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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B21C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B21C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B21C
管理番号 1333206
異議申立番号 異議2016-701120  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-07 
確定日 2017-08-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5929968号発明「UOE鋼管及び該UOE鋼管で形成された鋼管構造物」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5929968号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1,2〕について訂正することを認める。 特許第5929968号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5929968号(以下,「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は,平成28年5月13日付けでその特許権の設定登録がなされ(特許公報の発行日は同年6月8日),その後,その特許に対し,平成28年12月7日に特許異議申立人新日鐵住金株式会社(以下,単に「特許異議申立人」という。)より請求項1及び2に対して特許異議の申立てがされ,平成29年1月24日付けで取消理由が通知され(発送日は同月26日),平成29年3月24日に意見書の提出及び訂正請求がされ,平成29年5月1日に特許異議申立人から意見書が提出され,平成29年5月31日付けで取消理由(決定の予告)が通知され(発送日は同年6月2日),平成29年7月28日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者は,特許請求の範囲の請求項1を以下の事項により特定されるとおりの請求項1として訂正することを請求する(訂正事項)。
「【請求項1】外形波形状の外径振幅が、鋼管軸方向の全長に亘って鋼管外径の0.1%以下(ただし、0及び0.0875%以上を除く)であることを特徴とするUOE鋼管。」

2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項は,特許請求の範囲の減縮を目的とし,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
そして,訂正事項のうち,「鋼管軸方向の全長に亘って」という事項は,本件特許の願書に最初に添付された明細書の段落【0006】に記載された「パイプラインや鋼管杭等の鋼管構造物は、およそ12?24mの鋼管を複数本、長手方向に溶接接合することで完成する長尺の構造物である。これらの鋼管構造物に地盤等の大変形が作用する場合、母材部および溶接部ともに曲げ変形する。
したがって、鋼管構造物の変形性能を向上させるには、母材部及び溶接部の変形性能の向上を図る必要がある。
そこで、本発明では、鋼管構造物の主な構成部材となる鋼管についての変形性能向上を考える。」という事項や段落【0011】に記載された「外径を拡径加工する加工方法によって製造される例えばUOE鋼管では、ダイスで外径方向に拡管する工程の影響で、鋼管の外形が波形状になっている。この波形状の影響により、鋼管の曲げ剛性は一定ではなく、管軸方向にバラつきがある。このため、一部の曲がりやすいところに曲げひずみが先行して座屈が発生する。鋼管が座屈せずに曲がるようにするためには、材質面のみならず形状面でも座屈させないようにする必要がある。」という事項及び「本発明の一実施の形態に係る鋼管の説明図である」という図1において鋼管軸方向の全長に亘って外径波形状の振幅が看取される事項から,本件発明における外径波形状の振幅は鋼管軸方向の全長に亘って存在し,その全体に亘って振幅を小さくすることで変形性能向上を図っているものといえ,当該事項は新規事項の追加には該当しない。
また,訂正事項のうち,「0及び?略?を除く」という事項は,本件特許の願書に最初に添付された明細書の段落【0012】に「コスト面を考慮すると振幅を限りなく0に近づけることは現実的ではなく、最大限の効果が最小限のコストで得られるための製造目標を明示することは有意義である」と記載されていることから,当該事項は新規事項の追加には該当しない。
さらに,訂正事項のうち,「0.0875%以上を除く」という事項は,平成29年1月24日付けの当審取消理由で提示した甲第1号証ないし甲第4号証のそれぞれに記載された発明との重複を除く趣旨である。ここで,現実の「物」である鋼管を考えるに,甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明と,これらの発明における外形波形状の外径振幅の値に極めて近い外形振幅の値を有する鋼管(例えば,甲第1号証に記載された外径振幅が0.0875%である鋼管と,当該数値に極めて近い外径振幅が0.0876%の鋼管や有効数字を1桁少なくした0.088%の鋼管)とは,数値上はわずかに異なるものではあるが,その差は同一の管を測定した際の測定誤差や同一形状の鋼管を製造した際の製造誤差,同一の管が気温変化等で生じる熱変形の大きさと比較して考えても,事実上同一の管と考えられるほど小さなものである。そうすると,甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明それぞれを現実的に具現化した鋼管は,甲第1号証ないし甲第4号証に記載された鋼管の外形波形状の外径の振幅の値と近い値の鋼管まで含まれるものである。そして,これら甲第1号証ないし甲第4号証のそれぞれに記載された発明との重複を回避するために,甲第1号証ないし甲第4号証に具体的に記載された数値を列挙して除外することに換えて,当該数値範囲全体を除外することで甲第1号証ないし甲第4号証に記載されたそれぞれの発明との重複を除くことは,新規事項の追加には該当しない。

加えて,訂正前の請求項2は,請求項2が,訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから,訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって,訂正の請求は,一群の請求項ごとにされたものである。

3 小括
したがって,上記訂正請求による訂正事項は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正後の請求項〔1,2〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び2に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
外形波形状の外径振幅が、鋼管軸方向の全長に亘って鋼管外径の0.1%以下(ただし、0及び0.0875%以上を除く)であることを特徴とするUOE鋼管。

【請求項2】
請求項1に記載のUOE鋼管によって形成したことを特徴とする鋼管構造物。

2 取消理由の概要
本件発明1及び2に対して平成29年5月31日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は,次のとおりである。

ア 甲第1号証には,外形波形状の外径振幅を有するUOE鋼管が記載されており,鋼管の外形波形状の外径振幅が座屈耐性を低下させる要因の1つであることも記載されているから,座屈耐性の向上を図るため,外径振幅を小さくしたUOE鋼管は当業者が容易に想到し得たものであり,実現可能な製造技術を考慮すると,外径振幅を小さくした際の外形波形状の外径振幅が鋼管外形の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)の範囲内となるUOE鋼管及びその鋼管構造物を想到することは,当業者が容易になし得たものであることから,請求項1及び2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

