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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F01D
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  F01D
審判 一部申し立て 2項進歩性  F01D
管理番号 1334366
異議申立番号 異議2016-700951  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-05 
確定日 2017-10-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5898898号発明「タービンロータブレードのプラットフォーム領域を冷却するための装置及び方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5898898号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2ないし6〕について訂正することを認める。 特許第5898898号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5898898号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成23年9月29日(パリ条約による優先権主張2010年9月30日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成28年3月11日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成28年10月5日に特許異議申立人滝沢純平(以下、単に「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年12月13日付けで取消理由が通知(以下、単に「取消理由通知」という。)され、その指定期間内である平成29年3月15日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して異議申立人から平成29年4月28日に意見書が提出され、平成29年6月19日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成29年8月4日に平成29年3月15日付け訂正請求書を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成29年8月4日付け手続補正書により補正された平成29年3月15日付け訂正請求書に係る訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下の(1)(2)のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「翼形部(102)と根元(104)との間の境界にプラットフォーム(110)を有し且つ前記根元(104)における冷却媒体源との接続部から前記プラットフォーム(110)の少なくともほぼ半径方向高さまで延びる内部冷却通路(116)を備えたタービンロータブレード(100)におけるプラットフォーム冷却装置(130)であって、
前記翼形部(102)の正圧側面(106)と一致する側部に沿って、前記プラットフォーム(110)の正圧側面が、前記翼形部(102)から正圧側スラッシュ面(126)に円周方向に延びる平面上側面(113)を含んでいて、前記翼形部(102)の負圧側面(105)と一致する側部に沿って、前記プラットフォーム(110)の負圧側面が、前記翼形部(102)から負圧側スラッシュ面(122)に円周方向に延びる平面上側面(113)を含んでおり、当該プラットフォーム冷却装置(130)が、
前記平面上側面(113)の直ぐ内寄りに存在し且つ前記プラットフォーム(110)の正圧側面内に後方位置から前方位置に延びた、前記平面上側面(113)にほぼ平行な長手方向軸線を有するメインプレナム(132)と、
前記メインプレナム(132)と前記内部冷却通路(116)との間に延びる供給プレナム(134)と、
各々が前記正圧側スラッシュ面(126)から前記メインプレナム(132)との接続部に延びる複数の冷却アパーチャ(136)と
を備え、
前記正圧側スラッシュ面(126)上又はその近傍の後方位置から、前記正圧側スラッシュ面(126)上又はその近傍の前方位置まで、前記メインプレナム(132)が前記翼形部(102)の正圧側面(106)の外形輪郭にその形状が対応する曲率の円弧を形成する、プラットフォーム冷却装置(130)。」(下線は、訂正箇所を示すために特許権者が付したものである。)に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を、
「翼形部(102)と根元(104)との間の境界にプラットフォーム(110)を有し且つ前記根元(104)における冷却媒体源との接続部から前記プラットフォーム(110)の少なくともほぼ半径方向高さまで延びる内部冷却通路(116)を備えたタービンロータブレード(100)におけるプラットフォーム冷却装置(130)であって、
前記翼形部(102)の正圧側面(106)と一致する側部に沿って、前記プラットフォーム(110)の正圧側面が、前記翼形部(102)から正圧側スラッシュ面(126)に円周方向に延びる平面上側面(113)を含んでいて、前記翼形部(102)の負圧側面(105)と一致する側部に沿って、前記プラットフォーム(110)の負圧側面が、前記翼形部(102)から負圧側スラッシュ面(122)に円周方向に延びる平面上側面(113)を含んでおり、当該プラットフォーム冷却装置(130)が、
前記平面上側面(113)の直ぐ内寄りに存在し且つ前記プラットフォーム(110)の正圧側面及び負圧側面のうちの一方内に後方位置から前方位置に延びた、前記平面上側面(113)にほぼ平行な長手方向軸線を有するメインプレナム(132)と、
前記メインプレナム(132)と前記内部冷却通路(116)との間に延びる供給プレナム(134)と、
各々が前記正圧側面及び前記負圧側スラッシュ面(122)のうちの一方から前記メインプレナム(132)との接続部に延びる複数の冷却アパーチャ(136)と
を備え、
前記メインプレナム(132)が、前記正圧側面内の後方位置から前方位置に延び、前記正圧側スラッシュ面(126)上又はその近傍の後方位置から、前記正圧側スラッシュ面(126)上又はその近傍の前方位置まで、前記メインプレナム(132)が前記翼形部(102)の正圧側面(106)の外形輪郭にその形状が対応する曲率の円弧を形成し、前記メインプレナム(132)が、前記翼形部(102)の軸方向長さの少なくとも0.75の軸方向長さを含み、前記メインプレナム(132)が、前記正圧側スラッシュ面(126)上の後方位置にある出口(133)と、前記正圧側スラッシュ面(126)上の前方位置にある出口(133)とを含み、前記後方及び前方位置両方にある前記メインプレナム出口(133)が、低減された断面流れ面積の出口を含む、プラットフォーム冷却装置(130)。」(下線は、訂正箇所を示すために特許権者が付したものである。)に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3ないし6も同様に訂正する)。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1の、請求項1に係る訂正は、本件訂正前の「前記平面上側面(113)の直ぐ内寄りに存在し且つ前記プラットフォーム(110)の正圧側面及び負圧側面のうちの一方内に後方位置から前方位置に延びた、前記平面上側面(113)にほぼ平行な長手方向軸線を有するメインプレナム(132)」という記載を、「前記平面上側面(113)の直ぐ内寄りに存在し且つ前記プラットフォーム(110)の正圧側面内に後方位置から前方位置に延びた、前記平面上側面(113)にほぼ平行な長手方向軸線を有するメインプレナム(132)」と限定し、本件訂正前の「各々が前記正圧側面及び前記負圧側スラッシュ面(122)のうちの一方から前記メインプレナム(132)との接続部に延びる複数の冷却アパーチャ(136)」を「各々が前記正圧側スラッシュ面(126)から前記メインプレナム(132)との接続部に延びる複数の冷却アパーチャ(136)」と限定するとともに、「前記正圧側スラッシュ面(126)上又はその近傍の後方位置から、前記正圧側スラッシュ面(126)上又はその近傍の前方位置まで、前記メインプレナム(132)が前記翼形部(102)の正圧側面(106)の外形輪郭にその形状が対応する曲率の円弧を形成する」という発明特定事項を追加して限定したものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1の、請求項1に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2の、請求項2ないし6に係る訂正は、本件訂正前の請求項2の記載が本件訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする。
また、訂正事項2の、請求項2ないし6に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし6は、請求項2ないし6が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。

