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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A41G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A41G
管理番号 1335109
異議申立番号 異議2016-700924  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-27 
確定日 2017-10-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5978306号発明「人工毛髪及びそれを用いたかつら」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5978306号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5978306号の請求項4ないし5に係る特許を維持する。 特許第5978306号の請求項1?3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5978306号の請求項1-5に係る特許についての出願は、平成24年8月31日に国際出願され、平成28年7月29日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、異議申立人増成とみ江により特許異議の申立てがされ、平成29年6月26日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年9月1日に意見書の提出及び訂正の請求があったものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記ポリエステルモノフィラメントは、前記減量処理後の芯部の断面積S1と鞘部の断面積S2との比である断面積比S1/S2が、10/90?40/60であることを特徴とする請求項2又は3記載の人工毛髪。」
と記載されているのを、
「芯部と該芯部を覆う鞘部とからなる芯鞘構造を有し、
前記芯部がポリブチレンテレフタレート樹脂又はポリトリメチレンテレフタレート樹脂からなり、前記鞘部がポリエチレンテレフタレート樹脂からなるポリエステルモノフィラメントから構成され、
前記ポリエステルモノフィラメントは、アルカリ溶液を用いた減量処理によって、その表面に微細な凹凸部が形成され、前記減量処理による重量減少率が30?50%であり、
更に、前記ポリエステルモノフィラメントは、前記減量処理後の芯部の断面積S1と鞘部の断面積S2との比である断面積比S1/S2が、10/90?40/60であることを特徴とする人工毛髪。」
に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「かつらベースと、該かつらベースに植設される人工毛髪とからなるかつらであって、前記人工毛髪は、請求項1乃至4記載のいずれかの人工毛髪であることを特徴とするかつら。」
と記載されているのを、
「かつらベースと、該かつらベースに植設される人工毛髪とからなるかつらであって、
前記人工毛髪は、請求項4記載の人工毛髪であることを特徴とするかつら。」
に訂正する。

カ 訂正事項6
明細書の段落[0019]に、
「更に、前記ポリエステルモノフィラメントは、アルカリ溶液を用いた減量処理によって、その表面に微細な凹凸部が形成されていることが好ましく、その重量減少率は、30?50%であることが好ましい。」
と記載されているのを、
「更に、前記ポリエステルモノフィラメントは、アルカリ溶液を用いた減量処理によって、その表面に微細な凹凸部が形成されており、その重量減少率は、30?50%である。」
に訂正する。

キ 訂正事項7
明細書の段落[0020]に、
「また、前記ポリエステルモノフィラメントは、アルカリ溶液を用いた減量処理後の芯部の断面積S1と鞘部の断面積S2との比である断面積比S1/S2が、10/90?40/60であることが好ましい。」
と記載されているのを、
「また、前記ポリエステルモノフィラメントは、アルカリ溶液を用いた減量処理後の芯部の断面積S1と鞘部の断面積S2との比である断面積比S1/S2が、10/90?40/60である。」
に訂正する。

ク 訂正事項8
明細書の段落[0053]に、
「(実施例1-1?実施例1-4)
鞘成分としてのPET樹脂は、ユニチカ株式会社製MA-2103(固有粘度0.68)を使用した。また、艶消し剤として東ソー・シリカ株式会社製のシリカを5%含むマスターバッチをPET樹脂95重量部に対して5重量部配合した。芯成分として、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製のノバデュラン5010L(固有粘度1.0)(PBT樹脂)を使用した。鞘部のエクストルータ温度を285℃、芯部のエクストルーダ温度を270℃として、PET樹脂及びPBT樹脂を溶融し、これらの吐出量を、芯/鞘重量比がそれぞれ5/95(実施例1-1)、10/90(実施例1-2)、20/80(実施例1-3)、30/70(実施例1-4)となるように調節して、ホール数60個の芯鞘型複合繊維用紡糸口金から冷却槽中に紡出し、ついで、90℃の熱水中で4倍に延伸した後、200℃の熱風槽中で熱セットし、しかる後、油剤を付与した上でボビンに巻き取り、繊度が89dtexの芯鞘型ポリエステルモノフィラメントを得た。」
と記載されているのを、
「(実施例1-1,実施例1-2,比較例A及び比較例B)
鞘成分としてのPET樹脂は、ユニチカ株式会社製MA-2103(固有粘度0.68)を使用した。また、艶消し剤として東ソー・シリカ株式会社製のシリカを5%含むマスターバッチをPET樹脂95重量部に対して5重量部配合した。芯成分として、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製のノバデュラン5010L(固有粘度1.0)(PBT樹脂)を使用した。鞘部のエクストルータ温度を285℃、芯部のエクストルーダ温度を270℃として、PET樹脂及びPBT樹脂を溶融し、これらの吐出量を、芯/鞘重量比がそれぞれ5/95(比較例A)、10/90(実施例1-1)、20/80(実施例1-2)、30/70(比較例B)となるように調節して、ホール数60個の芯鞘型複合繊維用紡糸口金から冷却槽中に紡出し、ついで、90℃の熱水中で4倍に延伸した後、200℃の熱風槽中で熱セットし、しかる後、油剤を付与した上でボビンに巻き取り、繊度が89dtexの芯鞘型ポリエステルモノフィラメントを得た。」
に訂正する。

ケ 訂正事項9
明細書の段落[0056]に、
「(実施例1-5?実施例1-8)
芯成分として、旭化成ケミカルズ株式会社製のPTT樹脂結晶化品(固有粘度1.0)(PTT樹脂)を使用した他は、上記実施例1-1?実施例1-4と同様にして、芯/鞘重量比を5/95とした実施例1-5、同重量比を10/90とした実施例1-6、同重量比を20/80とした実施例1-7、同重量比を30/70とした実施例1-8を得た。そして、これら実施例1-5?実施例1-8に対して、上記と同様の減量処理、染色処理、還元洗浄処理、油剤付与、乾燥、切断、櫛通しの各工程を実施した。」
と記載されているのを、
「(実施例1-3,実施例1-4,比較例C及び比較例D)
芯成分として、旭化成ケミカルズ株式会社製のPTT樹脂結晶化品(固有粘度1.0)(PTT樹脂)を使用した他は、上記実施例1-1,実施例1-2,比較例A及び比較例Bと同様にして、芯/鞘重量比を5/95とした比較例C、同重量比を10/90とした実施例1-3、同重量比を20/80とした実施例1-4、同重量比を30/70とした比較例Dを得た。そして、これら実施例1-3,実施例1-4,比較例C及び比較例Dに対して、上記と同様の減量処理、染色処理、還元洗浄処理、油剤付与、乾燥、切断、櫛通しの各工程を実施した。」
に訂正する。

