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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B29C 審判 全部申し立て 2項進歩性 B29C 審判 全部申し立て 特39条先願 B29C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B29C |
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管理番号 | 1332211 |
異議申立番号 | 異議2016-701139 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-12-14 |
確定日 | 2017-07-24 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5934355号発明「ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法および該方法により製造されたポリオレフィン系延伸フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5934355号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 請求項1についての申立てを却下する。 特許第5934355号の請求項2ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5934355号の請求項1?8に係る特許についての出願は、2012年6月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年7月15日(KR)韓国)を国際出願日として出願され、平成28年5月13日に特許権の設定登録がされ、同年6月15日にその特許公報が発行され、その後、同年12月14日に特許異議申立人石塚由菜(以下「特許異議申立人1」という。)により請求項1?8に係る特許について特許異議の申立てがされ、同年12月15日に特許異議申立人瀧呑安子(以下「特許異議申立人2」という。)により請求項1?8に係る特許についての特許異議の申立てがされたものである。 手続の経緯は以下のとおりである。 平成28年12月14日付け 特許異議申立書(特許異議申立人1) 同 年12月15日付け 特許異議申立書(特許異議申立人2) 平成29年 1月30日付け 取消理由通知 同 年 5月 1日付け 意見書・訂正請求書(特許権者) 同 年 6月12日付け 意見書(特許異議申立人2) 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成29年5月1日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。 その内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 請求項1を削除する。 (2)訂正事項2 訂正前の請求項2が 「前記熱封着樹脂層は、熱封着樹脂層の原料としてエチレンビニルアセテート、エチレンメチルアセテート、エチレンメタクリル酸、エチレングリコール、エチレン酸ターポリマー、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。」 であるところ、訂正後の請求項2である 「第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルムを押出成形する第1の押出ステップと、 前記押出成形されてなるフィルムを冷却させる第1の冷却ステップと、 前記第1の冷却ステップを経たフィルムを縦延伸する縦延伸ステップと、 前記縦延伸されたフィルムの第1のスキン層上に熱封着樹脂層が形成されるように押出成形する第2の押出ステップと、 前記熱封着樹脂層が形成されたフィルムを冷却させる第2の冷却ステップ、及び 前記第2の冷却ステップを経たフィルムを横延伸する横延伸ステップと、 を含み、 前記熱封着樹脂層は、熱封着樹脂層の原料としてエチレングリコール、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含むことを特徴とする、ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。」 と訂正する。 (3)訂正事項3 訂正前の請求項3が 「前記第1のスキン層は、ベース樹脂としてポリエチレン系樹脂を含み、 前記コア層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂を含み、 前記第2のスキン層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂から選択された一種以上を含み、 前記熱封着樹脂層は、熱封着樹脂層の原料としてエチレンビニルアセテート、エチレンメチルアセテート、エチレンメタクリル酸、エチレングリコール、エチレン酸ターポリマー、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。」 であるところ、訂正後の請求項3である 「第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルムを押出成形する第1の押出ステップと、 前記押出成形されてなるフィルムを冷却させる第1の冷却ステップと、 前記第1の冷却ステップを経たフィルムを縦延伸する縦延伸ステップと、 前記縦延伸されたフィルムの第1のスキン層上に熱封着樹脂層が形成されるように押出成形する第2の押出ステップと、 前記熱封着樹脂層が形成されたフィルムを冷却させる第2の冷却ステップ、及び 前記第2の冷却ステップを経たフィルムを横延伸する横延伸ステップと、 を含み、 前記第1のスキン層は、ベース樹脂としてポリエチレン系樹脂を含み、 前記コア層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂を含み、 前記第2のスキン層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂から選択された一種以上を含み、 前記熱封着樹脂層は、熱封着樹脂層の原料としてエチレングリコール、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含むことを特徴とする、ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。」 と訂正する。 (4)訂正事項4 訂正前の請求項4が 「前記第1の押出ステップは、第2のスキン層の原料としてブロッキング防止剤を含む原料を用いることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。」 であるところ、訂正後の請求項4である 「前記第1の押出ステップは、第2のスキン層の原料としてブロッキング防止剤を含む原料を用いることを特徴とする請求項2または3に記載のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。」 と訂正する。 (5)訂正事項5 訂正前の請求項5が 「前記第2の冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。」 であるところ、訂正後の請求項5である 「前記第2の冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させることを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。」 と訂正する。 (6)訂正事項6 訂正前の請求項6が 「前記冷却ロールに形成された凹凸構造は、5μm?30μmの深さを有することを特徴とする請求項5に記載のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。」 であるところ、訂正後の請求項6である 「第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルムを押出成形する第1の押出ステップと、 前記押出成形されてなるフィルムを冷却させる第1の冷却ステップと、 前記第1の冷却ステップを経たフィルムを縦延伸する縦延伸ステップと、 前記縦延伸されたフィルムの第1のスキン層上に熱封着樹脂層が形成されるように押出成形する第2の押出ステップと、 前記熱封着樹脂層が形成されたフィルムを冷却させる第2の冷却ステップ、及び 前記第2の冷却ステップを経たフィルムを横延伸する横延伸ステップと、 を含み、 前記第2の冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させることであり、 前記冷却ロールに形成された凹凸構造は、5μm?30μmの深さを有することを特徴とする、ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。」 と訂正する。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1?6に係る請求項1?6からなる一群の請求項についての訂正について ア 一群の請求項ごとに訂正を請求することについて 訂正事項1?6に係る訂正前の、請求項1?6について、請求項2及び3は請求項1を引用し、請求項4は請求項1?3を引用し、請求項5は請求項1?4を引用し、請求項6は請求項5を引用しているものであって、訂正事項1によって削除される請求項1に連動して、訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?6に対応する訂正後の請求項1?6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 上記1の(1)の訂正事項1?同(6)の訂正事項1?6は、上記一群の請求項がある特許請求の範囲について、当該一群の請求項である請求項1?6について訂正を請求するものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 イ 訂正の目的及び新規事項の追加の有無について 訂正事項1に係る訂正は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項を追加するものではない。 訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、引用関係を解消し、請求項1を引用しない独立形式請求項へ改めるとともに、請求項2において、熱封着樹脂層の原料の選択肢から、エチレンビニルアセテート、エチレンメチルアセテート、エチレンメタクリル酸及びエチレン酸ターポリマーを削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、同時に、同条同項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当し、新規事項を追加するものではない。 訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、引用関係を解消し、請求項1を引用しない独立形式請求項へ改めるとともに、請求項3において、熱封着樹脂層の原料の選択肢から、エチレンビニルアセテート、エチレンメチルアセテート、エチレンメタクリル酸及びエチレン酸ターポリマーを削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、同時に、同条同項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当し、新規事項を追加するものではない。 訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1?3を引用する記載であったものを、訂正後の請求項4は請求項2又は3を引用する記載に改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項を追加するものではない。 訂正事項5に係る訂正は、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1?4を引用する記載であったものを、訂正後の請求項5は請求項2?4を引用する記載に改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項を追加するものではない。 訂正事項6に係る訂正は、訂正前の請求項6が訂正前の請求項5を引用しその請求項5が請求項1?4を引用しその請求項2?4は請求項1を引用する記載であったものを、引用関係を解消し、請求項5及び1?4を引用しない独立形式請求項へ改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、新規事項を追加するものではない。 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項及び同法同条第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について 訂正事項1?6に係る訂正は、事実上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないことは明らかである。 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 エ 訂正後の発明の独立特許要件について 請求項1?8に係る特許について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定については、検討を要しない。 3 まとめ 以上のとおり、訂正事項1?6は、何れも、特許法第120条の5第2項及び第4項の規定に適合するとともに、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する よって、訂正後の請求項1?6に係る本件訂正を認める。 第3 本件発明 上記第2の項で示したように、平成29年5月1日付けの訂正請求は適法なものであるから、本件特許の請求項2?8に係る発明は、本件の訂正特許請求の範囲の請求項2?8に記載された以下のとおりのものである(以下、請求項2?8に係る発明をそれぞれ「本件発明2」?「本件発明8」という。)。また、削除された請求項1については、「【請求項1】(削除)」として併せて示す。 「【請求項1】(削除) 【請求項2】第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルムを押出成形する第1の押出ステップと、 前記押出成形されてなるフィルムを冷却させる第1の冷却ステップと、 前記第1の冷却ステップを経たフィルムを縦延伸する縦延伸ステップと、 前記縦延伸されたフィルムの第1のスキン層上に熱封着樹脂層が形成されるように押出成形する第2の押出ステップと、 前記熱封着樹脂層が形成されたフィルムを冷却させる第2の冷却ステップ、及び 前記第2の冷却ステップを経たフィルムを横延伸する横延伸ステップと、 を含み、 前記熱封着樹脂層は、熱封着樹脂層の原料としてエチレングリコール、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含むことを特徴とする、ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。 【請求項3】第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルムを押出成形する第1の押出ステップと、 前記押出成形されてなるフィルムを冷却させる第1の冷却ステップと、 前記第1の冷却ステップを経たフィルムを縦延伸する縦延伸ステップと、 前記縦延伸されたフィルムの第1のスキン層上に熱封着樹脂層が形成されるように押出成形する第2の押出ステップと、 前記熱封着樹脂層が形成されたフィルムを冷却させる第2の冷却ステップ、及び 前記第2の冷却ステップを経たフィルムを横延伸する横延伸ステップと、 を含み、 前記第1のスキン層は、ベース樹脂としてポリエチレン系樹脂を含み、 前記コア層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂を含み、 前記第2のスキン層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂から選択された一種以上を含み、 前記熱封着樹脂層は、熱封着樹脂層の原料としてエチレングリコール、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含むことを特徴とする、ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。 【請求項4】前記第1の押出ステップは、第2のスキン層の原料としてブロッキング防止剤を含む原料を用いることを特徴とする請求項2または3に記載のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。 【請求項5】前記第2の冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させることを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。 【請求項6】第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルムを押出成形する第1の押出ステップと、 前記押出成形されてなるフィルムを冷却させる第1の冷却ステップと、 前記第1の冷却ステップを経たフィルムを縦延伸する縦延伸ステップと、 前記縦延伸されたフィルムの第1のスキン層上に熱封着樹脂層が形成されるように押出成形する第2の押出ステップと、 前記熱封着樹脂層が形成されたフィルムを冷却させる第2の冷却ステップ、及び 前記第2の冷却ステップを経たフィルムを横延伸する横延伸ステップと、 を含み、 前記第2の冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させることであり、 前記冷却ロールに形成された凹凸構造は、5μm?30μmの深さを有することを特徴とする、ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。 