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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B60R
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60R
管理番号 1332172
審判番号 不服2017-250  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-06 
確定日 2017-09-26 
事件の表示 特願2015-150752号「スルーアンカ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月29日出願公開、特開2015-187002号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成25年12月18日を国際出願日とする特願2014-527417号の一部を平成27年7月30日に新たな特許出願としたものであって、平成28年4月18日付けで特許法第50条の2の通知を伴う拒絶理由通知がされ、同年6月2日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月27日付けで同年6月2日に提出された手続補正書による手続補正が却下されるとともに拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成29年1月6日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2.平成28年10月27日付けの補正の却下の決定及び原査定の概要
1.平成28年10月27日付けの補正の却下の決定の概要は以下のとおりである。
平成28年6月2日に提出された手続補正書による補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるが、当該補正後の本願請求項1?4に係る発明は、下記の引用文献1、2に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであり、独立特許要件を満たさないから、平成28年6月2日に提出された手続補正書による補正は却下すべきものである。

2.原査定の概要は次のとおりである。
(理由1)本願請求項1?4に係る発明は、下記の引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
(理由2)本願請求項1?4に係る発明は、下記の引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
引用文献1:特開2013-91446号公報
引用文献2:欧州特許出願公開第0223582号明細書

第3.本願発明
本願請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成29年1月6日提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりの発明であるところ、本願発明1は以下のとおりの発明であると認められる。

「【請求項1】
貫通孔が形成された本体部材と、
前記本体部材の前記貫通孔周囲に取り付けられると共に、車両の乗員に装着されるウェビングが長手方向に挿通される挿通孔が形成され、前記ウェビングを摺動可能に支持すると共に、前記本体部材に対し前記ウェビング幅方向に直線上に移動可能にされた摺動支持部材と、
を備えたスルーアンカ。」

なお、本願発明2?4は、本願発明1を減縮した発明である。

第4.引用文献、引用発明等
1.平成28年10月27日付けの補正の却下の決定に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与。以下同様。)

(1)「【0001】
本発明は、乗員拘束用のウェビングの方向を変えるために車体に取り付けられるスルーアンカ、及びこのスルーアンカを備えたシートベルト装置に関するものである。」

(2)「【0010】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明では、現在の強度を維持したまま、今以上の軽量化を図ることができる本体構造とすることで、前記課題を解決するものである。」

(3)「【0020】
1は本発明のスルーアンカであり、例えばセンターピラー11の上部にスルーアンカ1をボルト12で取り付けるためのボルト挿通孔2aを金属板2の上半部に設けている。また、金属板2の下半部にはウェビング13を通すウェビング挿通孔2bを設けて、このウェビング挿通孔2bの周囲を樹脂で覆っている。以下、この樹脂で覆った部分を樹脂モールド部3という。」

(4)記載事項(3)の記載内容及び【図1】を参酌すると、ウェビング13が通るのは、樹脂モールド部3の内周に形成される挿通孔であり、該樹脂モールド部3は、金属板2のウェビング挿通孔2bの周囲を覆っていることが理解できる。

これら記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「ウェビング挿通孔2bを設けた金属板2と、
前記金属板2の前記ウェビング挿通孔2bの周囲を覆っていると共に、乗員拘束用のウェビング13を通す挿通孔を内周に形成された樹脂モールド部3と
を備えたスルーアンカ1。」

2.原審の補正の却下の決定に引用された引用文献2の3ページ4欄35?60行の記載内容及びFIG.9?12の図示内容によれば、引用文献2には、スルーアンカーに関し、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「三日月形開口部42が形成された支持部材40と、前記支持部材40の前記三日月形開口部42の下方の凹面底部端に取り付けられると共に、安全ベルトが挿通されるスロット48が形成されたガイド部材46とを備え、安全ベルトが装着される場合に前記ガイド部材46を三日月形開口部42の下方の凹面底部端に沿って滑らせるスルーアンカー。」