イ 甲第2号証には,外形波形状の外径振幅を有するUOE鋼管が記載されており,真円度が0に近づくほど限界圧縮ひずみが高くなることも記載されているから,外径振幅を小さくしたUOE鋼管は当業者が容易に想到し得たものであり,真円度と限界圧縮ひずみとの関係を示したグラフには真円度が0である点までプロットされていることを考慮すると,外径振幅を小さくした際の外形波形状の外径振幅が鋼管外形の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)の範囲内となるUOE鋼管及びその鋼管構造物を想到することは,当業者が容易になし得たものであることから,請求項1及び2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

ウ 甲第3号証には,外形波形状の外径振幅を有するUOE鋼管が記載されており,真円度換算で評価される形状不整が少なくなるほど限界圧縮ひずみが高くなることも記載されているから,外径振幅を小さくしたUOE鋼管は当業者が容易に想到し得たものであり,実現可能な製造技術を考慮すると,外径振幅を小さくした際の外形波形状の外径振幅が鋼管外形の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)の範囲内となるUOE鋼管及びその鋼管構造物を想到することは,当業者が容易になし得たものであることから,請求項1及び2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

エ 甲第4号証には,外形波形状の外径振幅を有するUOE鋼管が記載されており,鋼管の外形波形状による形状不整が座屈耐性を大きく低下させる要因であることも記載されているから,外径振幅を小さくしたUOE鋼管は当業者が容易に想到し得たものであり,実現可能な製造技術を考慮すると,外径振幅を小さくした際の外形波形状の外径振幅が鋼管外形の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)の範囲内となるUOE鋼管及びその鋼管構造物を想到することは,当業者が容易になし得たものであることから,請求項1及び2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3 甲号証の記載及び引用発明
甲第1号証:Eiji Tsuru, Jun Agata, and Yasuhiro Shinohara, The Potential Limit of Compressive and Tensile Strain Considering Thermal Aging and Manufacturing Strength Range, Proceedings of the Twentieth (2010) International Offshore and Polar Engineering Conference, (米), The International Society of Offshore and Polar Engineers (ISOPE), 2010年6月, p.502-509
甲第2号証:都留英司,篠原康浩,朝日均,“高強度UOEラインパイプの強度特性と形状不整が曲げ限界性能に及ぼす影響”,材料とプロセス,社団法人日本鉄鋼協会,2006年3月1日,第19巻,第2号,p.348-351
甲第3号証:Eiji Tsuru, Jun Agata, Buckling Resistance of Line pipes with Girth Weld Evaluated by New Computational Simulation and Experimental Technology for Full-scale Pipes, Proceedings of the Nineteenth (2009) International Offshore and Polar Engineering Conference, (米), The International Society of Offshore and Polar Engineers (ISOPE), 2009年6月, p.204-211
甲第4号証:Eiji Tsuru, Yasuhiro Shinohara, Jun Agata, and Yukinobu Nagata, Analytical Methods for Girth-welded UOE Linepipes with Plastic Anisotropy and Geometric Imperfections to Predict the Deformation Limitation, Proceedings of the Twenty-first (2011) International Offshore and Polar Engineering Conference, (米), The International Society of Offshore and Polar Engineers (ISOPE), 2011年6月, p.637-645

(1)甲第1号証及び引用発明1
取消理由通知において引用した甲第1号証には,以下の事項が記載されている。
ア “ABSTRACT
In pipelines buried within discontinuous permafrost, strain capacity is required in order to bear ground movements. Such line pipes are manufactured in the narrow range of the mechanical properties to ensure the overmatching rate in the girth weld. However, few studies have investigated the harmful influence on strain capacity of the strength variation in the girth-welded pipe.
This paper describes the compressive strain limit, ε_(Limit) for girth-welded line pipes, assembled in the material specification range, using newly developed FE-modeling. In addition, global straing are proposed as the axial tenslie strain generated at the peak moment, in order to evaluate the tenslie strain limit in the girth weld.”(第502ページ左欄第1-12行)
「概要
不連続永久凍土の中に埋設されたパイプラインでは、地殻変動に耐え得る変形性能が求められる。このようなラインパイプは、周溶接におけるオーバーマッチングを保証するために、狭範囲の機械的性質に作り込まれる。しかしながら、周溶接鋼管の強度ばらつきの変形性能に及ぼす影響については、ほとんど検討されていない。
そこで本論文では、新たに開発したFEモデリングを用いて、材料の規格内で組み合わされ、周溶接された鋼管の圧縮ひずみ限度ε_(Limit)について述べる。さらに周溶接部の引張歪み限界を評価するために、ピークモーメントで発生する軸方向引張り歪みとして全体的なひずみを提案する。」(訳文は,特に断りのない限り,異議申立書に添付された部分翻訳である。)

イ “From the geometric viewpoint, the previous studies describe that the fluctuation of the pipe surface and the girth weld degrade the buckling resistance(Yoosef-Ghodsi, 1995, Murray, 1997, Tsuru, 2009).”(第502ページ右欄第18-20行)
「これまでの研究により、鋼管の表面変動及び周溶接が座屈耐性を低下させることが知られている(Yoosef-Ghodsi、1995、Murray、1997、Tsuru、2009)。」

ウ “The results of the simulation show that the possible range of ε_(Limit) was predicted considering the strength variation of the UOE pipe.”(第503ページ左欄第1-2行)
「シミュレーションの結果は,UOE鋼管の強度変動を考慮すればε_(Limit)の取り得る範囲が予測されたということを示す。」(仮訳は当審で付した。)

エ “In Pipe No. 1, three wrinkles were observed during the test when the wrinkle locations correspond to the initial convex on the pipe outer surface.”(第503ページ右欄第15-17行)
「鋼管1では、試験中に3つのしわが観察され、そのしわの位置は、鋼管の外周面の凸部に対応した。」

