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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C08L
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1331525
審判番号 無効2015-800156  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-07-24 
確定日 2017-07-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5361064号発明「ランフラットタイヤ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5361064号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 請求

特許第5361064号(請求項の数は1)の請求項1に係る発明についての特許(以下「本件特許」という。)を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする旨の審決。



第2 主な手続の経緯等

被請求人は、発明の名称を「ランフラットタイヤ」とする本件特許の特許権者である。

本件特許は、平成10年4月24日にされた特許出願(特願平10-115570号)の一部を新たな特許出願としてされた出願(特願2009-185645号)に係るものであり、平成25年9月13日に設定登録されたものである。

請求人は、平成27年7月24日、本件特許について特許無効審判を請求し、これに対して被請求人は、同年10月9日付けで訂正請求書とともに審判事件答弁書を提出し、これに対して請求人は、同年11月30日付けで審判事件弁駁書を、同年12月28日付けで上申書を各々提出した。

審判長は、平成28年1月19日付けで両当事者に対し口頭審理における審理事項を通知し(審理事項通知書)、これに対して、請求人及び被請求人は、それぞれ同年2月8日付けで口頭審理陳述要領書を提出した。

平成28年2月22日、請求人代理人、被請求人代理人の出頭のもと、第1回口頭審理が行われた。

請求人は、平成28年2月24日付けで上申書を提出し、被請求人は、第1回口頭審理における補正許否の決定に基づき、同年3月22日付けで訂正請求書とともに審判事件答弁書(2)を提出し、これに対して請求人は、同年4月28日付けで審判事件弁駁書(2)を提出し、これに対して被請求人は、同年5月12日付けで上申書を提出した。



第3 訂正の可否

1 被請求人の求めた訂正について
被請求人は、平成27年10月9日付けで訂正の請求をした後、改めて平成28年3月22日付けで訂正の請求をしているから、先の平成27年10月9日付けの訂正の請求は、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなされる。
そこで、被請求人の求めた訂正(以下、「本件訂正」という。)として、平成28年3月22日付けの訂正請求について以下に判断する。


2 本件訂正の趣旨
願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、併せて「本件明細書」という。)について、訂正請求書に添付された訂正した明細書及び特許請求の範囲(以下、併せて「本件訂正明細書」という。)のとおり訂正する。


3 本件訂正の要旨
本件訂正について、訂正事項ごとに掲記すると、以下のとおりである。

(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるサイドウォール部補強用ゴム組成物を用いたことを特徴とするランフラットタイヤ。」
とあるのを、
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であり、天然ゴムを含むサイドウォール部補強用ゴム組成物を用いたことを特徴とするランフラットタイヤ。」
と訂正する。

(2) 訂正事項2
明細書の段落【0006】の記載につき、
「すなわち、本発明は、以下の構成とする。
(1)サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるサイドウォール部補強用ゴム組成物を用いたことを特徴とするランフラットタイヤ。」
とあるのを、
「すなわち、本発明は、以下の構成とする。
(1)サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であり、天然ゴムを含むサイドウォール部補強用ゴム組成物を用いたことを特徴とするランフラットタイヤ。」
と訂正する。


4 本件訂正の可否についての判断
本件訂正の可否について、以下判断する。

(1) 訂正事項1について
ア この訂正は、ランフラットタイヤにおけるサイドウォール部のゴム補強層に用いるサイドウォール部補強用ゴム組成物を特定のもの、すなわち天然ゴムを含むものに限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。
イ しかも、サイドウォール部補強用ゴム組成物が「天然ゴムを含む」ものであることは、本件明細書の段落【0015】及び【0025】に記載がある。
ウ そうすると、この訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に違反するものでもない。

(2) 訂正事項2について
この訂正は、訂正事項1によって特許請求の範囲の請求項1を訂正したことに伴い、明細書の記載を整合させるものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(3) 小括
上記(1)及び(2)のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正はいずれも、特許法第134条の2第1項ただし書き各号に規定するいずれかの事項を目的とするものであり、しかも同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に違反するものでもない。

よって、結論のとおり、本件訂正を認める。



第4 本件発明の要旨

上記第3のとおり本件訂正は認容されるから、審決が判断の対象とすべき特許に係る発明は本件訂正後のものである。そして、その要旨は、本件訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、特許請求の範囲の請求項1に係る発明を、「本件訂正発明」という。)。

「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であり、天然ゴムを含むサイドウォール部補強用ゴム組成物を用いたことを特徴とするランフラットタイヤ。」



第5 請求の理由の補正許否の決定と当事者の主張

1 補正許否の決定
請求人が求める平成27年11月30日付け審判事件弁駁書及び同年12月28日付け上申書による請求の理由の補正(いわゆる新規性欠如に基づく無効理由の根拠として甲第1号証の他の実施例の追試結果を追加する主張。)については、第1回口頭審理において、許可すると決定した(特許法第131条の2第2項。第1回口頭審理調書)。


2 無効理由に係る請求人の主張
本件特許は、下記(1)?(15)のとおりの無効理由があるから、特許法第123条第1項第2号及び第4号に該当し、無効とすべきものである(第1回口頭審理調書及び主張の全趣旨)。
また、証拠方法として書証を申出、下記(16)のとおりの文書(甲第1号証?甲第15号証、甲第30号証及び甲第31号証)を提出する。

(1) 無効理由1(新規性欠如について)
本件訂正発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当するため、無効にされるべきである。

(2) 無効理由2(新規性欠如について)
本件訂正発明は、甲第4号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当するため、無効にされるべきである。

(3) 無効理由3(進歩性欠如について)
本件訂正発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当するため、無効にされるべきである。

(4) 無効理由4(進歩性欠如について)
本件訂正発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当するため、無効にされるべきである。

(5) 無効理由5(進歩性欠如について)
本件訂正発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当するため、無効にされるべきである。

(6) 無効理由6(進歩性欠如について)
本件訂正発明は、甲第4号証に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当するため、無効にされるべきである。

(7) 無効理由7(進歩性欠如について)
本件訂正発明は、甲第4号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当するため、無効にされるべきである。

(8) 無効理由8(進歩性欠如について)
本件訂正発明は、甲第5号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当するため、無効にされるべきである。

(9) 無効理由9(進歩性欠如について)
本件訂正発明は、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当するため、無効にされるべきである。

(10) 無効理由10(進歩性欠如について)
本件訂正発明は、甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当するため、無効にされるべきである。

(11) 無効理由11(サポート要件違反について)
当業者が、本件原出願時の技術常識を考慮しても、本件訂正発明のクレームの全範囲において、本件訂正発明において規定されているパラメータを満足しさえすれば課題を解決できるとは理解することができず、本件訂正発明が、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当するため、無効にされるべきである。

(12) 無効理由12(実施可能要件違反について)
本件訂正明細書には、本件訂正発明において規定されているパラメータを満たすゴム組成物を製造する方法として、特定の劣化防止剤を配合する手法以外の方法について一切記載されておらず、当業者が、本件原出願時の技術常識を考慮しても、本件訂正発明に係る物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物以外の物を作るために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があると認められ、本件訂正明細書の記載は、本件訂正発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分であるとはいえず、特許法第36条第4項第1号の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当するため、無効にされるべきである。

(13) 無効理由13(明確性違反について)
本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下である」と規定されているものの、本件訂正明細書を参酌しても「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下である」の「変動」が意味するところが不明確であり、どのような解釈を採用するかにより、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動値は異なることとなり、ある具体的な物が当該特許請求の範囲に属するものか否かが明確ではなく、本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は、ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されておらず、特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当するため、無効にされるべきである。

(14) 無効理由14(明確性違反について)
本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるサイドウォール部補強用ゴム組成物」と規定されているものの、ゴム組成物の動的貯蔵弾性率について、どのような試験・測定方法によるものであるかが明確に記載されていない。よって、ある具体的な物が当該特許請求の範囲に属するものか否かが明確ではなく、本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は、ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されておらず、特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当するため、無効にされるべきである。

(15) 無効理由15(明確性違反について)
本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるサイドウォール部補強用ゴム組成物」と規定されており、ゴム組成物の動的貯蔵弾性率について、本件訂正明細書には「ゴム組成物の粘弾性は、160℃で12分加硫した、厚さ2mmのスラブシートより切り出した幅5mm、長さ20mmの試料の動的貯蔵弾性率(E’)及び損失正接(tanδ)を、東洋精機(株)製スペクトロメータを使用して、初期荷重160g、動的歪1%、周波数52Hzの測定条件で、20℃?250℃の温度範囲で、3℃/秒の昇温速度にて測定した。」という記載があるものの、初期荷重160gが意味するところが不明確であり、どのような解釈を採用するかにより、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動値は異なることとなり、ある具体的な物が当該特許請求の範囲に属するものか否かが明確ではなく、本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は、ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されておらず、特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当するため、無効にされるべきである。

(16) 証拠方法
・甲第1号証 :特開平4-185512号公報
・甲第1-1号証:住友ゴム工業株式会社材料開発本部材料第三部 多田俊生による平成27年7月14日付けの実験成績証明書
・甲第1-2号証:(株)UBE科学分析センター高分子材料分析研究室による、担当者「鷲尾」の押印がある平成27年6月18日付けの動的粘弾性測定(1)と表示された分析結果報告書
・甲第1-3号証:(株)UBE科学分析センター高分子材料分析研究室による、担当者「鷲尾」の押印がある平成27年6月22日付けの動的粘弾性測定(2)と表示された分析結果報告書
・甲第1-4号証:住友ゴム工業株式会社材料開発本部材料第三部 多田俊生による平成27年11月24日付けの実験成績証明書
・甲第1-5号証:(株)UBE科学分析センター高分子材料分析研究室による、担当者「鷲尾」の押印がある平成27年11月26日付けの動的粘弾性測定(1)と表示された分析結果報告書
・甲第1-6号証:(株)UBE科学分析センター高分子材料分析研究室による、担当者「鷲尾」の押印がある平成27年11月26日付けの動的粘弾性測定(2)と表示された分析結果報告書
・甲第1-7号証:住友ゴム工業株式会社材料開発本部材料第三部 多田俊生による平成27年12月18日付けの実験成績証明書
・甲第1-8号証:(株)UBE科学分析センター高分子材料分析研究室による、担当者「鷲尾」の押印がある平成27年12月16日付けの動的粘弾性測定(4)と表示された分析結果報告書
・甲第1-9号証:(株)UBE科学分析センター高分子材料分析研究室による、担当者「鷲尾」の押印がある平成27年12月17日付けの動的粘弾性測定(4)と表示された分析結果報告書
・甲第2号証 :特開昭63-150339号公報
・甲第3号証 :米国特許第5736611号明細書
・甲第4号証 :特開平3-176213号公報
・甲第5号証 :特開昭51-64555号公報
・甲第6号証 :特開昭63-182355号公報
・甲第7号証 :特開平5-339422号公報
・甲第8号証 :特許第5361064号出願経過書類
・甲第9号証 :平成17年(行ケ)第10042号(知財高裁大合議部判決)判決文
・甲第10号証 :平成21年(行ケ)第10033号判決文
・甲第11号証 :特許・実用新案審査基準の一部抜粋(第I部 第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件、2?6頁)
・甲第12号証 :特許・実用新案審査基準の一部抜粋(第I部 第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件、20?26頁)
・甲第13号証 :平成17年(行ケ)第10295号判決文
・甲第14号証 :特許・実用新案審査基準の一部抜粋(第I部 第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件、7?16頁)
・甲第15号証 :平成14年(ワ)第25697号判決文
・甲第30号証 :特開平3-28244号公報
・甲第31号証 :特開平7-32823号公報


3 被請求人の主張
本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする旨の審決を求める。請求人主張の無効理由1ないし15は、いずれも理由がない。
また、証拠方法として書証を申出、下記のとおりの文書(乙第1号証?乙第9号証及び乙第12号証)を提出する。
・乙第1号証 :特開平7-179669号公報
・乙第2号証 :特開平7-233286号公報
・乙第3号証 :特開平6-308324号公報
・乙第4号証 :特開平6-235816号公報
・乙第5号証 :特開平3-188144号公報
・乙第6号証 :特開平8-176963号公報
・乙第7号証 :特開平6-346319号公報
・乙第8号証 :山田準吉著「改訂 ゴム」、大日本図書株式会社、昭和55年9月30日改訂第4刷発行、128?131頁及び奥付頁
・乙第9号証 :「ゴム試験法」、社団法人日本ゴム協会編集・発行、昭和38年5月1日初版発行、422?423頁及び奥付頁
・乙第12号証 :「ゴム技術の基礎」、社団法人日本ゴム協会編集・発行、昭和58年4月1日初版発行、238?241頁及び奥付頁



第6 当合議体の判断

当合議体は、本件特許の請求項1に係る発明についての無効理由1ないし15はいずれも理由がなく、よって本件特許を無効とすることはできないと解する。

1 本件訂正発明について
本件訂正発明の要旨は、上記第4で認定のとおりである。


2 証拠について
(1) 甲第1号証の記載
甲第1号証(特開平4-185512号公報)は、本件特許に係る原出願日である平成10年4月24日よりも前である平成4年7月2日に頒布された刊行物である。甲第1号証には、次の記載がある。(審決注:下線は、審決において付したものも含む。以下同じ。)

ア 「1.発明の名称 空気入り安全タイヤ」(1頁左欄2行)

イ 「1.左右一対のビード部と、各ビード部に連なる一対のサイド部と、両サイド部間にまたがるトレッド部とを備え、前記ビード部区域から前記トレッド部の、ショルダー部の肉厚が最も厚いハンプまでの区間の屈曲領域の全域にわたって、前記ビード部及びトレッド部に向かって厚さを漸減させたサイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着した空気入り安全タイヤにおいて、
ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0?20重量部を含むブレンドのゴム成分100重量部に対して、補強性カーボンブラック30?90重量部、硫黄2?10重量部、チウラム系加硫促進剤単独あるいはこれとチアゾール系加硫促進剤またはグアニジン系加硫促進剤との併用0.1?4重量部を配合したゴム組成物を前記サイド部座屈防止用補強層として用いたことを特徴とする空気入り安全タイヤ。」(特許請求の範囲)

ウ 「(産業上の利用分野)
本発明は、自動車走行中に空気入りタイヤのパンクを起こしても、タイヤサイドウオールの剛性で車体を支持し、そのままでも持続走行が可能な安全性に優れた、いわゆる安全空気入りタイヤに関するものである。」(1頁右欄4?9行)

エ 「(従来の技術)
空気入り安全タイヤは、タイヤの内部空洞中に所定の内圧下で充填(審決注:旧字を表記できないのでこのように表記する。以下同じ。)された空気がタイヤに不意に生じたパンク損傷により放出されるまでの間又はその後、そのタイヤに作用する輪重を充填空気内圧から肩代わり支持する何らかの手段により、パンク状態での耐久走行を該タイヤを修理又は交換を安全になし得る場所に至るまでの間継続することができるようにしたものである。
かかる輪重支持手段については、これまで種々の形式のものが提案されている(特公昭53-3123号、特公昭57-50681号、特公昭61-41763号、特開昭57-472025、特開昭54-53405号公報等)。」(1頁右欄10行?2頁左上欄3行)

オ 「(発明が解決しようとする課題)
これまで提案されてきた輪重支持手段の幾つかについては実用化されたものもあるが、それらにおいてもなおパンク発生後の持続走行性能に関しては満足のできるものではなく、さらなる持続走行性能の向上が望まれていた。
そこで、本発明の目的は、パンク状態でも、これまでよりも遥かに優れた持続走行性能を発揮することのできる安全空気入りタイヤを提供することにある。」(2頁左上欄4?13行)

カ 「(課題を解決するための手段)
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、空気入りタイヤに、所定のサイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着し、この補強層のゴム組成物を特定の配合系とすることにより、上記目的を達成し得ることを見い出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、左右一対のビード部と、各ビード部に連なる一対のサイド部と、両サイド部間にまたがるトレッド部とを備え、前記ビード部区域から前記トレッド部の、ショルダー部の肉厚が最も厚い部位までの区間の屈曲領域の全域にわたって、前記ビード部及びトレッド部に向かって厚さを漸減させたサイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着した空気入り安全タイヤにおいて、ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0?20重量部を含むブレンドのゴム成分100重量部に対して、補強性カーボンブラック30?90重量部、硫黄2?10重量部、チウラム系加硫促進剤単独あるいはこれとチアゾール系加疏促進剤またはグアニジン系加硫促進剤との併用0.1?4重量部を配合したゴム組成物を前記サイド部座屈防止用補強層として用いたことを特徴とする空気入り安全タイヤに関するものである。」(2頁左上欄14行?右上欄18行)

キ 「本発明を図面に基づきより具体的に説明する。
第1図に示すように、本発明のタイヤは、左右一対のビード部5と、各ビード部5に連なる一対のサイド部4と、両サイド部4間にまたがるトレッド部2とを備えた空気入りタイヤ1において、前記ビード部5区域から前記トレッド部2の、ショルダー部3の肉厚が最も厚い部位までの区間の屈曲領域の全域にわたってサイド部座屈防止用補強層6をサイド部4内側のインナーライナー7上に一体的に固着する。また、このサイド部座屈防止用補強層6は、前記ビード部5及びトレッド部2に向かってそれぞれ厚さを漸減させた形状とする。」(2頁右上欄19行?左下欄11行)

ク 「本発明においては、上記サイド部座屈防止用補強層のゴム組成物の配合系に特に特徴がある。以下、この配合系について詳述する。
上記サイド部座屈防止用補強層のゴム成分として用いるポリブタジエンゴムとして、シス-1,4-ポリブタジエンゴム、トランス-1,4-ポリブタジエンゴム、アイソタクチック-1,4-ポリブタジエンゴム、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンゴム、その他シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの結晶を有するポリブタジエンゴム等が挙げられるが、これらに限定されるべきものではない。
また、ポリブタジエンゴムにブレンドし得るジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクロニトリルブタジエンゴム、ハロゲン化ブチルゴム等が挙げられるが、やはりこれらに限定されるべきものではない。」(2頁左下欄12行?右下欄9行)

ケ 「硫黄加硫促進剤として用いるチウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられ、またチアゾール系加硫促進剤としては、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等が挙げられる。また、グアニジン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアニジン等が挙げられる。」(2頁右下欄13?19行)

コ 「尚、本発明に係る前記サイド部座屈防止用補強層のゴム組成物には、ゴム工業で通用使用する配合剤、例えば老化防止剤、加硫助剤等を必要に応じ適宜配合することができるのは勿論のことである。」(2頁右下欄20行?3頁左上欄3行)

サ 「(作用)
本発明においては、上記サイド部座屈防止用補強層のゴム組成物の配合系を上述のように特定することにより、該補強層が以下の物性値を有するようにすることが好ましい。
JISスプリング硬度A型
Hs(30):73°?90° 30℃で測定
Hs(130):70°?90° 130℃で測定
Hs(30)-Hs(130)≦2.0°
50%モジュラス:30?70kg/cm^(2)
動的弾性率
E’(30):1.0?6.0×10^(8)dyn/cm^(2) 30℃で測定
E’(130):1.0?6.0×10^(8)dyn/cm^(2) 130℃で測定
反撥弾性率(レジリエンス):65?85% 30℃で測定
動的損係数
tanδ(30):0.05?0.250 30℃で測定
tanδ(130):0.01?0.220 130℃で測定」(3頁左上欄4?20行)

シ 「パンク状態での走行中のサイドウオール部の操り返し圧縮屈曲による自己発熱によるタイヤ剛性の低下を来すことなく、持続走行性能を高めるためには、前記サイド部座屈防止用補強層の硬度Hs(30)を73°?90°、Hs(130)を70°?90°とし、かつHs(30)-Hs(130)の差が最大で2.0°、好ましくは1.5°以内とする。
すなわち、Hs(30)が73°未満でかつHs(130)が70°未満の場合、パンク状態での走行中にタイヤの剛性を維持するには性能不足である。また、Hs(30)が90°を超えかつHs(130)が90°を超える場合、タイヤの通常走行での乗心地性が劣り、また高弾性故に屈曲時に脆性破壊を起こし易くなるという問題を生じる。更に、高温での硬度の低下を表すHs(30)-Hs(130)の差が2.0°を超えると、補強性の効果自体がなくなり、好ましくない。
また、かかる繰り返し圧縮屈曲による自己発熱によるタイヤ剛性の低下を防止するには、動的損係数tanδ(30)が0.05?0.250で、かつtanδ(130)が0.01?0.220の範囲内にあることが好ましい。」(3頁右上欄1?20行)

ス 「更には、パンク後の前記補強層の急速な温度上昇を抑制するには前記反撥弾性率を65?85%、好ましくは70?82%の範囲内に収まるようにする。この値が65%未満の場合には温度上昇の抑制効果が少なく、一方85%を超えると、ゴム組成物の破壊強度の低下による耐屈曲性の低下を招き、好ましくない。」(3頁左下欄1?7行)

セ 「具体的には、本発明においては繰り返しによる耐圧縮屈曲疲労性および耐自己発熱性を改良するために、前記サイド部座屈防止用補強層のゴム組成物のゴム成分として、ポリブタジエンゴム単独又はこれに他のジエン系ゴムを0?20重量部配合したものを使用する。」(3頁左下欄13?18行)

ソ 「耐屈曲疲労性、耐自己発熱性、高温下での硬度の低下抑制のためには、ポリブタジエンゴム単独であることが好ましいが、製造上、工場の作業性の改良を目的としてポリブタジエン以外のジエン系ゴムを0?20重量部配合することができる。
但し、30重量部を超えて当該ジエン系ゴムを配合すると、上記式のHs(30)-Hs(130)の差が最大で2.0°を超え易くなることから、耐屈曲疲労性が劣ることになる。」(3頁左下欄19行?右下欄7行)

タ 「また、本発明においてはかかるゴム組成物に配合する補強性カーボンブラック及び加硫系の選択が重要なポイントの1つであり、補強性カーボンブラックの種類、配合量及び加硫系は耐屈曲疲労性、耐発熱性、耐熱性に大きく影響するため、本発明で規定する範囲内において、空気入り安全タイヤの目的、用途に応じて前記物性を確保すべく選定する。
すなわち、前記物性を確保するに際し、硫黄は10重量部以上になると耐屈曲疲労性の低下を招き、一方2重量部以下になると硬度の低下及び耐自己発熱性の低下を招くため、好ましくない。
また、補強性カーボンブラックは90重量部以上になると耐自己発熱性の低下及び耐屈曲疲労性の低下を招き、一方30重量部以下になると硬度の低下を招くため、好ましくない。
更に、加硫促進剤の総量は、4重量部以上になると工場で押出しする際焦げ易く、また0.1重量部以下になると望むべく硬度が得られない。
尚、本ゴム組成物の耐圧縮屈曲疲労性及び耐熱性を改良するためにはチウラム系加硫促進剤単独あるいはこれとチアゾール系加硫促進剤またはグアニジン系加硫促進剤との併用で0.1?4重量部配合することは常に要求される。但し、4重量部を超えると工場で押出しする際に焦げ易く、また脆性破壊し易くなる。また、チアゾール系またはグアニジン系加硫促進剤と併用するときでも、チウラム系加硫促進剤は0.1?3重量部は常に必要である。」(3頁右下欄8行?4頁左上欄16行)

