を把持保持した状態の手の親指で押え付けて操作可能にリールの表面から露出している、魚釣用電動リール。」 (相違点5-1) 操作部材について、 本件訂正発明では、「操作部材は、釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に前記側板の上部の表面から露出し、前記円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5?12mmの範囲に設定されている」いるのに対して、 甲24発明では、「変速スイッチ及びON/OFFスイッチは、ボタン形状に構成され、釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で、前記制御ケースの左右の側板側の表面に押圧可能に装着されるとともに、その外表面の円形領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて押圧操作可能に前記制御ケースの左右の側板側の上部の表面から露出している」点。 2 判断 (1)相違点5-1について ア 電動リールを装着した釣竿を片手で把持し、把持した手の親指でモータ出力調整などのスプール回転制御に係る操作部材を容易に操作しようとすることは、甲24発明の他にも、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証、甲第30号証に記載されているように本件原出願前において周知の課題であって、甲24発明、及び甲第5号証、甲第10号証、甲第29号証のカタログに開示されている魚釣用電動リールは、手のひらにのる程度に小型化、軽量化が図られており、駆動モータの出力を制御する操作部材の操作性の向上を指向したものであるといえる。 イ また、甲第1号証には、モータ出力調節体40を、リール本体4の手動巻取用ハンドル2が設けられる側板以外の様々な部分に配設することが可能であることが記載されており(段落【0035】)、実施形態として、図5及び図6(b)に基づく甲1発明のほか、モータ出力調節体をリール本体の反ハンドル側で、かつ後方側(釣糸巻取方向側)の上部に回転可能に取り付けたもの(図3及び4に記載の「第1の実施形態」の「第1の変形例」)や、スプールの後方の側板間に配設されているサムレストに、前後方向に回転操作可能に設けたもの(図8に記載の「第3の実施形態」)なども開示されていることに照らせば、小型化された魚釣用電動リールにおいて、リール本体を保持した手の指による操作性の向上を考慮して、モータ出力調節体の配置や形状(操作形態)を変更することは、本件原出願前において周知であったといえる。 ウ 加えて、電動リールにおいて、駆動モータの出力を調整する操作部材が、ダイヤル式やレバー形状のように回転可能なものも、スライド式のようにスライド可能なものも存在し、それらが置換可能であることは、甲第13号証、甲第14号証に記載されているように本件原出願前に周知である。また、電動リールにおいて、操作部材を制御ケースに配設するとともに、制御ケースに支持された支軸に回転可能に装着することは、甲第2号証に記載されているように本件原出願前に周知である。加えて、甲第1号証には、円筒状のモータ出力調節体を前後方向に回転操作可能に設けたもの(「第3の実施形態」)が記載されており、また、甲第2号証には、図7からみて略円筒形状といえる回動ツマミからなる操作部5(操作部材)が記載されており、さらには、甲第17号証には、前後方向に回転操作する円筒形状のジョグダイヤル85(操作部材)が記載されているように、円筒形状の操作部材は、本件原出願前から周知である。 エ 上記アないしウで述べたことを踏まえると、甲24発明の「変速スイッチ」や「ON/OFFスイッチ」をボタン式のものからダイヤル式の略円筒形状のものに置き換え、リール本体を構成する制御ケースに支持された支軸に前後方向に回転可能に装着されたものとすることは、当業者が容易に想到できたことである。そして、そのような構成を備えた場合、操作部材の前後方向への回転操作は、親指で押え付けるようにして行われ得るものであることは明らかである。 オ また、甲24発明の操作部材を指や手の無理のない姿勢で操作することができるように、操作部材の大きさを適した寸法にすることは、当業者であれば当然に考慮することであって、略円筒形状に形成した操作部材の直径及び軸方向長、並びに突出高さを、人の指先の可動域及び親指の幅(甲第29号証の1及び2の計測結果では、親指の第1指関節幅の平均値が、男性では20.1mm、女性では17.6mm、男女平均では19.1mmとされている。)に応じて、「直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mm」並びに「突出高さが0.5?12mm」の範囲内のものとすることは,当業者が適宜選択することのできる設計的事項にすぎないというべきである。また、携帯ラジオ、カメラ等の機器において、操作部材の大きさとして、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmという範囲は、ごく通常の範囲で常識的なものである(甲第28号証参照。)。なお、先に述べたように、本件訂正発明における直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mm、突出高さが0.5?12mmとの数値範囲に臨界的意義があるということはできず、上記数値範囲は、人の指先の可動域及び親指の幅から通常想定される範囲を規定したものにすぎないというべきである。 