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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1333213
異議申立番号 異議2017-700103  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-02 
確定日 2017-09-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5968272号発明「液晶表示装置及び偏光板保護フィルム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5968272号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1,2〕について訂正することを認める。 特許第5968272号の請求項1,2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5968272号(請求項の数2。以下,「本件特許」という。)は,平成24年7月2日に出願した特願2012-148668号(以下,「原出願」という。)の一部を平成25年7月16日に新たな特許出願としたものであって,平成28年7月15日に特許権の設定登録がされたものである。
その後,平成28年8月10日に特許掲載公報の発行がなされたところ,平成29年2月2日に特許異議申立人により請求項1及び2に係る特許について特許異議の申立てがされ,同年3月30日付けで特許権者に取消理由が通知され,特許権者より同年6月5日に意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下,当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がされ,同年7月11日に異議申立人より意見書が提出された。


第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
(1)訂正前後の記載
本件訂正請求は,明細書及び特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1,2について訂正することを求めるものであるところ,一群の請求項〔1,2〕ごとに請求するものであるから,特許法120条の5第4項の規定に適合して請求されたものである。
しかるに,本件訂正前後の明細書及び特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
ア 本件訂正前の記載
(ア)明細書中の本件訂正に係る記載
「【0076】
(実施例4)
偏光板保護フィルムの遅相軸と,液晶モニターの観察者側の偏光板の吸収軸とのなす角度を90°とした以外は,実施例1と同様の方法で液晶表示装置を作製した。」
「【0091】
【表1】



(イ)特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
バックライト光源,液晶セル,カラーフィルター,偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置された構成を有する液晶表示装置であって,
前記偏光板保護フィルムが,
厚みが20?500μmのポリエステル系樹脂からなり,
前記偏光板保護フィルムは,6000nm以上のリタデーションを有するとともに,面内において最も屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と,前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が,0.05以上であり,かつ,前記遅相軸方向の配向角差が6°以内であり,
前記液晶表示装置の最表面に配設され,前記偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が,0°±30°の範囲又は90°±30°の範囲となるように配設して用いられるものであり,
前記遅相軸方向の配向角差は,分子配向計を用いて,前記偏光板保護フィルムの上下方向,左右方向ともに5cm間隔で合計40点の配向角の測定を行い,測定された配向角の最大値から最小値を引いた値である
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
バックライト光源は,白色発光ダイオードである請求項1記載の液晶表示装置。」

イ 本件訂正後の記載
(ア)明細書中の本件訂正に係る記載
「【0076】
(参考例4)
偏光板保護フィルムの遅相軸と,液晶モニターの観察者側の偏光板の吸収軸とのなす角度を90°とした以外は,実施例1と同様の方法で液晶表示装置を作製した。」
「【0091】
【表1】



(イ)特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
バックライト光源,液晶セル,カラーフィルター,偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置された構成を有する液晶表示装置であって,
前記偏光板保護フィルムが,
厚みが61?190μmのポリエステル系樹脂からなり,
前記偏光板保護フィルムは,6000nm以上のリタデーションを有するとともに,面内において最も屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と,前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が,0.05以上であり,かつ,前記遅相軸方向の配向角差が6°以内であり,
前記液晶表示装置の最表面に配設され,前記偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が,0°±30°の範囲又は90°±30°(ただし,90°を除く)の範囲となるように配設して用いられるものであり,
前記遅相軸方向の配向角差は,分子配向計を用いて,前記偏光板保護フィルムの上下方向,左右方向ともに5cm間隔で合計40点の配向角の測定を行い,測定された配向角の最大値から最小値を引いた値である
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
バックライト光源は,白色発光ダイオードである請求項1記載の液晶表示装置。」

(2)訂正事項
本件訂正は,次の訂正事項からなる。
ア 訂正事項1
請求項1に「厚みが20?500μm」とあるのを,「厚みが61?190μm」に訂正するとともに,「90°±30°」とあるのを,「90°±30°(ただし,90°を除く)」に訂正する。

イ 訂正事項2
明細書の【0076】及び【0091】の【表1】に「実施例4」とあるのを,「参考例4」に訂正する。

2 訂正の目的の適否について
訂正事項1は,請求項1及び2に係る発明において,偏光板保護フィルムの厚みを,「20?500μm」という範囲から,「61?190μm」という範囲に限定するとともに,偏光板の吸収軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度の範囲である「90°±30°」から90°を除外する訂正事項であり,訂正事項2は,訂正事項1による訂正によって請求項1及び2に係る発明の偏光板保護フィルムには該当しなくなる「実施例4」を,「参考例4」とする訂正事項であるから,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

3 新規事項の追加の有無について
本件訂正前の明細書の【0091】の【表1】には,実施例1ないし3,5ないし10の厚みがそれぞれ100μm,100μm,100μm,92μm,190μm,75μm,94μm,61μm,81μmであること,及び当該各実施例の偏光板の吸収軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度がそれぞれ0°,30°,60°,0°,0°,0°,0°,0°,0°であることが示されているから,請求項1及び2に係る発明の偏光板保護フィルムの厚みを「61?190μm」という範囲に訂正し,偏光板の吸収軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度の範囲を「90°±30°(ただし,90°を除く)」に訂正する本件訂正は,本件訂正前の願書に添付された特許請求の範囲,明細書及び図面(特許された時点での特許請求の範囲,明細書及び図面)に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。

4 特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否について
訂正事項1及び2が,いずれも,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかであるから,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。

5 小括
前記2ないし4のとおりであって,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1,2〕について訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許の請求項1及び2に係る発明
前記第2 5で述べたとおり,本件訂正は適法になされたものであるから,本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下,それぞれを「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)は,それぞれ,前記第2 1(1)イ(イ)において,本件訂正後の特許請求の範囲の記載として示した請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。

2 平成29年3月30日付けで通知された取消理由の概要
本件訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して平成29年3月30日付けで通知された取消理由は,概略次のとおりである。
(1)取消理由1
本件特許の請求項1及び2に係る発明は,特許法44条2項の規定により本件特許に係る特許出願の出願の時とみなされる原出願の出願時より前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった次の引用例に記載された発明であるか,又は当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は同法29条1又は2項の規定に違反してされたものであって,同法113条2号に該当する。
甲1:国際公開第2011/162198号
甲2:特開2009-157343号公報
甲3の1:特開2011-203642号公報
甲3の2:特開2010-277028号公報
甲3の3:特開2010-217844号公報
甲3の4:特開2010-54824号公報
甲3の5:特開2009-175685号公報
甲4:内田龍男外1名監修,”フラットパネルディスプレイ大事典”,初版第1刷,株式会社工業調査会,平成13年12月25日,p.147-148

(2)取消理由2
本件特許の請求項1及び2に係る特許は,次のア及びイの点で,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって,同法113条4号に該当する。
ア 「リタデーション」の値に関するサポート要件違反
請求項1及び2に係る発明は,「偏光板保護フィルム」が「6000nm以上のリタデーションを有する」とともに「面内において最も屈折率が大きい方向」である「遅相軸方向の配向角差が6°以内であ」る旨の発明特定事項を有しているところ,本件特許の明細書に記載された実施例のうち,「遅相軸方向の配向角差が6°以内である」との規定を満たすことが明示された実施例は実施例7ないし10のみである。
しかるに,当該実施例7ないし10のリタデーションの値は6100ないし7500nmであり,かつ,本件特許の明細書に,リタデーションの値が7500nmを超え,「遅相軸方向の配向角差が6°以内である」ものが,ニジムラの解消という課題を解決できることについて,理論的な説明もされていないから,請求項1及び2に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって,本件特許の請求項1及び2に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。

イ 「偏光板の吸収軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度の値」に関するサポート要件違反
請求項1及び2に係る発明は,「偏光板保護フィルム」における「遅相軸方向の配向角差が6°以内であ」る旨の発明特定事項を有するとともに,「偏光板保護フィルム」が「偏光板の吸収軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が,0°±30°の範囲又は90°±30°の範囲となるように配設して用いられる」旨の発明特定事項を有しているところ,本件特許の明細書に記載された実施例のうち,「遅相軸方向の配向角差が6°以内である」との規定を満たすことが明示された実施例は実施例7ないし10のみである。
しかるに,当該実施例7ないし10における「偏光板の吸収軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度」はいずれも0°であり,かつ,本件特許の明細書に,「偏光板の吸収軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度」が「0°±30°の範囲又は90°±30°の範囲」にあり,「遅相軸方向の配向角差が6°以内である」ものが,ニジムラの抑制という課題を解決できることについて,理論的な説明もされていないから,請求項1及び2に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって,本件特許の請求項1及び2に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。

3 引用例
(1)甲1
ア 甲1の記載
甲1(国際公開第2011/162198号)は,特許法44条2項の規定により本件特許に係る特許出願の出願の時とみなされる原出願の出願時(以下,単に「本件特許の出願時」という。)より前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該甲1には次の記載がある。(下線部は,後述する「甲1発明」の認定に特に関連する箇所を示す。)
(ア) 「技術分野
[0001] 本発明は,液晶表示装置,偏光板および偏光子保護フィルムに関する。詳しくは,視認性が良好で,薄型化に適した液晶表示装置,偏光板および偏光子保護フィルムに関する。
背景技術
[0002] 液晶表示装置(LCD)に使用される偏光板は,通常ポリビニルアルコール(PVA)などにヨウ素を染着させた偏光子を2枚の偏光子保護フィルムで挟んだ構成となっていて,偏光子保護フィルムとしては通常トリアセチルセルロース(TAC)フィルムが用いられている。近年,LCDの薄型化に伴い,偏光板の薄層化が求められるようになっている。しかし,このために保護フィルムとして用いられているTACフィルムの厚みを薄くすると,充分な機械強度を得ることが出来ず,また透湿性が悪化するという問題が発生する。また,TACフィルムは非常に高価であり,安価な代替素材が強く求められている。
[0003] そこで,偏光板の薄層化のため,偏光子保護フィルムとして厚みが薄くても高い耐久性が保持できるよう,TACフィルムの代わりにポリエステルフィルムを用いることが提案されている(特許文献1?3)。
・・・(中略)・・・
発明が解決しようとする課題
[0005] ポリエステルフィルムは,TACフィルムに比べ耐久性に優れるが,TACフィルムと異なり複屈折性を有するため,これを偏光子保護フィルムとして用いた場合,光学的歪みにより画質が低下するという問題があった。すなわち,複屈折性を有するポリエステルフィルムは所定の光学異方性(リタデーション)を有することから,偏光子保護フィルムとして用いた場合,斜め方向から観察すると虹状の色斑が生じ,画質が低下する。そのため,特許文献1?3では,ポリエステルとして共重合ポリエステルを用いることで,リタデーションを小さくする対策がなされている。しかし,その場合であっても虹状の色斑を完全になくすことはできなかった。
[0006] 本発明は,かかる課題を解決すべくなされたものであり,その目的は,液晶表示装置の薄型化に対応可能(即ち,十分な機械的強度を有する)であり,且つ虹状の色斑による視認性の悪化が発生しない,液晶表示装置および偏光子保護フィルムを提供することである。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明者は,偏光子保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いたときに生じる虹状色斑の発生メカニズムについて鋭意検討を行なった。その結果,この虹状の色斑は,ポリエステルフィルムのリタデーションとバックライト光源の発光スペクトルに起因することがわかった。従来,液晶表示装置のバックライト光源としては,冷陰極管や熱陰極管などの蛍光管を用いられる。冷陰極管や熱陰極管などの蛍光灯の分光分布は複数のピークを有する発光スペクトルを示し,これら不連続な発光スペクトルが合わさって白色の光源が得られている。リタデーションが高いフィルムを光が透過する場合,波長によって異なる透過光強度を示す。このため,バックライト光源が不連続な発光スペクトルであると,特定の波長のみ強く透過されることになり虹状の色斑が発生すると考えられた。
[0008] 本発明者らは,上記課題を達成するために鋭意検討した結果,特定のバックライト光源と特定のリタデーションを有するポリエステルフィルムとを組み合せて用いることにより,上記問題を解決できることを見出し,本発明の完成に至った。
[0009] 即ち,本発明は,以下の(1A)?(8A)及び(1B)?(9B)に係る発明である。
・・・(中略)・・・
(1B)バックライト光源と,2つの偏光板の間に配された液晶セルとを有する液晶表示装置であって,
前記バックライト光源は白色発光ダイオードであり,
前記偏光板は偏光子の両側に偏光子保護フィルムを積層した構成からなり,
前記偏光子保護フィルムの少なくとも1つは3000?30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルムである,液晶表示装置。
(2B)前記液晶セルに対して出射光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルムが,3000?30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルムからなるフィルムである,1Bに記載の液晶表示装置。
・・・(中略)・・・
発明の効果
[0010] 本発明の液晶表示装置,偏光板および偏光子保護フィルムは,いずれの観察角度においても透過光のスペクトルは光源に近似したスペクトルを得ることが可能となり,虹状の色斑が無い良好な視認性を確保することができる。また,好適な一実施形態において,本発明の偏光子保護フィルムは,薄膜化に適した機械的強度を備えている。」

