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審決分類 |
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正しない G21F 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正しない G21F |
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管理番号 | 1332138 |
審判番号 | 訂正2014-390211 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2014-12-25 |
確定日 | 2017-09-21 |
事件の表示 | 特許第5584706号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件訂正審判の請求(以下、「本件請求」という。)に係る特許第5584706号(以下、「本件特許」という。)は、2010年2月17日に国際出願され、平成26年7月25日に設定登録されたものであって、平成26年12月25日に本件請求がなされ、当審において平成27年2月9日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、これに対して、同年3月23日付けで意見書が提出されたものである。 第2 請求の要旨及び訂正の内容 本件請求の要旨は、特許権全体に対して、本件特許に係る明細書及び特許請求の範囲の記載を、本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。 訂正事項1: 願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に、 「-第1の処理ステップで、部品材料の腐食によりこの部品上に生じた酸化物層を、除染用の有機酸を含んだ第1の水溶性の処理溶液で剥離し、 -これに続く第2の処理ステップで、少なくとも部分的に酸化物層が取り除かれた表面を、この表面に付着している粒子を除去するための作用成分を含んだ第2の水溶性の処理溶液で、処理する原子力発電所の冷却系統の構成部品の表面の化学的な除染方法であって、 前記作用成分がスルホン酸、燐酸、カルボン酸及びこれらの酸の塩からなる群から選ばれる少なくとも1つのアニオン界面活性剤で形成されている除染方法において、前記第2の水溶性の処理溶液が、遅くとも前記第2の処理ステップの終了する前に、イオン交換器に導かれることを特徴とする除染方法。」とあるのを、 「-第1の処理ステップで、部品材料の腐食によりこの部品上に生じた酸化物層を、除染用の有機酸を含んだ第1の水性の処理溶液で剥離し、 -これに続く第2の処理ステップで、少なくとも部分的に酸化物層が取り除かれた表面を、この表面に付着している粒子を除去するための作用成分を含んだ第2の水性の処理溶液で、処理する原子力発電所の冷却系統の構成部品の表面の化学的な除染方法であって、 前記作用成分がスルホン酸、ホスホン酸、カルボン酸及びこれらの酸の塩からなる群から選ばれる少なくとも1つのアニオン界面活性剤で形成されている除染方法において、前記第2の水性の処理溶液が、遅くとも前記第2の処理ステップの終了する前に、イオン交換器に導かれることを特徴とする除染方法。」に訂正する。 訂正事項2: 特許請求の範囲の請求項8に、 「前記第2の処理ステップの間、前記第2の水溶性の処理溶液のpH値が、前記少なくとも1つの界面活性剤の存在により決められ、維持されることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の方法。」とあるのを、 「前記第2の処理ステップの間、前記第2の水性の処理溶液のpH値が、前記少なくとも1つの界面活性剤の存在により決められ、維持されることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の方法。」に訂正する。 訂正事項3: 特許請求の範囲の請求項11に、 「前記第2の水溶性の処理溶液において、前記pH値が3?9に調整されることを特徴とする請求項1?10のいずれか1項に記載の方法。」とあるのを、 「前記第2の水性の処理溶液において、前記pH値が3?9に調整されることを特徴とする請求項1?10のいずれか1項に記載の方法。」に訂正する。 