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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08G |
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管理番号 | 1333164 |
異議申立番号 | 異議2016-700451 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-05-18 |
確定日 | 2017-06-26 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5817206号発明「繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5817206号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし6]について訂正することを認める。 特許第5817206号の請求項1ないし6に係る特許を取消す。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯等 特許第5817206号(設定登録時の請求項の数は6。以下、「本件特許」という。)は、平成23年5月9日に出願された特願2011-104405号に係るものであって、平成27年10月9日に設定登録された。 特許異議申立人 一條淳(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成28年5月18日、本件特許の請求項1ないし6に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。 当審において、平成28年8月8日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、同年10月7日付けで、訂正請求書及び意見書を提出したので、異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、異議申立人は、同年11月15日付け(受理日:同月16日)で意見書を提出した。 当審において、平成29年1月13日付けで取消理由(決定の予告)を通知したところ、特許権者は、同年3月16日付けで、訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)及び意見書を提出したので、異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、異議申立人は、同年4月27日付け(受理日:同月28日)で意見書を提出した。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。なお、下線については訂正箇所に合議体が付したものである。 訂正事項1 願書に添付した明細書の段落【0027】に 「リン含有エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に含まれる、リン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂(後述するビスF型エポキシ樹脂、ビスA型エポキシ樹脂、その他のエポキシ樹脂等)の合計量100質量部に対し、」 とあるのを 「リン含有エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に含まれる、リン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂(後述するビスF型エポキシ樹脂、ビスA型エポキシ樹脂、その他のエポキシ樹脂等)の合計量100質量部に対し、」 に訂正する。 訂正事項2 訂正前の特許請求の範囲の請求項1である 「骨格にリンを含むリン含有エポキシ樹脂と、 ジシアンジアミドと、 1、1’-(4-メチル-1、3-フェニレン)ビス(3、3-ジメチル尿素)と、下記式(1)で示されるフェニル-ジメチル尿素と、下記式(2)で示されるメチレン-ジフェニル-ビスジメチル尿素との少なくとも1つを含む硬化促進剤と、 を含み、 前記リン含有エポキシ樹脂のリン含有量は、エポキシ樹脂組成物中に1.0質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。」 を 「骨格にリンを含むリン含有エポキシ樹脂と、 ジシアンジアミドと、 1、1’-(4-メチル-1、3-フェニレン)ビス(3、3-ジメチル尿素)と、下記式(1)で示されるフェニル-ジメチル尿素と、下記式(2)で示されるメチレン-ジフェニル-ビスジメチル尿素との少なくとも1つを含む硬化促進剤と、 を含み、 前記リン含有エポキシ樹脂のリン含有量は、エポキシ樹脂組成物中に1.0質量%以上5.0質量%以下であり、 前記リン含有エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量部に対し、75質量部以上90質量部以下であることを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。」 に訂正する。 請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6についても同様に訂正する。 訂正事項3 願書に添付した明細書の段落【0013】に 「前記リン含有エポキシ樹脂のリン含有量は、エポキシ樹脂組成物中に1.0質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。」 とあるのを 「前記リン含有エポキシ樹脂のリン含有量は、エポキシ樹脂組成物中に1.0質量%以上5.0質量%以下であり、前記リン含有エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量部に対し、75質量部以上90質量部以下であることを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。」 に訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1について 願書に添付された明細書の段落【0027】には、「本実施形態の組成物におけるリン含有エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に含まれる、リン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂(後述するビスF型エポキシ樹脂、ビスA型エポキシ樹脂、その他のエポキシ樹脂等)の合計量100質量部に対し、75質量部以上95質量部以下が好ましく、80質量部以上90質量部以下がより好ましい。75質量部以上とすることで、エポキシ樹脂組成物のリン含有率が高まり、充分な難燃性を付与することができる。95質量部以下であれば、エポキシ樹脂組成物に適度な粘性、取扱性を付与することができる。よって、リン含有エポキシ樹脂の配合量が上記範囲内であると、樹脂硬化物の靭性と耐熱性と難燃性を高度にそれぞれ達成できる。」との記載がある。 そして、願書に添付された明細書の段落【0057】の【表1】の実施例1ないし実施例6では、いずれも「リン含有エポキシ樹脂の含有量」が、「エポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量部に対し」て、90質量部を大幅に超えているにもかかわらず(実施例1:900質量部、実施例2:無限大、実施例3:400質量部、実施例4:400質量部、実施例5:400質量部、実施例6:無限大)、樹脂硬化物の靱性と耐熱性と難燃性とが高度にそれぞれ達成されている。 一方で、願書に添付された明細書の段落【0057】の【表1】の実施例1、3ないし5では、いずれも、「リン含有エポキシ樹脂の含有量」が、「エポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量部に対し」て80質量部以上100質量部以下となっており(実施例1:90質量部、実施例2:100質量部、実施例3:80質量部、実施例4:80質量部、実施例5:80質量部、実施例6:100質量部)、樹脂硬化物の靱性と耐熱性と難燃性とが高度に達成されいる。そして、本件発明の効果の確認が実施例に基づくものであることから、発明の詳細な説明における一般記載と実施例についての重要性では、実施例に重きを置いて考えるのが自然といえる。 そうすると、願書に添付された明細書の段落【0027】における「本実施形態の組成物におけるリン含有エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に含まれる、リン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂(後述するビスF型エポキシ樹脂、ビスA型エポキシ樹脂、その他のエポキシ樹脂等)の合計量100質量部に対し、75質量部以上95質量部以下が好ましい」との記載には誤りがあると考えるのが自然であり、当業者が上記の記載を考慮すると、段落【0027】におけるリン含有エポキシ樹脂の比率は、エポキシ樹脂全体に対する比率を規定していると想定できる。 してみれば、上記段落【0027】の「リン含有エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に含まれる、リン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂(後述するビスF型エポキシ樹脂、ビスA型エポキシ樹脂、その他のエポキシ樹脂等)の合計量100質量部に対し」の記載は、「リン含有エポキシ樹脂及び」の字句が脱落したものであって、「リン含有エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に含まれる、リン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂(後述するビスF型エポキシ樹脂、ビスA型エポキシ樹脂、その他のエポキシ樹脂等)の合計量100質量部に対し」が本来の意であることが明らかな字句・語句の誤りといえる。 したがって、訂正事項1は、特許法120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。 そして、願書に添付された明細書の段落【0057】の【表1】における実施例1、3、4、5は、いずれも、「リン含有エポキシ樹脂の含有量」が、「エポキシ樹脂組成物中に含まれる、リン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂との合計量100質量部」に対し、75質量部以上90質量部以下となっている(実施例1:90質量部、実施例3:80質量部、実施例4:80質量部、実施例5:80質量部)から、訂正事項1は、願書に添付された明細書の発明の詳細な説明に記載した事項の範囲内の訂正である。 さらに、訂正事項1は、上述のとおり、段落【0027】における「リン含有エポキシ樹脂」の含有量が、本来の意である「リン含有エポキシ樹脂」の配合量は、「エポキシ樹脂組成物中に含まれる、リン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂との合計量」を基準とするものであることを明らかにするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項1では、「リン含有のエポキシ樹脂の配合量」を特定していないのに対して、訂正後の請求項1では「前記リン含有エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量部に対し、75質量部以上90質量部以下である」との記載により、訂正後の請求項1に係る発明における「リン含有のエポキシ樹脂の配合量」を具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。