• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C08L
管理番号 1335108
異議申立番号 異議2017-700189  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-27 
確定日 2017-10-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5979861号発明「携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物及び当該ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5979861号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2?6〕について訂正することを認める。 特許第5979861号の請求項2ないし6に係る特許を維持する。 特許第5979861号の請求項1に係る特許についての申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5979861号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成23年12月9日に特許出願され、平成28年8月5日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人東レ株式会社(以下、「申立人」という。)により平成29年2月27日(受理日、同年2月28日)に特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、当審において同年5月22日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月24日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)があった。
なお、申立人に対する訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)に対しては、申立人からの応答はなかった。

第2 訂正の適否についての判断

1.本件訂正の内容
本件訂正における請求の趣旨は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし6について訂正することを求める、というものである。

(1)訂正事項1
請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
請求項2における
「前記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である請求項1に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。」を、

「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミドを100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材を1?300質量部と、
を、含有する携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)。」に訂正する。

(3)訂正事項3
請求項3における
「前記(B)ガラス繊維は、数平均繊維径が6μm以上20μm以下である、請求項1又は2に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。」を、

「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミドを
100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材を1?300質量部と、
を、含有し、
前記(B)ガラス繊維は、数平均繊維径が6μm以上20μm以下である、携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)。」に訂正する

(4)訂正事項4
請求項4における
「前記(C):前記(B)以外の無機充填材が、タルク、マイカ、カオリン、シリカ、ワラストナイト、アルミフレーク及びアルミ粉からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。」を、

「前記(C):前記(B)以外の無機充填材が、タルク、マイカ、カオリン、シリカ、ワラストナイト、アルミフレーク及びアルミ粉からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2又は3に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。」に訂正する。

(5)訂正事項5
請求項5における
「前記(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
前記(A)ポリアミド、前記(B)ガラス繊維、及び前記(C):前記(B)以外の無機充填材の合計100質量部に対する(A)ポリアミドの割合が40?67質量部である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。」を、

「前記(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
前記(A)ポリアミド、前記(B)ガラス繊維、及び前記(C):前記(B)以外の無機充填材の合計100質量部に対する(A)ポリアミドの割合が40?67質量部である、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。」に訂正する。

(6)訂正事項6
請求項6における
「請求項1乃至5のいずれか一項に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品。」を、

「請求項2乃至5のいずれか一項に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品。」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0013】における
「〔1〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドを100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材を1?300質量部と、
を、含有する携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)。
〔2〕
前記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である、前記〔1〕記
載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。
〔3〕
前記(B)ガラス繊維は、数平均繊維径が6μm以上20μm以下である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。
〔4〕
前記(C):前記(B)以外の無機充填材が、タルク、マイカ、カオリン、シリカ、ワラストナイト、アルミフレーク及びアルミ粉からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。
〔5〕
前記(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
前記(A)ポリアミド、前記(B)ガラス繊維、及び前記(C):前記(B)以外の無機充填材の合計100質量部に対する(A)ポリアミドの割合が40?67質量部である、前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。
〔6〕
前記〔1〕乃至〔5〕のいずれか一に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品。」を、

「〔1〕(削除)
〔2〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミドを100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材を1?300質量部と、
を、含有する携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)。
〔3〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミドを100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・ (1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材を1?300質量部と、
を、含有し、
前記(B)ガラス繊維は、数平均繊維径が6μm以上20μm以下である、携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)。
〔4〕
前記(C):前記(B)以外の無機充填材が、タルク、マイカ、カオリン、シリカ、ワラストナイト、アルミフレーク及びアルミ粉からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記〔2〕又は〔3〕に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。
〔5〕
前記(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
前記(A)ポリアミド、前記(B)ガラス繊維、及び前記(C):前記(B)以外の無機充填材の合計100質量部に対する(A)ポリアミドの割合が40?67質量部である、前記〔2〕乃至〔4〕のいずれか一に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。
〔6〕
前記〔2〕乃至〔5〕のいずれか一に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品。」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし6は、請求項2ないし6が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正事項1ないし6についての訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」ごとにされたものである。

(2)訂正事項1についての訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、訂正事項1は、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項を追加するものではない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(3)訂正事項2についての訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する請求項2について、引用関係を解消して独立形式に改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。
訂正後の請求項2を引用する訂正後の請求項4ないし6についての訂正も同様である。

イ 新規事項の有無
訂正事項2は、訂正前の請求項2を独立形式に改めるための訂正であって、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
訂正後の請求項2を引用する訂正後の請求項4ないし6についての訂正も同様である。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、訂正前の請求項2を独立形式に改めるための訂正であって、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
訂正後の請求項2を引用する訂正後の請求項4ないし6についての訂正も同様である。

(4)訂正事項3についての訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正の目的について
訂正事項3は、
(i)請求項1又は2を引用する訂正前の請求項3を請求項2を引用するものに限定するとともに、引用関係を解消して独立形式に改め、
(ii)訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項である「(A)」の「ポリアミド」(ただし、訂正前請求項2は引用形式であるためそこには直接の記載はなく、引用元である請求項1に記載されている。)である、
「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」を、
「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド」
に限定するものである。

そして、(i)は、特許請求の範囲の減縮及び請求項間の引用関係の解消を目的とするものであり、(ii)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する請求項間の引用関係の解消、及び、同第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正後の請求項3を引用する訂正後の請求項4ないし6についての訂正も同様である。

イ 新規事項の有無
訂正後の「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド」は、訂正前の「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」を前者のみに限定するものであるから、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
訂正後の請求項3を引用する訂正後の請求項4ないし6についての訂正も同様である。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、(A)のポリアミドの種類を限定するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
訂正後の請求項3を引用する訂正後の請求項4ないし6についての訂正も同様である。

(5)訂正事項4?6についての訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正の目的について
訂正事項4?6は、訂正事項1に係る訂正に伴って、従属項である請求項が引用する項番号の整合を図るために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである
訂正後の請求項4を引用する訂正後の請求項5及び6、訂正後の請求項5を引用する訂正後の請求6についての訂正も同様である。

イ 新規事項の有無
訂正事項4?6は、明瞭でない記載の釈明をするものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
訂正後の請求項4を引用する訂正後の請求項5及び6、訂正後の請求項5を引用する訂正後の請求6についての訂正も同様である。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4?6は、明瞭でない記載の釈明をするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
訂正後の請求項4を引用する訂正後の請求項5及び6、訂正後の請求項5を引用する訂正後の請求6についての訂正も同様である。

(6)訂正事項7についての訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正の目的について
訂正事項7は、上記訂正事項1?6に係る訂正に伴い訂正される特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項7は、上記訂正事項1?6に係る訂正に伴い訂正される特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であって、訂正事項1?6が、それぞれ、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項を追加するものではないことは(1)?(5)で述べた通りであるから、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項7は、上記訂正事項1?6に係る訂正に伴い訂正される特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であって、訂正事項1?6は、新規事項を追加するものではないから、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

エ 願書に添付した明細書に訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項7は、特許請求の範囲に記載した全ての請求項に関係しており、本件訂正では、実質的に全ての請求項について訂正を請求している。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。

(7)まとめ
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項ごとにされたものであるし、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項ないし第6項に適合するものであるから、本件訂正を認める。


第3 訂正後の本件発明
本件特許の請求項1ない6に係る発明(それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、本件訂正の請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
削除
【請求項2】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミドを100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・ (1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材を1?300質量部と、
を、含有する携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)。
【請求項3】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミドを
100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材を1?300質量部と、
を、含有し、
前記(B)ガラス繊維は、数平均繊維径が6μm以上20μm以下である、携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)。
【請求項4】
前記(C):前記(B)以外の無機充填材が、タルク、マイカ、カオリン、シリカ、ワラストナイト、アルミフレーク及びアルミ粉からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2又は3に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
前記(A)ポリアミド、前記(B)ガラス繊維、及び前記(C):前記(B)以外の無充填材の合計100質量部に対する(A)ポリアミドの割合が40?67質量部である、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか一項に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品。」

以下、「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、当該(A)ポリアミドが、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」を、「(A)のポリアミド」ともいう。
また、「ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5」を、「(x)の条件」とも、「下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8」(合議体注;式(1)は省略する。)を「式(Y)の条件」ともいう。


第4 取消理由の概要
当審において平成29年5月22日付けの取消理由通知書で通知した取消理由の概要は次のとおりである。

1.本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2.本件特許は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
3.(1)本件特許の請求項1、3?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第3並びに第7号証に示される本件特許出願時の周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるし、
(2)本件特許の請求項1、3?6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、
(3)本件特許の請求項1、4?6に係る発明は、甲第5号証に記載された発明、及び、甲第3並びに第7号証に示される本件特許出願時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許の請求項3に係る発明は、甲第5号証に記載された発明、甲第3並びに第7号証に示される本件特許出願時の周知技術、及び、甲第1、第8?11号証に示される本件特許出願時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件特許の請求項1、3?6に係る発明は、いずれも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3?6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

甲第1号証:特開2007-182071号公報
甲第2号証:申立人従業員高村元が平成29年2月14日付けで作成した「実験報告書」
甲第3号証:特開2010-37372号公報
甲第4号証:申立人従業員高村元が平成29年2月14日付けで作成した「実験報告書」
甲第5号証:特開2008-111064号公報
甲第6号証:申立人従業員高村元が平成29年2月14日付けで作成した「実験報告書」
甲第7号証:東京マーケティング本部 第3事業部 調査・編集 「2008年エンプラ市場の展望とグローバル戦略」(株)富士経済(2008年5月23日発行)、第77?82頁
甲第8号証:特開2010-16151号公報
甲第9号証:特開2007-50630号公報
甲第10号証:特開2009-298144号公報
甲第11号証:特開2008-106265

(以下、それぞれ「甲1」?「甲11」という。)


第5 当審の判断

第5-1 取消理由1(特許法第36条第6項第1号)について

(1)本件発明が解決しようとする課題について
本件訂正後の特許明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の【0007】?【0011】によれば、本件発明2?5が解決しようとする課題は、「過酷な成形条件下において成形した場合においても、成形品の表面外観の安定性が良好で、耐衝撃特性に優れ、かつ塗装した成形品表面の光沢性が優れた(色目変化が少ない)携帯電子機器部品を与えるポリアミド樹脂組成物を提供すること」であると認められるし、本件特許発明6が解決しようとする課題は、「過酷な成形条件下において成形した場合においても、成形品の表面外観の安定性が良好で、耐衝撃特性に優れ、かつ塗装した成形品表面の光沢性が優れた(色目変化が少ない)、ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品を提供すること」であると認められる。(以下、「本件発明2?6が解決しようとする課題」をまとめて、「本件発明の課題」ともいう。)

(2)取消理由1の概略
訂正前の本件発明1ないし6に対して通知された取消理由1は、具体的には、概略以下のとおりである。

本件特許明細書の発明の詳細な説明からは、当業者は、本件発明1ないし5の「携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物」、あるいは、本件発明6の該ポリアミド樹脂組成物を含む「携帯電子機器部品」におけるポリアミドが、「式(Y)の条件」が-0.3≦(Y)<0.05の範囲の場合についてまで、過酷な成形条件下において成形した場合においても、成形品の表面外観の安定性が良好で、耐衝撃特性に優れ、かつ塗装した成形品表面の光沢性が優れた(色目変化が少ない)携帯電子機器部品を与えることができることは理解できない。
本件特許明細書の【0020】には、「(Y)は、全カルボキシル末端基において、イソフタル酸末端基がどれだけ選択的に存在しているかを表す指標」であることは記載されるが、そのことから、「式(Y)の条件」が-0.3≦(Y)<0.05の範囲にあるポリアミドが、訂正前の本件発明の課題を解決できることを当業者に認識できるとはいえないし、その点が、本件特許の出願時の技術常識であるともいえない。
してみると、「式(Y)の条件」として、-0.3≦(Y)<0.05の範囲を包含する訂正前の本件発明1、3ないし6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、上記本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えて、特許を請求するものである。

(3)取消理由1についての判断
訂正後の本件発明2ないし6においては、携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミドが、「式(Y)の条件」が「0.05≦(Y)≦0.8」であることが特定されている。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、(Y)が「全カルボキシル末端基において、イソフタル酸末端基がどれだけ選択的に存在しているかを表す指標」であることが記載されており(【0020】)、また、携帯電子機器部品の製造に使用されるポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミドが、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド」(実施例1?15)または「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」(実施例16)であって、かつ、(Y)が0.15?0.57の範囲内のものが、過酷な成形条件下において成形した場合においても、成形品の表面外観の安定性が良好で、耐衝撃特性に優れ、かつ塗装した成形品表面の光沢性が優れた(色目変化が少ない)携帯電子機器部品を与えることができることが具体的に示されている。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、0.05≦(Y)≦0.8の範囲にあるポリアミドが、本件発明の課題を解決できることを認識できるといえる。
よって、本件発明2ないし6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件発明の課題が解決されると当業者が認識できる範囲内のものであるといえ、本件発明2ないし6は、発明の詳細な説明に記載したものといえる。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1ないし6に係る本件特許について、取消理由1によって取り消すことはできない。


