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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C01F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01F 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C01F |
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管理番号 | 1335133 |
異議申立番号 | 異議2016-700925 |
総通号数 | 217 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-01-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-09-28 |
確定日 | 2017-10-25 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5895035号発明「高反応性消石灰およびその製造方法、並びに排ガス処理剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5895035号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-10〕について訂正することを認める。 特許第5895035号の請求項7ないし9に係る特許を維持する。 特許第5895035号の請求項1ないし6、10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5895035号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成26年 8月 8日の出願(優先権主張 平成25年12月13日、日本国)であって、平成28年 3月 4日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1?10に係る特許について、特許異議申立人「平林 ふみ子」により特許異議の申立てがされ、平成28年11月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年 1月27日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成29年 3月 3日付けで意見書が提出され、平成29年 4月27日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成29年 6月30日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成29年 8月10日付けで意見書が提出されたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 平成29年 6月30日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のア?エのとおりである。(下線部は訂正箇所である。) なお、本件訂正請求により、平成29年 1月27日付けの訂正の請求は特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 ア.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1?6を削除する。 イ.訂正事項2 特許請求の範囲の請求項7の「粉末状の生石灰に消化水を加え反応するステップと、前記反応するステップにおいて、消化水又は反応系に、添加剤として、有機化合物を含まず、水ガラス、水酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、ケイフッ化ナトリウムから選ばれる一種以上のナトリウム化合物を添加するステップと、反応後の消石灰を乾燥するステップと、を含み、前記反応するステップにおいて、前記消化水の添加量が前記生石灰の100重量部に対して90重量部以上110重量部以下であることを特徴とする消石灰の製造方法。」と記載されているのを、「粉末状の生石灰に消化水を加え反応するステップと、前記反応するステップにおいて、消化水又は反応系に、添加剤として、有機化合物を含まず、水ガラスからなる添加剤を添加するステップと、反応後の消石灰を乾燥するステップと、を含み、前記反応するステップにおいて、前記消化水の添加量が前記生石灰の100重量部に対して90重量部以上110重量部以下であり、前記水ガラスの添加量が前記生石灰の0.6?1.5重量%であることを特徴とする消石灰の製造方法。」に訂正する。 ウ.訂正事項3 特許請求の範囲の請求項9の「前記ナトリウム化合物を添加するステップは」と記載されているのを、「前記水ガラスを添加するステップは」に訂正する。 エ.訂正事項4 特許請求の範囲の請求項10を削除する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア.訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1?6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」といい、それぞれ「本件明細書」などという。)に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 イ.