【請求項7】第1のスキン外層、コア層および第2のスキン内層からなるポリオレフィンフィルムの第1のスキン外層上に熱封着樹脂層がさらに形成されたポリオレフィン延伸フィルムであって、 第1のスキン外層、コア層および第2のスキン内層はともに縦延伸されたものであり、 第1のスキン外層、コア層、 第2のスキン内層および熱封着樹脂層はともに横延伸されたものであり、前記熱封着樹脂層は縦延伸されていないことを特徴とするポリオレフィン延伸フィルム。 【請求項8】前記第1のスキン外層は、ベース樹脂としてポリエチレン系樹脂を含み、 前記コア層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂を含み、 前記第2のスキン内層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂から選択された一種以上を含み、 前記熱封着樹脂層は、熱封着樹脂層の原料としてエチレンビニルアセテート、エチレンメチルアセテート、エチレンメタクリル酸、エチレングリコール、エチレン酸ターポリマー、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含むことを特徴とする請求項7に記載のポリオレフィン延伸フィルム。」 第4 取消理由 1 特許異議申立人1が申し立てた取消理由 訂正前の請求項1?8に係る特許に対して特許異議申立人1が申し立てた取消理由の概要は、以下のとおりである。 (1)特許法第39条第1項 訂正前の請求項1?8に係る発明は、その出願前の甲第1号証の発明と同一と認められるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることがでできない。 よって、訂正前の請求項1?8に係る発明に係る特許は、同法第39条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 甲第1号証:特願2013-548355号(特許第5807070号) (以下、上記出願を「先願」という。) 2 特許異議申立人2が申し立てた取消理由 訂正前の請求項1?8に係る特許に対して特許異議申立人2が申し立てた取消理由の概要は、以下のとおりである。 (1)特許法第29条第2項(以下「理由1」という。) 訂正前の請求項1?8に係る発明は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、訂正前の請求項1?8に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 甲第1号証:特開平2-84319号公報 (以下「甲1」という。) 技術常識及び周知技術を示す証拠として、以下の甲第2号証?甲第6号証が提出されている。 甲第2号証:「プラスチックフィルムの延伸技術と評価」,株式会社技術情報協会,1992年10月16日,p.107-111,126-128,144-146,150-153 甲第3号証:米国特許出願公開第2010/0260989号明細書 甲第4号証:特開2000-71368号公報 甲第5号証:特開2002-328607号公報 甲第6号証:特開2002-113771号公報 (以下、同じく、それぞれ「甲2」?「甲6」という。) (2)特許法第36条第4項第1号(以下「理由2」という。) 発明の詳細な説明は、以下(i)の点で、当業者が本件発明5及び6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 よって、本件発明5及び6についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (i)請求項5には「表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させる」と記載されているところ、発明の詳細な説明に記載を参酌すると、上記記載は「表面に凹凸構造を有する冷却ロール400に、樹脂層40が形成された多層フィルムFを冷却ロール400に樹脂層40が密着するように通させることにより、空気流れ通路を形成させる」と解釈される。 ところが、発明の詳細な説明の他の記載や図面からは「冷却ロール400に樹脂層40が密着するように通させる」ことができるように記載されていない。さらに、空気チャンネルが形成される位置も、発明の詳細な説明からは多義的に解釈される。したがって、当業者は、請求項5に係る発明を実施することができないので、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。請求項5に従属する請求項6に係る発明についても、同様である。 (3)特許法第36条第6項第1号(以下「理由3」という。) 本件発明5及び6は、以下(i)の点で、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 よって、本件発明5及び6についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (i)請求項5には「表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させる」と記載されているところ、同請求項に係る発明が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明によれば、巻取時のしわ寄りを効果的に防止することにある。 そして、発明の詳細な説明の記載を参酌すると、請求項5の「表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させる」は、「表面に凹凸構造を有する冷却ロール400に、樹脂層40が形成された多層フィルムFを冷却ロール400に樹脂層40が密着するように通させることにより、空気流れ通路を形成させる」と解釈される。 ところが、発明の詳細な説明の他の記載や図面からは「冷却ロール400に樹脂層40が密着するように通させる」ことができるように記載されていない。さらに、空気チャンネルが形成される位置も、発明の詳細な説明からは多義的に解釈される。のみならず、発明の詳細な説明を見ても、「空気チャンネルを形成させる」ことが「巻取時のしわ寄りの効果的な防止」になぜ寄与するのかにつき、その理由(メカニズム)は記載されておらず、しわ寄りの効果的な防止が実現されているか否かを実験的に確認してもいない。 そうすると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、請求項5に係る発明及びこれに従属する請求項6に係る発明の課題解決を把握できるように記載されていない(知財高判H17・11・11(H17(行ケ)10042)参照)。 (4)特許法第36条第6項第2号(以下「理由4」という。) 本件発明5及び6は、以下(i)の点で、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。 よって、本件発明5及び6についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (i)請求項5には「表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させる」と記載されているところ、発明の詳細な説明の記載を参酌すると、空気チャンネルがどこに形成されるのかが一義的に決まらず、上記記載は多義的な意味を有している。 その結果、請求項5に係る発明については、特許権の権利範囲を確定する際の前提となる請求項に記載された発明を明確に把握できず、権利の及ぶ範囲が第三者に不明確となり不測の不利益を及ぼす状態にある。このため、請求項5に係る発明及びこれに従属する請求項6に係る発明は明確ではなく、特許法36条6項2号の規定に適合していない(知財高判H22・8・31(H21(行ケ)10434参照)。 3 平成29年1月30日付けの取消理由通知で通知した取消理由 訂正前の請求項1?5に係る発明は、その出願前の下記の出願の発明と同一と認められるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることがでできない。 よって、訂正前の請求項1?5に係る発明に係る特許は、同法第39条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 先願:特願2013-548355号(特許第5807070号)(特許異議申立人1が提出した甲1) 第5 当審の判断 1 上記第2及び第3に示したとおり、請求項1は訂正請求により削除されたので、請求項1についての申立てを却下する。 2 平成29年1月30日付けの取消理由通知で通知した取消理由について 平成29年1月30日付けの取消理由通知で通知した取消理由は、訂正前の請求項1?5に係る発明について、先願の発明と同一と認められるから特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないことを理由としていた。訂正前の請求項2、3、4、5との関係では、それぞれ先願の請求項3、4、8、2に係る発明と対比し、熱封着樹脂層の原料の選択肢を含めてそれぞれ発明が同一であるとしていた。 本件発明2?5は、それぞれ訂正前の請求項2?5に記載されていた発明において、熱封着樹脂層の原料の選択肢から、取消理由通知において同一であると指摘した選択肢を、削除したものである。その結果、本件発明2?5における熱封着樹脂層の原料の選択肢は、先願の請求項3、4、8、2に係る発明における対応する原料の選択肢とは異なる。したがって、本件発明2?5は、先願の発明と同一と認められないから、特許法第39条の規定により特許を受けることができない、ということはできない。 よって、本件発明2?5についての特許は、特許法第39条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、平成29年1月30日付けの取消理由通知で通知した取消理由によって取り消されるべきものではない。 3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人1が申し立てた取消理由について 特許異議申立人1は、訂正前の請求項6?8に係る発明について、先願の発明と同一と認められるから特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないと主張している。訂正前の請求項6、7、8との関係では、それぞれ先願の請求項2、1、4に係る発明と対比し、同一であると主張している。 本件発明6は、上記第2に示したとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正請求により訂正され、訂正前の請求項6と同じ技術的事項の範囲のものである。本件発明7及び8は、訂正されていない。 そこで、本件発明6?8と先願の請求項2、1、4に係る発明とを対比する。 (1)先願 先願:特願2013-548355号(特許第5807070号)(特許異議申立人1が提出した甲1:上記第4の3の「先願」と同じ。) (2)先願に係る発明 先願の請求項1?4に係る発明(以下「先願発明1」?「先願発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。先願発明1?4は、先願の優先基礎出願の特許請求の範囲、明細書及び図面に記載されている。 「【請求項1】多層ポリオレフィンフィルムの押出成形を遂行する第1押出成形ステップ; 前記第1押出成形されたフィルムを冷却させる第1冷却ステップ; 前記第1冷却されたフィルムを縦方向に延伸する縦方向延伸ステップ; 前記縦方向延伸されたフィルム上に1層以上のヒートシール樹脂層がラミネーションされるように押出成形する第2押出成形ステップ; 前記ヒートシール樹脂層がラミネーションされたフィルムを冷却する第2冷却ステップ;および、 前記第2冷却されたフィルムを横方向に延伸する横方向延伸ステップ を含み、前記第1押出成形ステップは、前記多層ポリオレフィンフィルムが、スキン外層、コア層およびスキン内層を含むように遂行され、 前記縦方向延伸ステップは、前記スキン外層、コア層およびスキン内層を含む多層ポリオレフィンフィルムを縦延伸するものであって、 前記第2押出成形ステップでは、ヒートシール樹脂層が前記スキン外層およびスキン内層からなる群より選択された一つ以上にラミネーションされるように遂行される多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。 【請求項2】前記樹脂層がラミネーションされたフィルムの第2冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを利用して前記樹脂層に気流溝を形成させるように遂行する、請求項1に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。 【請求項3】前記第2押出成形ステップは、前記ヒートシール樹脂層として、メタロセン樹脂、エチレン酢酸ビニル、エチレン酢酸メチル、エチレンメタクリル酸、およびエチレン酸ターポリマーからなる群より選択された一つ以上を含む原料を使用する、請求項1または2に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。 【請求項4】前記スキン外層は、ポリプロピレン(PP)からなり、 前記コア層は、ポリプロピレン(PP)からなり、 前記スキン内層は、ポリプロピレン(PP)およびポリエチレン(PE)より選択された1つ以上からなる、請求項3に記載の多層ポリオレフィン系延伸フイルムの製造方法。」 (3)本件発明6について 本件発明6と先願発明2とを対比する。ここで、先願発明2の「請求項1に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法」は、先願発明1の発明特定事項の全てを意味するものである。 先願発明2の「多層ポリオレフィンフィルムの押出成形を遂行する第1押出成形ステップ」は、「前記第1押出成形ステップは、前記多層ポリオレフィンフィルムが、スキン外層、コア層およびスキン内層を含むように遂行され」るものであるから、これは、本件発明6の「第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルムを押出成形する第1の押出ステップ」に相当する。 先願発明2の「前記第1押出成形されたフィルムを冷却させる第1冷却ステップ」は、本件発明6の「前記押出成形されてなるフィルムを冷却させる第1の冷却ステップ」に相当する。 先願発明2の「前記第1冷却されたフィルムを縦方向に延伸する縦方向延伸ステップ」は、「前記縦方向延伸ステップは、前記スキン外層、コア層およびスキン内層を含む多層ポリオレフィンフィルムを縦延伸するもの」であり、これは、本件発明6の「前記第1の冷却ステップを経たフィルムを縦延伸する縦延伸ステップ」に相当する。 先願発明2の「前記縦方向延伸されたフィルム上に1層以上のヒートシール樹脂層がラミネーションされるように押出成形する第2押出成形ステップ」は、「前記第2押出成形ステップでは、ヒートシール樹脂層が前記スキン外層およびスキン内層からなる群より選択された一つ以上にラミネーションされるように遂行される」ものであるから、ヒートシール樹脂層がラミネーションされる態様については、スキン外層上のみ、スキン内層上のみ、スキン外層とスキン内層両方の、3通りを、事実上の選択肢として有するもので、このうちの前二者の態様の何れかをとるとき、本件発明6の「前記縦延伸されたフィルムの第1のスキン層上に熱封着樹脂層が形成されるように押出成形する第2の押出ステップ」に相当する。 先願発明2の「前記ヒートシール樹脂層がラミネーションされたフィルムを冷却する第2冷却ステップ」は、本件発明6の「前記熱封着樹脂層が形成されたフィルムを冷却させる第2の冷却ステップ」に相当する。 先願発明2の「前記第2冷却されたフィルムを横方向に延伸する横方向延伸ステップ」は、本件発明6の「前記第2の冷却ステップを経たフィルムを横延伸する横延伸ステップ」に相当する。 先願発明2の「前記樹脂層がラミネーションされたフィルムの第2冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを利用して前記樹脂層に気流溝を形成させるように遂行する」は、本件発明6の「前記第2の冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させることであり」に相当する。 そして、先願発明2の「多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法」は、本件発明6の「ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法」に相当する。 以上によれば、本件発明6と先願発明2とは、 「第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルムを押出成形する第1の押出ステップと、 前記押出成形されてなるフィルムを冷却させる第1の冷却ステップと、 前記第1の冷却ステップを経たフィルムを縦延伸する縦延伸ステップと、 前記縦延伸されたフィルムの第1のスキン層上に熱封着樹脂層が形成されるように押出成形する第2の押出ステップと、 前記熱封着樹脂層が形成されたフィルムを冷却させる第2の冷却ステップ、及び 前記第2の冷却ステップを経たフィルムを横延伸する横延伸ステップと、 を含み、 前記第2の冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させることである、ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) 本件発明6は、第2の冷却ステップで用いる表面に凹凸構造を有する冷却ロールにつき「前記冷却ロールに形成された凹凸構造は、5μm?30μmの深さを有する」ことが特定されているのに対し、先願発明2は、凹凸構造の深さの寸法が特定されていない点 そこで、相違点について検討する。 先願の明細書を参照しても、先願発明2で用いる冷却ロールの表面の凹凸構造に関し、深さの寸法に関する記載はない。また、その深さの寸法が常に5μm?30μmであると考えるべき事情もない。