チ 「(実施例)
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
第1表および第2表に示す配合処方(重量部)に従い、各種試験ゴム組成物を調製し、これらゴム組成物をサイズP275/40ZR 17 の乗用車用ラジアルタイヤにおける第1図に示すサイド部座屈防止用補強層に適用した。」(4頁左上欄17行?右上欄3行)

ツ 「


(5頁第1表及び第2表)

テ 「(発明の効果)
第1表および第2表に示す試験結果からも分かるように、本発明の空気入り安全タイヤは、所定のサイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着し、この補強層のゴム組成物を特定の配合系としたことにより、従来の安全タイヤよりも遥かに優れた持続走行性能を発揮することができるという効果が得られる。」(6頁左上欄1?8行)

ト 「4.図面の簡単な説明
第1図は本発明の一空気入り安全タイヤの左半分横断面図である。
1…空気入り安全タイヤ
2…トレッド
3…ショルダー部
4…サイド部
5…ビード部
6…サイド部座屈防止用補強層
7…インナーライナー

」(6頁左上欄9行?右上欄)

(2) 甲第1号証に記載された発明
ア 上記(1)イで摘記したところによれば、甲第1号証には、次のとおりの発明(以下「甲1クレーム発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「左右一対のビード部と、各ビード部に連なる一対のサイド部と、両サイド部間にまたがるトレッド部とを備え、前記ビード部区域から前記トレッド部の、ショルダー部の肉厚が最も厚いハンプまでの区間の屈曲領域の全域にわたって、前記ビード部及びトレッド部に向かって厚さを漸減させたサイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着した空気入り安全タイヤにおいて、
ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0?20重量部を含むブレンドのゴム成分100重量部に対して、補強性カーボンブラック30?90重量部、硫黄2?10重量部、チウラム系加硫促進剤単独あるいはこれとチアゾール系加硫促進剤またはグアニジン系加硫促進剤との併用0.1?4重量部を配合したゴム組成物を前記サイド部座屈防止用補強層として用いてなる、
空気入り安全タイヤ。」

イ また、上記(1)チで摘記したところによれば、甲第1号証には、各実施例に応じた発明が記載されているといえるところ、それらの代表的なものとして、例えば、その実施例4の記載と上記(1)イで摘記した特許請求の範囲の記載を併せてみれば、次のとおりの発明(以下「甲1実施例4発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「左右一対のビード部と、各ビード部に連なる一対のサイド部と、両サイド部間にまたがるトレッド部とを備え、前記ビード部区域から前記トレッド部の、ショルダー部の肉厚が最も厚いハンプまでの区間の屈曲領域の全域にわたって、前記ビード部及びトレッド部に向かって厚さを漸減させたサイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着した空気入り安全タイヤにおいて、
前記サイド部座屈防止用補強層として、
シス1,4-ポリブタジエンゴム単独のゴム成分100重量部に対して、補強性カーボンブラック50重量部、亜鉛華6重量部、ステアリン酸2重量部、アロマチックオイル3重量部、(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン2重量部、1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン1重量部、テトラメチルチウラムジスルフィド1.0重量部、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド1.0重量部及び硫黄5重量部を配合したゴム組成物を用いてなる、
空気入り安全タイヤ。」

(3) 甲第2号証の記載
甲第2号証(特開昭63-150339号公報)は、本件特許に係る原出願日である平成10年4月24日よりも前である昭和63年6月23日に頒布された刊行物である。甲第2号証には、次の記載がある。

ア 「1.発明の名称
耐熱性を改良したゴム組成物」(1頁左欄2?3行)

イ 「2.特許請求の範囲
(1)天然ゴムおよび/または合成ゴムからなるジエン系ゴムと加硫剤としてイオウおよび/またはイオウ供与剤を含む系に対して、炭素原子と結合する2個以上の

基(R:Hまたはアルキル基)を含有する化合物を添加することを特徴とする耐熱性を改良したゴム組成物。
(2)2個以上の

基を含有する化合物が、
3個以上の

基を含有する化合物
である特許請求の範囲第(1)項記載のゴム組成物。
(3)アルキル基がメチル基である特許請求の範囲第(1)項記載のゴム組成物。」(特許請求の範囲)

ウ 「(産業上の利用分野)
本発明は、タイヤやベルトなど各種のゴム製品に適用可能なゴム組成物、特に耐熱性を必要とする空気入りタイヤの部材、例えば、ケースゴム、トレッドゴムやビートフィラーゴムなどに好適なゴム組成物に関するものである。」(1頁右欄2?7行)

エ 「(従来の技術)
最近、自動車の性能向上や高速道路網の発達に伴ない、高運動性能、特にグリップ性能と高速耐久性を兼ね備えた空気入りタイヤの要求が強まっている。
高グリップ性能を得るためには、トレッドゴム組成物のヒステリシスロスを大きくすることが必要であるが、高速走行時、このヒステリシスロスのためタイヤが発熱し、タイヤ温度が急激に上昇する。そのため、比較的耐熱性の劣るジエン系ゴムから成るトレッドゴムやケースゴムなどはこの急激な温度上昇に耐え切れず、ブロー(blow)を発生し、これがセパレーションやチャンクアウトなどタイヤ破壊の原因となっている。
つまり、タイヤのグリップ性能と高速耐久性を向上するためには、このような急激な温度上昇下でもブローしないような高耐熱性のゴムが必要となる。

また耐熱性附与に優れた老防のノクラックMBやノクラックG-1などの使用は、比較的マイルドな温度上昇の下で、長時間使用する場合の、ゴムの物性低下を防ぐためのものであり、急激な温度上昇下、ゴムの主鎖及び架橋点の急激な切断により発生するブローを防ぐ効果は殆んどない。なお、条件によってはブロー発生を促進する場合すらあるのが現状である。
以上の観点から本発明は、他の物性を低下させないで、急激な温度上昇の下、ゴムがブローしないような耐熱性を向上させたゴム組成物を提供することを狙いとしたものである。」(1頁右欄8行?2頁右上欄13行)

オ 「(問題点を解決するための手段)
本発明者等は、上記問題点を解決するため鋭意研究検討を重ねた結果、特定構造の基を2個以上含有する化合物がこの解決に極めて有効であることを突き止め、本発明に到達した。
即ち、本発明は天然ゴムおよび/または合成ゴムからなるジエン系ゴムと加硫剤としてイオウおよび/またはイオウ供与剤を含む系に対して、炭素原子と結合する2個以上の

基(R:Hまたはアルキル基)を含有する化合物を添加することを特徴とする耐熱性を改良したゴム組成物を提供するものである。」(2頁右上欄14行?左下欄5行)

カ 「次に本発明の要となる2個以上の

基を有す化合物に就いて説明する。

基の代表的なものとしては、Rが水素の

とRがメチル基の

があげられ、中でも3個以上の

を有する化合物が顕著な効果がありより好ましい。
以下にその具体例を示す。
(ア)2個の

を有する化合物の例。
1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,5-ペンタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリュールジアクリレート、ポリエステル型ジアクリレート、ビス(4-アクリロキシポリエトキシフェニルプロパン:…、ポリエステル型ジアクリレート、オリゴエステルジアクリレート:…その他。
(イ)3個以上の

を有する化合物の例。
ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ/ペンタアクリレート、オリゴエステルポリアクリレート:…その他。
(ウ)2個以上の

を有する化合物の例。
ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、その他。
なお、これら化合物は、単独であってもよいし2種以上の併用であってもよい。
本発明においてこれら化合物の配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.1重量部以上、好ましくは1.0重量部以上である。その理由はその配合量が0.1重量部未満では本発明の目的とする耐熱性向上に対し所望の効果を得ることができない。」(2頁右下欄9行?3頁左下欄2行)

キ 「なお、本発明においては、上述のイオウおよび/またはイオウ供与剤と、2個以上の

を有する化合物のほかにゴム工業で通常使用される配合剤、例えば充填剤、軟化剤、老化防止剤、加硫促進剤や加硫促進助剤などを必要に応じて、通常の配合量の範囲内で配合することができる。」(3頁左下欄3?8行)

ク 「(実施例)
実施例1?15、比較例1?3
天然ゴムとスチレン-ブタジエン共重合体ゴムを8対2の割合(重量)でブレンドしたゴム成分100重量部に対し、アロマオイル10重量部、ISAFカーボンブラック50重量部、ステアリン酸3重量部、亜鉛華5重量部、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-P-フェニレンジアミン1重量部、ジベンゾチアジルジスルフィド0.3重量部、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド0.3重量部、イオウ2.5重量部と種々の耐熱性向上剤を各5重量部配合し、145℃で20分間加硫し加硫物を調製した。
得られた各加硫物のブロウアウト温度は約7mm×7mm×3.5mmの加硫ゴム試料片を電気坩堝炉(いすず製作所製)に入れ、5℃間隔で275℃から330℃までの各温度で約20分間放置後、試料片を取り出し半分に切り、内部に気泡が発生しているか否かを肉眼で観察し、気泡が発生した最初の温度をブロウアウト温度とした。
得られた結果を〔表:配合と評価結果〕に示す。この結果より次のことが判る。
(ア)2個以上の

基を有する化合物を配合したゴム組成物は、配合していない比較例1と比較して、ブロウアウト温度が20℃?45℃上昇しており、耐熱性が非常に向上していることがわかる(実施例1?14)。
(イ)特に3個以上の

基を有する化合物を配合したゴム組成物は、ブロウアウト温度が40℃?45℃上昇しており、特に効果が大きい(実施例1?5)。
(ウ)

基を有する化合物も有効であるが、その効果は、

基を有する化合物に比較してやゝ小さい(実施例15)。
(エ)なお、通常、耐熱性向上に効果があると考えられているノクラックMBやノクラックG-1等の老防は、このような高温でのブロウアウトに対して、全く効果がない(比較例2,3)。」(3頁左下欄10行?4頁左上欄10行)

ケ 「


(4頁下欄)

コ 「


(5頁上欄)

サ 「(発明の効果)
本発明の完成により、
(1)2個以上の炭素原子と結合する

基、好ましくは3個以上の

基を有する化合物を添加含有するゴム組成物とすることにより、ジエン系ゴムの耐熱性(ブロウアウト温度の上昇)を大幅に向上することが出来た。
(2)このゴム組成物は、タイヤやベルト等の耐熱性向上、ひいてはその性能向上に大きい効果を果すものと期待される。」(5頁左下欄1?10行)

(4) 甲第3号証の記載
甲第3号証(米国特許明細書第5736611号)は、本件特許に係る原出願日である平成10年4月24日よりも前である1998(平成10)年4月7日に頒布された刊行物である。甲第3号証には、次の記載がある。なお、訳文は当審による。

ア 「Many components in a rubber article, such as a tire, are cured with a sulfur cure system. In general, these cure systems suffer from some degree of reversion. Reversion is a breakdown of the rubber network (crosslinks and polymer) which reduces the crosslink density and adversely affects the properties of a compound. With higher cure temperatures being employed to improve productivity, reversion has become an even bigger concern.
訳文:タイヤ等のゴム製品に含まれる多くの成分は、硫黄加硫系で硬化される。一般的に、加硫系ではある程度の加硫戻りが起こる。加硫戻りとは、ゴムの網目(架橋及びポリマー)が破壊されることであり、その結果、架橋密度が減少し、化合物の特性に悪影響を与える。生産性向上のため硬化温度を高くすると、加硫戻りがより起こりやすくなるという問題がある。」(1欄25?32行)

イ 「SUMMARY OF THE INVENTION
The present invention relates to rubber compounds and products made therefrom, which have improved reversion resistance. The present invention involves intimately dispersing various free triacrylate, tetraacrylate and/or pentaacrylate compounds in an uncrosslinked rubber compound that does not contain any peroxide curatives.
訳文:発明の概要
本発明は、耐加硫戻り性が改善された、ゴム化合物及びそれを用いて作製した製品に関する。本発明は、過酸化物加硫剤を含有しない未架橋ゴム化合物中に、多種の遊離トリアクリレート、テトラアクリレート及び/又はペンタアクリレート化合物を緊密に分散させることを含む。」(1欄33?40行)

ウ 「DETAILED DESCRIPTION OF THE INVENTION
There is disclosed a sulfur-vulcanizable rubber compound comprising
(a) 100 parts by weight of an uncrosslinked rubber selected from the group consisting of natural rubber, synthetic cis-1,4-polyisoprene, polybutadiene, copolymers of isoprene and butadiene, copolymers of acrylonitrile and butadiene, copolymers of acrylonitrile and isoprene, terpolymers of styrene, butadiene and isoprene, copolymers of styrene and butadiene and blends thereof; and
(b) from 0.25 to 10 phr of a free acrylate compound which is intimately dispersed throughout said rubber and said acrylate being selected from the group consisting of trimethyl propane triacrylate, trimethyl propane trimethacrylate, glycerol triacrylate, glycerol trimethacrylate, trimethyl ethane triacrylate, trimethyl ethane trimethacrylate, pentaerythritol tetraacrylate, pentaerythritol tetramethacrylate, dipentaerythritol pentaacrylate and mixtures thereof;
(c) from 0.5 to 6 phr of a sulfur-vulcanizing agent selected from the group consisting of elemental sulfur, an amine disulfide, polymeric polysulfide, sulfur olefin adducts and mixtures thereof;
wherein said rubber compound does not contain any peroxide curative.
In addition, there is disclosed a sulfur-vulcanized rubber compound having improved reversion resistance comprising the above-described sulfur-vulcanizable compound after such compound has been heated to a curing temperature ranging from about 125.degree. C. to 180.degree. C.
訳文:発明の詳細な説明
本願は、(a) 天然ゴム、合成シス-1,4-ポリイソプレン、ポリブタジエン、イソプレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-イソプレン共重合体、スチレン?ブタジエン-イソプレン三元重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、及びそれらの混合体からなる群より選択される未架橋ゴム100重量部、並びに
(b) 前記ゴム全体に緊密に分散された遊離アクリレート化合物であって、アクリレートがトリメチルプロパントリアクリレート、トリメチルプロパントリメタクリレート、グリセロールトリアクリレート、グリセロールトリメタクリレート、トリメチルエタントリアクリレート、トリメチルエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、及びそれらの混合物からなる群より選択される遊離アクリレート化合物0.25?10 phr、及び
(c) 元素硫黄、アミンジスルフィド、高分子多硫化物、硫黄オレフィン付加物、及びそれらの混合物からなる群より選択される硫黄加硫剤0.5?6 phrを含有し、過酸化物加硫剤を含有しないことを特徴とする、硫黄加硫可能なゴム化合物を開示する。
更に、約125℃?180℃の硬化温度で加熱された前記硫黄加硫可能な化合物を含有する、耐加硫戻り性が改善された硫黄加硫ゴム化合物を開示する。」(1欄41行?2欄5行)

エ 「According to the present invention, from 0.25 to 10 phr of a free acrylate compound is intimately dispersed throughout the rubber. What is intended by the term "free" acrylate is that, when added to the rubber compound, the acrylate compound is not chemically bound, copolymerized or grafted on to a rubber component and, therefore, is free to migrate to locations on the polymer (rubber) backbone where chain scission occurs during mixing and sulfur vulcanization. It is believed that the acrylates react with the free radicals formed during reversion and form new crosslinks and thus decrease reversion. Examples of such acrylates include trimethyl propane triacrylate, trimethyl propane trimethacrylate, glycerol triacrylate, glycerol trimethacrylate, trimethyl ethane triacrylate, trimethyl ethane trimethacrylate, pentaerythritol tetraacrylate, pentaerythritol tetramethacrylate, dipentaerythritol pentaacrylate and mixtures thereof. Preferably, the acrylate is present in an amount ranging from about 1 to 5 phr. The preferred acrylate is pentaerythritol tetraacrylate.
訳文:本発明では、0.25?10phrの遊離アクリレート化合物がゴム全体に緊密に分散されている。ここで「遊離」アクリレートとは、ゴム化合物に添加しても、アクリレート化合物がゴム成分と化学結合、共重合、又はグラフト重合しないことを意味する。従って、遊離アクリレートは、その重合体(ゴム)骨格上、混合や硫黄加硫時に分子鎖が切断される部位に自由に移行する。このようなアクリレートは、加硫戻り中に発生するフリーラジカルと反応し新たに架橋を形成することで、加硫戻りを抑制すると考えられている。そのようなアクリレートとしては、例えばトリメチルプロパントリアクリレート、トリメチルプロパントリメタクリレート、グリセロールトリアクリレート、グリセロールトリメタクリレート、トリメチルエタントリアクリレート、トリメチルエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、及びそれらの混合物が挙げられる。アクリレートの含有量は、約1?5phrであることが好ましい。アクリレートはペンタエリスリトールテトラアクリレートであることが好ましい。」(2欄23?41行)

オ 「Conventional rubber additives may be incorporated in the rubber stock of the present invention. The presence of these conventional rubber additives is not considered to be an aspect of the present invention. The additives commonly used in rubber stocks include fillers, plasticizers, waxes, processing oils, peptizers, retarders, antiozonants, antioxidants and the like.
訳文:本発明のゴム材料は、従来のゴム添加剤を包含してもよい。ただし、従来のゴム添加剤を含有することは、本発明の態様とはみなされない。一般的にゴム材料に使われる添加剤としては、充填剤、可塑剤、ワックス、プロセスオイル、解膠剤、硬化遅延剤、オゾン劣化防止剤、酸化防止剤等が挙げられる。」(2欄57?63行)

カ 「The sulfur-vulcanized rubber composition of this invention can be used for various purposes. For example, the rubber compounds may be in the form of a tire, hose, belt or shoe sole. Preferably, the rubber compound is used in various tire components. Such pneumatic tires can be built, shaped, molded and cured by various methods which are known and will be readily apparent to those having skill in such art. Preferably, the rubber composition is used as a wire coat, bead coat, ply coat and tread. As can be appreciated, the tire may be a passenger tire, aircraft tire, truck tire, earthmover, agricultural and the like.
訳文:本発明の硫黄加硫ゴム組成物は、多様な用途で使用し得る。例えば、タイヤ、ホース、ベルト、又は靴底として使用でき、種々のタイヤ部材に使われるのが好ましい。そのような空気入りタイヤは、当業者にとって明らかな公知の様々な方法で組立て、成形、及び硬化される。また本発明のゴム組成物は、ワイヤコート、ビードコート、プライコート、及びトレッドに使用されることが好ましい。製造されたタイヤは、乗用車用タイヤ、航空機用タイヤ、トラック用タイヤ、土工機械用、農業機械用等として好適である。」(5欄51?61行)

キ 「The present invention may be better understood by reference to the following examples in which the parts or percentages are by weight unless otherwise indicated.
EXAMPLE 1
The rubber stock was prepared in a one-stage non-productive and one-stage productive Banbury mix procedure. Each rubber compound contained the same conventional amount of peptizer, process oil, zinc oxide, stearic acid, waxes, antioxidant, primary accelerator and secondary accelerator. The remaining ingredients are listed in Table I. All parts and percentages are by weight (parts by weight per 100 parts of rubber "phr") unless otherwise noted.
訳文:以下、実施例を参照して本発明を更に説明する。特に言及しない限り、「部」又は「パーセント」は重量割合を意味する。
実施例1
バンバリーミキサーを用いた一段階非生産混合及び一段階生産混合工程により、ゴム材料を作製した。各ゴム化合物は、解膠剤、プロセスオイル、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、酸化防止剤、一次促進剤、及び二次促進剤を同じ従来量含有する。その他の配合成分を表1に示す。特に言及しない限り、「部」及び「パーセント」は全て重量割合(ゴム100重量部当りの重量部“phr”)である。」(5欄62行?6欄9行)

ク 「The following Table II reports cure properties that were obtained for the rubber stocks that were prepared.
訳文:作製したゴム材料について、得られた硬化特性を下記表IIに示す。」(6欄39?40行)

ケ 「

訳文:表1

1 市販のオイル伸展乳化重合スチレンブタジエンゴム。The Goodyear Tire&Rubber Company製PLF1712C(ゴム70重量部及びオイル26.25重量部)
2 市販のオイル伸展溶液重合ポリブタジエンゴム。The Goodyear Tire&Rubber Company製Bud1254(ゴム30重量部及びオイル7.5重量部)
3 ペンタエリスリトールテトラアクリレート」(6欄45?64行)

コ 「

訳文:表2
」(7欄 上部)

サ 「The rheometer data at 150.degree. C. shows no reversion for the control Samples 1 and 6 or the Samples 2-5 containing pentaerythritol tetraacrylate (PETA). Samples 3 and 5 containing 4 phr of the PETA had marching modulus values. The order of addition, nonproductive (Sample 3) versus productive (Sample 5) did not appear to affect the rheometer curve. The rheometer data at 190.degree. C. shows reversion, 1 dNm drop after 5 minutes, for the control Sample 1 and no reversion for Samples 2 and 3 containing PETA. Sample 2 containing 1 phr of PETA was very stable with only a 0.5 dNm rise after 40 (39.5) minutes. Sample 3 containing 4 phr of PETA had a marching modulus with a 2.5 dNm rise after 14.8 min.
訳文:150℃でのレオメーターデータによると、対照試料1及び6、並びにペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)を含有する試料2?5では、加硫戻りは起こらなかった。PETAを4phr含有する試料3及び5は、マーチングモジュラス値を有していた。添加順序、及び生産混合(試料3)と非生産混合(試料5)の対比は、レオメーター曲線には影響しないようであった。190℃でのレオメーターデータによると、対照試料1では5分後に1dNm減少の加硫戻りが起こったが、PETAを含有する試料2及び3では加硫戻りは起こらなかった。PETAを1phr含有する試料2は、40分(39.5分)後にわずか0.5dNmの増加と非常に安定していた。PETAを4phr含有する試料3は、14.8分後に2.5dNm増加しマーチングモジュラスを有していた。」(7欄58行?8欄3行)

シ 「1. A sulfur-vulcanizable rubber compound comprising
(a) 100 parts by weight of an uncrosslinked rubber selected from the group consisting of natural rubber, synthetic cis-1,4-polyisoprene, polybutadiene, copolymers of isoprene and butadiene, copolymers of acrylonitrile and butadiene, copolymers of acrylonitrile and isoprene, terpolymers of styrene, butadiene and isoprene, copolymers of styrene and butadiene and blends thereof;
(b) from 0.25 to 10 phr of a free acrylate compound which is intimately dispersed throughout said rubber and said acrylate being selected from the group consisting of trimethyl propane triacrylate, trimethyl propane trimethacrylate, glycerol triacrylate, glycerol trimethacrylate, trimethyl ethane triacrylate, trimethyl ethane triacrylate, pentaerythritol tetraacrylate, pentaerythritol tetramethacrylate, dipentaerythritol pentaacrylate and mixtures thereof;
(c) from 0.5 to 6 phr of a sulfur-vulcanizing agent selected from the group consisting of elemental sulfur, an amine disulfide, polymeric polysulfide, sulfur olefin adducts and mixtures thereof;
wherein said rubber compound is free from any peroxide curative.
訳文:請求項1
(a) 天然ゴム、合成シス-1,4-ポリイソプレン、ポリブタジエン、イソプレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-イソプレン共重合体、スチレン?ブタジエン-イソプレン三元重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、及びそれらの混合体からなる群より選択される未架橋ゴム100重量部、並びに
(b) 前記ゴム全体に緊密に分散された遊離アクリレート化合物であって、アクリレートがトリメチルプロパントリアクリレート、トリメチルプロパントリメタクリレート、グリセロールトリアクリレート、グリセロールトリメタクリレート、トリメチルエタントリアクリレート、トリメチルエタントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、及びそれらの混合物からなる群より選択される遊離アクリレート化合物0.25?10 phr、及び
(c) 元素硫黄、アミンジスルフィド、高分子多硫化物、硫黄オレフィン付加物、及びそれらの混合物からなる群より選択される硫黄加硫剤0.5?6 phrを含有し、過酸化物加硫剤を含有しないことを特徴とする、硫黄加硫可能なゴム化合物。」(9欄請求項1)