第5-2 取消理由2(特許法第36条第4項第1号)について

(1)取消理由2の概略
訂正前の本件発明1ないし6に対して通知された取消理由2は、具体的には、概略以下のとおりである。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量」で定義される(EG)の値の具体的な調整方法については記載されていないし、その調整方法が、本件特許出願時、当業者に技術常識として知られていたともいえない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載からは、当業者は、(EG)の値に基づいて「(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)]」((x)はポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率)の式により算出されるものとして定義される(Y)の値の調整方法について、理解できないし、それが本件特許出願時の技術常識として知られていたともいえない。
そうすると、本件発明1ないし6に特定されるポリアミドのうち実施例で具体的に製造された特定のポリアミド以外のものについては、どのようにすれば本件発明1ないし6で特定される、「-0.3≦(Y)≦0.8」を満たすポリアミドを製造できるのかを、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が理解できるとはいえない。
よって、発明の詳細な説明は、本件発明1ないし6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(2)取消理由2についての判断
訂正後の本件発明2ないし6では、「(A)ポリアミド」が、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」(本件発明2及びこれを引用する本件発明4ないし6)、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド」(本件発明3及びこれを引用する本件発明4ないし6)に訂正されたところ、

本件発明2ないし6では、この特定の組成からなる「(A)ポリアミド」であって、かつ、

「下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミド
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」

であるポリアミドが発明特定事項となっている。
(なお、(1)の式中の(x)は、「ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率」と定義されている。)

そこで、本件特許の出願時の技術常識を参酌して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が、本件発明2ないし6で特定される上記特定の組成からなる「(A)ポリアミド」であって「0.05≦(Y)≦0.8」の範囲を満たすもの全体について製造でき、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明2ないし6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるかについて検討する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(下線は、当審で付した。)

「【0020】
前記式(1)において、(Y)は、全カルボキシル末端基において、イソフタル酸末端基がどれだけ選択的に存在しているかを表す指標である(以下、「ブロック化比率(Y)」とも表記する。)。
【0021】
(A)ポリアミド中における、全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)と、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)には相関性があり、すなわちブロック化比率(Y)は、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が理論値(x=EG)に対して、どれだけブロック化に移行、すなわちどれだけポリアミド中の6I鎖単位の比率が高くなっており、イソフタル酸末端基比率が高くなっているかを示す指標でもある。
【0022】
従って、前記式(1)の分母[1-(x)]は、(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸末端基以外の末端基比率であり、前記式(1)の分子[(EG)-(x)]は、理論上のイソフタル酸末端基比率(=イソフタル酸成分比率)との差分イソフタル酸末端基比率、すなわち実際のイソフタル酸末端基比率と理論上のイソフタル酸末端基比率との差分となるため、前記式(1)により、ブロック化比率の指標である(Y)を求めることができる。・・・
【0023】
本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドにおいて、前記ブロック化比率(Y)は-0.3≦(Y)≦0.8であり、好ましくは0.05≦(Y)≦0.8であり、より好ましくは0.05≦(Y)≦0.7であり、さらに好ましくは0.1≦(Y)≦0.6の範囲である。
イソフタル酸成分比率(x)を上記範囲内とし、かつ前記(Y)の範囲を-0.3≦(Y)≦0.8とすることにより、本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物は、過酷な成形条件下における成形品の表面外観の安定性、耐衝撃特性が優れ、塗装した成形品の表面の光沢性が優れた(色目変化が少ない)ものとなる。」

「【0038】
((A)ポリアミドの製造方法)
・・・
ポリアミドの製造方法としては、例えば、アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(熱溶融重合法);熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(熱溶融重合・固相重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、析出したプレポリマーをさらにニーダー等の押出機で再び溶融させて重合度を上昇させる方法(プレポリマー・押出重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物、固体塩又は重縮合物を、固体状態を維持したまま重合(固相重合法)させる方法等が挙げられる。
全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)を上記数値範囲内に制御するための方法としては、原料の仕込み量の調整、重合条件の調整が有効である。
上記式(1)におけるブロック化比率の指標となる(Y)を上記数値範囲内に制御するためには、イソフタル酸成分のブロック化を制御することが必要である。具体的には、重合系内で、溶融状態を維持しながら、圧力を適宜調整し、重合温度を好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上としながら、均一混合下において重縮合反応を進め、最終重合内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるような条件下で重合させる熱溶融重合法を用いることにより制御することができる。
【0039】
重合形態としては、特に限定されず・・・。
また、重合装置も特に限定されず・・・。
【0040】
上述したように、(Y)が-0.3≦(Y)≦0.8の範囲となるようにするには、熱溶融重合法によりポリアミドを作製することが好ましく、バッチ式の熱溶融重合法によりポリアミドを作製することがより好ましい。
バッチ式の熱溶融重合法の一例について以下に説明する。
重合温度条件については特に限定されないが、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上である。
例えば、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は水溶液を110?200℃の温度下で攪拌し、約60?90%まで水蒸気を徐々に抜いて加熱濃縮する。
その後、内部圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
その後、水及び/又はガス成分を除きながら、圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)に保ち、内部温度が好ましくは240℃以上、より好ましくは245℃以上に達した時点で、水及び/又はガス成分を除きながら圧力を徐々に抜き、最終内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるように、常圧で又は減圧して重縮合を行う熱溶融重合法を用いることができる。
さらには、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は重縮合物を融点以下の温度で熱重縮合させる固相重合法等も用いることができる。これらの方法は必要に応じて組み合わせてもよい。
・・・
【0042】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミド(ポリアミド共重合体を含む、以下同じ。)の製造においては、所定の触媒を用いることが好ましい。
触媒としては、ポリアミドに用いられる公知のものであれば特に限定されず・・・」

また、本件特許明細書には、具体例として、【0070】?【0086】に、製造例1?17としてポリアミド(A1)?(A17)の製造例が記載され、【0089】?【0097】に、実施例1?16、比較例1?9、それらの結果を示す以下の表1及び表2が記載され、【0098】に、実施例1?16のポリアミド樹脂組成物成形品は、比較例の成形品とは異なり、優れた外観安定性、衝撃特性、塗装面の光沢性を有することが確認された旨の記載がある。

「表1



「表2




これらの本件特許明細書の記載によれば、「0.05≦(Y)≦0.8」を満たす「(A)のポリアミド」に関し、本件特許明細書の【0022】に、「式(1)の分母[1-(x)]は、(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸末端基以外の末端基比率であり、上記式(1)の分子[(EG)-(x)]は、理論上のイソフタル酸末端基比率(=イソフタル酸成分比率)との差分イソフタル酸末端基比率、すなわち実際のイソフタル酸末端基比率(EG)と理論上のイソフタル酸末端基比率(x)との差分となるため、上記式(1)によりブロック化比率の指標である(Y)を求めることができる」と記載されているから、「(Y)」は、「(x)」と、「(EG)」が決まれば、一義的に定まる値であると言える。
そして、「(x)」については、【0038】に、「全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)を上記数値範囲内に制御するための方法としては、原料の仕込み量の調整、重合条件の調整が有効である。」と記載されているし、本件特許明細書の表1の実施例1?4等からもその点が読み取れるから、本件特許明細書の記載からは、カルボン酸成分原料中のイソフタル酸成分の仕込み量を高めることで、全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)を高めた(A)のポリアミドを製造できることが理解できる。

ここで、明細書の【0020】には、「(Y)は、全カルボキシル末端基において、イソフタル酸末端基がどれだけ選択的に存在しているかを表す指標(以下、「ブロック化比率(Y)」とも表記する。)」であると記載されており、また、【0038】?【0042】には、「(Y)の制御方法」に関し、「(Y)を上記数値範囲内に制御するためには、イソフタル酸成分のブロック化を制御することが必要」(【0038】)であり、より具体的には、重合系内で、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は水溶液を110?200℃の温度下で攪拌し、約60?90%まで水蒸気を徐々に抜いて加熱濃縮し、その後、内部圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)になるまで加熱を続け、その後、水及び/又はガス成分を除きながら、圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)に保ち、内部温度が好ましくは240℃以上に達した時点で、水及び/又はガス成分を除きながら圧力を徐々に抜き、最終内部温度が好ましくは250℃以上になるように、常圧で又は減圧して重縮合を行う熱溶融重合法を用いることにより製造できる旨の記載がされている(【0040】;以下、【0040】に記載の製造方法を「段落0040の製造方法」という。)。
そして、本件特許明細書には、具体的な実験例として、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」であって、上記「段落0041の製造方法」に合致する製造例1?9の重合方法によって、(Y)の値が、0.15?0.57の範囲のポリアミドA1?A9が得られたことが具体的に記載されており(実施例1?16)、一方、「段落0041の製造方法」に合致しない製造例12?14の重合方法によって得られたポリアミドA12?14では、本件発明の(Y)の範囲を満たさないことが確認されている(比較例4?6)。

また、(Y)の値を算出するための(EG)は、「イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量」であり、ポリアミド共重合体の末端の調整により変化する値であるといえるところ、ポリアミド共重合体の末端調整のための方法として、末端調整剤の存在下でモノマーを重合させることは周知慣用技術である(例えば、特開2006-124669号公報(特許権者の意見書に添付された参考文献1)の【0035】、【0037】、【0039】、特開2002-194210号公報(同参考文献2)の【0022】、特開平11-92657号公報(同参考文献3)の【0009】、【0010】、特開平3-76755号公報(同参考文献4)の3頁右下欄9?15行、特開2011-219635号公報(同参考文献5)の【0019】、【0020】)し、その際、末端調整剤としてアジピン酸を用いることも周知慣用技術といえる(例えば、参考文献1の【0039】、参考文献3の【0010】、参考文献5の【0020】)。
そして、参考文献2の【0022】の「末端調整剤として…二塩基酸を用いるとアミノ末端基が減少するとともにカルボキシル末端基が増大する。」との記載から、末端調整剤として、ジカルボン酸を用いるとアミノ末端基が減少するとともにカルボキシル末端基が増大することが、本件特許の出願時の技術常識と理解でき、これに加え、本件特許明細書の【表1】から、過剰にアジピン酸を添加して重合した製造例1のポリアミド(A1)(実施例3)と過剰のアジピン酸を添加せずに重合した製造例5のポリアミド(A5)(実施例12)との対比や、過剰にアジピン酸を添加して重合した製造例2のポリアミド(A2)(実施例4)と過剰のアジピン酸を添加せずに重合した製造例6のポリアミド(A6)(実施例13)との対比から、アジピン酸を過剰に用いると、(x)の値が同じ場合であっても、(EG)を減少させ、(Y)の値を減少させることが可能であることが理解できる。

そうすると、末端調整剤としてアジピン酸を用いることが周知慣用技術であるとの本件特許出願時の技術常識に照らせば、「段落0040の製造方法」についての説明の記載、及び、過剰のアジピン酸の添加条件を変化させて得られた、(Y)の値が、0.15?0.57の範囲のポリアミドA1?A9の具体的な製造例の記載をあわせみた当業者であれば、「0.05≦(Y)≦0.8」を満たす、上記特定の組成からなる(A)のポリアミドを、過度の試行錯誤を伴わずに製造できるといえる。
よって、本件特許の出願時の技術常識を参酌して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本件発明2ないし6で特定される上記特定の組成からなる「(A)ポリアミド」であって、「0.05≦(Y)≦0.8」の範囲を満たすものについて過度の試行錯誤を伴わずに製造できるといえる。

よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2ないし6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1ないし6に係る本件特許について、取消理由2によって取り消すことはできない。


第5-3 取消理由3(特許法第29条第2項)について

第5-3-1 甲1に記載された発明に基づく特許法第29条第1項

1.甲1の記載等
(1)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は、合議体が付した。

「【請求項2】
アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する工程を経て電子顕微鏡観察で数平均内径10?80nmの凹部で表面が覆われたアルミニウム合金部品と、 前記アルミニウム合金部品の前記表面に射出成形で固着され、脂肪族ポリアミド樹脂と芳香族ポリアミド樹脂が単純混合されたもの、及び/又は、前記脂肪族ポリアミド樹脂と前記芳香族ポリアミド樹脂が分子的に結合されたものが主な樹脂分組成である熱可塑性合成樹脂組成物部品と
からなる金属樹脂複合体。
・・・
【請求項9】
請求項1?8から選択される1項に記載の金属樹脂複合体において、
前記熱可塑性合成樹脂組成物が、樹脂分組成100質量部に対して充填材1?200質量部が含まれていることを特徴とする金属樹脂複合体。
【請求項10】
請求項9に記載の金属樹脂複合体において、
前記充填材が、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、及びガラス粉から選ばれる1種以上の充填材であることを特徴とする金属樹脂複合体。」

「【0001】
本発明は、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品等に用いられるアルミニウム合金と高強度樹脂の複合体とその製造方法に関する。更に詳しくは、各種機械加工で作られた軽金属合金形状物と熱可塑性合成樹脂を一体化した構造物に関し、各種電子機器、家電製品、医療機器、車両用構造部品、車両搭載用品、建築資材の部品、その他の構造用部品、外装用部品等に用いられる軽金属合金と樹脂の複合体とその製造方法に関する。」

「【0072】
この充填剤としては繊維状充填剤、粒状充填剤、板状充填剤等の充填剤を挙げることができ、該繊維状充填剤としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等が挙げられ、ガラス繊維の具体的な例示としては、平均繊維径が6?14μmのチョップドストランド等が挙げられる。また、該板状、粒状充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、マイカ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物等が挙げられる。」

