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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1333897
審判番号 不服2015-21640  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-04 
確定日 2017-10-26 
事件の表示 特願2011-547884「ビデオ符号化およびビデオ復号における変換の選択のための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月 5日国際公開、WO2010/087807、平成24年 7月19日国内公表、特表2012-516625〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、本願は、2009年(平成21年)10月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年1月27日、米国、2009年2月17日、米国)を国際出願日とする出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

手続補正 :平成24年10月17日
拒絶理由通知 :平成25年12月 6日(起案日)
手続補正 :平成26年 6月11日
拒絶理由通知(最後) :平成26年12月18日(起案日)
手続補正 :平成27年 6月24日
補正の却下の決定 :平成27年 7月27日
拒絶査定 :平成27年 7月27日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成27年12月 4日
手続補正 :平成27年12月 4日
前置審査報告 :平成28年 2月 9日
上申書 :平成28年 4月19日

第2 平成27年12月4日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成27年12月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、補正前の平成26年6月11日付けの手続補正による特許請求の範囲の請求項1ないし16を、本件補正による特許請求の範囲の請求項1ないし16に補正するものであるところ、本件補正は、請求項1に係る次の補正事項を含むものである(下線は補正箇所)。

(補正前の請求項1)
「【請求項1】
装置であって、
ビデオ・シーケンスにおけるピクチャ内の少なくとも1つのブロックの符号化を、当該ブロック毎に予め決定された2つ以上の異なる変換のセットから前記ビデオ・シーケンスにおける隣接するピクチャ間の当該ブロックの残差に適用する変換を選択することによって行うビデオ符号化器を備え、
前記2つ以上の異なる変換のセットは、前記ブロックについて符号化されることになるデータから決定される、前記装置。」
とあるのを、

(補正後の請求項1)
「【請求項1】
装置であって、
ビデオ・シーケンスにおけるピクチャ内の少なくとも1つのブロックの符号化を、当該ブロック毎に予め決定された2つ以上の異なる変換のセットから前記ビデオ・シーケンスにおける隣接するピクチャ間の当該ブロックの残差に適用する変換を選択することによって行うビデオ符号化器を備え、
前記2つ以上の異なる変換のセットは、前記ブロックについて符号化されることになるデータから決定され、
前記2つ以上の異なる変換のセットは、1つ以上の前のピクチャからの再構成されたビデオ・データからオフラインで導出される、前記装置。」
と補正する。

2.補正の適合性
(1)補正事項
請求項1に係る補正事項は、請求項1の発明特定事項である「2つ以上の異なる変換のセット」について、「前記2つ以上の異なる変換のセットは、1つ以上の前のピクチャからの再構成されたビデオ・データからオフラインで導出される」ものであるという技術事項を追加するものである。

(2)新規事項の有無について
本件補正が、国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文、又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、「翻訳文等」という)に記載した事項の範囲内でなされたものであるかについて、以下に検討する。

(2-1)請求人の主張
請求人は審判請求書において、上記補正事項に関し、「本願明細書の段落[0078]等の記載に基づくもの」であると説明する。
また、上申書においては、段落[0073]も併せて補正の根拠であると説明している。

(2-2)明細書の記載事項
本願明細書には次のような記載がある。なお、下線は強調のために当審で付したものである。

「【0073】
一つの実施形態においては、変換のセットは、トレーニング・データとしてシーケンスのセットを用いて、オフラインで導出される。上述したように、良好なトレーニング・セットが確定されると、KLTに基づく方法、スパース性に基づく方法、エネルギー圧縮、または、その他の方法を使用して変換のセットを導出することができる。」

「【0078】
別の実施の形態においては、変換のセットは、既に符号化されているデータからオンライン(online)で導出される。本実施の形態の2つの例示的な実施態様を、以下の通りに示す。1つの例示的な実施態様によれば、前のフレームの再構成されたデータは、利用可能な方法のいずれかにより変換のセットを導出するために、トレーニング・セットとして使用される。別の例示的な実施態様においては、再構成されたデータが使用されて、現在使用中の変換のリファインメントを行うことにより、現在のデータの統計と一致するように、変換がオンラインで更新されるようにする。」

(2-3)判断
本願明細書には、段落【0073】の記載によれば、『変換のセットは、トレーニング・データとしてシーケンスのセットを用いて、オフラインで導出される』一つの実施形態が示されている。
また、段落【0078】の記載によれば、『変換のセットは、前のフレームの再構成されたデータをトレーニング・セットとして使用して、オンラインで導出される』別の実施形態が示されている。

