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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07D
管理番号 1333178
異議申立番号 異議2016-700957  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-05 
確定日 2017-08-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5901365号発明「イミダート化合物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5901365号の明細書及び特許請求の範囲を平成29年4月21日付け手続補正書に添付した訂正明細書及び同年2月16日付けの訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕に訂正することを認める。 特許第5901365号の請求項2ないし3に係る特許を維持する。 特許第5901365号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5901365号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成24年3月12日に特許出願され、平成28年3月18日に特許権の設定登録がされ、平成28年4月6日にその特許公報が発行され、平成28年10月5日に、その請求項1?3に係る発明の特許に対し鈴木淑子(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年10月 5日 特許異議申立書
同年12月14日 取消理由通知書
平成29年 2月16日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 3月29日 訂正拒絶理由通知書
同年 4月21日 意見書・手続補正書・上申書(特許権者)
そして、特許権者が訂正の請求をしたことを受けて、特許異議申立人に対して平成29年5月10日付けで通知書を通知し意見を求めたが、特許異議申立人からは応答がなかった。

第2 訂正の適否についての判断
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成29年2月16日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲及び明細書を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり訂正後の請求項1?3について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。
その後、当審からの訂正拒絶理由通知に対して、特許権者は同年4月21日に手続補正書を提出して、本件訂正を手続補正書に記載のとおり補正することを求めたので、この手続補正が本件訂正の要旨を変更するものか否かを検討し、その上で訂正の適否について検討する。

1 平成29年2月16日付け訂正請求書の補正
(1)補正の内容
平成29年2月16日付けの訂正請求書の中、訂正事項5?訂正事項9に関する記載を削除する。

(2)判断
平成29年4月21日付けの手続補正による上記訂正請求書の補正は、訂正事項5?9を削除するものであり、その要旨を変更するものではないから、当該手続補正による訂正請求書の補正を認める。

2 訂正の内容
上記1で述べたとおり、平成29年4月21日付けの手続補正でした訂正請求書の補正は認められたので、平成29年2月16日付けの訂正請求の内容は、平成29年4月21日付け手続補正書に添付した訂正明細書及び同年2月16日付けの訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおりに訂正する以下のとおりのものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項2である
「(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36質量部以上0.44質量部以下を使用する請求項1に記載の製造方法。」を、
「(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドと、オルト酢酸トリメチルとを反応させ、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造する方法において、
(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36質量部以上0.44質量部以下を使用し、
上記反応で副生するメタノールを、反応系から除去しながら反応を行うことを特徴とする方法。」と訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項3である、
「請求項1に記載の方法により(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを得た後、該(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドと、塩化スルホニルとを、塩基の存在下に反応させ、次いで、アミンを加えて反応させることを特徴とする、(R)-4-(エチルアミノ)-3,4-ジヒドロ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2,e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド 1,1-ジオキシドの製造方法。」を、
「(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドと、オルト酢酸トリメチルとを反応させ、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造する方法において、
(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36質量部以上0.44質量部以下を使用し、
上記反応で副生するメタノールを、反応系から除去しながら反応を行うことを特徴とする方法により(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを得た後、該(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドと、塩化スルホニルとを、塩基の存在下に反応させ、次いで、アミンを加えて反応させることを特徴とする、(R)-4-(エチルアミノ)-3,4-ジヒドロ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2,e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド 1,1-ジオキシドの製造方法。」と訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の明細書の段落【0018】にある、
「即ち、第一の本発明は、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(スルホンアミド体)と、オルト酢酸トリメチルとを反応させることによって、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシド(イミダート体)を製造する方法において、副生するメタノールを、反応系から除去しながら反応を行うことを特徴とする方法である。」を、
「即ち、第一の本発明は、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(スルホンアミド体)と、オルト酢酸トリメチルとを反応させることによって、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシド(イミダート体)を製造する方法において、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36質量部以上0.44質量部以下を使用し、副生するメタノールを、反応系から除去しながら反応を行うことを特徴とする方法である。」と訂正する。

3 訂正の適否
(1)一群の請求項について
訂正事項1?3に係る訂正前の請求項1?3について、請求項2?3はそれぞれ請求項1を直接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について
訂正事項1は、請求項1を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当せず、また、新規事項の追加に当たらないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

(3)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項2は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正であり、特許請求の範囲の内容は同じであるから、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかである。

新規事項の追加について
訂正事項2は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正であるから、新規事項の追加に当たらないことは明らかである。

(4)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正と、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造する際に、原料である(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドとオルト酢酸トリメチルとの使用割合を、1質量部に対して、0.36質量部以上0.44質量部以下、と限定する訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項3は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正であって、また、訂正前の請求項3に係る発明は、原料である(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドと、オルト酢酸トリメチルとを、何らかの割合で反応させて(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造するものであるといえるところ、この割合を(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド1質量部に対して、オルト酢酸トリメチルを0.36質量部以上0.44質量部とする特許請求の範囲を減縮する訂正であるから、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。

新規事項の追加について
願書に添付した明細書の段落【0018】には、「(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(スルホンアミド体)と、オルト酢酸トリメチルとを反応させることによって、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシド(イミダート体)を製造する方法において、」「スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36?0.44質量部を使用することが好ましい。」ことが記載され、また、同【0019】には、「第二の本発明は、第一の本発明で得られた(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシド(イミダート体)と、塩化スルホニルとを、塩基の存在下に反応させ、次いで、アミンを加えて反応させることを特徴とする、(R)-4-(エチルアミノ)-3,4-ジヒドロ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2,e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド 1,1-ジオキシド(ブリンゾラミド)の製造方法である。」ことが記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であるといえる。

(5)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、明細書の段落【0018】において、特許請求の範囲の訂正事項1及び2と記載内容を整合させるための訂正であるから特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更
上記アで述べたように、訂正事項4は特許請求の範囲の訂正に係るものではなく、また、その訂正によって、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものにも当たらないから、特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 新規事項について
上記(2)イ並びに(3)ウで述べたとおり、訂正事項1及び2は、新たな技術的事項を導入したものとはいえないから、訂正事項4も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえ、特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(6)明細書の訂正に係る請求項について
上述のとおり、訂正事項1?3からなる請求項1?3に係る訂正は、願書に添付した明細書に係る訂正事項4と関係し、訂正事項4と関係するすべての一群の請求項である請求項1?3が訂正請求の対象とされている。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

4 まとめ
以上のとおりであるから、手続補正により補正された本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
よって、平成29年4月21日付け手続補正書に添付した訂正明細書及び同年2月16日付けの訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項[1?3]について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記のとおり、手続補正により補正された本件訂正は認められたので、特許第5901365号の請求項2及び3に係る発明(以下「本件発明2」及び「本件発明3」といい、これらを併せて「本件発明」ともいう。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項2及び3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項2】
(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドと、オルト酢酸トリメチルとを反応させ、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造する方法において、
(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36質量部以上0.44質量部以下を使用し、
上記反応で副生するメタノールを、反応系から除去しながら反応を行うことを特徴とする方法。
【請求項3】
(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドと、オルト酢酸トリメチルとを反応させ、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造する方法において、
(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36質量部以上0.44質量部以下を使用し、
上記反応で副生するメタノールを、反応系から除去しながら反応を行うことを特徴とする方法により(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを得た後、該(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドと、塩化スルホニルとを、塩基の存在下に反応させ、次いで、アミンを加えて反応させることを特徴とする、(R)-4-(エチルアミノ)-3,4-ジヒドロ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2,e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド 1,1-ジオキシドの製造方法。」

第4 特許異議申立書で申立てられた取消理由の概要
1 訂正前の請求項1?3に係る発明は、本件優先日前に頒布された以下の刊行物である甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2?9号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、訂正前の請求項1?3に係る発明は、本件優先日前に頒布された以下の刊行物である甲第1号証に記載された発明及び甲第4、6、7、8又は9号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、訂正前の請求項1?3に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

甲第1号証:特開平7-2835号公報
甲第2号証:Leo A. Paquette 編集長、 ENCYCLOPEDIA of Reagents for Organic Synthesis、 JOHN WILEY & SONS、 1995年発行、 第5099?5102頁
甲第3号証:EDWARD C. TAYLOR 他1名著、A Convenient Synthesis of N,N’-Disubstituted Formamidines and Acetamidines^(1)、 J. Org. Chem.、1963年、Vol.28、第1108?1112頁
甲第4号証:William R. Perrault 他10名著、 Production Scale Synthesis of the Non-Nucleoside Reverse Transcriptase Inhibitor Atevirdine Mesylate(U-87,201E)、 Organic Process Research & Development、 1997年 Vol.1 No.2、第106?116頁
甲第5号証:ROYSTON M.ROBERTS 他1名著、Ortho Esters、Imidic Esters and Amidines.IV.The Mechanism of the Reaction of Aniline with Ethyl Orthoformate^(1)、Journal of the American Chemical Society、American Chemical Society、1954年、Vol.76、No.9、第2411?2414頁
甲第6号証:Alan Sherman 他2名著、 石倉洋子 他1名訳、 化学-基本の考え方を中心に-、 株式会社東京化学同人、 2000年2月1日 第1版第11刷発行、 第288?297頁
甲第7号証:井口和男 他4名著、 無機化学、 株式会社廣川書店、 平成元年2月15日 10刷発行、第50?55頁
甲第8号証:特開2003-286271号公報
甲第9号証:特開2004-123552号公報

2 訂正前の請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が、下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものでなく、本件特許は同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

訂正前の請求項1?3に係る発明の課題は、発明の詳細な説明の段落【0010】の記載からみて、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造するに当たり、副生成物の生成を抑制し、短時間且つ高収率で、高純度であるというすべての課題を解決する製造方法を提供することであるが、発明の詳細な説明中の実施例1?29、比較例1をみる限り、訂正前の請求項1?3に係る発明の上記課題が解決されていない実施例が記載されており、訂正前の請求項1?3に係る発明は、課題を解決できない範囲を含むので、訂正前の請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲のものとはいえない。

また、仮に、訂正前の請求項1又は3に係る発明の課題が、発明の詳細な説明の段落【0010】の記載からみて、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造するに当たり、副生成物の生成を抑制するか、短時間且つ高収率であるか、高純度であるかのいずれか一つの課題を解決する製造方法を提供することであるとしても、発明の詳細な説明中の実施例1?29、比較例1をみる限り、上記したいずれの課題も解決されていない場合があるといえ、また、甲第10、11号証をみれば、訂正前の請求項1又は3に係る発明を満たす具体例であっても、上記したいずれの課題も解決できない具体例があるので、訂正前の請求項1又は3に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲のものとはいえない。

3 発明の詳細な説明は、下記の点で、当業者が訂正前の請求項1?3に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、訂正前の請求項1?3に係る発明の特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

発明の詳細な説明には、訂正前の請求項1?3に係る発明のうち、訂正前の請求項1?3に係る発明の課題を解決できない範囲について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

また、発明の詳細な説明に記載された比較例1は、実施例1?29と対比すると、メタノールが除去されていない点とオルト酢酸トリメチルの使用量が多い点で相違しているから、発明の詳細な説明には、メタノールを除去し、特定の使用量のオルト酢酸トリメチルの場合の実施形態のみが実施可能に記載されているだけであって、その他のオルト酢酸トリメチルの使用量の限定がない場合は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない
よって、発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の請求項1又は3に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

第5 取消理由通知の概要
1 本件特許の訂正前の請求項1及び3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第1?4、6、7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をする事ができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

甲第1号証:特開平7-2835号公報
甲第2号証:Leo A. Paquette 編集長、 ENCYCLOPEDIA of Reagents for Organic Synthesis、 JOHN WILEY & SONS、 1995年発行、 第5099?5102頁
甲第3号証:EDWARD C. TAYLOR 他1名著、A Convenient Synthesis of N,N’-Disubstituted Formamidines and Acetamidines^(1)、 J. Org. Chem.、1963年、Vol.28、第1108?1112頁
甲第4号証:William R. Perrault 他10名著、 Production Scale Synthesis of the Non-Nucleoside Reverse Transcriptase Inhibitor Atevirdine Mesylate(U-87,201E)、 Organic Process Research & Development、 1997年 Vol.1 No.2、第106?116頁
甲第6号証:Alan Sherman 他2名著、 石倉洋子 他1名訳、 化学-基本の考え方を中心に-、 株式会社東京化学同人、 2000年2月1日 第1版第11刷発行、 第288?297頁
甲第7号証:井口和男 他4名著、 無機化学、 株式会社廣川書店、 平成元年2月15日 10刷発行、第50?55頁