「【0079】
以下、本発明の実施例を実験例に代えて詳記する。実施例で使用した共重合ポリアミド(ブロックポリマー)の製造法と粘度数の測定方法は以下のとおりである。
〔参考例1 共重合ポリアミド(ブロックポリマー)の製造方法〕
それぞれの共重合ポリアミドの原料となるジアミンと酸の等モル塩などの原料をそれぞれの質量比で反応器に投入し、投入した樹脂分全量と同量の純水を加え、重合缶内をN2で置換した後、攪拌しながら加熱を開始し、缶内圧力を最大20kg/cm^(2)に調整しながら最終到達温度を270℃とし反応させた。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られたペレットは95℃熱水中で20時間処理し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のペレットは80℃で50時間以上乾燥した。
〔参考例2 粘度数の測定方法〕
ISO307標準方法に従って96%硫酸での粘度数測定を行った。」(段落【0079】)

「【0080】
[実施例1]
市販の1.6mm厚のA5052アルミニウム合金板を購入した。・・・18mm×45mmの長方形片多数に切断した。このアルミ合金片の端部に直径2mmφの穴をプレス機で開けた。・・・脱脂材水溶液に5分浸漬し、水洗した。続いて別の槽に1%濃度の塩酸水溶液を用意し・・・浸漬し水洗した。
【0081】
続いて別の槽に1%苛性ソーダ水溶液を用意し・・・浸漬し水洗した。続いて別の槽に1%塩酸水溶液を用意し、・・・浸漬し推薦した。続いて3.5%量の一水和ヒドラジン水溶液・・・中に先ほどの合金片を1分間浸漬し、水洗し・・・乾燥した。・・・翌日、電子顕微鏡「S-4800(日本国東京都、株式会社日立製作所製)」で、10万倍率で観察したところ20?40nm径、数平均内径で25nmの凹部で表面全面が覆われていることを確認した。
【0082】
一方、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成るブロックポリマーを参考例1の方法で合成した。得られた合成樹脂の参考例2記載の方法で測定した粘度数は85ml/gであり、溶融粘度は、フローテスター「CFT-500(日本国京都府、株式会社島津製作所製)にての温度270℃、荷重98.1N(10kgf)の条件下にて380ポイズであった。二軸押出機「TEM-35B(東芝機械株式会社製)」にて、ガラス繊維「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」をサイドフィーダーから添加量が50質量%となるように供給しながら、シリンダー温度280℃で溶融混練してペレット化したポリアミド系樹脂組成物を得た。
【0083】
アルミニウム合金片を保管して2日後、合金片を取り出し、油分等が付着せぬよう手袋で摘まんで射出成形金型にインサートした。射出成形金型の構造図を図1に示したが、図内で1はアルミニウム合金片、2は可動側型板、3は固定側型板、4は樹脂が射出されるキャビティー部、5はピンポイントゲート、6は接合面を示した。射出接合が為されると図2で示す一体化物が得られる。図2で1はアルミニウム合金片(1.6mm×45.0mm×18.0mm)、4は樹脂部(3mm×50mm×10mm)、5はピンポイントゲート、6は接合面(5mm×10mm)である。接合面の面積は0.5cm^(2)であった。金型を閉め、ガラス繊維50%含有の前記ナイロン系樹脂組成物を射出し、図2で示す一体化品を得た。」

(2)甲1-1発明及び甲1-2発明
上記(1)の、特に、実施例1(【0080】?【0083】)の記載によれば、甲1には、次の2つの発明が記載されていると認められる。

<甲1-1発明>
「アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%からなる、ISO307標準方法に従った96%硫酸での粘度数が85ml/gで、フローテスター「CFT-500(株式会社島津製作所製)」にての温度270℃、荷重98.1N(10kgf)の条件下での溶融粘度が380ポイズのブロックポリマーである共重合ポリアミドと、添加量が50質量%のガラス繊維「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」とからなる部品用ポリアミド系樹脂組成物。」

<甲1-2発明>
「アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%からなる、ISO307標準方法に従った96%硫酸での粘度数が85ml/gで、フローテスター「CFT-500(株式会社島津製作所製)」にての温度270℃、荷重98.1N(10kgf)の条件下での溶融粘度が380ポイズのブロックポリマーである共重合ポリアミドと、添加量が50質量%のガラス繊維「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」とからなるポリアミド系樹脂組成物からの部品。」

なお、甲1-1発明及び甲1-2発明において、「CFT-500(株式会社島津製作所製)」とあるのは、原文では、後ろのカギ括弧はないが、明らかに記載漏れであるので、合議体が加入した。

2.対比及び判断

(1)本件発明2
ア 対比
本件発明2と甲1-1発明を対比する。
甲1-1発明における「アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%からなる、ISO307標準方法に従った96%硫酸での粘度数が85ml/gで、フローテスター「CFT-500(株式会社島津製作所製)」にての温度270℃、荷重98.1N(10kgf)の条件下での溶融粘度が380ポイズのブロックポリマーである共重合ポリアミド」は、本件発明2における「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、 (b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド」であって、「当該(A)ポリアミドが、 (a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、 (a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」が、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」である場合に相当する。
甲1-1発明における「ガラス繊維「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」は、本件発明2の「無機充填材」に相当する。
そして、甲1-1発明のポリアミド系樹脂組成物は、本件発明2において「除く」とされている、「(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂」は含まれていない。

したがって、本件発明2と甲1-1発明は、
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドと、
無機充填材と、
を、含有する部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)」
で一致し、
以下の点で相違している。

<相違点1>
(A)のポリアミドについて、本件発明2では、「ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」を満たすものであることが特定されている(つまり、第3で記載した「(x)の条件」及び「式(Y)条件」を満たすものであることが特定されている)のに対して、甲1-1発明では、かかる特定はなされておらず、(A)のポリアミドが、「(x)の条件」及び「式(Y)条件」を満たすものであるかは不明である点。

<相違点2>
本件発明2においては、無機充填材が「(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材」と特定され、また、その配合量について、(A)のポリアミド「100質量部」に対して、無機充填材「1?300質量部」と特定されているのに対し、甲1-1発明では、無機充填材が「ガラス繊維「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」であり、その添加量について、「50質量%」と特定されている点。
<相違点3>
ポリアミド樹脂組成物の用途に関し、本件発明2では、「携帯電子機器部品用」と特定されているのに対し、甲1-1発明では、単に「部品用」と特定されるのみであり、「携帯電子機器」用の「部品」であることの特定はされていない点。

イ 判断
相違点1について検討する。
申立人従業員高村元が平成29年2月14日付けで作成した甲2である「実験報告書」の表2によれば、甲1-1発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる共重合ポリアミドが、(x)及び(Y)の数値が0.18及び-0.2であることは明らかであるが、これは本件発明2における「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たしていない。

また、甲1に記載された発明が解決しようとする課題は、甲1の特許請求の範囲の記載及び【0007】の記載からみて、「アルミニウム合金と主成分がポリアミド樹脂の熱可塑性合成樹脂組成物との接合強度を強くした、アルミ合金と樹脂の複合体及びその製造方法を提供すること」、及び、「アルミニウム合金と主成分がポリアミド樹脂の熱可塑性合成樹脂組成物との接合するときに生産性が高い、アルミ合金と樹脂の複合体及びその製造方法を提供すること」であるが、甲1には、当該課題との関係において、ポリアミド樹脂を、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたものとすることについては記載されていないし、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」において特定される(x)や(Y)の値、(Y)の値の算出のために使用される(EG)の値自体についての記載もない。
そうすると、甲1の記載からは、甲1-1発明において、部品用ポリアミド系樹脂組成物を構成するポリアミドを、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたものとすることは、動機付けられない。
一方、本件特許明細書の表1及び2の実施例及び比較例の記載によれば、本件発明2のように、ポリアミドとして、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えた部品用ポリアミド系樹脂組成物とすることで、この範囲外のポリアミドを使用する場合に比べて、本件特許明細書の【0067】で定義されるハイサイクル成形(低温金型を外観安定性使用した高温成形)の外観安定性(これは、外観安定性=(20?30ショットISO試験片のグロス平均値)-(90?100ショットISO試験片のグロス平均値)で表される。)が優れたものとなることが理解でき、この点の効果は、甲1には記載も示唆もなく、甲1の記載からは当業者が予期し得ない効果である。

そうすると、甲1-1発明から、相違点1に係る構成を備えた本件発明2とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。

以上のとおりであるから、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明2について、甲1-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、相違点1に係る本件発明2の構成を備えたポリアミドとする点については、取消理由通知において、相違点3に関する周知技術として指摘した甲3及び甲7にも記載も示唆もされていない。

(2)本件発明3
(1)アにおける検討を踏まえて本件発明3と甲1-1発明とを対比すると、両者は、
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドと、
無機充填材と、
を、含有する部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)」
で一致し、
(1)で記載した相違点1?3に加え、以下の相違点4及び5で相違している。

<相違点4>
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド」が、本件発明3では、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなる」ポリアミドであるのに対して、甲1-1発明では、「アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%からなる」ものである点。

<相違点5>
「(B)ガラス繊維」について、本件発明3では「数平均繊維径が6μm以上20μm以下」と特定されているのに対し、甲1-1発明では、ガラス繊維である「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」の数平均繊維径が不明である点。

そして、(1)イで検討したとおり、甲1-1発明から、相違点1に係る構成を備えたものとすることは当業者にとって容易であるとはいえない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3について、甲1-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、甲8?10には、甲1-1発明の「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」の平均繊維径が9μmであることが記載されているのみで、相違点1に係る本件発明2の構成を備えたポリアミドとする点については記載も示唆もされていない。

(4)本件発明4及び5
本件発明4及び5は、本件発明2及び3を直接的又は間接的に引用するものであって、本件発明2及び3における相違点1にかかる構成(「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」)をその発明特定事項として備えるものである。
そうすると、本件発明4及び5は、本件発明2及び3と同様に判断され、本件発明4及び5は、甲3、7に示される本件特許出願時の周知技術を考慮しても、甲1-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明6
(1)アでの対比を踏まえて本件発明6と甲1-2発明を対比すると、両者は、
「下記のポリアミド樹脂組成物を含む部品。
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドと、
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材と、
を、含有する部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)」
で一致し、
(1)で記載した相違点1、2及び次の相違点6で相違する。

<相違点6>
ポリアミド樹脂組成物を含む部品が、本件発明6では、「携帯電子機器部品」と特定されているのに対し、甲1-2発明では、単に「部品」と特定されるのみであり、「携帯電子機器」用の「部品」であるとの特定はされていない点。

そして、相違点1については、(1)イで記載したと同様の理由によって、甲1-1発明を相違点1に係る構成を備えたものとすることは当業者にとって容易であるとはいえない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6について、甲1-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.小括
以上のとおり、本件発明2ないし6について、甲1に記載された発明、及び、甲3、7に示される本件特許出願時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。


第5-3-2 甲3に記載された発明に基づく特許法第29条第2項

1.甲3の記載等
(1)甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。なお、下線は、合議体が付した。

「【請求項1】
(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)ホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩7?25重量部、(C)メラミンとリン酸から形成される付加物7?25重量部、(D)ホウ酸亜鉛0.8?5.5重量部、(E)無機充填剤15?250重量部、(F)重量平均粒径が5μm以下のタルク0.02?1重量部を配合してなることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
・・・
【請求項3】
(a-1)半芳香族共重合ポリアミド樹脂が、(a1-1)ヘキサメチレンアジパミド単位65?90重量%、(a1-2)ヘキサメチレンイソフタラミド単位5?30重量%および(a1-3)カプロアミド単位1?14重量%の合計100重量%からなり、(a1-2)/(a1-3)の共重合重量比1以上を同時に満たす3元共重合体(ポリアミド66/6I/6)であることを特徴とする請求項2記載のポリアミド樹脂組成物。
・・・
【請求項5】
(E)無機充填剤がガラス繊維、炭素繊維、およびワラステナイトから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から4のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物。
・・・
【請求項8】
請求項1から7いずれか記載のポリアミド樹脂組成物を、射出成形、押出成形、ブロー成形の内から選ばれる少なくとも1種の方法で成形してなる成形品。
【請求項9】
成形品が、筐体、外装部品または補強部品であることを特徴とする請求項8記載の成形品。
【請求項10】
成形品が、携帯電話筐体、または電機電子機器筐体であることを特徴とする請求項9記載の成形品。」

「【0004】
本発明は、ノンハロゲン系難燃剤を用いた難燃性ポリアミド樹脂組成物、ならびに、優れた製品外観と高剛性を両立し、かつ優れた成形性を同時に満足し、製品の薄型化に好適なポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。」

「【0007】
・・・本発明の樹脂組成物を用いた成形品は、携帯電話、PHS、液晶テレビ、プラズマディスプレー、PDA、小型テレビ、ラジオ、ノートパソコン、パソコン、マウス、プリンター、スキャナー、メモリ機器、パソコン周辺機器、ビデオデッキ、DVDデッキ、CDデッキ、MDデッキ、DATデッキ、アンプ、カセットデッキ、ポータブルCDプレーヤー、ポータブルMDプレーヤー、カメラ、デジタルカメラ、双眼鏡、顕微鏡、望遠鏡、時計、・・・などの外装部品に特に優れるものである。」