したがって、相違点は、実質的な相違点である。 以上によれば、本件発明6は、先願発明2と同一であるとはいえない。 (4)本件発明7について 本件発明7と先願発明1とを対比する。 本件発明7は、ポリオレフィン延伸フィルムに係る発明であり、先願発明1は、多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法に係る発明であって、両者は、発明のカテゴリーが相違するため、一致するところはない。 そして、本件発明7は、ポリオレフィン延伸フィルムが特定の積層構造を有すること及びその各層それぞれの延伸構造(縦延伸されているか、横延伸されているか)を特定したものであり、製造方法の如何を問わず、特定の構造を有するポリオレフィン延伸フィルムを提供することに技術的意義を有する発明である。一方、先願発明1は、特定の順序で、それぞれ複数の押出成形ステップ、延伸ステップ、冷却ステップを行うことを特定した、特定の製造方法を提供することに技術的意義を有する発明である。 先願発明1の製造方法により製造される多層ポリオレフィン延伸フィルムが、本件発明7のポリオレフィン延伸フィルムの構造を有することがあるとしても、上記のとおり、本件発明7と先願発明1とは、発明のカテゴリーが異なり、技術的意義が異なり、異なる技術的思想に基づく発明である。 したがって、本件発明7は、先願発明1と同一であるとはいえない。 (5)本件発明8について 本件発明8と先願発明4とを対比すると、上記(4)と同様のことがいえる。 したがって、本件発明8は、先願発明4と同一であるとはいえない。 (6)まとめ 以上のとおり、本件発明6?8は、先願の発明と同一と認められないから、特許法第39条の規定により特許を受けることができない、ということはできない。 よって、本件発明6?8についての特許は、特許法第39条の規定に違反してされたものであるということはできず、特許異議申立人1が申し立てた取消理由によって取り消されるべきものではない。 4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人2が申し立てた理由について 事案に鑑み、理由4、同3、同2、同1の順に判断する (1)理由4について ア 特許異議申立人2の主張 上記第4の2(4)(i)に記載したとおりである。 イ 本件発明5及び6について 特許異議申立人2は、請求項5の「表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させる」の記載につき、空気チャンネルがどこに形成されるのかが一義的に決まらず、多義的な意味を有していると主張している。 しかし、請求項5の文言によれば、空気チャンネルが形成されるのは、樹脂層の表面であって、冷却ロールに接触する面であることは明らかである。空気チャンネルがどこに形成されるのかが一義的に決まらないとはいえず、多義的な意味を有しているともいえない。 ウ 理由4についてのまとめ 以上のとおり、本件発明5及び6は、特許を受けようとする発明が明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合する。 よって、本件発明5及び6についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。 (2)理由3について ア 特許異議申立人2の主張 上記第4の2(3)(i)に記載したとおりである。 イ 本件発明5及び6について (ア)特許異議申立人2は、本件発明5及び6が解決しようとする課題は、巻取時のしわ寄りを効果的に防止することにあり、請求項5の「表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させる」は「表面に凹凸構造を有する冷却ロール400に、樹脂層40が形成された多層フィルムFを冷却ロールに樹脂層40が密着するように通させることにより、空気流れ通路を形成させる」と解釈されるところ、発明の詳細な説明の他の記載や図面からはそのことができるように記載されてなく、空気チャンネルが形成される位置も多義的に解釈され、空気チャンネルを形成させることが巻取時のしわ寄りの効果的な防止に寄与する理由(メカニズム)が記載されていないし実験的に確認もしていないから、発明の詳細な説明は、当業者が上記課題解決を把握できるように記載されていないと主張している。 (イ)本件発明5及び6の課題 本件特許明細書の段落【0002】?【0020】によれば、包装材などに用いられる表面に熱ラミネート用樹脂層が形成された延伸フィルムは、経済性やリサイクル等においてポリオレフィン系延伸フィルムが有利であった。しかし、同時共押出では、相間接着力が低く、スクラッチが発生し、樹脂層がロールにくっ付く現象が生じるために、従来技術においては、多層構造の延伸フィルムを製造した後、アンカー層を予めコートし、その上に押出コーティングにより熱ラミネート用樹脂層を形成していて、コスト、時間、工程の複雑さに問題があった。 そこで、本件発明5及び6の課題は、熱ラミネート用樹脂層の形成の際に、融点の低い樹脂の場合であっても押出による連続工程で積層形成が可能になるようにすることで、製造工程が単調で製造にかかる時間が短くなるため製品の生産コストを下げることができ、また層間接着力に優れるポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法を提供することであると認められる。 また、請求項5の「表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させること」に関しては、同段落【0049】、【0062】に、空気チャンネルによって、それぞれ「フィルムの巻取品質が向上する」こと、「巻取時のしわ寄りが防止され、外観性が確保される」ことが記載されていることから、本件発明5及び6は、上記課題に加え、ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法が巻取品質に優れることも、解決しようとする課題としていると認められる。 (ウ)発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、技術分野の記載(段落【0001】)、背景技術の記載(同【0002】?【0013】)、発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段(発明の概要)の記載(同【0014】?【0020】)に続けて、図3 及び図4 及び図5 に関連して、ポリオレフィン系延伸フィルムの層構成、材料、製造方法、製造装置の説明がある(同【0024】?【0062】)。その中には、請求項5の「表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させること」に関しても、一連の記載があり(同【0049】?【0057】及び【0062】)、図4及び図5の400が「第2の冷却ロール」、450が「凹凸構造」、452が「突部」、454が「溝部」であり、D_(454) は溝部の「深さ」である。発明の詳細な説明には、続いて用途についての記載(同【0063】)がある。続いて、以下の実施例及び比較例の記載がある(同【0066】?【0075】)。 「【0066】[実施例1および2] 図4に示す装置を利用して、先ず、共押出により第1のスキン層10/コア層30/第2のスキン層20が積層されてなるフィルムを作製した後、第1の冷却を行ない、次いで、縦延伸比4倍で縦延伸を行なった。そして、縦延伸後、連続押出によるインライン(In-Line)工程により前記第1のスキン層10上に樹脂層40としてのEVA層を押出積層した後、冷却ロールに通させて第2の冷却を行ない、次いで、横延伸比8倍で横延伸して、図3に示すような4層構造の延伸フィルムを作製した。このとき、前記コア層30と第2のスキン層20とは、いずれもPP層により構成し、前記第1のスキン層10の場合は、LLDPE層により構成した。 【0067】また、前記樹脂層40の押出後、冷却する際に、実施例1の場合は、凹凸構造のない冷却ロール(一般のロール)に通させて冷却を行なった。他方、実施例2の場合は、サンディング処理が施されたマットタイプロールに通させて冷却を行なった。 【0068】[比較例1および2] 現在市販中のEVA熱ラミネート製品を購入して、本比較例の試片として用いた。具体的には、共押出により第1のスキン層(PP層)/コア層(PP層)/第2のスキン層(PP層)を形成/冷却し、縦延伸比4倍、横延伸比8倍にして縦延伸と横延伸とを連続的に行なったものを、本比較例に係る試片として用いた。 【0069】このとき、第1のスキン層(PP層)上に通常のように接着剤(グルー(GLUE))をコーティング、塗布して作製したものを、比較例1に係る試片として用いた。そして、通常のようにOFF-LINE工程により第1のスキン層(PP層)上にアンカー層を形成した後、前記アンカー層上にEVA層をT-ダイ押出コーティングしてなるものを、比較例2に係る試片として用いた。 【0070】前記各実施例および比較例に係る熱ラミネートフィルム試片に対し、次のように層間接着強度評価を行い、その結果を下記の表1に表した。このとき、層間接着強度の評価は、第1のスキン層10と樹脂層40とに対して、そして樹脂層40と被着体とに対して行なった。 【0071】*層間接着強度(剥離強度) (1)ラミネート機を利用して前記作製された熱ラミネートフィルム試片を被着体(印刷された紙)面と合紙した後、カッターバー(cutter bar)を利用して各合紙試片を横(15m)×縦(15cm)にカットしたサンプルを用意した。 (2)前記所定の大きさにカットされたサンプルの側面を剃刀で所定の長さだけ層間剥離した。(第1のスキン層10と樹脂層40との間、樹脂層40と被着体との間) (3)前記所定の部分の層間剥離されたサンプルに対し、引張強度テスト機を利用して、180度の剥離角で層間接着強度(剥離強度)測定を行なった。 【0072】【表1】 【0073】前記[表1]に表すように、本発明の実施例において、第1のスキン層10上にインライン連続押出により樹脂層(EVA層)を形成してみた結果、優れる接着強度(剥離不可)を有し、且つ容易に形成されることが判明した。 【0074】また、前記[表1]に表すように、樹脂層40と被着体(紙)との層間接着強度において、本発明の実施例においては第1のスキン層10をPE層(LLDPE)で構成し、インライン押出により樹脂層40を積層してなるフィルム(実施例1および2)が、従来のフィルム(比較例1および2)よりも同等かそれより優れる評価結果を示すことが判明した。 【0075】更には、本発明の実施例に係るフィルムの場合、巻取後の外観性においても良好であることが分かり、特に実施例2の試片は、外観性等の巻取品質が非常に優れていることが判明した。」 (エ)a 上記(ウ)の発明の詳細な説明の記載は、詳細であり、図4に示す装置を用いる実施例1、2も記載され、得られたポリオレフィン系延伸フィルムは層間接着強度が高いことが示されている。その実施例2は、冷却ロールが請求項5の「表面に凹凸構造を有する冷却ロール」に相当するマットタイプロールを用いるもので、その実施例2では「外観性等の巻取品質が非常に優れていることが判明した」との評価が記載されていて、上記(イ)の、本件発明5及び6の課題が解決できることが把握できる。 b 特許異議申立人2は、発明の詳細な説明や図面からは「表面に凹凸構造を有する冷却ロール400に、樹脂層40が形成された多層フィルムFを冷却ロールに樹脂層40が密着するように通させることにより、空気流れ通路を形成させる」ことができるように記載されていないと主張し、その理由として、図4において「多層フィルムの上側に樹脂層40が積層される(形成される)」としている(特許異議申立書61頁で引用する同54?59頁)。 しかし、第2の押出機100-2により、多層フィルムF上に樹脂層40が積層形成されることについての、発明の詳細な説明の記載は、段落【0042】の 「前記第2の押出ステップにおいては、多層フィルムF上に樹脂層40が積層形成される。具体的には、図4を参照して、多層フィルムFは、縦延伸された後、第2の押出機100-2に送られる。このとき、前記第2の押出機100-2には、樹脂層40の形成のための原料を供給する樹脂供給部150が設置されてもよい。前記第2の押出機100-2には、多層フィルムFが通され、これと同時に樹脂供給部150から原料が供給されるにより樹脂層40が押出されながら、ダイ(Dies)で多層フィルムF上への樹脂層40のラミネートが行なわれる。」 であり、上記の「多層フィルムF上に樹脂層40が積層形成される」の「多層フィルムF上」を、特許異議申立人2が主張するように「多層フィルムの上側」と解すべき理由はない。同【0051】に「前記空気チャンネルは、第2の冷却ステップで形成され、このとき、前記空気チャンネルの形成は、表面に凹凸構造を有する第2の冷却ロール400を用いることにより実現することができる。具体的には、図4に示すように・・・表面に凹凸構造450が形成された第2の冷却ロール400に樹脂層40が密着するように通させて、空気チャンネルを形成する」との記載からからすると、上記段落【0042】の「多層フィルムF上」は、図4では、多層フィルムFの裏面(下側)であると解するのが自然である。 したがって、特許異議申立人2の主張は、理由がない。 c 特許異議申立人2は、空気チャンネルが形成される位置が多義的に解釈されると主張している。 しかし、理由4に関連して上記(1)イで述べたように、特許異議申立人2の主張は、理由がない。 d 特許異議申立人2は、空気チャンネルを形成させることが巻取時のしわ寄りの効果的な防止に寄与する理由(メカニズム)が記載されていないし実験的に確認もしていないと主張している。 しかし、少なくとも実施例2において、定性的にとはいえ「外観性等の巻取品質が非常に優れていることが判明した」と説明されており、また、樹脂層に空気チャンネルが形成される場合に巻取時のしわ寄りが軽減されるであろうことは、不自然なことでもない。 したがって、特許異議申立人2の主張は、理由がない。 ウ 理由3についてのまとめ 以上のとおり、本件発明5及び6は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合する。 よって、本件発明5及び6についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。 (3)理由2について ア 特許異議申立人2の主張 上記第4の2(2)(i)に記載したとおりである。 イ 本件発明5及び6について 特許異議申立人2は、発明の詳細な説明や図面からは「表面に凹凸構造を有する冷却ロール400に、樹脂層40が形成された多層フィルムFを冷却ロールに樹脂層40が密着するように通させることにより、空気流れ通路を形成させる」ことができるように記載されていないと主張し、その理由として、図4において「多層フィルムの上側に樹脂層40が積層される(形成される)」としている(特許異議申立書54?59頁)。 しかし、理由3に関連して上記(2)イ(エ)bで述べたように、特許異議申立人2の主張は、理由がない。 また、特許異議申立人2は、空気チャンネルが形成される位置が多義的に解釈されると主張している。 しかし、理由4に関連して上記(1)イで述べたように(理由3に関連して上記(2)イ(エ)cでもこれを引用している。)、特許異議申立人2の主張は、理由がない。 ウ 理由2についてのまとめ 以上のとおり、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明5及び6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に適合する。 よって、本件発明5及び6についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。 (4)理由1について ア 甲号各証の記載 (ア)甲1 (1a)「1)無機微細粉末含有熱可塑性樹脂フィルムの裏面に、該フィルムの素材樹脂の融点より低い融点を有するヒートシール性樹脂層を設けて複層構造フィルムとなし、前記ヒートシール性樹脂層にエンボス加工を施した後、ヒートシール性樹脂の融点以上の温度であって無機微細粉末含有熱可塑性樹脂の融点よりは低い温度で複層構造フィルムを延伸することを特徴とするラベル用合成紙の製造方法。」(1頁、特許請求の範囲の請求項1) (1b)「〔産業上の利用分野〕 本発明は、差圧成形又は中空成形によって製造される合成樹脂製容器に貼着されるラベル(ブランクを含む)用に用いる合成紙の製造方法に関し、特に金型内に予めラベルをセットし、その上より熱可塑性樹脂を中空成形又は真空成形もしくは圧空成形することによって、ラベル付きの樹脂成形容器を一体成形して容器を加飾することのできる容器用ラベルに用いる合成紙の製法に関するものである。 〔従来の技術〕 従来、ラベル付きの樹脂成形容器を一体成形するには、金型内に予めブランク又はラベルをインサートし、次いで射出成形、中空成形、差圧成形、発泡成形等により容器を形成して、容器に絵付を行っている。このようなラベルとしてはグラビア印刷された樹脂フィルム、オフセット多色印刷された合成紙(例えば、特公昭46-40794号公報、特公昭54-31030号公報、英国特許第1090059号明細書など)、あるいはアルミニウム箔の裏面にポリエチレンをラミネートし、その箔の表面にグラビア印刷したアルミニウムラベルなどが知られている。 しかしながら、上記のラベルやブランクで加飾された樹脂成形容器の製造方法は、射出成形のような高圧(100?1000kg/cm^(2))でブランクと溶融樹脂容器を融着する方法では外観の良好な製品が得られるが、差圧成形(2?7kg/cm^(2))や中空成形(1?10kg/cm^(2))等の低圧で成形する方法ではブランクと溶融容器間の空気の逃げが十分でなく、該容器とブランクとの間にところどころブリスターが発生し、容器外観が阻害される。 我々は、かかる上記の問題点に鑑みて、ラベル(ブランクを含む)の裏面にエンボス加工を施こすことによりラベルと容器間の空気を放出し易くすることによってブリスターの発生を防止し、上記問題点を解決した(実願昭63-1775号)。 すなわち、このラベルは、表面に印刷が施こされた熱可塑性樹脂フィルムの裏面に、該フィルムの素材樹脂の融点より低い融点を有するヒートシール性樹脂層を設け、このヒートシール性樹脂層にインチ当り5?25線のエンボス加工が施こされている容器用ラベルである。 