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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1335124
異議申立番号 異議2016-700741  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-15 
確定日 2017-10-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5860049号発明「改質剤及びヨウ素又は臭素末端基を含有する過酸化物硬化性フルオロエラストマー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5860049号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第5860049号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5860049号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?2に係る特許についての出願は、2011年7月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年8月2日 英国)を国際出願日とする特許出願であって、平成27年12月25日にその特許権の設定登録がされ、平成28年2月16日に特許公報が発行され、その後、その本件特許の請求項1?2に係る特許に対し、同年8月15日付けで特許異議申立人 中嶋はな代(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年11月9日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年2月8日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年同月16日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、それに対し、同年3月22日付けで異議申立人から意見書の提出がされ、同年4月18日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年7月4日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年7月5日付け(発送日:同年同月10日、再送日:同年8月31日)で訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、それに対し、異議申立人から意見書の提出はなかった。
なお、平成29年8月17日付け手続補正書(方式)により、異議申立書及び平成29年3月22日付け意見書の異議申立人の氏名が、「中嶋なは代」から「中嶋はな代」に補正されている。
また、平成29年2月8日付けの訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものと見なす。


第2 訂正の適否

1.訂正の内容
平成29年7月4日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「nは1?10である」を「nは3?6である」と訂正し、
「含む」を「含み、フッ素化乳化剤を使用しない水性乳化重合によって得られた」
と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、特許請求の範囲の「過フッ素化ビスオレフィンエーテル」中のCF_(2)の繰り返し単位であるnの範囲を「1?10」から「3?6」に訂正すると共に、訂正前の請求項1に規定されていた「フルオロエラストマー」を「フッ素化乳化剤を使用しない水性乳化重合によって得られた」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、願書に添付した明細書(以下、「明細書」という。)の【0030】に
「CF_(2)=CF-O-(CF_(2))_(n)-O-CF=CF_(2)
式中、nは1?10、好ましくは3?6の整数である。」
との記載が、また、【0054】に
「水性乳化重合法によって入手可能であるが、フッ素化乳化剤又は任意の不活性フッ素化添加剤、例えば、飽和ポリオキシアルキレンなどの添加を必要としないのが、本明細書において提供されるポリマーの格別な利点である。」
との記載があるから、これらは明細書での記載に基づく訂正であって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。
そして、訂正前の請求項2は請求項1を引用しており、請求項1及び請求項2は一群のものであるから、訂正事項1は一群の請求項ごとにされたものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?2]について訂正を認める。


第3 本件発明
上記第2 3.のとおり、本件訂正請求による訂正は認容されるので、特許第5860049号の請求項1?2に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」という。)は、平成29年7月4日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
テトラフルオロエチレン(TFE)及び1,1-ジフルオロエテン(フッ化ビニリデン、VDF)、
TFE及びヘキサフルオロプロペン(HFP)、
VDF及びHFP及びTFE、又は
VDF及びHFP、から選択されるフッ素化オレフィン由来の繰り返し単位を含み、
主鎖の末端炭素原子にヨウ素及び臭素から選択される少なくとも1つのハロゲン原子を有し、かつ、次の一般式:
CF_(2)=CF-O-(CF_(2))_(n)-O-CF=CF_(2)
(式中、nは3?6である)
に対応する過フッ素化ビスオレフィンエーテルから選択される1種以上の改質剤由来の単位を更に含み、
フッ素化乳化剤を使用しない水性乳化重合によって得られた、硬化性フルオロエラストマー。
【請求項2】
請求項1に記載のフルオロエラストマーを含み、過酸化物硬化系を更に含む、硬化性フルオロエラストマー組成物。」


第4 取消理由(決定の予告)の概要

当審において平成29年4月18日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、
請求項1?2に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された特開2008-303321号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第2号証。以下、「甲2」という。) に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は取り消すべきものであり(以下、「取消理由1」という。)、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、その特許は取り消すべきものである(以下、「取消理由2」という。)、
というものである。