訂正事項2について 訂正事項2は、列挙されていたナトリウム化合物を水ガラスのみに限定する訂正事項2-1と、訂正前の請求項7で特定されていない「前記水ガラスの添加量が前記生石灰の0.6?1.5重量%であること」を新たに特定する訂正事項2-2からなるものである。 ここで、訂正事項2-1は、列挙されていたナトリウム化合物から、水ガラス以外を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項2-2は、訂正前の請求項に記載のない発明特定事項を直列的に付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2-1は、列挙されていたナトリウム化合物から、水ガラス以外を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 また、訂正前の請求項10には、「前記ナトリウム化合物の添加量は、原料である生石灰の0.5?1.5重量%であること」が記載されており、本件明細書の【0037】の実施例1、7?9には、水ガラスの添加量が生石灰の0.6、0.8、1.0及び1.5重量%の場合が記載されていたから、訂正事項2-2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 さらに、訂正事項2-1及び訂正事項2-2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 ウ.訂正事項3について 訂正事項3は、引用請求項における上記訂正事項2に係る訂正に伴って、「ナトリウム化合物」を「水ガラス」に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項3は、「ナトリウム化合物」を具体的な材料である「水ガラス」のみに限定するものであり、本件明細書の【0030】には、生石灰に水ガラスを含む消化水を投入することが記載されており、事前に消化水に水ガラスを添加しているものと認められるから、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 さらに、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 エ.訂正事項4について 訂正事項4は、請求項10を削除するものであるから、第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 また、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 (3)一群の請求項について 訂正事項1は、訂正前の請求項1?6を訂正するものであり、訂正前の請求項1?6は、互いに引用、被引用の関係にあるから一群の請求項である。 また、訂正事項2は、訂正前の請求項7を訂正するものであり、請求項8?10はそれぞれ請求項7を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項2によって連動して訂正されるものである。 よって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?6〕、〔7?10〕について請求するものと認められるから、特許法120条の5第4項に適合する。 (4)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項および第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕、〔7?10〕について訂正を認める。 3.本件訂正発明 上記2.のとおり訂正を認めたので、訂正後の請求項1?10に係る発明のうち、削除された請求項1?6、10を除く、請求項7?9(以下「本件訂正発明7」?「本件訂正発明9」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものである(下線は訂正箇所である。)。 【請求項7】 粉末状の生石灰に消化水を加え反応するステップと、 前記反応するステップにおいて、消化水又は反応系に、添加剤として、有機化合物を含まず、水ガラスからなる添加剤を添加するステップと、反応後の消石灰を乾燥するステップと、を含み、 前記反応するステップにおいて、前記消化水の添加量が前記生石灰の100重量部に対して90重量部以上110重量部以下であり、前記水ガラスの添加量が前記生石灰の0.6?1.5重量%であることを特徴とする消石灰の製造方法。 【請求項8】 請求項7に記載の消石灰の製造方法であって、 前記乾燥するステップは、100℃以上の熱風を送りながら乾燥するステップを含むことを特徴とする消石灰の製造方法。 【請求項9】 請求項7又は8に記載の消石灰の製造方法であって、 前記水ガラスを添加するステップは、消化水に添加するステップであることを特徴とする消石灰の製造方法。 4.当審の判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由の概要 平成28年11月18日付けで当審が通知した取消理由は以下の通りである。 ア.訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、仮に、そうでないとしても、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は取り消すべきものである。 イ.