訂正事項4: 特許請求の範囲の請求項12に、 「前記第2の水溶性の処理溶液の前記pH値が6?8であることを特徴とする請求項1?11のいずれか1項に記載の方法。」とあるのを、 「前記第2の水性の処理溶液の前記pH値が6?8であることを特徴とする請求項1?11のいずれか1項に記載の方法。」に訂正する。 訂正事項5: 特許請求の範囲の請求項13に、 「前記第2の水溶性の処理溶液中に、濃度が0.1g/L?10g/Lの前記作用成分が含まれていることを特徴とする請求項1?12のいずれか1項に記載の方法。」とあるのを、 「前記第2の水性の処理溶液中に、濃度が0.1g/L?10g/Lの前記作用成分が含まれていることを特徴とする請求項1?12のいずれか1項に記載の方法。」に訂正する。 訂正事項6: 特許請求の範囲の請求項15に、 「前記第2の水溶性の処理溶液が、少なくとも1つの界面活性剤及び場合によってはアルカリ化剤又は酸化剤以外に、化学物質を添加されていないことを特徴とする請求項1?14のいずれか1項に記載の方法。」とあるのを、 「前記第2の水性の処理溶液が、少なくとも1つの界面活性剤及び場合によってはアルカリ化剤又は酸化剤以外に、化学物質を添加されていないことを特徴とする請求項1?14のいずれか1項に記載の方法。」に訂正する。 訂正事項7: 特許請求の範囲の請求項16に、 「部品表面の酸化物層を剥離するための少なくとも1つ又は多数の前記除染用の有機酸が前記第1の水溶性の処理溶液から取り除かれることにより、前記第1の水溶性の処理溶液から前記第2の水溶性の処理溶液が得られることを特徴とする請求項1?15のいずれか1項に記載の方法。」とあるのを、 「部品表面の酸化物層を剥離するための少なくとも1つ又は多数の前記除染用の有機酸が前記第1の水性の処理溶液から取り除かれることにより、前記第1の水性の処理溶液から前記第2の水性の処理溶液が得られることを特徴とする請求項1?15のいずれか1項に記載の方法。」に訂正する。 訂正事項8: 特許請求の範囲の請求項17に、 「前記第1の水溶性の処理溶液が紫外光で照射され、これにより前記除染用の有機酸が二酸化炭素と水とに分解されることを特徴とする請求項16に記載の方法。」とあるのを、 「前記第1の水性の処理溶液が紫外光で照射され、これにより前記除染用の有機酸が二酸化炭素と水とに分解されることを特徴とする請求項16に記載の方法。」に訂正する。 訂正事項9: 特許請求の範囲の請求項18に、 「前記第1の水溶性の処理溶液が少なくとも1つのイオン交換器に導かれ、これにより、その溶液中に含まれている金属イオンを取り除くことを特徴とする請求項16又は17に記載の方法。」とあるのを、 「前記第1の水性の処理溶液が少なくとも1つのイオン交換器に導かれ、これにより、その溶液中に含まれている金属イオンを取り除くことを特徴とする請求項16又は17に記載の方法。」に訂正する。 訂正事項10: 特許請求の範囲の請求項19に、 「前記第1又は第2の水溶性の処理溶液が容器に入れられており、被処理部品がこれらそれぞれの容器に浸漬されることを特徴とする請求項1?18のいずれか1項に記載の方法。」とあるのを、 「前記第1又は第2の水性の処理溶液が容器に入れられており、被処理部品がこれらそれぞれの容器に浸漬されることを特徴とする請求項1?18のいずれか1項に記載の方法。」に訂正する。 訂正事項11: 願書に添付した明細書段落0003第7?8行(特許公報第3頁第28?29行)に、 「酸化クロム(IV)」とあるのを、 「酸化クロム(VI)」に訂正する。 訂正事項12: 願書に添付した明細書段落0008第1?4行(特許公報第4頁第16?19行)に、 「この課題は、請求項1により次のように、解決される。即ち、表面に付着している粒子を除去するための作用成分を含有する水溶液でこの表面を処理する方法において、この作用物質がスルホン酸、燐酸、カルボン酸及びこれらの酸の塩から成る群から選ばれる少なくとも1つのアニオン界面活性剤から形成されていることにより解決される。」とあるのを、 「この課題は、請求項1により次のように、解決される。即ち、 -第1の処理ステップで、部品材料の腐食によりこの部品上に生じた酸化物層を、除染用の有機酸を含んだ第1の水性の処理溶液で剥離し、 -これに続く第2の処理ステップで、少なくとも部分的に酸化物層が取り除かれた表面を、この表面に付着している粒子を除去するための作用成分を含んだ第2の水性の処理溶液で、処理する原子力発電所の冷却系統の構成部品の表面の化学的な除染方法であって、 前記作用成分がスルホン酸、ホスホン酸、カルボン酸及びこれらの酸の塩からなる群から選ばれる少なくとも1つのアニオン界面活性剤で形成されている除染方法において、前記第2の水性の処理溶液が、遅くとも前記第2の処理ステップの終了する前に、イオン交換器に導かれることを特徴とする除染方法により解決される。」