第5 取消理由(決定の予告)についての判断
1.甲2の記載事項
甲2には、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】
含臭素および/またはヨウ素含有架橋点形成化合物の存在下で、含フッ素オレフィンおよび炭素数4?9の含フッ素ジエン化合物を共重合させて得られたパーオキサイド架橋可能な含フッ素エラストマー100重量部当り、トリアリルイソシアヌレート0.1?10重量部を含有してなる燃料ホース成形用含フッ素エラストマー組成物。
【請求項2】
含フッ素ジエン化合物が、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF=CF_(2)またはCF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF=CF_(2)である請求項1記載の燃料ホース成形用含フッ素エラストマー組成物。」(特許請求の範囲、請求項1、請求項2)

(2)「本発明の含フッ素エラストマーは、過酸化物を遊離基発生源としてラジカル重合によって製造される。含フッ素エラストマーは、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン、ジフルオロブロモエチレン等の含フッ素オレフィンの少くとも一種を、含臭素および/またはヨウ素化合物等の存在下に重合させて得られたものであり、そこにはエチレン、プロピレン等をさらに共重合させることもできる。ここで、パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば次のような化合物が挙げられる。
CF_(2)=CFOCF_(3)
CF_(2)=CFOC_(2)F_(5)
CF_(2)=CFOC_(3)F_(7)
CF_(2)=CFO[CF_(2)CF(CF_(3))O]_(1?4)CF_(3)
CF_(2)=CFO[CF_(2)CF(CF_(3))O]_(1?4)C_(3)F_(7)
CF_(2)=CFO(CF_(2))_(n)OCF_(3)
CF_(2)=CFOCF_(2)CF_(2)O(CF_(2)O)_(n)CF_(3)
より具体的には、フッ化ビニリデンと他の含フッ素単量体との共重合体、例えばフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン-テトラフルオロエチレン3元共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルプロプロペン共重合体等やテトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等が挙げられる。」(段落【0011】、【0012】)

(3)「この含フッ素ジエン化合物としては、下記特許文献6に記載される如き炭素数4?9の含フッ素ジエンの少くとも1種、例えばCF_(2)=CF-、CF_(2)=CH-またはCF_(2)=CFO-を一方の末端不飽和基とするもの、具体的にはCF_(2)=CFCF=CF_(2)、CF_(2)=CF(CF_(2))_(4)CF=CF_(2)、CF_(2)=CFCH=CF_(2)、CF_(2)=CHCH=CF_(2)、CF_(2)=CF(CF_(2))_(2)CF=CF_(2)、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF=CF_(2)、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF_(2)CF(CF_(3))OCF=CF_(2)、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF=CF_(2)等、好ましくはCF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF=CF_(2)またはCF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF=CF_(2)が用いられる。」(段落【0014】)

(4)「これらの含ヨウ素および/または臭素化合物は、重合反応の際有機過酸化物ラジカル発生源の作用により、容易にヨウ素および/または臭素をラジカル開裂させ、そこに生じたラジカルの反応性が高いためモノマーが付加成長反応し、しかる後に含ヨウ素および/または臭素化合物からヨウ素および/または臭素を引き抜くことによって反応を停止させ、飽和の含ヨウ素および/または臭素化合物を用いた場合には、分子末端にヨウ素および/または臭素が結合した含フッ素エラストマーを与える。
これらの含臭素および/またはヨウ素架橋点形成化合物存在下での含フッ素モノオレフィンおよび含フッ素ジエン化合物の共重合反応は、一般的に行われている重合開始剤存在下でのランダム共重合反応によって行われる。したがって、共重合反応の反応生成物は、含フッ素モノオレフィンと含フッ素ジエン化合物とのランダム共重合体である。
含フッ素エラストマーは、乳化重合、懸濁重合、溶液重合のいずれの方法でも製造できるが、高分子量の共重合体を得ることおよび経済性の観点から好ましくは乳化重合法が用いられる。
乳化重合は、遊離基発生剤として過硫酸アンモニウムのような水溶性過酸化物を用いて行われる。また、亜硫酸ナトリウムのような還元剤と併用したレドックス系を用いることもできる。乳化剤としては、パーフルオロオクタン酸アンモニウム、パーフルオロノナン酸アンモニウム、パーフルオロヘプタン酸アンモニウム、その他含フッ素化合物のアンモニウム塩やナトリウム塩などが用いられる。また、重合系内のpHを調整するために、リン酸塩、ホウ酸塩など緩衝能を有する電解質を共存させることもできる。重合反応は、0?100℃、10MPa以下の圧力で行われる。」(段落【0019】?【0022】)

