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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1333190
異議申立番号 異議2016-700657  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-01 
確定日 2017-08-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5850726号発明「ポリアミド樹脂組成物及び成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5850726号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第5850726号の請求項1、5、6に係る特許を取り消す。 同請求項2ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5850726号の請求項1?6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成23年12月2日に出願され、平成27年12月11日にその特許権の設定登録がされ、平成28年2月3日にその特許公報が発行され、その後同年8月1日に東レ株式会社(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は次のとおりである。
平成28年 8月 1日 特許異議申立書
同年 9月30日付け 取消理由通知
同年12月 2日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 同月27日 手続補正書(特許権者)
平成29年 1月23日付け 訂正拒絶理由通知
同年 2月10日 意見書・手続補正書(特許権者)
同年 2月28日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 5月 2日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 同月11日付け 通知書
同年 6月14日 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成29年5月2日に訂正請求書を提出し、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正(以下「本件訂正」という。)することを求めた。

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
請求項1に「0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド」とあるのを、「0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド(但し、(x)=0.18かつ(Y)=-0.2であるものを除く)」に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項2に「前記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。」とあるのを、「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。」に訂正する。

(3)訂正事項3
請求項3に「前記(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材が、ウォラストナイト、カオリン、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、クレーからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填材である請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。」とあるのを、「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):ガラス繊維以外の、ウォラストナイト、カオリン、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、クレーからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。」に訂正する。

(4)訂正事項4
請求項4に「前記(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材の平均粒径が0.01?38μmである請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。」とあるのを、「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):平均粒径が0.01?38μmである前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。」に訂正する。

(5)訂正事項5
請求項5に「請求項1乃至4のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。」とあるのを、「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)を含む成形品(但し、金型内複合成形品を除く)。」に訂正する。なお、本件訂正前後の請求項6は請求項5を引用するものであるから、訂正事項5により実質的に請求項6も訂正される。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0013】に「〔1〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有しているものを除く。)。
〔2〕
前記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である、前記〔1〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔3〕
前記(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材が、ウォラストナイト、カオリン、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、クレーからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填材である前記〔1〕又は〔2〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔4〕
前記(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材の平均粒径が0.01?38μmである、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔5〕
前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。
〔6〕
射出成形品である、前記〔5〕に記載の成形品。」とあるのを、「〔1〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド(但し、(x)=0.18かつ(Y)=-0.2であるものを除く)100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
〔2〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
〔3〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):ガラス繊維以外の、ウォラストナイト、カオリン、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、クレーからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
〔4〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
前記(C):平均粒径が0.01?38μmである前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
〔5〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)を含む成形品(但し、金型内複合成形品を除く)。
〔6〕
射出成形品である、請求項5に記載の成形品。」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0098】に「製造例2?13」とあるのを、「製造例2?16」に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の段落【0100】に「【表1】

」とあるのを、「【表1】

」に訂正する。

なお、本件訂正前後の請求項1?6の記載は次のとおりである。
本件訂正前:「【請求項1】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
【請求項2】
前記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材が、ウォラストナイト、カオリン、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、クレーからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填材である請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材の平均粒径が0.01?38μmである請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。
【請求項6】
射出成形品である、請求項5に記載の成形品。」

本件訂正後:「【請求項1】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド(但し、(x)=0.18かつ(Y)=-0.2であるものを除く)100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
【請求項2】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
【請求項3】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):ガラス繊維以外の、ウォラストナイト、カオリン、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、クレーからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
【請求項4】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):平均粒径が0.01?38μmである前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
【請求項5】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)を含む成形品(但し、金型内複合成形品を除く)。
【請求項6】
射出成形品である、請求項5に記載の成形品。」

2 本件訂正の適否
(1)一群の請求項について
訂正事項1?5による本件訂正は、請求項1?6を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2?5はいずれも請求項1を引用するものであり、請求項6は請求項5を引用するものであるから、請求項1?6は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。そして、本件訂正の請求は、請求項1?6についてされているから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の(x)及び(Y)が特定のものであるポリアミドを除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加、特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載された「0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド」の一部分を除くとするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内における訂正であって、新規事項の追加はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、本件訂正前に請求項1を引用していた請求項2を、引用関係を解消し、独立形式に改める訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。

新規事項の追加、特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
訂正事項2は、請求項2について、引用関係を解消し、独立形式に改める訂正であって、請求項2においてその内容に実質的な変更はないから、新規事項の追加はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、本件訂正前に請求項1及び2を引用していた請求項3について、引用関係を解消し、独立形式に改めるとともに、本件訂正前にポリアミドが「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を含む」とされていたものを「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなる」と訂正することでポリアミドの構成成分を限定するものである。
したがって、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。

新規事項の追加、特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
訂正事項3は、請求項3について、引用関係を解消し、独立形式に改めるものであり、また、ポリアミドについて、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位とからなるものであるとする限定をする訂正であるところ、願書に添付した明細書には、実施例として、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位とからなるポリアミドが記載されている(製造例5、6)。したがって、訂正事項3による訂正については、新規事項の追加はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、本件訂正前に請求項1?3を引用していた請求項4について、引用関係を解消し、独立形式に改めるとともに、本件訂正前に請求項1を引用していた請求項4について、ポリアミドが「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を含む」とされていたものを「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなる」と訂正することでポリアミドの構成成分を限定するものである。
したがって、訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。

新規事項の追加、特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
訂正事項4は、請求項4について、引用関係を解消し、独立形式に改めるものであり、また、ポリアミドについて、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位とからなるものであるとする限定をする訂正であるところ、上記(4)のイで述べたのと同様の理由により、訂正事項4による訂正については、新規事項の追加はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(6)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、本件訂正前に請求項1?4を引用していた請求項5について、引用関係を解消し、独立形式に改めるとともに、本件訂正前に請求項1を引用していた請求項5に記載の成形品について金型内複合成形品を除外する訂正をするものであるところ、当該除外によって、特許請求の範囲が減縮される(なお、請求項6についても成形品から金型内複合成形品が除外される)。
したがって、訂正事項5による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。

新規事項の追加、特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
訂正事項5は、請求項5について、引用関係を解消し、独立形式に改めるものであり、また、成形品について金型内複合成形品を除外する訂正であるところ、願書に添付した明細書の段落【0071】には、金型内複合成形により成形品を得ることが記載されているから、訂正事項5による訂正については、新規事項の追加はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(7)訂正事項6について
ア 訂正の目的について
訂正事項6による訂正は、訂正事項1?5により訂正される特許請求の範囲の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

新規事項の追加、特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
上述のとおり、訂正事項1?5による訂正について、新規事項の追加はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、訂正事項6による訂正についても、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ウ 明細書の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項6は、特許請求の範囲に記載した全ての請求項に関係しているが、本訂正請求では、全ての請求項について訂正が請求されている。したがって、訂正事項6による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

(8)訂正事項7及び8について
ア 訂正の目的について
訂正事項7は、明細書の段落【0098】に記載の製造例2?13を製造例2?16に訂正するものであるところ、明細書の段落【0098】には、「実施例2?14、比較例1?7」、「評価結果を下記表1及び2に示す。」との記載があり、明細書の【表1】及び【表2】によれば、実施例2?13、比較例1?7では、ポリアミドの種類としてA2?A16が記載され、それらは製造例2?16で製造されたポリアミドである。してみれば、訂正前の製造例2?13との記載に誤記があることは明らかであり、正しい記載は製造例2?16であることも明らかである。
また、訂正事項8は、明細書の【表1】に記載の左から2つめの実施例2を実施例3とし、実施例3?13を実施例4?14に訂正するものであるところ、内容の異なる実施例2が2つ記載されていることは不合理であり、明細書の段落【0098】に「実施例2?14、比較例1?7」、「評価結果を下記表1及び2に示す。」との記載があることからみて、上記2つめの実施例2の記載、実施例3?13の記載に誤記があることは明らかであり、正しい記載はそれぞれ実施例3、実施例4?14であることも明らかである。
したがって、訂正事項7及び8による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。

新規事項の追加、特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
上記アで述べたことから、訂正事項7及び8による訂正について、新規事項の追加はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、当該訂正は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ウ 明細書の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項7及び8は、特許請求の範囲に記載した全ての請求項に関係しているが、本訂正請求では、全ての請求項について訂正が請求されている。したがって、訂正事項7及び8による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

(9)まとめ
以上のとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1、2、3及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項で準用する同法第126条第4項から6項までの規定に適合する。
したがって、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項1?6について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1?6に係る発明は、平成29年5月2日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」?「本件発明6」ともいう。)である。
「【請求項1】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド(但し、(x)=0.18かつ(Y)=-0.2であるものを除く)100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
【請求項2】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
【請求項3】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):ガラス繊維以外の、ウォラストナイト、カオリン、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、クレーからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
【請求項4】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):平均粒径が0.01?38μmである前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
【請求項5】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)を含む成形品(但し、金型内複合成形品を除く)。
【請求項6】
射出成形品である、請求項5に記載の成形品。」

第4 取消理由通知の概要
当審が取消理由で通知した取消理由の概要は、以下の理由1及び2に示すとおりである。

1 理由1
本件特許の請求項1、3?6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、上記請求項に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

刊行物1:特開2007-182071号公報(特許異議申立人が提示した甲第1号証)
刊行物2:特開2008-133465号公報(特許異議申立人が提示した甲第3号証)
参考資料:実験報告書、報告者:東レ株式会社 樹脂技術部 樹脂開発第1室長 高村 元(特許異議申立人が提示した甲第2号証)

2 理由2
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない。

(1)本件発明1で特定されるYの制御について、どのような方法によってYの値を制御するかは発明の詳細な説明の記載をみても不明であるといわざるを得ず、当該Yの値が一定の範囲であることを発明特定事項とする本件発明1について、発明の詳細な説明は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできない。
本件発明2?6についても同様である。

(2)本件特許明細書の【0098】に「実施例2?14」と記載され、「評価結果を表1及び表2に示す」と記載されているところ、表1には、実施例2が2つ記載され、表1又は表2には実施例14が記載されていない不備がある。
また、同【0098】に記載の「製造例2?13」は「製造例2?16」の誤記と解される。

よって、本件特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由1(特許法第29条第2項)について
ア 各刊行物及び参考資料の記載事項並びに引用発明

(ア)各刊行物及び参考資料の記載事項
(i)刊行物1には、以下の事項が記載されている。
1a)「【請求項2】
アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する工程を経て電子顕微鏡観察で数平均内径10?80nmの凹部で表面が覆われたアルミニウム合金部品と、
前記アルミニウム合金部品の前記表面に射出成形で固着され、脂肪族ポリアミド樹脂と芳香族ポリアミド樹脂が単純混合されたもの、及び/又は、前記脂肪族ポリアミド樹脂と前記芳香族ポリアミド樹脂が分子的に結合されたものが主な樹脂分組成である熱可塑性合成樹脂組成物部品と
からなる金属樹脂複合体。」

1b)「【請求項9】
請求項1?8から選択される1項に記載の金属樹脂複合体において、
前記熱可塑性合成樹脂組成物が、樹脂分組成100質量部に対して充填材1?200質量部が含まれていることを特徴とする金属樹脂複合体。
【請求項10】
請求項9に記載の金属樹脂複合体において、
前記充填材が、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、及びガラス粉から選ばれる1種以上の充填材であることを特徴とする金属樹脂複合体。」

1c)「【請求項12】
数平均内径10?80nmの凹部で覆われたアルミニウム合金部品の表面とする為の、アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミンから選択される1種以上の水溶液への浸漬処理工程と、
該浸漬処理工程が為された前記アルミニウム合金部品を射出成形金型にインサートし、脂肪族ポリアミド樹脂と芳香族ポリアミド樹脂が単純混合された、又は、前記脂肪族ポリアミド樹脂と前記芳香族ポリアミド樹脂が分子的に結合されたものが主な樹脂分組成である熱可塑性合成樹脂組成物を射出して樹脂組成物部品として成形すると共にこれを前記アルミニウム合金部品の前記表面に接合する工程と
からなる金属樹脂複合体の製造方法。」

1d)「【0064】
好ましい共重合ナイロンとしては、・・・ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、・・・ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6)が挙げられる。
【0065】
好ましい共重合ナイロンは6Iナイロン成分が入ったものであり、特に好ましい共重合ナイロンは、ヘキサメチレンアジパミド成分(ナイロン66成分)、ヘキサメチレンイソフタラミド成分(ナイロン6I成分)、およびカプロアミド成分(ナイロン6成分)からなる3元共重合体(ナイロン66/6I/6樹脂)であり、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の当モル塩、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の当モル塩、およびεカプロラクタムを重合缶内で加熱、重合することで得られる。その共重合比率は、配合原料の比率である。好ましい各繰返し構造単位の共重合割合は、ナイロン66成分が65?90質量%、ナイロン6I成分が5?30質量%、ナイロン6成分が1?14質量%さらに好ましくは2?12質量%であり、ナイロン6I成分/ナイロン6成分の共重合比1.0以上を同時に満たすことが好ましい。これらの共重合比は共重合体を製造する際の原料の割合を調整することにより、達成される。
・・・
【0068】
このような共重合比率の共重合ナイロンを使用することで、機械特性や耐熱特性を損なわずにAlとの接着性に適した固化特性を得ることができる。ナイロン6は、1?10質量部が好ましく、更に好ましい範囲は3?8質量部であり吸湿時の機械特性低下を抑制できる。さらに、ナイロン6Iとナイロン6との共重合比率を1.0以上とすることで、吸湿時の機械特性低下を抑制することができる。また、本発明で使用する共重合ナイロンはISO 307に従って測定した粘度数の値が70?130ml/gのものが好ましく、更に好ましくは75?110ml/gである。この範囲の共重合ナイロンを使用することで、機械特性を損なうことなく、アルミニウムとの良好な接着性を有した本発明に適した熱可塑性合成樹脂組成物を得る事ができる。」

