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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
管理番号 1335102
異議申立番号 異議2016-700968  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-05 
確定日 2017-10-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5899259号発明「導電性ペースト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5899259号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5899259号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5899259号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成21年 9月30日に出願された特願2009-227885号(以下、「原出願」という。)の一部を平成26年 3月18日に新たな特許出願としたものであって、平成28年 3月11日に特許の設定の登録がされ、その後、その特許について、同年10月 5日付けで特許異議申立人 早川 いづみ(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたので、これを検討した結果として同年12月28日付けで当審から取消理由を通知したところ、特許権者より平成29年 3月 2日付けで意見書が提出され、これを検討した結果として当審から同年 3月29日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、これに対して特許権者より同年 5月26日付けで意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、これに対して申立人より同年 7月13日付けで意見書が提出され、そして、当審より特許権者に対して同年 7月31日付けで審尋を通知し、同年 8月31日付けで特許権者から審尋に対する回答書が提出されたものである。

第2 訂正請求の適否
1 訂正の内容
平成29年 5月26日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項1からなる。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に、
「カルボン酸含有樹脂、導電粒子、多価アルコール化合物、および有機溶剤(前記多価アルコール化合物を除く。)を含有し、
前記多価アルコール化合物に含まれる水酸基は1級水酸基であることを特徴とする導電性ペースト(但し、ガラス成分を含まない。)。」とあるのを、「カルボン酸含有樹脂、導電粒子、多価アルコール化合物、および有機溶剤(前記多価アルコール化合物を除く。)を含有し、
前記カルボン酸含有樹脂の酸価は、40?200mgKOH/gであって、前記多価アルコール化合物に含まれる水酸基は1級水酸基であることを特徴とする導電性ペースト(但し、ガラス成分を含まない。)。」と訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2?請求項4も同様に訂正する。)

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、導電性ペーストが含有するカルボン酸含有樹脂について、その酸価を40?200mgKOH/gと限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正前の願書に添付した明細書の【0020】には、「また、このようなカルボン酸含有樹脂の酸価は、40?200mgKOH/gであることが好ましい。カルボン酸含有樹脂の酸価が40mgKOH/g未満であるとペーストの凝集力が低下し印刷時に転移不良を起こしやすくなる。一方、200mgKOH/gを超えると、ペーストの粘度が高くなり過ぎ、多量の架橋剤を配合する必要があるなど、印刷適性の付与が困難となる。より好ましくは45?150mgKOH/gである。」と記載されているから、カルボン酸含有樹脂の酸価を40?200mgKOH/gと訂正する訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項1による訂正は、導電性ペーストが含有するカルボン酸含有樹脂について、その酸価を限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
更に、本件訂正前の請求項2?4は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正後の請求項1?4は一群の請求項である。
また、本件訂正請求においては、請求項1?4の一群の請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 むすび
したがって、訂正事項1からなる本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記「第2 訂正請求の適否」に記載したとおり、本件訂正は認められるから、特許第5899259号の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明4」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
パターン印刷法により得られたパターンを100℃?250℃での低温焼成により硬化する導電パターン形成用の導電性ペーストであって、
カルボン酸含有樹脂、導電粒子、多価アルコール化合物、および有機溶剤(前記多価アルコール化合物を除く。)を含有し、
前記カルボン酸含有樹脂の酸価は、40?200mgKOH/gであって、
前記多価アルコール化合物に含まれる水酸基は1級水酸基であることを特徴とする導電性ペースト(但し、ガラス成分を含まない。)。
【請求項2】
前記多価アルコール化合物は、不揮発性であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記多価アルコール化合物中の水酸基量は、前記カルボン酸含有樹脂中のカルボキシル基に対して0.1?2.0モル当量であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の導電性ペーストの硬化物からなることを特徴とする導電パターン。」

第4 申立理由の概要
申立人は、以下の申立理由1?8によって、訂正前の請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1)申立理由1
訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証を主引例とすると、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証に記載の発明、甲第4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(2)申立理由2
訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第4号証を主引例とすると、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(3)申立理由3
訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第5号証を主引例とすると、甲第5号証に記載された発明、甲第8号証に記載された発明及び/又は甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(4)申立理由4
訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第6号証を主引例とすると、甲第6号証に記載された発明と、甲第5号証に記載された発明及び/又は甲第4号証に記載された発明(当審注:特許異議申立書(以下、「申立書」という。)第28ページ第2行?第6行に記載される「甲<4>発明」は、「3-4 申立理由4について」で示すように、「甲<3>発明」の誤記と認める。)に基づいて当業者が容易になし得た発明であり、また、甲第6号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(5)申立理由5
訂正前の請求項1?4に係る発明は「100?250℃での低温焼成により硬化する」導電性ペーストであることを発明特定事項としている。
一方、本件特許明細書には「60?120℃で1?60分乾燥した後、100?250℃で1?60分低温焼成する」(【0026】)との記載があるが、上記「乾燥」時の温度範囲「60?120℃」と、上記「低温焼成」時の温度範囲「100?250℃」とで、両者の温度範囲が重複しており、かつ訂正前の請求項1?4に係る発明のそれぞれにおいて「乾燥」の工程が特定されていないため、例えば120℃でのみで熱処理をした場合に、それが「乾燥」であるのかあるいは「低温焼成」であるのかが特定できない。
よって、訂正前の請求項1?4に係る発明は不明確であり、また実施することができないので、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(6)申立理由6
訂正前の請求項1?4に係る発明における「カルボン酸含有樹脂」について、実施例で効果が確認されているのは、具体的には、「A-1ワニス」と称されるメチルメタクリレートとアクリル酸を反応させて得られた1つの樹脂のみである(【0046】)。
本件特許明細書には、「カルボン酸含有樹脂の酸価が40mgKOH/g未満であるとペーストの凝集力が低下し印刷時に転移不良を起こしやすくなる。一方、200mgKOH/gを超えると、ペーストの粘度が高くなり過ぎ、多量の架橋剤を配合する必要があるなど、印刷適性の付与が困難となる。」(【0020】)こと、すなわち、カルボン酸含有樹脂の酸価が所定範囲外であると、印刷適性の付与が困難となること、すなわち本件特許発明の課題である良好な印刷適性を達成できないことが記載されており、全てのカルボン酸含有樹脂についてまで、本件特許発明を一般化できない。また、本件特許発明は課題を解決できない範囲を包含していることは明らかである。
よって、訂正前の請求項1?4に係る発明は、請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであり、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(7)申立理由7
訂正前の請求項1?4に係る発明における「多価アルコール化合物」について、本件特許発明の課題を解決できることが、実施例で確認されているのは具体的には、トリメチロールプロパント(3価アルコール)、ジペンタエリスリトール(6価アルコール)、ジトリメチロールプロパンジト(4価アルコール)、及びトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(3価アルコール)であり、いずれも3価以上のアルコールのみである(【0046】)。
一般的には架橋基であるアルコールの価数が少ないほど、架橋による効果が少なくなるものと推察されるが、2価アルコールについては効果が確認されておらず、2価アルコールを含む多価アルコールについてまで、本件特許発明を一般化できない。
よって、訂正前の請求項1?4に係る発明は、請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであり、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(8)申立理由8
本件特許明細書【0046】【表1】には、全ての実施例において「分散剤(質量比6)」及び「消泡剤(質量比5)」を配合することが記載されており、分散剤は分散性を向上させる目的のために、消泡剤は泡の発生を抑制する目的のために配合していると推察され、両者は本願の課題である良好な印刷適性に寄与しているものと推察されるが、どのような分散剤及び消泡剤を使用しているのかについて何ら記載がないので特定ができず、また発明の詳細な説明にもどのような種類の分散剤及び消泡剤を使用するかについての記載が一切ないので、本件特許発明を実施することができない。
よって、訂正前の請求項1?4に係る発明は、その発明に属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

[申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:特許第4034555号公報
甲第2号証:特許第3394938号公報
甲第3号証:特開2007-297636号公報
甲第4号証:特開2006-282982号公報
甲第5号証:特開2005-139262号公報
甲第6号証:特開2004-319454号公報
甲第7号証:特開2006-244845号公報
甲第8号証:特開平10-261318号公報

第5 取消理由の概要
1 平成28年12月28日に通知した取消理由の概要
当審において、平成28年12月28日に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1-1
訂正前の請求項1?4に係る発明のそれぞれは、申立書における「ロ.本件特許構成要件[B]について」(申立書第37ページ第21行?第38ページ第8行)に記載の理由により、発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって、訂正前の請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足していない特許出願に対してなされたものである。

(2)取消理由1-2
訂正前の請求項1?4に係る発明のそれぞれは、申立書における「ハ.本件特許構成要件[D1]について」(申立書第38ページ第9行?第19行)に記載の理由により、発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって、訂正前の請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足していない特許出願に対してなされたものである。

2 平成29年 3月29日付けで通知した取消理由の概要
当審において、平成29年 3月29日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由2-1
本件特許明細書【0020】の記載によれば、当業者が、「良好な印刷適性を有し、高温プロセスを用いることなく、良好な電気的特性を得ることができるパターンを形成することが可能」であるという要求を同時に満たす導電性ペーストを提供する、という本件発明の課題が解決できることを認識できる「カルボン酸含有樹脂の酸価」の範囲は、「40mgKOH/g」以上「200mgKOH/g」以下に限定される、と解されるから、発明の詳細な説明に記載された発明を、「カルボン酸含有樹脂の酸価」について「40mgKOH/g未満」の導電性ペーストや「200mgKOH/gを超える」導電性ペーストを包含する訂正前の請求項1に係る発明の範囲まで、拡張ないし一般化できるとはいえないので、訂正前の請求項1に係る発明は、上記課題を解決しない導電性ペーストを包含していることとなる。
したがって、訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定された要件に適合しない。
また、訂正前の請求項1に係る発明を引用する、訂正前の請求項2?4に係る発明のそれぞれについても同様である。
よって、訂正前の請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足していない特許出願に対してなされたものである。

第6 本件特許明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(下線部は当審にて付与した。以下同様。)。
(a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、グラビアオフセット印刷により電子デバイスの電極などの導電パターンを形成するために用いられる導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子デバイスにおける高精細パターン形成技術として、フォトリソグラフィが広く用いられている。しかしながら、フォトリソグラフィは、材料を除去することでパターンを形成する減法プロセスであるため、材料の使用効率が低く、工程が複雑で、ウェットプロセスなどに大がかりな設備を要するなどの問題がある。
【0003】
一方、所望の箇所に材料を付加する加法プロセスとして、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷などの印刷法が注目されている。例えば、グラビアオフセット印刷によれば、ペースト化された電子材料(インキ)をグラビア版に供給し、これを例えばシリコーン製のブランケットに転写し、さらにステージ上の基材に転写することにより、パターンを形成することができる。」

(b)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、印刷法により電子デバイスにおけるパターンを形成する際、ペーストの良好な印刷適性のみならず、高温プロセスを用いることなくパターンを形成することが可能で、かつ、形成されるパターンにおいて、良好な電気的特性が得られることが要求される。しかしながら、これらを同時に満たすペーストを得ることは困難であるという問題がある。
【0008】
本発明は、良好な印刷適性を有し、高温プロセスを用いることなく、良好な電気的特性を得ることができるパターンを形成することが可能な導電性ペーストを提供することを目的とする。」