〔発明が解決しようとする課題〕 薄肉のラベルに腰強度を与えるために、ラベル用複層構造フィルムに延伸配向を与えることが行われている(同実願昭の実施例参照)。この延伸配向はエンボス加工前に行われる。 延伸配向後に合成紙にエンボス加工を施こすとき、エンボスの凹凸の深さhは深くなり易く、延伸により高めたラベルの腰強度が若干低下する。ある程度の腰強度がラベルにないと自動供給装置の吸盤でラベルを吸引し、型内に挿着させる作業にミスが生じる。 本発明は腰強度の低下の小さなエンボス加工ラベル用合成紙の提供を目的とする。 〔課題を解決する具体的手段〕 本発明においては延伸前に複層構造フィルムのヒートシール性樹脂層側にエンボス加工を施こし、ついで延伸する。 即ち、本発明は、無機微細粉末含有熱可塑性樹脂フィルムの裏面に、該フィルムの素材樹脂の融点より低い融点を有するヒートシール性樹脂層を設けて複層構造フィルムとなし、前記ヒートシール性樹脂層にエンボス加工を施した後、ヒートシール性樹脂の融点以上の温度であって無機微細粉末含有熱可塑性樹脂フィルムの樹脂の融点よりは低い温度で複層構造フィルムを延伸することを特徴とするラベル用合成祇の製造方法を提供するものである。」(1頁左下欄15行?2頁左下欄5行) (1c)「第1図は、本発明の一例として製造された中空成形用インナーモールドラベルの断面図を示し、図中、1はラベル、2は熱可塑性樹脂フィルム基材層、3は印刷、4はヒートシール性樹脂層、5は該ヒートシール性樹脂層にエンボス加工によりトッド状の絞模様を付与された絞(点状)の頂上を示す。6は絞の谷部である。 第2図は、そのラベル1のヒートシール性樹脂層4側(ラベルの裏面側)の平面図である。第3図は、第1図に示すラベルを得る複層構造フィルムの延伸前および印刷前の断面図であり、第4図は第3図に示す複層構造フィルムの部分拡大図である。 この第3図に示す複層構造フィルムのエンボス模様は、例えば1インチ(2.54cm)あたり、点または線の数が5?200個、好ましくは15?120個となる数設ける。このような1インチ当りの点(ドット)や線の数を線数といい、エンボス模様の精粗の目安となる。 エンボス模様の谷の深さ(h)は、ヒートシール樹脂層4の肉厚(h_(0))の1/3以上、好ましくは1/2以上であり、基材層2内にくい込んでもよい(h>h_(0))。 このエンボス加工された複層構造フィルムを少くとも一方向に4?12倍延伸することにより複層構造フィルムの肉厚も減じ、また、エンボス模様も広がるとともにエンボスの谷間の深さも浅くなる。ヒートシール性樹脂層の表面平滑度(JISP-8119)は1?1000秒、平均表面粗さ(R_(a))は0.5?5ミクロンであるのが好ましい。」(2頁左下欄10行?右下欄19行) (1d)「容器用ラベルの基材層2としては、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドなどの融点が135?264℃の樹脂に無機微細粉末を8?65重量%含有された樹脂フィルムまたは該樹脂フィルムの表面上に無機充填剤含有ラテックスを塗工したフィルム、あるいは、前記フィルムにアルミニウム蒸着したものであってもよい。 これらの基材層の樹脂フィルムの裏面(樹脂容器と接する側)に、低密度ポリエチレン、酢酸ビニル・エチレン共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体の金属塩等の、融点が85?135℃のヒートシ-ル性樹脂のフィルム層4が設けられ、金属ロールとゴムロールによりエンボス加工される。このヒートシール性樹脂層によりラベルと樹脂容器の接着をより強固にすることができる。」(2頁右下欄末行?3頁左上欄16行) (1e)「エンボス加工後の複層構造フィルムの延伸は、基材層の樹脂の融点よりも低い温度であってヒートシール性樹脂の融点以上の温度である。延伸により基材層は配向し、ヒートシール層は配向しない。」(3頁左上欄17行?右上欄1行) (1f)「基材層2は単層であっても二層以上の複層構造であってもよい。」(3頁右上欄2?3行) (1g)「延伸後の複層構造フィルム(合成紙)は、必要あればコロナ放電加工、火炎処理、プラズマ処理等によって表面の印刷性、接着性を改善しておくことができる。 印刷は、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷などの手段があり、バーコード、製造元、販売会社名、キャラクター、商品名、使用方法などを印刷する。 印刷及びエンボス加工された前記容器用ラベル1は、打抜加工により必要な形状寸法のラベルに分離される。このラベルは容器表面の一部に貼着される部分的なものであってもよいが、通常はカップ状容器の側面を取巻くブランクとして、中空成形では皿状容器の表及び裏に貼着されるラベルとして製造される。」(3頁右上欄4?18行) (1h)「(成 形) ラベルは、ラベルlを差圧成形金型の下雌金型のキャビティ内に印刷側が金型のキャビテイ面に接するように設置した後、金型の吸引により金型内壁に固定され、次いで容器成形材料樹脂のシートの溶融物が下雌金型の上方に導かれ、常法により差圧成形され、ラベルが容器外壁に一体に融着された容器が成形される。 差圧成形は真空成形、圧空成形のいずれも採用できるが、一般には両者を併用し、かつプラグアシストを利用した差圧成形が用いられる。また、ラベルは溶融樹脂パリソンを圧空により金型内壁に圧着する中空成形にも適用可能である。 このようにして成形された容器は、ラベル1が金型内で固定された後に、ラベルと樹脂容器が一体に成形されるので、ラベル1の変形もなく、容器本体4とラベル1の密着強度が強固であり、ブリスターもなく、ラベルにより加飾された外観が良好な容器である。」(3頁右上欄19行?左下欄17行) (1i)「実施例1 メルトフローレート(MFR)0.8、融点164℃のホモポリプロピレン70重量%、融点134℃の高密度ポリエチレン12重量%及び平均粒径1.5μmの重質炭酸カルシウム18重量%を配合(A)し、270℃に設定した押出機にて混練した後、シート状に押し出し、冷却装置により冷却して、無延伸シートを得た。このシートを145℃に加熱した後、縦方向に5倍に延伸した。 一方、MFRが4.0のホモポリプロピレン58重量%と平均粒径1.5μmの炭酸カルシウム42重量%との混合物(B)と、融点が117℃の低密度ポリエチレン(C)をそれぞれ別の押出機を用いて270℃で溶融混練し、一台のダイに供給しダイ内で積層し、その後、ダイよりそれぞれフィルム状に押し出し、前記(A)の縦方向5倍延伸シートの裏面にCが外側になる様押出し金属ロールとゴムロールよりなるエンボスロールに通し、積層構造フィルムの(C)側に0.3mm間隔(80線)、谷の深さ30μmのドットをエンボス加工した。他方上記(B)の混合物を前記(A)のシートの表面側にラミネートして複層構造のフィルムを得た。 次いで、この複層構造フィルムを約155℃まで再加熱した後、横方向に7倍延伸し、次いで紙状層(B)にコロナ放電処理した後、55℃まで冷却し、耳部をスリットして、(B)/(A)/(B)/(C)の各層の厚さが30/70/30/10μmの四層合成紙を得た。 この合成紙の紙状層(B)側にオフセット印刷を施し、次いで、これを打抜加工して中空成形用ラベル(横60mm、縦110mm)とした。 このラベルの(C)層の平滑度は110秒で、平均表面粗さ(R_(a))は1.2ミクロン、JIS-P-8125で測定したデーバー剛度はMD方向が1.8g-cm、TD方向が3.5g-cmであった。 このラベルをブロー成形用割型の一方に真空を利用して印刷面側(B)が金型と接するように固定した後、高密度ポリエチレン(融点134℃)のパリソンを190℃で溶融押出し、ついで割型を型締した後、4.2kg/cm^(2)の圧空をパリソン内に供給し、パリソンを膨張させて容器状とするとともにラベルと融着させ、次いで型を冷却し、型開きをして中空容器を得た。 この中空容器は印刷の退色もなく、ラベルの収縮やブリスターの発生も見受けられなかった。また、自動ラベル給紙装置に依るブロー成形用割型へのラベルの供給は100枚連続で行ったがミス(型よりのラベルの落ち等)は1回もなかった。」(3頁左下欄18行?4頁右上欄6行) (1j)「参考例 メルトフローレート(MFR)0.8、融点164℃のホモポリプロピレン70重量%、高密度ポリエチレン12重量%及び平均粒径1.5μmの炭酸カルシウム18重量%を配合(A)し、270℃に設定した押出機にて混練した後、シート状に押し出し、冷却装置により冷却して、無延伸シートを得た。このシートを145℃に加熱した後、縦方向に5倍に延伸した。 一方、MFRが4.0のホモポリプロピレン58重量%と平均粒径1.5μmの炭酸カルシウム42重量%との混合物(B)と、融点が117℃の低密度ポリエチレン(C)をそれぞれ別の押出機を用いて270℃で溶融混練し、-台のダイに供給しダイ内で積層し、その後、ダイよりそれぞれフィルム状に押し出し、前記(A)の縦方向5倍延伸シートの裏面に押出ラミネートした。他方、上記(B)の混合物を前記(A)のシートの表面側にラミネートし、その後、この複層シートを155℃まで再加熱した後、横方向に7倍延伸し、次いでコロナ放電処理した後、55℃まで冷却し、耳部をスリットして、(B)/(A)/(B)/(C)の各層の厚さが30/70/30/10μmの四層合成紙を得た。 この合成紙の紙状層(B)側にオフセット印刷を施した後、エンボスロールに通して1.27mm間隔(20線)、谷の深さ8μmのドットを合成紙の(C)側にエンボス加工した。 次いで、これを打抜加工して中空成形用ラベル(横60mm、縦110mm)とした。このラベルのデーバー剛度はMD方向が1.3、TD方向が3.1g-cmであった。 このラベルをブロー成形用割型の一方に真空を利用して印刷面が金型と接するように固定した後、高密度ポリエチレン(融点134℃)のパリソンを190℃で溶融押出し、ついで割型を型締した後、4.2kg/cm^(2)の圧空をパリソン内に供給し、パリソンを膨張させて容器状とするとともにラベルと融着させ、次いで型を冷却し、型開きをして中空容器を得た。 この中空容器は印刷の退色もなく、ラベルの収縮やブリスターの発生も見受けられなかったが、ブロー成形用割型にラベルを自動供給した際に100枚中、25枚の供給ミスが生じた。」(4頁右上欄7行?右下欄10行) (1k)「実施例2 ポリプロピレン40部、高密度ポリエチレン25部および重質炭酸カルシウム35部の樹脂組成物(A)を200℃で押出機で一台のダイに、別の押出機でエチレン・酢酸ビニル共重合体(C)(融点108℃)を180℃で前記ダイに供給し、共押出し、80℃まで冷却して2層構造フィルム((A)/(C)の肉厚4000μ/100μm)を得た。 次いで、この(C)側のフィルムに100線のドットをエンボス加工(深さ50μm)したのち、約157℃まで再加熱し、縦方向に7倍、横方向に6.5倍延伸し、A側にコロナ放電処理し、スリットを施して肉厚120μmの延伸フィルムを得た。この延伸フィルムの(C)側の表面の平滑度は350秒、平均表面粗さ(R_(a))は0.7μmであった。 これを加工して扇形の、底板の径が53mm、周壁の高さが28cmの差圧成形カップ用のブランクを得た。 このブランクを、圧空真空金型の下雌金型のキャビティ内に印刷側が金型のキャビテイ面に接するように固定した後、ポリプロピレンシートの溶融物(約200℃)をユニック製圧空真空成形機を用いて前記下雌金型の5cm上方に導き、下雌金型の底部の減圧孔より減圧して、ブランクを金型内面に吸着させるとともに、4kg/cm^(2)Gの圧空を上金型の空気供給口側より供給してポリプロピレンシートを金型内面に圧着し、10秒間でプラグアシスト成形し、トリミングして平均肉厚が550?600μmの、ブランクにより加飾されたカップ状ポリプロピレンを主体とした容器を成形した。 このようにして製造された容器は、ブランクの印刷の退色はなく、また、ブランクの変形も見受けられなかった。また、カップ状容器本体とブランクの接着強度はいずれも強固で、手でブランクを引き剥すことができなかった。」(4頁右下欄11行?5頁右上欄6行) (1L)「 」(5頁、第1図?第4図) (イ)甲2 (2a)「ポリプロピレンの二軸延伸フィルム(OPPフィルム)」(108頁1行) (2b)「国内では,1970年(昭和45年)頃からポリ塩化ビニル,ポリスチレン,ポリエチレン,ポリプロピレンなど各種の合成紙の開発が10社以上のメーカーから発表され,いわゆる『第1次合成紙時代』を迎えた。しかし,石油ショックで原油の高騰をもろに受け大半の企業が合成紙事業の撤退を余儀なくされた。その中で生き残り,現在の合成紙市場を育成,拡大してきた代表的な製品は,王子製紙と三菱油化との協同出資による王子油化合成紙の『ユポ』である。この合成紙は,PP樹脂をベースに無機質フィラーを配合したものを,押出し,縦延伸,ラミネートそして多層横延伸の工程を経て製造される。 このような多層延伸技術の実用化が,1970年代に共押出し技術との組合せで実用化が相次いだ。まず,1973年(昭和48年)に,東レがOPPフィルムに易ヒートシール性を付与する目的で共押出多層二軸延伸OPPフィルムMF『トレファン』の大量生産設備を土浦工場に完成し・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 国内における二軸延伸フィルムメーカー数は,1965年(昭和40年)時点では,わずか10社であったが・・・現在(1992年)では,約30社程度にまで増加している。」(108頁27行?109頁末行) (2c)「5.6 複合製膜(積層製膜) 繊維における複合繊維(2種以上のポリマーを同時に紡糸して1本の糸にしたもの)の製造方法である(溶融)複合紡糸に例えて,複合フィルムを製膜段階で製造する方法を,ここでは(溶融)複号(注:「複合」の誤記と認める。)製膜と呼ぶ。得られたフィルムは,2層以上の多層に積層されたフィルムであり,この点から見ると,多層製膜とか積層製膜とも呼ぶことが出来る。 この(溶融)複合製膜には,共押出しによる狭義の複合フィルムに加えて,インライン・コーティングなどによる複合フィルムを含める。 この複合製膜による製品化が最も進んでいるのは,OPPフィルムであろう。OPPフィルムの約1/4は,共押出しなどによってヒートシート性としてのPPランダムコポリマーを積層した多層フィルムである。ここで言う共押出しによる複合フィルムは,全て共押出し後に延伸するという,共押出多層延伸フィルムのことを指している。 積層(複合フィルム)の製造方法として,最近の公開特許では共押出し法によるものが最も多く,インライン・コーティングがこれに次いで多いことを筆者は以前の調査で報告した。 共押出し法では,表面と裏面とで異なる物性を付与することが出来る2層延伸フィルムが最も多く実用化ないし検討されている。さらに,2種延伸フィルム(注:「2層延伸フィルム」の誤記と認める。)以外では,中心(コア:芯)層と表面2層(シース:鞘)からなる3層延伸フィルムがよく検討されている。」(126頁7?25行) (2d)「2.添加剤 ポリプロピレンはそのままでは成形時の熱分解や耐候性が悪いため熱安定剤,酸化防止剤が添加されている。 フィルムに使用されるその他の添加剤には帯電防止剤,アンチブロッキング剤およびスリップ剤があるが,ポリプロピレンフィルムは食品用途への使用が多いため,一般にはPL記載物やFDAに合格していることの他,200℃以上の加工温度で安定であること等の制約がある。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 2.2 アンチブロッキング剤 一般のフィルムは表面が平滑であるため,ブリードした帯電防止剤や後述するコロナ処理の影響でフィルム同志が自着(ブロッキングと言い,ガラス板の間に水が入ると剥がれ難くなる現象と類似している)し,板状となる場合がある。そこでフィルム表面を適度に荒して自着を防ぐために添加するのがアンチブロッキング剤である。 アンチブロッキング剤は数μ以下の微粒子で,PPの屈折率に近いことからシリカ微粒子が一般的であるが,そのほかの無機系微粒子や有機系微粒子等も使用される。 アンチブロッキング剤を添加すると透明性の低下につながるため,添加量については注意しなければならない。」(145頁17行?146頁13行) (2e)「4.インライン積層 前記した様にOPPは単独では性能に限界があるため,種々の方法で改良している。 その方法に複層化がある。すなわちOPPを基材としてその片面(または両面)にOPPにはない性質を持つ樹脂を積層する方法である。 古くは専ら二次加工メーカーで製品としてのOPPに積層するオフライン法で行われていたが,その後OPPの製膜段階で積層するインライン法でも行われるようになった。 ここではインライン積層による改質方法について述べる。 4.1 共押出法 共押出法は延伸前のシート作成工程で積層のシートを作成し,この複層シートを延伸する方法である。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 4.2 インラインラミ法 この方法は先に作ったシートの片面または両面に押出機で溶融した樹脂を押出して,積層した後,延伸する方法である。シートは無延伸シートまたは縦延伸シートのどちらでもよいが,一般には縦延伸シートに積層する。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 共押出法はコア層とスキン層に使用する樹脂に制限があるが,インラインラミ法はそれぞれを単独で押し出すので,各樹脂間に制限がなく,基本的に溶融製膜・延伸が可能な樹脂であれば様(注:誤記があると認める。)できる。しかしスキン層に使用する樹脂にはコア層との接着性が要求される他,縦延伸シートへ積層する場合は特に高速性膜性が要求さる(注:誤記があると認める。)。 またシートの厚みを制御した後積層するので,各層の厚みを全幅に渡って細かく調整することができるが,調整回数が増える恐れがある。 4.3 共押出法とインラインラミ法の比較 表1には両方法を比較した。 従来は共押出法に使用するダイの性能が不十分で,各層の厚み精度の制御が悪かったため,殆どがインラインラミ法で複合OPPが製膜されていた。最近ではその精度の向上に伴い共押出法の採用が主流となっている。 ・・・表1(注:省略する。)・・・ しかしインラインラミ法ではスキン層を横方向の一方にしか延伸しないため,縦・横の二方向に延伸する共押出法にはない特有の性質を与えることができる。 