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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1333118
審判番号 不服2016-17444  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-22 
確定日 2017-10-05 
事件の表示 特願2012-116293「太陽電池の電極形成用導電性ペースト」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 5日出願公開、特開2013-243279〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年5月22日の出願(特願2012-116293号)であって、平成28年2月15日付けで拒絶理由が通知され、同年4月8日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年9月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 本願の請求項1に係る発明
平成28年11月22日付けの手続補正よりなされた特許請求の範囲の補正は、請求項の削除を目的とする補正であり、適正なものである。よって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年11月22日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「導電性粉末と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含有する太陽電池の電極形成用導電性ペーストであって、
ガラスフリットが、酸化鉛及び二酸化珪素を含み、ガラスフリット中のPbOの含有量が、50?70mol%であり、
X線光電子分光法を用いて測定したガラスフリット中の酸素の結合エネルギーにおいて、526eV?536eVの信号強度の合計値に対する、529eV?531eV未満をピークとする信号強度の割合が、40%以上である、導電性ペースト。」

第3 原査定の拒絶理由について
原査定の拒絶理由は次のとおりである。
1 理由1(第36条第4項第1号)について
(1)請求項1ではX線光電子分光法を用いて測定したガラスフリット中の酸素の結合エネルギーにおいて、526eV?536eVの信号強度の合計値に対する、529eV?531eV未満をピークとする信号強度の割合によりガラスフリットを規定しているが、明細書や図面の全体(特に、表1や表2)を参酌しても、どのような条件によれば前記のような規定を満足する/しないガラスフリットが得られるのかが明らかでない。
これについて、平成28年4月8日付けの意見書では、ガラスフリットを作製した後、前記のような結合エネルギーを有するガラスフリットを選択することにより得ることができる、と述べられているが、選択する際の前提となる、前記所定の結合エネルギーを有するガラスフリットを作製するための条件が明らかでないことは何ら変わりのないものである。特に、前記意見書では、単にガラスフリットの酸化物の種類や組成を規定しただけでは前記のような結合エネルギーを有するガラスフリットを得ることができないことが示唆されるとも述べられており、仮にこれが事実であれば、なおさら明らかではない。
したがって、本願は実施可能要件を満たしていない。

2 理由4及び理由5(第29条第1号第3号及び第2項)について
引用例2には、例えば、PbO62mol%とSiO_(2)38mol%のガラスフリット組成を有するペースト組成物が開示されており([0038]の表1の比較例5)、また、これらのペースト組成物で電極を構成した太陽電池が開示されている。更に、PbO59mol%とSiO_(2)30mol%とB_(2)O_(3)11mol%(同比較例6)、PbO69mol%とSiO_(2)31mol%(同比較例10)のガラスフリット組成を有するペースト組成物なども開示されている。
してみれば、請求項1-11は、引用例2の前記ペースト組成物は、ガラスフリットの組成の観点では、何ら相違するところはない。
また、引用例2ではガラスフリット中の酸素の結合エネルギーには言及されていないが、上記1でも指摘したように、この点について、前記意見書では単にガラスフリットの酸化物の種類や組成を規定しただけでは結合エネルギーを特定することができない旨が述べられているものの、明細書の全記載に鑑みても、ガラスフリットの酸化物の種類と組成以外にどのような条件で酸素の結合エネルギーが定まるのかは明らかでなく、両者に明確な相違はないと認定するのが相当である。
以上によれば、請求項1-11は、いずれも、引用例2に対して新規性進歩性はない。
<引用文献等一覧>
1.特開2011-86754号公報
2.特開2010-199334号公報

