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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
管理番号 1333231
異議申立番号 異議2016-701118  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-07 
確定日 2017-09-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5930844号発明「ねじ付き容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5930844号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第5930844号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5930844号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成24年5月26日に出願され、平成28年5月13日にその特許権の設定登録がされたものである。その後、その特許について、特許異議申立人伊澤武登(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年3月24日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成29年5月25日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、これらの意見書、訂正の請求書及びこれに添付された訂正特許請求の範囲の副本を申立人に送付したが、指定期間内に意見書は提出されなかったものである。

第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、「特許第5930844号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5について訂正することを求める」ものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。

特許請求の範囲の請求項1に、
「該膨出部が、前記外周面に、中心軸に直交する断面形状において少なくとも一部が真円形状に対して内側に歪んでいる部分を有している」と記載されているものを、
「該膨出部が、前記外周面に、中心軸に直交する断面形状において少なくとも一部が真円形状に対して内側に歪んでいる部分を有し、
前記歪んでいる部分が、開栓時に回転を始めるときの第1トルクを上げるために変形させた部分である」に訂正する(以下、「本件訂正」という。)。(請求項1を引用する請求項2?5についても、同様に訂正する。)

2.訂正の適否
(1)本件訂正は、請求項1の膨出部の真円形状に対して内側に「歪んでいる部分」について、「開栓時に回転を始めるときの第1トルクを上げるために変形させた部分である」との特定事項を付し、「歪んでいる部分」の機能について限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)また、本件訂正は、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)に、
「本発明は・・・・ライナーを変更する必要が無く、開栓トルクのうち第1トルクを必要なレベルに上げることができるねじ付き容器を提供することを目的とする。」(段落【0011】)、
「開栓時、第1トルクに僅かにしか寄与していないピルファープルーフ部(PPバンド部)と、膨出部(かぶら部)下面又は側面との嵌合において、膨出部下面又は側面の形状を断面真円形状から僅かに変更することにより、第1トルクを上げる方法を見出すことが出来た。
すなわち、膨出部下面又は側面の形状を円周に沿って同一の形状にするのではなく、膨出部の下面又は側面の一部を、僅かに変形させた形状にすることである。このことにより、開栓時の第1トルクは要求される高さのトルク値まで上昇させることができる。本発明は、第1トルクがライナーと口部との接触によらず、シェル面とライナー面で摺動する場合も第1トルクをコントロールする有効な方法である。」(段落【0014】)
と記載されているように、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。

(3)そして、本件訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.請求項1?5に係る発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?5に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ねじ付き容器本体の雄ねじ部が形成された口部に金属キャップを螺着状態に装着したねじ付き容器であって、
前記金属キャップが、天板部と該天板部の周縁から垂下した筒状周壁部と該筒状周壁部の下に複数の橋絡部で結合されたピルファープルーフ部とからなるキャップ本体と、前記天板部の内面に設けられたライナーとを備え、
前記口部が、前記ライナーと接する口唇部と、該口唇部の下に形成された前記雄ねじ部と、該雄ねじ部の下に膨出して形成され前記ピルファープルーフ部が圧着された外周面を有する膨出部とを備え、
該膨出部が、前記外周面に、中心軸に直交する断面形状において少なくとも一部が真円形状に対して内側に歪んでいる部分を有し、
前記歪んでいる部分が、開栓時に回転を始めるときの第1トルクを上げるために変形させた部分であることを特徴とするねじ付き容器。
【請求項2】
請求項1に記載のねじ付き容器において、
前記歪んでいる部分が、中心軸に対して点対称の位置に形成されていることを特徴とするねじ付き容器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のねじ付き容器において、
前記歪んでいる部分が、周方向において徐々に曲率が変化していることを特徴とするねじ付き容器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のねじ付き容器において、
前記膨出部の前記外周面の中心軸に直交する断面形状が、楕円形状であることを特徴とするねじ付き容器。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載のねじ付き容器において、
前記歪んでいる部分が、前記膨出部の前記外周面の中心軸に対する傾斜角度が周方向において他の部分と異なっていることを特徴とするねじ付き容器。」