(イ) 「発明を実施するための形態
[0011] 一般に,液晶パネルは,バックライト光源に対向する側から画像を表示する側(視認側)に向かう順に,後面モジュール,液晶セルおよび前面モジュールから構成されている。後面モジュールおよび前面モジュールは,一般に,透明基板と,その液晶セル側表面に形成された透明導電膜と,その反対側に配置された偏光板とから構成されている。ここで,偏光板は,後面モジュールでは,バックライト光源に対向する側に配置され,前面モジュールでは,画像を表示する側(視認側)に配置されている。
[0012] 本発明の液晶表示装置は少なくとも,バックライト光源と,2つの偏光板の間に配された液晶セルとを構成部材とする。また,これら以外の他の構成,例えばカラーフィルター,レンズフィルム,拡散シート,反射防止フィルムなどを適宜有しても構わない。
[0013] バックライトの構成としては,導光板や反射板などを構成部材とするエッジライト方式であっても,直下型方式であっても構わないが,本発明では,液晶表示装置のバックライト光源として白色発光ダイオード(白色LED)を用いることが必要である。本発明において,白色LEDとは,蛍光体方式,すなわち化合物半導体を使用した青色光,もしくは紫外光を発する発光ダイオードと蛍光体を組み合わせることにより白色を発する素子のことである。蛍光体としては,イットリウム・アルミニウム・ガーネット系の黄色蛍光体やテルビウム・アルミニウム・ガーネット系の黄色蛍光体等がある。なかでも,化合物半導体を使用した青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色発光ダイオードは,連続的で幅広い発光スペクトルを有しているとともに発光効率にも優れるため,本発明のバックライト光源として好適である。なお,ここで発光スペクトルが連続的であるとは,少なくとも可視光の領域において光の強度がゼロとなる波長が存在しないことをいう。また,本発明の方法により消費電力の小さい白色LEDを広汎に利用可能になるので,省エネルギー化の効果も奏することが可能となる。
[0014] なお,赤・緑・青の各色を発するLEDを組み合わせて白色光源として用いる方式(三色LED方式)も実用化されているが,この方式では発光スペクトルが狭くかつ不連続であるため,本発明の所期の効果を得ることが困難になると予想されるため,好ましくない。
[0015] また,従来からバックライト光源として広く用いられている冷陰極管や熱陰極管等の蛍光管についても,発光スペクトルが特定波長にピークを有する不連続な発光スペクトルしか有していないことから,本発明の所期の効果を得ることが困難である。
[0016] 偏光板は,PVAなどにヨウ素を染着させた偏光子を2枚の偏光子保護フィルムで貼り合せた構成を有するが,本発明では,偏光板を構成する偏光子保護フィルムの少なくともひとつとして,特定範囲のリタデーションを有するポリエステルフィルムを偏光子保護フィルムとして用いることを特徴とする。
[0017] 上記態様により虹状の色斑の発生が抑制される機構としては,次のように考えている。
[0018] 偏光子の片側に複屈折性を有するポリエステルフィルムを配した場合,偏光子から出射した直線偏光はポリエステルフィルムを通過する際に乱れが生じる。透過した光はポリエステルフィルムの複屈折と厚さの積であるリタデーションに特有の干渉色を示す。そのため,光源として冷陰極管や熱陰極管など不連続な発光スペクトルを用いると,波長によって異なる透過光強度を示し,虹状の色斑となる(参照:第15回マイクロオプティカルカンファレンス予稿集,第30?31項)。
[0019] これに対して,白色発光ダイオードでは,可視光領域において連続的で幅広い発光スペクトルを有する。そのため,複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状に着目すると,ポリエステルフィルムのレタデーションを制御することで,光源の発光スペクトルと相似なスペクトルを得ることが可能となる。このように,光源の発光スペクトルと複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状とが相似形となることで,虹状の色斑が発生せずに,視認性が顕著に改善すると考えられる。
[0020] 以上のように,本発明では幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオードを光源に用いるため,比較的簡便な構成のみで透過光のスペクトルの包絡線形状を光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。
[0021] 上記効果を奏するために,偏光子保護フィルムに用いられるポリエステルフィルムは,3000?30000nmのリタデーションを有することが好ましい。リタデーションが3000nm未満では,偏光子保護フィルムとして用いた場合,斜め方向から観察した時に強い干渉色を呈するため,包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し,良好な視認性を確保することができない。好ましいリタデーションの下限値は4500nm,次に好ましい下限値は5000nm,より好ましい下限値は6000nm,更に好ましい下限値は8000nm,より更に好ましい下限値は10000nmである。
[0022] 一方,リタデーションの上限は30000nmである。それ以上のリタデーションを有するポリエステルフィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的に得られないばかりか,フィルムの厚みも相当に厚くなり,工業材料としての取り扱い性が低下するので好ましくない。
・・・(中略)・・・
[0024] 本発明では,偏光子保護フィルムの少なくとも一つが上記特定のリタデーションを有する偏光子保護フィルムであることを特徴とする。・・・(中略)・・・特に好ましい態様は,出射光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルムを当該特定のリタデーションを有するポリエステルフィルムとする態様である。・・・(中略)・・・
[0039] 本発明のポリエステルフィルムは一軸延伸フィルムであっても,二軸延伸フィルムであってもかまわないが,二軸延伸フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた場合,フィルム面の真上から観察しても虹状の色斑が見られないが,斜め方向から観察した時に虹状の色斑が観察される場合があるので注意が必要である。
[0040] この現象は,二軸延伸フィルムが,走行方向,幅方向,厚さ方向で異なる屈折率を有する屈折率楕円体からなり,フィルム内部での光の透過方向によりリタデーションがゼロになる(屈折率楕円体が真円に見える)方向が存在するためである。従って,液晶表示画面を斜め方向の特定の方向から観察すると,リタデーションがゼロになる点を生じる場合があり,その点を中心として虹状の色斑が同心円状に生じることとなる。そして,フィルム面の真上(法線方向)から虹状の色斑が見える位置までの角度をθとすると,この角度θは,フィルム面内の複屈折が大きいほど大きくなり,虹状の色斑は見え難くなる。二軸延伸フィルムでは角度θが小さくなる傾向があるため,一軸延伸フィルムのほうが虹状の色斑は見え難くなり好ましい。
[0041] しかしながら,完全な1軸性(1軸対称)フィルムでは配向方向と直行する方向の機械的強度が著しく低下するので好ましくない。本発明は,実質的に虹状の色斑を生じない範囲,または液晶表示画面に求められる視野角範囲において虹状の色斑を生じない範囲で,2軸性(2軸対象性)を有していることが好ましい。
・・・(中略)・・・
[0045] 本発明のポリエステルフィルムの製膜条件を具体的に説明すると,縦延伸温度,横延伸温度は80?130℃が好ましく,特に好ましくは90?120℃である。縦延伸倍率は1.0?3.5倍が好ましく,特に好ましくは1.0倍?3.0倍である。また,横延伸倍率は2.5?6.0倍が好ましく,特に好ましくは3.0?5.5倍である。リタデーションを上記範囲に制御するためには,縦延伸倍率と横延伸倍率の比率を制御することが好ましい。縦横の延伸倍率の差が小さすぎるとリタデーション高くすることが難しくなり好ましくない。また,延伸温度を低く設定することもリタデーションを高くする上では好ましい対応である。続く熱処理においては,処理温度は100?250℃が好ましく,特に好ましくは180?245℃である。
[0046] リタデーションの変動を抑制する為には,フィルムの厚み斑が小さいことが好ましい。延伸温度,延伸倍率はフィルムの厚み斑に大きな影響を与えることから,厚み斑の観点からも製膜条件の最適化を行う必要がある。特にリタデーションを高くするために縦延伸倍率を低くすると,縦厚み斑が悪くなることがある。縦厚み斑は延伸倍率のある特定の範囲で非常に悪くなる領域があることから,この範囲を外したところで製膜条件を設定することが望ましい。
[0047] 本発明のフィルムの厚み斑は5.0%以下であることが好ましく,4.5%以下であることがさらに好ましく,4.0%以下であることがよりさらに好ましく,3.0%以下であることが特に好ましい。」

(ウ) 「実施例
[0053] 以下,実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが,本発明は,下記実施例によって制限を受けるものではなく,本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり,それらは,いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお,以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
[0054](1)リタデーション(Re)
リタデーションとは,フィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△Nxy=|Nx-Ny|)とフィルム厚みd(nm)との積(△Nxy×d)で定義されるパラメーターであり,光学的等方性,異方性を示す尺度である。二軸の屈折率の異方性(△Nxy)は,以下の方法により求めた。二枚の偏光板を用いて,フィルムの配向軸方向を求め,配向軸方向が直交するように4cm×2cmの長方形を切り出し,測定用サンプルとした。このサンプルについて,直交する二軸の屈折率(Nx,Ny),及び厚さ方向の屈折率(Nz)をアッベ屈折率計(アタゴ社製,NAR-4T,測定波長589nm)によって求め,前記二軸の屈折率差の絶対値(|Nx-Ny|)を屈折率の異方性(△Nxy)とした。フィルムの厚みd(nm)は電気マイクロメータ(ファインリューフ社製,ミリトロン1245D)を用いて測定し,単位をnmに換算した。屈折率の異方性(△Nxy)とフィルムの厚みd(nm)の積(△Nxy×d)より,リタデーション(Re)を求めた。
・・・(中略)・・・
[0057](4)虹斑観察
PVAとヨウ素からなる偏光子の片側に後述する方法で作成したポリエステルフィルムを偏光子の吸収軸とフィルムの配向主軸が垂直になるように貼り付け,その反対の面にTACフィルム(富士フイルム(株)社製,厚み80μm)を貼り付けて偏光板を作成した。得られた偏光板を,青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LEDを光源(日亜化学,NSPW500CS)とする液晶表示装置の出射光側にポリエステルフィルムが視認側になるとうに(決定注:「なるように」の誤記と解される。)設置した。この液晶表示装置は,液晶セルの入射光側に2枚のTACフィルムを偏光子保護フィルムとする偏光板を有する。液晶表示装置の偏光板の正面,及び斜め方向から目視観察し,虹斑の発生有無について,以下のように判定した。
[0058] なお,比較例3では白色LEDの代わりに冷陰極管を光源とするバックライト光源を用いた。
◎ : いずれの方向からも虹斑の発生無し。
○ : 斜め方向から観察した時に,一部極薄い虹斑が観察できる。
× : 斜め方向から観察した時に,明確に虹斑が観察できる。
・・・(中略)・・・
[0060](製造例1-ポリエステルA)
エステル化反応缶を昇温し200℃に到達した時点で,テレフタル酸を86.4質量部およびエチレングリコール64.6質量部を仕込み,撹拌しながら触媒として三酸化アンチモンを0.017質量部,酢酸マグネシウム4水和物を0.064質量部,トリエチルアミン0.16質量部を仕込んだ。ついで,加圧昇温を行いゲージ圧0.34MPa,240℃の条件で加圧エステル化反応を行った後,エステル化反応缶を常圧に戻し,リン酸0.014質量部を添加した。さらに,15分かけて260℃に昇温し,リン酸トリメチル0.012質量部を添加した。次いで15分後に,高圧分散機で分散処理を行い,15分後,得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し,280℃で減圧下重縮合反応を行った。
[0061] 重縮合反応終了後,95%カット径が5μmのナスロン製フィルターで濾過処理を行い,ノズルからストランド状に押出し,予め濾過処理(孔径:1μm以下)を行った冷却水を用いて冷却,固化させ,ペレット状にカットした。得られたポリエチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度は0.62dl/gであり,不活性粒子及び内部析出粒子は実質上含有していなかった。(以後,PET(A)と略す。)
[0062](製造例2-ポリエステルB)
乾燥させた紫外線吸収剤(2,2’-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンズオキサジノン-4-オン)10質量部,粒子を含有しないPET(A)(固有粘度が0.62dl/g)90質量部を混合し,混練押出機を用い,紫外線吸収剤含有するポリエチレンテレフタレート樹脂(B)を得た。(以後,PET(B)と略す。)
[0063](製造例3-接着性改質塗布液の調整)
常法によりエステル交換反応および重縮合反応を行って,ジカルボン酸成分として(ジカルボン酸成分全体に対して)テレフタル酸46モル%,イソフタル酸46モル%および5-スルホナトイソフタル酸ナトリウム8モル%,グリコール成分として(グリコール成分全体に対して)エチレングリコール50モル%およびネオペンチルグリコール50モル%の組成の水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂を調製した。次いで,水51.4質量部,イソプロピルアルコール38質量部,n-ブチルセルソルブ5質量部,ノニオン系界面活性剤0.06質量部を混合した後,加熱撹拌し,77℃に達したら,上記水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂5質量部を加え,樹脂の固まりが無くなるまで撹拌し続けた後,樹脂水分散液を常温まで冷却して,固形分濃度5.0質量%の均一な水分散性共重合ポリエステル樹脂液を得た。さらに,凝集体シリカ粒子(富士シリシア(株)社製,サイリシア310)3質量部を水50質量部に分散させた後,上記水分散性共重合ポリエステル樹脂液99.46質量部にサイリシア310の水分散液0.54質量部を加えて,撹拌しながら水20質量部を加えて,接着性改質塗布液を得た。
[0064](実施例1)
基材フィルム中間層用原料として粒子を含有しないPET(A)樹脂ペレット90質量部と紫外線吸収剤を含有したPET(B)樹脂ペレット10質量部を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後,押出機2(中間層II層用)に供給し,また,PET(A)を常法により乾燥して押出機1(外層I層および外層III用)にそれぞれ供給し,285℃で溶解した。この2種のポリマーを,それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し,2種3層合流ブロックにて,積層し,口金よりシート状にして押し出した後,静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し,未延伸フィルムを作った。この時,I層,II層,III層の厚さの比は10:80:10となるように各押し出し機の吐出量を調整した。
[0065] 次いで,リバースロール法によりこの未延伸PETフィルムの両面に乾燥後の塗布量が0.08g/m^(2)になるように,上記接着性改質塗布液を塗布した後,80℃で20秒間乾燥した。
[0066] この塗布層を形成した未延伸フィルムをテンター延伸機に導き,フィルムの端部をクリップで把持しながら,温度125℃の熱風ゾーンに導き,幅方向に4.0倍に延伸した。次に,幅方向に延伸された幅を保ったまま,温度225℃,30秒間で処理し,さらに幅方向に3%の緩和処理を行い,フィルム厚み約50μmの一軸配向PETフィルムを得た。
[0067](実施例2)
未延伸フィルムの厚みを変更することにより,厚み約100μmとすること以外は実施例1と同様にして一軸配向PETフィルムを得た。
・・・(中略)・・・
[0079] 実施例1?10及び比較例1?3のポリエステルフィルムについて虹斑観察及び引裂き強度を測定した結果を以下の表1に示す。
[表1]