第4 引用例
1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2010-199334号公報には、次の事項が記載されている。 (下線は当審において付されたものである。)
a「【0001】
本発明は、ファイヤースルー法で形成する太陽電池電極用に好適なペースト組成物に関する。」
b「【0011】
本発明は、以上の事情を背景として為されたもので、その目的は、太陽電池製造の焼成工程における最適焼成温度範囲が広い太陽電池電極用ペースト組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、導電性粉末と、ガラスフリットと、ベヒクルとを含む太陽電池電極用ペースト組成物であって、(a)前記ガラスフリットが酸化物換算でPbO 46?57(mol%)、B_(2)O_(3) 1?7(mol%)、SiO_(2) 38?53(mol%)の範囲内の割合で含むガラスから成ることにある。」
c「【0036】
上記のような受光面電極20は、例えば、導体粉末と、ガラスフリットと、ベヒクルと、溶剤とから成る電極用ペーストを用いて良く知られたファイヤースルー法によって形成されたものである。その受光面電極形成を含む太陽電池10の製造方法の一例を比較例の導電性組成物の製造方法と併せて以下に説明する。
【0037】
まず、上記ガラスフリットを作製する。Si源として二酸化珪素 SiO_(2)を、B源として硼酸 B_(2)O_(3)を、Pb源として鉛丹 Pb_(3)O_(4)を、Al源として酸化アルミニウム Al_(2)O_(3)を、Zr源として酸化ジルコニウム ZrO_(2)を、Na源として酸化ナトリウム Na_(2)Oを、Li源として酸化リチウム Li_(2)Oを、Ca源として酸化カルシウム CaOを、Zn源として酸化亜鉛 ZnOを、Mg源として酸化マグネシウム MgOをそれぞれ用意し、表1に示す組成となるように秤量して調合した。これを坩堝に投入して組成に応じた900?1100(℃)の範囲内の温度で、30分?1時間程度溶融してガラス化させた。得られたガラスをポットミル等の適宜の粉砕装置を用いて粉砕し、平均粒径が0.4(μm)、0.6(μm)、1.5(μm)、3.0(μm)、4.0(μm)の粉末を得た。
【0038】
【表1】

【0039】
また、前記導体粉末として、例えば、平均粒径が1?3(μm)の範囲内、例えば2(μm)程度の市販の球状の銀粉末を用意した。このような平均粒径が十分に小さい銀粉末を用いることにより、塗布膜における銀粉末の充填率を高め延いては導体の導電率を高めることができる。また、前記ベヒクルは、有機溶剤に有機結合剤を溶解させて調製したもので、有機溶剤としては、例えばブチルカルビトールアセテートが、有機結合剤としては、例えばエチルセルロースが用いられる。ベヒクル中のエチルセルロースの割合は例えば15(wt%)程度である。また、ベヒクルとは別に添加する溶剤は、例えばブチルカルビトールアセテートである。すなわち、これに限定されるものではないが、ベヒクルに用いたものと同じ溶剤でよい。この溶剤は、ペーストの粘度調整の目的で添加される。
【0040】
以上のペースト原料をそれぞれ用意して、例えば導体粉末を64?82(wt%)、ガラスフリットを2?20(wt%)、ベヒクルを13(wt%)、溶剤を3(wt%)の割合で秤量し、攪拌機等を用いて混合した後、例えば三本ロールミルで分散処理を行う。これにより、前記電極用ペーストが得られる。なお、本実施例においては、導体粉末とガラスフリットの合計量を84(wt%)、ベヒクルおよび溶剤の合計量を16(wt%)とした。なお、前記表1は、各実施例および比較例におけるガラスフリットの組成と、その粒径、添加量と、それぞれのガラスフリットを用いて前記受光面電極20を形成したときの太陽電池10の特性を評価した結果とをまとめたものである。なお、この表1において、ガラスフリット量は、ペースト全体に対する容積で表した。」

2 引用例1に記載された発明の認定
上記の【0038】の【表1】の「比較例5」のガラスフリットの組成は「PbOが62mol%,SiO_(2)が38mol%」であり、FF最大値が74%である。よって、比較例5のガラスフリットを含む太陽電池電極用ペースト組成物を対象とすると、引用例1には、
「導電性粉末と、ガラスフリットと、ベヒクルとを含む太陽電池電極用ペースト組成物であって、
前記ベヒクルは、有機溶剤に有機結合剤を溶解させて調製したものであり、
ガラスフリットは、その組成がPbOが62mol%,SiO_(2)が38mol%であり、FF最大値が74%である、太陽電池電極用ペースト組成物。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

