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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1333189
異議申立番号 異議2016-700773  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-24 
確定日 2017-08-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5871094号発明「フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5871094号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第5871094号の請求項1、2、4ないし10に係る特許を取り消す。 特許第5871094号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5871094号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成27年6月30日(優先日 平成26年7月3日)に出願された特許出願であって、平成28年1月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、同年8月24日付け(受理日:同月25日)で特許異議申立人河村産業株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年11月18日付けの取消理由が通知され、平成29年1月23日付け(受理日:同月25日)で意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされたので、特許異議申立人に対して特許法第120条の5第5項(以下、法令名省略)に基づく通知をしたところ、同年2月28日付け(受理日:同年3月1日)で意見書が提出され、さらに、同年3月16日付けの取消理由(決定の予告)が通知され、同年5月18日付け(受理日:同月22日)で意見書が提出されたものである。


第2 本件訂正の請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「全ヘイズ値が4以下であり、イエローインデックスが3以下であり、全光線透過率が90%以上であるフッ素化ポリイミド層を含み、フッ素化ポリイミド層は、アンモニウムイオンの含有量がフッ素化ポリイミド層について100ppm以下であることを特徴とするフィルム。」とあるのを、「全ヘイズ値が4以下であり、イエローインデックスが3以下であり、全光線透過率が90%以上であるフッ素化ポリイミド層を含み、フッ素化ポリイミド層は、アンモニウムイオンの含有量がフッ素化ポリイミド層について100ppm以下であり、直径0.15mm以上の光学的な欠陥が10個/m^(2)以下であることを特徴とするフィルム。」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2及び4ないし10についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「請求項2又は3記載のフィルム。」とあるのを、「請求項2記載のフィルム。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項2?4のいずれかに記載のフィルム。」とあるのを、「請求項2及び4のいずれかに記載のフィルム。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項2?5のいずれかに記載のフィルム。」とあるのを、「請求項2、4及び5のいずれかに記載のフィルム。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項2?6のいずれかに記載のフィルム。」とあるのを、「請求項2及び4?6のいずれかに記載のフィルム。」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれかに記載のフィルム。」とあるのを、「請求項1、2及び4?7のいずれかに記載のフィルム。」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1?8のいずれかに記載のフィルム。」とあるのを、「請求項1、2及び4?8のいずれかに記載のフィルム。」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1?9のいずれかに記載のフィルム。」とあるのを、「請求項1、2及び4?9のいずれかに記載のフィルム。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項ごとか否か
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明において光学的な欠陥の数を限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、請求項3等に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3?9
訂正事項3?9は、請求項3が削除されたことに伴い、請求項4?9が従属する請求項から請求項3を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3?9は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項1?9は訂正後の請求項1?10についての訂正を含むものであるが、訂正前の請求項2?10は訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1?10は一群の請求項である。
よって、訂正事項1?9は一群の請求項ごとに対して請求されたものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は第120条の5第2項第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項において準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?10について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記第2のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1?10に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」?「本件特許発明10」という。)は、本件訂正の請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
全ヘイズ値が4以下であり、イエローインデックスが3以下であり、全光線透過率が90%以上であるフッ素化ポリイミド層を含み、
フッ素化ポリイミド層は、アンモニウムイオンの含有量がフッ素化ポリイミド層について100ppm以下であり、
直径0.15mm以上の光学的な欠陥が10個/m^(2)以下であることを特徴とするフィルム。
【請求項2】
フッ素化ポリイミド層は、フッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)とフッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)とを含むフッ素化ポリイミドからなる請求項1記載のフィルム。
但し、前記フッ素化ジアミンは、下記式(1):
【化1】

(式中、R_(f)^(1)及びR_(f)^(2)は芳香環の置換基を表し、芳香環1つあたり4つの置換可能部位のうちいずれか1つが当該置換基で置換されていることを表す。R_(f)^(1)及びR_(f)^(2)は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化ジアミン、及び/又は、下記式(2):
【化2】

(式中、R_(f)^(3)は芳香環の置換基を表し、芳香環の4つの置換可能部位のうちいずれか1つが当該置換基で置換されていることを表す。R_(f)^(3)は、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化ジアミンであり、
前記フッ素化酸無水物は、下記式(3):
【化3】

(式中、R_(f)^(4)及びR_(f)^(5)は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化酸無水物である。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
フッ素化ポリイミドは、重合単位(A)及び(B)が全重合単位の60モル%以上である請求項2記載のフィルム。
【請求項5】
フッ素化ポリイミドは、重合単位(B)が全重合単位の30モル%以上である請求項2及び4のいずれかに記載のフィルム。
【請求項6】
フッ素化ポリイミドは、更に、非フッ素化ジアミンに基づく重合単位(C)を含む請求項2、4及び5のいずれかに記載のフィルム。
【請求項7】
フッ素化ポリイミドは、更に、他種の酸無水物に基づく重合単位(D)を含む請求項2及び4?6のいずれかに記載のフィルム。
【請求項8】
更に、ガラス、または透明樹脂基材(但しフッ素化ポリイミドからなるものを除く)を含む請求項1、2及び4?7のいずれかに記載のフィルム。
【請求項9】
透明導電性基材又はフレキシブルディスプレイ用基材に用いる請求項1、2及び4?8のいずれかに記載のフィルム。
【請求項10】
光学フィルムである請求項1、2及び4?9のいずれかに記載のフィルム。」


第4 取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要
1 本件特許の請求項1、2、4?10に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1、2、4?10に係る特許は、第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 証拠
甲第1号証:特開2004-231946号公報(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:特開2012-146905号公報(以下、「甲2」という。)
甲第3号証:実験成績報告書、作成日:平成28年8月22日、作成者:河村産業株式会社 技術本部(以下、「甲3」という。)
甲第4号証:特開2006-154709号公報(以下、「甲4」という。)
甲第5号証:特表2010-536981号公報(以下、「甲5」という。)
甲第6号証:特表2013-523939号公報(以下、「甲6」という。)


第5 当審の判断
1 甲1の記載事項等
(1)甲1の記載事項
本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲1には、次の記載がある。
ア「【請求項1】
ポリイミドのイミド化率が98?100%の範囲であり、かつ、下記式(1)の光学特性条件を満たすポリイミドフィルム。ただし、式(1)中、nx、nyおよびnzは、それぞれ前記ポリイミドフィルムにおけるX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示し、前記X軸とは、前記ポリイミドフィルムの面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸は、前記面内において前記X軸に対して垂直な軸方向であり、Z軸は、前記X軸およびY軸に垂直な厚み方向を示す。
nx>ny>nz (1)
・・・
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のポリイミドフィルムからなるポリイミド層を含む光学フィルム。
・・・」(特許請求の範囲、請求項1、請求項6)
イ「【0013】
本発明のポリイミドフィルムに用いるポリイミドは、イミド化率が98?100%の範囲であれば特に限定されないが、例えば、面内配向性が高く、有機溶剤に可溶なポリイミドが好ましい。具体的には、例えば、特表2000-511296号公報に開示された、9,9-ビス(アミノアリール)フルオレンと芳香族テトラカルボン酸二無水物との縮合重合生成物、すなわち、下記式(I)に示す繰り返し単位を1つ以上含むポリマーが使用できる。
【化1】