表1に示されるように,実施例1?10のフィルムを用いて虹斑観察を行ったところ,正面方向から観察した場合は,いずれのフィルムでも虹斑は観察されなかった。実施例3?5及び8のフィルムについては,斜めから観察した場合に部分的に虹斑が観察される場合があったが,実施例1,2,6,7,9及び10のフィルムについては,斜めから観察した場合も虹斑は全く観られなかった。一方,比較例1?3のフィルムは,斜めから観察した際に明らかな虹斑が観られた。」

イ 甲1に記載された発明
前記ア(ア)ないし(ウ)を含む甲1の全記載から,実施例2の一軸配向PETフィルムを偏光板保護フィルムとして用いた偏光板を,液晶セルの出射光側の偏光板とした[0057]記載の液晶表示装置に関する発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。

「青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LED(日亜化学,NSPW500CS)を光源とし,
液晶セルの入射光側に,2枚のTACフィルムを偏光子保護フィルムとする偏光板が設けられ,
PVAとヨウ素からなる偏光子の片側に,リタデーション(Re)が10200nmで,フィルム上の直交する二軸の屈折率(Nx,Ny)がそれぞれ1.594,1.696で,フィルム厚みが約100μmのポリエステルフィルムを,前記偏光子の吸収軸と前記ポリエステルフィルムの配向主軸が垂直になるように貼り付け,その反対の面にTACフィルム(富士フイルム(株)社製,厚み80μm)を貼り付けて構成された偏光板が,前記ポリエステルフィルムを視認側とするように前記液晶セルの出射光側に設けられ,
正面及び斜め方向から目視したときにどちらの方向からも虹斑の発生が観察されない液晶表示装置であって,
前記ポリエステルフィルムは,未延伸PETフィルムの両面に乾燥後の塗布量が0.08g/m^(2)になるように,接着性改質塗布液を塗布した後,80℃で20秒間乾燥し,この塗布層を形成した未延伸PETフィルムをテンター延伸機に導き,フィルムの端部をクリップで把持しながら,温度125℃の熱風ゾーンに導き,幅方向に4.0倍に延伸し,次に,幅方向に延伸された幅を保ったまま,温度225℃,30秒間で処理し,さらに幅方向に3%の緩和処理を行うことにより得られた,一軸配向PETフィルムである,
液晶表示装置。」(以下,「甲1発明」という。)

(2)甲2
甲2(特開2009-157343号公報)は,本件特許の出願時より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲2には次の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの一方側に接着剤層を介して延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層されている偏光板,およびそれを用いた液晶表示装置に関する。」

イ 「【0039】
本発明において用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,配向主軸の延伸方向に対するズレ角度(配向主軸の歪みの最大値)が15度以下(好ましくは12度以下,より好ましくは10度以下)であることを特徴の1つとする。配向主軸の歪みの最大値が15度より大きいと,クロスニコル法による目視検査の際,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが偏光フィルム間に挟み込まれた場合,検査の障害となり,異物の混入や欠陥を見逃しやすくなるといった不具合を生じ,さらに,液晶表示装置の画面に貼合したときに十分な色ムラ抑制効果が得られない。」

ウ 「【0084】
<実施例1>
平均重合度約2400,ケン化度99.9モル%以上で厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを,30℃の純水に浸漬した後,ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.02/2/100の水溶液に30℃で浸漬した。その後,ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が12/5/100の水溶液に56.5℃で浸漬した。引き続き8℃の純水で洗浄した後,65℃で乾燥して,ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。延伸は,主に,ヨウ素染色およびホウ酸処理の工程で行い,トータル延伸倍率は5.3倍であった。
【0085】
上述のようにして得られた偏光フィルムの一方側に,厚み45μmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(配向主軸の延伸軸に対するズレ角度:2度,MOR:3.4)を,その貼合面にコロナ処理を施した後,光硬化型接着剤を介して接着貼合した。
・・・(中略)・・・
【0087】
<実施例2>
配向主軸の延伸軸に対するズレ角度が5度,MORが3.4の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。この偏光板と別途用意した検査用の偏光フィルムを用いて,各々の偏光フィルムの吸収軸を直交するように配置することでクロスニコルとし,白色光を照射して目視観察したところ,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム側が偏光フィルム間に挟まった場合においても,クロスニコル下での目視検査は可能であった。さらに当該偏光板を用いて液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について,目視にて観察したところ,斜め方向の色ムラ(干渉ムラ)は小さく,視認性は良好であった。」

(3)甲3の1
甲3の1(特開2011-203642号公報)は,本件特許の出願時より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲3の1には次の記載がある。

「【0085】
〔前面(フロント)側偏光板〕
本発明の液晶パネルを構成する前面側偏光板は,ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの一方の面にセルロース系樹脂フィルムが貼合され,他方の面にヘイズが0.1%?40%のポリエステル系樹脂フィルムが貼合されたものであることが好ましい。本発明の液晶パネルでは,このような前面側偏光板が,セルロース系樹脂フィルム側が液晶セルに向くように貼合されている。以下,本発明に用いられる前面側偏光板について説明する。
・・・(中略)・・・
【0087】
(ポリエステル系樹脂フィルム)
前面側偏光板におけるポリエステル系樹脂フィルムは,・・・(中略)・・・中でもポリエチレンテレフタレートフィルムを特に好適に用いることができる。・・・(中略)・・・
【0089】
前記原料樹脂をフィルム状に成形し,延伸処理を施すことにより,延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムを作製することができる。・・・(中略)・・・
【0092】
熱固定処理の温度は,通常180℃?250℃であり,好ましくは200℃?245℃である。熱固定処理は,まず,定長で前記温度での処理を行ない,さらにフィルムの幅方向における弛緩の割合が1%?10%(好適には2%?5%)となるように弛緩処理を行なうようにすることが好ましい。このようにして,配向主軸の歪みが低減され,耐熱性に優れた延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られる。本発明においては,配向主軸の歪みの最大値が10度以下,より好ましくは8度以下,さらに好ましくは5度以下のポリエチレンテレフタレートフィルムが好適に用いられる。配向主軸の歪みの最大値が10度を超えるポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた場合には,このようなポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた偏光板を液晶表示装置の液晶表示画面に貼合した際に,色付不良が大きくなる傾向にある。」

(4)甲3の2
甲3の2(特開2010-277028号公報)は,本件特許の出願時より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲3の2には次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムに関する。更に詳しくは液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる光軸の安定性を確保した偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0003】
多くの液晶ディスプレイに用いられている偏光板は,吸収型のフィルムタイプのものであり,二色性分子をマトリックス中に一軸配向させた偏光子の両面を,透明支持基材ではさんだ構成からなる。・・・(中略)・・・
【0025】
(遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβ)
また,本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは,・・・(中略)・・・βはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わし,エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる・・・(中略)・・・遅相軸角度のばらつきβ単独の値は5°以下であることが好ましく,より好ましくは2°以下,さらに好ましくは1°以下,特に好ましくは0.5°以下,最も好ましくは0°である。」

(5)甲3の3
甲3の3(特開2010-217844号公報)は,本件特許の出願時より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲3の3には次の記載がある。

「【0064】
(第2の偏光板)
第2の偏光板は,液晶パネルの前面側(視認側)偏光板として用いられるものであり,ポリビニルアルコール系樹脂からなる第2の偏光フィルムの片面に,ヘイズ値が0.1%以上45%以下の範囲である防眩性フィルムを積層して作製される。・・・(中略)・・・
【0065】
上記防眩性フィルムは,延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムを少なくとも有する。延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムは,機械的性質,耐溶剤性,耐スクラッチ性,コストなどに優れたフィルムであり,このようなポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとして用いた偏光板は,機械的強度等に優れるとともに,厚みの低減を図ることができる。・・・(中略)・・・
【0070】
・・・(中略)・・・本発明において用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの配向主軸の歪みの最大値は,10度以下,好ましくは8度以下,さらに好ましくは5度以下である。配向主軸の歪みの最大値が10度より大きいと,液晶表示画面に貼合したときに色付不良が大きくなる傾向にある。なお,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの「配向主軸の歪みの最大値」は,たとえば,大塚電子株式会社製の位相差フィルム検査装置RETSシステムにより測定することができる。」

(6)甲3の4
甲3の4(特開2010-54824号公報)は,本件特許の出願時より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲3の4には次の記載がある。

「【0013】
以下,本発明を詳細に説明する。
<偏光板>
本発明の偏光板は,ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの一方の面に接着剤層を介してポリエチレンテレフタレートフィルムが積層され,他方の面には接着剤層を介して透明樹脂フィルムが積層されてなる構成を有しており,各フイルムをこのような積層態様で積層することにより製造される。・・・(中略)・・・
【0034】
本発明においては,配向主軸の歪みの最大値(延伸軸に対するズレ角度)が30度以下,より好ましくは10度以下,さらに好ましくは5度以下のポリエチレンテレフタレートフィルムが好適に用いられる。配向主軸の歪みの最大値が30度を超える延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた偏光板を液晶表示装置の液晶表示画面に貼合すると,色付不良が大きくなる傾向にある。またポリエチレンテレフタレートフィルムの配向主軸の歪みの最大値の下限値は特に制限されないが,0度以上が好ましい。なお,上述した延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの配向主軸の歪みの最大値は,たとえば位相差フィルム検査装置RETSシステム(大塚電子(株)製),マイクロ波透過型分子配向計(MOA)(王子計測機器(株)製)を用いることで測定できる。」