「【0036】
参考例1 半芳香族共重合ポリアミド樹脂の製造
実施例、ならびに比較例で用いた共重合ポリアミド樹脂は以下の方法で重合した。(a-1)ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の当モル塩、(a-2)ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の当モル塩、および(a-3)ε-カプロラクタムをそれぞれ表に記載の重量比で投入し、投入した全量と同量の純水を加え、重合缶内をN2で置換した後、攪拌しながら加熱を開始し、缶内圧力を最大20kg/cm2に調整しながら最終到達温度を270℃とし反応させた。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。
・・・
【0040】
参考例5 成形品の作成
実施例、ならびに比較例で使用した曲げ弾性率の試験用成形品は次の方法で作成した。ISO1874-2に従い、日精樹脂工業(株)製の射出成形機PS60により、シリンダ温度300℃、金型表面温度100℃、スクリュー回転数150rpm、平行部流速200mm/秒、射出/冷却=20/10秒の条件でISO Type-B規格の試験片を成形した。
【0041】
難燃性測定用の試験片は、同条件、射出/冷却=10/10秒の条件で、12.7×127×1.0(mm)の試験片を射出成形した。
【0042】
離型性測定用の試験片は、同条件、射出/冷却=10/10秒の条件で、図*の試験片を射出成形した。
【0043】
[実施例1]
参考例1に示した重合方法で製造されたヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、重量比がそれぞれ76、16、8重量%である(a-1)半芳香族共重合ポリアミド樹脂を32.5重量部、参考例3に示した重合方法で製造された(a-2)ポリアミド6樹脂を67.5重量部、(B)ホスフィン酸塩[クラリアントジャパン(株)製:商品名 EXOLIT OP1230]を17.5重量部、(C)メラミンとリン酸から生成される付加物[チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製:商品名 melapur200/70]を17.5重量部、(D)ホウ酸亜鉛[ボラックス社製:商品名 Firebreak500]を2.5重量部、(E)ガラス繊維[日本板硝子(株)製:商品名 TP-67]を113重量部、(F)重量平均粒径が2.3μmであるタルク[竹原化学工業(株)製:商品名 タルクMST]を0.08重量部を2軸押出機(東芝機械社製:TEM58)を用いてシリンダ設定温度290℃、スクリュ回転数200rpmの条件下で、(a-1)、(a-2)、(B)、(C)、(D)、(F)をトップフィード(基込めフィード)、(E)をサイドフィードし、溶融混錬した後、ストランド状のガットを成形し、冷却バスで冷却後、カッターで造粒しペレットを得た。得られたペレットを参考例5に示した方法により成形し、前記の測定方法によって諸特性を調べた。その結果を表に示す。
・・・
【0045】
[実施例14、15]
参考例1に示した重合方法で製造されたヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、重量比がそれぞれ表に示す重量%であること以外は実施例1と同様にしてペレット、成形品を得て諸特性を調べた。その結果を表に示す。」

「【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】




(2)甲3-1?甲3-2発明
上記(1)の記載、特に、実施例1、14及び15(【0043】及び【0045】)、表1(【0053】)及び表3(【0055】))によれば、甲3には、特許請求の範囲の記載を参酌するに、次の発明が記載されていると認められる。

<甲3-1発明>
ヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、それぞれの単位の重量比が、76、16、8重量%(実施例1組成)、81、15、4重量%(実施例14組成)及び71、17、12重量%(実施例15組成)のいずれかである、半芳香族共重合ポリアミド樹脂を32.5重量部、(a-2)ポリアミド6樹脂を67.5重量部、(B)ホスフィン酸塩[クラリアントジャパン(株)製:商品名 EXOLIT OP1230]を17.5重量部、(C)メラミンとリン酸から生成される付加物[チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製:商品名 melapur200/70]を17.5重量部、(D)ホウ酸亜鉛[ボラックス社製:商品名 Firebreak500]を2.5重量部、無機充填剤である(E)ガラス繊維[日本板硝子(株)製:商品名 TP-67]を113重量部、(F)重量平均粒径が2.3μmであるタルク[竹原化学工業(株)製:商品名 タルクMST]を0.08重量部を含むポリアミド系樹脂組成物。

<甲3-2発明>
ヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、それぞれの単位の重量比が、76、16、8重量%(実施例1組成)、81、15、4重量%(実施例14組成)及び71、17、12重量%(実施例15組成)のいずれかである、(a-1)半芳香族共重合ポリアミド樹脂を32.5重量部、(a-2)ポリアミド6樹脂を67.5重量部、(B)ホスフィン酸塩[クラリアントジャパン(株)製:商品名 EXOLIT OP1230]を17.5重量部、(C)メラミンとリン酸から生成される付加物[チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製:商品名 melapur200/70]を17.5重量部、(D)ホウ酸亜鉛[ボラックス社製:商品名 Firebreak500]を2.5重量部、無機充填剤である(E)ガラス繊維[日本板硝子(株)製:商品名 TP-67]を113重量部、(F)重量平均粒径が2.3μmであるタルク[竹原化学工業(株)製:商品名 タルクMST]を0.08重量部を含むポリアミド系樹脂組成物からの成形品。

2.対比及び判断

(1)本件発明2
ア 対比
本件発明2と甲3-1発明を対比する。
甲3-1発明における「ヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、それぞれの単位の重量比が、76、16、8重量%(実施例1組成)、81、15、4重量%(実施例14組成)及び71、17、12重量%(実施例15組成)のいずれかである、半芳香族共重合ポリアミド樹脂」は、本件発明2における「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、 (b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド」であって、「当該(A)ポリアミドが、 (a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、 (a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」が、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」である場合に相当する。
甲3-1発明における「無機充填剤である(E)ガラス繊維[日本板硝子(株)製:商品名 TP-67]」及び「(F)重量平均粒径が2.3μmであるタルク[竹原化学工業(株)製:商品名 タルクMST]」は、本件発明2の「無機充填材」に相当する。
そして、甲3-1発明のポリアミド系樹脂組成物には、本件発明2において「除く」とされている、「(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂」は含まれていない。

したがって、本件発明2と甲3-1発明は、
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドと、
無機充填材と、
を、含有する部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)」
で一致し、
以下の点で相違している。

<相違点1>
(A)のポリアミドについて、本件発明2では、「ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」を満たすものであることが特定されている(つまり、第3で記載した「(x)の条件」及び「式(Y)条件」を満たすものであることが特定されている)のに対して、甲3-1発明では、かかる特定はなされておらず、(A)のポリアミドが、「(x)の条件」及び「式(Y)条件」を満たすものであるかは不明である点。

<相違点2>
本件発明2においては、無機充填材が「(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材」と特定され、また、その配合量について、(A)のポリアミド「100質量部」に対して、無機充填材「1?300質量部」と特定されているのに対し、甲3-1発明では、(A)のポリアミドに相当する「半芳香族共重合ポリアミド樹脂32.5重量部」に対し、無機充填材に相当する「(E)ガラス繊維[日本板硝子(株)製:商品名 TP-67]を113重量部、(F)重量平均粒径が2.3μmであるタルク[竹原化学工業(株)製:商品名 タルクMST]を0.08重量部」と特定されている点。

<相違点3>
ポリアミド樹脂組成物の用途に関し、本件発明2では、「携帯電子機器部品用」と特定されているのに対し、甲3-1発明では、かかる特定はされていない点。

イ 判断
相違点1について検討する。
申立人従業員高村元が平成29年2月14日付けで作成した甲4である「実験報告書」の表Cによれば、甲3-1発明に含まれる実施例1組成、実施例14組成及び実施例15組成の半芳香族共重合ポリアミド樹脂では、(x)及び(Y)の数値が、実施例1組成では0.16及び-0.18、実施例14組成では0.15及び-0.16、実施例15組成では0.18及び-0.21であることは明らかであるが、これらは、本件発明2における「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たしていない。

また、甲3に記載された発明が解決しようとする課題は、甲3の特許請求の範囲の記載及び【0004】の記載からみて、「ノンハロゲン系難燃剤を用いた難燃性ポリアミド樹脂組成物であって、優れた製品外観と高剛性を両立し、かつ優れた成形性を同時に満足し、製品の薄型化に好適なポリアミド樹脂組成物を提供すること」であるが、甲3には、当該課題との関係において、ポリアミド樹脂を、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたものとすることについては記載されていないし、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」において特定される(x)や(Y)の値、(Y)の値の算出のために使用される(EG)の値自体についての記載もない。
そうすると、甲3の記載からは、甲3-1発明において、ポリアミド系樹脂組成物を構成するポリアミドを、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたものとすることは、動機付けられない。
一方、本件特許明細書の表1及び2の実施例及び比較例の記載によれば、本件発明2のように、ポリアミドとして、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたポリアミド系樹脂組成物とすることで、この範囲外のポリアミドを使用する場合に比べて、本件特許明細書の【0067】で定義されるハイサイクル成形(低温金型を外観安定性使用した高温成形)の外観安定性(これは、外観安定性=(20?30ショットISO試験片のグロス平均値)-(90?100ショットISO試験片のグロス平均値)で表される。)が優れたものとなることが理解でき、この点の効果は、甲3には記載も示唆もなく、甲3の記載からは当業者が予期し得ない効果である。

そうすると、甲3-1発明から、相違点1に係る構成を備えた本件発明2とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。

以上のとおりであるから、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明2について、甲3-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


(2)本件発明3
(1)アにおける検討を踏まえて本件発明3と甲3-1発明とを対比すると、両者は、
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドと、
無機充填材と、
を、含有する部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)」
で一致し、
(1)で記載した相違点1?3及び以下の相違点4及び5で相違している。

<相違点4>
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド」が、本件発明3では、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなる」ポリアミドであるのに対して、甲3-1発明では、「ヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、それぞれの単位の重量比が、76、16、8重量%(実施例1組成)、81、15、4重量%(実施例14組成)及び71、17、12重量%(実施例15組成)のいずれかである」点。

<相違点5>
「(B)ガラス繊維」について、本件発明3では「数平均繊維径が6μm以上20μm以下」と特定されているのに対し、甲3-1発明では、ガラス繊維である「日本板硝子(株)製:商品名 TP-67」の数平均繊維径が不明である点。

そこで、相違点について検討すると、(1)イで記載したとおり、甲3-1発明のポリアミドを、相違点1に係る構成を備えたものとすることは当業者にとって容易であるとはいえない。

そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3について、甲3-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明4及び5
本件発明4及び5は、本件発明2及び3を直接的又は間接的に引用するものであって、本件発明2及び3における相違点1に係る構成(「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」)をその発明特定事項として備えるものである。
そうすると、本件発明4及び5は、本件発明2及び3と同様に判断され、本件発明4及び5は、甲3-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明6
本件発明6の「携帯電子機器部品」は成形品であるから、(1)で指摘した点を踏まえて本件発明6と甲3-2発明を対比すると、両者は、
「下記のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドと、
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材と、
を、含有する部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)」
で一致し、
(1)で記載した相違点1、2及び次の相違点6で相違する。

<相違点6>
ポリアミド樹脂組成物を含む成形品が、本件発明6では、「携帯電子機器部品」と特定されているのに対し、甲3-2発明では、かかる特定はされていない点。

そして、相違点1については、(1)イで記載したと同様の理由によって、甲3-2発明のポリアミドを相違点1に係る構成を備えたものとすることは当業者にとって容易であるとはいえない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6について、甲3-2発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.小括
以上のとおり、本件発明2ないし6について、甲3に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。


第5-3-3 甲5に記載された発明に基づく特許法第29条第2項

1.甲5の記載等
(1)甲5の記載
甲5には、以下の記載がある。

「【請求項1】
(a-1)ヘキサメチレンアジパミド単位65?90重量%、(a-2)ヘキサメチレンイソフタラミド単位5?30重量%および(a-3)カプロアミド単位1?14重量%の合計100重量%からなり、(a-2)/(a-3)の共重合重量比1以上を同時に満たす(A-1)3元共重合ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、(B)難燃剤20?250重量部(C)アンチモン化合物8?90重量部(D)無機充填剤15?300重量部配合してなることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミド樹脂(A)が、前記(A-1)3元共重合ポリアミド樹脂20?80重量%と(A-2)脂肪族ポリアミド樹脂80?20重量%を配合してなるポリアミド樹脂(A)である請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
・・・
【請求項5】
(D)無機充填剤がガラス繊維、炭素繊維、およびワラステナイトから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から4のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物を射出成形、押出成形、およびブロー成形から選ばれるいずれかの方法で成形してなる成形品。」

「【0008】
本発明の樹脂組成物は、特定共重合比率の3元共重合ポリアミド樹脂に難燃剤、アンチモン化合物、無機充填剤を配合することで非常に優れた剛性と難燃性を同時に実現するポリアミド樹脂組成物であり、本発明の樹脂組成物を用いた成形品は高い剛性、耐衝撃性を有することから、ブレーカー、スイッチ、プラグ、リレー、ターミナル等の電気電子部品および自動車用部品、建材関係部品など、耐圧用筐体部品に特に優れるものである。」

「【0020】
本発明に用いる(D)無機充填剤としては、特に限定されるものではないが、繊維状、ウィスカー状等の無機充填剤を用いることが、強化剤としての特性上好ましい。具体的には、無機充填剤としてガラス繊維、・・・金属繊維、・・・アルミナ繊維、シリカ繊維・・・ワラステナイトなどの繊維状、ウィスカー状および、ガラスビーズ・・・タルク・・・などの球状充填材が挙げられる。」