2 訂正前の請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が、下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものでなく、本件特許は同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

訂正前の請求項1及び2に係る発明の課題は、発明の詳細な説明の段落【0010】及び明細書全体の記載からみて、副生成物の生成を抑制し、短時間且つ高収率で効率よく、高純度の(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造する方法を提供することであり、また、訂正前の請求項3に係る発明の課題は、発明の詳細な説明の段落【0010】、【0020】及び明細書全体の記載からみて、本件発明1において製造された、副生成物の生成を抑制し、短時間且つ高収率で効率よく、高純度の(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを用い、(R)-4-(エチルアミノ)-3,4-ジヒドロ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2,e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド 1,1-ジオキシドを製造する方法を提供することである。
しかしながら、訂正前の請求項1?3に係る発明を満足する実施例1?29であっても、訂正前の請求項1?3に係る発明の課題が解決できていない実施例があるから、訂正前の請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に、課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されてないとする場合があり、また、記載や示唆がなくとも当業者であれば認識できるという本件出願時の技術常識も存在しない。

また、仮に、訂正前の請求項1に係る発明の課題を、副生成物の生成を抑制すること、短時間且つ高収率で効率よく生成すること、又は、高純度の生成物を得ることのいずれか一つの課題を解決した(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造する方法を提供することであるものと理解し、また、訂正前の請求項3に係る発明の課題を、上記本件発明1のいずれか一つの課題を解決して(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造し、そして、(R)-4-(エチルアミノ)-3,4-ジヒドロ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2,e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド 1,1-ジオキシドを製造する方法を提供することであると理解したとしても、訂正前の請求項1又は3に係る発明を満足する実施例1?29や、甲第10、11号証に記載されている例には、上記した訂正前の請求項1に係る発明のいずれの課題も解決することができない場合があるから、訂正前の請求項1又は3に係る発明は、発明の詳細な説明に、課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されてないとする場合があり、また、記載や示唆がなくとも当業者であれば認識できるという本件出願時の技術常識も存在しない。

第6 当審の判断
当審は、請求項1に係る特許については、特許異議申立を却下することとし、また、特許異議申立人が申し立てた取消理由1?3、当審が通知した取消理由1及び2によっては、いずれも、本件発明2及び3に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりであるが、特許異議申立人が申し立てた取消理由1(進歩性)は、甲第1号証に記載された発明を主引用例とし、甲第2?9号証に記載された周知技術又は記載された技術的事項から容易であるとしているのに対して、当審が通知した取消理由1(進歩性)は、甲第1号証に記載された発明を主引用例とし、甲第2?4、6及び7号証に記載された技術的事項から容易であるとしているが、いずれも、甲第1号証に記載された発明を主引用例とし、他の甲号証に記載された技術的事項の組合せにより進歩性を否定する理由を述べているので、以下では、特許異議申立人が申し立てた取消理由1と当審が通知した取消理由1とを併せて検討し、本件発明2及び3と甲第1号証に記載された発明を対比することにより生じた相違点について、甲第2?9号証の記載から容易に想到できたか否かを検討することとする。
また、特許異議申立人が申し立てた取消理由2(サポート要件)は、当審において採用され、当審が通知した取消理由2(サポート要件)として通知されているので、まとめて検討する。
一方、特許異議申立人が申し立てた取消理由3(実施可能要件)は、当審において採用されていないので、改めてここで判断することとする。

なお、以下では、「(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド」を、「スルホンアミド体」ともいい、「(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシド」を、「イミダート体」ともいい、また、「(R)-3,4-ジヒドロ-4-エチルアミノ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド」を、「ブリンゾラミド」ともいう。

1 申立ての却下
上記第2及び第3で示したとおり、請求項1は、本件訂正により削除されているので、請求項1に係る特許に対する特許異議申立てを却下する。

2 特許異議申立人が申し立てた取消理由1と当審が取消理由通知で通知した取消理由1について(進歩性)

(1)刊行物
甲第1号証:特開平7-2835号公報
甲第2号証:Leo A. Paquette 編集長、 ENCYCLOPEDIA of Reagents for Organic Synthesis、 JOHN WILEY & SONS、 1995年発行、 第5099?5102頁
甲第3号証:EDWARD C. TAYLOR 他1名著、A Convenient Synthesis of N,N’-Disubstituted Formamidines and Acetamidines^(1)、 J. Org. Chem.、1963年、Vol.28、第1108?1112頁
甲第4号証:William R. Perrault 他10名著、 Production Scale Synthesis of the Non-Nucleoside Reverse Transcriptase Inhibitor Atevirdine Mesylate(U-87,201E)、 Organic Process Research & Development、 1997年 Vol.1 No.2、第106?116頁
甲第5号証:ROYSTON M.ROBERTS 他1名著、Ortho Esters、Imidic Esters and Amidines.IV.The Mechanism of the Reaction of Aniline with Ethyl Orthoformate^(1)、Journal of the American Chemical Society、American Chemical Society、1954年、Vol.76、No.9、第2411?2414頁
甲第6号証:Alan Sherman 他2名著、 石倉洋子 他1名訳、 化学-基本の考え方を中心に-、 株式会社東京化学同人、 2000年2月1日 第1版第11刷発行、 第288?297頁
甲第7号証:井口和男 他4名著、 無機化学、 株式会社廣川書店、 平成元年2月15日 10刷発行、第50?55頁
甲第8号証:特開2003-286271号公報
甲第9号証:特開2004-123552号公報

(2)刊行物の記載事項
ア 甲第1号証
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【請求項6】 下記(a)?(g)で示される工程からなる下記構造式I
【化6】


〔式中、R_(1)及びR_(2)は、共にHまたはC_(1-4)アルキルから選択され、R_(3)は、C_(1-6)アルキルまたはCH_(2)(CH_(2))_(n)OR_(4)(ただし、R_(4)は、CH_(3)または(CH_(2))_(n)CH_(3)であり、nは、1?4の整数である)または(CH_(2))_(n)Ar(ただし、Arは、未置換フェニル、3-メトキシフェニルまたは4-メトキシフェニルであり、nは、1または2である)〕で表される化合物の合成方法。
工程(a): 3-アセチル-2,5-ジクロロチオフェンのC(2)部位のクロロをベンジルメルカプチドで置換して3-アセチル-5-クロロ-2-(ベンジルチオ)チオフェンを生成し、
工程(b): 先ず、工程(a)で生成した化合物を塩素と反応させて、塩化3-アセチル-5-クロロ-2-チオフェンスルフェニルを生成し、次に、アンモニアと反応させて、3-アセチル-5-クロロ-2-チオフェンスルフェンアミドを生成し、そして、酸化して3-アセチル-5-クロロ-2-チオフェンスルホンアミドを生成することによって、工程(a)で生成した化合物を3-アセチル-5-クロロ-2-チオフェンスルホンアミドに転化し、
工程(c): 工程(b)からの化合物を臭素化して、3-ブロモアセチル-5-クロロ-2-チオフェンスルホンアミドとし、
工程(d): 工程(c)の化合物を還元し、次いで、還元生成物を塩基水溶液で処理して、(S)-3,4-ジヒドロ-6-クロロ-4-ヒドロキシ-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-1,1-ジオキシドを生成し、
工程(e): 工程(d)の化合物をアルキル化して、(S)-3,4-ジヒドロ-6-クロロ-4-ヒドロキシ-2-置換-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-1,1-ジオキシドとし、
工程(f): 先ず、アルキルリチウムと反応させ、次に、得られたアニオンを二酸化硫黄と反応させてスルフィン酸リチウムを生成し、次いで、このスルフィン酸リチウムをヒドロキシルアミン-O-スルホン酸と反応させることによって、工程(e)の化合物から(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-置換-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドを生成し、そして、
工程(g): 工程(f)の化合物のC(6)部位のスルホンアミドを保護し、C(4)部位の水酸基を活性化してアミンで置換する。」(特許請求の範囲の請求項6)

(1b)「【0007】本発明の方法は、反応図式によれば、以下の工程から成ると要約することができる。
工程1: チオエーテルの生成
【0008】
【化8】

工程2: スルホンアミドの生成
【0009】
【化9】

工程3: 臭素化
【0010】
【化10】

工程4: 不斉還元/環化
【0011】
【化11】

工程5: N(2)アルキル化
【0012】
【化12】

工程6: C(6)ハロゲン-金属交換/スルファモイル化
【0013】
【化13】

工程7: C(6)-スルフォンアミドの保護/C(4)-水酸基の活性化/置換
【0014】
【化14】



(1c)「【0016】・・・この化合物は、ヒドロキシルアミン-O-スルホン酸との反応に際し、構造式(7)の(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-置換-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドを生成する。この化合物のC(6)部位のスルホンアミド官能基を保護した後、C(4)部位の水酸基を活性化し、そしてアミンで置換することによって、構造式Iの(R)-3,4-ジヒドロ-4-アルキルアミノ-2-置換-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドが生成される。」

(1d)「【0017】以下、本発明について詳述する。・・・すなわち、本発明の改良方法によれば、中間体をクロマトグラフィーによって精製する必要がなくなり、また、(R)-3,4-ジヒドロ-4-アルキルアミノ-2-置換-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド類をより高い総収率で提供する。・・・」

(1e)「【0024】本発明の方法の第七の工程は、構造式(7)の(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-置換-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドを、構造式Iの(R)-3,4-ジヒドロ-4-アルキルアミノ-2-置換-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドに転化することから成る。この工程は、a)低級アルコキシイミデートとしてのC(6)部位のスルホンアミド官能基の保護、b)C(4)部位の水酸基の活性化、及びc)C(4)部位での立体化学的反転を伴う活性化C(4)水酸基の適切なアミンでの置換、及びC(6)部位のスルホンアミド官能基からの保護基の除去から成る3段階で達成される。C(6)部位のスルホンアミド官能基を保護することによって、C(4)部位の水酸基の活性化中に引き続くスルホンイミドの生成ができるだけ低く抑えられる。保護は、化合物(7)及び過剰のオルト酢酸トリメチル等のオルト酢酸低級アルキルのアセトニトリル溶液を12?48時間還流することによって達成される。溶媒を除去した後、溶媒をテトラヒドロフランに置き換え、C(4)部位の水酸基をピリジン、トリエチルアミンまたはジメチルアミノピリジン等の塩基の存在下に無水メタンスルホン酸または塩化p-トルエンスルホニル、塩化p-ブロモトルエンスルホニルまたは塩化p-ニトロトルエンスルホニル等の塩化スルホニルと反応させることによって、第二段階が行われる。-10?15℃の温度で1?4時間、2?2.5当量の塩化p-トルエンスルホニル及びトリエチルアミンを用いて行うのが好ましい。トシル化を完了したら、第三段階を10?40当量の適切なアミンを冷溶液に添加することによって達成する。8?60時間後、生成物を酸-塩基処理によって単離する。」

(1f)「【0044】[実施例3]下記式で表される(R)-3,4-ジヒドロ-4-エチルアミノ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドの合成例
【0045】
【化17】