このように、本願明細書には、変換のセットをオンラインで導出する場合には、あるフレームのブロックを符号化している時に、そのフレームより前のフレームの再構成されたデータを用いて変換のセットを導出するという技術が記載されていると認められる。
しかしながら、変換のセットをオフラインで導出する場合には、シーケンスのセット、すなわちビデオコンテンツのシーケンスデータを用いて変換のセットを導出する技術が記載されているだけであり、前のフレームの再構成されたデータを用いるというような時間的に制約された状態下における変換のセットを導出するための技術思想が記載されているとは認められない。

よって、上記補正事項に関する『オフラインにおいて、変換のセットを1つ以上の前のピクチャからの再構成されたビデオ・データから導出する』ことは、本願明細書の当該段落から読み取ることはできない。

また、翻訳文等のその他の記載を参酌しても、上記補正事項に関する記述はなく、上記補正事項が当業者にとって自明なこととも認められない。

以上のことから、上記補正事項を含む本件補正は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成27年12月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成26年6月11日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載した事項により特定されるものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
なお、本願発明の各構成の符号は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成(A)、構成(B)などと称する。

(本願発明)
(A)装置であって、
(B)ビデオ・シーケンスにおけるピクチャ内の少なくとも1つのブロックの符号化を、当該ブロック毎に予め決定された2つ以上の異なる変換のセットから前記ビデオ・シーケンスにおける隣接するピクチャ間の当該ブロックの残差に適用する変換を選択することによって行うビデオ符号化器を備え、
(C)前記2つ以上の異なる変換のセットは、前記ブロックについて符号化されることになるデータから決定される、
(A)前記装置。

2.引用文献の記載事項
ア.引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である特開2005-167655号公報には、「変換符号化方法および変換復号化方法」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は強調のために当審で付したものである。

(ア)「【背景技術】
【0002】
JPEG方式、MPEGビデオ方式に代表される従来の画像符号化方式においては、画面を予め定められた単位に分割し、その分割単位で符号化を行う。例えば、MPEG-1、MPEG-2方式においては、マクロブロックと呼ばれる水平16画素、垂直16画素の単位で動き補償を行う。そして、動き補償後の残差信号に対しては、画面中の各マクロブロックに含まれるブロックと呼ばれる水平8画素、垂直8画素の単位で離散コサイン変換(以下DCTと略す)を行い、変換係数に量子化等の処理を行うことにより、最終的な符号列を得る。
【0003】
これに対して近年、低ビットレート用の変換符号化方式として、マッチングパースート(Matching Pursuit、以下MPと略す)方式が提案されている(非特許文献1)。非特許文献1で提案されているMP方式では、動き補償後の残差信号を符号化する際に、予め定められた多数の変換基底(非直交変換基底)を用いて、画面内の任意の位置に一つの変換基底を置く処理を繰り返すことにより符号化する方法である。」

(イ)「【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図1から図13を用いて説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の変換符号化方法を用いた動画像符号化装置100のブロック図であり、分割手段101、第1の変換手段102、第2の変換手段103、選択手段104、符号列生成手段105から構成される。
(中略)
【0011】
分割手段101では、所定の大きさで、入力された画像信号を分割する。ここでは画像信号をブロック形状に分割するとし、水平N画素×垂直N画素のブロックに分割を行う。例えばNとしては4、8、16等の値を取ることが出来る。分割手段101は、各ブロックの画像信号Pを第1の変換手段102と第2の変換手段103とに出力する。また、各ブロックに対する領域情報Rを第1の変換手段102に対して出力する。」