カ 以上のとおりであるから、本件訂正発明の相違点5-1に係る構成とすることは、容易に想到し得たことといえる。 3 被請求人の主張について 被請求人は、甲24発明は、小型化のために機能をそぎ落とす目的で、モータ出力の調節のための操作部材を、制御ケースの上面に2つのボタンを備えるシンプルな構成としたものであるから、このボタン式の操作部材に代えて、円筒形状に構成し、当該親指で押え付けて前後方向に転がし(回転)操作が可能となるように少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で制御ケースに配設されるとともに、制御ケースに支持された支軸に前後方向に回転可能に装着する操作部材に代える動機付けもなければ、ましてやこのような複雑な操作部材を採用することに阻害要因がある旨主張する。 しかしながら、上記2で述べたように、魚釣用電動リールは、本件原出願前から手のひらにのる程度に小型化、軽量化が図られており、駆動モータの出力を制御する操作部材の操作性の向上も指向されていた。また、電動リールにおいて、駆動モータの出力を調整する操作部材が、ダイヤル式やレバー形状のように回転可能なものも、スライド式のようにスライド可能なものも存在し、それらが置換可能であることは、本件原出願前において周知であり、また、円筒形状の操作部材は、本件原出願前から周知であった。そして、これらに接した当業者であれば、ボタン式の操作部材に代えて、円筒形状に構成し、親指で押え付けて前後方向に転がし(回転)操作が可能となるように構成することは、容易に想到できたといえる。 よって、被請求人の主張は採用できない。 4 むすび 以上のとおり、本件訂正発明は、甲24発明、及び、周知技術に基いて、本件特許出願前に、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 したがって、本件訂正発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 第13 無効理由7(明確性要件違反)の検討 請求人は、操作部材の配設位置を「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」と特定したとしても、リール本体の大きさや形状を構成として特定するものではなく、また、人によって手の大きさは異なるから、同じリールであっても釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置は異なるので、本件訂正発明の「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」は不明確である旨主張する。 そこで、請求人の主張する明確性要件について以下に検討する。 本件訂正発明の「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」は、機能的(作用的)な表現ではあるが、文言上は明確であるといえる。 そして、リールを備えた釣竿を使用する対象者の手の大きさは一定の範囲に収まるものであること(乙第15号証の1及び2を参照。)を踏まえると、「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持」できる電動リールは、そのような手の大きさの範囲で、釣竿とリール本体を片手で把持保持できる大きさ、形状であると認識することができ、「手の親指が届く位置」とはそのような状態でその手の親指が届く位置であることも認識できる。 したがって、本件訂正発明の「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」は、明確である。 第14 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正発明は、請求人が主張する無効理由1及び7には理由がないが、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるので、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人の負担とする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 魚釣用電動リール 【技術分野】 【0001】 本発明は、魚釣用電動リールに関する。 【背景技術】 【0002】 従来、魚釣用電動リールは、主に深場の釣りに適用させるべく、仕掛けの放出から巻き取りに至るまで、釣竿を船縁に装着された竿掛けに置いたままの状態で行えるように構成されたものが多いが、最近では、手持ち状態で操作が行えるように工夫されたものが知られている。 【0003】 例えば、魚釣用電動リールのスプールを巻き取り操作する(モータ出力を連続的に可変操作する)ための操作部材を、様々な位置に配置することが知られている。例えば、特許文献1には、リール本体の側方の前方側に、モータ出力を調整するスライドレバー式の操作部材を前後方向に移動可能に支持したもの、或いは、リール本体の後方に、モータ出力を調整する回転式の操作部材を回転可能に支持したものが開示されている。また、特許文献2には、制御ケースの上面から円板状の回転摘み(操作部材)の一部を露出させ、上方から親指を押し付けながら回転操作することで、モータ出力を連続的に可変させる構成が開示されている。