コ 訂正事項10
明細書の段落[0058]に、
「得られた実施例1-1?実施例1-8の人工毛髪の物性値、芯/鞘断面積比、カールセット性、縮れ性及び風合いを人毛との比較において評価した。その結果を表1及び表2に示す。」
と記載されているのを、
「得られた実施例1-1,実施例1-2,実施例1-3,実施例1-4、比較例A,比較例B,比較例C及び比較例Dの人工毛髪の物性値、芯/鞘断面積比、カールセット性、縮れ性及び風合いを人毛との比較において評価した。その結果を表1及び表2に示す。」
に訂正する。

サ 訂正事項11
明細書の段落[0059]の[表1]を

から

に訂正する。

シ 訂正事項12
明細書の段落[0060]の[表2]を、

から

に訂正する。

ス 訂正事項13
明細書の段落[0061]に、
「表1及び表2から見てとれるように、実施例1-2、実施例1-3、実施例1-6及び実施例1-7は、カールセット性、縮れ性及び風合いの全てが人毛(表4の比較例4)と同等であり、非常に良い結果を示し、満足できる品質であった。これに対して、実施例1-1及び実施例1-5はカールセット性が人毛と同等であったが、縮れ性及び風合いが人毛と比較して若干劣り、実施例1-4及び実施例1-8は縮れ性が人毛と同等であったが、カールセット性及び風合いが人毛と比較して若干劣っていた。このことから、人毛と同等のカールセット性、縮れ性及び風合いを得るには、芯/鞘断面積比(S1/S2)が10/90?40/60であることが好ましく、この比率が10/90未満の場合には、縮れ性及び風合いが人毛と比較して劣ったものとなり、この比率が40/60を超えた場合には、カールセット性及び風合いが人毛と比較して劣ったものとなることが分かる。」
と記載されているのを、
「表1及び表2から見てとれるように、実施例1-1、実施例1-2、実施例1-3及び実施例1-4は、カールセット性、縮れ性及び風合いの全てが人毛(表4の比較例4)と同等であり、非常に良い結果を示し、満足できる品質であった。これに対して、比較例A及び比較例Cはカールセット性が人毛と同等であったが、縮れ性及び風合いが人毛と比較して若干劣り、比較例B及び比較例Dは縮れ性が人毛と同等であったが、カールセット性及び風合いが人毛と比較して若干劣っていた。このことから、人毛と同等のカールセット性、縮れ性及び風合いを得るには、芯/鞘断面積比(S1/S2)が10/90?40/60であることが好ましく、この比率が10/90未満の場合には、縮れ性及び風合いが人毛と比較して劣ったものとなり、この比率が40/60を超えた場合には、カールセット性及び風合いが人毛と比較して劣ったものとなることが分かる。」
に訂正する。

セ 訂正事項14
明細書の段落[0062]に、
「(実施例2-1及び実施例2-2)
アルカリ水溶液を用いた減量率が25%となるように減量処理を施した以外は、実施例1-2及び実施例1-6に準じて各処理を施し、繊度67dtexの黒色人工毛髪である実施例2-1及び実施例2-2を得た。」
と記載されているのを、
「(比較例E及び比較例F)
アルカリ水溶液を用いた減量率が25%となるように減量処理を施した以外は、実施例1-1及び実施例1-3に準じて各処理を施し、繊度67dtexの黒色人工毛髪である比較例E及び比較例Fを得た。」に訂正する。

ソ 訂正事項15
明細書の段落[0064]の[表3]を、

から

に訂正する。

タ 訂正事項16
明細書の段落[0065]に、
「表3から分かるように、実施例2-1及び実施例2-2の人工毛髪は、いずれもカールセット性は人毛と同等であったが、縮れ性が若干劣っていた。」
と記載されているのを、
「表3から分かるように、比較例E及び比較例Fの人工毛髪は、いずれもカールセット性は人毛と同等であったが、縮れ性が若干劣っていた。」
に訂正する。

チ 訂正事項17
明細書の段落[0077]に、
「更に、実施例1-1?実施例1-4の結果と比較例5-1?比較例5-3の結果から、PBT樹脂を芯部とし、PET樹脂を鞘部とした芯鞘構造にすることによって、PBT樹脂とPET樹脂とを単に混合するよりも、優れた性質を示すようになることが分かる。」
と記載されているのを、
「更に、実施例1-1,実施例1-2,比較例A及び比較例Bの結果と比較例5-1?比較例5-3の結果から、PBT樹脂を芯部とし、PET樹脂を鞘部とした芯鞘構造にすることによって、PBT樹脂とPET樹脂とを単に混合するよりも、優れた性質を示すようになることが分かる。」
に訂正する。

ツ 訂正事項18
明細書の段落[0080]に、
「(実施例3-1?実施例3-6及び比較例6?比較例8)
実施例1-2、実施例1-3、実施例2-1、実施例1-6、実施例1-7、実施例2-2、比較例1及び比較例2の人工毛髪、並びに比較例4の人毛を、かつらベースにそれぞれ植設して実施例3-1?実施例3-6及び比較例6?比較例8のかつらを得た。尚、かつらベースには、ナイロンモノフィラメントをネット状に編成したものを用いた。」
と記載されているのを、
「(実施例3-1,実施例3-2,実施例3-3,実施例3-4,比較例G,比較例H及び比較例6?比較例8)
実施例1-1、実施例1-2、実施例1-3、実施例1-4、比較例E、比較例F、比較例1及び比較例2の人工毛髪、並びに比較例4の人毛を、かつらベースにそれぞれ植設して実施例3-1,実施例3-2,実施例3-3,実施例3-4,比較例G,比較例H及び比較例6?比較例8のかつらを得た。尚、かつらベースには、ナイロンモノフィラメントをネット状に編成したものを用いた。」
に訂正する。

