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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02F
管理番号 1332495
審判番号 不服2017-648  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-17 
確定日 2017-10-03 
事件の表示 特願2014-505346「ピストンの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月18日国際公開、WO2012/142433、平成26年 7月17日国内公表、特表2014-517186、請求項の数(26)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)4月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年4月15日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年10月11日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成25年11月7日に同法第184条の4第1項に規定する翻訳文が提出され、平成28年1月29日付けで拒絶理由が通知され、平成28年5月9日付けで手続補正がされ、平成28年9月14日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年1月17日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その審判請求と同時に手続補正がされ、平成29年3月7日に前置報告がされ、平成29年5月23日に上申書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年9月14日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.本願請求項27ないし31に係る発明は、以下の引用文献1に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)請求項27ないし28について
引用文献1(特に請求項1、【0028】、【0030】を参照)に記載された発明には、ピストンピン穴等を機械加工された面とし、ピストンクラウン1の燃焼室面1a(本願の「燃焼ボウル」に相当)を機械加工されていない鋳肌面とするピストンが開示されている。
また、引用文献1の図1及び【0026】を参照すれば、引用文献1に記載された発明のピストンクラウン1の頂面は燃焼室面1aの外周側に「トップ面」を有していることが見て取れる。
本願の請求項27ないし28に係る発明と引用文献1に記載された発明とは、引用文献1に記載された発明には、トップ面を「機械加工されていない」「鋳造されたままの状態」とすることの開示がない点で相違し、その他の点で一致する。
しかしながら、ピストンクラウンのトップ面も内燃機関の運転時に大きな負荷を受けることは技術常識であり、燃焼室面1aとともにピストンクラウンの頂面を構成するトップ面をも機械加工されていない鋳肌面とすることは、当業者が適宜なし得る設計変更の範ちゅうであって、当業者が容易になし得たことである。

(2)請求項29ないし31について
本願の請求項29ないし31に係る発明について、燃焼ボウルの具体的な形状に格別な点は認められず、当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎない。

2.本願請求項1ないし31に係る発明は、以下の引用文献1及び2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)請求項1について
引用文献2(特に請求項1、【0016】ないし【0024】、【0027】ないし【0028】及び図1ないし図8を参照)に記載された発明の「第1の部分12」及び「第2の部分14」は、それぞれ本願の「上部冠状部材」及び「下部冠状部材」に相当する。
本願の請求項1に係る発明と引用文献2に記載された発明は、次の点で相違しその他の点で一致する。
[相違点1]引用文献2に記載された発明が最初に準備する第1の部分12は、燃焼ボウル18を「最終形状に鋳造」することの開示がない点。
[相違点2]引用文献2に記載された発明には、「少なくとも1つの後続の機械加工作業のために、前記上部冠部状材の前記トップ面または前記燃焼ボウルの一部分を基準面として確定するステップ」について開示されていない点。

上記相違点1に係る技術的事項は、引用文献1に記載された発明に開示されており、引用文献2に記載された発明に引用文献1に記載された発明を適用することは当業者が容易になし得たことである。引用文献2の【0021】の「第1の部分12を第2の部分14に溶接する前に、第1の部分は好ましくは機械加工され」との記載は、機械加工が不要な場合に鋳肌面のまま使用することを阻害するものではない。

上記相違点2について、機械加工の技術分野において被加工物に基準面を定めることは技術常識であり、基準面をどこに定めるかは当業者が適宜設定し得る設計的事項であるし、ピストンの製造方法としても基準面を「トップ面または前記燃焼ボウルの一部分」に特定することによって格別有利な効果を奏するとは認められない。

(2)請求項2ないし4、及び6ないし17について
請求項2ないし4、及び6ないし26において特定される技術的事項は、引用文献2に記載されているか、当業者が適宜なし得る設計的事項の範ちゅうである。

(3)請求項5について
引用文献1の【0028】には、特に大きな負荷を受ける部位を鋳肌面とすることが記載されている。そして、ピストンのトップ面も大きな負荷を受けることは技術常識であるから、燃焼室及びトップ面を鋳肌面とすることは当業者が適宜なし得る設計変更の範ちゅうである。