第5.対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。
後者の「ウェビング挿通孔2bを設けた金属板2」は前者の「貫通孔が形成された本体部材」に相当する。

後者の「乗員拘束用のウェビング13」は前者の「車両の乗員に装着されるウェビング」に相当し、後者の「乗員拘束用のウェビング13を通す挿通孔」は、前者の「車両の乗員に装着されるウェビングが長手方向に挿通される挿通孔」に相当する。
そうすると、後者の「前記金属板2の前記ウェビング挿通孔2bの周囲を覆っていると共に、乗員拘束用のウェビング13を通す挿通孔を内周に形成された樹脂モールド部3」と前者の「前記本体部材の前記貫通孔周囲に取り付けられると共に、車両の乗員に装着されるウェビングが長手方向に挿通される挿通孔が形成され、前記ウェビングを摺動可能に支持すると共に、前記本体部材に対し前記ウェビング幅方向に直線上に移動可能にされた摺動支持部材」とは、「前記本体部材の前記貫通孔周囲に取り付けられると共に、車両の乗員に装着されるウェビングが長手方向に挿通される挿通孔が形成され、前記ウェビングを摺動可能に支持する支持部材」の限度で共通する。
後者の「スルーアンカ1」は前者の「スルーアンカ」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「貫通孔が形成された本体部材と、
前記本体部材の前記貫通孔周囲に取り付けられると共に、車両の乗員に装着されるウェビングが長手方向に挿通される挿通孔が形成され、前記ウェビングを摺動可能に支持する支持部材と、
を備えたスルーアンカ。」

(相違点)
「支持部材」に関し、
本願発明1は、「前記本体部材に対し前記ウェビング幅方向に直線上に移動可能にされた摺動支持部材」であるのに対し、
引用発明1は、「前記金属板2の前記ウェビング挿通孔2bの周囲を覆っている」ものであり、前記ウェビング挿通孔2bに対して摺動しない点。

(2)相違点についての判断
引用発明1の解決しようとする課題は、記載事項(2)に記載されているように「現在の強度を維持したまま、今以上の軽量化を図ること」ことであるのに対し、引用発明2は「安全ベルトが装着される場合に前記ガイド部材46が三日月形開口部42の下方の凹面底部端に沿って滑らせるスルーアンカー」であり、安全ベルトの収納状態と着用状態との間で角度を変えて円滑な装着を図るものと認められるから、両者に直接的な課題の共通性はなく引用発明1に引用発明2を適用する充分な動機付けがあるとはいえない。
仮に、安全ベルト(引用発明1の「ウェビング13」に相当。)の円滑な装着を図ることが一般的な課題であり、引用発明1に引用発明2を適用する動機付けがあったとしても、引用発明2の安全ベルトの収納状態と着用状態との間で角度を変える手段では、摺動支持部材を三日月状の開口部に沿って円弧状にスライドさせる構成になるので、「ウェビング幅方向に直線上に移動可能にされた摺動支持部材とを備える」との構成には至らない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明1及び引用発明2に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-4について
本願発明2-4は、本願発明1をさらに減縮した発明であり、本願発明1の発明特定事項を全て含むから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用発明2に基いて容易に発明することができたものとはいえない。

第6.原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1-4は、「ウェビング幅方向に直線上に移動可能にされた摺動支持部材」という構成を有するものとなっており、引用発明2とはいえない。
そして、引用発明2は、「ウェビング幅方向に直線上に移動可能にされた摺動支持部材」という構成を有しておらず、第5.1.(2)で既に述べた理由と同様に、引用発明2に基いて容易に発明することができたものだといえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7.むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-11 
出願番号 特願2015-150752(P2015-150752)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (B60R)
P 1 8・ 121- WY (B60R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神田 泰貴永冨 宏之  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 出口 昌哉
島田 信一
発明の名称 スルーアンカ  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  

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