従ってどちらの方法を採用するかは,目的とするフィルム物性,樹脂の性質を考えて決定しなければならない。」(150頁18行?153頁4行) (ウ)甲3 特許異議申立人2が提出した訳文に、当審による訳文を加えて示す。 (3a)「ラベルのフィードストックとして有用な、硬く、共押出しされていて、一または複数のインク受容可能なスキン層がベース又はコア層に中間層を介することなく結合されている多層フィルムであって、上記コア又はベース層は、少なくとも50%のポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンランダムコポリマー又は異相共重合体を含み、上記スキン層は、硬く、ダイで切断可能で、密度が少なくとも0.93g/cm^(3) の低密度ポリエチレン及び5重量%より少ないメタロセン直鎖状低密度ポリエチレンを含み、上記フィルムは80μmまでの厚みを有し、DIN EN ISO 527-3による引張弾性率600?1500MPaを有し、DIN53373による衝撃エネルギーが3Nm/mmフィルム厚みを超えず、DIN53373による偏向が5mmを超えない、上記フィルム。」(5頁、請求の範囲の請求項15) (3b)「[0001]この発明は、ラベルの製造のために適したフィルムに関する。」 (3c)「[0049]フィルムは、例えばキャスト法又はブロー法のような公知の方法で製造できる。好ましくは、ブローフィルム法で製造される。 [0050]コア又はベース層の厚みのスキン層厚みに対する比は、通常1:1?1:15、好ましくは1:1?5:1、特に1:1?4:1である。・・・ [0051]全体のフィルムの厚さ、すなわち、コアと二つのスキン層又はベースと一つのスキン層は、典型的には20?80μm、好ましくは50?70μm、そして可能な限り20μmとするかもしれない。」 (3d)「[0064]・・・ 実施例1 プロセス条件 [0065]生産においては、2040mm幅のラインフィルムは3層の共押出し法によるインフレーションフィルム(注:ブロー法によるフィルムのことである。特許異議申立人2の訳文に従ったが、原文はblown film line filmsである。)によって準備された。スキン層は、LDPE1単独又はm-LLDPE1又はm-LLDPE2との混合からなる。コアは、主としてPP-ホモポリマーからなり、PP-ランダムコポリマー又はm-LLDPE1若しくは2との混合物が混合されている。対称的な構造におけるコア層の一つのスキン層に対する厚み比は、3:1?4.5:1だった。全体の厚みは60?65μmだった。コア層の溶融温度は210℃でありスキン層の溶融温度は200℃だった。ブロー比は1:2だった。空冷温度は内側が11℃で外側が8℃だった。以下に示される物性は、延伸の少なくとも3週後に測定された。結果を以下の表1に示す。 ・・・(注:表1は省略するが、3つの発明例と1つの比較例の、厚み、厚み比、スキン層材料、コア層材料、長手方向の引張弾性率、偏向、衝撃エネルギー、ダイ切断評価が記載されている。)・・・ [0066]この発明に従うフィルム(スキンにm-LLDPEが存在しないことに基づき延性が低いもの)は、高い硬度をもつことが明らかである。さらに、ダイ切断特性は、測定された衝撃エネルギー及び偏向と相関し、優れていた。」 (エ)甲4 (4a)「【請求項1】熱可塑性樹脂40?85重量%および無機または有機微細粉末60?15重量%を含有する基材層(A)の少なくとも片面に、熱可塑性樹脂30?90重量%および無機または有機微細粉末70?10重量%を含有する表面層(B)を有する多層樹脂延伸フィルムの製造方法であって、 式(1)で計算される前記多層樹脂延伸フィルムの空孔率が5?60%になるように、式(2)で計算される延伸の歪み速度が5?100sec^(-1) の条件下で前記基材層(A)および前記表面層(B)を同時または個別に一軸方向に延伸する工程を含むことを特徴とする多層樹脂延伸フィルムの製造方法。 ρ0・・・・・多層樹脂延伸フィルムの真密度 ρ1・・・・・多層樹脂延伸フィルムの密度 V0・・・・・フィルムまたは層の延伸前の速度 V1・・・・・フィルムまたは層の延伸後の速度 x ・・・・・延伸間距離」(2頁、特許請求の範囲の請求項1) (4b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、印刷適性に優れた、表面強度が高い多層樹脂延伸フィルムの製造方法に関する。本発明の製造方法によって製造される多層樹脂延伸フィルムは、ポスター等の一般印刷、粘着ラベル、インクジェット用紙、建築装飾材をはじめとする様々な用途に利用しうる。 【0002】【従来の技術】印刷適性に優れた熱可塑性樹脂フィルムとして、平均粒径0.8?4μmの炭酸カルシウム粉末を含有するポリプロピレン、高密度ポリエチレン等の結晶性ポリオレフィン樹脂組成物を基材とする延伸フィルムからなる合成紙が知られている(特公昭60-36173号公報、特公平1-56091号公報)。この合成紙は、王子油化合成紙(株)よりユポFPG、ユポKPG、ユポSGG等の商品名で、また、英国BXL社よりPolyartIIの商品名で市販されている。 【0003】これらの合成紙は、重質炭酸カルシウム粒子を核とする空孔(ボイド)を有している。これらの空孔は、テンターによりフィルムを延伸する際に形成されるものであるが、形成される空孔数が少ないために印刷したときにインクが十分に浸透することができず、インクの乾燥性が劣るという問題があった。また、個々の空孔のサイズが大きいため、オフセット印刷するとインクが亀裂内深くに浸透して色沈み(インク沈み)が生じることもあった。このため、これらの合成紙はポスター用紙等の高級印刷には向いておらず、名刺、書籍用紙等の汎用印刷用紙に用途が限定されていた。 【0004】このような問題に対処するために、表面に印刷層をコートすることによって高級印刷に向いた基材にする方法が開発されている。しかしながら、この方法には製造費用がかさむという欠点があった。また、空孔の数を多くし、サイズを小さくするために軽質炭酸カルシウム等の平均粒径の小さい微粒子を使用する方法も考案されている。しかしながら、平均粒径の小さい微粒子はポリオレフィン樹脂へ配合したときに分散不良による2次凝集が多く発生するという欠点がある。この凝集体はフィルムを延伸したときに合成紙の表面に大きな突起物となって現れるため、このような微粒子を用いて製造した合成紙も高精度の印刷には適していない。また、延伸温度を下げる方法も提案されている。しかしながら、延伸温度を低くすると延伸むらやフィルム破断が発生しやすくなる。このため、製造ロスが大きくなって製造費用がかさむなどの問題があった。 【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明は、これらの従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。すなわち本発明は、色沈みがなく、インク乾燥性に優れるオフセット印刷用紙、グラビア印刷用紙、インクジェット記録用紙、インモールドラベル、粘着ラベル等の用途に適した多層樹脂延伸フィルムの製造方法を提供することを解決すべき課題とした。 【0006】【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、多層樹脂延伸フィルムを製造する時の延伸の歪み速度を制御することによって本発明の目的にかなう優れた特性を有する多層樹脂延伸フィルムを製造することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。」 (4c)「【0035】【実施例】以下に実施例、比較例および試験例を記載して、本発明をさらに具体的に説明する。・・・使用する材料を以下の表にまとめて示す。なお、表中のMFRはメルトフローレートを意味する。 【0036】【表1】 【0037】(実施例および比較例)以下の手順にしたがって、本発明の多層樹脂延伸フィルムの製造方法(実施例1?4)および比較用の製造方法(比較例1?3)を実施した。表2に、各フィルムの製造にあたって使用した材料の種類と量、延伸条件、および製造したフィルムの状態をまとめて示した。 【0038】熱可塑性樹脂および無機微細粉末を混合することによって、配合物[A]、[B]および[C]を調製した。これらの混合物を250℃に設定された3台の押出機でそれぞれ溶融混練し、ダイ内で配合物[A]の表面側に配合物[B]、裏面側に配合物[C]を積層して押出成形し、冷却装置にて70℃まで冷却して、3層の無延伸シートを得た。このシートを所定温度に加熱した後、縦方向にロール間で所定の歪み速度と倍率で一軸延伸した。ただし、比較例1のシートについては延伸を行わなかった。次いで、得られたフィルムの両面に放電処理機(春日電機(株)製)を用いて50W/m2・分のコロナ処理を行って3層構造の多層樹脂延伸フィルム(厚さ80μm)を得た。得られた多層樹脂延伸フィルムの表面の平均空孔サイズ、表面の空孔数、各層の空孔率、フィルム全体の空孔率および密度は表2に示すとおりであった。 【0039】【表2】 【0040】】(試験例)製造した多層樹脂延伸フィルムについて・・・試験と評価を行った。 ・・・・・・・・・・・・・・ 【0046】・・・各試験の結果を以下の表にまとめて示す。 【表3】 【0047】表3から明らかなように、本発明の製造方法によって製造した多層樹脂延伸フィルムは、表面層(B)のインク転移性、インク密着性、インク乾燥性および表面強度のすべてが良好であり、光遮蔽性も高い(実施例1?4)。これに対して、無延伸基材のように表面に空孔が存在しない基材はインク密着性、インク乾燥性および光遮蔽性が劣っている(比較例1)。また、延伸の歪み速度が小さい基材は表面空孔サイズが大きくなり色沈みによってインク転移性が劣っており、インク乾燥性も悪い(比較例2)。さらに、歪み速度が大きい基材は成形することができなかった(比較例3)。」 (4d)「【0048】【発明の効果】本発明の多層樹脂延伸フィルムの製造方法を用いれば、印刷適性が優れていて、表面強度も高い優れた多層樹脂延伸フィルムを提供することができる。このため、本発明によれば、ポスター用紙、粘着用紙、インクジェット用紙、建築装飾材をはじめとするさまざまな用途に供し得る多層樹脂延伸フィルムを有効に製造することができる。」 (オ)甲5 (5a)「【請求項1】熱可塑性樹脂フィルム基材層(I)、中間層(II)、ヒートシール性樹脂層(III)よりなる多層フィルムであって、中間層(II)が下記成分a?cよりなるものであることを特徴とするインモールド成形用ラベル。 成分a:熱可塑性樹脂 50?95重量% 成分b:永久帯電防止剤 5?35重量% 成分c:ポリアミド樹脂 0?10重量% 【請求項2】ヒートシール性樹脂層(III)が、その表面にエンボス加工が施されていることを特徴とする請求項1に記載のインモールド成形用ラベル。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1及び2) (5b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ラベルを予め金型内に、該ラベルの印刷が施こされた表面側が金型壁面に接するようにセットし、金型内に溶融した熱可塑性樹脂のパリソンを導き中空成形して、或いは溶融した熱可塑性樹脂を射出成形して、或いは溶融した熱可塑性樹脂シートを真空成形もしくは圧空成形してラベル付き樹脂成形品を製造するインモールド成形に用いるラベルに関するものである。 【0002】【従来の技術】従来、ラベル付きの樹脂成形容器を一体成形するには、金型内に予めブランク又はラベルをインサートし、次いで射出成形、中空成形、差圧成形、発泡成形などにより該金型内で容器を成形して、容器に絵付けなどを行なっている(特開昭58-69015号公報、ヨーロッパ公開特許第254923号明細書参照)。この様なインモールド成形用ラベルとしては、グラビア印刷された樹脂フィルム、オフセット多色印刷された合成紙(例えば、特公平2-7814号公報、特開平2-84319号公報参照)、或いは、アルミニウム箔の裏面に高圧法低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体をラミネートし、その箔の表面にグラビア印刷したアルミニウムラベルなどが知られている。 【0003】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のインモールド成形用ラベルやブランクを用いて、インモールド成形によりラベルで加飾されたラベル付き樹脂成形品を製造する方法においては、自動ラベル供給装置を用いて金型内にラベルを供給する際に、ラベルの帯電防止機能が不十分であると、特に冬期の低湿度の環境においては積み重ねられたラベル間の静電気が除去されずに、ラベルが2枚あるいはそれ以上が同時に金型内に供給され、正規でない位置にラベルが貼合した容器(不良品)が生じたり、ラベルが脱落して有効に利用されないという問題が生じている。また、ラベルの製造工程におけるフィルム、合成紙への印刷加工、特にオフセット印刷時に、これらフィルムの給排紙性が悪化し、何度もラベル製造機の停止、再スタートを強いられるという問題が指摘されている。 【0004】このような問題を解決するために、ラベルのヒートシール性樹脂層であるエチレン系樹脂に、ソルビタンモノオレート、グリセリンモノステアレート等の、移行型の低分子量帯電防止剤を練り込んだインモールド成形用ラベルや、ヒートシール性エチレン系樹脂層の表面に、ポリオキシエチレン誘導体等の低分子量の帯電防止剤を塗布し、乾燥させた帯電防止膜を形成させたインモールド成形用ラベルが提案されている。しかし、両者のインモールド成形用ラベルとも、帯電防止機能の長期持続性が短いといった欠点や、さらには、前者のインモールド成形用ラベルにおいてはヒートシール性樹脂層に練り込んだ帯電防止剤成分が表面に移行することにより、該ヒートシール性樹脂の容器への融着性能を著しく阻害し、ラベルが容器に融着しない不良品の容器が形成されたり、或いは、容器に貼着したラベルにブリスターが発生した不良品を形成するなどの問題があった。 【0005】以上のような問題を解決するために、ヒートシール性樹脂に長期持続型で比粘着性の帯電防止機能を有するポリエーテルエステルアミドを含有させることで、首記問題を解決する方法が提案されている(特開平11-352888号公報)。しかしながらそれらをヒートシール性樹脂に練り混んで、押出機とTダイにより押し出し、ラベルを製造する工程において、それらがTダイの出口付近に堆積し劣化する、いわゆるメヤニが大量に発生したり、ヒートシール性樹脂層と接触する製造ラインのロール表面にそれらが堆積して汚れ、その結果メヤニや汚れが脱落してフィルムに欠陥を生じ、頻繁に製造ラインを停止してダイス先端やロール表面の清掃を強いられるという問題が生じていた。本発明は、ラベル製造時のメヤニの発生やロール汚れがなく、年間を通して印刷、断裁、打ち抜き加工、金型へのインサートが良好で、ラベルの容器への融着強度が高いラベル付き樹脂成形品を与えるインモールド成形用ラベルの提供を目的とする。 【0006】【課題を解決するための手段】本発明は、熱可塑性樹脂フィルム基材層(I)、中間層(II)、ヒートシール性樹脂層(III)よりなる多層フィルムであって、中間層(II)が永久帯電防止剤を含有した下記成分a?cよりなるものであることを特徴とするインモールド成形用ラベルを提供するものである。 成分a:熱可塑性樹脂 50?95重量% 成分b:永久帯電防止剤 5?35重量% 成分c:ポリアミド樹脂 0?10重量% ・・・」 (5c)「【0040】【実施例】以下に実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明する。・・・ 〔I〕物性の測定方法と評価方法 ・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0045】〔II〕実験例 〔ポリエーテルエステルアミドの製造〕12-アミノドデカン酸55部、数平均分子量が1,000のポリエチレングリコール40部およびアジピン酸15部を、「イルガノックス1098」(酸化防止剤、商品名)0.2部および三酸化アンチモン触媒0.1部と共にヘリカルリボン撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、窒素置換して260℃で60分間加熱撹拌して透明な均質溶液とした後、260℃、0.5mmHg以下の条件で4時間重合し、粘ちょうで透明なポリマを得た。ポリマを冷却ベルト上にガット状に吐出し、ペレタイズすることによって、ペレット状のポリエーテルエステルアミド(b1)を調製した。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0047】〔ラベルの製造例〕 【実施例1】(1)日本ポリケム(株)製プロピレン単独重合体である“ノバテックPP、MA-8”(商品名、融点164℃)67重量%、日本ポリケム(株)製、高密度ポリエチレン“ノバテックHD、HJ580”(商品名、融点134℃、密度0.960g/cm^(3))10重量%および粒径1.5μmの炭酸カルシウム粉末23重量%よりなる樹脂組成物(A)を押出機を用いて溶融混練したのち、ダイより250℃の温度でシート状に押出し、約50℃の温度となるまでこのシートを冷却した。次いで、このシートを約153℃に加熱したのち、ロール群の周速度を利用して縦方向に4倍延伸して、一軸延伸フィルムを得た。 【0048】(2)別に、日本ポリケム(株)製プロピレン単独重合体“ノバテックPP、MA-3”(商品名;融点165℃)51.5重量%、密度0.950g/cm^(3) の高密度ポリエチレン“HJ580”3.5重量%、粒径1.5μmの炭酸カルシウム粉末42重量%、粒径0.8μmの酸化チタン粉末3重量%よりなる組成物(B)を別の押出機を用いて240℃で溶融混練し、これを前記縦延伸フィルムの表面にダイよりフィルム状に押し出し、積層(B/A)して、表面層/コア層の積層体を得た。 【0049】(3)メタロセン触媒を用いてエチレンと1-ヘキセンを共重合させて得たMFRが18g/10分、密度が0.898g/cm^(3)、融点90℃であるエチレン・1-ヘキセン共重合体(1-ヘキセン含量22重量%、結晶化度30、数平均分子量23、000)60重量%と、MFRが4g/10分、密度が0.92g/cm^(3)、融点110℃の高圧法低密度ポリエチレン30重量%の混合物90重量%と、前記製造例にて得られたポリエーテルエステルアミド(b1)9.5重量%および過塩素酸ナトリウム0.5重量%を、タンブラーミキサーで3分間混合した後、230℃の温度に設定されたベント付二軸押出機で混練し、これをダイよりストランド状に押し出しカッティングして中間層用ペレット(II)を得た。 