(4)請求項18ないし22について
請求項1ないし17について行った検討と同様、技術常識に照らして引用文献1及び2に記載された発明から当業者が容易になし得たことである。
また、引用文献1及び2には、ともに内燃機関用のエンジンであることが記載されており、ディーゼルエンジン用とするかどうかも単なる設計的事項である。

(5)請求項23ないし26について
請求項1ないし17について行った検討と同様、技術常識に照らして引用文献1及び2に記載された発明から当業者が容易になし得たことである。

(6)請求項27ないし31について
ピストンという「物の発明」としてみても、引用文献1及び2に記載された発明の形状・構造を組み合わせて当業者が容易になし得たことであり、格別な点は認められない。

引用文献等一覧
1.特開2007-85224号公報
2.特表2007-524512号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって補正前の請求項1の「最終形状に鋳造された燃焼ボウルと最終形状の前記燃焼ボウルに隣接するトップ面とを有する」との事項を「最終形状に鋳造された燃焼ボウルと、最終形状に鋳造されかつ前記燃焼ボウルに隣接するトップ面とを有する」という事項とする補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、これらの事項は当初明細書の段落【0012】及び【0013】に記載されているから、当初明細書等に記載された事項であり、新規事項を追加するものではないといえる。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1ないし26に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1ないし26に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明26」という。)は、平成29年1月17日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし26に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
ピストンを製造する方法であって:
最終形状に鋳造された燃焼ボウルと、最終形状に鋳造されかつ前記燃焼ボウルに隣接するトップ面とを有する鋳造された単一部品の上部冠状部材を準備するステップ;
前記上部冠状部材から分離された別個の部品としての下部冠状部材を準備するステップ;
前記上部冠状部材および前記下部冠状部材を結合するステップ;
少なくとも1つの後続の機械加工作業のために、前記上部冠部状材の前記トップ面または前記燃焼ボウルの一部分をピストンを位置決めする基準面として確定するステップ;および
前記基準面に基づいて、前記トップ面および前記燃焼ボウル以外の、結合された前記上部冠状部材および下部冠状部材の少なくとも一部分を機械加工するステップを備える、方法。」
「【請求項18】
ディーゼル燃料式エンジンのためのピストンを形成する方法であって;
各々が最終形状に鋳造された燃焼ボウルとトップ面とを含む鋳造された第1の冠状部を準備するステップを備え、前記燃焼ボウルは旋盤処理による機械加工ができない少なくとも1つの不揃い部を有し;
前記第1の冠状部とは別の構成要素としてスカートを含む第2の冠状部を準備するステップを備え、前記スカートはピンボアと底面とを含み;
一体化されたピストンを形成するために、前記第1の冠状部の前記トップ面が前記スカートの前記底面とは反対方向に向いて、前記第1の冠状部および第2の冠状部を結合するステップ;
前記トップ面または前記燃焼ボウルの一部分をピストンを位置決めする第1の基準面として確定するステップ;
前記第1の基準面に基づき、少なくとも1つの環状溝と前記少なくとも1つの環状溝に隣接する少なくとも1つのランドとを形成するために、前記ピストンの外側面を機械加工するステップ;
前記スカートの底面をピストンを位置決めする第2の基準面として確定するステップ;
前記第2の基準面に基づき、前記少なくとも1つの環状溝と前記少なくとも1つのランドとを機械加工するステップ;
前記トップ面または前記燃焼ボウルの一部分をピストンを位置決めする第3の基準面として確定するステップ;および
前記第3の基準面に基づき前記スカートの前記ピンボアを機械加工するステップを備える、方法。」
「【請求項23】
ピストンを製造する方法であって;
鋳造されたままのトップ面および鋳造されたままの燃焼ボウルを有する鋳造された上部冠状体を含むピストン未完成品を準備するステップ;および
前記鋳造されたままのトップ面または前記鋳造されたままの燃焼ボウルをピストンを位置決めする基準面として確定し、つぎに前記鋳造されたままのトップ面または前記鋳造されたままの燃焼ボウル以外の、前記ピストンの少なくとも一部分を機械加工することによって前記ピストンを機械加工するステップを備える、方法。」
また、本願請求項2ないし17は、本願請求項1のすべての発明特定事項を含み、本願請求項19ないし22は、本願請求項18のすべての発明特定事項を含み、本願請求項24ないし26は、本願請求項23のすべての発明特定事項を含むものである。