2.取消理由の概要
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。なお、申立人の特許異議の申立ての理由は、すべて通知した。

理由1)本件特許は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2号並びに第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2)本件特許の請求項1、4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲第1号証:再公表特許第2006/043347号
甲第2号証:特開2011-194474号公報
甲第3号証:米国特許第3465907号明細書
甲第4号証:実公昭58-43568号公報
甲第5号証:特開2003-277865号公報
甲第6号証:特開2004-244701号公報
甲第7号証:特開2006-265700号公報

[理由1]
請求項1には、「膨出部が、前記外周面に、中心軸に直交する断面形状において少なくとも一部が真円形状に対して内側に歪んでいる部分を有している」旨記載されている。しかし、甲第1号証(段落【0018】、【0029】)や甲第2号証(段落【0019】、【0030】)に記載されるように、ねじ付き容器の口金部を真円に形成すること自体が困難であることからすると、一般のねじ付き容器は、口金部が真円から多少なりとも歪んでいるとみることができる。このことからすれば、請求項1の「真円形状に対して内側に歪んでいる」がどの程度の歪みであるか明確ではなく、その技術的な意味も不明である。
また、本件特許の発明の詳細な説明には、「歪んでいる部分D1の歪み度合い(扁平率:長軸と短軸との比率)を適宜設定することで、適度な第1トルクに調整することができる」(段落【0031】)、「歪んでいる部分D2の数や広さ等を適宜設定することで、適度な第1トルクに調整することができる」(段落【0036】)旨の記載はあるものの、どの程度の「扁平率」あるいは「歪んでいる部分D2の数や広さ等」にすればよいのか記載されておらず、当業者が請求項1?5に係る発明を実施することができる程度に記載されているとはいえない。さらに、発明の詳細な説明から、請求項1?5に係る発明の課題を解決できると認識できるものでもない。