1e)「【0071】
[熱可塑性合成樹脂組成物/充填材]
また、本発明の複合体は、アルミニウム合金部品と樹脂組成物部品の線膨張率差の調整、及び樹脂組成物部品の機械的強度を向上することを目的として、樹脂分合計100質量部に対し、更に充填剤1?200質量部、より好ましくは10?150質量部を含んでなる樹脂組成物部品であることが好ましい。
【0072】
この充填剤としては繊維状充填剤、粒状充填剤、板状充填剤等の充填剤を挙げることができ、該繊維状充填剤としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等が挙げられ、ガラス繊維の具体的な例示としては、平均繊維径が6?14μmのチョップドストランド等が挙げられる。また、該板状、粒状充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、マイカ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物等が挙げられる。
・・・
【0074】
フィラーの種類とその含有率を選べば樹脂の線膨張率はアルミニウム合金等に近い値にでき、例えば、ガラス繊維40?50%をナイロン66に含ませると線膨張率は2?3×10^(-5)℃^(-1)に下がる。」

1f)「【0079】
以下、本発明の実施例を実験例に代えて詳記する。実施例で使用した共重合ポリアミド(ブロックポリマー)の製造法と粘度数の測定方法は以下のとおりである。
〔参考例1 共重合ポリアミド(ブロックポリマー)の製造方法〕
それぞれの共重合ポリアミドの原料となるジアミンと酸の等モル塩などの原料をそれぞれの質量比で反応器に投入し、投入した樹脂分全量と同量の純水を加え、重合缶内をN_(2)で置換した後、攪拌しながら加熱を開始し、缶内圧力を最大20kg/cm^(2)に調整しながら最終到達温度を270℃とし反応させた。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られたペレットは95℃熱水中で20時間処理し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のペレットは80℃で50時間以上乾燥した。
〔参考例2 粘度数の測定方法〕
ISO307標準方法に従って96%硫酸での粘度数測定を行った。
【0080】
[実施例1]
市販の1.6mm厚のA5052アルミニウム合金板を購入した。18mm×45mmの長方形片多数に切断した。このアルミ合金片の端部に直径2mmφの穴をプレス機で開けた。塩ビ樹脂カバーの銅線を用意した。合金片10個の穴に銅線を通しつつ途中を曲げ、合金片同士がべったりとは接触せぬようにしつつ10個をぶら下げられるようにした。アルミ用脱脂材「NE-6(日本国東京都、メルテックス株式会社製)」15%を含む槽を用意し液温を75℃とした。この脱脂材水溶液に5分浸漬し、水洗した。続いて別の槽に1%濃度の塩酸水溶液を用意し液温を40℃とした。ここへ先ほどのアルミニウム合金片を1分間浸漬し水洗した。
【0081】
続いて別の槽に1%苛性ソーダ水溶液を用意し、液温を40℃とした。ここへ先ほどの合金片を1分間浸漬し水洗した。続いて別の槽に1%塩酸水溶液を用意し、液温を40℃とした。ここへ先ほどの合金片を1分間浸漬し推薦した。続いて3.5%量の一水和ヒドラジン水溶液を60℃とした中に先ほどの合金片を1分間浸漬し、水洗し60℃×20分間温風乾燥機で乾燥した。アルミニウム合金片を銅線から外し、アルミ箔で包み、これをポリエチ袋に入れて封じた。翌日、電子顕微鏡「S-4800(日本国東京都、株式会社日立製作所製)」で、10万倍率で観察したところ20?40nm径、数平均内径で25nmの凹部で表面全面が覆われていることを確認した。
【0082】
一方、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成るブロックポリマーを参考例1の方法で合成した。得られた合成樹脂の参考例2記載の方法で測定した粘度数は85ml/gであり、溶融粘度は、フローテスター「CFT-500(日本国京都府、株式会社島津製作所製)にての温度270℃、荷重98.1N(10kgf)の条件下にて380ポイズであった。二軸押出機「TEM-35B(東芝機械株式会社製)」にて、ガラス繊維「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」をサイドフィーダーから添加量が50質量%となるように供給しながら、シリンダー温度280℃で溶融混練してペレット化したポリアミド系樹脂組成物を得た。
【0083】
アルミニウム合金片を保管して2日後、合金片を取り出し、油分等が付着せぬよう手袋で摘まんで射出成形金型にインサートした。射出成形金型の構造図を図1に示したが、図内で1はアルミニウム合金片、2は可動側型板、3は固定側型板、4は樹脂が射出されるキャビティー部、5はピンポイントゲート、6は接合面を示した。射出接合が為されると図2で示す一体化物が得られる。図2で1はアルミニウム合金片(1.6mm×45.0mm×18.0mm)、4は樹脂部(3mm×50mm×10mm)、5はピンポイントゲート、6は接合面(5mm×10mm)である。接合面の面積は0.5cm^(2)であった。金型を閉め、ガラス繊維50%含有の前記ナイロン系樹脂組成物を射出し、図2で示す一体化品を得た。
【0084】
射出温度は260℃であり、金型温度は140℃であった。射出接合した約2時間後に150℃とした熱風乾燥機に入れて1時間置き、放冷した。その2日後に引っ張り試験機で10個のサンプル全てを引っ張り破断試験した。この試験ではせん断破断力が測定できる。その結果、平均したせん断破断力は26.0MPa(265kgf/cm^(2))であった。」

(ii)刊行物2には以下の事項が記載されている。
2a)「【請求項1】
少なくとも、示差走査熱量計で測定した降温結晶化温度(Tc)が210℃以下である結晶性ポリアミド樹脂および/または非晶性ポリアミド樹脂(a-1)を含むポリアミド樹脂(a)30?100重量%および無機充填材(b)70?0重量%を含有してなるポリアミド樹脂組成物ペレット(A)と、
ポリアミド樹脂(a-3)に滑剤(c)を1?30重量%(滑剤ペレット中)含む滑剤ペレット(B)とを、
ポリアミド樹脂組成物ペレット(A)/滑剤ペレット(B)=80?99.5/20?0.5の重量比で含むペレットブレンド物。
【請求項2】
ポリアミド樹脂組成物ペレット(A)中の、無機充填材(b)の含有量が15?60重量%である、請求項1に記載のペレットブレンド物。
・・・
【請求項8】
無機充填材(b)が、ガラス繊維、マイカ、タルクおよびウォラストナイトからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1?7のいずれか1項に記載のペレットブレンド物。」

2b)「【0014】
(b)無機充填材
本発明における無機充填材(b)としては、周知の無機充填材を使用することができ、形状は特に制限されず、繊維状、板状、針状、球状、粉末等いずれの形状であってもよい。無機充填材の種類としては、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ、ガラスフレ-ク、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、セピオライト、ゾノライト、ホウ酸アルミニウム、ガラスビ-ズ、バル-ン、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、クレ-、カーボンブラック、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウムなどが挙げられ、単独または二種以上の混合物として用いることができる。無機充填材としては、機械的強度、剛性、表面外観のバランスに優れ、入手もしやすい点から、好ましくはガラス繊維、マイカ、タルク、ウォラストナイトである。
【0015】
ガラス繊維は、一般に樹脂強化用に使用されるものならば特に限定はなく、例えば、長繊維タイプ(ロービング)や短繊維タイプ(チョップドストランド)等から選択して用いることができ、その平均繊維径は6?15μmが一般的である。また、平均繊維長は、特に制限されないが、0.1?20mmが好ましく、1?10mmがより好ましい。マイカ、タルク、ウォラストナイトとしては、粒子径に制限はなく任意のものが使用できるが、例えば、粒子径が1?80μmのものが好ましく、5?50μmのものがより好ましい。このような無機充填材を使用することにより、無機充填材による補強効果がより効果的に発現され、表面意匠性、寸法安定性に優れた成形品を得ることができる。」

2c)「【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0028】
実施例および比較例において用いた原料は次のとおりである。
(1)ポリアミド樹脂1:ポリ(メタキシリレンアジパミド)(以下、「ポリアミドMXD6」と記す)、三菱ガス化学(株)製、相対粘度(98%硫酸を溶媒とし温度25℃で測定)2.14、降温結晶化温度205℃
(2)ポリアミド樹脂2:ポリアミド66、東レ社製、商品名アミランCM3001-N、相対粘度2.95(前記(1)と同様の方法で測定した。)、降温結晶化温度225℃
(3)ポリアミド樹脂3:ポリアミド6、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製、商品名ノバミッド(登録商標)1007J、相対粘度2.20(前記(1)と同様の方法で測定した。)、降温結晶化温度180℃
(4)ポリアミド樹脂4:ポリアミド6I/6T共重合体、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名ノバミッド(登録商標)X21、相対粘度2.80(前記(1)と同様の方法で測定した。)
(5)ポリアミド樹脂5:ポリアミド66/6I共重合体、相対粘度2.30(前記(1)と同様の方法で測定した。)、降温結晶化温度198℃
[ポリアミド樹脂5の製造方法]
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩2.0kgとイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩0.5kgおよび純水2.5kgを5リットルのオートクレープに仕込み、窒素置換をしながら良く攪拌した。次に攪拌しながら温度を室温付近から220℃で約1時間昇温した。その後、オートクレープの内圧が18kg/cm^(2)-Gになるように、水を反応系外に除去しながら約2時間を要して温度を260℃に昇温した。その後加熱をやめ、オートクレープを密閉し、約8時間を要して室温付近まで冷却し、ポリアミド66/6I(組成重量比:78.5/21.5)ポリマーを約2kg得た。得られたポリマーを粉砕し、10リットルのエバポレーターを用い、窒素雰囲気下200℃で10時間固相重合にて分子量を上げ、相対粘度2.30のポリマーを得た。
(6)ガラス繊維:チョップドストランド、旭ファイバ-グラス(株)製、商品名CS03-JAFT2、平均繊維長3mm、平均繊維径10μm
(7)マイカ:スゾライトマイカ、クラレトレーディング社製、商品名325HK、重量平均粒子径20μm
(8)タルク1:林化成社製、商品名ミクロンホワイト5000A、重量平均粒子径4.7μm
(9)タルク2:富士タルク社製、商品名TM-2、重量平均粒子径14.3μm
(10)ウォラストナイト:ナイコ社製、商品名ナイグロス8、重量平均粒子径8μm
(11)カーボンブラック1:三菱化学社製、#45、重量平均粒子径24μm
(12)カーボンブラック2:三菱化学社製、#960、重量平均粒子径16μm
(13)滑剤1:ステアリン酸バリウム、堺化学社製
(14)滑剤2:モンタン酸エステル、クラリアント社製、商品名リコワックスE
(15)滑剤3:モンタン酸ナトリウム、クラリアント社製、商品名リコモントNAV101
(16)滑剤4:カルボン酸アミド系ワックス、共同油脂社製、商品名ライトアマイドWH255
(17)滑剤5:ステアリルステアレート、理研ビタミン社製、商品名SL-900A
(18)滑剤6:ケトンワックス、コグニスジャパン社製、商品名ロキシオールEP2036-18
(19)滑剤7:ポリエチレンワックス、三井化学社製、商品名ハイワックス405MP
(20)滑剤ペレット1:ポリアミド樹脂1/ポリアミド樹脂2/タルク1/滑剤1=60/10/20/10の配合量(重量比)にて拝量し、タンブラ-で20分混合後、ベント式押出機(東芝機械社製、TEM37BS)を用いて270℃で溶融混練した後、ひも状に押出し、水槽で冷却後、切断、乾燥して楕円柱状、長さ3?3.5mmのペレットを製造した。
(21)滑剤ペレット2:ポリアミド樹脂1/ポリアミド樹脂2/タルク1/ガラス繊維/滑剤1=40/10/20/20/10の配合量(重量比)にて拝量し、ガラス繊維以外の各成分をタンブラーで20分混合後、ポッパへ一括投入しガラス繊維はサイドフィード方式で供給して、ベント式押出機(東芝機械社製、TEM37BS)を用いて270℃で溶融混練した後、ひも状に押出し、水槽で冷却後切断、乾燥して、楕円柱状、長さ3?3.5mmのペレットを製造した。
(22)滑剤ペレット3:ポリアミド樹脂1/ポリアミド樹脂2/タルク1/ガラス繊維/滑剤2/滑剤3=50/5/10/30/2.5/2.5の配合量(重量比)にて、前記(21)滑剤ペレット2と同様の方法でペレットを製造した。
(23)滑剤ペレット4:ポリアミド樹脂1/ポリアミド樹脂2/タルク1/ガラス繊維/滑剤6=50/5/10/30/5の配合量(重量比)にて、前記(21)滑剤ペレット2と同様の方法でペレットを製造した。
(24)滑剤ペレット5:ポリアミド樹脂1/ポリアミド樹脂2/タルク1/ガラス繊維/滑剤7=50/5/10/30/5の配合量(重量比)にて、前記(21)滑剤ペレット2と同様の方法でペレットを製造した。
【0029】
実施例および比較例において、曲げ特性、表面意匠性、ハイサイクル性試験は以下の様にして行った。
(25)曲げ特性
射出成形機(ファナック社製、α100iA)を用い、射出一次圧700kgf/cm^(2)、射出速度50mm/s、保圧500kgf/cm^(2)、射出時間1秒、成形温度270℃、金型温度は組成物のガラス転移温度に応じて表1、表2に記載の温度に設定し、試験片を作製した。ISO-178規格に準じて、曲げ強度および曲げ弾性率を評価した。
【0030】
(26)表面意匠性
射出成形機(ファナック社製、α100iA)を用い、射出一次圧800kgf/cm^(2)、射出速度50mm/s、保圧500kgf/cm^(2)、射出時間2秒、成形温度270℃、金型温度は組成物のガラス転移温度に応じて表1、表2に記載の温度に設定し、冷却時間15秒とし、180mm×120mm×2mmtの平板を成形した。成形後の表面意匠性を肉眼で観察した。目視による無機充填材の浮き具合や成形品表面のうねりの状態、および離型不具合によるムラを、
◎:無機充填材の浮きや成形品表面のうねり、離型ムラが全面に渡り認められない
○:無機充填材の浮きや成形品表面のうねり、離型ムラが全面に渡り極僅かに認められるが実成形品として問題ないレベルである
×:無機充填材の浮きや成形品表面のうねり、または離型ムラが全面に渡り認められる
以上の3種類で評価した。
【0031】
(27)ハイサイクル性
射出成形機(ファナック社製、α100iA)を用い、射出一次圧600kgf/cm^(2)、射出速度50mm/s、保圧450kgf/cm^(2)、射出時間0.5秒、成形温度270℃、金型温度は組成物のガラス転移温度に応じて表1、表2に記載の温度に設定し、長さ50mm、厚み12.8mmの圧縮試験用ASTM試験片を成形した。
ハイサイクル性の評価は、ある冷却時間で連続5回成形を行い、冷却時間を1秒づつ短縮していった時の連続成形が可能な最短の冷却時間(必要冷却時間)を測定した。また、その必要冷却時間での連続成形時の離型性について、下記の基準にて判断した。
◎:試験片に突き出しピンの跡が全く認められず、離型性が良好
○:試験片に突き出しピンの跡がわずかに残るが、離型に支障がない
△:試験片に突き出しピンの跡が明確に残ったり、固定側の金型に試験片が残りやすくなる
×:突き出しピンにより試験片が突き破られるか大きく変形したり、試験片が離型せず、可動側または固定側の金型に試験片が残る
【0032】
[実施例1?13]
ポリアミド樹脂1?5、ガラス繊維以外の無機充填材を表1、表2に示す量を秤量し、タンブラ-で混合後ホッパーに一括投入し、ガラス繊維はサイドフィード方式で供給して、ベント式押出機(東芝機械社製、TEM37BS)を用いて280℃で溶融混練した後、ひも状に押出し、水槽で冷却後、切断し、楕円柱状、長さ3?3.5mmのポリアミド樹脂組成物ペレット(A)を得た。
その後の工程にて滑剤ペレット1?3のいずれかを、先に得られたペレット(A)に別フィーダーでポストブレンドし、乾燥後、ペレットブレンド物を得た。得られたペレットブレンド物を用い、上記記載の方法で試験片を作製し、評価を行った。評価結果を表1、表2に示す。
いずれのペレットブレンド物の場合も、高い強度を維持しながら無機充填材の表面浮きや離型時のムラが全くないかほとんどなく、表面意匠性に優れていた。また、必要冷却時間も短く、離型性も良好で、ハイサイクル性にも優れていた。
【0033】
[比較例1?8]
ポリアミド樹脂1?5、ガラス繊維以外の無機充填材、滑剤1、4または5を秤量し、タンブラ-で混合後ホッパーに一括投入し、ガラス繊維はサイドフィード方式で供給して、ベント式押出機(東芝機械社製、TEM37BS)を用いて280℃で溶融混練した後、ひも状に押出し、水槽で冷却後、切断、乾燥して楕円柱状、長さ3?3.5mmのペレットを得た。得られたペレットを用い上記記載の方法で試験片を作成し評価を行った。評価結果を表1、表2に示す。
滑剤ペレットをポストブレンドした実施例と比較して、必要冷却時間が長く成形サイクルが長くなる傾向にあり、離型性も劣るものであった。
特に比較例5?8では表面の固化が遅いために離型性が大きく低下し、工業製品としては使用に耐えなかった。また離型性が不十分であるために表面の転写ムラが生じ、意匠性に問題が認められる場合があった。
さらに、実施例1と比較例1、実施例6と比較例5を比べても明らかなとおり、滑剤の含有量が同じでも、本発明のペレットブレンド物を採用することによりハイサイクル性が著しく向上することが確認された。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】