しかも、当該事項については、75質量部についての具体的な記載はないものの、80質量部の実施例3、4、5及び90質量部である実施例1の記載を踏まえれば、願書に添付した明細書の【0050】ないし【0058】に記載があるということができる。 よって、この訂正は、特許請求の範囲を減縮することを目的とし、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3) 訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の明細書の段落【0013】に記載された課題を解決するための手段を、上記訂正事項2に係る訂正後の請求項1の記載にあわせて訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、上記(2)での検討のとおり、願書に添付された明細書の発明の詳細な説明に記載した事項の範囲内の訂正である。 そして、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。 (4) 一群の請求項について 訂正事項1ないし3に係る訂正前の請求項1ないし6について、請求項2ないし6はそれぞれ直接ないし間接的に請求項1を引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1ないし6は、一群の請求項であり、訂正事項1ないし3は、この一群の請求項ごとに請求されたものである。 (5) 明細書の訂正に係る全ての請求項について訂正を行っているか 本件訂正請求は、請求項1ないし6についての訂正を求めるものであるから、明細書の訂正に係る全ての請求項について行っているといえる。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された特許請求の範囲、明細書のとおり、訂正後の請求項[1ないし6]について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、平成29年3月16日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される以下に記載のとおりのものである。 「【請求項1】 骨格にリンを含むリン含有エポキシ樹脂と、 ジシアンジアミドと、 1、1’-(4-メチル-1、3-フェニレン)ビス(3、3-ジメチル尿素)と、下記式(1)で示されるフェニル-ジメチル尿素と、下記式(2)で示されるメチレン-ジフェニル-ビスジメチル尿素との少なくとも1つを含む硬化促進剤と、を含み、 前記リン含有エポキシ樹脂のリン含有量は、エポキシ樹脂組成物中に1.0質量%以上5.0質量%以下であり、 前記リン含有エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量部に対し、75質量部以上90質量部以下であることを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 【化1】 【請求項2】 前記硬化促進剤の含有量は、前記リン含有エポキシ樹脂とその他のエポキシ樹脂との質量の和100質量部に対して1質量部以上15質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 【請求項3】 フェノキシ樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 【請求項4】 前記フェノキシ樹脂の含有量は、前記リン含有エポキシ樹脂とその他のエポキシ樹脂との質量の和100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下であることを特徴とする請求項3に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 【請求項5】 前記ジシアンジアミドの配合量は、硬化剤以外のエポキシ樹脂組成物のエポキシ当量に対する硬化剤の活性水素当量の比が0.5以上1以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 【請求項6】 請求項1から5の何れか1項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなることを特徴とするプリプレグ。」 第4 取消理由の概要 平成29年1月13日付けで通知した取消理由(決定の予告)は、本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきもの(以下、「取消理由2」という。)を含む。 刊行物1:国際公開第2010/140351号(異議申立書の証拠方法である甲第2号証。以下、単に「甲2」という。) 第5 合議体の判断 当合議体は、以下述べるように、上記取消理由2には理由はあると判断する。 1 取消理由2(甲2に基づく特許法第29条第2項) (1) 刊行物 甲2 (以下、周知技術として) 甲第3号証 :高分子学報(No.3 1989)p336、中国化学会・高分子学報編、1989年発行(以下、「甲3」という。) 甲第6号証 :特開2007-291227号公報(以下、「甲6」という。) 甲第7号証 :国際公開第2010/109957号(以下、「甲7」という。) 甲第10号証 :国際公開第2005/082982号(以下、「甲10」という。) (2) 甲2の記載事項 本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲2には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。以下同様。 ア 「[請求項1] 下記式(a)で示される化合物(a)からなるリン含有エポキシ樹脂(A)、 ノボラック型エポキシ樹脂(C)、 エポキシ樹脂用硬化剤(D)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物。 [化12] [式中、nは1以上の整数である。Xは下記式(I)、(II)または(III)で示される基であり、式中の(n+2)個のXはそれぞれ同じであっても異なってもよい。ただし、当該エポキシ樹脂組成物中の全Xのうちの少なくとも1つは前記式(I)または(II)で示される基であり、少なくとも1つは前記式(III)で示される基である。Yは-Hまたは-CH_(3)であり、式中の(n+2)個のYはそれぞれ同じであっても異なってもよい。] [化13] [請求項2] 下記式(a)で示される化合物(a)からなるリン含有エポキシ樹脂(A)、 下記式(b)で示される化合物(b)からなるリン含有エポキシ樹脂(B)、 ノボラック型エポキシ樹脂(C)、 エポキシ樹脂用硬化剤(D)を必須成分とし、 前記(B)と前記(C)の質量比が2:8?7:3であるエポキシ樹脂組成物。 [化14] [式中、nは1以上の整数である。Xは下記式(I)、(II)または(III)で示される基であり、式中の(n+2)個のXはそれぞれ同じであっても異なってもよい。ただし、当該エポキシ樹脂組成物中の全Xのうちの少なくとも1つは前記式(I)または(II)で示される基であり、少なくとも1つは前記式(III)で示される基である。Yは-Hまたは-CH_(3)であり、式中の(n+2)個のYはそれぞれ同じであっても異なってもよい。] [化15] [化16] [式中、X’^(1)、X’^(2)は、それぞれ独立して、前記式(I)、(II)または(III)で示される基である。ただし、当該エポキシ樹脂組成物中の全X’^(1)、X’^(2)のうちの少なくとも1つは前記式(I)または(II)で示される基であり、少なくとも1つは前記式(III)で示される基である。Zは-CH_(2)-、-C(CH_(3))_(2)-または-SO_(2)-である。] [請求項3] 下記式(a)で示される化合物(a)からなるリン含有エポキシ樹脂(A)、 ノボラック型エポキシ樹脂(C)、 トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂(F)、 エポキシ樹脂用硬化剤(D)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物。 [化17](化17イメージ省略) [式中、nは1以上の整数である。Xは下記式(I)、(II)または(III)で示される基であり、式中の(n+2)個のXはそれぞれ同じであっても異なってもよい。ただし、当該エポキシ樹脂組成物中の全Xのうちの少なくとも1つは前記式(I)または(II)で示される基であり、少なくとも1つは前記式(III)で示される基である。Yは-Hまたは-CH_(3)であり、式中の(n+2)個のYはそれぞれ同じであっても異なってもよい。] [化18](化18イメージ省略) [請求項4] 前記リン含有エポキシ樹脂(A)の配合量が、当該エポキシ樹脂組成物の総質量に対し、10?50質量%である請求項1?3のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。 [請求項5] 前記リン含有エポキシ樹脂(A)の配合量が、当該エポキシ樹脂組成物の総質量に対し、19?50質量%である請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。 [請求項6] 前記リン含有エポキシ樹脂(A)の配合量が、当該エポキシ樹脂組成物の総質量に対し、19?31質量%である請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。 [請求項7] 前記リン含有エポキシ樹脂(A)の配合量が、当該エポキシ樹脂組成物の総質量に対し、15?30質量%である請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物。 [請求項8] 前記リン含有エポキシ樹脂(A)の配合量が、当該エポキシ樹脂組成物の総質量に対し、17?25質量%である請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物。 [請求項9] 前記リン含有エポキシ樹脂(A)の配合量が、当該エポキシ樹脂組成物中に含まれる、前記リン含有エポキシ樹脂(A)以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量%に対し、35?60質量%である請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。 [請求項10] 前記リン含有エポキシ樹脂(A)の配合量が、当該エポキシ樹脂組成物中に含まれる、前記リン含有エポキシ樹脂(A)以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量%に対し、15?40質量%である請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物。 [請求項11] 前記リン含有エポキシ樹脂(A)の配合量が、当該エポキシ樹脂組成物中に含まれる、前記リン含有エポキシ樹脂(A)以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量%に対し、17?31質量%である請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物。 [請求項12] 炭素繊維に請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグ。 [請求項13] 炭素繊維に請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグを硬化して得られる繊維強化複合材料。 [請求項14] 炭素繊維に請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグを硬化して得られ、0.6mm厚の成形板としたときの難燃性が、UL-94VでV-0である繊維強化複合材料。 [請求項15] 炭素繊維に請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグを硬化して得られ、2mm厚の樹脂板としたときの難燃性が、UL-94VでV-0またはV-1である繊維強化複合材料。 [請求項16] 炭素繊維に請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグを硬化して得られ、2mm厚の樹脂板としたときの難燃性が、UL-94VでV-0である繊維強化複合材料。 [請求項17] 炭素繊維に請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグ。 [請求項18] 炭素繊維に請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグ。 [請求項19] 炭素繊維に請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグを硬化して得られる繊維強化複合材料。 [請求項20] 炭素繊維に請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグを硬化して得られる繊維強化複合材料。 [請求項21] 炭素繊維に請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグを硬化して得られ、0.6mm厚の成形板としたときの難燃性が、UL-94VでV-0である繊維強化複合材料。 [請求項22] 炭素繊維に請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグを硬化して得られ、0.6mm厚の成形板としたときの難燃性が、UL-94VでV-0である繊維強化複合材料。 [請求項23] 炭素繊維に請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグを硬化して得られ、2mm厚の樹脂板としたときの難燃性が、UL-94VでV-0またはV-1である繊維強化複合材料。 [請求項24] 炭素繊維に請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグを硬化して得られ、2mm厚の樹脂板としたときの難燃性が、UL-94VでV-0またはV-1である繊維強化複合材料。 [請求項25] 炭素繊維に請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグを硬化して得られ、2mm厚の樹脂板としたときの難燃性が、UL-94VでV-0である繊維強化複合材料。 [請求項26] 炭素繊維に請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物を含浸してなるプリプレグを硬化して得られ、2mm厚の樹脂板としたときの難燃性が、UL-94VでV-0である繊維強化複合材料。」(特許請求の範囲) イ 「本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ハロゲン系難燃剤、赤リン、リン酸エステルを含有せずに優れた難燃性を有する複合材料を提供するエポキシ樹脂組成物、ならびに前記エポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグおよび繊維強化複合材料を提供することを目的とする。」(段落[0004]) ウ 「以下、本発明について、詳細に説明する。 ≪第一の態様のエポキシ樹脂組成物≫ 本発明の第一の態様のエポキシ樹脂組成物は、以下のリン含有エポキシ樹脂(A)、ノボラック型エポキシ樹脂(C)、エポキシ樹脂用硬化剤(D)を必須成分とする。 ・・・ 本態様のエポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂(A)は1種でも2種以上でもよい。 本態様のエポキシ樹脂組成物中、リン含有エポキシ樹脂(A)の配合量は、エポキシ樹脂組成物の総質量に対し、10?50質量%が好ましく、15?50質量%がより好ましく、19?50質量%がさらに好ましく、19?31質量%が特に好ましい。10質量%以上とすることでエポキシ樹脂組成物のリン含有率が高まり、充分な難燃性を付与することができる。50質量%以下であればエポキシ樹脂組成物に適度な粘性、取扱性を付与することができる。 エポキシ樹脂組成物のリン含有率は、0.5?3質量%が好ましく、1?2.5質量%がより好ましい。 また、本態様のエポキシ樹脂組成物中、リン含有エポキシ樹脂(A)の配合量は、当該エポキシ樹脂組成物中に含まれる、リン含有エポキシ樹脂(A)以外の他のエポキシ樹脂(後述するノボラック型エポキシ樹脂(C)、その他のエポキシ樹脂等)の合計量100質量%に対し、35?60質量%が好ましく、35?50質量%がより好ましい。この範囲内であると、樹脂硬化物の靭性と耐熱性と難燃性を高度にそれぞれ達成できる。 <ノボラック型エポキシ樹脂(C)> ノボラック型エポキシ樹脂(C)としては、リンを含有しないものであればよく、特に限定されないが、化学構造上、難燃性に優れるフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種が好適である。 本態様のエポキシ樹脂組成物中に含まれるノボラック型エポキシ樹脂(C)は1種でも2種以上でもよい。 <その他のエポキシ樹脂(G)> 本態様のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、前記リン含有エポキシ樹脂(A)、ノボラック型エポキシ樹脂(C)、および後述するリン含有エポキシ樹脂(B)、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂(F)以外の他のエポキシ樹脂(G)を含有することができる。 このようなエポキシ樹脂(G)として、たとえばビスフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。中でもビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。 <エポキシ樹脂用硬化剤(D)> エポキシ樹脂用硬化剤(D)としては、エポキシ樹脂を硬化させうるものであればどのような構造のものでもよく、公知の硬化剤が使用可能である。具体例として、アミン、酸無水物、ノボラック樹脂、フェノール、メルカプタン、ルイス酸アミン錯体、オニウム塩、イミダゾールなどが挙げられる。これらの中でも、アミン型の硬化剤が好ましい。アミン型の硬化剤としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミン、脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミンなど、およびそれらの異性体、変成体を用いることができる。これらのなかでもジシアンジアミドは、プリプレグの保存性に優れるため特に好ましい。 本態様のエポキシ樹脂組成物中、エポキシ樹脂用硬化剤(D)の配合量は、エポキシ樹脂用硬化剤(D)以外のエポキシ樹脂組成物のエポキシ当量に対する当該エポキシ樹脂用硬化剤(D)の活性水素当量の比が0.5?1となる量が好ましい。前記比は0.6?0.8がより好ましい。0.5以上にすることで充分に硬化することができる。1以下にすることで硬化物の靭性を高くできる。 <硬化促進剤(E)> 本態様のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、硬化促進剤(E)を含有してもよい。硬化促進剤(E)としては、使用するエポキシ樹脂硬化剤(D)による硬化反応を促進する効果を有するものであればよく、特に制限するものではない。このような硬化促進剤(E)として、たとえばエポキシ樹脂用硬化剤(D)がジシアンジアミドである場合、3-フェニル-1、1-ジメチル尿素、3-(3、4-ジクロロフェニル)-1、1-ジメチル尿素(DCMU)、3-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-1、1-ジメチル尿素、2、4-ビス(3、3-ジメチルウレイド)トルエン等の尿素誘導体が好ましい。また、エポキシ樹脂用硬化剤(D)が酸無水物やノボラック樹脂である場合、三級アミンが好ましい。また、エポキシ樹脂用硬化剤(D)がジアミノジフェニルスルホンである場合、イミダゾール化合物、フェニルジメチルウレア(PDMU)等のウレア化合物、三フッ化モノエチルアミン、三塩化アミン錯体等のアミン錯体が好ましい。これらの中でもジシアンジアミドとDCMUの組み合わせが特に好ましい。」(段落[0017]?[0028]) エ 「≪第二の態様のエポキシ樹脂組成物≫ 本発明の第二の態様のエポキシ樹脂組成物は、以下のリン含有エポキシ樹脂(A)、リン含有エポキシ樹脂(B)、ノボラック型エポキシ樹脂(C)、エポキシ樹脂用硬化剤(D)を必須成分とし、前記(B)と前記(C)の質量比が2:8?7:3である。 <リン含有エポキシ樹脂(A)> 本態様に用いられるリン含有エポキシ樹脂(A)としては、前記第一の態様で挙げたリン含有エポキシ樹脂(A)と同様のものが挙げられる。 本態様のエポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂(A)は1種でも2種以上でもよい。 本態様のエポキシ樹脂組成物中、リン含有エポキシ樹脂(A)の配合量は、エポキシ樹脂組成物の総質量に対し、10?50質量%が好ましく、15?50質量%がより好ましく、19?50質量%がさらに好ましく、19?31質量%が特に好ましい。10質量%以上とすることでエポキシ樹脂組成物のリン含有率が高まり、充分な難燃性を付与することができる。50質量%以下であればエポキシ樹脂組成物に適度な粘性、取扱性を付与することができる。 エポキシ樹脂組成物のリン含有率は、0.5?3質量%が好ましく、2?2.8質量%がより好ましい。 また、本態様のエポキシ樹脂組成物中、リン含有エポキシ樹脂(A)の配合量は、当該エポキシ樹脂組成物中に含まれる、リン含有エポキシ樹脂(A)以外の他のエポキシ樹脂(後述するリン含有エポキシ樹脂(B)、ノボラック型エポキシ樹脂(C)、その他のエポキシ樹脂等)の合計量100質量%に対し、35?60質量%が好ましく、35?50質量%がより好ましい。この範囲内であると、樹脂硬化物の靭性と耐熱性と難燃性を高度にそれぞれ達成できる。 <リン含有エポキシ樹脂(B)> リン含有エポキシ樹脂(B)は、下記式(b)で示される化合物(b)からなる。 [化11](化11イメージ省略) [式中、X’^(1)、X’^(2)は、それぞれ独立して、前記式(I)、(II)または(III)で示される基である。ただし、当該エポキシ樹脂組成物中の全X’^(1)、X’^(2)のうちの少なくとも1つは前記式(I)または(II)で示される基であり、少なくとも1つは前記式(III)で示される基である。Zは-CH_(2)-、-C(CH_(3))_(2)-または-SO_(2)-である。] リン含有エポキシ樹脂(B)は、X’^(1)、X’^(2)のうちの一方が前記式(I)または(II)で示される基であり、他方が式(III)で表される化合物のみから構成されてもよく、、X’^(1)、X’^(2)のうちの一方または両方が前記式(I)または(II)で示される基である化合物と、両方が前記式(III)で示される基である化合物との混合物であってもよい。 リン含有エポキシ樹脂(B)は、市販品を用いてもよく、公知の製造方法により合成したものを用いてもよい。 市販品としては、たとえば東都化成株式会社製FX-289Z-1が挙げられる。 リン含有エポキシ樹脂(B)の製造方法としては、たとえば、式(b)中の、X’^(1)、X’^(2)の両方が式(III)で示される基であるエポキシ樹脂(たとえばビスフェノール型エポキシ樹脂)に、前記式(c)で表される化合物(DOPO)を高温・触媒存在下で反応させる方法が挙げられる。このとき、DOPOの使用量は、反応後、原料のエポキシ樹脂中のエポキシ基の一部が残存する量とする。 本態様のエポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂(B)は1種でも2種以上でもよい。 