ス 「11. The sulfur-vulcanized rubber compound of claim 10 wherein said rubber compound is used in a component of said tire selected from the group consisting of wire coat, bead coat, ply coat and tread.
訳文:請求項11
ワイヤーコート、ビードコート、プライコート、及びトレッドからなる群より選択される前記タイヤの部材に用いられることを特徴とする、請求項10に記載の硫黄加硫ゴム化合物。」(10欄請求項11)

(5) 甲第4号証の記載
甲第4号証(特開平3-176213号公報)は、本件特許に係る原出願日である平成10年4月24日よりも前である平成3年7月31日に頒布された刊行物である。甲第4号証には、次の記載がある。

ア 「1.発明の名称
ランフラット空気入りラジアルタイヤ」(1頁2?3行)

イ 「偏平率が50%以下のラジアルタイヤにおいて、サイドウォール部のカーカス層内側に、20℃における動的弾性率E^(*)_(20)が16MPa以上、該動的弾性率E^(*)_(20)に対する100℃における動的弾性率E^(*)_(100)の比E^(*)_(100)/E^(*)_(20)が0.80以上、100%モジュラスが60Kg/cm^(2)以上並びに100℃における損失正接(tanδ)が0.35以下のゴムからなる三日月形断面形状をした補強ライナー層を、一方の端部がトレッド部のベルト層端部とオーバーラップし、他方の端部がビード部のビードフィラーとオーバーラップするように配置し、前記ビード部のビードフィラーは JIS-A 硬度60?80のゴムからなり、リムベースからのタイヤ回転軸に垂直な方向の高さhを35mm以下とし、かつカーカス層を内外2層から構成し、内側のカーカス層をビードコアの周りにタイヤの内側から外側に折り返して端末を前記ビードフィラーの高さhよりも高い位置にもたらし、該端末を内側のカーカス層と外側のカーカス層との間に挟持せしめ、かつ外側のカーカス層を前記ビードコアに折り返すことなく巻き下ろして端末をビードコア付近に配置するか、または2層のカーカス層をいずれもビードコアの周りにタイヤの内側から外側に折り返し、一方のビードコア側のカーカス層の端末をビードコア付近に配置し、他方のカーカス層の端末をビードフィラーの上方端を超えて配置させたランフラット空気入りラジアルタイヤ。」(特許請求の範囲)

ウ 「(産業上の利用分野)
本発明は、ランフラット耐久性を向上したランフラット空気入りラジアルタイヤに関する。」(1頁右欄14?16行)

エ 「さらに上記サイドウォール部3のカーカス層5の内側には、その半径方向上端はベルト層6の端部下端と重なり合い、その半径方向下端はビードフィラー9と重なり合っている断面形状が三日月形の補強ライナー層8が配置されている。」(3頁右上欄12?17行)

オ 「また、上記三日月形の補強ライナー層を構成するゴムは高硬度である必要があり、20℃における動的弾性率E^(*)_(20)が16MPa以上でなければならない。偏平率50%以下という条件下で動的弾性率E^(*)_(20)が16MPaより低いと、局部的歪を増加するようになるからである。また、上記ゴムは20℃の時のみならず、走行によって温度が上昇したときにも上記水準を維持する必要がある。そのため、上記ゴムは、E^(*)_(20)に対する100℃における動的弾性率E^(*)_(100)の比E^(*)_(100)/E^(*)_(20)が0.80以上であることが必要である。また、このゴムは100%モジュラスが60kg/cm^(2)以上であることが必要で、この値未満ではランフラット走行時にタイヤサイド部全体の歪が大きくなってタイヤの破壊が早くなるので好ましくない。さらに、このゴムは100℃におけるtanδが0.35以下であること必要である。この値を超えるtanδを有するゴムを使用した補強ライナー層は、屈曲時の発熱が大きくなり、サイド部の撓みが大きくなってランフラット耐久性が低下する。」(3頁左下欄13行?右下欄13行)

カ 「

」(第1図)

(6) 甲第4号証に記載された発明
上記(5)イで摘記したところによれば、甲第4号証には、次のとおりの発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「偏平率が50%以下のラジアルタイヤにおいて、サイドウォール部のカーカス層内側に、20℃における動的弾性率E^(*)_(20)が16MPa以上、該動的弾性率E^(*)_(20)に対する100℃における動的弾性率E^(*)_(100)の比E^(*)_(100)/E^(*)_(20)が0.80以上、100%モジュラスが60Kg/cm^(2)以上並びに100℃における損失正接(tanδ)が0.35以下のゴムからなる三日月形断面形状をした補強ライナー層を、一方の端部がトレッド部のベルト層端部とオーバーラップし、他方の端部がビード部のビードフィラーとオーバーラップするように配置し、前記ビード部のビードフィラーは JIS-A 硬度60?80のゴムからなり、リムベースからのタイヤ回転軸に垂直な方向の高さhを35mm以下とし、かつカーカス層を内外2層から構成し、内側のカーカス層をビードコアの周りにタイヤの内側から外側に折り返して端末を前記ビードフィラーの高さhよりも高い位置にもたらし、該端末を内側のカーカス層と外側のカーカス層との間に挟持せしめ、かつ外側のカーカス層を前記ビードコアに折り返すことなく巻き下ろして端末をビードコア付近に配置するか、または2層のカーカス層をいずれもビードコアの周りにタイヤの内側から外側に折り返し、一方のビードコア側のカーカス層の端末をビードコア付近に配置し、他方のカーカス層の端末をビードフィラーの上方端を超えて配置させたランフラット空気入りラジアルタイヤ。」

(7) 甲第5号証の記載
甲第5号証(特開昭51-64555号公報)は、本件特許に係る原出願日である平成10年4月24日よりも前である昭和51年6月4日に頒布された刊行物である。甲第5号証には、次の記載がある。

ア 「高モヂュラスのカーボンブラックと活性コバルト化合物と有効な酸化防止剤を含有する加硫されたシスポリイソプレンゴムよりなる高モヂュラス性と低ヒステリシス性を併せ具えた安定な加硫されたタイヤ用ゴム組成物。」(特許請求の範囲)

イ 「しかしながら、タイヤの構造を或程度変更することによって、膨脹空気が失われた時でも完全に潰れた状態にならず、従って自動車のユーザーが道端でタイヤを交換しないでも運転し続けることが出来るようなタイヤが今や得られている(冒頭に述べた発明がこのタイヤに関するものである)。そのようなタイヤの構造は、正規のタイヤ空気圧がない場合に、タイヤにかかる負荷重量によって生じる屈曲の量を最小限にするように、タイヤのサイドウォールに或種の剛性を与えることを含んでいる。
そのようなタイヤの一型式が、例えば、冒頭に述べた同一出願人の特許出願の中に述べられている。しかしながら、膨脹空気圧の十分な場合、不充分な場合の両方の場合にそのようなタイヤが成功的に動作するための要件は、最もシビヤーな屈曲を受けるサイドウォール部の材料が高い弾性モヂュラスと低いヒステリシスを有する材料でつくられていることである。この二つの性能の組合せを有するゴム組成物は、使用中に実質的に変質してしまう傾向があり、そのため新しい場合には満足な性能を示すタイヤが或年月使用した後では、そうでなくなることが起り得た。
本発明の主要な目的は、従って膨脹空気が存在する場合にもまた存在しない場合にも動作するように設計されたタイヤのサイドウォール部に使用するための永続的な高モヂュラスと低ヒステリシス性能を有するゴム組成物を提供することである。
本発明に従って、膨脹空気圧が存在する場合と、しない場合の両方の場合に使用し得るように意図された車輪用タイヤのサイドウォール部に使用するゴム組成物が提供される。この組成物は本質的に天然ゴムまたは天然ゴムと化学的に同一の構造を有する合成シス・ポリイソプレンゴム、またはそれ等のブレンドからつくられる。」(1頁右下欄9行?2頁右上欄6行目)

ウ 「上記の配合剤を含むゴム組成物は公知のものであり、加硫後に満足な種々の初期性能を有している。しかしながら天然ゴムは熱に長い間曝されるとリバージョン(加硫戻り) を起す、すなわち初期の剛い高モヂュラスの加硫物が段々に軟化してより低いモヂュラス値を示すようになり、当初の未加硫ゴムの値に近づいてゆく現象を起す。モヂュラスがこのように低い値になると、空気圧のないタイヤによって荷重を支えることはもはや不可能になってしまう。」(2頁右上欄14行?左下欄3行)

エ 「本発明者は、加硫物が新しい場合でもまた長期間の使用後に於いても、大きな変化のない高モヂュラスと低ヒステリシスを維持するゴム組成物が上述した慣用の配合剤に加えて、コバルト化合物、好ましくはステアリン酸コバルトの如きコバルト石けんの小量を含む天然ゴムまたはその合成物(シス・ポリイソプレンゴム) からつくられ得るということを発見した。」(2頁左下欄12?19行)

オ 「ところが驚くべきことに、本発明者は高度に活性な酸化防止剤の適当量と共に、コバルト石けんを適当な割合で配合することによって、加硫天然ゴムのリバージョンによると考えられているポリマー鎖の切断を丁度帳消にする、またはそれとバランスするような遅い速度で、酸化的な交差結合が起るような安定した天然ゴム組成物を得られるということを発見した。」(2頁右下欄8?15行)

カ 「本発明の組成物は、車輪の重量がリムに対してトレッドが潰れてくることなしに、両サイドウォールによって支えられるような型式の如何なる空気入タイヤのサイドウォールにも使用し得るものであるが、」(2頁右下欄18行?3頁左上欄2行)

キ 「このタイヤは、サイドウォールの厚さがトレッドの厚さに近いか、または同じ程度の実質的に増大された厚さを有する点で慣用の空気入タイヤとは異っている。」(3頁右上欄10?13行)

ク 「コードプライ11の内側には一つの厚いサイドウォールのゴム層17が存在する。」(3頁左下欄13?14行)

ケ 「以上述べたような構造がもたらすものは次の通りである。すなわち、タイヤが膨脹されていない場合のタイヤにかかる荷重は各サイドウォール7,8にラヂアル方向に内方へ向う力を負荷する。そしてこの力はサイドウォールをそのラヂアル方向の中間点Mに於いて、急激に折り曲げようとする。コードプライ11は実質的に非伸張性であるので、この力はコードプライ11とリムフランヂの先端部16の間で第1部位の外側サイドウォールゴムを圧縮しようとする。この力はまた、中間部Mの位置で第2部位の内側サイドウォールゴム17を強く圧縮しようとする、また一方に於いて、第3部位の外側ショルダーゴム18を圧縮しようとする。」(3頁右下欄2?15行)

コ 「タイヤの内部空気圧が失われた場合には、圧縮が極めて増大するので、そのような緊急状況の下では、タイヤの破壊を起すような温度上昇を避けるために、ヒステリシスが最低であるということが最も重要な点となるのである。
当初の高モヂュラスを保有していることが同様に重要である。何故なら、それは一定負荷の下では繰返し的な圧縮と緩和の範囲を最小限にし、従って、熱の発生を最小限に押えるための補助的な役割を果すからである。」(3頁右下欄19行?4頁左上欄8行)

サ 「上述した組成物は、厚いサイドウォールを有するようなタイプのタイヤのサイドウォール材料として、タイヤの通常の使用状態に於いて非常に良好な性能を示す。また、この組成物の特有な高モヂュラス性と低ヒステリシス性の組合せの故に、タイヤの膨脹空気がなくなった場合でも、タイヤのサイドウォールの形状が図面に示す如き適当な形状を有するタイヤに於いては、タイヤを破壊するような急激なサイドウォールの折り曲げを生ずることなく、また過熱することもなしに適度の高速で長い距離そのようなタイヤを作動させることが可能である。
相当な時間にわたって、高温に曝されることによる促進老化のために、そのような組成物の強度は幾分低下するが、高モヂュラス性と低ヒステリシス性は本質的に変化することなく維持される。すなわち、従来容易に保られなかったタイヤの通常の耐用期間にわたって持続されるこの二つの性能の組合せを有するゴム組成物が今や可能であり、膨脹空気を失った場合に緊急作動するように設計されたリムに対して潰れることのない、新しいタイプの空気入タイヤのサイドウォール部のために好適なゴム組成物が今や本発明によって提供される。」(5頁左上欄6行?右上欄9行)

シ 「4.図面の簡単な説明
本発明のゴム組成物を使用したタイヤの断面図である。
6…トレッド、7,8…サイドウォール、9,10…ビード、11…コードプライ、12…ベルト構造体、14…内表面、16…リムフランジ、17…ゴム層、18…ショルダー


」(5頁右下欄4行?6頁左上欄)

(8) 甲第5号証に記載された発明
上記(7)ア?シで摘記したところ、特に下線部によれば、甲第5号証には、次のとおりの発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「膨脹空気が存在する場合にもまた存在しない場合にも動作するように設計されたタイヤのサイドウォール部に使用するための永続的な高モヂュラスと低ヒステリシス性能を有するゴム組成物であって、高モヂュラスのカーボンブラックと活性コバルト化合物と有効な酸化防止剤を含有する加硫されたシスポリイソプレンゴムよりなる高モヂュラス性と低ヒステリシス性を併せ具えた安定な加硫されたタイヤ用ゴム組成物。」

(9) 甲第6号証の記載
甲第6号証(特開昭63-182355号公報)は、本件特許に係る原出願日である平成10年4月24日よりも前である昭和63年7月27日に頒布された刊行物である。甲第6号証には、次の記載がある。

ア 「本発明は、ゴム物性の改良されたタイヤ用ゴム組成物に関し、特に、加工、加硫工程において、スコーチが安定でしかも耐加硫戻り性に優れ、加硫後のゴム物性において、耐熱老化性および高温時の強度、破壊エネルギーを向上させたタイヤ用ゴム組成物に関する。」(2頁左上欄4?9行)

イ 「しかしながら、これらは、加硫後のゴム物性おいて強度および耐熱老化性が充分でなく、特にタイヤ部材等で高温耐熱性および高温使用での高い破壊エネルギーが要求されるような部材に適用した場合、例えば、高性能タイヤおよび競技用タイヤのトレッドゴムやケースゴムにおいて、高速走行時の急激な温度上昇に耐えきれずにゴムが分解してガスを発生し、いわゆるセパレーションやチャンクアウト等のゴム間の剥離故障を発生するという問題がある。」(2頁右上欄9?18行)

ウ 「また、タイヤの耐熱性の要求される部材に適用した場合、例えば、高性能タイヤおよび競技用タイヤのトレッドおよびケースゴムにおいて、高速走行時の急激な温度上昇および連続的なタイヤの高温使用に耐えきれずに、ゴムが分解してガスを発生するいわゆるブローを起こして、セパレーションやチャンクアウト等のゴム間の剥離故障を発生するという問題点がある。
そこで本発明は高運動性能および高速耐久性等が要求される高性能タイヤおよび競技用タイヤのように、ゴムの温度が急激に高温まで上昇しても、いわゆるブローアウト等のゴムの剥離故障の発生を防止でき、かつ、耐熱老化性および高温物性が大幅に向上した高速耐久性に優れたタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
(問題点を解決するための手段)
本発明者らは、高温における耐熱性、耐熱老化性および高温における高い破壊エネルギーを有するゴム部材につき種々研究を重ねた結果、
(I) 一般式

で示されるビスマレイミド化合物と、
(II) 一般式

で示される特定のトリアジン化合物またはその誘導体を(III)硫黄と混合併用することにより耐加硫戻り性およびスコーチ安定性に優れるとともに、特に、高温における耐熱老化性を大幅に向上し、さらに、高温物性(破断強度および破壊エネルギー)をも向上するゴム組成物を見出した。」(2頁左下欄10行?3頁左上欄7行)

エ 「本発明に係るタイヤ用ゴム組成物は、前述の構成に基づきゴム状重合体にビスマレイミド化合物、特定のトリアジン系化合物および硫黄を併用配合すると反応の機構は定かでないが、特に、高温耐熱性とブローアウト性とが相乗効果によりともに大幅な向上が見られるという驚くべき知見を得たものである。」(3頁右下欄11?17行)

オ 「

試験結果は、前表の下段に示すように、実施例1?5のゴム組成物は比較例1?5のものに比較して耐加硫戻り性およびスコーチ安定性が良好であるとともに、特に、耐熱老化性が大幅に向上し、相乗効果がみられる。また、ブローアウト性および高温物性も大幅に向上している。このため、耐熱性および高温での高い機械的物性が要求される高性能タイヤおよび競技用タイヤのトレッドゴムおよびケースゴムに用いることができ、さらに、ビードフィラー等の厳しい条件のゴムにも用いることができる。
特に、実施例1?3と比較例1、2との対比で示すように、ビスマレイミド化合物とトリアジン系化合物とを併用配合した本発明に係るゴム組成物が、スコーチ安定性を損なわずに、耐熱老化性、高温物性およびブローアウト性において、従来にない驚くべき相乗的な効果が発揮されている。
(効果)
以上説明したように、本発明によれば、高性能タイヤおよび競技用タイヤのように、ゴムの温度が急激に高温まで上昇してもゴムの剥離故障の発生を防止でき、かつ、耐熱老化性および高温物性が大幅に向上でき、高速耐久性を大幅に向上できる。」(5頁下欄?6頁右上欄4行)

(10) 甲第7号証の記載
甲第7号証(特開平5-339422号公報)は、本件特許に係る原出願日である平成10年4月24日よりも前である平成5年12月21日に頒布された刊行物である。甲第7号証には、次の記載がある。

ア 「【産業上の利用分野】本発明は、ゴム組成物及びこれをトレッドアンダークッションゴム等の内部部材(内部ゴム)またはトレッドゴムに使用したタイヤに関する。
【従来の技術】従来より、トラック、建設用大型車両、農耕車、航空機、乗用車、二輪車、レーシングカー用タイヤでは、ケース部分の高い安全性と耐久性及び低発熱性を要求されるため、強力が大きく、低発熱性の天然ゴムが主に用いられている。また、トラック、建設用大型車両等は、トレッドゴムに耐摩耗性や低発熱性が要求されるため天然ゴムが主に用いられる。しかし、この天然ゴムは、適正加硫時間を越えると、強力、弾性率が大きく低下する加硫戻りという現象を起こす。タイヤ加硫工程では、しばしば内部部材やトレッド部において、加硫が過剰となり、この加硫戻りの現象を起こしている。また、乗用車用タイヤのトレッドアンダークッションゴムのような、温度上昇の高いゴムでは、天然ゴムが、耐熱性に大きく劣るため、しばしばゴム成分が分解して、発泡して、タイヤ破壊の原因となる。これらの、耐加硫戻り性及び耐熱性を付与するために、従来より天然ゴム主体のゴムに、次式
【化3】

で表されるTMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)等のチウラム化合物を配合することが知られている。また、スルフェンアミド系促進剤配合物にあっては、加硫戻りを回避するため、低温で加硫することが知られている。」(段落【0001】?【0002】)

イ 「【発明が解決しようとする課題】…本発明は、上記不都合に鑑み、加硫速度、加工安定性、耐熱性、及び耐加硫戻り性を共に満足することのできるゴム組成物、及びこれをトレッドアンダークッションゴム等の内部部材に用いた高速耐久性等に優れたタイヤ、及び、これをトレッドゴムに用いた加硫戻りが少なく、低発熱性にすぐれたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意検討の結果、加硫促進の作用を有する特定のチウラム化合物及び特定のジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物と、ベンゾチアゾール系加硫促進剤とを組合わせて使用することにより、上記目的を達成できることを見い出した。
本発明の構成は以下の通りである。即ち、本発明のゴム組成物は、天然ゴム(以下、NRという) を50重量部以上含有するゴム成分100 重量部に対して、軟化剤30重量部以下、次式
【化4】

(式中、R_(1), R_(2), R_(3), およびR_(4)は、それぞれ独立に、炭素数7?12、好ましくは8の直鎖または分岐鎖アルキル基を示す)で表されるチウラム化合物、及び、次式
【化5】

(式中、R_(5)及びR_(6)は、それぞれ独立に、炭素数7?12、好ましくは8の直鎖または分岐鎖アルキル基を示し、Mは2価以上の金属であり、nはMの金属の原子価に等しい数である)で表されるジチオカルバメート化合物よりなる群から選択された化合物のうち少なくとも1つを0.1 ?1.5 重量部、及びベンゾチアゾール系加硫促進剤0.1 ?1.5 重量部を配合する。また、前記ベンゾチアゾール系加硫促進剤と、前記チウラム化合物及び前記ジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物の比が0.8 ?5.0 であると好ましい。
また、前記R_(1), R_(2), R_(3), R_(4), R_(5)及びR_(6)がそれぞれ2-エチルヘキシル基であり、且つMがアンチモンであり、nが3であると好ましい。更に、上記各ゴム組成物は各種ゴム製品に使用可能であるが、特にタイヤのトレッドアンダークッションゴム等の内部ゴム、またはトレッドゴムに使用すると好ましく、例えば、トラック用、航空機用、農耕車用、大型建設車両用、乗用車用、二輪車用及びレーシングカー用等のタイヤが挙げられる。」(段落【0003】?【0006】)

ウ 「…
耐熱性
セイコー電子製TMAを用い、昇温速度10℃/分で試料の熱膨張をモニターし、試料が急激な膨張をする温度(単位:℃)をブローアウトポイントとして示した。この数値が大きい方が、耐熱性に優れ、好ましいことを示す。試料は直径8mm、高さ6mmの円柱状で、荷重は10gである。
高速耐久性
実施例6?12、比較例5の配合のゴム組成物をトレッドアンダークッションゴムに用いたタイヤ(サイズ:205/60R15)を製造し、ドラムテストを行った。試験方法は、FMVSS-109 の高速耐久テストに準拠して行った。条件は、内圧2.1kgf/cm^(2)のタイヤに100%荷重を負荷し、121km/hから30分毎に速度を段階的に上げていき、タイヤ破壊時の速度と速度が各ステップに達したときからタイヤ破壊時までの時間を測定した。」(段落【0014】)

エ 「【表1】

」(段落【0016】)

オ 「上記の通り、チウラム化合物及び/又はジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物、及びベンゾチアゾール系加硫促進剤を組み合わせて使用した実施例1?5の配合ゴム組成物は、加硫速度が早く、加工安定性に優れ、更に、強力保持率、弾性率保持率の数値から耐加硫戻り性に優れていることがわかる。つまり、これらのゴム組成物をタイヤの内部ゴムまたはトレッドゴムに用いたとき、過加硫に対し優れた物性を示すことは、容易に予想される。また、耐熱性も優れている。一方、比較例1?2より、TBBSを含まない配合では、加硫速度、耐加硫戻り性は優れているが、加工安定性及び耐熱性に劣ることがわかる。比較例3は、加硫促進剤としてTBBSのみを含む配合であるが加硫速度が遅くなり、耐加硫戻り性、耐熱性に大きく劣っている。また、比較例4から、チウラム化合物として本発明の範囲外のTMTDを用い、更に、TBBSを配合した場合には、加硫速度は、優れているが、加工安定性、耐加硫戻り性、耐熱性に劣っていることがわかる。特に、加工安定性は、スコーチを起こす恐れの高い、悪いレベルである。」(段落【0017】)