[理由2]
請求項1、4に係る発明は、甲第1号証?甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.取消理由1(特許法第36条)に係る当審の判断
(1)本件特許明細書の記載
ア.「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
・・・・
PPキャップの開栓トルクには、第1トルクと第2トルクとがある。第1トルクは、開栓時、回転を始めるときのトルク値であり、第2トルクは、キャップシェルのブリッジ部が切断されるときのトルク値である。
・・・・
ここで、第1トルクが低すぎる場合、滑剤の量を減らす等の対応が有るが、滑剤を使用していないか、殆ど使用していない場合は、第1トルクを上げるのは困難である。特に、ライナー材が摺動層と密封層とに分かれているライナーでは、通常、摺動層に滑剤が添加されていないため、第1トルクの低トルク問題に対しては、摺動層に滑り性を下げる粘着剤、樹脂等をブレンドする方法、摺動層の樹脂材の硬度を下げる等の方法が考えられるが、これらは一長一短があり、必ずしも適切な方法ではない。・・・・
【0011】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、ライナーを変更する必要が無く、開栓トルクのうち第1トルクを必要なレベルに上げることができるねじ付き容器を提供することを目的とする。」
イ.「【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るねじ付き容器の第1実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。
【0023】
本実施形態のねじ付き容器1は、図1及び図2に示すように、ねじ付き容器本体2の雄ねじ部2aが形成された口部2bに金属キャップ3を螺着状態に装着したねじ付き容器であって、金属キャップ3が、天板部3aと該天板部3aの周縁から垂下した筒状周壁部3bと該筒状周壁部3bの下に複数の橋絡部3cで結合されたピルファープルーフ部3dとからなるキャップ本体4と、天板部3aの内面に設けられたライナー5とを備えている。
【0024】
上記口部2bは、ライナー5と接する口唇部2cと、該口唇部2cの下に形成された上記雄ねじ部2aと、該雄ねじ部2aの下に膨出して形成され中心軸Cに対して傾斜してピルファープルーフ部3dが圧着された下面を有する膨出部2eとを備えている。
該膨出部2eは、その下面又は側面に、中心軸に直交する断面形状において少なくとも一部が真円形状に対して内側に歪んでいる部分D1を有している。すなわち、歪んでいる部分D1は、断面形状が真円形状に沿った他の部分よりも曲率が大きく、歪んでいる部分D1以外の部分は、断面形状が真円形状の一部に一致した形状となっている。
また、前記歪んでいる部分D1が、中心軸Cに対して点対称の位置に形成されている。すなわち、本実施形態の膨出部2eは、中心軸Cを挟んで互いに対向した一対の前記歪んでいる部分D1を有している。
【0025】
さらに、前記歪んでいる部分D1は、周方向において徐々に曲率が変化しており、本実施形態では、膨出部2eの下面又は側面の中心軸Cに直交する断面形状が、楕円形状とされている。すなわち、断面楕円形状の膨出部2eにおいて、短軸上の部分が最も歪んでいる部分D1となり、長軸上の部分だけが、その断面形状が真円形状に一致している。
【0026】
また、前記歪んでいる部分D1は、膨出部2eの下面において、中心軸Cに対する傾斜角度θ1が周方向において他の部分の傾斜角度θ2と異なっている。すなわち、図1に示すように、断面楕円形状の膨出部2eにおいて、短軸上における傾斜角度θ1は、長軸上の傾斜角度θ2よりも僅かに小さくなっている。なお、上記傾斜角度θ1と傾斜角度θ2との角度差は、10°以内が好ましく、さらには5°以内であることがより好ましい。」
ウ.「【0031】
このように本実施形態のねじ付き容器1では、膨出部2eが、その下面又は側面に中心軸に直交する断面形状において少なくとも一部が真円形状に対して内側に歪んでいる部分D1を有しているので、螺着状態の金属キャップ3を回転させて開栓開始する際に、膨出部2e下面又は側面の歪んでいる部分D1に圧着されているピルファープルーフ部3dの部分が半径方向外方に広げられて高い抵抗が生じ、真円形状の場合に比べて第1トルクを高めることができる。なお、前記歪んでいる部分D1の歪み度合い(扁平率:長軸と短軸との比率)を適宜設定することで、適度な第1トルクに調整することができる。
【0032】
また、前記歪んでいる部分D1が、中心軸Cに対して点対称の位置に形成されているので、開栓時に周方向でバランス良く第1トルクを発生させることができる。
さらに、前記歪んでいる部分D1が、周方向において徐々に曲率が変化しているので、開栓開始時に徐々に抵抗が高くなり、引っ掛かるような感覚を無くし、適度に上げた第1トルクでスムーズな開栓が可能になって、開栓性が向上する。
【0033】
特に、本実施形態では、膨出部2eの下面又は側面の中心軸Cに直交する断面形状が、楕円形状であるので、断面楕円形状の短軸方向が前記歪んでいる部分D1となり、この部分に接するピルファープルーフ部3dが開栓により長軸方向に向けて回転することで、高い抵抗を生じさせることができる。」
エ.「【0035】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、膨出部2eの下面又は側面の中心軸Cに直交する断面形状が楕円形状であるのに対し、第2実施形態のねじ付き容器におけるねじ付き容器22は、図4に示すように、膨出部22eの側面の中心軸Cに直交する断面形状が、四方の4箇所で真円形状に対して内側に歪んでいる点である。すなわち、第2実施形態の膨出部22eは、歪んでいる部分D2として中心軸Cを中心に四方に配置された平坦面部を有している。
【0036】
したがって、第2実施形態のねじ付き容器では、4箇所の平坦面部である前記歪んでいる部分D2が膨出部22eの側面に形成されているので、第1実施形態と同様に、螺着状態の金属キャップ3を回転させて開栓開始する際に、膨出部22e下面又は側面の歪んでいる部分D2に圧着されているピルファープルーフ部3dの部分が半径方向外方に広げられて高い抵抗が生じ、真円形状の場合に比べて第1トルクを高めることができる。なお、前記歪んでいる部分D2の数や広さ等を適宜設定することで、適度な第1トルクに調整することができる。」
オ.実施例1には、第1実施形態について実施例と比較例が示されている。
「【表1】