本態様のエポキシ樹脂組成物中、リン含有エポキシ樹脂(B)の配合量は、当該リン含有エポキシ樹脂(B)と後述するノボラック型エポキシ樹脂(C)の質量比((B):(C))が2:8?7:3の範囲内となる量である。リン含有エポキシ樹脂(B)を、前記質量比が2:8となるより多く配合することで、エポキシ樹脂組成物に適度な粘性を付与することができる。逆に、リン含有エポキシ樹脂(B)を、前記質量比が7:3となるより少なく配合することで、エポキシ樹脂組成物を成形して得られる複合材料の機械強度の低下を防ぐことができる。 <ノボラック型エポキシ樹脂(C)> 本態様に用いられるノボラック型エポキシ樹脂(C)としては、前記第一の態様で挙げたノボラック型エポキシ樹脂(C)と同様のものが挙げられる。 本態様のエポキシ樹脂組成物中に含まれるノボラック型エポキシ樹脂(C)は1種でも2種以上でもよい。 <その他のエポキシ樹脂(G)> 本態様のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、前記リン含有エポキシ樹脂(A)、リン含有エポキシ樹脂(B)、ノボラック型エポキシ樹脂(C)、および後述するトリスフェノールメタン型エポキシ樹脂(F)以外の他のエポキシ樹脂(G)を含有することができる。 このようなエポキシ樹脂(G)としては、前記第一の態様で挙げたエポキシ樹脂(G)と同様のものが挙げられる。 <エポキシ樹脂用硬化剤(D)> エポキシ樹脂用硬化剤(D)としては、前記第一の態様で挙げたエポキシ樹脂硬化剤(D)と同様のものが挙げられる。 本態様のエポキシ樹脂組成物中、エポキシ樹脂用硬化剤(D)の配合量は、エポキシ樹脂用硬化剤(D)以外のエポキシ樹脂組成物のエポキシ当量に対する当該エポキシ樹脂用硬化剤(D)の活性水素当量の比が0.5?1となる量が好ましい。前記比は0.6?0.8がより好ましい。0.5以上にすることで充分に硬化することができる。1以下にすることで硬化物の靭性を高くできる。 <硬化促進剤(E)> 本態様のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、硬化促進剤(E)を含有してもよい。硬化促進剤(E)としては、前記第一の態様で挙げた硬化促進剤(E)と同様のものが挙げられる。 <熱可塑性樹脂> 本態様のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂を含有してもよい。 熱可塑性樹脂の種類については特に限定されず、たとえば、前記第一の態様で挙げた熱可塑性樹脂と同様のものが挙げられる。 <添加剤> 本態様のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の様々な添加剤を含有してもよい。前記添加剤としては、たとえば、前記第一の態様で挙げた添加剤と同様のものが挙げられる。」(段落[0031]?[0042]) オ 「≪プリプレグ≫ 前記第一?第三の態様のエポキシ樹脂組成物は、それぞれ、強化繊維に含浸させてプリプレグとして使用することができる。 強化繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、高強度ポリエステル繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維などの各種の無機繊維または有機繊維を用いることができる。中でも難燃性の観点から、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維が好ましく、比強度および比弾性に優れる点から炭素繊維が特に好ましい。 強化繊維の形態としては、一方向に引き揃えてもよく、織物、またノンクリンプファブリックでもよい。 プリプレグは、前記第一?第三のいずれか一態様のエポキシ樹脂組成物と前記強化繊維とを用いて、公知の方法で製造することができる。」(段落[0053]) カ 「実施例 次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。 以下の各例で使用した原料(樹脂等)、評価方法を以下に示す。 <原料(樹脂等)> リン含有エポキシ樹脂(A)、リン含有エポキシ樹脂(B)、ノボラック型エポキシ樹脂(C)、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂(F)、その他のエポキシ樹脂(G)、エポキシ樹脂用硬化剤(D)、硬化促進剤(E)として、表1に記載の製品を用意した。 表1に示す原料のうち、エポキシ樹脂(A-1、B-1、C-1-C-3、F-1、G-1)のエポキシ当量(g/eq)、リン含有率(質量%)はそれぞれ以下の通りのものを用意した。 A-1:エポキシ当量7740g/eq、リン含有率7.4質量%。 B-1:エポキシ当量227g/eq、リン含有率2.0質量%。 C-1:エポキシ当量177g/eq、リン含有率0質量%。 C-2:エポキシ当量188g/eq、リン含有率0質量%。 C-3:エポキシ当量172g/eq、リン含有率0質量%。 F-1:エポキシ当量169g/eq、リン含有率0質量%。 G-1:エポキシ当量189g/eq、リン含有率0質量%。 また、D-1の活性水素当量は、分子式中の水素数と分子量から21g/eqと計算された。 ・・・ 」(段落[0055]?[0080]) (2) 甲3及び甲10に記載された事項 本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲3には、以下の事項が記載されている。 ア 「ジシアンジアミド硬化エポキシ樹脂の潜在性促進剤としてのウレアの特性に関する研究 ファン ジフ、リャン ジャン、ザン バオロン、ディン ペイユアン、ズ ゾンジ(南海大学 化学科、天津) 要約 異なる置換ウレアのシリーズが、ジシアンジアミド硬化エポキシ樹脂の潜在性硬化促進剤として、DSC、TBA、回転粘度計により評価された。実験により、置換ウレアの促進の効果は、α置換基の強度の減少により促進されることが明らかとなった。一方、βおよびγ置換基の性質は促進レベルを妨げないことが明らかとなった。4,4-ビス(N,N-ジメチル)ウレア ジフェニル メタン及び2,4-ビス(N,N-ジメチル)ウレア トルエンは本検討にて評価された促進剤の中で最も効果的であった。これら特定の促進剤を使用することにより、ジシアンジアミドで硬化させるビスフェノールA型エポキシ樹脂の、硬化完了に要する温度は170℃から130℃に減少した。促進剤を3重量%含むエポキシ組成物の貯蔵期間は、粘度-貯蔵時間カーブの外挿によると、30℃で3ヵ月を超える可能性がある。」 本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲10には、以下の事項が記載されている。 イ 「技術分野 本発明は、炭素繊維強化複合材料のマトリックス#脂として好適なエポキシ樹脂脂組成物に関する。より詳しくは、難燃性や力学特性に優れた軽量な樹脂硬化物を与えうるエポキシ樹脂組成物および力かるエポキシ樹脂組成物を含むプリプレグ、更にはかかるエポキシ樹脂の硬化物と炭素繊維からなる繊維強化複合材料板に関するものである。」(段落[0001]) ウ 「また、これらの硬化剤には、硬化活性を高めるために適当な硬化促進剤を組合わせることができる。例えば、ジシアンジアミドに、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、 3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素(DCMU)、3-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-1,1-ジメチル尿素、2,4-ビス(3,3-ジメチルウレイド)トルエンのような尿素誘導体やイミダゾール誘導体を硬化促進剤として組合わせて好適に用いることができる。ジシアンジアミド単独では硬化に170?180℃程度が必要であるのに対し、かかる組み合わせを用いた樹脂組成物は80?150℃程度で硬化可能となる。特に、ジシアンジアミドと1分子中にウレア結合を2個以上有する化合物との組み合わせが好ましい。 1分子中にウレア結合を2個以上有する化合物としては、1, 1 '-4- (メチル-m-フェニレン)ビス(3,3-ジメチルウレア)あるいは 4, 4,-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)が好ましく、これらの化合物を用いた場合、150?160℃で2?10分程度で硬化可能であることに加えて、厚みの薄い板での難燃性が大幅に向上し、電気・電子材料用途等に応用した場合、特に好ましい。」(段落[0047]) (3) 甲6及び甲7に記載された事項 本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲6には、以下の事項が記載されている。 ア 「本発明の炭素繊維プリプレグはリン含有エポキシ樹脂(A)、非リン含有エポキシ樹脂(B)の他にフェノキシ樹脂(E)を配合することができる。フェノキシ樹脂は、マトリックス樹脂に、可撓性、耐衝撃性、接着力の付与、適度の粘性を目的に配合されるものであり、その配合量は全マトリックス樹脂に対して、0?20重量%の範囲で、より好ましくは0.5?15重量%、更に好ましくは1.0?13重量%である。フェノキシ樹脂(E)は、一般式(8)で示される。」(段落【0031】) 本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲7には、以下の事項が記載されている。 イ 「本発明のエポキシ樹脂組成物は、粘弾性制御や靱性付与のため、適宜、熱可塑性樹脂を配合することができる。 熱可塑性樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、芳香族ビニル単量体・シアン化ビニル単量体・ゴム質重合体から選ばれる少なくとも2種類を構成成分とする重合体、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリーレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、フェノキシ樹脂などが挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂と良好な相溶性を有し、エポキシ樹脂組成物の流動性制御の効果が大きい点から、ポリビニルホルマールおよびフェノキシ樹脂が好ましく用いられ、この中でも下記式(I)で表される化合物との相溶性が良く、難燃性が高い点から、フェノキシ樹脂が特に好ましく用いられる。 [化6] ここで用いられるフェノキシ樹脂としては特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA型・F型混合型フェノキシ樹脂などのビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹脂のほか、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。 ビスフェノールA型フェノキシ樹脂の市販品としては、YP-50、YP-50S、YP-55U(以上、東都化成(株)製)が挙げられる。ビスフェノールF型フェノキシ樹脂の市販品としては、FX-316(東都化成(株)製)が挙げられる。ビスフェノールA型・F型混合型フェノキシ樹脂の市販品としては、YP-70、ZX-1356-2(以上、東都化成(株)製)が挙げられる。この中でも、より優れた相溶性、難燃性を示すことから、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂やビスフェノールA型・F型混合型フェノキシ樹脂が好ましい。 本発明のエポキシ樹脂組成物において、熱可塑性樹脂を配合する場合の配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、0.5?10質量部であることが好ましい。熱可塑性樹脂の配合量を0.5質量部以上とすることにより、粘弾性の制御や靭性付与といった効果がえられやすくなり、さらに10質量部以上とすることにより、プリプレグのドレープ性や、炭素繊維強化複合材料の難燃性を高いレベルで維持できるようになる。」