さらに、特許文献3には、左側板上に、プッシュボタン式のモータ出力操作部材を設置したものが開示されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2001-169700号 【特許文献2】特開2003-92959号 【特許文献3】特開2001-169701号 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 上記したように、最近の魚釣用電動リールでは、ルアーフィッシングに用いられる魚釣用(ベイトキャスティング)リールと同様、手持ち状態で操作することが可能なタイプも望まれているが、従来のモータ出力を調整する操作部材の配置を工夫した魚釣用電動リールでは、操作性の面でさらに改良すべき余地がある。すなわち、釣竿とリール本体を把持する片手の親指での操作と把持の両面で満足できるものとはなっておらず、特に、釣竿とリール本体を把持する片手で、モータの出力調整操作をあらゆるシーン(単なる仕掛け回収のような巻き取りや、魚を誘う場合に応じた複雑(緩急)な巻き取り操作等)に適宜対応できるものとはなっていない。また、急激な魚の引きに対して把持状態が不安定になったり、親指が届いても、力を入れることができない位置に操作部材(操作部)があり、所望の巻き取り状態が得られない可能性もある。 【0006】 本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに、その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき、更には、操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 上記した目的を達成するために、本発明に係る魚釣用電動リールは、リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、を有しており、前記操作部材は、釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に回転可能に装着されるとともに、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に前記側板の上部の表面から露出し、前記円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5?12mmの範囲に設定されていることを特徴とする。 【0008】 上記した構成の魚釣用電動リールでは、釣竿とリール本体を把持する片手の掌の一部が本体の側板にフィットした状態で、操作部材に親指が届き、操作した際の力を十分に伝えることができる。また、操作部材は、略前後方向に回転可能に支持されているため、露出部分を少なくしても操作領域を確保することができるとともに、把持している手の親指で回転操作した際、親指が左右にずれることがなく把持安定性が高くなる。 【発明の効果】 【0009】 本発明によれば、釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに、その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき、更には、操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールが得られる。 【図面の簡単な説明】 【0010】 【図1】本発明の第1の実施形態に係る魚釣用電動リールの平面図。 【図2】図1に示した魚釣用電動リールを左側板側から見た側面図。 【図3】図1に示した魚釣用電動リールを後方側から見た後面図。 【図4】図1に示した魚釣用電動リールの内部機構を部分的に示した平面図。 【図5】図1のA-A線に沿う要部拡大断面図。 【図6】図1に示した魚釣用電動リールの内部駆動機構を側方から見た概略図。 【図7】図1のB-B線に沿う断面図。 【図8】釣竿とともにリール本体を把持した状態で操作部材を操作する状態を示す平面図。 【図9】図8を左側板側から見た図。 【図10】本発明の第2の実施形態に係る魚釣用電動リールの平面図。 【図11】図10に示した魚釣用電動リールを左側板側から見た側面図。 【図12】図10のC-C線に沿う要部拡大断面図。 【図13】図10のD-D線に沿う要部拡大断面図。 【図14】操作部材の第1の変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は中央断面図、(c)は側面図。 【図15】操作部材の第2の変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は中央断面図、(c)は側面図。 【図16】操作部材の第3の変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は中央断面図、(c)は側面図。 【発明を実施するための形態】 【0011】 以下、図面を参照しながら、本発明に係る魚釣用電動リールの実施形態について説明する。 図1から図7は本発明の第1の実施形態を示す図であり、図1は平面図、図2は左側板側から見た側面図、図3は後方側から見た後面図、図4は内部機構を部分的に示した平面図、図5は図1のA-A線に沿う要部拡大断面図、図6は内部駆動機構を側方から見た概略図、そして、図7は図1のB-B線に沿う断面図である。 なお、以下の説明において、前後方向、左右方向、上下方向は、図1及び図2に記載の方向と定義する。 【0012】 図1に示すように、本実施形態に係る魚釣用電動リール1は、左右のフレーム3a,3bに左右カバー(左右サイドプレート)4a,4bを取着して構成される左右側板5A,5Bを具備したリール本体5を有している。