(c)「【0017】
本実施形態の導電性ペーストにおけるカルボン酸含有樹脂は、印刷適性を付与するとともに、導電性ペーストを塗布・乾燥、硬化後も塗膜に残存し、基材に対する良好な密着性、耐屈曲性、硬度などの物性を得るためのバインダーとして用いられる。このようなカルボン酸含有樹脂は、特に限定されるものではなく、分子中にカルボキシル基を含有している樹脂が使用できる。
【0018】
具体的には、以下に列挙するような樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(1)(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸と、それ以外の不飽和二重結合を有する化合物の1種類以上と共重合することにより得られるカルボン酸含有樹脂。
(2)(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸と、それ以外の不飽和二重結合を有する化合物の1種類以上との共重合体に、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルなどの単官能エポキシ化合物を付加させることによって得られるカルボン酸含有樹脂。
(3)グリシジル(メタ)アクリレートや3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基と不飽和二重結合を有する化合物と、それ以外の不飽和二重結合を有する化合物との共重合体に、プロピオン酸などの飽和カルボン酸を反応させ、生成した二級の水酸基に多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボン酸含有樹脂。
…(略)…
【0019】
これらのうち特に、(1)、(2)及び(3)のカルボン酸含有樹脂を用いることが好ましい。これらは、分子量、ガラス転移点などを任意に調整することができ、ペーストの印刷適性の調整や、基材に対する密着性を適宜制御することが可能である。」

(d)「【0020】
また、このようなカルボン酸含有樹脂の酸価は、40?200mgKOH/gであることが好ましい。カルボン酸含有樹脂の酸価が40mgKOH/g未満であるとペーストの凝集力が低下し印刷時に転移不良を起こしやすくなる。一方、200mgKOH/gを超えると、ペーストの粘度が高くなり過ぎ、多量の架橋剤を配合する必要があるなど、印刷適性の付与が困難となる。より好ましくは45?150mgKOH/gである。」

(e)「【0028】
本実施形態の導電性ペーストにおける多価アルコール化合物は、架橋剤としての機能を持ち、印刷適性を劣化させることなく、カルボン酸含有樹脂中のカルボキシル基と反応することにより、3次元網目鎖構造を形成し、形成されるパターンの耐溶剤性、密着性を向上させるために用いられる。」

(f)「【0031】
また、多価アルコール化合物に含まれる水酸基は、1級の水酸基であることが好ましい。このような多価アルコール化合物としては、具体的には、例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリストール、グリセリン、ソルビトール、各種ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、その他ヒドロキシエチル基を有する有機化合物類(例えば、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート)などが挙げられる。」

(g)「【0038】
さらに、本実施形態の導電性ペーストには、印刷適性を損なわない範囲で、金属分散剤、チクソトロピー性付与剤、消泡剤、レベリング剤、希釈剤、可塑化剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、カップリング剤や充填剤などの添加剤を配合してもよい。」

(h)「【0040】
このようにして基材上に形成された塗膜パターンを、60?120℃で1?60分乾燥した後、100?250℃で1?60分低温焼成することにより、塗膜パターンを硬化させ、導電パターンを形成する。」

(i)「【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
(カルボン酸含有樹脂の合成)
温度計、攪拌機、滴下ロート、及び還流冷却器を備えたフラスコに、メチルメタクリレートとアクリル酸を0.80:0.20のモル比で仕込み、溶媒としてトリプロピレングリコールモノメチルエーテル、触媒としてアゾビスイソブチロニトリルを入れ、窒素雰囲気下、80℃で6時間攪拌し、不揮発分が40重量%のカルボン酸含有樹脂溶液を得た。
【0044】
得られた樹脂は、数平均分子量が15000、重量平均分子量が約40000、酸価が97mgKOH/gであった。なお、重量平均分子量は、島津製作所社製ポンプLC-6ADと昭和電工社製カラムShodex(登録商標)KF-804,KF-803,KF-802を三本つないだ高速液体クロマトグラフィーにより測定した。以下、このカルボン酸含有樹脂溶液を、A-1ワニスと称す。」

(j)「【0046】
【表1】



(k)「【0050】
(印刷適性1:転写性評価)
セット工程後、ブランケット胴表面に導電性ペーストが残っているかを目視で評価した。評価基準は以下の通りである。
○: ブランケット表面に導電性ペーストの残存がないもの(100%が転写したもの)
△: ブランケット表面の一部に、導電性ペーストが残存しているもの
×: ブランケット全面に導電性ペーストが残っているもの
【0051】
(印刷適性2:ヒゲ欠陥評価)
導電性ペーストのパターンが転写されたガラス基板を光学顕微鏡で観察し、ヒゲ欠陥の有無を評価した。評価基準は以下の通りである。
○: ヒゲ欠陥が全く認められないもの
△: わずかにヒゲ欠陥が生じているもの
×: 明らかに多くのヒゲ欠陥が生じているもの」

(l)「【0054】
【表2】

【0055】
表2より、実施例1?7においては、いずれも印刷適性に優れ、良好な比抵抗値、耐溶剤性を得ることができることが分かる。一方、多価アルコール化合物架橋剤を用いない比較例においては、印刷適性が劣化し、特にヒゲ欠陥が多く発生するとともに、比抵抗値も若干高く、耐溶剤性も得られないことがわかる。」

第7 甲各号証の記載事項
申立人が証拠方法として提出した、甲第1号証?甲第8号証には、それぞれ、以下の事項が記載されている。
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願の原出願の出願前に国内で頒布された甲第1号証である特許第4034555号公報には以下の事項が記載されている。
(1-a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)導電性粉末、(B)カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂、(C)光重合性モノマー、(D)光重合開始剤、(E)熱硬化性樹脂、および(F)溶剤を含有する組成物であって、前記導電性粉末(A)が、溶剤を除く組成物中に70?90質量%の割合で配合され、且つ前記カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂(B)の重量平均分子量が1,000?100,000、酸価が20?250mgKOH/gであることを特徴とする導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物。
…(略)…
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光硬化性熱硬化性導電組成物を用いて形成した導電回路。」

(1-b)「【0003】
また一方で、感光性の導電ペーストを用い、フォトリソグラフィー技術を利用して基材上に導体回路パターンを形成する方法が考えられる。
しかしながら、かかる感光性の導電ペーストを用いるパターン形成方法では、通常、500℃以上の温度で焼成を行うことにより、ペースト中の有機成分を除去すると同時にガラスフリットを溶融させて、導電回路層の導電性と密着性を確保している。そのため、かかる方法では、熱に弱い基材上での適用が難しく、特に、酸化しやすい金属等を含むペーストでは、希ガス中で焼成を行う必要性があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、従来技術が抱える上記問題を解消するためになされたものであり、その主たる目的は、焼成することなく導電性と密着性を確保し得る微細な導電回路パターン形成のための導電組成物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、導電性と密着性が共に優れる微細な導電回路パターンを複雑な工程を経ることなく容易に形成し得る方法を提供することにある。」

(1-c)「【0019】
前記有機溶剤(F)としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;…(略)…エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;…(略)…これらの有機溶剤は、単独で又は2種類以上の混合物として使用することができる。…(略)…」

(1-d)「【0026】
…(略)…こうして分散された光硬化性熱硬化性導電組成物は、スクリーン印刷法、バーコーター、ブレードコーターなど適宜の塗布方法で基材上に塗布し、次いで指触乾燥性を得るために熱風循環式乾燥炉、遠赤外線乾燥炉等で例えば約60?120℃で5?40分程度乾燥させて有機溶剤を蒸発させ、タックフリーの塗膜を得る。…(略)…
【0027】
(2)次に、パターン露光して現像する。
露光工程としては、所定の露光パターンを有するネガマスクを用いた接触露光又は非接触露光が可能である。露光光源としては、ハロゲンランプ、高圧水銀灯、レーザー光、メタルハライドランプ、ブラックランプ、無電極ランプなどが使用される。露光量としては50?1000mJ/cm^(2)程度が好ましい。」

(1-e)「【0029】
(3)そして、得られた光硬化性熱硬化性導電組成物のパターン塗膜を加熱硬化して、導電性と密着性が共に優れた導電回路パターンを形成する。
熱硬化工程においては、例えば、現像後の基板を80?300℃、好ましくは約120?200℃の温度で加熱処理を行い、所望の導体パターンを形成する。」

(1-f)「【0030】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものでないことはもとよりである。なお、以下において「部」は、特に断りのない限りすべて質量部であるものとする。
(合成例1)
温度計、攪拌機、滴下ロート、及び還流冷却器を備えたフラスコに、メチルメタクリレートとメタクリル酸を0.87:0.13のモル比で仕込み、溶媒としてジプロピレングリコールモノメチルエーテル、触媒としてアゾビスイソブチロニトリルを入れ、窒素雰囲気下、80℃で2?6時間攪拌し、有機バインダーAを含む樹脂溶液を得た。この有機バインダーAは、重量平均分子量が約10,000、酸価が74mgKOH/gであった。
なお、得られた共重合樹脂の重量平均分子量の測定は、島津製作所製ポンプLC-6ADと昭和電工製カラムShodex(登録商標)KF-804、KF-803、KF-802を三本つないだ高速液体クロマトグラフィーにより測定した。
【0031】
このようにして得られた有機バインダーAを用い、以下に示す組成比にて配合し、攪拌機により攪拌後、3本ロールミルにより練肉してペースト化を行い、光硬化性熱硬化性導電組成物を得た。



(ア)上記(1-a)?(1-b)によれば、甲第1号証には導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物に係る発明が記載されており、上記(1-e)によれば、該組成物は、熱硬化工程において、例えば、現像後の基板を80?300℃、好ましくは約120?200℃の温度で加熱処理を行い、所望の導体パターンを形成するものであるから、現像後の基板を80?300℃の温度で加熱処理することにより硬化する組成物といえる。

(イ)上記(1-a)、(1-c)によれば、上記組成物は、(A)導電性粉末、(B)カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂、(C)光重合性モノマー、(D)光重合開始剤、(E)熱硬化性樹脂、および(F)溶剤を含有するものであって、前記(F)溶剤として有機溶剤が挙げられるものである。

すると、甲第1号証には、
「現像後の基板を80?300℃の温度で加熱処理することにより硬化する、導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物であって、(A)導電性粉末、(B)カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂、(C)光重合性モノマー、(D)光重合開始剤、(E)熱硬化性樹脂、および(F)有機溶剤を含有する、導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物。」(以下、「甲1発明」という。)
が記載されていると認められる。

(2)甲第2号証の記載事項
本件特許に係る出願の原出願の出願前に国内で頒布された甲第2号証である特許第3394938号公報には以下の事項が記載されている。
(2-a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】(a)酸性官能基を有する有機バインダ、
(b)感光性の有機成分、
(c)多価金属を含む導電性金属粉末、
(d)その分子中にアルコール性水酸基を2つ有するジオール化合物、
(e)有機溶剤、
を混合してなり、
前記ジオール化合物と前記有機溶剤との合計量のうち、前記ジオール化合物は10?92重量%を占め、
前記酸性官能基を有する有機バインダは、側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体であることを特徴とする、感光性導体ペースト。」