カ 「【表2】

」(段落【0019】)

キ 「【発明の効果】以上説明したように、本発明によると、特定のチウラム化合物及び/又は特定のジチオカルバメート化合物を、ベンゾチアゾール系加硫促進剤と特定の配合割合に組み合わせて使用することにより、加硫速度、加工安定性、耐加硫戻り性、耐熱性を共に充分満足することのできるゴム組成物、及びこれをタイヤ内部ゴムまたはトレッドゴムに用いた場合、過加硫時の耐加硫戻り性に優れ、高速耐久性低発熱性等に優れたタイヤを具現化することが可能となる。また、本発明にかかるタイヤは、例えば200km/h 以上の高速走行においても耐熱性に基づく高速耐久性を得ることができる。」(段落【0024】)

(11) 甲第30号証の記載
甲第30号証(特開平3-28244号公報)は、本件特許に係る原出願日である平成10年4月24日よりも前である平成3年2月6日に頒布された刊行物である。甲第30号証には、次の記載がある。

ア 「しかしながら、高速タイヤでは、トレッドゴムが高回転速度で路面と接触し、路面との接触圧力によって圧縮され、高周波の高い動歪を受け、その結果、トレッドゴム自体が大きな発熱を生ずる。特に走行中、歪が集中するブロックパターン及び路面との接地圧が特に大きい部分では、トレッドゴムの温度が200℃を超え、ゴムの耐熱性の限界を超えてブローアウトすることがある。」(2頁左上欄13?20行)

(12) 甲第31号証の記載
甲第31号証(特開平7-32823号公報)は、本件特許に係る原出願日である平成10年4月24日よりも前である平成7年2月3日に頒布された刊行物である。甲第31号証には、次の記載がある。

ア 「空気入りタイヤ内面の両サイド部またはサイド部からショルダー部にわたって一対の環状弾性補強体を備えた空気入りタイヤにおいて、該環状弾性補強体が、ゴム成分100重量部当たり、カーボンブラック30?100重量部、硫黄又は硫黄を含む化合物を1重量部以上、共役ジエンを分子中に少なくとも一つ有する脂肪酸を10%以上含有し分子内に炭素間二重結合を2個以上含む有機不飽和脂肪酸を0.5?20重量部含むゴム組成物によって構成されている安全タイヤ。」(特許請求の範囲請求項1)

イ 「このため耐屈曲性に優れているポリブタジエンゴムの適用が考えられるが、このポリブタジエンゴムは高モジュラス化することが困難であり、従って補強ゴムに要求される性能を満たすためには、補強ゴムのゲージを極端に厚くしなければならず、重量が増加し、通常走行における乗心地が著しく低下するばかりでなく、発生した熱が一段と蓄熱され易くなり、高速走行は勿論のこと、最後にはゴムが破壊され、走行が不可能となってしまう。」(段落【0006】)

ウ 「従って、環状弾性補強体についても、弾性率を高め、自己発熱性を低減させて、ブローアウト温度限界を上げることが求められている。このゴム組成物のこれらの特性を改善する方法として種々の方法が知られている。」(段落【0009】)

エ 「以上のような構成からなる本発明の空気入り安全タイヤは、そのサイド部内面またはサイド部からショルダー部に亘る内面に高い弾性率を有し、耐屈曲性に優れ、自己発熱性が低く、ブローアウト温度限界が高いゴム組成物を補強体として配置したことによりパンクしても走行可能な距離が飛躍的に向上する利点を有し、更にこの補強体の製造の生産性も高いので工業上極めて有用なものである。」(段落【0026】)

オ 「【表1】


(B)ブローアウト:実車試験ではなく、ゴム単体のテストでの結果である。テストは円筒形のサンプルを40℃の温度雰囲気中で繰り返し荷重をかけ、サンプルの自己発熱による温度上昇とブローン性を評価するものである。
【発明の効果】本発明の安全タイヤは…自己発熱性を低減し、ブローアウト温度限界を高くすることができた。」(段落【0028】?【0029】)


3 無効理由1(甲第1号証に基づく新規性)について
(1) 本件訂正発明と甲1実施例4発明との対比・判断
ア 対比
まず本件訂正発明と甲1実施例4発明とを対比する。
甲1実施例4発明は、サイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着した空気入り安全タイヤに係るものであるところ、空気入り安全タイヤとは、上記(1)ウの摘示から明らかなように、本件訂正発明におけるランフラットタイヤに相当する。
また、サイド部座屈防止用補強層は、ゴム組成物により作製されるものであって、本件訂正発明におけるサイドウォール部に相当する。
そうすると、本件訂正発明と甲1実施例4発明とは、以下の点で一致して、以下の点で相違するといえる。
<一致点>
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、サイドウォール部補強用ゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤ。」

<相違点1>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるのに対し、甲1実施例4発明では特に特定されていない点。

<相違点2>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、天然ゴムを含むのに対し、甲1実施例4発明では天然ゴムを含まない点。

イ 判断
(ア) 相違点1についての判断
甲第1-1号証ないし甲第1-3号証には、審判請求人の従業員および第三者機関が行った実験について記載されており、それによれば、甲第1号証の実施例4のゴム組成物を甲第1号証に記載の方法に従って作製し、得られたゴム組成物について本件訂正明細書の段落【0022】に記載の方法に基づき、動的貯蔵弾性率の測定を行ない、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動値を算出した結果、甲第1号証の実施例4に記載されたゴム組成物は、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であることが伺える。
そうすると、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

(イ) 相違点2についての判断
上記2(2)イのとおり、甲1実施例4発明では、ゴム組成物中に天然ゴムを含まないものである。
そうすると、相違点2は実質的な相違点である。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明と甲1実施例4発明とは同一ではない。

エ 甲第1号証の実施例4以外の実施例についての検討
甲第1号証には、多数の実施例(具体的には、実施例1?16)が記載されており、実施例4以外にも、各実施例に応じて実施例発明を認定することができるものの、上記2(1)ツで摘示(第1表及び第2表)したとおり、いずれの実施例においても、ゴム組成物中に天然ゴムを含むものではない。(なお、第2表の実施例5は、第1表にすでに実施例5が記載されていること、ゴム組成が請求の範囲の記載と合致しないこと、第2表の実施例5ではパンク走行耐久性が「100」と記載されており、甲第1号証の4頁左下欄下から3?2行に「第2表では比較例5のタイヤをコントロールとして指数表示した。」との記載と合致することとを併せ考慮すると、比較例5の誤記であると認められる。)
そうすると、甲第1号証の実施例4以外の各実施例をもとに認定した発明においても、上記イ(イ)と同じ理由により、いずれも本件訂正発明と同一ではない。

(2) 本件訂正発明と甲1クレーム発明との対比・判断
ア 対比
甲1クレーム発明は、サイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着した空気入り安全タイヤに係るものであるところ、空気入り安全タイヤとは、上記2(1)ウの摘示から明らかなように、本件訂正発明におけるランフラットタイヤに相当する。
また、サイド部座屈防止用補強層は、ゴム組成物により作製されるものであって、本件訂正発明におけるサイドウォール部に相当する。
そうすると、本件訂正発明と甲1クレーム発明とは、以下の点で一致して、以下の点で相違するといえる。
<一致点>
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、サイドウォール部補強用ゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤ。」

<相違点3>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるのに対し、甲1クレーム発明では特に特定されていない点。

<相違点4>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、天然ゴムを含むのに対し、甲1クレーム発明では「ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0?20重量部を含むブレンドのゴム成分」と特定されている点。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点4について判断する。
(ア) 相違点4についての判断
甲1クレーム発明では、ゴム成分として、ポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0?20重量部を含むブレンドである場合を包含しており、上記2(1)クの摘示から、ポリブタジエンゴムにブレンドし得る他のジエン系ゴムとして「天然ゴム」が例示されている。
そうすると、甲1クレーム発明においては、ポリブタジエンゴムの他に天然ゴム0?20重量部を含むブレンドである場合を包含しているといえるから、相違点4は実質的な相違点とはいえない。

(イ) 相違点3についての判断
a 甲1クレーム発明において、サイドウォール部補強用ゴム組成物について、「ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0?20重量部を含むブレンドのゴム成分100重量部に対して、補強性カーボンブラック30?90重量部、硫黄2?10重量部、チウラム系加硫促進剤単独あるいはこれとチアゾール系加硫促進剤またはグアニジン系加硫促進剤との併用0.1?4重量部を配合したゴム組成物」であれば、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であることが技術常識であるとはいえないし、他の証拠をみても斯かる要件を満足することを認めることはできない。
b 確かに、甲第1-1号証ないし甲第1-9号証によれば、甲第1号証の実施例4等のゴム組成物を甲第1号証に記載の方法に従って作製し、得られたゴム組成物について本件訂正明細書の段落【0022】に記載の方法に基づき、動的貯蔵弾性率の測定を行ない、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動値を算出した結果、甲第1号証の実施例4等に記載されたゴム組成物は、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であることが伺えるものの、これらの実施例の結果はあくまでも「天然ゴム」を含まないものである。そして、ゴム組成物のゴム組成によって動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が変化することは当業者の技術常識であるといえることから、甲1クレーム発明において、ポリブタジエンゴムの他に天然ゴムを含むブレンドである場合においても、必ず、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるとまではいえない。
c また、甲第1号証においては、「パンク状態での走行中のサイドウォール部の操り返し圧縮屈曲による自己発熱によるタイヤ剛性の低下を来すことなく、持続走行性能を高めるためには、前記サイド部座屈防止用補強層の硬度Hs(30)を73°?90°、Hs(130)を70°?90°とし、かつHs(30)-Hs(130)の差が最大で2.0°、好ましくは1.5°以内とする。」、「Hs(30)が73°未満でかつHs(130)が70°未満の場合、パンク状態での走行中にタイヤの剛性を維持するには性能不足である。」、「更に、高温での硬度の低下を表すHs(30)-Hs(130)の差が2.0°を超えると、補強性の効果自体がなくなり、好ましくない。」と記載されており(上記2(1)シ)、また、ポリブタジエンゴムを配合することにより高温下での硬度の低下が抑制されること(上記2(1)ソ)、チウラム系加硫促進剤を配合することにより耐熱性が改善されること(上記2(1)タ)も記載されている。
ここで、甲第1号証において、「Hs(30)」及び「Hs(130)」とは30℃及び130℃における硬度を表すものであると認められることから、サイド部座屈防止用補強層の硬度Hs(30)とHs(130)とが所定の関係にあるものがパンク状態での走行中にタイヤの剛性を維持することができることまでは理解できるものの、着目している高温とはせいぜい130℃に留まるものであって、170℃から200℃までの温度範囲については記載も示唆もない。
そして、サイド部座屈防止用補強層の硬度Hs(30)を73°?90°、Hs(130)を70°?90°とし、かつHs(30)-Hs(130)の差が最大で2.0°、好ましくは1.5°以内であれば、必ず、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるとまではいえない。
そうすると、相違点3は実質的な相違点である。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明と甲1クレーム発明とは同一ではない。

(3) 無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由1には、理由がない。


4 無効理由2(甲第4号証に基づく新規性)について
(1) 本件訂正発明と甲4発明との対比・判断
ア 対比
甲4発明は、ランフラット空気入りラジアルタイヤに係るものであり、これは本件訂正発明におけるランフラットタイヤに相当することは明らかである。
また、甲4発明では、サイドウォール部のカーカス層内側に、補強ライナー層を、一方の端部がトレッド部のベルト層端部とオーバーラップし、他方の端部がビード部のビードフィラーとオーバーラップするように配置するものであることから、本件訂正発明における、サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているに相当することは明らかである。
そうすると、本件訂正発明と甲4発明とは、以下の点で一致して、以下の点で相違するといえる。
<一致点>
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、サイドウォール部補強用ゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤ。」

<相違点5>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるのに対し、甲4発明では、「20℃における動的弾性率E^(*)_(20)が16MPa以上、該動的弾性率E^(*)_(20)に対する100℃における動的弾性率E^(*)_(100)の比E^(*)_(100)/E^(*)_(20)が0.80以上、100%モジュラスが60Kg/cm^(2)以上並びに100℃における損失正接(tanδ)が0.35以下」である点。

<相違点6>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、天然ゴムを含むのに対し、甲4発明では特に特定されていない点。

イ 判断
相違点5について以下に判断する。
甲4発明において、サイドウォール部補強用ゴム組成物について、「20℃における動的弾性率E^(*)_(20)が16MPa以上、該動的弾性率E^(*)_(20)に対する100℃における動的弾性率E^(*)_(100)の比E^(*)_(100)/E^(*)_(20)が0.80以上、100%モジュラスが60Kg/cm^(2)以上並びに100℃における損失正接(tanδ)が0.35以下」であれば、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であることが技術常識であるとはいえないし、他の証拠をみても斯かる要件を満足することを認めることはできない。
そうすると、相違点5は実質的な相違点である。

ウ 請求人の主張について
請求人は、甲第4号証には、ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強層に使用されるゴムに良好な耐熱性を有するゴムを使用することにより、従来のランフラットタイヤよりも飛躍的にランフラット耐久性が改善することが開示されているから、甲第4号証に記載の補強ライナー層(サイドウォール部のゴム補強層)は、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」を満たしている蓋然性が高いと主張している。
しかしながら、たとえ甲第4号証に、ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強層に使用されるゴムが良好な耐熱性を有することが記載されているからといって、必ずしも、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」を満たすものとまではいえないから、請求人の主張は採用することができない。

エ 小括
以上のとおりであるから、相違点6について判断するまでもなく、本件訂正発明と甲4発明とは同一ではない。

(2) 無効理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由2には、理由がない。


5 無効理由3(甲第1号証に基づく進歩性)について
(1) 本件訂正発明と甲1実施例4発明との対比
ア 対比
本件訂正発明と甲1実施例4発明とを対比すると、上記3(1)アで述べたとおり、一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、サイドウォール部補強用ゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤ。」

<相違点1>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるのに対し、甲1実施例4発明では特に特定されていない点。

<相違点2>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、天然ゴムを含むのに対し、甲1実施例4発明では天然ゴムを含まない点。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点2について判断する。
(ア) 相違点2についての判断
甲第1号証では、ゴム成分として、ポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0?20重量部を含むブレンドである場合についても記載されており(上記2(1)イ等)、上記2(1)クの摘示から、ポリブタジエンゴムにブレンドし得る他のジエン系ゴムとして「天然ゴム」が例示されている。
しかしながら、甲第1号証においては、「耐屈曲疲労性、耐自己発熱性、高温下での硬度の低下抑制のためには、ポリブタジエンゴム単独であることが好ましい」(2(1)ソ)とも記載されているから、甲1実施例4発明において、好ましいとされる「ポリブタジエン単独」に代えて、敢えて好ましくないとされる「天然ゴム」等のポリブタジエン以外のジエン系ゴムを配合する動機付けに乏しいといわざる得ない。

(イ) 相違点1についての判断
仮に、甲1実施例4発明において、「ポリブタジエン単独」に代えて、「天然ゴム」を配合することが容易であるとしても、ゴム組成物のゴム組成によって動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が変化することは当業者の技術常識であるといえることから、甲1実施例4発明においてポリブタジエンゴムの他に天然ゴムを含むブレンドである場合においても、必ず、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるとまではいえないことは、上記3(2)イ(イ)で述べたとおりである。
そして、甲第1号証には、「パンク状態での走行中のサイドウォール部の操り返し圧縮屈曲による自己発熱によるタイヤ剛性の低下を来すことなく、持続走行性能を高めるためには、前記サイド部座屈防止用補強層の硬度Hs(30)を73°?90°、Hs(130)を70°?90°とし、かつHs(30)-Hs(130)の差が最大で2.0°、好ましくは1.5°以内とする。」、「Hs(30)が73°未満でかつHs(130)が70°未満の場合、パンク状態での走行中にタイヤの剛性を維持するには性能不足である。」、「更に、高温での硬度の低下を表すHs(30)-Hs(130)の差が2.0°を超えると、補強性の効果自体がなくなり、好ましくない。」と記載されている(上記2(1)シ)。また、甲第1号証には、ポリブタジエンゴムを配合することにより高温下での硬度の低下が抑制されること(上記2(1)ソ)、チウラム系加硫促進剤を配合することにより耐熱性が改善されること(上記2(1)タ)も記載されている。
そうすると、甲第1号証には、パンク状態での持続走行性能を高めるために、サイド部座屈防止用補強層は高温下において剛性を維持する必要があることが記載されており、具体的には、サイド部座屈防止用補強層の硬度Hs(30)とHs(130)とが上記した所定の関係にあるものがパンク状態での走行中にタイヤの剛性を維持することができることまでは理解できるものの、ここで着目している高温とはせいぜい130℃に留まるものであって、170℃から200℃までの温度範囲については記載も示唆もない。
そして、甲第1号証には、サイド部座屈防止用補強層が、高温下において剛性を維持するために、硬度Hs(30)とHs(130)とについて特定されているのであって、動的貯蔵弾性率については記載も示唆もないし、「硬度」と「動的貯蔵弾性率」とが技術的に相関するものであって置換可能なものであるとの技術常識もない。
してみると、斯かる記載から、当該サイド部座屈防止用補強層用のゴム組成物として、動的貯蔵弾性率に着目して、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、甲第1号証では、高温下における剛性の維持を、高温下における硬度の維持という形で表現しており、ここで、剛性は、硬度と相関があるとともに、動的貯蔵弾性率とも相関があることは本件原出願時の技術常識であるから、当業者であれば、高温下における剛性の維持を、硬度に代えて動的貯蔵弾性率で表現することは、当然に思いつくことであり、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内であると主張している。
しかしながら、請求人の主張及び他の証拠をみても、「剛性」と「硬度」と「動的貯蔵弾性率」とが具体的にどのように相関しているのか一切不明であるし、「剛性」や「硬度」から、どのような理由ないし根拠に基づいて動的貯蔵弾性率に着目することができ、しかも、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるとまで特定することが、当業者にとり容易であることについて具体的に説明するものではなく、たとえ当業者であってもその理由ないし根拠を理解することができないから、この主張は採用することができない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲1実施例4発明から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 甲第1号証の実施例4以外の実施例についての検討
上記イと同じ理由により、本件訂正発明は、甲第1号証の実施例4以外の各実施例をもとに認定した発明からも、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 本件訂正発明と甲1クレーム発明との対比
ア 対比
本件訂正発明と甲1クレーム発明とを対比すると、上記3(2)アで述べたとおり、一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、サイドウォール部補強用ゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤ。」

<相違点3>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるのに対し、甲1クレーム発明では特に特定されていない点。

<相違点4>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、天然ゴムを含むのに対し、甲1クレーム発明では「ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0?20重量部を含むブレンドのゴム成分」と特定されている点。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点4について判断する。
(ア) 相違点4についての判断
甲1クレーム発明では、ゴム成分として、ポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0?20重量部を含むブレンドである場合を包含しており、上記2(1)クの摘示から、ポリブタジエンゴムにブレンドし得る他のジエン系ゴムとして「天然ゴム」が例示されている。
そうすると、相違点4は実質的な相違点ではないか、仮にそうでないとしても、甲1クレーム発明において、ポリブタジエンゴムに含ませる他のジエン系ゴムとして天然ゴムを使用することは、当業者にとり容易になし得るものといえる。

(イ) 相違点3についての判断
上記3(2)イ(イ)で述べたとおり、相違点3は実質的な相違点である。
そして、甲第1号証に、パンク状態での持続走行性能を高めるために、サイド部座屈防止用補強層は高温下において剛性を維持する必要があることが記載されているとしても、斯かる記載から、当該サイド部座屈防止用補強層用のゴム組成物として、動的貯蔵弾性率に着目して、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえないことは、上記(1)イ(イ)?ウで述べたとおりである。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲1クレーム発明から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 無効理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由3には、理由がない。


6 無効理由4(甲第1号証及び甲第2号証に基づく進歩性)について
(1) 本件訂正発明と甲1実施例4発明との対比
ア 対比
本件訂正発明と甲1実施例4発明とを対比すると、上記3(1)アで述べたとおり、一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、サイドウォール部補強用ゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤ。」

<相違点1>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるのに対し、甲1実施例4発明では特に特定されていない点。

<相違点2>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、天然ゴムを含むのに対し、甲1実施例4発明では天然ゴムを含まない点。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点2について判断する。
(ア) 相違点2についての判断
上記5(1)イ(ア)で述べたとおり、甲1実施例4発明において、好ましいとされる「ポリブタジエン単独」に代えて、敢えて好ましくないとされる「天然ゴム」等のポリブタジエン以外のジエン系ゴムを配合する動機付けに乏しいといわざる得ない。

(イ) 相違点1についての判断
a 仮に、甲1実施例4発明において、「ポリブタジエン単独」に代えて、「天然ゴム」を配合することが容易であるとしても、ゴム組成物のゴム組成によって動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が変化することは当業者の技術常識であるといえることから、甲1実施例4発明においてポリブタジエンゴムの他に天然ゴムを含むブレンドである場合においても、必ず、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるとまではいえないことは、上記3(2)イ(イ)で述べたとおりである。
b そして、甲第1号証に、パンク状態での持続走行性能を高めるために、サイド部座屈防止用補強層は高温下において剛性を維持する必要があることが記載されていることまではみてとれるものの、斯かる記載から、当該サイド部座屈防止用補強層用のゴム組成物として、動的貯蔵弾性率に着目して、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえないことは、上記5(1)イ(イ)で述べたとおりである。
c ここで、甲第2号証には、2個以上の-O-C(=O)-C(-R)=CH_(2)基を含有する化合物を配合することにより耐熱性が改善されたゴム組成物を提供できることが記載され(上記2(3)イ、オ、ク、サ)、実施例において、2個以上の-O-C(=O)-C(-R)=CH_(2)基を含有する化合物として、本件訂正明細書の段落【0012】に記載されているもの、及び本件訂正明細書の実施例で使用されている日本化薬株式会社製KAYARAD DPHA(本件訂正明細書の段落【0026】)と同じ、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が使用されている(上記2(3)ク?コ)。
しかしながら、甲第2号証は、ランフラットタイヤに係るものではないし、甲第2号証には、「グリップ性能と高速耐久性を兼ね備えた」(上記2(3)エ)と記載されていることからみても、「トレッドゴムやビードフィラーゴムなどに好適」(上記2(3)ウ)とされているものであって、当該「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」を、ランフラットタイヤのサイドウォール部補強用ゴム組成物に用いることについては記載も示唆もなされていない。
そうすると、甲1実施例4発明に対して、甲第2号証に記載された「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」を適用することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。
d 仮に、「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」を適用することが容易になし得るものであったとしても、そもそも、本件訂正発明の特定事項は、「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」ではなく、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であることであるから、甲1実施例4発明に対して、甲第2号証に記載された「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」を適用したところで、必ず、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」となるともいえない。
e また、甲第2号証に、「高速耐久性を向上するためには、このような急激な温度上昇下でもブローしないような高耐熱性のゴムが必要」であることが記載されている(上記2(3)エ)としても、斯かる記載から、甲1実施例4発明において、当該サイド部座屈防止用補強層用のゴム組成物として、動的貯蔵弾性率に着目して、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。
f さらに、甲第30号証に、「高速タイヤでは、トレッドゴムが高回転速度で路面と接触し、路面との接触圧力によって圧縮され、高周波の高い動歪を受け、その結果、トレッドゴム自体が大きな発熱を生ずる。特に走行中、歪が集中するブロックパターン及び路面との接地圧が特に大きい部分では、トレッドゴムの温度が200℃を超え、ゴムの耐熱性の限界を超えてブローアウトすることがある。」と記載されている(上記2(11)ア)としても、これはあくまでも、トレッドゴムにおいて、走行中歪が集中するブロックパターン及び路面との接地圧が特に大きい部分に係るものであって、これがそのままランフラットタイヤのサイドウォール部補強用ゴム組成物にも当てはまるとはいえないし、ランフラットタイヤのサイドウォール部補強用ゴム組成物に対してそのまま適用可能であるともいえない。
g 加えて、甲第31号証に、空気入りタイヤ内面の両サイド部またはサイド部からショルダー部にわたって一対の環状弾性補強体を備えた空気入りタイヤにおいて、環状弾性補強体についても、弾性率を高め、自己発熱性を低減させて、ブローアウト温度限界を上げることが求められていることが記載されており(上記2(12)ア?エ)、「ブローアウト温度限界を高くすることができた」と記載されている(上記2(12)オ)としても、当該高くすることができたブローアウト温度が何度であるのかについては、その実施例においても指数(Index)で評価されるに留まっているものであって(上記2(12)オ)、その具体的な温度は不明であって、当該ブローアウト温度が170℃から200℃までであることを記載も示唆もしていない。
そうすると、甲第31号証の記載を併せみたとしても、甲1実施例4発明において、当該サイド部座屈防止用補強層用のゴム組成物として、動的貯蔵弾性率に着目して、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。