(7)甲3の5
甲3の5(特開2009-175685号公報)は,本件特許の出願時より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲3の5には次の記載がある。

「【0027】
・・・(中略)・・・本発明の偏光板は,このような偏光フィルムの一方側に延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された構造を備える。
・・・(中略)・・・
【0037】
本発明において用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,配向主軸の延伸方向に対するズレ角度(配向主軸の歪みの最大値)が30度以下(好ましくは10度以下,より好ましくは5度以下)であることを特徴の1つとする。配向主軸の歪みの最大値が30度より大きいと,液晶表示装置の画面に貼合したときに十分な色ムラ抑制効果が得られない。また延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの配向主軸の歪みの最大値の下限値は特に制限されないが,好ましくは0度以上である。なお,上述した延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの配向主軸の歪みの最大値は,たとえば位相差フィルム検査装置RETSシステム(大塚電子(株)製),マイクロ波透過型分子配向計(MOA)(王子計測機器(株)製)を用いることで測定できる。」

(8)甲4
甲4(フラットパネルディスプレイ大事典)は,本件特許の出願時より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲4の147ページには,TNモード,IPSモード及びMVAモードのパネルにおいて,カラーフィルタが液層セルの視認側に設けられていることが示された概念図である図1が記載されている。

4 取消理由1についての判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
(ア) 甲1発明の「白色LED(日亜化学,NSPW500CS)」,「液晶セル」,「液晶セルの出射光側に設けられた『偏光板』のうち『PVAとヨウ素からなる偏光子』と『TACフィルム(富士フイルム(株)社製,厚み80μm)』とからなる部材」,「『一軸配向PETフィルム』である『ポリエステルフィルム』」,「液晶表示装置」,「リタデーション(Re)」,「『フィルム上の直交する二軸の屈折率(Nx,Ny)』のうちの屈折率が大きい『Ny』」,「『フィルム上の直交する二軸の屈折率(Nx,Ny)』のうちの『Ny』」,「偏光子の吸収軸」及び「ポリエステルフィルムの配向主軸」は,本件特許発明1の「バックライト光源」,「液晶セル」,「偏光板」,「偏光板保護フィルム」,「液晶表示装置」,「リタデーション」,「面内において最も屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)」,「遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)」,「偏光板の吸収軸」及び「偏光板保護フィルムの遅相軸」にそれぞれ相当する。

(イ) 甲1発明において,「白色LED(日亜化学,NSPW500CS)」(本件特許発明1における「バックライト光源」に相当する。以下,「ア 対比」欄において,「」で囲まれた甲1発明の構成に付した()中の文言は,当該構成に相当する本件特許発明1の発明特定事項を指す。),「液晶セル」(液晶セル),「偏光子とTACフィルム(富士フイルム(株)社製,厚み80μm)とからなる部材」(偏光板)及び「ポリエステルフィルム」(偏光板保護フィルム)が,この順で配置されていることは自明であるから,本件特許発明1と甲1発明は,「バックライト光源,液晶セル,偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置された構成を有する液晶表示装置」である点で共通する。

(ウ) 甲1発明の「ポリエステルフィルム」(偏光板保護フィルム)のフィルム厚みは約100μmであり,その材質はポリエステルであるから,甲1発明の「ポリエステルフィルム」は,本件特許発明1の「偏光板保護フィルム」の「厚みが61?190μmのポリエステル系樹脂からな」るとの要件に該当する構成を具備している。

(エ) 甲1発明の「ポリエステルフィルム」(偏光板保護フィルム)の「リタデーション(Re)」(リタデーション)が10200nmで,「フィルム上の直交する二軸の屈折率(Nx,Ny)」(進相軸方向の屈折率(ny),遅相軸方向の屈折率(nx))がそれぞれ1.594,1.696であるから,甲1発明の「ポリエステルフィルム」は,本件特許発明1の「偏光板保護フィルム」の「6000nm以上のリタデーションを有するとともに,面内において最も屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と,前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が,0.05以上である」との要件に該当する構成を具備している。

(オ) 前記(ア)ないし(エ)に照らせば,本件特許発明1と甲1発明は,
「バックライト光源,液晶セル,偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置された構成を有する液晶表示装置であって,
前記偏光板保護フィルムが,
厚みが61?190μmのポリエステル系樹脂からなり,
前記偏光板保護フィルムは,6000nm以上のリタデーションを有するとともに,面内において最も屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と,前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が,0.05以上である
液晶表示装置。」
である点で一致し,次の点で相違する,若しくは一応相違する。

相違点1:
本件特許発明1では,液晶セルと偏光板の間に,カラーフィルターが配置されているのに対して,
甲1発明では,カラーフィルターの有無やその配置について定かでない点。

相違点2:
分子配向計を用いて,上下方向,左右方向ともに5cm間隔で合計40点の配向角の測定を行い,測定された配向角の最大値から最小値を引いた値である「遅相軸方向の配向角差」に関し,
本件特許発明1の「偏光板保護フィルム」の「遅相軸方向の配向角差」が6°以内であるのに対して,
甲1発明の「ポリエステルフィルム」の「遅相軸方向の配向角差」は定かでない点。

相違点3:
本件特許発明1では,「偏光板保護フィルム」が液晶表示装置の最表面に配設されているのに対して,
甲1発明では,「ポリエステルフィルム」が液晶表示装置の最表面に配設されたものであるのか,それとも「ポリエステルフィルム」の視認側にさらに別の部材が存在するのかについては定かでない点。

相違点4:
本件特許発明1では,「偏光板の吸収軸」と「偏光板保護フィルムの遅相軸」とのなす角度が,0°±30°の範囲又は90°±30°(ただし,90°を除く)の範囲となるように配設されているのに対して,
甲1発明では,「偏光子の吸収軸」と「ポリエステルフィルムの配向主軸」とのなす角度が,90°となるように配設されている点。

イ 判断
(ア)新規性欠如について
少なくとも相違点4は実質的な相違点であるから,本件特許発明1は甲1発明と同一発明であるとはいえない。

(イ)進歩性欠如について
a 事案に鑑み,まず,相違点4について検討する。
甲1には,「偏光子の吸収軸」と「ポリエステルフィルムの配向主軸」とのなす角度について,90°(垂直)以外の角度にすることについては,記載も示唆もされていない。
また,甲2ないし甲4のいずれにも,液晶セルの視認側に配設される偏光板において,偏光子の視認側に配設される偏光板保護フィルムとして高リタデーションを有するものを用いることによって,虹状の色斑(ニジムラ)の発生を抑制するものにおいて,偏光子の吸収軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度を「0°±30°の範囲又は90°±30°(ただし,90°を除く)の範囲」に設定することは記載されていない。
そうすると,甲1発明において,相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項に該当する構成を採用することには,動機付けがないというほかない。
そして,本件訂正後の明細書(以下,「本件訂正明細書」という。)の【0091】の【表1】に示された各実施例の「明所」における「偏光サングラス越し」での「ニジムラ評価」の評価結果等からみて,本件特許発明1は,「偏光板の吸収軸」と「偏光板保護フィルムの遅相軸」とのなす角度を前記範囲にすることで,「外光や蛍光灯の光のある環境下」(明所)において偏光サングラス越しに画像を観察した場合でも「ニジムラ」の発生を抑制できるという効果を奏するものと認めることができる。
したがって,本件特許発明1を,甲1発明及び甲2ないし甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

b なお,異議申立人は,平成29年7月11日提出の意見書とともに甲5(特開2011-112928号公報)を提出し,当該意見書において,画像光ばかりでなく外光や蛍光灯の光によってもニジムラが発生するという本件特許発明1の課題は,甲5に記載されており,新規な課題ではないなどと主張する。
しかしながら,甲5の記載から把握されるのは,「外光や蛍光灯の光のある環境下」(明所)において「裸眼」で画像を観察した場合にニジムラが発生することであって,「偏光サングラス越し」でのニジムラの発生を開示するものではない。
そして,当該甲5に記載された「明所」における「裸眼」観察時のニジムラは,本件訂正明細書【0091】の【表1】に示された各実施例及び各比較例の「明所」における「目視」での「ニジムラ評価」の評価結果によれば,偏光板保護フィルムのリタデーションを6000nm以上とすることによって,たとえ偏光板の吸収軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度がいかなる値であっても解消されるものである。
これに対して,前記aでも述べたように,本件特許発明1は,偏光板の吸収軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度を所定のものとすることによって,「明所」における「偏光サングラス越し」での観察時のニジムラの発生を抑制するものなのであって,甲5は,このようなニジムラの発生について開示するものではない。
したがって,異議申立人の主張は採用できない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1発明とを対比すると,少なくとも,前記(1)ア(オ)で認定した相違点4で相違する。
したがって,前記(1)イ(ア)及び(イ)で述べたのと同様の理由で,本件特許発明2は,甲1発明と同一発明ではなく,かつ,甲1発明及び甲2ないし甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)小括
前記(1)及び(2)のとおりであるから,取消理由1によって,本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。

5 取消理由2についての判断
(1)「リタデーション」の値に関するサポート要件違反について
ア 本件訂正明細書の【0008】の従来の技術を開示する文献として記載された「特開2011-107198号公報」(以下,「従来技術文献」という。)には,
「【0021】
直交する2つの偏光板の間に複屈折性を有する高分子フィルムを配した場合,偏光板から出射した直線偏光が高分子フィルムを通過する際に乱れが生じ,光が透過する。透過した光は高分子フィルムの複屈折と厚さの積であるリタデーションに特有の干渉色を示す。本発明では,連続的な発光スペクトルを有する白色LEDを光源とする。このため,高分子フィルムによっても達成可能な特定のリタデーション範囲に制御することにより,干渉色を示す透過光のスペクトルの包絡線形状が光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。本発明はこれにより視認性の向上を図るに至ったものである。(図3参照)
【0022】
上記効果を奏するために,本発明に用いられる高分子フィルムは,3000?30000nmのリタデーションを有していなければならない。リタデーションが3000nm未満では,サングラスなどの偏光板を通して画面を観察した時,強い干渉色を呈するため,包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し,良好な視認性を確保することができない。好ましいリタデーションの下限値は4500nm,より好ましい下限値は6000nm,更に好ましい下限値は8000nm,より更に好ましい下限値は10000nmである。
【0023】
一方,リタデーションの上限は30000nmである。それ以上のリタデーションを有する高分子フィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的に得られないばかりか,フィルムの厚みも相当に厚くなり,工業材料としての取り扱い性が低下するので好ましくない。」
なる記載があり,また,甲1の[0019]ないし[0022](前記3(1)ア(イ)を参照。)にも,(サングラスなどの偏光板を通してでなく,裸眼による)斜め方向からの観察時の干渉色ではあるものの,先行技術文献と同様の説明が記載されていることに照らせば,高リタデーションの偏光板保護フィルムを用いることで,サングラス越しで又は裸眼で目視される光のスペクトルの包絡線形状が白色LEDの発光スペクトルに近似し,ニジムラを抑制できること,及び当該効果を得るためのリタデーションの値には上限が存在しないことが,当業者に周知であったと認められる。

イ 本件訂正明細書の【0021】に記載された,ニジムラが抑制できる論理的な推察は,技術的に納得できるものでなく(サングラス越しでの観察と裸眼観察とでニジムラの発生状況に違いが生じる理由を説明できていない。),【0091】の【表1】の評価結果とも整合しないから,偏光板の吸収軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度(以下,便宜上「交差角」という。)を45°とした比較例1及び3において,明所における目視ではニジムラが観察されないにもかかわらず,なぜサングラス越しでの観察においてニジムラが観察されるのか,その理由を把握することは困難であるものの,少なくとも,前記アで述べた周知の事項を熟知する当業者は,本件特許発明1及び2において,明所におけるサングラス越しでの観察時のニジムラを抑制できるのは,観察される光のスペクトルの包絡線が,「交差角」を本件特許発明1及び2の範囲にしたときには白色LEDの発光スペクトルと近似するものとなるからであると理解し,したがって,明所におけるサングラス越しでの観察時のニジムラを抑制できる偏光板保護フィルムのリタデーションの値には,上限が存在しないものと推察することが可能である。

