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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H03H 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H03H |
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管理番号 | 1332226 |
異議申立番号 | 異議2016-700638 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-07-25 |
確定日 | 2017-07-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5849241号発明「コモンモードノイズフィルタ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5849241号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7について訂正することを認める。 特許第5849241号の請求項1ないし7に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5849241号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年12月11日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人河原田隆より請求項1?7に対して特許異議の申立てがされ、平成28年9月27日付けで取消理由が通知され、平成28年11月25日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年1月25日に特許異議申立人河原田隆から意見書が提出されたものである。 そして、平成29年2月24日付け取消理由通知(決定の予告)により、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者から応答はなかった。 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 特許権者は、特許異議の申立てがなされた特許請求の範囲の請求項7の「前記第1の渦巻き状導体、第2の渦巻き状導体、第3の渦巻き状導体、第4の渦巻き状導体の順に積層する、または前記一方のコイルを他方のコイルを構成する2つの渦巻き状導体で挟むように積層し、」を「前記一方のコイルを他方のコイルを構成する2つの渦巻き状導体で挟むように積層し、」に訂正することを請求する(訂正事項1)。 さらに、特許権者は、願書に添付した明細書の段落番号【0012】に記載された「前記第1の渦巻き状導体、第2の渦巻き状導体、第3の渦巻き状導体、第4の渦巻き状導体の順に積層する、または前記一方のコイルを他方のコイルを構成する2つの渦巻き状導体で挟むように積層し、」を「前記一方のコイルを他方のコイルを構成する2つの渦巻き状導体で挟むように積層し、」に訂正することを請求する(訂正事項2)。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、選択的に記載されている「前記第1の渦巻き状導体、第2の渦巻き状導体、第3の渦巻き状導体、第4の渦巻き状導体の順に積層する」ことと、「前記一方のコイルを他方のコイルを構成する2つの渦巻き状導体で挟むように積層」することのうち、「前記一方のコイルを他方のコイルを構成する2つの渦巻き状導体で挟むように積層」することを選択し、他方を削除したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項2は、請求項7に関係する訂正であって、同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3.小括 したがって、上記訂正請求による訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項7について訂正を認める。 第3 当審の判断 1.訂正後の本件発明について 上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は適法であるので、訂正後の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」、・・・、「本件発明7」という。)は、次のとおりである。 「 【請求項1】 絶縁層を介して互いに対向する第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体とを備え、前記第1の渦巻き状導体、第2の渦巻き状導体をそれぞれ構成する導体は、隣り合う導体間の距離が略同一であり、かつ、外部電極との接続部を除き、前記第1の渦巻き状導体の最外周と第2の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて少なくとも一部が完全に重なり、さらに前記第2の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と、前記第1の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部との間における前記第2の渦巻き状導体を、その前記最外周と前記第1の渦巻き状導体の前記最外周とが上面視にて重なるように配置したコモンモードノイズフィルタ。 【請求項2】 前記絶縁層における第1、第2の渦巻き状導体の渦巻きの内側にそれぞれ磁性材料からなる磁性部が形成された請求項1に記載のコモンモードノイズフィルタ。 【請求項3】 前記第1、第2の渦巻き状導体と接続されたビア電極のうち、前記第1の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と近い方と前記第1の渦巻き状導体とが接続され、前記第2の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と近い方と前記第2の渦巻き状導体とが接続された請求項1に記載のコモンモードノイズフィルタ。 【請求項4】 上面視にて前記第1の渦巻き状導体と接続されたビア電極と、前記第2の渦巻き状導体と接続されたビア電極とで、前記磁性部を挟むようにした請求項2に記載のコモンモードノイズフィルタ。 【請求項5】 上面視にて前記第1の渦巻き状導体と接続されたビア電極、前記第2の渦巻き状導体と接続されたビア電極、および前記磁性部が並ぶ方向を、本体部の前記外部電極が形成された側面と略平行になるようにした請求項4に記載のコモンモードノイズフィルタ。 【請求項6】 上面視にて前記第1、第2の渦巻き状導体の最内周部分と、前記ビア電極とを結ぶ線が、前記本体部の前記外部電極が形成された側面と略直交するようにした請求項4に記載のコモンモードノイズフィルタ。 【請求項7】 第1の渦巻き状導体と直列接続され、前記第1の渦巻き状導体と第1のコイルを構成する第3の渦巻き状導体と、第2の渦巻き状導体と直列接続され、前記第2の渦巻き状導体と第2のコイルを構成する第4の渦巻き状導体を形成し、前記第3の渦巻き状導体と第4の渦巻き状導体を他の絶縁層を介して互いに対向するようにするとともに、前記一方のコイルを他方のコイルを構成する2つの渦巻き状導体で挟むように積層し、前記第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体とを磁気結合させ、前記第3の渦巻き状導体と第4の渦巻き状導体とを磁気結合させ、さらに、前記第3の渦巻き状導体、第4の渦巻き状導体をそれぞれ構成する導体は、隣り合う導体間の距離が略同一であり、かつ、外部電極との接続部を除き、前記第3の渦巻き状導体の最外周と第4の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて少なくとも一部が完全に重なり、さらに前記第4の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と、前記第3の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部との間における前記第4の渦巻き状導体を、その前記最外周と前記第3の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて重なるように配置した請求項1?6のいずれかに記載のコモンモードノイズフィルタ。」 2.取消理由通知に記載した取消理由1(特許法第29条第1項第3号)について (1)刊行物の記載 取消理由通知において引用した甲1号証(特開2008-300432号公報)には、図面とともに以下の記載がある(なお、下線は当審において付したものである。)。 ア 「【0004】 しかしながら、上記のような従来のコイル部品はコイル導体と同一平面内に2つのビア電極4a、4bを有するためコイルの小面積化が困難でありコイル部品の小型化が困難であった。