オ “Calculating conditions
Geometric models
Figure 7 shows the FEA bending model for the girth-welded pipe of 914 D x 19.8 t. One half of the 3.5 m pipe was modeled by 51360 solid elements. The bending moment was generated by rotating the rigid plate attached at both ends of the pipe. The pipes on both sides of the girth weld are called the A side and B side.
Figure 8 shows the deviations of the pipe outer surface against the longitudinal position used in FEA. The surface profiles are composed by approximating the measured profile using Fourier's series. Four profile patterns, in which the relative position of the girth weld is different from the phase, are prepared in this study. For P1 through P3, the same wave profiles are continuously modeld while the girth welds are positioned at the crest, the root, and the middle, respectively. In P4, the pipes are connected by the girth weld between the root and the crest so that the off-set of 0.4 mm exists in the girth weld. The wall thickness is assumed as constant for all models.”(第505ページ左欄第12行-右欄第7行)
「計算条件
幾何モデル
図7は、FEAの曲げモデルを示す。
直径914mm、肉厚19.8mmであって、長さ3.5mの周溶接鋼管の半分を、51360個のソリッド要素でモデル化した。曲げモーメントは、鋼管モデルの両端に取り付けられたプレートを回転することにより発生させた。鋼管モデルの周溶接部分を中央とした両側の鋼管部分をAサイド、Bサイドと呼ぶ。
図8は、FEAを使用した、長手方向における鋼管の外周面の変動を示す。鋼管の外表面のプロファイル実測値をフーリエ変換により近似することで示した。本研究では、周溶接の位置が異なる4つのプロファイルパターンを準備した。P1?P3では、同じ波形が連続的にモデル化され、周溶接部の位置がそれぞれ、波形の頂上、波形の谷、波形の中央となっている。P4では、波形の谷と波形の頂上との間に周溶接部が位置し、0.4mmのオフセットが存在する。肉厚は全てのモデルにおいて一定である。」

カ 図8は,周溶接部の前後800mmにおける鋼管の外周面の変動を示した図であって,P1?P4の全てにおいて,波形の谷が-0.2mm,波形の頂上が0.2mmとなるグラフが看取される。


キ 以上の記載によれば,甲第1号証には以下の発明(以下「引用発明1」という。)及び以下の技術的事項が記載されていると認められる。

「直径914mmの鋼管であって,当該鋼管の外表面のプロファイル実測値をフーリエ変換により近似した鋼管モデルを作成した際に,鋼管軸方向に連続的な外形波形状を有し,周溶接を行った場合に少なくとも周溶接部近傍において当該外形波形状の外径振幅の半値幅が0.4mmであるUOE鋼管。」という発明及び「パイプラインは地殻変動に耐え得る変形性能が求められ(上記ア),ここで,鋼管の表面変動及び周溶接は座屈耐性を低下させる(上記イ)。」という技術的事項。


(2)甲第2号証及び引用発明2
取消理由通知において引用した甲第2号証には,以下の事項が記載されている。

ア 「1.緒言
不連続永久凍土地帯に敷設されるラインパイプでは氷結、融解による地盤の不等沈下等により、鋼管には降伏強度を超える応力が発生する。このような地帯では従来の応力基準による設計に加え、曲げ変形を考慮したStrain-based design(SBD)が取り入れられる。SBDでは曲げ加重崩落時のたわみ角から求まる圧縮歪みを評価指標とし、より大きな圧縮歪み限界値が要求される。一般的には限界歪みを評価するための機械的性質はL(長手)方向全厚引張試験から得られる。しかしながら、UOE鋼管は造管法に起因した強度異方性を有し、これらの特性差が限界歪みに及ぼす影響については明らかになっていない。さらに鋼管は耐食コーティング時に250℃近傍にまで加熱され、この熱負荷により鋼管特性が変化することが指摘されている。本報告ではUOE鋼管の強度異方性、熱負荷後の強度変化を実測し、限界歪みに対する影響をFEAにより評価した。
2.解析方法
図1に鋼管曲げモデル(762 OD x 15.6t, X-80)と不整量の定義を示す。長さ、8D(外形)の鋼管中央を対称軸にソリッド要素でモデル化し、管端面に固定した剛体要素を回転させることにより曲げモーメントを0-180°のたわみ方向に負荷した。形状不整としてTimoshenkoの座屈波長を鋼管内外面に与え、そのときの不整量を真円度換算でα=0?0.5%とした^(1))。負荷内圧は管体降伏内圧(SMIP)の72%, 55%とし、管端閉鎖条件と同等の引張軸力を負荷した。

」(第348ページ第1-16行及び図1)

イ 「Fig.5に圧縮限界歪みに及ぼすたわみ角区間の影響を示す。ここで横軸は発生したしわを中心にχD(χ=1?8)の区間を意味する。限界歪みは3D以下でより顕著に増加する。実管試験では1D間の平均歪みで標記されることが多いが、誤差を最小化するため、本報告では最大モーメント時の8D区間の平均歪みを圧縮限界歪みとした。」(第349ページ下から4行-最終行)

ウ 第5図は,“Effect of deflection range on strain limit”(限界ひずみに及ぼすゆがみ範囲の効果)のグラフであって,M-A材とM-D材のいずれにおいても,χDが1から8へと増加するのに対して圧縮限界歪みが低下する事項が看取される。


エ 「4.2 鋼管初期不整形状の推定
Fig.6に実管試験で得られた圧縮限界歪みと不整強度を変化させたときのFEA結果の比較を示す^(3))。2体の試験結果ではガース溶接の有無にかかわらず、限界歪みは0.012(3D平均)で、不整量、α=0.3%に相当することがわかる。したがって、材料特性が鋼管の曲げ限界歪みに及ぼす影響を評価するにはα=0.3%レベルを考慮すればよい。」(第350ページ第1-8行)

