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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60F
管理番号 1332222
異議申立番号 異議2016-700421  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-13 
確定日 2017-07-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5813340号発明「軌陸作業車の鉄輪揺動ロック装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5813340号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第5813340号の請求項4に係る特許を維持する。 特許第5813340号の請求項1?3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5813340号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成23年3月10日に特許出願され、平成27年10月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 株式会社アイチコーポレーション(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年9月23日付けで取消理由を通知して、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたところ、指定期間後である平成28年12月5日付けで訂正の意思がある旨記載された上申書(以下「上申書」という。)が提出されたので、平成29年2月22日付けで取消理由(以下「取消理由」という場合には、当該取消理由を指す。)を通知(決定の予告)し、同年4月18日に意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成29年4月18日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、それぞれ「本件明細書」、「本件特許請求の範囲」といい、図面を含めて「本件明細書等」という。)を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、下線部は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
本件特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
本件特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
本件特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
本件特許請求の範囲の請求項4に「請求項1において、コントローラに前記揺動ロック手段がロック状態であるときの作業車転倒防止性能を記憶したロック時のデータ記憶手段を備え、オンレール作業時において、前記ロック状態検出手段がロック状態を検出しているときには該ロック状態検出手段からのロック状態検出信号に基いて前記ロック時のデータ記憶手段で記憶している作業車転倒防止性能を用いて作業機の限界姿勢範囲を制御するように構成している、ことを特徴とする軌陸作業車の鉄輪揺動ロック装置。」と記載されているのを、「車体に道路走行用のタイヤ車輪と軌道走行用の4つの鉄輪とを備え、さらに後輪側又は前輪側のいずれか一方の左右鉄輪を車体フレームの下部に上下揺動自在に枢支した揺動フレームの左右各端部に取付けた軌陸作業車において、前記車体フレームと前記揺動フレームとの間に、該揺動フレームを前記車体フレームに対して揺動不能にロックするための揺動ロック手段を設け、前記揺動ロック手段がロック状態にあるかロック解除状態にあるのかを検出するロック状態検出手段を有しているとともに、コントローラに前記揺動ロック手段がロック状態であるときの作業車転倒防止性能を記憶したロック時のデータ記憶手段を備え、オンレール作業時において、前記ロック状態検出手段がロック状態を検出しているときには該ロック状態検出手段からのロック状態検出信号に基いて前記ロック時のデータ記憶手段で記憶している作業車転倒防止性能を用いて作業機の限界姿勢範囲を制御するように構成している、ことを特徴とする軌陸作業車の鉄輪揺動ロック装置。」に訂正する。
(5)訂正事項5
本件明細書の段落【0015】に「[本願請求項1の発明]
本願請求項1の発明」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。
(6)訂正事項6
本件明細書の段落【0021】に「本願請求項1の発明」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。
(7)訂正事項7
本件明細書の段落【0021】に「この請求項1」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。
(8)訂正事項8
本件明細書の段落【0022】に「この請求項1」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。
(9)訂正事項9
本件明細書の段落【0023】に「この請求項1」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。
(10)訂正事項10
本件明細書の段落【0025】に「この請求項1の発明」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。
(11)訂正事項11
本件明細書の段落【0027】に「この請求項1」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。
(12)訂正事項12
本件明細書の段落【0028】を削除する。
(13)訂正事項13
本件明細書の段落【0029】を削除する。
(14)訂正事項14
本件明細書の段落【0030】を削除する。
(15)訂正事項15
本件明細書の段落【0031】を削除する。
(16)訂正事項16
本件明細書の段落【0032】を削除する。
(17)訂正事項17
本件明細書の段落【0033】を削除する。
(18)訂正事項18
本件明細書の段落【0034】に「[本願請求項4の発明]
本願請求項4の発明は、上記請求項1の軌陸作業車の鉄輪揺動ロック装置において」と記載されているのを「又、本願発明は」に訂正する。
(19)訂正事項19
本件明細書の段落【0035】に「この請求項5」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。
(20)訂正事項20
本件明細書の段落【0036】に「この請求項4」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。
(21)訂正事項21
本件明細書の段落【0037】に「[本願請求項1の発明の効果]
本願請求項1の発明」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。
(22)訂正事項22
本件明細書の段落【0038】に「[本願請求項]」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。
(23)訂正事項23
本件明細書の段落【0039】に「本願請求項1の発明」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。
(24)訂正事項24
本件明細書の段落【0040】に「この請求項1」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。
(25)訂正事項25
本件明細書の段落【0041】を削除する。
(26)訂正事項26
本件明細書の段落【0042】を削除する。
(27)訂正事項27
本件明細書の段落【0043】を削除する。
(28)訂正事項28
本件明細書の段落【0044】を削除する。
(29)訂正事項29
本件明細書の段落【0045】を削除する。
(30)訂正事項30
本件明細書の段落【0046】に「[本願請求項4の発明の効果]
本願請求項4の発明は、請求項1の鉄輪揺動ロック装置において」と記載されているのを「又、本願発明は」に訂正する。
(31)訂正事項31
本件明細書の段落【0048】に「この請求項4」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。
(32)訂正事項32
本件明細書の段落【0048】に「上記請求項1の効果に加えて、」と記載されているのを削除する。
(33)訂正事項33
本件明細書の段落【0069】に「尚、揺動ロック手段5として左右2つのロックシリンダ50, 50を使用したことは、本願請求項2の構成に対応するものである。」と記載されているのを削除する。
(34)訂正事項34
本件明細書の段落【0084】に「(本願請求項2の内容)」と記載されているのを削除する。
(35)訂正事項35
本件明細書の段落【0085】に「本願請求項1の後段部分に対応する構成と、本願請求項3に対応する構成と、本願請求項4に対応する構成とを、それぞれ」と記載されているのを「次の構成を」に訂正する。
(36)訂正事項36
本件明細書の段落【0086】に「本願請求項1の後段部分に対応する構成として」と記載されているのを「本願発明は」に訂正する。
(37)訂正事項37
本件明細書の段落【0091】に「本願請求項3に対応する構成として」と記載されているのを「又」に訂正する。
(38)訂正事項38
本件明細書の段落【0095】に「本願請求項4に対応する構成として」と記載されているのを「又」に訂正する。
(39)訂正事項39
本件明細書の段落【0105】に「本願請求項1」と記載されているのを「本願発明」に訂正する。

2.訂正の適否の判断
(1)訂正事項1?3について
訂正事項1?3は、それぞれ訂正前の請求項1?3を削除するものであるから、訂正事項1?3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項1?3は、請求項1?3を削除するものであるため、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(2)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項1を引用しないものに改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項4は、実質的な内容の変更がないため、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(3)訂正事項5?18、20?39について
訂正事項5?18、20?39は、上記訂正事項1?4の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項5?18、20?39は、単に特許請求の範囲と明細書との整合を図るためのものであり、新規な事項が導入されるわけでないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(4)訂正事項19について
訂正事項19は、特許請求の範囲に存在しない「この請求項5」という記載を、「本願発明」とすることで、特許請求の範囲との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項19は、単に特許請求の範囲と明細書との整合を図るためのものであり、新規な事項が導入されるわけでないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(5)一群の請求項について
訂正事項1?4に係る訂正前の請求項1?4について、請求項2?4は、請求項1を引用するものであるから、請求項1?4は一群の請求項である。そして本件訂正請求は、かかる一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項に適合するものである。
(6)明細書の訂正について
訂正事項5?39の明細書の訂正は、請求項1?4に関係するものであり、本件訂正請求は、請求項1?4の全てを対象とするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

3.まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 特許異議の申立ての概要
訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、各特許は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて、また、同請求項4に係る特許に対して、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証、又は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、当該請求項1?4に係る特許は、取り消されるべきものであるというものである。

2 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められ、特許異議の申立ての対象となる請求項1?3に係る特許は削除されたため、特許異議の申立ての対象として存在するものは、訂正後の請求項4に係る特許のみとなる。
本件訂正により訂正された請求項4に係る発明(以下「本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項4に記載した事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項4】
車体に道路走行用のタイヤ車輪と軌道走行用の4つの鉄輪とを備え、さらに後輪側又は前輪側のいずれか一方の左右鉄輪を車体フレームの下部に上下揺動自在に枢支した揺動フレームの左右各端部に取付けた軌陸作業車において、
前記車体フレームと前記揺動フレームとの間に、該揺動フレームを前記車体フレームに対して揺動不能にロックするための揺動ロック手段を設け、
前記揺動ロック手段がロック状態にあるかロック解除状態にあるのかを検出するロック状態検出手段を有しているとともに、
コントローラに前記揺動ロック手段がロック状態であるときの作業車転倒防止性能を記憶したロック時のデータ記憶手段を備え、
オンレール作業時において、前記ロック状態検出手段がロック状態を検出しているときには該ロック状態検出手段からのロック状態検出信号に基いて前記ロック時のデータ記憶手段で記憶している作業車転倒防止性能を用いて作業機の限界姿勢範囲を制御するように構成している、
ことを特徴とする軌陸作業車の鉄輪揺動ロック装置。」