【0014】
前記式(I)中、R^(11)?R^(14)は、水素、ハロゲン、フェニル基、1?4個のハロゲン原子またはC_(1?10)アルキル基で置換されたフェニル基、およびC_(1?10)アルキル基からなる群からそれぞれ独立に選択される少なくとも一種類の置換基である。好ましくは、R^(11)?R^(14)は、ハロゲン、フェニル基、1?4個のハロゲン原子またはC_(1?10)アルキル基で置換されたフェニル基、およびC_(1?10)アルキル基からなる群からそれぞれ独立に選択される少なくとも一種類の置換基である。
【0015】
前記式(I)中、Zは、例えば、C_(6?20)の4価芳香族基であり、好ましくは、ピロメリット基、多環式芳香族基、多環式芳香族基の誘導体、または、下記式(II)で表される基である。
【化2】

【0016】
前記式(II)中、Z’は、例えば、共有結合、C(R^(15))_(2)基、CO基、O原子、S原子、SO_(2)基、Si(C_(2)H_(5))_(2)基、または、NR^(16)基であり、複数の場合、それぞれ同一であるかまたは異なる。また、wは、1から10までの整数を表す。R^(15)は、それぞれ独立に、水素またはC(R^(17))_(3)である。R^(16)は、水素、炭素原子数1?約20のアルキル基、またはC_(6?20)アリール基であり、複数の場合、それぞれ同一であるかまたは異なる。R^(17)は、それぞれ独立に、水素、フッ素、または塩素である。
【0017】
前記多環式芳香族基としては、例えば、ナフタレン、フルオレン、ベンゾフルオレンまたはアントラセンから誘導される4価の基があげられる。また、前記多環式芳香族基の置換誘導体としては、例えば、C_(1?10)のアルキル基、そのフッ素化誘導体、およびFやCl等のハロゲンからなる群から選択される少なくとも一つの基で置換された前記多環式芳香族基があげられる。
【0018】
この他にも、例えば、特表平8-511812号公報に記載された、繰り返し単位が下記一般式(III)または(IV)で示されるホモポリマーや、繰り返し単位が下記一般式(V)で示されるポリイミド等があげられる。なお、下記式(V)のポリイミドは、下記式(III)のホモポリマーの好ましい形態である。
【化3】