(段落[0053]?[0056]) (4) 甲2に記載された発明 甲2には、上記(1)ア?カの記載からみて、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。 「下記式(a)で示される化合物(a)からなるリン含有エポキシ樹脂(A)、下記式(b)で示される化合物(b)からなるリン含有エポキシ樹脂(B)、ノボラック型エポキシ樹脂(C)、エポキシ樹脂用硬化剤(D)を必須成分とし、前記(B)と前記(C)の質量比が2:8?7:3であって、エポキシ樹脂組成物のリン含有率は2?2.8質量%である繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 [式中、nは1以上の整数である。Xは下記式(I)、(II)または(III)で示される基であり、式中の(n+2)個のXはそれぞれ同じであっても異なってもよい。ただし、当該エポキシ樹脂組成物中の全Xのうちの少なくとも1つは前記式(I)または(II)で示される基であり、少なくとも1つは前記式(III)で示される基である。Yは-Hまたは-CH_( 3)であり、式中の(n+2)個のYはそれぞれ同じであっても異なってもよい。] [式中、X’^(1)、X’^(2)は、それぞれ独立して、前記式(I)、(II)または(III)で示される基である。ただし、当該エポキシ樹脂組成物中の全X’^(1)、X’^(2)のうちの少なくとも1つは前記式(I)または(II)で示される基であり、少なくとも1つは前記式(III)で示される基である。Zは-CH_(2)-、-C(CH_(3))_(2)-または-SO_(2)-である。]」 (5) 本件発明1と甲2発明との対比・判断 本件発明1と甲2発明とを対比すると、 甲2発明の「リン含有エポキシ樹脂(A)」及び「リン含有エポキシ樹脂(B)」は、本件発明1における「骨格にリンを含むリン含有エポキシ樹脂」に相当する。 甲2発明の「ノボラック型エポキシ樹脂(C)」は、本件発明1における「エポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂」に相当する。 甲2発明のエポキシ樹脂に含まれるリン含有量である「2?2.8質量%」は、本件発明1のリン含有量と重複一致している。 本件発明1における「ジシアンジアミド」は、エポキシ樹脂の硬化剤として利用されているものである。 そうすると、本件発明1と甲2発明は、 「骨格にリンを含むリン含有エポキシ樹脂と、 エポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂と、 硬化剤とを含み、 前記リン含有エポキシ樹脂のリン含有量は、エポキシ樹脂組成物中に1.0質量%以上5.0質量%以下である、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1は、硬化剤成分として「ジシアンジアミドと、1、1’-(4-メチル-1、3-フェニレン)ビス(3、3-ジメチル尿素)と、下記式(1)で示されるフェニル-ジメチル尿素と、下記式(2)で示されるメチレン-ジフェニル-ビスジメチル尿素との少なくとも1つを含む硬化促進剤とを含み 」と特定するのに対して、甲2発明においては、この点を特定しない点。 <相違点2> 本件発明1は、リン含有エポキシ樹脂の配合量に関し、「エポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量部に対し、75質量部以上90質量部以下である」と特定するのに対し、甲2発明は、この点を特定しない点。 以下、相違点について検討する。 相違点1について 甲2には、 「エポキシ樹脂用硬化剤(D)としては、・・・これらの中でも、アミン型の硬化剤が好ましい。アミン型の硬化剤としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミン、脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミンなど、およびそれらの異性体、変成体を用いることができる。これらのなかでもジシアンジアミドは、プリプレグの保存性に優れるため特に好ましい。・・・ 本態様のエポキシ樹脂組成物中、エポキシ樹脂用硬化剤(D)の配合量は、エポキシ樹脂用硬化剤(D)以外のエポキシ樹脂組成物のエポキシ当量に対する当該エポキシ樹脂用硬化剤(D)の活性水素当量の比が0.5?1となる量が好ましい。前記比は0.6?0.8がより好ましい。0.5以上にすることで充分に硬化することができる。1以下にすることで硬化物の靭性を高くできる。 <硬化促進剤(E)> 本態様のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、硬化促進剤(E)を含有してもよい。硬化促進剤(E)としては、使用するエポキシ樹脂硬化剤(D)による硬化反応を促進する効果を有するものであればよく、特に制限するものではない。このような硬化促進剤(E)として、たとえばエポキシ樹脂用硬化剤(D)がジシアンジアミドである場合、3-フェニル-1、1-ジメチル尿素、3-(3、4-ジクロロフェニル)-1、1-ジメチル尿素(DCMU)、3-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-1、1-ジメチル尿素、2、4-ビス(3、3-ジメチルウレイド)トルエン等の尿素誘導体が好ましい。」(段落[0027]、「0028]) との記載がある。 当該記載によれば、甲2発明の硬化剤成分の望ましい成分として、「ジシアンジアミドと3-フェニル-1、1-ジメチル尿素」あるいは「ジシアンジアミドと2、4-ビス(3、3-ジメチルウレイド)トルエン」が明記されているから、甲2発明の硬化剤成分として当該望ましい組み合わせを採用することは当業者において想到容易である。 そのことによる効果も、上記の「ジシアンジアミドは、プリプレグの保存性に優れるため特に好ましい」との記載、及び、ジシアンジアミドと2、4-ビス(3、3-ジメチルウレイド)トルエンを併用することで硬化温度を低下させることができるとの当業者の技術常識(上記(2)参照のこと)を踏まえれば、当業者の予測の範囲内のものである。 相違点2について 甲2には、リン含有エポキシ樹脂(A)の配合量に関し、 「リン含有エポキシ樹脂(A)の配合量は、エポキシ樹脂組成物の総質量に対し、10?50質量%が好ましく、15?50質量%がより好ましく、19?50質量%がさらに好ましく、19?31質量%が特に好ましい。10質量%以上とすることでエポキシ樹脂組成物のリン含有率が高まり、充分な難燃性を付与することができる。50質量%以下であればエポキシ樹脂組成物に適度な粘性、取扱性を付与することができる。」(上記(2)オ) との記載があるから、甲2発明におけるリン含有エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ樹脂である「リン含有エポキシ樹脂(B)」と「ノボラック型エポキシ樹脂(C)」を合わせた配合量は、好ましくは90?50質量%といえる。 そして、甲2発明において「リン含有エポキシ樹脂(B)」と「ノボラック型エポキシ樹脂(C)」とは2:8?7:3の配合量であることから、エポキシ樹脂全体における「リン含有エポキシ樹脂(A)」と「リン含有エポキシ樹脂(B)」の合計の配合量の取り得る範囲は、エポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量部に対し、28?85質量%の範囲となる。 また、甲2に記載されている具体的な実施例9?13をみると、リン含有エポキシ樹脂に相当するA-1成分及びB-1成分の合計量は、リン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量部に対して、それぞれ63質量部、71質量部、41質量部、52質量部、78質量部である。 そうすると、甲2発明において特定されていないリン含有エポキシ樹脂の配合量を、エポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量部に対し、75質量部以上90質量部以下とすることは、当業者が具体的な樹脂の利用状況に応じて適宜なし得る設計的事項といえ、相違点2も想到容易である。 そして、そのことによる効果も格別なものがあるとは認められない。 以上のことから、本件発明1は、甲2発明及び甲2に記載の技術事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 (6) 本件発明2と甲2発明との対比・判断 本件発明2は、本件発明1をさらに「硬化促進剤の含有量は、前記リン含有エポキシ樹脂とその他のエポキシ樹脂との質量の和100質量部に対して1質量部以上15質量部以下である」点で限定するものである。 甲2発明における硬化促進剤の配合量は特定されていないが、甲2の実施例9ないし13の記載も併せみれば、本件発明2で特定する配合量は通常の範囲といえ、新たな相違点とはならない。 そうでなくとも、当該範囲とすることは当業者が適宜なし得る設計的事項である。 その余の点は、上記(5)での検討のとおりであるから、本件発明2は、甲2発明及び甲2に記載の技術事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 (7) 本件発明3について 本件発明3は、本件発明1又は2をさらに「フェノキシ樹脂を含む」点で限定するものである。本件発明3と甲2発明を対比すると、上記相違点1、2に加えて、以下の点で相違する。 <相違点3> 本件発明2は、「フェノキシ樹脂を含む」と特定するのに対して、甲2発明は、この点を特定しない点。 以下、相違点について検討する。 相違点1及び2については、上記(5)での検討のとおりである。 相違点3について、難燃性の繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂において、可撓性、耐衝撃性、粘性の調整を目的として、フェノキシ樹脂を全マトリックス樹脂に対して1?13重量%配合させることは周知の技術(上記(3)参照)であるから、相違点3は、当業者が周知技術から容易に想到し得たことである。 そして、そのことによる効果についても、当業者の予測の範囲内といえる。 そうすると、本件発明3は、甲2発明及び甲2に記載の技術事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 (8) 本件発明4について 本件発明4は、本件発明3をさらに「フェノキシ樹脂の含有量は、前記リン含有エポキシ樹脂とその他のエポキシ樹脂との質量の和100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下である」点でさらに限定するものであるが、上記(7)での検討のとおりであって、本件発明4は、甲2発明及び甲2に記載の技術事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 (9) 本件発明5について 本件発明5は、本件発明1ないし4をさらに「ジシアンジアミドの配合量は、硬化剤以外のエポキシ樹脂組成物のエポキシ当量に対する硬化剤の活性水素当量の比が0.5以上1以下である」点でさらに限定するものであるが、甲2の[0027]の記載から、甲2発明でジシアンジアミドを硬化剤とした場合の配合量も本件発明5での範囲と重複一致するといえる。 そうすると、本件発明4は、甲2発明及び甲2に記載の技術事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 (10) 本件発明6について 本件発明6は、本件発明1?5のいずれか1項に記載の維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなることを特徴とするプリプレグである。 そして、甲2には、甲2発明を強化繊維に含浸させてなるプリプレグが記載されている。 そうすると、本件発明6は、上記(5)?