3 甲各号証に記載された事項及び引用発明
(1)甲第1号証に記載された事項及び引用発明
甲第1号証(特開2000-233617号公報)には、「軌道用作業車」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。下線は当審で付与。以下同様。
(1a)「【請求項1】 走行輪(2)を有した下部走行体(1)を備え、この下部走行体(1)の上部に作業機(6)を装着すると共に、前記下部走行体(1)の走行方向前後それぞれに軌条を走行するための軌条用車輪(10)を張出格納自在となるように取付けた軌道用作業車において、
下部走行体(1)の走行方向前後に取付けた軌条用車輪(10)の前後側どちらか一方を、走行方向前後に向かう軸により下部走行体(1)に対して走行方向左右において上下に揺動する揺動フレーム板(28)を介して下部走行体(1)に取付けたことを特徴とする軌道用作業車。」
(1b)「【0009】・・・下部走行体1はその走行方向前後それぞれに地面上を走行するための走行輪2を有する・・・そして、この下部走行体1の上部に上部旋回体4を旋回自在に備え、この上部旋回体4に運転室5を備えると共に作業機6を装着する。この作業機6は伸縮自在となるブーム7を起伏自在に取付け、このブーム7の先端に巻上げ巻下げ可能なフック8を取付けたクレーン装置である。」
(1c)「【0013】一方、下部走行体1の走行方向後側に取付ける軌条用車輪10は、図3、図4及び図5に示すように、下部走行体1の走行方向後端に取付けたアウトリガ装置3の後側において、下部走行体1の左右それぞれに一対の取付けブラケット22を固着し、この一対の取付けブラケット22は左右内側に位置する上方に大きく延びた内片22Aと左右外側に位置する外片22Bとからなる。そして、この左右それぞれに固着する取付けブラケット22の内片22Aと外片22Bとにわたって支持ピン23をそれぞれ架設し、この支持ピン23を介してアーム24をそれぞれ上下回動自在に取付け、この左右それぞれのアーム24は一対の三角片24Aからなると共に、このアーム24と下部走行体1とにわたって張出格納用シリンダ11を取付けている。そして、この左右のアーム24が回動フレーム板25に固着しており、この回動フレーム板25は軌条用車輪10を軌道幅に収めるのに必要な長さとなっている。そして、この回動フレーム板25の左右中央に、その走行方向前後それぞれに三角形状のセンターブラケット26を備え、この前後のセンターブラケット26にわたって走行方向前後に向かう軸であるセンターピン27を架設し、このセンターピン27を介して揺動フレーム板28を回動フレーム板25の内側に位置するように取付ける。この揺動フレーム板28も下部走行体1の左右幅と略同じ長さとなると共に、回動フレーム板25に対してセンターピン27を中心にして走行方向左右において上下に揺動するようになる。そして、この揺動フレーム板28の左右それぞれに車輪保持ブラケット29をそれぞれ固着し、この左右の車輪保持ブラケット29は左右内側に位置する内片29Aと左右外側に位置する外片29Bとからなる。そして、この左右の車輪保持ブラケット29の内片29Aと外片29Bとにわたって車軸30をそれぞれ架設して、この車軸30に軌条用車輪10を取付けている。」
(1d)以下の図1及び図3が示されている


上記摘示(1a)、(1b)及び(1d)より、軌道用作業車は、その下部走行体1に地面上を走行する走行輪2と4つの軌条用車輪10とを備えていることが明らかである。

以上によれば、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。
<引用発明>
「下部走行体1に地面上を走行する走行輪2と4つの軌条用車輪10とを備え、軌条用車輪10の前後側どちらか一方を、走行方向前後に向かう軸により下部走行体1に対して走行方向左右において上下に揺動する揺動フレーム板28を介して下部走行体1に取付けた軌道用作業車。」

(2)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証(特開平11-165998号公報)には、「産業車両の車体揺動制御装置及び産業車両」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、走行輪を支持する車軸が車体に揺動可能に設けられたフォークリフト等の産業車両において、走行状態や荷役状態によって車軸の揺動規制制御を行う産業車両の車体揺動制御装置及び産業車両に関するものである。」
(2b)「【0021】左右の前輪7はデフリングギア8(図3に示す)及び変速機(図示せず)を介してエンジン9と作動連結され、エンジン9の動力によって駆動される。図3,図4に示すように、車体フレーム1aの後下部には、車軸としてのリアアクスル10が車幅方向へ延びた状態でセンタピン10aを中心に上下方向に揺動可能に支持されている。・・・」
【0022】図4に示すように、車体フレーム1aとリアアクスル10との間には、1個の油圧式のダンパ(油圧シリンダ)13が両者を連結する状態で配設されている。・・・
【0024】電磁切換弁14のスプールが図4に示す遮断位置に配置されると、ダンパ13の両室R1,R2間での作動油の流出・流入が不能になって、リアアクスル10がロックされる。一方、電磁切換弁14のスプールが連通位置(図4の状態からスプールが反対位置に切換えられた位置)に配置されると、ダンパ13の両室R1,R2間での作動油の流出・流入が可能になって、リアアクスル10が自由に揺動できるフリー状態になる。・・・
【0040】また、高揚高かつ高荷重(図7に示すマップM中の荷役ロック領域)と判定されたときに、原則としてリアアクスル10をロックさせる。」
(2c)「【0049】このように本実施形態によれば、高揚高かつ高荷重によってリアアクスル10がロックされたときに警告灯31に黄色が点灯し、・・・
【0068】・・・例えば電磁切換弁14のスプールの位置を検出し、リアアクスル10が正しい状態に保持されているかどうかの判定をするようにしてもよい。」
(2d)以下の図4及び図7が示されている。


(3) 甲第3号証に記載された事項
甲第3号証(特開2002-79874号公報)には、「作業車両用車輪走行装置」に関し、図面とともに以下の記載がある。
(3a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、走行体の前後左右の四カ所に走行用車輪を有し、走行体上に作業装置を有して構成される作業車両用車輪走行装置に関する。」
(3b)「【0024】上記のように第1枢支ピン12を中心として下部走行体2に対して揺動可能な揺動車軸装置11の揺動を規制したり、許容したりするための左右揺動規制シリンダ16,17は図示のように下部走行体2に枢結されている。これら左右揺動規制シリンダ16,17は下方に突出するピストン16a,17aを有し、これらピストン16a,17aの下端は揺動車軸装置11に当接している。このため、左右揺動規制シリンダ16,17内に作動油を封じ込めてピストン16a,17aの伸縮を規制することにより、揺動車軸装置11の揺動を規制して所定揺動位置で固定保持したり、作動油を自由に出入りできるようにしてピストン16a,17aの自由な伸縮を許容することにより揺動車軸装置11の揺動を許容したりすることができる。」
(3c)「【0038】以上のように、本発明に係る高所作業車1では、重心位置が揺動可能領域A内のときには揺動車軸装置11の揺動角の大きさに拘わらず揺動を許容するが、揺動角が所定角を越えるときには重心位置が揺動可能領域Aの外側に移動するような高所作業装置の作動を規制し、揺動角が所定角以下のときには左右揺動規制シリンダ16,17のより揺動車軸装置11の揺動を規制した上で、重心位置が揺動可能領域Aの外側に移動するような高所作業装置の作動を許容するする(合議体注:原文のまま)というシンプルな制御で、常に四つの車輪を接地状態に保つて走行させるとともに、静止状態で車体を安定支持することができる。」
(3d)以下の図1及び図3が示されている。


(4) 甲第4号証に記載された事項
甲第4号証(特開2008-39138号公報)には、「油圧駆動車両の走行制御装置」に関し,図面とともに以下の記載がある。
(4a)「【0001】
本発明は、ラムシリンダやサスペンションシリンダ等を有する油圧駆動車両の走行制御装置に関する。
(4b)「【0008】
油圧駆動車両の前輪側の要部構成を図1に示す。アクスル2の左右端部にはそれぞれタイヤ4が装着されている。アクスル2とシャーシ3の間には伸縮可能な左右一対のラムシリンダ1が介装され、アクスル2の左右中央部はピン5を介してシャーシ3の左右中央部に揺動可能に連結されている。ラムシリンダ1は、シリンダチューブ側がシャーシ3の左右側面に連結され、シリンダロッド側はピン等で連結されずにその先端がアクスル2に当接している。したがって、ラムシリンダ1をロックすることで、シャーシ3に対するアクスル2の揺動を禁止した状態でアクスル2を支持することができる。なお、図示は省略するが、後輪側にはラムシリンダは設けられず、後輪側のアクスル2は左右2箇所でシャーシ3にリジッドに支持されている。」
(4c)「【0015】
図6は、コントローラ10で実行される処理の一例を示すフローチャートである。・・・、ペダル操作検出器23からの信号により走行ペダル16が操作されたか否かを判定する。・・・
【0018】
第1の実施の形態に係る走行制御装置の主要な動作を説明する。
ラムロックスイッチ21が自動位置に切り換えられると、車速Vと走行ペダル16の操作に応じてラムロックの作動およびポンプ最大容量が制御される。すなわち車両が停止し、かつ、走行ペダル16が非操作のとき、ラムロックが自動的に作動する(ステップS4)。これによりシャーシ3に対するアクスル2の揺動が阻止され、安定した車両姿勢で作業を行うことができる。このときポンプ最大容量はqp2である(ステップS5)。この状態で走行ペダル16を操作すると、ラムロックが解除され、ポンプ最大容量がqp1(>qp2)となる(ステップS6,ステップS7)。これによりアクスル2が揺動可能となり、走行時の乗り心地性が向上するとともに、ポンプ最大容量の増加により車両を高速で走行することができる。」
(4d)以下の図1及び図6が示されている。