訂正前の請求項1、5?6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、仮に、そうでないとしても、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は取り消すべきものである。 ウ.訂正前の請求項1、5?6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、仮に、そうでないとしても、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は取り消すべきものである。 エ.訂正前の請求項2、5?6に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、仮に、そうでないとしても、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は取り消すべきものである。 オ.訂正前の請求項7?10に係る発明は、甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は取り消すべきものである。 カ.訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その特許は取り消すべきものである。 <刊行物> 甲第1号証:特表平11-513654号公報 甲第2号証:W.Jozewicz, B.K.Gullett、Structural transformations in Ca-based sorbents used for SO_(2) emission control、ZEMENT・KALK・GIPS、ドイツ、1994.01.発行、47. Jahrgang Nr.1/1994、pp.31-38 甲第3号証:特開2008-266051号公報 甲第4号証:岩田 吾一 他4名、生石灰の水和調製によって得られた消石灰の塩素ガス吸収特性と細孔構造の関係、Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan、日本、2010.発行、vol.17、pp.275-280 甲第5号証:特表2008-546631号公報 (以下、それぞれ「甲1」?「甲5」という。) このうち、ア?エ、カについては、平成29年 6月30日付けの訂正の請求によって、請求項1?6、10が削除されたため、取消理由は理由が存在しないものとなったので、オについて検討する。 (2)刊行物の記載事項(当審において関連箇所に下線を付記する。) 取消理由通知において引用した甲3、甲5、及び、特許異議申立人が平成29年 1月27日付け意見書で提示した参考文献1(特開平10-167775号公報)、参考文献2(特開2003-327427号公報)、及び、周知技術として提示された参考文献3(特開2007-205927号公報)に記載の事項を以下に摘記する。 ア.甲3に記載の事項 摘記1-1:「【請求項1】生石灰を消化して得た消石灰を水と混合して消石灰スラリーを製造するに当り、生石灰100質量部に対して消化水75?140質量部を加えて、含有水分が15?30質量%の含水消石灰が得られるまで消化したのち、得られた含水消石灰に水を加えてスラリー化することを特徴とする消石灰スラリーの製造方法。」 摘記1-2:「【発明が解決しようとする課題】【0006】本発明は、生石灰を消化し、乾燥して得た消石灰粉末を用いて、例えば酸性排ガスの中和処理剤として使用するための消石灰スラリーを調製する際に伴う消石灰粉末粒子のBET比表面積の減少を防止し、高活性を維持することを目的としてなされたものである。」 摘記1-3:「【0009】本発明方法において、原料として用いる生石灰は、消石灰の製造に際して慣用されている粉末状又は粒状の生石灰を用いることができる。 そして、これまで知られている湿式消化法においては、生石灰100質量部当り、消化水200?1000質量部を用いるのが普通であるが、本発明方法においては、生石灰100質量部当り消化水75?140質量部を用い、含有水分15?30質量%の含水消石灰が得られまで消化させることが必要である。 【0010】生石灰100質量部当りのこの消化水の量が75質量部よりも少ないと十分な比表面積が得られないし、また消化水の量があまり多くなると取り扱いしにくくなる。本発明方法において好適な消化水の量は、生石灰100質量部当り90?110質量部の範囲内である。 【0011】この粉末状又は粒状の生石灰の粒度としては、平均粒径10?500μm、好ましくは50?150μmの範囲で選ばれる。これよりも粒度を小さくすると取り扱いがむずかしくなる上にコスト高になるのを免れないし、また、これよりも粒度が大きくなると反応速度が遅くなり、好ましくない。 また、高比表面積の消石灰を得るためには、生石灰の活性が高いことが重要である。本発明において、生石灰の活性は欧州域内規格(EN規格)459-2で示される消化発熱速度(t_(u))を用いて規定した。生石灰のt_(u)としては、5分以下の範囲で選ばれる。5分より大きい場合は反応速度が低下するために、比較的粗大な1次粒子が生成し、高比表面積の消石灰を得るには不利である。 この消化水には、比表面積を向上させるために炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、クエン酸や酒石酸又はそれらの水溶性塩、ソルビトール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールなどを含ませることができる。これらの添加剤の量としては、生成する消石灰の量に基づき、0.5?3質量%、好ましくは1.0?2.0質量%の範囲内で選ばれる。」 