特許文献2に開示されたコモンモードチョークコイルでも、その図3から明らかなように、複数のビアおよびその周辺電極が多くの空間を占めている(図中点線で表されるビア等は図示された断面には存在せず、実践で示されたビアと離れた他の部分に形成されている)ため、小型化を図るには不十分であった。また、大きさを一定とすると、コイル導体の線路長を長くすることが困難である。そのため高いコモンモードインピーダンスを確保して、高いコモンモードノイズ減衰特性を得ることが困難であった。2つのビア電極が異なる層に形成されている場合においても、同様の課題があった。」 イ 「【0016】 本発明のコモンモードフィルタの第一の実施形態について、以下具体的に説明するが、本発明は必ずしも該実施形態に限定されるものではない。図1は本発明のコモンモードフィルタの一実施形態である矩形の積層型コモンモードフィルタの各層の電極パターン、図2は各層を積層した場合の中央付近での断面を示す図である。図1に示す構成では、スパイラル線路3a、3bは、それぞれ絶縁層2a、2bの表面に形成された平面スパイラル構造のコイル線路であり、絶縁層を介して積層され、互いに対向するように配置されている。第一および第二のスパイラル線路3a、3bは90°に屈曲しながら渦巻き状に巻回している。前記平面スパイラル線路は、隣接した屈曲部を結んだ二つの対角線が略直交しており、外形は略正方形である。屈曲の角はRを付けている。これにより特性インピーダンスの変動を緩和し信号損失を低減するとともに製造時の電極パターン形成のばらつきを低減し特性ばらつきを低減している。Rは線幅の1/10以上、線幅以下が好ましい。Rの代わりにカットでもよい。 【0017】 第一の引き出し線路5aは絶縁層に形成された第一のビア電極4aを介して第一のスパイラル線路3aのスパイラル中心側の一端に形成された第一のパッド部7aに接続されている。一方、第二の引き出し線路5bは絶縁層に形成された第二のビア電極4bを介して第二のスパイラル線路3bのスパイラル中心側の一端に形成された第二のパッド部7bに接続されている。第一の引き出し線路5aと第二の引き出し線路5bは絶縁層1a、1bの同じ端辺側に延設されている。また、引き出し線路5a、5bの第一のビア電極と第二のビア電極との接続部分には、それぞれ第三のパッド部6aと第四のパッド部6bが形成されている。スパイラル線路3a、3bの主たる線路部分は両者とも等しい一定の線幅・線間隔であり同一方向に巻回している。図では線幅と巻線の線間隔は等しいが、異なってもよい。 【0018】 前記第一のスパイラル線路3aの他端側は、スパイラル形状の外形に沿って最後に巻回している部分がそのまま絶縁層端部にかけて直線状に延設されている。第二のスパイラル線路3bの他端側も、スパイラル形状の外形に沿って最後に巻回している部分から90°屈曲した後、やはり絶縁層端部にかけて直線状に延設されている。折り返し部を持たない、かかる構成によれば、最後に巻回している部分から絶縁層端部にかけて結合していない線路の長さを短くできるためコモンモードフィルタを一層小型化できる。さらにこの延設された端部は絶縁層端部で幅が広くなっており、この幅は線幅以上、外部電極の幅以下が好ましい。線幅より狭いと外部電極との接続の不良が発生し易く、外部電極の幅より広いと外部電極間の短絡が発生し易くなる。スパイラル線路の最も内側の線路とパッドの最も近接する間隔は巻線の線間隔と等しいかそれ以上が好ましい。パッド部は積層方向から見て、ビア電極を囲むように形成される。その形状は特に限定するものではないが、円形であることが好ましい。パッド部7a、7bは製造時のスパイラル線路とビア電極の位置ズレによる電気的オープンの発生を防止する。そのため寸法はビア電極の直径以上で直径の3倍以下が好ましい。これより大きいとパッド部における特性インピーダンスの不連続が大きくなり信号損失が増加する上に、コモンモードフィルタの小型化が困難になる。 【0019】 各層を積層した場合の電極パターンの上下の位置関係は図2の断面図に示す通り、スパイラル線路3aと3bは積層方向からみて大部分が重なるように配置されている。またパッド部7a、7bおよびビア電極4a、4bは積層方向からみて重なるように配置されている。これにより空間ロスを低減しつつ、パッド部周囲までスパイラル線路を形成できるため、コイルの小面積化が可能となりコモンモードフィルタを小型化できる。また、略正方形のスパイラル線路3a、3bの中心(対角線の交点)とパッド部7a、7bは、積層方向からみて重なっている。かかる構成により、該中心とパッド部7a、7bとが重ならない構成よりも、さらに小面積化が可能となりコモンモードフィルタを一層小型化できる。図1に示す構成では、第一のパッド部と第二のパッド部とは略同形状で、互いに全体が重なるように配置されているが、一方のパッド部の方が小さく、積層方向から見て該パッド部が他方のパッド部に含まれるように重なっていても良い。図3には、ビア電極部分同士の配置が異なる他の実施形態を示してある。図3はビア電極の部分を拡大した断面図である。図3に示すように、パッド電極が重なるようにするだけでも小型化を図ることができる。このように、ビア電極は必ずしも重なっている必要はないが、図1に示すようにビア電極同士も重なっていることが好ましく、少なくとも一方のビア電極が、他方のビア電極と全体が重なっていることがより好ましい。なお、図1および2の構成では、引き出し線路の第三のパッド部6aと第四のパッド部6bもパッド部7a、7bに重なるように配置してある。ビア電極が重なる場合、ビア電極に挟まれる絶縁層部分で、絶縁性の低下や、欠陥の発生の可能性が高くなる。そこで積層方向においてビア電極の長さよりも、ビア電極の間隔の方が大きくなるようにすることが好ましい。かかる好ましい形態として、図の例では絶縁層の厚さは、スパイラル線路と引き出し線路間よりもスパイラル線路間のほうを大きくしてある。」 イ 図1及び図2は以下のとおりである。 図1 図2 したがって、甲1号証には、「高いコモンモードノイズ減衰特性を得る」ための「積層型コモンモードフィルタ」であって、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「スパイラル線路3a、3bは、それぞれ絶縁層2a、2bの表面に形成された平面スパイラル構造のコイル線路であり、絶縁層を介して積層され、互いに対向するように配置され、第一および第二のスパイラル線路3a、3bは90°に屈曲しながら渦巻き状に巻回しており、 スパイラル線路3a、3bの主たる線路部分は両者とも等しい一定の線幅・線間隔であり同一方向に巻回しており、 各層を積層した場合の電極パターンの上下の位置関係は図2の断面図に示す通り、スパイラル線路3aと3bは積層方向からみて大部分が重なるように配置され、 前記第一のスパイラル線路3aの他端側は、スパイラル形状の外形に沿って最後に巻回している部分がそのまま絶縁層端部にかけて直線状に延設され、第二のスパイラル線路3bの他端側も、スパイラル形状の外形に沿って最後に巻回している部分から90°屈曲した後、やはり絶縁層端部にかけて直線状に延設され、延設された端部は絶縁層端部で幅が広くなっており、この幅は線幅以上、外部電極の幅以下であり、折り返し部を持たない、かかる構成により、最後に巻回している部分から絶縁層端部にかけて結合していない線路の長さを短くした積層型コモンモードフィルタ。」 (2)対比、判断 ア 引用発明1の「積層型コモンモードフィルタ」は、「高いコモンモードノイズ減衰特性を得る」ためのものであるから、「本件発明1」にいう「コモンモードノイズフィルタ」に相当し、引用発明1の「絶縁層2a、2b」、「スパイラル線路3a」及び「スパイラル線路3b」は、それぞれ本件発明1の「絶縁層」、「第1の渦巻き状導体」、「第2の渦巻き状導体」に相当し、引用発明1においても、「スパイラル線路3a、3bの主たる線路部分は両者とも等しい一定の線幅・線間隔」であるから、本件発明1と同様、「隣り合う導体間の距離が略同一」といえる。 イ 引用発明1の「第一のスパイラル線路3aの他端側」及び「第二のスパイラル線路3bの他端側」は、それぞれ「スパイラル形状の外形に沿って最後に巻回している部分」から絶縁層端部にかけて直線状に延設され、「延設された端部」が絶縁層端部で幅が広くなっていて「外部電極」と接続されることが認められるから、引用発明1の「前記第一のスパイラル線路3aの他端側」及び「第二のスパイラル線路3bの他端側」において、それぞれ「スパイラル形状の外形に沿って最後に巻回している部分」から「延設された端部」までは、本件発明1にいう「前記第1の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部」及び「前記第2の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部」に相当するといえる。 ウ 引用発明1の「第一および第二のスパイラル線路3a、3b」の「主たる線路部分は両者とも等しい一定の線幅・線間隔であり同一方向に巻回」され、「各層を積層した場合の電極パターンの上下の位置関係は図2の断面図に示す通り、スパイラル線路3aと3bは積層方向からみて大部分が重なるように配置」したものである。 