第5 刊行物
1. 刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(特表2007-524512号公報)(原査定における引用文献2)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0017】
示される実施例では、ピストン10は、第1の部分12および第2の部分14を含む。・・・第1および第2の部分は鋳造、鍛造されてもよく、粉末金属から製造されてもよく、または金属部分を作るためのその他のプロセスであってもよい。」(段落【0017】)

イ 「【0019】
第1の部分12は、燃焼ボウル18および任意に1つ以上のバルブポケット20を有して形成される上部壁16を有する。燃焼ボウル18は、ピストン10の長手方向の軸Aを中心に対称形である場合もあれば、特定の用途によって要求されれば、示されるように非対称形である場合もある。・・・バルブポケット20および燃焼ボウル18は、下部部分14に対して特定の位置または向きを有するように形成され、そのため、このような非対称形の機能がピストン10にもたらされる場合、下部部分14に対するバルブポケット20の角位置および燃焼ボウルの位置18はピストン10の動作に極めて重要である。」(段落【0019】)

ウ 「【0021】
第1の部分12を第2の部分14に溶接する前に、第1の部分は好ましくは機械加工され、さらに好ましくは、燃焼ボウル18と、任意のバルブポケット20と、接合面26、28と、内壁22および外壁24の間に配置され、接合面26、28から上部壁16に向けて燃焼ボウル18の外側に上方向に延在する環状冷却ギャラリーの窪み30と、内壁22の径方向に内側に延在する内部ドーム32とに最終仕上された面をもたらすように最終機械加工される。以下に記載されるように、ピストン10は外側リングベルト24に一連のリング溝を有して形成されるが、このようなリング溝は好ましくは、説明されるように接合後にピストン10の中に機械加工される。」(段落【0021】)

エ 刊行物1の図1のピストン上面の構造からみて、刊行物1記載のピストンは燃焼ボウル18の外側に「トップ面」を有していることが看取できる。

オ 上記アないしウの記載から、第1の部分12を含むピストン未完成品を準備することが分かる。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合して、本願発明23に則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「ピストンを製造する方法であって;
トップ面および燃焼ボウル18を有し、鋳造などにより製造された第1の部分12を含むピストン未完成品を準備するステップ;および
前記ピストンを機械加工するステップを備える、方法。」

2. 刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2(特開2007-85224号公報)(原査定における引用文献1)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0002】
従来、内燃機関用ピストン(以下、単に「ピストン」と略称する)は、JIS AC8AなどのAl-Si系合金を用いて重力鋳造製法により製造されていたが、近年のエンジン高出力化に伴い、疲労強度と耐摩耗性の更なる向上を図ってSi,Cu,Ni,Mnなどの添加元素の含有量を増加させる傾向にある。そのような添加元素の中でもSiは、11重量%以上添加することによって過共晶組織を生成し、粒状で硬い初晶Siが晶出することにより耐摩耗性が向上することから、高出力エンジン用ピストンのAl合金に広く採用されている。
【0003】
しかしながら、Al-高Si合金では、粗大な初晶Siが鋳造時に晶出し、この初晶Siが疲労破壊の起点となって疲労強度が低下する。また、局所的な組織の不均一を生じて硬さのばらつきが大きくなり、軟化した部分での耐摩耗性の低下や硬化した部分での加工性の悪化を招くといった欠点があった。」(段落【0002】及び【0003】)

イ「【0005】
ところで、ピストンの機能は、燃焼圧力容器の形成、燃焼圧力の保持、および燃焼圧力の伝達であり、その機能を発揮するために、内燃機関用ピストンは、その部位によって異なる特性が要求されている。代表的なピストンの要求特性として以下の2点が挙げられる。
(1)トップリング溝やピン穴など、摺動部における耐摩耗性。
(2)ピストン燃焼室面、ピンボスリブ、ピンボス部の下部の外周面、スカートリブなど、燃焼圧や慣性力によって大きな応力負荷を受ける部位における高疲労強度。」(段落【0005】)