摘記1-4:「【0019】参考例 生石灰を焼成し、焼成物を粉砕したのち、200メッシュ通過部分(平均粒径35μm)を捕集して原料生石灰として用いた。 上記の生石灰100質量部に消化水100質量部を加え、高速でかきまぜながら、24時間消化を行うことにより、含水量20.5質量%の消石灰を得た。この際の消化発熱速度は1分であった。」 摘記1-5:「【0021】比較例 参考例で得た消石灰を、ケージミルで解砕しながら、400℃の熱風で1時間乾燥した。このようにして得た乾燥後の消石灰粉末のBET比表面積は42.3m^(2)/gであった。この消石灰粉末100gに20℃の水1000mlを加えて消石灰スラリーを調製した。このスラリー10mlを分取し、実施例と同様にして乾操したのち、得られた消石灰についてBET比表面積を測定したところ、33.6m^(2)/gであった。 イ.甲5に記載の事項 摘記2-1:「【請求項6】- 15?35質量%の間の残留水分を呈する水酸化カルシウムを得るために充分な量の消和水を用いて10mm以下の粒度のCaO粒子を消和する段階、及び - 前記水酸化カルシウムを乾燥させて粉末状石灰組成物を得る段階、 を含み、さらに消和段階の前、途中及び/又は後に、それぞれCaO粒子、消和水及び/又は水酸化カルシウムに対してアルカリ化合物を一定量加える段階が含まれ、この数量が、前記粉末状石灰組成物中でその合計質量に基づき3.5質量%以下のアルカリ金属含有率を得るのに充分なものであることを特徴とする、請求項1?5のいずれか1項に記載の粉末状石灰組成物を製造する方法。」 摘記2-2:「【請求項8】前記数量のアルカリ化合物を消和水に添加する段階が前記消和段階と同時に行われる、請求項6に記載の製造方法。」 摘記2-3:「【0018】消石灰ベースの粉末状組成物中にアルカリ金属が存在することにより、組成物は第2世代の吸収剤として知られる吸収剤より優れたSO_(2)捕捉性能を提示する。さらに、この粉末状組成物は、共に高く特に従来の水和石灰についての同じ特性よりも高いBET比表面積及びBJH多孔質体積といった優れた特性を保っており、このことはすなわち、そのHClといったような酸性化合物捕捉能力が改変されないということを意味している。アルカリ金属が存在する結果、組成物の合計質量に基づいて好ましくは2?35g/kgの間に含まれる数量のアルカリ金属を呈する修飾されたテクスチャをもつ消石灰ベースの粉末状石灰がもたらされる。」 摘記2-4:「【0021】特に有利には、アルカリ金属は、アルカリ金属の酢酸塩といったようなその水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、過硫酸塩、及びモノカルボン酸塩、ならびにそれらの混合物、特にナトリウム、カリウム及び/又はリチウムの混合物からなる群の中から選択されたアルカリ化合物に由来する。」 摘記2-5:「【0071】なお、該発明に従った5つの消石灰は、上述の第2世代の消石灰の生産に使用されるものと類似の生石灰から出発して、類似のプロセスに従い、ただし添加剤の存在下で、同じ設備内で製造される。添加剤はそれぞれに、完成生成物が吸収剤1kgあたり約7gのナトリウムを含有するような量で添加されたNaOH、Na_(2)CO_(3)、Na_(3)PO_(4)、NaCOOH(ギ酸ナトリウム)である。」 ウ.参考文献1に記載の事項 摘記3-1:「【請求項1】水と石灰とからなる石灰スラリーを消化水として用い、この消化水と生石灰を消化反応させることを特微とする乾燥粉末消石灰の製造方法。」 摘記3-2:「【請求項6】消化水が、0.1?5.0重量%の珪酸塩を含む石灰スラリーであることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の乾燥粉末消石灰の製造方法。」 摘記3-3:「【0015】【発明が解決しようとする課題】本発明は上記課題を解決するものであり、軽度に焼成された高活性の生石灰を原料とし、高比表面積の反応性に優れた乾燥粉末消石灰を高収率に製造する方法、特に、簡単(廉価)な装置を付加することで、軽度に焼成された高活性の生石灰を原料として、現有設備を最大限に利用して高比表面積の反応性に優れた乾燥粉末消石灰を工業的有利に製造する方法を提供するものである。 【0016】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、石灰と水とからなる石灰スラリー(以下、単にスラリーという)と生石灰を混合し、消化反応させることによって、特に軽度に焼成された高活性の生石灰(以下、単に高活性生石灰という)を原料とし、消化反応初期において湿式消化の状態を出現させ、更に糖質を添加することで消化反応速度を調節することによって、微細粒子の大きな気孔容積を有する高比表面積の乾燥粉末消石灰、具体的には、例えば、従来の方法で得られる消石灰に比して、平均粒子径で1/2、比表面積2倍以上の反応性に優れた消石灰が、スラリー設備を追加するだけで、現有設備を最大限活かして高収率に工業的有利に製造できること、並びに、更にこの際、スラリーに珪酸塩及び/又は界面活性剤を添加すれば、収率および品質ともに更に向上すること、並びに消石灰の流動性が良くなることも見出し、本知見に基づいて本発明を完成させた。」 摘記3-4:「【0022】本発明の消化反応過程の初期における湿式消化状態は、湿式としては水量の少ない状態であり、かつ、生石灰の活性が大幅に変動する場合など、湿式反応が不安定となる。スラリーに、糖質、珪酸塩、界面活性剤等の各種添加剤を添加することにより、消化反応を改善することができる。」 