(5)「以上により得られた含フッ素エラストマーは、パーオキサイド架橋法によって硬化される。
パーオキサイド架橋法に用いられる有機過酸化物としては、例えば2,5-ジメチル-2,5-ビス(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(2,4-ジクロロベンゾイル)パーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ第3ブチルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、第3ブチルパーオキシベンゼン、1,1-ビス(第3ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロキシパーオキサイド、α,α′-ビス(第3ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、第3ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等が、含フッ素エラストマー100重量部当り約0.1?10重量部、好ましくは約0.5?5重量部の割合で用いられる。」(段落【0023】、【0024】)

(6)「参考例1
内容積10Lのオートクレーブ中に、脱イオン水4000ml、1-ブロモ-2-ヨードパーフルオロエタン6.0g、パーフルオロオクタン酸アンモニウム54.0g、リン酸水素二ナトリウム・12水和物4.5g、含フッ素ジエン化合物(DVE3PO)15g、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)136gおよびテトラフルオロエチレン130gを仕込み、温度を50℃に保ちながら、脱イオン水に溶解した過硫酸アンモニウム4.5gおよび亜硫酸ナトリウム0.1gを圧入器で仕込み、反応を開始させた。圧力が1.0?0.9MPaの範囲で、テトラフルオロエチレン〔TFE〕/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔FMVE〕(モル比65/35)混合ガスを7時間添加した。反応終了後、得られた水性乳濁液に5%カリミョウバン水溶液を添加して生成重合体を凝析し、次いで水洗、乾燥して、1480gのゴム状重合体(ポリマーA;組成TFE/FMVE/DVE3POモル比=65/34.9/0.1)を得た。ここで、含フッ素ジエン化合物(DVE3PO)としては、次の化合物が用いられた。
CF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF=CF_(2)
参考例2
参考例1において含フッ素ジエン化合物を添加しない以外は、同様の重合を行い1500gのゴム状重合体(ポリマーB;組成TFE/FMVEモル比=65/35)を得た。
参考例3
内容積10Lのオートクレーブ中に、脱イオン水4500ml、1-ブロモ-2-ヨードパーフルオロエタン12.0gおよびパーフルオロオクタン酸アンモニウム23.0gを仕込み、内部空間を窒素ガスで十分置換した後、フッ化ビニリデン〔VdF〕/ヘキサフルオロプロペン〔HFP〕/テトラフルオロエチレン〔TFE〕(モル比35/45/20)混合ガスを、内圧が0.8MPaになるまで圧入した。その後、1-ジフルオロ-2-ブロモエチレン6.5gおよび含フッ素ジエンポリマー(DVE3PO)6.5gを圧入し、内温を50℃まで昇温させた。そこに、過硫酸アンモニウム10g、硫酸第1鉄・7水和物1.0gおよび亜硫酸ナトリウム1.Ogをそれぞれ脱イオン水に溶解させて圧入した後、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロペン/テトラフルオロエチレン(モル比52/27/21)混合ガスを内圧が1.8MPaになるまで圧入し、重合反応を開始させた。反応開始と共に直ちに圧力低下が起こるため、内圧が1.7MPaまで低下した時点で、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロペン/テトラフルオロエチレン(モル比52/27/21)混合ガスを1.8MPaまで再加圧し、以下同様にして1.7?1.8MPaの圧力を維持しながら重合反応を継続した。反応終了後、得られた水性乳濁液に5%カリミョウバン水溶液を添加して生成重合体を凝析し、次いで水洗、乾燥して、1250gのゴム状重合体(ポリマーC;組成VdF/HFP/TFE/DVE3POモル比=65/17/17.8/0.2)を得た。」(段落【0030】?【0032】)

