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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08J 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C08J |
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管理番号 | 1332018 |
審判番号 | 不服2016-12916 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-08-26 |
確定日 | 2017-08-31 |
事件の表示 | 特願2015-544226「水溶性包装用フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月10日国際公開、WO2016/035671〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27(2015)年8月27日(優先権主張 2014年9月1日 (JP)日本国特許庁、及び2015年2月20日 (JP)日本国特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成28年2月15日付けで拒絶理由が通知され、同年4月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月10日付けで拒絶査定がされたところ、同年8月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたので、特許法第162条所定の審査がされた結果、同年11月21日付けで同法第164条第3項所定の報告がされ、平成29年3月7日に請求人より上申書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定における拒絶の理由は次の理由を含むものである。 (理由1)この出願の請求項1?7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (理由2)この出願の請求項1?7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 刊行物:特開2003-171424号公報(引用文献1) 第3 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成28年8月26日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成28年8月26日提出の手続補正(以下、「本件補正」という)は、拒絶査定不服審判の請求と同時にしたものであって、本件補正前の請求項1?7のうち、請求項3と4を削除し、それに伴って後続の請求項の引用請求項の番号を繰り上げ、その上で、本件補正前の請求項1において、ポリビニルアルコールの「含有量」、「ケン化度」及び「ケン化度分布標準偏差(σ)」の数値範囲に関する発明特定事項を追加する特許請求の範囲についての補正を含むものである。したがって、本件補正前の請求項1?7と本件補正後の請求項1?5の記載は次のとおりである。 補正前: 「【請求項1】 ポリビニルアルコール、可塑剤及びアルカリ金属を含有し、 ポリビニルアルコール100重量部に対して、前記可塑剤を3?15重量部含有し、 前記アルカリ金属を水溶性包装用フィルム100重量%に対して0.85?5重量%含有し、単位面積当たりのアルカリ金属含有量が0.06?10g/m^(2)であり、 前記ポリビニルアルコールの重合度が400?2000である ことを特徴とする水溶性包装用フィルム。 【請求項2】 アルカリ金属は、ナトリウムであることを特徴とする請求項1記載の水溶性包装用フィル ム。 【請求項3】 ポリビニルアルコールは、ケン化度が80.0?99.9モル%であることを特徴とする請求項1又は2記載の水溶性包装用フィルム。 【請求項4】 ポリビニルアルコールは、ケン化度分布標準偏差(σ)が0.1?1.0モル%であることを特徴とする1、2又は3記載の水溶性包装用フィルム。 【請求項5】 ポリビニルアルコールは、スルホン酸基、ピロリドン環基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の親水性基で変性されていることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の水溶性包装用フィルム。 【請求項6】 親水性基を有する構成単位の含有量が0.1?15モル%であることを特徴とする請求項5記載の水溶性包装用フィルム。 【請求項7】 伸度100%で引張試験を行った場合の引張強度が5?30MPaであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の水溶性包装用フィルム。」 補正後: 「【請求項1】 ポリビニルアルコール、可塑剤及びアルカリ金属を含有し、 ポリビニルアルコール100重量部に対して、前記可塑剤を3?15重量部含有し、 水溶性包装用フィルム100重量%中、前記ポリビニルアルコールの含有量が83.8?97重量%であり、 前記アルカリ金属を水溶性包装用フィルム100重量%に対して0.85?5重量%含有し、単位面積当たりのアルカリ金属含有量が0.06?10g/m^(2)であり、 前記ポリビニルアルコールは、重合度が400?2000、ケン化度が85?99.9モル%、ケン化度分布標準偏差(σ)が0.1?1.0モル%である ことを特徴とする水溶性包装用フィルム。 【請求項2】 アルカリ金属は、ナトリウムであることを特徴とする請求項1記載の水溶性包装用フィルム。 【請求項3】 ポリビニルアルコールは、スルホン酸基、ピロリドン環基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の親水性基で変性されていることを特徴とする請求項1又は2記載の水溶性包装用フィルム。 【請求項4】 親水性基を有する構成単位の含有量が0.1?15モル%であることを特徴とする請求項3記載の水溶性包装用フィルム。 【請求項5】 伸度100%で引張試験を行った場合の引張強度が5?30MPaであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の水溶性包装用フィルム。」 