ウ 請求人の主張について
(ア) 請求人は、甲第2号証には、本件訂正明細書と同じ「1分子中にエステル基を2個以上有する化合物」すなわち「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」が記載されており、この化合物は、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動を所定値以内に抑えるという本件訂正発明の課題を解決するのに好適に用いられる劣化防止剤と同じものであるから、甲1実施例4発明のサイド部座屈防止用補強層用のゴム組成物に甲第2号証に係る「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」を配合すれば、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」という本件訂正発明のパラメータを満たす蓋然性が非常に高いと主張している。
しかしながら、甲1実施例4発明に甲第2号証に記載された事項を適用することができないこと、及び、仮に適用できたとしても、必ず、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」となるともいえないことは、上記イ(イ)で述べたとおりである。

(イ) 請求人は、甲1実施例4発明に甲第2号証に記載された事項を適用する動機付けについて、
a 甲第1号証及び甲第2号証は同じタイヤ分野に属しており、技術分野が関連している点、特に、タイヤに用いられるゴム組成物の物性向上によりタイヤの性能向上を図っている点で技術分野が密接に関連している、
b 甲第1号証には、「パンク状態での走行中のサイドウォール部の操り返し圧縮屈曲による自己発熱によるタイヤ剛性の低下を来すことなく、持続走行性能を高めるためには、前記サイド部座屈防止用補強層の硬度Hs(30)を73°?90°、Hs(130)を70°?90°とし、かつHs(30)-Hs(130)の差が最大で2.0°、好ましくは1.5°以内とする。」、「Hs(30)が73°未満でかつHs(130)が70°未満の場合、パンク状態での走行中にタイヤの剛性を維持するには性能不足である。」、「更に、高温での硬度の低下を表すHs(30)-Hs(130)の差が2.0°を超えると、補強性の効果自体がなくなり、好ましくない。」と記載されており(上記2(1)シ)、また、甲第1号証には、ポリブタジエンゴムを配合することにより高温下での硬度の低下が抑制されること(上記2(1)ソ)、チウラム系加硫促進剤を配合することにより耐熱性が改善されること(上記2(1)タ)も記載されている一方、甲第2号証には、2個以上の-O-C(=O)-C(-R)=CH_(2)基を含有する化合物を配合することにより耐熱性が改善されたゴム組成物を提供できることが記載されており(上記2(3)イ、オ、ク、サ)、また、甲第2号証に記載のゴム組成物は、耐熱性を必要とする空気入りタイヤの部材に好適なゴム組成物であることが開示されている(上記2(3)ア?エ、サ)から、ゴム組成物の耐熱性を改善することを課題としている点で、甲第1号証に記載のゴム組成物および甲第2号証に記載のゴム組成物に関する課題は共通している、
c 更に、甲第1号証には、「高温での硬度の低下を表すHs(30)-Hs(130)の差が2.0°を超えると、補強性の効果自体がなくなり、好ましくない。」との記載があり(上記2(1)シ)、サイド部座屈防止用補強層の耐熱性が低いと、パンク走行耐久性が悪化すると理解でき、また、甲第1号証の実施例・比較例から、耐熱性が高い方がパンク走行耐久性が高いことがわかるから、甲1実施例4発明では、耐熱性を向上させることで、タイヤの耐久性を向上させている一方、甲第2号証には、「高速耐久性を向上するためには、このような急激な温度上昇下でもブローしないような高耐熱性のゴムが必要」との記載があり(上記2(3)エ)、甲第2号証においても、耐熱性を向上させることで、タイヤの耐久性を向上させていることから、ゴム組成物の耐熱性を向上させることでタイヤの耐久性を向上させる点において、甲第1号証に記載のゴム組成物および甲第2号証に記載のゴム組成物の作用・機能は共通している、
d 以上から、甲第1号証に記載のゴム組成物と甲第2号証に記載のゴム組成物とでは、技術分野が関連し、課題が共通し、作用・機能が共通しているため、甲第1号証に記載されているランフラットタイヤのサイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物に、甲第2号証に記載のゴム組成物において劣化防止剤として用いられている、1分子中にエステル基を2個以上有する化合物を適用する動機づけがある、
e 更には、甲第1号証には、持続走行性能を高めるためには、サイド部座屈防止用補強層を形成するゴム組成物には、高温下での硬度の低下の抑制、すなわち、耐熱性が要求されることが記載されており、ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強層に使用されるゴムが良好な耐熱性を有するほど、ランフラット走行可能な距離が延びることが記載されている一方、甲第2号証には、タイヤ用のゴム組成物に「1分子中にエステル基を2個以上有する化合物」を配合することで、そのゴム組成物の耐熱性を高めることが記載されているため、甲第1号証には甲第2号証に記載の技術を適用する示唆があるといえる、
f したがって、甲第1号証に記載されているランフラットタイヤのサイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物に、耐熱性の改善を目的として甲第2号証に記載のゴム組成物において劣化防止剤として用いられている、1分子中にエステル基を2個以上有する化合物すなわち1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物を配合する動機づけがあることは明らかである、
と主張している。
しかしながら、
aの点については、甲第2号証は、ランフラットタイヤに係るものではないし、トレッドゴムやビードフィラーゴムなどに好適とされているものである点で、甲1実施例4発明におけるランフラットタイヤのサイドウォール部補強用ゴム組成物とは相違するものであるし、
b及びcの点についても、aの点で述べたとおり、両者はタイヤの種類及びタイヤの適用される部位を異にするものであるから、課題が共通しているとはいえないし、作用・機能が共通しているともいえない、
d?fの点についても、甲1実施例4発明に甲第2号証に記載された事項を適用する動機付けがないことは、上記イ(イ)で述べたとおりである。
したがって、この主張は採用することができない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲1実施例4発明及び甲第2号証から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 甲第1号証の実施例4以外の実施例についての検討
上記イと同じ理由により、本件訂正発明は、甲第1号証の実施例4以外の各実施例をもとに認定した発明及び甲第2号証からも、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 本件訂正発明と甲1クレーム発明との対比
ア 対比
本件訂正発明と甲1クレーム発明とを対比すると、3(2)アで述べたとおり、一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、サイドウォール部補強用ゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤ。」

<相違点3>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるのに対し、甲1クレーム発明では特に特定されていない点。

<相違点4>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、天然ゴムを含むのに対し、甲1クレーム発明では「ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0?20重量部を含むブレンドのゴム成分」と特定されている点。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点4について判断する。
(ア) 相違点4についての判断
甲1クレーム発明では、ゴム成分として、ポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0?20重量部を含むブレンドである場合を包含しており、上記2(1)クの摘示から、ポリブタジエンゴムにブレンドし得る他のジエン系ゴムとして「天然ゴム」が例示されている。
そうすると、相違点4は実質的な相違点ではないか、仮にそうでないとしても、甲1クレーム発明において、ポリブタジエンゴムに含ませる他のジエン系ゴムとして天然ゴムを使用することは、当業者が容易になし得るものといえる。

(イ) 相違点3についての判断
上記3(2)イ(イ)で述べたとおり、相違点3は実質的な相違点である。
そして、甲第1号証に、パンク状態での持続走行性能を高めるために、サイド部座屈防止用補強層は高温下において剛性を維持する必要があることが記載されており、一方、甲第2号証に、2個以上の-O-C(=O)-C(-R)=CH_(2)基を含有する化合物を配合することにより耐熱性が改善されたゴム組成物を提供できることが記載され(上記2(3)イ、オ、ク、サ)、実施例において、2個以上の-O-C(=O)-C(-R)=CH_(2)基を含有する化合物として、本件訂正明細書の段落【0012】に記載されているもの、及び本件訂正明細書の実施例で使用されている日本化薬株式会社製KAYARAD DPHA(本件訂正明細書の段落【0026】)と同じ、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が使用されており(上記2(3)ク?コ)、「高速耐久性を向上するためには、このような急激な温度上昇下でもブローしないような高耐熱性のゴムが必要」であることが記載されている(上記2(3)エ)としても、斯かる記載から、当該サイド部座屈防止用補強層用のゴム組成物として、動的貯蔵弾性率に着目して、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえないことは、上記(1)イ(イ)?ウで述べたとおりである。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲1クレーム発明及び甲第2号証から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 無効理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由4には、理由がない。


7 無効理由5(甲第1号証及び甲第3号証に基づく進歩性)について
(1) 本件訂正発明と甲1実施例4発明との対比
ア 対比
本件訂正発明と甲1実施例4発明とを対比すると、上記3(1)アで述べたとおり、一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、サイドウォール部補強用ゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤ。」

<相違点1>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるのに対し、甲1実施例4発明では特に特定されていない点。

<相違点2>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、天然ゴムを含むのに対し、甲1実施例4発明では天然ゴムを含まない点。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点2について判断する。
(ア) 相違点2についての判断
上記5(1)イ(ア)で述べたとおり、甲1実施例4発明において、好ましいとされる「ポリブタジエン単独」に代えて、敢えて好ましくないとされる「天然ゴム」等のポリブタジエン以外のジエン系ゴムを配合する動機付けに乏しいといわざる得ない。

(イ) 相違点1についての判断
a 仮に、甲1実施例4発明において、「ポリブタジエン単独」に代えて、「天然ゴム」を配合することが容易であるとしても、ゴム組成物のゴム組成によって動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が変化することは当業者の技術常識であるといえることから、甲1実施例4発明においてポリブタジエンゴムの他に天然ゴムを含むブレンドである場合においても、必ず、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるとまではいえないことは、上記3(2)イ(イ)で述べたとおりである。
b そして、甲第1号証に、パンク状態での持続走行性能を高めるために、サイド部座屈防止用補強層は高温下において剛性を維持する必要があることが記載されていることまではみてとれるものの、斯かる記載から、当該サイド部座屈防止用補強層用のゴム組成物として、動的貯蔵弾性率に着目して、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえないことは、上記5(1)イ(イ)で述べたとおりである。
c ここで、甲第3号証には、トリメチルプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能アクリレートをゴム組成物に配合することにより、良好な耐熱性が得られることが示されており、当該ゴム組成物は様々なタイヤ部材に使用できることが開示されており(上記2(4)イ?エ及びカ)、実施例において、本件訂正明細書の段落【0012】に記載されているテトラメチロールメタンテトラアクリレートと同じ、ペンタエリスリトールテトラアクリレートをゴム組成物に配合することにより、190℃において加硫戻りを抑制できることが示されている(上記2(4)キ?サ)。
しかしながら、甲第3号証は、ランフラットタイヤに係るものではないし、甲第3号証には、「ゴム組成物は、ワイヤコート、ビードコート、プライコート、及びトレッドに使用されることが好ましい」(上記2(4)キ)と記載されていることからみても、当該「多官能アクリレート」を、ランフラットタイヤのサイドウォール部補強用ゴム組成物に用いることについては記載も示唆もなされていない。
そうすると、甲1実施例4発明に対して、甲第3号証に記載された「多官能アクリレート」を適用することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。
d 仮に、「多官能アクリレート」を適用することが容易になし得るものであったとしても、そもそも、本件訂正発明の特定事項は、「多官能アクリレート」ではなく、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であることであるから、甲1実施例4発明に対して、甲第3号証に記載された「多官能アクリレート」を適用したところで、必ず、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」となるともいえない。
e また、甲第3号証に、「190℃において加硫戻りを抑制できる」ことが記載されている(上記2(4)サ)としても、斯かる記載から、甲1実施例4発明において、当該サイド部座屈防止用補強層用のゴム組成物として、動的貯蔵弾性率に着目して、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。

ウ 請求人の主張について
(ア) 請求人は、甲第3号証には、本件訂正明細書における「1分子中にエステル基を2個以上有する化合物」に相当する「多官能アクリレート」が記載されており、この化合物は、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動を所定値以内に抑えるという本件訂正発明の課題を解決するのに好適に用いられる劣化防止剤と同じものであるから、甲1実施例4発明のサイド部座屈防止用補強層用のゴム組成物に甲第3号証に係る「多官能アクリレート」を配合すれば、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」という本件訂正発明のパラメータを満たす蓋然性が非常に高いと主張している。
しかしながら、甲1実施例4発明に甲第3号証に記載された事項を適用することができないこと、及び、仮に適用できたとしても、必ず、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」となるとはいえないことは、上記イ(イ)で述べたとおりである。

(イ) 請求人は、甲1実施例4発明に甲第3号証に記載された事項を適用する動機付けについて、
a 甲第1号証及び甲第3号証は同じタイヤ分野に属しており、技術分野が関連している点、特に、タイヤに用いられるゴム組成物の物性向上によりタイヤの性能向上を図っている点で技術分野が密接に関連している、
b 甲第1号証には、「パンク状態での走行中のサイドウォール部の操り返し圧縮屈曲による自己発熱によるタイヤ剛性の低下を来すことなく、持続走行性能を高めるためには、前記サイド部座屈防止用補強層の硬度Hs(30)を73°?90°、Hs(130)を70°?90°とし、かつHs(30)-Hs(130)の差が最大で2.0°、好ましくは1.5°以内とする。」、「Hs(30)が73°未満でかつHs(130)が70°未満の場合、パンク状態での走行中にタイヤの剛性を維持するには性能不足である。」、「更に、高温での硬度の低下を表すHs(30)-Hs(130)の差が2.0°を超えると、補強性の効果自体がなくなり、好ましくない。」と記載されており(上記2(1)シ)、また、甲第1号証には、ポリブタジエンゴムを配合することにより高温下での硬度の低下が抑制されること(上記2(1)ソ)、チウラム系加硫促進剤を配合することにより耐熱性が改善されること(上記2(1)タ)も記載されている一方、甲第3号証には、「1分子中にエステル基を2個以上有する化合物」に相当する、トリメチルプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能アクリレートをゴム組成物に配合することにより、良好な耐熱性が得られることが示されており、当該ゴム組成物は様々なタイヤ部材に使用できることが開示されており(上記2(4)カ)、更に、「本発明は、耐加硫戻り性が改善された、ゴム化合物及びそれを用いて作製した製品に関する。」との記載があり(上記2(4)イ)、甲第3号証には耐加硫戻り性が改善されたゴム組成物が記載されており、ここで、加硫戻りとは、熱によってゴムの架橋点やポリマーが破壊されることであるため、甲第3号証に記載のゴム組成物は耐熱性を改善することを課題としているといえるから、ゴム組成物の耐熱性を改善することを課題としている点で、甲第1号証に記載のゴム組成物および甲第3号証に記載のゴム組成物に関する課題は共通している、
c 更に、甲第1号証には、「高温での硬度の低下を表すHs(30)-Hs(130)の差が2.0°を超えると、補強性の効果自体がなくなり、好ましくない。」との記載があり(上記2(1)シ)、サイド部座屈防止用補強層の耐熱性が低いと、パンク走行耐久性が悪化すると理解でき、また、甲第1号証の実施例・比較例から、耐熱性が高い方がパンク走行耐久性が高いことがわかるから、甲1実施例4発明では、耐熱性を向上させることで、タイヤの耐久性を向上させている一方、甲第3号証に記載のゴム組成物は、甲第2号証に記載のゴム組成物と同じく、1分子中にエステル基を2個以上有する化合物としての多官能アクリレートが配合されており、この化合物によって、耐熱性が向上しているため、甲第2号証に記載のゴム組成物と甲第3号証に記載のゴム組成物とは作用が共通しており、甲第2号証に記載のゴム組成物も甲第3号証に記載のゴム組成物もタイヤ部材に用いられるものであるため、作用が共通することから、甲第2号証に記載のゴム組成物と甲第3号証に記載のゴム組成物との機能も共通し、甲第3号証に記載のゴム組成物を適用されたタイヤの耐久性も向上することは明らかであり、甲第3号証に記載のゴム組成物は、耐熱性を向上させることでタイヤの耐久性を向上させるものであると認められるから、ゴム組成物の耐熱性を向上させることでタイヤの耐久性を向上させる点において、甲第1号証に記載のゴム組成物および甲第3号証に記載のゴム組成物の作用・機能は共通している、
d 以上から、甲第1号証に記載のゴム組成物と甲第3号証に記載のゴム組成物とでは、技術分野が関連し、課題が共通し、作用・機能が共通しているため、甲第1号証に記載されているランフラットタイヤのサイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物に、甲第3号証に記載のゴム組成物において劣化防止剤として用いられている、1分子中にエステル基を2個以上有する化合物を適用する動機づけがある。
e 更には、甲第1号証には、持続走行性能を高めるためには、サイド部座屈防止用補強層を形成するゴム組成物には、高温下での硬度の低下の抑制、すなわち、耐熱性が要求されることが記載されており、ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強層に使用されるゴムが良好な耐熱性を有するほど、ランフラット走行可能な距離が延びることが記載されている一方、甲第3号証には、タイヤ用のゴム組成物に「1分子中にエステル基を2個以上有する化合物」としての「多官能アクリレート」を配合することで、そのゴム組成物の耐熱性を高めることが記載されているから、甲第1号証には甲第3号証に記載の技術を適用する示唆があるといえる、
f 従って、甲第1号証に記載されているランフラットタイヤのサイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物に、耐熱性の改善を目的として甲第3号証に記載のゴム組成物において劣化防止剤として用いられている、1分子中にエステル基を2個以上有する化合物としての「多官能アクリレート」を配合する動機づけがあることは明らかである、
と主張している。
しかしながら、
aの点については、甲第3号証は、ランフラットタイヤに係るものではないし、トレッドに使用されることが好ましいとされているものである点で、甲1実施例4発明におけるランフラットタイヤのサイドウォール部補強用ゴム組成物とは相違するものであるし、
b及びcの点についても、aの点で述べたとおり、両者はタイヤの種類及びタイヤの適用される部位を異にするものであるから、課題が共通しているとはいえないし、作用・機能が共通しているともいえない、
d?fの点についても、甲1実施例4発明に甲第3号証に記載された事項を適用する動機付けがないことは、上記イ(イ)で述べたとおりである。
したがって、この主張は採用することができない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲1実施例4発明及び甲第3号証から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 甲第1号証の実施例4以外の実施例についての検討
上記イと同じ理由により、本件訂正発明は、甲第1号証の実施例4以外の各実施例をもとに認定した発明及び甲第3号証からも、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 本件訂正発明と甲1クレーム発明との対比
ア 対比
本件訂正発明と甲1クレーム発明とを対比すると、3(2)アで述べたとおり、一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、サイドウォール部補強用ゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤ。」

<相違点3>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるのに対し、甲1クレーム発明では特に特定されていない点。

<相違点4>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、天然ゴムを含むのに対し、甲1クレーム発明では「ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0?20重量部を含むブレンドのゴム成分」と特定されている点。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点4について判断する。
(ア) 相違点4についての判断
甲1クレーム発明では、ゴム成分として、ポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0?20重量部を含むブレンドである場合を包含しており、上記2(1)クの摘示から、ポリブタジエンゴムにブレンドし得る他のジエン系ゴムとして「天然ゴム」が例示されている。
そうすると、相違点4は実質的な相違点ではないか、仮にそうでないとしても、甲1クレーム発明において、ポリブタジエンゴムに含ませる他のジエン系ゴムとして天然ゴムを使用することは、当業者にとり容易になし得るものといえる。

(イ) 相違点3についての判断
上記3(2)イ(イ)で述べたとおり、相違点3は実質的な相違点である。
そして、甲第1号証に、パンク状態での持続走行性能を高めるために、サイド部座屈防止用補強層は高温下において剛性を維持する必要があることが記載されており、一方、甲第3号証に、トリメチルプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能アクリレートをゴム組成物に配合することにより、良好な耐熱性が得られることが示されており、当該ゴム組成物は様々なタイヤ部材に使用できることが開示されており(上記2(4)イ?エ及びカ)、実施例において、本件訂正明細書の段落[0012]に記載されているテトラメチロールメタンテトラアクリレートと同じ、ペンタエリスリトールテトラアクリレートをゴム組成物に配合することにより、190℃において加硫戻りを抑制できることが示されている(上記2(4)キ?サ)としても、斯かる記載から、当該サイド部座屈防止用補強層用のゴム組成物として、動的貯蔵弾性率に着目して、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえないことは、上記(1)イ(イ)?ウで述べたとおりである。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲1クレーム発明及び甲第3号証から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 無効理由5についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由5には、理由がない。


8 無効理由6(甲第4号証に基づく進歩性)について
(1) 本件訂正発明と甲4発明との対比
ア 対比
本件訂正発明と甲4発明とを対比すると、上記4(1)アで述べたとおり、一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、サイドウォール部補強用ゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤ。」

<相違点5>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるのに対し、甲4発明では、「20℃における動的弾性率E^(*)_(20)が16MPa以上、該動的弾性率E^(*)_(20)に対する100℃における動的弾性率E^(*)_(100)の比E^(*)_(100)/E^(*)_(20)が0.80以上、100%モジュラスが60Kg/cm^(2)以上並びに100℃における損失正接(tanδ)が0.35以下」である点。

<相違点6>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、天然ゴムを含むのに対し、甲4発明では特に特定されていない点。