【0046】
・・・
【0050】工程3.
(R)-3,4-ジヒドロ-4-エチルアミノ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド
還流冷却器を備えた500mlのフラスコに(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(28.5g、0.08モル)、アセトニトリル(285ml)及びオルト酢酸トリメチル(23.4ml、0.184モル)を装入した。混合物を還流温度(85℃)で16時間加熱した後、TLC分析を行ったところ、反応が完了したことが示された。1時間冷却した後、溶媒を回転蒸発によって除去した。残留油状物を無水テトラヒドロフラン(150ml)に溶解し、溶液を温度計、滴下漏斗及び窒素導入口を備えた1リットルの三つ口フラスコに移した。溶液を窒素下に4℃に冷却し、トリエチルアミン(24.5ml、0.176モル)及び塩化p-トルエンスルホニル(30.5g、0.160モル)を連続して添加した。5分以内に沈殿が認められた。混合物を4?7℃で2時間攪拌した後、TLC分析を行ったところ、トシル化が完了したことが示された。温度を15℃以下に維持しながら、70%エチルアミン水溶液(260ml、2.80モル)を30分かけて滴下した。混合物を周囲温度で18.5時間攪拌した後、溶液を5℃に冷却し、そして、温度を30℃以下に維持しながら濃塩酸(280ml)を1時間かけて滴下した。溶液をジエチルエーテル(2×250ml)で抽出し、一緒にした抽出物を1M塩酸(200ml)で逆抽出した。水性相のpHを固体重炭酸ナトリウムを用いて8に調整して、白色の固体を沈殿させた。2時間冷却した後、固体を濾過によって回収し、水で洗浄した。濾液をTLC分析にかけたところ、いくらかの生成物が存在していることを示したので、濾液を酢酸エチルで抽出した。この酢酸エチル及び追加の酢酸エチルを用いて濾過ケークを溶解し、溶液を硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過し、溶媒を除去し、そして、一定重量になるまで周囲温度で自然乾燥して24.0g(78%)の(R)-3,4-ジヒドロ-4-エチルアミノ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドを得た。2-プロパノールから結晶化した物質は、次の特性を有していた。
【0051】mp 125?127℃;
IR(KBr)3313、1355、1336、1174、1156、1080、1015、914、904、652cm^(-1);
^(1)H-NMR(DMSO-d_(6))δ8.01(s、2H)、7.65(s、1H)、4.10?4.03(m、1H)、3.87?3.76(m、2H)、3.47?3.33(m、4H)、3.22(s、3H)[3.20?3.09(m、1H)によって一部重複]、2.59?2.49(m、2H)、1.86?1.74(m、2H)、1.01(t、3H、J=7Hz);
[α]^(25) _(312.6) -26.1°(c=1、pH3のクエン酸緩衝液);
C_(12)H_(21)N_(3)O_(5)S_(3)の分析:計算値:C=37.58、H=5.48、N=1.96;実測値:C=37.66、H=5.56、N=10.98。」

イ 甲第2号証
甲第2号証には、和訳にして以下の記載がされている。
(2a)「オルト酢酸トリエチル1

(1;R=Et)
[78-39-7] C_(8)H_(18)O_(3) (MW162.26)
(2;R=Me)
[1445-45-0] C_(5)H_(12)O_(3) (MW120.17)」(第5099頁右欄「Triethyl Orthoacetate」の項)

(2b)「ヘテロ原子の変換・・・オルト酢酸エステル類は、1当量の第1級アミンを変換して、アセトイミデートを与える。・・・」(第5101頁右欄第1?7行)

ウ 甲第3号証
甲第3号証には、和訳にして以下の記載がされている。
(3a)「酢酸存在下におけるオルトギ酸エチルのアルキルアミンとの反応が、よい収率でN,N’-ジアルキルホルムアミジンをもたらすことが示されている。同様の条件下で、オルト酢酸エチルが、N,N’-ジアルキルアセトアミジンを与える。オルト酢酸エチルの1モルの芳香族アミンとの反応は、好ましくは酢酸の存在下において、N-アリールアセトイミド酸エチルを与え、一方で、2モルの芳香族アミンとの酢酸存在下における反応はN,N-ジアリールアセトアミジンを与える。これらの反応における酢酸の役割が議論される。」(第1108頁上段概要)

(3b)「オルトギ酸エチルの芳香族第一級アミンとの反応は広く研究されており^(4-9)、主には近年Robertsにより研究されており10-13、彼は芳香族アミン、オルトエステル、ホルムアミジン及びホルムイミデートの相互作用の経路が酸触媒作用に高度に依存することを示す説得力ある証拠を提示した。関与する主な反応は式1及び2(以下)にまとめられている。

」(第1108頁左欄第9?19行)

エ 甲第4号証
甲第4号証には、和訳にして以下の記載がされている。
(4a)「アテビルジンメシル酸塩(・・・)の実際的合成が記載される。その経路は3つの工程からなる。第1工程において、出発物質である3-アミノ-2-クロロピリジンが、アセトイミデートへの転化によりN-エチル化され(1.25当量のオルト酢酸トリメチル、0.003当量のHOTs・H_(2)O、無溶媒;次にMeOHが留去されて、アミン/イミデート平衡をイミデートへと動かし)、次にDIBALにより還元される(2.27当量、トルエン、<10℃)。」(第106頁左欄アブストラクト第1?9行)

(4b)「この方法は、スキーム3として示される実施可能な方法に発展した。3-アミノ-2-クロロピリジンとHOTs・H_(2)O(0.005当量)の混合物に、無溶媒オルト酢酸トリメチル(TMOA、1.24当量)が24℃で添加される。該3-アミノ-2-クロロピリジンは約10℃の吸熱とともにゆっくりと溶解する。その混合物が30℃に温められ、及びメタノールが減圧蒸留により除去される。これは平衡反応であり24、及び、メタノール留去無しでは94%だけで終わり、メタノール留去が98.9?99.9%のアセトイミデートへと反応を動かす。」(第108頁左欄第44?53行)

(4c)「スキーム3 ステップ1:2つの具体的な生成物の製造方法

3-アミノ-2- メチルN-(2’- 2-クロロ-3-(
クロロピリジン クロロ-3’-ピリジル N-エチルアミノ)
2×200kg )アセトイミデート ピリジン
481kg(98.8
8%)


オ 甲第5号証
甲第5号証には、和訳にして以下の記載がされている。
(5a)「オルトエステル、イミド酸エステル、及びアミジン. IV.アニリンとオルトギ酸エチルとの反応のメカニズム」(第2411頁表題)

(5b)「クライゼンは、この反応のメカニズムを2つの工程、等式1及び2、の観点において記載した。これによると、N,N’-ジフェニルホルムアミジン(I)は、IIの形成における中間体である。これが、IIの実験室調製において観察された一連の事象を表すけれども、該反応の真のメカニズムは、等式3及び4の可逆反応の作用を含むと我々は考える。紫外線吸収分光測光法及び高度希釈技術により、我々は、等式3及び4の反応の4つ全ての実証を完了し、そして、等式1及び2の全体の変化を生成する際にそれらがとる順序を示した。本研究の独特な特徴は、IIが実際にはIへの中間体であり、以前考えられていた反対の順番ではないことの実証である。説明が、触媒量の酸の存在下及び不在下におけるアニリンとオルトギ酸エチルの反応により及びホルムイミド酸エステルと芳香族アミンとの反応によりとられる異なる経路について提供される。」(第2411頁概要)

(5c)「

」(第2411頁右上欄)

カ 甲第6号証
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
(6a)「16・2 可逆的化学反応(・・・)
・・・
しかし、多くの反応は可逆である。可逆反応(・・・)は、”生成物が生じても、また反応してもとの反応物に戻ることのできる反応”である。可逆反応は一般的に次のように書くことができる。

ここでAとBは最初の反応物で、CとDが最初の生成物である。A+B→C+Dの反応は正反応とよばれC+D→A+Bの反応は逆反応とよばれる。二重の矢は反応が可逆的であることを示している。反応物のAとBが反応して生成物のCとDをつくると同時に、生成物のCとDが反応して反応物のAとBをつくるので、反応が完了することはない。
(・・・)しかしながら、この系は最終的には平衡条件に到達する。化学平衡系(・・・)においては、”正反応と逆反応が同じ速度で起こる”。図16・4に、この平衡条件がどのようにして生じるかを示した。初めは、反応物粒子の濃度が高いので、正反応が高い速度で始まる。しかし、反応が進行するにつれて、生成物が生じ、反応物の濃度が下がるので、正反応の速度が低下する。最初生成物の濃度は0だから、逆反応の速度は0である。正反応によって生成物がつくられるにつれて、生成物の濃度が上がり、逆反応の速度が増大する。最終的に(平衡状態では)、二つの反応速度は等しくなり、等しいままに保たれる(図16.5)。」(第289頁第4?29行)

(6b)「16・5 ル・シャトリエの原理(・・・)
・・・すなわち、”平衡状態にある系にストレスをかけると、系は、もし可能ならばストレス状態の影響を少なくするように反応し、新しい平衡に達する”。
・・・
濃度変化の影響
系が平衡状態にあるとき、その成分の一つの濃度を変えると、系にストレスがかかったことになる。たとえば、

の系が平衡状態にあるものとしよう。ル・シャトリエの原理によれば、反応物の一つの濃度を増大させる(たとえばCO_(2)を加える)と平衡は右に移動する。すなわち、系はストレス-ここでは過剰のCO_(2)-を、CO_(2)を使うことによってより多くの生成物をつくるという形で減らすように働くのである。その結果、新しい平衡状態では生成物の濃度が増大し、H_(2)の濃度が低くなる。CO_(2)の濃度はもとの濃度よりは高くなるが、その増分は平衡移動を引き起こした増大濃度分よりは小さいのである。
ル・シャトリエの原理によれば、もし生成物の一つの濃度が増大すれば平衡は左に移動する。すなわち系は、その生成物を使ってより多くの反応物をつくるという形で過剰の生成物を減らすように働くのである。新しい平衡点では、反応物の濃度は以前より高くなり、生成物の濃度は(ストレスがかかった直後の濃度よりは)低くなる。」(第296頁第16行?第297頁第11行)

(6c)「例題 16・5
次の平衡系について考える。

ル・シャトリエの原理を使って、(a)?(d)の場合平衡移動がどちらの方向に起こるかを予測せよ。
・・・
(c)反応種Cの濃度を減少させたとき
・・・

・・・
(c)Cの濃度が減少すれば、平衡は右に移動する。生成物の濃度の減少は反応物の濃度の増大と同じ効果をもつ。
・・・」(第297頁第12?26行)

キ 甲第7号証
甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
(7a)「 一般に(4.4)式のように物質A,Bが反応して物質C,Dが生成する場合、化学平衡の状態では(4.5)式が成りたつ。・・・

一般に平衡が成りたっているとき、外部からの影響により平衡を成りたたせている条件が変化すると、正逆いずれかの方向に反応が進行して新たな平衡に達する。このような平衡移動に関しては、ル・シャトリエ・・・の法則がある。すなわち、物理的または化学的に平衡状態にある物質系で、温度、圧力、濃度などを変えるとその系はその変化を相殺する方向に移動する。次に種々の場合についてこの法則による変化を述べる。
温度の影響
・・・

圧力の影響
・・・
濃度の影響
ある物質の濃度を大きくすると、平衡はその物質の濃度を減少させる方向に移動し、濃度を小さくするとその物質の濃度を増す方向に平衡が移動する。(4.6)式では、外部からN_(2)あるいはH_(2)を加えるか、生成したNH_(3)を反応系から除くことにより、反応は右に進行してアンモニアを効果的に合成することができる。」(第51頁第11行?第52頁第17行)

ク 甲第8号証
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
(8a)「【0119】<参考例2> 例示化合物(II-2)の合成
合成スキームを以下に示す。
【0120】
【化52】

【0121】2-アミノベンゼンスルホンアミド体89.3gと酢酸12.0をオルト酢酸トリメチル76.4mL中で副生するメタノールを留去しながら還流下5時間加熱撹拌した。放冷後、ヘキサンを加えて再結晶操作を行い、例示化合物(II-2)を白色結晶で得た。(80.5%)^(1)H-NMR(300MHz、CDCl^(3)、TMS)δ:7.90(d、1H)、7.68(dd、1H)、7.55(d、1H)、7.48(dd、1H)、7.20(s、1H),7.18(d、1H)、6.72(d、1H)、4.14(t、2H),4.05(t、2H)、2.55(s、3H)、2.35(tt、2H)、1.88(q、2H)、1.65(q、2H)、1.45(s、6H)、1.25(s、6H)、0.67(t、3H)、0.63(t、3H)。、TMS)δ:7.90(d、1H)、7.68(dd、1H)、7.55(d、1H)、7.48(dd、1H)、7.20(s、1H),7.18(d、1H)、6.72(d、1H)、4.14(t、2H),4.05(t、2H)、2.55(s、3H)、2.35(tt、2H)、1.88(q、2H)、1.65(q、2H)、1.45(s、6H)、1.25(s、6H)、0.67(t、3H)、0.63(t、3H)。」