テ 訂正事項19
明細書の段落[0082]の[表6]を、

から

に訂正する。

ト 訂正事項20
明細書の段落[0084]に、
「表6及び表7から見てとれるように、実施例3-1、実施例3-2、実施例3-4及び実施例3-5のかつらは、全ての評価項目について非常に良好な結果が得られ、特に、スチーマー、洗浄後のスタイル維持力及びスタイルのし易さについては、人毛を超える結果を示した。実施例3-3及び実施例3-6のかつらは、光沢の自然さ、手触り及び縮れ性については、人毛と比較して若干劣ってはいたものの、スチーマー、洗浄後のスタイル維持力及びスタイルのし易さについては、人毛を超える結果を示した。また、比較例6のかつらは、縮れ性が人毛と比較して極端に劣っており、比較例7のかつらは、光沢の自然さが人毛と比較して若干劣り、カールアイロン及びドライヤーについては人毛と比較して極端に劣っていた。」
と記載されているのを、
「表6及び表7から見てとれるように、実施例3-1、実施例3-2、実施例3-3及び実施例3-4のかつらは、全ての評価項目について非常に良好な結果が得られ、特に、スチーマー、洗浄後のスタイル維持力及びスタイルのし易さについては、人毛を超える結果を示した。比較例G及び比較例Hのかつらは、光沢の自然さ、手触り及び縮れ性については、人毛と比較して若干劣ってはいたものの、スチーマー、洗浄後のスタイル維持力及びスタイルのし易さについては、人毛を超える結果を示した。また、比較例6のかつらは、縮れ性が人毛と比較して極端に劣っており、比較例7のかつらは、光沢の自然さが人毛と比較して若干劣り、カールアイロン及びドライヤーについては人毛と比較して極端に劣っていた。」
に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項
上記(1)アの訂正事項1は、請求項1?3を引用する請求項4を、独立請求項とするものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

上記(1)イ?エの訂正事項2?4は、請求項1?3を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

上記(1)オの訂正事項5は、上記訂正事項2?4に係る請求項1?3の削除に対応して、請求項1乃至4記載のいずれかを引用する請求項5を、請求項4を引用する請求項5とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

上記(1)カ?トの訂正事項6?20は、上記訂正事項1?5に係る特許請求の範囲の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載内容と発明の詳細な説明の記載内容とを整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

そして、本件訂正前の請求項2?5は請求項1を直接あるいは間接に引用する請求項であるから、請求項1?5は一群の請求項であるところ、これらの訂正は、一群の請求項1?5に対し請求されたものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項4及び5に係る発明(以下「本件発明4及び5」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項4及び5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

本件発明4「芯部と該芯部を覆う鞘部とからなる芯鞘構造を有し、
前記芯部がポリブチレンテレフタレート樹脂又はポリトリメチレンテレフタレート樹脂からなり、前記鞘部がポリエチレンテレフタレート樹脂からなるポリエステルモノフィラメントから構成され、
前記ポリエステルモノフィラメントは、アルカリ溶液を用いた減量処理によって、その表面に微細な凹凸部が形成され、前記減量処理による重量減少率が30?50%であり、
更に、前記ポリエステルモノフィラメントは、前記減量処理後の芯部の断面積S1と鞘部の断面積S2との比である断面積比S1/S2が、10/90?40/60であることを特徴とする人工毛髪。」

本件発明5「かつらベースと、該かつらベースに植設される人工毛髪とからなるかつらであって、
前記人工毛髪は、請求項4記載の人工毛髪であることを特徴とするかつら。」

(2)取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、上記平成29年6月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。以下、本件訂正前の請求項に係る発明を、「本件特許発明1」等という。

ア 取消理由1
本件特許発明1、5は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

イ 取消理由2
本件特許発明1?5は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、あるいは、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(3)甲号証の記載
甲第1号証:特開平3-113014号公報
甲第2号証:特開2001-123328号公報
甲第3号証:特開2007-303014号公報
甲第4号証:特開2012-12738号公報

甲第1?4号証のいずれにも、本件発明4及び5のポリエステルモノフィラメントが、「減量処理後の芯部の断面積S1と鞘部の断面積S2との比である断面積比S1/S2が、10/90?40/60である」点は記載されていない。

(4)判断
(ア)取消理由1について
上記(3)のとおり、甲第1号証または甲第2号証には、本件発明5のポリエステルモノフィラメントが、「減量処理後の芯部の断面積S1と鞘部の断面積S2との比である断面積比S1/S2が、10/90?40/60である」点は記載されておらず、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明は、本件発明5と同一でない。
よって、本件発明5は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明でなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものでない。
したがって、本件発明5に係る特許は、特許法第113条第2項に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。
(イ)取消理由2について
上記(3)のとおり、甲第1?4号証には、本件発明4、5のポリエステルモノフィラメントが、「減量処理後の芯部の断面積S1と鞘部の断面積S2との比である断面積比S1/S2が、10/90?40/60である」点は記載されておらず、本願出願前に周知の技術ということもできない。そして、本件発明4、5は、人毛と同等のカール性、縮れ性、及び、人毛に近い風合いを達成できるという格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明4、5は、甲第1?4号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでない。
したがって、本件発明4、5に係る特許は、特許法第113条第2項に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

(5)付記
申立人は、特許異議申立書において特許法第120条の5第5項に係る意見書の提出を希望しているが、同項ただし書によれば、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるときには、この限りではないとされている。
本件についてみると、本件訂正は、上記2(2)で述べたとおり、請求項を一部削除するものであって、実質的な内容の変更を伴うものでなく、本件特許異議の申立てについての実質的な判断に影響を与えるものでないから、上記特別の事情があるときに該当する。
よって、申立人に意見書を提出する機会を与えないものとする。

4. むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項4、5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項4、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