(2-b)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】近年、感光性導体ペーストを用いたフォトリソグラフィ法においては、環境への配慮から、水若しくはアルカリ水溶液による現像が可能であることが望まれており、そのため、例えば上述したカルボキシル基のように、プロトンを遊離する性質のある酸性官能基が有機バインダの分子中に導入されている。
【0006】他方、銅等の多価金属を含む導電性金属粉末を用いた場合、この多価金属は、感光性導体ペースト中の溶液部分に多価金属イオンとして溶出し易い。そして、このような系に、上述した酸性官能基を有する有機バインダを用いると、溶液中に溶出した多価金属イオンと、プロトン遊離後に生成される有機バインダのアニオンとが反応し、イオン架橋による3次元ネットワークが形成され、感光性導体ペーストのゲル化が生じる。感光性導体ペーストがゲル化すると、その塗布が難しくなるばかりか、たとえ塗布できたとしても現像が不安定になる等、その使用が困難となる。」

(2-c)「【0009】本発明は、上述した問題点を解決するものであり、その目的は、保存安定性に優れ、現像処理を安定して実施できる感光性導体ペーストを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、カルボキシル基等の酸性官能基を有する有機バインダと、2以上の価数を有した多価金属を含む導電性金属粉末とを混合してなる感光性導体ペースト中に、その分子中にアルコール性水酸基を2つ有するジオール化合物を添加することによっても、そのゲル化を有効に抑制できることを見出した。」

(2-d)「【0017】本発明の感光性導体ペーストにおいて、(d)その分子中にアルコール性水酸基を2つ有するジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ブテンジオール、ヘキサメチレングリコール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0018】なお、上述したジオール化合物は、その沸点が178℃以上のものが大多数を占めており、そのため、感光性導体ペーストの塗布後、乾燥処理を施した後であっても、ジオール化合物が乾燥後の組成物中に十分に残存しており、そのゲル化防止能を十分に発揮することができ、ひいては、安定した現像処理が可能となる。」

(3)甲第3号証の記載事項
本件特許に係る出願の原出願の出願前に国内で頒布された甲第3号証である、特開2007-297636号公報には以下の事項が記載されている。

(3-a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性基を有し、かつ、主鎖に脂環式構造を有する繰り返し単位を30重量%以上の割合で含有する脂環式構造含有重合体と導電性フィラーとを含有する異方性導電用樹脂組成物。
…(略)…
【請求項15】
極性基を有し、かつ、主鎖に脂環式構造を有する繰り返し単位を30重量%以上の割合で含有する脂環式構造含有重合体と導電性フィラーを有機溶媒に溶解ないしは分散させてなる異方性導電用ワニス。」

(3-b)「【0016】
極性基を有する脂環式構造含有重合体
…(略)…極性基の具体例としては、エポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、カルボニルオキシカルボニル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シラノール基、アミノ基などが好ましく、カルボキシル基及びヒドロキシル基がより好ましく、カルボキシル基が特に好ましい。」

(3-c)「【0043】
極性基含有の脂環式構造含有重合体中の極性基の割合は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、重合体全繰り返し単位当り、通常0.1?100モル%、好ましくは0.2?50モル%、より好ましくは1?30モル%の範囲であるときに、誘電特性、接着性、及び長期信頼性の特性が高度にバランスされて好適である。極性基がカルボキシル基やヒドロキシル基などの活性水素含有の極性基である場合の含有量は、重合体全繰り返し単位当り、通常0.1?50モル%、好ましくは0.2?20モル%、より好ましくは1?10モル%の範囲であるときに、接着性、長期信頼性などの特性が高度にバランスされ好適である。」

(3-d)「【0059】
硬化剤としては、例えば、…(略)…ペルオキシジカーボネートなどの有機過酸化物;…(略)…テトラエチレンペンタミンなどの脂肪族ポリアミン;…(略)…ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンなどの脂環族ポリアミン;…(略)…メタキシシリレンジアミンなどの芳香族ポリアミン;…(略)…2,2′-ジアジドスチルベンなどのビスアジド;…(略)…無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどの酸無水物;…(略)…ハイミック酸などのジカルボン酸;1,3′-ブタンジオール…(略)…トリシクロデカンジメタノールなどのジオール;1,1,1-トリメチロールプロパン等のトリオール;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂などの多価フェノール;…(略)…ポリヘキサメチレンイソフタルアミドなどのポリアミド;ヘキサメチレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネートなどのジイソシアネート;などが挙げられる。これらの硬化剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。硬化剤の配合割合は、極性基を有する脂環式構造含有重合体100重量部に対して、通常0.1?50重量部、好ましくは1?40重量部、より好ましくは2?30重量部の範囲である。」

(4)甲第4号証の記載事項
本件特許に係る出願の原出願の出願前に国内で頒布された甲第4号証である特開2006-282982号公報には以下の事項が記載されている。
(4-a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板に印刷する導電性インキ組成物であって、インキの粘度が10000mPa・s?60000mPa・sであることを特徴とする導電性インキ組成物。
【請求項2】
導電性インキ組成物中のバインダー樹脂は、分子量が10000?60000で且つ酸価が50mgKOH/g以下のアクリル樹脂であって、導電性インキ組成物中の樹脂分比率は5?15重量%であることを特徴とする請求項1記載の導電性インキ組成物。」

(4-b)「【0001】
本発明は、グラビアオフセット印刷法によって微細な配線パターンを印刷するのに適した導電性インキ組成物に関するものである。」

(4-c)「【0005】
…(略)…このグラビアオフセット印刷法は、凹版の表面に形成した配線パターンに対応した凹部内に導電性インキを充填し、余分なインキをドクターブレード法などで掻き取り、次に、この凹版にブランケットロールなどの転写体を圧接することで印刷パターンを転写体の表面に転写し、そしてこの転写体を被印刷物に圧接することで印刷パターンを当該被印刷物上に再度転写させたのち乾燥させ、必要に応じて被印刷物を焼成することで配線パターンを形成することができる。」

(4-d)「【0011】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、グラビアオフセット印刷において、凹版から良好に転写体に転写することができ、次いで、この転写体からガラス基板上に良好に再度転写(印刷)することができる、低コストの導電性インキ組成物を提供することにある。」

(4-e)「【0018】
本発明によれば、グラビアオフセット印刷において、凹版から良好に転写体に転写することができ、次いで、この転写体からガラス基板上に良好に再度転写(印刷)することができる、低コストの導電性インキ組成物を提供することができる。」

(4-f)「【0020】
導電性インキ組成物の粘度は、10000mPa・s(ミリPa・s)から60000mPa・s(ミリPa・s)の範囲内であることが好ましい。インキ組成物の粘度が10000mPa・s未満であると、転写された線が滲むという不都合な点がある。一方、インキ組成物の粘度が60000mPa・sを超えると、良好に転写できなくなったり、凹版の表面に形成した凹部内へのインキ組成物の充填作業性が低くなるので好ましくない。この点で、導電性インキ組成物の粘度は、15000mPa・s?30000mPa・sであることが、より好ましい。
【0021】
バインダー樹脂としては、ガラス基板上に印刷した配線パターンはガラス基板が溶融・変形しないように低温(600℃以下)で焼成する必要があることを考慮して、500℃で完全に燃焼し且つバインダー性が良好な樹脂が好ましい。この点で、アクリル樹脂はバインダー樹脂として好ましく、分子量が10000から60000の範囲内のアクリル樹脂は、溶剤に対する溶解性に優れ、転写性が良好である点で好ましい。この分子量が10000未満のものは、銀を分散させるバインダー性が小さく、銀が沈降しやすいという不都合な点があり、分子量が60000を超えると、粘度が高くなり、転写しにくくなるという不都合な点がある。
【0022】
しかしながら、アクリル樹脂の分子量が10000から60000の範囲内であっても、酸価が50mg(ミリグラム)KOH/gを超えると、粘着性が高くなり、良好な転写をすることができないので、その酸価は、50mgKOH/g?0mgKOH/gの範囲であることが好ましく、0mgKOH/gであることが特に好ましい。
【0023】
さらに、導電性インキ組成物100重量部の中に、樹脂成分を5から15重量部含有することが好ましい。樹脂成分が5重量部未満では、必要なバインダー強度を確保することができない。一方、樹脂成分が15重量部を超えると、必要な導電性が得られなくなる。
【0024】
導電性インキ組成物を構成する導電体である金属粉末としては、ガラス基板が溶融・変形しないように、600?400℃の温度で焼結可能なものが好ましく、導電性、コスト、耐酸化性および低温焼成可能(約580℃で焼結可能)であるという特徴を有する点を考慮すると、銀粉末が好ましいが、銀粉末以外に、銀粉末に鉛フリーの半田合金粉末を混ぜたものなどを用いることもできる。銀粉末の平均粒径は、0.1から3.0μmが好ましい。銀粉末の平均粒径が0.1μm未満のものは製造コストが高く、また、インキの粘度が高くなり、転写しにくいという不都合な点もある。一方、銀粉末の平均粒径が3.0μmを超えると、転写性が低下する。本明細書において、平均粒径とは、走査型電子顕微鏡写真に現れた銀粉末の粒径を測定した平均値をいう。
【0025】
この銀粉末は、導電性インキ組成物100重量部の中に60から90重量部含有することが好ましい。銀粉末が60重量部未満であると、導電膜が緻密にならず、抵抗値が高くなってしまう。一方、銀粉末が90重量部を超えると、インキの粘度が60000mPaを超えてしまい、良好な転写性を確保することができない。
【0026】
銀粉末の形状は、ブランケットロールのような転写体からガラス基板への転写性を考慮すると、球状が好ましい。なお、必要に応じて、分散性を向上するために銀粉末に表面処理を施すことができる。
【0027】
導電性インキ組成物をガラス基板に接着させるためのガラスとしては、低融点の鉛入りガラスが用いられることが多いが、環境問題を考慮し、さらに接着性が良好であるガラス成分としてビスマスを含有する軟化点が500℃以下の鉛フリーガラス、好ましくはビスマスを含有する軟化点が500?350℃の鉛フリーガラスを用いるのがよい。このビスマスは、接着性を考慮してガラス成分の中に60重量%以上含有するのが好ましく、一方、転写された線に滲みが出ないようにするためには、ガラス成分中のビスマス含有量は90重量%以下とするのが好ましい。さらに、接着性および導電性の両面を考慮して、ガラス成分は、導電性インキ組成物100重量部の中に1?4重量部含有することが好ましい。
【0028】
溶剤は、バインダー樹脂を溶解するとともに導電性粉末やガラスフリットを分散して、凹版オフセット印刷に適した粘度を有する導電性インキ組成物を形成するためのもので、アクリル樹脂が可溶で高沸点(沸点210℃以上)のものを好ましく用いることができるが、樹脂の溶解度が高い溶剤として、グリコールエーテル系のものが特に好ましい。例えば、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート等を挙げることができる。」

(ア)上記(4-a)?(4-c)によれば、甲第4号証には「導電性インキ組成物」に係る発明が記載されており、当該「導電性インキ組成物」は、グラビアオフセット印刷法によって微細な配線パターンを印刷するのに適したものであって、必要に応じて被印刷物を焼成することで配線パターンを形成することができるものである。

(イ)上記(4-d)、(4-e)によれば、上記「導電性インキ組成物」は、グラビアオフセット印刷において、凹版から良好に転写体に転写することができ、次いで、この転写体からガラス基板上に良好に再度転写(印刷)することができる、低コストの「導電性インキ組成物」である。