イ 判断
相違点5について以下に判断する。
上記4(1)イで述べたとおり、相違点5は実質的な相違点である。
甲4発明は、ランフラット耐久性を向上することを目的としている(上記2(5)ウ)ものであって、「20℃における動的弾性率E^(*)_(20)が16MPa以上、該動的弾性率E^(*)_(20)に対する100℃における動的弾性率E^(*)_(100)の比E^(*)_(100)/E^(*)_(20)が0.80以上、100%モジュラスが60Kg/cm^(2)以上並びに100℃における損失正接(tanδ)が0.35以下」と特定するものであるところ、甲第4号証には、サイドウォール部補強用ゴム組成物について、「上記三日月形の補強ライナー層を構成するゴムは高硬度である必要があり、20℃における動的弾性率E^(*)_(20)が16MPa以上でなければならない。…また、上記ゴムは20℃の時のみならず、走行によって温度が上昇したときにも上記水準を維持する必要がある。そのため、上記ゴムは、E^(*)_(20)に対する100℃における動的弾性率E^(*)_(100)の比E^(*)_(100)/E^(*)_(20)が0.80以上であることが必要である。」と記載されている(上記2(5)オ)。
そうすると、甲第4号証には、ランフラット耐久性を向上するために、三日月形の補強ライナー層を構成するゴムは高硬度である必要があり、上記ゴムは20℃の時のみならず、走行によって温度が上昇したときにも上記水準を維持する必要があること、そして、当該高硬度の指標として「動的弾性率E^(*)」を用いていること、さらに当該走行によって温度が上昇したときとは100℃であることが記載されていることまではみてとれるものの、斯かる記載から、当該サイド部座屈防止用補強層用のゴム組成物として、動的弾性率E^(*)ではなく動的貯蔵弾性率に着目して、しかも走行によって温度が上昇したときとして170℃から200℃までを想定して、その間の変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。

ウ 請求人の主張について
(ア) 請求人は、甲第4号証には、ランフラット耐久性を高めるために、補強ライナー層は高温下において剛性を維持する必要があることが記載されており、甲第4号証では、高温下における剛性の維持を、高温下における動的弾性率E^(*)の維持という形で表現しているものであり、ここで、剛性は、動的弾性率E^(*)と相関があるとともに、動的貯蔵弾性率とも相関があることは本件原出願時の技術常識であるから、当業者であれば、高温下における剛性の維持を、動的弾性率E^(*)に代えて動的貯蔵弾性率で表現することは、当然に思いつくことであり、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内であると主張している。
しかしながら、請求人の主張及び他の証拠をみても、「剛性」と「動的弾性率E^(*)」と「動的貯蔵弾性率」とが具体的にどのように相関しているのか一切不明であるし、「剛性」や「動的弾性率E^(*)」から、どのような理由ないし根拠に基づいて動的貯蔵弾性率に着目することが、当業者にとり容易であるのか理解することができないし、さらに加えて、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるとまで特定することが、当業者にとり容易であることについて理解することができないから、この主張は採用することができない。

(イ) 請求人は、本件訂正発明における170℃から200℃までの温度範囲について、甲第4号証では100℃における補強ライナー層の動的弾性率E^(*)を特定しているが、その技術的意義は、補強ライナー層の高温下における剛性の維持を表現するものであるから、補強ライナー層が100℃を超えてより高温になった場合でも可能な範囲で動的弾性率E^(*)を維持すべきであることは当業者であれば容易に理解でき、そして、甲第2号証には、ゴムの主鎖、架橋点の切断により生じるブローを防ぐことを課題とし、耐熱性が必要とされるタイヤ部材に用いられるのに適したゴム組成物が記載されており(上記2(3)ウ?エ)、甲第2号証に記載のゴム組成物の実施例におけるブローアウト温度が300℃以上であることから、タイヤ部材の温度が300℃まで達しうることは本件原出願時の技術常識であり、タイヤ分野において温度上昇を考慮する際に100℃?300℃の温度域を検討することに困難性はないから、170℃から200℃までの温度範囲の設定は、ブローアウト温度より低温側を特定するに過ぎない設計事項であり、当業者が想定し得ないような高温領域ではないことに加えて、本件発明で用いられている劣化防止剤が使用されている甲第3号証の実施例では190℃での加硫戻りを低減できる旨の記載があり(上記2(5)ケ?サ)、170℃?200℃という温度範囲は、単に劣化防止剤が機能する温度を記載したに過ぎないともいえるから、170?200℃という範囲の温度設定は、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内であると主張している。
しかしながら、甲第4号証では100℃における補強ライナー層の動的弾性率E^(*)を特定しているものであって、補強ライナー層が100℃を超えてより高温になった場合については記載も示唆もしていないし、甲第2号証及び甲第3号証は、いずれもランフラットタイヤの補強ライナー層用のゴム組成物に係るものではないし、甲第31号証には、ブローアウト温度限界を上げたことが記載されているものの、当該ブローアウト温度限界を上げた温度が具体的に何度であるのか不明であるから、本件訂正発明における170から200℃という範囲の温度設定が当業者にとり容易であるとはいえず、この主張は採用することができない。

エ 小括
以上のとおり、相違点6について判断するまでもなく、本件訂正発明は甲4発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 無効理由6についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由6には、理由がない。


9 無効理由7(甲第4号証及び甲第2号証に基づく進歩性)について
(1) 本件訂正発明と甲4発明との対比
ア 対比
本件訂正発明と甲4発明とを対比すると、上記4(1)アで述べたとおり、一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、サイドウォール部補強用ゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤ。」

<相違点5>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるのに対し、甲4発明では、「20℃における動的弾性率E^(*)_(20)が16MPa以上、該動的弾性率E^(*)_(20)に対する100℃における動的弾性率E^(*)_(100)の比E^(*)_(100)/E^(*)_(20)が0.80以上、100%モジュラスが60Kg/cm^(2)以上並びに100℃における損失正接(tanδ)が0.35以下」である点。

<相違点6>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、天然ゴムを含むのに対し、甲4発明では特に特定されていない点。

イ 判断
相違点5について以下に判断する。
上記4(1)イで述べたとおり、相違点5は実質的な相違点である。
甲4発明は、ランフラット耐久性を向上することを目的としている(上記2(5)ウ)ものであって、「20℃における動的弾性率E^(*)_(20)が16MPa以上、該動的弾性率E^(*)_(20)に対する100℃における動的弾性率E^(*)_(100)の比E^(*)_(100)/E^(*)_(20)が0.80以上、100%モジュラスが60Kg/cm^(2)以上並びに100℃における損失正接(tanδ)が0.35以下」と特定するものであるところ、甲第4号証には、サイドウォール部補強用ゴム組成物について、「上記三日月形の補強ライナー層を構成するゴムは高硬度である必要があり、20℃における動的弾性率E^(*)_(20)が16MPa以上でなければならない。…また、上記ゴムは20℃の時のみならず、走行によって温度が上昇したときにも上記水準を維持する必要がある。そのため、上記ゴムは、E^(*)_(20)に対する100℃における動的弾性率E^(*)_(100)の比E^(*)_(100)/E^(*)_(20)が0.80以上であることが必要である。」と記載されている(上記2(5)オ)。
そうすると、甲第4号証には、ランフラット耐久性を向上するために、三日月形の補強ライナー層を構成するゴムは高硬度である必要があり、上記ゴムは20℃の時のみならず、走行によって温度が上昇したときにも上記水準を維持する必要があること、そして、当該高硬度の指標として「動的弾性率E^(*)」を用いていること、さらに当該走行によって温度が上昇したときとは100℃であることが記載されていることまではみてとれる。
そして、甲第2号証には、2個以上の-O-C(=O)-C(-R)=CH_(2)基を含有する化合物を配合することにより耐熱性が改善されたゴム組成物を提供できることが記載され(上記2(3)イ、オ、ク、サ)、実施例において、2個以上の-O-C(=O)-C(-R)=CH_(2)基を含有する化合物として、本件訂正明細書の段落【0012】に記載されているもの、及び本件訂正明細書の実施例で使用されている日本化薬株式会社製KAYARAD DPHA(本件訂正明細書の段落【0026】)と同じ、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が使用されている(上記2(3)ク?コ)。
しかしながら、甲第2号証は、ランフラットタイヤに係るものではないし、甲第2号証には、「グリップ性能と高速耐久性を兼ね備えた」(上記2(3)エ)と記載されていることからみても、「トレッドゴムやビードフィラーゴムなどに好適」(上記2(3)ウ)とされているものであって、当該「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」を、ランフラットタイヤのサイドウォール部補強用ゴム組成物に用いることについては記載も示唆もなされていない。
そうすると、甲4発明に対して、甲第2号証に記載された「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」を適用することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。
仮に、「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」を適用することが容易になし得るものであったとしても、そもそも、本件訂正発明の特定事項は、「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」ではなく、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であることであるから、甲4発明に対して、甲第2号証に記載された「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」を適用したところで、必ず、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」となるともいえない。
また、甲第2号証に、「高速耐久性を向上するためには、このような急激な温度上昇下でもブローしないような高耐熱性のゴムが必要」であることが記載されている(上記2(3)エ)としても、斯かる記載から、甲4発明において、当該三日月形の補強ライナー層を構成するゴム(サイドウォール部補強用ゴム組成物)として、動的貯蔵弾性率に着目して、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。
さらに、甲第30号証に、「高速タイヤでは、トレッドゴムが高回転速度で路面と接触し、路面との接触圧力によって圧縮され、高周波の高い動歪を受け、その結果、トレッドゴム自体が大きな発熱を生ずる。特に走行中、歪が集中するブロックパターン及び路面との接地圧が特に大きい部分では、トレッドゴムの温度が200℃を超え、ゴムの耐熱性の限界を超えてブローアウトすることがある。」と記載されている(上記2(11)ア)としても、これはあくまでも、トレッドゴムにおいて、走行中歪が集中するブロックパターン及び路面との接地圧が特に大きい部分に係るものであって、これがそのままランフラットタイヤのサイドウォール部補強用ゴム組成物にも当てはまるとはいえないし、ランフラットタイヤのサイドウォール部補強用ゴム組成物に対してそのまま適用可能であるともいえない。
加えて、甲第31号証に、空気入りタイヤ内面の両サイド部またはサイド部からショルダー部にわたって一対の環状弾性補強体を備えた空気入りタイヤにおいて、環状弾性補強体についても、弾性率を高め、自己発熱性を低減させて、ブローアウト温度限界を上げることが求められていることが記載されており(上記2(12)ア?エ)、「ブローアウト温度限界を高くすることができた」と記載されている(上記2(12)オ)としても、当該高くすることができたブローアウト温度が何度であるのかについては、その実施例においても指数(Index)で評価されるに留まっているものであって(上記2(12)オ)、その具体的な温度は不明であって、当該ブローアウト温度が170℃から200℃までであることを記載も示唆もしていない。
そうすると、甲第31号証の記載を併せみたとしても、甲4発明において、当該三日月形の補強ライナー層を構成するゴム(サイドウォール部補強用ゴム組成物)として、動的貯蔵弾性率に着目して、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。

ウ 請求人の主張について
(ア) 請求人は、甲第2号証には、本件訂正明細書と同じ「1分子中にエステル基を2個以上有する化合物」が記載されており、この化合物は、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動を所定値以内に抑えるという本件発明の課題を解決するのに好適に用いられる劣化防止剤である。よって、甲第4号証に記載の補強ライナー層用のゴム組成物に甲第2号証に記載の「1分子中にエステル基を2個以上有する化合物」を配合した場合、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」という本件訂正発明のパラメータを満たす蓋然性が非常に高い。すなわち、甲4発明と甲第2号証に記載の事項とを組み合わせることで、上記パラメータを満たす蓋然性が非常に高いといえると主張している。
しかしながら、甲4発明に甲第2号証に記載された事項を適用することができないこと、及び、仮に適用できたとしても、必ず、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」となるとはいえないことは、上記イ及び8(1)イ?ウで述べたとおりである。

(イ) 請求人は、甲4発明に甲第2号証に記載された事項を適用する動機付けについて、
a 甲第4号証及び甲第2号証は同じタイヤ分野に属しており、技術分野が関連している点、特に、タイヤに用いられるゴム組成物の物性向上によりタイヤの性能向上を図っている点で技術分野が密接に関連している、
b 甲第4号証には、ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強層に使用されるゴムのE^(*)_(100)/E^(*)_(20)が大きいほど(1に近いほど)、すなわち、当該ゴムが良好な耐熱性を有するほど、ランフラット走行によって温度が上昇したときにもランフラット走行可能な距離が延びることが記載されており(上記2(5)オ)、ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強層に使用されるゴムには、良好な耐熱性が求められることが記載されている一方、甲第2号証には、2個以上の-O-C(=O)-C(-R)=CH_(2)基を含有する化合物を配合することにより耐熱性が改善されたゴム組成物を提供できることが記載されており(上記2(3)イ、オ、ク、サ)、また、甲第2号証に記載のゴム組成物は、耐熱性を必要とする空気入りタイヤの部材に好適なゴム組成物であることが開示されている(上記2(3)ア?エ、サ)から、ゴム組成物の耐熱性を改善することを課題としている点で、甲第4号証に記載のゴム組成物および甲第2号証に記載のゴム組成物に関する課題は共通している、
c 更に、甲第4号証には、「上記三日月形の補強ライナー層を構成するゴムは高硬度である必要があり、20℃における動的弾性率E^(*)_(20)が16MPa以上でなければならない。偏平率50%以下という条件下で動的弾性率E^(*)_(20)が16MPaより低いと、局部的歪を増加するようになるからである。また、上記ゴムは20℃の時のみならず、走行によって温度が上昇したときにも上記水準を維持する必要がある。」との記載があり(上記2(5)オ)、補強ライナー層の耐熱性が低いと、ランフラット耐久性が悪化すると理解でき、甲第4号証の実施例・比較例からも、耐熱性が高い方がランフラット耐久性が高くなることがわかるから、甲4発明では、耐熱性を向上させることで、タイヤの耐久性を向上させている一方、甲第2号証には、「高速耐久性を向上するためには、このような急激な温度上昇下でもブローしないような高耐熱性のゴムが必要」との記載があり(上記2(3)エ)、甲第2号証においても、耐熱性を向上させることで、タイヤの耐久性を向上させているから、ゴム組成物の耐熱性を向上させることでタイヤの耐久性を向上させる点において、甲第4号証に記載のゴム組成物および甲第2号証に記載のゴム組成物の作用・機能は共通している、
d 以上から、甲第4号証に記載のゴム組成物と甲第2号証に記載のゴム組成物とでは、技術分野が関連し、課題が共通し、作用・機能が共通しているため、甲第4号証に記載されているランフラットタイヤのサイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物に、甲第2号証に記載のゴム組成物において劣化防止剤として用いられている、1分子中にエステル基を2個以上有する化合物を適用する動機づけがある、
e 更には、無効理由2のイで説明した通り、甲第4号証には、ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強層に使用されるゴムのE^(*)_(100)/E^(*)_(20)が大きいほど(1に近いほど)、すなわち、当該ゴムが良好な耐熱性を有するほど、ランフラット走行によって温度が上昇したときにもランフラット走行可能な距離が延びることが記載されており、ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強層に使用されるゴムには、良好な耐熱性が求められることが記載されている一方、甲第2号証には、タイヤ用のゴム組成物に「1分子中にエステル基を2個以上有する化合物」を配合することで、そのゴム組成物の耐熱性を高めることが記載されているため、甲第4号証に甲第2号証に記載の事項を適用する示唆があるといえる、
f 従って、甲第4号証に記載されているランフラットタイヤのサイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物に、耐熱性の改善を目的として甲第2号証に記載のゴム組成物において劣化防止剤として用いられている、1分子中にエステル基を2個以上有する化合物を配合する動機づけがあることは明らかである、
と主張している。
しかしながら、
aの点については、甲第2号証は、ランフラットタイヤに係るものではないし、トレッドゴムやビードフィラーゴムなどに好適とされているものである点で、甲4発明におけるランフラットタイヤのサイドウォール部補強用ゴム組成物とは相違するものであるし、
b及びcの点についても、aの点で述べたとおり、両者はタイヤの種類及びタイヤの適用される部位を異にするものであるから、課題が共通しているとはいえないし、作用・機能が共通しているともいえない、
d?fの点についても、甲4発明に甲第2号証に記載された事項を適用する動機付けがないことは、上記イで述べたとおりである。
したがって、この主張は採用することができない。

エ 小括
以上のとおり、相違点6について判断するまでもなく、本件訂正発明は甲4発明及び甲第2号証から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 無効理由7についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由7には、理由がない。


10 無効理由8(甲第5号証及び甲第2号証に基づく進歩性)について
(1) 本件訂正発明と甲5発明との対比
ア 対比
本件訂正発明と甲5発明とを対比する。
甲5発明は、膨脹空気が存在する場合にもまた存在しない場合にも動作するように設計されたタイヤに係るものであって、これは本件訂正発明におけるランフラットタイヤに相当する。
また、甲5発明におけるサイドウォール部に使用するための永続的な高モヂュラスと低ヒステリシス性能を有するゴム組成物は、本件訂正発明におけるサイドウォール部補強用ゴム組成物に相当する。
そうすると、本件訂正発明と甲5発明とは、以下の点で一致して、以下の点で相違するといえる。
<一致点>
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、サイドウォール部補強用ゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤ。」

<相違点7>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるのに対し、甲5発明では、そのような特定はなく、「高モヂュラスのカーボンブラックと活性コバルト化合物と有効な酸化防止剤を含有する」ことを特定する点。

<相違点8>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、天然ゴムを含むのに対し、甲5発明では「加硫されたシスポリイソプレンゴムよりなる」点。

イ 判断
相違点7について以下に判断する。
甲第2号証には、2個以上の-O-C(=O)-C(-R)=CH_(2)基を含有する化合物を配合することにより耐熱性が改善されたゴム組成物を提供できることが記載され(上記2(3)イ、オ、ク、サ)、実施例において、2個以上の-O-C(=O)-C(-R)=CH_(2)基を含有する化合物として、本件訂正明細書の段落【0012】に記載されているもの、及び本件訂正明細書の実施例で使用されている日本化薬株式会社製KAYARAD DPHA(本件訂正明細書の段落【0026】)と同じ、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が使用されている(上記2(3)ク?コ)。
しかしながら、甲第2号証は、ランフラットタイヤに係るものではないし、甲第2号証には、「グリップ性能と高速耐久性を兼ね備えた」(上記2(3)エ)と記載されていることからみても、「トレッドゴムやビードフィラーゴムなどに好適」(上記2(3)ウ)とされているものであって、当該「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」を、ランフラットタイヤのサイドウォール部補強用ゴム組成物に用いることについては記載も示唆もなされていない。
そうすると、甲5発明に対して、甲第2号証に記載された「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」を適用することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。
仮に、「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」を適用することが容易になし得るものであったとしても、そもそも、本件訂正発明の特定事項は、「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」ではなく、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であることであるから、甲5発明に対して、甲第2号証に記載された「1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物」を適用したところで、必ず、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」となるともいえない。
また、甲第2号証に、「高速耐久性を向上するためには、このような急激な温度上昇下でもブローしないような高耐熱性のゴムが必要」であることが記載されている(上記2(3)エ)としても、斯かる記載から、甲5発明において、サイドウォール部に使用するためのゴム組成物として、動的貯蔵弾性率に着目して、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。

ウ 請求人の主張について
(ア) 請求人は、甲第2号証には、本件訂正明細書と同じ「1分子中にエステル基を2個以上有する化合物」が記載されており、この化合物は、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動を所定値以内に抑えるという本件発明の課題を解決するのに好適に用いられる劣化防止剤である。よって、甲第5号証に記載のサイドウォール部に使用するためのゴム組成物に甲第2号証に記載の「1分子中にエステル基を2個以上有する化合物」を配合した場合、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」という本件訂正発明のパラメータを満たす蓋然性が非常に高い。すなわち、甲5発明と甲第2号証に記載の事項とを組み合わせることで、上記パラメータを満たす蓋然性が非常に高いといえると主張している。
しかしながら、甲5発明に甲第2号証に記載された事項を適用することができないこと、及び、仮に適用できたとしても、必ず、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」となるとはいえないことは、上記イ及び6(1)イ?ウで述べたとおりである。

(イ) 請求人は、甲5発明に甲第2号証に記載された事項を適用する動機付けについて、
a 甲第5号証および甲第2号証は同じタイヤ分野に属しており、技術分野が関連している。特に、タイヤに用いられるゴム組成物の物性向上によりタイヤの性能向上を図っている点で技術分野が密接に関連している、
b 甲第5号証には、サイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物には、高温に曝された場合であっても高モジュラス性が維持されること、すなわち、耐熱性が要求されることが記載され(上記2(7))、高度に活性な酸化防止剤と共に、コバルト石けんを配合することにより、高温に曝された場合であっても高モジュラス性が維持されること、すなわち、耐熱性が確保されることが記載されている(上記2(7)エ、オ及びサ)一方、甲第2号証には、2個以上の-O-C(=O)-C(-R)=CH_(2)基を含有する化合物を配合することにより耐熱性が改善されたゴム組成物を提供できることが記載されており(上記2(3)イ、オ、ク、サ)、また、甲第2号証に記載のゴム組成物は、耐熱性を必要とする空気入りタイヤの部材に好適なゴム組成物であることが開示されている(上記2(3)ア?エ、サ)から、ゴム組成物の耐熱性を改善することを課題としている点で、甲第5号証に記載のゴム組成物および甲第2号証に記載のゴム組成物に関する課題は共通している、
c 更に、甲第5号証には、サイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物において、高温に曝された場合であっても高モジュラス性が維持されることにより、荷重を支える性能を維持し、タイヤの耐久性を改善している(上記2(7)サ)。以上から、甲5発明では、耐熱性を向上させることで、タイヤの耐久性を向上させている一方、甲第2号証には、「高速耐久性を向上するためには、このような急激な温度上昇下でもブローしないような高耐熱性のゴムが必要」との記載があり(上記2(3)エ)、甲第2号証においても、耐熱性を向上させることで、タイヤの耐久性を向上させている。従って、ゴム組成物の耐熱性を向上させることでタイヤの耐久性を向上させる点において、甲第5号証に記載のゴム組成物および甲第2号証に記載のゴム組成物の作用・機能は共通している、
d 以上から、甲第5号証に記載のゴム組成物と甲第2号証に記載のゴム組成物とでは、技術分野が関連し、課題が共通し、作用・機能が共通しているため、甲第5号証に記載されているサイドウォール部に使用するためのゴム組成物に、甲第2号証に記載のゴム組成物において劣化防止剤として用いられている、1分子中にエステル基を2個以上有する化合物を適用する動機づけがある、
e 更には、甲第5号証には、サイドウォール部に使用するためのゴム組成物には、高温に曝された場合であっても高モジュラス性が維持されること、すなわち、耐熱性が要求されることが記載されている(上記2(7))一方、甲第2号証には、「1分子中にエステル基を2個以上有する化合物」を配合することで耐熱性が向上し、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」という本件訂正発明のパラメータを満たす蓋然性が非常に高いゴム組成物が記載されているため、甲第5号証には甲第2号証に記載の技術を適用する示唆があるといえる、
f 従って、甲第5号証に記載されているサイドウォール部に使用するためのゴム組成物として、耐熱性の改善を目的として甲第2号証に記載のゴム組成物を適用する動機づけがあることは明らかである、
と主張している。
しかしながら、
aの点については、甲第2号証は、ランフラットタイヤに係るものではないし、トレッドゴムやビードフィラーゴムなどに好適とされているものである点で、甲5発明におけるサイドウォール部に使用するためのゴム組成物とは相違するものであるし、
b及びcの点についても、aの点で述べたとおり、両者はタイヤの種類及びタイヤの適用される部位を異にするものであるから、課題が共通しているとはいえないし、作用・機能が共通しているともいえない、
d?fの点についても、甲5発明に甲第2号証に記載された事項を適用する動機付けがないことは、上記イで述べたとおりである。
したがって、この主張は採用することができない。