(5) 甲第5号証に記載された事項
甲第5号証(特開2002-173298号公報)には、「軌道走行型高所作業車」に関し、図面とともに以下の記載がある。
(5a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、軌道走行型高所作業車に関し、更に詳細には、狭軌道及び広軌道の両軌道上を走行可能な軌道走行用車輪と、車体に設けられた高所作業装置と、車体に作用する転倒モーメントと許容転倒モーメントとの大きさを比較して高所作業装置の作動規制を行なう作動規制制御装置とを有した軌道走行型高所作業車に関する。」
(5b)「【0004】このように、作業台を高所に移動させると、車体を転倒させようとする方向の転倒モーメントが増大して車体支持が不安定となり易い。そこで、従来の軌陸作業車には転倒モーメントが過度に大きくなるのを防止する作動規制制御装置が一般的に設けられている。この作動規制制御装置は、高所作業装置の作動に伴って変化する転倒モーメントが許容転倒モーメントを越えずに移動可能な作業台の移動可能範囲を予め設定しておき、作業台がこの移動可能範囲を越える高所作業装置の作動を規制するように構成されている。尚、この移動可能範囲の設定は車体が水平状態にある状態を基準にして行なわれている。」
(5c)「【0023】・・・位置判定回路79は、軌道判定回路78により図5に示す鉄輪35が狭軌道R1上を走行可能なトレッドを有した位置にあると判定されると、ブーム17の作動に伴って変化する転倒モーメントが許容転倒モーメントを越えずに移動可能な作業台23の狭軌移動可能範囲NA(図5中の左斜線で示した領域)をメモリI80から読み出し、位置算出回路76により算出された作業台23の位置が狭軌移動可能範囲NAのいずれかの位置にあるか否かを判定する。・・・
【0025】図4に示す作動規制回路84は、車両が狭軌道R1上にある場合に位置判定回路79により作業台23の位置が狭軌移動可能範囲NAを越えると判定されたときに、作動制御回路75から出力され転倒モーメントを増加させる方向の作動制御信号の作動制御弁85への伝達を遮断する機能を有する。・・・」
(5d)以下の図5が示されている。

4 対比・判断
(1) 対比
本件発明4と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「下部走行体1」は、本件発明4の「車体」ないしは「車体フレーム」に相当し、引用発明の「地面上を走行する走行輪2」及び「軌条用車輪10」は、技術常識及び図1の図示内容に照らし、本件発明4の「道路走行用のタイヤ車輪」及び「鉄輪」に相当し、引用発明の「軌道用作業車」は、本件発明4の「軌陸作業車」に相当するといえる。
イ 引用発明の「揺動フレーム板28」は、「走行方向前後に向かう軸により」、「下部走行体1に対して」、「上下に揺動する」ものであるから、下部走行体1に対して上下揺動自在に枢支されているといえる。加えて、「軌条用車輪10」は、「揺動フレーム板28を介して下部走行体1に取付け」られているから、「揺動フレーム板28」にも取付けられているということができる。
また、引用発明の「前後側どちらか一方」の「軌条用車輪10」は、本件発明4の「後輪側又は前輪側のいずれか一方」の「左右鉄輪」に相当するといえる。
さらに引用発明の「揺動フレーム板28」は、本件発明4の「揺動フレーム」の構成の限度で共通するといえる。
ウ 上記ア及びイを踏まえると、引用発明の「軌条用車輪10の前後側どちらか一方を、走行方向前後に向かう軸により下部走行体1に対して走行方向左右において上下に揺動する揺動フレーム板28を介して下部走行体1に取付けた」と本件発明4の「さらに後輪側又は前輪側のいずれか一方の左右鉄輪を車体フレームの下部に上下揺動自在に枢支した揺動フレームの左右各端部に取付けた」とは、「さらに後輪側又は前輪側のいずれか一方の左右鉄輪を車体フレームに対して上下揺動自在に枢支した揺動フレームに取付けた」という構成の限度で共通するといえる。

以上を総合すると、本件発明4と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
車体に道路走行用のタイヤ車輪と軌道走行用の4つの鉄輪とを備え、さらに後輪側又は前輪側のいずれか一方の左右鉄輪を車体フレームに対し上下揺動自在に枢支した揺動フレームに取付けた軌陸作業車。
<相違点1>
本件発明4では、左右鉄輪が「揺動フレームの左右各端部に」取り付けられており、「揺動フレーム」が「車体フレームの下部」に枢支されているのに対し、引用発明ではそのように特定されていない点。
<相違点2>
本件発明4は、「前記車体フレームと前記揺動フレームとの間に、該揺動フレームを前記車体フレームに対して揺動不能にロックするための揺動ロック手段を設け」ているとともに、「前記揺動ロック手段がロック状態にあるかロック解除状態にあるのかを検出するロック状態検出手段を有している」のに対して、引用発明はそのような手段を有していない点。
<相違点3>
本件発明4では、「コントローラに前記揺動ロック手段がロック状態であるときの作業車転倒防止性能を記憶したロック時のデータ記憶手段を備え、 オンレール作業時において、前記ロック状態検出手段がロック状態を検出しているときには該ロック状態検出手段からのロック状態検出信号に基いて前記ロック時のデータ記憶手段で記憶している作業車転倒防止性能を用いて作業機の限界姿勢範囲を制御するように構成している」のに対して、引用発明はそのように構成していない点

(2)判断
事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
ア まず、申立人は、本件発明4は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張するので、これについて検討する。
a 甲第2号証には、車体フレーム1aの後下部には、車軸としてのリアアクスル10が車幅方向へ延びた状態でセンタピン10aを中心に上下方向に揺動可能に支持されていること(上記摘示(2b)段落【0021】及び上記摘示(2d)【図4】参照)、車体フレーム1aとリアアクスル10との間に、ダンパ13が配設されていること(上記摘示(2b)段落【0022】及び上記摘示(2d)【図4】参照)、電磁切換弁14のスプールが図4に示す遮断位置に配置されると、ダンパ13の両室R1,R2間での作動油の流出・流入が不能になって、リアアクスル10がロックされ、電磁切換弁14のスプールが連通位置(図4の状態からスプールが反対位置に切換えられた位置)に配置されると、ダンパ13の両室R1、R2間での作動油の流出・流入が可能になって、リアアクスル10が自由に揺動できるフリー状態になること(上記摘示(2b)段落【0024】及び上記摘示(2d)【図4】参照)、高揚高かつ高荷重(図7に示すマップM中の荷役ロック領域)と判定されたときに、原則としてリアアクスル10をロックさせること(上記摘示(2b)段落【0040】及び上記摘示(2d)【図7】参照)が記載されている。
すなわち、甲第2号証には、車体フレーム1a(本件発明4の「車体フレーム」に対応。以下同様に、相違点3の判断において、甲第2号証の用語の後の括弧内の記載は、対応する本件発明4の特定事項を示す。)とリアアクスル10(揺動フレーム)との間に、リアアクスル10(揺動フレーム)を車体フレーム1a(車体フレーム)に対して揺動不能にロックするためのダンパ13(揺動ロック手段)を設ける構成が開示されているといえる(以下「甲第2号証に記載の技術事項1)という。)。
加えて、甲第2号証には、高揚高かつ高荷重によってリアアクスル10(揺動フレーム)がロックされたときに警告灯31に黄色が点灯すること(上記摘示(2c)段落【0049】参照)、電磁切換弁14のスプールの位置を検出し、リアアクスル10(揺動フレーム)が正しい状態に保持されているかどうかの判定をするようにしてもよいこと(上記摘示(2d)段落【0068】参照)が記載されている。
ここで、電磁切換弁14のスプールの位置は遮断位置と連通位置に2位置に切り換えられるものであるところ(上記摘示(2b)段落【0024】参照)、その位置を検出することは、ダンパ13(揺動ロック手段)の両室R1,R2間での作動油の流出・流入が不能になって、リアアクスル10(揺動フレーム)がロック状態にあるか、作動油の流出・流入が可能になって、リアアクスル10(揺動フレーム)がフリー状態(ロック解除状態)にあるかを検出することに他ならないといえる。すなわち、ダンパ13(揺動ロック手段)がロック状態にあるかフリー状態(ロック解除状態)にあるかを検出することに他ならないといえる。
そうすると、甲第2号証には、ダンパ13(揺動ロック手段)がロック状態にあるかフリー状態(ロック解除状態)にあるかを検出するスプールの位置を検出する構成(ロック状態検出手段)が開示されているといえる(以下「甲第2号証に記載の技術事項2」という。)。
しかしながら、甲第2号証には、上記甲第2号証に記載の技術事項1及び2が記載されているといえるが、上記相違点3に係る本件発明4の構成は記載も示唆もされていない。
b 甲第5号証に記載されている「軌道走行型高所作業車」は、「高所作業装置の作動に伴って変化する転倒モーメントが許容転倒モーメントを越えずに移動可能な作業台の移動可能範囲を予め設定しておき、作業台がこの移動可能範囲を越える高所作業装置の作動を規制する」機能を有しており(上記摘示(5b)参照)、具体的には、「ブーム17の作動に伴って変化する転倒モーメントが許容転倒モーメントを越えずに移動可能な作業台23の狭軌移動可能範囲NA(図5中の左斜線で示した領域)をメモリI80から読み出し、位置算出回路76により算出された作業台23の位置が狭軌移動可能範囲NAのいずれかの位置にあるか否かを判定」し(上記摘示(5c)段落【0023】参照)、「作業台23の位置が狭軌移動可能範囲NAを越えると判定されたときに、作動制御回路75から出力され転倒モーメントを増加させる方向の作動制御信号の作動制御弁85への伝達を遮断する機能を有する」ものである(上記摘示(5c)段落【0025】参照)。すなわち、メモリ(本件発明4の「データ記憶手段」に対応。)に作業台の移動可能範囲(本件発明4の「作業車転倒防止性能」に対応。)を記憶しておいて、作業台の位置が前記移動可能範囲を越えないように制御(本件発明4の「作業機の限界姿勢範囲を制御」に対応。)する技術が記載されているといえる。
しかしながら、甲第5号証には、上記相違点3に係る本件発明4の「コントローラに前記揺動ロック手段がロック状態であるときの作業車転倒防止性能を記憶したロック時のデータ記憶手段を備え」、「前記ロック状態検出手段がロック状態を検出しているときには該ロック状態検出手段からのロック状態検出信号に基いて前記ロック時のデータ記憶手段で記憶している作業車転倒防止性能を用いて作業機の限界姿勢範囲を制御する」構成は記載も示唆もされていない。
以上によれば、引用発明に上記甲第2号証に記載の技術事項1及び2並びに甲第5号証に記載の上記技術を適用しても、相違点3に係る本件発明4の構成に至らない。
また、本件発明4は、「揺動ロック手段がロック状態であるときの作業車転倒防止性能」を用いることにより、ロック状態でないときよりも限界姿勢範囲を拡大することを解決しようとするものといえるところ(本件明細書の段落【0013】【0034】?【0036】参照)、引用発明は、そもそも「揺動ロック手段」を備えていないのであるから、引用発明から、ロック状態でないときよりも限界姿勢範囲を拡大することを解決しようとする動機付けは生じ得ないともいえる。
したがって、本件発明4は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 次に、申立人は、本件発明4は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと主張するので、これについて検討する。
甲第2号証には、上記甲第2号証に記載の技術事項1及び2が記載されているといえるが、上記相違点3に係る本件発明4の構成は記載も示唆もされていない。
甲第3号証には、「重心位置が揺動可能領域A内のときには揺動車軸装置11の揺動角の大きさに拘わらず揺動を許容するが、揺動角が所定角を越えるときには重心位置が揺動可能領域Aの外側に移動するような高所作業装置の作動を規制し、揺動角が所定角以下のときには左右揺動規制シリンダ16,17のより揺動車軸装置11の揺動を規制した上で、重心位置が揺動可能領域Aの外側に移動するような高所作業装置の作動を許容する」と記載されている(上記摘示(3c)参照)。
この記載によれば、重心位置に関し揺動可能範囲Aなるものが設定されているところ、かかる揺動可能範囲Aは、左右揺動規制シリンダ(本件発明4の「揺動ロック手段」に対応。)が揺動車軸装置(本件発明4の「揺動フレーム」に対応。)の揺動を規制する時(本件発明4の「ロック状態であるとき」に対応。)の揺動可能範囲として規定されるものではないから、甲第3号証には、上記相違点3に係る本件発明4の「コントローラに前記揺動ロック手段がロック状態であるときの作業車転倒防止性能を記憶したロック時のデータ記憶手段を備え、オンレール作業時において、前記ロック状態検出手段がロック状態を検出しているときには該ロック状態検出手段からのロック状態検出信号に基いて前記ロック時のデータ記憶手段で記憶している作業車転倒防止性能を用いて作業機の限界姿勢範囲を制御する」構成は記載されていない。
以上によれば、引用発明に上記甲第2号証に記載の技術事項1及び2並びに甲第3号証に記載された事項を適用しても、相違点3に係る本件発明4の構成に至らない。また、引用発明から、ロック状態でないときよりも限界姿勢範囲を拡大することを解決しようとする動機付けは生じ得ないことは上記アにおいて説示したとおりである。
したがって、本件発明4は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり、特許異議の申立ての理由によって請求項4に係る特許を取り消すことはできない。