第5 本願発明と引用発明の対比、及び、当審の判断
1 対比
(1)ここで、本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「導電性粉末と、ガラスフリットと、ベヒクルとを含む太陽電池電極用ペースト組成物であって、前記ベヒクルは、有機溶剤に有機結合剤を溶解させて調製したもの」が、本願発明の「導電性粉末と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含有する太陽電池の電極形成用導電性ペースト」に相当する。

引用発明のガラスフリットの組成における「PbO」の「62mol%」という数値は、本願発明の「PbOの含有量」の「50?70mol%」の数値範囲内にあるものであるから、引用発明の「ガラスフリットは、その組成がPbOが62mol%,SiO_(2)が38mol%で」あることが、本願発明の「ガラスフリットが、酸化鉛及び二酸化珪素を含み、ガラスフリット中のPbOの含有量が、50?70mol%で」あることに相当する。

(2)本願発明と引用発明の一致点
したがって、本願発明と引用発明とは、
「導電性粉末と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含有する太陽電池の電極形成用導電性ペーストであって、
ガラスフリットが、酸化鉛及び二酸化珪素を含み、ガラスフリット中のPbOの含有量が、50?70mol%である、導電性ペースト。」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(3)本願発明と引用発明の相違点
本願発明においては、「X線光電子分光法を用いて測定したガラスフリット中の酸素の結合エネルギーにおいて、526eV?536eVの信号強度の合計値に対する、529eV?531eV未満をピークとする信号強度の割合が、40%以上である」のに対して、引用発明においては、そのような特定はない点。

2 当審の判断
上記の相違点に関し、上記相違点に係る本願発明の「X線光電子分光法を用いて測定したガラスフリット中の酸素の結合エネルギーにおいて、526eV?536eVの信号強度の合計値に対する、529eV?531eV未満をピークとする信号強度の割合」(すなわち「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」)と、引用発明における「FF最大値(%)」(すなわち「曲線因子(FF)」)について、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面には、次の事項が記載されている。
「【0100】
図4に、表2示す酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合と、曲線因子(FF)との関係を示す。図4から明らかなように、酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合が40%未満の場合には、0.27以下の曲線因子(FF)の太陽電池しか得られなかった。これに対して、酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合が40%以上の場合には、曲線因子(FF)が大きく向上して0.57以上となった。すなわち、酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合が40%以上であるかどうかは、臨界的意義があるといえる。
【0101】
また、図4から明らかなように、酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合が55%以上の実験1、実験4及び実験7では、より高い0.68以上の曲線因子(FF)の太陽電池を得ることができた。さらに、酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合が60%以上の実験1及び実験7場合には、さらに高い0.75以上の曲線因子(FF)の太陽電池を得ることができた。したがって、高い曲線因子(FF)の太陽電池を得るために、酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合は、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましいことが明らかとなった。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】


「【図2】


「【図4】


上記の【0100】?【0103】及び【図4】の記載から、「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」と「曲線因子(FF)」の間には強い相関関係があるということができ、そして、【図4】などの記載から、FFが70%より大きいものは「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」は60%より大きい可能性が高いことから、「曲線因子(FF)」が74%と大きい引用発明のガラスフリットにおいては、「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」が40%より大きいものと認められる。

また、【表1】(【0102】)【表2】(【0103】)及び【図2】の記載から、SiO_(2)の組成割合が多いほどSi-O-Si結合のXPS信号(【図2】の「ピーク番号2」)が高くなるとともに、「酸素の低結合エネルギーのXPS信号」のピーク(【図2】の「ピーク番号1」)が減少して、「酸素の高結合エネルギーのXPS信号」のピーク(【図2】の「ピーク番号3」)が増加し、ピークは高エネルギー側に移行し、「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」は40%より小さくなり(【表2】の「ガラスフリットC」を参照)、逆に、SiO_(2)の組成割合が少ないほど「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」は40%より大きくなる傾向にあることがわかる。。
引用発明におけるSiO_(2)が38mol%という数値は、上記の【表1】(【0102】)のガラスフリットAのSiO_(2)の30mol%(【表2】から「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」は62.5%)とガラスフリットBのSiO_(2)の40mol%(【表2】から「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」は54.1%)の間の数値であることから、引用発明における「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」は、62.5%と54.1%の間の数値となり、40%より大きいものと認められる。