カ.実施例2には、第2実施形態について実施例と比較例が示されている。
「【表2】



(2)特許法第36条第4項第1号の規定に係る取消理由について
本件特許明細書には、第1実施形態として、ねじ付き容器1の口部2bの膨出部2eの「下面又は側面に、中心軸に直交する断面形状において少なくとも一部が真円形状に対して内側に歪んでいる部分D1を有して」おり、「歪んでいる部分D1は、膨出部2eの下面において、中心軸Cに対する傾斜角度θ1が周方向において他の部分の傾斜角度θ2と異な」り、「傾斜角度θ1と傾斜角度θ2との角度差は、10°以内が好ましく、さらには5°以内であることがより好ましい」と記載され(上記(1)イ.)、実施例1により、傾斜角度の最大値と最小値の間に5°から10°の差を設けた場合には、差を設けない場合と比べて、「表1に示すように、本発明の実施例では、比較例に比べて第1トルクが向上していると共にすっぽ抜けが生じていない」(本件特許明細書の段落【0040】)ことが確認される。
また、第2実施形態は、「膨出部22eの側面の中心軸Cに直交する断面形状が、四方の4箇所で真円形状に対して内側に歪んでいる点」としたものであり(上記(1)エ.)、実施例2により、歪んでいる部分の周方向長さを2?10mmとした場合と、比較例の0mmの場合とで、「表2に示すように、本発明の実施例では、比較例に比べて第1トルクが向上していること」(同段落【0043】)が確認される。
そして、乙第1号証(特開2003-260520号公報)や乙第2号証(特開2008-200755号公報)に記載されるように、金属缶の壁面に平坦部や縦リブ等の形状を、金型で押圧して形成することは周知の技術である。
すると、本件特許明細書の第1実施形態や第2実施形態に係る記載や、実施例1における傾斜角度、実施例2における歪んでいる部分の周方向長さを参考に、金属缶の壁面を金型で適宜形状に形成することが周知の技術であることを踏まえれば、当業者であれば、「歪んでいる部分」を備える本件訂正発明1?5を実施することが困難なこととはいえない。