「【0031】
参考例1 共重合ポリアミドの製造
実施例、ならびに比較例で用いた共重合ポリアミド樹脂は以下の方法で重合した。ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の当モル塩、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の当モル塩、およびεカプロラクタムをそれぞれ表に記載の重量比で投入し、投入した全量と同量の純水を加え、重合缶内をN2で置換した後、攪拌しながら加熱を開始し、缶内圧力を最大20kg/cm^(2)に調整しながら最終到達温度を270℃とし反応させた。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られたペレットは95℃熱水中で20時間処理し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のペレットは80℃で50時間以上乾燥し、相対粘度2.0の3元共重合ポリアミド樹脂を得た。なお、相対粘度は、上記に示すとおり、JIS?K6810に従い測定した。
・・・
【0035】
参考例5 成形品の作成
実施例、ならびに比較例で使用した引張強さ、曲げ弾性率の試験用成形品は次の方法で作成した。ISO1874-2に従い、日精樹脂工業(株)製の射出成形機PS60により、シリンダ温度280℃、金型表面温度80℃、スクリュー回転数150rpm、平行部流速200mm/秒、射出/冷却=20/20秒の条件でISO Type-A規格の試験片を成形した。」

「【0037】
[実施例1]
参考例1に示した重合方法で製造されたヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、重量比がそれぞれ81、15、4重量%である(A-1)3元共重合ポリアミド樹脂:100重量部、(B)臭素化ポリスチレン[アルべマール日本社製サイテックスHP7010G]:42重量部、(C)三酸化アンチモン[日本精鉱(株)製PATOX-MK]:17重量部、ガラス繊維[日本板硝子(株)製:商品名T-289]:159重量部を2軸押出機(東芝機械社製:TEM58)を用いてシリンダ設定温度270℃、スクリュ回転数200rpmの条件下で(A-1)、(B)、(C)をトップフィード(基込めフィード)、(D)をサイドフィードし、溶融混錬した後、ストランド状のガットを成形し、冷却バスで冷却後、カッターで造粒しペレットを得た。得られたペレットを参考例5に示した方法により成形し、前記の測定方法によって諸特性を調べた。その結果を表に示す。
【0038】
[実施例2、3]
(A-1)3元共重合ポリアミド樹脂が、表に示す共重合重量比である以外は実施例1と同様にしてペレット、成形品を得て諸特性を調べた。その結果を表に示す。」
「【0050】
【表1】




(2)甲5-1?甲5-2発明
上記(1)の、特に、実施例1?3(【0037】及び【0038】)及び表1(【0050】)によれば、甲5には、特許請求の範囲の記載も参酌するに、次の発明が記載されていると認められる。

<甲5-1発明>
ヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、それぞれの単位の重量比が、81、15、4重量%(実施例1組成)、76、16、8重量%(実施例2組成)及び71、17、12重量%(実施例3組成)のいずれかである、(A-1)相対粘度2.0の3元共重合ポリアミド樹脂:100重量部、(B)臭素化ポリスチレン[アルべマール日本社製サイテックスHP7010G]:42重量部、(C)三酸化アンチモン[日本精鉱(株)製PATOX-MK]:17重量部、(D)無機充填剤であるガラス繊維[日本板硝子(株)製:商品名T-289]:159重量部からなるポリアミド系樹脂組成物。

<甲5-2発明>
ヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、それぞれの単位の重量比が、81、15、4重量%(実施例1組成)、76、16、8重量%(実施例2組成)及び71、17、12重量%(実施例3組成)のいずれかである、(A-1)相対粘度2.0の3元共重合ポリアミド樹脂:100重量部、(B)臭素化ポリスチレン[アルべマール日本社製サイテックスHP7010G]:42重量部、(C)三酸化アンチモン[日本精鉱(株)製PATOX-MK]:17重量部、(D)無機充填剤であるガラス繊維[日本板硝子(株)製:商品名T-289]:159重量部からなるポリアミド系樹脂組成物からの成形品。

2.対比及び判断
以下において、「甲5-1発明」と、「甲5-2発明」を併せて、「甲5発明」ともいう。

(1)本件発明2
ア 対比
本件発明2と甲5-1発明を対比する。
甲5-1発明における「ヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、それぞれの単位の重量比が、81、15、4重量%(実施例1組成)、76、16、8重量%(実施例2組成)及び71、17、12重量%(実施例3組成)のいずれかである、(A-1)相対粘度2.0の3元共重合ポリアミド樹脂」は、本件発明1における「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、 (b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド」であって、「当該(A)ポリアミドが、 (a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、 (a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」が、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」である場合に相当する。
甲5-1発明における「(D)無機充填剤であるガラス繊維[日本板硝子(株)製:商品名T-289]」は、本件発明2の「無機充填材」に相当する。
そして、甲5-1発明のポリアミド系樹脂組成物は、本件発明2において「除く」とされている、「(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂」は含まれていない。

したがって、本件発明2と甲5-1発明は、
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドと、
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)」
で一致し、
以下の点で相違している。

<相違点1>
(A)のポリアミドについて、本件発明2では、「ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」を満たすものであることが特定されている(つまり、第3で記載した「(x)の条件」及び「式(Y)条件」を満たすものであることが特定されている)のに対して、甲5-1発明では、かかる特定はなされておらず、(A)のポリアミドが、「(x)の条件」及び「式(Y)条件」を満たすものであるかは不明である点。

<相違点2>
本件発明2においては、無機充填材が「(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材」と特定され、また、その配合量について、((A)ポリアミドを100質量部とした場合に、)無機充填材「1?300質量部」と特定されているのに対し、甲5-1発明では、無機充填材が「(D)無機充填剤であるガラス繊維[日本板硝子(株)製:商品名T-289]:159重量部」であり、その配合量は、「(A)のポリアミド」に相当する「(A-1)相対粘度2.0の3元共重合ポリアミド樹脂」100重量部に対し、)「159重量部」と特定されている点。

<相違点3>
ポリアミド樹脂組成物の用途に関し、本件発明2では、「携帯電子機器部品用」と特定されているのに対し、甲5-1発明では、かかる特定はされていない点。

イ 判断
(ア)相違点1について
申立人従業員高村元が平成29年2月14日付けで作成した甲6である「実験報告書」の表Bによれば、甲5-1発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる実施例1組成、実施例2組成及び実施例3組成の3元共重合ポリアミド樹脂は、(x)及び(Y)の数値が、実施例1組成では0.15及び-0.16、実施例2組成では0.16及び-0.18、実施例3組成では0.18及び-0.21であることは明らかであり、これらは本件発明2における「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たしていない。
そうすると、上記相違点1は実質的には相違点ではない。

また、甲5に記載された発明が解決しようとする課題は、甲5の特許請求の範囲の記載及び【0005】の記載からみて、「優れた難燃性、剛性、耐衝撃性を同時に満足できるポリアミド樹脂組成物、および耐圧力用筐体を提供すること」であるが、甲5には、当該課題との関係において、ポリアミド樹脂を、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたものとすることについては記載されていないし、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」において特定される(x)や(Y)の値、(Y)の値の算出のために使用される(EG)の値自体についての記載もない。
そうすると、甲5の記載からは、甲5-1発明において、ポリアミド系樹脂組成物を構成するポリアミドを、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたものとすることは、動機付けられない。
一方、本件特許明細書の表1及び2の実施例及び比較例の記載によれは、本件発明2のように、ポリアミドとして、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたポリアミド系樹脂組成物とすることで、この範囲外のポリアミドを使用する場合に比べて、本件特許明細書の【0067】で定義されるハイサイクル成形(低温金型を外観安定性使用した高温成形)の外観安定性(これは、外観安定性=(20?30ショットISO試験片のグロス平均値)-(90?100ショットISO試験片のグロス平均値)で表される。)が優れたものとなることが理解でき、この点の効果は、甲5には記載も示唆もなく、甲5の記載からは当業者が予期し得ない効果である。

そうすると、甲5-1発明から、相違点1に係る構成を備えた本件発明2とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。

以上のとおりであるから、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明2について、甲5-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、相違点1に係る本件発明2の構成を備えたポリアミドとする点については、取消理由通知において、相違点3に関する周知技術として指摘した甲3及び甲7にも記載も示唆もされていない。

(2)本件発明3
(1)アにおける検討を踏まえて本件発明3と甲5-1発明とを対比すると、両者は、
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドと、
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)」
で一致し、
(1)で記載した相違点1?3及び以下の相違点4及び5で相違している。

<相違点4>
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド」が、本件発明3では、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなる」ポリアミドであるのに対して、甲5-1発明では、「ヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、それぞれの単位の重量比が、81、15、4重量%(実施例1組成)、76、16、8重量%(実施例2組成)及び71、17、12重量%(実施例3組成)のいずれかである」点。

<相違点5>
「(B)ガラス繊維」について、本件発明3では「数平均繊維径が6μm以上20μm以下」と特定されているのに対し、甲5-1発明では、ガラス繊維である「[日本板硝子(株)製:商品名T-289]」の数平均繊維径が不明である点。

そこで、相違点について検討すると、(1)イで記載したと同様の理由によって、甲5-1発明から、相違点1に係る構成を備えた本件発明3とすることは当業者にとって容易であるとはいえない。

そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3について、甲5-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明4及び5
本件発明4及び5は、本件発明2及びを直接的又は間接的に引用するものであって、本件発明2及び3における相違点1に係る構成(「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」)をその発明特定事項として備えるものである。
そうすると、本件発明4及び5は、本件発明2又は3と同様に判断され、本件発明4及び5は、甲5-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明6
本件発明6の「携帯電子機器部品」は成形品であるから、(1)で指摘した点を踏まえて本件発明6と甲5-2発明を対比すると、両者は、
「下記のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドと、
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材と、
を、含有する部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)」
で一致し、
(1)で記載した相違点1、2及び次の相違点6で相違する。

<相違点6>
ポリアミド樹脂組成物を含む成形品が、本件発明6では、「携帯電子機器部品」と特定されているのに対し、甲5-2発明では、かかる特定はされていない点。

そして、相違点1については、(1)イで記載したと同様の理由によって、甲5-2発明を相違点1に係る構成を備えたものとすることは当業者にとって容易であるとはいえない。

そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6について、甲5-2発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、相違点1に係る本件発明6の構成を備えたポリアミドとする点については、取消理由通知において、相違点6に関する周知技術として指摘した甲3及び甲7にも記載も示唆もされていない。

3.小括
以上のとおり、本件発明2ないし6について、甲5に記載された発明、及び、甲3、7に示される本件特許出願時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第5-3-4 取消理由3についてのむすび

第5-3-1?第5-3-3で説示したとおり、本件発明2ないし6に係る本件特許は、取消理由3によっては取り消すことはできない。


第6 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
(1)本件訂正前の請求項1ないし6に係る発明についての特許法第29条第1項第3号について
申立人は、申立書において、本件訂正前の請求項1ないし6に係る発明(それぞれ、本件発明1ないし6に対応するが、請求項1については、本件訂正により削除された。)について、甲2、4及び6のそれぞれの実験報告書を参照すれば、甲1、3及び5それぞれに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に基づく取消理由が存在すると主張する。
しかしながら、第5-3-1?第5-3-3で述べたとおり、本件発明2ないし6と、甲1、3及び5それぞれに記載された発明とには、相違点があるから、本件発明2ないし6は、甲1、3及び5それぞれに記載された発明であるとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(2)特許法第36条第6項第2号について
申立人は、申立書において、本件訂正前の請求項1ないし6に係る発明(本件発明1ないし6に対応する。)について本件特許明細書の実施例において認められる(Y)の範囲は、0.15?0.57であるから、実施例を参酌しても、何故(Y)を-0.3≦(Y)≦0.8と定めたのか、その理由が不明であり、技術的意味が理解できないから、本件特許請求の範囲の記載は明確ではないと主張する。
そこで検討すると、訂正後の本件発明2ないし6は、(Y)が0.05≦(Y)≦0.8であるところ、本件特許明細書の【0019】及び【0065】には、(Y)の定義及びその測定法が明確に記載されているし、(Y)の範囲を0.05≦(Y)≦0.8とする点の技術的意味についても、本件特許明細書の【0019】?【0023】)に明確に記載されている。
よって、本件発明2ないし6は明確であるといえ、申立人の主張は採用できない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明2ないし6に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明2ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