ウ このことは,本件訂正明細書の【0091】の【表1】に記載された「実施例6」のリタデーションの値が19000nmであり,当該実施例6の「明所」における「偏光サングラス越し」での観察時の「ニジムラ評価」が「◎」であることによっても裏付けられる。(なお,当該実施例6の「遅相軸方向の配向角差」の値は不明であるから,当該実施例6を本件特許発明1及び2の具体例であるということはできないものの,「遅相軸方向の配向角差」なるパラメータが面内位置による遅相軸方向のばらつきの程度を示すことは当業者に自明であって,仮に,実施例6の「遅相軸方向の配向角差」が「6°」を超えているのであれば,リタデーションを19000nmのままとし,「遅相軸方向の配向角差」を「6°以内」とすれば,ニジムラ抑制という効果に関して実施例6よりも面内でのばらつきの少ないものとなることは当業者が容易に理解できることである。)

エ 以上によれば,本件訂正明細書の記載及び技術常識に基づいて,当業者は,リタデーションが実施例7ないし10には示されていない7500nmを超える範囲にあっても,明所におけるサングラス越しでの観察時のニジムラを抑制できると認識できる。
したがって,偏光板保護フィルムのリタデーションの値の上限が規定されていない点に関して,本件訂正後の請求項1及び2の記載がサポート要件に違反するということはできない。

(2)「偏光板の吸収軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度の値」に関するサポート要件違反について
本件訂正明細書の【0091】の【表1】からは,リタデーションが9900nmの偏光板保護フィルムを用い,「交差角」を0°,30°,45°,60°及び90°にしたときの「明所」における「偏光サングラス越し」での「ニジムラ評価」が,それぞれ,「◎」(実施例1),「○」(実施例2),「△」(比較例1),「○」(実施例3)及び「◎」(参考例4)となることを看取できるところ,当該事項からは,「交差角」が0ないし30°及び60ないし90°の範囲にあるときに,「明所」における「偏光サングラス越し」での「ニジムラ評価」が「◎」又は「○」となることが明らかである。(なお,実施例1ないし3,参考例4,比較例1の「遅相軸方向の配向角差」が明らかでない点については,前記(1)ウの()内のなお書きで述べたのと同様である。)
したがって,「交差角」の値の数値範囲に関して,本件特許の請求項1及び2の記載が,サポート要件に違反するとはいえない。

(3)小括
前記(1)及び(2)のとおりであるから,取消理由2によって,本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。