(ウ)「【0034】
ステップ611では、逆変換手段504において生成した復号画像信号をD2として出力する。また、可変長符号化手段506で生成した符号列をS2として、符号列の符号量をB2として出力する。
選択手段104には、処理対象ブロックの入力画像Pと、第1の変換手段102により処理した処理対象ブロックの復号化画像D1、符号列S1、符号量B1と、第2の変換手段103により処理した処理対象ブロックの復号化画像D2、符号列S2、符号量B2とが入力される。そして、いずれかの符号列を選択する。
【0035】
第1の選択方法としては、処理対象ブロックの入力画像Pと、復号化画像D1、D2との誤差エネルギーを求め、その誤差エネルギーが小さい方を選択する。
第2の選択方法としては、処理対象ブロックの入力画像Pと、復号化画像D1、D2との誤差エネルギーを求め(それらをそれぞれE1、E2とする)、E1+λB1とE2+λB2とを計算し、その値の小さい方を選択する。ここでλは重み係数である。
【0036】
選択された方の符号列Sと、第1の変換手段102の出力と第2の変換手段103の出力とのいずれを選択したかという選択情報Lとは、符号列生成手段105に対して出力される。
符号列生成手段105では、選択情報Lと符号列Sとを接続して、処理対象ブロックの符号列とする。符号列のフォーマット例を図8に示す。
【0037】
以上のように、本発明の変換符号化方法においては、領域情報を有する画像信号を符号化する際に、ブロック単位に分割し、2つの変換方法で符号化を行う。第1の変換方法は、ブロック内の領域毎に直交変換を行って符号化を行い、第2の変換方法は、ブロック内を領域に分割せずに、双直交変換を行って符号化(MP符号化)を行う。そして、ブロック毎に符号化効率が高くなる方を選択し、その符号列を出力する。
【0038】
一般に、符号化レートが高くなると直交変換の符号化効率が高く、また符号化レートが低くなると双直交変換の符号化効率が高くなる。また、動き補償後の残差信号に変換符号化を施す場合、残差成分が多い場合には直交変換の方が符号化効率が高く、残差成分が少ない場合には双直交変換の方が符号化効率が高くなる。そのため、上記の処理を行うことにより、低符号化レートから高符号化レートまで、幅広い符号化レートで高い符号化効率を達成することができ、ブロックの特性に応じて符号化効率の高い変換方法を選択することができる。また、直交変換においては、異なる領域の画像が一つのブロック内に入ると符号化効率が落ちることが知られているが、同じブロックに属する領域毎に直交変換を施すことにより、直交変換時の符号化効率を高くすることができる。
【0039】
なお、本発明の実施の形態においては、第1の変換手段の変換基底として、離散コサイン変換基底を用いて説明したが、これは他の変換基底であっても良い。例えば、他の変換基底としては、離散フーリエ変換、離散サイン変換、アダマール変換等の変換基底がある。(後略)」

(エ)「【0041】
また、本発明の実施の形態においては、第1の変換手段102と、第2の変換手段103の2つの変換手段を用いて各ブロックを処理し、符号化効率の高い変換手段を選択する場合について説明したが、変換手段は3つ以上あっても良い。例えば、第3の変換手段として、ブロック内の領域を考慮せずにブロック全体を離散コサイン変換等の直交変換により変換する方法を用いることができる。これにより、さらに処理量は増加するが、さらに符号化効率の向上を図ることができる。」

イ.引用文献2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2である特開2002-314428号公報には、「信号符号化方法及び装置並びに復号方法及び装置」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は強調のために当審で付したものである。

(ア)「【0054】次に、本発明の第二の実施の形態について説明する。
【0055】本実施の形態に係る画像符号化装置は、例えば、図11に示すように構成され、また、画像復号装置は、例えば、図12に示すように構成される。本実施の形態では、動き補償フレーム間予測により時間方向に存在する冗長度を削減し、動き補償予測の結果得られた該マクロブロックの予測画像の波形パターンを、主成分に該当する基底でうまく捉えられるようにDCT基底を変形させ、該変形基底を用いた変換符号化による情報圧縮を行う。あらかじめ画像の局所的な性質を考慮した変換基底を数種類用意しておき、予測画像のパターンに応じてそれらを切り替えて使用する。画像符号化装置側と画像復号装置側に同一の基底セットを設けておき、基底の切替情報としてID情報のみを送受信する。画像復号装置側ではID情報に基づいて基底を選択するだけであり、画像復号装置側での基底演算を必要としない。
(中略)
【0061】変換基底演算部218は、入力される予測画像206を直交変換適用領域(N×N画素ブロック、N=4、8など)に分割し、その単位で変形基底219を求め、適応変換部209に対して出力する。まず、図10に示すように、予測画像206の各直交変換適用領域に対し、水平・垂直方向の平均輝度分布x_(H)、x_(V)が求められる。これにより各領域の水平・垂直方向の主成分が反映された波形パターンが得られる(図10参照)。変換基底演算部218には、典型的な平均輝度分布ベクトルx_(H)、x_(V)のパターンを主軸に反映させたK種類の正規直交基底A_(i)(i=0,1,…,K-1)が用意され、x_(H)、x_(V)に対応していずれかの基底A_(i)が選択される。A_(i)として用意される基底(N=4)の例を図13乃至図19に示す。」