ケ 甲第9号証
甲第9号証には、以下の事項が記載されている。
(9a)「【0054】
【化20】



(9b)「【0067】
(参考例)中間体の例示化合物(II-9)の合成
対応する2-アミノベンゼンスルホンアミド体89.3gと酢酸12.0gを、オルト酢酸トリメチル76.4mL中で、副生するメタノールを留去しながら還流下5時間加熱撹拌した。放冷後、ヘキサンを加えて再結晶操作を行い、例示化合物(II-9)を白色結晶で得た。(80.5%)。
^(1)H-NMR(300MHz、CDCl_(3)、TMS)δ:7.90(d、1H)、7.68(dd、1H)、7.55(d、1H)、7.48(dd、1H)、7.20(s、1H),7.18(d、1H)、6.72(d、1H)、4.14(t、2H),4.05(t、2H)、2.55(s、3H)、2.35(tt、2H)、1.88(q、2H)、1.65(q、2H)、1.45(s、6H)、1.25(s、6H)、0.67(t、3H)、0.63(t、3H)」

(3)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の特許請求の範囲の請求項6には、3-アセチル-2,5-ジクロロチオフェンから構造式1


〔式中、R_(1)及びR_(2)は、共にHまたはC_(1-4)アルキルから選択され、R_(3)は、C_(1-6)アルキルまたはCH_(2)(CH_(2))_(n)OR_(4)(ただし、R_(4)は、CH_(3)または(CH_(2))_(n)CH_(3)であり、nは、1?4の整数である)または(CH_(2))_(n)Ar(ただし、Arは、未置換フェニル、3-メトキシフェニルまたは4-メトキシフェニルであり、nは、1または2である)〕で表される化合物を合成する方法として、工程(a)?工程(g)が記載されており、この全体の工程(a)?工程(g)のうち工程(g)についてみてみると、「工程(f)の化合物のC(6)部位のスルホンアミドを保護し、C(4)部位の水酸基を活性化してアミンで置換する。」方法が記載され、工程(f)の化合物は、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-置換-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドであることが記載されている(摘記(1a))。

また、発明の詳細な説明の段落【0024】には、この工程(g)として、「構造式(7)の(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-置換-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドを、構造式Iの(R)-3,4-ジヒドロ-4-アルキルアミノ-2-置換-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドに転化すること」が記載され、この工程は、「a)低級アルコキシイミデートとしてのC(6)部位のスルホンアミド官能基の保護、b)C(4)部位の水酸基の活性化、及びc)C(4)部位での立体化学的反転を伴う活性化C(4)水酸基の適切なアミンでの置換、及びC(6)部位のスルホンアミド官能基からの保護基の除去から成る3段階で達成される。」ことが記載され、「保護は、化合物(7)及び過剰のオルト酢酸トリメチル等のオルト酢酸低級アルキルのアセトニトリル溶液を12?48時間還流することによって達成される。」と記載されている(摘記(1e))。

そして、実施例3における上記工程(g)に対応する工程3としては、「(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(28.5g、0.08モル)、アセトニトリル(285ml)及びオルト酢酸トリメチル(23.4ml、0.184モル)を装入した。混合物を還流温度(85℃)で16時間加熱した後、・・・反応が完了した・・・溶媒を・・・除去した。残留油状物を無水テトラヒドロフラン(150ml)に溶解し、・・・溶液を窒素下に4℃に冷却し、トリエチルアミン(24.5ml、0.176モル)及び塩化p-トルエンスルホニル(30.5g、0.160モル)を連続して添加した。5分以内に沈殿が認められた。・・・トシル化が完了したことが示された。温度を15℃以下に維持しながら、70%エチルアミン水溶液(260ml、2.80モル)を30分かけて滴下した。・・・30℃以下に維持しながら濃塩酸(280ml)を1時間かけて滴下した。・・・固体を濾過によって回収し・・・(R)-3,4-ジヒドロ-4-エチルアミノ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドを得た。」と記載がされ、摘記(1e)において、「a)低級アルコキシイミデートとしてのC(6)部位のスルホンアミド官能基の保護」する化合物としては、オルト酢酸トリメチルが用いられているといえる。

摘記(1e)に記載されている「a)低級アルコキシイミデートとしてのC(6)部位のスルホンアミド官能基の保護」までの工程は、実施例3の工程3としてはオルト酢酸メチルを反応させた工程までといえ、そして、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドにオルト酢酸トリメチルを反応させて低級アルコキシイミデート化すると、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート-1,1-ジオキシドが製造されることは明らかである。

そうすると、甲第1号証には、「(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(28.5g、0.08モル)、アセトニトリル(285ml)及びオルト酢酸トリメチル(23.4ml、0.184モル)を反応させて、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート-1,1-ジオキシドを製造する方法」の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されていると認める。

また、摘記(1e)に記載されている「c)C(4)部位での立体化学的反転を伴う活性化C(4)水酸基の適切なアミンでの置換、及びC(6)部位のスルホンアミド官能基からの保護基の除去」までの工程は、実施例3の工程3としては、(R)-3,4-ジヒドロ-4-エチルアミノ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドを得たまでの工程であるといえ、上記したように、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(28.5g、0.08モル)、アセトニトリル(285ml)及びオルト酢酸トリメチル(23.4ml、0.184モル)を反応させて、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート-1,1-ジオキシドを製造した後に、トリエチルアミン(24.5ml、0.176モル)及び塩化p-トルエンスルホニル(30.5g、0.160モル)を連続して添加し、70%エチルアミン水溶液(260ml、2.80モル)を30分かけて滴下し、(R)-3,4-ジヒドロ-4-エチルアミノ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドを製造する方法であるといえる。

そうすると、甲第1号証には、「(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(28.5g、0.08モル)、アセトニトリル(285ml)及びオルト酢酸トリメチル(23.4ml、0.184モル)を装入し反応させて、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート-1,1-ジオキシドを製造した後に、トリエチルアミン(24.5ml、0.176モル)及び塩化p-トルエンスルホニル(30.5g、0.160モル)を連続して添加し、70%エチルアミン水溶液(260ml、2.80モル)を滴下し、(R)-3,4-ジヒドロ-4-エチルアミノ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドを製造する方法」の発明(以下「甲1発明B」という。)が記載されていると認める。

(4)対比・判断
ア 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲1発明Aとを対比すると、
「(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドと、オルト酢酸トリメチルとを反応させ、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造する方法」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)本件発明2では、反応で副生するメタノールを、反応系から除去しながら反応を行うとしているのに対して、甲1発明Aでは反応で副生するメタノールを、反応系から除去しながら反応を行うという構成を有していない点

(相違点2)本件発明2では、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36質量部以上0.44質量部以下を使用するとしているのに対して、甲1発明Aでは、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドを(28.5g、0.08モル)とオルト酢酸トリメチルを(23.4ml、0.184モル)用いている点

(イ)判断
これらの相違点について検討する。

(相違点1)について
甲第3号証には、オルト酢酸エチルと芳香族アミンとを当量で反応させると、N-アリールアセトイミド酸エチルとエタノールが製造されること、この反応が可逆反応であることが記載され、甲第2号証には、オルト酢酸エステル類と第1級アミンを反応させると、アセトイミデートが製造されることが記載され、オルト酢酸エステル類として、オルト酢酸エチルとオルト酢酸メチルが同列に記載されていることをみれば、アミン基含有化合物とオルト酢酸メチルとの反応は同様に可逆反応であるといえ、また、アセトイミデート基含有化合物とメタノールが生成することが推認できる。

一方、甲1発明Aにおいても、スルホンアミド体のアミノ基とオルト酢酸メチルとが反応してイミダート体が製造されており、上記甲第2及び3号証をみればメタノールが生成する可逆反応であることは明らかであるといえる。

ここで、甲第1号証には、最終生成物であるブリンゾラミドを高い収率で提供することが発明の課題として記載されており(摘記(1d))、最終生成物を製造するための中間体であるイミダート体においても、高い収率で製造するという課題を有しているといえる。

そして、甲第6、7号証をみれば、副生成物としてメタノールを生成する化学平衡反応において、メタノールを除去することで化学平衡が反応生成物の方へ移動することは技術常識であることは明らかであるといえ、また、甲第4号証には、アミノ基含有化合物とオルト酢酸トリメチルとの反応させてアセトイミデート基を有する化合物を製造する場合に、副生成物のメタノールを留去しないと収率が94%であったのが、留去すると98.9?99.9%に向上することが記載されており、本件発明1と同じ反応機構において、副生成物のメタノールを留去することにより、収率が向上することが示されているから、甲1発明Aにおいて、イミダート体の収率を向上させるために、反応で副生するメタノールを反応系から除去しながら反応を行うこと自体は、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

(相違点2)について
甲1発明Aにおいては、スルホンアミド体を28.5g用い、オルト酢酸トリメチルを0.184モル用いてイミダート体を製造しているところ、甲第2号証には、オルト酢酸トリメチルの分子量が120.17であることが記載されているから、オルト酢酸トリメチルの重量は22.1gであると算出できる(120.17×0.184=22.1)。ここで、質量と重量はその値が大きく変わらないといえ、スルホンアミド体を28.5g用いていることからすると、甲1発明Aにおいては、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチルを0.78質量部使用したと算出できる(22.1÷28.5=0.78)。
そうすると、相違点2は、スルホンアミド体1質量部に対して、本件発明2では、オルト酢酸トリメチル0.36質量部以上0.44質量部以下を使用するとしているのに対して、甲1発明Aでは、オルト酢酸トリメチル0.78質量部を使用している点、と言い換えることができるから、以下においては、この観点について検討する。

a 甲第1号証の記載に基づいた検討
甲第1号証には、スルホンアミド体からブリンゾラミドを製造する第七の工程のうち、a)C(6)部位のスルホンアミド官能基の保護については、化合物7及び過剰のオルト酢酸トリメチルを反応させる、との記載がされている(摘記(1e)参照)だけであり、そして、具体例としては、上記したとおり、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチルを0.78質量部を使用した例が記載されている。
そして、甲第1号証では、オルト酢酸トリメチルは、スルホンアミド体のC(6)部位のスルホンアミド官能基の保護のために用いていることからすると、スルホンアミド官能基を確実に保護することが目的であるといえ、このために、オルト酢酸トリメチルを過剰量使用する具体例として、スルホンアミド体1質量部に対してオルト酢酸トリメチルを0.78質量部を使用した例が記載されていると解することができる。

一方、本件発明2におけるオルト酢酸トリメチルの使用量については、特許明細書の段落【0010】?【0017】には、以下の記載がされている。
「【0010】
したがって、本発明の目的は、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(スルホンアミド体)のC6位のスルホンアミド基をイミダート保護する方法において、上記のような副生成物の生成を抑制し、短時間且つ高収率で効率よく、高純度の(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシド(イミダート体)を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するために、まず副生成物の生成機構を次のように推定した。すなわち、上記段階1のスルホンアミド体のC6位のスルホンアミド基をイミダート体とする反応において、オルト酢酸トリメチルを過剰量使用していることから、生成したイミダート体とオルト酢酸トリメチルが、長時間の加熱の間にイミダート体のC4位のヒドロキシル基とさらに反応し、下記式(4)
【0012】
【化4】

で示される副反応によって、下記式(5)
【0013】
【化5】

示される化合物(以下、副生成物1とも言う。)が副生されるのではないかと考えた。そして、副生成物1はさらに反応し、特定されていないが、下記式(6)
【0014】
【化6】

に示されるような化合物(以下、副生成物2とも言う。)へと転化していることが予想された。
【0015】
そこで、本発明者は、スルホンアミド体からイミダート体を得る反応において、上記のような副生成物を生成しない条件を鋭意検討した。その結果、上記段階1の反応において、オルト酢酸トリメチルの使用量を減少することによって、上記式(6)のような副反応を抑制することが可能であることを見出した。
【0016】
しかしながら、オルト酢酸トリメチルの使用量を減少することによって、反応速度が遅くなり、また、反応転化率が低くなって原料が残存し、純度や収率が低下してしまうため、副生成物の生成を抑制しても高純度のイミダート体が得られないことが新たな課題として明らかとなった。そこで、該反応についてさらに検討したところ、反応系にアルコールが存在していることによって、該反応の進行が阻害されていることを見出した。すなわち、上記段階1の反応においては、下記式(7)
【0017】
【化7】