リール本体5を構成する一方の側板(右側板5B)側には、巻取り操作される手動ハンドル6が設けられており、左右側板5A,5B間には、釣糸が巻回されるスプール7が、回転軸であるスプール軸7a(図7参照)を中心に回転可能に支持されている。また、本実施形態では、図6及び図7に示すように、スプール7の前方側における左右側板5A,5B間に駆動モータ8を保持しており、スプール7は、手動ハンドル6の巻取り操作および駆動モータ8の回転駆動によって、動力伝達機構10を介して釣糸巻取り方向に回転駆動される。 【0013】 なお、駆動モータ8については、スプール7の内部に設置する構成であっても良いが、本実施形態のように、スプール7の前方に設置することで、スプール7の糸巻き量を確保しつつ、リール本体5を可及的にコンパクト化することが可能となる。また、動力伝達機構10については、駆動モータ8の回転駆動力を減速してスプール7側に伝達する機能(減速機構102および伝達ベルト103(図4参照)などによって果たされる)、駆動モータ8が回転駆動しても手動ハンドル6を連れ回しさせない機能や手動ハンドル6の逆回転を防止する機能(ラチェット104を含む)などを備えた公知のものによって構成することが可能である。また、そのような動力伝達機構10については、左側板5A側に配設されていても良いし、右側板5B側に配設されていても良く、或いは、左右側板それぞれに振り分けて配設されていても良い。なお、図中(特に図4)、符号116は、ハンドル6に結合されたハンドル軸、符号118は、ハンドル軸116に回転可能に支持されたドライブギヤ、符号120は、ドライブギヤ118に噛合するピニオンであり、これらは前述した動力伝達機構10を構成する。また、図中、符号125は、魚釣時にスプール7から釣糸が繰り出された際にスプール7の回転にドラグ力を付与する公知のドラグ機構であり、リール本体5とハンドル6との間には、ドラグ機構125によるドラグ力の調整を行なうための星型のドラグ調整ノブ(スタードラグ)139が設けられている。 【0014】 また、スプール7の前方の左右側板5A,5B間には、スプール7に対して均等に釣糸を巻回する機能を備えた公知のレベルワインド機構142(図6および図7参照)が設置されている。さらに、リール本体5を構成する左右側板5A,5B間のスプール7の上方には、駆動モータ8を制御する制御部100(制御基板100A,100Bを有する)を収容した箱型の制御ケース15が配設されている。本実施形態の制御ケース15は、リール本体を構成する左右側板5A,5Bの表面と面一状になるように構成されており、前後方向の長さ寸法が左右方向の長さ寸法よりも長く設定されている。また、制御ケース15の後端部15aは、図5に示すように、側板を構成するフレーム(図では、左フレーム3aが示されている)に対して面一となるように設置されている。 【0015】 また、リール本体5内には、前記ピニオン120を軸方向に移動させてスプール7を釣糸巻き取り状態/フリー回転状態に切り換える公知のクラッチ機構17(図4及び図6参照)が配置されている。このクラッチ機構17は、動力伝達機構10に介在されて手動ハンドル6および駆動モータ8からの動力伝達を継脱する機能を備えており、本実施形態では、右側板5B側に設置されている。このクラッチ機構17を構成するクラッチプレート17aには、動力伝達をON状態からOFF状態に切り換えるクラッチOFF切換部材18と、動力伝達をOFF状態からON状態に切り換えるクラッチON切換部材19が係合している。 【0016】 本実施形態におけるクラッチOFF切換部材18は、スプール7をサミングしながら操作が可能となるように、スプール7の後方側の左右側板5A,5B間に橋設された構成となっており、図7に示す状態から、その表面となる操作部18aに親指を載置して下方に押し下げ操作することで、クラッチ機構17をON状態からOFF状態に切り換えるよう構成されている。このクラッチOFF切換部材18は、図6に示される振り分け保持バネ200によって、図7に示すクラッチON位置とクラッチOFF位置(図示せず)との間で振り分け保持される。 【0017】 また、本実施形態におけるクラッチON切換部材19は、右側板5B側に設置されており、振り分け保持バネ200(図6参照)によって、クラッチON位置とクラッチOFF位置との間で揺動可能となるよう振り分け保持されている。この場合、クラッチON切換部材19は、クラッチON状態では、図6に示すように、その表面の操作部19aが右側板5Bの表面と略面一状となり、クラッチOFF状態では、操作部19aは揺動して右側板5Bの表面から突出するようになっている。そして、クラッチON切換部材19は、スプール7に巻回された釣糸に対して親指の腹部でサミング操作している状態から容易にON操作できるように(左側板の後端側を支点として親指が届き易いように)、巻回されている釣糸の側方でやや後方側に設置されていることが好ましい。 なお、クラッチON切換部材19は、上記のように揺動される機械式以外にも、電気式(例えば、ソレノイドを利用したもの)で構成されていても良い。また、クラッチOFF切換部材18と一体部材で構成されていても良い。 【0018】 前記リール本体5には、駆動モータ8に対して電力を供給するための給電部20が設けられている。この給電部20は、左側板5Aの前方側の下面領域に形成されており、この給電部20に対しては、着脱可能な携帯バッテリ22(図8,図9参照)を装着したり、或いは、足元に置いたバッテリや釣り船に設置されている電源部から電力供給される給電コードが装着される。 