7 特許異議申立人の主張について
特許異議申立書に記載された申立理由のうち,取消理由通知で取り上げなかった理由はない。


第4 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては,本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
液晶表示装置及び偏光板保護フィルム
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置及び該液晶表示装置に用いられる偏光板保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、省電力、軽量、薄型等といった特徴を有していることから、従来のCRTディスプレイに替わり、近年急速に普及している。
一般的な液晶表示装置としては、例えば、図2に示すように、バックライト光源(図示せず)、バックライト側の偏光板25、液晶セル21、カラーフィルター22及び表示側の偏光板23を有する構造が挙げられる。偏光板23及び25は、所定の振動方向の振動面を有する直線偏光のみを選択的に透過させるように構成されたものであり、それぞれの振動方向が相互に直角の関係になるようにクロスニコル状態で対向して配置されている。また、液晶セル21は偏光板23と25との間に配置されている。
【0003】
ところで、液晶表示装置に用いられる偏光板には、通常、偏光板保護フィルムが設けられており、当該偏光板保護フィルムとしては、従来、トリアセチルセルロースに代表されるセルロースエステルからなるフィルムが用いられていた。これは、セルロースエステルはリタデーション値が低いため、液晶表示装置の表示品質への影響が少ないことや、適度な透水性を有することから、偏光板製造時に偏光子に残留した水分を、偏光板保護フィルムを通して乾燥させることができる等の利点に基づくものである。また、セルロースエステルフィルムは比較的廉価であるという点も寄与している。
【0004】
しかしながら、このようなセルロースエステルフィルムを、今後も拡大する液晶表示装置産業を支える部材として考えた場合、種々の問題点が存する。なかでも特に重大な問題点としては、次のようなものが指摘されている。
まず、セルロースエステルフィルムの製造は、有機溶媒にセルロースエステルを溶解した溶液を、支持体上にキャスティングし、溶媒を乾燥した後、これを剥離することによって製膜する、いわゆる溶液製膜法によって製造されるのが一般的である。しかしながら、このような溶液製膜法を実施するには、溶媒の乾燥工程等を含めて大規模な設備と特別な技術を要することから、特殊な技術を保有する者にしか製造することができず、拡大する液晶表示装置市場に対応する需給を満たすことができていない。このため、今後も偏光板保護フィルムとしてセルロースエステルフィルムに依存することは、今や我が国の主幹産業と言っても過言ではない液晶表示装置産業の発展を阻害することになりかねない。
また、一般的にセルロースエステルフィルムを上述した溶液製膜方法にて製造する場合、セルロースエステル溶液に用いられる有機溶媒としては、ジクロロメタンが主溶媒として用いられている。しかしながら、当該ジクロロメタンは、人体に対する危険性が疑われているものであるため、将来にわたってセルロースエステルフィルムに依存することは、液晶表示装置産業の発展に伴ってジクロロメタン使用量・排出量を増加させることになり、環境面においても望ましいものではなかった。
【0005】
このようなセルロースエステルフィルムの問題点から、市場において入手が容易な、あるいは簡易な方法で製造することが可能な汎用性フィルムを偏光板保護フィルムとして用いることが望まれており、例えば、セルロースエステル代替フィルムとして、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルムを利用する試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-205773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、本発明者らの研究によると、セルロースエステルフィルム代替フィルムとしてポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルムを用いた場合、液晶表示装置に色の異なるムラ(以下、「ニジムラ」ともいう)が、特に表示画面を斜めから観察したときに生じ、液晶表示装置の表示品質が損なわれてしまうという問題点があることが判明した。
【0008】
このようなポリエステルフィルムを用いた偏光板保護フィルムの問題に対して、更に検討したところ、偏光板保護フィルムとして、ある程度高いリタデーション値を有するポリエステルフィルムを用いることで、従来のポリエステルフィルムからなる偏光板保護フィルムを用いた場合と比較して、ニジムラの問題を改善できることを見出した。
ここで、ある程度高いリタデーション値を有するポリエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして用いた液晶表示装置としては、例えば、特開2011-107198号公報に記載の液晶表示装置が知られている。この液晶表示装置は、液晶セルの視認側に偏光板が設けられ、該偏光板の視認側に3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルムを配置し、該高分子フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角を凡そ45度とした液晶表示装置であって、高分子フィルムとして、配向ポリエステルフィルムを用いるものである。この液晶表示装置によればサングラス等の偏光板を介して表示画像を見た場合であっても、従来のポリエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして用いた場合と比較して、ニジムラの発生はある程度改善できるものと考えられる。
しかしながら、近年、液晶表示装置の表示画像は益々高精細化してきており、表示画像に求められる品質も極めて高度なものとなってきている。このため、液晶表示装置の表示画面に生じるニジムラもより高度に抑制することが必要となってきている。
ところが、従来の偏光板保護フィルムでは、このようなより高度なニジムラの抑制に充分に応えることができなかった。
これは、本発明者らの更なる検討の結果、従来のある程度高いリタデーション値を有する配向ポリエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして用いた液晶表示装置では、透過光であるバックライト光の影響に関してのみに着目して種々の研究がなされていたため、外光や蛍光灯の光のある環境下における液晶表示装置の外部からの光の影響を失念していたことが原因であることが判明した。
すなわち、従来のある程度高いリタデーション値を有する配向ポリエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして用いた液晶表示装置であっても、外光や蛍光灯の光の反射光によりニジムラが発生し、表示品質を低下させるといった不具合が生じてしまい、高度なニジムラの抑制に充分応えることができなかった。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みて、液晶表示装置の表示画像にニジムラが生じることを極めて高度に抑制することができる液晶表示装置、及び該液晶表示装置に用いられる偏光板保護フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、バックライト光源、液晶セル、カラーフィルター、偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置された構成を有する液晶表示装置であって、上記偏光板保護フィルムが、厚みが20?500μmのポリエステル系樹脂からなり、上記偏光板保護フィルムは、6000nm以上のリタデーションを有するとともに、面内において最も屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、上記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、かつ、上記遅相軸方向の配向角差が6°以内であり、上記液晶表示装置の最表面に配設され、上記偏光板の吸収軸と上記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が、0°±30°の範囲又は90°±30°の範囲となるように配設して用いられるものであり、上記遅相軸方向の配向角差は、分子配向計を用いて、上記偏光板保護フィルムの上下方向、左右方向ともに5cm間隔で合計40点の配向角の測定を行い、測定された配向角の最大値から最小値を引いた値であることを特徴とする液晶表示装置である。
【0011】
本発明の液晶表示装置において、上記バックライト光源は、白色発光ダイオードであることが好ましい。
以下に、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明では、特別な記載がない限り、モノマー、オリゴマー、プレポリマー等の硬化性樹脂前駆体も“樹脂”と記載する。
【0012】
本発明者らは、上述した従来の問題に鑑みて鋭意検討した結果、偏光板保護フィルムとして、所定のリタデーション値を有し、かつ、遅相軸方向と該遅相軸方向と直交する進相軸方向とで所定の屈折率差を有するものを用いるとともに、該偏光板保護フィルムを、その遅相軸が偏光板の吸収軸に対してなす角度がほぼ0°又は90°となるように配設することで、外光や蛍光灯の光のある環境下で使用した場合であっても、表示画像にニジムラが生じることを極めて高度に抑制できることを見出した。
【0013】
図1は、本発明の液晶表示装置の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示したように、本発明の液晶表示装置10は、液晶セル11、カラーフィルター12、偏光板13及び偏光板保護フィルム14がこの順序で配置された構成を有する。
また、図示しないが、本発明の液晶表示装置10は、液晶セル11のカラーフィルター12と反対側にバックライト光源を有するものであり、更に、液晶セル11は、2つの偏光板で挟持された構造であってもよく、この場合、液晶セル11のカラーフィルター12と反対側面に偏光板13と同構成の偏光板が設けられることとなるが、これら2つの偏光板は、通常、互いの吸収軸が90°(クロスニコル)となるよう配設される。
【0014】
本発明の液晶表示装置において、上記偏光板保護フィルムは、最も視認側に配置されるものであり、6000nm以上のリタデーションを有する。リタデーションが6000nm未満であると、本発明の液晶表示装置の表示画像にニジムラが生じてしまう。一方、上記偏光板保護フィルムのリタデーションの上限としては特に限定されないが、3万nm程度であることが好ましい。3万nmを超えると、これ以上の表示画像のニジムラ改善効果の向上が見られず、また、膜厚が相当に厚くなるため好ましくない。
上記偏光板保護フィルムのリタデーションは、ニジムラ防止性及び薄膜化の観点から、1万?2万nmであることが好ましい。
【0015】
なお、上記リタデーションとは、偏光板保護フィルムの面内において最も屈折率が大きい方向(遅相軸方向)の屈折率(nx)と、遅相軸方向と直交する方向(進相軸方向)の屈折率(ny)と、偏光板保護フィルムの厚み(d)とにより、以下の式によって表わされるものである。
リタデーション(Re)=(nx-ny)×d
また、上記リタデーションは、例えば、王子計測機器社製KOBRA-WRによって測定(測定角0°、測定波長548.2nm)することができる。
なお、本発明では、上記nx-ny(以下、Δnとも表記する)は、0.05以上である。上記Δnが0.05未満であると、充分なニジムラの抑制効果が得られない。また、上述したリタデーション値を得るために必要な膜厚が厚くなるため、好ましくない。上記Δnの好ましい下限は0.07である。
【0016】
上記偏光板保護フィルムを構成する材料としては、上述したリタデーションを充足するものであれば特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、(メタ)アクロニトリル系樹脂、及び、シクロオレフィン系樹脂からなる群より選択される1種が好適に用いられる。なかでも、上記偏光板保護フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートは汎用性が高く、入手が容易であるからである。本発明においてはPETのような、汎用性が極めて高いフィルムであっても、表示品質の高い液晶表示装置を作製することが可能な、偏光板保護フィルムを得ることができる。更に、PETは、透明性、熱又は機械的特性に優れ、延伸加工によりリタデーションの制御が可能であり、固有複屈折が大きく、膜厚が薄くても比較的容易に大きなリタデーションが得られる。
【0017】
上記偏光板保護フィルムを得る方法としては、上述したリタデーションを充足する方法であれば特に限定されないが、例えば、上記PET等のポリエステルからなる場合、材料のポリエステルを溶融し、シート状に押出し成形された未延伸ポリエステルをガラス転移温度以上の温度においてテンター等を用いて横延伸後、熱処理を施す方法が挙げられる。
上記横延伸温度としては、80?130℃が好ましく、より好ましくは90?120℃である。また、横延伸倍率は2.5?6.0倍が好ましく、より好ましくは3.0?5.5倍である。上記横延伸倍率が6.0倍を超えると、得られるポリエステルからなる偏光板保護フィルムの透明性が低下しやすくなり、延伸倍率が2.5倍未満であると、延伸張力も小さくなるため、得られる偏光板保護フィルムの複屈折が小さくなり、リタデーションを6000nm以上とできないことがある。
また、本発明においては、二軸延伸試験装置を用いて、上記未延伸ポリエステルの横延伸を上記条件で行った後、該横延伸に対する流れ方向の延伸(以下、縦延伸ともいう)を行ってもよい。この場合、上記縦延伸は、延伸倍率が2倍以下であることが好ましい。上記縦延伸の延伸倍率が2倍を超えると、Δnの値を上述した範囲にできないことがある。
また、上記熱処理時の処理温度はしては、100?250℃が好ましく、より好ましくは180?245℃である。
【0018】
上述した方法で作製した偏光板保護フィルムのリタデーションを6000nm以上に制御する方法としては、延伸倍率や延伸温度、作製する偏光板保護フィルムの膜厚を適宜設定する方法が挙げられる。具体的には、例えば、延伸倍率が高いほど、延伸温度が低いほど、また、膜厚が厚いほど、高いリタデーションを得やすくなり、延伸倍率が低いほど、延伸温度が高いほど、また、膜厚が薄いほど、低いリタデーションを得やすくなる。
【0019】
上記偏光板保護フィルムの厚みとしては、その構成材料等に応じて適宜決定されるが、20?500μmの範囲内であることが好ましい。20μm未満であると、上記偏光板保護フィルムのリタデーションを6000nm以上にできないことがあり、また、力学特性の異方性が顕著となり、裂け、破れ等を生じやすくなり、工業材料としての実用性が著しく低下することがある。一方、500μmを超えると、偏光板保護フィルムが非常に剛直であり、高分子フィルム特有のしなやかさが低下し、やはり工業材料としての実用性が低下するので好ましくない。上記偏光板保護フィルムの厚さのより好ましい下限は30μm、より好ましい上限は400μmであり、更により好ましい上限は300μmである。
【0020】
また、上記偏光板保護フィルムは、可視光領域における透過率が80%以上であることが好ましく、84%以上であるものがより好ましい。なお、上記透過率は、JIS K7361-1(プラスチックー透明材料の全光透過率の試験方法)により測定することができる。
このような本発明の液晶表示装置に用いられる偏光板保護フィルムもまた、本発明の1つである。
【0021】
本発明の液晶表示装置において、上記偏光板保護フィルムは、該偏光板保護フィルムの遅相軸と後述する偏光板(液晶セルの視認側に配置された偏光板)の吸収軸とのなす角度が、0°±30°の範囲又は90°±30°の範囲となるように配設される。上記偏光板保護フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角度が上記範囲内にあることで、本発明の液晶表示装置の表示画像にニジムラが生じることを極めて高度に抑制することができる。この理由は明確ではないが、以下の理由によると考えられる。
すなわち、外光や蛍光灯の光のない環境下(以下、このような環境下を「暗所」ともいう)では、偏光板保護フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角度は、0°及び90°、又は、45°に設置することで、ニジムラの発生を抑制できる。上記偏光板保護フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角度が0°及び90°の場合は、下記式における「sin22θ」が0となり、光が透過しなくなるためニジムラは発生しない。一方、上記偏光板保護フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角度が45°の場合は、光の透過率が最大となり、連続的な幅広いスペクトルを有するバックライト光源であれば、ニジムラの発生が抑制できる。なお、下記式において、I/I0は、クロスニコル状態に置かれた2枚の偏光板を透過する光の透過率を示し、Iは、クロスニコル状態に置かれた2枚の偏光板を透過した光の強度を、I0は、クロスニコル状態に置かれた2枚の偏光板に入射する光の強度を、それぞれ示す。
I/I0=sin^(2)2θ・sin2(πRe/λ)
しかしながら、外光や蛍光灯の光のある環境下(以下、このような環境下を「明所」ともいう)においては、外光や蛍光灯の光は、連続的な幅広いスペクトルを有するものばかりではないため、偏光板保護フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角度を0°又は90°にしないと、ニジムラが生じてしまい表示品位が低下してしまう。この現象は、例えば、液晶表示画面に入射する蛍光灯の反射光が、S偏光(表示画面の左右方向に振動する光)が多いことが原因であると考えられる。S偏光が、偏光板保護フィルムを通過し、偏光子との界面で反射し、観測者側に戻ってくるのであるが、この時、偏光板保護フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角度を45°に設置した場合は、連続的な幅広いスペクトルを有さない光が位相差を受けることとなり、ニジムラが発生してしまうと考えられる。
【0022】
本発明の液晶表示装置において、上記偏光板の吸収軸と上記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度は、0°±30°又は90°±30°であるが、0°±10°又は90°±10°の範囲にあることが好ましく、0°±7°又は90°±7°の範囲にあることがより好ましく、0°±3°又は90°±3°の範囲にあることが更に好ましく、0°又は90°であることが最も好ましい。
【0023】
また、本発明の液晶表示装置において、上記偏光板保護フィルムは、上記遅相軸方向の配向角差が6°以内であることが好ましく、4°以内であることがより好ましく、2°以内であることが更に好ましい。上記偏光板保護フィルムの偏光角差が6°以内にあることにより、偏光板の吸収軸と偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度を0°又は90度に設置した場合のニジムラ発生を特に防止できる。その理由は、以下の通りである。
すなわち、クロスニコルに配置した偏光板間に対し、ある角度θで設置されたとき、該偏光板間を透過する光の透過率は下記式で表される。
I/I0=sin^(2)2θ・sin2(πRe/λ)
ただし、Iはクロスニコルに配置した偏光板間を透過した光の強度を示し、I0はクロスニコルに配置した偏光板間に入射する光の強度を示す。
この場合、偏光板の吸収軸に対し、偏光板保護フィルムの遅相軸の角度(θ)を45°としたときに、上記光の透過率は最大となるが、該透過率は、偏光板保護フィルムのリタデーション及び透過する光の波長によって変化するため、上記リタデーションの値に特有の干渉色(ニジムラ等)が観測される。ここで、本発明のように上記角度(θ)を0°又は90°とした場合、上記光の透過率はゼロとなるため、干渉色は観測されなくなる。
この時、上記偏光板保護フィルムとして使用する複屈折を有するフィルムに、6°を超えるような大きな配向角差が存在した場合、上記光の透過率が上昇し、干渉色発生の原因となることがあるからである。
【0024】
なお、上記偏光板保護フィルムの配向角差は、例えば、王子計測機器社製の分子配向計(MOA;Molecular Orientation Analyzer)を用いて測定した配向角の最大値から最小値を引いた値として求められる。
また、上記偏光板保護フィルムの遅相軸方向は、上記分子配向計(MOA;Molecular Orientation Analyzer)を用いて求めた上記偏光板保護フィルムの遅相軸方向の平均配向角の方向である。
【0025】
本発明の液晶表示装置において、バックライト光源としては特に限定されないが、白色発光ダイオード(白色LED)であることが好ましい。
上記白色LEDとは、蛍光体方式、すなわち化合物半導体を使用した青色光又は紫外光を発する発光ダイオードと蛍光体を組み合わせることにより白色を発する素子のことである。なかでも、化合物半導体を使用した青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色発光ダイオードは、連続的で幅広い発光スペクトルを有していることからニジムラの改善に有効であるとともに、発光効率にも優れるため、本発明における上記バックライト光源として好適である。また、消費電力の小さい白色LEDを広汎に利用可能になるので、省エネルギー化の効果も奏することが可能となる。
【0026】
上記偏光板としては、所望の偏光特性を備えるものであれば特に限定されず、一般的に液晶表示装置の偏光板に用いられるものを用いることができる。具体的には、例えば、ポリビニルアルコールフィルムが延伸されてなり、ヨウ素を含有する偏光板が好適に用いられる。
【0027】
上記液晶セルとしては特に限定されず、例えば、一般的に液晶表示装置用の液晶セルとして公知のものを用いることができる。また、液晶表示装置用の液晶セルとしては、TN、STN、VA、IPS及びOCB等の表示方式のものが知られているが、本発明においてはこれらのいずれの表示方式の液晶セルであっても用いることができる。
【0028】
また、上記カラーフィルターとしては特に限定されず、例えば、一般的に液晶表示装置のカラーフィルターとして公知のものを用いることができる。このようなカラーフィルターは、通常、赤色、緑色及び青色の各色の透明着色パターンから構成され、それら各透明着色パターンは、着色剤が溶解又は分散、好ましくは顔料微粒子が分散された樹脂組成物から構成される。なお、上記カラーフィルターの形成は、所定の色に着色したインキ組成物を調製して、着色パターン毎に印刷することによって行なってもよいが、所定の色の着色剤を含有した塗料タイプの感光性樹脂組成物を用いて、フォトリソグラフィ法によって行なうのがより好ましい。
【0029】
本発明の液晶表示装置は、上述した偏光板の偏光板保護フィルムが設けられた反対側面に、別の偏光板保護フィルムが設けられたものであってもよい。このような別の偏光板保護フィルムが設けられていることで、上記偏光板が空気中の水分等に曝されることを防止したり、偏光板の寸法変化を防止したりすることができる。
【0030】
上記別の偏光板保護フィルムとしては透明性を有するものであれば特に限定されないが、可視光領域における透過率が80%以上であるものが好ましく、90%以上であるものがより好ましい。ここで、上記透過率は、JIS K7361-1(プラスチック-透明材料の全光透過率の試験方法)により測定することができる。
【0031】
上記別の偏光板保護フィルムを構成する材料としては、例えば、セルロース誘導体、シクロオレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、アモルファスポリオレフィン、変性アクリル系ポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル類等の樹脂材料が挙げられる。なかでも、上記樹脂材料としてセルロース誘導体又はシクロオレフィン系ポリマーが好適に用いられる。
【0032】
上記セルロース誘導体としては、所望の透明性、透湿性等を備えるものであれば特に限定されないが、なかでも、セルロースアセテートを特に好適に用いることができる。
上記セルロースアセテートとしては、平均酢化度が57.5?62.5%(置換度:2.6?3.0)のトリアセチルセルロースを用いることが最も好ましい。ここで、酢化度とは、セルロース単位質量当りの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D-817-91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定及び計算により求めることができる。
【0033】
上記シクロオレフィン系ポリマーとしては、環状オレフィン(シクロオレフィン)からなるモノマーのユニットを有する樹脂であれば特に限定されるものではない。このような環状オレフィンからなるモノマーとしては、例えば、ノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマー等が挙げられる。