また、図1(上から二番目の図参照)によれば、「第一のスパイラル線路3a」は、中心(「第一のパッド部7a」)から端辺と平行に各4本(図1の上から二番目の図において、中心から上下左右それぞれに4本)の線路が巻回されており、また、図1(上から三番目の図参照)によれば、「第二のスパイラル線路3b」は、中心(「第二のビア電極4b」、「第二のパッド部7b」)から、外部電極側の端辺(図1の上から三番目の図において、中心から上側の端辺)と平行に5本の線路が、そして他の三つの端辺(図1の上から三番目の図において、中心から下、左、右側の端辺)それぞれと平行に4本の線路が巻回されている。 そして、「前記第一のスパイラル線路3aの他端側は、スパイラル形状の外形に沿って最後に巻回している部分がそのまま絶縁層端部にかけて直線状に延設され、延設された端部は絶縁層端部で幅が広くなって」おり、「第二のスパイラル線路3bの他端側」は「スパイラル形状の外形に沿って最後に巻回している部分から90°屈曲した後、やはり絶縁層端部にかけて直線状に延設され、延設された端部は絶縁層端部で幅が広くなって」いる。 このような配置を実現するには、一応、次の配置が考えられる。 (ア)「前記第一のスパイラル線路3aの他端側」と「第二のスパイラル線路3bの他端側」との間において、「第一のスパイラル線路3a」の最外周と、「第二のスパイラル線路3b」の最外周(図1の2bにおいて中心から5本目)とが上面視にて重なる配置とし、「第一のスパイラル線路3aの他端側」を、「絶縁層端部にかけて直線状に」、最外周から約1周分の線間隔に相当する長さを延設する。 (イ)「前記第一のスパイラル線路3aの他端側」と「第二のスパイラル線路3bの他端側」との間において、「第一のスパイラル線路3a」の最外周と、「第二のスパイラル線路3b」の最外周から二本目の線路(図1の2bにおいて中心から4本目)とが上面視にて重なる配置とし、「第一のスパイラル線路3aの他端側」を、「絶縁層端部にかけて直線状に」、最外周から約2周分の線間隔に相当する長さを延設する。 しかしながら、引用発明1は、「折り返し部を持たない、かかる構成により、最後に巻回している部分から絶縁層端部にかけて結合していない線路の長さを短くした」とするものであり、図1(上から二番目及び三番目の図)の記載も参照すれば、上記(ア)の配置と解するのが自然である。 よって、引用発明1は、本件発明1と同様、「外部電極との接続部を除き、前記第1の渦巻き状導体の最外周と第2の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて少なくとも一部が完全に重なり、さらに前記第2の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と、前記第1の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部との間における前記第2の渦巻き状導体を、その前記最外周と前記第1の渦巻き状導体の前記最外周とが上面視にて重なるように配置」したものと認められる。 したがって、本件発明1と引用発明1とに相違はなく、本件発明1は引用発明1と同一である。 よって、本件発明1は、甲1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 3.取消理由通知に記載した取消理由2(特許法第29条第2項)について (1)本件発明7について ア 刊行物の記載 取消理由通知において引用した甲3号証(特開2002-373810号公報)には、図面とともに以下の記載がある(なお、下線は当審において付したものである。)。 (ア)「【0004】また、2個のコイル巻線で形状の異なる引出電極部及びコイル導体の外部電極接続部が全導体に対し占める比率が大きく、重ね合わせた各コイル巻線のインピーダンスの差が大きくなり、ノーマルモード特性にノイズ発生等の悪影響を与える。 【0005】本発明の第1の目的は、上記の点に鑑み、引出電極パターン部を形成せず薄膜形成工法による螺旋状導体薄膜の2層で対をなすコイル巻線をそれぞれ構成することで、容易に各コイル巻線の巻数増加ができ、高いインピーダンスを得ることを可能とし、対を成すコイル巻線同士で高い磁気結合を得ることが可能なチップ型コモンモードチョークコイルを提供することにある。」 (イ)「【0013】 【発明の実施の形態】以下、本発明に係るチップ型コモンモードチョークコイルの実施の形態を図面に従って説明する。 【0014】図1及び図2は本発明に係るチップ型コモンモードチョークコイルの第1の実施の形態を示す。実際の作製時は複数個のチップ型コモンモードチョークコイルを同時に基板上で作製するが、本実施の形態では1素子分で説明する。 【0015】図1及び図2に示すように、チップ型コモンモードチョークコイルは、絶縁基板1の主面上に、絶縁層と導体薄膜の積層構造で1対のコイル巻線11,12を形成したものであり、絶縁層2、第1のコイル巻線11の下層コイル導体としての螺旋状導体薄膜11a、絶縁層3、第2のコイル巻線12の下層コイル導体としての螺旋状導体薄膜12a、絶縁層4、第1のコイル巻線11の上層コイル導体としての螺旋状導体薄膜11b、絶縁層5、第2のコイル巻線12の上層コイル導体としての螺旋状導体薄膜12b、及び絶縁層6を順次設けている。そして、第1のコイル巻線11は、その下層及び上層コイル導体としての螺旋状導体薄膜11a,11bの直列接続で構成され、第2のコイル巻線12は、その下層及び上層コイル導体としての螺旋状導体薄膜12a,12bの直列接続で構成され、さらに第1のコイル巻線11を構成する2層の螺旋状導体薄膜11a,11bの層間に第2のコイル巻線12を構成する2層の螺旋状導体薄膜12a,12bのうちの一層(つまり薄膜12a)が介在している。 【0016】また、図2のように、外部電極(端子電極)20を絶縁基板1の側面部(一部は基板1の下面及び絶縁層6の上面に延長している)に形成している。 【0017】各螺旋状導体薄膜11a,11b,12a,12bは絶縁基板1の側面部に設けられる外部電極20に接続するための引出端部である外部電極取出部Y以外は螺旋状周回部Xとなっており、大部分が螺旋状周回部で形成されている。 【0018】前記絶縁層2,3,4,5上に設ける螺旋状導体薄膜11a,12a,11b,12bは薄膜形成工法で形成され、下層及び上層の螺旋状導体薄膜11a,11bは絶縁層3,4のスルーホール15a,15bを介し一端同士が接続され、他端が前記絶縁基板側面部の外部電極20にそれぞれ接続されている。同様に、下層及び上層の螺旋状導体薄膜12a,12bは絶縁層4,5のスルーホール16a,16bを介し一端同士が接続され、他端が前記絶縁基板側面部の外部電極20にそれぞれ接続されている。」 (ウ)「【0032】(1)対をなすコイル巻線11,12は、殆ど全て螺旋状に周回する螺旋状導体薄膜の2層でそれぞれ形成するため、容易に各コイル巻線の巻き数増加ができ、高いインピーダンスを得ることが可能となる。また、各導体幅を広くすることが可能となり高い磁気結合を得ることができる。 【0033】(2)一方のコイル巻線11を構成する2層の螺旋状導体薄膜11a,11bの層間に他方のコイル巻線12を構成する2層の螺旋状導体薄膜12a,12bのうちの一層が介在しており、これによっても対をなすコイル巻線同士間で高い磁気結合を得ることができる。」 (エ)「【0040】図5は本発明の第4の実施の形態であって、下側の磁性基板21に上側の磁性材22の一部が接合して図6のように閉磁路構造となっている場合を示す。この場合、製造手順は第3の実施の形態と同様であるが、異なる点は絶縁層2,3,4,5,6のパターン形状である。第3の実施の形態での各絶縁層形成領域に絶縁層開口部2a,3a,4a,5a,6aが互いに重なるように現像により形成され、上側の磁性材22を層状に形成したときに、絶縁層開口部2a,3a,4a,5a,6a内に磁性材22が入り込んで下側の磁性基板1に接合して閉磁路構造が形成される。ここで、対をなしたコイル巻線11,12(それぞれ2層の螺旋状導体薄膜の直列接続)のうち、各螺旋状導体薄膜11a,11b,12a,12bの螺旋状周回部Xの中心部及び当該螺旋状周回部Xの外周部で外部電極取出部Yよりも内側位置に前記開口部2a,3a,4a,5a,6aが位置しているから、結局、各コイル巻線11,12の巻き方向が揃った部分を囲むように閉磁路が構成される。 【0041】なお、上側の磁性材22として磁性基板を用いる場合、各絶縁層2乃至6の中央部及び外部電極取出部Yより内側の絶縁層開口部2a,3a,4a,5a,6aに磁性材を埋め込み上面より磁性基板を貼り付けた構造としてもよい。 【0042】この第4の実施の形態によれば、対をなしたコイル巻線11,12(螺旋状導体薄膜の直列接続)のうち、巻き方向の揃った螺旋状周回部Xを囲むように閉磁路が構成されるため、いっそう各コイル巻線によるインピーダンスを増加させることができる。」 (オ)図1、図2及び図5は以下のとおりである。 図1 図2 図5 したがって、甲3号証には以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。 