に従ってアルコールが副生しており、これによって反応の進行が阻害されていた。そこで、該反応においてアルコールを除去することを検討したところ、アルコールを除去することによって、反応が促進され、反応転化率を高くすることができ、反応時間を短縮することができることを見出した。さらには、アルコールを除去することによって、オルト酢酸トリメチルをある程度過剰に使用しても、上記副生成物の生成を抑制できることを見出した。」

上記した本件特許明細書の記載からすると、本件発明2は、反応系から副生するメタノールを除去し、スルホンアミド体1質量部に対してオルト酢酸トリメチルの使用量をある程度の過剰量である0.36?0.44質量部とすることによって、副生成物の生成を抑制しつつ、反応が促進され、反応転化率を高くすることができた発明であるということができるところ、甲第1号証においては、スルホンアミド官能基を保護するためにスルホンアミド体に対して過剰量のオルト酢酸トリメチルを使用すると記載がされ、具体例として0.78質量部のオルト酢酸トリメチルを使用することが記載されているだけであり、本件発明2のような課題を解決できることが記載されていないから、いくら過剰量のオルト酢酸トリメチルを使用することが記載されていたとしても、この使用量をある程度の過剰量である0.36?0.44質量部とする相違点2に係る技術的事項を採用する動機づけがあるとはいえない。

b 甲第2?9号証の記載に基づいた検討
甲第2号証には、一当量のオルト酢酸エステルは、一当量の第1級アミン基と反応してアセトイミデート基を有する化合物を生成することが記載されているだけであり(摘記(2b))、また、甲第3号証には、1モルのオルト酢酸エチルと1モルの芳香族アミンとが反応することにより、1モルのN-アリールアセトイミド酸エチルを生成することが記載されているだけであり(摘記(3a))、これらの甲号証には、スルホンアミド体とオルト酢酸トリメチルの使用量についての記載はないから、相違点2に係る技術的事項を採用する動機づけがあるとはいえない。
甲第4号証には、3-アミノ-2-クロロピリジンに、オルト酢酸トリメチル(1.24当量)が反応し、メタノールを留去することにより98.9?99.9%アセトイミデート化することが記載されている(摘記(4b)参照)。
しかしながら、甲第4号証に記載された3-アミノ-2-クロロピリジンは、本件発明2のスルホンアミド体と化合物が異なり、また、甲第4号証に記載された3-アミノ-2-クロロピリジンとオルト酢酸トリメチルの反応生成物であるメチルN-(2’-クロロ-3’ピリジル)アセトイミデートは、アセトイミデート基がエチルアミノ基へと変換して2-クロロ-3-(N-エチルアミノ)ピリジンが生成しており(摘記(4c))、本件発明2のように、アセトイミデート基が脱離して再度スルホンアミド基が生成するものではない。
そうすると、相違点2に係る技術的事項を採用する動機づけがあるとはいえない。
甲第5号証には、1モルのアニリンと1モルのオルト酢酸トリエチルとが反応することにより、1モルのエチルN-フェニルホルムイミダート体が生成する化学式が記載されているだけであり(摘記(5c))、スルホンアミド体とオルト酢酸トリメチルの使用量についての記載はないから、相違点2に係る技術的事項を採用する動機づけがあるとはいえない。
甲第6及び7号証には、可逆反応における化学平衡に関する一般的な記載がされ(摘記(6a)?(6c)、(7a))、甲第8及び9号証には、本件発明2のスルホンアミド体と異なるアミン基を有する化合物とオルト酢酸トリメチルとを、副生するメタノールを留去しながら反応させることが記載されているだけであり(摘記(8a)、(9a)?(9b))、スルホンアミド体とオルト酢酸トリメチルの使用量についての記載はないから、相違点2に係る技術的事項を採用する動機づけがあるとはいえない。

以上のとおりであるから、甲第2?9号証の記載をみても、相違点2に係る技術的事項を採用する動機づけがあるとはいえない。

c 効果について
上記a及びbで述べたことから、本件発明2は、当業者が容易に想到できたものではないが、一応、効果について検討する。

本件発明2は、反応系から副生するメタノールを除去し、スルホンアミド体1質量部に対してオルト酢酸トリメチル0.36質量部以上0.44質量部以下使用することにより、副生成物の生成を抑制し、短時間且つ高収率で効率よく、高純度のスルホンイミダート体を製造できるという効果が記載され(段落【0010】)、具体例として、実施例1?29、比較例1が記載され、その効果が具体的な数値と共に記載されている(段落【0028】?【0034】、表1)。

ここで、表1をみてみると、表1に記載された項目である「オルト酢酸トリメチル使用量」のうち、「モル当量」の値は、表1の脚注に「※1 スルホンアミド体に対するモル当量を示す。」と記載がされ、また、段落【0030】に実施例1として、「スルホンアミド体500mg(1.40mmol)とオルト酢酸トリメチル182mg(1.08mmol)を・・・反応した。」と記載があるところ、オルト酢酸トリメチルの分子量が120.17(摘記(2a)参照)から、オルト酢酸トリメチル182mgは、1.52mmolと算出され(182÷120.17=1.52)、スルホンアミド体(1.40mmol)に対するオルト酢酸トリメチルのモル比は1.08と算出される(1.52÷1.40=1.08)から、表1中のモル当量の値は、スルホンアミド体1モルに対するオルト酢酸トリメチルのモル比であると解することができる。

そして、表1中の実施例1は、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36質量と算出でき(182÷500=0.36)、また、同じく実施例25は、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.44質量と算出できる(219÷500=0.44)。そして、実施例2?24のオルト酢酸トリメチルの使用量は、実施例1である0.36質量部から実施例25である0.44質量部の間であることは明らかである。さらに、実施例26及び27は、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.34質量部と算出でき(169÷500=0.34)、実施例28及び29は、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.47質量部と算出できる(236÷500=0.47)。

この上で表1をみると、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36?0.44質量部に含まれる実施例1?25は、オルト酢酸トリメチルの使用量が少ない実施例26及び27と、多い実施例28及び29に比べて、副生成物の生成量が概ね少なく、原料であるスルホンアミド体の含有量が少なく、イミダート体の純度が高いことが示され、優れた効果を奏するものであるといえる。

一方、甲第1?9号証をみる限り、これらの効果が予測できる記載がないから、これらの効果は当業者であっても予測ができない顕著な効果であるということができる。

d 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、表1中の実施例19、22は、副生成物1及び2の含有量の合計の値について、比較例1よりも悪く、また、甲第4号証には、メタノールを除去することにより、生成物の収率が向上することが記載されており、当業者が予測できないほど顕著ではない旨を主張する。

e 特許異議申立人の主張に対する検討
特許異議申立人が主張するように、一部の実施例において、副生成物の生成量という一部の特定の観点において比較例と対比して劣る数値が示されていたとしても、本件発明2においては、上記cで述べたように、実施例1?25においては、概ね副生成物の生成量が少ない効果を奏することが示されているといえ、また、原料であるスルホンアミド体の含有量が少なく、イミダート体の純度が高いことが示されており、総合的にみて当業者が予測できない顕著な効果を奏するということができる。また、甲第4号証には、本件発明2と原料が異なる例において、メタノールを除去すると、生成物の収率が向上することが記載されているだけであり、副生成物の生成が抑制され、未反応原料の含有量が少なく、イミダート体の純度が高いというこれらの効果を総合した本件発明2の効果を示唆する記載とはいえない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(ウ)まとめ
以上のとおり、本件発明2は、甲1発明A及び甲第2?9号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と甲1発明Bとを対比する。
甲1発明Bのうち、イミダート体を製造した後、トリエチルアミン及び塩化p-トルエンスルホニルを連続して添加することについて、甲1発明Bの「トリエチルアミン」は、本件発明3の塩基に相当することは明らかであるから、甲1発明Bの、イミダート体を製造した後に、トリエチルアミン及び塩化p-トルエンスルホニルを連続して添加することは、本件発明3の「イミダート体と塩化スルホニルとを塩基の存在下に反応させること」に相当する。
また、甲1発明Bのエチルアミンを滴下することは、本件発明3の「アミンを加えて反応させること」に相当することは明らかである。
そして、甲1発明Bの(R)-3,4-ジヒドロ-4-エチルアミノ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドは本件発明3の(R)-4-(エチルアミノ)-3,4-ジヒドロ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2,e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド 1,1-ジオキシドと同じ化合物であることは明らかである。

そうすると、両者は、「(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドと、オルト酢酸トリメチルとを反応させ、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造する方法により(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを得た後、該(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドと、塩化スルホニルとを、塩基の存在下に反応させ、次いで、アミンを加えて反応させることを特徴とする、(R)-4-(エチルアミノ)-3,4-ジヒドロ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2,e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド 1,1-ジオキシドの製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3)本件発明3では、反応で副生するメタノールを、反応系から除去しながら反応を行うとしているのに対して、甲1発明Bでは反応で副生するメタノールを、反応系から除去しながら反応を行うという構成を有していない点

(相違点4)本件発明3では、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36質量部以上0.44質量部以下を使用するとしているのに対して、甲1発明Bでは、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドを(28.5g、0.08モル)とオルト酢酸トリメチルを(23.4ml、0.184モル)用いている点

(イ)判断
まず、相違点4について検討するが、相違点4は、上記ア(イ)で示した相違点2と同じであるから、上記ア(イ)で述べた理由と同じ理由により、当業者が容易に想到できたということはできない。

(ウ)まとめ
以上のとおり、相違点3について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明B及び甲第2?9号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件発明2及び3は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1?9号証に記載された発明に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
よって、本件発明2及び3に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものとはいえない。

3 特許異議申立人が申し立てた取消理由2と当審が取消理由通知で通知した取消理由2について(サポート要件)
(1)特許法第36条第6項第1号の判断基準について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (参考:知財高判平17.11.11(平成17(行ケ)10042)大合議判決)
以下、この観点に立って検討する。

(2)本件発明
上記「第3」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(a)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(スルホンアミド体)のC6位のスルホンアミド基をイミダート保護する方法において、上記のような副生成物の生成を抑制し、短時間且つ高収率で効率よく、高純度の(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシド(イミダート体)を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するために、まず副生成物の生成機構を次のように推定した。すなわち、上記段階1のスルホンアミド体のC6位のスルホンアミド基をイミダート体とする反応において、オルト酢酸トリメチルを過剰量使用していることから、生成したイミダート体とオルト酢酸トリメチルが、長時間の加熱の間にイミダート体のC4位のヒドロキシル基とさらに反応し、下記式(4)
【0012】
【化4】

で示される副反応によって、下記式(5)
【0013】
【化5】

に示される化合物(以下、副生成物1とも言う。)が副生されるのではないかと考えた。そして、副生成物1はさらに反応し、特定されていないが、下記式(6)
【0014】
【化6】

に示されるような化合物(以下、副生成物2とも言う。)へと転化していることが予想された。
【0015】
そこで、本発明者は、スルホンアミド体からイミダート体を得る反応において、上記のような副生成物を生成しない条件を鋭意検討した。その結果、上記段階1の反応において、オルト酢酸トリメチルの使用量を減少することによって、上記式(6)のような副反応を抑制することが可能であることを見出した。
【0016】
しかしながら、オルト酢酸トリメチルの使用量を減少することによって、反応速度が遅くなり、また、反応転化率が低くなって原料が残存し、純度や収率が低下してしまうため、副生成物の生成を抑制しても高純度のイミダート体が得られないことが新たな課題として明らかとなった。そこで、該反応についてさらに検討したところ、反応系にアルコールが存在していることによって、該反応の進行が阻害されていることを見出した。すなわち、上記段階1の反応においては、下記式(7)
【0017】
【化7】