2 補正の適否 (1)特許法第17条の2第3項及び第4項について 本件補正は、特許法第17条の2第1項第4号に基づき、拒絶査定不服審判の請求と同時になされたものであるところ、同法第17条の2第3項には、明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないと規定されているので、まず、この点について検討する。 本件補正後の請求項1について、「水溶性包装用フィルム100重量%中、前記ポリビニルアルコールの含有量が83.8?97重量%」とすること、「ケン化度が85?99.9モル%」とすること及び「ケン化度分布標準偏差(σ)が0.1?1.0モル%」とすることは、いずれも本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項3及び4、さらに明細書の段落[0034]、[0036]、[0039]及び[0078](表1の特に実施例3)に記載された各数値範囲に対応していると認められる。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。 また、本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすことも明らかである。 (2)特許法第17条の2第5項について 特許法第17条の2第5項において、同条第1項第4号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は、同条第5項各号に掲げる事項(請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明)を目的とするものに限るとされているので、本件補正が、その規定を満たすかについて検討する。 本件補正の請求項1における補正のうち、ケン化度とケン化度分布標準偏差(σ)に関する発明特定事項については、本件補正前の請求項1を引用する請求項3をさらに引用する請求項4に係る発明の発明特定事項に対応するものであるから、元々特許請求の範囲に記載されていた発明を本件補正後の請求項1に繰り上げた上でケン化度についての数値範囲を減縮し、本件補正前の請求項3と4を削除したことから、特許法第17条の2第5項第2号に規定された、特許請求の範囲のいわゆる限定的な減縮に該当するものと認められる。 そして、本件補正の請求項1における補正のうち、「水溶性包装用フィルム100重量%中、前記ポリビニルアルコールの含有量が83.8?97重量%であり、」というポリビニルアルコールの含有量に関する発明特定事項が追加された点(以下、「本件補正事項1」という。)について特に検討する。 まず、本件補正事項1は、請求項の削除、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものでないことは明らかである。よって、本件補正事項1が、特許法第17条の2第5項第2号に規定された、特許請求の範囲の減縮(同法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とするものであるか否かを検討する。 本件補正事項1によって、水溶性包装用フィルム中におけるポリビニルアルコールの含有量が特定されたことによって、本件補正後の請求項1に係る発明である「水溶性包装用フィルム」の範囲は外形上減縮されたと一応いえるかもしれない。しかしながら、本件補正前の請求項1においては、水溶性包装用フィルム中におけるポリビニルアルコールの含有量に関する発明特定事項自体が元々存在していなかったし、また他の下位請求項においてもそれに関する発明特定事項が存在していなかったのであるから、そのような発明特定事項の追加は、本件補正前の請求項のいずれの発明特定事項を限定するものでもないため、特許法第17条の2第5項第2号でいうところのいわゆる限定的な減縮には該当しない。 したがって、補正事項1を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に規定する、特許請求の範囲の減縮、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれの事項を目的とするものにも当たらないのであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 なお、仮に本件補正事項1による「水溶性包装用フィルム100重量%中、前記ポリビニルアルコールの含有量が83.8?97重量%であり」という発明特定事項の追加が、「水溶性包装用フィルム」に係る発明の限定的な減縮に該当し、本件補正が特許法第17条の2第5項第2号を目的とするものと認められる場合についても一応下記(3)において検討する。 (3)特許法第17条の2第6項について 上記(2)での検討にもかかわらず、仮に本件補正が特許法第17条の2第5項第2号を目的とするものと認められる場合には、同法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定により、特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。よって、この点を検討する。 (3)-1 本件補正発明 本件補正後の請求項1?5に係る発明は、平成28年8月26日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)は、上記1に「補正後」として記載した次のとおりのものである。 本件補正発明1: 「【請求項1】 ポリビニルアルコール、可塑剤及びアルカリ金属を含有し、 ポリビニルアルコール100重量部に対して、前記可塑剤を3?15重量部含有し、 水溶性包装用フィルム100重量%中、前記ポリビニルアルコールの含有量が83.8?97重量%であり、 前記アルカリ金属を水溶性包装用フィルム100重量%に対して0.85?5重量%含有し、単位面積当たりのアルカリ金属含有量が0.06?10g/m^(2)であり、 前記ポリビニルアルコールは、重合度が400?2000、ケン化度が85?99.9モル%、ケン化度分布標準偏差(σ)が0.1?1.0モル%である ことを特徴とする水溶性包装用フィルム。」 (3)-2 引用例の記載 原査定における拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である特開2003-171424号公報(以下、「引用例」という)には、以下の事項が記載されている。 (摘記事項ア) 「【発明の属する技術分野】本発明は水溶性フィルムに関する。