そして、請求項1?3に係る特許について、上記2.のとおり、請求項1?3に係る特許を削除する本件訂正請求による訂正が認められたので、請求項1?3に係る特許についての本件特許異議申立ては、その対象が存在しないものとなった。
したがって、請求項1?3に係る特許についての本件特許異議申立ては、不適法な特許異議申立てであって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によ
って却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
人工毛髪及びそれを用いたかつら
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルモノフィラメントからなる人工毛髪、更に詳しくは、芯鞘構造を有するポリエステルモノフィラメントからなる人工毛髪、及びこれを用いたかつらに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、かつら用の毛髪としては、天然毛髪、特に自毛に近いことから人毛が愛用されてきた。しかしながら、近年、人毛は調達が困難になりつつあることに加え、手入れに手間が掛かる、濡れるとセットが容易に乱れる、毛髪同士が絡み易いといった理由から合成繊維を素材とする人工毛髪が使用されるようになってきた。
【0003】
人工毛髪の素材としては、アクリル系(モダアクリルや塩化ビニル等)、ポリアミド系(ナイロン6やナイロン66等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等)のモノフィラメントがある。
【0004】
上記素材からなる人工毛髪は、それぞれ利点と欠点とを併せ持つが、ポリエステル、とりわけポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)を素材とする人工毛髪は、耐熱性が高く、カールアイロンなどにより容易にカールを形成でき(以下、「カール性」という)、また、入浴、洗髪等の高温多湿の条件下においてもカールを保持する(以下、「カールセット性」という)などの利点を有しており、近年広く使用されるようになってきた。
【0005】
その一方、PET樹脂を素材とする人工毛髪は、人毛と比較すると剛直で、表面が平滑なため光沢が強く、風合いが不自然であり、また、経時的に毛先が縮れ易く(以下、「縮れ性」という)、一旦縮れるとその修正に非常に手間が掛かるなどの欠点を有する。
【0006】
このため、光沢を改善する技術として、繊維の表面に凹凸を形成して艶を消す種々の方法が提案されている。例えば、特許第3074862号公報には、シリカなどの微粒を含むポリエステル繊維をアルカリ性水溶液で処理し、表面に凹凸を形成させた人工毛髪用ポリエステル繊維及びその製造方法が開示されている。
【0007】
また、縮れ性に関する欠点を改良した、より人毛に近いポリエステル系人工毛髪として、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)を素材とする人工毛髪が提案されている。このPBT樹脂は、PET樹脂と比較して柔軟で、弾性回復に富み、人毛に近い触感を有しており、また、PET樹脂のような縮れが発生し難いという利点がある。
【0008】
しかしながら、その一方で、PBT樹脂は弾性回復率が高いためカール性が悪く、また、ガラス転移点が低いためカールセット性も悪いという欠点がある。
【0009】
そこで、これらPET樹脂及びPBT樹脂の互いの欠点を改良する手段として、PET樹脂とPBT樹脂とを混合紡糸するポリマーアロイ方式が数多く提案されている。例えば、特開2002-161423号公報には、PET樹脂にPBT樹脂を20?40%混合紡糸することで、人毛に近い風合いの縮れ難い人工毛髪が開示されている。
【0010】
しかしながら、PET樹脂とPBT樹脂とを一定のブレンド比率で紡糸して得られる人工毛髪は、PET樹脂とPBT樹脂との中間的性質を示すものの、カール性は人毛及びPET樹脂に劣り、縮れ性は人毛及びPBT樹脂に劣るなど中途半端な性能を有するに過ぎない。
【0011】
また、特許第4823237号公報には、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(PTT樹脂)を素材とした、人毛に近い風合いの縮れ難い人工毛髪が開示されている。
【0012】
PTT樹脂は、分子構造的にPET樹脂とPBT樹脂との中間であり、PET樹脂の形態安定性とナイロンの柔らかさとを兼ね備える素材と言われており、カール性に優れ、縮れ性の改善された人工毛髪用の素材として期待された。
【0013】
しかしながら、本願発明者らの研究によれば、PTT樹脂はどちらかと言うとPBT樹脂に近い性質を示し、カール性及びカールセット性が今ひとつ良好ではなかった。
【0014】
このように、人毛と同等のカール性及び縮れ性を有し、更に、カールセット性やスタイリング性が優れたポリエステルモノフィラメントを素材とする人工毛髪(以下、「ポリエステル系人工毛髪」という)は未だ存在しないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許3074862号公報
【特許文献2】特開2002-161423
【特許文献3】特許4823237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述した従来技術における問題点を解決するため、ポリエステル系人工毛髪において、人毛と同等のカール性及び縮れ性を有する人工毛髪及びこれを用いたかつらを提供することを目的とする。
【0017】
更には、カールセット性に優れ、人毛に近いスタイリング性及び風合い(光沢などの外観や、触感、質感)を備えたポリエステル系人工毛髪及びこれを用いたかつらを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するための本発明は、ポリエステルモノフィラメントから構成される人工毛髪及びこれを用いたかつらに関し、
この人工毛髪は、
芯部と該芯部を覆う鞘部とからなる芯鞘構造を有し、
前記芯部がポリブチレンテレフタレート樹脂又はポリトリメチレンテレフタレート樹脂からなり、
前記鞘部がポリエチレンテレフタレート樹脂からなるポリエステルモノフィラメントから構成される。
【0019】
更に、前記ポリエステルモノフィラメントは、アルカリ溶液を用いた減量処理によって、その表面に微細な凹凸部が形成されており、その重量減少率は、30?50%である。
【0020】
また、前記ポリエステルモノフィラメントは、アルカリ溶液を用いた減量処理後の芯部の断面積S1と鞘部の断面積S2との比である断面積比S1/S2が、10/90?40/60である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来のポリエステル系人工毛髪では達成できなかった人毛と同等のカール性及び縮れ性を達成できる。更に、合成繊維特有のざらつきやてかりがなく、滑らかな櫛通りやさらさらした触感など人毛に近い風合いが得られる。そして、この人工毛髪を用いたかつらにおいては、自毛を調髪するときのように、ヘアドライヤーやカーリングアイロンによるスタイリングも自在にでき、また、濡れた際のカールセット性やスチームアイロンによるスタイリング性が人毛よりも優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る芯鞘型ポリエステルモノフィラメントの断面を示した断面図である。
【図2】本実施形態に係る芯鞘型ポリエステルモノフィラメントの製造工程を説明するための説明図である。
【図3】本実施形態に係る人工毛髪の製造工程を示す工程図である。
【図4】本実施形態に係る芯鞘型ポリエステルモノフィラメントの減量処理後の表面を走査型電子顕微鏡によって観察した図(写真)である。
【図5】人工毛髪としての風合い評価を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る人工毛髪及びこれを用いたかつらについて詳細に説明する。
【0024】
[人工毛髪]
まず、本実施形態に係る人工毛髪について説明する。
【0025】
前記人工毛髪は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)又はポリトリメチレンテレフタレート樹脂(PTT樹脂)を芯成分とし、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)を鞘成分とした2成分を含む芯鞘型のポリエステルモノフィラメントから構成され、図1に示すように、この芯鞘型のポリエステルモノフィラメントFは、芯部Faと鞘部Fbとが略同心円に形成されている。
【0026】
PET樹脂は、そのガラス転移点が70?80℃であり、比較的ガラス転移点が高く、PBT樹脂に比べて剛直なため、カールアイロンなどによるカール性がよく、しかも、カールセット性が良いという特性を有している。一方、PBT樹脂及びPTT樹脂は、PET樹脂と比較して柔軟で、弾性回復に富むという特性を有する。尚、PBT樹脂のガラス転移点は40?50℃、その融点は224?228℃であり、PTT樹脂のガラス転移点は45?60℃、その融点は約228℃である。
【0027】