【化4】

【化5】

【0019】
前記一般式(III)?(V)中、GおよびG’は、例えば、共有結合、CH_(2)基、C(CH_(3))_(2)基、C(CF_(3))_(2)基、C(CX_(3))_(2)基(ここで、Xは、ハロゲンである。)、CO基、O原子、S原子、SO_(2)基、Si(CH_(2)CH_(3))_(2)基、および、N(CH_(3))基からなる群から、それぞれ独立して選択される基を表し、それぞれ同一でも異なってもよい。
【0020】
前記式(III)および式(V)中、Lは、置換基であり、dおよびeは、その置換数を表す。Lは、例えば、ハロゲン、C_(1-3)アルキル基、C_(1-3)ハロゲン化アルキル基、フェニル基、または、置換フェニル基であり、複数の場合、それぞれ同一であるかまたは異なる。前記置換フェニル基としては、例えば、ハロゲン、C_(1-3)アルキル基、およびC_(1-3)ハロゲン化アルキル基からなる群から選択される少なくとも一種類の置換基を有する置換フェニル基があげられる。また、前記ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素があげられる。dは、0から2までの整数であり、eは、0から3までの整数である。
【0021】
前記式(III)?(V)中、Qは置換基であり、fはその置換数を表す。Qとしては、例えば、水素、ハロゲン、アルキル基、置換アルキル基、ニトロ基、シアノ基、チオアルキル基、アルコキシ基、アリール基、置換アリール基、アルキルエステル基、および置換アルキルエステル基からなる群から選択される原子または基であって、Qが複数の場合、それぞれ同一であるかまたは異なる。前記ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素があげられる。前記置換アルキル基としては、例えば、ハロゲン化アルキル基があげられる。また前記置換アリール基としては、例えば、ハロゲン化アリール基があげられる。fは、0から4までの整数であり、gおよびhは、それぞれ0から3および1から3までの整数である。また、gおよびhは、1より大きいことが好ましい。
【0022】
前記式(IV)中、R^(18)およびR^(19)は、水素、ハロゲン、フェニル基、置換フェニル基、アルキル基、および置換アルキル基からなる群から、それぞれ独立に選択される基である。その中でも、R^(18)およびR^(19)は、それぞれ独立に、ハロゲン化アルキル基であることが好ましい。
【0023】
前記式(V)中、M^(1)およびM^(2)は、同一であるかまたは異なり、例えば、ハロゲン、C_(1-3)アルキル基、C_(1-3)ハロゲン化アルキル基、フェニル基、または、置換フェニル基である。前記ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素があげられる。また、前記置換フェニル基としては、例えば、ハロゲン、C_(1-3)アルキル基、およびC_(1-3)ハロゲン化アルキル基からなる群から選択される少なくとも一種類の置換基を有する置換フェニル基があげられる。
【0024】
さらに、前記ポリイミドとしては、例えば、前述のような骨格(繰り返し単位)以外の酸二無水物やジアミンを、適宜共重合させたコポリマーがあげられる。
【0025】
前記酸二無水物としては、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物があげられる。前記芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリト酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、複素環式芳香族テトラカルボン酸二無水物、2,2′-置換ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等があげられる。
【0026】
前記ピロメリト酸二無水物としては、例えば、ピロメリト酸二無水物、3,6-ジフェニルピロメリト酸二無水物、3,6-ビス(トリフルオロメチル)ピロメリト酸二無水物、3,6-ジブロモピロメリト酸二無水物、3,6-ジクロロピロメリト酸二無水物等があげられる。前記ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3′,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等があげられる。前記ナフタレンテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、2,3,6,7-ナフタレン-テトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレン-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロ-ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物等があげられる。前記複素環式芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピリジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等があげられる。前記2,2′-置換ビフェニルテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、2,2′-ジブロモ-4,4′,5,5′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2′-ジクロロ-4,4′,5,5′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2′-ビス(トリフルオロメチル)-4,4′,5,5′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等があげられる。
【0027】
また、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物のその他の例としては、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,5,6-トリフルオロ-3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、4,4′-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-2,2-ジフェニルプロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、4,4′-オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4′-[4,4′-イソプロピリデン-ジ(p-フェニレンオキシ)]ビス(フタル酸無水物)、N,N-(3,4-ジカルボキシフェニル)-N-メチルアミン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ジエチルシラン二無水物等があげられる。
【0028】
これらの中でも、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、2,2′-置換ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましく、より好ましくは、2,2′-ビス(トリハロメチル)-4,4′,5,5′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物であり、さらに好ましくは、2,2′-ビス(トリフルオロメチル)-4,4′,5,5′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物である。
【0029】
前記ジアミンとしては、例えば、芳香族ジアミンがあげられ、具体例としては、ベンゼンジアミン、ジアミノベンゾフェノン、ナフタレンジアミン、複素環式芳香族ジアミン、およびその他の芳香族ジアミンがあげられる。
【0030】
前記ベンゼンジアミンとしては、例えば、o-、m-およびp-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、1,4-ジアミノ-2-メトキシベンゼン、1,4-ジアミノ-2-フェニルベンゼンおよび1,3-ジアミノ-4-クロロベンゼンのようなベンゼンジアミンから成る群から選択されるジアミン等があげられる。前記ジアミノベンゾフェノンの例としては、2,2′-ジアミノベンゾフェノン、および3,3′-ジアミノベンゾフェノン等があげられる。前記ナフタレンジアミンとしては、例えば、1,8-ジアミノナフタレン、および1,5-ジアミノナフタレン等があげられる。前記複素環式芳香族ジアミンの例としては、2,6-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリジン、および2,4-ジアミノ-S-トリアジン等があげられる。
【0031】
また、前記芳香族ジアミンとしては、これらの他に、4,4′-ジアミノビフェニル、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-(9-フルオレニリデン)-ジアニリン、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジクロロ-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、2,2'-ジクロロ-4,4'-ジアミノビフェニル、2,2',5,5'-テトラクロロベンジジン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、4,4′-ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン等があげられる。」(段落【0013】?【0031】)
ウ「【0097】
さらに、本発明のポリイミドフィルム、光学フィルムおよび光学素子は、前述のような液晶表示装置には限定されず、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、FED(電界放出ディスプレイ:Field Emission Display)等の自発光型表示装置にも使用できる。自発光型フラットディスプレイに使用する場合は、例えば、本発明のポリイミドフィルムの面内位相差値をλ/4にすることで、円偏光を得ることができるため、反射防止フィルターとして利用できる。」(段落【0097】)
エ「【0107】
・・・
【実施例1】
【0108】
まず、ポリイミドを合成した。すなわち、まず、500mLセパラブルフラスコに攪拌装置、デーンスターク、窒素導入管、温度計および冷却管を取り付けた反応器と、オイルバスとを準備した。次に、前記フラスコ内に2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物17.77g(40mmol)および2,2-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル12.81g(40mmol)を投入し、さらに、600rpmの速度で攪拌しながら、イソキノリン2.58g(20mmol)をm-クレゾール275.21gに溶解させた溶液を加えた。そのまま室温で1時間攪拌すると、前記フラスコの内容物は均一な溶液になった。次に、攪拌速度を300rpmに変え、オイルバスの油温を180℃に設定して前記フラスコを浸し、フラスコ内温度を175?180℃の範囲に保った。そのまま加熱攪拌を続けると、前記内容物は次第に黄色溶液となった。3時間後、加熱および攪拌を停止し、放冷して室温に戻すと、ポリマーがゲル状となって析出した。
【0109】
次に、イソプロピルアルコール2Lを準備し、5000rpmで攪拌した。一方、前記フラスコの内容物を別の容器にあけ、アセトンを加えてポリイミドの濃度が7重量%となるように調整し、攪拌して前記ゲルを完全に溶解させた。これを、前記イソプロピルアルコール中に攪拌を続けながら少しずつ加えると、粉末が析出した。この粉末を濾取し、1.5Lのイソプロピルアルコール中に投入して再び5000rpmで5分間攪拌することにより洗浄した。さらにもう一度同様の操作を繰り返して洗浄した後、前記粉末を再び濾取した。これを60℃の熱風循環乾燥機で48時間予備乾燥した後、150℃で7時間乾燥すると、目的のポリイミドが白色粉末として得られた(収率85%)。
【0110】
次に、このポリイミドを用いてポリイミドフィルムを製造した。すなわち、まず、前記ポリイミドをシクロペンタノン(溶解度パラメータ21.3)に溶解させ、20重量%溶液を調製した。一方、厚さ70μmのTAC(トリアセチルセルロース)フィルムを準備し、これを基材とした。この基材上に前記ポリイミド溶液を塗布して130℃で5分間乾燥し、厚さ6μmのポリイミド被膜を形成した。そして、この被膜を、基材ごと150℃で10%一軸延伸し、前記基材上に積層された目的のポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムは透明で平滑であり、また、厚さは5μmであった。なお、「10%一軸延伸した」とは、延伸方向のフィルム長さが、延伸後において延伸前の110%となったことを意味する。
【実施例2】
【0111】
まず、ポリイミドを合成した。すなわち、まず、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物を160℃で6時間乾燥した後乾燥機内で80℃まで徐冷し、その後デシケーターボックス内で保存することにより予備乾燥した。次に、よく乾燥させた3Lセパラブルフラスコにシリカゲル管、攪拌装置および温度計を取り付けた反応器と、オイルバスとを準備した。このフラスコ内に、前記2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物75.52g(170mmol)と、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル54.44g(170mmol)とを投入した。これを400rpmで攪拌しながらDMAc(脱水グレード)519.84gを加え、フラスコの内容物が均一な溶液になるまで攪拌を続けた。続いて、オイルバスを用いて容器内温度が20?60℃の範囲になるように調整しながらさらに20時間攪拌を続け、反応させてポリアミック酸を生成させた。このとき、反応の進行に伴い粘度が増加し、高速での攪拌は困難になるので、それに応じ攪拌速度を徐々に低下させた。20時間攪拌後、反応系温度を室温に戻し、DMAc 649.8gを加えてポリマー濃度が10重量%となるように調整した。さらに、ピリジン32.27g(408mmol)、続いて無水酢酸41.65g(408mmol)を、それぞれ約10分間かけて滴下し、そのまま室温で攪拌して反応させ、イミド化を行なった。反応の進行状況はIRで追跡し、1537cm^(-1)付近のピークが消失するまで攪拌を続けた。10時間後、前記ピークの消失が確認されたので攪拌を止め、反応終了とした。
【0112】
次に、イソプロピルアルコール20Lを準備し、5000rpmで攪拌した。一方、前記フラスコの内容物を別の容器にあけ、アセトン700gを加えてポリイミドの濃度が6.5重量%となるように調整した。これを、前記イソプロピルアルコール中に攪拌を続けながら少しずつ加えると、粉末が析出した。この粉末を濾取し、15Lのイソプロピルアルコール中に投入して再び5000rpmで5分間攪拌することにより洗浄した。これを再び濾取し、60℃の熱風循環乾燥機で48時間予備乾燥した後、150℃で7時間乾燥すると、目的のポリイミドが白色粉末として得られた(収率93%)。
【0113】
さらに、このポリイミド粉末を用い、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムは透明で平滑であり、また、厚さは5μmであった。」(段落【0107】?【0113】)
オ「【0122】
(ポリイミドフィルムの屈折率異方性)
実施例1?5および比較例のポリイミドフィルムについて、それぞれ複屈折率を測定した。
【0123】
測定に先立ち、まず、各ポリイミドフィルムをガラス基板上に転写し、ガラス基板とポリイミドフィルムとを含む積層体(以下「ガラス・ポリイミド積層体」と呼ぶ)を得た。すなわち、まず、ガラス基板を準備し、その上に接着剤(日東電工株式会社製アクリル粘着剤)を塗布した。さらに、その塗布面とポリイミドフィルムとを密着させ、前記TACフィルム製基材を前記ポリイミドフィルムから剥離して目的のガラス・ポリイミド積層体を得た。」(段落【0122】、【0123】)