(イ)「【0083】更に、本発明の第四の実施の形態について説明する。
【0084】本実施の形態に係る画像符号化装置は、例えば、図24に示すように構成され、また、画像復号装置は、例えば、図25に示すように構成される。
【0085】本実施の形態では、前述した第二の実施の形態と同様に、基底セットA_(i)(i=0,1,…,K-1)を用いて変換基底を適応的に選択することによる変換符号化を行うのに加えて、その変換基底A_(i)を動的に更新する仕組みを備える。これにより、固定の基底セットで十分に対応できない画像パターンが現れた際に、さらに符号化効率を改善することができる。
(中略)
【0088】さらに、変換基底演算部418において、その時点での基底セットA_(i)に含まれない別の変換基底が生成された場合、その変換基底そのものもID情報450とともに可変長符号化部413を経て圧縮ストリーム414に多重され、伝送される。この際、伝送されるID情報450とは、同時に伝送される変換基底で置き換えられる基底のID情報を意味する。変換基底演算部418の処理は後述する。
(中略)
【0091】変換基底演算部418は、入力される予測画像406を直交変換適用領域(N×N画素ブロック、N=4、8など)に分割し、その単位で変形基底419を求め、適応変換部409に対して出力する。まず、予測画像406の各直交変換適用領域に対し、水平・垂直方向の平均輝度分布x_(H)、x_(V)を求める。これにより各領域の水平・垂直方向の主成分が反映された波形パターンが得られる(図10参照)。変換基底演算部418には、典型的な平均輝度分布ベクトルx_(H)、x_(V)のパターンを主軸に反映させたK種類の正規直交基底A_(i)(i=0,1,…,K-1)が用意され、x_(H)、x_(V)に対応していずれかの基底A_(i)が選択される。A_(i)として用意される基底(N=4)の例は、図13乃至図19に示すようなものがある。個々の例の説明は実施例2に詳しいので省略する。」

(ウ)「【0124】
【発明の効果】以上、説明したように、請求項に係る本発明によれば、請求項1乃至107記載の本願発明によれば、符号化対象信号の性質にマッチした変換基底を用いて変換及び符号化ができると共に、その符号化信号を復号した後に同様の変換基底を用いて変換できるようになる。その結果、変換基底を用いて信号の符号化及び復号する際に、更に効率的な符号化及び復号を行うことができるようになる。」

ウ.引用文献3
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3である特開2001-309380号公報には、「画像信号符号化装置/復号装置,画像信号符号化方法/復号方法および画像信号符号化/復号プログラム記録媒体」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は強調のために当審で付したものである。

(ア)「【0003】変換後の電力集中度の高さ(冗長性の除去度)において理論的に最適な直交変換は,カルーネンレーベ変換(KLT:Karhunen-Loeve Transform)と呼ばれる変換である。このカルーネンレーベ変換(以下,KLTという)により,変換後の係数間の相関は完全に除去されるが,変換基底が画像に依存するため,この変換には,画像毎にその情報を伝送する必要がある,あるいは高速変換算法がない等の難点がある。」

(イ)「【0007】以上に挙げた理由等から,KLTは電力集中度の点で最適であるにもかかわらず,現在広く用いられている高能率画像信号符号化国際標準(ISO/IEC10918-1[JPEG],同13818-2[MPEG-2],同14496-2[MPEG-4],ITU勧告H.263)は,直交変換としてDCTを固定的に用いている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,コードブックの生成やその符号化器/復号器での共有を行うことなしに,与えられた画像信号に関して適応的な直交変換を生成・選択・適用し,固定的変換であるDCT等を用いるよりも符号化効率を改善させることにある。」