【0019】 前記制御ケース15は、図7に示すように、スプール7の上方で、その回転軸(この回転軸としては、本実施形態ではスプール7の外側に駆動モータ8が配置されているためスプール軸7aが該当するが、スプール7の内部に駆動モータ8が配置される別の形態ではスプール軸7aが存在しないためモータ8の回転軸が該当する)近傍からレベルワインド機構142および駆動モータ8を覆うような大きさを備えている。 【0020】 前記制御ケース15の後方部分、特に、図4に示すように、スプール7のフランジ7fの前端位置Pfよりも後方側には、駆動モータ8の出力を調整する操作部材30が配置されている。本実施形態の操作部材30は、制御ケース15の後方側で、左側板5Aの上部で回転可能となるように支持されており、制御ケース15に対して、スプール軸7aと略平行に支持された支軸31の左側板側端部に、略前後方向D1に向けて回転操作可能に装着されている。また、本実施形態の操作部材30は、親指を前後方向にスライドさせて、親指の腹部で転がし操作が可能となるように略円筒形状に構成されており、その操作面30a(親指を接触させて操作される外表面であり、操作部30aとも称する)の略上半分の円弧領域が露出した状態となっている。このため、制御ケース15の左側板側には、操作部材30の操作部30aを露出させるように、左側に開口する凹陥部15Aが形成されており、操作部材30は、凹陥部15Aに収容された状態となっている。 【0021】 この場合、制御ケース15の後方の左側板側には、前記操作部材30が配置される領域に、制御ケース15の表面15bから落ち込むように凹所15Bが形成されており、前記凹陥部15Aは、その凹所15Bの範囲内で略円筒形状の操作部材30が配置されるように、下方側が半円状に窪んだ形状となっている(図5参照)。このため、制御ケース15は、後述するように液晶表示部や、各種制御部材が収容されて厚肉化されるものの、その後端側に凹所15Bを形成し、かつ、その凹所15B内に上記した形状の凹陥部15Aを形成して、操作部材30を配置することで、可及的にロープロファイル化を図るようにしている。また、制御ケース15の表面15bから窪んだ凹所15Bを形成し、その凹所内に操作部材30を配置しておくことで、リール本体5を把持した状態で、視認しなくても、親指で凹所15Bの位置が把握でき、これにより、感覚的に操作部材30が存在する位置を正確に認識することが可能となる。すなわち、操作部材30の周囲を凹状に窪ませておくなど、親指で感知できるように、表面を形状変化させておくことで、感覚的に操作部材30の正確な位置を把握させ易くすることが可能となる。 【0022】 なお、本実施形態では、凹陥部15Aは、半円状に窪んだ湾曲部15cによって、前記略円筒形状の操作部材30の下方領域を収容しているが、凹陥部15Aは、上下方向に貫通した状態で操作部材30を収容するようにしても良い。また、左側板5Aの上面には、操作部材30、或いは凹陥部15Aの湾曲部15cに対応して、円弧状の凹所を形成しておいても良い。 【0023】 前記操作部材30(操作部30a)は、上記したように、上方から押え付けて転がすような操作ができるよう露出した状態で回転可能に支持されているが、図5に示すように、周辺の表面(本実施形態では、制御ケース15の凹所15Bの表面15d)に対して、その操作部(操作面)30aが突出した状態となっている。具体的に、本実施形態の略円筒形状の操作部材30(操作部30a)は、直径Dが12mmに形成されており、表面15dに対して突出高さhが3.6mmとなるように設置されている。また、操作部30aの表面には、転がし操作する際に、滑り難いように、周方向に連続する凹凸30bを形成しておくことが好ましい。 【0024】 この場合、操作部材30は、リール本体を確実に把持した状態で、安定して転がす操作ができるように、前記突出高さhについては、0.5?12mmの範囲に設定しておくことが好ましい。これは、突出高さhが0.5mm未満となると、親指の接触面積が小さくなり過ぎて、滑りが生じる等、操作性が悪くなるためである。また、12mmを超えてしまうと、大きく突出した状態となってしまい、その周辺部の把持圧力が小さくなって、把持安定度が低下してしまうためである。 【0025】 また、前記操作部材30の直径Dについては、10?24mmの範囲のものを用いることが好ましい。これは、直径が10mm未満のものを用いると、親指との接触面積が小さくなり過ぎて、滑りが生じる等、操作性が悪くなるためである。また、24mmを超えてしまうと、周辺部(本体)の把持領域が少なくなり、把持安定度が低下するためである。なお、操作部材30の軸方向長さLについては、親指を押え付けて安定して転がし操作ができるように、2.0?20mmとしておくことが好ましい。 【0026】 さらに、制御ケース15に、上記したような構成で操作部材30を回転可能に支持する場合、操作部材30は、その頂部Pが、制御ケース15の表面15b(図5においてP1で示す)に対して下方となるように設置することが好ましい。このようにすることで、制御ケース15表面に、親指を当て付けた状態で親指を表面に沿ってシフトするだけで、引っかかることなく、操作部材30上に親指を載置することができ、迅速な巻き取り操作に移行することが可能となる。 【0027】 前記操作部材30は、制御ケース15に配設される支軸31に装着されており、その支軸31の右端部には、操作部材30の操作角度を検知する検知手段、具体的には、角度センサ130が設置されている。