(2)甲1に記載された発明
上記(1)エにおける「実施例2」によって得られるポリイミドフィルムに着目すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。なお、当該「実施例2」の部分に記載されている「2,2-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル」は、上記(1)イの段落【0031】の記載からみて誤記であり、正しくは「2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル」であると解される。

甲1発明:
「まず、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物を160℃で6時間乾燥した後乾燥機内で80℃まで徐冷し、その後デシケーターボックス内で保存することにより予備乾燥し、次に、よく乾燥させた3Lセパラブルフラスコにシリカゲル管、攪拌装置および温度計を取り付けた反応器と、オイルバスとを準備し、このフラスコ内に、前記2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物75.52g(170mmol)と、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル54.44g(170mmol)とを投入し、これを400rpmで攪拌しながらDMAc(脱水グレード)519.84gを加え、フラスコの内容物が均一な溶液になるまで攪拌を続け、続いて、オイルバスを用いて容器内温度が20?60℃の範囲になるように調整しながらさらに20時間攪拌を続け、反応させてポリアミック酸を生成させ、このとき、反応の進行に伴い粘度が増加し、高速での攪拌は困難になるので、それに応じ攪拌速度を徐々に低下させ、20時間攪拌後、反応系温度を室温に戻し、DMAc 649.8gを加えてポリマー濃度が10重量%となるように調整し、さらに、ピリジン32.27g(408mmol)、続いて無水酢酸41.65g(408mmol)を、それぞれ約10分間かけて滴下し、そのまま室温で攪拌して反応させ、イミド化を行ない、反応の進行状況はIRで追跡し、1537cm^(-1)付近のピークが消失するまで攪拌を続け、10時間後、前記ピークの消失が確認されたので攪拌を止め、反応終了とし、次に、イソプロピルアルコール20Lを準備し、5000rpmで攪拌し、一方、前記フラスコの内容物を別の容器にあけ、アセトン700gを加えてポリイミドの濃度が6.5重量%となるように調整し、これを、前記イソプロピルアルコール中に攪拌を続けながら少しずつ加えると、粉末が析出し、この粉末を濾取し、15Lのイソプロピルアルコール中に投入して再び5000rpmで5分間攪拌することにより洗浄し、これを再び濾取し、60℃の熱風循環乾燥機で48時間予備乾燥した後、150℃で7時間乾燥して、目的のポリイミドが白色粉末として得られ(収率93%)、さらに、このポリイミド粉末を用い、まず、前記ポリイミドをシクロペンタノン(溶解度パラメータ21.3)に溶解させ、20重量%溶液を調製し、一方、厚さ70μmのTAC(トリアセチルセルロース)フィルムを準備し、これを基材とし、この基材上に前記ポリイミド溶液を塗布して130℃で5分間乾燥し、厚さ6μmのポリイミド被膜を形成し、そして、この被膜を、基材ごと150℃で10%一軸延伸し、前記基材上に積層して得られた、透明で平滑であり、また、厚さは5μmであるポリイミドフィルム。」


2 甲2の記載事項等
(1)甲2の記載事項
本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲2には、次の記載がある。
ア「【請求項1】
ポリイミド前駆体を化学イミド化することにより得られる式(1)で表されるポリイミド樹脂及び有機溶媒を含有するポリイミド樹脂溶液を基板上に塗布した後に有機溶媒を除去することで得られるポリイミドフィルムからなることを特徴とするTFT基板。
【化1】