さらに詳しくは、本発明は、N-ビニルアミド系単量体単位、ならびにカルボキシル基およびラクトン環の含有量、重合度およびけん化度が特定された変性ポリビニルアルコール(以下、ポリビニルアルコールを「PVA」と略称することがある)からなり、冷水溶解性、生分解性、耐薬品性、および強度や腰などの実用物性が同時に優れた水溶性フィルムに関する。」(段落【0001】) (摘記事項イ) 「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は上記の欠点を解消し、冷水溶解性および生分解性が良好で、強度や腰などの実用物性に優れ、薬品を包装した際にも経時的に諸物性が低下することのないPVA系の水溶性フィルムを提供することにある。 【課題を解決するための手段】本発明者はかかる現状に鑑み鋭意検討した結果、N-ビニルアミド系単量体単位の含有量、カルボキシル基およびラクトン環の含有量、ならびに重合度およびけん化度がある特定の範囲にある変性PVAが、目的とする水溶性フィルムを製造するうえで極めて有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、分子内にN-ビニルアミド系単量体単位を1?10モル%、ならびにカルボキシル基およびラクトン環を合わせて0.020?4.0モル%含有し、重合度が300?3000、けん化度が75?99.5モル%である変性ポリビニルアルコールからなる水溶性フィルムである。本発明の水溶性フィルムは、冷水への溶解性が優れているのみならず、耐酸性や耐塩素性などの耐薬品性、生分解性、および強度や腰などの実用物性にも優れているので、特に薬品などの包装材料として極めて有用である。 【発明の実施の形態】上記のとおり、従来知られている2-ピロリドン環含有PVAからなるフィルム、およびN-ビニルアセトアミド類とビニルエステルとの共重合体のけん化物からなるフィルムは冷水溶解性が十分ではないという問題を有しているが、この2-ピロリドン環含有PVAおよびN-ビニルアセトアミド類とビニルエステルとの共重合体のけん化物をフィルムの構成成分として用いた場合であっても、本発明にしたがって、2-ピロリドン環の含有量またはN-ビニルアミド系単量体単位の含有量、カルボキシル基およびラクトン環の合計の含有量、ならびに重合度およびけん化度を上記の範囲にすることにより、水溶性、生分解性および強度などの実用物性を同時に満足する水溶性フィルムとすることができる。 」(段落【0009】?【0012】) (摘記事項ウ) 「本発明において、変性PVAのけん化度は、得られるフィルムの強度、腰および製袋性の点から75?99.5モル%であることが必須である。変性PVAのけん化度が75モル%より小さいと、フィルムの腰が無くなり形態安定性が低下したり、フィルムにアルカリ性物質または酸性物質を包装して保管した場合に、フィルムの水溶性が低下したりする場合がある。一方、けん化度が99.5モル%よりも大きい変性PVAは、工業的に安定に製造することができず、このような変性PVAからは製膜を安定に行うこともできない。変性PVAのけん化度は、得られるフィルムの耐薬品性や形態安定性の点から、75?99.5モル%であり、82?99.5モル%であることがより好ましく、86?99.4モル%であることがさらに好ましく、90?99.2モル%であることが特に好ましく、最適には92?99.0モル%である。変性PVAのけん化度はJIS記載の方法により測定される。」(段落【0021】) (摘記事項エ) 「本発明の水溶性フィルムは、特定量のアルカリ金属を含有する場合に、特にフィルムの冷水溶解性と製膜性が優れたものとなる。変性PVA100重量部に対するアルカリ金属の含有量は、ナトリウム換算で0.05?2重量部であるのが好ましく、0.08?1.5重量部であるのがより好ましく、0.1?1.0重量部であるのが特に好ましい。アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウムなどが挙げられ、それらは主として酢酸やプロピオン酸などの低級脂肪酸の塩、変性PVAの単量体単位に含有されているカルボキシル基およびスルホン酸基などの酸基の塩として存在することができる。また、アルカリ金属は、後述する、水溶性フィルムの添加剤の中に存在しているものであっても差し支えない。アルカリ金属の含有量が0.05重量部未満の場合には、フィルムの冷水溶解性や製膜性向上の効果が発現しない場合がある。特にフィルムを溶融製膜法で製造する場合には、変性PVAを溶融する際のゲル化が大きいため、製膜性が低下して生産性が低下する。一方、アルカリ金属の含有量が2重量部より多い場合には、変性PVAがカルボキシル基を有するためか、フィルムが着色する傾向にあり、好ましくない。 本発明において、特定量のアルカリ金属を水溶性フィルム中に含有させる方法は特に制限されず、変性PVA溶液を調製する際に、酢酸やプロピオン酸などの低級脂肪酸のアルカリ金属塩などに代表されるアルカリ金属含有化合物を添加する方法、変性PVAからなるペレットを作製する際に同様のアルカリ金属含有化合物を添加する方法などが挙げられる。アルカリ金属の含有量は、原子吸光法により求めることができる。 本発明において、特定量のアルカリ金属を水溶性フィルム中に含有させる方法は特に制限されず、変性PVA溶液を調製する際に、酢酸やプロピオン酸などの低級脂肪酸のアルカリ金属塩などに代表されるアルカリ金属含有化合物を添加する方法、変性PVAからなるペレットを作製する際に同様のアルカリ金属含有化合物を添加する方法などが挙げられる。アルカリ金属の含有量は、原子吸光法により求めることができる。」(段落【0029】?【0030】) (摘記事項オ) 「一般に、水溶性フィルムには、高温多湿の地域や寒冷地での使用にも耐え得るような強度やタフネスが要求され、特に低温での耐衝撃性が必要とされる。本発明の水溶性フィルムには、低温での耐衝撃性向上を目的として、フィルムのガラス転移点を下げるために、種々の可塑剤を配合することができる。さらに本発明の水溶性フィルムには、上記の目的に加えて、水に対する溶解性を向上させる目的で可塑剤を配合することができる。 