したがって、PET樹脂を鞘部Fb、PBT樹脂又はPTT樹脂を芯部Faとした芯鞘型のポリエステルモノフィラメントFは、上述したPET樹脂の有する特性と、PBT樹脂,PTT樹脂の有する特性の双方が発現され、耐熱性が高く、カール性及びカールセット性が良く、しかも、柔軟で弾性回復に富むという特性を有するものとなり、これを用いたかつらは、人毛と同等のカール性及び縮れ性を備え、更に、滑らかな櫛通りやさらさらした触感など人毛に近い風合いが得られる。また、ヘアドライヤーやカーリングアイロンによるスタイリングも自在にでき、更に、濡れた際のカールセット性やスチームアイロンによるスタイリング性が人毛よりも優れたものとなる。
【0028】
ところで、PET樹脂,PBT樹脂,PTT樹脂の各特性を活かすために、PBT樹脂又はPTT樹脂を鞘部とし、PET樹脂を芯部とすることも考えられるが、この場合、表に出るPBT樹脂又はPTT樹脂の融点が低いことから、カーリングアイロンなどの加熱手段を用いたスタイリングに適さないという問題がある。
【0029】
前記PBT樹脂、PTT樹脂及びPET樹脂は、繊維形成性があれば特に限定されるものではなく、1,4-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール及びエチレングリコールをそれぞれジオールとし、テレフタル酸を二官能性カルボン酸とするポリエステルであることが好ましいが、本来の融点やガラス転移点が大幅に変化しない範囲であれば、少量の共重合成分を含んでいても良い。
【0030】
PET樹脂の固有粘度は、繊維形成性の面より、0.5?1.4が好ましく、0.6?1.0がより好ましい。固有粘度が0.5未満であると、得られるモノフィラメントの機械的強度が低下し、1.4を超えると、分子量の増大に伴って溶融粘度が高くなるため、溶融紡糸が困難になる、或いは繊度が不均一になる。また、鞘成分であるPET樹脂の固有粘度は、芯成分であるPBT樹脂及びPTT樹脂の固有粘度を超えないことが好ましい。尚、ここで言う固有粘度とは、オルソクロロフェノール溶液中25℃で測定した粘度より求めた極限粘度であり、[η]で表される。
【0031】
PBT樹脂及びPTT樹脂の固有粘度は、繊維形成性の面より、0.6?1.5が好ましく、0.7?1.2がより好ましい。固有粘度が0.6未満の場合、得られるモノフィラメントの機械的強度が低下し、1.5を超えた場合には、分子量の増大に伴って溶融粘度が高くなるため、溶融紡糸が困難になる、或いは繊度が不均一になる。また、芯成分であるPBT樹脂及びPTT樹脂の固有粘度は、真円性及び偏心の面より、1.0以上であることが好ましい。
【0032】
鞘成分のPET樹脂には、艶消し剤として無機微粒子を含有させることが好ましい。無機微粒子としては、酸化ケイ素(シリカ)や酸化アルミニウム(アルミナ)、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、ゼオライトなどを例示することができるが、何らこれらに限定されるものではない。尚、取り扱いの容易さや発色性の面から、シリカを用いることが好ましい。
【0033】
上記無機微粒子を含有させる方法としては、エチレングリコールに上記無機微粒子を分散させたスラリーをテレフタル酸のモノマーに添加して重縮合する公知の方法でも良いが、予め無機微粒子をPET樹脂に高濃度に分散させたマスターバッチを作成し、モノフィラメントの紡糸時にPET樹脂のチップに一定量混合して紡糸する方法が簡便で好ましい。
【0034】
尚、鞘成分であるPET樹脂には、艶消し剤以外にも、各種着色顔料や抗菌剤、消臭剤、帯電防止剤、難燃剤などの機能性添加剤を含有させるようにしても良い。また、芯成分であるPBT樹脂及びPTT樹脂には、特に添加剤などを含有させる必要はないが、発色時の色目改善のために各種着色顔料を添加するようにしても良い。
【0035】
次に、本発明の芯鞘型ポリエステルモノフィラメントの製造方法について、図2を参照して説明する。図2に示すように、前記芯鞘型ポリエステルモノフィラメントの製造に用いる紡糸機1は、芯部用及び鞘部用の2組の樹脂供給槽2a,2bと計量装置付きエクストルーダ3a,3bとを備え、紡糸口金が芯鞘型複合繊維用紡糸口金4である点以外は、通常のモノフィラメント紡糸機と同様の構成であり、通常のモノフィラメントの製造工程と同様の工程を経て製造される。即ち、前記芯鞘型複合繊維用紡糸口金4から冷却槽5中に押し出されたモノフィラメントは、その後、延伸槽6で延伸され、セット槽7で熱セットされる。しかる後、油剤が付与され、ワインダー8でボビンに巻き取られる。
【0036】
延伸は、一段延伸又は多段延伸で行われ、加熱方法は、熱水槽や熱風槽、プレートヒータ、スチームジェット、加熱ローラなどが単独又は併用使用される。
【0037】
延伸倍率、延伸温度、熱セット温度及び熱セット倍率は、目標とする強度や伸度などの物性値や収縮率に基づき適宜最適な条件を採用すれば良い。尚、ここで言う「収縮率」とは、沸騰水中で30分及び乾熱130℃で10分における収縮率を言い、5%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。収縮率が5%を超えると、人工毛髪の製造工程における熱加工時の寸法安定性が悪くなり、縮れが生じるなどの問題が発生する。
【0038】
前記鞘成分に配合する艶消し剤は、予め鞘成分であるPET樹脂に練り込みコンパウンド化するか、或いは、上述したように艶消し剤を含有したマスターバッチを作成し、エクストルーダの前工程でドライブレンド法にて配合するようにしても良い。
【0039】
次に、本発明の人工毛髪の製造工程を図3に基づき説明する。上記モノフィラメントを巻き取ったボビンから、モノフィラメントを所定量かせ取りし、このかせに対してアルカリ水溶液を用いた減量処理を施した後、中和処理を施す。続いて、染色処理、還元洗浄処理を施した後、油剤や必要に応じて樹脂加工などを施し乾燥させる。最後に、これらを所定の長さに切断した上で、櫛通しをして人工毛髪を得る。
【0040】
ポリエステル系人工毛髪の製造工程において、アルカリ水溶液を用いた減量処理工程は、表面に微細な凹凸部を形成させ、合成繊維特有のざらつきなどの触感やてかりなどの光沢を改善するための重要な工程である。この減量処理を施すことにより、図4に示すように、表面に大小の微細な凹凸部が形成されるのである。上記減量処理の方法としては、例えば、濃度が5重量%の水酸化ナトリウム水溶液に温度98℃の条件で浸漬し、所定の減量率になるまで処理する方法がある。
【0041】
尚、減量率は、予め含有させている艶消し剤(シリカ)の量との兼ね合いで決定されるが、30?50%であることが好ましい。減量率が30%未満であると、十分な光沢改善効果が得られず、また、触感もざらつきがあるものとなる。一方、減量率が50%を超えた場合は、劣化が進み、人工毛髪としての十分な機械的強度を維持することができなくなる。
【0042】
また、艶消し剤の含有量は、0.1?1.0%の範囲であることが好ましい。含有量が0.1未満の場合、前記減量率に係らず、艶消しの効果を得ることができず、1%を超えた場合には、不透明感が増し、染色後の色合いが白茶ける傾向が見られる。
【0043】
尚、本発明の人工毛髪は、アルカリ水溶液による減量処理の減量率が40?50、艶消し剤(シリカ)の含有量が0.25?0.50%とした場合に、より人毛に近い触感と光沢が得られ、また、減量処理後の太さを60?70μmとすることで、人毛に近い触感が得られた。
【0044】
また、本発明が目的とするところの、良好な耐熱性、カール性、カールセット性、柔軟性及び弾性回復性を得るには、前記ポリエステルモノフィラメントは、アルカリ溶液を用いた減量処理後の芯部の断面積S1と鞘部の断面積S2との比である断面積比S1/S2が、10/90?40/60であることが好ましい。
【0045】
[かつら]
次に、上記のようにして製造した人工毛髪を用いたかつらについて説明する。
このかつらは、かつらベースと、このかつらベースに植設される前記人工毛髪とから構成される。
【0046】
かつらベースには、例えば、ナイロンやポリエステルフィラメントからなる平織り地、或いはネット状に編成されたネットベースの他、ポリウレタン等のシート状の樹脂を素材とした人工皮膚ベースなどが含まれるが、かつらのベースとしての機能を有するものであれば、これに限定されるものではない。
【0047】
そして、このかつらベースに、上記のようにして製造した人工毛髪を適当な密度で植設し、更に人工毛髪を適当な長さにカットしてかつらとする。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の人工毛髪及びこれを用いたかつらの具体的な実施例について説明する。
【0049】
実施例における人工毛髪の評価は以下の方法で行った。
【0050】
[物性試験]
繊度、引張強度、引張伸度、見掛ヤング率は、JIS L1013の測定方法に準じて行い、また、3%伸長弾性率は、JIS L1013 Bの測定方法に準じて行った。
[芯/鞘断面積比]
人工毛髪の断面をマイクロスコープによって1000倍に拡大して観察し、芯の断面積S1と鞘の断面積S2をそれぞれ測定して、その断面積比S1/S2を算出した。
[毛髪評価]
〈カールセット性〉
表面の数ヶ所に5mm径の穴を開けた直径2cm程度のアルミパイプに、人工毛髪を紙と共に巻きつけ、150℃のコンベア式オーブンに数分間通した後、自重で吊下げてカールの伸び具合を確認し、人毛との比較で次の4段階で評価した。
◎ 非常に良い(パイプ径のままを維持)
○ 良い(若干伸びる程度)
△ 悪い(かなり伸びる)
× 非常に悪い(ほとんど伸びる)
〈縮れ性〉
人工毛髪の束にステンレス製のブラシを1000回かけて、人毛との比較で次の4段階で評価した。
◎ 非常に良い(全く縮れない)
○ 良い(若干湾曲する程度)