(ウ)上記(4-f)によれば、上記「導電性インキ組成物」は、低温(600℃以下)で焼成するものであって、バインダー樹脂として、酸価が、50mgKOH/g?0mgKOH/gの範囲であるアクリル樹脂、導電体である金属粉末、ビスマスを含有する軟化点が500℃以下の鉛フリーガラス、樹脂の溶解度が高い溶剤として、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート等を含むものである。

すると、甲第4号証には、
「グラビアオフセット印刷法により得られたパターンを600℃以下での低温焼成により硬化する配線パターン形成用の導電性インキ組成物であって、 酸価が、50mgKOH/g?0mgKOH/gの範囲であるアクリル樹脂、金属粉末、および樹脂の溶解度が高い溶剤を含有する導電性インキ組成物。」(以下、「甲4発明」という。)
が記載されていると認められる。

(5)甲第5号証の記載事項
本件特許に係る出願の原出願の出願前に国内で頒布された甲第5号証である特開2005-139262号公報には以下の事項が記載されている。
(5-a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアノ基含有高分子化合物と、π共役系導電性高分子と、シアノ基と反応する硬化剤とを含むことを特徴とする導電性組成物。
【請求項2】
前記シアノ基含有高分子化合物は、シアノ基含有単量体とビニル基含有単量体との共重合体からなることを特徴とする請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
シアノ基含有単量体と官能基を有するビニル基含有単量体との共重合体からなるシアノ基含有高分子化合物と、π共役系導電性高分子と、シアノ基及び/又は前記官能基と反応する硬化剤とを含むことを特徴とする導電性組成物。
【請求項4】
前記官能基は、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基から選ばれる1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項3に記載の導電性組成物。
【請求項5】
前記シアノ基含有単量体は、アクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリルであることを特徴とする請求項2?4のいずれかに記載の導電性組成物。」

(5-b)「【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、成形性に優れ、有機溶剤に可溶で、イオン伝導性をもたず、さらに、導電性塗料又は導電性樹脂として塗膜あるいは成形体とされた後には、水や溶剤に溶解することはなく、高い耐熱性を持ち、したがって多様な用途に展開可能な導電性組成物を提供することを目的とする。」

(5-c)「【0021】
[シアノ基と反応する硬化剤]
シアノ基と反応する硬化剤としては、溶液中あるいは樹脂中でシアノ基含有高分子化合物と共存することで、シアノ基と反応してシアノ基含有高分子化合物を架橋させ得る官能基を1分子中に1個または2個以上有する化合物であれば良く、シアノ基と反応し得る官能基としては、例えば、メチロール基、クロロスルホン基などが挙げられ、これらの官能基を有する化合物であれば、使用が可能である。…(略)…」

(5-d)「【0025】
[製造方法]
本発明の導電性組成物の製造にあたっては、上記のシアノ基含有高分子化合物を、これを溶解する溶剤に溶解し、π共役系導電性高分子の前躯体モノマーと十分攪拌混合した系に、酸化剤を滴下して重合を進行させる。こうして得られたシアノ基含有高分子化合物とπ共役系導電性高分子との混合物から、酸化剤、残留モノマー、副生成物を除去、精製し、さらに、シアノ基と反応する硬化剤を混合して導電性組成物を得る。」

(5-e)「【0033】
[成型方法]
導電性樹脂の成型は上述のように溶剤に溶解した後、溶液成型、塗布、コーティング、印刷等任意の成型を行った後、溶剤を乾燥除去して成型品を得てもよく、ペレット状とした導電性樹脂を溶融押出し、射出成型などの溶融成型によって成型品を得てもよい。
【0034】
<第二の導電性組成物>
第二の導電性組成物は、シアノ基含有高分子化合物としてシアノ基含有単量体と官能基を有するビニル基含有単量体との共重合体からなるものを用い、硬化剤としてシアノ基及び/又は前記官能基と反応するものを用いる以外は、第一の導電性組成物と同様にして得ることができる。また、第一の導電性組成物と同様に使用、成型することができる。
…(略)…
[官能基を有するビニル基含有単量体]
官能基を有するビニル基含有単量体は、上記第一の導電性組成物において例示したシアノ基含有単量体と共重合が可能で、該ビニル基含有単量体の官能基が後述の硬化剤と反応するようなものであればよく、上記第一の導電性組成物において例示したビニル基含有単量体のうち、ハロゲン化ビニル化合物、アクリル系化合物、ジエン化合物、マレイミド化合物等を用いることができる。
これらのビニル基含有単量体を、シアノ基含有単量体と共重合させることにより、シアノ基含有高分子化合物を、分子中のシアノ基又は官能基が後述の硬化剤により架橋されうるものとすることができ、耐溶剤性、耐熱性を向上させることができる。
前記官能基は、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基から選ばれる1種又は2種以上からなることが、シアノ基含有単量体との共重合のしやすさ、硬化剤との良好な反応性のために好ましい。
スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基などの官能基を有するビニル化合物としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸のようなカルボン酸化合物、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートのようなヒドロキシ化合物、アクリルアミド、メタクリルアミドのようなアミド化合物、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートのようなエポキシ化合物、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸のようなスルホン酸化合物が挙げられる。
従って、官能基を有するビニル基含有単量体を用いてなるシアノ基含有高分子化合物としては、アクリロニトリル-アクリル酸共重合体、アクリロニトリル-メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル-2-ヒドロキシエチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル-ビニルスルホン酸共重合体、アクリロニトリル-スチレンスルホン酸共重合体等が挙げられる。
【0035】
[シアノ基及び/又は官能基と反応する硬化剤]
シアノ基及び/又は官能基と反応する硬化剤としては、シアノ基と反応する硬化剤、前記官能基と反応する硬化剤、これら双方に対して反応性を有する硬化剤がある。
シアノ基と反応する硬化剤としては、上記第一の導電性組成物に用いられるものと同様のものを例示することができる。
前記官能基と反応する硬化剤は、前記官能基と反応し得る官能基を1分子中に1個または2個以上有する化合物であれば良く、前記官能基と反応し得る官能基としては、例えば、チオール基、メチロール基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基、クロロスルホン基などが挙げられ、これらの官能基を有する化合物であれば、使用が可能である。但し、用いる硬化剤の種類は、前記官能基に対応して選択される。例えば、前記官能基がカルボキシル基であれば、硬化剤としてメチロール基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基を用いることができる。
シアノ基及び前記官能基の双方に対して反応性を有する硬化剤としては、メチロール基、クロロスルホン基などが挙げられ、これらの官能基を有する化合物であれば、使用が可能である。例えば、シアノ基含有高分子化合物における前記官能基がカルボキシル基であれば、硬化剤としてメチロール基を用いることができる。」

(5-f)「【0038】
(実施例1)
1)シアノ基含有高分子化合物の合成
アクリロニトリル50gと、ブタジエン5gをトルエン500ml中に溶解し、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを2.5g加え、60℃で8時間重合した。
重合により生成したポリマーはメタノールで洗浄した。
2)導電性組成物の作製
1)で得たシアノ基含有高分子化合物10gをアセトニトリル90gに溶解し、ピロールからなるπ共役系導電性高分子の前駆体モノマー50gを加え、-20℃に冷却しながら、1時間攪拌した。
この溶液に、塩化第二鉄250gをアセトニトリル1250mlに溶解した酸化剤溶液を、-20℃を保ちながら2時間かけて滴下し、さらに12時間攪拌を続けてピロールの重合を行った。反応終了後の溶液は黒青色であった。
反応終了後、前記均一溶液に2000mlのメタノールを加えて生成した沈殿物をろ過し、ろ液が透明になるまでメタノールと純水を用いて洗浄を行い、シアノ基含有高分子化合物とπ共役系導電性高分子の混合物を得た。得られた混合物について上記試験方法に従って、溶剤溶解性を試験し、表1に示した。
引き続き、この混合物の3%のNMP溶液に、固形分に対して10%のジメチロールクレゾールからなる硬化剤を混合して本発明の導電性組成物の溶液を作製し、この溶液を乾燥時の塗膜厚が2μmになるようにガラス板上に塗布し、120℃で2時間乾燥して製膜した。形成された塗膜の電気伝導度を、上記試験方法に従って、初期と125℃、240h後にそれぞれ測定した。また、耐溶剤性を、上記試験方法に従って測定した。結果を表1に示す。」

(ア)上記(5-a)?(5-b)によれば、甲第5号証には「導電性組成物」に係る発明が記載されており、当該「導電性組成物」は、シアノ基含有高分子化合物と、π共役系導電性高分子と、シアノ基と反応する硬化剤とを含むものであって、多様な用途に展開可能なものである。

(イ)上記(5-e)によれば、導電性樹脂の成型は、溶剤に溶解した後、溶液成型、塗布、コーティング、印刷等任意の成型を行った後、溶剤を乾燥除去して成型品を得てもよく、ペレット状とした導電性樹脂を溶融押出し、射出成型などの溶融成型によって成型品を得てもよいものであり、具体的には、上記(5-f)によれば、導電性組成物の溶液を作製し、この溶液を乾燥時の塗膜厚が2μmになるようにガラス板上に塗布し、120℃で2時間乾燥して製膜するものである。

そうすると、甲第5号証には、
「印刷により得られた成型品を120℃での乾燥により成膜する導電性組成物であって、
シアノ基含有高分子化合物と、π共役系導電性高分子と、シアノ基と反応する硬化剤を含有する導電性組成物。」(以下、「甲5発明」という。)
が記載されていると認められる。

(6)甲第6号証の記載事項
本件特許に係る出願の原出願の出願前に国内で頒布された甲第6号証である特開2004-319454号公報には以下の事項が記載されている。
(6-a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉(A)と、1分子中に少なくとも1個以上のカルボキシル基を有するポリマー(B)と、1分子中に少なくとも1個以上のビニルエーテル基を有する化合物(C)とを含有する導電性ペーストであって、金属粉(A)のタップ密度が0.9g/cm^(3)以下であることを特徴とする導電性ペースト。
…(略)…
【請求項3】
金属粉(A)が、Ag(銀)、Au(金)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ni(ニッケル)、Pt(白金)およびPd(パラジウム)からなる金属元素群から選ばれる1種の金属粉または2種以上の合金の金属粉である請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
ポリマー(B)が、酸価10mgKOH/g以上、重量平均分子量300?100000のポリマーである請求項1?3のいずれか1項に記載の導電性ペースト。」

(6-b)「【0002】
導電性ペーストは、プリント配線板やフレキシブルプリント基板の上にパターン塗布して回路や電極を形成したり、また、多層基板のスルーホールの穴埋めを行ったり、あるいは半導体素子やチップ部品をそれらの上に接合したりする際に使用される。…(略)…」

(6-c)「【0005】
本発明の目的は、優れた密着性能や接着性能を有しながら、体積固有抵抗が金属の固有抵抗値の12倍以下(Agの場合、20μΩ・cm以下)の高導電性能を有する導電性ペーストを提供することにある。」

(6-d)「【0011】
本発明で用いる前記の1分子中に少なくとも1個以上のカルボキシル基を有するポリマー(B)としては、カルボキシル基を有していればよく、特に限定されない。入手性等から、カルボキシル基含有の(メタ)アクリル系ポリマーが好適に用いられる。…(略)…」