本発明の水溶性フィルムに配合される可塑剤としては、PVAの可塑剤として一般に用いられているものなら特に制限はなく、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、1,3-ブタンジオールなどの多価アルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテル類;ポリビニルピロリドンなどのポリビニルアミド類;ビスフェノールA、ビスフェノールSなどのフェノール誘導体;N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド化合物;グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどの多価アルコールにエチレンオキサイドを付加した化合物や水などが挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。これらの可塑剤の中でも、水溶性を向上させる目的には、グリセリン、ジグリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンを用いるのが好ましく、特に可塑剤のブリードアウトによるフィルムの水溶性低下を抑制する効果の点から、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンを用いるのが特に好ましい。」(段落【0033】?【0034】) (摘記事項カ) 「可塑剤の配合量は、変性PVA100重量部に対して1?50重量部であるのが好ましい。可塑剤の配合量が1重量部未満の場合には、可塑剤を配合することによる効果が発現しない場合がある。一方、可塑剤の配合量が50重量部を超える場合には、可塑剤のブリードアウトが大きくなり、得られるフィルムの耐ブロッキング性が低下する場合がある。得られるフィルムの水に対する溶解速度の点から、変性PVA100重量部に対して可塑剤を20重量部以上の割合で配合するのが好ましい。一方、得られるフィルムの腰(製袋機などの工程通過性)の点からは、変性PVA100重量部に対して可塑剤を40重量部以下の割合で配合するのが好ましい。得られるフィルムの水溶性を向上させる観点からは、可塑剤の配合量は多いほど好ましく、さらに、可塑剤の配合量が多いほどヒートシール温度が低下し、フィルム製袋時の生産性が向上する傾向がある。特に、得られるフィルムのヒートシール温度が170℃以下となるような割合で可塑剤を配合することが好ましく、160℃以下となるような割合で可塑剤を配合することがさらに好ましい。」(段落【0036】) (摘記事項キ) 「合成例1(変性PVAの合成) 撹拌機、還流冷却管、窒素導入管および温度計を取り付けた5Lの反応器に、酢酸ビニル単量体2040g、メタノール905g、N-ビニル-2-カプロラクタムの50%メタノール溶液110.7gおよびイタコン酸の10%メタノール溶液4.3gを仕込み、窒素ガスを30分間バブリングして脱気した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)1.5gを添加し重合を開始した。N-ビニル-2-カプロラクタムの50%メタノール溶液およびイタコン酸の10%メタノール溶液を酢酸ビニル単量体とのモル比率が一定になるように逐次添加しながら重合を行い、5時間後に冷却して重合を停止した。このときの固形分濃度は34%であった。次いで、30℃減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニル単量体の除去を行い、ポリ酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液(濃度33%)を得た。次に、メタノールを加えて濃度を25%に調整したポリ酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液にアルカリモル比(NaOHのモル数/酢酸ビニル単量体単位のモル数)0.03のNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加してけん化した。得られた変性PVA(PVA-1)のけん化度は98.4モル%であった。 得られた変性PVA1gにメタノール10gを加え、60℃に加温して変性PVAを膨潤させた後、NaOHのメタノール溶液(10%濃度)5gを加えて60℃で3時間撹拌したものについて、メタノールソックスレー抽出を3日間実施し、次いで乾燥して変性PVAの精製物を得た。該変性PVA精製物のプロトンNMR測定から求めたN-ビニル-2-カプロラクタム単量体単位の変性量は4.0モル%、カルボキシル基およびラクトン環単位の合計含有量は1.0モル%であった。また、該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ1500であった。 コモノマーの種類と変性量、カルボキシル基およびラクトン環の合計量、重合度、けん化度が下記の表1になるように重合条件を変更したこと以外はPVA-1と同様にして変性PVA(PVA-2?10、12?27)を合成した。合成した変性PVAの内容について表1に示す。 合成例2(PVAの合成) 攪拌機、還流冷却管、窒素導入管および温度計を取り付けた5L反応器に酢酸ビニル単量体2100g、メタノール900gを仕込み、窒素ガスを30分間バブリングして脱気した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.4gを添加し重合を開始した。5時間後に冷却して重合を停止した。このときの固形分濃度は27%であった。次いで、30℃減圧下にメタノールを時々添加しながら未反応酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度33%)を得た。次に、メタノールを加えて濃度を25%に調整したポリ酢酸ビニル重合体のメタノール溶液にアルカリモル比(NaOHのモル数/酢酸ビニル単量体単位のモル数)0.005のNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加してけん化した。得られたPVA(PVA-11)のけん化度は88.0モル%であった。 得られたPVA1gにメタノール10gを加え、60℃に加温してPVAを膨潤させた後、NaOHのメタノール溶液(10%濃度)5gを加えて60℃で3時間撹拌したものについて、メタノールソックスレー抽出を3日間実施し、次いで乾燥してPVAの精製物を得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ1500であった。 