に従ってアルコールが副生しており、これによって反応の進行が阻害されていた。そこで、該反応においてアルコールを除去することを検討したところ、アルコールを除去することによって、反応が促進され、反応転化率を高くすることができ、反応時間を短縮することができることを見出した。さらには、アルコールを除去することによって、オルト酢酸トリメチルをある程度過剰に使用しても、上記副生成物の生成を抑制できることを見出した。」

(b)「【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(スルホンアミド体)と、オルト酢酸トリメチルとを反応させて、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシド(イミダート体)を製造する方法において、副生するメタノールを反応系から除去しながら反応を行うことにより、反応添加率が向上し、副生成物の生成が抑制されて、高純度のイミダート体を得ることができる。また、オルト酢酸トリメチルを特定の量使用することによって、より副生成物の生成を抑制することができ、さらに高純度のイミダート体を得ることができる。
また、このようにして得られた高純度のイミダート体から高純度のブリンゾラミドを得ることができる。」

(c)「【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例、比較例で得られたスルホンアミド体、イミダート体、及びブリンゾラミドの純度測定は、以下のように行った。
【0029】
<ブリンゾラミドなどの純度の測定方法>
装置:WATERS社製 Alliance 型式e2695-2489
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製 商品名 Inertsil CN-3、粒径5μm、内径4.6mm、長さ25cm、
カラム温度:40℃ 一定温度
移動相:n-ヘキサン/エタノール=80/20
流量:1.0ml/分
測定時間:45分
上記条件において、スルホンアミド体は約29分に、イミダート体は約9.4分に、副生成物1は約5.8分に、副生成物2は約8.1分に、トシル化合物は約8.2分に、ブリンゾラミドは約19分にピークが確認される。以下の実施例、比較例において、スルホンアミド体、イミダート体、ブリンゾラミド、副生成物1及び副生成物2の純度または含有量は、上記条件で測定したとき、検出される全ピークの面積値の合計に対する化合物のピークの面積値の割合(百分率)示すものとする。
先ず、C6位のスルホンアミド基をイミダート保護する方法における例を示す。
【0030】
実施例1
スルホンアミド体500mg(1.40mmol)とオルト酢酸トリメチル182mg(1.08mmol)をアセトニトリル2mLに溶かし、84℃で2時間加熱して溶媒を還流させずに副生するメタノールを系外に除去しながら反応した。得られた反応液について、各化合物の純度を測定したところ、イミダート体の純度が91.3%、スルホンアミド体の含有量が4.49%、副生成物1と副生成物2の含有量の合計が3.30%であった。
【0031】
実施例2?29
表1に示す量のオルト酢酸トリメチルを使用し、それ以外は実施例1と同様にして、得られた反応液について、各化合物純度を測定した結果を表1に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
比較例1(特許文献1の方法によるイミダート体の合成)
スルホンアミド体500mg(1.40mmol)とオルト酢酸トリメチル388mg(2.30mmol)をアセトニトリル4.5mLに溶かし、84℃で2時間還流しながら(メタノールを除去せずに)反応した。得られた反応液について、各化合物の純度を測定した結果を表1に示した。
【0034】
実施例1?29で得られた反応液における、イミダート体の純度並びにスルホンアミド体および副生成物の含有量と使用したオルト酢酸トリメチルの量の相関を図1に示した。図1において、縦軸は各化合物の純度または含有量(%)であり、横軸はオルト酢酸トリメチルの使用量(スルホンアミド体の量に対するモル当量、以下同じ。)である。
表1のとおり、実施例1?29(メタノール除去しながら反応)で得られた反応液はいずれも、比較例1(メタノール除去せずに反応)で得られた反応液よりもイミダート体の純度が高かった。特に、スルホンアミド体の残存量が少なく反応転化率が向上した。
また、オルト酢酸トリメチルの使用量について、図1によれば、1.08?1.30モル当量、すなわち、スルホンアミド体1質量部に対して0.36?0.44質量部のときは、反応転化率が高く、副生成物の生成が抑制されることから、特に高純度のイミダート体が得られる。」

(4)本件発明の課題について
ア 本件発明2の課題は、発明の詳細な説明の段落【0010】及び明細書全体の記載からみて、副生成物の生成を抑制し、短時間且つ高収率で効率よく、高純度のイミダート体を製造する方法を提供することであるということができる。

イ また、本件発明3の課題は、発明の詳細な説明の段落【0010】、【0020】及び明細書全体の記載からみて、副生成物の生成を抑制し、短時間且つ高収率で効率よく、高純度のイミダート体を製造し、そして、ブリンゾラミドを製造する方法を提供することであるということができる。

(5)判断
発明の詳細な説明の段落【0011】?【0017】には、過剰量のオルト酢酸トリメチルを使用すると、副生成物が製造されると記載され、オルト酢酸トリメチルの使用量を減少させることにより副反応を抑制することが記載されているが、オルト酢酸トリメチルの使用量を減少させると、反応速度が遅くなり、反応転化率が低くなり、最終生成物の純度、収率が下がってしまうという課題が明らかになったこと、そして、この課題の原因は、反応系にアルコールが存在することであることがわかり、この課題を解決するために、反応により生じるメタノールを除去することにより、オルト酢酸トリメチルをある程度過剰に使用しても、反応が促進され、反応転化率を高くし、反応時間を短縮することができることが見いだされたと記載され、また、オルト酢酸トリメチルをある程度過剰に使用しても副生成物の生成を抑制できることを見いだしたと記載されている。

また、段落【0020】には、本件発明の効果として、副生するメタノールを反応系から除去しながら反応を行うことにより、反応転化率が向上し、副生成物の生成が抑制されて、高純度のイミダート体を得ることができること、また、オルト酢酸トリメチルを特定の量使用することによって、より副生成物の生成を抑制することができ、さらに高純度のイミダート体を得ることができることが記載されている。

そして、同【0028】?【0032】には、具体的な記載として実施例1?25において、オルト酢酸トリメチルの使用量がモル当量で1.08?1.30(上記2(4)ア(イ)cで述べたように、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36?0.44質量部と換算できる。)とした場合で、スルホンアミド体とオルト酢酸トリメチルとを反応させ、イミダート体を製造するにあたり、副生するメタノールを系外に除去しながら反応させることにより、スルホンアミド、副生成物の含有量が少なく、イミダート体の純度が高いという一定の効果を示すことが記載されている。
一方、実施例26及び27には、オルト酢酸トリメチルの使用量がモル当量で1.00(上記2(4)ア(イ)cで述べたように、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.34質量部と換算できる。)とし、メタノールを系外に除去した場合に、スルホンアミド体の含有量が多いことが記載され、また、実施例28及び29には、オルト酢酸トリメチルの使用量がモル当量で1.40(上記2(4)ア(イ)cで述べたように、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.47質量部と換算できる。)とし、メタノールを系外に除去した場合に、イミダート体の純度が低く、副生成物の含有量が多いことが記載されている。
さらに、同【0033】には、比較例1として、オルト酢酸トリメチルの使用量がモル当量で2.30(上記1(4)ア(イ)で述べたように、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.78質量部と換算できる。)とした場合であって、副生するメタノールを系外に除去しないで反応させた例が記載され、スルホンアミドの含有量が多く、副生成物の含有量が多く、イミダート体の純度が低いことが記載されている。

ここで、実施例15、19及び22についてみてみると、これらの実施例は、オルト酢酸トリメチルのモル当量が1.13、1.15、1.20(スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチルをそれぞれ0.38、0.39、0.40質量部と換算できる。)の場合であって、メタノールを系外に除去した場合であり、本件発明2の具体例であるといえるところ、スルホンアミド体の含有量及びイミダート体の純度については優れた効果を奏することが記載されているが、副生成物1及び2の合計割合の値が、5.26%、5.98%、6.95%と、比較例1の値(5.01%)より多いことが記載されている。

この点について検討すると、本願の請求項2及び3には、副生成物1及び2の合計割合の値が特定して記載されている訳でもなく、また、たとえ実施例の一部において、本件発明2の課題のうちの一つが十分に解決できていないとしても、本件発明2の課題である、副生成物の生成を抑制し、短時間且つ高収率で効率よく、高純度のイミダート体を製造する方法を提供することを総合的に検討すれば、一定程度これらの課題を解決できたことが裏付けられているということができる。
そして、これに反するような技術常識の存在は認められない。

そうすると、本件の特許請求の範囲の請求項2及び3に記載された特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないといえず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。

さらに、訂正前の請求項1又は3に係る発明の課題を、イミダート体を製造するに当たり、副生成物の生成を抑制するか、短時間且つ高収率であるか、高純度であるかのいずれか一つの課題を解決する製造方法を提供することであるとした場合について検討するが、本件訂正により、本件発明2及び3は、訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項であるスルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36質量部以上0.44質量部以下を使用することを発明特定事項として含む発明と訂正されたのであるから、この点について検討をするまでもなく、本件発明2及び3は、サポート要件を満たしていないとはいえない。

念のため、発明の詳細な説明の記載及び特許異議申立人が提出した甲第10、11号証について検討したとしても、発明の詳細な説明中の実施例1?25をみても、上記したいずれの課題も解決できていない実施例は記載されておらず、また、甲第10、11号証にも、本件発明2を満たす追試において、いずれの課題も解決できていない追試は記載されていない。

(6)小括
以上のとおり、本件発明2及び3の特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。
よって、本件発明2及び3に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものとはいえない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人が申し立てた取消理由3について(実施可能要件)
(1)特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の製造方法の発明では、その物を製造すること、その方法により生産した物の利用について具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造することができる程度にその発明が記載されてなければならないと解される。
よって、この観点に立って、本願の実施可能要件の判断をする。

(2)特許請求の範囲の記載について
上記「第3」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載について
本願の発明の詳細な説明には、上記2(3)において示した事項に加えて、以下の事項が記載されている。

(d)「【0001】
本発明は、緑内障治療薬として有用なブリンゾラミド(化学名:(R)-3,4-ジヒドロ-4-エチルアミノ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド)の反応中間体として用いられる(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドの新規な製造方法に関する。」

(e)「【0008】
【特許文献1】特許2854798
【特許文献2】特許2562394」

(f)「【0023】
(スルホンアミド体)
本発明で使用するスルホンアミド体は、特に制限されるものではなく、既知の方法、例えば特許文献1あるいは特許文献2に記載の方法で製造することができる。スルホンアミド体を単離する場合は、後述する反応溶媒に溶解できればよく、結晶、またはアモルファスであっても、粉末または塊状物であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0024】
(オルト酢酸トリメチル)
本発明で使用するオルト酢酸トリメチルは、特に制限されない。本発明で使用するオルト酢酸トリメチルの量は特に制限されるものではないが、操作性および反応収量を考慮すると、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチルを0.36質量部以上0.44質量部以下とすることが好ましく、さらには0.37質量部以上0.40質量部以下とすることがより好ましい。オルト酢酸トリメチルの使用量が0.44質量部以下では、副生成物の生成をより抑制することができて好適である。
【0025】
(反応溶媒)
本発明において反応溶媒の使用は必須ではないが、反応制御が容易になることから、溶媒を使用することが好ましい。本発明で使用する反応溶媒は、反応に関与しない不活性溶媒であれば特に制限されるものではないが、副生するメタノールと共沸混合物となり得るアセトニトリル等の有機溶媒を使用することが好ましい。
本発明において、上記反応溶媒の使用量は特に制限されるものではないが、操作性を考慮すると、スルホンアミド体1質量部に対して、反応溶媒を0質量部以上4質量部以下とすることが好ましく、さらには0.4質量部以上1.6質量部以下とすることが好ましい。なお、反応後に続いてブリンゾラミドを製造する場合は、溶媒を除去することになるが、溶媒量が上記反応中間体1質量部に対して、1.6質量部以下の場合は溶媒除去操作を省略することが可能である。
【0026】
(反応条件)
本発明において、副生するメタノールを反応系から除去しながら反応を行う方法は特に限定されない。例えば、反応系を加熱し、溶媒を還流させずに気化したメタノールの大部分を反応系外に排出させる方法が好適に用いられる。具体的には、排気装置内にて開放系でおこなう方法や、反応容器に取り付けた反応管などを通じてメタノールを別容器に冷却回収する方法などが挙げられる。
反応温度は、反応速度、副生成物の生成抑制、およびメタノール除去の観点から、80?85℃がより好ましく、82?84℃が特に好ましい。反応時間は、反応温度に依存するものの、通常1時間以上4時間以下である。
こうして生成したイミダート体は濃縮操作によって溶媒が除去される。これにより、純度93%以上のイミダート体が得られる。
【0027】
こうして得られたイミダート体は第二の本発明によって、ブリンゾラミドへと導くことができる。イミダート体からブリンゾラミドの製造方法を例示すれば、第一の本発明で得られたイミダート体を含有する反応液を濃縮後、0.5?4倍容量のテトラヒドロフランを加え、0?15℃で1.3?1.5当量のトリエチルアミンおよび1.1?1.3当量のパラトルエンスルホン酸クロライドを加え、2?5時間攪拌して、C4位のヒドロキシル基をトシル化し、次いで、22?40当量の適切なアミンを冷溶液に添加してC4位のアミノ化をし、12?80時間後、生成物を定法に従い酸-塩基処理によって単離する事によってブリンゾラミドを得ることができる。本発明に記載された方法によれば、高純度のブリンゾラミドを高収率で得ることができる。」