(iii)参考資料には以下の事項が記載されている。
「1.実験の目的
特開2007-182071号公報の実施例1に記載の合成樹脂(共重合ポリアミド樹脂)が、特許第5850726号の請求項1に記載の(A)ポリアミドであるか否かを確認する。
・・・
3.実験担当者
下記の者が実験を担当した。
東レ株式会社 樹脂技術部 服部恵一、滝口育美

4.実験実施年月日
平成26年11月1日?12月16日

5.実験方法
特開2007-182071号公報の明細書(以下、「同明細書」ということがある)の記載に従い、同明細書の実施例1に記載の共重合ポリアミド樹脂を同明細書の参考例1に記載の方法で合成した。また、得られた共重合ポリアミド樹脂の粘度数を同明細書の参考例2に記載の方法で測定し、また、溶融粘度をフローテスターで測定した。
5.1 共重合ポリアミド樹脂(ブロックポリマー)の合成
同明細書の【0082】(実施例1)に記載のとおり、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成るブロックポリマーを以下に記す参考例1の方法で合成した。
参考例1:同明細書の【0079】(〔参考例1 共重合ポリアミド(ブロックポリマー)の製造方法〕)に記載のとおり、それぞれの共重合ポリアミドの原料となるジアミンと酸の等モル塩などの原料をそれぞれの質量比で反応器に投入し、投入した樹脂分全量と同量の純水を加え、重合缶内をN_(2)で置換した後、攪拌しながら加熱を開始し、缶内圧力を最大20kg/cm^(2)に調整しながら最終到達温度を270℃とし反応させた。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られたペレットは95℃熱水中で20時間処理し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のペレットは80℃で50時間以上乾燥した。

5.2 評価
(1)5.1で得られた共重合ポリアミド樹脂を同明細書の参考例2記載の方法で粘度数を測定した。結果を表1に示す。
〔参考例2 粘度数の測定方法〕
ISO307標準方法に従って96%硫酸での粘度数測定を行った。

(2)また、5.1で得られた共重合ポリアミド樹脂をフローテスター「CFT-500(日本国京都府、株式会社島津製作所製)にて、温度270℃、荷重98.1N(10kgf)の条件下にて、溶融粘度を測定した。結果を表1に示す。


(3)5.1で得られた共重合ポリアミド樹脂の粘度数および溶融粘度は、同明細書の実施例1に記載の合成樹脂(共重合ポリアミド樹脂)の粘度数および溶融粘度(【0082】)に同じであった。
したがって、5.1で得られた共重合ポリアミド樹脂は、同明細書の実施例1に記載の合成樹脂(共重合ポリアミド樹脂)と同一の樹脂であった。

5.3 全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)の定量、及びパラメータ(Y)の算出
5.1で得られた共重合ポリアミド樹脂(同明細書の実施例1に記載の合成樹脂(共重合ポリアミド樹脂))が、特許第5850726号の請求項1に記載の(A)ポリアミドであるか否かを確認するために、特許第5850726号公報の記載に従い、全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)の定量、及びパラメータ(Y)の算出を行った。
すなわち、特許第5850726号公報の【0072】の記載に従い、以下のとおりに測定・算出した。
5.1で得られた共重合ポリアミドを用いて、^(1)H-NMRにより求めた。
溶媒として重硫酸を用いた。
装置は日本電子製、「ECA400型」を用いた。
繰返時間は12秒、積算回数は64回で測定した。
各成分の特性シグナルの積分値より、イソフタル酸成分量、イソフタル酸末端基量、その他のカルボキシ末端基(例えばアジピン酸末端基)量を算出し、これらの値から、全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、及び下記式(1)のパラメータ(Y)をさらに算出した。結果を表2に示す。
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))


6.まとめ
特許5850726号公報に記載の方法により、5.1で得られた共重合ポリアミド樹脂(特開2007-182071号公報の実施例1に記載の共重合ポリアミド樹脂)の(x)、(Y)を算出した結果、(x)は0.18、(Y)は-0.2となり、特許5850726号公報の請求項1に記載の(A)ポリアミドに該当するものであることがわかった。」(2?5頁)

(イ)刊行物1に記載された発明
上記摘示1a、1b、1d?1f、特に1fの実施例1の記載からみて、刊行物1には、
「アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成るブロックポリマーである合成樹脂に、二軸押出機「TEM-35B(東芝機械株式会社製)」にて、ガラス繊維「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」をサイドフィーダーから添加量が50質量%となるように供給しながら、シリンダー温度280℃で溶融混練してペレット化したポリアミド系樹脂組成物」の発明(以下「刊行物1発明」ともいう。)が記載されている。

イ 本件発明1について
刊行物1発明の「アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成るブロックポリマーである合成樹脂」、「ガラス繊維「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」及び「ポリアミド系樹脂組成物」は本件発明1の「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド」、「(B):ガラス繊維」及び「ポリアミド樹脂組成物」に相当する。また、刊行物1発明において、ガラス繊維は、添加量が50質量%となるように供給されているから、本件発明1のポリアミド及びガラス繊維の配合量である、100質量部及び1?200重量部の範囲と重複する。また、刊行物1発明のポリアミド組成物は滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものではない。
したがって、本件発明1と刊行物1発明との一致点・相違点は次のとおりである。
一致点
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド100質量部と(B):ガラス繊維1?200質量部とを、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。」である点

相違点1:本件発明1がポリアミドについて「当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド(但し、(x)=0.18かつ(Y)=-0.2であるものを除く)(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」と特定しているのに対し、刊行物1発明ではそのような特定がない点

相違点2:本件発明1がポリアミド樹脂組成物が「(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部」を含有することを特定しているのに対し、刊行物1発明では、そのような特定がない点

<相違点1について>
上記参考資料である実験報告書に記載の実験方法は、刊行物1に記載の参考例1、実施例1に記載された方法と同様の方法であり、その粘度数、溶融粘度の評価方法は刊行物1に記載の方法であって、それらの値が刊行物1に記載のものと同一であるから、実験報告書に記載の実験方法により得られた共重合ポリアミド樹脂は刊行物1発明の合成樹脂と同じものであるといえる。そして、同実験報告書には、当該共重合ポリアミド樹脂について、本件発明1で特定される(x)、(Y)を本件特許明細書に記載の方法により算出した値が0.18、-0.2であることが記載されているから、刊行物1発明の合成樹脂の(x)、(Y)は、0.18、-0.2であるといえ、それらの値は本件発明1で特定される範囲内の値である。
そして、当該(x)、(Y)の値を有するポリアミドは本件発明1から除かれている。
しかし、刊行物1には、特に好ましい共重合ナイロンは、ヘキサメチレンアジパミド成分(ナイロン66成分)、ヘキサメチレンイソフタラミド成分(ナイロン6I成分)、およびカプロアミド成分(ナイロン6成分)からなる3元共重合体(ナイロン66/6I/6樹脂)であること、その共重合比率は、配合原料の比率であって、好ましい各繰返し構造単位の共重合割合は、ナイロン66成分が65?90質量%、ナイロン6I成分が5?30質量%、ナイロン6成分が1?14質量%さらに好ましくは2?12質量%であり、ナイロン6I成分/ナイロン6成分の共重合比1.0以上を同時に満たすことが好ましいこと、これらの共重合比は共重合体を製造する際の原料の割合を調整することにより、達成されること、特定の共重合体比率の共重合ナイロンを使用することで、機械特性や耐熱特性を損なわずにAlとの接着性に適した固化特性を得ることができることが記載されており(摘示1d)、刊行物1発明の合成樹脂の共重合割合は、ナイロン66成分、ナイロン6I、ナイロン6がそれぞれ77、17、6質量%であって、上記好ましい各繰返し構造単位の共重合割合に包含されるところ、その割合を機械特性、耐熱特性を考慮して、上記好ましい各繰返し構造単位の共重合割合の間で変更することは当業者が容易に行うことであって、例えば、刊行物1発明のナイロン66成分又はナイロン6I成分の共重合割合を僅かに変更した場合には、上記(x)及び(Y)の一方又は両方が僅かに変化することは明らかであり、それらの値が、0.18、-0.2近傍であって、0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、-0.3≦(Y)≦0.8を満たすことも明らかである。
してみると、相違点1に係る技術的事項を採用することは当業者が容易に行うことである。