摘記3-5:「【0024】珪酸塩としては、スラリー中における消石灰粒子の分散、液相での過飽和度の増大、生成消石灰粒子の結粒防止、流動性向上の効果、更には価格面から水ガラスが好適に使用される。好ましくはスラリーに0.1?5.0重量%、より好ましくは0.2?3.0重量%の濃度範囲で珪酸塩を添加する。珪酸塩の濃度が0.1重量%未満では、上記の目的とする効果がうすく、殊に反応過程における液相中での効果がなく、5.0重量%濃度を越える場合は、むしろ消石灰粒子を凝結粗大化させる傾向となる。」 エ.参考文献2に記載の事項 摘記4-1:「【請求項1】生石灰を水中にて反応(消化反応)せしめて水酸化カルシウム粒子を製造する方法において、珪素系化合物、燐系化合物、アルミニウム系化合物、無機酸および有機酸よりなる群から選ばれた少なくとも一種の添加剤を含有する水中にて該消化反応を行うことを特徴とする水酸化カルシウム粒子の製造方法。」 摘記4-2:「【請求項4】該添加物が、珪酸アルカリ、珪酸塩、含水珪酸、無水珪酸および結晶性珪酸よりなる群から選ばれた少なくとも一種の珪素系化合物である請求項1の水酸化カルシウム粒子の製造方法。」 摘記4-3:「【0003】【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の水酸化カルシウム粒子の前記した製造方法における問題を克服し、高比表面積を有する水酸化カルシウムを簡便且つ経済的に製造する方法の提供を目的とする。本発明の方法による水酸化カルシウム粒子は、比表面積が大きいので高活性であり、酸中和剤やハロゲン捕捉剤等としての用途が期待される。」 オ.参考文献3に記載の事項 摘記5-1:「【0018】 本発明に係るシリカ系充填剤は、以下の方法で製造することができる。 具体的には、先ず、酸性水溶液に、テンプレートとなる水溶性化合物を加えて溶解させる。その後、水ガラスを加えて、この溶液がゲル化してシリカ(シリカゲル)が形成されるまでこの溶液を静置する。ここで、水ガラスとは、二酸化珪素と炭酸ナトリウムなどのアルカリとを融解して得られる珪酸アルカリの濃い水溶液のことであり、粘り気の強い無色透明の液体である。また、シリカゲルは、このような水ガラスにテンプレートとなる水溶性化合物を加えて溶解させた後に、酸性水溶液を加えることによって、溶液をゲル化させてもよい。」 (3)本件明細書の記載事項 下記特許法第29条第2項についての検討にあたり、本件明細書の記載事項を摘記する。 摘記A-1:「【0033】【表1】 」 摘記A-2:「【0036】【表2】 」 摘記A-3:「【0040】【表3】 」 (4)特許法第29条第2項について(甲3を主引例とした場合) ア.本件訂正発明7 甲3(摘記1-1、1-3?1-5)には、以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 「粉末状又は粒状の生石灰に消化水を加えて消化させ、消化後の消石灰を乾燥させる消石灰の製造方法において、 消化水に、添加剤として炭酸ナトリウム添加剤を添加すること、 および、消化工程において、消化水の添加量が生石灰の100重量部に対して90重量部以上110重量部以下である消石灰の製造方法。」 ここで、引用発明3の「炭酸ナトリウム」「添加剤」には、「有機化合物」を含ませることが記載されていないから、本件訂正発明7と引用発明3は、「添加剤として、有機化合物を含まないナトリウム系の添加剤を添加するステップ」を行う点で一致している。 よって、本件訂正発明7と引用発明3とを対比すると、 「粉末状の生石灰に消化水を加え反応するステップと、 前記反応するステップにおいて、消化水又は反応系に、添加剤として、有機化合物を含まないナトリウム系の添加剤を添加するステップと、 反応後の消石灰を乾燥するステップと、を含み、 前記反応するステップにおいて、前記消化水の添加量が前記生石灰の100重量部に対して90重量部以上110重量部以下である消石灰の製造方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:本件訂正発明7は、添加剤が有機化合物を含まない水ガラスであり、水ガラスを生石灰の0.6?1.5重量%添加しているのに対し、引用発明3は、添加剤が有機化合物を含まない炭酸ナトリウムである点。 上記相違点1について検討する。 甲3(摘記1-3)には、ナトリウム化合物の添加量が1.0?2.0質量%であることが記載されている。 また、甲5(摘記2-5)には、ナトリウム化合物の添加量が0.7質量%(吸収剤1kgあたり約7gのナトリウム)であることが記載されている。 しかしながら、甲3、甲5には、ナトリウム化合物として水ガラスを用いることは記載されていない。 そして、参考文献1?2には、消化処理を行う際に、比表面積を大きくすることを目的として、ナトリウム化合物として水ガラスを用いることが記載されている。 参考文献1?2に記載の技術が周知技術であるならば、甲3に記載のナトリウム化合物として水ガラスを用いることは、それらの周知技術から当業者が容易になし得たことといえる。 そこで、水ガラスを「0.6?1.5重量%」添加することが当業者が容易になし得たことといえるかどうかについて検討する。 本件明細書には、水ガラスを用いた実施例1、7?9と、炭酸ナトリウムを用いた実施例3の結果からみて、水ガラスの添加量を生石灰の0.6?1.5質量%とすることで、炭酸ナトリウムを用いた場合よりもBET比表面積を大きくすることができ、炭酸ナトリウムを用いた場合と比べて優れた効果があることが認められる。 