△ 悪い(縮れがC字状態)
× 非常に悪い(縮れがくの字に折れた状態)
〈風合い〉
図5に示すように、かつらベース10に、1本の該当モノフィラメント植設して、その立ち上がり状態(立ち上がり角度)を観察し、人毛との比較で以下の4段階で評価した。
◎ 非常に良い(人毛とほぼ同じ角度である)
○ 良い(人毛に近い角度である)
△ 悪い(人毛に比べてより立ち上がった角度、又は寝た角度)
× 非常に悪い(人毛に比べて極端に上がった角度、又は寝た角度)
【0051】
実施例における人工毛髪を用いたかつらの評価は以下の方法で行った。
【0052】
[かつらの着用試験]
3名のモニターが同一のかつらを各5回ずつ計15回洗浄し、ドライヤー、カールアイロン、スチーマーなどを利用してスタイリング作業を繰り返し、以下の項目について、次の4段階で評価した。
◎ 非常に良い
○ 良い
△ 悪い
× 非常に悪い
〈光沢の自然さ〉
人毛との比較で目視で評価した。
〈手触り〉
櫛又は指で梳いた際の引っ掛かり具合やざらつき感、さらさら感、柔らかさなどの触感を人毛との比較で評価した。
〈フリジング(縮れ)テスト〉
毎回200回の櫛通しを行い、目視で縮れ具合を評価した。
〈カールアイロン〉
カールアイロンを用いてカールのかかり具合を評価した。
〈ドライヤー〉
ヘアドライヤーを用いてブラシでカールを作り、作ったカールを元に戻すという作業を繰り返して評価した。
〈スチーマー〉
スチーマーを用いて、部分的に毛根を立ててボリュームを出す、或いは部分的に毛根をねかせてボリュームをなくして評価した。
〈洗浄後のスタイル維持力〉
洗浄後のカールなどのスタイルの維持状態を評価した。
〈スタイルのし易さ〉
スタイルのし易さを総合的に評価した。
【0053】
(実施例1-1,実施例1-2,比較例A及び比較例B)
鞘成分としてのPET樹脂は、ユニチカ株式会社製MA-2103(固有粘度0.68)を使用した。また、艶消し剤として東ソー・シリカ株式会社製のシリカを5%含むマスターバッチをPET樹脂95重量部に対して5重量部配合した。芯成分として、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製のノバデュラン5010L(固有粘度1.0)(PBT樹脂)を使用した。鞘部のエクストルータ温度を285℃、芯部のエクストルーダ温度を270℃として、PET樹脂及びPBT樹脂を溶融し、これらの吐出量を、芯/鞘重量比がそれぞれ5/95(比較例A)、10/90(実施例1-1)、20/80(実施例1-2)、30/70(比較例B)となるように調節して、ホール数60個の芯鞘型複合繊維用紡糸口金から冷却槽中に紡出し、ついで、90℃の熱水中で4倍に延伸した後、200℃の熱風槽中で熱セットし、しかる後、油剤を付与した上でボビンに巻き取り、繊度が89dtexの芯鞘型ポリエステルモノフィラメントを得た。
【0054】
次に、上記フィラメントを所定量かせに取り、濃度が50g/L、温度が98℃の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、減量率が45%となるように減量処理を施した。
【0055】
そして、上述したように、染色処理及び還元洗浄処理を施した後、油剤を付与した上で乾燥させた。最後に、これらを所定の長さに切断してから櫛通しをすることで、繊度49dtexの黒色人工毛髪を得た。
【0056】
(実施例1-3,実施例1-4,比較例C及び比較例D)
芯成分として、旭化成ケミカルズ株式会社製のPTT樹脂結晶化品(固有粘度1.0)(PTT樹脂)を使用した他は、上記実施例1-1,実施例1-2,比較例A及び比較例Bと同様にして、芯/鞘重量比を5/95とした比較例C、同重量比を10/90とした実施例1-3、同重量比を20/80とした実施例1-4、同重量比を30/70とした比較例Dを得た。そして、これら実施例1-3,実施例1-4,比較例C及び比較例Dに対して、上記と同様の減量処理、染色処理、還元洗浄処理、油剤付与、乾燥、切断、櫛通しの各工程を実施した。
【0057】
(比較例4)
比較対象として、人毛を用意した。
【0058】
得られた実施例1-1,実施例1-2,実施例1-3,実施例1-4、比較例A,比較例B,比較例C及び比較例Dの人工毛髪の物性値、芯/鞘断面積比、カールセット性、縮れ性及び風合いを人毛との比較において評価した。その結果を表1及び表2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
表1及び表2から見てとれるように、実施例1-1、実施例1-2、実施例1-3及び実施例1-4は、カールセット性、縮れ性及び風合いの全てが人毛(表4の比較例4)と同等であり、非常に良い結果を示し、満足できる品質であった。これに対して、比較例A及び比較例Cはカールセット性が人毛と同等であったが、縮れ性及び風合いが人毛と比較して若干劣り、比較例B及び比較例Dは縮れ性が人毛と同等であったが、カールセット性及び風合いが人毛と比較して若干劣っていた。このことから、人毛と同等のカールセット性、縮れ性及び風合いを得るには、芯/鞘断面積比(S1/S2)が10/90?40/60であることが好ましく、この比率が10/90未満の場合には、縮れ性及び風合いが人毛と比較して劣ったものとなり、この比率が40/60を超えた場合には、カールセット性及び風合いが人毛と比較して劣ったものとなることが分かる。
【0062】
(比較例E及び比較例F)
アルカリ水溶液を用いた減量率が25%となるように減量処理を施した以外は、実施例1-1及び実施例1-3に準じて各処理を施し、繊度67dtexの黒色人工毛髪である比較例E及び比較例Fを得た。
【0063】
得られた人工毛髪の物性値、芯/鞘面積比、カール性及び縮れ性を評価した。その結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
表3から分かるように、比較例E及び比較例Fの人工毛髪は、いずれもカールセット性は人毛と同等であったが、縮れ性が若干劣っていた。
【0066】
(比較例1?比較例3)
比較例1はPET樹脂(ユニチカ株式会社製MA-2103(固有粘度0.68))を、比較例2はPBT樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製ノバデュラン5008(固有粘度0.85))を、比較例3はPTT樹脂(旭化成ケミカルズ株式会社製(固有粘度0.86))をそれぞれ単独で使用し、ホール数60個の通常の丸孔口金を用い、この紡糸口金から冷却槽中に紡出し、ついで、90℃の熱水中で4倍に延伸した後、200℃の熱風槽中で熱セットし、しかる後、油剤を付与した上でボビンに巻き取り、89dtexのモノフィラメントを得た。
【0067】
次に、上記モノフィラメントを所定量かせに取り、濃度が50g/L、温度が98℃の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、比較例1では減量率が45%になるように、比較例2及び比較例3では減量率が25%となるように減量処理を施した後、染色処理及び還元洗浄処理を施し、油剤を付与した上で乾燥させた。そして、最後に、これらを所定の長さに切断してから櫛通しをすることで、黒色人工毛髪を得た。この人工毛髪の繊度は、比較例1では49dtex、比較例2及び比較例3では66dtexであった。尚、比較例1と比較例2及び比較例3とで減量率を変えた理由は、PBT樹脂及びPTT樹脂は、PET樹脂に比べて耐薬品性が優れているため、アルカリ水溶液に対する抵抗も強く、PET樹脂と同じ減量率を達成するのに約3倍の時間を要し現実的でないため減量率を低く設定した。
【0068】
得られた人工毛髪の物性値、カール性、縮れ性及び風合いを人毛との比較において評価した。その結果を表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
表4から見てとれるように、比較例1はカール性は人毛と同等であるが、縮れ性及び風合いが人毛と比較して非常に悪かった。また、比較例2は縮れ性が人毛と同等であるものの、人毛と比較してカールセット性が非常に悪く、風合いも若干劣っていた。比較例3は、比較例2と比較してカールセット性が若干改善されているものの、比較例2と略同じ性向を示した。
【0071】
このことから、ガラス転移点が高い場合は、カールセット性が高くなるが縮れ性が低くなり、ガラス転移点が低い場合は、縮れ性が高くなるがカールセット性が低くなる傾向にあることが分かる。
【0072】
(比較例5-1?比較例5-3)
予めPET樹脂(ユニチカ株式会社製(固有粘度0.68))とPBT樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製(固有粘度0.80))を80/20(比較例5-1)、70/30(比較例5-2)、60/40(比較例5-3)となるように、2軸混練押出機を用いてブレンドチップを作成し、比較例1?3に準じて各処理を実施し、89dtexの黒色のモノフィラメントを得た。
【0073】
次に、上記モノフィラメントに対して、比較例5-1では減量率が35%となるように、比較例5-2及び比較例5-3では減量率が30%となるようにアルカリ水溶液を用いた減量処理を施した以外は、上記比較例1?3に準じて各処理を実施し、黒色人工毛髪を得た。この人工毛髪の繊度は、比較例5-1では58dtex、比較例5-2及び比較例5-3では62dtexであった。
【0074】
得られた人工毛髪の物性値、カールセット性、縮れ性及び風合いを人毛との比較において評価した。その結果を表5に示す。
【0075】
【表5】