エ 小括
以上のとおり、相違点8について判断するまでもなく、本件訂正発明は甲5発明及び甲第2号証から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 無効理由8についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由8には、理由がない。


11 無効理由9(甲第5号証及び甲第6号証に基づく進歩性)について
(1) 本件訂正発明と甲5発明との対比
ア 対比
本件訂正発明と甲5発明とを対比すると、上記10(1)アで述べたとおり、一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、サイドウォール部補強用ゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤ。」

<相違点7>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるのに対し、甲5発明では、そのような特定はなく、「高モヂュラスのカーボンブラックと活性コバルト化合物と有効な酸化防止剤を含有する」ことを特定する点。

<相違点8>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、天然ゴムを含むのに対し、甲5発明では「加硫されたシスポリイソプレンゴムよりなる」点。

イ 判断
相違点7について以下に判断する。
甲第6号証には、「(I) 一般式(以下、式の記載を省略する。)で示されるビスマレイミド化合物と、(II) 一般式(以下、式の記載を省略する。)で示される特定のトリアジン化合物またはその誘導体を(III)硫黄と混合併用する」(上記2(9)ウ)ことで、「ゴムの温度が急激に高温まで上昇しても、いわゆるブローアウト等のゴムの剥離故障の発生を防止でき、かつ、耐熱老化性および高温物性が大幅に向上した高速耐久性に優れたタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。」、「本発明者らは、…特定のトリアジン化合物またはその誘導体を(III)硫黄と混合併用することにより耐加硫戻り性およびスコーチ安定性に優れるとともに、特に、高温における耐熱老化性を大幅に向上し、さらに、高温物性(破断強度および破壊エネルギー)をも向上するゴム組成物を見出した。」と記載され(上記2(9)ウ)、更に、実施例では、特定のトリアジン化合物を硫黄と併用することにより、ブローアウト温度が高く、耐加硫戻り性、耐熱老化性に優れることが開示されている(上記2(9)オ)。
しかしながら、甲第6号証は、ランフラットタイヤに係るものではないし、甲第6号証には、「タイヤの耐熱性の要求される部材…例えば、高性能タイヤおよび競技用タイヤのトレッドおよびケースゴムにおいて、高速走行時の急激な温度上昇および連続的なタイヤの高温使用に耐えきれずに、ゴムが分解してガスを発生するいわゆるブローを起こして、セパレーションやチャンクアウト等のゴム間の剥離故障を発生するという問題点がある」と記載されており(上記2(9)ウ)、そこで、「本発明は高運動性能および高速耐久性等が要求される高性能タイヤおよび競技用タイヤのように、ゴムの温度が急激に高温まで上昇しても、いわゆるブローアウト等のゴムの剥離故障の発生を防止でき、かつ、耐熱老化性および高温物性が大幅に向上した高速耐久性に優れたタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする」(上記2(9)ウ)と記載されているものであって、「(I) 一般式(以下、式の記載を省略する。)で示されるビスマレイミド化合物と、(II) 一般式(以下、式の記載を省略する。)で示される特定のトリアジン化合物またはその誘導体を(III)硫黄と混合併用する」ことを、ランフラットタイヤのサイドウォール部補強用ゴム組成物に用いることについては記載も示唆もなされていない。
そうすると、甲5発明に対して、甲第6号証に記載された「(I) 一般式で示されるビスマレイミド化合物と、(II) 一般式で示される特定のトリアジン化合物またはその誘導体を(III)硫黄と混合併用する」ことを適用することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。
仮に、「(I) 一般式で示されるビスマレイミド化合物と、(II) 一般式で示される特定のトリアジン化合物またはその誘導体を(III)硫黄と混合併用する」ことを適用することが容易になし得ることであったとしても、そもそも、本件訂正発明の特定事項は、「(I) 一般式で示されるビスマレイミド化合物と、(II) 一般式で示される特定のトリアジン化合物またはその誘導体を(III)硫黄と混合併用する」ことではなく、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であることであるから、甲5発明に対して、甲第6号証に記載された「(I) 一般式で示されるビスマレイミド化合物と、(II) 一般式で示される特定のトリアジン化合物またはその誘導体を(III)硫黄と混合併用する」ことを適用したところで、必ず、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」となるともいえない。
また、甲第6号証に、「ゴムの温度が急激に高温まで上昇しても、いわゆるブローアウト等のゴムの剥離故障の発生を防止でき」ることが記載されている(上記2(9)ウ)としても、斯かる記載から、甲5発明において、サイドウォール部に使用するためのゴム組成物として、動的貯蔵弾性率に着目して、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。

ウ 請求人の主張について
(ア) 請求人は、甲第6号証に記載されているゴム組成物は、特定のトリアジン化合物及び硫黄が配合されているため、ブローアウト温度が高く、耐加硫戻り性、耐熱老化性に優れており、本件訂正発明の「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」というパラメータを満たす蓋然性が非常に高い。従って、甲第5号証に記載されている、サイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物として、甲第6号証に記載のゴム組成物を適用した場合、当該パラメータを満たす蓋然性が非常に高い。すなわち、甲5発明と甲第6号証に記載の事項とを組み合わせることで、当該パラメータを満たす蓋然性が非常に高いといえると主張している。
しかしながら、甲5発明に甲第6号証に記載された事項を適用することができないこと、及び、仮に適用できたとしても、必ず、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」となるとはいえないことは、上記イ、6(1)イ?ウ及び10(1)イ?ウで述べたとおりである。

(イ) 請求人は、甲5発明に甲第6号証に記載された事項を適用する動機付けについて、
a 甲第5号証および甲第6号証は同じタイヤ分野に属しており、技術分野が関連している。特に、タイヤに用いられるゴム組成物の物性向上によりタイヤの性能向上を図っている点で技術分野が密接に関連している、
b 甲第5号証には、サイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物には、高温に曝された場合であっても高モジュラス性が維持されること、すなわち、耐熱性が要求されることが記載され(上記2(7))、高度に活性な酸化防止剤と共に、コバルト石けんを配合することにより、高温に曝された場合であっても高モジュラス性が維持されること、すなわち、耐熱性が確保されることが記載されている(上記2(7)エ、オ及びサ)一方、甲第6号証には、「ゴムの温度が急激に高温まで上昇しても、いわゆるブローアウト等のゴムの剥離故障の発生を防止でき、かつ、耐熱老化性および高温物性が大幅に向上した高速耐久性に優れたタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。」、「本発明者らは、…特定のトリアジン化合物またはその誘導体を(III)硫黄と混合併用することにより耐加硫戻り性およびスコーチ安定性に優れるとともに、特に、高温における耐熱老化性を大幅に向上し、さらに、高温物性(破断強度および破壊エネルギー)をも向上するゴム組成物を見出した。」と記載され(上記2(9)ウ)、更に、実施例では、特定のトリアジン化合物を硫黄と併用することにより、ブローアウト温度が高く、耐加硫戻り性、耐熱老化性に優れることが開示されている(上記2(9)オ)から、ゴム組成物の耐熱性を改善することを課題としている点で、甲第5号証に記載のゴム組成物および甲第6号証に記載のゴム組成物に関する課題は共通している、
c 更に、甲第5号証には、サイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物において、高温に曝された場合であっても高モジュラス性が維持されることにより、荷重を支える性能を維持し、タイヤの耐久性を改善している(上記2(7)サ)。以上から、甲5発明では、耐熱性を向上させることで、タイヤの耐久性を向上させている一方、甲第6号証には、ゴムの温度が急激に高温まで上昇してもゴムの剥離故障の発生を防止でき、かつ、耐熱老化性および高温物性が大幅に向上でき、高速耐久性を大幅に向上できることが記載されている(上記2(9)オ)から、ゴム組成物の耐熱性を向上させることでタイヤの耐久性を向上させる点において、甲第5号証に記載のゴム組成物および甲第6号証に記載のゴム組成物の作用・機能は共通している、
d 以上から、甲第5号証に記載のゴム組成物と甲第6号証に記載のゴム組成物とでは、技術分野が関連し、課題が共通し、作用・機能が共通しているため、甲第5号証に記載されているサイドウォール部に使用するためのゴム組成物に、甲第6号証に記載のゴム組成物において耐熱老化性および高温物性の向上のために用いられている、「(I) 一般式で示されるビスマレイミド化合物と、(II) 一般式で示される特定のトリアジン化合物またはその誘導体を(III)硫黄と混合併用する」ことを適用する動機づけがある、
e 更には、甲第5号証には、サイドウォール部に使用するためのゴム組成物には、高温に曝された場合であっても高モジュラス性が維持されること、すなわち、耐熱性が要求されることが記載されている(上記2(7))一方、甲第6号証には、耐熱性が向上し、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」という本件訂正発明のパラメータを満たす蓋然性が非常に高いゴム組成物が記載されているため、甲第5号証には甲第6号証に記載の技術を適用する示唆があるといえる、
f 従って、甲第5号証に記載されているサイドウォール部に使用するためのゴム組成物として、耐熱性の改善を目的として甲第6号証に記載のゴム組成物を適用する動機づけがあることは明らかである、
と主張している。
しかしながら、
aの点については、甲第6号証は、ランフラットタイヤに係るものではないし、高性能タイヤおよび競技用タイヤのトレッドゴムやケースゴムなどに好適とされているものである点で、甲5発明におけるサイドウォール部に使用するためのゴム組成物とは相違するものであるし、
b及びcの点についても、aの点で述べたとおり、両者はタイヤの種類及びタイヤの適用される部位を異にするものであるから、課題が共通しているとはいえないし、作用・機能が共通しているともいえない、
d?fの点についても、甲5発明に甲第6号証に記載された事項を適用する動機付けがないことは、上記イで述べたとおりである。
したがって、この主張は採用することができない。

エ 小括
以上のとおり、相違点8について判断するまでもなく、本件訂正発明は甲5発明及び甲第6号証から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 無効理由9についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由9には、理由がない。


12 無効理由10(甲第5号証及び甲第7号証に基づく進歩性)について
(1) 本件訂正発明と甲5発明との対比
ア 対比
本件訂正発明と甲5発明とを対比すると、上記10(1)アで述べたとおり、一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、サイドウォール部補強用ゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤ。」

<相違点7>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるのに対し、甲5発明では、そのような特定はなく、「高モヂュラスのカーボンブラックと活性コバルト化合物と有効な酸化防止剤を含有する」ことを特定する点。

<相違点8>
サイドウォール部補強用ゴム組成物について、本件訂正発明では、天然ゴムを含むのに対し、甲5発明では「加硫されたシスポリイソプレンゴムよりなる」点。

イ 判断
相違点7について以下に判断する。
甲第7号証には、「本発明のゴム組成物は、天然ゴム(以下、NRという) を50重量部以上含有するゴム成分100 重量部に対して、軟化剤30重量部以下、次式
【化4】

(式中、R_(1), R_(2), R_(3), およびR_(4)は、それぞれ独立に、炭素数7?12、好ましくは8の直鎖または分岐鎖アルキル基を示す)で表されるチウラム化合物(以下、「特定のチウラム化合物」という。)、及び、次式
【化5】

(式中、R_(5)及びR_(6)は、それぞれ独立に、炭素数7?12、好ましくは8の直鎖または分岐鎖アルキル基を示し、Mは2価以上の金属であり、nはMの金属の原子価に等しい数である)で表されるジチオカルバメート化合物(以下、「特定のジチオカルバメート化合物」という。)よりなる群から選択された化合物のうち少なくとも1つを0.1 ?1.5 重量部、及びベンゾチアゾール系加硫促進剤0.1 ?1.5 重量部を配合する」(上記2(10)イ)ことで、「加硫戻りが少なく、低発熱性にすぐれたタイヤを提供することを目的とする。」、「本発明者らは、…加硫促進の作用を有する特定のチウラム化合物及び特定のジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物と、ベンゾチアゾール系加硫促進剤とを組合わせて使用することにより、上記目的を達成できることを見い出した。」と記載されている(上記2(10)イ)。
しかしながら、甲第7号証は、ランフラットタイヤに係るものではないし、甲第7号証には、「特にタイヤのトレッドアンダークッションゴム等の内部ゴム、またはトレッドゴムに使用すると好ましく、例えば、トラック用、航空機用、農耕車用、大型建設車両用、乗用車用、二輪車用及びレーシングカー用等のタイヤが挙げられる」と記載されている(上記2(10)イ)ものであって、「加硫促進の作用を有する特定のチウラム化合物及び特定のジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物と、ベンゾチアゾール系加硫促進剤とを組合わせて使用すること」を、ランフラットタイヤのサイドウォール部補強用ゴム組成物に用いることについては記載も示唆もなされていない。
そうすると、甲5発明に対して、甲第7号証に記載された「特定のチウラム化合物及び特定のジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物と、ベンゾチアゾール系加硫促進剤とを組合わせて使用すること」を適用することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。
仮に、「特定のチウラム化合物及び特定のジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物と、ベンゾチアゾール系加硫促進剤とを組合わせて使用すること」を適用することが容易になし得ることであったとしても、そもそも、本件訂正発明の特定事項は、「特定のチウラム化合物及び特定のジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物と、ベンゾチアゾール系加硫促進剤とを組合わせて使用すること」ではなく、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であることであるから、甲5発明に対して、甲第7号証に記載された「特定のチウラム化合物及び特定のジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物と、ベンゾチアゾール系加硫促進剤とを組合わせて使用すること」を適用したところで、必ず、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」となるともいえない。
また、甲第7号証に、「耐熱性、及び耐加硫戻り性を共に満足することができる」ことが記載されている(上記2(10)イ)としても、斯かる記載から、甲5発明において、サイドウォール部に使用するためのゴム組成物として、動的貯蔵弾性率に着目して、その170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるという特定事項に到達することは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえない。

ウ 請求人の主張について
(ア) 請求人は、甲第7号証に記載されているゴム組成物は、特定の組み合せの化合物が配合されているため、耐熱性、耐加硫戻り性に優れており、また、特定の組み合せの化合物を構成するチウラム化合物は、甲第1号証でも耐熱性が良好であると記載されている材料であるため、本件訂正発明の「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」というパラメータを満たす蓋然性が非常に高い。従って、甲第5号証に記載されている、サイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物として、甲第7号証に記載のゴム組成物を適用した場合、当該パラメータを満たす蓋然性が非常に高い。すなわち、甲5発明と甲第7号証に記載の事項とを組み合わせることで、当該パラメータを満たす蓋然性が非常に高いといえると主張している。
しかしながら、甲5発明に甲第7号証に記載された事項を適用することができないこと、及び、仮に適用できたとしても、必ず、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」となるとはいえないことは、上記イ、6(1)イ?ウ、10(1)イ?ウ及び11(1)イ?ウで述べたとおりである。

(イ) 請求人は、甲5発明に甲第7号証に記載された事項を適用する動機付けについて、
a 甲第5号証および甲第7号証は同じタイヤ分野に属しており、技術分野が関連している。特に、タイヤに用いられるゴム組成物の物性向上によりタイヤの性能向上を図っている点で技術分野が密接に関連している、
b 甲第5号証には、サイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物には、高温に曝された場合であっても高モジュラス性が維持されること、すなわち、耐熱性が要求されることが記載され(上記2(7))、高度に活性な酸化防止剤と共に、コバルト石けんを配合することにより、高温に曝された場合であっても高モジュラス性が維持されること、すなわち、耐熱性が確保されることが記載されている(上記2(7)エ、オ及びサ)一方、甲第7号証には、「本発明は、上記不都合に鑑み、加硫速度、加工安定性、耐熱性、及び耐加硫戻り性を共に満足することのできるゴム組成物、…を提供することを目的とする。」、「本発明者らは、鋭意検討の結果、加硫促進の作用を有する特定のチウラム化合物及び特定のジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物と、ベンゾチアゾール系加硫促進剤とを組合わせて使用することにより、上記目的を達成できることを見出した。」と記載され(上記2(10)イ)、更に、実施例では、特定の化合物を組み合わせて配合することにより、加硫速度、加工安定性、耐熱性、及び耐加硫戻り性を共に満足できることが開示されている(上記2(10)エ?キ)から、ゴム組成物の耐熱性を改善することを課題としている点で、甲第5号証に記載のゴム組成物および甲第7号証に記載のゴム組成物に関する課題は共通している、
c 更に、甲第5号証には、サイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物において、高温に曝された場合であっても高モジュラス性が維持されることにより、荷重を支える性能を維持し、タイヤの耐久性を改善している(上記2(7)サ)から、甲5発明では、耐熱性を向上させることで、タイヤの耐久性を向上させている一方、甲第7号証には、本発明にかかるタイヤは、例えば200km/h以上の高速走行においても耐熱性に基づく高速耐久性を得ることができると記載されている(上記2(10)キ)から、ゴム組成物の耐熱性を向上させることでタイヤの耐久性を向上させる点において、甲第5号証に記載のゴム組成物および甲第7号証に記載のゴム組成物の作用・機能は共通している、
d 以上から、甲第5号証に記載のゴム組成物と甲第7号証に記載のゴム組成物とでは、技術分野が関連し、課題が共通し、作用・機能が共通しているため、甲第5号証に記載されているランフラットタイヤのサイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物として、甲第7号証に記載のゴム組成物を適用する動機づけがある、
e 更には、甲第5号証には、サイドウォール部に使用するためのゴム組成物には、高温に曝された場合であっても高モジュラス性が維持されること、すなわち、耐熱性が要求されることが記載されている(上記2(7))一方、甲第7号証には、耐熱性が向上し、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」という本件訂正発明のパラメータを満たす蓋然性が非常に高いゴム組成物が記載されているため、甲第5号証には甲第7号証に記載の技術を適用する示唆があるといえる、
f 従って、甲第5号証に記載されているランフラットタイヤのサイドウォール部のゴム補強層を形成するゴム組成物として、耐熱性の改善を目的として甲第7号証に記載のゴム組成物を適用する動機づけがあることは明らかである、
と主張している。
しかしながら、
aの点については、甲第7号証は、ランフラットタイヤに係るものではないし、トラック用、航空機用、農耕車用、大型建設車両用、乗用車用、二輪車用及びレーシングカー用等のタイヤのトレッドアンダークッションゴム等の内部ゴム、またはトレッドゴムに使用すると好ましいとされているものである点で、甲5発明におけるサイドウォール部に使用するためのゴム組成物とは相違するものであるし、
b及びcの点についても、aの点で述べたとおり、両者はタイヤの種類及びタイヤの適用される部位を異にするものであるから、課題が共通しているとはいえないし、作用・機能が共通しているともいえない、
d?fの点についても、甲5発明に甲第7号証に記載された事項を適用する動機付けがないことは、上記イで述べたとおりである。
したがって、この主張は採用することができない。

エ 小括
以上のとおり、相違点8について判断するまでもなく、本件訂正発明は甲5発明及び甲第7号証から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 無効理由10についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由10には、理由がない。


13 無効理由11(サポート要件違反)について
(1) サポート要件について
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断されるものである。

(2) 本件訂正明細書の記載
本件訂正明細書には、本件訂正発明の課題として、「耐熱性が改良されたサイドウォール部補強用ゴム組成物および耐久性が改良されたランフラットタイヤを提供すること」(段落【0004】)と記載されている。
そして、本件訂正明細書には、「本発明者らは、ゴム組成物の耐熱性を上げるべく、種々の配合薬品について鋭意研究した結果、特定の化合物を配合することにより、ゴム組成物の耐熱性を大幅に向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0005】)、「ゴム組成物の動的貯蔵弾性率の170℃?200℃における変動を3.0MPa以内に抑えることにより、ゴム組成物の物性の温度依存性を小さくすることができ、さらに、このゴム組成物を空気入りタイヤの特にはサイドウォール部のゴム補強層に用いることにより、タイヤの耐久性を大幅に改善することができる。」(段落【0007】)、「本発明のサイドウォール部補強用ゴム組成物(以下、「ゴム組成物」と略記する)は、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの温度範囲における変動が3.0MPa以下でなければならない。この変動が3.0MPaを超えると、ゴム組成物の弾性率の温度依存性が高くなり、高温での物性の低下を免れない。」(段落【0008】)、更には、「本発明で好適に用いる劣化抑止剤は、170℃未満では、加硫に対して実質的に不活性であり、従って、加硫温度(通常160℃前後)においては架橋に関与せず弾性率は設計目標以上に増加しない。一方、ゴム組成物の温度が170℃以上になると、ゴムの劣化が始まり、架橋点やポリマー鎖の切断が起こり始めるが、一方で、該劣化抑止剤によるポリマーの再架橋も進むため、弾性率の低下が抑えられ、その結果、高温下でも発熱が抑制される。」(段落【0014】)と記載されている。
また、本件訂正明細書には、実施例として、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるゴム組成物の具体例(No2?No17)及び斯かるゴム組成物をサイドウォール部のゴム補強層に用いてなるランフラットタイヤの具体例(実施例1?実施例35)が記載されている。

(3) 請求人の主張するサポート要件違反
ア 請求人は、以下のとおり主張している。
(ア) 本件訂正明細書の段落【0014】には、「本発明で好適に用いる劣化抑止剤は、170℃未満では、加硫に対して実質的に不活性であり、従って、加硫温度(通常160℃前後)においては架橋に関与せず弾性率は設計目標以上に増加しない。一方、ゴム組成物の温度が170℃以上になると、ゴムの劣化が始まり、架橋点やポリマー鎖の切断が起こり始めるが、一方で、該劣化抑止剤によるポリマーの再架橋も進むため、弾性率の低下が抑えられ、その結果、高温下でも発熱が抑制される。」と記載されている。これらの記載から、“ゴム組成物の温度が170℃未満では、加硫に対して実質的に不活性であり、ゴム組成物の温度が170℃以上になると、再架橋を行うことが可能な劣化抑止剤”を配合することにより、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動を所定値以内に抑えて、ゴム組成物の耐熱性を向上させ、このゴム組成物をランフラットタイヤのサイドウォール部のゴム補強層に用いることにより、ランフラットタイヤの耐久性改善という、本件訂正発明の課題を解決しようとしていることが読み取れる。この理解は、本件訂正明細書の段落【0019】、【0020】の記載とも整合し、更に、実際に、本件訂正明細書の実施例において、このような特定の劣化防止剤を配合した特定のゴム組成物については、上記パラメータを満足している。

(イ) しかしながら、ゴム組成物の組成および組成によって変化する物性が、ランフラットタイヤの耐久性に大きく影響を及ぼすことは、本件特許に係る原出願時の技術常識であり、上記特定のゴム組成物と組成・物性が異なるゴム組成物についてまで、上記パラメータを満足しさえすれば課題を解決できるといえる根拠は、本件訂正明細書に見出せない。例えば、甲第4号証では、補強ライナー層の100%モジュラスについての規定があるが(上記2(5)イ及びオ)、上記パラメータを満足しさえすれば、100%モジュラスがどのような値であってもよいかについて、本件訂正明細書でサポートされていない。