に訂正する。 訂正事項13: 願書に添付した明細書段落0016第9行(特許公報第5頁第20行)に、 「燐酸」とあるのを、 「ホスホン酸」に訂正する。 訂正事項14: 願書に添付した明細書段落0017(特許公報第5頁)【表1】の上欄において、 「γ線放射能」の文字が天地逆になっているのを、訂正する。 訂正事項15: 願書に添付した明細書段落0018第1行(特許公報第5頁第44行)に、 「燐酸」とあるのを、 「ホスホン酸」に訂正する。 訂正事項16: 願書に添付した明細書段落0020第14行(特許公報第6頁第18行)に、 「燐酸」とあるのを、 「ホスホン酸」に訂正する。 訂正事項17: 願書に添付した明細書段落0021(特許公報第6頁)【表2】最左欄下欄に、 「リン酸」とあるのを、 「ホスホン酸」に訂正する。 訂正事項18: 願書に添付した明細書段落0022第10行(特許公報第6頁第44行)に、 「燐酸基」とあるのを、 「ホスホン酸基」に訂正する。 訂正事項19: 願書に添付した明細書段落0024第3?4行(特許公報第7頁第15?16行)に、 「燐酸作用物質」とあるのを、 「ホスホン酸作用物質」に訂正する。 訂正事項20: 願書に添付した明細書段落0024第6行(特許公報第7頁第18行)に、 「燐酸基」とあるのを、 「ホスホン酸基」に訂正する。 訂正事項21: 願書に添付した明細書段落0026第4行(特許公報第7頁第40行)に、 「燐酸」とあるのを、 「ホスホン酸、」に訂正する。 訂正事項22: 願書に添付した明細書段落0028第3?4行(特許公報第8頁第7?8行)に、 「燐酸誘導体」とあるのを、 「ホスホン酸誘導体」に訂正する。 訂正事項23: 願書に添付した明細書段落0031第8行(特許公報第8頁第34行)に、 「クロム-IV」とあるのを、 「クロム-VI」に訂正する。 訂正事項24: 願書に添付した明細書段落0032第3行(特許公報第8頁第40行)に、 「燐酸又はリン酸塩」とあるのを、 「ホスホン酸又はホスホン酸塩」に訂正する。 第3 訂正拒絶理由の概要 平成27年2月9日付けで当審が通知した訂正拒絶理由の概要は、本件訂正は、訂正事項1、訂正事項12、訂正事項13、訂正事項15?22、訂正事項24について、特許法第126条第6項の規定に適合しないから、本件訂正は認められないというものである。 第4 当審の判断 1.訂正の目的の適否について (1)訂正事項1について ア.「水溶性の」を「水性の」に訂正する点について 願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の「水溶性の」の記載個所に対応する原文の記載個所は、国際特許出願の明細書及び特許請求の範囲として国際公開第2010/094692号を援用すると、Ansprueche 1.(ドイツ語の「a」、「o」、「u」のウムラウトはそれぞれ「ae」、「oe」、「ue」で代替表記した。以下同様。)であって、この記載個所には「waesserigen」と記載されており、この「waesserigen」の日本語訳は「水性」であるから、上記訂正事項1の「水溶性の」を「水性の」に訂正するのは、誤訳の訂正を目的とするものである。 イ.「燐酸」を「ホスホン酸」に訂正する点について 願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の「燐酸」ないし「リン酸」の記載個所に対応する原文の記載個所は、国際特許出願の明細書及び特許請求の範囲として国際公開第2010/094692号を援用すると、Ansprueche 1.であって、この記載個所には「Phosphonsaeure」と記載されており、この「Phosphonsaeure」の日本語訳は「ホスホン酸」であるから、上記訂正事項1の「燐酸」を「ホスホン酸」に訂正するのは、誤訳の訂正を目的とするものである。 ウ.したがって、訂正事項1は、特許法第126条第1項第2号に規定する「誤訳の訂正」を目的とするものである。 (2)訂正事項2?10について 訂正事項2?10の請求項8、11?13、15?19の「前記第1の水溶性の処理溶液」及び「前記第2の水溶性の処理溶液」の記載については、本件特許の審査過程において、平成23年10月18日付け手続補正により、「前記第1の処理溶液」及び「前記第2の処理溶液」と記載されていたものを請求項1の記載と表現を整合させて「前記第1の水溶性の処理溶液」及び「前記第2の水溶性の処理溶液」としたものである。 そして、上記「(1)訂正事項1について」で述べたとおり、訂正事項1の請求項1の「水溶性の」を「水性の」に訂正するのは、誤訳の訂正を目的とするものであるから、これと同様に、訂正事項2?10の請求項8、11?13、15?19の「水溶性の」を「水性の」に訂正するのも、誤訳の訂正を目的とするものである。 したがって、訂正事項2?10は、特許法第126条第1項第2号に規定する「誤訳の訂正」を目的とするものである。 (3)訂正事項11、23について 訂正前の明細書段落0003(特許公報第3頁第25?29行)には、「この場合には、この部品上の酸化物層は、難水溶性の酸化クロム(III)を含有する。これを可溶性形態に変換するために、前述した酸処理を行なう前に、表面を過マンガン酸カリウムや過マンガン酸のような強酸で処理する。こうして酸化クロム(III)は、酸化クロム(IV)に変換される。」との記載がされている。 一般に、酸化クロムは、酸化クロム(II)、酸化クロム(III)、酸化クロム(IV)、酸化クロム(VI)が存在することが知られており、酸化クロム(II)、酸化クロム(III)及び酸化クロム(IV)は水に溶けず酸化クロム(VI)は水に溶けることもまた一般に知られているから、上記「可溶性形態に変換する」処理の結果得られる酸化クロムとして「酸化クロム(IV)」は誤りであり「酸化クロム(VI)」が正しいことは、自明である。 したがって、訂正事項11は、特許法第126条第1項第2号に規定する「誤記の訂正」を目的とするものである。 また、訂正前の明細書段落0031(特許公報第8頁第32?35行)には、「一般的には、このような除染ステップの前に酸化ステップが行なわれ、それにより、冒頭に述べたように、部品の内部表面7上の酸化物層に含まれているクロム-IIIが酸化されてクロム-IVに変換される。」との記載がされている。 そして、「冒頭に述べたように、」「クロム-IIIが酸化されてクロム-IVに変換される」に対応する記載は、訂正前の明細書においては上記段落0003(特許公報第3頁第25?29行)のみであるから、上記訂正前の明細書段落0003(特許公報第3頁第25?29行)について述べたのと同様に、当該記載箇所においても「クロム-IV」は誤りであり「クロム-VI」が正しいことは、自明である。 したがって、訂正事項23は、特許法第126条第1項第2号に規定する「誤記の訂正」を目的とするものである。 (4)訂正事項12について 訂正事項12は、「表面に付着している粒子を除去するための作用成分を含有する水溶液でこの表面を処理する方法において、この作用物質がスルホン酸、燐酸、カルボン酸及びこれらの酸の塩から成る群から選ばれる少なくとも1つのアニオン界面活性剤から形成されていることにより」との記載を、「-第1の処理ステップで、部品材料の腐食によりこの部品上に生じた酸化物層を、除染用の有機酸を含んだ第1の水性の処理溶液で剥離し、-これに続く第2の処理ステップで、少なくとも部分的に酸化物層が取り除かれた表面を、この表面に付着している粒子を除去するための作用成分を含んだ第2の水性の処理溶液で、処理する原子力発電所の冷却系統の構成部品の表面の化学的な除染方法であって、前記作用成分がスルホン酸、ホスホン酸、カルボン酸及びこれらの酸の塩からなる群から選ばれる少なくとも1つのアニオン界面活性剤で形成されている除染方法において、前記第2の水性の処理溶液が、遅くとも前記第2の処理ステップの終了する前に、イオン交換器に導かれることを特徴とする除染方法により」との記載に置換するものである。 明細書段落0008の文頭には、「この課題は、請求項1により次のように、解決される。即ち、」と記載されているところ、訂正前の上記記載は特許公報の特許請求の範囲の請求項1とは異なっているため、これを上記訂正後の記載に訂正することで特許公報の特許請求の範囲の請求項1の記載と同じものとし文章の整合性を図るものであるから、訂正事項12全体としては特許法第126条第1項第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるが、訂正事項12中の「燐酸」を「ホスホン酸」と訂正することは、上記「(1)訂正事項1について」「イ.