(6-e)「【0015】
このようにして得た単独または2種以上混合された、1分子中に少なくとも1個以上のカルボキシル基を有するポリマー(B)の酸価は、本発明の目的である金属の固有抵抗値の12倍以下(Agの場合、20μΩ・cm以下)の体積固有抵抗値を得るためには、好ましくは10mgKOH/g以上、さらに好ましくは25mgKOH/g以上である。…(略)…」

(6-f)「【0017】
前記のポリマー(B)とビニルエーテル基を有する化合物(C)の本発明の導電性ペースト中の配合割合は、{(ビニルエーテル基を有する化合物(C)のビニル基のモル当量)/(ポリマー(B)の酸モル当量)}の比率で0.1?10が好ましい。…(略)…」

(6-g)「【0019】
本発明の導電性ペーストに用いる溶剤としては、特に限定されない。通常の汎用溶媒の中から適宜選択して使用することができる。溶媒としては、具体的には例えば、ドデカン、テトラデセン、ドデシルベンゼン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、α-テルピネオール、ベンジルアルコール、2-ヘキシルデカノール等のアルコール;酢酸エチル、乳酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸ブチル、アジピン酸ジエチル、フタル酸ジエチル等のエステル類;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコール誘導体;シクロヘキサノン、シクロヘキサノール等の脂環式炭化水素類;石油エーテル、ナフサ等の石油系溶剤が挙げられる。…(略)…」

(6-h)「【0021】
本発明の導電性ペーストは、導電性に優れるので、各種の電子関係の配線基板や電子部品の内外部の電極等の導通が必要な箇所に好適に使用できる。
具体的に例えば、前記の基板への利用として、前記の導電性ペーストを用いて次の(1)?(3)の工程により配線基板を製造することができ、また、(4)の工程により、内外部電極を形成することができる。
(1)プリント配線板やフレキシブルプリント基板の上にパターン塗布し加熱処理して回路や電極を形成する工程、
…(略)…
(3)プリント基板上にディスペンス、スクリーン印刷ないしステンシル印刷で塗布した上に、半導体素子やチップ部品を搭載し加熱処理して接合する工程。…(略)…」

(6-i)「【0031】
実施例1
調製例1で得られた銀粉(Ag-1)3.38gと、合成例2で得られたカルボキシル基含有ポリマーの溶液(B-1)1.00gと、トリエチレングリコールジビニルエーテル(TEGDVEと略す、日本カーバイド工業(株)製)0.18gと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA、(株)クラレ製)0.99gと、カスターワックス0.03g(予め、B-1溶液に80℃に加熱下で溶解しておく)と、キレート剤としての亜鉛アセチルアセトナート一水和物(同仁化学研究所(株)製)0.02gを合わせ、(株)シンキー製ペースト混練器ARV-200を用いて、17秒間を2サイクル自転公転混合し、粘度340dPa・secの導電性ペーストを得た。
また前記の組成物を用いて前記の試験方法、評価方法で評価した。ただし、塗布または印刷したペーストは、70℃で10分間予備乾燥した後、200℃で20分間の条件で加熱処理を行った。組成と結果を表-1に示す。」

(ア)上記(6-a)によれば、甲第6号証には「導電性ペースト」に係る発明が記載されており、当該「導電性ペースト」は、金属粉(A)と、1分子中に少なくとも1個以上のカルボキシル基を有するポリマー(B)と、1分子中に少なくとも1個以上のビニルエーテル基を有する化合物(C)とを含有する導電性ペーストであって、金属粉(A)のタップ密度が0.9g/cm^(3)以下であり、金属粉(A)が、Ag(銀)、Au(金)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ni(ニッケル)、Pt(白金)およびPd(パラジウム)からなる金属元素群から選ばれる1種の金属粉または2種以上の合金の金属粉であり、ポリマー(B)が、酸価10mgKOH/g以上のポリマーであるものである。

(イ)上記(6-b)?(6-h)によれば、上記「導電性ペースト」は、プリント配線板やフレキシブルプリント基板の上にパターン塗布して回路や電極を形成する際に使用されるものであって、1分子中に少なくとも1個以上のカルボキシル基を有するポリマー(B)として、カルボキシル基含有の(メタ)アクリル系ポリマーが好適に用いられるものであり、上記「導電性ペースト」に用いる溶剤としては、有機溶剤が挙げられるものであり、基板への利用として、上記「導電性ペースト」を用いて、(1)プリント配線板やフレキシブルプリント基板の上にパターン塗布し加熱処理して回路や電極を形成する工程、(3)プリント基板上にディスペンス、スクリーン印刷ないしステンシル印刷で塗布した上に、半導体素子やチップ部品を搭載し加熱処理して接合する工程等の工程により、内外部の電極を形成することができるものである。

そうすると、甲第6号証には、
「プリント配線板やフレキシブルプリント基板の上にパターン塗布し加熱処理する導電性ペーストであって、
1分子中に少なくとも1個以上のカルボキシル基を有するポリマー(B)と、金属粉(A)と、1分子中に少なくとも1個以上のビニルエーテル基を有する化合物(C)と、有機溶剤を含有し、
ポリマー(B)が、酸価10mgKOH/g以上である、導電性ペースト。」(以下、「甲6発明」という。)
が記載されていると認められる。

(7)甲第7号証の記載事項
本件特許に係る出願の原出願の出願前に国内で頒布された甲第7号証である、特開2006-244845号公報には以下の事項が記載されている。
(7-a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末、バインダ樹脂および添加剤を含有し、
前記バインダ樹脂は、酸価が3?15mgKOH/gでありかつ重量平均分子量Mwが50000?150000である、カルボキシル基を有するアクリル樹脂であり、
前記添加剤は、アミン系添加剤およびアニオン系分散剤であり、
ずり速度10s^(-1)での粘度をη10とすると、η10=0.25?1.0Pa・sであり、かつ、ずり速度100s^(-1)および500s^(-1)での各粘度を、それぞれ、η100およびη500とすると、η100≦η500、かつη500≦1.5Pa・sである、
グラビア印刷用導電性ペースト。」

(7-b)「【0008】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を生じさせずにグラビア印刷に最適な粘度範囲を与え得る導電性ペースト、およびそれを用いて実施される積層セラミック電子部品の製造方法を提供しようとすることである。」

(7-c)「【0016】
この発明に係る導電性ペーストによれば、これをセラミックグリーンシート上にグラビア印刷するために用いるとき、粘度がグラビア印刷適正粘度範囲域に収まるととともに、印刷塗膜形状が平滑になる。」

(7-d)「【0052】
他方、比較例としての試料4では、表1に示すように、アクリル樹脂の酸価が大きい(カルボキシル基が多い)ため、ニッケル粉末との結合が強固になり、表2に示すように、10s^(-1)での粘度および500s^(-1)での粘度がかなり高くなった。その結果、セルへの導電性ペースト充填時および印刷の転写時において不具合が生じ、かつ粘度が高いため、レベリング性が阻害され、表2に示すように、塗膜形状において凹凸が大きくなり、ショート不良率が上昇したと考えられる。
【0053】
また、比較例としての試料5では、表1に示すように、アクリル樹脂の酸価が小さい(カルボキシル基が少ない)ため、ニッケル粉末との結合が弱まり、ニッケル粉末とバインダ樹脂との間で可逆的な架橋結合ができず、三次元的な網目構造が弱まり、表2に示すように、10s^(-1)での粘度がかなり低く、また、100s^(-1)での粘度が500s^(-1)での粘度より高くなり(ダイラタンシー的挙動の消失)、粉末の沈降分離による凝集および印刷の転写時に急激な粘度の減少によるペーストの分断などの不具合が起こり、塗膜形状の凹凸が大きくなり、ショート不良率が上昇したと考えられる。」

(8)甲第8号証の記載事項
本件特許に係る出願の原出願の出願前に国内で頒布された甲第8号証である、特開平10-261318号公報には以下の事項が記載されている。
(8-a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 導電性粒子、結合剤及び溶剤を主成分とする導電性ペーストにおいて、結合剤中に導電性高分子を含有することを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】 導電性高分子がポリアニリンであることを特徴とする請求項1記載の導電性ペースト。
【請求項3】 ポリアニリンが、分子内に少なくとも一つのスルホン酸基を有するスルホン化ポリアニリンであることを特徴とする請求項1又は2記載の導電性ペースト。
…(略)…
【請求項6】 導電性高分子の結合剤中に占める割合が1?50重量%であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の導電性ペースト。」

(8-b)「【0003】一方、主に銀、銅、カーボン等の導電性粒子、結合剤及び溶剤からなる導電性ペーストは、多くの導電性粒子の接触によって回路の導通を得ている。このため、金属の酸化等による接触抵抗の増大、機械的変形による接点不良を起こす可能性が大きく、耐久性、信頼性に欠けるという問題点があることが指摘されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記問題点を解決し、導電性粒子を有する導電性ペーストを用いたはんだづけの後の回路の機械的変形による接点不良がなく、耐久性、信頼性に優れたはんだづけを行うことのできる導電性ペーストを提供することにある。」

(8-c)「【0025】結合剤に反応し得る硬化剤を併用することが好ましい。…(略)…」

(8-d)「【0050】本発明において用いる溶剤についてはその種類に制限はなく、エステル系、ケトン系、エーテルエステル系、塩素系、アルコール系、エーテル系、炭化水素系等の溶剤が挙げられる。このうち、スクリーン印刷する場合はエチルカルビトールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、イソホロン、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトンなどの高沸点溶剤が好ましい。」

(8-e)「【0060】8.接着力テスト
ガラスエポキシ基板上に、5mmの間隔をおいて2つのパッド(銅箔上にはんだメッキされた縦・横・高さが1.6mm×1.6mm×0.01mmのもの)を設け、その間の基板に直径1.5mmの孔を穿けるとともにパッド上に導電ペーストを印刷した。しかる後2つのパッドの導電ペースト上面をわたして長さ8mm、巾1.6mmの抵抗チップをのせ、160℃で30分間キュアした。…(略)…」

(8-f)「【0064】〈飽和共重合ポリエステル樹脂(1)〉テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールを原料として合成した、分子量20000?25000、ガラス転移点45℃、水酸基価6.5KOHmg/g、酸価2KOHmg/gの飽和共重合ポリエステル樹脂」

(8-g)「【0075】
【発明の効果】本発明の導電性ペーストは、結合剤中に導電性高分子を含有することにより、はんだづけ後の回路の機械的変形によっても接点不良を起こすことがなく、実装基板等の耐久性、信頼性が大幅に向上し、はんだ代替の導電性接着剤として極めて有用である。」

第8 当審の判断
1 取消理由1-1及び取消理由2-1について
(ア)上記取消理由1-1及び取消理由2-1は、要するに、「カルボン酸含有樹脂の酸価」について「40mgKOH/g未満」の導電性ペーストや、「200mgKOH/gを超える」導電性ペーストを包含する、訂正前の請求項1?4に係る発明は、課題を解決しない導電性ペーストを包含しているから、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定された要件に適合しない、というものであって、上記申立理由6と同旨のものである。

(イ)そこで、上記取消理由1-1、取消理由2-1及び申立理由6についてまとめて検討すると、本件訂正は認められることは上記「第2 訂正請求の適否」に記載したとおりであるから、本件特許発明1は、カルボン酸含有樹脂の酸価が「40?200mgKOH/g」に特定されたものである。