なお、上記シクロオレフィン系ポリマーとしては、シクロオレフィンポリマー(COP)又はシクロオレフィンコポリマー(COC)のいずれであっても好適に用いることができる。上記シクロオレフィン系ポリマーは、上記環状オレフィンからなるモノマーの単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。
【0034】
また、上記シクロオレフィン系ポリマーは、23℃における飽和吸水率が1質量%以下であるものが好ましく、なかでも0.1質量%?0.7質量%の範囲内であるものが好ましい。このようなシクロオレフィン系ポリマーを用いることにより、上記別の偏光板保護フィルムを吸水による光学特性の変化や寸法の変化がより生じにくいものとすることができる。
ここで、上記飽和吸水率は、ASTM D570に準拠し23℃の水中で1週間浸漬して増加重量を測定することにより求められる。
【0035】
さらに、上記シクロオレフィン系ポリマーは、ガラス転移点が100?200℃の範囲内であるものが好ましく、100?180℃の範囲内であるものがより好ましく、100?150℃の範囲内であるものが更に好ましい。ガラス転移点が上記範囲内であることにより、上記別の偏光板保護フィルムを耐熱性及び加工適性により優れたものにできる。
【0036】
上記シクロオレフィン系樹脂からなる別の偏光板保護フィルムの具体例としては、例えば、Ticona社製のTopas、ジェイエスアール社製のアートン、日本ゼオン社製のZEONOR、ZEONEX、三井化学社製のアペル等が挙げられる。
【0037】
上記別の偏光板保護フィルムは、単一層からなるものであってもよく、複数層が積層された構成を有するものであってもよい。ここで、複数層が積層された構成としては、同一組成からなる層が複数積層された構成であってもよく、異なる組成からなる層が積層された構成であってもよい。
【0038】
また、上記別の偏光板保護フィルムは、屈折率異方性を有することにより、光学補償機能を有するものであってもよい。
すなわち、本発明では、上記別の偏光板保護フィルムとして、液晶表装置用の光学補償フィルム(位相差フィルム)を用いることができる。上記別の偏光板保護フィルムが光学補償機能を有する態様としては、上述したような材料からなるフィルム中に、屈折率異方性を有する化合物が含有される態様や、上記フィルム上に、屈折率異方性を有する化合物を含有する層が形成された態様等が挙げられる。
本発明においてはこれらいずれの態様であっても好適に用いることができるが、用途に応じて屈折率異方性を任意に調整することが容易であるという点において、後者の態様が好適に用いられる。
【0039】
上記屈折率異方性を有する化合物としては、例えば、棒状化合物、円盤状化合物及び液晶化合物等が挙げられる。また、これらの屈折率異方性を有する化合物は、規則的に配向させることによって優れた光学補償機能を発現し得るものであることから、配向安定性の観点から、重合性官能基を有する化合物が用いられることが好ましい。
【0040】
このような偏光板保護フィルム及び別の偏光板保護フィルムと、偏光板とは、接着剤層を介して配置させることができる。
上記接着剤層に用いられる接着剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の親水性接着剤や、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤等が挙げられる。なかでも、例えば、PETのような疎水性である偏光板保護フィルムにおいては、紫外線硬化型の接着剤層であることが好ましい。
また、紫外線透過率の高い偏光板保護フィルムにおいては、上記接着剤層に紫外線吸収剤を含有させておくことも好ましい態様である。
【0041】
本発明の液晶表示装置は、上記偏光板保護フィルム上に任意の層が単層及び/又は複層形成された構成であってもよい。
上記任意の層としては特に限定されず、例えば、ハードコート層、帯電防止層、低屈折層、高屈折率層、防眩層、防汚層等が挙げられる。
【0042】
上記ハードコート層としては、本発明の液晶表示装置の表面のハードコート性を担保する層であり、例えば、紫外線又は電子線により硬化する樹脂である電離放射線硬化型樹脂と光重合開始剤とを含有するハードコート層形成用組成物を用いて形成されたものであることが好ましい。
【0043】
上記電離放射線硬化型樹脂としては、例えば、アクリレート系の官能基を有する化合物等の1又は2以上の不飽和結合を有する化合物を挙げることができる。1の不飽和結合を有する化合物としては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N-ビニルピロリドン等を挙げることができる。2以上の不飽和結合を有する化合物としては、例えば、ポリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能化合物、又は、上記多官能化合物と(メタ)アクリレート等の反応生成物(例えば多価アルコールのポリ(メタ)アクリレートエステル)、等を挙げることができる。なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」は、メタクリレート及びアクリレートを指すものである。
【0044】
上記化合物のほかに、不飽和二重結合を有する比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等も上記電離放射線硬化型樹脂として使用することができる。
【0045】
上記電離放射線硬化型樹脂は、溶剤乾燥型樹脂(熱可塑性樹脂等、塗工時に固形分を調整するために添加した溶剤を乾燥させるだけで、被膜となるような樹脂)と併用して使用することもできる。溶剤乾燥型樹脂を併用することによって、塗布面の被膜欠陥を有効に防止することができ。上記電離放射線硬化型樹脂と併用して使用することができる溶剤乾燥型樹脂としては特に限定されず、一般に、熱可塑性樹脂を使用することができる。
上記熱可塑性樹脂としては特に限定されず、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体、シリコーン系樹脂及びゴム又はエラストマー等を挙げることができる。上記熱可塑性樹脂は、非結晶性で、かつ有機溶媒(特に複数のポリマーや硬化性化合物を溶解可能な共通溶媒)に可溶であることが好ましい。特に、製膜性、透明性や耐候性の観点から、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(セルロースエステル類等)等が好ましい。
【0046】
また、上記ハードコート層形成用組成物は、熱硬化性樹脂を含有していてもよい。
上記熱硬化性樹脂としては特に限定されず、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂等を挙げることができる。
【0047】
上記光重合開始剤としては特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、上記光重合開始剤としては、具体例には、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α-アミロキシムエステル、チオキサントン類、プロピオフェノン類、ベンジル類、ベンゾイン類、アシルホスフィンオキシド類が挙げられる。また、光増感剤を混合して用いることが好ましく、その具体例としては、例えば、n-ブチルアミン、トリエチルアミン、ポリ-n-ブチルホスフィン等が挙げられる。
【0048】
上記光重合開始剤としては、上記電離放射線硬化型樹脂がラジカル重合性不飽和基を有する樹脂系の場合は、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル等を単独又は混合して用いることが好ましい。また、上記電離放射線硬化型樹脂がカチオン重合性官能基を有する樹脂系の場合は、上記光重合開始剤としては、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、メタロセン化合物、ベンゾインスルホン酸エステル等を単独又は混合物として用いることが好ましい。
【0049】
上記ハードコート層形成用組成物にける上記光重合開始剤の含有量は、上記電離放射線硬化型樹脂100質量部に対して、1?10質量部であることが好ましい。1質量部未満であると、本発明の光学積層体におけるハードコート層の硬度を上述した範囲とすることができないことがあり、10質量部を超えると、塗設した膜の深部まで電離放射線が届かなくなり内部硬化が促進されず、目標であるハードコート層の表面の鉛筆硬度3H以上が得られないおそれがあるためである。
上記光重合開始剤の含有量のより好ましい下限は2質量部であり、より好ましい上限は8質量部である。上記光重合開始剤の含有量がこの範囲にあることで、膜厚方向に硬度分布が発生せず、均一な硬度になりやすくなる。
【0050】
上記ハードコート層形成用組成物は、溶剤を含有していてもよい。
上記溶剤としては、使用する樹脂成分の種類及び溶解性に応じて選択して使用することができ、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン等)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタン等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、水、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール等)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)等が例示でき、これらの混合溶媒であってもよい。
【0051】
上記ハードコート層形成用組成物中における原料の含有割合(固形分)として特に限定されないが、通常は5?70質量%、特に25?60質量%とすることが好ましい。
【0052】
上記ハードコート層形成用組成物には、ハードコート層の硬度を高くする、硬化収縮を抑える、屈折率を制御する、防眩性を付与する等の目的に応じて、従来公知の分散剤、界面活性剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、増粘剤、着色防止剤、着色剤(顔料、染料)、消泡剤、レベリング剤、難燃剤、紫外線吸収剤、接着付与剤、重合禁止剤、酸化防止剤、表面改質剤、易滑剤等を添加していてもよい。
【0053】
また、上記ハードコート層形成用組成物は、光増感剤を混合して用いてもよく、その具体例としては、例えば、n-ブチルアミン、トリエチルアミン、ポリ-n-ブチルホソフィン等が挙げられる。
【0054】
上記ハードコート層形成用組成物の調製方法としては各成分を均一に混合できれば特に限定されず、例えば、ペイントシェーカー、ビーズミル、ニーダー、ミキサー等の公知の装置を使用して行うことができる。
【0055】
また、上記ハードコート層形成用組成物を偏光板保護フィルム上に塗布する方法としては特に限定されず、例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、ダイコート法、バーコート法、ロールコーター法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ピードコーター法等の公知の方法を挙げることができる。
【0056】
上記偏光板保護フィルム上に上記ハードコート層形成用組成物を塗布して形成した塗膜は、必要に応じて加熱及び/又は乾燥し、活性エネルギー線照射等により硬化させることが好ましい。
【0057】
上記活性エネルギー線照射としては、紫外線又は電子線による照射が挙げられる。上記紫外線源の具体例としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト蛍光灯、メタルハライドランプ灯等の光源が挙げられる。また、紫外線の波長としては、190?380nmの波長域を使用することができる。電子線源の具体例としては、コッククロフトワルト型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、又は直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器が挙げられる。
【0058】
なお、上記ハードコート層の膜厚(硬化時)は0.1?100μm、好ましくは0.8?20μmの範囲である。上記ハードコート層の膜厚は、断面を電子顕微鏡(SEM、TEM、STEM)で観察し、測定した値である。
【0059】
上記帯電防止剤は、例えば、上記ハードコート層形成用組成物中に帯電防止剤を含有させることで形成することができる。
上記帯電防止剤としては従来公知のものを用いることができ、例えば、第4級アンモニウム塩等のカチオン性帯電防止剤や、スズドープ酸化インジウム(ITO)等の微粒子や、導電性ポリマー等を用いることができる。
上記帯電防止剤を用いる場合、その含有量は、全固形分の合計質量に対して1?30質量%であることが好ましい。
【0060】
また、上記防眩層は、例えば、上記ハードコート層形成用組成物中に防眩剤を含有させることで形成することができる。
上記防眩剤としては特に限定されず、公知の無機系又は有機系の各種微粒子を用いることができる。
上記微粒子の平均粒径としては特に限定されないが、一般的には、0.01?20μm程度とすれば良い。
また、上記微粒子の形状は、真球状、楕円状等のいずれであっても良く、好ましくは真球状のものが挙げられる。
【0061】
上記微粒子は、防眩性を発揮するものであり、好ましくは透明性の微粒子である。このような微粒子の具体例としては、無機系であれば、例えば、シリカビーズ、有機系であれば、例えば、プラスチックビーズが挙げられる。
上記プラスチックビーズの具体例としては、例えば、スチレンビーズ(屈折率1.60)、メラミンビーズ(屈折率1.57)、アクリルビーズ(屈折率1.49)、アクリル-スチレンビーズ(屈折率1.54)、ポリカーボネートビーズ、ポリエチレンビーズ等が挙げられる。
【0062】
上記低屈折率層は、外部からの光(例えば蛍光灯、自然光等)が上記偏光板保護フィルムの表面にて反射する際、その反射率を低くするという役割を果たす層である。
上記低屈折率層は、その屈折率が上記偏光板保護フィルムよりも小さく、かつ、空気よりも大きいものである。
【0063】
上記低屈折率層は、上記偏光板保護フィルムを透過した光に対する屈折率が、1.1?2.0の範囲内であることが好ましく、1.2?1.8の範囲内であることがより好ましく、1.3?1.6の範囲内であることが更に好ましい。上記低屈折率層の屈折率が上記範囲内であることにより、本発明の液晶表示装置を、より表示品質の高いものにできる。
【0064】
上記低屈折率層の屈折率は、低屈折率層中で偏光板保護フィルム側から空気側に向かって、なだらかに屈折率が空気の屈折率に向かって変化しているものであってもよい。
【0065】
上記低屈折率層に用いられる材料としては、上述した屈折率を有する低屈折率層を形成できるものであれば特に限定されず、例えば、上述したハードコート層形成用組成物で説明した樹脂材料を含有することが好ましい。
また上記低屈折率層は、上記樹脂材料に加えて、シリコーン含有共重合体、フッ素含有共重合体及び、微粒子を含有することで屈折率を調整することができる。
上記シリコーン含有共重合体としては、例えば、シリコーン含有ビニリデン共重合体が挙げられる。また、上記フッ素含有共重合体の具体例としては、例えば、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとを含有するモノマー組成物を共重合することによって得られる共重合体が挙げられる。
また、上記微粒子としては、例えば、シリカ微粒子、アクリル微粒子、スチレン微粒子、アクリルスチレン共重合微粒子、空隙を有する微粒子が挙げられえる。なお、本発明において「空隙を有する微粒子」とは、微粒子の内部に気体が充填された構造及び/又は気体を含む多孔質構造体を形成し、微粒子本来の屈折率に比べて微粒子中の気体の占有率に反比例して屈折率が低下する微粒子を意味する。
【0066】
上記防汚層は、本発明の液晶表示装置の最表面に汚れ(指紋、水性又は油性のインキ類、鉛筆等)が付着しにくく、又は付着した場合でも容易に拭取ることができるという役割を担う層である。また、上記防汚層の形成により、本発明の液晶表示装置に対して防汚性と耐擦傷性の改善を図ることも可能となる。
【0067】
上記防汚層は、例えば、防汚染剤及び樹脂を含む組成物により形成することができる。
上記防汚染剤は、本発明の液晶表示装置の最表面の汚れ防止を主目的とするものであり、本発明の液晶表示装置に耐擦傷性を付与することもできる。
上記防汚染剤としては、例えば、フッ素系化合物、ケイ素系化合物、又は、これらの混合化合物が挙げられる。より具体的には、2-パーフロロオクチルエチルトリアミノシラン等のフロロアルキル基を有するシランカップリング剤等が挙げられ、特に、アミノ基を有するものが好ましくは使用することができる。
上記樹脂としては特に限定されず、上述のハードコート層形成用組成物で例示した樹脂材料が挙げられる。
【0068】
上記防汚層は、例えば、上述のハードコート層の上に形成することができる。特に、防汚層が最表面になるように形成することが好ましい。
上記防汚層は、例えばハードコート層自身に防汚性能を付与することにより代替することもできる。
【0069】
なお、本発明の液晶表示装置において、上述した任意の層は、通常、上記偏光板保護フィルムの視認側(最表面側)に設けられるが、例えば、上記偏光板保護フィルムのカラーフィルター側にも設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0070】
本発明は、上述した構成からなるものであるため、表示画像にニジムラが生じることを極めて高度に抑制することができる液晶表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の液晶表示装置の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】従来の液晶表示装置の一例を模式的に示す断面図である。
【図3】実施例及び比較例で使用した液晶モニターのバックライト光源の発光スペクトルである。
【図4】実施例及び比較例における明所でのニジムラ評価のときに使用した外光の発光スペクトルである。
【図5】平均配向角と配向角差の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
本発明の内容を下記の実施例により説明するが、本発明の内容はこれらの実施態様に限定して解釈されるものではない。また、特別に断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0073】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート材料を290℃で溶融して、フィルム形成ダイを通して、シート状に押出し、水冷冷却した回転急冷ドラム上に密着させて冷却し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを二軸延伸試験装置(東洋精機社製)にて、120℃にて1分間予熱した後、120℃にて、延伸倍率4.5倍に延伸した後、その延伸方向とは90度の方向に延伸倍率1.5倍にて延伸を行い、リタデーション=9900nm、膜厚=100μm、Δn=0.099の偏光板保護フィルムを得た。
次に、液晶モニター(FLATORON IPS226V(LG Electronics Japan社製))の観測者側の偏光板上に得られた偏光板保護フィルムを配置し、液晶表示装置を作製した。なお、偏光板保護フィルムは、該偏光板保護フィルムの遅相軸と液晶モニターの観測者側の偏光板の吸収軸とのなす角度が0°となるように配置した。
【0074】
(実施例2)
偏光板保護フィルムの遅相軸と、液晶モニターの観察者側の偏光板の吸収軸とのなす角度を30°とした以外は、実施例1と同様の方法で液晶表示装置を作製した。
【0075】
(実施例3)
偏光板保護フィルムの遅相軸と、液晶モニターの観察者側の偏光板の吸収軸とのなす角度を60°とした以外は、実施例1と同様の方法で液晶表示装置を作製した。
【0076】
(参考例4)
偏光板保護フィルムの遅相軸と、液晶モニターの観察者側の偏光板の吸収軸とのなす角度を90°とした以外は、実施例1と同様の方法で液晶表示装置を作製した。
【0077】
(実施例5)
実施例1と同様にして得られた未延伸フィルムの延伸倍率を調整して、リタデーション=8200nm、膜厚=92μm、Δn=0.089の偏光板保護フィルムを得た。得られた偏光板保護フィルムを用いた以外は実施例1と同様の方法で液晶表示装置を作製した。
【0078】
(実施例6)
実施例1と同様にして得られた未延伸フィルムの延伸倍率を調整して、リタデーション=19000nm、膜厚=190μm、Δn=0.100の偏光板保護フィルムを得た。得られた偏光板保護フィルムを用いた以外は、実施例1と同様の方法で液晶表示装置を作製した。
【0079】
(実施例7)
実施例1と同様にして得られた未延伸フィルムの延伸倍率を調整して、リタデーション=7500nm、膜厚=75μm、Δn=0.100の偏光板保護フィルムを得た。偏光板保護フィルムの遅相軸(平均配向角)と液晶モニターの観測者側の偏光板の吸収軸とのなす角度が0°となるように配置した。
【0080】
(実施例8)
実施例1と同様にして得られた未延伸フィルムの延伸倍率を調整して、リタデーション=7500nm、膜厚=94μm、Δn=0.08の偏光板保護フィルムを得た。偏光板保護フィルムの遅相軸(平均配向角)と液晶モニターの観測者側の偏光板の吸収軸とのなす角度が0°となるように配置した。
【0081】
(実施例9)
実施例1と同様にして得られた未延伸フィルムの延伸倍率を調整して、リタデーション=6100nm、膜厚=61μm、Δn=0.100の偏光板保護フィルムを得た。偏光板保護フィルムの遅相軸(平均配向角)と液晶モニターの観測者側の偏光板の吸収軸とのなす角度が0°となるように配置した。
【0082】
(実施例10)
実施例1と同様にして得られた未延伸フィルムの延伸倍率を調整して、リタデーション=6100nm、膜厚=81μm、Δn=0.075の偏光板保護フィルムを得た。偏光板保護フィルムの遅相軸(平均配向角)と液晶モニターの観測者側の偏光板の吸収軸とのなす角度が0°となるように配置した。
【0083】
(比較例1)
偏光板保護フィルムの遅相軸と、液晶モニターの観察者側の偏光板の吸収軸とのなす角度を45°とした以外は、実施例1と同様の方法で液晶表示装置を作製した。
【0084】
(比較例2)
実施例1と同様にして得られた未延伸フィルムの延伸倍率を調整して、リタデーション=5200nm、膜厚=52μm、Δn=0.100の偏光板保護フィルムを得た。偏光板保護フィルムの遅相軸(平均配向角)と液晶モニターの観測者側の偏光板の吸収軸とのなす角度が0°となるように配置した。
【0085】
(比較例3)
実施例9にて得られた偏光板保護フィルムの遅相軸(平均配向角)と液晶モニターの観測者側の偏光板の吸収軸とのなす角度が45°となるように設置した。
【0086】
(比較例4)
偏光板保護フィルムとして、リタデーション=6200nm、膜厚=188μm、Δn=0.033の東洋紡社製PETフィルム A4100を用いた以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を作製した。
【0087】
(比較例5)
実施例1と同様にして得られた未延伸フィルムの延伸倍率を調整して、リタデーション=7500nm、膜厚=188μm、Δn=0.040の偏光板保護フィルムを得た。
得られた偏光板保護フィルムを用いた以外は、実施例1と同様の方法で液晶表示装置を作製した。
【0088】
(比較例6)
実施例1と同様にして得られた未延伸フィルムの延伸倍率を調整して、リタデーション=6100nm、膜厚=160μm、Δn=0.038の偏光板保護フィルムを得た。偏光板保護フィルムの遅相軸(平均配向角)と液晶モニターの観測者側の偏光板の吸収軸とのなす角度が0°となるように配置した。
【0089】
(ニジムラ評価)
実施例及び比較例にて作製した液晶表示装置を、暗所及び明所(液晶モニター周辺照度400ルクス)にて、5人の人間が、正面及び斜め方向(約50度)から目視及び偏光サングラス越しに表示画像の観測を行い、ニジムラの有無を以下の基準に従い評価した。
◎:ニジムラが観測されない。
○:ニジムラが観測されるが、薄く、実使用上問題ないレベル。
△:ニジムラが観測される。
×:ニジムラが強く観測される。
なお、図3に使用した液晶モニター(FLATORON IPS226V(LG Electronics Japan社製))のバックライト光源の発光スペクトルを示し、図4に、明所でのニジムラ評価のときに使用した外光の発光スペクトルを示す。
【0090】
(平均配向角と配向角差の測定)
実施例7?10、比較例3及び6に係る液晶表示装置について、偏光板保護フィルムの遅相軸方向の平均配向角及び配向角差を測定した。
測定には、王子計測機器社製の分子配向計(MOA;Molecular Orientation Analyzer)を用い、図5に示すように、液晶モニター(21.5インチ、モニター上下方向27cm、左右方向48cm)において、上下方向、左右方向ともに5cm間隔で合計40点の配向角の測定を行い、平均値を平均配向角とし、配向角差は、測定された配向角の最大値から最小値を引いた値とした。なお、図5における黒点は測定ポイントである。
【0091】
【表1】