ウ 「【0006】
ところが、初晶Siの粒度は相反する性質を有しており、初晶Siの粒度が大きいと耐摩耗性は良いが疲労強度が低下し、初晶Siの粒度が小さいと(または初晶Siが存在しなければ)疲労強度は高いが耐摩耗性が低下する。・・・」(段落【0006】)

エ 「【0009】
・・・本発明は、製造コストを増加させることなく疲労強度と耐摩耗性とを兼ね備えた内燃機関用ピストンおよびその製造方法を提供することを目的としている。」(段落【0009】)

オ 「【0010】
本発明の内燃機関用ピストンは、Si:11?18重量%を含有する過共晶Al-Si合金をダイカストにより鋳造してなる内燃機関用ピストンであって、頂面が燃焼室面とされたピストンクラウンと、ピストンスカート部と、ピストンピン穴と、このピストンピン穴が貫通するピンボスと、外周面に形成されたトップリング溝とを備え、燃焼室面と、ピンボスとクラウンとを接続するピンボスリブと、ピンボスの下部外周面と、ピンボスとピストンスカート部とを接続するスカートリブの少なくとも1つが鋳肌面とされるとともに、この鋳肌面を含む表層部が初晶Siが晶出していない第1の共晶組織からなり、トップリング溝およびピストンピン穴の少なくともいずれか一方は、表層部が除去されてなる加工面とされるとともに、この加工面を含む層が初晶Siが晶出している第2の共晶組織からなることを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、ピストンにおいて高い疲労強度が要求される部位を鋳肌面としこの鋳肌面を含む表層を初晶Siが晶出していない第1の共晶組織としているから、応力を負荷したときに初晶Siが基点となって疲労破壊が進展することを抑制することができる。また、ピストンにおいて高い耐摩耗性が要求される部位を表層が除去されてなる加工面としこの加工面を含む層を初晶Siが晶出している第2の共晶組織としているから、硬さの高い初晶Siの粒子の効果により摩耗を抑制することができる。」(段落【0010】及び【0011】)

カ 「【0028】
ここで、内燃機関の運転時には、燃焼室面1aと、スカートリブ6とが大きな負荷を受ける。また、ピンボス4とクラウン1とを接続するピンボスリブ4aと、ピンボス4の下部4bも大きな負荷を受ける。なお、図1において斜線で示した部分は、特に大きな負荷を受ける部分である。そこで、この実施形態では、それらの少なくとも1つの部位が鋳肌面とされるとともに、この鋳肌面を含む表層部が初晶Siが晶出していない第1の共晶組織とされている。これにより、それらの部位の疲労強度が向上されている。なお、第1の共晶組織の厚さは、5?200μmである。また、この第1の共晶組織を失わない程度にバレル研摩などで鋳肌面の磨きを行うことにより、表面の切欠感受性が低くなって更に疲労強度の向上効果が得られる。
【0029】
また、トップリング溝2aはトップリングと激しく摺接し、ピストンピン穴5はピストンピンと激しく摺接する。そこで、トップリング溝2aとピストンピン穴5は、機械加工などによって表層部が除去されてなる加工面とされるとともに、この加工面を含む層が初晶Siが晶出している第2の共晶組織とされている。そして、硬質な初晶Siが表面に露出することにより、耐摩耗性が向上されている。」(段落【0028】及び【0029】)

キ 「【0030】
1.ピストンの作製
表1に示す組成の過共晶Al-Si系アルミニウム合金からダイカスト法によりピストンを鋳造した。・・・次いで、鋳造したピストンに機械加工を施して最終製品とし、鋳肌面(燃焼室面)と機械加工面(トップリング溝)の各部位でミクロ組織を観察した。」(段落【0030】)

ク 上記オないしキの記載から、ピストンの燃焼室面は機械加工することによって表層部が除去されていない鋳造されたままの鋳肌面になっていることが分かる。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合して、刊行物2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「Si:11?18重量%を含有する過共晶Al-Si合金をダイカストにより鋳造してなる内燃機関用ピストンにおいて、ピストンにおける大きな負荷を受ける部位である燃焼室面、スカートリブ、ピンボスリブ、ピンボスの下部外周面の少なくとも1つの部位を、初晶Siが晶出していない鋳造されたままの鋳肌面とし、ピストンにおける耐摩耗性が要求される部位であるトップリング溝及びピストンピン穴の少なくともいずれか一方を機械加工することにより、表層部が除去されて初晶Siが晶出している加工面とするピストンを製造する方法。」