3 小括
したがって、本件訂正請求による訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし6について訂正を認める。
訂正後の請求項2ないし6に係る訂正事項2は、引用関係の解消を目的とする訂正であって、その訂正は認められるものである。そして、特許権者から、訂正後の請求項2ないし6について訂正が認められるときは請求項1とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項1、〔2ないし6〕について請求項ごと又は一群の請求項ごとに訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「翼形部(102)と根元(104)との間の境界にプラットフォーム(110)を有し且つ前記根元(104)における冷却媒体源との接続部から前記プラットフォーム(110)の少なくともほぼ半径方向高さまで延びる内部冷却通路(116)を備えたタービンロータブレード(100)におけるプラットフォーム冷却装置(130)であって、
前記翼形部(102)の正圧側面(106)と一致する側部に沿って、前記プラットフォーム(110)の正圧側面が、前記翼形部(102)から正圧側スラッシュ面(126)に円周方向に延びる平面上側面(113)を含んでいて、前記翼形部(102)の負圧側面(105)と一致する側部に沿って、前記プラットフォーム(110)の負圧側面が、前記翼形部(102)から負圧側スラッシュ面(122)に円周方向に延びる平面上側面(113)を含んでおり、当該プラットフォーム冷却装置(130)が、
前記平面上側面(113)の直ぐ内寄りに存在し且つ前記プラットフォーム(110)の正圧側面内に後方位置から前方位置に延びた、前記平面上側面(113)にほぼ平行な長手方向軸線を有するメインプレナム(132)と、
前記メインプレナム(132)と前記内部冷却通路(116)との間に延びる供給プレナム(134)と、
各々が前記正圧側スラッシュ面(126)から前記メインプレナム(132)との接続部に延びる複数の冷却アパーチャ(136)と
を備え、
前記正圧側スラッシュ面(126)上又はその近傍の後方位置から、前記正圧側スラッシュ面(126)上又はその近傍の前方位置まで、前記メインプレナム(132)が前記翼形部(102)の正圧側面(106)の外形輪郭にその形状が対応する曲率の円弧を形成する、プラットフォーム冷却装置(130)。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1に係る発明に対して平成28年12月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)本件特許発明は、甲2発明及び甲3技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。