オ 第6図は,“Compressive strain limit obtained by full body test”(全管試験で得られた圧縮限界ひずみ)のグラフであって,横軸を“Ovality, α(%)”(真円度,α(%)),縦軸を“Compressive Strain Limit”(圧縮限界ひずみ)とし,真円度0.1から0.4まで変化させたFEAによる解析結果のグラフと,周溶接有り及び無しの実管で行った試験結果とが看取される。


カ 「Fig.8に限界に歪みが及ぼす材料特性、形状不整、内圧の複合効果について示す。M-A、M-D材の加熱後の特性を使用した。網掛けは内圧が72%から55%に変動したと仮定したときの限界歪み領域を示す。いずれの材料とも限界歪みは形状不整の増加、内圧の低下に伴い減少する。M-A材では高Y/Tであるにもかかわらず、形状不整が小さく、内圧が大きいと低Y/TのM-D材と同等の変形能を示す。これは同条件下ではYPEが変形能に悪影響を及ぼさないことを示唆する。しかし、M-A材は形状不整、内圧低下に鋭敏で実管レベルの不整(α=0.3%)、圧力変動を考慮した場合、M-D材に比較して著しく限界歪みが低下する。したがって、SBDにおいてはコーティング加熱後も過度なYPE出現がなく、低Y/Tタイプの材料が志向される。」(第350ページ下から11行-第351ページ第5行)

キ 第8図は,横軸を“Ovality(%)”(真円度)とし,縦軸を“Compressive Strain Limit”(圧縮限界歪み)としたグラフであって,△で示されるM-A 72%のデータが,真円度で0?0.5まで0.1%刻みで6点プロットされ,これら6点の△を通る単調減少の曲線(横軸のパラメータである真円度が大きくなるにつれて,縦軸のパラメータである圧縮限界歪みが小さくなる曲線)が付されたグラフが看取される。また,同じく第8図には,▲で示されるM-A 55%のデータ,□で示されるM-D 72%のデータ,■で示されるM-D 55%のデータのそれぞれが,真円度0.1,0.3,0.5の位置でプロットされて曲線が付されたグラフも看取される。


ク 以上の記載によれば,甲第2号証には以下の発明(以下「引用発明2」という。)及び以下の技術的事項が記載されていると認められる。

「形状不整としてTimoshenkoの座屈波長を外径D,長さ8Dの鋼管内外面に与えたモデル(上記ア)の不整量が,真円度換算で鋼管外径の0及び0.1%(上記カ及びキ)であるUOE鋼管であり,ここで,真円度換算で評価される不整量は溶接の有無にかかわらず,鋼管の初期状態で生じているもの(上記エ及びオ)であるUOE鋼管。」という発明と,「不連続永久凍土地帯に敷設されるラインパイプの鋼管には降伏強度を超える応力が発生することから,設計では曲げ変形も考慮され,その際の評価指標は圧縮ひずみであって,より大きな圧縮ひずみ限界値が用いられる。また,UOE鋼管は造管法に起因した強度異方性を有している。」(上記ア)という技術的事項,「長さ8DのUOE鋼管における強度変化の圧縮限界ひずみによる評価(上記ア)を行うにあたり,8D区間の平均ひずみを圧縮限界ひずみとする(上記イ及びウ)」という技術的事項及び「真円度が0%に近づくほど圧縮限界ひずみが高くなる(上記カ及びキ)」という技術的事項。

(3)甲第3号証及び引用発明3
取消理由通知において引用した甲第3号証には,以下の事項が記載されている。

ア “ABSTRACT
This paper deals with the buckling behavior of UOE pipes under bending moment, and proposes reliable evaluation methods for the compressive strain limit (ε_(Limit)). Full-scale bending tests were performed to evaluate the effect of change in the mechanical properties during the anti-corrosion coating and the geometric imperfection induced by the intentionally mismatched girth weld. During the numerical simulation, the pipe was modeled using the measured pipe profile and the material constitutive law newly developed to analyze the orthogonal anisotropy. The test results verified that ε_(Limit) was not degraded by aging, although it declined for pipes with girth welds. The numerical model gave a good prediction for ε_(Limit), hence revealing that the mechanical property in circumference affects the buckling resistance of UOE pipes. To analyze the effects of material characteristics, simplified models were proposed and the results obtained from the validated models suggest that the conventional method using the isotropic work hardening law may overestimate ε_(Limit) under high internal pressure.”(第204ページ左欄第1-18行)
「概要
本論文では、曲げモーメント下におけるUOE鋼管の座屈について検討し、圧縮ひずみ限界(ε_(Limit))に対する信頼性の高い評価法を提案する。腐食防止コーティング中の機械特性の変化の影響、及び、意図的に目違いを設けた周溶接により生じた形状不整を評価するために、実管曲げ試験を実施した。数値シミュレーションでは、実管で測定された鋼管のプロファイルと直交異方性を解析するために新たに開発された材料構成則を使用して、鋼管をモデル化した。圧縮歪み限界は時効処理では低下しないことが試験により確認されたが、周溶接された鋼管では減少した。数値モデルによりε_(Limit)は良好に予測でき、鋼管の周方向部分の機械特性がUOE鋼管の座屈耐力に影響することが明らかとなった。材料特性の影響を分析するために、簡略モデルを提案し、検証モデルから得られた結果は、等方硬化則を使用する従来の方法が高内圧側でε_(Limit)を過大評価する可能性があることを示唆した。」

イ “Pipe Profile Measurement for the Test Pipe
Figure 2 shows the radial deviation of the pipe outer surface on the intrados against the longitudinal position, as measured by laser scanning, while the Y-axis means the differnce in the radial displasement from the assumed linear line. Surface fluctuation is observed within 1 mm for Pipe Nos. 1 and 2 whereas the maximum offset of Pipe No. 3 reaches 2.3 mm.”(第205ページ左欄下から6行-右欄第1行)
「試験鋼管の鋼管プロファイル測定
図2は管軸方向に対して(曲げられる鋼管の)腹側の鋼管外面の半径方向偏差を示し,レーザスキャンで計測され,Y軸は仮定の直線からの半径方向変位での差を意味している。表面変動は,鋼管番号1及び2では1mm以内で見られる一方,鋼管番号3の最大オフセットは2.3mmに達している。」(仮訳は当審で付した。)