【請求項2】
ポリイミド前駆体を化学イミド化することにより得られる式(1)で表されるポリイミド樹脂及び有機溶媒を含有するポリイミド樹脂溶液を基板上に塗布した後に有機溶媒を除去することで得られるポリイミドフィルムからなることを特徴とするフレキシブルディスプレイ基板。
・・・」(特許請求の範囲、請求項1、請求項2)
イ「【0001】
本発明は、高い透明性を有し、耐熱性および寸法安定性に優れたフィルムを与える、化学イミド化により得られたポリイミド樹脂フィルムに関する。特に、有機溶媒に可溶であり、透明性、耐熱性および寸法安定性に対する要求が高い製品あるいは部材を形成する材料(例えば、画像表示装置のガラス代替フィルムなど)として好適に利用できるポリイミド樹脂フィルムを用いた電子デバイス材料、TFT基板、フレキシブルディスプレイ基板、カラーフィルターに関する。」(段落【0001】)
ウ「【0010】
本発明は、有機溶媒への可溶性、耐熱性、寸法安定性および透明性に優れた化学イミド化により得られた、ポリイミド樹脂を含有するコーティング樹脂溶液により形成したフィルムを用いたTFT基板、フレキシブルディスプレイ基板、カラーフィルター、電子デバイス材料を提供することである。
・・・」(段落【0010】)
エ「【0016】
まず、重合容器中にジアミンである2,2‘?ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)を重合溶媒に溶解する。このジアミン溶液に対して、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(6FDA)の粉末を徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、-20?100℃の範囲で、好ましくは20?60℃の範囲で1?72時間攪拌する。TFMB、6FDAを用いることで可視光の透過性、溶解性が向上する。ジアミンのモル数とテトラカルボン酸二無水物のモル数は実質的に等モルで仕込まれる。また重合の際の全モノマー濃度は5?40重量%、好ましくは10?30重量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより均一で高重合度のポリイミド前駆体溶液を得ることができる。 上記モノマー濃度範囲よりも低濃度で重合を行うと、ポリイミド前駆体の重合度が十分高くならず、最終的に得られるポリイミド樹脂膜が脆弱になる恐れがあり、好ましくない。」(段落【0016】。合議体注:下線を付した「‘」は誤記であって、化合物の名称であることからみて正しくは「’」を意味すると解される。)
オ「【0026】
本発明のポリイミド樹脂溶液から、ポリイミドフィルムを製造する方法については特に限定されず、公知の方法により容易に製造することが出来る。例えば、本発明のポリイミド樹脂溶液を所定の基板上に塗布、乾燥することで、ポリイミドフィルムを形成することができる。塗布する基板としては、ガラス、SUS、シリコンウェハー、プラスチックフィルム等が使用されるがこれに限定されるものではない。特に、電子デバイスの基板材料として適用する場合においては、既存設備を利用することができるという観点から、塗布する基板がガラス、シリコンウェハーであることが好ましい。」(段落【0026】)
カ「【0044】
(合成例1)
<ポリイミド前駆体の重合>
本実施例では、反応容器としてステンレス製セパラブルフラスコを備え、該セパラブルフラスコ内の撹拌装置として2枚のパドル翼を備え、冷却装置として20.9kJ/minの冷却能力を持つ装置を備えた反応装置を用いてポリアミック酸を製造した。重合反応中は水分の混入を防ぐ為に、シリカゲル中を通過させて脱水を行った窒素ガスを0.05L/minで流して重合反応を行った。
【0045】
上記セパラブルフラスコに、重合溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)223.5gを仕込み、これに、TFMBを40.0g(0.125モル)溶解する。この溶液に、6FDAを55.5g(0.125モル)添加・撹拌して完全に溶解させた。完全に溶解した後、撹拌して重合粘度を80Pa・sまで上昇させた。ポリアミック酸溶液の粘度は、23℃に保温された水溶液中で1時間保温し、その時の粘度をB型粘度計で、ローターはNo.7を回転数は4rpmで測定を行った。なお、この反応溶液における芳香族ジアミン化合物および芳香族テトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は、全反応液に対して30重量%となっている。
【0046】
<ポリイミド樹脂への化学イミド化>
上記溶液にDMFを加え固形分濃度を15重量%とし、イミド化促進剤としてピリジン(pkBH+;5.17)を60g(イミド化促進剤/ポリアミック酸中アミド基のモル比=3)添加して、完全に分散させる。分散させた溶液中に無水酢酸を1分間に1gの速度で30.6g(脱水剤/ポリアミック酸中アミド基のモル比=1.2)を添加してさらに30分間撹拌した。撹拌後に内部温度を100℃に上昇させて5時間過熱撹拌を行った。
【0047】
<ポリイミド樹脂の抽出>
ポリイミド樹脂の溶液を穴の直径が約5mmのロートに入れて、5Lのメタノール中に垂らして抽出を行った。抽出時、メタノールを1500回転以上に回転した撹拌羽で高速に撹拌しながら抽出を行った。垂らしたポリイミド溶液の直径はメタノール界面付近で1mm以下になるように、ロートとメタノールの液面の間の高さを調節しながら繊維状になるようにメタノール溶液中に垂らした、溶液中でポリイミド樹脂は、繊維状になる場合もあるが、撹拌を続けることで溶液中に一度繊維状になったものが分解されて5mm以下の繊維に溶液中で分断される。
【0048】
分断された樹脂固形分溶液中に、更に、5 L のメタノールを添加して完全に固形分を抽出して取り出して固形分をソックスレー抽出装置でイソプロパノールにより洗浄を行った後に、真空乾燥装置で100℃ に加熱乾燥して、ポリイミド樹脂として取り出した。得られたポリイミドの構造を式(1)に示す。得られたポリイミド樹脂の評価は表2に示した。
【0049】
(合成例2)
ビフェニル-3,4,3‘,4’-テトラカルボン酸二無水物(BPDA)とTFMBを用いて合成例1と同様の方法でポリイミド前駆体の重合を行った。これをイミド化した際のポリイミド樹脂の評価は表2に示した。
【0050】
<イミド化率>
化合物(1)は、^(1)H-N M R 法にて評価した。芳香族プロトンの積分値をA , アミド酸のプロトン( 1 1 p p m ) の積分値をB とし、以下の計算式にて算出した。
イミド化率( モル% ) = ( ( A / 1 2 - B / 2 ) / ( A / 1 2 ) ) × 1 0 0
NMRの測定条件は表3に示した。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
(実施例1)
溶媒としてDMACを用い、上記の合成例1により作成したポリイミド樹脂が7重量%含有されているコーティング用樹脂溶液を作成した。これをバーコーターでガラス基板上に塗布し、150℃で1時間、次いで300℃で1時間真空乾燥してコーティングフィルムを得た。コーティングフィルムの評価結果は表4に示した。
【0054】
(比較例1)
合成例2により作成したポリイミド前駆体溶液にTFMBに対して0.75当量の無水酢酸、3.75当量のピリジンを添加した。これをバーコーターでガラス基板上に塗布し、300℃で2時間加熱した後に真空乾燥してコーティングフィルムを得た。コーティングフィルムの評価結果は表4に示した。
【0055】
【表4】

」(段落【0044】?【0055】)

(2)甲2に記載された発明
上記(1)カにおける「実施例1」によって得られるコーティングフィルムに着目すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

甲2発明:
「反応容器としてステンレス製セパラブルフラスコを備え、該セパラブルフラスコ内の撹拌装置として2枚のパドル翼を備え、冷却装置として20.9kJ/minの冷却能力を持つ装置を備えた反応装置を用いてポリアミック酸を製造し、重合反応中は水分の混入を防ぐ為に、シリカゲル中を通過させて脱水を行った窒素ガスを0.05L/minで流して重合反応を行い、上記セパラブルフラスコに、重合溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)223.5gを仕込み、これに、TFMBを40.0g(0.125モル)溶解し、この溶液に、6FDAを55.5g(0.125モル)添加・撹拌して完全に溶解した後、撹拌して重合粘度を80Pa・sまで上昇させ、ポリアミック酸溶液の粘度は、23℃に保温された水溶液中で1時間保温し、その時の粘度をB型粘度計で、ローターはNo.7を回転数は4rpmで測定を行い、この反応溶液における芳香族ジアミン化合物および芳香族テトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は、全反応液に対して30重量%となっており、上記溶液にDMFを加え固形分濃度を15重量%とし、イミド化促進剤としてピリジン(pkBH+;5.17)を60g(イミド化促進剤/ポリアミック酸中アミド基のモル比=3)添加して、完全に分散させ、分散させた溶液中に無水酢酸を1分間に1gの速度で30.6g(脱水剤/ポリアミック酸中アミド基のモル比=1.2)を添加してさらに30分間撹拌し、撹拌後に内部温度を100℃に上昇させて5時間過熱撹拌を行い、ポリイミド樹脂の溶液を穴の直径が約5mmのロートに入れて、5Lのメタノール中に垂らして抽出を行い、抽出時、メタノールを1500回転以上に回転した撹拌羽で高速に撹拌しながら抽出を行い、垂らしたポリイミド溶液の直径はメタノール界面付近で1mm以下になるように、ロートとメタノールの液面の間の高さを調節しながら繊維状になるようにメタノール溶液中に垂らし、溶液中でポリイミド樹脂は、繊維状になる場合もあるが、撹拌を続けることで溶液中に一度繊維状になったものが分解されて5mm以下の繊維に溶液中で分断され、分断された樹脂固形分溶液中に、更に、5Lのメタノールを添加して完全に固形分を抽出して取り出して固形分をソックスレー抽出装置でイソプロパノールにより洗浄を行った後に、真空乾燥装置で100℃ に加熱乾燥して、ポリイミド樹脂として取り出し、得られたポリイミドの構造は式(1)に示され、溶媒としてDMACを用い、上記の合成例1により作成したポリイミド樹脂が7重量%含有されているコーティング用樹脂溶液を作成し、これをバーコーターでガラス基板上に塗布し、150℃で1時間、次いで300℃で1時間真空乾燥して得られたコーティングフィルム。」