<相違点2について>
刊行物1には、アルミニウム合金部品と樹脂組成物部品の線膨張率差の調整、及び樹脂組成物部品の機械的強度を向上することを目的として、樹脂分合計100質量部に対し、更に充填剤1?200質量部を配合すること、充填剤としては繊維状充填剤、粒状充填剤、板状充填剤等の充填剤を挙げることができ、該繊維状充填剤としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等が挙げられ、ガラス繊維の具体的な例示としては、平均繊維径が6?14μmのチョップドストランド等が挙げられること、また、該板状、粒状充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、マイカ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物等が挙げられることが記載されており(摘示1b、1e)、炭酸カルシウム、マイカ等は、本件発明1の「(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材」に相当する。したがって、炭酸カルシウム、マイカ等のガラス繊維以外の無機充填剤を、ガラス繊維と併せて樹脂分合計100質量部に対し、101?200質量部までの範囲で配合すること(ガラス繊維以外の無機充填剤として、1?100質量部)配合することは当業者が容易に行うことである(なお、ガラス繊維とガラス繊維以外の無機充填材の配合量を樹脂分合計100重量部に対して1?200重量部の範囲で適宜割り振ることも当業者が容易に行うことである。)。

<本件発明1の効果について>
本件発明1によれば、過酷な成形条件下において成形した場合においても、表面外観が安定しており、かつ耐衝撃特性にも優れ、さらには、成形条件変更による成形不良(ソリ発生)が少ないポリアミド樹脂組成物を提供することができるという効果を奏する(段落【0014】)ものであるが、刊行物1には、機械特性、耐熱特性を考慮すること、機械的強度を向上することが記載されており、機械特性、耐熱特性は表面外観、耐衝撃特性、成形不良と関連するものであるから、また、ナイロン66成分又はナイロン6I成分の共重合割合を僅かに変更した場合に、上記の各特性が顕著に異なるものとなるとは考え難いから、本件発明1が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。

<まとめ>
したがって、本件発明1は刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

<特許権者の主張について>
特許権者は平成29年5月2日付けの意見書において、本件特許発明は、成形不良(ソリの発生)の問題を解決するものであるのに対して、刊行物1記載の発明は樹脂部分とアルミ合金部分の接合力を高めるというものであって、両者の技術的思想は顕著に異なっていること、刊行物1等から当業者が容易に発明をすることができたものと重なるおそれがある部分を除くための訂正を請求したことを指摘して、本件発明1は進歩性を有する旨主張する。しかし、本件発明1及び刊行物1に記載された発明はいずれも車両用、電子用等の様々な分野に用いられるポリアミド樹脂に関するものであって、解決しようとする課題も完全には一致しないものの、機械特性、耐熱特性等の特性を考慮したものである点では一致し、また、(x)及び(Y)について、刊行物1に記載された発明と一致する部分を除いても、当該一致する部分以外に、当業者が容易に発明をすることができる部分が存在することは上述のことから明らかである。
したがって、上記特許権者の主張を採用することはできない。

ウ 本件発明3について
本件発明1と同様に本件発明3と刊行物1発明とを対比すると、その一致点・相違点は次のとおりである。

一致点
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド100質量部と(B):ガラス繊維1?200質量部とを、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。」である点

相違点3:ポリアミドについて、本件発明3が「A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド」と特定しているのに対し、刊行物1発明では、「アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成るブロックポリマーである合成樹脂」としている点、すなわち、ポリアミドの構成単位として本件発明3の構成単位に加え、ナイロン6成分が存在する点

相違点4:本件発明3がポリアミドについて「当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」と特定しているのに対し、刊行物1発明ではそのような特定がない点

相違点5:本件発明3がポリアミド樹脂組成物が「(C):ガラス繊維以外の、ウォラストナイト、カオリン、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、クレーからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填材1?200質量部」を含有することを特定しているのに対し、刊行物1発明では、そのような特定がない点

上記相違点について、相違点3はポリアミドの組成に関するものであるところ、相違点4もポリアミドの組成に関連するものであるから、相違点3及び4を併せて検討する。

<相違点3、4について>
上記イで述べたとおり、刊行物1発明の合成樹脂の(x)、(Y)は、0.18、-0.2であるといえ、それらの値は本件発明3で特定される範囲内の値である。
しかし、上記(x)、(Y)の値は、ポリアミドの構成単位によって変動することはその定義から明らかである。
したがって、刊行物1には、ポリアミド樹脂の、具体的な例として、刊行物1発明のポリアミドに相当するポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6)と共に、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)が例示されている(摘示1d)から、当業者が、刊行物1発明のポリアミドに代えて、ナイロン66/6Iを採用することに格別の創意を要したとはいえないといえたとしても、その際に上記相違点4に係る(x)、(Y)の値がどのような値になるかは不明であり、それらが本件発明3の範囲内にあるとはいえない。
また、刊行物1及び2のいずれにも、ナイロン66/6Iであるポリアミドについて、相違点4に係る「当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である」及び「(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」とすることは記載も示唆もない。
してみると、相違点3及び4に係る技術的事項を併せて採用することは当業者が容易になし得た事項であるということはできない。

したがって、相違点5について検討するまでもなく、本件発明3は刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 本件発明4について
本件発明1と同様に本件発明4と刊行物1発明とを対比すると、その一致点・相違点は次のとおりである。

一致点
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド100質量部と(B):ガラス繊維1?200質量部とを、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。」である点

相違点6:ポリアミドについて、本件発明4が「A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド」と特定しているのに対し、刊行物1発明では、「アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成るブロックポリマーである合成樹脂」としている点、すなわち、ポリアミドの構成単位として本件発明3の構成単位に加え、ナイロン6成分が存在する点

相違点7:本件発明4がポリアミドについて「当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」と特定しているのに対し、刊行物1発明ではそのような特定がない点

相違点8:本件発明4がポリアミド樹脂組成物が「(C):平均粒径が0.01?38μmである前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部」を含有することを特定しているのに対し、刊行物1発明では、そのような特定がない点

ここで、相違点6及び7は、本件発明3について上記ウで示した相違点3及び4と同じであるところ、相違点3及び4に係る技術的事項を併せて採用することは当業者が容易になし得た事項であるということはできないから、相違点6及び7に係る技術的事項を併せて採用することも当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
したがって、相違点8について検討するまでもなく、本件発明4は刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

オ 本件発明5について
本件発明1と同様に本件発明5と刊行物1発明とを対比すると、その一致点・相違点は次のとおりである。

一致点
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド100質量部と(B):ガラス繊維1?200質量部とを、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。」に関するものである点

相違点10:本件発明5がポリアミドについて「当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」と特定しているのに対し、刊行物1発明ではそのような特定がない点

相違点11:本件発明5がポリアミド樹脂組成物が「(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部」を含有することを特定しているのに対し、刊行物1発明では、そのような特定がない点

相違点12:本件発明5が「ポリアミド樹脂組成物を含む成形品(但し、金型内複合成形品を除く)」と特定しているのに対し、刊行物1発明は「ペレット化したポリアミド系樹脂組成物」である点

<相違点10について>
相違点10は「(但し、(x)=0.18かつ(Y)=-0.2であるものを除く)」との事項が相違する事項となっていない以外は、上記相違点1と同様の相違点であるところ、上記イで述べたとおり、刊行物1発明の合成樹脂の(x)、(Y)は、0.18、-0.2であるといえ、それらの値は本件発明10で特定される範囲内の値である。したがって、この点は実質的な相違点ではない。

<相違点11について>
相違点11は上記相違点2と同様の相違点であるところ、相違点2に係る技術的事項を採用することは当業者が容易になし得た事項であることは、上記イで述べたとおりであるから、同様の理由により相違点11に係る技術的事項を採用することも当業者が容易になし得た事項である。

<相違点12について>
刊行物1発明はペレット化したポリアミド系樹脂組成物に関するものであるところ、当該ペレット化したポリアミド系樹脂組成物(ペレット)は成形品であって、金型内複合成形品ではないから、この点は実質的な相違点ではない。
仮にペレット化したポリアミド系樹脂組成物が成形品といえないとしても、刊行物1には、当該樹脂組成物を射出成形金型に射出し、アルミニウム合金片との一体化品を得ること(摘示1f)、所定のポリアミド樹脂が主な樹脂分組成である熱可塑性合成樹脂組成物を射出して樹脂組成物部品として成形すると共にこれを所定のアルミニウム合金部品の表面に接合する工程とからなる金属樹脂複合体(摘示1a、1c、1f)が記載されており、刊行物1発明のポリアミド系樹脂組成物は刊行物1においては最終的にアルミニウム合金部品と接合される樹脂組成物部品として成形されるといえるが、当該接合前は当該樹脂組成物部品はそれ自体が射出により成形される部品であるから、成形品であって、金型内複合成形品ではない。したがって、刊行物1発明のペレット化したポリアミド系樹脂組成物を用いて金型内複合成形品ではない成形品とすることは当業者が容易に行うことである。
また、仮に当該樹脂組成物部品は成形されると共にアルミニウム合金部品と接合されるから、金型内複合成形品ではない成形品であるといえないとしても、刊行物1に背景技術として金属と合成樹脂を接着剤で一体化する技術は広い産業、技術分野から求められていることが記載されている(段落【0002】)ことからみて、合成樹脂自体を成形品とすることは周知であるといえるから、上記樹脂組成物部品自体を金型内複合成形品ではない成形品とすることは当業者が容易に行うことである。
したがって、相違点12は実質的な相違点ではないか、当業者が容易になし得た事項である。

<本件発明5の効果について>
上記イで述べたのと同様の理由により、本件発明5が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。

<まとめ>
したがって、本件発明5は刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

カ 本件発明6について
本件発明6は本件発明5について射出成形品であることが特定されるものであるところ、射出により成形することは刊行物1に記載されているから(摘示1c、1f)、本件発明5に関して、樹脂組成物部品について上記オで述べたのと同様の理由により、本件発明6は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

キ まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、5及び6は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、請求項1、5、6に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
また、本件発明3、4は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないということはできない。
よって、請求項3、4に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである、ということはできない。

(2)取消理由2(特許法第36条第4項第1号)について
ア 特許権者が提出した参考文献及びその記載事項
平成29年5月2日付けで特許権者が提出した意見書に添付された参考文献1?7は次のとおりである。
参考文献1:特開2010-150445号公報
参考文献2:特開2011-111576号公報
参考文献3:特開2006-124669号公報
参考文献4:特開2002-194210号公報
参考文献5:特開平11-92657号公報
参考文献6:特開平3-76755号公報
参考文献7:特開2011-219635号公報

また、各文献の記載事項は次のとおりである。

参考文献1:
「【0041】
あらかじめ塩調製する場合には、ペンタメチレンジアミンとテレフタル酸の塩、炭素数7以上のジアミンとテレフタル酸の塩の混合比を変化させることによって、塩調製しない場合には、各原料の仕込み比を変化させることによってポリアミド樹脂の共重合組成比を変化させることができる。」

参考文献2:
「【0042】
・・・原料モノマーの仕込み比率を調整することにより、合成される共重合ポリアミド中の各構成単位の割合を制御することができる。」

参考文献3:
「【0035】
次に、本発明で用いられるポリアミド系樹脂(B)について説明する。
・・・本発明では、カルボキシル基やアミノ基で末端が調整されたポリアミド系樹脂が好適に用いられる。
【0036】
かかる末端が調整されたポリアミド系樹脂(B)としては、カプロアミドを主たる構成単位とし、末端調整剤を使用して末端カルボキシル基含有量[X]および末端アミノ基含有量[Y]が、{(100×[Y])/([X]+[Y])}≧5(ただし、[X],[Y]の単位はμeq/g・ポリマー)を満足するように調整したポリアミド系樹脂(B)が用いられる。
【0037】
上記における末端調節剤としては、炭素数2?23のカルボン酸、炭素数2?20のジアミンが用いられる。ここで炭素数2?23のモノカルボン酸としては、・・・
【0038】
・・・
【0039】
また、上記のモノカルボン酸のほかに、脂肪族ジカルボン酸(・・・アジピン酸・・・などのジカルボン酸類を使用したり併用したりすることもできる。」

参考文献4:
「【0022】前記カルボキシル末端基とアミノ末端基の比率や、アミノ末端基濃度、カルボキシル末端基濃度は、重合時に添加する末端調整剤(例えば、モノアミン、ジアミン、一塩基酸、二塩基酸など)の量を調節したり、ジアミンとジカルボン酸との重縮合によりポリアミドを製造する場合には、該ジアミンとジカルボン酸のモル比を変化させることによりコントロールできる。例えば、末端調整剤としてモノアミンを使用するとカルボキシル末端基が減少し、ジアミンを用いるとカルボキシル末端基が減少するとともにアミノ末端基が増加する。また、末端調整剤として一塩基酸を用いるとアミノ末端基が減少し、二塩基酸を用いるとアミノ末端基が減少するとともにカルボキシル末端基が増大する。」

参考文献5:
「【0009】ポリアミド樹脂の末端調整は、慣用の方法、例えば、末端調整剤の存在下でモノマーを重合させたり、重合して得られたポリアミド樹脂と末端調整剤とを加熱して反応させることにより行うことができる。ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基及びアミノ基の濃度は、末端調整剤の種類及び使用量を選択することにより調整できる。なお、ポリアミド樹脂の末端調整は、分子量分布の調整と併せて行うことができる点で、モノマーの重合時に行うのが好ましい。前記末端調整剤として、例えば、カルボン酸、アミン、ラクトンなどを使用できる。ポリアミド樹脂の末端アミノ基は、例えばカルボン酸又はラクトンにより封止でき、末端カルボキシル基は、例えばアミンにより封止できる。
【0010】上記カルボン酸としては、・・・アジピン酸・・・などの飽和脂肪族ジカルボン酸;・・・などが含まれる。」