ウ 表1は,“Test pipe assemblies”(試験鋼管の組)の表であって,当該表には,直径914mm,肉厚19.8mmの鋼管に由来する3つの試験鋼管であり,時効処理も周溶接も行っていない鋼管番号1,時効処理を行った鋼管のうち,周溶接のない鋼管番号2及び周溶接がある鋼管番号3の3つの試験鋼管が記載されている。


エ 図2は,“Radial deviation of the pipe outer surface on the intrados”(腹側におけるパイプ外面の半径偏差)というグラフであって,横軸の“Longitudinal Position”(管軸軸方向位置)に対して,試験鋼管1-3それぞれの半径方向の偏差が示されており,いずれの試験鋼管も,周期的な変動成分を有しているグラフが看取される。


オ “Modeling of the Pipe Profile
Figures 4 (a) and (b) show the FEA model of the pipe using an 8-node solid element, divided into 4 in thickness, 120 in circumference, and 124 in longitudinal values respectively. Table 3 gives the correspondance between the FEA model and the test pipe. The GA series is equipped with assemblies equivalent to the tested pipe, and characterized by the intrados profile shown in Fig. 2. In GA-3, corresponding to Pipe No. 3, the offset of the girth weld is modeled at every 90°, as illustrated in Fig. 4 (a). A quarter model of the pipe, GB series, is simplified by profiling the buckling wave derivered from Shell theory by Timoshenko (Tsuru, 2007). The radial displacement, w, is given by 3/4 of λ as follows:

”(第207ページ第7-21行)
「鋼管プロファイルのモデリング
図4(a)及び(b)は、厚さ方向に4つに分割された、8ノードのソリッド要素を使用した鋼管のFEAモデルを示す。表3は、FEAモデルと試験鋼管との対応を示す。GAシリーズは、試験された鋼管と同等であり、図2に示す内弧縁のプロファイルで特徴付けられる。鋼管番号3に対応するGA-3では、図4(a)に示すとおり、周溶接のオフセットが90°ごとにモデル化されている。GBシリーズの1/4鋼管モデルでは、Timoshenko(Tsuru、2007)のシェル理論から得られた座屈波長をプロファイリングして単純化している。半径方向変位wはλの3/4で与えられ、以下の通りである。



カ “In Pipe No. 2, three wrinkles were observed during the test when the wrinkle locations correspond to the initial convex.”(第208ページ左欄第30-31行)
「鋼管番号2では、3つのしわが試験中に観察され、各しわの位置は鋼管の当初の凸部に対応した。」

キ “Determination of Geometric Imperfection Intensity, α
Figure 12 shows the relationships between α and ε_(Limit) of GB-1 under 72% SMIP and CP, represented by the triangle marks. Also shown are ε_(Limit) of Pipe Nos. 2 and 3 by the solid lines. This graph indicates that α of the pipe body is estimated 0.15 % at intersection between FEA and pipe No. 2. According to the same manner, α of the girth-welded pipe is estimated 0.3 %. Therefore, GB model with α=0.3 % allows the sensitivity analysis to evaluate the effect of SS curves on ε_(Limit).”(第209ページ右欄第1-8行)
「形状不整強度αの決定
図12は、72%SMIP及びCP下におけるGB-1の(真円度)αと(圧縮歪み限界)ε_(Limit)との関係を三角印で示したものである。実線において、鋼管番号2及び3の実際のε_(Limit)も示す。このグラフから、FEAと鋼管番号2との交点で、鋼管本体のαが0.15%と推定できる。同様に、周溶接鋼管のαは0.3%と推定される。以上より、α=0.3%のGBモデルでは、感受性解析によりSS曲線のε_(Limit)への影響を評価できる。」

ク 図12は,横軸を“Intensity of Geometric Imperfection, α(%)”(形状不整の度合)とし,縦軸を“Compressive Strain Limit (%)”(圧縮限界歪み)としたグラフであって,△で示されるFEA(GB-1)が,形状不整の度合が概ね0.1,0.2,0.3,0.5,0.7%となる位置でプロットされ,これらの△を単調減少となる曲線で結んだグラフが看取される。


ケ 以上の記載によれば,甲第3号証には以下の発明(以下「引用発明3」という。)及び以下の技術的事項が記載されていると認められる。

「実管で測定された鋼管のプロファイルと直交異方性を解析するために新たに開発された材料構成則を使用して,実鋼管外面のレーザスキャン測定結果をもとにモデル化されたUOE鋼管であって,Timoshenkoのシェル理論から得られ,正弦波で与えられる鋼管プロファイルを有するUOE鋼管において,当該UOE鋼管の形状不整が,真円度換算で鋼管外径の0.1%であるUOE鋼管。」という発明及び「真円度換算で評価される形状不整が少なくなるほど,限界圧縮ひずみの値が高くなる」(上記キ及びク)という技術的事項。