(3)特許法第36条第6項第1号の規定に係る取消理由について
PPキャップの開栓トルクのうち、開栓時、回転を始めるときのトルク値である「第1トルク」について、「第1トルクが低すぎる場合、滑剤の量を減らす等の対応が有るが、滑剤を使用していないか、殆ど使用していない場合は、第1トルクを上げるのは困難である」ことから(上記(1)ア.)、本件訂正発明1?5は、「ライナーを変更する必要が無く、開栓トルクのうち第1トルクを必要なレベルに上げることができるねじ付き容器を提供すること」(本件特許明細書の段落【0011】)との課題を解決しようとしてなされたものである。
ここで、本件特許明細書の記載を参照すると、第1実施形態により「膨出部2eが、その下面又は側面に中心軸に直交する断面形状において少なくとも一部が真円形状に対して内側に歪んでいる部分D1を有しているので、螺着状態の金属キャップ3を回転させて開栓開始する際に、膨出部2e下面又は側面の歪んでいる部分D1に圧着されているピルファープルーフ部3dの部分が半径方向外方に広げられて高い抵抗が生じ、真円形状の場合に比べて第1トルクを高めることができる。なお、前記歪んでいる部分D1の歪み度合い(扁平率:長軸と短軸との比率)を適宜設定することで、適度な第1トルクに調整することができる。」(本件特許明細書の段落【0031】。なお、下線は当審において付したもの。以下同じ。)と、また、第2実施形態により「4箇所の平坦面部である前記歪んでいる部分D2が膨出部22eの側面に形成されているので、第1実施形態と同様に、螺着状態の金属キャップ3を回転させて開栓開始する際に、膨出部22e下面又は側面の歪んでいる部分D2に圧着されているピルファープルーフ部3dの部分が半径方向外方に広げられて高い抵抗が生じ、真円形状の場合に比べて第1トルクを高めることができる。なお、前記歪んでいる部分D2の数や広さ等を適宜設定することで、適度な第1トルクに調整することができる。」(同じく段落【0036】)と記載されている。これらの記載から、上記本件訂正発明1?5の課題である第1トルクを上げるための手法は、膨出部下面又は側面の歪んでいる部分に圧着されているピルファープルーフ部の部分が半径方向外方に広げられ、高い抵抗が生じることを利用したものであり、高い抵抗を生じさせ第1トルクを上げるためには、膨出部が歪んでいる部分を備えること、その歪んでいる部分にピルファープルーフ部が圧着されていることが必要であるものと理解できる。
この点、本件訂正発明1には、「雄ねじ部の下に膨出して形成され」「ピルファープルーフ部が圧着された外周面を有する膨出部とを備え」、「膨出部が、前記外周面に、中心軸に直交する断面形状において少なくとも一部が真円形状に対して内側に歪んでいる部分を有し、前記歪んでいる部分が、開栓時に回転を始めるときの第1トルクを上げるために変形させた部分であること」と特定され、膨出部の外周面に歪んでいる部分を備えるものであり、その歪んでいる部分にはピルファープルーフ部が圧着されている。
そして、当該特定事項を備えることによって、開栓時に高い抵抗を生じさせ第1トルクを上げることができることは明らかであるから、当該特定事項を備える本件訂正発明1?5は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているものとはいえない。

(4)特許法第36条第6項第2号の規定に係る取消理由について
本件訂正発明1の「真円形状に対して内側に歪んでいる」との事項について、本件訂正発明1では、さらに、「前記歪んでいる部分が、開栓時に回転を始めるときの第1トルクを上げるために変形させた部分である」旨特定されている。すなわち、「真円形状に対して内側に歪んでいる」歪みが、「開栓時に回転を始めるときの第1トルクを上げるために変形させ」る程度の歪みであり、開栓時に回転を始めるときの「第1トルク」を上げるという技術的意義を有するものであることが理解される。
そして、本件特許明細書の「断面楕円形状の膨出部2eにおいて、短軸上における傾斜角度θ1は、長軸上の傾斜角度θ2よりも僅かに小さくなっている。なお、上記傾斜角度θ1と傾斜角度θ2との角度差は、10°以内が好ましく、さらには5°以内であることがより好ましい。」(段落【0026】)との記載や、第2実施形態の歪んでいる部分(平坦面部)の周方向長さの実施例における具体例(2?10mm)も踏まえれば、「真円形状に対して内側に歪んでいる」との事項を含む本件訂正発明1?5が、明確でないとはいえない。

(5)以上のことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。
また、本件訂正発明1?5が、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえず、明確でないともいえない。