よって、上記相違点は実質的には相違点でないといえる。すなわち、本願発明は引用発明である。

3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号で規定される発明に該当し、特許を受けることができない。

第6 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)違反の拒絶理由について
本願発明の「X線光電子分光法を用いて測定したガラスフリット中の酸素の結合エネルギーにおいて、526eV?536eVの信号強度の合計値に対する、529eV?531eV未満をピークとする信号強度の割合が、40%以上である」の発明特定事項に関して、発明の詳細な説明には、上記「第5」の「2」に記載した本願の発明の詳細な説明及び図面の「【0100】?【0103】」及び「【図4】」の記載の他には、実施例として次の事項が記載されている。
「【0081】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
<導電性ペーストの材料及び調製割合>
実施例及び比較例の太陽電池製造に用いた導電性ペーストの組成は、下記のとおりである。
・導電性粉末 :Ag(100重量部)。球状、BET値が0.6m^(2)/g、平均粒径D50が1.4μmのものを用いた。
・ガラスフリット:表1に示す配合及び軟化点のガラスフリットA?Hを用いた。実施例及び比較例の導電性ペースト中の、導電性粉末100重量部に対するガラスフリットの添加量は、表2に示すとおりである。なお、ガラスフリットの平均粒径D50は2μmとした。
・有機バインダ :エチルセルロース(1重量部)。エトキシ含有量48?49.5重量%のものを用いた。
・溶剤 :ブチルカルビトール(11重量部)を用いた。
【0083】
次に、上述の所定の調製割合の材料を、プラネタリーミキサーで混合し、さらに三本ロールミルで分散し、ペースト化することによって導電性ペーストを調製した。
【0084】
<太陽電池基板の試作>
本発明の導電性ペーストの評価は、調製した導電性ペーストを用いて太陽電池を試作し、その特性を測定することによって行った。太陽電池の試作方法は次のとおりである。
【0085】
基板は、B(ボロン)ドープのP型Si単結晶基板(基板厚み200μm)を用いた。
【0086】
まず、上記基板に酸化ケイ素層約20μmをドライ酸化で形成後、フッ化水素、純水及びフッ化アンモニウムを混合した溶液でエッチングし、基板表面のダメージを除去した。さらに、塩酸及び過酸化水素を含む水溶液で重金属洗浄を行った。
【0087】
次に、この基板表面にウェットエッチングによってテクスチャ(凸凹形状)を形成した。具体的にはウェットエッチング法(水酸化ナトリウム水溶液)によってピラミッド状のテクスチャ構造を片面(光入射側の表面)に形成した。その後、塩酸及び過酸化水素を含む水溶液で洗浄した。
【0088】
次に、上記基板のテクスチャ構造を有する表面に、オキシ塩化リン(POCl_(3))を用い、拡散法によって、リンを温度950℃で30分間拡散させ、n型拡散層を約0.5μmの深さにn型拡散層を形成した。n型拡散層のシート抵抗は、60Ω/□だった。
【0089】
次に、n型拡散層を形成した基板の表面に、プラズマCVD法によってシランガス及びアンモニアガスを用いて窒化ケイ素薄膜を約60nmの厚みに形成した。具体的には、NH_(3)/SiH_(4)=0.5の混合ガス1Torr(133Pa)をグロー放電分解することにより、プラズマCVD法によって膜厚約60nmの窒化ケイ素薄膜(反射防止膜)を形成した。
【0090】
このようにして得られた太陽電池基板を、15mm×15mmの正方形に切断して使用した。
【0091】