3. その他の文献について
前置報告において周知技術を示す文献として引用された刊行物3(特開2006-291919号公報)には、「【0005】鋳造後のピストンの加工は、鋳肌面を加工基準としてピン孔加工とスカート部のインローの加工とを行い、次にピン孔とインローを加工基準としてリング溝加工と外形加工を行う。」と記載されている。

前置報告において周知技術を示す文献として引用された刊行物4(特開平4-356266号公報)には、「【0024】この第3の分割型23には、前記フランジ部13の外向き部13bと、この外向き部13bより一層端部側に位置する部分とが型面上に一体的に形成されている。【0025】そのため、素材11の鋳造に際してこれらの部分の表面には分割型の合わせによる凹凸が形成されず、鋳造により型面形状に沿った正確な形状で製造することができる。」、「【0029】この実施例においては、前記シリンダ用下穴形成突部27の進出により、前記外向き部13bを型形状に沿って一層高精度に形成することができるので、その端面を加工基準面として用いる本願発明においてはとくに好ましいものである。」、「【0034】以上説明したように、この実施例によれば、格別の加工を行なわずとも、鋳肌のままで加工基準面を形成することができ、素材からの追加加工による仕上げ代が軽微で,そのうえ追加加工の作業内容が従来に比し容易なものとなるから、鋳物製マスタシリンダの製造効率を高めることができる。」、「【0035】【発明の効果】以上説明したように、請求項1記載の発明によれば、フランジ部の外向き部を、単一の分割型である前記第3の分割型で形成するので、この外向き部の誤差を小さく,高精度に形成することができる。【0036】そのため、この鋳物製マスタシリンダにおいて、このフランジ部の前記外向き部をそのまま工作機械のチャック面に突き当てる等により加工基準面として使用することができる。」と記載されている。

前置報告において周知技術を示す文献として引用された刊行物5(特開昭58-66639号公報)には、「この第1図において、符号1はワーク保持装置を、符号Wはこのワーク保持装置1に固定保持されるワークをそれぞれ示し、このワークWは鋳放し面である補助基準面W1を備えている。」(第2頁左下欄第1-4行)、「まず、駆動装置(図示せず)は、板状部材14を介してワーク保持装置1をワークWの方向に一定距離移動させ、装置先端の当て金4をワークWの補助基準面W1に当接させる。このとき、各ワークの補助基準面W1に寸法のバラツキがあったとしても、バネ10の作用により、ワーク保持装置1のストローク、押し付け力を変動することなく、当て金4が補助基準面W1に所定の力で正確に当接するようにしている。この状態で、ピストン6の右側の圧力室2bに流体圧導入通路11を経て流体圧を導入してピストン6を左方に移動させる。ピストン6のこの移動に伴ない、スリーブ7も左方に移動する。この結果、スリーブ7の左端のテーパスリーブ面8が、コレットチャック5の右端のテーパ面5aに乗り上げるとともにこれを収縮させ、支柱3をしっかりと把持する。これによってワークWを所定位置に位置決めして正確かつ確実に固定保持する。ワークWは、この状態で切削等の加工が行なわれる。」(第3頁左上欄第15行-右上欄第13行)と記載されている。

第6 対比・判断
1.本願発明23について
(1)対比
本願発明23と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明1における「第1の部分12」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明23における「上部冠状体」に相当する。
また、引用発明1における「前記ピストンを機械加工すること」と、本願発明23における「前記鋳造されたままのトップ面または前記鋳造されたままの燃焼ボウルをピストンを位置決めする基準面として確定し、つぎに前記鋳造されたままのトップ面または前記鋳造されたままの燃焼ボウル以外の、前記ピストンの少なくとも一部分を機械加工することによって前記ピストンを機械加工する」こととは、「ピストンを機械加工する」ことという限りにおいて共通する。

したがって、本願発明23と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「ピストンを製造する方法であって;
トップ面および燃焼ボウルを有する鋳造された上部冠状体を含むピストン未完成品を準備するステップ;および
ピストンを機械加工するステップを備える、方法。」