「絶縁層と導体薄膜の積層構造で1対のコイル巻線11,12を形成したものであり、 絶縁層2、第1のコイル巻線11の下層コイル導体としての螺旋状導体薄膜11a、絶縁層3、第2のコイル巻線12の下層コイル導体としての螺旋状導体薄膜12a、絶縁層4、第1のコイル巻線11の上層コイル導体としての螺旋状導体薄膜11b、絶縁層5、第2のコイル巻線12の上層コイル導体としての螺旋状導体薄膜12b、及び絶縁層6を順次設け、 各螺旋状導体薄膜11a,11b,12a,12bは絶縁基板1の側面部に設けられる外部電極20に接続するための引出端部である外部電極取出部Y以外は螺旋状周回部Xとなっており、 第1のコイル巻線11は、その下層及び上層コイル導体としての螺旋状導体薄膜11a,11bの直列接続で構成され、下層及び上層の螺旋状導体薄膜11a,11bは絶縁層3,4のスルーホール15a,15bを介し一端同士が接続され、他端が前記絶縁基板側面部の外部電極20にそれぞれ接続され、 第2のコイル巻線12は、その下層及び上層コイル導体としての螺旋状導体薄膜12a,12bの直列接続で構成され、下層及び上層の螺旋状導体薄膜12a,12bは絶縁層4,5のスルーホール16a,16bを介し一端同士が接続され、他端が前記絶縁基板側面部の外部電極20にそれぞれ接続され、 対をなすコイル巻線11,12は、殆ど全て螺旋状に周回する螺旋状導体薄膜の2層でそれぞれ形成され、 第1のコイル巻線11を構成する2層の螺旋状導体薄膜11a,11bの層間に第2のコイル巻線12を構成する2層の螺旋状導体薄膜12a,12bのうちの一層(つまり薄膜12a)が介在し、 対をなすコイル巻線同士間で高い磁気結合を得ることができる、 チップ型コモンモードチョークコイル。」 イ 対比 本件発明7のうち請求項1を引用する発明(以下、「本件発明7」という。)と引用発明2とを対比する。 引用発明2の「絶縁層」、「第1のコイル巻線11」、「第2のコイル巻線12」、「螺旋状導体薄膜11a」、「螺旋状導体薄膜11b」、「螺旋状導体薄膜12a」、「螺旋状導体薄膜12b」及び「外部電極取出部Y」は、それぞれ本件発明7の「絶縁層」、「第1のコイル」、「第2のコイル」、「第1の渦巻き状導体」、「第3の渦巻き状導体」、「第2の渦巻き状導体」、「第4の渦巻き状導体」及び「外部電極との接続部」に相当する。 そして、引用発明2は、「絶縁層2」、「第1のコイル巻線11」の下層コイル導体としての「螺旋状導体薄膜11a」、「絶縁層3」、「第2のコイル巻線12」の下層コイル導体としての「螺旋状導体薄膜12a」、「絶縁層4」、「第1のコイル巻線11」の上層コイル導体としての「螺旋状導体薄膜11b」、「絶縁層5」、「第2のコイル巻線12」の上層コイル導体としての「螺旋状導体薄膜12b」、及び「絶縁層6」を順次設け、 「第1のコイル巻線11」は、「螺旋状導体薄膜11a」と「螺旋状導体薄膜11b」の「直列接続」で構成され、 「第2のコイル巻線12」は、「螺旋状導体薄膜12a」と「螺旋状導体薄膜12b」の「直列接続」で構成されるから、 本件発明7と同様、「絶縁層を介して互いに対向する第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体とを備え」、「第1の渦巻き状導体と直列接続され、前記第1の渦巻き状導体と第1のコイルを構成する第3の渦巻き状導体と、第2の渦巻き状導体と直列接続され、前記第2の渦巻き状導体と第2のコイルを構成する第4の渦巻き状導体を形成し、前記第3の渦巻き状導体と第4の渦巻き状導体を他の絶縁層を介して互いに対向する」ものといえる。 また、引用発明2は、第1のコイル巻線11を構成する2層の螺旋状導体薄膜11a,11bの層間に第2のコイル巻線12を構成する2層の螺旋状導体薄膜12a,12bのうちの一層を介在させ、対をなすコイル巻線同士を磁気結合させているから、本件発明7と同様に、「前記第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体とを磁気結合させ、前記第3の渦巻き状導体と第4の渦巻き状導体とを磁気結合させ」たものといえる。 したがって、本件発明7と引用発明2との一致点・相違点は、次のとおりである。 [一致点] 「絶縁層を介して互いに対向する第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体とを備えたコモンモードノイズフィルタであって、 第1の渦巻き状導体と直列接続され、前記第1の渦巻き状導体と第1のコイルを構成する第3の渦巻き状導体と、第2の渦巻き状導体と直列接続され、前記第2の渦巻き状導体と第2のコイルを構成する第4の渦巻き状導体を形成し、前記第3の渦巻き状導体と第4の渦巻き状導体を他の絶縁層を介して互いに対向するようにするとともに、 前記第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体とを磁気結合させ、前記第3の渦巻き状導体と第4の渦巻き状導体とを磁気結合させた、コモンモードノイズフィルタ。」 [相違点1] 本件発明7では、「前記第1の渦巻き状導体、第2の渦巻き状導体をそれぞれ構成する導体は、隣り合う導体間の距離が略同一であり」、「前記第3の渦巻き状導体、第4の渦巻き状導体をそれぞれ構成する導体は、隣り合う導体間の距離が略同一」であるのに対し、引用発明2では、その点が定かではない点 [相違点2] 本件発明7では、「外部電極との接続部を除き、前記第1の渦巻き状導体の最外周と第2の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて少なくとも一部が完全に重なり、さらに前記第2の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と、前記第1の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部との間における前記第2の渦巻き状導体を、その前記最外周と前記第1の渦巻き状導体の前記最外周とが上面視にて重なるように配置」し、 「外部電極との接続部を除き、前記第3の渦巻き状導体の最外周と第4の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて少なくとも一部が完全に重なり、さらに前記第4の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と、前記第3の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部との間における前記第4の渦巻き状導体を、その前記最外周と前記第3の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて重なるように配置」しているのに対し、引用発明2では、その点が定かではない点。 [相違点3] 本件発明7では、「前記一方のコイルを他方のコイルを構成する2つの渦巻き状導体で挟むように積層」しているのに対し、引用発明2では、一方のコイルを構成する2つの渦巻き状導体の層間に他方のコイルを構成する2つの渦巻き状導体のうちの一層が介在している点。 ウ.判断 (ア)相違点1について 引用発明2のような「チップ型コモンモードチョークコイル」では、これを構成する「コイル巻線(11,12)」の“線幅”、“間隔”、「螺旋状導体薄膜(11a,11b,12a,12b)」の“厚さ”、層間隔等によって、電気的若しくは電磁的特性が決まることは、例を示すまでもなく周知である。 そして、例えば、甲1号証には,「スパイラル線路3a、3bの主たる線路部分は両者とも等しい一定の線幅・線間隔であり同一方向に巻回している。図では線幅と巻線の線間隔は等しいが、異なってもよい。」との記載があることも考慮すると、相違点1のように「導体間の距離を略同一とする」ように構成することは、引用発明2のような「コイル」を、どのような特性を必要とするかに基づいて、当業者が適宜なしえた設計的事項に過ぎないことである。 (イ)相違点2について 引用発明1の「第一および第二のスパイラル線路3a、3b」の配置については、上記2(2)イ及びウのとおりであるから、外部電極との接続部を除き、対向する渦巻き状導体の最外周同志が上面視にて少なくとも一部が完全に重なり、さらに一方の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と、他方の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部との間における前記一方の渦巻き状導体を、その前記最外周と前記他方の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて重なるように配置したものといえる。 引用発明1と引用発明2とは、いずれも「コモンモードノイズフィルタ」に関する発明であって、引用発明2も、「容易に各コイル巻線の巻数増加ができ、高いインピーダンスを得ることを可能とし、対を成すコイル巻線同士で高い磁気結合を得ることが可能なチップ型コモンモードチョークコイルを提供すること」(段落5)をその課題としているところ、引用発明2に引用発明1を適用して対向する渦巻き状導体(「螺旋状導体薄膜11a」及び「螺旋状導体薄膜12a」、並びに、「螺旋状導体薄膜11b」及び「螺旋状導体薄膜12b」)を相違点2のように配置することは、当業者が容易に想到し得ることである。 