(7)「実施例1
含フッ素エラストマーA 100部(重量、以下同じ)、MTカーボンブラック(キャンキャブ製品サーマックスN990)20部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成製品タイクM-60:60%含有物)4部、水酸化カルシウム(近代化学工業製品カルビット)5部および有機過酸化物(日本油脂製品パーヘキサ25B-40;2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン40%含有物)2部を、1Lニーダおよびオープンロールを用いて混練した。混練したものを用いて、押出肌(押出成形性)の評価が行われた。押出肌は、東測精密工業製品エクストルーダー(D=25mm、L/D=15)および口径4mmのダイスを用い、スクリュー温度80℃、ヘッド温度110℃、スクリュー回転数40rpmの条件下でチューブ状物を押出した際の表面肌のきめの細かさを目視により確認し、下記の基準により評価した。
A:表面が滑らかで、光沢がある
B:表面が滑らかだが、光沢がない
C:表面が粗く、ザラザラしている
D:表面が粗く、ザラザラしており、やや波打っている
E:表面が粗く、ザラザラしており、波打ちも激しい
次に、得られた混練物について、180℃、10分間のプレス架橋および200℃、6時間の二次架橋を行ない、シート状およびO-リング状のテストピースを架橋成形した。架橋シートについては、硬さ(JIS K-6253準拠)、破断強度・破断伸び(JIS K-6251準拠)の測定を行い、O-リングについては、圧縮永久歪(JIS K-6262準拠;25%圧縮、200℃、70時間)の測定を行った。」(段落【0034】、【0035】)

(8)「実施例2
実施例1において、含フッ素エラストマーAの代わりに含フッ素エラストマーCが同量用いられた。」(段落【0037】)

2.甲2に記載された発明
(1)甲2クレーム発明
甲2には、1.(1)及び(2)からみて、
「含臭素および/またはヨウ素含有架橋点形成化合物の存在下で、含フッ素オレフィンおよび炭素数4?9の含フッ素ジエン化合物を共重合させて得られたパーオキサイド架橋可能な含フッ素エラストマーであって、具体的には、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン-テトラフルオロエチレン3元共重合体やフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン共重合体であり、含フッ素ジエン化合物が、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF=CF_(2)またはCF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF=CF_(2)である含フッ素エラストマー。」(以下、「甲2クレーム発明」という。)、
が記載されているといえる。(なお、前記の1.(2)の最終段落には、含フッ素エラストマーの具体例として「フッ化ビニリデン-ヘキサフルプロプロペン共重合体」の記載があるが、第一段落の「含フッ素エラストマーは、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、・・・等の含フッ素オレフィンの少くとも一種を、含臭素および/またはヨウ素化合物等の存在下に重合させて得られたもの」との記載によれば、「フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン共重合体」の誤記であることは明らかである。)