(3)特許請求の範囲の請求項1は、明確でない記載を含み、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。

3 取消理由についての検討
3-1 特許法第29条第1項第3号について
甲第1号証:米国特許第6190130号明細書
(1)甲1発明
甲第1号証には、第1欄第9行ないし第21行、第4欄第48行ないし第55行、第4欄第56行ないし第65行、第5欄第18行ないし第26行、第5欄第27行ないし第36行及びFIG.1(a)、FIG.1(b)、FIG.6、FIG.8等の記載からみて、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。なお、符号として、甲第1号証に記載されたもの並びに特許異議申立書の参考図1及び2に記載されたものを記載した。

「翼形部aと根元bとの間の境界にプラットフォーム1を有し且つ前記根元bにおける冷却媒体との接続部から前記プラットフォーム1の少なくともほぼ半径方向高さまで延びる前縁流路52を備えた動翼51におけるプラットフォーム1の冷却装置であって、
翼形部aの正圧側の面cと一致する側部に沿って、プラットフォーム1の正圧側の面が、前記翼形部aから腹側の側面dに円周方向に延びる平面上側面eを含んでいて、
翼形部aの負圧側の面fと一致する側部に沿って、プラットフォーム1の負圧側の面が、前記翼形部aから背側の側面gに円周方向に延びる平面上側面hを含んでおり、
当該プラットフォーム1の冷却装置が、
平面上側面hの直ぐ内寄りに存在し且つプラットフォーム1の負圧側の面内に後方位置から前方位置に延びた、前記平面上側面hにほぼ平行な長手方向軸線を有する冷却通路4と、
冷却通路4と前縁通路52との間に延びる冷却通路3と、
各々がプラットフォーム1の背側の側面gから冷却通路4との接続部に延びる複数の冷却孔5と
を備える、プラットフォーム1の冷却装置。」

(2)対比、判断
本件特許発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「翼形部a」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本件特許発明における「翼形部」に相当し、以下同様に、「根元b」は「根元」に、「プラットフォーム1」は「プラットフォーム」に、「前縁通路52」は「内部冷却通路」に、「動翼51」は「タービンロータブレード」に、「正圧側の面c」は「正圧側面」に、「腹側の側面d」は「正圧側スラッシュ面」に、「負圧側の面f」は「負圧側面」に、「平面上側面e」及び「平面上側面h」は「平面上側面」に、「冷却通路4」は「メインプレナム」に、「冷却通路3」は「供給プレナム」に、「冷却孔5」は「冷却アパーチャ」に、それぞれ、相当する。
また、甲1発明における「プラットフォーム1の負圧側の面内」は、「プラットフォームの面内」という限りにおいて、本件特許発明における「プラットフォームの正圧側面内」と共通する。
また、甲1発明における「背側の側面g」は、本件特許発明における「負圧側スラッシュ面(122)」に相当し、「スラッシュ面」という限りにおいて、本件特許発明における「正圧側スラッシュ面」と共通する。
したがって、本件特許発明と甲1発明とは、以下の点で一致する。