【0076】
表5から分かるように、比較例5-1?比較例5-3は、いずれにおいてもカールセット性、縮れ性及び風合いが人毛に比べて劣っていた。
【0077】
更に、実施例1-1,実施例1-2,比較例A及び比較例Bの結果と比較例5-1?比較例5-3の結果から、PBT樹脂を芯部とし、PET樹脂を鞘部とした芯鞘構造にすることによって、PBT樹脂とPET樹脂とを単に混合するよりも、優れた性質を示すようになることが分かる。
【0078】
尚、PET樹脂とPBT樹脂との混合は、それぞれのチップをモノフィラメント紡糸機のエクストルーダの前で混合する、所謂ドライブレンド方式も可能であるが、PET樹脂とPBT樹脂とが十分均一に混合されていないと、人工毛髪の染色工程で縮れるなどの不具合が発生する。したがって、PET樹脂とPBT樹脂との混合は、予め押出機で行うようした。
【0079】
また、PET樹脂とPBT樹脂との混合モノフィラメントは、PBT樹脂又はPTT樹脂単独のモノフィラメントほどではないものの、PET樹脂単独のモノフィラメントと比較すると、アルカリ水溶液に対する抵抗が強いため、減量率はPET樹脂単独の場合と比較して小さくなった。更に、PET樹脂とPBT樹脂のアルカリ水溶液に対する抵抗性の違いにより、減量処理前後の人工毛髪のPET樹脂/PBT樹脂混合率が変動するという欠点を有する。
【0080】
(実施例3-1,実施例3-2,実施例3-3,実施例3-4,比較例G,比較例H及び比較例6?比較例8)
実施例1-1、実施例1-2、実施例1-3、実施例1-4、比較例E、比較例F、比較例1及び比較例2の人工毛髪、並びに比較例4の人毛を、かつらベースにそれぞれ植設して実施例3-1,実施例3-2,実施例3-3,実施例3-4,比較例G,比較例H及び比較例6?比較例8のかつらを得た。尚、かつらベースには、ナイロンモノフィラメントをネット状に編成したものを用いた。
【0081】
得られたかつらの光沢の自然さ、手触り、縮れ性、カールアイロン、ドライヤー、スチーマー、洗浄後のスタイル維持力及びスタイルのし易さという8つの項目について評価した。その結果を表6及び表7に示す。
【0082】
【表6】