実施例1 表1に示される変性PVA(PVA-1)100重量部に対し、可塑剤としてグリセリン15重量部、エーテル化澱粉10重量部、平均粒子径3μmのタルク5重量部、アルカリ金属としてナトリウムが0.8重量部になるように酢酸ナトリウム、および水を添加して均一な5%水溶液(含水率95%)を作成し、ポリエステルフィルム上に流延して室温で乾燥した後、ポリエステルフィルムから剥離することにより、厚さ50μmのフィルムを得た。得られたフィルムに100℃で10分間熱処理を行った。このフィルムの水溶性を測定したところ、10℃水中での完全溶解時間は61秒であった。また、フィルムの腰に代表される工程通過性などの取扱性の指標として、20℃、65%RHに調湿してヤング率の測定を行ったところ3.6kg/mm^(2)、強度は3.0kg/cm^(2)であった。また、変性PVA(PVA-1)について、ISO14851に準じた方法で生分解性を評価したところ、生分解率は83%であった。続いて、耐薬品性を評価したところ、薬品包装後のフィルムの10℃水中での完全溶解時間は62秒であり、水溶性の低下は見られなかった。 実施例2?10 変性PVAの内容、ならびにアルカリ金属、可塑剤、糖類および無機フィラーの種類と配合量を表1および表2に示されるように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを作製し、各種評価を行った。評価結果を表3に示した。」(段落【0053】?【0059】) (摘記事項ク) 「【表1】 ![]() 」(段落【0066】) (摘記事項ケ) 「【表2】 ![]() 」(段落【0067】) (摘記事項コ) 「【表3】 ![]() 」(段落【0068】) (摘記事項サ) 「【発明の効果】本発明の水溶性フィルムは、冷水に対する溶解性が優れているのみならず、薬品包装後においても水に対する溶解性は低下せず、生分解性、および強度や腰などの実用物性なども同時に優れており、特に農薬や洗剤などの包装用途に好ましく用いられる。」(段落【0069】) (3)-3 引用発明 摘記事項アによれば、引用例は変性ポリビニルアルコール(以下、ポリビニルアルコールを「PVA」と略称することがある。)からなり、冷水溶解性等の種々の実用物性が優れた水溶性フィルムに関する文献である。そして、引用例に記載される発明が解決しようとする課題は、摘記事項イ及びサによれば、冷水溶解性および生分解性が良好で、強度や腰などの実用物性に優れ、薬品を包装した際にも経時的に諸物性が低下することのないPVA系の水溶性フィルムを提供することであって、その解決手段として、N-ビニルアミド系単量体単位の含有量、カルボキシル基およびラクトン環の含有量、ならびに重合度およびけん化度がある特定の範囲にある変性PVAを提供するものである。 かかる水溶性フィルムの具体的な実施形態として、摘記事項キ、ク及びケには変性PVAの作成方法と当該変性PVAにアルカリ金属及び可塑剤等を添加してフィルムを作成したことが記載されている。当該実施例における変性PVAとして「PVA-9」及びそれに対応するフィルムである「実施例9」に着目し、摘記事項イにおいて特に薬品などの包装材料として有用であるという記載を踏まえると、引用例には次の発明(以下、「引用発明1」という)が記載されているといえる。 引用発明1: 「変性ポリビニルアルコールPVA-9(コモノマーがN-ビニルアセトアミド、変性量3モル%、カルボキシル基およびラクトン環合計量1.0モル%、ビニルアルコール76.8モル%、残存酢酸基19.2モル%、重合度1500、ケン化度80.5モル%)、アルカリ金属としてナトリウム、可塑剤としてグリセリン、添加剤としてエーテル化澱粉を含有し、 前記変性ポリビニルアルコール100重量部に対して、ナトリウムを1.0重量部、グリセリンを5重量部、エーテル化澱粉を5重量部含有する、 水溶性包装用フィルム。」 (3)-4 対比 本件補正発明1の「ポリビニルアルコール」について検討する。本願明細書の段落【0016】?【0019】には次のとおり記載されている。 「ケン化度を好適な範囲に制御しやすいので、上記ビニルエステルを重合して得られるポリマーは、ポリビニルエステルであることが好ましい。また、上記ビニルエステルを重合して得られるポリマーは、上記ビニルエステルと他のモノマーとの共重合体であってもよい。すなわち、上記ポリビニルアルコールは、ビニルエステルと他のモノマーとの共重合体を用いて形成されていてもよい。上記他のモノマーすなわち共重合されるコモノマーとしては、例えば、オレフィン類、(メタ)アクリル酸及びその塩、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド誘導体、N-ビニルアミド類、ビニルエーテル類、ニトリル類、ハロゲン化ビニル類、アリル化合物、マレイン酸及びその塩、マレイン酸エステル、イタコン酸及びその塩、イタコン酸エステル、ビニルシリル化合物、並びに酢酸イソプロペニル等が挙げられる。上記他のモノマーは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。 上記オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン及びイソブテン等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸エステル類としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。上記(メタ)アクリルアミド誘導体としては、アクリルアミド、n-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩等が挙げられる。上記N-ビニルアミド類としては、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。上記ビニルエーテル類としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル及びn-ブチルビニルエーテル等が挙げられる。上記ニトリル類としては、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。上記ハロゲン化ビニル類としては、塩化ビニル及び塩化ビニリデン等が挙げられる。上記アリル化合物としては、酢酸アリル及び塩化アリル等が挙げられる。上記ビニルシリル化合物としては、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。 上記ポリビニルアルコールと上記他のモノマーとを共重合し、変性PVAとする場合には、変性量は好ましくは15モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。