この角度センサ130は、制御ケース15の後端側で右側板側に設けられた収容部15Dにシールされた状態で組み込まれており、制御ケース後端側で回転可能に支持された支軸31の回転位置に応じた操作位置信号を出力する。すなわち、角度センサ130は、操作部材30の操作位置に応じて操作信号を出力し、モータ8の出力は、操作部材30の操作位置に応じて調整することが可能となっている。 【0028】 上記したように、制御ケース15は、左右側板5A,5B間に装着される構造となっており、そのような制御ケースに、支軸31、操作部材30、及び角度センサ130を予め組み込んでおくことで、構造が簡略化され、生産性及びメンテナンス性の向上が図れるようになる。特に、角度センサ130も併せて制御ケース内に組み込んでおくことで、配線及び防水性の面でも有利となる。また、制御ケース15は、左右方向よりも前後方向に長い形状としたことで、操作部材30や角度センサ130の組み込みスペースが確保できる。 【0029】 また、上記したように、前記支軸31は、前記スプール7の回転軸(スプール軸7a)と略平行となるように回転可能に支持されているため、前記操作部材30は、略前後方向(釣竿の方向;矢印D1に示す方向)に変位できるようになっている。この操作部材30は、リール本体5を掌で把持した状態で操作することから、操作部材30に親指を当接させた際、親指の位置が大きく横にずれることがなく、特に、外側にずれることがないため、把持安定性が高くなる。この場合、操作部材30を回転させた際の指(親指)の位置の横方向のずれを考慮すると、上記した略平行の範囲については、スプール7の回転軸に対して±30°の範囲内であれば良い。すなわち、±30°の範囲内であれば、リール本体5を把持保持した状態で、操作部材30を自由に回転しても、親指の位置が横方向にずれ難くなり、リール本体を把持保持した際のバランスが悪くなることがなくなる。 なお、本実施形態のリール本体5は、釣竿とともに片手で把持して操作可能な大きさに構成されており、上記した操作部材30は、リール本体5を、竿取付部5aを介して釣竿に装着した際に、図8及び図9に示すように、釣竿Rとともにリール本体5を把持保持した状態の手の親指Tが届く位置に配設されている。 【0030】 上記した制御ケース15には、図7に示されるように、駆動モータ8の駆動を制御する制御部100が収容されており、操作部材30の回転操作量に応じて駆動モータ8の出力を調整するようになっている。この場合、制御部100は、操作部材30を前方に向けて回転操作することで、駆動モータ8の出力が上昇するように設定されている。なお、操作部材30の回転操作量と駆動モータ8の出力との関係については任意であるが、本実施形態では、操作部材30の基準位置をモータの出力値0として、所定角度(例えば、120°)前方に回転操作した際、モータ出力がMaxになるように設定されている。すなわち、前方方向に向けて操作した際に増速とすることで、釣竿とリール本体を持つ手に負荷がかかる高速巻き取り時に、より前方を把持できるので、把持保持性が高くなり、操作性が良く、疲れ難くなる。もちろん、操作部材30については、後方に向けて回転操作した際に、駆動モータ8の出力が上昇するように設定しても良い。 【0031】 前記制御ケース15の表面には、繰り出された釣糸の長さ(糸長情報)などを表示する表示部(液晶表示部)16が設けられており、また、その周囲には、各種の情報が設定可能な複数の操作ボタン16a,16bが配設されている。この場合、本実施形態では、操作ボタン16a,16bは、図8に示されるように、制御ケース15の上面において、表示部16と操作部材30との間で、且つ釣竿Rとともにリール本体5を把持保持した状態で親指が届く位置とされている。 【0032】 前記制御ケース15に収容される制御部100は、魚釣用電動リールの動作を制御するCPU(Central Processing Unit)等を実装した制御基板(マイクロコンピュータ)100A、及び各種駆動回路を実装した回路基板100Bを備えており、これらは、省スペース化のため、表示部16の下方で上下方向に重なるように配置されている。すなわち、前記制御基板100Aは、操作部材30の支軸31の操作角度に応じて操作位置信号を出力する前記角度センサ130、スプール7に巻回されている釣糸の繰り出し量を検知することが可能な糸長計測装置、制御ケース15上に設けられた液晶表示部16に対して各種の情報を表示させる表示制御回路、制御ケース15上に設けられた操作ボタン16a,16b、及び駆動モータ8の出力を停止状態から高出力値まで連続的に増減調整するモータ駆動回路との間で信号の送受信を行い、魚釣用電動リールの動作を制御する。 【0033】 上記した構成の魚釣用電動リールによれば、操作部材30がスプール7のフランジ7f前端よりも後方側で、左側板5Aの上部に設置されているため、図8及び図9に示すように、釣竿Rとリール本体5を把持する片手の掌の一部が本体5の左側板5Aにフィットした状態で、操作部材30に親指Tが届き、操作した際の力を十分に伝えることができる。また、操作部材30は、略円筒形状に構成されて、略前後方向に回転可能に支持されているため、露出部分を少なくしても操作領域を確保することができる。また、把持している手の親指Tで、前後方向にスライドするような操作をすることで、操作部材を転がすことができ、モータ出力操作を自在に操ることが可能となる。また、前後方向に操作することから、親指が左右にずれることがなく把持安定性が高くなる。 