(9)のとおりであって、本件発明6は、甲2発明及び甲2に記載の技術事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 (9) まとめ 本件発明1ないし6は、甲2発明及び甲2に記載の技術事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1ないし6は、甲2発明及び甲2の記載事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物 【技術分野】 【0001】 本発明は、硬化性および難燃性に優れた炭素繊維強化複合材料を与えると共に、貯蔵安定性に優れた繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に関する。 【背景技術】 【0002】 エポキシ樹脂をはじめとする熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化複合材料、特に炭素繊維を用いた炭素繊維強化複合材料は、軽量性と優れた力学特性から航空機や車両などの構造材料、コンクリート構造物の補強、ゴルフクラブ、テニスラケット、釣り竿などのスポーツ分野などをはじめ幅広い分野で使用されている。また、炭素繊維強化複合材料は、優れた力学特性のみならず、炭素繊維が導電性を有し、その複合材料が優れた電磁波遮断性を有することから、ノートパソコンやビデオカメラなどの電子電気機器の筐体などにも使用され、筐体の薄肉化、機器の重量軽減などに役立っている。このような炭素繊維強化複合材料は、熱硬化性樹脂を強化繊維に含浸して得られるプリプレグを積層して得られることが多い。 【0003】 かかる用途に用いられるプリプレグに要求される諸特性としては、耐熱性、耐衝撃性といった成型物の物性が優れていることはもちろん、同時に室温での貯蔵安定性に優れ、所定の硬化条件(硬化温度、硬化時間など)において適正に硬化することなどが挙げられる。 【0004】 また、繊維強化複合材料の様々な用途の中で、特に航空機や車両などの構造材料や建築材料などにおいては、火災によって材料が着火燃焼しないように材料に難燃性を有することが求められている。電子電気機器においても装置内部からの発熱や外部が高温にさらされることにより、筐体や部品などが発火し燃焼する事故を防ぐために、材料の難燃化が求められている。 【0005】 炭素繊維強化複合材料に難燃性を付与するため、従来、ハロゲン難燃剤が用いられていた。ハロゲン難燃剤として、例えば、臭素に代表されるハロゲンをエポキシ樹脂中に有するハロゲン化エポキシ樹脂、あるいは、ハロゲン化エポキシ樹脂に三酸化アンチモン(Sb_(2)O_(3))を難燃剤に用いることで難燃性を付与した難燃性エポキシ樹脂組成物などが用いられていた。ハロゲン化エポキシ樹脂に三酸化アンチモンを含めることで、気相においてラジカルトラップ、空気遮断効果が大きく、高い難燃効果が得られる。 【0006】 これらのハロゲン難燃剤は少量の配合で優れた難燃性を有する反面、燃焼時にハロゲン化水素や有機ハロゲン化物等の有毒ガスを発生する可能性があり、人体や自然環境に悪影響をおよぼす可能性がある。また、ハロゲン難燃剤と共に使用される三酸化アンチモンは有害であるため、取り扱いに注意を必要とする。また、三酸化アンチモンは粉体毒性があるため、人体、環境に対する影響を考慮すると、三酸化アンチモンは樹脂組成物中に全く含まないことが好ましい。そのため、ハロゲンや三酸化アンチモンを含有せずとも優れた難燃性を示す非ハロゲンでの難燃化が進められている。 【0007】 このような流れの中で、ハロゲン難燃剤に代わる難燃剤として、赤リン、リン酸エステルといったリン系化合物や、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムといった金属酸化物などを組み合わせたエポキシ樹脂組成物が広く検討されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、エポキシ樹脂と、アミン系硬化剤と、リン化合物とを含み、リン原子の濃度を所定範囲とすることで、難燃性および力学特性に優れ、燃焼時にハロゲンガスを発生することがなく、繊維複合材料として好適に用いることができる炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物が記載されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0008】 【特許文献1】国際公開第2005/082982号パンフレット 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 ここで、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂に、代替難燃剤としてリン系化合物や金属酸化物を含める場合、十分な難燃性を得るにはリン系化合物や金属酸化物は多量に添加する必要があった。しかし、リン系化合物や金属酸化物を多量に添加すると、エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の強度が低下するなど硬化物の物性が低下する、という問題がある。 【0010】 また、一般に120℃程度の低温での硬化性が上がると、反応性が良くなり、貯蔵安定性の低下につながる。そのため、従来の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を航空機用などのプリプレグとして用いる場合、120℃程度の温度でも硬化可能であって、貯蔵安定性に優れたエポキシ樹脂組成物であることが必要である。 【0011】 そのため、従来の技術では、人体、環境に対する影響を考慮しつつ、物性に優れると共に良好な難燃性を有する硬化物を得ることは困難であった。よって、難燃性エポキシ樹脂組成物として、120℃程度で硬化可能であって、環境面に配慮しつつ、貯蔵安定性に優れると共に、良好な難燃性および優れた物性を備えた硬化物が得られる難燃性エポキシ樹脂組成物は見出されていないのが現状である。 【0012】 本発明は、前記問題に鑑み、120℃で硬化可能であって、環境面に配慮され、貯蔵安定性に優れると共に、良好な難燃性及び優れた物性を有する硬化物を得ることができる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明は、次に示す(1)?(5)である。 (1) 骨格にリンを含むリン含有エポキシ樹脂と、 ジシアンジアミドと、 1,1’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)と、下記式(1)で示されるフェニル-ジメチル尿素と、下記式(2)で示されるメチレン-ジフェニル-ビスジメチル尿素との少なくとも1つを含む硬化促進剤と、 を含み、 前記リン含有エポキシ樹脂のリン含有量は、エポキシ樹脂組成物中に1.0質量%以上5.0質量%以下であり、 前記リン含有エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量部に対し、75質量部以上90質量部以下であることを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 【化1】 (2) 前記硬化促進剤の含有量は、前記リン含有エポキシ樹脂とその他のエポキシ樹脂との質量の和100質量部に対して1質量部以上15質量部以下であることを特徴とする上記(1)に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 (3) フェノキシ樹脂を含むことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 (4) 前記フェノキシ樹脂の含有量が、前記リン含有エポキシ樹脂とその他のエポキシ樹脂との質量の和100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下であることを特徴とする上記(3)に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 (5) 上記(1)から(4)の何れか1つに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなることを特徴とするプリプレグ。 【発明の効果】 【0014】 本発明によれば、120℃で硬化可能であって、環境面に配慮され、貯蔵安定性に優れると共に、良好な難燃性及び優れた物性を有する硬化物を得ることができる。 【図面の簡単な説明】 【0015】 【図1】図1は、垂直燃焼試験の状態を示す図である。 【発明を実施するための形態】 【0016】 以下、この発明について詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。 【0017】 本実施形態に係る繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物(以下、「本実施形態の組成物」という。)は、骨格にリンを含むリン含有エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、硬化促進剤と、を含み、120℃で硬化可能であることを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物である。 【0018】 <リン含有エポキシ樹脂> リン含有エポキシ樹脂は、下記式(3)で示される化合物からなる。 【0019】 【化2】 (式中、nは1以上の整数である。Xは下記式(I)、(II)または(III)で示される基であり、式(3)中の(n+2)個のXはそれぞれ同じであっても異なってもよい。ただし、当該エポキシ樹脂中の全Xのうちの少なくとも1つは前記式(I)または(II)で示される基であり、少なくとも1つは前記式(III)で示される基である。Yは-Hまたは-CH_(3)であり、式(3)中の(n+2)個のYはそれぞれ同じであっても異なってもよい。) 【0020】 【化3】 【0021】 式(3)中、nは1以上の整数であり、1?10が好ましく、1?5がより好ましい。10以下であれば耐熱性と流動性のバランスに優れる。 【0022】 リン含有エポキシ樹脂は、式(3)中の(n+2)個のXのうちの一部が前記式(I)または(II)で示される基であり、一部が前記式(III)で示される基である化合物のみから構成されてもよく、式(3)中の(n+2)個のXのうちの一部または全部が前記式(I)または(II)で示される基である化合物と、全部が前記式(III)で示される基である化合物との混合物であってもよい。 【0023】 リン含有エポキシ樹脂は、市販品を用いてもよいし、公知の製造方法により合成したものを用いてもよい。市販品としては、たとえば、東都化成株式会社製の「FX-289Z1」、「FX-0921」などが挙げられる。リン含有エポキシ樹脂の製造方法としては、たとえば、式(3)中の(n+2)個のXのすべてが式(III)で示される基であるエポキシ樹脂(たとえばフェノールノボラック型エポキシ樹脂またはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂)に、下記式(4)で表される化合物(9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド(以下、DOPOということがある。))を高温・触媒存在下で反応させる方法が挙げられる。このとき、DOPOの使用量は、反応後、原料のエポキシ樹脂中のエポキシ基の一部が残存する量とする。 【0024】 【化4】 【0025】 本実施形態の組成物中に含まれるリン含有エポキシ樹脂は1種でも2種以上でもよい。 【0026】 リン含有エポキシ樹脂のリン含有率は、エポキシ樹脂組成物中に1.0質量%以上5.0質量%以下が好ましく、より好ましくは1.3質量%以上3質量%以下である。リン含有エポキシ樹脂のリン含有率が高いほど、得られる樹脂組成物の硬化物の難燃性が向上するが、リン含有率が高すぎると、低温での硬化性の低下を引き起こす場合がある。