すなわち、変性PVAにおけるビニルエステルに由来する構造単位と上記他のモノマーに由来する構造単位との合計100モル%中、上記ビニルエステルに由来する構造単位は好ましくは85モル%以上、より好ましくは95モル%以上であり、上記他のモノマーに由来する構造単位は好ましくは15モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。なお、本明細書において、ポリビニルアルコールには、変性ポリビニルアルコール(変性PVA)が含まれる。 上記変性PVAは、親水性基で変性されたものであることが好ましい。 上記親水性基としては、例えば、スルホン酸基、ピロリドン環基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。なかでも、スルホン酸基、ピロリドン環基がより好ましい。」(下線は合議体によるもの。) かかる本願明細書の記載を考慮すると、本件補正発明1における「ポリビニルアルコール」は、他のモノマーとの共重合体である変性ポリビニルアルコールを概念上包含するものであり、かつ当該変性ポリビニルアルコールとしては、N-ビニルアミドやN-ビニルピロリドンをコモノマーとして共重合した変性ポリビニルアルコールも包含する。 したがって、引用発明1における「N-ビニルアセトアミド」は本件補正発明1「N-ビニルアミド」の一種であることは明らかであるから、引用発明1の「変性ポリビニルアルコールPVA-9」は、本件補正発明1における「ポリビニルアルコール」に相当するものである。 引用発明1の「可塑剤」については、本件補正発明1の「可塑剤」と文言上一致していることに加え、本件補正明細書の段落【0048】においてグリセリンが例示されていることからみて、本件補正発明1の「可塑剤」に相当するものである。そして、可塑剤の含有量について、引用発明1では変性ポリビニルアルコール100重量部に対してグリセリンを5重量部含有しているのに対し、本件補正発明1では3?15重量部であるから、引用発明1の可塑剤の含有量は本件補正発明1の範囲に包含されている。 引用発明1の「アルカリ金属」は本件補正発明1の「アルカリ金属」に相当するものであることは明らかである。 「変性ポリビニルアルコール」及び「アルカリ金属」それぞれの含有量について、引用発明1では、水溶性包装用フィルム100重量%中の重量%ではなく、変性ポリビニルアルコール100重量部に対する重量比が特定されているため、直接的には本件補正発明1とは対比できない。そこで、引用発明1における各成分の重量部がすべて特定されているため、これらを合計して総量として計算すると、次のとおりとなる。 (引用発明の水溶性包装用フィルムにおけるアルカリ金属含有量(重量%)) =(アルカリ金属の重量部)×100/(アルカリ金属の重量部+変性PVAの重量部+可塑剤の重量部+添加剤の重量部+無機フィラーの重量部) =(1.0)×100/(1.0+100+5+5+0) =約0.9重量% したがって、引用発明1は、アルカリ金属を水溶性包装用フィルム100重量%に対して約0.9重量%含有していることとなり、これは本件補正発明1における0.85%?5重量%の範囲に包含されるものである。 (引用発明の水溶性包装用フィルムにおける変性PVA(重量%)) =(変性PVAの重量部)×100/(アルカリ金属の重量部+変性PVAの重量部+可塑剤の重量部+添加剤の重量部+無機フィラーの重量部) =(100)×100/(1.0+100+5+5+0) =約90重量% したがって、引用発明1は、変性ポリビニルアルコールを水溶性包装用フィルム100重量%に対して約90重量%含有していることとなり、これは本件補正発明1における83.8%?97重量%の範囲に包含されるものである。 引用発明1における変性ポリビニルアルコールの重合度は1500であるのに対し、本件補正発明1におけるポリビニルアルコールの重合度は400?2000である。よって、引用発明1のポリビニルアルコールの重合度は本件補正発明1の範囲に包含されている。 以上の検討に基づくと、本件補正発明1と引用発明1とは、次の点で一致している。 (一致点) 「ポリビニルアルコール、可塑剤及びアルカリ金属を含有し、 ポリビニルアルコール100重量部に対して、前記可塑剤を3?15重量部含有し、 水溶性包装用フィルム100重量%中、前記ポリビニルアルコールの含有量が83.8?97重量%であり、 前記アルカリ金属を水溶性包装用フィルム100重量%に対して0.85?5重量%含有し、 前記ポリビニルアルコールの重合度が400?2000である ことを特徴とする水溶性包装用フィルム。」 そして、本件補正発明1と引用発明1とは次の点で相違している。 (相違点1) 本件補正発明1では「単位面積当たりのアルカリ金属含有量が0.06?10g/m^(2)」と特定されているのに対し、引用発明1ではそのような特定がされていない点。 (相違点2) ポリビニルアルコールのケン化度について、本件補正発明1では「85?99.9モル%」と特定されているのに対し、引用発明1では80.5である点。 (相違点3) 本件補正発明1では「ケン化度分布標準偏差(σ)が0.1?1.0モル%」と特定されているのに対し、引用発明1ではそのような特定がされていない点。 (3)-5 当審の判断 上記相違点1について検討する。本件補正発明1の「単位面積当たりのアルカリ金属含有量」については、本願明細書の段落【0042】に次のとおりの説明がある。 「・・・なお、上記単位面積当たりのアルカリ金属含有量とは、水溶性包装用フィルムの主面の面積に対するアルカリ金属の重量を意味する。 このような単位面積当たりのアルカリ金属含有量は、例えば、ICP発光分析装置を用いて測定されたアルカリ金属量と水溶性包装用フィルムの主面の面積とから算出することができる。」 かかる記載に基づくと、水溶性包装用フィルムを実際に作成した後、当該フィルムに含有されるアルカリ金属量を、当該フィルムの主面、すなわちフィルムにおいて最も広い面積を占める面と解される面、の面積で割り算して算出するものと理解される。したがって、「単位面積当たりのアルカリ金属含有量」とは、当該単位面積にフィルム厚さを乗じたフィルムの体積中におけるアルカリ金属含有量ということができ、フィルムの厚さによって変動する値であることから、本件補正発明1と引用発明1とで、相違点1を適正に評価するためには、フィルムの厚さが両発明で同じものとして検討する必要がある。 