「翼形部と根元との間の境界にプラットフォームを有し且つ前記根元における冷却媒体源との接続部から前記プラットフォームの少なくともほぼ半径方向高さまで延びる内部冷却通路を備えたタービンロータブレードにおけるプラットフォーム冷却装置であって、
前記翼形部の正圧側面と一致する側部に沿って、前記プラットフォームの正圧側面が、前記翼形部から正圧側スラッシュ面に円周方向に延びる平面上側面を含んでいて、前記翼形部の負圧側面と一致する側部に沿って、前記プラットフォームの負圧側面が、前記翼形部から負圧側スラッシュ面に円周方向に延びる平面上側面を含んでおり、当該プラットフォーム冷却装置が、
前記平面上側面の直ぐ内寄りに存在し且つ前記プラットフォームの面内に後方位置から前方位置に延びた、前記平面上側面にほぼ平行な長手方向軸線を有するメインプレナムと、
前記メインプレナムと前記内部冷却通路との間に延びる供給プレナムと、
各々が前記スラッシュ面から前記メインプレナムとの接続部に延びる複数の冷却アパーチャと
を備える、プラットフォーム冷却装置。」

そして、以下の点で相違する。

〔相違点〕
ア 本件特許発明においては、平面上側面の直ぐ内寄りに存在し且つプラットフォームの「正圧側面内に」後方位置から前方位置に延びた、平面上側面にほぼ平行な長手方向軸線を有するメインプレナムを備えるのに対し、甲1発明においては、平面上側面hの直ぐ内寄りに存在し且つプラットフォーム1の「負圧側の面内に」後方位置から前方位置に延びた、前記平面上側面hにほぼ平行な長手方向軸線を有する冷却通路4を備える点(以下、「相違点ア」という)。
イ 本件特許発明においては、各々が「正圧側スラッシュ面から」メインプレナムとの接続部に延びる複数の冷却アパーチャを備えるのに対し、甲1発明においては、各々が「プラットフォーム1の背側の側面gから」冷却通路4との接続部に延びる複数の冷却孔5を備える点(以下、「相違点イ」という)。
ウ 本件特許発明においては、「正圧側スラッシュ面上又はその近傍の後方位置から、正圧側スラッシュ面上又はその近傍の前方位置まで、メインプレナムが翼形部の正圧側面の外形輪郭にその形状が対応する曲率の円弧を形成する」のに対し、甲1発明においては、冷却通路がそのような円弧を形成しない点(以下、「相違点ウ」という)。

〔判断〕
上記相違点アないしウに係る本件特許発明の発明特定事項は、甲第1号証には記載も示唆もされていない。
したがって、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。

(3)まとめ
以上のように、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。

3-2 特許法第29条第2項について
(1)甲2発明
甲第2号証:米国特許出願公開第2010/0239432号明細書
甲第2号証には、段落[0003]、[0005]、[0023]、[0024]、[0029]及び[0030]並びにFIG.1及びFIG.2の記載からみて、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。なお、符号として、甲第1号証に記載されたもの並びに特許異議申立書の参考図3及び4に記載されたものを記載した。

「翼形34と根元との間の境界に内側端部壁16を有し且つ内部チャンバC1,C2,C3を備えたタービンベーン10における内側端部壁16の冷却装置であって、
翼形34の正圧面42と一致する側部に沿って、内側端部壁16の正圧側の面が翼形34から第1の合わせ面66に円周方向に延びる内側面20を含んでいて、
翼形34の負圧面44と一致する側部に沿って、内側端部壁16の負圧側の面が、翼形34から第2の合わせ面70に円周方向に延びる内側面20を含んでおり、
当該内側端部壁16の冷却装置が、
内側端部壁16の正圧側の面の内部に後方位置から前方位置に延びるサーペンタイン冷却チャネル100,102と、
サーペンタイン冷却チャネル100,102と内部チャンバC2との間に延びる冷却チャネルkと、
各々が第1の合わせ面66からサーペンタイン冷却チャネル100,102との接続部に延びる複数のオリフィス128と
を備える、内側端部壁16の冷却装置。」

(2)甲3技術1及び2
甲第3号証:特開平10-238302号公報
甲第3号証には、段落【0001】、【0017】及び【0019】ないし【0021】並びに図1(a)及び(b)の記載からみて、次の事項が記載されていると認める。