(g)「【0035】
実施例30(ブリンゾラミドの製造)
スルホンアミド体500g(1.40mol)をアセトニトリル2Lに溶解した液にオルト酢酸トリメチル189g(1.57mol,1.12モル当量)を加え、84℃で2時間加熱して溶媒留去しながら反応し、得られた反応液を濃縮してイミダート体588gを得た。これをテトラヒドロフラン1.5Lに溶解し、0℃に冷却して、トリエチルアミン213g(2.10mol)とパラトルエンスルホニルクロライド321g(1.68mol)を加え、2時間反応した。これに、70%モノエチルアミン水溶液2.50L(31.6mol)を10℃以下で滴下した後、室温で19時間攪拌した。続いて反応液を0℃に冷却し、12Mの塩酸2.5Lを50℃以下で加えた。この反応液をpH8に調整し、酢酸エチルで抽出した。乾燥、濃縮後、濃縮残渣にイソプロパノールを加えて再結晶すると355g(収率66%)のブリンゾラミドが得られた。得られたブリンゾラミドの純度は98.2%であり、光学純度は99%ee.以上であった。
【0036】
実施例31(ブリンゾラミドの製造)
スルホンアミド体500mg(1.40mmol)をアセトニトリル0.5mLに溶解した液にオルト酢酸トリメチル189mg(1.57mmol,1.12モル当量)を加え、84℃で2時間加熱して溶媒留去しながら反応した。得られた反応液を濃縮せず、テトラヒドロフラン1.5mLに溶解し、0℃に冷却して、トリエチルアミン213mg(2.10mmol)とパラトルエンスルホニルクロライド321mg(1.68mmol)を加え、2時間反応した。これに、70%モノエチルアミン水溶液2.5mL(31.6mmol)を10℃以下で滴下した後、室温で19時間攪拌した。続いて反応液を0℃に冷却し、12Mの塩酸2.5mLを50℃以下で加えた。この反応液をpH8に調整し、酢酸エチルで抽出した。乾燥、濃縮後、濃縮残渣にイソプロパノールを加えて再結晶させると360mg(収率66%)のブリンゾラミドが得られた。得られたブリンゾラミドの純度は98.8%であり、光学純度は99%ee.以上であった。」

(4)判断
本件発明2について、発明の詳細な説明の【0023】には、原料として使用するスルホンアミド体が、同【0008】で示した特許文献1(特許第2854798号)又は特許文献2(特許第2562394号)に記載の方法で製造することができることが記載されており(摘記(e)(f))、同【0024】には、オルト酢酸トリメチルの使用割合について、同【0025】には、反応において使用する溶媒について、同【0026】には、反応温度、反応時間等の反応条件についての一般的な記載がされており、そして、段落【0028】以降の実施例1?25においては、オルト酢酸トリメチルの使用割合、反応溶媒、反応条件等についての具体的な記載がされ、イミダート体が製造できたことが記載されている(摘記(f))。

また、本件発明3について、上記で示した記載に加えて、発明の詳細な説明の【0027】には、イミダート体からブリンゾラミドを製造する際に用いる具体的な化合物、反応温度、反応時間等の反応条件についての一般的な記載がされており(摘記(f))、そして、段落【0035】以降の実施例30及び31においては、スルホンアミド体からイミダート体を製造する際の、オルト酢酸トリメチルの使用割合、反応溶媒、反応条件等についての具体的な記載がされ、また、ブリンゾラミドを製造する際に用いる具体的な化合物、反応温度、反応時間等の反応条件についての具体的な記載がされ、ブリンゾラミドが製造できたことが記載されている(摘記(g))。

さらに、同段落【0001】には、ブリンゾラミドが緑内障治療薬として有用であること、イミダート体はブリンゾラミドの反応中間体として用いられることが記載されている(摘記(d))。

以上のとおりであるから、発明の詳細な説明には、その物を製造すること、その方法により生産した物の利用について具体的に記載されているといえ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明2及び3の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がなされていないとはいえない。

(5)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人は、発明の詳細な説明には、訂正前の請求項1?3に係る発明のうち、訂正前の請求項1?3に係る発明の課題を解決できない範囲について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨を主張する(以下「主張ア」という。)。

イ また、発明の詳細な説明に記載された比較例1は、実施例1?29と対比すると、メタノールが除去されていない点とオルト酢酸トリメチルの使用量が多い点で相違しているから、発明の詳細な説明には、メタノールを除去し、特定の使用量のオルト酢酸トリメチルの場合の実施形態のみが実施可能に記載されているだけであって、その他のオルト酢酸トリメチルの使用量の限定がない場合は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨を主張する(以下「主張イ」という。)。

(6)特許異議申立人の主張に対する検討
ア 主張アについて
主張アは、サポート要件を満たしていない範囲について、実施可能要件を満たしていないとする主張であると解されるところ、発明の詳細な説明には、当業者が容易に発明の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであることを規定した、いわゆる実施可能要件は、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることを規定した、いわゆるサポート要件とは異なるので、特許異議申立人の主張を理由に、本願の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たさないとはいえない。
そして、上記(4)で述べたとおり、本願の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲に対応する実施例と共に一般的な記載がされ、本件発明で特定された物を製造すること、その方法により生産した物の利用について具体的に記載されているから、実施可能要件を満たさないとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張アは採用できない。

イ 主張イについて
本件訂正により、本件発明2及び3には、訂正前の請求項2に係る発明の特定事項であるスルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36質量部以上0.44質量部以下を使用することが発明特定事項として加入されたのであるから、特許異議申立人が主張する理由の根拠がなくなった。そして、発明の詳細な説明の記載は、本件発明2及び3の実施可能要件を満足することは上記(4)で述べたとおりである。
よって、特許異議申立人の主張イは採用できない。

(7)小括
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明2及び3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しないとはいえない。
よって、本件発明2及び3に係る特許は、同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものとはいえない。

第7 むすび
したがって、特許異議申立の理由及び当審が通知した取消理由によっては、本件発明2及び3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明2及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項1に対して特許異議申立人がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
イミダート化合物の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑内障治療薬として有用なブリンゾラミド(化学名:(R)-3,4-ジヒドロ-4-エチルアミノ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド)の反応中間体として用いられる(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(1)
【0003】
【化1】

で示されるブリンゾラミドは緑内障治療薬として用いられ、下記式(2)
【0004】
【化2】

で示される(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(以下、スルホンアミド体とも言う。)より、下記式(3)
【0005】
【化3】

で示される(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシド(以下、イミダート体とも言う。)を経て、製造される。
【0006】
即ち、スルホンアミド体の、上記式(2)における6位の炭素原子(以下、C6位とも言う。)に結合したスルホンアミド基を保護してイミダート体とし(段階1)、イミダート体の、上記式(2)における4位の炭素原子(以下、C4位とも言う。)の水酸基を活性化した後(段階2)、活性化したC4位の水酸基をアミンでの置換、及びC6位のスルホンアミド官能基から保護基を除去してブリンゾラミドを得る(段階3)、という方法が一般的に知られている(特許文献1および非特許文献1)。具体的には、段階1は、スルホンアミド体及び過剰のオルト酢酸トリメチル等のオルト酢酸低級アルキルのアセトニトリル溶液を12?48時間還流することによって達成される。段階2では、溶媒を除去した後、溶媒をテトラヒドロフランに置き換え、段階1で得られたイミダート体をピリジン、トリエチルアミンまたはジメチルアミノピリジン等の塩基の存在下に無水メタンスルホン酸または塩化p-トルエンスルホニル、塩化p-ブロモトルエンスルホニル若しくは塩化p-ニトロトルエンスルホニル等の塩化スルホニルと反応させることによって、達成されるものであり、好ましくは、-10?15℃の温度で1?4時間、2.0?2.5当量の塩化p-トルエンスルホニル及びトリエチルアミンを用いて行われる。段階3は、10?40当量の適切なアミンを冷溶液に添加することによって達成され、8?60時間後、生成物を酸-塩基処理することによってブリンゾラミドを単離していた。
【0007】
しかしながら、上記の方法では、副生成物が生成するため、得られるイミダート体の純度が低くなってしまい、反応収率が低下するという問題があった。また、従来の方法では、オルト酢酸トリメチルを過剰量(特許文献1の実施例では2.3当量)必要とし、12?48時間もの長時間の反応時間を要するものであり、この点においても改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許2854798
【特許文献2】特許2562394
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Organic Process Reseach & Development (1999), 3(2), 114-120
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(スルホンアミド体)のC6位のスルホンアミド基をイミダート保護する方法において、上記のような副生成物の生成を抑制し、短時間且つ高収率で効率よく、高純度の(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシド(イミダート体)を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するために、まず副生成物の生成機構を次のように推定した。すなわち、上記段階1のスルホンアミド体のC6位のスルホンアミド基をイミダート体とする反応において、オルト酢酸トリメチルを過剰量使用していることから、生成したイミダート体とオルト酢酸トリメチルが、長時間の加熱の間にイミダート体のC4位のヒドロキシル基とさらに反応し、下記式(4)
【0012】
【化4】

で示される副反応によって、下記式(5)
【0013】
【化5】

に示される化合物(以下、副生成物1とも言う。)が副生されるのではないかと考えた。そして、副生成物1はさらに反応し、特定されていないが、下記式(6)
【0014】
【化6】

に示されるような化合物(以下、副生成物2とも言う。)へと転化していることが予想された。
【0015】
そこで、本発明者は、スルホンアミド体からイミダート体を得る反応において、上記のような副生成物を生成しない条件を鋭意検討した。その結果、上記段階1の反応において、オルト酢酸トリメチルの使用量を減少することによって、上記式(6)のような副反応を抑制することが可能であることを見出した。
【0016】
しかしながら、オルト酢酸トリメチルの使用量を減少することによって、反応速度が遅くなり、また、反応転化率が低くなって原料が残存し、純度や収率が低下してしまうため、副生成物の生成を抑制しても高純度のイミダート体が得られないことが新たな課題として明らかとなった。そこで、該反応についてさらに検討したところ、反応系にアルコールが存在していることによって、該反応の進行が阻害されていることを見出した。すなわち、上記段階1の反応においては、下記式(7)
【0017】
【化7】