上記したとおり、「単位面積当たりのアルカリ金属含有量」は、それに厚さを乗じた体積当たりのアルカリ金属含有量であるから、体積と重量がフィルムの比重に基づいて比例関係にあることを踏まえると、当該体積に対応して比重から求められるフィルム重量当たりのアルカリ金属含有量であるということができる。一方、フィルム100重量%に対するアルカリ金属含有量は、フィルムの単位重量に対するアルカリ金属重量の百分率であることから、当該「単位面積当たりのアルカリ金属含有量」は、アルカリ金属含有量(重量%)に比例するものである。 また、本願明細書の段落【0086】の【表2】における「ナトリウム(重量%)」と「単位面積当含有量(g/m^(2))」の各実施例における値、例えば実施例3と4のそれぞれの値をみると、「ナトリウム(重量%)」が2倍になれば、「単位面積当含有量(g/m^(2))」も2倍になっているという結果を踏まえると、「ナトリウム(重量%)」と「単位面積当含有量(g/m^(2))」とが比例の関係にあることがこの結果からも理解できる。そして、当該実施例の1?10全体を見ると、各フィルムにおける成分の種類やその含有量が異なるとしても、わずかな比重の差による影響はあるものの、おおよそ比例の関係にあることが理解できる。 ここで、引用発明1については、対比のためフィルムの厚さが本願明細書の実施例と同じであって、かつ当該技術分野においてフィルム厚さとして技術常識の範囲でもある50μmであるとして、本願明細書の段落【0086】の【表2】を参照すると、引用発明1のナトリウム含有量約0.9%という値は、本願明細書の「実施例1」、「実施例9」及び「実施例10」におけるナトリウム含有量0.85重量%や0.9重量%に近い又は同じ値となっている。そうすると、それらのナトリウム含有量(重量%)に対応して、引用発明1における「単位面積当たりのアルカリ金属含有量」は、「実施例1」の0.51g/m^(2)、「実施例9」や「実施例10」の0.54g/m^(2)という値にごく近いものである蓋然性が高い。なお、上記(3)-4で対比したように、本件補正発明1と引用発明1とでは成分の種類や含有量がおおよそ一致していることからみて、水溶性包装用フィルムの比重の影響はごくわずかの程度といえることは先にも述べたとおりである。 そうすると、引用発明1における「単位面積当たりのアルカリ金属含有量」は、0.51g/m^(2)又は0.54g/m^(2)或いはそのごく周辺の値であるといえるから、本件補正発明1における「0.06?10g/m^(2)」の範囲に包含されている。 したがって、上記相違点は実質的には相違していない。 また、仮に相違するとしても、本件補正発明1における「0.06?10g/m^(2)」という範囲の広さを踏まえると、引用発明1に基づいてフィルムの厚さも含め当業者の通常の創作能力の範囲で作成される限り、得られる水溶性包装用フィルムの「単位面積当たりのアルカリ金属含有量」が「0.06?10g/m^(2)」の範囲に包含されている蓋然性が高い。 相違点2について検討する。引用例の摘記事項ウによれば、変性PVAのけん化度は、得られるフィルムの耐薬品性や形態安定性の点から、75?99.5モル%であり、86?99.4モル%であることがさらに好ましい旨記載されている。 このような記載に基づくと、引用発明1は上記耐薬品性や形態安定性の点から要求される75?99.5モル%という範囲には含まれているところであるが、さらなる製品の品質向上等を目指して、「さらに好ましい」と示唆されている範囲の「86?99.4モル%」とすることは、当業者であれば容易に想到する事項である。そして、当該「86?99.4モル%」というケン化度の範囲は、本件補正発明1のケン化度の範囲に包含される範囲である。 また、本願明細書の実施例を参照しても「実施例」と「比較例」のすべてにおいて、所期の範囲を満足するものしか開示されていないため、本件補正発明1のケン化度に関する数値範囲によって、格別の臨界的意義があるとは認められない。 相違点3について検討する。引用例1には、ケン化度分布標準偏差に関する記載はない。しかしながら、ケン化度分布標準偏差とはポリビニルアルコールのケン化度のばらつきの度合いを表す指標であるから、材料の品質がより均一なものを用いたほうが最終的な製品としても高品質のものが得られることは、当該技術分野における当業者の技術常識である。そうしてみると、当該ケン化度分布標準偏差σの値についても、0.5モル%や1.0モル%という数値のものが本願優先日前において既に市販されていたものであることを考慮すれば(例えば、本願優先日前に頒布された特開昭50-71770号公報の第4頁左上欄第9?10行目や特開平5-1198号公報の段落【0038】を参照。)、本件補正発明1における「0.1?1.0モル%」という数値範囲については、当業者の通常の創作能力の範囲において適宜設定できる程度の値にすぎないといえ、かつその数値範囲についても格別の臨界的な意義があるとは認められない。 (3)-7 小活 以上のことからみて、本件補正発明1は引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件補正発明1は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4)補正の却下の決定についてのまとめ 以上検討したとおり、仮に本件補正が特許法第17条の2第5項第2号を目的とするものと認められる場合であったとしても、本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第4 本願発明について 1 本願発明 平成28年8月26日提出の手続補正は上記第3のとおり却下されたので、本願請求項1?7に係る発明は、平成28年4月14日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。(上記第3の1に「補正前」として記載したのと同じ)。 本願発明1: 「【請求項1】 ポリビニルアルコール、可塑剤及びアルカリ金属を含有し、 ポリビニルアルコール100重量部に対して、前記可塑剤を3?15重量部含有し、 前記アルカリ金属を水溶性包装用フィルム100重量%に対して0.85?5重量%含有し、単位面積当たりのアルカリ金属含有量が0.06?10g/m^(2)であり、 前記ポリビニルアルコールの重合度が400?2000である ことを特徴とする水溶性包装用フィルム。」 2 引用例の記載事項・引用発明 上記第3の2(3)-3で述べたとおり、引用例には次に示すとおり、引用発明1が記載されている。 