4.取消理由2(特許法第29条)に係る当審の判断
(1)甲第1号証には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
・・・・
【0010】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、ボトル缶に更なる購買意欲喚起機能を具備させることが可能になるとともに、このようなボトル缶を高精度に形成することができるボトル缶の製造方法およびボトル缶を提供することを目的とする。」
「【0018】
この場合、前記第1凸部を径方向内方へ向けて折り曲げながら、または径方向内方へ向けて押し潰しながら、前記溝部を周方向に複数形成するので、口金部の真円度を低下させることなく前記溝部を容易に形成することが可能になる。すなわち、前記ネックイン加工後に前記第1凸部を形成することで、ネックイン加工によって、前記口金部形成予定部の真円度が低下しても、これを矯正することが可能になり、この部分の真円度の低下を抑制することができる。」
「【0029】
この場合、複数の前記溝部を前記肩部の全周に亙って一度の加工で形成することが可能になり、高効率生産を実現することができるとともに、前記肩部に作用する負荷を全周に亙って均一にすることが可能になるので、前記口金部形成予定部の真円度が低下することを最小限に抑制することができる。」
上記の記載からみて、甲第1号証には、ボトル缶の口金部を真円に製造することが困難であることが記載され、口金部形成予定部の真円度が低下することを抑制することを課題として、「ボトル缶を高精度に形成することができるボトル缶の製造方法およびボトル缶」の発明が記載されている。
また、甲第2号証にも、甲第1号証と同様の記載がある。

(2)本件訂正発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、本件訂正発明1は、口金の膨出部が「外周面に、中心軸に直交する断面形状において少なくとも一部が真円形状に対して内側に歪んでいる部分を有し」、「歪んでいる部分が、開栓時に回転を始めるときの第1トルクを上げるために変形させた部分である」ようにしたものであり、甲第1号証に記載された発明のように真円度が低下することを抑制して「ボトル缶を高精度に形成する」ものではなく、むしろ、「真円形状に対して内側に歪んでいる部分」を積極的に形成しようとするものであるから、甲第1号証の記載からは、本件訂正発明1のものにしようとする動機付けが見いだせない。また、甲第3号証?甲第7号証にも、それを示唆する記載はない。
よって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第7号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第7号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件訂正発明4は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、本件訂正発明1は、上記のように、甲第1号証あるいは甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第7号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件訂正発明4も、甲第1号証あるいは甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第7号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本件訂正発明1?5に係る特許については、取消理由通知に記載した取消理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ付き容器本体の雄ねじ部が形成された口部に金属キャップを螺着状態に装着したねじ付き容器であって、
前記金属キャップが、天板部と該天板部の周縁から垂下した筒状周壁部と該筒状周壁部の下に複数の橋絡部で結合されたピルファープルーフ部とからなるキャップ本体と、前記天板部の内面に設けられたライナーとを備え、
前記口部が、前記ライナーと接する口唇部と、該口唇部の下に形成された前記雄ねじ部と、該雄ねじ部の下に膨出して形成され前記ピルファープルーフ部が圧着された外周面を有する膨出部とを備え、
該膨出部が、前記外周面に、中心軸に直交する断面形状において少なくとも一部が真円形状に対して内側に歪んでいる部分を有し、
前記歪んでいる部分が、開栓時に回転を始めるときの第1トルクを上げるために変形させた部分であることを特徴とするねじ付き容器。
【請求項2】
請求項1に記載のねじ付き容器において、
前記歪んでいる部分が、中心軸に対して点対称の位置に形成されていることを特徴とするねじ付き容器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のねじ付き容器において、
前記歪んでいる部分が、周方向において徐々に曲率が変化していることを特徴とするねじ付き容器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のねじ付き容器において、
前記膨出部の前記外周面の中心軸に直交する断面形状が、楕円形状であることを特徴とするねじ付き容器。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載のねじ付き容器において、
前記歪んでいる部分が、前記膨出部の前記外周面の中心軸に対する傾斜角度が周方向において他の部分と異なっていることを特徴とするねじ付き容器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-09-01 
出願番号 特願2012-120330(P2012-120330)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B65D)
P 1 651・ 121- YAA (B65D)
P 1 651・ 536- YAA (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐野 健治  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 井上 茂夫
谿花 正由輝
登録日 2016-05-13 
登録番号 特許第5930844号(P5930844)
権利者 ユニバーサル製缶株式会社
発明の名称 ねじ付き容器  
代理人 杉浦 秀幸  
代理人 杉浦 秀幸  

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