(4)甲第4号証及び引用発明4
取消理由通知において引用した甲第4号証には,以下の事項が記載されている。
ア “ABSTRACT
This paper describes a methodology for strain capacity analysis in linepipes beried in discontinuous permafrost and the predicted failuare modes. The buckling resistance of the linepipes is affected by material characteristics and geometric imperfections. Stress analysis using finite element analysis (FEA) is a useful method of specifying the mechanical properties of the linepipe. This study addresses the modeling methods used for plastic anisotropy in UOE pipes and the surface profile on the girth-welded pipes. The buckling and necking in bending were analyzed using an FEA model with anisotropy and geometric imperfections. As a result of the analyses, the pipe with a higher work hardening exponent, n-value, has higher buckling resistance while remaining considerably dependent on the difference in yield strength between the girth-welded pipes. In the analysis, the tensile stress in the extrados under the bending moment continuously increases after the local buckling, ultimately resulting in necking. The deformation margin between the local buckling and the necking increases for pipes with higher n-value. This study proposes methods of numerical analysis for evaluating the deformation limit of buried UOE linepipe with plastic anisotropy and geometric imperfection in mind.”(第637ページ左欄第1-20行)
「概要
本論文では、不連続永久凍土に埋設されたラインパイプの変形性能解析法と予測される破壊モードについて説明する。ラインパイプの座屈耐力は、材料特性と形状不整の影響を受ける。有限要素解析(FEA)を使用した応力解析は、ラインパイプの機械特性を規格するのに有用な方法である。本研究では、UOE鋼管における塑性異方性のモデル化方法と、周溶接鋼管の表面プロファイルについて説明する。異方性及び形状不整を有するFEAモデルを用いて曲げ負荷時の座屈及びネッキングを解析した。解析の結果、より高い加工硬化指数、すなわちn値を有する鋼管は、座屈抵抗は高いものの、それは、周溶接された鋼管間の降伏強度の差にもかなり大きく依存する。解析では、曲げモーメント下の外弧縁の引張応力は、局部的な座屈後に連続して増加し、最終的にはネッキングが生じる。局部座屈発生からネッキングまでの変形に対する余裕代は、より高いn値の鋼管ほど増加する。本研究では、塑性異方性と形状不整を考慮した埋設UOEラインパイプの変形限界を数値解析する方法を提案する。」

イ “Modeling methods for pipe geometry
Prior to modeling, the surface profile of the pipe with 914 D x 19.8 t x 3500 L, X80 was measured using a laser scanning system (Tsuru, 2009). The 500 mm pups welded by SMAW (Shield Metal Arc Weld) were prepared for measuring the pipe deformation close to the girth weld when the 2 mm offset was intentionally located in the same.
Figure 7 shows the change in the pipe outer surface against the longitudinal position. The maximum change is approximately 0.5 mm, caused by the pipe expanding as the final forming process in the UOE pipe. The previous study indicates that the local buckling initiates from the convex portion. Accordingly, the profile change on the pipe surface is modeled using a sine curve with the same amplitude as the measurement, represented by Eq. (2).

The amplitude for the different D is given in proportion to D, based on 0.5 mm for 914 D.”(第639ページ下から6行-第640ページ第10行)
「鋼管形状のモデリング方法
モデル化する前に、直径914mm、肉厚19.8mm、長さ3500mm、強度X80グレードの鋼管の表面プロファイルを、レーザースキャニングシステム(Tsuru、2009)を用いて実測した。2mmのオフセットが意図的に形成された周溶接の周辺の表面プロファイルを測定するために、SMAW(Shield Metal Arc Weld)により溶接された500mmの鋼管を準備した。図7は、鋼管の外表面の長手方向における変化を示す。最大変化量は約0.5mmであり、これは、UOE鋼管の最終工程である拡管工程に起因したものである。以前の研究は、局所的な座屈は鋼管外周面の凸部で引き起こされることを示す。したがって、鋼管の外表面のプロファイル変化は、同じ振幅のサインカーブを用いてモデル化でき、式(2)で示される。

直径914mmに対して振幅は0.5mmであり、振幅は直径Dに比例する。」

ウ “Table 3 lists the pipe size and the geometric imperfection. The stress analyses were conducted for pipes with D/t=23, 48, and 64 modeled using the geometric imperfection parameters, Δb, Δg, and Δs. These are also used in Eqs. (2) and (3) to determine the pipe geometries. Δb is the radius amplitude in a sine curve representing the pipe body geometry. Δg is the maximum shrinkage in the radius by the girth weld. Δs is the offset in the girth weld. S5, S7, and S12 have the surface changes graphically drawn in Fig.9. S7-1, S7-2, and S7-3 are prepared to quantify the effect of the imperfection type on the buckling resistance.”(第641ページ左欄第9行-右欄第5行)
「表3に、鋼管のサイズと形状不整とを示す。D/t=23、48及び64であり、形状不整のパラメータΔb、Δg、Δsを用いてモデル化された鋼管に対して応力解析を実施した。式(2)及び式(3)を利用して鋼管の形状を決定した。Δbは、鋼管本体の幾何学形状を表すサインカーブの半径振幅である。Δsは周溶接でのオフセット量である。S5、S7、S12の表面変化が図9に示されている。S7-1、S7-2、S7-3は、不完全タイプの座屈耐力への影響を定量化するために準備した。」

エ “Figure 12 shows the ratio of the compressive strain limit, ε_(c) of 762 D under 72% SMIP. ε_(c) is the bending strain defined as Eq. (4) when the bending moment reaches the peak value. The X axis corresponds to the geometric imperfection models shown in Table 3. The Y axis is the ratio of ε_(c) for the model without any geometric imperfections whereas ΔYS is 50 MPa. The numbers above the bars are ε_(c). ε_(c) gradually decreases when Δg, Δb, and Δs are added to the geometrically perfect model. Consequently, the total reduction ratio amount to 18%. In the geometry types, the reduction ratio of Δb is the worst, 9%, and Δs effect is only 4%.”(第642ページ左欄最終行ないし右欄第9行)
「図12はSMIP(管体降伏内圧)の72%における762Dの圧縮歪み限界ε_(c)を示す。ε_(c)は曲げモーメントがピーク値に達した時の式(4)で定義される曲げ歪みである。X軸は表3で示された形状不整モデルに対応する。Y軸は,ΔYSが50MPaであるが,いかなる形状不整もないモデルであるε_(c)に対する比である。棒の上の数値はε_(c)である。Δg,Δb及びΔsが形状的に完全なモデルに加えられると,ε_(c)は徐々に減少する。その結果,全体での比の減少は18%に達する。形状の種類においては,Δbでの比の減少が9%とが最も悪く,Δsの影響は4%に過ぎない。」(訳文は,当審で付した仮訳である。)