「燐酸」を「ホスホン酸」に訂正する点について」と同様に、特許法第126条第1項第2号に規定する「誤訳の訂正」を目的とするものである。 (5)訂正事項13、15?22、24について 訂正事項13、訂正事項15?17、訂正事項21は、「燐酸」ないし「リン酸」を「ホスホン酸」に、訂正事項18、訂正事項20は、「燐酸基」を「ホスホン酸基」に、訂正事項19は、「燐酸作用物質」を「ホスホン酸作用物質」に、訂正事項22は、「燐酸誘導体」を「ホスホン酸誘導体」に、訂正事項24は、「燐酸又はリン酸塩」を「ホスホン酸又はホスホン酸塩」に訂正するものである。 願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の「燐酸」ないし「リン酸」の記載個所に対応する原文の記載個所は、国際特許出願の明細書及び特許請求の範囲として国際公開第2010/094692号を援用すると、Beschreibungの第7頁第6行、同頁第15行、第9頁第7行、同頁Tabelle 2、第12頁第2?3行であって、これらの記載個所には「Phosphonsaeure」と記載されており、この「Phosphonsaeure」の日本語訳は「ホスホン酸」であるから、上記訂正事項13、訂正事項15?17、訂正事項21は、誤訳の訂正を目的とするものである。また、訂正事項18?20、訂正事項22、訂正事項24についても同様である。 したがって、訂正事項13、訂正事項15?22、訂正事項24は、特許法第126条第1項第2号に規定する「誤訳の訂正」を目的とするものである。 (6)訂正事項14について 訂正前の明細書段落0017(特許公報第5頁)【表1】の上欄において、文字が天地逆になっている「γ線放射能」が記載されており、この記載は【表1】の他の記載の表記を勘案すると「γ線放射能」の誤記であることが自明である。 したがって、訂正事項14は、特許法第126条第1項第2号に規定する「誤記の訂正」を目的とするものである。 2.特許請求の範囲の拡張・変更について (1)訂正事項1?10は、特許請求の範囲について訂正を行う訂正事項であり、また、訂正事項12、13、15?22、24は、願書に添付した明細書における記載を訂正するものであるが、その対象となる「燐酸」、「リン酸」、「燐酸基」、「燐酸作用物質」、「燐酸誘導体」、「燐酸又はリン酸塩」は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1における構成のひとつである「燐酸」に対応するものであるから、請求項1と直接関係するものであるので、これら訂正事項1?10、12、13、15?22、24について、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものか否かについて判断する。 (2)訂正事項1について ア.「水溶性の」を「水性の」に訂正する点について 訂正前の特許請求の範囲の請求項1には、「部品材料の腐食によりこの部品上に生じた酸化物層を、除染用の有機酸を含んだ第1の水溶性の処理溶液で剥離し、」と記載されている。 当該記載における「第1の」「処理溶液」の「除染用の有機酸を含」む構成においては、「第1の」「処理溶液」が「水溶性」及び「水性」のいずれであっても、「除染用の有機酸を含」む構成に直接影響するものでなく、「第1の」「処理溶液」の構成は実質的に変わらない。 「第1の」「処理溶液」の「部品材料の腐食によりこの部品上に生じた酸化物層を」「剥離」する構成においては、「第1の」「処理溶液」が含む「除染用の有機酸」の作用により「酸化物層を」「剥離」するものであるから、「第1の」「処理溶液」が「水溶性」及び「水性」のいずれであっても、その構成は実質的に変わらない。 また、訂正前の特許請求の範囲の請求項1には、「少なくとも部分的に酸化物層が取り除かれた表面を、この表面に付着している粒子を除去するための作用成分を含んだ第2の水溶性の処理溶液で、処理する」と記載されている。 当該記載における「第2の」「処理溶液」の「表面に付着している粒子を除去するための作用成分を含」む構成においては、「第2の」「処理溶液」が「水溶性」及び「水性」のいずれであっても、「表面に付着している粒子を除去するための作用成分を含」む構成に直接影響するものでなく、「第2の」「処理溶液」の構成は実質的に変わらない。 