また、相違点2のように配置することによる効果も、引用発明1及び2が奏する作用効果から予測し得る範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 (ウ)相違点3について 一方のコイルを他方のコイルを構成する2つの渦巻き状導体で挟むように積層することは、周知技術(例えば、実願平1-151664号(実開平3-88308号)のマイクロフィルム(特に、第2ページ第20行?第3ページ第6ページ、第5ページ第7行?第6ページ第13行、第14ページ第13行?第15ページ第7行、第5図)、特開平6-302443号公報(特に、要約の欄、図1)又は特開平6-215962号公報(特に、段落17及び図3)参照)であり、引用発明2において、相違点3に係る構成を採用することに格別の困難はない。 また、これによる効果も、予測し得る範囲内のものにすぎない。 (エ)小括 以上のとおりであって、本件発明7のように構成したことによる効果も、引用発明2、引用発明1及び周知技術から予測できる程度のものである。 したがって、本件発明7は、甲3号証に記載された発明、甲1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)本件発明1について 本件発明1は、本件発明7から請求項7に係る発明特定事項を省いたものであって、本件発明1と引用発明2とは、以下の点で相違する。 [相違点1] 本件発明1では、「前記第1の渦巻き状導体、第2の渦巻き状導体をそれぞれ構成する導体は、隣り合う導体間の距離が略同一」であるのに対し、引用発明2では、その点が定かではない点 [相違点2] 本件発明1では、「外部電極との接続部を除き、前記第1の渦巻き状導体の最外周と第2の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて少なくとも一部が完全に重なり、さらに前記第2の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と、前記第1の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部との間における前記第2の渦巻き状導体を、その前記最外周と前記第1の渦巻き状導体の前記最外周とが上面視にて重なるように配置」しているのに対し、引用発明2では、その点が定かではない点。 しかしながら、上記各相違点については、上記(1)ウ(ア)及び(イ)と同様の理由により、当業者が容易になし得たものである。 したがって、本件発明1は、甲3号証に記載された発明、甲1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)本件発明2及び本件発明4?6について 甲3号証には、第4の実施の形態として、図5とともに、「各絶縁層形成領域に絶縁層開口部2a,3a,4a,5a,6aが互いに重なるように現像により形成され、上側の磁性材22を層状に形成したときに、絶縁層開口部2a,3a,4a,5a,6a内に磁性材22が入り込んで下側の磁性基板1に接合して閉磁路構造が形成され」(段落40)ることが記載されている。 そうすると、該「磁性材22」は、絶縁層における螺旋状導体薄膜11a及び12aの内側にある絶縁層開口部2a、3aにも入り込んでいるといえる。 また、該内側の絶縁層開口部に入り込んだ磁性材部分は、上面視にてスルーホール15a、15bの位置と、スルーホール16a、16bの位置との間に形成されているといえる。 さらに、甲3号証の図2も参照すれば、次のことが認められる。 ア 上面視にてスルーホール15a、15bの位置、スルーホール16a、16bの位置及び上記「磁性材部分」が並ぶ方向と、外部電極20が形成された側面とが略平行であること、 イ 螺旋状導体薄膜11a及び12aの各最内周部分とスルーホール15a及び16aの各位置とをそれぞれ結ぶ線は、いずれも上記外部電極20が形成された側面と略直交すること。 してみると、本件請求項2及び請求項4?6に係る発明特定事項については、引用発明2に、上記第4の実施の形態の構成を採用することで、当業者が容易になし得るものである。 また、他の相違点については、上記(2)のとおりであり、該他の相違点に対する判断も、上記(2)のとおりである。 したがって、本件発明2及び本件発明4?6は、甲3号証に記載された発明、甲1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2及び請求項4?6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (4)本件発明3について 甲3号証の図1によれば、引用発明2において、螺旋状導体薄膜11aの一端は、外部電極との接続部に近い方のスルーホール15a、15bを介して螺旋状導体薄膜11bと接続され、螺旋状導体薄膜12aの一端は、外部電極との接続部に近い方のスルーホール16a、16bを介して螺旋状導体薄膜12bと接続されている。 そうすると、本件発明3と引用発明2との各相違点は、上記(2)のとおりであり、該各相違点に対する判断も、上記(2)のとおりである。 したがって、本件発明3は、甲3号証に記載された発明、甲1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (5)その他 請求項7に係る特許発明(請求項1を引用する請求項7に係る特許発明を除く。)についても、上記(1)?(4)のとおりであるから、甲3号証に記載された発明、甲1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (6)まとめ 以上より、請求項1?7に係る特許発明は、甲3号証に記載された発明、甲1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 4.むすび 以上のとおり、請求項1に係る特許発明は、甲1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 また、請求項1?7に係る特許発明は、甲3号証に記載された発明、甲1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、請求項1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 コモンモードノイズフィルタ 【技術分野】 【0001】 本発明は、デジタル機器やAV機器、情報通信端末等の各種電子機器に使用されるコモンモードノイズフィルタに関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来のこの種のコモンモードノイズフィルタは、図8、図9に示すように、積層された複数の絶縁体層1a?1gに形成された第1のコイル2と第2のコイル3とを有し、第1のコイル2は第1、第2の渦巻き状導体4a、4bを接続して構成され、第2のコイル3は第3、第4の渦巻き状導体5a、5bを接続して構成され、さらに、第1のコイル2を構成する渦巻き状導体4a、4bと第2のコイル3を構成する渦巻き状導体5a、5bを交互に配置した構成となっていた。 【0003】 このとき、第1、第2の渦巻き状導体4a、4bは第1のビア電極6を介して互いに接続し、第3、第4の渦巻き状導体5a、5bは第2のビア電極7を介して互いに接続しており、上面視にて第1のビア電極6と第2のビア電極7は異なる位置に配置していた。また、最下面に設けられた絶縁層1aと最上面に設けられた絶縁層1gは磁性材料で構成され、他の絶縁層1b?1fは非磁性材料で構成されていた。そして、他の絶縁層1b?1fにおける、第1?第4の渦巻き状導体4a、4b、5a、5bの渦巻きの内側にそれぞれ磁性材料からなる磁性部8が形成されていた。さらに、第1の渦巻き状導体4aと第3の渦巻き状導体5aとを上面視にて重なるようにして磁気結合させ、かつ第2の渦巻き状導体4bと第4の渦巻き状導体5bとを上面視にて重なるようにして磁気結合させて、コモンモードノイズを除去するようにしていた。 【0004】 なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】特開2002-373810号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 上記した従来のコモンモードノイズフィルタにおいては、互いに磁気結合する第1の渦巻き状導体4aの巻き数と第3の渦巻き状導体5aの巻き数を比較した場合、外部電極に接続される位置の差およびビア電極6、7に接続される位置の差によって、第1の渦巻き状導体4aの巻き数は第3の渦巻き状導体5aの巻き数より少なく、また同様に、第2の渦巻き状導体4bの巻き数が第4の渦巻き状導体5bの巻き数より少なくなるため、第1の渦巻き状導体4aと第3の渦巻き状導体5aとが上面視にて重なる部分、第2の渦巻き状導体4bと第4の渦巻き状導体5bとが上面視にて重なる部分の長さが短くなる。 