(ウ)そして、「第6 本件特許明細書の記載(b)」(【0008】)及び「第6 本件特許明細書の記載(d)」から、本件特許発明1は、カルボン酸含有樹脂の酸価を40?200mgKOH/gと特定することにより、良好な印刷適性を有し、高温プロセスを用いることなく、良好な電気的特性を得ることができるパターンを形成することが可能な導電性ペーストを提供する、という課題を解決できるものである。

(エ)そうすると、本件特許発明1が、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定された要件に適合しないとはいえない。
このことは、請求項1を引用する本件特許発明2?本件特許発明4についても同様である。

2 取消理由1-2について
(ア) 取消理由1-2は、要するに、「多価アルコール化合物」について、本件特許発明の課題を解決できることが実施例で確認されているのは、いずれも3価以上のアルコールのみであり、2価アルコールについては効果が確認されておらず、2価アルコールを含む多価アルコールについてまで本件特許発明を一般化できないから、訂正前の請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであり、その特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものであって、上記申立理由7と同旨のものである。

(イ)そこで、上記取消理由1-2及び申立理由7についてまとめて検討すると、上記「第6 本件特許明細書の記載(b)」から、本件発明の課題は「良好な印刷適性を有し、高温プロセスを用いることなく、良好な電気的特性を得ることができるパターンを形成することが可能」であるという要求を同時に満たす導電性ペーストを提供することであるといえる。

(ウ)本件特許発明1は「多価アルコール化合物」を含有する導電パターン形成用の導電性ペーストに係るものであり、上記「多価アルコール化合物」は、2価以上の価数を有する「多価アルコール化合物」を包含している。

(エ)上記「第6 本件特許明細書の記載(e)」には、「多価アルコール化合物は、架橋剤としての機能を持ち、印刷適性を劣化させることなく、カルボン酸含有樹脂中のカルボキシル基と反応することにより、3次元網目鎖構造を形成し、形成されるパターンの耐溶剤性、密着性を向上させるために用いられる」ことが、また、上記「第6 本件特許明細書の記載(f)」には、「…このような多価アルコール化合物としては、具体的には、例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、…(略)…などが挙げられる」ことが、それぞれ記載されており、上記「多価アルコール化合物」として2価アルコール化合物を用いることが開示されている。

(オ)多価アルコール化合物は、「一般的には架橋基であるアルコールの価数が少ないほど、架橋による効果が少なくなる」(申立書第38頁第14?16行)ものであって、価数に応じた程度の差こそあれ、カルボン酸含有樹脂中のカルボキシル基に対する架橋剤として作用するものと解される。

(カ)そして、上記(イ)?(オ)の検討事項によれば、本件特許発明1における「多価アルコール化合物」は、2価以上の価数を有する「多価アルコール化合物」を包含しているのに対して、本件特許明細書には、2価アルコール化合物を用いて製造した導電性ペーストについて具体的な記載はされていないが、本件特許明細書には、「多価アルコール化合物」として2価アルコール化合物を用いることが開示されているのに加えて、2価アルコール化合物は、3価以上の価数のアルコールに比べれば効果は少ないものの、架橋剤として作用することを当業者であれば理解できるから、2価アルコールを用いることによっても、上記(イ)の課題を解決できるものといえる。

(キ)したがって、2価アルコールを含む多価アルコールについてまで、本件特許発明を一般化できないとまではいえないから、本件特許発明1は、上記取消理由1-2により、特許法第36条第6項第1号に規定された要件に適合しないとまではいえない。
このことは、本件特許発明1を引用する、本件特許発明2?4のそれぞれについても同様である。

3 当審で採用しなかった異議申立理由について
申立理由6及び申立理由7については、上記「1 取消理由1-1及び取消理由2-1について」、「2 取消理由1-2について」に記載のとおりであるので、申立理由1?申立理由5及び申立理由8について、以下、検討する。

3-1 申立理由1について
(1)対比
(ア)本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物」は、上記「第7 甲各号証の記載事項」の(1-b)、(1-d)、(1-e)(以下、単に「上記(1-b)」等という。)によれば、本件特許発明1の「導電パターン形成用の導電性ペースト」に対応する。

(イ)甲1発明の上記「導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物」は、熱硬化工程において、「現像後の基板を80?300℃、好ましくは約120?200℃の温度で加熱処理を行い、所望の導体パターンを形成する」ことにより硬化するものであるから、「80?300℃での低温焼成により硬化する」ものといえ、硬化温度は、「100℃?250℃」の範囲で重複している。

(ウ)甲1発明の上記「導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物」における「(A)導電性粉末」及び「(B)カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂」は、それぞれ、本件特許発明1における「導電粒子」、「カルボン酸含有樹脂」に対応する。

(エ)上記(1-c)によれば、甲1発明の上記「導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物」における(F)有機溶剤として、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類などが挙げられるものであり、更に、有機溶剤(F)は、単独で又は2種類以上の混合物として使用することができるものであるから、前記多価アルコール化合物を除く有機溶剤とし得るものである。
そして、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類は、「多価アルコール化合物」であって、前記「多価アルコール化合物」に含まれる水酸基は1級水酸基といえるから、上記「導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物」は、「多価アルコール化合物」及び「有機溶剤(前記多価アルコール化合物を除く。)」を含有するものであり、前記「多価アルコール化合物」に含まれる水酸基は1級水酸基であるといえる。

(オ)上記(1-f)によれば、甲1発明の上記「導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物」は、ガラス成分を含まないものである。

(カ)してみると、両者は、「100℃?250℃での低温焼成により硬化する導電パターン形成用の導電性ペーストであって、
カルボン酸含有樹脂、導電粒子、多価アルコール化合物、および有機溶剤(前記多価アルコール化合物を除く。)を含有し、
前記多価アルコール化合物に含まれる水酸基は1級水酸基である導電性ペースト(但し、ガラス成分を含まない。)。」の点で一致する。

(キ)一方、両者は、以下の点で相違する。
相違点1-1:本件特許発明1は、導電性ペーストが、パターン印刷法により得られたパターンを100℃?250℃での低温焼成により硬化するものであるのに対して、甲1発明はパターン印刷法によりパターンを得るものであるのか否かが明らかでない点。

相違点1-2:本件特許発明1の導電性ペーストにおける前記カルボン酸含有樹脂の酸価は40?200mgKOH/gであるとの発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は上記の発明特定事項を有しない点。

(2)判断
(ア)上記相違点1-1について検討する。
上記(4-a)?(4-e)によれば、甲第4号証には、「導電性インキ組成物」に係る発明が記載されており、当該「導電性インキ組成物」は、凹版から良好に転写体に転写することができ、次いで、この転写体からガラス基板上に良好に再度転写(印刷)することができる、低コストの導電性インキ組成物である。

(イ)また、上記(2-a)?(2-d)によれば、甲第2号証には、「感光性導体ペースト」に係る発明が記載されており、当該「感光性導体ペースト」は、フォトリソグラフィ法に用いられる感光性導体ペーストにおいて、保存安定性に優れ、現像処理を安定して実施できる感光性導体ペーストを提供する、という課題を解決するものである。

(ウ)ところが、上記(1-a)?(1-b)によれば、甲1発明の上記「導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物」は、フォトリソグラフィー技術によってパターンを形成したのち熱硬化工程を経て導電回路パターンを形成するものであって、パターン印刷法によりパターンを印刷するものではない。
すなわち、上記(1-d)?(1-e)によれば、甲1発明は、光硬化性熱硬化性導電組成物をスクリーン印刷法、バーコーター、ブレードコーターなど適宜の塗布方法で基材上に塗布し、熱風循環式乾燥炉、遠赤外線乾燥炉等で乾燥させて有機溶剤を蒸発させ、タックフリーの塗膜を得た後、パターン露光して現像するものであり、得られた光硬化性熱硬化性導電組成物のパターン塗膜を加熱硬化して導電回路パターンを形成するものである。
一方、上記「第6 本件特許明細書の記載(a)」によれば、フォトリソグラフィは、材料を除去することでパターンを形成する減法プロセスであって、パターンの形成に、加法プロセスである、パターン印刷法を用いるものではない。
このため、そもそも、甲1発明においてパターン印刷法によりパターンを印刷する必要は生じ得ないから、上記「導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物」をグラビアオフセット印刷などのパターン印刷法に転用する動機付けは存在しない。

(エ)また、上記甲第1号証、甲第4号証、甲第2号証には、上記「導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物」をグラビアオフセット印刷などのパターン印刷法に転用することにより、ペーストの良好な印刷適性のみならず、高温プロセスを用いることなくパターンを形成することが可能で、かつ、形成されるパターンにおいて、良好な電気的特性が得られる、という特性を同時に満たす(「第6 本件特許明細書の記載(b)、(i)?(l)」)、という課題を解決できることが記載も示唆もされていない。

(オ)以上から、甲1発明において、上記「導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物」をパターン印刷法に転用して、パターン印刷法によりパターンを得るものとすることを、甲第4号証及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないから、甲1発明において、上記相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到することができるとはいえない。

(カ)したがって、上記相違点1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明と、甲第4号証及び甲第2号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。
このことは、請求項1を引用する本件特許発明2?本件特許発明4についても同様である。

3-2 申立理由2について
(1)対比
(ア)本件特許発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「グラビアオフセット印刷法により得られたパターン」は、「パターン印刷法により得られたパターン」といえ、「導電性インキ組成物」は、「導電性ペースト」といえ、低温焼成により硬化する導電パターン形成用のものといえる。

(イ)甲4発明の上記「導電性インキ組成物」における「金属粉末」、「アクリル樹脂」、「樹脂の溶解度が高い溶剤」は、それぞれ、本件特許発明1における「導電粒子」、「カルボン酸含有樹脂」、「有機溶剤」に対応し、上記(4-f)(【0022】)によれば、「カルボン酸含有樹脂」の酸価は、「40?50mgKOH/g」の範囲で重複している。

(ウ)してみると、両者は、「パターン印刷法により得られたパターン低温焼成により硬化する導電パターン形成用の導電性ペーストであって、
カルボン酸含有樹脂、導電粒子、および有機溶剤を含有し、
前記カルボン酸含有樹脂の酸価は、40?50mgKOH/gである、導電性ペースト。」の点で一致する。

(エ)一方、両者は、以下の点で相違する。
相違点2-1:本件特許発明1は、導電性ペーストが、100℃?250℃での低温焼成により硬化するものであるのに対して、甲4発明は600℃以下の低温焼成により硬化するものである点。

相違点2-2:本件特許発明1は、多価アルコール化合物を含有し、有機溶剤が多価アルコール化合物を除くものであり、多価アルコール化合物に含まれる水酸基は1級水酸基であるとの発明特定事項を有するのに対して、甲4発明は上記の発明特定事項を有しない点。

相違点2-3:本件特許発明1はガラス成分を含まないとの発明特定事項を有するのに対して、甲4発明は上記の発明特定事項を有しない点。

(2)判断
(ア)上記相違点2-1について検討する。
上記(5-a)?(5-e)によれば、甲第5号証には、「導電性組成物」に係る発明が記載されており、当該「導電性組成物」の成型は、溶剤に溶解した後、溶液成型、塗布、コーティング、印刷等任意の成型を行った後、溶剤を乾燥除去して成型品を得てもよく、ペレット状とした導電性樹脂を溶融押出し、射出成型などの溶融成型によって成型品を得てもよいものである。