一方、リン含有エポキシ樹脂のリン含有率が低いほど、得られる樹脂組成物の難燃性が低下する。そこで、リン含有エポキシ樹脂のリン含有率を上記範囲内とすることで、本実施形態の組成物から得られるプリプレグなどの硬化物の難燃性および耐熱性を向上させることができる。 【0027】 本実施形態の組成物におけるリン含有エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に含まれる、リン酸含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂(後述するビスF型エポキシ樹脂、ビスA型エポキシ樹脂、その他のエポキシ樹脂等)の合計量100質量部に対し、75質量部以上95質量部以下が好ましく、80質量部以上90質量部以下がより好ましい。75質量部以上とすることで、エポキシ樹脂組成物のリン含有率が高まり、充分な難燃性を付与することができる。95質量部以下であれば、エポキシ樹脂組成物に適度な粘性、取扱性を付与することができる。よって、リン含有エポキシ樹脂の配合量が上記範囲内であると、樹脂硬化物の靭性と耐熱性と難燃性を高度にそれぞれ達成できる。 【0028】 (その他のエポキシ樹脂) 本実施形態の組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、リン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂を含有することができる。このようなエポキシ樹脂として、たとえば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂等が挙げられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。中でもビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。 【0029】 <ジシアンジアミド> ジシアンジアミドは、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる。一般に、硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化させうるものであればどのような構造のものでもよく、公知の硬化剤が使用可能である。硬化剤の具体例としては、アミン、酸無水物、ノボラック樹脂、フェノール、メルカプタン、ルイス酸アミン錯体、オニウム塩、イミダゾールなどが挙げられる。これらの中でも、アミン型の硬化剤が好ましい。アミン型の硬化剤としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミン、脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミンなど、およびそれらの異性体、変成体を用いることができる。これらのなかでもジシアンジアミドは、プリプレグの保存性に優れるため特に好ましく、本実施形態では、エポキシ樹脂用の硬化剤として用いられる。 【0030】 本実施形態の組成物におけるジシアンジアミドの配合量は、硬化剤以外のエポキシ樹脂組成物のエポキシ当量に対する硬化剤の活性水素当量の比が0.5以上1以下となる量が好ましく、0.6以上0.8以下がより好ましい。0.5以上にすることで充分に硬化することができる。1以下にすることで硬化物の靭性を高くできる。 【0031】 <硬化促進剤> 本実施形態の組成物に含有される硬化促進剤は、本実施形態の組成物を硬化させるための縮合触媒である。硬化促進剤は、硬化剤として用いられるジシアンジアミドの硬化反応を促進する効果を有する。本実施形態の組成物に用いられる硬化促進剤は、ジシアンジアミドの硬化反応を促進する効果を有するものであれば特に限定されるものではなく、従来公知の硬化促進剤を用いることができる。硬化促進剤として、例えば、1,1’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)、下記式(1)で示されるフェニル-ジメチル尿素、下記式(2)で示されるメチレン-ジフェニル-ビスジメチル尿素、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素(DCMU)、3-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-1,1-ジメチル尿素等の尿素誘導体、三級アミン、イミダゾール化合物、フェニルジメチルウレア(PDMU)等のウレア化合物、三フッ化モノエチルアミン、三塩化アミン錯体等のアミン錯体などが挙げられる。硬化促進剤はこれらを単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。 【0032】 【化5】 【0033】 本実施形態では、なかでも特に好ましい硬化促進剤としては、1,1’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)、上記式(1)で示されるフェニル-ジメチル尿素、上記式(2)で示されるメチレン-ジフェニル-ビスジメチル尿素を挙げることができる。 【0034】 本実施形態の組成物に含有される硬化促進剤の含有量は、リン含有エポキシ樹脂とその他のエポキシ樹脂との質量の和100質量部に対して1質量部以上15質量部以下であり、好ましくは3質量部以上10質量部以下である。硬化促進剤の含有量が上記範囲内であると、得られる本発明の組成物の速硬化性がより向上すると共に、得られる本発明の組成物が硬化後のガラス転移温度Tgが高くなり、硬化後の耐久性もより良好となる。 【0035】 <フェノキシ樹脂> 本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、フェノキシ樹脂を含むことが、組成物の強靭性を向上させる点と、未硬化の組成物の粘度を制御して作業性を向上させることができる点で好ましい。フェノキシ樹脂とは、ビスフェノール類とエピクロルヒドリンより合成されるポリヒドロキシポリエーテルで熱可塑性樹脂である。 【0036】 本実施形態の組成物に含まれるフェノキシ樹脂は、下記式(5)で示されるフェノキシ樹脂を含む。 【0037】 【化6】 式(5)中、Mは、C(CH_(3))_(2)、CH_(2)、SO_(2)から選ばれる少なくとも1つであって、2種以上の共重合体であってもよい。 【0038】 フェノキシ樹脂としては、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA型とビスフェノールF型のフェノキシ樹脂、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂などが使用可能である。 【0039】 このようなフェノキシ樹脂の質量平均分子量は、10000?100000であることが好ましく、20000?70000であることが、組成物に強靭性を付与できる点で、より好ましい。 【0040】 フェノキシ樹脂の含有量は、リン含有エポキシ樹脂とその他のエポキシ樹脂との和100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以上30質量部以下である。フェノキシ樹脂の含有量が、5質量部以上であれば、靭性を付与することができると共に、樹脂流れを制御(流れ過ぎ防止)することができる。また、フェノキシ樹脂の含有量が、40質量部以下であれば、プリプレグとして用いた際に、樹脂のタック(表面ベタツキ)、ドレイプ(形状に追従する柔軟性)、耐熱性、耐溶剤性等を保持することができる。 【0041】 このように、本実施形態の組成物は、リン含有エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、硬化促進剤と、を含み、120℃で硬化可能である繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物である。本実施形態の組成物によれば、120℃で硬化可能であって、人体や自然環境に悪影響をおよぼすことなく環境面に配慮され、貯蔵安定性に優れると共に、良好な難燃性及び優れた物性を有する硬化物とすることができ、難燃性及び信頼性に優れた硬化物を得ることができる。 【0042】 従来では、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂に、リン系化合物や金属酸化物を多量に添加することで、十分な難燃性を得ることが可能であった。しかし、リン系化合物を多量に添加すると、耐熱性や強度等の低下を引き起こしていた。また、金属酸化物を多量に添加した場合でも、強度が低下するなど得られる硬化物の物性の低下を引き起こしていた。また、臭素などハロゲンを含むハロゲン化エポキシ樹脂に難燃剤としてSb_(2)O_(3)を用いる場合、Sb_(2)O_(3)は少量(例えば3質量%程度)で、物性の低下を引き起こすことなく、高い難燃性を付与することができる難燃性エポキシ樹脂組成物が得られていた。しかし、樹脂組成物を燃焼して硬化させる際に、ハロゲン化水素や有機ハロゲン化物等の有毒ガスを発生する可能性があり、人体、環境に対する影響を考慮すると、Sb_(2)O_(3)などは積極的に使用することなく、優れた難燃性を示す繊維強化複合材料用などのエポキシ樹脂組成物を開発する必要があった。 【0043】 これに対し、本実施形態の組成物では、人体や自然環境に悪影響をおよぼすことなく環境面に配慮され、貯蔵安定性に優れると共に、本実施形態の組成物から得られる硬化物は、良好な難燃性を有すると共に、高い強度を有するなど物性に優れ、信頼性の高い硬化物を得ることが可能である。 【0044】 本実施形態の組成物は、上記のリン含有エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、硬化促進剤、他のエポキシ樹脂およびフェノキシ樹脂の他に、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば、可塑剤、充填剤、反応性希釈剤、硬化触媒、チクソトロピー性付与剤、シランカップリング剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、乾性油、接着性付与剤、分散剤、脱水剤、紫外線吸収剤、溶剤などが挙げられる。これらの中の2種類以上を含有してもよい。 【0045】 本実施形態の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法で製造することができる。例えば、リン含有エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、硬化促進剤およびフェノキシ樹脂および必要に応じてフェノキシ樹脂や可塑剤等のその他の成分を、室温で均質に混合することで得ることができる。各成分の混合方法としては、三本ロールミル、プラネタリミキサー、ニーダー、万能かくはん機、ホモジナイザー、ホモディスパーなどの混合機を用いる方法が挙げられる。 【0046】 本実施形態の組成物は、上述の通り、120℃で硬化可能であるため、例えば航空機用などのプリプレグ(マトリックス樹脂と補強繊維とを組み合わせた複合材料用前駆体)用樹脂として好適に用いることができる。 【0047】 <プリプレグ> 本実施形態の組成物は、強化繊維に含浸させてプリプレグとして使用することができる。強化繊維としては、特に制限は無く、炭素繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、高強度ポリエステル繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維、スチール繊維などの各種の無機繊維または有機繊維を用いることができる。中でも難燃性の観点から、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維が好ましい。強化繊維の形態としては、一方向に引き揃えてもよく、織物、またノンクリンプファブリックでもよい。 【0048】 プリプレグは、本実施形態の組成物と前記強化繊維とを用いて、公知の方法で製造することができる。 