第4 むすび
以上のとおり、請求項4に係る特許については、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に請求項4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1?3に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項1?3に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
軌陸作業車の鉄輪揺動ロック装置
【技術分野】
【0001】
本願発明は、車体に道路走行用のタイヤ車輪と軌道走行用の鉄輪とを備え、道路上と軌道上の両方で走行させ得るようにした軌陸作業車に関し、さらに詳しくは、軌道走行時の脱輪防止用として前後いずれかの左右鉄輪が上下に従動し得るようにした軌陸作業車において、オンレール作業時(レール上において作業車停止状態で行う作業時)に用いられる鉄輪揺動ロック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の軌陸作業車は、道路走行用のタイヤ車輪と軌道走行用の鉄輪とを備え、道路を走行する際(道路走行モード時)には各タイヤ車輪を接地させる(鉄輪は浮上している)一方、軌道を走行する際(軌道走行モード時)には各鉄輪を軌道上に載せる(タイヤ車輪は浮上している)。尚、軌陸作業車の機種としては、車体上にブーム式作業台を搭載した高所作業車や、車体上にブーム式クレーンを搭載したクレーン作業車や、荷物運搬用のトラック等がある。
【0003】
ところで、軌道がカーブしている場所では左右のレールに高低差が生じ、特にカーブの入口付近及び出口付近では左右のレールにねじれが生じる。そして、そのように左右のレールに高低差(特にねじれ)がある場所を前後・左右の4つの鉄輪で走行させる際に、該4つの鉄輪が全て車体フレームに対して固定されていると、4つの鉄輪のうちの1つがレールから浮き上がり、脱輪の虞れが生じる。
【0004】
そこで、軌道のカーブ場所においても、4つの鉄輪を常時左右のレール上に接触させた状態で走行させ得るようにするために、本件出願人は、図8に示す軌陸作業車において図9に示すように、後輪側の左右の鉄輪32,32をシーソー状に揺動させ得るようにしたものを既に実施している。尚、図8の例では、軌陸作業車として、車体フレーム11上に旋回台21と伸縮ブーム22と作業台23とを有した高所作業機2を搭載した高所作業車が採用されている。
【0005】
図8の軌陸作業車において、前側鉄輪31が駆動側(駆動モータ34で駆動される)で後側鉄輪32が従動側である。又、前後の各鉄輪31,32は、それぞれ油圧シリンダからなる上下動装置30,30により上方格納位置(実線図示位置)と下方使用位置(鎖線図示位置)との間で上下に揺動せしめられる。そして、この軌陸作業車は、前後の各鉄輪31,32を上方に格納した状態では各タイヤ車輪(前後・左右の4箇所にある)12による道路走行が行える一方、各鉄輪(前後・左右の4つ)31,32を下方の使用位置に張出させることで軌道走行が行えるようになっている。
【0006】
図9は図8における後輪側の左右鉄輪32,32が左右のレールR,R上に載った状態(図8の鎖線図示状態)でのIX-IX拡大矢視図である。そして、この図9の公知例の後側鉄輪取付構造では、車体フレーム11の後端寄り下面に左右向きの揺動フレーム4の長さ方向中間部を前後向きの支軸40で枢支して、該揺動フレーム4が上下にシーソー状に揺動し得るように支持している一方、該揺動フレーム4の左右各端部に後輪側の左右鉄輪32,32をそれぞれ取付けている。従って、左右の後側鉄輪32,32は、車体フレーム11に対して揺動フレーム4を介してシーソー状に従動し得るようになっている。尚、左右の各前側鉄輪31は、下方使用位置において車体フレーム11に対してそれぞれ固定的に(上下動しない状態で)取付けられている。
【0007】
そして、図9に示す後側鉄輪取付構造を採用した軌陸作業車(図8)では、鉄輪による軌道走行時に、軌道がカーブしていて左右のレールR,Rに高低差(ねじれ)があっても、揺動フレーム4が上下に揺動自在(図9に鎖線図示する符号4′及び4″)となっているので左右の後側鉄輪32,32がレールの高低差に追従し、左右の前側鉄輪31,31(図8)及び左右の後側鉄輪32,32の4輪が常にレールR,R上に接触した状態で走行させることができるようになっている(従って、軌道走行時に各鉄輪が脱輪しない)。
【0008】
ところで、軌陸作業車の軌道上での機能は、各鉄輪により軌道上を走行させることと、軌道上の所定場所で停車させた状態(前後の各鉄輪31,32をレールR上に載せたまま)で上部の作業機(高所作業機)2を使用して所定の作業を行うことであるが、高所作業機2を使用して行う作業時には作業車転倒防止性能(作業を規制する限界モーメント性能)が高いほど良い。
【0009】
そして、図9の後側鉄輪取付構造を採用した軌陸作業車(図8)では、左右の後側鉄輪32,32を取付けている揺動フレーム4が車体フレーム11に対して常に揺動可能となっているので、作業車を軌道上に載せた状態では、4つの鉄輪が左右のレール上に載っているものの、作業車は図10に示すように左右の各前側鉄輪31,31の2点(符号A、B)と各後側鉄輪32,32を取付けている揺動フレーム4の枢支部(支軸)40の1点(符号M)との実質3点で支持されることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、この種の軌陸作業車には、作業車の転倒防止に関する制御として、コントローラに4つの鉄輪31,31,32,32がレールR,R上に載った状態(オンレール状態)での作業機2の限界姿勢を規制するための転倒防止性能をパラメータ(データテーブル)として記憶しているが、図9の後側鉄輪取付構造を採用した軌陸作業車(図8)では、揺動フレーム4が常に揺動し得る状態となっているので、転倒防止性能としては図10に示すように3点(A、B、M)を結ぶ線で囲われた範囲内のものとなる。
【0011】
即ち、図9に示すように後側鉄輪32,32を揺動フレーム4に取付けた軌陸作業車では、軌道走行時に4つの鉄輪がそれぞれレール上に接触するので脱輪防止機能は確保できるものの、オンレール作業時には図10に示す3点(A、B、M)を結ぶ線で囲われた比較的狭い範囲の転倒防止制御しか行えず、転倒防止に関する作業機の限界姿勢が狭いものとなる(小さい範囲の作業姿勢でしか作業ができない)という問題があった。
【0012】
尚、4つの鉄輪を車体フレームに対してそれぞれ個別に固定状態で取付けたものでは、軌陸作業車を常時4点(4つの鉄輪位置)で支持できるので、上記3点支持の場合より作業車転倒防止性能を高く設定できるが、その場合は軌道にレール高低差があると走行時に1つの鉄輪が浮き上がる(脱輪する)という危険性がある。
【0013】
そこで、本願発明は、上記のように車体フレームに対して揺動可能な揺動フレームの左右各端部に左右の鉄輪を取付けた軌陸作業車において、鉄輪による軌道走行時には揺動フレームが上下に揺動し得る状態に維持させる(脱輪防止機能がある)一方、作業車を軌道上に停車させたオンレール作業時には揺動フレームの揺動を禁止して4つの鉄輪による4点支持状態で作業を行える(作業車転倒防止性能を高めることができる)ようにした、軌陸作業車の鉄輪揺動ロック装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明は、上記課題を解決するための手段として次の構成を有している。尚、本願発明は、タイヤ車輪による道路走行と鉄輪による軌道走行とが行えるようにした軌陸作業車において、左右の鉄輪(後側鉄輪)を揺動可能にしたり揺動不能にロックしたりすることができる鉄輪揺動ロック装置を対象にしている。
【0015】
本願発明で対象としている軌陸作業車は、車体に道路走行用のタイヤ車輪と軌道走行用の鉄輪とを備え、タイヤ車輪による道路走行モードと鉄輪による軌道走行モードとを選択して切り換え得るようにしたものである。
【0016】
ところで、この種の軌陸作業車は、車体フレーム上に伸縮ブーム式のクレーン作業機や伸縮ブーム式の高所作業機を搭載したものが主流であり、軌道上においても該クレーン作業機や高所作業機を使用して各種の作業が行われる。そして、各鉄輪を軌道(左右のレール)上に載せた状態で各種作業機を使用して作業を行う際には、作業車の転倒防止に関する制御が行われる。
【0017】
又、本願で使用される軌陸作業車は、作業車を各鉄輪により軌道上を走行させる際に、左右のレールの高低差(ねじれ)による鉄輪浮き上がり防止のために、後輪側又は前輪側のいずれか一方の左右鉄輪を車体フレームの下部に上下揺動自在に枢支した揺動フレームの左右各端部に取付けて、前後・左右の4つの鉄輪が常に左右のレール上に接触した(載った)状態で走行させ得るようにしている。尚、上下に従動させるべき鉄輪は、一般に作業車の後輪側のものが適用されるが、前輪側のものであってもよい。