(2)甲2実施例発明
甲2には、1.(6)?(8)からみて、実施例2において
「内容積10Lのオートクレーブ中に、脱イオン水4500ml、1-ブロモ-2-ヨードパーフルオロエタン12.0gおよびパーフルオロオクタン酸アンモニウム23.0gを仕込み、内部空間を窒素ガスで十分置換した後、フッ化ビニリデン〔VdF〕/ヘキサフルオロプロペン〔HFP〕/テトラフルオロエチレン〔TFE〕(モル比35/45/20)混合ガスを、内圧が0.8MPaになるまで圧入し、1-ジフルオロ-2-ブロモエチレン6.5gおよび含フッ素ジエンポリマー(DVE3PO)6.5gを圧入し、内温を50℃まで昇温させ、そこに、過硫酸アンモニウム10g、硫酸第1鉄・7水和物1.0gおよび亜硫酸ナトリウム1.Ogをそれぞれ脱イオン水に溶解させて圧入した後、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロペン/テトラフルオロエチレン(モル比52/27/21)混合ガスを内圧が1.8MPaになるまで圧入し、重合反応を開始させ、反応開始と共に直ちに圧力低下が起こるため、内圧が1.7MPaまで低下した時点で、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロペン/テトラフルオロエチレン(モル比52/27/21)混合ガスを1.8MPaまで再加圧し、以下同様にして1.7?1.8MPaの圧力を維持しながら重合反応を継続し、反応終了後、得られた水性乳濁液に5%カリミョウバン水溶液を添加して生成重合体を凝析し、次いで水洗、乾燥して得られる1250gのゴム状重合体(ポリマーC;組成VdF/HFP/TFE/DVE3POモル比=65/17/17.8/0.2)。」(以下、「甲2実施例発明」という。)、
が記載されているといえる。

3.対比、判断
3-1 甲2クレーム発明との対比、判断
(1)取消理由1について
ア 本件特許発明1について
(ア)甲2クレーム発明の「パーオキサイド架橋可能な含フッ素エラストマー」は、その含フッ素オレフィンの組成からみて、本件特許発明1の「VDF及びHFP及びTFE、又はVDF及びHFP、から選択されるフッ素化オレフィン由来の繰り返し単位を含む硬化性フルオロエラストマー」に相当すると認められる。
(イ)甲2クレーム発明の「パーオキサイド架橋可能な含フッ素エラストマー」は、「含臭素および/またはヨウ素含有架橋点形成化合物の存在下で含フッ素オレフィンおよび含フッ素ジエン化合物」を共重合させて得られたもので、含フッ素ジエン化合物としてCF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF=CF_(2)を使用するものであるから、上記1.(4)からみて、その主鎖の末端炭素原子に臭素および/またはヨウ素が結合していると認められるし、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(n)OCF=CF_(2)の単位を含むと認められる。
(ウ)以上のことから、本件特許発明1の「硬化性フルオロエラストマー」と甲2クレーム発明の「パーオキサイド架橋可能な含フッ素エラストマー」は、「VDF及びHFP及びTFE、又はVDF及びHFP、から選択されるフッ素化オレフィン由来の繰り返し単位を含み、主鎖の末端炭素原子にヨウ素及び臭素から選択される少なくとも1つのハロゲン原子を有し、かつ、次の一般式:CF_(2)=CF-O-(CF_(2))_(n)-O-CF=CF_(2)の単位を更に含む、硬化性フルオロエラストマー」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1 CF_(2)=CF-O-(CF_(2))_(n)-O-CF=CF_(2)に関し、本件特許発明1において、nは3?6であるのに対して、甲2クレーム発明において、nは2である点。
・相違点2 本件特許発明1は「フッ素化乳化剤を使用しない水性乳化重合によって得られた」ことを特定しているのに対して、甲2クレーム発明はそのような特定がない点。
(エ)少なくとも相違点1は実質的な相違点であるので、本件特許発明1は、甲2クレーム発明であるとすることはできない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1に係るエラストマーを含む組成物に係るものである。
上記アのように、本件特許発明1は甲2クレーム発明でないので、本件特許発明2も甲2クレーム発明ではない。

ウ まとめ
本件特許発明1及び本件特許発明2は、いずれも甲2クレーム発明ではないから、本件特許発明1及び本件特許発明2に係る特許は特許法第29条第1項第3号に違反してされたものではない。