「翼部3と翼根部1との間の境界にプラットフォーム2を有する動翼。」(以下、「甲3記載事項A」という。)

「翼根部1における冷却媒体との接続部(翼根部1の底部)からプラットフォーム2の少なくともほぼ半径方向高さまで延びる翼部冷却通路5a。」(以下、「甲3記載事項B」という。)

「動翼におけるプラットフォーム2を冷却する装置。」(以下、「甲3記載事項C」という。)

上記甲3記載事項AないしCから、甲第3号証には、次の技術(以下、「甲3技術1」という。)が記載されているといえる。

「翼部3と翼根部1との間の境界にプラットフォーム2を有し且つ前記翼根部1における冷却媒体との接続部(翼根部1の底部)から前記プラットフォーム2の少なくともほぼ半径方向高さまで延びる翼部冷却通路5aを備えた動翼におけるプラットフォーム2の冷却装置。」

また、甲第3号証の図1(a)及び(b)並びに関連する記載から、甲第3号証には、次の技術(以下、「甲3技術2」という。)が記載されているといえる。

「プラットフォーム2の上面の直ぐ内寄りに、プラットフォーム2の上面にほぼ平行な長手方向軸線を有するように形成された冷却通路6a,6b。」

(3)対比、判断
本件特許発明と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「翼形34」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本件特許発明における「翼形部」に相当し、以下同様に、「根元j」は「根元」に、「内側端部壁16」は「プラットフォーム」に、「内部チャンバC2」は「内部冷却通路」に、「正圧面42」は「正圧側面」に、「第1の合わせ面66」は「正圧側スラッシュ面」に、「負圧面44」は「負圧側面」に、「第2の合わせ面70」は「負圧側スラッシュ面」に、「内側面20」は「平面上側面」に、「サーペンタイン冷却チャネル100,102」は「メインプレナム」に、「冷却チャネルk」は「供給プレナム」に、「オリフィス128」は「冷却アパーチャ」に、それぞれ相当する。
また、甲2発明における、「タービンベーン10」は、「タービン翼」という限りにおいて、本件特許発明における「タービンロータブレード」に相当する。

したがって、本件特許発明と甲2発明とは、以下の点で一致する。

「翼形部と根元との間の境界にプラットフォームを有し且つ内部冷却通路を備えたタービン翼におけるプラットフォーム冷却装置であって、
前記翼形部の正圧側面と一致する側部に沿って、前記プラットフォームの正圧側面が、前記翼形部から正圧側スラッシュ面に円周方向に延びる平面上側面を含んでいて、前記翼形部の負圧側面と一致する側部に沿って、前記プラットフォームの負圧側面が、前記翼形部から負圧側スラッシュ面に円周方向に延びる平面上側面を含んでおり、当該プラットフォーム冷却装置が、
前記プラットフォームの正圧側面内に後方位置から前方位置に延びるメインプレナムと、
前記メインプレナムと前記内部冷却通路との間に延びる供給プレナムと、
各々が前記正圧側スラッシュ面から前記メインプレナムとの接続部に延びる複数の冷却アパーチャと
を備える、プラットフォーム冷却装置。」

そして、両者は、以下の点で相違する。

〔相違点〕
エ 「タービン翼」に関して、本件特許発明は「タービンロータブレード」であるのに対し、甲2発明においては、「タービンベーン」である点(以下、「相違点エ」という。)
オ 本件特許発明においては、「内部冷却通路」が、「根元(104)における冷却媒体源との接続部からプラットフォーム(110)の少なくともほぼ半径方向高さまで延びる」のに対して、甲2発明においては、「内部チャンバC2」が、根元jにおける冷却媒体源との接続部から内側端部壁16の少なくともほぼ半径方向高さまで延びているのかどうか不明である点(以下、「相違点オ」という。)。
カ 本件特許発明においては、「メインプレナム」が、「平面上側面(113)の直ぐ内寄りに存在し」、「平面上側面(113)にほぼ平行な長手方向軸線を有する」のに対して、甲2発明においては、「サーペンタイン冷却チャネル100,102」が、内側端部壁16の内側面20の直ぐ内寄りに存在し、内側面20にほぼ平行な長手方向軸線を有するのかどうか不明である点(以下、「相違点カ」という。)。
キ 本件特許発明においては、「正圧側スラッシュ面上又はその近傍の後方位置から、正圧側スラッシュ面上又はその近傍の前方位置まで、メインプレナムが翼形部の正圧側面の外形輪郭にその形状が対応する曲率の円弧を形成する」のに対し、甲2発明においては、冷却通路がそのような円弧を形成しない点(以下、「相違点キ」という)。