参考文献6:
「また、ポリアミド樹脂はその末端基がモノカルボン酸化合物および/またはジカルボン酸化合物あるいはモノアミン化合物および/またはジアミン化合物の1種以上を任意の段階でポリアミドに添加することにより末端基濃度が調節されていてもよい。」(3頁右下欄9?15行)



」(8頁第1表)

参考文献7:
「【0019】
ポリアミド樹脂の末端調整は、慣用の方法、例えば、末端調整剤の存在下で、溶融重合、溶液重合や固相重合等の公知の方法で重合、又は共重合する事により製造される。あるいは、重合後、末端調整剤の存在下に、溶融混練することにより製造される。あるいは、重合後、末端調整剤の存在下に、溶融混練することにより製造される。このように、末端調整剤は、重合時の任意の段階、あるいは、重合後、溶融混練時の任意の段階において添加できるが、金属粉体複合成形品成形時のポリアミド樹脂の流動性、成形性を考慮した場合、重合時の段階で添加することが好ましい。
【0020】
ポリアミド樹脂の末端調整に際しては、モノアミン、ジアミン、モノカルボン酸、ジカルボン酸のうちの1種あるいは2種以上を適宜組合せて添加することができる。例えば、・・・アジピン酸・・・が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これら末端調節剤の使用量は末端調節剤の反応性や重合条件により異なるが、最終的に得ようとするポリアミド樹脂の相対粘度と末端カルボキシル基濃度、末端アミノ基濃度が前記の範囲になるように適宜決められる。」

イ 判断
(ア)理由2の(1)について
本件発明1は、「当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミド(但し、(x)=0.18かつ(Y)=-0.2であるものを除く)」及び
「(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」と特定するものである。
この(x)及び(Y)の制御について、発明の詳細な説明には、
「【0038】
((A)ポリアミドの製造方法)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドの製造方法としては、上述したようにその他の共重合成分を有するポリアミド共重合体である場合を含めて、前記全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が0.05≦(x)≦0.5であり、上記式(1)におけるブロック化比率の指標である(Y)が-0.3≦(Y)≦0.8、好ましくは0.05≦(Y)≦0.8となるようなポリアミド(又はポリアミド共重合体)が得られればよい。
ポリアミドの製造方法としては、例えば、アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(熱溶融重合法);熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(熱溶融重合・固相重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、析出したプレポリマーをさらにニーダー等の押出機で再び溶融させて重合度を上昇させる方法(プレポリマー・押出重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物、固体塩又は重縮合物を、固体状態を維持したまま重合(固相重合法)させる方法等が挙げられる。
全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)を上記数値範囲内に制御するための方法としては、原料の仕込み量の調整、重合条件の調整が有効である。
上記式(1)におけるブロック化比率の指標となる(Y)を上記数値範囲内に制御するためには、イソフタル酸成分のブロック化を制御することが必要である。具体的には、重合系内で、溶融状態を維持しながら、圧力を適宜調整し、重合温度を好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上としながら、均一混合下において重縮合反応を進め、最終重合内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるような条件下で重合させる熱溶融重合法を用いることにより制御することができる。
【0039】
重合形態としては、特に限定されず、バッチ式、連続式のいずれでもよい。
また、重合装置も特に限定されず、公知の装置、例えば、オートクレーブ型の反応器、タンブラー型反応器、ニーダー等の押出機型反応器等を用いることができる。
【0040】
上述したように、(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)]で表される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8の範囲となるようにするには熱溶融重合法を用いることが好ましく、熱溶融重合法を用いることがより好ましい。
バッチ式の熱溶融重合法の一例について以下に説明する。
重合温度条件については特に限定されないが、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上である。
例えば、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は水溶液を110?200℃の温度下で攪拌し、約60?90%まで水蒸気を徐々に抜いて加熱濃縮する。
その後、内部圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
その後、水及び/又はガス成分を除きながら、圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)に保ち、内部温度が好ましくは240℃以上、より好ましくは245℃以上に達した時点で、水及び/又はガス成分を除きながら圧力を徐々に抜き、最終内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるように、常圧で又は減圧して重縮合を行う熱溶融重合法を用いることができる。
さらには、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は重縮合物を融点以下の温度で熱重縮合させる固相重合法等も用いることができる。これらの方法は必要に応じて組み合わせてもよい。」との記載がある。
すなわち、発明の詳細な説明には、ポリアミドの製造方法として、熱溶融重合法、熱溶融重合法・固相重合法、押出重合法、固相重合法が記載され、(x)を上記数値範囲内に制御するための方法として、原料の仕込み量の調整、重合条件の調整が有効であることが記載され、(Y)を上記数値範囲内に制御するためには、イソフタル酸成分のブロック化を制御することが必要であり、具体的には、重合系内で、溶融状態を維持しながら、圧力を適宜調整し、重合温度を好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上としながら、均一混合下において重縮合反応を進め、最終重合内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるような条件下で重合させる熱溶融重合法を用いることにより制御することができ、さらに、バッチ式の熱溶融重合法の一例について記載されている。
さらに、発明の詳細な説明には、実施例1?14として、(x)及び(Y)が上記範囲内にあるポリアミド樹脂組成物の例、比較例1?8として、(x)及び(Y)が上記範囲内にないポリアミド樹脂組成物の例が記載されている。
ここで、(x)の制御については、(x)がポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率であり、本件発明1のポリアミドは酸としてアジピン酸及びイソフタル酸を、アミンとしてヘキサメチレンジアミンを用いること、原料の仕込み比を変化させることによってポリアミド樹脂の共重合組成比を変化させることができることは周知であること(参考文献1、2)から、原料として用いる全カルボン酸中のイソフタル酸の比率に関連することは当業者が容易に理解できる事項である。実際に実施例1?14においては、(x)の値と原料として用いる全カルボン酸中のイソフタル酸の比率とは完全ではないものの相当程度に一致する。してみれば、重合条件の調整が具体的にどのようなものであるかは必ずしも明らかではないものの、少なくとも原料として用いる全カルボン酸中のイソフタル酸の比率を調整することで(x)の値を制御できることは当業者が理解することができるといえる。
また、(Y)の制御について、(Y)は(EG)と(x)の関数であり、(EG)はイソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量であるところ、実施例1?14において、(EG)の値は、0.45?0.68の間で変化している。そして、ポリアミドの末端基調整をカルボン酸、アミンにより行うことが周知であること(参考文献3?7)、過剰のアジピン酸の添加を行う実施例1?9及び12?14によるポリアミドと該添加を行わない実施例10及び11によるポリアミドとの比較において、前者がより低い(EG)を有することを考慮すれば、イソフタル酸以外の酸であり本件発明1の必須のカルボン酸であるアジピン酸を過剰に添加することによって(EG)の値を制御できることは当業者が理解できるものと解される。
そして、上述のとおり、(Y)は(EG)と(x)の関数であって、(x)及び(EG)の制御方法を当業者が理解できるのであるから、発明の詳細な説明の段落【0038】?【0040】の記載、発明の詳細な説明に記載の実施例、比較例におけるポリアミド製造時の設定条件を参照しつつ、(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である範囲(ただし、本件発明1については、(x)=0.18かつ(Y)=-0.2であるものは除かれている)について当業者が実施することができるものと認められる。
したがって、発明の詳細な説明は、本件発明1について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえない。
本件発明2?6についても同様である。

(イ)理由2の(2)について
理由2の(2)は、本件特許明細書の【0098】に「実施例2?14」と記載され、「評価結果を下記表1及び表2に示す」と記載されているところ、表1には、実施例2が2つ記載され、表1又は表2には実施例14が記載されていない不備があり、また、同【0098】に記載の「製造例2?13」は「製造例2?16」の誤記と解されるというものであるところ、上記本件訂正の訂正事項7、8による訂正により、本件特許明細書の【0098】及び表1について、上記指摘事項に対応する訂正がされており、上記指摘事項に係る不備は存在しない。
したがって、発明の詳細な説明は、本件発明1?6について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?6に係る特許は、上記理由2の(1)及び(2)の点において、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないということはできず、よって、本件特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである、ということはできない。

2 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第1項第3号について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件訂正前の請求項1、3、5及び6に係る発明(それぞれ、本件発明1、3、5、6に対応する。)について、甲第2号証を援用して、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するというものであると主張する(なお、甲第1号証は、上記刊行物1であり、甲第2号証は上記参考資料である。)。
しかし、上記1(1)イ、ウ及びオで述べたとおり、本件発明1、3、5は刊行物1に記載された発明とは相違点を有するものであり、本件発明1、3、5の各発明についての各相違点の全てが実質的な相違点でないとはいえないから、刊行物1に記載された発明であるとはいえず、本件発明6は本件発明5を技術的にさらに特定するものであるから、本件発明6が刊行物1に記載された発明であるとはいえない。
したがって、上記主張を採用することはできない。

(2)特許法第29条第2項について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件訂正前の請求項2に係る発明(本件発明2に対応する。)について、甲第2号証を援用して、甲第1号証又は甲第1及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないという主張をする(なお、甲第1、3号証は、順に、上記刊行物1、2であり、甲第2号証は上記参考資料である。)。
そこで検討する。
上記1(1)イで述べたのと同様に、本件発明2と刊行物1発明を対比すると、両者の一致点・相違点は次のとおりである。

一致点
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド100質量部と(B):ガラス繊維1?200質量部とを、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。」である点

相違点13:本件発明2がポリアミドについて「当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミド(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」と特定しているのに対し、刊行物1発明ではそのような特定がない点

相違点14:本件発明2がポリアミド樹脂組成物が「(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部」を含有することを特定しているのに対し、刊行物1発明では、そのような特定がない点