(2)取消理由2について
ア 本件特許発明1について
上記3-1(1)ア(ウ)の相違点1及び相違点2について検討する。
相違点1に関し、甲2クレーム発明のフルオロエラストマーにおいて、本件特許発明1における「CF_(2)=CFO(CF_(2))_(n)OCF=CF_(2)」の単位をもたらすものとして具体的に記載されているのは、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF=CF_(2)という特定の含フッ素ジエン化合物であり、斯かる化合物を使用する限りにおいて当該単位の一般式においてnは常に2となる。また甲2には、含フッ素ジエン化合物の他の例も記載されている(1.(3))が、「CF_(2)=CFO(CF_(2))_(n)OCF=CF_(2)」の単位をもたらすことができる含フッ素ジエン化合物はCF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF=CF_(2)だけであり、これ以外のものは記載されていない。また甲2には、斯かる含フッ素ジエン化合物中の「CF_(2)」単位の繰り返し数を変更する動機付けとなるような記載はないし、その示唆もない。そして、当該単位の一般式において、n=2のものに代えて、n=3?6のものを使用することが技術常識であるものとも認めることができない。
そうしてみると、甲2クレーム発明において、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF=CF_(2)の「CF_(2)」単位の繰り返し数である2を3?6とすることには困難性があると認められる。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が甲2クレーム発明から容易になし得たものとすることができない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1に係るエラストマーを含む組成物に係るものである。
上記アのように、本件特許発明1は甲2クレーム発明から容易になし得たものでないので、本件特許発明2も甲2クレーム発明から容易になし得たものでない。

ウ まとめ
本件特許発明1及び本件特許発明2は、いずれも甲2クレーム発明から当業者が容易に発明をすることができたものでないから、本件特許発明1及び本件特許発明2に係る特許は特許法第29条第2項に違反してされたものではない。

3-2 甲2実施例発明との対比、判断
(1)取消理由2について
ア 本件特許発明1について
(ア)甲2実施例発明の「ゴム状重合体ポリマーC」は、その組成はVdF/HFP/TFE/DVE3POモル比=65/17/17.8/0.2であって、トリアリルイソシアヌレートや有機過酸化物と混練して加熱すると架橋するものであるから、本件特許発明1の「VDF及びHFP及びTFEのフッ素オレフィン由来の繰り返し単位を含む硬化性フルオロエラストマー」に相当すると認められる。
(イ)甲2実施例発明の「ゴム状重合体ポリマーC」は、1-ブロモ-2-ヨードパーフルオロエタンの存在下で、フッ化ビニリデン〔VdF〕、ヘキサフルオロプロペン〔HFP〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、含フッ素ジエンポリマー(DVE3PO)を重合反応させて得られたものであるから、上記1.(4)からみて、その主鎖の末端炭素原子にヨウ素原子および/または臭素原子が結合していると認められるし、DVE3POであるCF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF=CF_(2)をポリマーの構成単位として含むと認められる。
(ウ)甲2実施例発明の「ゴム状重合体ポリマーC」を製造するために、甲2実施例発明ではフッ素化乳化剤であると認められる「パーフルオロオクタン酸アンモニウム」を使用している。
(エ)以上のことから、本件特許発明1の「硬化性フルオロエラストマー」と甲2実施例発明の「ゴム状重合体ポリマーC」を対比すると、
両者は「VDF及びHFP及びTFEのフッ素オレフィン由来の繰り返し単位を含み、主鎖の末端炭素原子にヨウ素及び臭素から選択される少なくとも1つのハロゲン原子を有する、硬化性フルオロエラストマー。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点3 硬化性フルオロエラストマーが、本件特許発明1では、「CF_(2)=CF-O-(CF_(2))_(n)-O-CF=CF_(2)」(式中、nは3?6である)の単位を更に含むのに対して、甲2実施例発明では、DVE3POであるCF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF=CF_(2)を含む点。
・相違点4 フルオロエラストマーの製造に関し、本件特許発明1では、「フッ素化乳化剤を使用しない水性乳化重合によって得られた」ことを特定するのに対して、甲2実施例発明では、フッ素化乳化剤であると認められる「パーフルオロオクタン酸アンモニウム」を使用している点。
(オ)上記相違点3及び4について検討する。
相違点3に関し、甲2実施例発明のCF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF=CF_(2)に代え、1.(1)及び(3)で例示されている、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF=CF_(2)と同列で具体的に記載されている化合物を使用することは当業者が容易になし得ることであるとまではいえるものの、これらの具体的に記載されている化合物の中に、「CF_(2)=CF-O-(CF_(2))_(n)-O-CF=CF_(2)」(式中、nは3?6である)で示される化合物は存在しない。また、それらの化合物の中で、CF_(2)=CF-O-(CF_(2))_(n)-O-CF=CF_(2)(式中、nは3?6である)に最も近い構造を有するものは、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF=CF_(2)であるが、甲2には、CF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF=CF_(2)における「CF_(2)」単位の繰り返し数2を3?6に変更する動機付けとなるような記載はないし、その示唆もない。そして、当該単位の一般式において、n=2のものに代えて、n=3?6のものを使用することが技術常識であるものとも認めることができない。
そうしてみると、甲2実施例発明のCF_(2)=CFO(CF_(2))_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF=CF_(2)を「CF_(2)=CF-O-(CF_(2))_(n)-O-CF=CF_(2)」(式中、nは3?6である)で示される化合物とすることには困難性があると認められる。
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が甲2実施例発明から容易になし得たものとすることができない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1に係るエラストマーを含む組成物に係るものである。
上記アのように、本件特許発明1は甲2実施例発明から容易になし得たものでないので、本件特許発明2も甲2実施例発明から容易になし得たものでない。