3 本件特許発明1について
(1)甲1発明との対比、判断
ア 対比
甲1発明のポリイミドフィルムは、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物75.52g(170mmol)と、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル54.44g(170mmol)を重合したポリイミド粉末を用いたポリイミド溶液から得られたフィルムであるから、フッ素化ポリイミド層を含むフィルムであると認められる。
また、甲3の実験成績報告書によれば、甲1の(1)エにおける「実施例2」の記載に基づいて調製したポリイミドフィルム、すなわち甲1発明に係るポリイミドフィルムは、全ヘイズ値が0.20又は0.13であり、イエローインデックスが1.04または1.27であり、全光線透過率が92.10%であり、アンモニウムイオンの含有量が1ppm未満であることが理解できる。
よって、本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、「全ヘイズ値が4以下であり、イエローインデックスが3以下であり、全光線透過率が90%以上であるフッ素化ポリイミド層を含み、フッ素化ポリイミド層は、アンモニウムイオンの含有量がフッ素化ポリイミド層について100ppm以下であるフィルム。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)本件特許発明1では、直径0.15mm以上の光学的な欠陥が10個/m^(2)以下であるのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点。

イ 判断
上記相違点について検討する。甲1の(1)アの記載に基づくと、甲1発明に係るフィルムは光学フィルムの用途に用いるものと認められる。樹脂層を含む光学フィルムの技術分野において、点欠陥を低減することが好ましいことは周知の技術事項であるし(例えば、甲4の【特許請求の範囲】、段落【0001】?【0011】等、特開2011-141448号公報(以下、「甲7」という。)の【特許請求の範囲】、段落【0032】等、特開2010-280151号公報(以下、「甲8」という。)の段落【0007】、【0055】?【0059】等参照。)、そのことは光学フィルムを形成する樹脂の種類を問わず当てはまることは当業者にとり明らかである。
もとより、甲3に示されているとおり、甲1発明は、本件特許発明1と同程度に、不純物であるアンモニウムイオンが少なく、全光線透過率も高く、かつヘイズ値で示される透明度も高いことから、光学的な品質も同程度である蓋然性が高く、そうすると甲1発明も本質的には同程度に点欠陥が少ないものである蓋然性は高い。その上で、上記周知の技術事項を踏まえると、光学フィルムとして用い得る甲1発明において、点欠陥に着目しその数を低減しようとすることは当業者が容易に想到できた事項である。
そして、本件特許発明1における「直径0.15mm以上の光学的な欠陥を10個/m^(2)以下」とするという数値範囲の限定について検討する。上記にも示した甲4においては、樹脂の種類がポリイミドではないものの、光学フィルムにおいて100μm以上の点欠陥が1m^(2)あたり2個以下であることが必要である旨記載されており、また甲8においては、20μm以上の欠点数は10個/m^(2)以下とすることが好ましいことが記載されている。そうすると、本件特許発明1における「直径0.15mm以上の光学的な欠陥を10個/m^(2)以下」という欠陥の定義及びその個数の数値範囲についても、一般的に設定され得ないような特別な数値ではなく、当業者が適宜設定し得る事項である。そして、それによる効果も格別顕著なものとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2)甲2発明との対比、判断
ア 対比
甲2発明のコーティングフィルムは、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルであるTFMBを40.0g(0.125モル)と2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物である6FDAを55.0g(0.125モル)を重合したポリイミド樹脂を用いたポリイミド溶液から得られたコーティングフィルムであるから、フッ素化ポリイミド層を含むフィルムであると認められる。
また、甲3の実験成績報告書によれば、甲2発明のコーティングフィルムは、全ヘイズ値が0.11又は0.16であり、イエローインデックスが1.05または1.21であり、全光線透過率が92.17%または92.10%であり、アンモニウムイオンの含有量が1ppm未満であることが理解できる。
よって、本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、「全ヘイズ値が4以下であり、イエローインデックスが3以下であり、全光線透過率が90%以上であるフッ素化ポリイミド層を含み、フッ素化ポリイミド層は、アンモニウムイオンの含有量がフッ素化ポリイミド層について100ppm以下であるフィルム。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)本件特許発明1では、直径0.15mm以上の光学的な欠陥が10個/m^(2)以下であるのに対して、甲2発明では、そのような特定がされていない点。

イ 判断
上記相違点について検討する。甲2の(1)イ及びウの記載に基づくと、甲2発明に係るコーティングフィルムはガラス代替フィルムやカラーフィルターとして用いるものであるから、光学フィルムとしての用途に用いるものと認められる。樹脂層を含む光学フィルムの技術分野において、点欠陥を低減することが好ましいことは上記(1)イのとおり周知の技術事項であるし、そのことは光学フィルムを形成する樹脂の種類を問わず当てはまることは当業者にとり明らかである。
もとより、甲3に示されているとおり、甲2発明は、本件特許発明1と同程度に、不純物であるアンモニウムイオンが少なく、全光線透過率も高く、かつヘイズ値で示される透明度も高いことから、光学的な品質も同程度である蓋然性が高く、そうすると甲2発明も本質的には同程度に点欠陥が少ないものである蓋然性は高い。その上で、上記周知の技術事項を踏まえると、光学フィルムと認められるガラス代替フィルムやカラーフィルターとして用い得る甲2発明において、点欠陥に着目しその数を低減しようとすることは当業者が容易に想到できた事項である。
そして、本件特許発明1における「直径0.15mm以上の光学的な欠陥を10個/m^(2)以下」とするという数値範囲の限定について検討する。上記にも示した甲4においては、樹脂の種類がポリイミドではないものの、光学フィルムにおいて100μm以上の点欠陥が1m^(2)あたり2個以下であることが必要である旨記載されており、また甲8においては、20μm以上の欠点数は10個/m^(2)以下とすることが好ましいことが記載されている。そうすると、本件特許発明1における「直径0.15mm以上の光学的な欠陥を10個/m^(2)以下」という欠陥の定義及びその個数の数値範囲についても、一般的に設定され得ないような特別な数値ではなく、当業者が適宜設定し得る事項である。そして、それによる効果も格別顕著なものとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲2発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(3)特許権者の主張について
平成29年1月23日及び同年5月18日に特許権者から提出された意見書において、特許権者は概略次のとおり主張している。
(主張1)甲4は活性放射線硬化樹脂を材料としたフィルムであり、ポリイミドフィルムではないから、甲1や甲2に記載のポリイミド樹脂から得られたフィルムにおいて、点欠陥を低減することは周知の事項ではない。
(主張2)本件特許発明1は、直径0.15mm以上の光学的な欠陥が10個/m^(2)以下であることから、全ヘイズ値及び内部ヘイズ値が小さいという効果を奏するものであるのに対し、甲4や甲7には、光学的な欠陥を10個/m^(2)以下とすると、全ヘイズ値及び内部ヘイズ値が劇的に改善することは記載されていない。
(主張3)10個/m^(2)以下という光学的な欠陥数は、フッ素化ポリイミド層を含むフィルムとしては初めて実現された欠陥数である。本件特許発明1においては、フッ素化ポリイミドを含むワニスの溶剤の種類及び乾燥条件に関して従来知られていなかった製造条件、すなわち、沸点の異なる溶剤を組み合わせ、低沸点溶剤の沸点以下の温度からゆっくりと昇温し、高沸点溶剤の沸点未満の温度で乾燥を完了させること方法を採用することにより、そのような新規なフィルムが得られることを見出したのであり、甲1、甲2、甲4及び甲7には、そのような方法について記載も示唆もされていない。