そして、甲3、甲5には、水ガラスの添加量を生石灰の0.6?1.5質量%とすることについて記載されておらず、引用発明3において、添加剤を炭酸ナトリウムに代えて水ガラスを用いることが、甲3、甲5及び周知技術(参考文献1?2)から、当業者が容易になし得たことであるといえたとしても、さらに、その水ガラスの添加量を生石灰の0.6?1.5質量%とすることで炭酸ナトリウムよりも優れた効果を奏するとはいえないから、本件訂正発明7は、甲3、甲5に記載の技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるとまではいえない。 イ.本件訂正発明8?9 本件訂正発明8?9は、本件訂正発明7をより限定した発明であるから、上記アと同様の理由により、甲3、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とはいえない。 (5)特許法第29条第2項について(甲5を主引例とした場合) ア.本件訂正発明7 甲5(摘記2-1、2-4)には、以下の発明が記載されている(以下、「引用発明5」という)。 「10mm以下の粒度の酸化カルシウムに消和水を添加し、乾燥させて粉末状石灰組成物を製造する方法において、消化処理を行う際に炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のナトリウム化合物を添加剤として添加する粉末状石灰組成物を製造する方法」 ここで、引用発明5の「10mm以下の粒度の酸化カルシウム」、「消和水」、「石灰組成物」は、それぞれ本件訂正発明7の「粉末状の生石灰」、「消化水」、「消石灰」に相当する。 また、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のナトリウム化合物には、「有機化合物」を含ませることが記載されていないから、「有機化合物を含ま」ない「ナトリウム系の添加剤」に相当する。 よって、引用発明5と本件訂正発明7とを対比すると、 「粉末状の生石灰に消化水を加え反応するステップと、 前記反応するステップにおいて、消化水又は反応系に、添加剤として、有機化合物を含まないナトリウム系の添加剤を添加するステップと、 反応後の消石灰を乾燥するステップと、を含む消石灰の製造方法。」である点で一致し、以下の2点で相違する。 相違点2:本件訂正発明7は、添加剤が有機化合物を含まない水ガラスであり、水ガラスを生石灰の0.6?1.5重量%添加しているのに対し、引用発明5は、添加剤が有機化合物を含まない炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のナトリウム化合物である点。 相違点3:本件訂正発明7は、消化水の添加量が生石灰の100重量部に対して90重量部以上110重量部以下あるのに対し、引用発明5は、消化水の添加量が不明な点。 まず、相違点2について検討する。 上記(4)アで検討したとおり、甲3、甲5には、水ガラスの添加量を生石灰の0.6?1.5質量%とすることについて記載されておらず、引用発明5において、添加剤を炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムに代えて水ガラスを用いるとともに、さらに、水ガラスの添加量を生石灰の0.6?1.5質量%とすることで炭酸ナトリウムよりも優れた効果を奏することが、甲3、甲5及び周知技術から、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 よって、相違点3を検討するまでもなく、本件訂正発明7は、甲3、甲5に記載の技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得た発明とはいえない。 イ.本件訂正発明8?9 本件訂正発明8?9は、本件訂正発明7をより限定した発明であるから、上記アと同様の理由により、甲3、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とはいえない。 (6)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は平成29年 8月10日付け意見書において、本件明細書の【0040】の【表3】には、生石灰に対する水ガラスの添加量を実施例1と同様(0.8%)にしたままで、生石灰に対する消石灰に比率(重量比)を0.9、0.95、1.05、1.1と変化させた実施例10?13のBET比表面積がそれぞれ30.4、31.3、32.0、28.7(m^(2)/g)となり、炭酸ナトリウムを用いた実施例3の比表面積31.7(m^(2)/g)よりも低くなる場合があるから、特許権者のいう効果が認められない場合があり、本件訂正発明7の全体にわたって顕著な効果どころか、優位な効果すらあるとは到底言えないから選択発明の成立する余地もないため、取消理由(決定の予告)で認定したとおり、進歩性を有さない旨主張している。 しかしながら、炭酸ナトリウムを用いる実施例3と、水ガラスを用いる実施例1、7?9とは、添加剤以外は同様の条件であり(生石灰500gに対し、添加剤を含む消化水を500g投入する)、生石灰に対する消化水の割合(水比)が同じ場合は、生石灰の0.6?1.5重量%の水ガラスを添加剤として用いることで、炭酸ナトリウムを用いる場合よりもBET比表面積が高くなることから、同じ水比であれば、添加剤として生石灰の0.6?1.5重量%の水ガラスを用いることで、炭酸ナトリウムを用いる場合よりもBET比表面積が高くなるという優れた効果を認めることができ、当該効果は水比を限定しなければ生じない効果とまではいえないから(炭酸ナトリウムも水比によってBET比表面積が変化する蓋然性が高い)、本件訂正発明7?9は、先行技術(甲3、甲5)から当業者が容易になし得た発明とはいえない。