ウ まとめ
本件特許発明1及び本件特許発明2は、いずれも甲2実施例発明から当業者が容易に発明をすることができたものでないから、本件特許発明1及び本件特許発明2に係る特許は特許法第29条第2項に違反してされたものではない。


第6 まとめ
以上のとおり、本件特許発明1及び本件特許発明2は、いずれも甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号、同条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン(TFE)及び1,1-ジフルオロエテン(フッ化ビニリデン、VDF)、
TFE及びヘキサフルオロプロペン(HFP)、
VDF及びHFP及びTFE、又は
VDF及びHFP、から選択されるフッ素化オレフィン由来の繰り返し単位を含み、
主鎖の末端炭素原子にヨウ素及び臭素から選択される少なくとも1つのハロゲン原子を有し、かつ、次の一般式:
CF_(2)=CF-O-(CF_(2))_(n)-O-CF=CF_(2)
(式中、nは3?6である)
に対応する過フッ素化ビスオレフィンエーテルから選択される1種以上の改質剤由来の単位を更に含み、
フッ素化乳化剤を使用しない水性乳化重合によって得られた、硬化性フルオロエラストマー。
【請求項2】
請求項1に記載のフルオロエラストマーを含み、過酸化物硬化系を更に含む、硬化性フルオロエラストマー組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-18 
出願番号 特願2013-523195(P2013-523195)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08F)
P 1 651・ 121- YAA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤井 勲松浦 裕介海老原 えい子  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 守安 智
堀 洋樹
登録日 2015-12-25 
登録番号 特許第5860049号(P5860049)
権利者 スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
発明の名称 改質剤及びヨウ素又は臭素末端基を含有する過酸化物硬化性フルオロエラストマー  
代理人 出野 知  
代理人 石田 敬  
代理人 胡田 尚則  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 齋藤 都子  
代理人 胡田 尚則  
代理人 青木 篤  
代理人 齋藤 都子  
代理人 出野 知  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  

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