【0034】 さらに、操作部材30の操作面は、その周辺の表面に対して、0.5?12mm突出させていることで、突出している面積を比較的小さくして、親指の腹側で操作面とリール本体5の周辺部を同時に把持することが可能となり、これにより、大きな負荷が掛かっても、親指Tの周辺でリール本体5を直接把持した状態となり、しっかりとした把持、及び操作が行えるようになる。 【0035】 上記した構成では、操作部材30は、左側板5Aの上部に配設したが、操作ハンドルが左側板側に設置された構成では、右側板5Bの上部に配設するようにしても良い。また、上記した支軸31の右端部側(右側板5Bの上部)に、同様な構成の操作部材を配設しても良い。このような構成では、モータ出力の調整を行う操作部が、左右側板上に振り分けて配設されるため、置き竿時等、操作性に優れた構成とすることができる。この場合、角度センサについては、支軸31の中央領域に設置することができ、構造を簡略化することも可能である。もちろん、左右側板上に設置される操作部材については、略前後に操作されるものであれば良く、レバータイプに構成しても良い。 【0036】 次に、本発明の別の実施形態について説明する。なお、以下に例示する実施形態では、上述した第1の実施形態と同様な構成要素については、同一の参照符号を付し、詳細な説明については省略する。 図10から図13は、本発明の第2の実施形態を示す図であり、図10は平面図、図11は左側板側から見た側面図、図12は図10のC-C線に沿う要部拡大断面図、そして、図13は図10のD-D線に沿う要部拡大断面図である。 【0037】 上記した実施形態では、操作部材は制御ケース部分に配設されていたが、操作部材は、制御ケースと関係ない部分に配設しても良い。本実施形態の操作部材40は、制御ケース15の後方側で、スプール7のフランジ7f後端より前方側に、左側板5A上に凹所5eを形成し、その凹所5e内に設置されている。この操作部材40は、略円筒形状(内部を中空状にしたカップ形状)に形成されており、好ましくは、その操作部40aの内部に、角度センサ140を収容する空洞部40bが形成されている。具体的には、操作部材40は、スプール側が開口しており、この開口部分に、左フレーム3aに突出形成された環状突起3dが嵌入されている。環状突起3d内には、固定部材142によって固定された角度センサ140が嵌入されており、前記操作部材40は、空洞部40b内に前記固定部材142及び環状突起3dが収容された状態で、これらの部材に対して相対回転可能となっている。また、前記操作部材40の底部40cには、断面非円形の穴40dが形成されており、その部分に角度センサ140の軸140aが嵌合固定され、操作部材40の操作部40aを回転した際、軸140aの回転量が検知できるようになっている。 【0038】 さらに、操作部材40の底部40cには、軸方向外方に突起40eが形成されており、この突起40eが、左側板を構成する左サイドプレート4aに一体形成された支持部(支持穴)4dに係止されている。これにより、操作部材40は、角度センサ140の軸140aに取り付けられた状態で、その両側が、左側板を構成する左フレーム3aと左フレームに装着される左サイドプレート4aとの間に支持された状態となり、大きな負荷に対して強い支持構造となっている。 【0039】 また、操作部材40の操作部40aの内部に、角度センサ140を軸方向に重合するように収容したことで、左右幅方向の省スペース化が図れるようになる。特に、本実施形態のように、左側板5Aの上部に、直接、操作部材40を設置するような構成では、小さいスペース内に、効率的に機能部品を配設することが可能となる。なお、角度センサ140は、本実施形態のように、略全体が空洞部40b内に収容されているのが好ましいが、一部が軸方向に重合するように収容される構造であっても、省スペース化を実現することが可能である。 また、操作部材40は、スプール7のフランジ7f後端より前方側に配置するのが、操作性および把持性において、より好ましい(後方側に操作部を配置するに従い、指の長さが余り、折り曲げて操作・把持することになる。従って、やや前方側がより好ましい。)。 【0040】 上記したように構成される操作部材40は、図12に示すように、その表面の操作部40aの直径Dが12mmで、その周辺部となる左サイドプレート4aの表面4fに対して、所定の高さh(5.5mm)だけ突出するように支持されている。これにより、上記した第1実施形態と同様な操作を行うことが可能となる。もちろん、第1実施形態と同様、操作部40aの直径Dについては、10?24mmにすることが好ましく、その突出高さについては、0.5?12mmに設定しておくことが好ましい。 【0041】 また、本実施形態では、操作部材40を、左側板5A上に設置したことで、制御ケース15そのものを、前後方向に長く構成することが可能である。このため、図10に示すように、制御ケース15に設置される操作ボタン16a,16bを、親指から近くなる(操作が容易になる)後方側に設置したり、制御ケースの後端部に膨出部15Eを形成し、その部分に操作ボタンを配置して操作性を向上することも可能となる。或いは、液晶表示部16を大型化して、視認し易くすることも可能である。 【0042】 以上のように、操作部材については、リール本体を構成する側板上に設置しても良く、また、本実施形態のように、側板を構成するフレームとサイドプレート(カバー)を挟むようにして、操作部材を設置しても良い。 