光入射側(表面)電極用の導電性ペーストの印刷は、スクリーン印刷法によって行った。上述の基板の反射防止膜上に、膜厚が約20μmになるように2mm角バス電極部と、6本の100μm幅フィンガー電極部とからなるパターンで印刷し、その後、150℃で約60秒間乾燥した。
【0092】
次に裏面電極用の導電性ペーストの印刷を、スクリーン印刷法によって行った。上述の基板の裏面に、アルミニウム粒子、ガラスフリット、エチルセルロース及び溶剤を主成分とする導電性ペーストを14mm角で印刷し、150℃で約60秒間乾燥した。乾燥後の裏面電極用の導電性ペーストの膜厚は約20μmであった。
【0093】
上述のように導電性ペーストを表面及び裏面に印刷した基板を、ハロゲンランプを加熱源とする近赤外焼成炉(日本ガイシ社製 太陽電池用高速焼成試験炉)を用いて、大気中で所定の条件により焼成した。焼成条件は、720℃のピーク温度とし、大気中、焼成炉のイン-アウト30秒で両面同時焼成した。以上のようにして、太陽電池を試作した。
【0094】
<太陽電池特性の測定>
太陽電池セルの電気的特性の測定は、次のように行った。すなわち、試作した太陽電池の電流-電圧特性を、ソーラーシミュレータ光(AM1.5、エネルギー密度100mW/cm^(2))の照射下で測定し、測定結果から曲線因子(FF)、変換効率(%)及び直列抵抗Rs(Ω)を算出した。なお、試料は同じ条件のものを2個作製し、測定値は2個の平均値として求めた。
【0095】
<X線光電子分光装置の測定>
ガラスフリットの酸素の結合エネルギーを評価するために、X線光電子分光法(XPS法)により、酸素の結合エネルギーを測定した。具体的には、まず、ガラスフリットのみをブチルカルビトールを用いてペースト状にし、これを太陽電池用シリコン基板の裏面側に印刷し、150℃、60秒間乾燥させた。乾燥体を700℃のピーク温度により焼成し、ガラスフリットサンプルを作製した。このガラスフリットサンプルを用いて、結合エネルギーが526eV?536eVを含む範囲でXPS信号強度を測定した。X線光電子分光装置は、アルバック・ファイ株式会社製PHI Quantera SXMを使用した。なお、XPS測定の際、ピークのシフトを補正するために、炭素のピークを基準として用いた。
【0096】
XPS測定により得られたスペクトルのピークに対してピーク分離を行い、結合エネルギーの異なる酸素について評価した。具体的には、529eV?531eV未満をピークとするXPS信号を「酸素の低結合エネルギーのXPS信号」とし、533eVをピークとするXPS信号を「Si-O-Si結合のXPS信号」とし、上記二つのピーク以外の、概ね532eV付近をピークとするXPS信号を「酸素の高結合エネルギーのXPS信号」として、三つのピークにピーク分離を行った。ピーク分離により得られたそれぞれのピークが占める面積を算出することにより、酸素の結合エネルギーのXPS信号強度を得た。526eV?536eVの信号強度の合計値は、上記三つのピークのXPS信号強度の合計値である。次に、各結合エネルギーのXPS信号強度の、526eV?536eVの信号強度の合計値に対する割合を算出した。なお、「Si-O-Si結合のXPS信号強度」について、純粋なSiO2(石英)をあらかじめXPSにて測定したところ、その酸素の結合エネルギー(Si-O-Si結合)は約533eVであることを確認した。
【0097】
<実験1?8>
表1に示すガラスフリットA?Hを、表2に示す添加量になるように添加した導電性ペーストを太陽電池の表面電極形成用に用いて、上述のような方法で、実験1?8の太陽電池を試作した。表2に、これらの太陽電池の特性である曲線因子(FF)の測定結果を示す。」
(上記の「表1」及び「表2」は、それぞれ、上記「第5」の「2」に記載した【0102】の【表1】及び【0103】の【表2】である。)