「第2の」「処理溶液」の「少なくとも部分的に酸化物層が取り除かれた表面を」「処理する」構成においては、「第2の」「処理溶液」が含む「表面に付着している粒子を除去するための作用成分」の作用により「少なくとも部分的に酸化物層が取り除かれた表面を」「処理する」ものであるから、「第2の」「処理溶液」が「水溶性」及び「水性」のいずれであっても、その構成は実質的に変わらない。 したがって、請求項1において、「水溶性の」を「水性の」に訂正することは、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものでない。 イ.「燐酸」を「ホスホン酸」に訂正する点について 訂正前の特許請求の範囲の請求項1には、「・・・(前略)・・・、この表面に付着している粒子を除去するための作用成分を含んだ第2の水溶性の処理溶液で、・・・(中略)・・・、前記作用成分がスルホン酸、燐酸、カルボン酸及びこれらの酸の塩からなる群から選ばれる少なくとも1つのアニオン界面活性剤で形成されている除染方法において、・・・(後略)・・・」と記載されており、「燐酸」が「第2の水溶性の処理溶液」に含まれる「作用成分」としての構成のひとつであることは明白である。 そして、「燐酸」と「ホスホン酸」が異なる物質であることは技術常識であるから、上記請求項1における構成のひとつである「燐酸」を異なる物質である「ホスホン酸」に訂正することは、上記請求項1の発明特定事項を変更するものであり、特許請求の範囲を実質的に変更するものである。 ウ.したがって、訂正事項1は、上記「イ.「燐酸」を「ホスホン酸」に訂正する点について」で述べたように、「燐酸」を「ホスホン酸」に訂正する点で、特許法第126条第6項に規定する要件に違反するものである。 (3)訂正事項2?10について 訂正事項2?10の「水溶性の」を「水性の」に訂正することは、上記「(2)訂正事項1について」「ア.「水溶性の」を「水性の」に訂正する点について」で述べたのと同様に、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものでない。 したがって、訂正事項2?10は、特許法第126条第6項に規定する要件に違反するものでない。 (4)訂正事項12、13、15?22、24について 訂正事項12は、「燐酸」を「ホスホン酸」に訂正するものを含み、訂正事項13、15?17、21は、「燐酸」ないし「リン酸」を「ホスホン酸」に、訂正事項18、20は、「燐酸基」を「ホスホン酸基」に、訂正事項19は、「燐酸作用物質」を「ホスホン酸作用物質」に、訂正事項22は、「燐酸誘導体」を「ホスホン酸誘導体」に、訂正事項24は、「燐酸又はリン酸塩」を「ホスホン酸又はホスホン酸塩」に訂正するものである。 これらの訂正は、全て願書に添付した明細書における記載を訂正するものであるが、その対象となる「燐酸」、「リン酸」、「燐酸基」、「燐酸作用物質」、「燐酸誘導体」、「燐酸又はリン酸塩」は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項のひとつである「燐酸」に対応するものであるから、それらを、「ホスホン酸」、「ホスホン酸基」、「ホスホン酸作用物質」、「ホスホン酸誘導体」、「ホスホン酸又はホスホン酸塩」に訂正することは、上記「(2)訂正事項1について」「イ.「燐酸」を「ホスホン酸」に訂正する点について」で述べたのと同様に、特許請求の範囲を実質的に変更するものである。 したがって、訂正事項12、訂正事項13、訂正事項15?22、訂正事項24は、特許法第126条第6項に規定する要件に違反するものである。 3.平成27年3月23日付け意見書の主張について (ア)請求人は、平成27年3月23日付け意見書の「5.2.訂正拒絶理由に対する意見」「5.2.1.意見の趣旨」の「(3)訂正前の特許請求の範囲請求項1の規定及び訂正前の明細書の記載の間の齟齬」、「(4)訂正前の明細書の記載における「燐酸等」が、正しくは、「ホスホン酸等」を意味すること」、「(5)本件訂正は、特許請求の範囲を実質的に変更するものではないこと」、「(6)訂正による第三者への不利益はないこと」において、平成27年2月9日付け訂正拒絶理由に対する主張を述べているので、以下それぞれについて述べる。 (イ)「(3)訂正前の特許請求の範囲請求項1の規定及び訂正前の明細書の記載の間の齟齬」について 訂正前の特許請求の範囲請求項1には「燐酸」が用いられることが規定され、明細書の発明の詳細な説明において「燐酸」が用いられたことが記載されていることは明白であるから、訂正前の特許請求の範囲請求項1の規定と訂正前の明細書の記載との間には齟齬はない。 