イ 判断
(ア) 請求人は、上記ア(イ)のとおり、特定のゴム組成物と組成・物性が異なるゴム組成物についてまで、当該パラメータを満足しさえすれば課題を解決できるといえる根拠は、本件訂正明細書に見出せないと主張するが、斯かる主張の根拠となる具体的な証拠や実験結果(例えば、当該特定の劣化抑止剤を使用せず当該パラメータを満足するゴム組成物を使用したとしてもランフラットタイヤの耐久性が改善されない場合のデータ)を伴っていないことから、斯かる主張のみをもってして、当該特定のゴム組成物以外の(当該特定の劣化抑止剤を使用しない)ゴム組成物についてランフラットタイヤの耐久性改善という課題を解決できないことを当業者は認識できないとまではいうことはできない。

(イ) また、請求人は、甲第4号証を挙げて、当該パラメータを満足しさえすれば、補強ライナー層の100%モジュラスがどのような値であってもよいかについて、本件訂正明細書でサポートされていないとも主張するが、この主張についても、根拠となる具体的な証拠や実験結果(例えば、100%モジュラスが60Kg/cm^(2)未満で当該パラメータを満足するゴム組成物を使用したとしてもランフラットタイヤの耐久性が改善されない場合のデータ)を伴っていないことから、斯かる主張のみをもってして、100%モジュラスが60Kg/cm^(2)未満のゴム組成物についてランフラットタイヤの耐久性改善という課題を解決できないことを当業者は認識できないとまではいうことはできない。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であって、当業者が本件訂正発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえるから、サポート要件を満たすものである。

(3) 無効理由11についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由11には、理由がない。


14 無効理由12(実施可能要件違反)について
(1) 実施可能要件について
特許法第36条第4項第1号には、発明の詳細な説明の記載は、「…その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」でなければならない旨が規定されている。
そして、物の発明における発明の実施とは、その物を生産、使用等をすることをいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明については、例えば明細書にその物を製造することができ、使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造し、使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。

(2) 請求人の主張する実施可能要件違反
ア 請求人は、以下のとおり主張している。
(ア) 上記パラメータを満たすゴム組成物を製造する方法として、本件訂正明細書には、特定の劣化防止剤を配合する手法以外の方法については記載されていない。また、上記パラメータを必ず満たすゴム組成物を製造する上記手法以外の方法が、本件特許に係る原出願時に技術常識として知られていたとも当然認められない。

(イ) また、このような劣化防止剤としても、1分子中にエステル基を2個以上有する化合物(本件訂正明細書の段落【0009】?【0012】及び【0026】)のみが開示されているに過ぎず、その他の如何なる化合物が上記劣化防止剤として使用可能であるかについても記載されていない。

(ウ) 更に、上記劣化防止剤として、本件訂正明細書に開示されている化合物以外の如何なる化合物が使用可能であるかということが本件特許に係る原出願時に技術常識として知られていたとも当然認められない。

(エ) 更には、ゴム組成物の組成がランフラットタイヤの耐久性に大きく影響を及ぼすことは、本件特許に係る原出願時の技術常識であるが、本件訂正明細書には、ゴム成分、添加剤として如何なるものを選択することによって上記パラメータが如何に変動するのか、また、これらの割合を如何に変動させると上記パラメータが如何に変動するのかについても記載されておらず、本件特許に係る原出願時の技術常識からも、具体的に如何なるゴム、添加剤成分の選択、配合割合の調整によって上記パラメータを必ず満たすゴム組成物を製造できるのか明らかであるとも認められない。

(オ) このように、本件訂正明細書には、上記パラメータを満たすゴム組成物を製造する方法として、上記特定の劣化防止剤を配合する手法以外の方法について一切記載されておらず、当業者が、本件特許に係る原出願時の技術常識を考慮しても、本件訂正発明に係る物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物以外の物を作る場合には、製造されたゴム組成物につき動的貯蔵弾性率を逐一計測して、上記パラメータを満たしているか否かを確認することが必要であるため、当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。

イ 判断
(ア) 本件訂正発明は「タイヤ」という物の発明であり、上記13(2)のとおり、本件訂正明細書では、実施例として、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下」であるゴム組成物の具体例(No2?No17)及び斯かるゴム組成物を用いてなるランフラットタイヤの具体例(実施例1?実施例35)が記載されており、かかる態様は、当業者であれば格別の困難なく実施することができるものといえる。

(イ) 上記(ア)で述べたとおり、当該パラメータを満たすゴム組成物を製造する方法として、本件訂正明細書には、特定の劣化防止剤を配合する手法が具体的に記載されており、斯かる手法によれば、当業者が、当該パラメータを満たすゴム組成物を製造することができる程度に記載されているといえる。

(ウ) そして、本件訂正明細書の記載が実施可能要件を満たすかどうかという点については、少なくとも1つの手法が本件訂正明細書中に具体的に記載されていれば、当業者は斯かる手法により本件訂正発明を実施することができるのであるから、他のあらゆる手法についてまで本件訂正明細書中に具体的に記載する必要があるとまではいえない。

(エ) また、本件訂正明細書には本件訂正発明を製造(実施)できる程度に具体的な記載がないというに足りる具体的な根拠を見いだすこともできないし、また、本件特許に係る原出願時においてそのような技術常識があったとも認められない。
すなわち、本件訂正発明に係る物を製造し、使用することができるものと認められる。そうすると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正発明について、実施可能要件を満たすものである。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正発明について、実施可能要件を満たすものである。

(3) 無効理由12についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由12には、理由がない。


15 無効理由13(明確性要件違反)について
(1) 明確性要件について
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が明確であることを要する旨、規定している(以下、この要件を「明確性要件」という。)。
特許法第36条第6項第2号は、「特許請求の範囲の機能を担保する上で重要な規定であり、特許を受けようとする発明が明確に把握できるように記載しなければならない旨を規定したものである。」とされ、さらに、「発明が明確に把握されるためには、発明の範囲が明確であること、すなわち、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されていることが必要であり、その前提として、発明を特定するための事項の記載が明確である必要がある。」とされている。
そして、発明が不明確となる類型として、「明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に記載された機能・特性等の意味内容(定義、試験・測定方法等)を理解できない結果、発明が不明確となる場合」があり、「標準的に使用されているものを用いないで表現する場合は、それが当該技術分野において当業者に慣用されているか、又は慣用されていないにしてもその定義や試験・測定方法が当業者に理解できるものを除き、発明の詳細な説明の記載において、その機能・特性等の定義や試験・測定方法を明確にするとともに、請求項中のこれらの用語がそのような定義や試験・測定方法によるものであることが明確になるように記載しなければならない。」とされている。

(2) 請求人の主張する明確性要件違反
ア 請求人は、以下のとおり主張している。
本件訂正発明では、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下である」と規定されているものの、本件訂正明細書を参酌しても「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下である」の「変動」が意味するところが不明確であり、以下のA案およびB案の2通りの解釈を考えることができる。
A案:170℃から200℃までの間における動的貯蔵弾性率の最大値と最小値との差
B案:170℃における動的貯蔵弾性率と200℃における動的貯蔵弾性率との差
A案およびB案のうち、どちらの解釈を採用するかにより、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動値は異なることとなり、ある具体的な物が当該特許請求の範囲に属するものか否かが明確ではなく、ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解することができない。

イ 判断
本件訂正発明においては、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下である」と特定されているところ、斯かる「変動」の意味としては、「170℃から200℃までの間における動的貯蔵弾性率の最大値と最小値との差」、すなわち請求人のいう「A案」を意味すると解するのが自然であって、平成28年2月8日に被請求人から提出された口頭審理陳述要領書においても、被請求人はそのように主張していることから、当該「変動」の意味は明確であるといえる。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正発明について、明確性要件を満たすものである。

(3) 無効理由13についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由13には、理由がない。


16 無効理由14(明確性要件違反)について
(1) 請求人の主張する明確性要件違反
ア 請求人は、以下のとおり主張している。
(ア) 上記15(1)で述べたとおり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすためには、「発明の詳細な説明の記載において、その機能・特性等の定義や試験・測定方法を明確にするとともに、請求項中のこれらの用語がそのような定義や試験・測定方法によるものであることが明確になるように記載」する必要がある。

(イ) 本件請求項1には、「動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であるサイドウォール部補強用ゴム組成物」との記載があり、本件訂正明細書の段落【0022】には、「ゴム組成物の粘弾性は、160℃で12分加硫した、厚さ2mmのスラブシートより切り出した幅5mm、長さ20mmの試料の動的貯蔵弾性率(E’)及び損失正接(tanδ)を、東洋精機(株)製スペクトロメータを使用して、初期荷重160g、動的歪1%、周波数52Hzの測定条件で、20℃?250℃の温度範囲で、3℃/秒の昇温速度にて測定した。」との記載がある。
一般的に、動的貯蔵弾性率の測定値は、ゴム組成物の形状、加硫温度、加硫時間などの試験条件で変化するものである。また、動的貯蔵弾性率の測定値は、初期荷重などの測定条件によっても変化する。
本件訂正明細書の段落【0022】には、動的貯蔵弾性率の測定に関する試験・測定条件について記載はあるものの、本件請求項1では、本件訂正発明がそのような試験・測定条件のもとで得られた値であることが明確に記載されていない。
従って、本件請求項1の記載からは、本件訂正発明のゴム組成物がどのようなゴム組成物であるのかを明確に把握することができず、ある具体的な物が当該特許請求の範囲に属するものか否かが明確ではない。

イ 判断
動的貯蔵弾性率の測定に関する試験・測定条件について、本件訂正発明では特定されていないものの、本件訂正明細書の段落【0022】には、動的貯蔵弾性率の測定に関する試験・測定条件について、「ゴム組成物の粘弾性は、160℃で12分加硫した、厚さ2mmのスラブシートより切り出した幅5mm、長さ20mmの試料の動的貯蔵弾性率(E’)及び損失正接(tanδ)を、東洋精機(株)製スペクトロメータを使用して、初期荷重160g、動的歪1%、周波数52Hzの測定条件で、20℃?250℃の温度範囲で、3℃/秒の昇温速度にて測定した。」と明確・具体的に記載されている。
そうすると、本件訂正発明で特定する動的貯蔵弾性率については、本件訂正明細書の段落【0022】に記載された動的貯蔵弾性率の測定に関する試験・測定条件により測定されたものであると解するのが自然であって、当該「動的貯蔵弾性率」がそのような試験・測定条件のもとで得られた値であることを意味していることは明確であるといえる。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正発明について、明確性要件を満たすものである。

(2) 無効理由14についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由14には、理由がない。


17 無効理由15(明確性要件違反)について
(1) 請求人の主張する明確性要件違反
ア 請求人は、以下のとおり主張している。
本件訂正明細書の段落【0022】に動的貯蔵弾性率の測定に関する試験・測定条件にが記載されているところ、その中の「初期荷重160g」について、本件訂正明細書を参酌しても、「初期荷重」が意味するところが不明確であり、以下の○1(審決注:丸付き数字であるが、表記できないため、このように表記する。以下同じ。)案および○2案の2通りの解釈を考えることができる。
○1案:測定開始時(20℃)に160gの静的荷重を加え、この静的荷重まで測定試料を伸ばし、この状態でサンプルの長さを固定した状態で動的貯蔵弾性率の測定を行う。
○2案:静的荷重が測定試料に常に160gかかるように高温ではサンプルを伸長し続けて動的貯蔵弾性率の測定を行う。
○1案および○2案のうち、どちらの解釈を採用するかにより、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動値は異なることとなり、ある具体的な物が当該特許請求の範囲に属するものか否かが明確ではなく、ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解することができない。

イ 判断
被請求人の提出した審判事件答弁書によれば、以下のことを認めることができる。
(ア) 本件訂正明細書に記載された動的貯蔵弾性率の測定装置「東洋精機(株)製スペクトロメータ」において、(i)歪の値を一定に維持して動的貯蔵弾性率を測定する測定モードと、(ii)荷重の値を一定に維持して動的貯蔵弾性率を測定する測定モードとの2種類の測定モードが存在することから、動的貯蔵弾性率を測定する方法としては、(i)「歪を一定とする測定方法」と、(ii)「荷重を一定とする測定方法」(請求人が主張する○2案)と、の2種類の方法があることは、技術常識である。

(イ) 上記(i)「歪を一定とする測定方法」を用いる場合は、一定とする歪の値を「初期歪」又は「静的歪」といった表記で表わすことが一般的であって、例えば、請求人が出願人である特開平7-179669号公報(乙第1号証)の段落【0030】には、「初期歪10%」と、同じく請求人が出願人である特開平7-233286号公報(乙第2号証)の段落【0023】には、「静的歪10%」と記載されている一方、上記(ii)「荷重を一定とする測定方法」(請求人が主張する○2案)を用いる場合は、一定とする荷重の値を「初期荷重」といった表記で表わすことが一般的であって、例えば、特開平6-308324号公報(乙第3号証)の段落【0066】、特開平6-235816号公報(乙第4号証)の段落【0051】、特開平3-188144号公報(乙第5号証)の6頁右上欄、特開平8-176963号公報(乙第6号証)の段落【0015】、特開平6-346319号公報(乙第7号証)の段落【0007】には、「初期荷重」と記載されている。ここで、一定とする荷重を「初期荷重」というのは、当分野での古くからの慣習である。

(ウ) 以上のことから、「初期荷重」とは、請求人のいう○2案(静的荷重が測定試料に常に160gかかるように高温ではサンプルを伸長し続けて動的貯蔵弾性率の測定を行う)を意味することが明確であるといえる。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正発明について、明確性要件を満たすものである。

(2) 無効理由15についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由15には、理由がない。


第7 むすび

以上のとおり、本件訂正請求に係る訂正は適法であり訂正を認める。そして、請求人の主張する無効理由1ないし15及び証拠方法によっては、訂正後の請求項1に係る発明についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第62条の規定により、請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ランフラットタイヤ
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドウォール部補強用ゴム組成物及びランフラットタイヤに関し、さらに詳しくは、耐熱性が改良されたサイドウォール部補強用ゴム組成物及び、該ゴム組成物を用いたランフラットタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、サイドウォール部の剛性を上げるためにゴム組成物単体或いは、ゴム組成物と繊維などの複合体による補強層が配設されている。しかし、これらに用いられるゴム組成物には、とくに、タイヤのパンクなどにより内圧が下がった状態で走行する、いわゆる、ランフラット走行時のように、温度が200℃以上にもなると、加硫などによって得られた架橋部、または、ゴム成分をなしているポリマー自体が切断されてしまう傾向がある。これにより、弾性率が低下するためタイヤのたわみが増加し発熱が進み、あるいは、ゴムの破壊限界が低下し、その結果、タイヤは、比較的早期に故障に至ってしまう。
【0003】
故障に至るのをできるだけ遅くする手段の一つとして、配合を変えることにより用いるゴム組成物の弾性率をできるだけ大きく、あるいは、そのtanδをできるだけ小さく設定し、ゴム組成物自体の発熱を抑制する方法があるが、配合面からのアプローチには限界が有り、一定以上の耐久距離を確保するためには、ゴム補強層及びビードフィラーを増量するしかなく、通常走行時において乗り心地性の悪化、騒音レベルの悪化、重量の増加を招いているのが現状であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の目的は、耐熱性が改良されたサイドウォール部補強用ゴム組成物および耐久性が改良されたランフラットタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ゴム組成物の耐熱性を上げるべく、種々の配合薬品について鋭意研究した結果、特定の化合物を配合することにより、ゴム組成物の耐熱性を大幅に向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、以下の構成とする。
(1)サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であり、天然ゴムを含むサイドウォール部補強用ゴム組成物を用いたことを特徴とするランフラットタイヤ。
【発明の効果】
【0007】
ゴム組成物の動的貯蔵弾性率の170℃?200℃における変動を3.0MPa以内に抑えることにより、ゴム組成物の物性の温度依存性を小さくすることができ、さらに、このゴム組成物を空気入りタイヤの特にはサイドウォール部のゴム補強層に用いることにより、タイヤの耐久性を大幅に改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のサイドウォール部補強用ゴム組成物(以下、「ゴム組成物」と略記する)は、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの温度範囲における変動が3.0MPa以下でなければならない。この変動が3.0MPaを超えると、ゴム組成物の弾性率の温度依存性が高くなり、高温での物性の低下を免れない。
【0009】
本発明では、劣化防止剤として、ゴム組成物に1分子中にエステル基を2個以上有する化合物を配合することが好ましい。
【0010】
1分子中にエステル基を2個以上有する化合物としては、特に制限はないが、アクリレートまたはメタクリレート、特には、多価のアルコールとアクリル酸またはメタクリル酸との多価エステルであることが好ましい。
【0011】
多価アルコールとしては、メチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、等のアルキレングリコール及びその多量体、さらには、これらのメチロール置換体、エリスリトール等のケトロース類、ポリアルコキシフェニルプロパンなどのポリアルキレンオキサイド基を含有する化合物、アルコール性水酸基を2つ以上有するポリエステル類または、オリゴエステル類等が挙げられ、その中でも特に好ましいのは、アルキレングリコールのメチロール置換体、及び、その多量体である。
【0012】
1分子中に2個以上のエステル基を有する化合物の具体例としては、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,5-ペンタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレートポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ビス(4-アクリロキシ)ポリエトキシフェニルプロパンオリゴエステルジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、オリゴエステルポリアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジ(テトラメチロールメタン)ペンタメタクリレート、ジ(テトラメチロールメタン)トリメタクリレート等が挙げられるが、その中でも特に好ましいのは、ジ(テトラメチロールメタン)ペンタメタクリレート、ジ(テトラメチロールメタン)トリメタクリレート、及び、トリメチロールプロパントリメタクリレートである。これらの化合物は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
これら、1分子中にエステル基を2個以上有する化合物の配合量は、0.5?20重量部であることが好ましく、さらに好ましくは、1.0?15重量部である。0.5重量部未満では、本発明の効果が十分に得られず、20重量部を超えて配合しても、配合量に見合った効果は得られない。
【0014】
本発明で好適に用いる劣化抑止剤は、170℃未満では、加硫に対して実質的に不活性であり、従って、加硫温度(通常160℃前後)においては架橋に関与せず弾性率は設計目標以上に増加しない。一方、ゴム組成物の温度が170℃以上になると、ゴムの劣化が始まり、架橋点やポリマー鎖の切断が起こり始めるが、一方で、該劣化抑止剤によるポリマーの再架橋も進むため、弾性率の低下が抑えられ、その結果、高温下でも発熱が抑制される。
【0015】
本発明で用いられるゴム成分としては、とくに制限はなく、通常用いられるものを適宜選択することができ、例えば、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IR)、ポリブタジエン(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
本発明のゴム組成物には、上記の他、通常、ゴム業界で用いられる架橋剤、架橋促進剤、老化防止剤、軟化剤、補強性充填材、無機充填材等の配合剤を適宜配合することができる。また、本発明のゴム組成物は、さらに、いろいろな材質の粒子、繊維、布等との複合体としてもよい。
【0017】
本発明のランフラットタイヤは、そのサイドウォール部に配設するゴム補強層に上記のゴム組成物を含むことが必要である。
【0018】
タイヤ走行時、特に、ランフラット走行時には、荷重によるタイヤの変形は大変大きくなり、特にサイドウォール部における、変形による発熱が大きく、サイドウォール部の故障が大きな問題となっている。
【0019】
前述のように、本発明のゴム組成物は、低温であれば、設計目標どおりの弾性率を維持することができるので、通常走行時において、弾性率の増加による乗心地性、騒音レベルの悪化は実質的に起こらない。一方、タイヤのパンクなどによる大きな変形のため、ゴム組成物の温度が170℃以上になっても弾性率の低下が抑えられるため、高温下での発熱が抑制され、タイヤの耐久性を向上することができる。
【0020】
従って、このような化合物を、タイヤのサイドウォール部のゴム補強層のゴム組成物に配合することにより、特にタイヤサイドウォール部の耐久性を向上させることができ、結果として、例えば、ランフラット走行距離が大幅に伸びることとなる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の主旨を越えないかぎり、本実施例に限定されることはない。また、実施例中の部及び%は、特に断らないかぎり、重量基準である。各種の測定は、下記の方法によった。
【0022】
(1)ゴム組成物の粘弾性は、160℃で12分加硫した、厚さ2mmのスラブシートより切り出した幅5mm、長さ20mmの試料の動的貯蔵弾性率(E’)及び損失正接(tanδ)を、東洋精機(株)製スペクトロメータを使用して、初期荷重160g、動的歪1%、周波数52Hzの測定条件で、20℃?250℃の温度範囲で、3℃/秒の昇温速度にて測定した。tanδが大きいと、ゴム組成物の発熱が大きい。
【0023】
タイヤランフラット耐久性内圧3.0kg/cm^(2)でリム組みし、38℃の室温中に24時間放置後、バルブのコアを抜き内圧を0kg/cm^(2)にして、荷重570kg、速度89km/hrs、室温38℃の条件でドラム走行テストを行った。この時の故障発生までの走行距離をランフラット耐久性とし、コントロールを100とした指数で表わした。指数が大きいほど、ランフラット耐久性は良好である。
【0024】
表1の基本配合に従い、表2の化合物を配合してゴム組成物を調製し、初期及び、熱老化後の動的貯蔵弾性率E’及びtanδを測定した。結果を表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

劣化抑止剤
1:トリメチロールプロパントリメタクリレート
2:日本化薬株式会社製 KARAYAD D310
3:日本化薬株式会社製 KAYARAD D330
4:日本化薬株式会社製 KAYARAD DPHA
【0027】
表2から判るように、劣化抑止剤を配合した本発明のゴム組成物は、動的貯蔵弾性率の170℃?200℃における温度依存性が少ない。
【0028】
さらに、各ゴム組成物をゴム補強層のゴム組成物に用いてサイズ225/60R16の乗用車用ラジアルタイヤを常法によって製造し、耐久性試験を行った。結果を表3に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
表3から判るように、本発明のゴム組成物を空気入りタイヤのサイドウォール部のゴム補強層に用いることにより、ランフラット耐久性を向上できることが判る。
【0031】
次に、各ゴム組成物をゴム補強層だけでなく、ビードフィラーゴムにも用いて、タイヤサイズ225/ 60R16の乗用車用ラジアルタイヤを定法によって製造し、耐久性試験を行った。結果を表4に示す。
【0032】
【表4】

【0033】
表4から判るように、ビードフィラーにも本発明のゴム組成物を用いることにより、それぞれのゴム組成物の種類によらず、ランフラット耐久性がさらに向上することが判る。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイドウォール部がゴム補強層によって補強されているランフラットタイヤにおいて、前記ゴム補強層に、動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動が2.9MPa以下であり、天然ゴムを含むサイドウォール部補強用ゴム組成物を用いたことを特徴とするランフラットタイヤ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-06-21 
結審通知日 2016-06-24 
審決日 2016-07-05 
出願番号 特願2009-185645(P2009-185645)
審決分類 P 1 113・ 536- YAA (C08L)
P 1 113・ 537- YAA (C08L)
P 1 113・ 113- YAA (C08L)
P 1 113・ 121- YAA (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 純福井 美穂  
特許庁審判長 守安 智
特許庁審判官 小野寺 務
前田 寛之
登録日 2013-09-13 
登録番号 特許第5361064号(P5361064)
発明の名称 ランフラットタイヤ  
代理人 池田 浩  
代理人 池田 浩  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 憲司  
代理人 塚中 哲雄  

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