【0007】 すなわち、図10に示すように、第3の渦巻き状導体5aの巻き数が約3ターンであるのに対し、第1の渦巻き状導体4aの巻き数は約2.5ターンとなっている。その結果、第1の渦巻き状導体4aと第3の渦巻き状導体5aとが上面視にて重なる長さは、巻き数が小さい方の第1の渦巻き状導体4aと略同じの約2.5ターンとなってしまう。ここで、図10の太い直線は第1の渦巻き状導体4aと第3の渦巻き状導体5aとが上面視にて重なる部分、破線は第3の渦巻き状導体5aのみの部分、点線は第1の渦巻き状導体4aのみの部分を示す。このことは、第2の渦巻き状導体4bと第4の渦巻き状導体5bとの 関係にも言える。 【0008】 さらに、巻き数の少ない第1の渦巻き状導体4aと第2の渦巻き状導体4bからなる第1のコイル2の長さは、巻き数の多い第3の渦巻き状導体5aと第4の渦巻き状導体5bからなる第2のコイル3の長さより短くなる。これらの結果、コモンモードインピーダンスを大きくすることができないため、コモンモードノイズの除去特性が向上しないという課題を有していた。 【0009】 本発明は上記従来の課題を解決するもので、コモンモードノイズの除去特性を向上させることができるコモンモードノイズフィルタを提供することを目的とするものである。 【課題を解決するための手段】 【0010】 上記目的を達成するために本発明は、以下の構成を有するものである。 【0011】 本発明の請求項1に記載の発明は、絶縁層を介して互いに対向する第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体と、前記絶縁層における第1、第2の渦巻き状導体の渦巻きの内側にそれぞれ形成された磁性材料からなる磁性部とを備え、前記第1の渦巻き状導体、第2の渦巻き状導体をそれぞれ構成する導体は、隣り合う導体間の距離が略同一であり、かつ、外部電極との接続部を除き、前記第1の渦巻き状導体の最外周と第2の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて少なくとも一部が完全に重なり、さらに前記第2の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と、前記第1の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部との間における前記第2の渦巻き状導体を、その前記最外周と前記第1の渦巻き状導体の前記最外周とが上面視にて重なるように配置したもので、この構成によれば、外部電極との接続部以外のほとんどの箇所で、第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体とを上面視にて重なるように位置させることができるため、第1の渦巻き状導体の巻き数と第2の渦巻き状導体の巻き数を略同一にすることができ、これにより、第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体とが上面視にて重なる部分の長さを長くすることができるため、第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体との磁気結合を強くすることができ、コモンモードノイズの除去特性を向上させることができるという作用効果を有するものである。 【0012】 本発明の請求項7に記載の発明は、第1の渦巻き状導体と直列接続され、前記第1の渦巻き状導体と第1のコイルを構成する第3の渦巻き状導体と、第2の渦巻き状導体と直列接続され、前記第2の渦巻き状導体と第2のコイルを構成する第4の渦巻き状導体を形成し、前記第3の渦巻き状導体と第4の渦巻き状導体を他の絶縁層を介して互いに対向するようにするとともに、前記一方のコイルを他方のコイルを構成する2つの渦巻き状導体で挟むように積層し、前記第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体とを磁気結合させ、前記第3の渦巻き状導体と第4の渦巻き状導体とを磁気結合させ、さらに、前記第3の渦巻き状導体、第4の渦巻き状導体をそれぞれ構成する導体は、隣り合う導体間の距離が略同一であり、かつ、外部電極との接続部を除き、前記第3の渦巻き状導体の最外周と第4の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて少なくとも一部が完全に重なり、さらに前記第4の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と、前記第3の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部との間における前記第4の渦巻き状導体を、その前記最外周と前記第3の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて重なるように配置したもので、この構成によれば、第1、第2のコイルの導体長さを長くすることができるため、よりコモンモードノイズの除去特性を向上させることができるという作用効果を有するものである。 【発明の効果】 【0013】 以上のように本発明のコモンモードノイズフィルタは、第1の渦巻き状導体、第2の渦巻き状導体をそれぞれ構成する導体は、隣り合う導体間の距離が略同一であり、かつ、第1の渦巻き状導体の最外周と第2の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて略重なるように配置しているため、第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体とを上面視にて略重なるように位置させることができ、これにより、第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体とが上面視にて重なる部分の長さを長くすることができるため、コモンモードノイズの除去特性を向上させることができるという優れた効果を奏するものである。 【図面の簡単な説明】 【0014】 【図1】本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタの分解斜視図 【図2】同コモンモードノイズフィルタの斜視図 【図3】同コモンモードノイズフィルタの等価回路図 【図4】同コモンモードノイズフィルタの主要部(第2の渦巻き状導体)の上面図 【図5】同コモンモードノイズフィルタの主要部(第1の渦巻き状導体)の上面図 【図6】同コモンモードノイズフィルタの主要部(第1、第2の渦巻き状導体)の上面透過図 【図7】同コモンモードノイズフィルタの他の例を示す分解斜視図 【図8】従来のコモンモードノイズフィルタの分解斜視図 【図9】同コモンモードノイズフィルタの積層方向の導体位置及び接続を示す模式図 【図10】同コモンモードノイズフィルタの主要部の上面透過図 【発明を実施するための形態】 【0015】 図1は本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタの分解斜視図、図2は同コモンモードノイズフィルタの斜視図である。 【0016】 本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタは、図1に示すように、第1?第5の絶縁体層11a?11eと、第1の絶縁体層11aに形成された第1の渦巻き状導体12、および第3の絶縁体層11cに形成された第3の渦巻き状導体13からなる第1のコイル14と、第2の絶縁体層11bに形成された第2の渦巻き状導体15、および第4の絶縁体層11dに形成された第4の渦巻き状導体16からなる第2のコイル17とを備え、前記第1の渦巻き状導体12、第2の渦巻き状導体15、第3の渦巻き状導体13、第4の渦巻き状導体16の順に積層したものである。さらに、第1の渦巻き状導体12、第2の渦巻き状導体15をそれぞれ構成する導体は、隣り合う導体間の距離が略同一であり、かつ、外部電極との接続部を除き、第1の渦巻き状導体12の最外周と第2の渦巻き状導体15の最外周とが上面視にて重なるように配置し、そして、第3の渦巻き状導体13、第4の渦巻き状導体16をそれぞれ構成する導体は、隣り合う導体間の距離が略同一であり、かつ、外部電極との接続部を除き、第3の渦巻き状導体13の最外周と第4の渦巻き状導体16の最外周とが上面視にて重なるように配置している。 【0017】 また、第2の絶縁層11bを介して対向する第1の渦巻き状導体12と第2の渦巻き状導体15とを磁気結合させ、さらに第4の絶縁層11dを介して対向する第3の渦巻き状導体13と第4の渦巻き状導体16とを磁気結合させて、コモンモードノイズを除去するようにしている。 【0018】 上記構成において、第1?第5の絶縁体層11a?11eは、下から第1の絶縁体層11a、第2の絶縁体層11b、第3の絶縁体層11c、第4の絶縁体層11d、第5の絶縁体層11eの順に積層され、また、Cu-Znフェライト、ガラスセラミック等の非磁性材料によりシート状に構成されている。 【0019】 さらに、前記第1?