上記相違点13について検討する。
刊行物1発明の合成樹脂はナイロン66成分が77質量%、6Iナイロン成分が17質量%、ナイロン6成分が6質量%であって、(x)=0.18かつ(Y)=-0.2である。刊行物1には、好ましい各繰返し構造単位の共重合割合は、ナイロン66成分が65?90質量%、ナイロン6I成分が5?30質量%、ナイロン6成分が1?14質量%さらに好ましくは2?12質量%であり、ナイロン6I成分/ナイロン6成分の共重合比1.0以上を同時に満たすことが好ましいことが記載されているものの(摘示1d)、参考資料の記載事項を考慮しても、該範囲において、ポリアミドの(x)及び(Y)の値が相違点13に係る範囲のものであるとする根拠はなく、また、(x)及び(Y)の値を上記相違点13に係る範囲のものとすることについては刊行物1、2のいずれにも記載も示唆もない。
してみると、相違点13に係る技術的事項を採用することは当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、相違点14について検討するまでもなく、本件発明2は刊行物1に記載された発明又は刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできず、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、5、6に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものであり、本件発明2?4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。さらに、他に本件発明2?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリアミド樹脂組成物及び成形品
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、成形加工性、機械物性、耐薬品性に優れていることから、従来から、衣料用、産業資材用、自動車用、電気・電子用又は工業用等の様々な部品材料として広く用いられている。
【0003】
近年、ポリアミド樹脂を用いた成形体は、生産性を向上させるために、成形温度を高くし、金型温度を下げて行うハイサイクル成形条件で成形する場合がある。
また、ポリアミド樹脂は自動車分野で広く採用されているが、このような用途では、使用環境が熱的、力学的に厳しく、特にドアミラー等に代表される自動車外装部品では衝撃特性と、表面外観性との両方を要求される場合が多いのが現状である。
【0004】
一方、高温条件下で成形を行うと、ポリアミド樹脂の分解が発生したり、流動性変化が生じたりすることにより安定して成形体が得られない場合があるという問題がある。
よって、特に、上述したようなハイサイクル成形時の成形品表面外観の安定性、更には耐衝撃特性を向上させた、過酷な成形条件下においても物性変化が少ないポリアミド樹脂が要求されている。
【0005】
このような要求に応えるため、成形体の表面外観及び機械特性を向上させることができる材料として、イソフタル酸成分を導入したポリアミド66/6Iからなるポリアミドが開示されている(例えば、特許文献1乃至4参照。)。
また、耐衝撃性を改良することができる材料として、テレフタル酸成分と、イソフタル酸成分とを導入したポリアミド6T/6Iからなるポリアミド開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-32976号公報
【特許文献2】特開平6-32980号公報
【特許文献3】特開平7-118522号公報
【特許文献4】特開2000-219808号公報
【特許文献5】特開2000-191771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1乃至4に開示された技術で製造されたポリアミドは、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が、ポリアミド鎖中でブロックに共重合されている比率が高いため、一般的な成形条件下での成形品の表面外観性は改良されるものの、ハイサイクル成形条件のような過酷な成形条件下では、成形表面の外観低下、及び安定性が低下してしまい、更に成形条件によってはソリ等の成形表面不良が発生する問題がある。
【0008】
また、特許文献1乃至4に開示された技術で製造されたポリアミドは、弾性率等の機械特性は改良されるものの、前記の通り、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が、ポリアミド鎖中でブロックに共重合されている比率が高いため、そのポリマー構造起因により、すなわちポリアミド鎖中でブロックに共重合されている6I鎖単位の比率が高い構造を有していることにより、耐衝撃特性が低下してしまう問題がある。
【0009】
さらに、前記特許文献5に開示された製造技術で製造されたポリアミドは、耐衝撃特性は改良されるものの、成形表面外観性が低下する問題を有している。
【0010】
上述したように、従来技術で得られるポリアミド66/6Iでは、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が理想的なランダム共重合体に比べて、ブロックに共重合されている比率が高いため、機械特性のバランスを保持しつつ、成形品表面外観の安定性を維持し、耐衝撃特性を向上させることが困難であり、成形品表面外観の安定性、耐衝撃特性に優れ、かつ過酷な成形条件下で成形した場合においても物性変化が少ないポリアミドは未だ知られていないのが実情である。
また、ポリアミドの特徴である、機械特性のバランスを保持しつつ、成形品表面外観の安定性を維持することが困難であり、このようなポリアミドが要望されている。
【0011】
そこで本発明においては、上記事情に鑑み、過酷な成形条件下において成形した場合においても、成形品の表面外観の安定性が良好で、耐衝撃特性に優れ、かつ成形不良(ソリ発生)が少ないポリアミド樹脂組成物及び成形品を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記ポリアミド66/6I特有の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位とを含むポリアミドにおいて、ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)の範囲を特定し、かつ、(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量としたときの、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位がブロック化した指標である(Y)、{(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)]}の値の数値範囲を特定したポリアミド(A)を含有するポリアミド樹脂組成物が、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0013】
〔1〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、
0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド(但し、(x)=0.18かつ(Y)=-0.2であるものを除く)100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
〔2〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[EG-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
〔3〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、
0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):ガラス繊維以外の、ウォラストナイト、カオリン、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、クレーからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
〔4〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、
0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):平均粒径が0.01?38μmである前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
〔5〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、
0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)を含む成形品(但し、金型内複合成形品を除く)。
〔6〕
射出成形品である、前記〔5〕に記載の成形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、過酷な成形条件下において成形した場合においても、表面外観が安定しており、かつ耐衝撃特性にも優れ、さらには、成形条件変更による成形不良(ソリ発生)が少ないポリアミド樹脂組成物及び成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ブロック化比率(Y)とポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)との関係を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
〔ポリアミド樹脂組成物〕
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物である。
以下、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の構成成分について説明する。
【0018】
((A)ポリアミド)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミド(以下、(A)ポリアミド、ポリアミド(A)、又は単にポリアミドと記載する場合もある。)は、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含む。
当該(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)は、0.05≦(x)≦0.5であり、好ましくは0.05≦(x)≦0.4であり、さらに好ましくは0.05≦(x)≦0.3である。
ここで、(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)とは、ポリアミド中に含まれる(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位の比率を示している。
前記イソフタル酸成分比率(x)が0.05以上であると、ポリアミドの融点、固化温度が抑制され、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の成形品表面外観性が安定的なものとなる。また、イソフタル酸成分比率(x)が0.5以下であるとポリアミドの結晶性の低下を抑制でき、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の成形品において十分な機械的強度が得られる。
【0019】
前記(A)ポリアミドは、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である。
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
式(1)中、(x)は、上述したように、(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率であり、ポリアミド中における(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位の比率を示す。
(EG)は、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2)
【0020】
上記式(1)において、(Y)は、全カルボキシル末端基において、イソフタル酸末端基がどれだけ選択的に存在しているかを表す指標である(以下、「ブロック化比率(Y)」とも表記する。)。
【0021】
(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)と、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)には相関性があり、すなわちブロック化比率(Y)は、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が理論値(x=EG)に対して、どれだけブロック化に移行、すなわちどれだけポリアミド中の6I鎖単位の比率が高くなっており、イソフタル酸末端基比率が高くなっているかを示す指標でもある。
【0022】
従って、上記式(1)の分母[1-(x)]は、(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸末端基以外の末端基比率であり、上記式(1)の分子[(EG)-(x)]は、理論上のイソフタル酸末端基比率(=イソフタル酸成分比率)との差分イソフタル酸末端基比率、すなわち実際のイソフタル酸末端基比率と理論上のイソフタル酸末端基比率との差分となるため、上記式(1)により、ブロック化比率の指標である(Y)を求めることができる。
後述の実施例及び比較例に基づくポリアミドの、前記ブロック化比率(Y)とポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)との関係を表した図を図1に示す。
図1の説明を下記に示す。
横軸:全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)
縦軸:全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)
実線の四角形で囲まれた領域:二つの四角形全体により囲まれた領域が0.05≦(x)≦0.5であり、かつ-0.3≦(Y)≦0.8である領域。図1中上側の四角形のみに囲まれた領域が0.05≦(x)≦0.5であり、かつ0.05≦(Y)≦0.8である領域。
一点鎖線:(EG)=(x)
破線量矢印:[(EG)-(x)]と[1-(x)]の関係を示す。
◇:後述する実施例に用いたポリアミド
■:後述する比較例に用いたポリアミド
【0023】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドにおいて、前記ブロック化比率(Y)は-0.3≦(Y)≦0.8であり、好ましくは0.05≦(Y)≦0.8であり、より好ましくは0.05≦(Y)≦0.7であり、さらに好ましくは0.1≦(Y)≦0.6である。
イソフタル酸成分比率(x)を上記範囲内とし、かつ前記(Y)を-0.3≦(Y)≦0.8とすることにより、本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、過酷な成形条件下における成形品の表面外観の安定性、耐衝撃特性が優れ、成形条件変更による成形不良(成形条件によるソリ安定性の悪化)が少ないものとなる。
ポリアミド中のイソフタル酸成分比率(x)、イソフタル酸末端基量、及び全カルボキシル末端基量の定量方法は、特に制限されないが、核磁気共鳴法(NMR)により求めることができる。具体的には^(1)H-NMRにより求めることができる。
【0024】
<アジピン酸、イソフタル酸以外の共重合成分>
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドには、本実施形態の目的を損なわない範囲で、アジピン酸、イソフタル酸以外の、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、及びヘキサメチレンジアミン以外の主鎖から分岐した置換基を持つジアミン、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、重縮合可能なアミノ酸、ラクタム等を共重合成分として用いることができる。
【0025】
前記脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、及びジグリコール酸等の炭素数3?20の直鎖又は分岐状飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0026】
前記脂環族ジカルボン酸としては、例えば、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、及び1,3-シクロペンタンジカルボン酸等の、脂環構造の炭素数が3?10である、好ましくは炭素数が5?10である、脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。
脂環族ジカルボン酸は、無置換でも置換基を有していてもよい。
【0027】
前記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、及び5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の、無置換又は種々の置換基で置換された炭素数8?20の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
種々の置換基としては、例えば、炭素数1?6のアルキル基、炭素数6?12のアリール基、炭素数7?20のアリールアルキル基、クロロ基及びブロモ基等のハロゲン基、炭素数3?10のアルキルシリル基、並びにスルホン酸基及びナトリウム塩等のその塩である基等が挙げられる。
【0028】
前記ヘキサメチレンジアミン以外の主鎖から分岐した置換基を持つジアミンとしては、例えば、2-メチルペンタメチレンジアミン(2-メチル-1,5-ジアミノペンタンとも記される。)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルオクタメチレンジアミン、及び2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン等の炭素数3?20の分岐状飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0029】
前記脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、及びトリデカメチレンジアミン等の炭素数2?20の直鎖飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0030】
前記芳香族ジアミンとしては、例えば、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0031】
前記重縮合可能なアミノ酸としては、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等が挙げられる。
【0032】
前記ラクタムとしては、例えば、ブチルラクタム、ピバロラクタム、カプロラクタム、カプリルラクタム、エナントラクタム、ウンデカノラクタム、ドデカノラクタム等が挙げられる。
【0033】
上述したジカルボン酸成分、ジアミン成分、アミノ酸成分、及びラクタム成分は、それぞれ1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0034】
<末端封止剤>
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミド及びその他の共重合成分を重合させたポリアミド共重合体の原料として、分子量調節や耐熱水性向上のために、末端封止剤を更に添加することができる。
例えば、ポリアミド、又は上述したポリアミド共重合体を重合する際に、公知の末端封止剤を更に添加することにより、重合量を制御することができる。
【0035】
前記末端封止剤としては、特に限定されないが、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、無水フタル酸等の酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、及びモノアルコール類等が挙げられる。
それらの中でもモノカルボン酸及びモノアミンが好ましい。
これらの末端封止剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
前記末端封止剤として用いられるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するモノカルボン酸であれば特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、及びイソブチル酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸などの脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、及びフェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;等が挙げられる。
これらのモノカルボン酸は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
前記末端封止剤として用いられるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するモノアミンであれば特に限定されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン及びジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン及びジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン及びナフチルアミン等の芳香族モノアミン;等が挙げられる。
これらのモノアミンは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
((A)ポリアミドの製造方法)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドの製造方法としては、上述したようにその他の共重合成分を有するポリアミド共重合体である場合を含めて、前記全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が0.05≦(x)≦0.5であり、上記式(1)におけるブロック化比率の指標である(Y)が-0.3≦(Y)≦0.8、好ましくは0.05≦(Y)≦0.8となるようなポリアミド(又はポリアミド共重合体)が得られればよい。
ポリアミドの製造方法としては、例えば、アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(熱溶融重合法);熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(熱溶融重合・固相重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、析出したプレポリマーをさらにニーダー等の押出機で再び溶融させて重合度を上昇させる方法(プレポリマー・押出重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物、固体塩又は重縮合物を、固体状態を維持したまま重合(固相重合法)させる方法等が挙げられる。
全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)を上記数値範囲内に制御するための方法としては、原料の仕込み量の調整、重合条件の調整が有効である。
上記式(1)におけるブロック化比率の指標となる(Y)を上記数値範囲内に制御するためには、イソフタル酸成分のブロック化を制御することが必要である。具体的には、重合系内で、溶融状態を維持しながら、圧力を適宜調整し、重合温度を好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上としながら、均一混合下において重縮合反応を進め、最終重合内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるような条件下で重合させる熱溶融重合法を用いることにより制御することができる。
【0039】
重合形態としては、特に限定されず、バッチ式、連続式のいずれでもよい。
また、重合装置も特に限定されず、公知の装置、例えば、オートクレーブ型の反応器、タンブラー型反応器、ニーダー等の押出機型反応器等を用いることができる。
【0040】
上述したように、(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)]で表される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8の範囲となるようにするには熱溶融重合法を用いることが好ましく、熱溶融重合法を用いることがより好ましい。
バッチ式の熱溶融重合法の一例について以下に説明する。
重合温度条件については特に限定されないが、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上である。