さらに、本件発明1に係る特許は、訂正により削除されたため、本件発明1に対して、申立人がした特許異議の申し立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物及び当該ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物及び当該ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、携帯電子機器としては、携帯電話、スマートフォン、タブレット型パーソナルコンピューター、携帯ゲーム機器等が知られており、これらに代表される携帯電子機器は、世界的に益々広く使用されるようになってきている。
最近では、携帯電子機器においては、持ち運びの利便性を考慮し、軽量小型化、薄肉化設計が進んでおり、金属部品から樹脂部品への代替が進んでいる。このような金属部品に代わる樹脂部品の材料としては、機械特性、成形加工性に優れたポリアミド樹脂が広く用いられている。
【0003】
近年、ポリアミド樹脂を用いた成形体は、生産性を向上させるために、成形温度を高くし、金型温度を下げて行うハイサイクル成形条件で成形する場合がある。
また、ポリアミド樹脂は、上述の通り、携帯電子機器分野で広く採用されているが、このような用途では、持ち運びするために、落下による破損等が発生することがあり、衝撃特性が重要な要求特性となる。さらには携帯電子機器の筐体に用いられる樹脂としては、成形体表面の外観性も要求される場合が多い。
【0004】
一方、高温条件下で成形を行うと、ポリアミド樹脂の分解が発生したり、流動性変化が生じたりすることにより安定して成形体が得られない場合があるという問題がある。
よって、特に、上述したようなハイサイクル成形時の表面外観の安定性、さらには耐衝撃特性を向上させた、過酷な成形条件下においても物性変化が少ないポリアミド樹脂組成物及び当該ポリアミド樹脂組成物を用いた携帯電子機器が要求されている。
【0005】
このような要求に応えるため、成形体の表面外観及び機械特性を向上させることができる材料として、イソフタル酸成分を導入したポリアミド66/6Iからなるポリアミドが開示されている(例えば、特許文献1乃至4参照。)。
また、耐衝撃性を改良することができる材料として、テレフタル酸成分と、イソフタル酸成分とを導入したポリアミド6T/6Iからなるポリアミド開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-32976号公報
【特許文献2】特開平6-32980号公報
【特許文献3】特開平7-118522号公報
【特許文献4】特開2000-219808号公報
【特許文献5】特開2000-191771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1乃至4に開示された技術で製造されたポリアミドは、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が、ポリアミド鎖中でブロックに共重合されている比率が高いため、一般的な成形条件下での成形品の表面外観性は改良されるものの、ハイサイクル成形条件のような過酷な成形条件下では、成形表面の外観低下、及び安定性が低下してしまうおそれがある。またさらには得られた成形品に塗装を施した場合には、成形品表面の光沢感がなく曇ったようになる等の成形表面不良が発生するおそれがある。
【0008】
また、特許文献1乃至4に開示された技術で製造されたポリアミドは、弾性率等の機械特性は改良されるものの、前記の通り、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が、ポリアミド鎖中でブロックに共重合されている比率が高いため、そのポリマー構造起因により、すなわちポリアミド鎖中でブロックに共重合されている6I鎖単位の比率が高い構造を有していることにより、耐衝撃特性が低下してしまう問題がある。
【0009】
さらに、前記特許文献5に開示された製造技術で製造されたポリアミドは、耐衝撃特性は改良されるものの、成形表面外観性が低下する問題を有している。
【0010】
上述したように、従来技術で得られるポリアミド66/6Iでは、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が理想的なランダム共重合体に比べて、ブロックに共重合されている比率が高いため、機械特性のバランスを保持しつつ、成形品表面外観の安定性を維持し、耐衝撃特性を向上させることが困難であり、成形品表面外観の安定性、耐衝撃特性に優れ、かつ過酷な成形条件下で成形した場合においても物性変化が少ないポリアミド樹脂組成物や当該ポリアミド樹脂組成物を用いて成形した携帯電子機器は未だ知られていないのが実情である。
また、ポリアミドの特徴である、機械特性のバランスを保持しつつ、成形品表面外観の安定性を維持することは困難であり、このようなポリアミド樹脂組成物により成形した携帯電子機器が要望されている。
【0011】
そこで本発明においては、上記事情に鑑み、過酷な成形条件下において成形した場合においても、成形品の表面外観の安定性が良好で、耐衝撃特性に優れ、かつ塗装した成形品表面の光沢性が優れた(色目変化が少ない)携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物及び当該ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記ポリアミド66/6I特有の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位とを含むポリアミドにおいて、ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)の範囲を特定し、かつ、(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量としたときの、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位がブロック化した指標である(Y)、{(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)]}の値の数値範囲を特定したポリアミド(A)を含有するポリアミド樹脂組成物及び当該ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品が、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0013】
〔1〕(削除)
〔2〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミドを100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材を1?300質量部と、
を、含有する携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)。
〔3〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミドを100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材を1?300質量部と、
を、含有し、
前記(B)ガラス繊維は、数平均繊維径が6μm以上20μm以下である、携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)。
〔4〕
前記(C):前記(B)以外の無機充填材が、タルク、マイカ、カオリン、シリカ、ワラストナイト、アルミフレーク及びアルミ粉からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記〔2〕又は〔3〕に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。
〔5〕
前記(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
前記(A)ポリアミド、前記(B)ガラス繊維、及び前記(C):前記(B)以外の無機充填材の合計100質量部に対する(A)ポリアミドの割合が40?67質量部である、前記〔2〕乃至〔4〕のいずれか一に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。
〔6〕
前記〔2〕乃至〔5〕のいずれか一に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、過酷な成形条件下において成形した場合においても、表面外観が安定しており、かつ耐衝撃特性にも優れ、かつ塗装した成形品の表面の光沢性にも優れた(色目変化が少ない)携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物及び当該ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ブロック化比率(Y)とポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)との関係を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
〔携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物〕
本実施形態の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物(以下、本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物と記載することがある)は、
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドを100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維及び/又は(C):無機充填材を1?300質量部と、
を、含有する。
以下、本実施形態の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物の構成成分について説明する。
【0018】
((A)ポリアミド)
本実施形態の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミド(以下、(A)ポリアミド、ポリアミド(A)、又は単にポリアミドと記載する場合もある。)は、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含む。
当該(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)は、0.05≦(x)≦0.5であり、好ましくは0.05≦(x)≦0.4であり、さらに好ましくは0.05≦(x)≦0.3である。
ここで、(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)とは、ポリアミド中に含まれる(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位の比率を示している。
前記イソフタル酸成分比率(x)が0.05以上であると、ポリアミドの融点、固化温度が抑制され、本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物の成形品の表面外観性が安定的なものとなる。また、イソフタル酸成分比率(x)が0.5以下であるとポリアミドの結晶性の低下を抑制でき、本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物の成形品において十分な機械的強度が得られる。
【0019】
前記(A)ポリアミドは、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である。
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
式(1)中、(x)は、上述したように、(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率であり、ポリアミド中における(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位の比率を示す。
(EG)は、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2)
【0020】
前記式(1)において、(Y)は、全カルボキシル末端基において、イソフタル酸末端基がどれだけ選択的に存在しているかを表す指標である(以下、「ブロック化比率(Y)」とも表記する。)。
【0021】
(A)ポリアミド中における、全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)と、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)には相関性があり、すなわちブロック化比率(Y)は、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が理論値(x=EG)に対して、どれだけブロック化に移行、すなわちどれだけポリアミド中の6I鎖単位の比率が高くなっており、イソフタル酸末端基比率が高くなっているかを示す指標でもある。
【0022】
従って、前記式(1)の分母[1-(x)]は、(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸末端基以外の末端基比率であり、前記式(1)の分子[(EG)-(x)]は、理論上のイソフタル酸末端基比率(=イソフタル酸成分比率)との差分イソフタル酸末端基比率、すなわち実際のイソフタル酸末端基比率と理論上のイソフタル酸末端基比率との差分となるため、前記式(1)により、ブロック化比率の指標である(Y)を求めることができる。
後述の実施例及び比較例に基づくポリアミドの、前記ブロック化比率(Y)とポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)との関係を表した図を図1に示す。
図1の説明を下記に示す。
横軸:全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)
縦軸:全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)
実線の四角形で囲まれた領域:二つの四角形全体により囲まれた領域が0.05≦(x)≦0.5であり、かつ-0.3≦(Y)≦0.8である領域。図1中上側の四角形のみに囲まれた領域が0.05≦(x)≦0.5であり、かつ0.05≦(Y)≦0.8である領域。
一点鎖線:(EG)=(x)
破線量矢印:[(EG)-(x)]と[1-(x)]の関係を示す。
◇:後述する実施例に用いたポリアミド
■:後述する比較例に用いたポリアミド
【0023】
本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドにおいて、前記ブロック化比率(Y)は-0.3≦(Y)≦0.8であり、好ましくは0.05≦(Y)≦0.8であり、より好ましくは0.05≦(Y)≦0.7であり、さらに好ましくは0.1≦(Y)≦0.6の範囲である。
イソフタル酸成分比率(x)を上記範囲内とし、かつ前記(Y)の範囲を-0.3≦(Y)≦0.8とすることにより、本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物は、過酷な成形条件下における成形品の表面外観の安定性、耐衝撃特性が優れ、塗装した成形品の表面の光沢性が優れた(色目変化が少ない)ものとなる。
ポリアミド中のイソフタル酸成分比率(x)、イソフタル酸末端基量、及び全カルボキシル末端基量の定量方法は、特に制限されないが、核磁気共鳴法(NMR)により求めることができる。具体的には^(1)H-NMRにより求めることができる。
【0024】
<アジピン酸、イソフタル酸以外の共重合成分>
本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドには、本実施形態の目的を損なわない範囲で、アジピン酸、イソフタル酸以外の、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、及びヘキサメチレンジアミン以外の主鎖から分岐した置換基を持つジアミン、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、重縮合可能なアミノ酸、ラクタム等を共重合成分として用いることができる。
【0025】
前記脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、及びジグリコール酸等の炭素数3?20の直鎖又は分岐状飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0026】
前記脂環族ジカルボン酸としては、例えば、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、及び1,3-シクロペンタンジカルボン酸等の、脂環構造の炭素数が3?10である、好ましくは炭素数が5?10である、脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。
脂環族ジカルボン酸は、無置換でも置換基を有していてもよい。
【0027】
前記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、及び5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の、無置換又は種々の置換基で置換された炭素数8?20の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
種々の置換基としては、例えば、炭素数1?6のアルキル基、炭素数6?12のアリール基、炭素数7?20のアリールアルキル基、クロロ基及びブロモ基等のハロゲン基、炭素数3?10のアルキルシリル基、並びにスルホン酸基及びナトリウム塩等のその塩である基等が挙げられる。
【0028】
前記ヘキサメチレンジアミン以外の主鎖から分岐した置換基を持つジアミンとしては、例えば、2-メチルペンタメチレンジアミン(2-メチル-1,5-ジアミノペンタンとも記される。)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルオクタメチレンジアミン、及び2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン等の炭素数3?20の分岐状飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0029】
前記脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、及びトリデカメチレンジアミン等の炭素数2?20の直鎖飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0030】
前記芳香族ジアミンとしては、例えば、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0031】
前記重縮合可能なアミノ酸としては、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等が挙げられる。
【0032】
前記ラクタムとしては、例えば、ブチルラクタム、ピバロラクタム、カプロラクタム、カプリルラクタム、エナントラクタム、ウンデカノラクタム、ドデカノラクタム等が挙げられる。
【0033】
上述したジカルボン酸成分、ジアミン成分、アミノ酸成分、及びラクタム成分は、それぞれ1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0034】
<末端封止剤>
本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミド及びその他の共重合成分を重合させたポリアミド共重合体の原料として、分子量調節や耐熱水性向上のために、末端封止剤を更に添加することができる。
例えば、ポリアミド、又は上述したポリアミド共重合体を重合する際に、公知の末端封止剤を更に添加することにより、重合量を制御することができる。
【0035】
前記末端封止剤としては、特に限定されないが、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、無水フタル酸等の酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、及びモノアルコール類等が挙げられる。
それらの中でもモノカルボン酸及びモノアミンが好ましい。
これらの末端封止剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
前記末端封止剤として用いられるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するモノカルボン酸であれば特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、及びイソブチル酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、及びフェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;等が挙げられる。
これらのモノカルボン酸は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
前記末端封止剤として用いられるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するモノアミンであれば特に限定されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン及びジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン及びジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン及びナフチルアミン等の芳香族モノアミン;等が挙げられる。
これらのモノアミンは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
((A)ポリアミドの製造方法)
本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドの製造方法としては、上述したようにその他の共重合成分を有するポリアミド共重合体である場合を含めて、前記全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が0.05≦(x)≦0.5であり、上記式(1)におけるブロック化比率の指標である(Y)が-0.3≦(Y)≦0.8、好ましくは0.05≦(Y)≦0.8となるようなポリアミド(又はポリアミド共重合体)が得られればよい。
ポリアミドの製造方法としては、例えば、アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(熱溶融重合法);熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(熱溶融重合・固相重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、析出したプレポリマーをさらにニーダー等の押出機で再び溶融させて重合度を上昇させる方法(プレポリマー・押出重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物、固体塩又は重縮合物を、固体状態を維持したまま重合(固相重合法)させる方法等が挙げられる。