【0050】(4)メタロセン触媒を用いてエチレンと1-ヘキセンを共重合させて得たMFRが18g/10分、密度が0.898g/cm^(3)、融点90℃であるエチレン・1-ヘキセン共重合体(1-ヘキセン含量22重量%、結晶化度30、数平均分子量23、000)70重量%と、MFRが4g/10分、密度が0.92g/cm^(3)、融点110℃の高圧法低密度ポリエチレン30重量%の混合物をタンブラーミキサーで3分間混合し、ヒートシール性樹脂層用ペレット(III)を得た。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0058】【実施例8】実施例1におけるコア層用樹脂組成物(A)、表面層用樹脂組成物(B)、中間層用ペレット(II)、ヒートシール性樹脂層用ペレット(III)を、それぞれ250℃、240℃、230℃、230℃に設定された別の押出機にて溶融混練した後、ダイ内で、B/A/II/IIIとなるように積層して押出成形し、70℃まで冷却して4層構造のシートを得た。このシートを120℃まで加熱した後、金属ロールとゴムロールよりなるエンボスロール(1インチあたり200線、逆グラビア型)に通し、ヒートシール性樹脂層側に0.13mm間隔のパターンをエンボス加工した。その後同じ温度にて縦方向に6倍にロール間延伸した。 【0059】次いで50℃まで冷却した後、耳部をスリットし、更に表面層(B層)側に、50W/m^(2)/分のコロナ放電処理をした。このものの密度は0.91g/cm^(3)、肉厚が90μm(各層厚みB/A/II/III=5/80/3/2μm)の4層構造の多層フィルムを得た。このフィルムのヒートシール層(III)側の表面平均粗さ(R_(a))は2.4μmであった。このものの評価結果を表1に示す。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0066】【表1】 【0067】【表2】 」 (5d)「【0068】【発明の効果】本発明は、ラベル製造時のメヤニの発生やロール汚れがなく、年間を通して印刷、断裁、打ち抜き加工、金型へのインサートが良好で、容器への融着強度が高いインモールド成形用ラベルを与える。」 (5e)「 」(13頁、図1?図3) (カ)甲6 (6a)「【請求項1】熱可塑性樹脂フィルム基材層(I)、中間層(II)、ヒートシール性樹脂層(III)よりなる多層フィルムであって、中間層(II)が帯電防止剤を含有した熱可塑性樹脂組成物よりなるものであることを特徴とするインモールド成形用ラベル。 【請求項2】ヒートシール性樹脂層(III)が、その表面にエンボス加工が施されていることを特徴とする請求項1に記載のインモールド成形用ラベル。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1及び2) (6b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ラベルを予め金型内に該ラベルの印刷が施された表面側が金型壁面に接するようにセットし、金型内に溶融した熱可塑性樹脂のパリソンを導き中空成形して、或いは溶融した熱可塑性樹脂を射出成形して、或いは溶融した熱可塑性樹脂シートを真空成形もしくは圧空成形してラベル貼合容器を製造するインモールド成形に用いるラベルに関するものである。 【0002】【従来の技術】従来、ラベル付きの樹脂成形容器を一体成形するには、金型内に予めブランク又はラベルをインサートし、次いで射出成形、中空成形、差圧成形、発泡成形などにより該金型内で容器を成形して、容器に絵付けなどを行なっている(特開昭58-69015号公報、ヨーロッパ公開特許第254923号明細書参照)。この様なインモールド成形用ラベルとしては、グラビア印刷された樹脂フィルム、オフセット多色印刷された合成紙(例えば、特公平2-7814号公報、特開平2-84319号公報参照)、或いは、アルミニウム箔の裏面に高圧法低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体をラミネートし、その箔の表面にグラビア印刷したアルミニウムラベルなどが知られている。 【0003】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のインモールド成形用ラベルやブランクを用いて、インモールド成形によりラベルで加飾されたラベル貼合容器を製造する方法においては、自動ラベル供給装置を用いて金型内にラベルを供給する際に、ラベルの帯電防止機能が不十分であると、特に冬期の低湿度の環境においては積み重ねられたラベル間の静電気が除去されずに、ラベルが2枚あるいはそれ以上が同時に金型内に供給され、正規でない位置にラベルが貼合した容器(不良品)が生じたり、ラベルが脱落して有効に利用されないという問題が生じている。また、ラベルの製造工程におけるフィルム、合成紙への印刷加工、特にオフセット印刷時に、これらフィルムの給排紙性が悪化し、何度もラベル製造機の停止、再スタートを強いられるという問題が指摘されている。 【0004】このような問題を解決するために、ラベルのヒートシール性樹脂層であるエチレン系樹脂に、ソルビタンモノオレート、グリセリンモノステアレート等の、移行型の低分子量帯電防止剤を練り込んだインモールド成形用ラベルや、ヒートシール性エチレン系樹脂層の表面に、ポリオキシエチレン誘導体等の低分子量の帯電防止剤を塗布し、乾燥させた帯電防止膜を形成させたインモールド成形用ラベルが提案されている。しかし、両者のインモールド成形用ラベルとも、帯電防止機能の長期持続性が短いといった欠点や、さらには、前者のインモールド成形用ラベルにおいてはヒートシール性樹脂層に練り込んだ帯電防止剤成分が表面に移行することにより、該ヒートシール性樹脂の容器への融着性能を著しく阻害し、ラベルが容器に融着しない不良品の容器が形成されたり、或いは、容器に貼着したラベルにブリスターが発生した不良品を形成する問題があった。 【0005】以上のような問題を解決するために、ヒートシール性樹脂に長期持続型で比粘着性の帯電防止機能を有するポリエーテルエステルアミドを含有させることで、首記問題を解決する方法が提案されている(特開平11-352888号公報)。しかしながら、それらをヒートシール性樹脂に練り混んで、押出機とTダイにより押し出し、ラベルを製造する工程において、それらがTダイの出口付近に堆積し劣化する、いわゆるメヤニが大量に発生したり、ヒートシール性樹脂層と接触する製造ラインのロール表面にそれらが堆積して汚れ、その結果メヤニや汚れが脱落してフィルムに欠陥を生じ、頻繁に製造ラインを停止してダイス先端やロール表面の清掃を強いられるという問題が生じていた。本発明は、ラベル製造時のメヤニの発生やロール汚れがなく、年間を通して印刷、断裁、打ち抜き加工、金型へのインサートが良好で、ラベルの容器への融着強度が高いラベル貼合容器を与えるインモールド成形用ラベルの提供を目的とする。 【0006】【課題を解決するための手段】本発明は、熱可塑性樹脂フィルム基材層(I)、中間層(II)、ヒートシール性樹脂層(III)よりなる多層フィルムであって、中間層(II)が帯電防止剤を含有した樹脂組成物よりなるものであるインモールド成形用ラベルを提供するものである。」 (6c)「【0041】【実施例】以下に実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明する。 〔I〕物性の測定方法と評価方法 ・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0046】〔II〕実験例 〔ポリエーテルエステルアミドの製造〕内容量3リットルのステンレス製のオートクレーブ内に、12-アミノドデカン酸110部、アジピン酸16.3部、イルガノックス・1010(チバガイギー社製酸化防止剤;商品名)0.3部及び水7部を仕込みオートクレーブ内を窒素ガスで置換した後、220℃の温度で加圧密閉下4時間加熱攪拌し、両末端にカルボキシル基を有する酸価107のポリアミドオリゴマーを117部得た。次に、数平均分子量2,000のビスフェノールAエチレンオキサイド付加物225部、酢酸ジルコニル0.5部を加え、245℃、1mmHg以下の減圧の条件下で5時間重合し、粘稠なポリマーを得た。このポリマーをベルト上にストランド状で取り出し、ペレタイズすることによってポリエーテルエステルアミドを得た。このものの還元粘度(ηsp/C、m-クレゾール溶媒、25℃、C=0.5重量%、以下同様)は2.10であった。このポリエーテルエステルアミドを〔b〕と略記する。 【0047】〔変性低分子量ポリオレフィンの製造〕熱減成して得られた数平均分子量3,000、密度0.92g/cm^(3)の低分子量ポリエチレン95部と無水マレイン酸5部およびキシレン60部を窒素気流下140℃の温度で溶融し、次いでこれにターシャリーブチルパーオキサイド1.5部を溶かしたキシレン50%溶液を15分かけて滴下し、その後1時間反応を行った。反応終了後、溶剤を留去して酸変性低分子量ポリエチレンを得た。このものの酸価は25.7、数平均分子量は5,000であった。この変性物を〔c〕と略記する。 【0048】〔ラベルの製造例〕 (実施例1) (1)日本ポリケム(株)製ポリプロピレンである“ノバテックPP、MA-8”(商品名、融点164℃)67重量%、日本ポリケム(株)製、高密度ポリエチレン“ノバテックHD、HJ580”(商品名、融点134℃、密度0.960g/cm^(3))10重量%および粒径1.5μmの炭酸カルシウム粉末23重量%よりなる樹脂組成物(A)を押出機を用いて溶融混練した後、ダイより250℃の温度でシート状に押出し、約50℃の温度となるまでこのシートを冷却した。次いで、このシートを約153℃に加熱したのち、ロール群の周速度を利用して縦方向に4倍延伸して、一軸延伸フィルムを得た。 【0049】(2)別に、日本ポリケム(株)製ポリプロピレン“ノバテックPP、MA-3”(商品名;融点165℃)51.5重量%、密度0.960g/cm^(3) の高密度ポリエチレン“HJ580”3.5重量%、粒径1.5μmの炭酸カルシウム粉末42重量%、粒径0.8μmの酸化チタン粉末3重量%よりなる組成物(B)を別の押出機を用いて240℃で溶融混練し、これを前記縦延伸フィルムの表面にダイよりフィルム状に押し出し、積層(B/A)して、表面層/コア層の積層体を得た。 【0050】(3)メタロセン触媒を用いてエチレンと1-ヘキセンを共重合させて得たMFRが18g/10分、密度が0.898g/cm^(3)、融点90℃であるエチレン・1-ヘキセン共重合体(1-ヘキセン含量22重量%、結晶化度30、数平均分子量23、000)46重量%と、MFRが4g/10分、密度が0.92g/cm^(3)、融点110℃の高圧法低密度ポリエチレン16重量%と、MFRが5g/10分、密度が0.935g/cm^(3)、融点125℃の直鎖線状低密度ポリエチレン10重量%の混合物72重量%と、前記製造例にて得られたポリエーテルエステルアミド〔b〕17重量%と、ポリアミド樹脂(UBEナイロン6)を6重量%、及び前記製造例にて得られた酸変性低分子量ポリエチレン〔c〕を5重量%を、タンブラーミキサーで3分間混合した後、230℃の温度に設定されたベント付二軸押出機で混練し、これをダイよりストランド状に押し出しカッティングして中間層用ペレット(II)を得た。 【0051】(4)メタロセン触媒を用いてエチレンと1-ヘキセンを共重合させて得たMFRが18g/分、密度が0.898g/cm^(3)、融点90℃であるエチレン・1-ヘキセン共重合体(1-ヘキセン含量22重量%、結晶化度30、数平均分子量23、000)70重量%と、MFRが4g/10分、密度が0.92g/cm^(3)、融点110℃の高圧法低密度ポリエチレン30重量%の混合物をタンブラーミキサーで3分間混合し、ヒートシール性樹脂層用ペレット(III)を得た。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0058】(実施例8)実施例1におけるコア層用樹脂組成物(A)、表面層用樹脂組成物(B)、中間層用ペレット(II)、ヒートシール性樹脂層用ペレット(III)を、それぞれ250℃、240℃、230℃、230℃に設定された別の押出機にて溶融混練した後、ダイ内で、B/A/II/IIIとなるように積層して押出成形し、70℃まで冷却して4層構造のシートを得た。このシートを120℃まで加熱した後、金属ロールとゴムロールよりなるエンボスロール(1インチあたり200線、逆グラビア型)に通し、ヒートシール性樹脂層側に0.13mm間隔のパターンをエンボス加工した。その後同じ温度にて縦方向に6倍にロール間延伸した。次いで50℃まで冷却した後、耳部をスリットし、更に表面層(B層)側に、50W/m^(2)/分のコロナ放電処理をした。このものの密度は0.91g/cm^(3)、肉厚が90μm(各層厚みB/A/II/III=5/80/3/2μm)の4層構造の微多孔性樹脂延伸フィルムを得た。このフィルムのヒートシール層(III)側の表面平均粗さ(R_(a))は2.3μmであった。このものの評価結果を表1に示す。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0064】【表1】 【0065】【表2】 」 (6d)「【0066】【発明の効果】本発明は、ラベル製造時のメヤニの発生やロール汚れがなく、年間を通して印刷、断裁、打ち抜き加工、金型へのインサートが良好で、容器への融着強度が高いインモールド成形用ラベルを与える。」 (6e)「 」(14頁、図1?図3) イ 甲1に記載された発明 (ア)甲1は、ラベル用合成紙の製造方法について記載した特許文献であり(摘示(1a)?(1L))、請求項1には、「無機微細粉末含有熱可塑性樹脂フィルムの裏面に、該フィルムの素材樹脂の融点より低い融点を有するヒートシール性樹脂層を設けて複層構造フィルムとなし、前記ヒートシール性樹脂層にエンボス加工を施した後、ヒートシール性樹脂の融点以上の温度であって無機微細粉末含有熱可塑性樹脂の融点よりは低い温度で複層構造フィルムを延伸することを特徴とするラベル用合成紙の製造方法」と特定した発明が記載されている(摘示(1a))。 (イ)発明の詳細な説明及び図面では、上記「無機微細粉末含有熱可塑性樹脂フィルム」は「熱可塑性樹脂フィルム基材層2」、「基材層2」として言及され、上記「ヒートシール性樹脂層」は「ヒートシール性樹脂層4」、「ヒートシール樹脂層4」等として言及されている。そして、ラベル用合成紙の構造(摘示(1c)(1L))、それぞれの層の材質(摘示(1d))、延伸の温度及びその温度では基材層は配向しヒートシール層は配向しないこと(摘示(1e))、基材層は単層であっても二層以上の複層構造であってもよいこと(摘示(1f))、延伸後に後処理及び印刷されてラベルに製造されること(摘示(1g))、そのラベルを金型内に配置してラベルが貼着された合成樹脂製容器を成形すること(摘示(1h))が、それぞれ記載されている。 (ウ)また、実施例1(摘示(1i))には、表面側から裏面側に向かって(B)/(A)/(B)/(C)の四層構造のラベル用合成紙であって、各層の厚さが30/70/30/10μmであり、各層の材料が (A): ホモポリプロピレン(MFR0.8、融点164℃)70重量% 高密度ポリエチレン(融点134℃)12重量% 炭酸カルシウム(平均粒径1.5μm)18重量% (B): ホモポリプロピレン(MFR4.0)58重量% 炭酸カルシウム(平均粒径1.5μm)42重量% (C): 低密度ポリエチレン(融点117℃) であり、(C)側がエンボス加工されたものを、以下の工程で製造し、これに印刷し、打抜加工して中空成形用ラベルを製造したことが記載されている: 配合した(A)を270℃に設定した押出機にて混練した後、シート状に押し出し、冷却装置により冷却して、無延伸シートを得、このシートを145℃に加熱した後、縦方向に5倍に延伸し、一方、混合した(B)と、(C)をそれぞれ別の押出機を用いて270℃で溶融混練し、一台のダイに供給しダイ内で積層し、その後、ダイよりそれぞれフィルム状に押し出し、前記(A)の縦方向5倍延伸シートの裏面にCが外側になる様押出し金属ロールとゴムロールよりなるエンボスロールに通し、積層構造フィルムの(C)側に0.3mm間隔(80線)、谷の深さ30μmのドットをエンボス加工し、他方上記(B)の混合物を前記(A)のシートの表面側にラミネートして複層構造のフィルムを得、次いで、この複層構造フィルムを約155℃まで再加熱した後、横方向に7倍延伸し、次いで紙状層(B)にコロナ放電処理した後、55℃まで冷却し、耳部をスリットして、四層合成紙を得る。 (エ)また、参考例(摘示(1j))には、表面側から裏面側に向かって(B)/(A)/(B)/(C)の四層構造のラベル用合成紙であって、各層の厚さが30/70/30/10μmであり、各層の材料が(A)における高密度ポリエチレンの融点が示されていないことを除いて実施例1と同じであるものを、以下の工程で製造し、これに印刷し、エンボス加工し、打抜加工して中空成形用ラベルを製造したことが記載されている: 配合した(A)を270℃に設定した押出機にて混練した後、シート状に押し出し、冷却装置により冷却して、無延伸シートを得、このシートを145℃に加熱した後、縦方向に5倍に延伸し、一方、混合した(B)と、(C)をそれぞれ別の押出機を用いて270℃で溶融混練し、-台のダイに供給しダイ内で積層し、その後、ダイよりそれぞれフィルム状に押し出し、前記(A)の縦方向5倍延伸シートの裏面に押出ラミネートし、他方、上記(B)の混合物を前記(A)のシートの表面側にラミネートし、その後、この複層シートを155℃まで再加熱した後、横方向に7倍延伸し、次いでコロナ放電処理した後、55℃まで冷却し、耳部をスリットして、(B)/(A)/(B)/(C)の各層の厚さが30/70/30/10μmの四層合成紙を得る。 (オ)また、実施例2(摘示(1k))には、表面側から裏面側に向かって(A)/(C)の構造のラベル用合成紙であって、肉厚120μmで、各層の材料が (A): ポリプロピレン40部 高密度ポリエチレン25部 重質炭酸カルシウム35部 (C): エチレン・酢酸ビニル共重合体(融点108℃) であり、(C)側がエンボス加工されたものを、以下の工程で製造し、これに加工して差圧成形カップ用のブランクを製造したことが記載されている: 樹脂組成物(A)を200℃で押出機で一台のダイに、別の押出機で(C)を180℃で前記ダイに供給し、共押出し、80℃まで冷却して2層構造フィルム((A)/(C)の肉厚4000μ/100μm)を得、次いで、この(C)側のフィルムに100線のドットをエンボス加工(深さ50μm)したのち、約157℃まで再加熱し、縦方向に7倍、横方向に6.5倍延伸し、A側にコロナ放電処理し、スリットを施して肉厚120μmの延伸フィルムを得る。 (カ)以上によれば、甲1の請求項1に係る発明は、基材層であるところの無機微細粉末含有熱可塑性樹脂フィルム基材層は単層であっても二層以上の複層構造であってもよいとされるところ、その実施例1には全体として四層構造で基材層が三層構造のラベル用合成紙が、そしてその実施例2には全体として二層構造で基材層が単層のラベル用合成紙が、それぞれ記載されていることから、甲1には、請求項1に係る発明であって、基材層であるところの無機微細粉末含有熱可塑性樹脂フィルム基材層は単層であっても二層以上の複層構造であってもよいとする、以下の 「単層であっても二層以上の複層構造であってもよい無機微細粉末含有熱可塑性樹脂フィルムの裏面に、該フィルムの素材樹脂の融点より低い融点を有するヒートシール性樹脂層を設けて複層構造フィルムとなし、前記ヒートシール性樹脂層にエンボス加工を施した後、ヒートシール性樹脂の融点以上の温度であって無機微細粉末含有熱可塑性樹脂の融点よりは低い温度で複層構造フィルムを延伸する、ラベル用合成紙の製造方法」 の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されているということができる。 また、甲1には、その実施例1に係る、以下の 「表面側から裏面側に向かって(B)/(A)/(B)/(C)のラベル用の四層構造のラベル用合成紙であって、各層の厚さが30/70/30/10μmであり、各層の材料が (A): ホモポリプロピレン(MFR0.8、融点164℃)70重量% 高密度ポリエチレン(融点134℃)12重量% 炭酸カルシウム(平均粒径1.5μm)18重量% (B): ホモポリプロピレン(MFR4.0)58重量% 炭酸カルシウム(平均粒径1.5μm)42重量% (C): 低密度ポリエチレン(融点117℃) であり、(C)側がエンボス加工されたものを、以下の工程で製造する方法: (工程) 配合した(A)を270℃に設定した押出機にて混練した後、シート状に押し出し、冷却装置により冷却して、無延伸シートを得、このシートを145℃に加熱した後、縦方向に5倍に延伸し、一方、混合した(B)と、(C)をそれぞれ別の押出機を用いて270℃で溶融混練し、一台のダイに供給しダイ内で積層し、その後、ダイよりそれぞれフィルム状に押し出し、前記(A)の縦方向5倍延伸シートの裏面にCが外側になる様押出し金属ロールとゴムロールよりなるエンボスロールに通し、積層構造フィルムの(C)側に0.3mm間隔(80線)、谷の深さ30μmのドットをエンボス加工し、他方上記(B)の混合物を前記(A)のシートの表面側にラミネートして複層構造のフィルムを得、次いで、この複層構造フィルムを約155℃まで再加熱した後、横方向に7倍延伸し、次いで紙状層(B)にコロナ放電処理した後、55℃まで冷却し、耳部をスリットして、四層合成紙を得る。」 の発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているということができる。 さらに、甲1には、その参考例に係る、以下の 「表面側から裏面側に向かって(B)/(A)/(B)/(C)のラベル用の四層構造のラベル用合成紙であって、各層の厚さが30/70/30/10μmであり、各層の材料が(A)における高密度ポリエチレンの融点が示されていないことを除いて甲1発明2と同じであるものを、以下の工程で製造する方法: (工程) 配合した(A)を270℃に設定した押出機にて混練した後、シート状に押し出し、冷却装置により冷却して、無延伸シートを得、このシートを145℃に加熱した後、縦方向に5倍に延伸し、一方、混合した(B)と、(C)をそれぞれ別の押出機を用いて270℃で溶融混練し、-台のダイに供給しダイ内で積層し、その後、ダイよりそれぞれフィルム状に押し出し、前記(A)の縦方向5倍延伸シートの裏面に押出ラミネートし、他方、上記(B)の混合物を前記(A)のシートの表面側にラミネートし、その後、この複層シートを155℃まで再加熱した後、横方向に7倍延伸し、次いでコロナ放電処理した後、55℃まで冷却し、耳部をスリットして、(B)/(A)/(B)/(C)の各層の厚さが30/70/30/10μmの四層合成紙を得る。」 の発明(以下「甲1発明3」という。)が記載されているということができる。 さらに、甲1には、以下の 「甲1発明1の方法により製造されたラベル用合成紙」 の発明(以下「甲1発明4」という。)、 「甲1発明2の方法により製造されたラベル用合成紙」 の発明(以下「甲1発明5」という。)及び 「甲1発明3の方法により製造されたラベル用合成紙」 の発明(以下「甲1発明6」という。)が記載されているということができる。 ウ 本件発明2について (ア)甲1発明1との対比・判断 a 本件発明2と甲1発明1との対比 本件発明2と甲1発明1とを対比する。 甲1発明1における「単層であっても二層以上の複層構造であってもよい無機微細粉末含有熱可塑性樹脂フィルムの裏面」に設けられるところの「該フィルムの素材樹脂の融点より低い融点を有するヒートシール性樹脂層」は、本件発明2の「熱封着樹脂層」に相当する。 甲1発明1における「ヒートシール性樹脂の融点以上の温度であって無機微細粉末含有熱可塑性樹脂の融点よりは低い温度で複層構造フィルムを延伸する」工程は、延伸フィルムが得られることから、その工程を含む甲1発明1の「ラベル用合成紙の製造方法」は、本件発明2の「延伸フィルムの製造方法」に相当する。 また、甲1発明1における「ラベル用合成紙」は、本件発明2の「延伸フィルム」に相当し、何れも積層構造のフィルムである。 そうすると、本件発明2と甲1発明1とは、 「熱封着樹脂層を有する積層構造の延伸フィルムの製造方法」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 本件発明2においては、積層構造の延伸フィルムの製造方法が、以下のステップ: 第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルムを押出成形する第1の押出ステップと、 前記押出成形されてなるフィルムを冷却させる第1の冷却ステップと、 前記第1の冷却ステップを経たフィルムを縦延伸する縦延伸ステップと、 前記縦延伸されたフィルムの第1のスキン層上に熱封着樹脂層が形成されるように押出成形する第2の押出ステップと、 前記熱封着樹脂層が形成されたフィルムを冷却させる第2の冷却ステップ、及び 前記第2の冷却ステップを経たフィルムを横延伸する横延伸ステップ を含むことが特定されているのに対し、甲1発明1においては、それとは異なる工程が特定され、その工程により得られる延伸フィルムの積層構造も本件発明2におけるように必ずスキン層、コア層、スキン層及び熱封着樹脂層を含むものではなく、材質もポリオレフィン系に限定されていない点 (相違点2) 本件発明2においては、熱封着樹脂層の原料がエチレングリコール、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含むことが特定されているのに対し、甲1発明1においては、そのように特定されていない点 b 相違点についての検討 相違点1について検討する。 甲1発明1において、その「単層であっても二層以上の複層構造であってもよい無機微細粉末含有熱可塑性樹脂フィルム」を、三層構造のフィルムとすることは、甲1の実施例1にもそのようにした例が記載されていることから、当業者が容易に想到し得ると認められる。 しかし、そのような、三層構造のフィルムとヒートシール性樹脂層からなるラベル用合成紙の製造方法として、甲1が開示している方法は、その実施例1に記載される方法(摘示(1i))(上記イに甲1発明2として示した方法である。)であって、概略、(A)の縦延伸シートの裏面側に(B)と(C)を(A)/(B)/(C)の構造となるように押出し、エンボスロールに通し、他方、表面側に(B)をラミネートし、(B)/(A)/(B)/(C)の構造のフィルムを得、これをヒートシール性樹脂の融点以上の温度で横延伸することにより、(B)/(A)/(B)/(C)の構造で(C)がヒートシール性樹脂層でありヒートシール性樹脂層(C)は配向していないものを得る、というものである。 甲1には、三層構造のフィルムとヒートシール性樹脂層からなるラベル用合成紙を製造するために、上記の方法に代えて、相違点1に係る一連のステップを採用する動機付けとなるものがない。 例えば、甲1の参考例に記載される方法(摘示(1j)(上記イに甲1発明3として示した方法である。)も、三層構造のフィルムとヒートシール性樹脂層からなるラベル用合成紙の製造方法であるが、実施例1に記載される方法と比べてエンボスロールに通す工程を含まないが、それ以外は実施例1と同様であるから、相違点1に係る一連のステップを採用する動機付けとはならない。 例えば、甲1の実施例2に記載される方法(摘示(1k))は、単層のフィルムとヒートシール性樹脂層からなるラベル用合成紙の製造方法であって、概略、それぞれ実施例1とは異なる(A)と(C)を共押出しして(A)/(C)の二層構造のフィルムを得、エンボス加工し、これをヒートシール性樹脂の融点以上の温度で縦延伸及び横延伸することにより、(A)/(C)の構造で(C)がヒートシール性樹脂層でありヒートシール性樹脂層(C)は配向していないものを得る、というものである。仮に、上記(A)に代えて(B)/(A)/(B)のような三層構造のフィルムとするとしても、実施例2に記載される方法から出発するなら、(B)と(A)と(B)と(C)を共押出して(B)/(A)/(B)/(C)の四層構造のフィルムを得、後は実施例2と同様にエンボス加工し、これをヒートシール性樹脂の融点以上の温度で縦延伸及び横延伸する、という方法が導かれるだけである。 甲1には、他に、三層構造のフィルムとヒートシール性樹脂層からなるラベル用合成紙を製造することに関連する記載はない。 したがって、甲1の記載からは、相違点1に係る一連のステップを採用することが動機付けられるとはいえない。 甲2?甲6についてみても、それらが執筆された当時の技術水準や、特定の構造及び材質の積層延伸フィルムについて記載されているものの、甲2?甲4は、何れも、スキン層、コア層、スキン層及び熱封着樹脂層を含む積層構造の延伸フィルムを開示するものではないから、相違点1に係る一連のステップを採用することが動機付けられるとはいえない。甲5及び甲6は、それぞれの実施例8にB/A/II/IIIという四層構造の延伸フィルムか記載されているが(摘示(5c)、(6c))、BとAとIIとIIIを共押出ししてB/A/II/IIIの四層構造のフィルムを得、エンボスロールに通してエンボス加工し、縦延伸する、というものであり、これらの記載をみても、相違点1に係る一連のステップを採用することが動機付けられるとはいえない。 したがって、甲1発明1に甲1?甲6に記載された事項を組み合わせても、相違点1に係る一連のステップを採用するとの構成は、導かれない。 c 発明の効果について 本件特許明細書の段落【0014】には、発明が解決しようとする課題として「熱ラミネート用樹脂層の形成の際に、融点の低い樹脂の場合であっても押出による連続工程で積層形成が可能になるようにすることで、製造工程が単調で製造にかかる時間が短くなるため製品の生産コストを下げることができ、また層間接着力に優れるポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法、および該方法により製造されたポリオレフィン系延伸フィルムを提供する」と記載され、同段落【0066】?【0075】の実施例及び比較例において、実際にポリオレフィン系延伸フィルムを製造し、層間接着強度を評価した結果が記載されている。 これらの記載によれば、本件発明2の効果は、特定のステップの組合せによる特定の積層構造を有し層間接着強度に優れるポリオレフィン系延伸フィルムを、提供できることであると認められる。 このような効果は、本件発明の特定のステップの組合せを有するものではなく、層間接着強度についても特に問題としていない、甲1の記載から、当業者が予測することができないものである。 d したがって、本件発明2は、相違点2について検討するまでもなく、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ)甲1発明2との対比・判断 a 本件発明2と甲1発明2との対比 本件発明2と甲1発明2とを対比する。 甲1発明2における2つの「(B)」の層は、本件発明2の「第1のスキン層」及び「第2のスキン層」に相当し、甲1発明2の「(A)」の層は、本件発明2の「コア層」に相当し、甲1発明2の「(C)」の層は、本件発明2の「熱封着樹脂層」に相当する。 甲1発明2における「縦方向に5倍に延伸し」及び「横方向に7倍延伸し」の工程は、延伸フィルムが得られることから、その工程を含む甲1発明2の「ラベル用合成紙の製造方法」は、本件発明2の「延伸フィルムの製造方法」に相当する。 また、甲1発明2における「ラベル用合成紙」は、本件発明2の「延伸フィルム」に相当し、何れも積層構造のフィルムである。 また、甲1発明2における(A)、(B)、(C)の各層の原料は、ポリプロピレンやポリエチレンであるから、甲1発明2における「ラベル用合成紙」は本件発明2の「ポリオレフィン系延伸フィルム」に相当する。 そうすると、本件発明2と甲1発明2とは、 「第1のスキン層、コア層、第2のスキン層及び熱封着樹脂層を有する積層構造のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点3) 本件発明2においては、積層構造のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法が、以下のステップ: 第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルムを押出成形する第1の押出ステップと、 前記押出成形されてなるフィルムを冷却させる第1の冷却ステップと、 前記第1の冷却ステップを経たフィルムを縦延伸する縦延伸ステップと、 前記縦延伸されたフィルムの第1のスキン層上に熱封着樹脂層が形成されるように押出成形する第2の押出ステップと、 前記熱封着樹脂層が形成されたフィルムを冷却させる第2の冷却ステップ、及び 前記第2の冷却ステップを経たフィルムを横延伸する横延伸ステップ を含むことが特定されているのに対し、甲1発明2においては、それとは異なる工程が特定されている点 (相違点4) 本件発明2においては、熱封着樹脂層の原料がエチレングリコール、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含むことが特定されているのに対し、甲1発明2においては、融点117℃の低密度ポリエチレンである点 b 相違点についての検討 相違点3について検討する。 甲1発明2の方法は、概略、(A)の縦延伸シートの裏面側に(B)と(C)を(A)/(B)/(C)の構造となるように押出し、エンボスロールに通し、他方、表面側に(B)をラミネートし、(B)/(A)/(B)/(C)の構造のフィルムを得、これをヒートシール性樹脂の融点以上の温度で横延伸することにより、(B)/(A)/(B)/(C)の構造で(C)がヒートシール性樹脂層でありヒートシール性樹脂層(C)は配向していないものを得る、というものである。 甲1には、三層構造のフィルムとヒートシール性樹脂層からなるラベル用合成紙を製造するために、上記の方法に代えて、相違点3に係る一連のステップを採用する動機付けとなるものがないことは、上記(ア)bで述べたとおりである。 甲2?甲6についてみても、相違点3に係る一連のステップを採用することが動機付けられるとはいえないことは、上記(ア)bで述べたとおりである。 したがって、甲1発明2に甲1?甲6に記載された事項を組み合わせても、相違点3に係る一連のステップを採用するとの構成は、導かれない。 c 発明の効果について 上記(ア)cで述べたとおりである。 d したがって、本件発明2は、相違点4について検討するまでもなく、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ)甲1発明3との対比・判断 a 本件発明2と甲1発明3との対比 本件発明2と甲1発明3とを、上記(イ)aと同様に対比すると、本件発明2と甲1発明3とは、 「第1のスキン層、コア層、第2のスキン層及び熱封着樹脂層を有する積層構造のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点5) 本件発明2においては、積層構造のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法が、以下のステップ: 第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルムを押出成形する第1の押出ステップと、 前記押出成形されてなるフィルムを冷却させる第1の冷却ステップと、 前記第1の冷却ステップを経たフィルムを縦延伸する縦延伸ステップと、 前記縦延伸されたフィルムの第1のスキン層上に熱封着樹脂層が形成されるように押出成形する第2の押出ステップと、 前記熱封着樹脂層が形成されたフィルムを冷却させる第2の冷却ステップ、及び 前記第2の冷却ステップを経たフィルムを横延伸する横延伸ステップ を含むことが特定されているのに対し、甲1発明3においては、それとは異なる工程が特定されている点 (相違点6) 本件発明2においては、熱封着樹脂層の原料がエチレングリコール、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含むことが特定されているのに対し、甲1発明2においては、融点117℃の低密度ポリエチレンである点 b 相違点についての検討 相違点5について検討すると、上記(イ)bで述べたのと同様であり、甲1発明3に甲1?甲6に記載された事項を組み合わせても、相違点5に係る一連のステップを採用するとの構成は、導かれない。 