(相違点)
本願発明23は、上部冠状体が「鋳造されたままの」トップ面および「鋳造されたままの」燃焼ボウルを有し、また、「ピストンを機械加工する」ことに関して、「前記鋳造されたままのトップ面または前記鋳造されたままの燃焼ボウルをピストンを位置決めする基準面として確定し、つぎに前記鋳造されたままのトップ面または前記鋳造されたままの燃焼ボウル以外の、前記ピストンの少なくとも一部分を機械加工する」のに対し、
引用発明1は、トップ面及び燃焼ボウル18が鋳造されたままのものとはされておらず、また、「ピストンを機械加工する」ことに関して、「上部冠状体が鋳造されたままのトップ面および鋳造されたままの燃焼ボウルを有し、前記鋳造されたままのトップ面または前記鋳造されたままの燃焼ボウルをピストンを位置決めする基準面として確定」するものとはされていない点。

(2)相違点についての判断
ここで、上記相違点について検討する。

引用発明2は、刊行物2の段落【0002】及び【0003】に記載されるように、Al-高Si系合金を用いて内燃機関用ピストンを製造するにあたり、粗大な初晶Siが鋳造時に晶出し、疲労強度が低下するという課題が存在することを前提とするものであるところ、刊行物1には、ピストンの材質としてAl-高Si系合金を用いることにより疲労強度が低下するという課題について、何ら記載も示唆もない。
そうすると、引用発明2において、燃焼室面が鋳造されたままの鋳肌面となっているとしても、かかる構成は、ピストンの材質としてAl-高Si系合金を用いることによる疲労強度の低下の課題を前提とするものである一方、引用発明1は、その前提を欠くものであるから、引用発明1に引用発明2を適用する動機付けは存在せず、引用発明1に引用発明2を適用することが当業者にとって容易であるとはいえない。

さらに、刊行物2には、相違点に係る本願発明特定事項である「前記鋳造されたままのトップ面または前記鋳造されたままの燃焼ボウルをピストンを位置決めする基準面として確定」することについて何ら記載されておらず、仮に、引用発明1に引用発明2を適用して、引用発明1の燃焼ボウル18を鋳造されたままのものとしたとしても、これをピストンを位置決めする基準面として確定することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

なお、機械加工の際に被加工部品のいずれかの部分を加工基準面とすることが技術常識であるとしても、あるいは、上記刊行物3ないし5等に例示されるように鋳造面を加工基準面とすることが周知技術であるとしても、当該技術常識及び周知技術からは、ピストンを位置決めする基準面として、鋳造されたままのトップ面または鋳造されたままの燃焼ボウルを積極的に選択することが示唆されるわけではなく、鋳造されたままのトップ面または鋳造されたままの燃焼ボウルをピストンを位置決めする基準面として確定することまで、当該技術常識及び周知技術による設計的事項の範ちゅうに含めることができるとはいえない。

したがって、本願発明23は、当業者であっても引用発明1及び2に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明1ないし22、24ないし26について
本願発明1ないし2、24ないし26は、少なくとも本願発明23の「前記鋳造されたままのトップ面または前記鋳造されたままの燃焼ボウルをピストンを位置決めする基準面として確定し、つぎに前記鋳造されたままのトップ面または前記鋳造されたままの燃焼ボウル以外の、前記ピストンの少なくとも一部分を機械加工する」と実質的に同一の事項を有するものであるから、本願発明23と同様、当業者であっても、引用発明1及び2に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1ないし26は、本願発明23の「前記鋳造されたままのトップ面または前記鋳造されたままの燃焼ボウルをピストンを位置決めする基準面として確定し、つぎに前記鋳造されたままのトップ面または前記鋳造されたままの燃焼ボウル以外の、前記ピストンの少なくとも一部分を機械加工する」という事項と実質的に同一の事項を有するものとなっており、引用発明1及び2又は他の技術常識や周知技術にも、鋳造されたままのトップ面または鋳造されたままの燃焼ボウルをピストンを位置決めする基準面として確定することが記載も示唆もされていないため、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用発明1及び2に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
また、審判請求時の補正により、原査定時の請求項27ないし31は削除されている。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-20 
出願番号 特願2014-505346(P2014-505346)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 今関 雅子  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 三島木 英宏
佐々木 芳枝
発明の名称 ピストンの製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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