全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)を上記数値範囲内に制御するための方法としては、原料の仕込み量の調整、重合条件の調整が有効である。
上記式(1)におけるブロック化比率の指標となる(Y)を上記数値範囲内に制御するためには、イソフタル酸成分のブロック化を制御することが必要である。具体的には、重合系内で、溶融状態を維持しながら、圧力を適宜調整し、重合温度を好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上としながら、均一混合下において重縮合反応を進め、最終重合内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるような条件下で重合させる熱溶融重合法を用いることにより制御することができる。
【0039】
重合形態としては、特に限定されず、バッチ式、連続式のいずれでもよい。
また、重合装置も特に限定されず、公知の装置、例えば、オートクレーブ型の反応器、タンブラー型反応器、ニーダー等の押出機型反応器等を用いることができる。
【0040】
上述したように、(Y)が-0.3≦(Y)≦0.8の範囲となるようにするには、熱溶融重合法によりポリアミドを製造することが好ましく、バッチ式の熱溶融重合法によりポリアミドを製造することがより好ましい。
バッチ式の熱溶融重合法の一例について以下に説明する。
重合温度条件については特に限定されないが、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上である。
例えば、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は水溶液を110?200℃の温度下で攪拌し、約60?90%まで水蒸気を徐々に抜いて加熱濃縮する。
その後、内部圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
その後、水及び/又はガス成分を除きながら、圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)に保ち、内部温度が好ましくは240℃以上、より好ましくは245℃以上に達した時点で、水及び/又はガス成分を除きながら圧力を徐々に抜き、最終内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるように、常圧で又は減圧して重縮合を行う。
さらには、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は重縮合物を融点以下の温度で熱重縮合させる固相重合法等も用いることができる。これらの方法は必要に応じて組み合わせてもよい。
【0041】
ニーダー等の押出型反応機を用いる場合、押出の条件は、減圧度は0?0.07MPa程度が好ましい。
押出温度は、JIS-K7121に準じた示差走査熱量(DSC)測定で求められる融点よりも1?100℃程度高い温度が好ましい。
剪断速度は、100(sec^(-1))以上程度であることが好ましく、平均滞留時間は0.1?15分程度が好ましい。
上記押出条件とすることにより、着色や高分子量化できない等の問題の発生を効果的に抑制できる。
【0042】
本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミド(ポリアミド共重合体を含む、以下同じ。)の製造においては、所定の触媒を用いることが好ましい。
触媒としては、ポリアミドに用いられる公知のものであれば特に限定されず、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、オルト亜リン酸、ピロ亜リン酸、フェニルホスフィン酸、フェニルホスホン酸、2-メトキシフェニルホスホン酸、2-(2’-ピリジル)エチルホスホン酸、及びそれらの金属塩等が挙げられる。
金属塩の金属としては、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモン等の金属塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
また、エチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステル等のリン酸エステル類も用いることができる。
【0043】
((A)ポリアミドの物性)
本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドは、蟻酸溶液粘度(JIS K 6816)が、好ましくは10?30である。
蟻酸溶液粘度が10以上であると、実用上十分な機械的特性を有する成形体が得られ、蟻酸溶液粘度が30以下であると、成形時の流動性が良好なものとなり、表面外観に優れた携帯電話電子機器部品が得られる。
【0044】
((B)ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材)
本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物は、上述した(A)ポリアミド100質量部と、(B)ガラス繊維及び/又は(C)前記(B)以外の無機充填材(以下、(B)成分、(C)無機充填材又は(C)成分と記載することもある。)1?300質量部と、を含む。
(B)成分及び/又は(C)成分を含むことにより、本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物は、剛性に優れたものとなる。
当該(B)ガラス繊維は、数平均繊維径が6μm以上20μm以下であることが好ましく、数平均繊維径が6μm以上17μm以下であることがより好ましく、6μm以上11μm以下であることがさらに好ましい。
前記(B)ガラス繊維としては、特に限定されるものではないが、長繊維タイプ、短繊維タイプ、異型断面タイプのものまで任意の形状のガラス繊維が使用可能である。
(B)ガラス繊維は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
前記(B)ガラス繊維の具体的な組成として、Eガラス組成、Cガラス組成、Sガラス組成、耐アルカリガラス組成等が挙げられる。
また、(B)ガラス繊維の引張強度は、任意であるが、290kg/mm^(2)以上であることが好ましい。
これらの中でも、Eガラスが、入手が容易である観点から好ましい。
【0046】
これら(B)ガラス繊維は、例えば、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤で表面処理されていることが好ましく、その付着量は(B)ガラス繊維重量(ガラス繊維と表面処理剤との合計量)に対し、0.01質量%以上であることが好ましい。
さらに、必要に応じ、集束剤により処理を施すこともできる。集束剤としては、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体、エポキシ化合物、ポリウレタン樹脂、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、並びにこれらの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩、並びにカルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体を含む共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
特に、ポリアミド樹脂組成物の機械的強度の観点から、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体、エポキシ化合物及びポリウレタン樹脂、並びにこれらの組み合わせが好ましく、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と前記カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体及びポリウレタン樹脂、並びにこれらの組み合わせがより好ましい。
【0047】
当該(C)無機充填材としては、タルク、マイカ、カオリン、シリカ、ワラストナイト、アルミフレーク及びアルミ粉からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
前記(C)無機充填材としては、目的に応じて、繊維状、粉粒状、板状の無機フィラーが選ばれる。
繊維状の無機フィラーとしては、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、シリカ繊維、窒化ホウ素繊維、炭素繊維等の無機質繊維状物質(ガラス繊維を除く)が挙げられる。
繊維状の無機フィラーの重量平均繊維長(L)、数平均繊維径(D)、アスペクト比(L/D)については特に限定されないが、機械的特性の点から、重量平均繊維長(L)が50μm以上、数平均繊維径(D)は5μm以上、アスペクト比は10以上であることが好ましい。中でも、ワラストナイトは、数平均繊維径(D)が3?30μm、重量平均繊維長(L)が10?500μm、アスペクト比が3?100のものが好ましく用いられる。
粉粒状の無機フィラーとしては、カオリン、シリカや、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナのごとき金属酸化物、その他アルミ粉のごとき各種金属粉末が挙げられる。
また、板状の無機フィラーとしては、タルク、マイカや、アルミフレークのごとき各種金属箔が挙げられる。
(C)無機充填材としては、本実施形態の携帯電子機器部品の表面外観と機械的強度の点から、タルク、マイカ、カオリン、シリカ、ワラストナイト、アルミフレーク又はアルミ粉が好ましく、カオリン、ワラストナイトが特に好ましい。
【0048】
前記(B)ガラス繊維及び/又は(C)無機充填材の含有量は、上述した(A)ポリアミド100質量部に対して、1?300質量部であり、好ましくは1?200質量部であり、より好ましくは1?180質量部であり、さらに好ましくは5?150質量部である。
(B)ガラス繊維及び/又は(C)無機充填材の含有量を、(A)ポリアミド100質量部に対して1質量部以上とすることにより、本実施形態の携帯電子機器部品の機械的強度等が向上し、また、300質量部以下とすることにより、表面外観に優れる携帯電子機器部品が得られる。
【0049】
上述した(B)ガラス繊維及び/又は(C)無機充填材の数平均繊維径(D)及び重量平均繊維長(L)は、以下のようにして顕微鏡法により測定及び算出することができる。
例えば、ペレット状のガラス繊維を含有するポリアミド樹脂組成物を、当該ポリアミド樹脂組成物の分解温度以上で加熱し、残ったガラス繊維を、顕微鏡を用いて写真撮影し、ガラス繊維の径を計測する。
顕微鏡法によって得られた測定値から、数平均繊維径(D)及び重量平均繊維長(L)を計算する方法としては、下記式(I)、式(II)が挙げられる。
数平均繊維径(D)=ガラス繊維の径の合計/ガラス繊維の数 ・・・(I)
重量平均繊維長(L)=ガラス繊維の長さの2乗和/ガラス繊維の長さの合計・・・(II)
なお、数平均繊維径(D)及び重量平均繊維長(L)は、例えば、本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物を電気炉に入れて、含まれる有機物を焼却処理し、残渣分から、例えば100本以上のガラス繊維を任意に選択し、SEMで観察して繊維径を測定することにより数平均繊維径を測定でき、倍率1000倍でのSEM写真を用いて繊維長を計測することにより重量平均繊維長を求めることができる。
【0050】
(劣化抑制剤)
本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本実施形態の目的を損なわない範囲で、熱劣化、熱時の変色防止、耐熱エージング性、及び耐候性の向上を目的に劣化抑制剤を添加してもよい。
劣化抑制剤としては、特に限定されないが、例えば、酢酸銅及びヨウ化銅等の銅化合物;ヒンダードフェノール化合物等のフェノール系安定剤;ホスファイト系安定剤;ヒンダードアミン系安定剤;トリアジン系安定剤;及びイオウ系安定剤等が挙げられる。
これらの劣化抑制剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0051】
(成形性改良剤)
本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本実施形態の目的を損なわない範囲で、成形性改良剤を添加してもよい。
成形性改良剤としては、特に限定されないが、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、及び高級脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0052】
前記高級脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、エルカ酸、オレイン酸、ラウリン酸、及びモンタン酸等の炭素数8?40の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐状の脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。
これらの中でも、ステアリン酸及びモンタン酸が好ましい。
【0053】
前記高級脂肪酸金属塩とは、前記高級脂肪酸の金属塩である。
金属塩の金属元素としては、元素周期律表の第1,2,3族元素、亜鉛、及びアルミニウム等が好ましく、カルシウム、ナトリウム、カリウム、及びマグネシウム等の、第1,2族元素、並びにアルミニウム等がより好ましい。
高級脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、及びパルミチン酸カルシウム等が挙げられる。
これらの中でも、モンタン酸の金属塩及びステアリン酸の金属塩が好ましい。
【0054】
前記高級脂肪酸エステルとは、前記高級脂肪酸とアルコールとのエステル化物である。
高級脂肪酸エステルとしては、炭素数8?40の脂肪族カルボン酸と炭素数8?40の脂肪族アルコールとのエステルが好ましい。
脂肪族アルコールとしては、例えば、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、及びラウリルアルコール等が挙げられる。
高級脂肪酸エステルとしては、例えば、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル等が挙げられる。
【0055】
前記高級脂肪酸アミドとは、前記高級脂肪酸のアミド化合物である。
高級脂肪酸アミドとしては、例えば、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスオレイルアミド、N-ステアリルステアリルアミド、N-ステアリルエルカ酸アミド等が挙げられる。
高級脂肪酸アミドとしては、好ましくは、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、及びN-ステアリルエルカ酸アミドであり、より好ましくはエチレンビスステアリルアミド及びN-ステアリルエルカ酸アミドである。
【0056】
これらの高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、及び高級脂肪酸アミドは、それぞれ1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0057】
(着色剤)
本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本実施形態の目的を損なわない範囲で、着色剤を添加してもよい。
着色剤としては、特に限定されないが、例えば、ニグロシン等の染料、酸化チタン及びカーボンブラック等の顔料;アルミニウム、着色アルミニウム、ニッケル、スズ、銅、金、銀、白金、酸化鉄、ステンレス、及びチタン等の金属粒子;マイカ製パール顔料、カラーグラファイト、カラーガラス繊維、及びカラーガラスフレーク等のメタリック顔料等が挙げられる。
【0058】
(その他の樹脂)
本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本実施形態の目的を損なわない範囲で、他の樹脂を添加してもよい。
このような樹脂としては、特に限定されるものではないが、後述する熱可塑性樹脂やゴム成分等が挙げられる。
【0059】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、アタクチックポリスチレン、アイソタクチックポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ナイロン6、66、612等の他のポリアミド(本実施形態のポリアミド以外のポリアミド);ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のポリエーテル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン等の縮合系樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の含ハロゲンビニル化合物系樹脂;フェノール樹脂;エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0060】
前記ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ネオプレン、ポリスルフィドゴム、チオコールゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SEB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIR)、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンランダム共重合体、水素添加スチレン-ブタジエンランダム共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンランダム共重合体、スチレン-エチレン-ブチレンランダム共重合体、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-(1-ブテン)共重合体、エチレン-(1-ヘキセン)共重合体、エチレン-(1-オクテン)共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)や、ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン-コアシェルゴム(ABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(MBS)、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-スチレン-コアシェルゴム(MAS)、オクチルアクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(MABS)、アルキルアクリレート-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレンコアシェルゴム(AABS)、ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(SBR)、メチルメタクリレート-ブチルアクリレートシロキサンをはじめとするシロキサン含有コアシェルゴム等のコアシェルタイプ等が挙げられる。
これらのゴム成分は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0061】
〔携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物は、(A)ポリアミドに、上述した(B):ガラス繊維及び/又は(C)無機充填材、必要に応じて劣化抑制剤、成形性改良剤、着色剤、その他の樹脂を配合することにより製造できる。
配合方法としては、公知の押出技術を用いることができる。
例えば、溶融混練温度は、樹脂温度にして250?350℃程度が好ましい。溶融混練時間は、1?30分程度が好ましい。
また、本実施形態に用いるポリアミド樹脂組成物を構成する成分を溶融混練機に供給する方法は、すべての構成成分を同一の供給口に一度に供給してもよいし、構成成分をそれぞれ異なる供給口から供給してもよい。
具体的には、混合方法は、例えば、ポリアミドと無機充填材とをヘンシェルミキサー等を用いて混合し、溶融混練機に供給し、混練する方法や、減圧装置を備えた単軸又は2軸押出機で溶融状態にしたポリアミドに、サイドフィダーから無機充填材を配合する方法等が挙げられる。
【0062】
〔携帯電子機器部品〕
本実施形態の携帯電子機器部品は、上述した本実施形態の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物を用いて成形したものである。
成形方法については、特に限定されず、公知の成形方法を用いることができる。
例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、及び金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の成形方法が挙げられる。
【0063】
〔携帯電子機器部品の用途〕
本実施形態の携帯電子機器部品は、過酷な成形条件下における表面外観の安定性、耐衝撃特性に優れるため、様々な携帯電子機器部品、すなわち携帯電子機器の内部構造物、及び筐体等に好適に用いることができる。
例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレット型パーソナルコンピューター、モバイルパーソナルコンピューター、携帯ゲーム機器、電子書籍端末、ポータブルナビゲーションデバイス、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯ミュージックプレーヤー等の内部構造物、及び筐体等に、より好適に用いることができる。
更に、本実施形態の携帯電子機器部品は、無塗装でもかなりの高外観が得られるが、更に機能付与や意匠性を付与するために、塗装やメッキを行ってもよい。薄肉塗装やメッキなどでは下地の形状がより外観に影響することから、本実施形態の携帯電子機器部品の特徴である高光沢面が得られ易い。
【実施例】
【0064】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
先ず、ポリアミドの構成要素、物性の測定方法、及び特性の評価方法を下記に示す。
〔測定方法〕
<ポリアミドのイソフタル酸成分比率、イソフタル酸末端基、及び全カルボキシル末端基の定量>
ポリアミドを用いて、^(1)H-NMRにより求めた。
溶媒として重硫酸を用いた。
装置は日本電子製、「ECA400型」を用いた。
繰返時間は12秒、積算回数は64回で測定した。
各成分の特性シグナルの積分値より、イソフタル酸成分量、イソフタル酸末端基量、その他のカルボキシ末端基(例えばアジピン酸末端基)量を算出し、これらの値から、全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、及び上記式(1)のパラメータ(Y)をさらに算出した。
【0066】
<蟻酸溶液粘度>
ポリアミドを蟻酸に溶解し、JIS K6810に準じて測定した。
【0067】
<ハイサイクル成形時の成形品の外観安定性/グロス値の評価>
装置は日精樹脂(株)製、「FN3000」を用いた。
シリンダー温度を320℃、金型温度を70℃に設定し、射出17秒、冷却20秒の射出成形条件で、ポリアミド樹脂組成物を用いて100ショットまで成形を行い、ISO試験片を得た。
得られた成形品(ISO試験片)の外観安定性は、堀場(株)製、ハンディ光沢度計「IG320」を用いてグロス値を測定し、下記方法により求めた。