〔判断〕
上記相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点キについて検討する。
甲第2号証及び甲第3号証には、「正圧側スラッシュ面上又はその近傍の後方位置から、正圧側スラッシュ面上又はその近傍の前方位置まで、メインプレナムが翼形部の正圧側面の外形輪郭にその形状が対応する曲率の円弧を形成する」という事項について記載も示唆もされていない。

(4)まとめ
よって、本件特許発明は、甲2発明及び甲3技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

3-3 特許法第36条第6項第2号について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1における「各々が前記正圧側面及び前記負圧側スラッシュ面(122)のうちの一方から前記メインプレナム(132)との接続部に延びる複数の冷却アパーチヤ(136)」は、本件訂正により、「各々が前記正圧側スラッシュ面(126)から前記メインプレナム(132)との接続部に延びる複数の冷却アパーチヤ(136)」と訂正された。
これにより、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、本件特許明細書の段落【0028】における「冷却アパーチャ36は、各々が正圧側スラッシュ面126からメインプレナム132との接続部に延びるように構成することができる。冷却アパーチャ136は、ほぼ円周方向で正圧側スラッシュ面126からメインプレナム132に延びることができ、供給プレナム134に対しほぼ平行とすることができる。」という記載と整合し、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明が明確になった。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼形部(102)と根元(104)との間の境界にプラットフォーム(110)を有し且つ前記根元(104)における冷却媒体源との接続部から前記プラットフォーム(110)の少なくともほぼ半径方向高さまで延びる内部冷却通路(116)を備えたタービンロータブレード(100)におけるプラットフォーム冷却装置(130)であって、
前記翼形部(102)の正圧側面(106)と一致する側部に沿って、前記プラットフォーム(110)の正圧側面が、前記翼形部(102)から正圧側スラッシュ面(126)に円周方向に延びる平面上側面(113)を含んでいて、前記翼形部(102)の負圧側面(105)と一致する側部に沿って、前記プラットフォーム(110)の負圧側面が、前記翼形部(102)から負圧側スラッシュ面(122)に円周方向に延びる平面上側面(113)を含んでおり、当該プラットフォーム冷却装置(130)が、
前記平面上側面(113)の直ぐ内寄りに存在し且つ前記プラットフォーム(110)の正圧側面内に後方位置から前方位置に延びた、前記平面上側面(113)にほぼ平行な長手方向軸線を有するメインプレナム(132)と、
前記メインプレナム(132)と前記内部冷却通路(116)との間に延びる供給プレナム(134)と、
各々が前記正圧側スラッシュ面(126)から前記メインプレナム(132)との接続部に延びる複数の冷却アパーチャ(136)と
を備え、
前記正圧側スラッシュ面(126)上又はその近傍の後方位置から、前記正圧側スラッシュ面(126)上又はその近傍の前方位置まで、前記メインプレナム(132)が前記翼形部(102)の正圧側面(106)の外形輪郭にその形状が対応する曲率の円弧を形成する、プラットフォーム冷却装置(130)。
【請求項2】
翼形部(102)と根元(104)との間の境界にプラットフォーム(110)を有し且つ前記根元(104)における冷却媒体源との接続部から前記プラットフォーム(110)の少なくともほぼ半径方向高さまで延びる内部冷却通路(116)を備えたタービンロータブレード(100)におけるプラットフォーム冷却装置(130)であって、
前記翼形部(102)の正圧側面(106)と一致する側部に沿って、前記プラットフォーム(110)の正圧側面が、前記翼形部(102)から正圧側スラッシュ面(126)に円周方向に延びる平面上側面(113)を含んでいて、前記翼形部(102)の負圧側面(105)と一致する側部に沿って、前記プラットフォーム(110)の負圧側面が、前記翼形部(102)から負圧側スラッシュ面(122)に円周方向に延びる平面上側面(113)を含んでおり、当該プラットフォーム冷却装置(130)が、