(ウ)「【0011】画像信号符号化装置1は,電力集中度が段階的に変化する直交変換基底生成手段11と,歪み量測定手段13を有する直交変換・量子化・符号化手段12と,発生符号量制御手段14と,伝送する符号化データを出力する出力手段15とを備える。直交変換基底生成手段11は,発生符号量制御手段14が生成するパラメータを用いて入力画像信号から直交変換基底を生成する。直交変換・量子化・符号化手段12は,生成された直交変換基底を用いて入力画像信号についての直交変換,量子化および符号化を行う。この際に,歪み量測定手段13は,復号画像に含まれることになる雑音電力(歪み量)を測定する。発生符号量制御手段14は,直交変換基底生成手段11および直交変換・量子化・符号化手段12が用いるパラメータを生成し,雑音電力が所定の範囲内のもとで符号化に用いる直交変換基底を伝送するための符号量と画像の発生符号量との和を最小にするパラメータを探索する。最終的に総符号量が最小となるパラメータを決定して,それを用いて符号化した符号化データを出力手段15を介して出力する。」

3.引用文献に記載される発明及び技術
ア.引用文献1に記載される発明
引用文献1に記載された発明を以下に認定する。

(ア)動画像符号化装置
引用文献1の上記2.ア.(イ)の記載によれば、引用文献1には、分割手段、第1の変換手段、第2の変換手段、選択手段、符号列生成手段から構成される動画像符号化装置についての発明が記載されている。

(イ)分割手段
引用文献1の上記2.ア.(イ)の記載によれば、分割手段は、入力された画像信号を、水平N画素×垂直N画素のブロックに分割を行い、各ブロックの画像信号を第1の変換手段と第2の変換手段とに出力する。

(ウ)変換手段及び選択手段
引用文献1の上記2.ア.(ウ)の記載によれば、引用文献1の動画像符号化装置は、第1の変換手段(離散コサイン変換基底を用いた直交変換)により処理した符号列と、第2の変換手段(双直交変換を行うMP符号化)により処理した符号列のいずれかの符号列を選択手段により選択する。
そして、その選択は、ブロック毎に符号化効率が高くなる方の変換手段からの符号列を選択する。
また、上記2.ア.(エ)には、変換手段は3つ以上あっても良いことが記載されている。

(エ)まとめ
上記(ア)ないし(ウ)によると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
(a)入力された画像信号をブロックに分割する分割手段と、分割手段からの各ブロックの画像信号を符号列に変換する3つ以上の変換手段と、ブロック毎に符号化効率が高くなる方の変換手段からの符号列を選択する選択手段とを備える、
(b)動画像符号化装置。

イ.引用文献2に記載される技術
上記2.イ.(ア)の記載によれば、引用文献2には、あらかじめ画像の局所的な性質を考慮した複数種類の変換基底を用意しておき、予測画像のパターンに応じて変換基底を選択して変換符号化を行う技術が記載されており、さらに、上記2.イ.(イ)の記載によれば、予測画像に基づいて変換基底を生成し、その時点での基底セットに含まれない別の変換基底が生成された場合、基底セットを動的に更新する仕組みを備える技術が記載されている。そして、それにより、上記2.イ.(ウ)に記載されるように、符号化対象信号の性質にマッチした変換基底を用いて変換及び符号化ができるというものである。
ここで、異なる変換基底によって変換符号化を行うことは、異なる変換を行うことであるから、引用文献2には、『符号化対象画像の性質にマッチした変換を用いて変換符号化ができるようにするために、符号化対象画像の局所的な性質を考慮した複数種類の変換のセットを用意しておき、符号化対象画像の予測画像のパターンに応じて変換を選択して変換符号化を行う技術であって、予測画像に基づいて、変換セットの中の変換を一部変更する技術』が記載されている。

ウ.引用文献3に記載される技術
上記2.ウ.(ア)ないし(ウ)の記載によれば、引用文献3には、『変換後の電力集中度の高さ(冗長性の除去度)において理論的に最適なKLT変換を、入力画像信号から生成する技術』が記載されている。