(イ)具体的には、上記(5-f)によれば、上記「導電性組成物」の溶液を作製し、この溶液を乾燥時の塗膜厚が2μmになるようにガラス板上に塗布し、120℃で2時間乾燥して製膜するものである。
すると、甲第5号証には、「導電性組成物」の溶液をガラス板上に塗布し、120℃で2時間乾燥して製膜することが開示されている。

(ウ)一方、上記(4-c)によれば、甲4発明は必要に応じて被印刷物を焼成するものであり、上記(4-f)(【0021】、【0024】)によれば、焼成を行う場合、その焼成温度は400℃?600℃であって、甲第5号証に記載されるように、「100℃?250℃での低温焼成」により行うものではない。

(エ)すると、甲第4号証には、400℃?600℃で焼成を行うか、焼成を行わないことが記載されているにとどまり、「100℃?250℃での低温焼成」を行うことは記載されていないし、上記の焼成温度により、「グラビアオフセット印刷において、凹版から良好に転写体に転写することができ、次いで、この転写体からガラス基板上に良好に再度転写(印刷)することができる、低コストの導電性インキ組成物を提供する」(上記(4-d))、という課題を解決できる甲4発明において、「100℃?250℃での低温焼成」を行う動機付けは存在しない。

(オ)また、甲第4号証及び甲第5号証の記載をみても、「100℃?250℃での低温焼成」を行うことにより、ペーストの良好な印刷適性のみならず、高温プロセスを用いることなくパターンを形成することが可能で、かつ、形成されるパターンにおいて、良好な電気的特性が得られる、という特性を同時に満たす(「第6 本件特許明細書の記載(b)、(i)?(l)」)、という課題を解決できることは記載も示唆もされていない。

(カ)以上から、甲4発明において、導電性ペーストを、100℃?250℃での低温焼成により硬化することを、甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないから、甲4発明において、上記相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到することができるとはいえない。

(キ)したがって、上記相違点2-2、相違点2-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明と、甲第5号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。
このことは、請求項1を引用する本件特許発明2?本件特許発明4についても同様である。

3-3 申立理由3について
(1)対比
(ア)本件特許発明1と甲5発明とを対比すると、上記(5-e)によれば、甲5発明の「導電性組成物」は、溶剤に溶解した後、印刷等の成型を行うものであるから、本件特許発明1の「導電性ペースト」に対応する。

(イ)上記(5-e)(【0034】)によれば、甲5発明の「導電性組成物」における「シアノ基含有高分子化合物」は、アクリロニトリル-アクリル酸共重合体、アクリロニトリル-メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル-2-ヒドロキシエチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル-ビニルスルホン酸共重合体、アクリロニトリル-スチレンスルホン酸共重合体等が挙げられるものであるから、「カルボン酸含有樹脂」に対応する。

(ウ)上記(5-f)によれば、甲5発明の上記「導電性組成物」は、NMP溶液とされるものであるから、「有機溶剤(多価アルコール化合物を除く。)」を含有するものといえ、更に甲5発明の「導電性組成物」は、ガラス成分を含まないものである。

(エ)してみると、両者は、「導電性ペーストであって、
カルボン酸含有樹脂、および有機溶剤(多価アルコール化合物を除く。)を含有する導電性ペースト(但し、ガラス成分を含まない。)。」の点で一致する。

(カ)一方、両者は、以下の点で相違する。
相違点3-1:本件特許発明1は、パターン印刷法により得られたパターンを100℃?250℃での低温焼成により硬化するものであるのに対して、甲5発明は、パターン印刷法によりパターンを得て、当該パターンを低温焼成するものであるか否かが不明である点。

相違点3-2:本件特許発明1は、導電性ペーストが導電性粒子を含有するとの発明特定事項を有するのに対して、甲5発明は上記の発明特定事項を有しない点。

相違点3-3:本件特許発明1は、導電性ペーストが多価アルコール化合物を含有し、前記多価アルコール化合物に含まれる水酸基は1級水酸基であるとの発明特定事項を有するのに対して、甲5発明は上記の特定事項を有しない点。

相違点3-4:本件特許発明1の導電性ペーストにおける前記カルボン酸含有樹脂の酸価は40?200mgKOH/gであるとの発明特定事項を有するのに対して、甲5発明は上記の発明特定事項を有しない点。

相違点3-5:本件特許発明1はπ共役系導電性高分子についての特定がされていないのに対して、甲5発明はπ共役系導電性高分子を含む点。

(2)判断
(ア)上記相違点3-2について検討する。
上記(8-a)によれば、甲第8号証には、「導電性粒子、結合剤及び溶剤を主成分とする導電性ペーストにおいて、結合剤中に導電性高分子を含有することを特徴とする導電性ペースト」に係る発明が記載されており、当該「導電性ペースト」は、導電性粒子、結合剤及び溶剤を主成分とするものであって、結合剤中に導電性高分子を含有するものである。
すると、上記甲第8号証には、「導電性粒子」と「導電性高分子」を併用する「導電性ペースト」が開示されている。

(イ)ここで、上記(8-b)、(8-g)によれば、甲第8号証の「導電性ペースト」は、導電性粒子を有する導電性ペーストを用いたはんだづけの後の回路の機械的変形による接点不良がなく、耐久性、信頼性に優れたはんだづけを行うことのできる導電性ペーストを提供することを課題とするものであって、上記「導電性ペースト」が導電性粒子を有することを前提として、更にその耐久性、信頼性を改善するものである。

(ウ)ところが、上記(5-a)、(5-d)、(5-f)によれば、甲5発明の上記「導電性組成物」は、そもそも導電性粒子を有するものではなく、甲第8号証に記載されるような課題を解決する必要がないものであるから、上記「導電性組成物」に更に導電性粒子を加える必要性は存在しないので、甲5発明に甲第8号証に記載される技術を適用して、上記「導電性組成物」に導電性粒子を加える動機付けは存在しない。

(エ)また、上記甲第5号証、甲第8号証には、上記「導電性組成物」に導電性粒子を加えることにより、ペーストの良好な印刷適性のみならず、高温プロセスを用いることなくパターンを形成することが可能で、かつ、形成されるパターンにおいて、良好な電気的特性が得られる、という特性を同時に満たす(「第6 本件特許明細書の記載(b)、(i)?(l)」)、という課題を解決できることは記載も示唆もされていない。

(オ)以上から、甲5発明において、導電性ペーストを導電性粒子を含有するものとすることを、甲第8号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないから、甲5発明において、相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到することができるとはいえない。

(カ)更に上記相違点3-3について検討すると、上記(5-e)(【0035】)によれば、甲第5号証には、シアノ基及びカルボキシル基の双方と反応する硬化剤としてメチロール基が挙げられ、上記(3-a)、(3-b)、(3-d)によれば、甲第3号証には、カルボキシル基を有する脂環式構造含有重合体の硬化剤として1,3′-ブタンジオール等のジオールが挙げられている。

(キ)ここで、上記(5-e)(【0035】)によれば、上記「メチロール基」を有する硬化剤は、「チオール基、メチロール基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基、クロロスルホン基などが挙げられ、これらの官能基を有する化合物」の群から選択されるものであり、上記(3-d)によれば、上記「ジオール」は、「有機過酸化物」、「脂肪族ポリアミン」、「脂環族ポリアミン」、「芳香族ポリアミン」、「ビスアジド」、「酸無水物」、「ジカルボン酸」、「ジオール」、「トリオール」、「多価フェノール」、「ポリアミド」及び「ジイソシアネート」などから、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられるものである。

(ク)そして、上記甲第5号証、甲第3号証の記載をみても、上記(キ)で挙げられる多数の化合物の群の中から特に「メチロール基」を有する化合物や「ジオール」を選択して用いることにより、ペーストの良好な印刷適性のみならず、高温プロセスを用いることなくパターンを形成することが可能で、かつ、形成されるパターンにおいて、良好な電気的特性が得られる、という特性を同時に満たす(「第6 本件特許明細書の記載(b)、(i)?(l)」)、という課題を解決できることは記載も示唆もされていない。

(ケ)以上から、甲5発明において、導電性ペーストが多価アルコール化合物を含有し、前記多価アルコール化合物に含まれる水酸基を1級水酸基とすることを、甲第5号証、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないから、甲5発明において、相違点3-3に係る本件特許発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到することができるとはいえない。

(コ)したがって、上記相違点3-1及び相違点3-4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5発明と、甲第3号証及び甲第8号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

3-4 申立理由4について
(1)対比
(ア)本件特許発明1と甲6発明とを対比すると、上記(6-b)、(6-h)によれば、甲6発明の「導電性ペースト」は、プリント配線板やフレキシブルプリント基板の上にパターン塗布して回路や電極を形成するものであり、塗布をディスペンス、スクリーン印刷ないしステンシル印刷で行うものであるから、本件特許発明1の「導電パターン形成用の導電性ペースト」に対応し、そのようにして形成されるパターンは、「パターン印刷法により得られたパターン」といえる。

(イ)甲6発明の「導電性ペースト」における「1分子中に少なくとも1個以上のカルボキシル基を有するポリマー(B)」は、本件特許発明1の「カルボン酸含有樹脂」に対応し、「金属粉(A)」は、本件特許発明1の「導電粒子」に対応する。

(エ)上記(6-e)によれば、甲6発明のポリマー(B)の酸価は10mgKOH/g以上であるから、本件特許発明1と40?200mgKOH/gの範囲で重複し、上記(6-i)によれば、甲6発明の「導電性ペースト」はガラス成分を含まないものである。

(オ)してみると、両者は、「パターン印刷法により得られたパターンを加熱処理する導電パターン形成用の導電性ペーストであって、
カルボン酸含有樹脂、導電粒子、および有機溶剤を含有し、前記カルボン酸含有樹脂の酸価は、40?200mgKOH/gである、導電性ペースト(但し、ガラス成分を含まない。)。」の点で一致する。

(カ)一方、両者は、以下の点で相違する。
相違点4-1:本件特許発明1は、パターン印刷法により得られたパターンを100℃?250℃での低温焼成により硬化するものであるのに対して、甲6発明はパターンを100℃?250℃での低温焼成により硬化するものであることは特定されていない点。

相違点4-2:本件特許発明1は、導電性ペーストが多価アルコール化合物を含有し、前記多価アルコール化合物に含まれる水酸基は1級水酸基であるとの発明特定事項を有するのに対して、甲6発明は上記の発明特定事項を有しない点。

相違点4-3:本件特許発明1は、有機溶剤(前記多価アルコール化合物を除く)を含有するのに対して、甲6発明は有機溶剤が前記多価アルコール化合物を除くものではない点。

(2)判断
(ア)上記相違点4-2について検討する。
申立書第28ページ第2行?第6行には、「より具体的には甲<4>発明に記載の1,3′-ブタンジオール、1,4′-ブタンジオール等のジオール等(【0059】)の…(略)…容易に想到可能な事項である。」と記載されているが、甲第4号証には【0059】はないし、「1,3′-ブタンジオール、1,4′-ブタンジオール等のジオール等」との記載もない。
そして、そのような記載があるのは甲第3号証であるから、上記申立書の「甲<4>発明」という記載は「甲<3>発明」の誤記と認められるので、以下、甲第6号証、甲第5号証及び甲第3号証の記載に基づいて検討する。

(イ)上記(5-e)(【0035】)によれば、甲第5号証には、カルボキシル基と反応する硬化剤としてメチロール基が挙げられ、上記(3-a)、(3-b)、(3-d)によれば、甲第3号証には、カルボキシル基を有する脂環式構造含有重合体の硬化剤として1,3′-ブタンジオール等のジオールが挙げられている