外観安定性=((1):20?30ショットISO試験片のグロス平均値)-((2):90?100ショットISO試験片のグロス平均値)
上記の数値差が小さいほど、成形品の外観安定性に優れるものと判断した。
なお表1、2中、「(1)-(2)」とは、上記外観安定性の式により算出されるグロス値を示す。
【0068】
<衝撃特性 シャルピー衝撃強さの測定>
装置は日精樹脂(株)製、「FN3000」を用いた。
シリンダー温度を320℃、金型温度を70℃に設定し、射出17秒、冷却20秒の射出成形条件で、ポリアミド樹脂組成物を用いて100ショットまで成形を行い、ISO試験片を得た。
得られたISO試験片20?25ショットISO試験片を用いて、ISO 179に準じてシャルピー衝撃強さ測定した。
測定値はn=6の平均値とした。
【0069】
<成形品表面の色目(光沢)変化評価>
色目(光沢)変化評価用の成形品(ISO試験片)は、射出成形機を用いて作製した。
射出成形機は日精樹脂(株)製、「PS40E」を用いた。
シリンダー温度を290℃、金型温度を100℃に設定し、冷却20秒で固定し、射出時間を変化させて(条件1=2秒、条件2=8秒)、ポリアミド樹脂組成物を成形して、厚み4mmの成形品(ISO試験片)を得た。
色目(光沢)変化評価用のISO試験片としては、成形開始から20ショット以降の10枚の成形品(ISO試験片)を用いた。
(1)塗料として、アクリルウレタン塗料(藤倉化成株式会社製、レクラック440H)、メラミンアルキド塗料(関西ペイント株式会社製、アミラック7002ホワイト)、アクリルメラミン塗料(日本油脂株式会社製、ベルコートNO.5700シルバーメタリック)を専用シンナーで希釈して、使用した。
(2)上述の10枚の成形品(ISO試験片)に、アクリルウレタン塗料をエアスプレー塗装し、室温で10分間放置後、80℃で30分加熱硬化し塗装物を得た。また、該塗装物に、メラミンアルキド塗料及びアクリルメラミン塗料を、順次重ねてエアスプレー塗装し室温で10分間放置後、140℃で30分加熱硬化し塗装物を得た。得られた塗装物の塗膜厚みは20μmであった。
(斜め45度の角度での色目変化)
上記塗装済み成形品(ISO試験片)の主面に対して、室外で直射日光が観察者の背後から直角に入射する条件で、その成形品(ISO試験片)に直射日光を照射した場合と、その状態から成形品(ISO試験片)の上部を観察者側に倒して、直射日光の入射角度を成形品(ISO試験片)の主面に対して45度とした場合との間で、色目(光沢)の変化を観察した。判定の基準は下記の通りとした。
○:色目の変化が全く認められない。
△:色目の変化が僅かに認められる。
×:色目の変化が明らかに認められる。
【0070】
〔(A)ポリアミド〕
<製造例1:ポリアミド(A1)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1237g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩263g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を、内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が245℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で650torrの減圧下に10分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0071】
<製造例2:ポリアミド(A2)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1132g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩368gを用いた。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0072】
<製造例3:ポリアミド(A3)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1044g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩456gを用いた。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0073】
<製造例4:ポリアミド(A4)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩816g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩684gを用いた。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0074】
<製造例5:ポリアミド(A5)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1237g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩263gを用いた。全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を添加しなかった。
その他の条件は、製造例1の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0075】
<製造例6:ポリアミド(A6)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1044g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩456gを用いた。全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を添加しなかった。
その他の条件は、製造例1の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0076】
<製造例7:ポリアミド(A7)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1114g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩386g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が245℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で400torrの減圧下に10分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0077】
<製造例8:ポリアミド(A8)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1114g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩368g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が245℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で650torrの減圧下に20分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は270℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0078】
<製造例9:ポリアミド(A9)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1109g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩368g、εカプロラクタム5g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が245℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で650torrの減圧下に10分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0079】
<製造例10:ポリアミド(A10)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1500g、全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が260℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で650torrの減圧下に10分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は290℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0080】
<製造例11:ポリアミド(A11)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1455g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩45gを用いた。
その他の条件は、製造例10と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0081】
<製造例12:ポリアミド(A12)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1237g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩263g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が260℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次にバルブを閉止し、ヒーターを切り、約8時間かけてオートクレーブの内部温度を常温まで冷却し、蟻酸溶液粘度7のポリアミドを得た。
得られたポリアミドを粉砕した後、内容積10Lのエバポレーターに入れ、窒素気流下、200℃で10時間固相重合した。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0082】
<製造例13:ポリアミド(A13)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩816g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩684gを用いた。
その他の条件は、製造例12と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0083】
<製造例14:ポリアミド(A14)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1220g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩280g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を、内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま2時間、オートクレーブの内部温度が260℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、次にバルブを閉止し、ヒーターを切り、約8時間かけてオートクレーブの内部温度を常温まで冷却し、ポリアミドを得た。得られたポリアミドを粉砕した後、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0084】
<製造例15:ポリアミド(A15)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩570g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩930gを用いた。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0085】
<製造例16:ポリアミド(A16)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩570g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩930gを用いた。
全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を添加しなかった。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0086】
<製造例17:ポリアミド(A17)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1237g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩263g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が260℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次にバルブを閉止し、ヒーターを切り、約8時間かけてオートクレーブの内部温度を常温まで冷却し、蟻酸溶液粘度7のポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0087】
〔(B):ガラス繊維〕
(B1)ガラス繊維:日本電気硝子製 商品名 ECS03T275H
平均繊維径(平均粒径)10μm(真円状)、カット長3mm
【0088】
〔(C):(B)ガラス繊維以外の無機充填材〕
(C1)ウォラストナイト NYCO製 商品名 NYAD400
平均繊維径(平均粒径)7.0μm 平均繊維長35μm
(C2)ウォラストナイト NYCO製 商品名 NYAD5000
平均繊維径(平均粒径)2.2μm 平均繊維長7.2μm
(C3)マイカ 山口雲母工業所(株)製 商品名 A-21
平均粒径22μm
(C4)タルク 富士タルク工業(株)製 商品名 PKP-80
平均粒径14μm
(C5)カオリン 林化成(株)製 商品名 TRANSLINK445 平均粒径1.5μm
【0089】
〔実施例1〕
製造例1で作製したポリアミド(A1)67質量部を、東芝機械社製、TEM35mm 2軸押出機(設定温度:290℃、スクリュー回転数300rpm)にフィードホッパーより供給した。
さらに、サイドフィード口より、前記ポリアミド67質量部に対して、ガラス繊維(B1)を33質量部の割合で供給し、溶融混練を行った。紡口より押出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズしてペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。
また、得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、上記記載の方法によりISO試験片を製造し、ハイサイクル成形時の外観安定性、衝撃特性、成形品表面の色目(光沢)変化の評価を行った。評価結果を下記表1に示す。
【0090】
〔実施例2〕
ポリアミド(A1)を50質量部、ガラス繊維(B1)を50質量部とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリアミド樹脂組成物を得た。
また、得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、上記記載の方法により成形品を製造し、ハイサイクル成形時の外観安定性、衝撃特性、成形品表面の色目(光沢)変化の評価を行った。評価結果を下記表1に示す。
【0091】
〔実施例3〕
製造例1で作製したポリアミド(A1)40質量部を、東芝機械社製、TEM35mm 2軸押出機(設定温度:290℃、スクリュー回転数300rpm)にトップフィード口より供給した。
さらに、サイドフィード口を2箇所設け、押出機上流側(トップフィード口より供給された樹脂が十分溶融している状態)のサイドフィード口1より、(B):ガラス繊維を下記表1に示す種類及び質量部に従って供給した。
押出機下流側(トップフィード口より供給された樹脂が十分溶融している状態)のサイドフィード口2より、(C):無機充填材を下記表1に示す種類及び質量部に従って供給した。
紡口より押出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズしてペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。
また、得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、上記記載の方法により成形品を製造し、ハイサイクル成形時の外観安定性、衝撃特性、成形品表面の色目(光沢)変化の評価を行った。評価結果を下記表1に示す。
【0092】
〔実施例4?16〕
上述した製造例2?9の各ポリアミドを用いた。
さらには、ポリアミド(A)に対して供給する(B1)ガラス繊維の供給量、(C):無機充填材の種類及び供給量を、下記表1に示す種類及び質量部に変更した。
また、得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、上記記載の方法により成形品を製造し、ハイサイクル成形時の外観安定性、衝撃特性、成形品表面の色目(光沢)変化の評価を行った。評価結果を下記表1に示す。
【0093】
〔比較例1〕
ポリアミド(A12)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりポリアミド樹脂組成物を得た。
また、得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、上記記載の方法により成形品を製造し、ハイサイクル成形時の外観安定性、衝撃特性、成形品表面の色目(光沢)変化の評価を行った。評価結果を下記表2に示す。
【0094】
〔比較例2?8〕
上述した製造例10?16の各ポリアミドを用いた以外は実施例3と同様の方法によりポリアミド樹脂組成物を得た。
また、得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、上記記載の方法により成形品を製造し、ハイサイクル成形時の外観安定性、衝撃特性、成形品表面の色目(光沢)変化の評価を行った。評価結果を下記表2に示す。
【0095】
〔比較例9〕
ポリアミド(A17)を用いた以外は、実施例3と同様の方法によりポリアミド樹脂組成物を得た。
しかしながら溶融粘度が低いため、押出加工性が悪く、成形品を得ることができなかった。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
前記表1に示すように、実施例1?16により作製したポリアミド樹脂組成物を用いて成形した成形品は、いずれも極めて優れた外観安定性、衝撃特性、塗装面の光沢性を有することが確認された。
一方、(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8の範囲外である比較例1、4、5、6のポリアミド樹脂組成物の成形品、及び(x)が0.05≦(x)≦0.5の範囲外である比較例2、3、7、8のポリアミド樹脂組成物の成形品は、表面外観の安定性が大きく低下したことが確認された。
なお、比較例9では成形品を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物を用いて成形した携帯電子機器部品は、様々な携帯電子機器部品用途に用いることができる。例えば携帯電話、スマートフォン、タブレット型パーソナルコンピューター、モバイルパーソナルコンピューター、携帯ゲーム機器、電子書籍端末、ポータブルナビゲーションデバイス、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯ミュージックプレーヤー等の内部構造物、及び筐体等として、産業上の利用可能性がある。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
削除
【請求項2】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミドを100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材を1?300質量部と、
を、含有する携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)。
【請求項3】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8であるポリアミドを100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ガラス繊維及び/又は(C):前記(B)以外の無機充填材を1?300質量部と、
を、含有し、
前記(B)ガラス繊維は、数平均繊維径が6μm以上20μm以下である、携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、(b-1)カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の官能基を有する変性ビニル系共重合樹脂、および/または(b-2)酸変性したポリフェニレンエーテル樹脂を含むものを除く。)。
【請求項4】
前記(C):前記(B)以外の無機充填材が、タルク、マイカ、カオリン、シリカ、ワラストナイト、アルミフレーク及びアルミ粉からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2又は3に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
前記(A)ポリアミド、前記(B)ガラス繊維、及び前記(C):前記(B)以外の無機充填材の合計100質量部に対する(A)ポリアミドの割合が40?67質量部である、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか一項に記載の携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-13 
出願番号 特願2011-270619(P2011-270619)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 857- YAA (C08L)
P 1 651・ 851- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 853- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡辺 陽子  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 小野寺 務
渕野 留香
登録日 2016-08-05 
登録番号 特許第5979861号(P5979861)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 携帯電子機器部品用ポリアミド樹脂組成物及び当該ポリアミド樹脂組成物を含む携帯電子機器部品  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 江口 昭彦  
代理人 内藤 和彦  
代理人 秋山 祐子  
代理人 秋山 祐子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