【0018】
このように、後輪側(又は前輪側)の左右鉄輪を揺動フレームの左右各端部に取付けた軌陸作業車では、鉄輪による軌道走行時に後輪側(又は前輪側)の左右鉄輪が上下に従動し得るので、左右のレールに高低差(ねじれ)があっても、従動可能な左右鉄輪が揺動フレームとともにシーソー状に従動することにより、4つの鉄輪が常にレール上に接触した状態で走行するようになる(全鉄輪がレールから浮き上がらないので脱輪しない)。
【0019】
上記揺動フレームは、車体フレームの下面から所定間隔を隔てた下方位置において、該揺動フレームの左右長さの中間部を車体フレームの下面に前後向きの支軸で枢支して、該揺動フレームが車体フレームの下面側でシーソー状に揺動し得るように設置されている。
【0020】
ところで、このように後輪側(又は前輪側)の左右鉄輪を揺動フレームの各端部に取付けたものでは、揺動フレームが車体フレームに対して支軸部分の1点で支持されているだけなので、このままでは軌道上に載せられた作業車は、固定側の左右鉄輪の2点と揺動フレームの枢支部の1点との合計3点で支持されるようになる。このように作業車が3点で支持された状態では、上記「発明が解決しようとする課題」の項で説明したように、作業車転倒防止性能に関する許容範囲が狭くなり、軌道上での作業機の限界姿勢範囲が狭くなる。
【0021】
そこで、本願発明は、上記軌陸作業車に鉄輪揺動ロック装置を備えたものであるが、本願発明の鉄輪揺動ロック装置は、車体フレームと揺動フレームとの間に、揺動フレームを車体フレームに対して揺動不能にロックするための揺動ロック手段を設けたものである。
【0022】
本願発明で使用する揺動ロック手段としては、揺動フレームを車体フレームに対してロック状態(揺動不能状態)とロック解除状態(揺動可能状態)とに変化させ得るものであればよく、単純な構成のものとして例えば車体フレーム下面と揺動フレーム上面との間に詰め物を挿脱自在に介在させ得るようにしたものでもよい。尚、この揺動ロック手段を動力で操作するには、該揺動ロック手段として油圧シリンダを使用し、該油圧シリンダを電磁切換弁で切換え得るようにしたものを採用するとよい。
【0023】
本願発明の鉄輪揺動ロック装置を採用した軌陸作業車では、オンレール作業時(4つの鉄輪を軌道上に載せた停車状態)において、揺動ロック手段により揺動フレームをロック状態にすると該揺動フレームが揺動不能となり、軌陸作業車が前後・左右の4つの鉄輪で4点支持されるようになる。
【0024】
そして、軌陸作業車をオンレール状態で4点支持したものでは、上記のように前輪側の左右鉄輪(2点)と揺動フレームの枢支部(1点)による3点支持したものより支持面積が広くなり(2倍になる)、それによって作業車転倒防止性能が高くなる(作業機の転倒防止に関する限界姿勢を拡大できる)。
【0025】
又、本願発明では、揺動ロック手段がロック状態にあるかロック解除状態にあるのかを検出するロック状態検出手段を有している。
【0026】
このロック状態検出手段としては、例えば揺動ロック手段の位置を検出するリミットスイッチや揺動ロック手段が油圧作動式のものでは油圧検知スイッチ(圧力スイッチ)が使用できる。
【0027】
そして、本願発明では、ロック状態検出手段により揺動ロック手段がどの状態(ロック状態又はロック解除状態)にあるのかをオペレータが確認できる。即ち、オンレール作業時(ロック状態にする)及びオンレール状態から発進時(ロック解除状態にする)等に揺動ロック手段の状態が適正状態であるかどうかを容易に確認できる。
【0028】(削除)
【0029】(削除)
【0030】(削除)
【0031】(削除)
【0032】(削除)
【0033】(削除)
【0034】
又、本願発明は、コントローラに揺動ロック手段がロック状態であるときの作業車転倒防止性能を記憶したロック時のデータ記憶手段を備え、オンレール作業時において、ロック状態検出手段がロック状態を検出しているときには該ロック状態検出手段からのロック状態検出信号に基いて前記ロック時のデータ記憶手段で記憶している作業車転倒防止性能を用いて作業車の限界姿勢範囲を制御するように構成したものである。
【0035】
本願で使用する軌陸作業車には、コントローラに、道路上での通常の作業時における作業車転倒防止性能のほかに、オンレール作業時(鉄輪による支持状態)における作業車転倒防止性能も記憶させているが、本願発明では、コントローラに揺動ロック手段がロック状態であるときの作業車転倒防止性能を記憶したロック時のデータ記憶手段を備えている。このロック時のデータ記憶手段で記憶している作業車転倒防止性能は、揺動ロック手段がロック状態のときのものであるので、作業車が4つの鉄輪による4点支持された状態のものである。従って、このロック時のデータ記憶手段で記憶している作業車転倒防止性能は、作業車が上記3点支持されたときの作業車転倒防止性能より高いものである。
【0036】
そして、本願発明では、オンレール作業時において、ロック状態検出手段がロック状態を検出しているときには該ロック状態検出手段からのロック状態検出信号に基いて前記ロック時のデータ記憶手段で記憶している高い性能の作業車転倒防止性能を用いて作業車の限界姿勢範囲を制御するように構成しているので、上記3点支持での作業車転倒防止性能で制御されるより、安全性を確保した上で作業機の限界姿勢範囲が拡大される(広範囲の作業が行える)。
【発明の効果】
【0037】
本願発明は、前後いずれか一方の左右鉄輪を揺動フレームを介して揺動可能にすることで軌道走行時に鉄輪の浮き上がり(脱輪)を防止し得るようにした軌陸作業車であっても、鉄輪によるオンレール作業時において揺動フレーム(左右の鉄輪)を揺動ロック手段で揺動不能にロックすることで、作業車を4つの鉄輪で4点支持できる。尚、この4点支持状態は、非揺動側の左右鉄輪と揺動フレームの枢支部との3点で支持したものより作業車転倒防止性能が高くなるという特性がある。
【0038】
従って、本願発明の鉄輪揺動ロック装置を用いた軌陸作業車では、オンレール作業時に揺動ロック手段で揺動フレームを揺動不能にロックしておくことで作業車転倒防止性能を高めることができるので、作業機の限界姿勢範囲(作業範囲)を拡大できるという効果がある。
【0039】
又、本願発明では、揺動ロック手段がロック状態にあるかロック解除状態にあるのかを検出するロック状態検出手段を有しているので、ロック状態検出手段により揺動ロック手段がどの状態にあるのかをオペレータが確認できる。
【0040】
従って、本願発明の鉄輪揺動ロック装置では、オンレール作業時(ロック状態にする)及びオンレール状態から発進時(ロック解除状態にする)等に揺動ロック手段の状態が適正状態であるかどうかをオペレータが確認することで、不適正状態での作業(又は操作)を防止するのに役立つという効果がある。
【0041】(削除)
【0042】(削除)
【0043】(削除)
【0044】(削除)
【0045】(削除)
【0046】
又、本願発明は、コントローラに揺動ロック手段がロック状態であるときの作業車転倒防止性能を記憶したロック時のデータ記憶手段を備え、オンレール作業時において、ロック状態検出手段がロック状態を検出しているときには該ロック状態検出手段からのロック状態検出信号に基いて前記ロック時のデータ記憶手段で記憶している作業車転倒防止性能を用いて作業車の限界姿勢範囲を制御するように構成している。
【0047】
尚、ロック時のデータ記憶手段に記憶している作業車転倒防止性能は、作業車が上記4点支持された状態での高い性能である。
【0048】
従って、本願発明の鉄輪揺動ロック装置では、オンレール作業時においてロック状態検出手段がロック状態を検出しているときには、ロック時のデータ記憶手段に記憶している高い性能の作業車転倒防止性能を用いて作業車の限界姿勢範囲を制御するので、安全性を確保した上で作業機の限界姿勢範囲が拡大される(広範囲の作業が行える)という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本願実施例の鉄輪揺動ロック装置が採用される軌陸作業車の側面図である。
【図2】本願実施例の鉄輪揺動ロック装置を採用した軌陸作業車(図1)の一部拡大図である。
【図3】図2のIII-III矢視図(揺動ロック手段のロック解除状態図)である。
【図4】図3の一部拡大図である。
【図5】図3の状態変化図(揺動ロック手段のロック状態図)である。
【図6】本願実施例の鉄輪揺動ロック装置を備えた軌陸作業車の機能説明図である。
【図7】本願実施例の鉄輪揺動ロック装置の制御系統を示すブロック図である。
【図8】公知の揺動フレーム付き軌陸作業車の側面図である。
【図9】図8のIX-IX拡大矢視図である。
【図10】図8の軌陸作業車の機能説明図である。
【実施例】
【0050】
図1?図7を参照して本願の実施例を説明すると、この実施例では軌陸作業車として、図1に示すように高所作業車を採用している。そして、以下の説明では、軌陸作業車を高所作業車ということがある。