【0049】 <繊維強化複合材料> 繊維強化複合材料は、前記プリプレグを加熱により硬化させることにより得られる。 【実施例】 【0050】 以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。 【0051】 <エポキシ樹脂組成物の作製> 表1に示すエポキシ樹脂とフェノキシ樹脂を、140℃で2時間混合し、均一に溶解させた。70℃に降温した後に硬化剤、硬化促進剤を所定の質量部配合し、均一に混合し、各組成物を作製した。 【0052】 <プリプレグの作製> ガラス織物(繊維目付104g/m^(2))に、樹脂含有量45%(樹脂重量85g/m^(2))となるよう含浸させて、プリプレグを作製した。 【0053】 <試験方法> 上記のようにして得られたプリプレグを用いて貯蔵安定性を評価した。また、このプリプレグをオートクレーブにて120℃、2時間硬化させて得られた硬化物(繊維強化複合材料)を用いて、燃焼試験、ガラス転移温度Tg、圧縮強度および圧縮弾性を各々測定した。 【0054】 [貯蔵安定性] 貯蔵安定性は、得られたプリプレグを室温に14日間暴露した後のタック(粘着力)の有無を25℃の環境下で指触にて評価した。タックは以下の基準で触手により評価した。 ○:板状体の表面に十分な粘着力が感じられたもの ×:板状体の表面にやや粘着力が感じられたものまたはほぼ粘着力が感じられなかったもの 【0055】 [難燃性] プリプレグを6枚積層し、オートクレーブにて硬化した繊維強化複合材料を、7.62cm×30.48cmに裁断して試験片を作製した。作製した試験片を用いて垂直燃焼試験により難燃性を評価した。図1は、垂直燃焼試験の状態を示す図である。図1に示すように、試験片11を垂直に固定し、バーナー12で試験片11の真下から火を60秒間当てた後、延焼の長さLを測定した。延焼の長さLが、15.24cm以下の場合には、耐熱性が良好であると判断した。 【0056】 [ガラス転移温度Tg] オートクレーブ硬化物を3mm×3mmに裁断し、熱機械分析装置(TMA:Thermal Mechanical Analysis)を用いて、ガラス転移温度を求めた。ガラス転移温度Tgは120℃以上であれば耐熱性が良好であると判断した。 [圧縮強度、圧縮弾性率] プリプレグを21枚積層し、オートクレーブにて硬化した繊維強化複合材料より、ASTM D695にしたがって、試験片を作製し、圧縮強度、圧縮弾性率の試験を行った。圧縮強度が500MPa以上であれば圧縮強度は良好であると判断し、圧縮弾性率が20GPa以上であれば、圧縮弾性率は良好であると判断した。 【0057】 【表1】 【0058】 表1に示す各実施例および比較例の各成分の詳細は以下のとおりである。 ・リン含有エポキシ樹脂1:商品名「TX-0921」、東都化成社製 ・リン含有エポキシ樹脂2:商品名「FX-289z1」、東都化成社製 ・リン含有エポキシ樹脂3:商品名「FX-289FA」、東都化成社製 ・ビスフェノールF型エポキシ樹脂:商品名「YDF-170」、東都化成社製 ・ビスフェノールA型エポキシ樹脂:商品名「YD-128」、東都化成社製 ・フェノールノボラックエポキシ樹脂:商品名「jER152」、JER社製 ・フェノキシ樹脂:商品名「YP-75」、東都化成社製 ・ジシアンジアミド:商品名「DICY-15」、JER社製 ・硬化促進剤1:3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、商品名「DCMU」、保土ヶ谷化学社製 ・硬化促進剤2:1,1’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)、商品名「DYHARD UR500」、Evonik社製 ・硬化促進剤3:1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、商品名「1B2PZ」、四国化成社製 ・硬化促進剤4:上記式(1)で示されるフェニル-ジメチル尿素、商品名「DYHARD UR300」、Evonik社製 ・硬化促進剤5:上記式(2)で示されるメチレン-ジフェニル-ビスジメチル尿素、商品名「オミキュアU-52」、CVC Specialty Chemicals社製 【0059】 表1に示す結果から明らかなように、実施例1?3では、プリプレグは、120℃で硬化し、室温に14日間暴露した後であってもプリプレグの板状体の表面に十分な粘着性が感じられた。また、プリプレグを硬化させて得られた繊維強化複合材料は、延焼の長さも15.2cm以下であり、圧縮強度は500MPa以上であり、圧縮弾性率は20GPa以上であった。よって、実施例1?6により得られる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、120℃で硬化可能であり、貯蔵安定性に優れ、この繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物から得られる硬化物は良好な難燃性を有すると共に、強度が高く保持され、物性に優れていた。 【0060】 一方、比較例1では、プリプレグは120℃程度で硬化し、繊維強化複合材料は得られたが、難燃性は低かった。また、比較例2では、硬化温度が120℃程度では繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は未硬化であった。また、比較例3では、プリプレグは120℃程度で硬化し、繊維強化複合材料は得られたが、室温に14日間暴露した後ではプリプレグの板状体の表面に粘着性は感じられなかった。また、比較例4、5では、硬化温度が120℃程度では繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は硬化し、室温に14日間暴露した後ではプリプレグの板状体の表面に粘着性は感じられた。しかし、プリプレグに軽い変形を加えると表面に亀裂が入り、溶剤(MEK)に浸漬すると表層が軟化し、Tgも87?100の範囲内の値で、明確なピークは確認しづらくばらつきが大きかったことから、120℃程度で繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を硬化しても硬化は不十分であるといえる。この結果より、比較例1?5により得られる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、120℃では未硬化か硬化不十分であり、この繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物から得られる硬化物は難燃性が悪く、強度も維持できず物性に劣っていた。また、このエポキシ樹脂組成物は120℃で硬化できても得られた硬化物の貯蔵安定性は悪かった。よって、比較例1?5により得られる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物では、120℃で硬化可能としつつ、貯蔵安定性に優れると共に、良好な難燃性及び優れた物性を有するプリプレグ、繊維強化複合材料を得ることはできないといえる。 【0061】 また、各繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂の硬化剤としてジシアンジアミドを用い、ハロゲン化エポキシ樹脂やリン系化合物を用いていないため、従来より一般に用いられている繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に比べ人体や自然環境に対する影響を小さくできる。 【0062】 よって、実施例1?6の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、120℃で硬化可能としつつ、貯蔵安定性に優れ、人体に対して影響を小さくすることができ、このエポキシ樹脂組成物から得られる硬化物は良好な難燃性を有すると共に、高い強度を有するなど優れた物性を有することから、プリプレグとしての信頼性、安全性を高めることができる。従って、本実施形態の組成物は、120℃で硬化可能であって、貯蔵安定性に優れ、かつ環境面に配慮され安全であると共に、本実施形態の組成物から得られるプリプレグは難燃性が良好であって、高い強度を有するなど物性に優れることから、航空機や車両などの構造材料や建築材料用などの繊維強化複合材料として好適に用いることができる。 【符号の説明】 【0063】 11 試験片 12 バーナー (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 骨格にリンを含むリン含有エポキシ樹脂と、 ジシアンジアミドと、 1,1’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)と、下記、式(1)で示されるフェニル-ジメチル尿素と、下記式(2)で示されるメチレン-ジフェニル-ビスジメチル尿素との少なくとも1つを含む硬化促進剤と、を含み、 前記リン含有エポキシ樹脂のリン含有量は、エポキシ樹脂組成物中に1.0質量%以上5.0質量%以下であり、 前記リン含有エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物に含まれるリン含有エポキシ樹脂及びリン含有エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂の合計量100質量部に対し、75質量部以上90質量部以下であることを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 【化1】 【請求項2】 前記硬化促進剤の含有量は、前記リン含有エポキシ樹脂とその他のエポキシ樹脂との質量の和100質量部に対して1質量部以上15質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 【請求項3】 フェノキシ樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 【請求項4】 前記フェノキシ樹脂の含有量は、前記リン含有エポキシ樹脂とその他のエポキシ樹脂との質量の和100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下であることを特徴とする請求項3に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 【請求項5】 前記ジシアンジアミドの配合量は、硬化剤以外のエポキシ樹脂組成物のエポキシ当量に対する硬化剤の活性水素当量の比が0.5以上1以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。 【請求項6】 請求項1から5の何れか1項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなることを特徴とするプリプレグ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-05-16 |
出願番号 | 特願2011-104405(P2011-104405) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZAA
(C08G)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 小森 勇 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 守安 智 |
登録日 | 2015-10-09 |
登録番号 | 特許第5817206号(P5817206) |
権利者 | 横浜ゴム株式会社 |
発明の名称 | 繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物 |
代理人 | 酒井 宏明 |
代理人 | 酒井 宏明 |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |
代理人 | 高村 順 |
代理人 | 高村 順 |