オ 表3は,OD(外径),t(板厚),及びΔb(半径振幅)を含む形状不整パラメータが記載された鋼管の寸法と形状不整についての表であって,外径506mmで半径振幅0.25mmのS5と,外径762mmで半径振幅0.38mmのS7及びS-1と,が記載されている。


カ 図12は,ΔYSの時のε_(c)を1とし,ΔYSに,Δg,Δb及びΔsを順に追加していった場合とΔYSがなく,Δg,Δb及びΔsがある場合とでε_(c)がどの程度になるか,を示したグラフであって,ΔYSのみの時のε_(c)に対して,Δg,Δb及びΔsが順に加わるごとにε_(c)が低下していく事項が看取される。


キ 以上の記載によれば,甲第4号証には以下の発明(以下「引用発明4」という。)及び以下の技術的事項が記載されていると認められる。

「鋼管本体の幾何学形状を表すサインカーブの半径振幅が,外径506mmのものでは0.25mm,外径762mmのものでは0.38mmである(上記ウ及びオ),UOE鋼管。」という発明と「鋼管表面において長手方向に生じる周期的な形状不整は,UOE鋼管の最終工程である拡管工程に起因する」という技術的事項及び「鋼管該表面のプロファイルをサインカーブを用いてモデル化でき,当該サインカーブによって表現される形状不整Δbによって引き起こされる限界圧縮ひずみの低下への影響は,周溶接のオフセットによって引き起こされる限界圧縮ひずみの低下への影響よりも大きい(上記エ及びカ)」という技術的事項。

4 判断
(1)取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(特許法第29条第2項)について

ア 本件発明1
(ア)引用発明1との対比・判断
本件発明1と引用発明1とを対比すると,引用発明1の外形波形状の外径振幅は「鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」の範囲内ではなく,また,外径振幅も,鋼管軸方向の全長に亘ってどのような値を有しているかは明らかでない。
ここで,甲第1号証の第8図には,UOE鋼管を溶接し,周溶接鋼管とした後の溶接部分の表面形状のモデルが記載されているが,同図に示されているのは直径を914mmとしたモデルの鋼管における溶接部分を挟む前後800mmの表面形状であり,鋼管径の大きさから考えると,同図の振幅が溶接の影響を受けておらず,溶接前のUOE鋼管の振幅と同じ大きさであると断定することはできない。その結果,溶接の影響がないUOE鋼管において,管全体に亘って,その振幅が「鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」の範囲内のものが同図に記載されているとはいえない。
そして,本件発明1は,本件特許の図5で示されるように,外径振幅/外径が0.1%以下の領域において,外径振幅/外径を小さくしても範囲内座屈時ひずみは必ずしも向上しない,という知見に基づいて外径振幅/外径の上限値を決定し,「鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」としたものであるから,当該数値範囲は,単に外形波形状の外径振幅を小さくするほど,座屈耐性が向上する,という甲第1号証から想定される効果とは異なる効果を奏することを目的として設定されたものである。
そうすると,甲第1号証には「鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」としたUOE鋼管は記載されておらず,また,本件発明1は甲第1号証から予測される範囲を超える効果を奏する発明であることから,本件発明1は引用発明1から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)引用発明2との対比・判断
本件発明1と引用発明2とを対比すると,引用発明2の外形波形状の外径振幅は「鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」の範囲内のものではない。
なお,甲第2号証の第8図には,真円度が0%と0.1%となる点で△のプロットがあり,その間が実線で結ばれたグラフが看取されるが,甲第2号証において着目している内圧変動に関する網掛け部分は0.1%以上の領域であり,また,具体的に数値を算出したといえるプロット部分の真円度が,仮に「外形波形状の外径振幅」に相当するとしても,その数値は,本件発明1で除かれた0及び0.0875%以上の部分である。そして,甲第2号証の同グラフにおける真円度0%と0.1%との間の実線部分については何ら触れられておらず,網掛けのない部分であって,当該部分を実在のUOE鋼管として意図していたことを裏付ける記載は甲第2号証には存在しない。
また,本件発明1は,本件特許の図5で示されるように,外径振幅/外径が0.1%以下の領域において,外径振幅/外径を小さくしても範囲内座屈時ひずみは必ずしも向上しない,という知見に基づいて外径振幅/外径の上限値を決定し,「鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」としたものであるから,当該数値範囲は,真円度が0に近づけることで鋼管の限界圧縮ひずみを高くする,という甲第2号証から想定される効果とは異なる効果を奏することを目的として設定されたものである。
なお,甲第2号証の第8図には,限界圧縮ひずみが,真円度が0.1%以下ではそれほど上昇しない,というグラフは看取されるが,甲第2号証にはこの部分に触れた記載はなく,本件発明1と同様の知見に基づく技術思想が開示されているとはいえない。
そうすると,甲第2号証には「鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」としたUOE鋼管は記載されておらず,また,本件発明1は甲第2号証から予測される範囲を超える効果を奏する発明であることから,本件発明1は引用発明2から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)引用発明3との対比・判断
本件発明1と引用発明3とを対比すると,引用発明3の外形波形状の外径振幅は「鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」の範囲内のものではない。
また,本件発明1は,本件特許の図5で示されるように,外径振幅/外径が0.1%以下の領域において,外径振幅/外径を小さくしても範囲内座屈時ひずみは必ずしも向上しない,という知見に基づいて外径振幅/外径の上限値を決定し,「鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」としたものであるから,当該数値範囲は,真円度換算で評価される形状不整が少なくなるほど限界圧縮ひずみが高くなる,という甲第3号証から想定される効果とは異なる効果を奏することを目的として設定されたものである。
そうすると,甲第3号証には「鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」としたUOE鋼管は記載されておらず,また,本件発明1は甲第3号証から予測される範囲を超える効果を奏する発明であることから,本件発明1は引用発明3から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)引用発明4との対比・判断
本件発明1と引用発明4とを対比すると,引用発明4の外形波形状の外径振幅は「鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」の範囲内ではなく,また,外径振幅も,鋼管軸方向の全長に亘ってどのような値を有しているかは明らかでない。
甲第4号証の第7,9図には,UOE鋼管を溶接し,周溶接鋼管とした後の溶接部分の表面形状のモデルや実測値が記載されているが,上記(ア)と同じく,これらの図に示されている振幅から,溶接の影響を受けておらず,溶接前の状態のUOE鋼管の振幅を特定することはできない。その結果,溶接の影響がない,UOE鋼管において,管全体に亘って,その振幅が「鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」の範囲内であるとはいえない。
そして,本件発明1は,本件特許の図5で示されるように,外径振幅/外径が0.1%以下の領域において,外径振幅/外径を小さくしても範囲内座屈時ひずみは必ずしも向上しない,という知見に基づいて外径振幅/外径の上限値を決定し,「鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」としたものであるから,当該数値範囲は,単に鋼管の外形波形状による形状不整を少なくするほど,座屈耐性が向上する,という甲第4号証から想定される効果とは異なる効果を奏することを目的として設定されたものである。
そうすると,甲第4号証には「鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」としたUOE鋼管は記載されておらず,また,本件発明1は甲第4号証から予測される範囲を超える効果を奏する発明であることから,本件発明1は引用発明4から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2
本件発明2は,本件発明1を前提とする発明であり,本件発明1が引用発明1ないし4から当業者が容易に発明できたものではないから,本件発明2も引用発明1ないし4から当業者が容易に発明できたものではない。