例えば、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は水溶液を110?200℃の温度下で攪拌し、約60?90%まで水蒸気を徐々に抜いて加熱濃縮する。
その後、内部圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
その後、水及び/又はガス成分を除きながら、圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)に保ち、内部温度が好ましくは240℃以上、より好ましくは245℃以上に達した時点で、水及び/又はガス成分を除きながら圧力を徐々に抜き、最終内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるように、常圧で又は減圧して重縮合を行う熱溶融重合法を用いることができる。
さらには、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は重縮合物を融点以下の温度で熱重縮合させる固相重合法等も用いることができる。これらの方法は必要に応じて組み合わせてもよい。
【0041】
ニーダー等の押出型反応機を用いる場合、押出の条件は、減圧度は0?0.07MPa程度が好ましい。
押出温度は、JIS-K7121に準じた示差走査熱量(DSC)測定で求まる融点よりも1?100℃程度高い温度が好ましい。
剪断速度は、100(sec^(-1))以上程度であることが好ましく、平均滞留時間は0.1?15分程度が好ましい。
上記押出条件とすることにより、着色や高分子量化できない等の問題の発生を効果的に抑制できる。
【0042】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミド(ポリアミド共重合体を含む、以下同じ。)の製造においては、所定の触媒を用いることが好ましい。
触媒としては、ポリアミドに用いられる公知のものであれば特に限定されず、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、オルト亜リン酸、ピロ亜リン酸、フェニルホスフィン酸、フェニルホスホン酸、2-メトキシフェニルホスホン酸、2-(2’-ピリジル)エチルホスホン酸、及びそれらの金属塩等が挙げられる。
金属塩の金属としては、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモンなどの金属塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
また、エチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステル等のリン酸エステル類も用いることができる。
【0043】
((A)ポリアミドの物性)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドは、蟻酸溶液粘度(JIS K 6816)が、好ましくは10?30である。
蟻酸溶液粘度が10以上であると、実用上十分な機械的特性を有する成形品が得られ、蟻酸溶液粘度が30以下であると、成形時の流動性が良好なものとなり、表面外観性に優れた成形品が得られる。
【0044】
((B)ガラス繊維)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、上述した(A):ポリアミド100質量部と、(B):ガラス繊維((B)ガラス繊維、ガラス繊維(B)と記載する場合もある。)1?200質量部と、(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材((C)ガラス繊維(B)以外の無機充填材、(C)無機充填材と記載する場合もある。)1?200質量部とを含む。これにより本実施形態のポリアミド樹脂組成物は優れた剛性を有している。
(B)ガラス繊維は、断面が真円状でも扁平状でもよい。
(B)ガラス繊維の断面が扁平状である場合、この扁平状の形状には、例えば、長方形、長方形に近い長円形、楕円形、長手方向の中央部がくびれた繭型等が挙げられる。
また、扁平率は、繊維断面の長径をD2、繊維の断面の短径をD1とするとき、D2/D1で表される(真円状である場合は、扁平率が約1となる。)。扁平状のガラス繊維を使用するときは、扁平率は1.5?10が好ましい。
【0045】
優れた機械的強度特性をポリアミド樹脂組成物に付与できるという観点から、(B)ガラス繊維は、数平均繊維径が3?30μmであり、重量平均繊維長が100?750μmであり、重量平均繊維長(L)と数平均繊維径(D)とのアスペクト比(L/D)が10?100であるものが好ましい。
なお、数平均繊維径(D)及び重量平均繊維長(L)は、例えば、ポリアミド樹脂組成物を電気炉に入れて、含まれる有機物を焼却処理し、残渣分から、例えば100本以上のガラス繊維を任意に選択し、SEMで観察して繊維径を測定することにより数平均繊維径(D)を測定でき、倍率1000倍でのSEM写真を用いて繊維長を計測することにより重量平均繊維長(L)を求めることができる。
【0046】
前記(B)ガラス繊維の配合量は、上記(A)ポリアミド共重合体100質量部に対して、1?200質量部であり、好ましくは10?150質量部であり、より好ましくは20?120質量部であり、さらに好ましくは30?100質量部、さらにより好ましくは40?90質量部である。
前記(B)ガラス繊維の配合量を1質量部以上とすることにより、ポリアミド樹脂組成物の強度向上効果が十分に発現し、また、配合量を200質量部以下とすることにより、押出性、成形性、表面外観に優れるポリアミド樹脂組成物が得られる。
【0047】
<表面処理剤による処理>
前記(B)ガラス繊維には、シランカップリング剤等の表面処理剤により処理を施してもよい。
シランカップリング剤としては、特に制限されないが、例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランやN-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン類;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランやγ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類;エポキシシラン類;ビニルシラン類が挙げられる。これらは1種のみを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよく、アミノシラン類がより好ましい。
【0048】
<集束剤による処理>
前記(B)ガラス繊維には、必要に応じて集束剤による処理を施してもよい。
集束剤としては、例えば、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他の共重合性モノマーとのコポリマー、並びにこれらの第一級、第二級、及び第三級アミンとの塩、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体とを含む共重合体等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
特に、ポリアミド樹脂組成物の機械的強度の観点から、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体、エポキシ樹脂及びポリウレタン樹脂、並びにこれらの組み合わせが好ましく、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体及びポリウレタン樹脂、並びにこれらの組み合わせがより好ましい。
【0049】
前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体を構成する前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体としては、特に制限されるものではないが、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸が挙げられ、特に無水マレイン酸が好ましい。
一方、前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体とは、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体とは異なる不飽和ビニル単量体をいう。前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体としては、以下に挙げるものに制限されるものではないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3-ジクロロブタジエン、1,3-ペンタジエン、シクロオクタジエン、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレートが挙げられる。特に、スチレンやブタジエンが好ましい。これらの組み合わせの中でも、無水マレイン酸とブタジエンとの共重合体、無水マレイン酸とエチレンとの共重合体、及び無水マレイン酸とスチレンとの共重合体、並びにこれらの混合物よりなる群から選択される1種以上であることがより好ましい。
また、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体は、重量平均分子量が2,000以上であることが好ましい。また、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の流動性向上の観点から、より好ましくは2,000?1,000,000であり、さらに好ましくは2,000?1,000,000である。なお、重量平均分子量はゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)により測定できる。
【0050】
前記エポキシ樹脂としては、以下に挙げるものに制限されないが、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブテンオキサイド、ペンテンオキサイド、ヘキセンオキサイド、ヘプテンオキサイド、オクテンオキサイド、ノネンオキサイド、デセンオキサイドウンデセンオキサイド、ドデセンオキサイド、ペンタデセンオキサイド、エイコセンオキサイド等の脂肪族エポキシ化合物;グリシドール、エポキシペンタノール、1-クロロ-3,4-エポキシブタン、1-クロロ-2-メチル-3,4-エポキシブタン、1,4-ジクロロ-2,3-エポキシブタン、シクロペンテンオキサイド、シクロヘキセンオキイド、シクロヘプテンオキサイド、シクロオクテンオキサイド、メチルシクロヘキセンオキサイド、ビニルシクロヘキセンオキサイド、エポキシ化シクロヘキセンメチルアルコール等の脂環族エポキシ化合物;ピネンオキサイド等のテルペン系エポキシ化合物;スチレンオキサイド、p-クロロスチレンオキサイド、m-クロロスチレンオキサイド等の芳香族エポキシ化合物;エポキシ化大豆油;及びエポキシ化亜麻仁油が挙げられる。
【0051】
前記ポリウレタン樹脂としては、集束剤として一般的に用いられるものであれば特に制限されない。
例えば、m-キシリレンジイソシアナート(XDI)、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)(HMDI)やイソホロンジイソシアナート(IPDI)等のイソシアネートと、ポリエステル系やポリエーテル系のジオールとから合成されるものが好適に使用できる。
【0052】
前記アクリル酸のホモポリマー(ポリアクリル酸)としては、重量平均分子量が1,000?90,000であるものが好ましく、1,000?25,000であるものがより好ましい。
ポリアクリル酸は塩形態であってもよい。ポリアクリル酸の塩としては、第一級、第二級、第三級のアミンが挙げられる。例えば、トリエチルアミン、トリエタノールアミンや、グリシン等が挙げられる。中和度は、他の併用薬剤(シランカップリング剤等)との混合溶液の安定性向上の観点や、アミン臭低減の観点から、20?90%とすることが好ましく40?60%とすることがより好ましい。ポリアクリル酸の塩の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、3,000?50,000の範囲であることが好ましい。(B)ガラス繊維の集束性向上の観点から、3,000以上が好ましく、強度及び剛性の向上を図る観点から、50,000以下が好ましい。
【0053】
前記アクリル酸とその他の共重合性モノマーとのコポリマーを形成するモノマーとしては、以下の例に限定されないが、例えば、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸やメサコ酸等の水酸基及び/又はカルボキシル基を有するモノマーから選ばれる1種以上が挙げられる(アクリル酸のみの場合を除く。)。
なお、上述したモノマーのうちエステル系モノマーを1種以上有することが好ましい。
前記アクリル酸とその他の共重合性モノマーとのコポリマーは、塩の形態であってもよい。アクリル酸とその他の共重合性モノマーとのコポリマーの塩としては、以下の例に限定されるものではないが、第一級、第二級、第三級のアミンが挙げられる。例えば、トリエチルアミン、トリエタノールアミンやグリシンが挙げられる。中和度は、他の併用薬剤(シランカップリング剤など)との混合溶液の安定性向上や、アミン臭低減の観点から、20?90%とすることが好ましく、40?60%とすることがより好ましい。
アクリル酸とその他の共重合性モノマーとのコポリマーの塩の重量平均分子量は、特に制限されるものではないが、3,000?50,000の範囲が好ましい。
(B)ガラス繊維の集束性向上の観点から、3,000以上が好ましく、強度及び剛性の向上を図る観点から、50,000以下が好ましい。
【0054】
集束剤による処理は、公知のガラス繊維の製造工程において、ローラー型アプリケーター等の公知の方法を用いてガラス繊維に付与し、繊維ストランドを乾燥することにより実施することができる。
前記繊維ストランドをロービングとしてそのまま使用してもよく、さらに切断工程を得て、チョップドガラスストランドとして使用してもよい。かかる集束剤は、ガラス繊維100質量%に対し、固形分率として0.2?3質量%相当を付与(添加)することが好ましく、より好ましくは0.3?2質量%付与(添加)する。(B)ガラス繊維の集束を維持する観点から、集束剤の添加量が、ガラス繊維100質量%に対し固形分率として0.2質量%以上であることが好ましい。一方、ポリアミド樹脂組成物の熱安定性向上の観点から、3質量%以下であることが好ましい。また、ストランドの乾燥は切断工程後に行ってもよく、ストランドを乾燥した後に切断してもよい。
【0055】
((C):(B)ガラス繊維以外の無機充填材)
(C):(B)ガラス繊維以外の無機充填材の配合量は、上述した(A)ポリアミド共重合体100質量部に対して1?200質量部であり、好ましくは2?150質量部であり、より好ましくは3?120質量部であり、さらに好ましくは5?100質量部であり、さらにより好ましくは10?80質量部である。
(C):(B)ガラス繊維以外の無機充填材の配合量を1質量部以上とすることにより、ポリアミド樹脂組成物の剛性向上効果が発現し、また、配合量を200質量部以下とすることにより、押出性、成形性に優れるポリアミド樹脂組成物が得られる。
【0056】
(C):(B)ガラス繊維以外の無機充填材としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、シリカ、ゼオライト、アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、黄銅、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、鉄、フッ化カルシウム、雲母、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母及びアパタイトが挙げられる。
特に、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の、強度、剛性、表面外観の観点から、ウォラストナイト、カオリン、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、クレーが好ましく、より好ましくは、ウォラストナイト、カオリン、マイカ、タルクであり、さらに好ましくは、ウォラストナイト、マイカであり、さらにより好ましくはウォラストナイトである。
(C)無機充填材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
(C):(B)ガラス繊維以外の無機充填材の平均粒径は、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の靭性、表面外観の観点で、0.01?38μmが好ましく、0.03?30μmがより好ましく、0.05?25μmがさらに好ましく、0.1?20μmがさらにより好ましく、0.15?15μmがよりさらに好ましい。平均粒径を38μm以下にすることにより、靭性、表面外観に優れるポリアミド樹脂組成物が得られ、また、0.01μm以上、さらには0.1μm以上とすることにより、コスト面、粉体のハンドリング面と物性のバランスが良好なものとなる。
また、無機充填材の中でも、ウォラストナイトのような、針状の形状を持つものに関しては、平均繊維径を平均粒径とする。さらに、断面が円でない場合はその長さの最大値を繊維径とする。針状の形状を持つものの重量平均繊維長(L)と数平均繊維径(D)とのアスペクト比(L/D)に関しては、成形品外観、射出成形機等の金属性パーツの磨耗の観点から、1.5?10が好ましく、2.0?5がより好ましく、2.5?4がさらに好ましい。
具体的な平均粒径の測定方法としては、走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子(株)製、JSM-6700F)を用いて、(C):(B)ガラス繊維以外の無機充填材像を倍率1000倍から50000倍で撮影し、任意に選んだ500個の無機充填材から粒径を測定し、平均値を算出する。(C)無機充填材が、針状の場合であって、断面が円である場合は、針径を粒径とし、断面が円でない場合は、針状体の長さの最大値を針径とし、これを粒径とみなす。
【0058】
<表面処理剤による処理>
(C):(B)ガラス繊維以外の無機充填材は、シランカップリング剤等により表面処理を施してもよい。
前記シランカップリング剤としては、下記の例に限定されるものではないが、例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン類;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランやγ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類;エポキシシラン類;ビニルシラン類が挙げられる。特に、アミノシラン類がより好ましい。
表面処理剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
表面処理剤は、予め(C)無機充填材の表面に処理することもできるし、(A)ポリアミド、(B)ガラス繊維、(C)無機充填材を混合する際に添加してもよい。表面処理剤の量は、(C)無機充填材100質量部に対して、0.05質量部?1.5質量部の範囲であることが好ましい。
【0059】
(劣化抑制剤)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本実施形態の目的を損なわない範囲で、熱劣化、熱時の変色防止、耐熱エージング性、及び耐候性の向上を目的に劣化抑制剤を添加してもよい。
劣化抑制剤としては、特に限定されないが、例えば、酢酸銅及びヨウ化銅等の銅化合物;ヒンダードフェノール化合物等のフェノール系安定剤;ホスファイト系安定剤;ヒンダードアミン系安定剤;トリアジン系安定剤;及びイオウ系安定剤等が挙げられる。
これらの劣化抑制剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0060】
(成形性改良剤)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本実施形態の目的を損なわない範囲で、成形性改良剤を添加してもよい。
成形性改良剤としては、特に限定されないが、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、及び高級脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0061】
前記高級脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、エルカ酸、オレイン酸、ラウリン酸、及びモンタン酸等の炭素数8?40の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐状の脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。
これらの中でも、ステアリン酸及びモンタン酸が好ましい。
【0062】
前記高級脂肪酸金属塩とは、前記高級脂肪酸の金属塩である。
金属塩の金属元素としては、元素周期律表の第1,2,3族元素、亜鉛、及びアルミニウム等が好ましく、カルシウム、ナトリウム、カリウム、及びマグネシウム等の、第1,2族元素、並びにアルミニウム等がより好ましい。
高級脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、及びモンタン酸ナトリウム、パルミチン酸カルシウム等が挙げられる。
これらの中でも、モンタン酸の金属塩及びステアリン酸の金属塩が好ましい。
【0063】
前記高級脂肪酸エステルとは、前記高級脂肪酸とアルコールとのエステル化物である。
炭素数8?40の脂肪族カルボン酸と炭素数8?40の脂肪族アルコールとのエステルが好ましい。
脂肪族アルコールとしては、例えば、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、及びラウリルアルコール等が挙げられる。
高級脂肪酸エステルとしては、例えば、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル等が挙げられる。
【0064】
前記高級脂肪酸アミドとは、前記高級脂肪酸のアミド化合物である。
高級脂肪酸アミドとしては、例えば、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスオレイルアミド、N-ステアリルステアリルアミド、N-ステアリルエルカ酸アミド等が挙げられる。
高級脂肪酸アミドとしては、好ましくは、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、及びN-ステアリルエルカ酸アミドであり、より好ましくはエチレンビスステアリルアミド及びN-ステアリルエルカ酸アミドである。
【0065】
これらの高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、及び高級脂肪酸アミドは、それぞれ1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0066】
(着色剤)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本実施形態の目的を損なわない範囲で、着色剤を添加してもよい。
着色剤としては、特に限定されないが、例えば、ニグロシン等の染料、酸化チタン及びカーボンブラック等の顔料;アルミニウム、着色アルミニウム、ニッケル、スズ、銅、金、銀、白金、酸化鉄、ステンレス、及びチタン等の金属粒子;マイカ製パール顔料、カラーグラファイト、カラーガラス繊維、及びカラーガラスフレーク等のメタリック顔料等が挙げられる。
【0067】
(その他の樹脂)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本実施形態の目的を損なわない範囲で、他の樹脂を添加してもよい。
このような樹脂としては、特に限定されるものではないが、後述する熱可塑性樹脂やゴム成分等が挙げられる。
【0068】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、アタクチックポリスチレン、アイソタクチックポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ナイロン6、66、612等の他のポリアミド(本実施形態のポリアミド以外のポリアミド);ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のポリエーテル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン等の縮合系樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の含ハロゲンビニル化合物系樹脂;フェノール樹脂;エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0069】