【0043】 図14から図16は、それぞれ上記した略円筒形状の操作部材の変形例を示しており、各図における(a)は操作部材の平面図、各図における(b)は操作部材の断面図、そして、各図における(c)は操作部材の側面図である。 【0044】 操作部材を上述した実施形態のように略円筒形状に構成するのであれば、その略円筒形状については、種々変形することが可能である。例えば、内部を中空状にしたり、その表面形状を変形しても良い。すなわち、操作部材は、回転操作可能であり、その操作表面部が、親指を押え付けて略前後方向に操作できれば、様々な形状で構成することが可能である。 【0045】 図14に示す操作部材50は、その中間部分が湾曲面によって収縮した鼓形状にすると共に、その外周面(操作面50a)に、周方向に沿って連続して凹溝50bを形成している。このような構成では、親指の腹部がフィットし易いと共に、滑りが生じ難くなる。また、図15に示す操作部材60は、その中間部分が湾曲面によって膨出した樽形状にすると共に、その外周面(操作面60a)に、周方向に沿って連続して突起60bを形成している。このような構成では、親指の腹部が掛かり易くなって、滑り難く操作性の向上が図れるようになる。また、図16に示す操作部材70は、円筒形状の表面の一部にレバー部(操作部)70aを形成している。このような構成では、初期値(駆動モータの出力が0)となる位置を明確化することができ、置き竿時における揺れる船上においても、レバー部70aを摘んで操作できることから、操作性の向上が図れるようになる。 なお、前記突出高さを定義する場合、前記突起60bおよびレバー部70aは、操作時に指の腹に十分食い込む程度なので、それらを除いた状態での仮想外径により定義される。 【0046】 以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、駆動モータの出力を調整する操作部材が、左右側板上で、略前後方向に回転可能に支持され、かつ、その周辺部に対して僅かに(具体的には、0.5mm?12mm)突出した構造であれば良く、その設置位置や設置方法、周辺部の形状など、適宜変形することが可能である。また、操作部材の設置位置や形状については、リール本体の大きさ(手持ちタイプ、中型タイプ、大型タイプ)や対象魚に応じて適宜変形することが可能である。さらに、操作部材の操作角度を検知する検知手段についても、その構成や設置方法等、適宜変形することが可能である。 【符号の説明】 【0047】 1 魚釣用電動リール 3a,3b 左右フレーム 4a,4b カバー(サイドプレート) 5 リール本体 5A,5B 左右側板 6 手動ハンドル 7 スプール 7a スプール軸 7f フランジ 8 駆動モータ 15 制御ケース 30,40,50,60,70 操作部材 31 支軸 30a,40a,50a,60a,70a 操作面 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 リール本体の左右側板間に設けられ、釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に設けられ、スプールを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を調整する操作部材と、前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと、 を有する魚釣用電動リールにおいて、 前記操作部材は、釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており、前記制御ケースの後方側で、少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に回転可能に装着されるとともに、直径が10?24mm、軸方向長さが2?20mmの略円筒形状に形成され、その外表面の円弧領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に前記側板の上部の表面から露出し、前記円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5?12mmの範囲に設定されている、ことを特徴とする魚釣用電動リール。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2017-04-28 |
結審通知日 | 2017-05-08 |
審決日 | 2017-05-19 |
出願番号 | 特願2013-157270(P2013-157270) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
ZAA
(A01K)
P 1 113・ 537- ZAA (A01K) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 竹中 靖典 |
特許庁審判長 |
前川 慎喜 |
特許庁審判官 |
住田 秀弘 小野 忠悦 |
登録日 | 2014-11-07 |
登録番号 | 特許第5641624号(P5641624) |
発明の名称 | 魚釣用電動リール |
代理人 | 水野 浩司 |
代理人 | 末吉 亙 |
代理人 | 末吉 亙 |
代理人 | 村上 光太郎 |
代理人 | 小野 由己男 |
代理人 | 高橋 元弘 |
代理人 | 鎌田 邦彦 |
代理人 | 高橋 元弘 |
代理人 | 北井 歩 |
代理人 | 水野 浩司 |
代理人 | 毒島 光志 |