第4の渦巻き状導体12、15、13、16は、それぞれ銀等の導電材料を渦巻状にめっきまたは印刷することにより形成されている。そして、第1の渦巻き状導体12は第1の絶縁体層11aの上面、第2の渦巻き状導体15は第2の絶縁体層11bの上面、第3の渦巻き状導体13は第3の絶縁体層11cの上面、第4の渦巻き状導体16は第4の絶縁体層11dの上面にそれぞれ形成されている。すなわち、第1のコイル14を構成する渦巻き状導体と第2のコイル17を構成する渦巻き状導体を交互に積層し、従来の図8に示された構成と同じ積層構造となっている。 【0020】 また、第1の渦巻き状導体12と第3の渦巻き状導体13とは、第2の絶縁体層11b、第3の絶縁体層11cにそれぞれ形成された2つの第1のビア電極18を介して互いに直列に接続され、第1のコイル14が構成される。さらに、第2の渦巻き状導体15と第4の渦巻き状導体16とは、第3の絶縁体層11c、第4の絶縁体層11dに形成された2つの第2のビア電極19を介して互いに直列に接続され、第2のコイル17が構成される。そして、第1の渦巻き状導体12と第2の渦巻き状導体15は同じ導体間距離を有し、第3の渦巻き状導体13と第4の渦巻き状導体16は同じ導体間距離を有している。 【0021】 なお、第1のビア電極18はそれぞれ上面視にて同じ位置に設けられ、第2のビア電極19もそれぞれ上面視にて同じ位置に設けられている。また、第1のビア電極18、第2のビア電極19は、絶縁体層の所定の箇所に、レーザまたはパンチング機等により孔あけ加工をし、この孔に銀を充填して形成する。このとき、第1のビア電極18と第2のビア電極19は、上面視にて異なる位置に設けられ、第1?第4の渦巻き状導体12、15、13、16の渦巻きの内側に位置する。 【0022】 そして、第1の絶縁体層11aの下面、第5の絶縁体層11eの上面に、それぞれ第6の絶縁体層20が設けられているもので、この第6の絶縁体層20は、シート状に構成され、Ni-Cu-Znフェライト等の磁性材料で形成されている。なお、第1?第6の絶縁体層11a?11e、20の枚数は、図1に示された枚数に限られるものではない。 【0023】 また、第1のコイル14と第2のコイル17の磁気結合をより強くするために、非磁性材料で構成された第1?第5の絶縁体層11a?11eにおける、第1?第4の渦巻き状導体12、15、13、16の渦巻きの内側にそれぞれ磁性材料からなる磁性部21を、上面視にて互いに同じ位置になるように設けるようにする(第5の絶縁体層11eの磁性部21は、上の第6の絶縁体層20に隠れている)。そして、この磁性部21は、第1?第5の絶縁体層11a?11eの所定の箇所に、レーザまたはパンチング機等により孔あけ加工をし、この孔にNi-Cu-Znフェライト等の磁性材料を充填して形成する。このとき、第1のビア電極18、第2のビア電極19と磁性部21とは互いに上面視にて接触しないようにするとともに、第1のビア電極18と第2のビア電極19が磁性部21を挟むように位置させる。 【0024】 そして、上記した構成により、コモンモードノイズフィルタの本体部22が形成される。また、この本体部22の両側面には、図2に示すように、第1?第4の外部電極23?26が設けられ、そしてこの第1?第4の外部電極23?26はそれぞれ第1?第4の渦巻き状導体12、15、13、16と接続されている。さらに、前記第1?第4の外部電極23?26は、本体部22の端面に銀を印刷することにより形成され、またこれらの表面にめっきによってニッケルめっき層を形成するとともに、このニッケルめっき層の表面にめっきによってすずやはんだ等の低融点金属めっき層を形成する。 【0025】 図3は、上記した本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタの等価回路図である。 【0026】 図3からも明らかなように、第1の外部電極23および第2の外部電極24から入ってくるコモンモードノイズに対して、第1の渦巻き状導体12と第2の渦巻き状導体15とが磁気結合し、第3の渦巻き状導体13と第4の渦巻き状導体16とが磁気結合して、コモンモードノイズを除去できる。 【0027】 ここで、図4は、上面視したときの第2の渦巻き状導体15を示し、図5は、上面視したときの第1の渦巻き状導体12を示し、図6は、上面視したときの第1の渦巻き状導体12および第2の渦巻き状導体15を示している。なお、図6においては、直線は第1の 渦巻き状導体12と第2の渦巻き状導体15とが上面視にて重なっている箇所、破線は第2の渦巻き状導体15のみの箇所、点線は第1の渦巻き状導体12のみの箇所を表す。また、上面視にて第1のビア電極18、第2のビア電極19に対応する箇所も同時に示す。 【0028】 このように、外部電極23、24との接続箇所12a、15aを除き、第1の渦巻き状導体12の最外周が第2の渦巻き状導体15の最外周と略重なるようになっている。また、第1の渦巻き状導体12、第2の渦巻き状導体15をそれぞれ構成する導体は、隣り合う導体間の距離が略同一であるため、第1の渦巻き状導体12の外から2周目と、第2の渦巻き状導体15の外から2周目とが上面視にて略重なり、第1の渦巻き状導体12の外から3周目と、第2の渦巻き状導体15の外から3周目とが上面視にて略重なるという具合になっている。 【0029】 なお、図5からも分かるように、第1の渦巻き状導体12の外部電極23との接続箇所12aは、その内側に位置する導体部12bとの距離が近くその形成スペースが限定されてしまうが、この接続箇所12a付近の導体の形状を曲線状にすれば、接続箇所12aを形成できるスペースを確保できる。 【0030】 上記したように本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタにおいては、第1の渦巻き状導体12、第2の渦巻き状導体15をそれぞれ構成する導体は、隣り合う導体間の距離が略同一であり、かつ、第1の渦巻き状導体12の最外周と第2の渦巻き状導体15の最外周とが上面視にて略重なるように配置しているため、外部電極23、24との接続部12a、15a以外のほとんどの箇所で、第1の渦巻き状導体12と第2の渦巻き状導体15とを上面視にて重なるように位置させることができ、これにより、第1の渦巻き状導体12の巻き数と第2の渦巻き状導体15の巻き数を略同一にすることができるため、第1の渦巻き状導体12と第2の渦巻き状導体15とが上面視にて重なる部分の長さを長くすることができ、これにより、第1の渦巻き状導体12と第2の渦巻き状導体15との磁気結合を強くすることができ、さらに、第1の渦巻き状導体12の長さを第2の渦巻き状導体15の長さと略同一にでき、これらの結果、コモンモードインピーダンスを大きくすることができないため、コモンモードノイズの除去特性を向上させることができるという効果が得られるものである。 【0031】 すなわち、図5に示すように、第1の渦巻き状導体12の最外周を第2の渦巻き状導体15の最外周に重なるように外側に1ターン分ずらし、さらに2つのビア電極18、19に対応する部分のうち、外部電極23との接続部12aと長手方向において近い方と接続させるようにすることにより、第1の渦巻き状導体12の巻き数を、第2の渦巻き状導体15の巻き数と略等しい約3ターンとすることができる。つまり、第1の渦巻き状導体12の巻き数(長さ)は、従来の構成のときの約2.5ターンから約3ターンへと巻き数を多くする(長くする)ことができる。さらに、第1の渦巻き状導体12の巻き数が約2.5ターンの場合では、第2の渦巻き状導体15と上面視にて重なる巻き数は、少ない方の約2.5ターンとなってしまうが、第1の渦巻き状導体12の巻き数を約3ターンへと多くしたことにより、第1の渦巻き状導体12と第2の渦巻き状導体15とが上面視にて重なる部分の長さを約3ターンへと長くすることができる。 【0032】 このとき、図10に示すように、渦巻き状導体4aの長さを長くするために、渦巻き状導体5aと同じように内側にもう1周導体を形成し、さらにビア電極6と延長導体4cで示す経路で接続される場合が考えられる。なお、図10においては、延長導体4cは細い直線で図示され上面視で渦巻き状導体5aと重なっているが、便宜上ずらして図示している。このとき、延長導体4cとビア電極7、磁性部8との距離が狭くなるため、渦巻き状導体4aのパターンずれ等の工程ばらつきによって、内側の延長導体4cは磁性部8やビア電極7と短絡するおそれがあり、そして、渦巻き状導体と磁性部8とが短絡すると、デ ィファレンシャル信号のインピーダンスが高くなって信号が劣化し、延長導体4c、つまり渦巻き状導体4aとビア電極7とが短絡すると、コモンモードフィルタとして機能しなくなってノイズ除去ができないうえ、ディファレンシャル信号も著しく劣化してしまう。したがって、渦巻き状導体をさらに内側に形成できないという制約条件が存在することになり、渦巻き状導体4aの巻き数を増やし、コモンモードインピーダンスを増やしてコモンモードノイズ除去特性を向上させることができない。これに対し、本発明は、第1の渦巻き状導体12の最外周を第2の渦巻き状導体15の最外周と上面視にて略重なるように配置することで、この制約条件にもかかわらず、第1の渦巻き状導体12の長さを長くすることができ、第1の渦巻き状導体12と第2の渦巻き状導体15とが上面視にて重なる部分の長さを長くなるようにすることができる。 