に従ってアルコールが副生しており、これによって反応の進行が阻害されていた。そこで、該反応においてアルコールを除去することを検討したところ、アルコールを除去することによって、反応が促進され、反応転化率を高くすることができ、反応時間を短縮することができることを見出した。さらには、アルコールを除去することによって、オルト酢酸トリメチルをある程度過剰に使用しても、上記副生成物の生成を抑制できることを見出した。
【0018】
即ち、第一の本発明は、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(スルホンアミド体)と、オルト酢酸トリメチルとを反応させることによって、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシド(イミダート体)を製造する方法において、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36?0.44質量部を使用し、副生するメタノールを、反応系から除去しながら反応を行うことを特徴とする方法である。
【0019】
第二の本発明は、第-の本発明の方法により(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシド(イミダート体)を得た後、該イミダート体と、塩化スルホニルとを、塩基の存在下に反応させ、次いで、アミンを加えて反応させることを特徴とする、(R)-4-(エチルアミノ)-3,4-ジヒドロ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2,e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド 1,1-ジオキシド(ブリンゾラミド)の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド(スルホンアミド体)と、オルト酢酸トリメチルとを反応させて、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシド(イミダート体)を製造する方法において、副生するメタノールを反応系から除去しながら反応を行うことにより、反応添加率が向上し、副生成物の生成が抑制されて、高純度のイミダート体を得ることができる。また、オルト酢酸トリメチルを特定の量使用することによって、より副生成物の生成を抑制することができ、さらに高純度のイミダート体を得ることができる。
また、このようにして得られた高純度のイミダート体から高純度のブリンゾラミドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本図は、実施例1?29で得られた反応液における、イミダート体の純度並びにスルホンアミド体および副生成物の含有量と使用したオルト酢酸トリメチルの量の相関を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
第一の本発明は、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドと、オルト酢酸トリメチルとを反応させることによって、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造する方法において、副生するメタノールを、反応系から除去しながら反応を行うことを特徴とする方法である。
以下順を追って説明する。
【0023】
(スルホンアミド体)
本発明で使用するスルホンアミド体は、特に制限されるものではなく、既知の方法、例えば特許文献1あるいは特許文献2に記載の方法で製造することができる。スルホンアミド体を単離する場合は、後述する反応溶媒に溶解できればよく、結晶、またはアモルファスであっても、粉末または塊状物であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0024】
(オルト酢酸トリメチル)
本発明で使用するオルト酢酸トリメチルは、特に制限されない。本発明で使用するオルト酢酸トリメチルの量は特に制限されるものではないが、操作性および反応収量を考慮すると、スルホンアミド体1質量部に対して、オルト酢酸トリメチルを0.36質量部以上0.44質量部以下とすることが好ましく、さらには0.37質量部以上0.40質量部以下とすることがより好ましい。オルト酢酸トリメチルの使用量が0.44質量部以下では、副生成物の生成をより抑制することができて好適である。
【0025】
(反応溶媒)
本発明において反応溶媒の使用は必須ではないが、反応制御が容易になることから、溶媒を使用することが好ましい。本発明で使用する反応溶媒は、反応に関与しない不活性溶媒であれば特に制限されるものではないが、副生するメタノールと共沸混合物となり得るアセトニトリル等の有機溶媒を使用することが好ましい。
本発明において、上記反応溶媒の使用量は特に制限されるものではないが、操作性を考慮すると、スルホンアミド体1質量部に対して、反応溶媒を0質量部以上4質量部以下とすることが好ましく、さらには0.4質量部以上1.6質量部以下とすることが好ましい。なお、反応後に続いてブリンゾラミドを製造する場合は、溶媒を除去することになるが、溶媒量が上記反応中間体1質量部に対して、1.6質量部以下の場合は溶媒除去操作を省略することが可能である。
【0026】
(反応条件)
本発明において、副生するメタノールを反応系から除去しながら反応を行う方法は特に限定されない。例えば、反応系を加熱し、溶媒を還流させずに気化したメタノールの大部分を反応系外に排出させる方法が好適に用いられる。具体的には、排気装置内にて開放系でおこなう方法や、反応容器に取り付けた反応管などを通じてメタノールを別容器に冷却回収する方法などが挙げられる。
反応温度は、反応速度、副生成物の生成抑制、およびメタノール除去の観点から、80?85℃がより好ましく、82?84℃が特に好ましい。反応時間は、反応温度に依存するものの、通常1時間以上4時間以下である。
こうして生成したイミダート体は濃縮操作によって溶媒が除去される。これにより、純度93%以上のイミダート体が得られる。
【0027】
こうして得られたイミダート体は第二の本発明によって、ブリンゾラミドへと導くことができる。イミダート体からブリンゾラミドの製造方法を例示すれば、第一の本発明で得られたイミダート体を含有する反応液を濃縮後、0.5?4倍容量のテトラヒドロフランを加え、0?15℃で1.3?1.5当量のトリエチルアミンおよび1.1?1.3当量のパラトルエンスルホン酸クロライドを加え、2?5時間攪拌して、C4位のヒドロキシル基をトシル化し、次いで、22?40当量の適切なアミンを冷溶液に添加してC4位のアミノ化をし、12?80時間後、生成物を定法に従い酸-塩基処理によって単離する事によってブリンゾラミドを得ることができる。本発明に記載された方法によれば、高純度のブリンゾラミドを高収率で得ることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例、比較例で得られたスルホンアミド体、イミダート体、及びブリンゾラミドの純度測定は、以下のように行った。
【0029】
<ブリンゾラミドなどの純度の測定方法>
装置:WATERS社製 Alliance 型式e2695-2489
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製 商品名 Inertsil CN-3、粒径5μm、内径4.6mm、長さ25cm、
カラム温度:40℃ 一定温度
移動相:n-ヘキサン/エタノール=80/20
流量:1.0ml/分
測定時間:45分
上記条件において、スルホンアミド体は約29分に、イミダート体は約9.4分に、副生成物1は約5.8分に、副生成物2は約8.1分に、トシル化合物は約8.2分に、ブリンゾラミドは約19分にピークが確認される。以下の実施例、比較例において、スルホンアミド体、イミダート体、ブリンゾラミド、副生成物1及び副生成物2の純度または含有量は、上記条件で測定したとき、検出される全ピークの面積値の合計に対する化合物のピークの面積値の割合(百分率)示すものとする。
先ず、C6位のスルホンアミド基をイミダート保護する方法における例を示す。
【0030】
実施例1
スルホンアミド体500mg(1.40mmol)とオルト酢酸トリメチル182mg(1.08mmol)をアセトニトリル2mLに溶かし、84℃で2時間加熱して溶媒を還流させずに副生するメタノールを系外に除去しながら反応した。得られた反応液について、各化合物の純度を測定したところ、イミダート体の純度が91.3%、スルホンアミド体の含有量が4.49%、副生成物1と副生成物2の含有量の合計が3.30%であった。
【0031】
実施例2?29
表1に示す量のオルト酢酸トリメチルを使用し、それ以外は実施例1と同様にして、得られた反応液について、各化合物純度を測定した結果を表1に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
比較例1(特許文献1の方法によるイミダート体の合成)
スルホンアミド体500mg(1.40mmol)とオルト酢酸トリメチル388mg(2.30mmol)をアセトニトリル4.5mLに溶かし、84℃で2時間還流しながら(メタノールを除去せずに)反応した。得られた反応液について、各化合物の純度を測定した結果を表1に示した。
【0034】
実施例1?29で得られた反応液における、イミダート体の純度並びにスルホンアミド体および副生成物の含有量と使用したオルト酢酸トリメチルの量の相関を図1に示した。図1において、縦軸は各化合物の純度または含有量(%)であり、横軸はオルト酢酸トリメチルの使用量(スルホンアミド体の量に対するモル当量、以下同じ。)である。
表1のとおり、実施例1?29(メタノール除去しながら反応)で得られた反応液はいずれも、比較例1(メタノール除去せずに反応)で得られた反応液よりもイミダート体の純度が高かった。特に、スルホンアミド体の残存量が少なく反応転化率が向上した。
また、オルト酢酸トリメチルの使用量について、図1によれば、1.08?1.30モル当量、すなわち、スルホンアミド体1質量部に対して0.36?0.44質量部のときは、反応転化率が高く、副生成物の生成が抑制されることから、特に高純度のイミダート体が得られる。
【0035】
実施例30(ブリンゾラミドの製造)
スルホンアミド体500g(1.40mol)をアセトニトリル2Lに溶解した液にオルト酢酸トリメチル189g(1.57mol,1.12モル当量)を加え、84℃で2時間加熱して溶媒留去しながら反応し、得られた反応液を濃縮してイミダート体588gを得た。これをテトラヒドロフラン1.5Lに溶解し、0℃に冷却して、トリエチルアミン213g(2.10mol)とパラトルエンスルホニルクロライド321g(1.68mol)を加え、2時間反応した。これに、70%モノエチルアミン水溶液2.50L(31.6mol)を10℃以下で滴下した後、室温で19時間攪拌した。続いて反応液を0℃に冷却し、12Mの塩酸2.5Lを50℃以下で加えた。この反応液をpH8に調整し、酢酸エチルで抽出した。乾燥、濃縮後、濃縮残渣にイソプロパノールを加えて再結晶すると355g(収率66%)のブリンゾラミドが得られた。得られたブリンゾラミドの純度は98.2%であり、光学純度は99%ee.以上であった。
【0036】
実施例31(ブリンゾラミドの製造)
スルホンアミド体500mg(1.40mmol)をアセトニトリル0.5mLに溶解した液にオルト酢酸トリメチル189mg(1.57mmol,1.12モル当量)を加え、84℃で2時間加熱して溶媒留去しながら反応した。得られた反応液を濃縮せず、テトラヒドロフラン1.5mLに溶解し、0℃に冷却して、トリエチルアミン213mg(2.10mmol)とパラトルエンスルホニルクロライド321mg(1.68mmol)を加え、2時間反応した。これに、70%モノエチルアミン水溶液2.5mL(31.6mmol)を10℃以下で滴下した後、室温で19時間攪拌した。続いて反応液を0℃に冷却し、12Mの塩酸2.5mLを50℃以下で加えた。この反応液をpH8に調整し、酢酸エチルで抽出した。乾燥、濃縮後、濃縮残渣にイソプロパノールを加えて再結晶させると360mg(収率66%)のブリンゾラミドが得られた。得られたブリンゾラミドの純度は98.8%であり、光学純度は99%ee.以上であった。
【0037】
比較例2(非特許文献1の方法によるブリンゾラミドの製造)
スルホンアミド体4.38g(12.3mmol)をアセトニトリル40mLに溶解した液にオルト酢酸トリメチル6.30mL(28.3mmol、2.30モル当量)を加え、85℃で15時間還流した。得られた反応液を30℃に冷却した後、反応液を濃縮してイミダート体5.63gを得た。これをテトラヒドロフラン22mLに溶解し、窒素雰囲気下にて、-10℃に冷却し、トリエチルアミン3.77mL(27mmol)とパラトルエンスルホニルクロライド4.69g(24.6mmol)を加え、2時間反応した。これに、70%モノエチルアミン水溶液30.0mL(370mmol)を11℃以下で滴下した後、室温で15時間攪拌した。続いて反応液を-5℃に冷却し、12M塩酸30mLを50℃以下で加えた。この反応液を室温(25℃)とし、t-ブチルメチルエーテルで洗浄し、1M塩酸2mLで再抽出してから、pH8に調整し、酢酸エチルで抽出した。乾燥、濃縮後、濃縮残渣にイソプロパノールを加えて再結晶すると2.86g(収率61%)のブリンゾラミドが得られた。得られたブリンゾラミドの純度は97.4%であり、光学純度は99%ee.以上であった。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドと、オルト酢酸トリメチルとを反応させ、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造する方法において、
(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36質量部以上0.44質量部以下を使用し、
上記反応で副生するメタノールを、反応系から除去しながら反応を行うことを特徴とする方法。
【請求項3】
(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシドと、オルト酢酸トリメチルとを反応させ、(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを製造する方法において、
(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド-1,1-ジオキシド1質量部に対して、オルト酢酸トリメチル0.36質量部以上0.44質量部以下を使用し、
上記反応で副生するメタノールを、反応系から除去しながら反応を行うことを特徴とする方法により(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドを得た後、該(S)-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2-e]-1,2-チアジン-6-メトキシメチルスルホンイミダート1,1-ジオキシドと、塩化スルホニルとを、塩基の存在下に反応させ、次いで、アミンを加えて反応させることを特徴とする、(R)-4-(エチルアミノ)-3,4-ジヒドロ-2-(3-メトキシプロピル)-2H-チエノ[3,2,e]-1,2-チアジン-6-スルホンアミド 1,1-ジオキシドの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-02 
出願番号 特願2012-54609(P2012-54609)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C07D)
P 1 651・ 537- YAA (C07D)
P 1 651・ 121- YAA (C07D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 瀬下 浩一中西 聡  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 佐藤 健史
冨永 保
登録日 2016-03-18 
登録番号 特許第5901365号(P5901365)
権利者 株式会社トクヤマ
発明の名称 イミダート化合物の製造方法  

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