上記主張1について検討する。先にも示したとおり、光学フィルムという用途に供するものである以上は、その樹脂の種類によらず、光学的な品質が高いものが好ましいことは当業者にとって周知の事項であるから、上記主張1については採用できない。
上記主張2について検討する。本件特許の明細書の実施例における表1、表2及び表4を参照すると、比較例に比べて、ポリイミドの精製方法やフィルムの乾燥方法を工夫したことによって、フィルムとしての品質、すなわち全光線透過率、全ヘイズ値、内部ヘイズ値、イエローインデックス及び点欠陥が総合的に改善したことは理解することができる。しかしながら、本件特許の明細書の記載全体をみても、直径0.15mm以上の光学的な欠陥を10個/m^(2)以下としたことによって、全ヘイズ値及び内部ヘイズ値が改善するという因果関係があることは読み取れないし、そのことを推認するための理論的な説明もない。したがって、上記主張2については理由がないため採用できない。
上記主張3について検討する。フッ素化ポリイミド層を含むフィルムにおいて、10個/m^(2)以下という光学的な欠陥数が実現されたのが初めてであることについては、本件特許の明細書には記載されていない事項であるし、かつそのことに関する具体的な根拠も何ら示されていない。また、本件特許発明1は「フィルム」という「物」の発明であって、「物を製造する方法」の発明ではないから、溶剤の種類や乾燥条件などの製造方法の点において本件特許の明細書の記載と甲1の記載或いは甲2の記載と異なることをもって、本件特許発明1の進歩性を肯定する根拠にはならない。よって、上記主張3については、採用できない。
なお、特許権者の主張2のとおり、光学的な欠陥を10個/m^(2)以下とすることによって、全ヘイズ値及び内部ヘイズ値が劇的に改善するという因果関係が仮に存在するのであれば、甲3に示されているとおり、甲1発明と甲2発明のヘイズ値は、本件特許の明細書の実施例で示された各実施例よりも相当程度低いのであるから、甲1発明及び甲2発明のいずれにおいても、光学的な欠陥が10個/m^(2)以下である蓋然性はさらに高くなるといえる。

4 本件特許発明2について
(1)甲1発明との対比、判断
甲1発明のポリイミドフィルムは、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物75.52g(170mmol)と、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル54.44g(170mmol)を重合したポリイミド粉末を用いたポリイミド溶液から得られたフィルムであるところ、その構造式からみて、上記「2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物」は、本件特許発明2の「フッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)」である式(3)で表され、上記「2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル」は、本件特許発明2の「フッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)」である式(1)で表されると認められる。
そうしてみると、甲1発明のポリイミドフィルムは、本件特許発明2の「フッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)とフッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)とを含むフッ素化ポリイミドからなる」フッ素化ポリイミド層を含むフィルムに相当すると認められる。
よって、本件特許発明2は、本件特許発明1と同様に、上記3(1)での検討のとおり、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2)甲2発明との対比、判断
甲2発明のコーティングフィルムは、上記2(1)エからみて、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルであるTFMBを40.0g(0.125モル)と2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物である6FDAを55.0g(0.125モル)を重合したポリイミド樹脂を用いたポリイミド溶液から得られたコーティングフィルムであるところ、その構造式からみて、上記「2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルであるTFMB」は、本件特許発明2の「フッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)」である式(1)で表され、上記「2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物である6FDA」は、本件特許発明2の「フッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)」である式(3)で表されると認められる。
そうしてみると、甲2発明のコーティングフィルムは、本件特許発明2の「フッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)とフッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)とを含むフッ素化ポリイミドからなる」フッ素化ポリイミド層を含むフィルムに相当すると認められる。
よって、本件特許発明2は、本件特許発明1と同様に、上記3(2)での検討のとおり、甲2発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

5 本件特許発明4について
(1)甲1発明との対比、判断
甲1発明のポリイミドフィルムは、本件特許発明4の「フッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)」である式(1)で表される「2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル」と、本件特許発明4の「フッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)」である式(3)で表される「2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物」を重合したポリイミド粉末を用いたポリイミド溶液から得られたフィルムであるから、甲1発明のポリイミドフィルムは、重合単位(A)及び重合単位(B)が全重合単位の60モル%以上であると認められる。
よって、本件特許発明4は、本件特許発明1及び2と同様に、上記3(1)及び4(1)での検討のとおり、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2)甲2発明との対比、判断
甲2発明のコーティングフィルムは、本件特許発明4の「フッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)」である式(1)で表される「2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルであるTFMB」と、本件特許発明4の「フッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)」である式(3)で表される「2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物である6FDA」を重合したポリイミド樹脂を用いたポリイミド溶液から得られたコーティングフィルムであるから、甲2発明のコーティングフィルムは、重合単位(A)及び重合単位(B)が全重合単位の60モル%以上であると認められる。
よって、本件特許発明4は、本件特許発明1及び2と同様に、上記3(2)及び4(2)での検討のとおり、甲2発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

6 本件特許発明5について
(1)甲1発明との対比、判断
甲1発明のポリイミドフィルムは、本件特許発明5の「フッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)」である式(1)で表される「2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル」と、本件特許発明5の「フッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)」である式(3)で表される「2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物」を1:1のモル比で重合したポリイミド粉末を用いたポリイミド溶液から得られたフィルムであるから、甲1発明のポリイミドフィルムは、重合単位(B)が全重合単位の30モル%以上であると認められる。
よって、本件特許発明5は、本件特許発明1、2及び4と同様に、上記3(1)、4(1)及び5(1)での検討のとおり、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2)甲2発明との対比、判断
甲2発明のコーティングフィルムは、本件特許発明5の「フッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)」である式(1)で表される「2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルであるTFMB」と、本件特許発明5の「フッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)」である式(3)で表される「2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物」を1:1のモル比で重合したポリイミド樹脂を用いたポリイミド溶液から得られたコーティングフィルムであるから、甲2発明のコーティングフィルムは、重合単位(B)が全重合単位の30モル%以上であると認められる。
よって、本件特許発明5は、本件特許発明1、2及び4と同様に、上記3(2)、4(2)及び5(2)での検討のとおり、甲2発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

7 本件特許発明6について
甲1発明との対比、判断
ポリイミドフィルムの技術において、フッ素化ジアミンに基づく重合単位とフッ素化酸無水物に基づく重合単位に加えて非フッ素化ジアミンに基づく重合単位を含むポリイミドフィルムは周知である(例えば、甲5の段落【0020】、【0061】、【0080】の【表1】、【0081】の【表2】等参照)。
また、上記1(1)イのように、甲1には、非フッ素化ジアミンに基づく重合単位を含ませてもよいことが記載されている。
そうしてみると、甲1発明において、非フッ素化ジアミンに基づく重合単位を更に含ませることは、当業者が容易になし得たことである。そして、それによる効果も格別顕著なものとはいえない。
その余の点は、上記3(1)、4(1)、5(1)及び6(1)での検討のとおりである。
よって、本件特許発明6は、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