前記平面上側面(113)の直ぐ内寄りに存在し且つ前記プラットフォーム(110)の正圧側面及び負圧側面のうちの一方内に後方位置から前方位置に延びた、前記平面上側面(113)にほぼ平行な長手方向軸線を有するメインプレナム(132)と、
前記メインプレナム(132)と前記内部冷却通路(116)との間に延びる供給プレナム(134)と、
各々が前記正圧側面及び前記負圧側スラッシュ面(122)のうちの一方から前記メインプレナム(132)との接続部に延びる複数の冷却アパーチャ(136)と
を備え、
前記メインプレナム(132)が、前記正圧側面内の後方位置から前方位置に延び、前記正圧側スラッシュ面(126)上又はその近傍の後方位置から、前記正圧側スラッシュ面(126)上又はその近傍の前方位置まで、前記メインプレナム(132)が前記翼形部(102)の正圧側面(106)の外形輪郭にその形状が対応する曲率の円弧を形成し、前記メインプレナム(132)が、前記翼形部(102)の軸方向長さの少なくとも0.75の軸方向長さを含み、前記メインプレナム(132)が、前記正圧側スラッシュ面(126)上の後方位置にある出口(133)と、前記正圧側スラッシュ面(126)上の前方位置にある出口(133)とを含み、前記後方及び前方位置両方にある前記メインプレナム出口(133)が、低減された断面流れ面積の出口を含む、プラットフォーム冷却装置(130)。
【請求項3】
前記メインプレナム(132)の後方位置にある出口(133)が、前記出口(133)の低減された断面流れ面積を形成するプラグ(138)を含み、前記メインプレナム(132)の前方位置にある出口(133)が、前記出口(133)の低減された断面流れ面積を形成するプラグ(138)を含み、前記低減された断面流れ面積のメインプレナム出口(133)の各々が、所望の冷却媒体インピンジメント特性に対応する所定の断面流れ面積を含み、前記メインプレナム出口(133)の所定の断面流れ面積が更に、所望の調量特性に対応する、請求項2記載のプラットフォーム冷却装置(130)。
【請求項4】
前記供給プレナム(134)が、ほぼ円周方向で前記正圧側スラッシュ面(126)から前記内部冷却通路(116)に延びて、これらの間で前記メインプレナム(132)に交差し、前記供給プレナム(134)が、前記正圧側スラッシュ面(126)において出口(135)を含み、前記供給プレナム出口(135)が低減された断面流れ面積の出口を含む、請求項2記載のプラットフォーム冷却装置(130)。
【請求項5】
前記正圧側スラッシュ面(126)において、前記供給プレナム(134)が、前記出口の低減された断面流れ面積を形成するプラグ(138)を含み、前記低減された断面流れ面積の供給プレナム出口(135)が、所望の冷却媒体インピンジメント特性に対応する所定の流れ面積を含み、前記供給プレナム出口(135)の所定の流れ面積が更に、所望の調量特性に対応する、請求項4記載のプラットフォーム冷却装置(130)。
【請求項6】
前記正圧側スラッシュ面(126)上の前記供給プレナム出口(135)の軸方向位置が、前記プラットフォーム(110)の正圧側面のほぼ軸方向中間点を含み、少なくとも複数の冷却アパーチャ(136)が、前記供給プレナム(134)の前方に形成され、少なくとも複数の冷却アパーチャ(136)が、前記供給プレナム(134)の後方に形成され、前記複数の冷却アパーチャ(136)がプラグ(138)を含む、請求項4記載のプラットフォーム冷却装置(130)。
【請求項7】
翼形部(102)と根元(104)との間の境界にプラットフォーム(110)を有し且つ前記根元(104)における冷却媒体源との接続部から前記プラットフォーム(110)の少なくともほぼ半径方向高さまで延びる内部冷却通路(116)を備え、前記翼形部(102)の正圧側面(106)と一致する側部に沿って、前記プラットフォーム(110)の正圧側面が、前記翼形部(102)から正圧側スラッシュ面(126)に円周方向に延びる平面上側面(113)を含む、タービンロータブレード(100)におけるプラットフォーム冷却装置(130)を製作する方法であって、
前記平面上側面(113)の直ぐ内寄りに存在し且つ前記プラットフォーム(110)の正圧側面内に後方位置から前方位置に延びた、前記平面上側面(113)にほぼ平行な長手方向軸線を有するメインプレナム(132)を形成するステップと、