前記ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ネオプレン、ポリスルフィドゴム、チオコールゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SEB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIR)、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンランダム共重合体、水素添加スチレン-ブタジエンランダム共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンランダム共重合体、スチレン-エチレン-ブチレンランダム共重合体、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-(1-ブテン)共重合体、エチレン-(1-ヘキセン)共重合体、エチレン-(1-オクテン)共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)や、ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン-コアシェルゴム(ABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(MBS)、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-スチレン-コアシェルゴム(MAS)、オクチルアクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(MABS)、アルキルアクリレート-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレンコアシェルゴム(AABS)、ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(SBR)、メチルメタクリレート-ブチルアクリレートシロキサンをはじめとするシロキサン含有コアシェルゴム等のコアシェルタイプ等が挙げられる。
これらのゴム成分は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0070】
〔ポリアミド樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、(A)ポリアミドに、上述した(B)ガラス繊維、(C)ガラス繊維(B)以外の無機充填材、必要に応じて劣化抑制剤、成形性改良剤、着色剤、他の樹脂を配合することにより製造できる。
配合方法としては、公知の押出技術を用いることができる。
例えば、溶融混練温度は、樹脂温度にして250?350℃程度が好ましい。溶融混練時間は、1?30分程度が好ましい。
また、ポリアミド樹脂組成物を構成する成分を溶融混練機に供給する方法は、すべての構成成分を同一の供給口に一度に供給してもよいし、構成成分をそれぞれ異なる供給口から供給してもよい。
具体的には、混合方法は、例えば、ポリアミドと無機充填材とをヘンシェルミキサー等を用いて混合し、溶融混練機に供給し、混練する方法や、減圧装置を備えた単軸又は2軸押出機で溶融状態にしたポリアミドに、サイドフィダーから無機充填材を配合する方法等が挙げられる。
【0071】
〔ポリアミド樹脂組成物の成形品〕
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を成形することにより、所定の成形品が得られる。
成形品を得る方法としては、特に限定されず、公知の成形方法を用いることができる。
例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、及び金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の成形方法が挙げられる。
【0072】
〔用途〕
本実施形態のポリアミド樹脂組成物の成形品は、過酷な成形条件下における成形品の表面外観の安定性、耐衝撃特性に優れ、かつソリ等の成形性への成形条件依存性が少ないため、様々な用途に用いることができる。
例えば、自動車分野、電気・電子分野、機械・工業分野、事務機器分野、航空・宇宙分野において、好適に用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
先ず、ポリアミドの構成要素、物性の測定方法、及び特性の評価方法を下記に示す。
〔測定方法〕
<ポリアミドのイソフタル酸成分比率、イソフタル酸末端基、及び全カルボキシル末端基の定量>
ポリアミドを用いて、^(1)H-NMRにより求めた。
溶媒として重硫酸を用いた。
装置は日本電子製、「ECA400型」を用いた。
繰返時間は12秒、積算回数は64回で測定した。
各成分の特性シグナルの積分値より、イソフタル酸成分量、イソフタル酸末端基量、その他のカルボキシ末端基(例えばアジピン酸末端基)量を算出し、これらの値から、全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、及び上記式(1)のパラメータ(Y)をさらに算出した。
【0075】
<蟻酸溶液粘度>
ポリアミドを蟻酸に溶解し、JIS K6810に準じて測定した。
【0076】
<ハイサイクル成形時の外観安定性/グロス値の評価>
装置は日精樹脂(株)製、「FN3000」を用いた。
シリンダー温度を320℃、金型温度を70℃に設定し、射出17秒、冷却20秒の射出成形条件で、ポリアミド樹脂組成物を用いて100ショットまで成形を行い、ISO試験片を得た。
得られた成形品(ISO試験片)の外観安定性は、堀場(株)製、ハンディ光沢度計「IG320」を用いてグロス値を測定し、下記方法により求めた。
外観安定性=((1):20?30ショットISO試験片のグロス平均値)-((2):90?100ショットISO試験片のグロス平均値)
上記の数値差が小さいほど、外観安定性に優れるものと判断した。
なお表1、2中、「(1)-(2)」とは、上記外観安定性の式により算出されるグロス値を示す。
【0077】
<衝撃特性 シャルピー衝撃強さの測定>
上記外観安定性試験で得られた20?25ショットISO試験片を用いて、ISO 179に準じてシャルピー衝撃強さ測定した。
測定値はn=6の平均値とした。
【0078】
<成形品ソリ性>
成形品ソリ性の評価には、下記のようにして作製した成形品を用いた。
成形品は、射出成形機を用いて作製した。
射出成形機は日精樹脂(株)製、「PS40E」を用いた。
シリンダー温度を290℃、金型温度を70℃に設定し、冷却20秒で固定し、射出時間を変化させて(条件1=2秒間、条件2=8秒間)、120×80×3mmの試験片を得た。
ソリの測定は、試験片を水平な面に置き、ゲート側の辺を水平面に固定し、その反対側(流動末端側)の端面の浮き上がり高さをソリ量として測定した。
ソリ安定性の数値が小さい程、成形依存性が少ないことを示す。
ソリ安定性=[条件2のソリ量(射出時間8秒)]-[条件1のソリ量(射出時間2秒)]
なお、表1、表2中、「条件1(mm)」とは、条件1で作製した試験片を用いた場合のソリ量を意味し、「条件2(mm)」とは、条件2で作製した試験片を用いた場合のソリ量を意味する。
【0079】
〔(A)ポリアミド〕
<製造例1:ポリアミド(A1)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1237g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩263g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を、内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が245℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で650torrの減圧下に10分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0080】
<製造例2:ポリアミド(A2)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1132g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩368gを用いた。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0081】
<製造例3:ポリアミド(A3)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1044g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩456gを用いた。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0082】
<製造例4:ポリアミド(A4)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩816g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩684gを用いた。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0083】
<製造例5:ポリアミド(A5)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1237g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩263gを用いた。全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を添加しなかった。
その他の条件は、製造例1の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0084】
<製造例6:ポリアミド(A6)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1044g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩456gを用いた。全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を添加しなかった。
その他の条件は、製造例1の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0085】
<製造例7:ポリアミド(A7)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1114g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩386g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が245℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で400torrの減圧下に10分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0086】
<製造例8:ポリアミド(A8)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1114g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩368g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が245℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で650torrの減圧下に20分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は270℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0087】
<製造例9:ポリアミド(A9)の製造> アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1109g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩368g、εカプロラクタム5g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が245℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で650torrの減圧下に10分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0088】
<製造例10:ポリアミド(A10)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1500g、全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が260℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で650torrの減圧下に10分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は290℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0089】
<製造例11:ポリアミド(A11)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1455g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩45gを用いた。
その他の条件は、製造例10と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0090】
<製造例12:ポリアミド(A12)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1237g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩263g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が260℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次にバルブを閉止し、ヒーターを切り、約8時間かけてオートクレーブの内部温度を常温まで冷却し、蟻酸溶液粘度7のポリアミドを得た。
得られたポリアミドを粉砕した後、内容積10Lのエバポレーターに入れ、窒素気流下、200℃で10時間固相重合した。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0091】
<製造例13:ポリアミド(A13)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩816g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩684gを用いた。
その他の条件は、製造例12と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0092】
<製造例14:ポリアミド(A14)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1220g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩280g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を、内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま2時間、オートクレーブの内部温度が260℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、次にバルブを閉止し、ヒーターを切り、約8時間かけてオートクレーブの内部温度を常温まで冷却し、ポリアミドを得た。得られたポリアミドを粉砕した後、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0093】
<製造例15:ポリアミド(A15)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩570g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩930gを用いた。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0094】
<製造例16:ポリアミド(A16)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩570g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩930gを用いた。
全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を添加しなかった。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0095】
<製造例17:ポリアミド(A17)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1237g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩263g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が260℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次にバルブを閉止し、ヒーターを切り、約8時間かけてオートクレーブの内部温度を常温まで冷却し、蟻酸溶液粘度7のポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0096】
〔(B):ガラス繊維〕
(B1)ガラス繊維 日本電気硝子製 商品名 ECS03T275H
平均繊維径(平均粒径)10μm(真円状)、カット長3mm
〔(C):(B)ガラス繊維以外の無機充填材〕
(C1)ウォラストナイト NYCO製 商品名 NYAD400
平均繊維径(平均粒径)7.0μm 平均繊維長35μm
(C2)ウォラストナイト NYCO製 商品名 NYAD5000
平均繊維径(平均粒径)2.2μm 平均繊維長7.2μm(C3)マイカ 山口雲母工業所(株)製 商品名 A-21
平均粒径22μm
(C4)タルク 富士タルク工業(株)製 商品名 PKP-80
平均粒径14μm
(C5)カオリン 林化成(株)製 商品名 TRANSLINK445 平均粒径1.5μm
【0097】
〔実施例1〕
製造例1で作製したポリアミド(A1)100質量部を、東芝機械社製、TEM35mm 2軸押出機(設定温度:290℃、スクリュー回転数300rpm)にトップフィード口より供給した。
さらに、サイドフィード口を2箇所設け、押出機上流側(トップフィード口より供給された樹脂が十分溶融している状態)のサイドフィード口1より、(B):ガラス繊維を下記表1に示す種類及び質量部に従って供給した。
押出機下流側(トップフィード口より供給された樹脂が十分溶融している状態)のサイドフィード口2より、前記(C):(B)以外の無機充填材を下記表1に示す種類及び質量部に従って供給した。
紡口より押出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズしてペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。
また、得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、上記記載の方法により成形品を製造し、ハイサイクル成形時の外観安定性、衝撃特性、成形品ソリ性の評価を行った。評価結果を下記表1に示す。
【0098】
〔実施例2?14、比較例1?7〕
製造例1のポリアミド(A1)に代えて、上述した製造例2?16の各ポリアミドを用いた。
さらには、ポリアミド(A)100質量部に対して供給する(B1)ガラス繊維の供給量、(C):(B)以外の無機充填材の種類及び供給量を、下記表1及び表2に示す種類及び質量部に変更した。
また、得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、上記記載の方法により成形品を製造し、ハイサイクル成形時の外観安定性、衝撃特性、成形品ソリ性の評価を行った。評価結果を下記表1及び表2に示す。
【0099】
〔比較例8〕
ポリアミド(A17)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりポリアミド樹脂組成物を得た。
しかしながら溶融粘度が低いため、押出加工性が悪く、成形品を得ることができなかった。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
前記表1に示すように、実施例1?14のポリアミド樹脂組成物の成形品は、いずれも極めて優れた外観安定性、衝撃特性、ソリ安定性を有することが確認された。
一方、(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8の範囲外である比較例3、4、5、8のポリアミド樹脂組成物の成形品、及び(x)が、0.05≦(x)≦0.5の範囲外である比較例1、2、6、7のポリアミド樹脂組成物の成形品は、表面外観の安定性、ソリ安定性が大きく低下したことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のポリアミド樹脂組成物及びこれを用いた成形品は、自動車分野、電気・電子分野、機械・工業分野、事務機器分野、航空・宇宙分野等において、産業上の利用可能性がある。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、
0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド(但し、(x)=0.18かつ(Y)=-0.2であるものを除く)100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
【請求項2】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
【請求項3】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、
0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):ガラス繊維以外の、ウォラストナイト、カオリン、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、クレーからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
【請求項4】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、
0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):平均粒径が0.01?38μmである前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)。
【請求項5】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、
0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8であるポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維1?200質量部と、
(C):前記(B)ガラス繊維以外の無機充填材1?200質量部と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、滑剤として、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物、及び高級脂肪酸アミドを併用して含有するものを除く。)を含む成形品(但し、金型内複合成形品を除く)。
【請求項6】
射出成形品である、請求項5に記載の成形品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-30 
出願番号 特願2011-264609(P2011-264609)
審決分類 P 1 651・ 121- ZDA (C08L)
P 1 651・ 536- ZDA (C08L)
P 1 651・ 113- ZDA (C08L)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 松浦 裕介繁田 えい子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 木村 敏康
冨永 保
登録日 2015-12-11 
登録番号 特許第5850726号(P5850726)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 ポリアミド樹脂組成物及び成形品  
代理人 秋山 祐子  
代理人 内藤 和彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 秋山 祐子  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  

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