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

ア.本願発明の構成(A)と引用発明の構成(b)との対比
引用発明の「動画像符号化装置」は、本願発明のビデオ符号化器を備える「装置」に相当する。

イ.本願発明の構成(B)と引用発明の構成(a)との対比
引用発明は、分割手段及び変換手段により、入力された画像信号のブロックを符号列に変換するものであり、「入力された画像信号」はビデオ・シーケンスといえ、その「ブロック」は、「ビデオ・シーケンスにおけるピクチャ内の少なくとも1つのブロック」といえる。また、符号列に変換することは「符号化」のことである。
引用発明は、選択手段により、ブロック毎に3つ以上の変換手段から選択して符号列を得ており、3つ以上の変換手段は予め決定されているものであるから、ブロック毎に予め決定された3つ以上の変換手段から画像信号のブロックに適用する変換を選択して符号化を行うものである。
そして、引用発明の画像信号の符号化を行う分割手段、変換手段及び選択手段は、本願発明の「ビデオ符号化器」に相当する。
以上のことから、引用発明の構成(a)は、本願発明の構成(B)と、「ビデオ・シーケンスにおけるピクチャ内の少なくとも1つのブロックの符号化を、当該ブロック毎に予め決定された2つ以上の異なる変換のセットから前記ビデオ・シーケンスにおける当該ブロックに適用する変換を選択することによって行うビデオ符号化器を備え」というものである点で一致する。
ただし、変換の適用が、本願発明では、前記ビデオ・シーケンスにおける「隣接するピクチャ間の当該ブロックの残差」に適用するのに対し、引用発明は、前記ビデオ・シーケンスにおける「当該ブロック」に適用するものである点で、両者は相違する。

ウ.本願発明の構成(C)について
引用発明は、本願発明の構成(C)の「前記2つ以上の異なる変換のセットは、前記ブロックについて符号化されることになるデータから決定される」という構成を備えていない点で、本願発明と相違する。

エ.まとめ
上記アないしウの対比結果をまとめると、本願発明と引用発明との[一致点]と[相違点]は以下のとおりである。

[一致点]
装置であって、
ビデオ・シーケンスにおけるピクチャ内の少なくとも1つのブロックの符号化を、当該ブロック毎に予め決定された2つ以上の異なる変換のセットから前記ビデオ・シーケンスにおける当該ブロックに適用する変換を選択することによって行うビデオ符号化器を備える、前記装置。

[相違点]
(相違点1)
変換の適用が、本願発明では、前記ビデオ・シーケンスにおける「隣接するピクチャ間の当該ブロックの残差」に適用するのに対し、引用発明は、前記ビデオ・シーケンスにおける「当該ブロック」に適用するものである点。

(相違点2)
引用発明は、本願発明の「前記2つ以上の異なる変換のセットは、前記ブロックについて符号化されることになるデータから決定される」という構成を備えていない点。

5.相違点の判断
(1)相違点1にいて
上記3.ア.(ウ)に示した引用発明の変換手段の具体例であるDCTなどの直交変換やMP変換においては、上記2.ア.(ア)に示した引用文献1の記載のように、動き補償後の残差信号に対して変換を行うことが一般的である。
したがって、引用発明において、変換を適用する信号を動き補償後の残差信号とすること、すなわち「隣接するピクチャ間の当該ブロックの残差」に適用することとし、相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点2について
上記3.イ.に示したように、引用文献2に『符号化対象画像の性質にマッチした変換を用いて変換符号化ができるようにするために、符号化対象画像の局所的な性質を考慮した複数種類の変換のセットを用意しておき、符号化対象画像の予測画像のパターンに応じて変換を選択して変換符号化を行う技術であって、予測画像に基づいて、変換セットの中の変換を一部変更する技術』が記載されており、画像信号の符号化に用いる変換のセットについて、そのセットに含まれる変換を、符号化される画像の性質に適したセットとなるように決定する技術が公知のものである。
また、上記3.ウ.に示したように、引用文献3に『変換後の電力集中度の高さ(冗長性の除去度)において理論的に最適なKLT変換を、入力画像信号から生成する技術』が記載されているように、画像信号の符号化に用いる変換を、その符号化される画像信号から生成することも当該技術分野における慣用される技術である。
そして、これらの公知技術を引用発明に適用し、変換のセットに当たる複数の変換手段を符号化される画像信号に適したセットとなるように決定し、相違点2に係る「前記2つ以上の異なる変換のセットは、前記ブロックについて符号化されることになるデータから決定される」という構成を導出することは、当業者が容易になし得ることである。

6.効果等について
本願発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものではない。

7.まとめ
以上のように、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2及び引用文献3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2及び引用文献3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-01 
結審通知日 2017-06-05 
審決日 2017-06-16 
出願番号 特願2011-547884(P2011-547884)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 561- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 嘉宏山▲崎▼ 雄介梅本 達雄  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 清水 正一
篠原 功一
発明の名称 ビデオ符号化およびビデオ復号における変換の選択のための方法および装置  
代理人 阿部 豊隆  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  

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