前記正圧側スラッシュ面(126)上の軸方向中心位置において開始位置を有し且つほぼ円周方向で延びた所定の線形経路に沿って供給プレナム(134)を機械加工して、前記供給プレナム(134)が前記内部冷却通路(116)との接合部を形成し、これらの間で前記メインプレナム(132)に交差するようにするステップと、
各々が前記正圧側スラッシュ面(126)上に開始位置を含み、且つ各々が前記メインプレナム(132)との接合部までほぼ円周方向で延びた複数の冷却アパーチャ(136)を機械加工するステップと
を含む方法。
【請求項8】
前記メインプレナム(132)が鋳造プロセスにより形成され、前記メインプレナム(132)は、前記正圧側スラッシュ面(126)上又はその近傍の後方位置から前記正圧側スラッシュ面(126)上又はその近傍の前方位置まで、前記メインプレナム(132)が前記翼形部(102)の正圧側面(106)の外形輪郭にその形状が対応する曲率の円弧を形成するように形成され、前記冷却アパーチャ(136)が線形又は湾曲のうちの一方である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
メインプレナム(132)が、前記正圧側スラッシュ面(126)上の後方位置にある出口(133)と、前記正圧側スラッシュ面(126)上の前方位置にある出口(133)とを含み、前記後方及び前方位置両方にある前記メインプレナム出口(133)が、低減された断面流れ面積の出口を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記供給プレナム(134)が、ほぼ円周方向で前記正圧側スラッシュ面(126)から前記内部冷却通路(116)に延びて、これらの間で前記メインプレナム(132)に交差し、前記供給プレナム(134)が、前記正圧側スラッシュ面(126)において出口(135)を含み、前記供給プレナム出口(135)が低減された断面流れ面積の出口を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記メインプレナム後方出口(133)、前記メインプレナム前方出口(133)、及び前記供給プレナム出口(135)用のプラグ(138)を製作するステップと、
前記メインプレナム後方出口(133)、前記メインプレナム前方出口(133)、及び前記供給プレナム出口(135)用のプラグ(138)を設置するステップと、
を更に含み、前記プラグ(138)が、前記メインプレナム後方出口(133)、前記メインプレナム前方出口(133)、及び前記供給プレナム出口(135)に対する低減された断面流れ面積を形成する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記メインプレナム後方出口(133)、前記メインプレナム前方出口(133)、及び前記供給プレナム出口(135)が所定の断面流れ面積を含み、該所定の断面流れ面積が、所望の冷却媒体インピンジメント特性及び所望の冷却媒体調量特性の少なくとも1つに対応する、請求項11記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-09-22 
出願番号 特願2011-213599(P2011-213599)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (F01D)
P 1 652・ 537- YAA (F01D)
P 1 652・ 113- YAA (F01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 橋本 敏行  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
三島木 英宏
登録日 2016-03-11 
登録番号 特許第5898898号(P5898898)
権利者 ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
発明の名称 タービンロータブレードのプラットフォーム領域を冷却するための装置及び方法  
代理人 田中 拓人  
代理人 黒川 俊久  
代理人 黒川 俊久  
代理人 荒川 聡志  
代理人 田中 拓人  
代理人 荒川 聡志  
代理人 小倉 博  
代理人 平山 晃二  
代理人 小倉 博  

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