【0051】
尚、他の実施例では、軌陸作業車として、クレーン作業車や荷物運搬用のトラック等を採用することができる。
【0052】
図1の高所作業車は、図8に示す公知例のものと同じものであるが、本願実施例で使用するものとして若干の説明を追加する。
【0053】
図1の高所作業車は、車両1の車体フレーム11上に高所作業機2を搭載している。高所作業機2は、車体フレーム11上に設けた旋回台21と、該旋回台21に起伏自在に取付けた伸縮ブーム22と、伸縮ブーム22の先端部に装備した作業台23を備えている。
【0054】
車体フレーム11の前後・左右の4箇所には、それぞれアウトリガ(ジャッキ装置)13を設けている。
【0055】
図1に示す高所作業車は、軌陸両用に使用できるもので、車体フレーム11に道路走行用のタイヤ車輪(前後・左右の4箇所にある)12と、軌道走行用の軌道走行装置3(前後・左右の4箇所にある)とを備え、各タイヤ車輪12,12による道路走行と各軌道走行装置3,3による軌道走行とを選択して行えるようになっている。
【0056】
又、図1の高所作業車には、車両1を浮上させた状態で方向転換させるための転車装置9を設けている。この転車装置9は、上下動装置(油圧シリンダ)90により転車台(接地板)91を上方格納位置(実線図示位置)と下方突出位置(符号91′で示す鎖線図示位置)との間で上下動させ得るようにしたものである。尚、転車台91部分には、ターンテーブル機構を有している。
【0057】
前後・左右(合計4つ)の各軌道走行装置3は、相互にほぼ同構造のものであって、車体フレーム11の前端部と後端部にそれぞれ左右対称形のものが一対ずつ配置されている。
【0058】
前輪側の各軌道走行装置3は、鉄輪(前側鉄輪)31を保持台33で保持し、該保持台33を車体フレーム11に設けたサポート14に軸15で枢支するとともに、保持台33を上下動装置(油圧シリンダ)30で上下に揺動させ得るように構成されている。図1の実施例の高所作業車では、前輪側の左右各軌道走行装置3が駆動側で、各前側鉄輪31,31が駆動モータ34で駆動されるようになっている。鉄輪の駆動モータ34は、電動モータが使用されており、図3に示すように駆動モータ用のスイッチ35をON操作することで、該駆動モータ34を作動させ得るようになっている。尚、他の実施例では、鉄輪の駆動モータ34として油圧モータを使用してもよい。又、この実施例では、後側鉄輪32,32が従動輪となっているが、他の実施例では駆動側鉄輪を前側鉄輪31,31から後側鉄輪32,32に変更してもよく、さらに他の実施例では全部の鉄輪(4輪)をそれぞれ駆動させる(4駆にする)ようにしたものでもよい。
【0059】
後輪側の各軌道走行装置3は、図2及び図3に拡大図示するように、鉄輪(後側鉄輪)32を保持台33で保持し、該保持台33を後述する揺動フレーム4の両端部(サポート41)に軸42で枢支するとともに、保持台33を上下動装置(油圧シリンダ)30で上下に揺動させ得るように構成されている。
【0060】
そして、各前側鉄輪31,31及び各後側鉄輪32,32は、図1において実線図示する上動格納位置と鎖線図示する下動使用位置との間をそれぞれ上下動装置30により同時に上下揺動せしめられる。尚、前輪側及び後輪側の各左右鉄輪31,31(及び32,32)間の間隔は、適用される軌道幅(左右のレールR,Rの間隔)と同じに設定される。
【0061】
図1に示す軌陸作業車(高所作業車)において、タイヤ車輪12による道路走行モードから各鉄輪31,32による軌道走行モードに切換えるには、次のように操作する。即ち、作業車を走行させて前後のタイヤ車輪12,12が軌道(両レールR,R)を跨いだ位置で停車させ→転車装置9の上下動装置90を伸長させて転車台91下面を図1に鎖線図示(符号91′)するように下動させて各タイヤ車輪12を地面から浮上させ→転車装置9を中心にして前後4つの鉄輪31,32が左右レールR,Rの直上方に位置するように車両1を旋回させ→前後・左右の4つの鉄輪31,32をそれぞれ鎖線図示するように下方に張り出させ→該各4つの鉄輪31,32がそれぞれ左右レールR,R上に対応した状態で転車装置9の上下動装置90を縮小させることで、図2及び図3に示すように4つの各鉄輪31,32をそれぞれ左右レールR,R上に載せることができる。
【0062】
尚、4つの鉄輪31,32を左右のレールR,R上に載せた状態で、前側鉄輪31の駆動モータ34(図1)を作動させると作業車を軌道走行させることができる一方、作業車を軌道上に停車させた状態で高所作業機2により各種の作業を行うことができる。又、高所作業機2による作業時には、各鉄輪31,32をブレーキ装置36(図3参照)でロックしておくとよい。
【0063】
この実施例の軌陸作業車(高所作業車)では、背景技術の項でも説明したように、左右のレールR,Rに高低差(特にねじれ)がある場所を鉄輪走行させる場合に、4つの鉄輪31,32のうちの1つがレールから浮き上がる現象を防止するために、後輪側の左右の鉄輪32,32をシーソー状に揺動させ得るようにしたものを採用している。
【0064】
即ち、この実施例の軌陸作業車では、図3に示すように車体フレーム11の後端寄り下面に左右向きの揺動フレーム4の長さ方向中間部を前後向きの支軸40で枢支して、該揺動フレーム4が上下にシーソー状に揺動し得るように支持している一方、該揺動フレーム4の左右各端部に後輪側の左右鉄輪32,32をそれぞれ取付けている。尚、揺動フレーム4が上下に揺動自在であること、及び該揺動フレーム4の左右各端部にそれぞれ後輪側の左右鉄輪32,32を取付けていることは、図9の公知例のものと同じである。
【0065】
そして、図3に示す実施例の後側鉄輪取付構造を採用した軌陸作業車(図1、図2)では、鉄輪による軌道走行時に、軌道がカーブしていて左右のレールR,Rに高低差(ねじれ)があっても、揺動フレーム4が上下に揺動する(図4の符号4′,4″参照)ことで左右の後側鉄輪32,32がレールの高低差に追従し、左右の前側鉄輪31,31及び左右の後側鉄輪32,32の4輪が常にレールR,R上に接触した状態で走行させることができる。
【0066】
ところで、このように揺動フレーム4が常時揺動し得る状態にあるものでは、[発明が解決しようとしている課題]の項でも説明したように、作業車を軌道上に載せた状態では、4つの鉄輪が左右のレール上に載っているものの、作業車は図6に示すように左右の各前側鉄輪31,31の2点(符号A、B)と各後側鉄輪32,32を取付けている揺動フレーム4の枢支部(支軸)40の1点(符号M)との実質3点で支持されることになり、比較的狭い範囲の転倒防止制御しか行えない。
【0067】
そこで、この実施例の軌陸作業車(高所作業車)には、軌道上において高所作業機2による作業を行う際に揺動フレーム4(左右の後側鉄輪32,32)の揺動をロックし得るようにした鉄輪揺動ロック装置を備えている。
【0068】
この実施例で使用されている鉄輪揺動ロック装置は、図2?図5に示すように、車体フレーム11と揺動フレーム4との間に、揺動フレーム4を車体フレーム11に対して揺動不能にロックするための揺動ロック手段5を設けたものである。
【0069】
この実施例の揺動ロック手段5には、図3及び図4に示すように、揺動フレーム4の支軸40を挟んで左右2つのロックシリンダ50,50を使用している。
【0070】
この各ロックシリンダ50,50には、比較的小ストロークの単動式油圧シリンダが採用されている。この各ロックシリンダ50,50は、車体フレーム11の下面の左右端部位置においてピストンロッド51が下向きに出没する状態で取付けている。又、この各ロックシリンダ50,50は、後述する油圧装置6によりシリンダの伸長側油室53に高圧作動油が供給されことにより、各側のピストンロッド51,51が同時に押下げられるようになっている。
【0071】
各ロックシリンダ50,50のピストンロッド51の下端部には、それぞれ大形板52が取付けられている。この各大形板52,52の下面と揺動フレーム4の上面との間には、ピストンロッド51を上方に付勢するスプリング55,55が介設されている。尚、この左右のスプリング55,55は、揺動ロック手段5がロック解除状態にある状態での揺動フレーム4に対するサスペンションの機能を有している。
【0072】
揺動フレーム4の上面における各ロックシリンダ50,50の直下位置には、ピストンロッド51の下動時に各側の大形板52,52を衝合させる突起物43,43が取付けられている。
【0073】
そして、図3及び図4に示すように、各ロックシリンダ50,50が縮小している状態では、各大形板52,52の下面と各突起物43,43の上面との間に適宜間隔の隙間が形成されていて、図4に鎖線図示(符号4′、4″)するように該隙間の範囲内(突起物43上面が大形板52下面に衝合するまでの範囲内)で揺動フレーム4が支軸40を中心にしてシーソー状に揺動し得るようになっている。尚、各ロックシリンダ50,50の縮小状態における揺動フレーム4の揺動可能範囲は、軌道の左右レールの高低差が最大である場所での走行時においても、左右の各後側鉄輪32,32が各レール高さに追従し得るように設定されている。