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 (7)取消理由通知で採用しなかった他の理由について 訂正前の請求項1?6、10に係る特許についての特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなった。 ここで、訂正前の請求項7?9に係る特許に対して、特許法第36条第4項第1号及び第36条第6項第1号についての特許異議の申立てがされているので、これについて検討する。 まず、「比表面積41.5m^(2)/g以上の消石灰は、水ガラスを用いた場合に達成され、その他の添加剤については達成できるか不明である。」という特許法第36条第6項第1号に関する特許異議の申立ては、訂正によって、添加剤が水ガラスに限定されたため、かかる申し立てには理由がなくなった。 また、「COD値の測定方法が不明確」という特許法第36条第4項第1号に関する特許異議の申立てについて、特許権者は平成29年 1月27日付け意見書において、「つまり、本特許で測定したCOD値は、環境庁告示13号により作成した溶出液に対してJISの試験方法を行ったものです。JIS K0102は排液を試料としてCOD値を測定する方法を規定しています。そして、本件特許の段落0006には「消化時に添加物として有機化合物のみを用いる場合に比べ、約半分程度に溶出水中のCODを低減することができるが、その場合でもCODは数10ppm(mg/L)のオーダーであり十分に低いとは言えない」との記載があり、この記載からも「COD値」が溶出液を対象としていることは明らかであると思います。一方、COD等を問題とする環境技術の分野では、環境廃棄物の検定方法として「環境庁告示13号」(産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法)は周知事項であり、またこれに従った溶出液の検定も一般的に行われております。つまりJIS K0102に従って「溶出液を対象としてCOD値を測定」するのであれば、「溶出液」として環境庁告示13号により作成した溶出液を用いることは自明と言っても過言ではありません。」(第5頁下から第17行?第5頁下から第5行)と主張しており、「JIS K0102 17」によって「COD値」を測定することは、本件明細書の【0022】等に記載されているから、本件特許明細書に記載のCOD値の測定方法は当業者であれば実施出来る程度に明確なものといえるため、かかる申し立てには理由がない。 5.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項7?9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項7?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 なお、本件請求項1?6、10に係る特許に対してなされた特許異議申立については、訂正により申立の対象となる請求項が存在しないものとなった。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】削除 【請求項2】削除 【請求項3】削除 【請求項4】削除 【請求項5】削除 【請求項6】削除 【請求項7】 粉末状の生石灰に消化水を加え反応するステップと、 前記反応するステップにおいて、消化水又は反応系に、添加剤として、有機化合物を含まず、水ガラスからなる添加剤を添加するステップと、 反応後の消石灰を乾燥するステップと、を含み、 前記反応するステップにおいて、前記消化水の添加量が前記生石灰の100重量部に対して90重量部以上110重量部以下であり、前記水ガラスの添加量が前記生石灰の0.6?1.5重量%であることを特徴とする消石灰の製造方法。 【請求項8】 請求項7に記載の消石灰の製造方法であって、 前記乾燥するステップは、100℃以上の熱風を送りながら乾燥するステップを含むことを特徴とする消石灰の製造方法。 【請求項9】 請求項7又は8に記載の消石灰の製造方法であって、 前記水ガラスを添加するステップは、消化水に添加するステップであることを特徴とする消石灰の製造方法。 【請求項10】削除 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-10-12 |
出願番号 | 特願2014-162901(P2014-162901) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C01F)
P 1 651・ 121- YAA (C01F) P 1 651・ 537- YAA (C01F) P 1 651・ 536- YAA (C01F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 塩谷 領大、森坂 英昭、田中 則充 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
山本 雄一 新居田 知生 |
登録日 | 2016-03-04 |
登録番号 | 特許第5895035号(P5895035) |
権利者 | 奥多摩工業株式会社 |
発明の名称 | 高反応性消石灰およびその製造方法、並びに排ガス処理剤 |
代理人 | 特許業務法人 山王坂特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人山王坂特許事務所 |