【0033】 また、上記のような構成にすると、第1の渦巻き状導体12と第2の渦巻き状導体15とが上面視にて重なる部分の長さを長くできることから、製品が小型化されてスペースが限られても、渦巻き状導体の巻き数を容易に多くすることができる。 【0034】 そして、第1の渦巻き状導体12と第2の渦巻き状導体15のコイルの線路長を略同じにしているため、第1の渦巻き状導体12と第2の渦巻き状導体15を通過する信号間の位相差が発生し位相バランスが崩れてディファレンシャル信号が劣化するようなこともない。 【0035】 なお、第3の渦巻き状導体13、第4の渦巻き状導体16も、第1の渦巻き状導体12、第2の渦巻き状導体15と同様の構成にしていることによって、第3の渦巻き状導体13と第1の渦巻き状導体12とで形成される第1のコイル14、第4の渦巻き状導体16と第2の渦巻き状導体15とで形成される第2のコイル17についても、上記と同じ効果を得ることができ、さらに、導体長さを長くすることができるため、よりコモンモードノイズの除去特性を向上させることができる。また、第1のコイル14の巻き数と第2のコイル17の巻き数を略同一にすることができるため、導体長の違いにより信号間の位相差が発生し位相バランスが崩れることによるディファレンシャル信号の劣化が発生することはない。 【0036】 そしてまた、第1のコイル14を構成する渦巻き状導体と第2のコイル17を構成する渦巻き状導体を交互に積層するのではなく、図7に示すように、第1のコイル14を構成する第1の渦巻き状導体12と第3の渦巻き状導体13との間に、第2のコイル17を構成する第2の渦巻き状導体15、第4の渦巻き状導体16を積層してもよく、この場合も、第1のコイル14、第2のコイル17の導体長さを長くすることができる。また、積層方向に隣り合うこれらの渦巻き状導体15、16が同電位となるため、積層方向に隣り合う渦巻き状導体15、16間で浮遊容量は発生せず、これにより、浮遊容量によって特性インピーダンスが低下するのを防止できるため、規定の特性インピーダンスが得られるという効果が得られるものである。 【0037】 このとき、第1の渦巻き状導体12と第3の渦巻き状導体13とは、第2の絶縁体層11b?第4の絶縁体層11dにそれぞれ形成された3つの第1のビア電極18を介して互いに接続し、第1のコイル14を構成する。さらに、第2の渦巻き状導体15と第4の渦巻き状導体16とは、第3の絶縁体層11cに形成された1つの第2のビア電極19を介して互いに接続し、第2のコイル17を構成する。そして、その等価回路は図3と同じになっている。 【0038】 なお、上記した本発明の一実施の形態においては、第1のコイル14、第2のコイル17をそれぞれ1つ設けたものについて説明したが、2つ以上設けてアレイタイプとしてもよい。 【0039】 また、第1、第2のコイル14、17をそれぞれ構成する渦巻き状導体を2つとし、4つの渦巻き状導体を積層したものについて説明したが、第1、第2のコイル14、17をそれぞれ構成する渦巻き状導体を3つ以上とし、6つ以上の渦巻き状導体を積層するようにしてもよい。この場合も、上記実施の形態と同様の構成を採用すれば、コモンモードノイズの除去特性を向上させることができるという効果を得ることができる。 【0040】 さらに、第1?第4の渦巻き状導体12、15、13、16の巻き数が約3ターンのものについて説明したが、他のターン数のものであってもよい。 【産業上の利用可能性】 【0041】 本発明に係るコモンモードノイズフィルタは、コモンモードノイズの除去特性を向上させることができるという効果を有するものであり、特にデジタル機器やAV機器、情報通信端末等の各種電子機器のノイズ対策として使用されるコモンモードノイズフィルタ等において有用となるものである。 【符号の説明】 【0042】 11a?11e 第1?第5の絶縁体層 12 第1の渦巻き状導体 13 第3の渦巻き状導体 14 第1のコイル 15 第2の渦巻き状導体 16 第4の渦巻き状導体 17 第2のコイル 21 磁性部 23?26 第1?第4の外部電極 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 絶縁層を介して互いに対向する第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体とを備え、前記第1の渦巻き状導体、第2の渦巻き状導体をそれぞれ構成する導体は、隣り合う導体間の距離が略同一であり、かつ、外部電極との接続部を除き、前記第1の渦巻き状導体の最外周と第2の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて少なくとも一部が完全に重なり、さらに前記第2の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と、前記第1の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部との間における前記第2の渦巻き状導体を、その前記最外周と前記第1の渦巻き状導体の前記最外周とが上面視にて重なるように配置したコモンモードノイズフィルタ。 【請求項2】 前記絶縁層における第1、第2の渦巻き状導体の渦巻きの内側にそれぞれ磁性材料からなる磁性部が形成された請求項1に記載のコモンモードノイズフィルタ。 【請求項3】 前記第1、第2の渦巻き状導体と接続されたビア電極のうち、前記第1の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と近い方と前記第1の渦巻き状導体とが接続され、前記第2の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と近い方と前記第2の渦巻き状導体とが接続された請求項1に記載のコモンモードノイズフィルタ。 【請求項4】 上面視にて前記第1の渦巻き状導体と接続されたビア電極と、前記第2の渦巻き状導体と接続されたビア電極とで、前記磁性部を挟むようにした請求項2に記載のコモンモードノイズフィルタ。 【請求項5】 上面視にて前記第1の渦巻き状導体と接続されたビア電極、前記第2の渦巻き状導体と接続されたビア電極、および前記磁性部が並ぶ方向を、本体部の前記外部電極が形成された側面と略平行になるようにした請求項4に記載のコモンモードノイズフィルタ。 【請求項6】 上面視にて前記第1、第2の渦巻き状導体の最内周部分と、前記ビア電極とを結ぶ線が、前記本体部の前記外部電極が形成された側面と略直交するようにした請求項4に記載のコモンモードノイズフィルタ。 【請求項7】 第1の渦巻き状導体と直列接続され、前記第1の渦巻き状導体と第1のコイルを構成する第3の渦巻き状導体と、第2の渦巻き状導体と直列接続され、前記第2の渦巻き状導体と第2のコイルを構成する第4の渦巻き状導体を形成し、前記第3の渦巻き状導体と第4の渦巻き状導体を他の絶縁層を介して互いに対向するようにするとともに、前記一方のコイルを他方のコイルを構成する2つの渦巻き状導体で挟むように積層し、前記第1の渦巻き状導体と第2の渦巻き状導体とを磁気結合させ、前記第3の渦巻き状導体と第4の渦巻き状導体とを磁気結合させ、さらに、前記第3の渦巻き状導体、第4の渦巻き状導体をそれぞれ構成する導体は、隣り合う導体間の距離が略同一であり、かつ、外部電極との接続部を除き、前記第3の渦巻き状導体の最外周と第4の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて少なくとも一部が完全に重なり、さらに前記第4の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部と、前記第3の渦巻き状導体の前記外部電極との接続部との間における前記第4の渦巻き状導体を、その前記最外周と前記第3の渦巻き状導体の最外周とが上面視にて重なるように配置した請求項1?6のいずれかに記載のコモンモードノイズフィルタ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-05-25 |
出願番号 | 特願2011-116574(P2011-116574) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
ZAA
(H03H)
P 1 651・ 121- ZAA (H03H) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 橋本 和志 |
特許庁審判長 |
近藤 聡 |
特許庁審判官 |
北岡 浩 水野 恵雄 |
登録日 | 2015-12-11 |
登録番号 | 特許第5849241号(P5849241) |
権利者 | パナソニックIPマネジメント株式会社 |
発明の名称 | コモンモードノイズフィルタ |
代理人 | 鎌田 健司 |
代理人 | 鎌田 健司 |
代理人 | 藤井 兼太郎 |
代理人 | 前田 浩夫 |
代理人 | 前田 浩夫 |
代理人 | 藤井 兼太郎 |