【0074】
各ロックシリンダ50,50を作動させる油圧装置6は、図3に示すように、作動油タンク60と、油圧ポンプ61と、電磁切換弁62と、2系統の油路63,64と、2つのチェック弁65,65とを有している。2系統の油路のうちの実線図示する油路64は、単動式の各ロックシリンダ50,50を作動させるメイン油路であり、点線表示する符号63の油路は、チェック弁65,65を解放するためのバイパス油路である。
【0075】
そして、この油圧装置6は、各ロックシリンダ50,50に対して次のように作動させる。
【0076】
まず、電磁切換弁62が非励磁状態(図3の状態)で油圧ポンプ61を作動させると、作動油が点線図示するバイパス油路63を通って各チェック弁65,65を開弁させる。すると、各ロックシリンダ50,50の伸長側油室53,53と作動油タンク60とがメイン油路64を介して連通し、各ピストンロッド51,51(大形板52,52)がスプリング55,55で付勢されていることにより、各ロックシリンダ50,50が縮小状態を維持するようになる。尚、この各ロックシリンダ50,50の縮小状態が揺動ロック手段5のロック解除状態となる。
【0077】
又、図3に示すように電磁切換弁62が非励磁状態で油圧ポンプ61を停止させた状態では、各チェック弁65,65が閉弁しても各ロックシリンダ50,50をそれぞれスプリング55,55で縮小側に付勢しているので、該各ロックシリンダ50,50は図3及び図4に示す縮小状態(ロック解除状態)に維持される。従って、この状態では、揺動フレーム4は支軸40を中心にして上下に揺動可能となっている。
【0078】
他方、図5に示すように、油圧ポンプ61を作動させた状態で電磁切換弁62を励磁させる(電磁切換弁操作用のスイッチ66をONにする)と、作動油がメイン油路64及び各チェック弁65,65を通って各ロックシリンダ50,50の伸長側油室53,53に導入され、両ロックシリンダ50,50を同時に伸長させる。すると、各ピストンロッド51,51の下端にある各大形板52,52がスプリング55の付勢力に抗して押し下げられて、該各大形板52,52が揺動フレーム4側の各突起物43,43の上面にそれぞれ押し付けられる。尚、この図5のロックシリンダ50,50の伸長状態が揺動ロック手段5のロック状態となる。
【0079】
又、この図5の状態(電磁切換弁62が励磁状態)で油圧ポンプ61を停止させても、メイン油路64中の各チェック弁65,65が閉状態であるので、各ロックシリンダ50,50の伸長状態(ロック状態)が維持される。従って、この状態では、揺動フレーム4は上下に揺動不能となっている。
【0080】
ところで、上記構成の鉄輪揺動ロック装置を備えた軌陸作業車(高所作業車)では、次のような機能がある。
【0081】
まず、軌道走行時には、図3及び図4に示すように、揺動ロック手段5をロック解除状態にしておくことにより、作業車を上記した3点支持状態で軌道走行させることができるので、4つの鉄輪がいずれもレールから浮き上がることがない。尚、作業車を3点支持した状態とは、図6において左右の各前側鉄輪31,31の2点(符号A,B)と揺動フレーム4の支軸40部分の1点(符号M)の合計3点で支持された状態のことであり、この3点支持状態では、オンレール作業時における作業車転倒防止性能が低い状態となる。
【0082】
他方、オンレール作業時には、図5に示すように、揺動ロック手段5をロック状態にする(各ロックシリンダ50,50を伸長させる)ことにより揺動フレーム4が揺動不能になるので、作業車を図6において左右の各前側鉄輪31,31の2点(符号A,B)と各後側鉄輪32,32の2点(符号C,D)の合計4点で支持させることができる。
【0083】
そして、このように作業車を4つの鉄輪位置からなる4点(A,B,C,D)で支持させた状態では、上記3点(A,B,M)で支持させたときの支持面積より広くなるので(支持面積が2倍になる)、作業車転倒防止性能が高くなる。尚、このことは、オンレール作業時において、作業機2の転倒防止に関する限界姿勢を拡大できる(広範囲の作業が行える)という利点がある。
【0084】
又、上記実施例のように、揺動ロック手段5として左右2つのロックシリンダ50,50を使用したものでは、揺動フレーム4を左右両側からバランスよくロックすることができるので、揺動フレーム4を安定状態でロックできるという機能がある。
【0085】
ところで、本願実施例の鉄輪揺動ロック装置には、上記構成のほかに、次の構成を備えている。
【0086】
まず、本願発明は、揺動ロック手段5がロック状態にあるかロック解除状態にあるのかを検出するロック状態検出手段7を有している。この実施例のロック状態検出手段7では、図3?図5に示すように、各ロックシリンダ50,50の伸縮状態を直接検出するリミットスイッチ71,71と、油圧装置6のバイパス油路63中の作動油圧力を検出する圧力スイッチ72とを併用している。
【0087】
上記各リミットスイッチ71,71は、各ロックシリンダ50,50の各大形板52,52の位置を検出するもので、図3(及び図4)に示すようにロックシリンダ50の最縮小状態(大形板52の最上動状態)においてONになる一方、図5に示すようにロックシリンダ50が伸長するとOFFになる。そして、両リミットスイッチ71,71のON・OFF状態を例えば図7に示すコントローラ10の判別手段101で判別することにより、各ロックシリンダ50,50が縮小状態(揺動ロック手段5がロック解除状態)であるか伸長状態(揺動ロック手段5がロック状態)であるかを認知できるようになっている。
【0088】
上記圧力スイッチ72は、電磁切換弁62が非励磁状態(図3)で油圧ポンプ61が作動し、バイパス油路63中の作動油が昇圧することでONになるものである。即ち、バイパス油路63中の作動油圧力が高くなると、各チェック弁65,65が解放されて各ロックシリンダ50,50が縮小する(ロック解除状態になる)が、該バイパス油路63中の作動油圧力の変化による圧力スイッチ72のON・OFF状態を例えば図7に示すコントローラ10の判別手段101で判別することにより、各ロックシリンダ50,50が縮小状態(揺動ロック手段5がロック解除状態)であるか伸長状態(揺動ロック手段5がロック状態)であるかを認知できるようになっている。
【0089】
尚、この実施例では、ロック状態検出手段7として、上記各リミットスイッチ71,71と圧力スイッチ72の両方を併用している(検出精度を高くできる)が、他の実施例では、いずれか一方の検出スイッチのみでもよい。
【0090】
このように、ロック状態検出手段7(71,72)を備えたものでは、揺動ロック手段5がどの状態にあるのかをオペレータが確認できるので、オンレール作業時(ロック状態にする)及びオンレール状態から発進時(ロック解除状態にする)等に揺動ロック手段5の状態が適正状態であるかどうかをオペレータが確認することで、不適正状態での作業(又は操作)を防止するのに役立つ。
【0091】
又、この実施例の鉄輪揺動ロック装置では、揺動ロック手段5は、鉄輪31を走行作動させる信号を受けて自動的にロック解除されるようにしたものを採用している。
【0092】
鉄輪31を走行作動させる信号は、この実施例では図3及び図5に示すように鉄輪駆動モータ34を作動させるスイッチ35をONすることで発せられる。そして、この実施例では、電磁切換弁62の操作回路中にスイッチ66とは直列に常閉スイッチ67を設けて、鉄輪駆動モータ作動用のスイッチ35のON操作に連動して上記常閉スイッチ67をOFFさせるようにしたものを採用している。即ち、図5に示す電磁切換弁62の励磁状態(揺動ロック手段5のロック状態)で鉄輪駆動モータ作動用のスイッチ35がON操作されると、それに連動して上記常閉スイッチ67がOFFになって、電磁切換弁62が非励磁状態(図3の状態)になるようにしている。
【0093】
尚、鉄輪駆動モータ作動用のスイッチ35は、以下の各条件を満たした状態でON操作されるようになっている。即ち、4つの鉄輪が全て下方に張り出していること、高所作業機2の姿勢が走行可能な範囲内であること、アウトリガが全て格納状態であること、転車装置9が格納されていること、各鉄輪のブレーキ装置36が解除されていること、等が鉄輪駆動モータ作動用のスイッチ35をONし得る条件となる。
【0094】
ところで、オンレール作業時には、上記のように揺動ロック手段5をロック状態(上記4点支持状態)にして作業を行うが、オンレール作業後に軌道走行させるときには揺動ロック手段5をロック解除状態(上記3点支持状態)にする必要がある。そして、上記のように鉄輪駆動モータ作動用のスイッチ35をONにすることで電磁切換弁62を自動的に非励磁状態にするようにしていると、揺動ロック手段5が自動的にロック解除されることにより、揺動ロック手段5をロック解除し忘れたままで(電磁切換弁操作用のスイッチ66のOFF操作せずに)軌道走行させる(脱輪の虞れが生じる)というトラブル発生要因を未然に排除できる。