8 本件特許発明7について
甲1発明との対比、判断
ポリイミドフィルムの技術において、フッ素化ジアミンに基づく重合単位とフッ素化酸無水物に基づく重合単位に加えて他種の酸無水物に基づく重合単位を含むポリイミドフィルムは周知である(例えば、甲6の段落【0040】、【0126】、【0147】の【表5】等参照)。
また、上記1(1)イのように、甲1には、他種の酸無水物に基づく重合単位を含ませてもよいことが記載されている。
そうしてみると、甲1発明において、他種の酸無水物に基づく重合単位を更に含ませることは、当業者が容易になし得たことである。そして、それによる効果も格別顕著なものとはいえない。
その余の点は、上記3(1)、4(1)、5(1)、6(1)及び7での検討のとおりである。
よって、本件特許発明7は、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

9 本件特許発明8について
(1)甲1発明との対比、判断
甲1発明のポリイミドフィルムは、TAC(トリアセチルセルロース)フィルムからなる基材上にポリイミド被膜が積層されており、甲1発明の「TAC(トリアセチルセルロース)フィルムからなる基材」は、本件特許発明8の「透明樹脂基材(但しフッ素化ポリイミドからなる物を除く)」に相当すると認められる。
また、上記1(1)オのように、甲1には、ガラス基板とポリイミドフィルムとを含む積層体も記載されており、当該「ガラス基板」は、本件特許発明8の「ガラス」に相当すると認められる。
よって、本件特許発明8は、本件特許発明1、2及び4?7と同様に、上記3(1)、4(1)、5(1)、6(1)、7及び8での検討のとおり、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2)甲2発明との対比、判断
甲2発明のコーティングフィルムは、ガラス基板上にポリイミド被膜が積層されており、甲2発明の「ガラス基板」は、本件特許発明8の「ガラス」に相当すると認められる。
また、上記2(1)オのように、甲2には、本発明のポリイミド樹脂溶液を塗布する基板としてプラスチックフィルムも記載されており、当該「プラスチックフィルム」は、本件特許発明8の「透明樹脂基材(但しフッ素化ポリイミドからなる物を除く)」に相当すると認められる。
よって、本件特許発明8は、本件特許発明1、2、4及び5と同様に、上記3(2)、4(2)、5(2)及び6(2)での検討のとおり、甲2発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

10 本件特許発明9について
(1)甲1発明との対比、判断
ポリイミドフィルムの技術において、ポリイミドフィルムをフレキシブルディスプレイ基板や透明導電性フィルムに用いることは周知の技術事項である(例えば、甲2の【請求項2】、甲6の段落【0028】等参照)。
また、上記1(1)ウのように、甲1には、ポリイミドフィルムを有機エレクトロルミネッセンスディスプレイやプラズマディスプレイに使用できることが記載されている。
そうしてみると、甲1発明のポリイミドフィルムを透明導電性基材やフレキシブルディスプレイ用基材に用いることは、当業者が容易になし得たことである。そして、それによる効果も格別顕著なものとはいえない。
その余の点は、上記3(1)、4(1)、5(1)、6(1)、7、8及び9(1)での検討のとおりである。
よって、本件特許発明9は、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2)甲2発明との対比、判断
上記2(1)ア及びウのように、甲2には、コーティングフィルムをフレキシブルディスプレイ基板として用いることが記載されている。
また、ポリイミドフィルムの技術において、ポリイミドフィルムを透明導電性フィルムに用いることは周知の技術事項である(例えば、甲6の段落【0028】等参照)。
そうしてみると、甲2発明のコーティングフィルムを透明導電性基材に用いることは、当業者が容易になし得たことである。そして、それによる効果も格別顕著なものとはいえない。
その余の点は、上記3(2)、4(2)、5(2)、6(2)及び9(2)での検討のとおりである。
よって、本件特許発明9は、甲2発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

11 本件特許発明10について
(1)甲1発明との対比、判断
上記1(1)アのように、甲1には、ポリイミドフィルムを光学フィルムとして用いることが記載されている。
その余の点は、上記3(1)、4(1)、5(1)、6(1)、7、8、9(1)及び10(1)での検討のとおりである。
よって、本件特許発明10は、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2)甲2発明との対比、判断
上記2(1)イ及びウのように、甲2には、コーティングフィルムを光学フィルムと認められるガラス代替フィルムやカラーフィルターとして用いることが記載されている。
その余の点は、上記3(2)、4(2)、5(2)、6(2)、9(2)及び10(2)での検討のとおりである。
よって、本件特許発明10は、甲2発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


第6 結語
上記第5のとおり、本件特許の請求項1、2、4?10に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された甲1または甲2に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1、2、4?10に係る特許は、第29条に違反してされたものであって第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
また、請求項3に係る特許は、本件訂正の請求による訂正により削除されたため、請求項3に対してする特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全ヘイズ値が4以下であり、イエローインデックスが3以下であり、全光線透過率が90%以上であるフッ素化ポリイミド層を含み、
フッ素化ポリイミド層は、アンモニウムイオンの含有量がフッ素化ポリイミド層について100ppm以下であり、
直径0.15mm以上の光学的な欠陥が10個/m^(2)以下であることを特徴とするフィルム。
【請求項2】
フッ素化ポリイミド層は、フッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)とフッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)とを含むフッ素化ポリイミドからなる請求項1記載のフィルム。但し、前記フッ素化ジアミンは、下記式(1):
【化1】

(式中、R_(f)^(1)及びR_(f)^(2)は芳香環の置換基を表し、芳香環1つあたり4つの置換可能部位のうちいずれか1つが当該置換基で置換されていることを表す。R_(f)^(1)及びR_(f)^(2)は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化ジアミン、及び/又は、下記式(2):
【化2】

(式中、R_(f)^(3)は芳香環の置換基を表し、芳香環の4つの置換可能部位のうちいずれか1つが当該置換基で置換されていることを表す。R_(f)^(3)は、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化ジアミンであり、
前記フッ素化酸無水物は、下記式(3):
【化3】

(式中、R_(f)^(4)及びR_(f)^(5)は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化酸無水物である。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
フッ素化ポリイミドは、重合単位(A)及び(B)が全重合単位の60モル%以上である請求項2記載のフィルム。
【請求項5】
フッ素化ポリイミドは、重合単位(B)が全重合単位の30モル%以上である請求項2及び4のいずれかに記載のフィルム。
【請求項6】
フッ素化ポリイミドは、更に、非フッ素化ジアミンに基づく重合単位(C)を含む請求項2、4及び5のいずれかに記載のフィルム。
【請求項7】
フッ素化ポリイミドは、更に、他種の酸無水物に基づく重合単位(D)を含む請求項2及び4?6のいずれかに記載のフィルム。
【請求項8】
更に、ガラス、または透明樹脂基材(但しフッ素化ポリイミドからなるものを除く)を含む請求項1、2及び4?7のいずれかに記載のフィルム。
【請求項9】
透明導電性基材又はフレキシブルディスプレイ用基材に用いる請求項1、2及び4?8のいずれかに記載のフィルム。
【請求項10】
光学フィルムである請求項1、2及び4?9のいずれかに記載のフィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-20 
出願番号 特願2015-130947(P2015-130947)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (C08J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 佐久 敬
大島 祥吾
登録日 2016-01-22 
登録番号 特許第5871094号(P5871094)
権利者 ダイキン工業株式会社
発明の名称 フィルム  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 津国  

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