(ウ)ところが、上記「3-3 申立理由3について (2)判断 (カ)?(ケ)」の検討によれば、上記甲第5号証、甲第3号証の記載をみても、上記「3-3 申立理由3について (2)判断 (キ)」で挙げられる多数の化合物の群の中から特に「メチロール基」を有する化合物や「ジオール」を選択して用いることにより、ペーストの良好な印刷適性のみならず、高温プロセスを用いることなくパターンを形成することが可能で、かつ、形成されるパターンにおいて、良好な電気的特性が得られる、という特性を同時に満たす(「第6 本件特許明細書の記載(b)、(i)?(l)」)、という課題を解決できることは記載も示唆もされていないから、甲5発明において、導電性ペーストが多価アルコール化合物を含有し、前記多価アルコール化合物に含まれる水酸基を1級水酸基とすることを、甲第5号証、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないものである。
そしてこのことは、甲6発明においても同様であるので、上記「3-3 申立理由3について (2)判断 (カ)?(ケ)」で検討したのと同様の理由により、甲6発明において、導電性ペーストが多価アルコール化合物を含有し、前記多価アルコール化合物に含まれる水酸基を1級水酸基とすることを、甲第5号証、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(ウ)以上から、甲6発明において、上記相違点4-2に係る本件特許発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到することができるとはいえない。

(エ)したがって、上記相違点4-1及び相違点4-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲6発明と、甲第5号証及び甲第3号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

(オ)また、上記(2-a)?(2-d)によれば、甲第2号証には、感光性導体ペーストにおいて、カルボキシル基等の酸性官能基を有する有機バインダと、2以上の価数を有した多価金属を含む導電性金属粉末とを混合してなる感光性導体ペースト中に、その分子中にアルコール性水酸基を2つ有するジオール化合物、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール等を添加することによって、そのゲル化を有効に抑制でき、保存安定性に優れ、現像処理を安定して実施できることが記載されている。

(カ)ところが、上記甲第2号証の記載をみても、ペースト中に、エチレングリコール、プロピレングリコール等が例示される、その分子中にアルコール性水酸基を2つ有するジオール化合物を添加することによって、ペーストの良好な印刷適性のみならず、高温プロセスを用いることなくパターンを形成することが可能で、かつ、形成されるパターンにおいて、良好な電気的特性が得られる、という特性を同時に満たす(「第6 本件特許明細書の記載(b)、(i)?(l)」)、という課題を解決できることは記載も示唆もされていない。

(キ)以上から、甲6発明において、導電性ペーストが多価アルコール化合物を含有し、前記多価アルコール化合物に含まれる水酸基を1級水酸基とすることを、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないから、甲6発明において、上記相違点4-2に係る本件特許発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到することができるとはいえない。

(ク)したがって、上記相違点4-1及び相違点4-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲6発明と、甲第2号証に記載される事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

3-5 申立理由5について
上記「第6 本件特許明細書の記載(h)」によれば、本件特許発明は、基材上に形成された塗膜パターンを、60?120℃で1?60分乾燥した後、100?250℃で1?60分低温焼成することにより、塗膜パターンを硬化させ、導電パターンを形成するものであるから、「塗膜パターン」を「硬化」させる100?250℃、1?60分の加熱が本件特許発明における「低温焼成」にあたり、120℃の熱処理であっても、「塗膜パターン」を硬化させていないときには低温焼成にあたらないことは、当業者であれば理解し得るものである。
このため、例えば120℃でのみで熱処理をした場合に、それが「乾燥」であるのかあるいは「低温焼成」であるのかが特定できないとはいえないので、本件特許発明1?4が不明確であるとはいえないし、また実施することができないともいえない。

3-6 申立理由8について
上記「第6 本件特許明細書の記載(g)」によれば、本件特許発明は、印刷適性を損なわない範囲で、金属分散剤、チクソトロピー性付与剤、消泡剤、レベリング剤、希釈剤、可塑化剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、カップリング剤や充填剤などの添加剤を配合してもよいものであるから、「印刷適性を損なわない範囲」で、既存の金属分散剤や消泡剤を利用すればよいことは当業者であれば理解し得るものである。
このため、本件特許発明が、どのような分散剤及び消泡剤を使用しているのかについて何ら記載がないので特定ができないとはいえないし、また発明の詳細な説明にもどのような種類の分散剤及び消泡剤を使用するかについての記載が一切ないので、本件特許発明を実施することができないともいえない。

4 申立人の平成29年 7月13日付け意見書における主張について
4-1 申立人の平成29年 7月13日付け意見書における主張の概要
申立人は、「(2-1)訂正事項について」(第2ページ下から9行目?第4ページ第3行。なお、上記意見書は最初のページが第2ページである。)において、本件特許発明には、酸価の測定方法について何ら記載されておらず、酸価の測定方法としては、電位差滴定法や指示薬滴定方等の複数の方法が存在する旨、測定対象物として樹脂溶液(A-1)ワニスそのものを測定するのか、樹脂溶液より得た樹脂を測定するのかも読み取れないので不明である旨、申立人が提出する参考資料1及び参考資料2によれば、樹脂そのものの酸化を測定する場合と樹脂溶液の酸化を測定する場合では、未反応のアクリル酸の残存の有無により酸価の値が異なることは明らかであり、酸価の測定方法について何ら記載のない本件特許発明は発明の範囲が不明確であり明確性要件を満たしておらず、なおかつ本件特許発明を実施することは不可能であり、本件特許発明は実施可能要件を満たしていない旨を主張している。

[申立人が提出した参考資料]
参考資料1:特開2004-318116号公報
参考資料2:特開2005-93916号公報

4-2 当審による平成29年 7月31日付け審尋の概要
当審による平成29年 7月31日付け審尋の概要は、以下のとおりである。
(ア)訂正特許請求の範囲の請求項1には、カルボン酸含有樹脂の酸価が、「40?200mgKOH/g」であることが記載されている。

(イ)ところが、本件特許明細書全体の記載を参照しても、カルボン酸含有樹脂の酸価の測定方法が明確でない。

(ウ)なお、化学製品の酸価の測定方法については、例えば「JIS K 0070-1992」に規定があるが、本件特許明細書には、酸価の測定を、「カルボン酸含有樹脂溶液」を対象に行っているのか、「カルボン酸含有樹脂溶液」より得た樹脂を対象に行っているのかについての記載はない。
また、酸価の測定を、例えば「JIS K 0070-1992」に規定される中和滴定法により行っているのか、あるいは、電位差滴定法により行っているのかについても記載がない。

(エ)そして、酸価の測定対象や測定方法が異なる場合、測定の結果として得られる酸価の数値が同じものとなるのか異なるものとなるのかを直ちに判断できるものでもなく、測定対象や測定方法によって得られる酸価の数値が異なるのであれば、訂正特許請求の範囲の請求項1に係る発明において、カルボン酸含有樹脂の酸価を明確に特定することができるとはいえないのではないかとの疑義がある。

4-3 特許権者の平成29年 8月31日付け回答書における主張の概要
特許権者は、平成29年 8月31日付け回答書の「(2)疑義について」(第2/3ページ第5行?第3/3ページ第9行)において、本件特許発明の実施例では、「得られた樹脂は、…(略)…、酸化が97mgKOH/gであった。」(訂正後の請求項1、【0044】)との記載から、酸価の測定対象物はカルボン酸含有樹脂であることは明確である旨、特許権者が提出する乙第1号証によれば、中和滴定法と電位差滴定法のいずれの方法を用いても、本件特許発明の測定対象物であるカルボン酸含有樹脂の酸価は、同じ値が得られると解釈することができ、本件特許発明の実施例では、実際には中和滴定法により酸化を算出しているが、電位差滴定法を用いたとしても同じ値が得られると考えられる旨、これらのことから、訂正特許請求の範囲の請求項1に係る発明においては、カルボン酸含有樹脂の酸価を明確に特定することができ、疑義はない旨を主張している。

[特許権者が提出した証拠方法]
乙第1号証:「分析化学I改訂第2版」、株式会社 南江堂、1990年 3月20日、p.195、p.213

4-4 判断
(ア)上記「第6 本件特許明細書の記載(i)」(【0043】?【0044】)によれば、本件特許発明の実施例におけるカルボン酸含有樹脂の合成で得られた樹脂は、数平均分子量が15000、重量平均分子量が約40000、酸価が97mgKOH/gであったのであるから、酸価の測定対象がカルボン酸含有樹脂の合成で得られた樹脂であることは明らかである。

(イ)化学製品の酸価の測定方法については、例えば「JIS K 0070-1992」に中和滴定法及び電位差滴定法が規定されるものであるが、乙第1号証によれば、これらは、いずれも、中和当量点付近におけるH^(+)とOH^(-)の特に顕著な濃度変化に着目して利用するものであるから、いずれの方法を用いても、本件特許発明の測定対象物であるカルボン酸含有樹脂の酸価は、同じ値が得られるものと推定される。

(ウ)また、上記回答書によれば、本件特許発明の実施例では、実際には中和滴定法により酸化を算出しているものである。
一方、上記「JIS K 0070-1992」には、「3. 酸価測定方法には,中和滴定法と電位差滴定方途がある。 備考 電位差滴定法で測定値に差がある場合には,中和滴定法を採用する。」との記載があり、酸価の測定方法により測定値に差がある場合には、通常中和滴定法を採用するものである。
そうすると、仮に、酸価の測定方法により測定値に差があったとしても、本件特許発明においては通常採用される中和滴定法により酸価を算出しているから、本件特許発明のカルボン酸含有樹脂の酸価は明確に特定されるものである。

(エ)以上のとおりであるので、本件特許発明が明確性要件を満たしていないとはいえないし、本件特許発明は実施可能要件を満たしていないともいえないので、申立人の上記意見書の主張はいずれも採用できない。

第9 むすび
したがって、本件特許の請求項1?4に係る特許は、各取消理由通知書で通知された取消理由及び申立書において申立てられた申立理由によって、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターン印刷法により得られたパターンを100℃?250℃での低温焼成により硬化する導電パターン形成用の導電性ペーストであって、
カルボン酸含有樹脂、導電粒子、多価アルコール化合物、および有機溶剤(前記多価アルコール化合物を除く。)を含有し、
前記カルボン酸含有樹脂の酸価は、40?200mgKOH/gであって、
前記多価アルコール化合物に含まれる水酸基は1級水酸基であることを特徴とする導電性ペースト(但し、ガラス成分を含まない。)。
【請求項2】
前記多価アルコール化合物は、不揮発性であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記多価アルコール化合物中の水酸基量は、前記カルボン酸含有樹脂中のカルボキシル基に対して0.1?2.0モル当量であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の導電性ペーストの硬化物からなることを特徴とする導電パターン。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-05 
出願番号 特願2014-54533(P2014-54533)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01B)
P 1 651・ 536- YAA (H01B)
P 1 651・ 537- YAA (H01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤原 敬士  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 金 公彦
小川 進
登録日 2016-03-11 
登録番号 特許第5899259号(P5899259)
権利者 太陽ホールディングス株式会社
発明の名称 導電性ペースト  
代理人 特許業務法人 天城国際特許事務所  
代理人 特許業務法人天城国際特許事務所  

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