【0095】
又、この実施例の鉄輪揺動ロック装置では、図7に示すように、コントローラ10に揺動ロック手段5がロック状態であるときの作業車転倒防止性能を記憶したロック時のデータ記憶手段104を備え、オンレール作業時において、ロック状態検出手段7(71,72)がロック状態を検出しているときには該ロック状態検出手段7からのロック状態検出信号に基いてロック時のデータ記憶手段104で記憶している作業車転倒防止性能を用いて作業車の限界姿勢範囲を制御するようにしている。
【0096】
ところで、この実施例の軌陸作業車では、コントローラ10に、道路上での通常の作業時における作業車転倒防止性能のほかに、オンレール作業時(鉄輪による支持状態)における作業車転倒防止性能も記憶させているが、図7の実施例では、コントローラ10に、揺動ロック手段5がロック解除状態(上記3点支持状態)であるときの作業車転倒防止性能を記憶したロック解除時のデータ記憶手段103と、揺動ロック手段5がロック状態(上記4点支持状態)であるときの作業車転倒防止性能を記憶したロック時のデータ記憶手段104とを備えている。
【0097】
尚、ロック解除時のデータ記憶手段103で記憶している作業車転倒防止性能は、上記3点支持状態(図6のA、B、Mの3点)での限界性能であってその性能が低いものであり、他方、ロック時のデータ記憶手段104で記憶している作業車転倒防止性能は、上記4点支持状態(図6のA、B、C、Dの4点)での限界性能であってその性能が高いものである。
【0098】
又、図7のコントローラ10には、上記ロック解除時のデータ記憶手段103とロック時のデータ記憶手段104のほかに、ロック状態検出手段7がON状態であるかOFF状態あるかを検出する判別手段101と、転倒防止制御に関連する作業機の状態(旋回台21の旋回角度、伸縮ブーム22の長さ及び起伏角度等)を検出する作業機状態検出手段8(旋回角度検出器、ブーム長さ検出器、ブーム起伏角度検出器等を総称している)からの各種検出値に基いて現状の転倒モーメント値を演算する演算手段102と、ロック解除時のデータ記憶手段103又はロック時のデータ記憶手段104で記憶しているいずれかの作業車転倒防止性能(判別手段101で判別されたもの)と演算手段102で演算した現状の転倒モーメント値とを比較する比較手段105と、比較手段105で現状の転倒モーメント値が比較対象の作業車転倒防止性能に達したときに出力する出力手段106とを備えている。尚、図7に示す作業機作動規制手段107とは、旋回台21や伸縮ブーム22等が転倒に関する危険側に作動するのを禁止する制御をするものである。
【0099】
そして、図7の実施例では、ロック状態検出手段7の検出状態を判別手段101で判別し、該判別手段101がロック解除状態と判別しているときには、ロック解除時のデータ記憶手段103で記憶している低性能(3点支持によるもの)の作業車転倒防止性能を用い、該判別手段101がロック状態と判別しているときには、ロック時のデータ記憶手段104で記憶している高性能(4点支持によるもの)の作業車転倒防止性能を用いる。
【0100】
このように、オンレール作業時において、ロック状態検出手段7がロック状態を検出しているときには、それを判別手段101で判別してロック時のデータ記憶手段104で記憶している高い性能の作業車転倒防止性能を用いて作業車の限界姿勢範囲を制御するようにすると、上記3点支持での作業車転倒防止性能で制御されるより、安全性を確保した上で作業機の限界姿勢範囲が拡大される(広範囲の作業が行える)という機能がある。
【0101】
又、オンレール作業時において、揺動ロック手段5をロックしない状態(3点支持状態)のままで作業機2による作業を行う場合(3点支持状態)には、ロック状態検出手段7がOFFのままである(判別手段101がロック解除状態と判別している)ので、ロック解除時のデータ記憶手段103に記憶している低性能の作業車転倒防止性能で制御を行うので、作業機2が限界姿勢を越えて作動されることはない(安全性が確保される)。
【0102】
又、この実施例の鉄輪揺動ロック装置では、図3及び図5の油圧回路中に左右のロックシリンダ50,50にそれぞれ接続されている各油路(メイン油路64から分岐させたもの)を接続油路68で接続するとともに、該接続油路68の途中に手動式の切換弁69を介設している。
【0103】
そして、この接続油路68と切換弁69とは、次の目的で使用されるものである。即ち、図5に示す揺動ロック手段5(各ロックシリンダ50,50)のロック状態でオンレール作業を行った後、作業車を軌道走行させるには、該揺動ロック手段5をロック解除して揺動フレーム4を揺動可能にしておく必要があるが、該揺動ロック手段5をロック解除させるには、電磁切換弁62が非励磁状態(図3の状態)で油圧ポンプ61を作動させることで行う。ところが、何らかの理由で油圧ポンプ61が作動しない場合には、各チェック弁65,65を開弁させるためのバイパス油路63に作動油を供給することができない。そこで、この実施例では、上記接続油路68と切換弁69とを設け(切換弁69は通常閉鎖状態である)、何らかの理由で揺動ロック手段5がロック解除できない場合(ロック状態検出手段7で検出できる)には、上記切換弁69を手動で開放側に切換えることで、左右のロックシリンダ50,50の各伸長側油室53,53同士を接続油路68で連通させることができる。
【0104】
このように、各伸長側油室53,53同士を接続油路68で連通させると、揺動フレーム4に揺動作用が働いたときに、圧縮側の油室の作動油が伸長側の油室側に移動できるので、該揺動フレーム4を揺動可能状態にすることができる。従って、もし揺動ロック手段5を油圧装置6でロック解除できない事態が発生しても、上記切換弁69を操作することで揺動フレーム4を揺動可能にすることができるので、安全に軌道走行させることができる。
【0105】
尚、上記実施例では、揺動ロック手段5として、車体フレーム11と揺動フレーム4との間に左右2つのロックシリンダ50,50を用いたものを採用しているが、本願発明に対応する揺動ロック手段としては、揺動フレーム4を車体フレーム11に対して揺動不能にし得るものであれば、適宜の構成のものを採用できる。
【符号の説明】
【0106】
1は車両、2は作業機、3は軌道走行装置、4は揺動フレーム、5は揺動ロック手段、6は油圧装置、7はロック状態検出手段、8は作業機状態検出手段、9は転車装置、10はコントローラ、11は車体フレーム、12はタイヤ車輪、31は前側鉄輪、32は後側鉄輪、34は鉄輪駆動モータ、35はスイッチ、40は支軸、50はロックシリンダ、55はスプリング、61は油圧ポンプ、62は電磁切換弁、71はリミットスイッチ、72は圧力スイッチである。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
車体に道路走行用のタイヤ車輪と軌道走行用の4つの鉄輪とを備え、さらに後輪側又は前輪側のいずれか一方の左右鉄輪を車体フレームの下部に上下揺動自在に枢支した揺動フレームの左右各端部に取付けた軌陸作業車において、
前記車体フレームと前記揺動フレームとの間に、該揺動フレームを前記車体フレームに対して揺動不能にロックするための揺動ロック手段を設け、
前記揺動ロック手段がロック状態にあるかロック解除状態にあるのかを検出するロック状態検出手段を有しているとともに、
コントローラに前記揺動ロック手段がロック状態であるときの作業車転倒防止性能を記憶したロック時のデータ記憶手段を備え、
オンレール作業時において、前記ロック状態検出手段がロック状態を検出しているときには該ロック状態検出手段からのロック状態検出信号に基いて前記ロック時のデータ記憶手段で記憶している作業車転倒防止性能を用いて作業機の限界姿勢範囲を制御するように構成している、
ことを特徴とする軌陸作業車の鉄輪揺動ロック装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-07-06 
出願番号 特願2011-52274(P2011-52274)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B60F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三宅 達川村 健一  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 尾崎 和寛
和田 雄二
登録日 2015-10-02 
登録番号 特許第5813340号(P5813340)
権利者 株式会社タダノ
発明の名称 軌陸作業車の鉄輪揺動ロック装置  
代理人 白川 孝治  
代理人 並木 敏章  
代理人 大西 正悟  
代理人 白川 孝治  

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