【0083】
【表7】

【0084】
表6及び表7から見てとれるように、実施例3-1、実施例3-2、実施例3-3及び実施例3-4のかつらは、全ての評価項目について非常に良好な結果が得られ、特に、スチーマー、洗浄後のスタイル維持力及びスタイルのし易さについては、人毛を超える結果を示した。比較例G及び比較例Hのかつらは、光沢の自然さ、手触り及び縮れ性については、人毛と比較して若干劣ってはいたものの、スチーマー、洗浄後のスタイル維持力及びスタイルのし易さについては、人毛を超える結果を示した。また、比較例6のかつらは、縮れ性が人毛と比較して極端に劣っており、比較例7のかつらは、光沢の自然さが人毛と比較して若干劣り、カールアイロン及びドライヤーについては人毛と比較して極端に劣っていた。
【符号の説明】
【0085】
1 芯鞘型ポリエステルモノフィラメント紡糸機
2a 芯部用樹脂供給槽
2b 鞘部用樹脂供給槽
3a 芯部用計量装置付きエクストルーダ
3b 鞘部用計量装置付きエクストルーダ
4 芯鞘型複合繊維用紡糸口金
5 冷却槽
6 延伸槽
7 セット槽
8 ワインダー
F 芯鞘型ポリエステルモノフィラメント
Fa 芯部
Fb 鞘部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
芯部と該芯部を覆う鞘部とからなる芯鞘構造を有し、
前記芯部がポリブチレンテレフタレート樹脂又はポリトリメチレンテレフタレート樹脂からなり、前記鞘部がポリエチレンテレフタレート樹脂からなるポリエステルモノフィラメントから構成され、
前記ポリエステルモノフィラメントは、アルカリ溶液を用いた減量処理によって、その表面に微細な凹凸部が形成され、前記減量処理による重量減少率が30?50%であり、
更に、前記ポリエステルモノフィラメントは、前記減量処理後の芯部の断面積S1と鞘部の断面積S2との比である断面積比S1/S2が、10/90?40/60であることを特徴とする人工毛髪。
【請求項5】
かつらベースと、該かつらベースに植設される人工毛髪とからなるかつらであって、
前記人工毛髪は、請求項4記載の人工毛髪であることを特徴とするかつら。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-13 
出願番号 特願2014-532699(P2014-532699)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A41G)
P 1 651・ 121- YAA (A41G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大瀬 円石井 茂  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 関谷 一夫
根本 徳子
登録日 2016-07-29 
登録番号 特許第5978306号(P5978306)
権利者 富士ケミカル株式会社
発明の名称 人工毛髪及びそれを用いたかつら  
代理人 村上 智司  
代理人 村上 智司  

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