ウ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は,本件訂正によって追加された本件発明1における「(ただし,0及び0.0875%以上を除く)」とする事項が新規事項であると主張するが,上記第2の2のとおり,当該事項は新規事項に該当しない。また,本件訂正によって追加された本件発明1における「全長に亘って」という事項も,訂正前の本件特許明細書の段落【0024】には「鋼管軸方向の全長に亘って」という記載があり,UOE鋼管の拡管は管の全長に亘って行われる事が一般であることに鑑みると,当該段落【0024】で参照する図7が2500mmまでしか記載されていないグラフであることをもって,2500mmを超えた長さの部分で拡管が行われなかったり,2500mmまでの長さ部分と異なる拡管技術が用いられた,とする理由はないから,「鋼管軸方向の全長に亘って」という事項は新規事項に該当しない。そして,上記アのとおり,当該数値範囲のUOE鋼管は甲第1ないし4号証に記載されているとも認められず,本件発明1が引用発明1ないし4から容易とはいえない。
したがって,特許異議申立人の上記主張は理由がない。

(2)取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について

ア 特許法第29条第1項第3号

訂正の結果,本件発明1は,甲第1-4号証のそれぞれに記載されたUOE鋼管とは相違するものとなった。したがって,本件発明1は,甲第1-4号証に記載された発明ではない。
また,本件発明2は,本件発明1にさらに限定を加えたものであるから,同様に甲第1-4号証に記載された発明ではない。

イ 特許法第36条第4項第1号

特許異議申立人は,訂正前の請求項1及び2に係る特許について,段落【0020】に記載された「解析モデル」に関する解析条件が何ら開示されておらず,訂正前の請求項1に係る発明を実施しようとした場合に,図5に示す結果が実際に得られるか否かを確認するために,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験等をする必要があり,また,外径振幅を0.1%以下にする技術上の意義を当業者が理解できないことから,特許法第36条第4項第1号に記載する要件を満たしていない旨,主張している。
しかしながら,本件発明1及び2は,外形波形状の外径振幅が,鋼管軸方向の全長に亘って鋼管外径の0.1%以下(ただし,0及び0.0875%以上を除く)であることを特徴とするUOE鋼管及び当該鋼管によって形成された鋼管構造物である。
ここで,本件発明1及び2を実施する上で必要とされるのは,外形波形状の外径振幅が鋼管軸方向の全長に亘って鋼管外径の0.1%以下のUOE鋼管が製造できるかどうか,であって,特許異議申立人のいう解析は本件発明1及び2の実施において必要不可欠な事項ではない。
そして,本件特許の明細書の段落【0012】にも記載されているように外形波形状の外径振幅を小さくすると製造コストはかかるものの,当業者であれば外形波形状の外径振幅が鋼管軸方向の全長に亘って鋼管外径の0.1%以下のUOE鋼管は製造できるものと認められ,また,この点について特許異議申立人は何ら主張していない。
加えて,本件特許の明細書の段落【0012】には,鋼管の外径振幅と座屈性能との関係が示されており,段落【0024】には,0.1%の鋼管と0.3%の鋼管とを比較して,0.1%のものが変形性能に優れていることも開示されていることから,鋼管の外径振幅を0.1%以下にすることで,より変形性能に優れた鋼管が得られる,という技術的意義も当業者にとって理解できるものといえるし,図5から,0.1%以下の領域では,必ずしも外径振幅を低減させることが変形性能の向上につながらない,ということも理解できる。
したがって,特許異議申立人の上記主張は理由がない。

第4 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外形波形状の外径振幅が、鋼管軸方向の全長に亘って鋼管外径の0.1%以下(ただし、0及び0.0875%以上を除く)であることを特徴とするUOE鋼管。
【請求項2】
請求項1に記載のUOE鋼管によって形成したことを特徴とする鋼管構造物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-22 
出願番号 特願2014-118249(P2014-118249)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B21C)
P 1 651・ 121- YAA (B21C)
P 1 651・ 113- YAA (B21C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 石川 健一  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 平岩 正一
長清 吉範
登録日 2016-05-13 
登録番号 特許第5929968号(P5929968)
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 UOE鋼管及び該UOE鋼管で形成された鋼管構造物  
代理人 アセンド特許業務法人  
代理人 石川 壽彦  
代理人 石川 壽彦  

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