なお、「(4)で、詳細に述べるように、訂正前の明細書の記載から、これら記載における「燐酸等」が、正しくは、「ホスホン酸等」であることが明らかである。」と主張しているが、下記(ウ)で述べるように、その項目での主張によっても「燐酸等」が、正しくは、「ホスホン酸等」であることが明らかとは言えない。 したがって、訂正前の特許請求の範囲請求項1の規定と訂正前の明細書の発明の詳細な説明との間に齟齬があるとの請求人の主張は、失当である。 (ウ)「(4)訂正前の明細書の記載における「燐酸等」が、正しくは、「ホスホン酸等」を意味すること」について 訂正前の明細書には、請求人の主張するとおり「-PO_(3)H_(2)」基の記載がされているものの、同時に「燐酸」基も明確に記載されている。 そして、「燐酸」基の化学式は、-PO_(4)H_(2)であり、上記ホスホン酸基「-PO_(3)H_(2)」と類似するものであるから、訂正前の明細書のように「燐酸」基と「-PO_(3)H_(2)」基の記載が混在している場合には、名称の記載と化学式の記載のどちらの記載が正しいかを一義的に決められるものではない。 したがって、訂正前の明細書の記載における「燐酸等」が、正しくは、「ホスホン酸等」を意味するとの請求人の主張は、失当である。 (エ)「(5)本件訂正は、特許請求の範囲を実質的に変更するものではないこと」について 「訂正前特許請求の範囲請求項1及び訂正前明細書の記載における「燐酸等」が、正しくは、「ホスホン酸等」と記載されるべきものであることは、明白である」ことを根拠に、特許請求の範囲を実質的に変更するものではない主張をしているが、上記(ウ)で述べたように、訂正前の明細書の記載から、「燐酸等」が、正しくは、「ホスホン酸等」であることが明らかとは言えない。 したがって、本件訂正は特許請求の範囲を実質的に変更するものではないとの請求人の主張は、失当である。 (オ)「(6)訂正による第三者への不利益はないこと」について 上記(ウ)で述べたように、訂正前の明細書には、「-PO_(3)H_(2)」基と同時に「燐酸」基の記載もされており、「燐酸」基の化学式は、上記ホスホン酸基「-PO_(3)H_(2)」と類似している-PO_(4)H_(2)であるため、どちらの記載が正しいか決められるものでなく、訂正前の明細書の記載から、当業者が、訂正前の特許請求の範囲における「燐酸」が正しくは「ホスホン酸」と記載されるべきものであると理解し得るとはいえない。 また、上述のように、訂正前の明細書においては「燐酸」基と「-PO_(3)H_(2)」基の記載が混在している状況で、訂正前の特許請求の範囲には「燐酸」と記載されていることから、特許請求の範囲に記載された「燐酸」が正しいと第三者が理解することが通常であるといえる。 すると、訂正前の特許請求の範囲の記載を「燐酸」から「ホスホン酸」に訂正することは、第三者の通常の理解とは異なるものとなるから、訂正によって第三者への不利益が生じることは明らかである。 したがって、訂正による第三者への不利益はないとの請求人の主張は、失当である。 4.まとめ 以上のように、「燐酸」を「ホスホン酸」に訂正することは、特許請求の範囲を実質的に変更するものであって、特許法第126条第6項に規定する要件に違反するものであり、当該訂正事項を含む特許請求の範囲の請求項の全てに対して訂正審判を請求する本件訂正は、特許法第126条第6項に規定する要件に違反するものである。 第5 むすび 以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第6項に規定する要件に違反するものであるから、本件訂正は認められない。 |
審理終結日 | 2015-05-22 |
結審通知日 | 2015-05-26 |
審決日 | 2015-06-08 |
出願番号 | 特願2011-549605(P2011-549605) |
審決分類 |
P
1
41・
852-
Z
(G21F)
P 1 41・ 855- Z (G21F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山口 敦司 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
山口 剛 土屋 知久 |
登録日 | 2014-07-25 |
登録番号 | 特許第5584706号(P5584706) |
発明の名称 | 放射能で汚染された表面の除染方法 |
代理人 | 山本 浩 |
代理人 | 山口 巖 |