c 発明の効果について 上記(ア)cで述べたとおりである。 d したがって、本件発明2は、相違点6について検討するまでもなく、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (エ)特許異議申立人2の主張について 特許異議申立人2は、以下の甲1発明 「構成要件1A’ 高密度ポリエチレンを含有する樹脂フィルム(基材層2)を押出成形する第1の押出ステップと、 構成要件1B’ 上記押出成形された樹脂フィルム(基材層2)を冷却させる第1の冷却ステップと、 構成要件1C’ 上記冷却ステップを経た樹脂フィルム(基材層2)を縦延伸する縦延伸ステップと、 構成要件1D’ 上記縦延伸された樹脂フィルム(基材層2)の裏面にヒートシール性樹脂層4が形成されるように押出成形する第2の押出ステップと、 構成要件1E’ 上記ヒートシール性樹脂層4が形成された樹脂フィルム(基材層2)を冷却させる第2の冷却ステップ、及び 構成要件1F’ 上記第2の冷却ステップを経たヒートシール性樹脂層4が形成された樹脂フィルム(基材層2)を横延伸する横延伸ステップと、 構成要件1G’ を含むポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。」 を認定し(特許異議申立書24?25頁)、本件発明2と甲1発明とを対比すると、 「甲1には、高密度ポリエチレンを含有する樹脂フィルムたる基材層2を二層以上の複層構造としてもよい旨が記載されているが、二層以上の積層構造の基材層2の製造方法が記載されていない点で相違する(相違点1)」 とし(同35頁)、この相違点1は、本件特許の優先日当時に「二軸延伸の積層されたOPPフィルムを共押出し法で製造する方法が主流になっていること」、「共押出し法では、中心(コア:芯)層と表面2層(シース:鞘)からなる3層延伸フィルムがよく検討されていること」との技術常識が存在したから、当業者が適宜行う設計事項に過ぎないと主張する(同36頁)。その他、 「甲1発明では共押出し法で二層以上の複層構造であってもよい基材層2の製造方法が記載されていない点で相違する(相違点2)」 が、相違点2も、同様に設計事項に過ぎないと主張する(同36?37頁)。 しかし、甲1には、特許異議申立人2が記載されているとする甲1発明が、まとまりのある技術思想として記載されているとはいえないから、そのような発明を認定することはできない。 また、仮に、特許異議申立人2がいうような甲1発明が認定できるとした場合でも、特許異議申立人2がいう相違点1及び2について、特許異議申立人2がいう上記の技術常識が存在するからといって、これらの相違点に係る本件発明2の構成を採用して、当業者が本件発明2に容易に想到できた、ともいえない。 よって、特許異議申立人2の主張は採用できない。 エ 本件発明3について 本件発明3は、本件発明2の発明特定事項を全て有するとともに、 「前記第1のスキン層は、ベース樹脂としてポリエチレン系樹脂を含み、 前記コア層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂を含み、 前記第2のスキン層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂から選択された一種以上を含み、」 と特定したものであるから、本件発明2と同様に、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 オ 本件発明4及び5について 本件発明4は、本件発明2又は3において「前記第1の押出ステップは、第2のスキン層の原料としてブロッキング防止剤を含む原料を用いる」ことを特定したものであり、本件発明5は、本件発明2?4において「前記第2の冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させる」ことを特定したものであるから、本件発明2と同様に、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 カ 本件発明6について 本件発明6は、本件発明2の発明特定事項から「前記熱封着樹脂層は、熱封着樹脂層の原料としてエチレングリコール、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含む」との特定事項を省いて「前記第2の冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させることであり、前記冷却ロールに形成された凹凸構造は、5μm?30μmの深さを有する」と特定したものであって、本件発明2におけるのと同じ一連のステップの組合せを発明特定事項とするものであるから、本件発明2と同様に、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 キ 本件発明7について (ア)甲1発明4との対比・判断 本件発明7と甲1発明4とを、上記ウ(ア)で本件発明2と甲1発明1とを対比したのと同様に対比すると、本件発明7と甲1発明4とは、 「熱封着樹脂層を有する積層構造の延伸フィルム」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点7) 本件発明7においては、「第1のスキン外層、コア層および第2のスキン内層からなるポリオレフィンフィルムの第1のスキン外層上に熱封着樹脂層がさらに形成されたポリオレフィン延伸フィルムであって、第1のスキン外層、コア層および第2のスキン内層はともに縦延伸されたものであり、第1のスキン外層、コア層、 第2のスキン内層および熱封着樹脂層はともに横延伸されたものであり、前記熱封着樹脂層は縦延伸されていない」と特定されているのに対し、甲1発明4においては、延伸フィルムの積層構造が本件発明7におけるように必ず、それぞれ特定の延伸がされたものであるスキン層、コア層、スキン層及び熱封着樹脂層を含むものではなく、材質もポリオレフィン系に限定されていない点 相違点7について検討すると、甲1には、甲1発明4において、そのラベル用合成紙が、相違点7に係る特定の延伸がされたものであるスキン層、コア層、スキン層及び熱封着樹脂層を含むようにすることを、動機付けるものはない。甲1?甲6に記載された事項を組み合わせても同様である。 したがって、本件発明7は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ)甲1発明5との対比・判断 本件発明7と甲1発明5とを、上記ウ(イ)で本件発明2と甲1発明2とを対比したのと同様に対比すると、本件発明7と甲1発明5とは、 「第1のスキン層、コア層、第2のスキン層及び熱封着樹脂層を有する積層構造のポリオレフィン系延伸フィルム」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点8) 本件発明7においては、「第1のスキン外層、コア層および第2のスキン内層からなるポリオレフィンフィルムの第1のスキン外層上に熱封着樹脂層がさらに形成されたポリオレフィン延伸フィルムであって、第1のスキン外層、コア層および第2のスキン内層はともに縦延伸されたものであり、第1のスキン外層、コア層、 第2のスキン内層および熱封着樹脂層はともに横延伸されたものであり、前記熱封着樹脂層は縦延伸されていない」と特定されているのに対し、甲1発明5においては、延伸フィルムの積層構造が本件発明7におけるように必ず、それぞれ特定の延伸がされたものであるスキン層、コア層、スキン層及び熱封着樹脂層を含むものではない点 相違点8について検討すると、甲1には、甲1発明5において、そのラベル用合成紙が、相違点8に係る特定の延伸がされたものであるスキン層、コア層、スキン層及び熱封着樹脂層を含むようにすることを、動機付けるものはない。甲1?甲6に記載された事項を組み合わせても同様である。 したがって、本件発明7は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ)甲1発明6との対比・判断 本件発明7と甲1発明6とを、上記ウ(ウ)で本件発明2と甲1発明3とを対比したのと同様に対比すると、本件発明7と甲1発明6とは、 「第1のスキン層、コア層、第2のスキン層及び熱封着樹脂層を有する積層構造のポリオレフィン系延伸フィルム」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点9) 本件発明7においては、「第1のスキン外層、コア層および第2のスキン内層からなるポリオレフィンフィルムの第1のスキン外層上に熱封着樹脂層がさらに形成されたポリオレフィン延伸フィルムであって、第1のスキン外層、コア層および第2のスキン内層はともに縦延伸されたものであり、第1のスキン外層、コア層、 第2のスキン内層および熱封着樹脂層はともに横延伸されたものであり、前記熱封着樹脂層は縦延伸されていない」と特定されているのに対し、甲1発明6においては、延伸フィルムの積層構造が本件発明7におけるように必ず、それぞれ特定の延伸がされたものであるスキン層、コア層、スキン層及び熱封着樹脂層を含むものではない点 相違点9について検討すると、甲1には、甲1発明6において、そのラベル用合成紙が、相違点9に係る特定の延伸がされたものであるスキン層、コア層、スキン層及び熱封着樹脂層を含むようにすることを、動機付けるものはない。甲1?甲6に記載された事項を組み合わせても同様である。 したがって、本件発明7は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ク 本件発明8について 本件発明8は、本件発明7において 「前記第1のスキン層は、ベース樹脂としてポリエチレン系樹脂を含み、 前記コア層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂を含み、 前記第2のスキン層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂から選択された一種以上を含み、」 及び 「前記熱封着樹脂層は、熱封着樹脂層の原料としてエチレンビニルアセテート、エチレンメチルアセテート、エチレンメタクリル酸、エチレングリコール、エチレン酸ターポリマー、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含む」 と特定したものであるから、本件発明7と同様に、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ケ 理由2についてのまとめ 以上のとおり、本件発明2?8は、本件優先日前に頒布された甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。 よって、本件発明2?8についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、理由2によって取り消されるべきものではない。 第6 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠並びに平成29年1月30日付けの取消理由通知で通知した取消理由によっては、本件発明2?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかに本件発明2?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項1に係る申立てを却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルムを押出成形する第1の押出ステップと、 前記押出成形されてなるフィルムを冷却させる第1の冷却ステップと、 前記第1の冷却ステップを経たフィルムを縦延伸する縦延伸ステップと、 前記縦延伸されたフィルムの第1のスキン層上に熱封着樹脂層が形成されるように押出成形する第2の押出ステップと、 前記熱封着樹脂層が形成されたフィルムを冷却させる第2の冷却ステップ、及び 前記第2の冷却ステップを経たフィルムを横延伸する横延伸ステップと、 を含み、 前記熱封着樹脂層は、熱封着樹脂層の原料としてエチレングリコール、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含むことを特徴とする、ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。 【請求項3】 第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルムを押出成形する第1の押出ステップと、 前記押出成形されてなるフィルムを冷却させる第1の冷却ステップと、 前記第1の冷却ステップを経たフィルムを縦延伸する縦延伸ステップと、 前記縦延伸されたフィルムの第1のスキン層上に熱封着樹脂層が形成されるように押出成形する第2の押出ステップと、 前記熱封着樹脂層が形成されたフィルムを冷却させる第2の冷却ステップ、及び 前記第2の冷却ステップを経たフィルムを横延伸する横延伸ステップと、 を含み、 前記第1のスキン層は、ベース樹脂としてポリエチレン系樹脂を含み、 前記コア層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂を含み、 前記第2のスキン層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂から選択された一種以上を含み、 前記熱封着樹脂層は、熱封着樹脂層の原料としてエチレングリコール、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含むことを特徴とする、ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。 【請求項4】 前記第1の押出ステップは、第2のスキン層の原料としてブロッキング防止剤を含む原料を用いることを特徴とする請求項2または3に記載のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。 【請求項5】 前記第2の冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させることを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。 【請求項6】 第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルムを押出成形する第1の押出ステップと、 前記押出成形されてなるフィルムを冷却させる第1の冷却ステップと、 前記第1の冷却ステップを経たフィルムを縦延伸する縦延伸ステップと、 前記縦延伸されたフィルムの第1のスキン層上に熱封着樹脂層が形成されるように押出成形する第2の押出ステップと、 前記熱封着樹脂層が形成されたフィルムを冷却させる第2の冷却ステップ、及び 前記第2の冷却ステップを経たフィルムを横延伸する横延伸ステップと、 を含み、 前記第2の冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを用いて樹脂層に空気チャンネルを形成させることであり、 前記冷却ロールに形成された凹凸構造は、5μm?30μmの深さを有することを特徴とする、ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。 【請求項7】 第1のスキン外層、コア層および第2のスキン内層からなるポリオレフィンフィルムの第1のスキン外層上に熱封着樹脂層がさらに形成されたポリオレフィン延伸フィルムであって、 第1のスキン外層、コア層および第2のスキン内層はともに縦延伸されたものであり、 第1のスキン外層、コア層、第2のスキン内層および熱封着樹脂層はともに横延伸されたものであり、前記熱封着樹脂層は縦延伸されていないことを特徴とするポリオレフィン延伸フィルム。 【請求項8】 前記第1のスキン外層は、ベース樹脂としてポリエチレン系樹脂を含み、 前記コア層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂を含み、 前記第2のスキン内層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂から選択された一種以上を含み、 前記熱封着樹脂層は、熱封着樹脂層の原料としてエチレンビニルアセテート、エチレンメチルアセテート、エチレンメタクリル酸、エチレングリコール、エチレン酸ターポリマー、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含むことを特徴とする請求項7に記載のポリオレフィン延伸フィルム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-07-11 |
出願番号 | 特願2014-520113(P2014-520113) |
審決分類 |
P
1
651・
4-
YAA
(B29C)
P 1 651・ 121- YAA (B29C) P 1 651・ 536- YAA (B29C) P 1 651・ 537- YAA (B29C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鏡 宣宏 |
特許庁審判長 |
佐藤 健史 |
特許庁審判官 |
中田 とし子 加藤 幹 |
登録日 | 2016-05-13 |
登録番号 | 特許第5934355号(P5934355) |
権利者 | ヨウル チョン ケミカル カンパニー, リミテッド |
発明の名称 | ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法および該方法により製造されたポリオレフィン系延伸フィルム |
代理人 | 出野 知 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 胡田 尚則 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 出野 知 |
代理人 | 蛯谷 厚志 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 蛯谷 厚志 |
代理人 | 胡田 尚則 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | ▲柳▼下 彰彦 |