上記記載から、実施例の実験1?8のガラスフリットで、それぞれ、異なるのは、酸化物PbO,SiO_(2),B_(2)O_(3),Al_(2)O_(3),P_(2)O_(5)の添加割合のみであり、表1及び表2から、ガラスフリットにおける上記の各酸化物の添加割合のみで、「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」が変化するものであるといえる。すなわち、「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」を規定する要因(条件)は、ガラスフリットにおける上記の各酸化物の添加割合のみであるという仮定することができる。なお、本願明細書【0047】においては「本発明の導電性ペーストでは、XPS法を用いて測定したガラスフリット中の酸素の結合エネルギーにおいて、526eV?536eVの信号強度の合計値に対する、529eV?531eV未満をピークとする信号強度の割合が、40%以上、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上となるように、ガラスフリットに含まれる酸化物の種類及びそれぞれの添加量を選択する。」と記載され、「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」は、ガラスフリットにおける上記の各酸化物の添加割合の選択で設定できるとしている。
そして、上記の仮定が正しいとする場合、すなわち、「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」は、ガラスフリットにおける上記の各酸化物の添加割合のみの選択で設定できるとする場合、表1及び表2から、ガラスフリットの「PbO,SiO_(2)の割合」が、「70%,30%」の実験1のもの、及び、「60%,40%」の実験2のものにおける「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」は、それぞれ、「62.5%」及び「54.1%」と、ともに「40%」を超えるのだから、ガラスフリットの「PbO,SiO_(2)の割合」が、上記実験1のものと実験2のものの間の値である「62%,38%」である引用発明は、当然に、「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」は40%を超えるものであるといえるから、上記「第5」で論じた、本願発明は引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明であり、特許を受けることができないという結論はさらに裏付けられることになる。
これに対して、上記の仮定が正しいとしない場合、すなわち、「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」は、ガラスフリットにおける上記の各酸化物の添加割合以外の何らかの要因(条件)にも依存するとする場合、上記の各酸化物の添加割合以外にどのような要因(条件)によって「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」が定まるかについては、発明の詳細な説明には何らの記載もなく、また、それが当業者にとって技術常識であるという証拠も見出せないから、当業者は、本願の発明の詳細な説明の記載を参酌しても「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」を特定の値以上にすることができない。
よって、「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」は、ガラスフリットにおける上記の各酸化物の添加割合以外の何らかの要因(条件)によも依存するとする場合においては、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に、十分かつ明確に記載したものということができできない。
ところで、請求人は、審判請求書において、「太陽電池のFFが、単にガラスフリットの組成だけに依存するわけではない」(審判請求書第7頁第3?4行)と主張しており、これは、太陽電池のFFが「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」と相関関係を有することを前提にしているから、「酸素の低結合エネルギーのXPS信号強度の割合」は、ガラスフリットにおける上記の各酸化物の添加割合以外の何らかの要因(条件)にも依存すると主張しているといえる。そして、請求人が審判請求書で主張するとおりであるとすると、上記のとおり、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に、十分かつ明確に記載したものということができできないといえるのだから、本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶されるべきものである。

なお、請求人は審判請求書において、「本願出願人が本願発明1の特許を受けるうえで、「ガラスフリットの酸化物の種類と組成以外にどのような条件で酸素の結合エネルギーが定まるのか」というメカニズム(科学的・学術的知見)までを明らかにする責任を負うものではないものと思料いたします。」(審判請求書第9頁第19?22行)と主張している。しかしながら、上記の特許法第36条第4項第1号の規定に違反とするとするのは、当業者が本願発明1を実施するためには、上記の酸化物の種類と組成以外の条件(要因)が具体的にどのようなものであるかを明らかにすることが必要であるとするものであって、そのメカニズムまでを明らかにすることが必要であるとするものではないから、上記の請求人の主張を採用することはできない。

第7 結言
以上のとおり、本願発明は引用発明であるから特許法第29条第1項第3号で規定する発明に該当し、特許を受けることができない。よって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
または、本願は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するから拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-01 
結審通知日 2017-08-08 
審決日 2017-08-24 
出願番号 特願2012-116293(P2012-116293)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱田 聖司  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 森林 克郎
松川 直樹
発明の名称 太陽電池の電極形成用導電性ペースト  
代理人 特許業務法人 津国  

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