【0092】
表1に示したように、偏光板保護フィルムのリタデーションが6000nm以上であり、かつ、偏光板保護フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸とが0°±30°又は90°±30°の範囲にある実施例に係る液晶表示装置は、明所及び暗所における目視、偏光サングラス越しのいずれのニジムラの評価にも優れるものであった。また、偏光板保護フィルムの遅相軸方向の配向角差が1.7°の実施例8に係る液晶表示装置は、該配向角差が0.8°の実施例7に係る液晶表示装置と比較して明所及び暗所での偏光サングラス越しでのニジムラ評価に若干劣っていた。
同様に、偏光板保護フィルムの遅相軸方向の配向角差が2.2°の実施例10に係る液晶表示装置は、該配向角差が1.1°の実施例9に係る液晶表示装置と比較して明所及び暗所での偏光サングラス越しでのニジムラ評価に若干劣っていた。
これに対して、偏光板保護フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角度が45°であった比較例1及び比較例3に係る液晶表示装置は、暗所でのニジムラ評価は良好であったが、明所での偏光サングラス越しでのニジムラ評価に劣るものであった。また、リタデーションが6000nm未満の比較例2に係る液晶表示装置は、明所及び暗所のいずれのニジムラ評価にも劣るものであった。
また、比較例4?6に係る液晶表示装置は、偏光板保護フィルムのリタデーションが6000nm以上であるが、Δnの値が0.05未満であったため、明所及び暗所におけるニジムラ評価に劣っていた。
また、実施例9、10及び比較例6に係る液晶表示装置を比較すると、比較例6に係る液晶表示装置は、実施例9、10に係る液晶表示装置よりも明所及び暗所での偏光サングラス越しでのニジムラ評価に劣っているが、これは、比較例6に係る偏光板保護フィルムの遅相軸方向の配向角差は6.6°と大きな値であったのに対し、実施例9に係る偏光板保護フィルムの配向角差は1.1°、実施例10に係る偏光板保護フィルムの配向角差は2.2°と小さな値であったことも影響していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の液晶表示装置は、高いリタデーション値を有する偏光板保護フィルムを備えた液晶表示装置に適用することができ、表示画像にニジムラが生じることを極めて高度に抑制することができる。
【符号の説明】
【0094】
10、20 液晶表示装置
11、21 液晶セル
12、22 カラーフィルター
13、23、25 偏光板
14 偏光板保護フィルム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックライト光源、液晶セル、カラーフィルター、偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置された構成を有する液晶表示装置であって、
前記偏光板保護フィルムが、
厚みが61?190μmのポリエステル系樹脂からなり、
前記偏光板保護フィルムは、6000nm以上のリタデーションを有するとともに、面内において最も屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、かつ、前記遅相軸方向の配向角差が6°以内であり、
前記液晶表示装置の最表面に配設され、前記偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が、0°±30°の範囲又は90°±30°(ただし、90°を除く)の範囲となるように配設して用いられるものであり、
前記遅相軸方向の配向角差は、分子配向計を用いて、前記偏光板保護フィルムの上下方向、左右方向ともに5cm間隔で合計40点の配向角の測定を行い、測定された配向角の最大値から最小値を引いた値である
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
バックライト光源は、白色発光ダイオードである請求項1記載の液晶表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-29 
出願番号 特願2013-148034(P2013-148034)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B)
P 1 651・ 113- YAA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 最首 祐樹  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
河原 正
登録日 2016-07-15 
登録番号 特許第5968272号(P5968272)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 液晶表示装置及び偏光板保護フィルム  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  

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