引用発明1: 「変性ポリビニルアルコールPVA-9(コモノマーがN-ビニルアセトアミド、変性量3モル%、カルボキシル基およびラクトン環合計量1.0モル%、ビニルアルコール76.8モル%、残存酢酸基19.2モル%、重合度1500、ケン化度80.5モル%)、アルカリ金属としてナトリウム、可塑剤としてグリセリン、添加剤としてエーテル化澱粉を含有し、 前記変性ポリビニルアルコール100重量部に対して、ナトリウムを1.0重量部、グリセリンを5重量部、エーテル化澱粉を5重量部含有する、 水溶性包装用フィルム。」 また、同様に引用例の摘記事項キ、ク及びケの実施例における変性PVAとして「PVA-10」及びそれに対応するフィルムである「実施例10」に着目すると、引用例には次の発明(以下、「引用発明2」という)が記載されているといえる。 引用発明2: 「変性ポリビニルアルコールPVA-10(コモノマーがN-ビニル-2-ピロリドン、変性量2モル%、カルボキシル基およびラクトン環合計量1.0モル%、ビニルアルコール95.9モル%、残存酢酸基1.1モル%、重合度1500、ケン化度98.9モル%)、アルカリ金属としてナトリウム、可塑剤としてグリセリン、添加剤として生コーンスターチ及び無機フィラーとしてタルクを含有し、 前記変性ポリビニルアルコール100重量部に対して、ナトリウムを2.1重量部、グリセリンを10重量部、生コーンスターチを10重量部、タルクを5重量部含有する、 水溶性包装用フィルム。」 3 対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると、上記第3の2(3)-4における相当関係についての検討も踏まえると、次の点で一致している。 (一致点) 「ポリビニルアルコール、可塑剤及びアルカリ金属を含有し、 ポリビニルアルコール100重量部に対して、前記可塑剤を3?15重量部含有し、 前記アルカリ金属を水溶性包装用フィルム100重量%に対して0.85?5重量%含有し、 前記ポリビニルアルコールの重合度が400?2000である ことを特徴とする水溶性包装用フィルム。」 そして、本願発明1と引用発明1とは次の点で相違している。 (相違点4) 本願発明1では「単位面積当たりのアルカリ金属含有量が0.06?10g/m^(2)」と特定されているのに対し、引用発明1ではそのような特定がされていない点。 また、本願発明1と引用発明2とを対比する。 引用発明2における「N-ビニル-2-ピロリドン」は、上記第3の2(3)-4での検討を踏まえると、本願発明1「N-ビニルアミド」の一種であることは明らかであるから、引用発明2の「変性ポリビニルアルコールPVA-10」は、本願発明1における「ポリビニルアルコール」に相当するものである。 引用発明2のアルカリ金属の含有量について、引用発明2では、水溶性包装用フィルムにおける重量比ではなく、変性ポリビニルアルコールに対する重量比が特定されているため、直接的には対比できない。そこで、引用発明2における各成分の重量部がすべて特定されているため、これらを合計して総量として計算をすると、次のとおりとなる。 (引用発明の水溶性包装用フィルムにおけるアルカリ金属含有量 重量%) =(アルカリ金属の重量部)×100/(アルカリ金属の重量部+変性PVAの重量部+可塑剤の重量部+添加剤の重量部+無機フィラーの重量部) =(2.1)×100/(2.1+100+10+10+5) =約1.7重量% したがって、引用発明2は、アルカリ金属を水溶性包装用フィルム100重量%に対して1.7重量%含有していることとなり、これは本願発明1における0.85%?5重量%の範囲に包含されるものである。 その他の相当関係については、上記第3の2(3)-4で検討したことと同様である。 したがって、本願発明1と引用発明2とは、次の点で一致している。 (一致点) 「ポリビニルアルコール、可塑剤及びアルカリ金属を含有し、 ポリビニルアルコール100重量部に対して、前記可塑剤を3?15重量部含有し、 前記アルカリ金属を水溶性包装用フィルム100重量%に対して0.85?5重量%含有し、 前記ポリビニルアルコールの重合度が400?2000である ことを特徴とする水溶性包装用フィルム。」 そして、本願発明1と引用発明2とは次の点で相違している。 (相違点5) 本願発明1では「単位面積当たりのアルカリ金属含有量が0.06?10g/m^(2)」と特定されているのに対し、引用発明2ではそのような特定がされていない点。 4 当審の判断 上記相違点4及び5については、いずれも、上記第3の2(3)-5において相違点1について検討したのと同様の理由によって、実質的には相違していないか、仮に相違するとしても、本願発明1における「0.06?10g/m^(2)」という範囲の広さを踏まえると、引用発明1又は2に基づいて当業者が通常の創作能力を発揮して作成する限りにおいて、得られる水溶性包装用フィルムが「0.06?10g/m^(2)」の範囲に包含されている蓋然性が高い。 したがって、本願発明1は、引用例に記載された発明であるか、すなわち引用発明1又は2であるか、そうでないとしても、引用例に記載された発明である引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 まとめ 以上のとおり、本願発明1、すなわち本願請求項1に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、または同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。よって本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-06-28 |
結審通知日 | 2017-07-04 |
審決日 | 2017-07-19 |
出願番号 | 特願2015-544226(P2015-544226) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08J)
P 1 8・ 572- Z (C08J) P 1 8・ 113- Z (C08J) P 1 8・ 575- Z (C08J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 玲奈 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
渕野 留香 佐久 敬 |
発明の名称 | 水溶性包装用フィルム |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |