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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1335154
異議申立番号 異議2017-700066  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-27 
確定日 2017-11-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5956677号発明「積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5956677号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-19〕について訂正することを認める。 特許第5956677号の請求項1?5、7?16、18、19に係る特許を維持する。 特許第5956677号の請求項6、17に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5956677号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?19に係る特許についての出願は、平成26年4月9日(優先権主張平成25年4月10日 日本国、優先権主張平成25年4月23日 日本国、優先権主張平成26年2月7日日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年6月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求項1?19に係る特許について、特許異議申立人久門享(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において、平成29年5月1日付けで取消理由を通知したところ、指定期間内である平成29年6月29日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされた。また、平成29年5月1日付けで申立人に審尋したところ、指定期間内である平成29年7月10日に申立人より回答書が提出された。さらに、申立人より、平成29年8月17日に本件訂正請求について意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第5956677号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の通り、訂正後の請求項1?19について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「分子配向を有する結晶性高分子圧電体と、
引張弾性率Ec(GPa)及び厚さd(μm)の関係が下記式(A)を満たす表面層と、
を有し、
前記表面層が、三次元架橋構造を有する材料を含む、」とあるのを、
「分子配向を有する結晶性高分子圧電体と、
引張弾性率Ec(GPa)及び厚さd(μm)の関係が下記式(A)を満たす表面層と、
を有し、
前記結晶性高分子圧電体は、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcが2.0?10.0であり、
前記表面層は、前記結晶性高分子圧電体に少なくとも一部が接触するよう配置され、カルボニル基を含み且つ重合体を含み、
前記重合体が、(メタ)アクリル基を有する化合物の重合体であって三次元架橋構造を有する重合体である、」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6及び請求項17を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項18に「請求項6または請求項17に記載」とあるのを、「請求項1に記載」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項19に「請求項6または請求項17に記載」とあるのを、「請求項1に記載」と訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正前の請求項1では、「結晶性高分子圧電体」がどの分子配向を有するのか特定していなかったものを、「マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcが2.0?10.0であり、」と特定し、
また、訂正前の請求項1では、「結晶性高分子圧電体」と「表面層」との位置関係を特定せず、「表面層」が三次元架橋構造を有する材料以外特定されていなかったものを、位置関係について「前記表面層は、前記結晶性高分子圧電体に少なくとも一部が接触するよう配置され、」と、材料について「カルボニル基を含み且つ重合体を含み、前記重合体が、(メタ)アクリル基を有する化合物の重合体であって三次元架橋構造を有する重合体である、」と特定するものであり、
訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正前の請求項6に「前記結晶性高分子圧電体は、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcが2.0?10.0であり、前記表面層は、前記結晶性高分子圧電体に少なくとも一部が接触するよう配置され、カルボニル基を含み且つ重合体を含む、」と、同じく請求項17に「前記重合体が、(メタ)アクリル基を有する化合物の重合体である、」とあることからすれば、訂正事項1は、本件特許に係る願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項6及び請求項17を削除する訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
訂正前の請求項18は、「請求項6または17」を引用する請求項であり、請求項17は請求項6を引用し、請求項6は請求項1を引用するものである。すると、訂正前の請求項18は、「請求項1を引用する請求項6をさらに引用する請求項18」と、「請求項1を引用する請求項6をさらに引用する請求項17を引用する請求項18」であるところ、訂正事項3による訂正は、訂正事項1によって訂正後の請求項1が、訂正前の請求項1、6及び17を含むものなったことを踏まえれば、実質上、「請求項1を引用する請求項6をさらに引用する請求項17を引用する請求項18」のみに限定するものであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4について
訂正前の請求項19は、「請求項6または17」を引用する請求項であり、請求項17は請求項6を引用し、請求項6は請求項1を引用するものである。すると、訂正前の請求項19は、「請求項1を引用する請求項6をさらに引用する請求項19」と、「請求項1を引用する請求項6をさらに引用する請求項17を引用する請求項19」であるところ、訂正事項4による訂正は、訂正事項1によって訂正後の請求項1が、訂正前の請求項1、6及び17を含むものなったことを踏まえれば、実質上、「請求項1を引用する請求項6をさに引用する請求項17を引用する請求項19」のみに限定するものであるから、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1?19について、訂正前の請求項2?19は、訂正前の請求項1を、直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連関して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?19は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項である。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?19〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.請求項1?5、7?16、18、19に係る発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1?5、7?16、18、19に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5、7?16、18、19に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
分子配向を有する結晶性高分子圧電体と、
引張弾性率Ec(GPa)及び厚さd(μm)の関係が下記式(A)を満たす表面層と、
を有し、
前記結晶性高分子圧電体は、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcが2.0?10.0であり、
前記表面層は、前記結晶性高分子圧電体に少なくとも一部が接触するよう配置され、カルボニル基を含み且つ重合体を含み、
前記重合体が、(メタ)アクリル基を有する化合物の重合体であって三次元架橋構造を有する重合体である、積層体。
0.6≦Ec/d・・・式(A)
【請求項2】
前記式(A)におけるEc/dが、36以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記表面層の厚さdが0.01μm?10μmである、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記表面層の引張弾性率Ecが0.1GPa?1000GPaである、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項5】
前記表面層が、アクリル系化合物、メタクリル系化合物、ビニル系化合物、アリル系化合物、ウレタン系化合物、エポキシ系化合物、エポキシド系化合物、グリシジル系化合物、オキセタン系化合物、メラミン系化合物、セルロース系化合物、エステル系化合物、シラン系化合物、シリコーン系化合物、シロキサン系化合物、シリカ-アクリルハイブリット化合物、シリカ-エポキシハイブリット化合物、金属、及び金属酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料を含む、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記結晶性高分子圧電体は、可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であり、且つ25℃において応力-電荷法で測定した圧電定数d_(14)が1pC/N以上である、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項8】
前記結晶性高分子圧電体の可視光線に対する内部ヘイズが13%以下である、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項9】
前記結晶性高分子圧電体のマイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと、前記結晶性高分子圧電体のDSC法で得られる結晶化度と、の積が40?700である、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項10】
前記結晶性高分子圧電体が、カルボニル基及びオキシ基の少なくとも一方の官能基を有する繰り返し単位構造を有する高分子を含む、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項11】
前記結晶性高分子圧電体は、重量平均分子量が5万?100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含み、且つDSC法で得られる結晶化度が20%?80%である、請求項1に記載の積層体。
【請求項12】
前記ヘリカルキラル高分子が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有るポリ乳酸系高分子である、請求項11に記載の積層体。
【化1】

【請求項13】
前記ヘリカルキラル高分子は、光学純度が95.00%ee以上である、請求項11または請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
前記結晶性高分子圧電体は、前記ヘリカルキラル高分子の含有量が80質量%以上である、請求項11または請求項12に記載の積層体。
【請求項15】
前記結晶性高分子圧電体は、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する重量平均分子量が200?60000の安定化剤を含み、前記ヘリカルキラル高分子100重量部に対して前記安定化剤が0.01重量部?10重量部含まれる、請求項11または請求項12に記載の積層体。
【請求項16】
前記安定化剤が、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる官能基を1分子内に1つ有する、請求項15に記載の積層体。
【請求項17】(削除)
【請求項18】
前記重合体が、活性エネルギー線照射により硬化された活性エネルギー線硬化樹脂である、請求項1に記載の積層体。
【請求項19】
20mgの前記結晶性高分子圧電体を0.6mLの重水素化クロロホルムに溶解させた溶液について^(1)H-NMRスペクトルを測定し、測定された^(1)H-NMRスペクトルに基づき、下記式(X)により、前記結晶性高分子圧電体に含まれる高分子のアクリル末端の比率を求めたときに、
前記高分子のアクリル末端の比率が、2.0×10^(-5)?10.0×10^(-5)である、請求項1に記載の積層体。
前記高分子のアクリル末端の比率 = 前記高分子のアクリル末端に由来するピークの積分値/前記高分子の主鎖中のメチンに由来するピークの積分値 ・・・ 式(X)」

2.取消理由の概要
本件発明1?19に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。なお、申立人が特許異議申立書において主張した理由は、すべて通知した。

理由1)本件発明1?14、17?19は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2)本件発明1?19は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲第1号証:特開2012-232497号公報
甲第2号証:「オキサゾリン系反応性ポリマー エポクロス」のパンフレット、株式会社日本触媒、2015年6月30日
甲第3号証:旭化成アミダス株式会社他共編、「プラスチック・データブック」、株式会社工業調査会、1999年12月1日初版第1刷発行、p.5?13
甲第4号証:国際公開第2012/026494号

[理由1及び2について]
本件発明1は、甲第1号証の記載の発明であり、また、甲第1号証の記載の発明から容易の想到することができたものである。
また、本件発明2?14、17?19は、甲第1号証の記載の発明である。また、本件発明2?19は、甲第1号証の記載の発明から容易に想到することができたものである。

3.当審の判断
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。甲第2号証等も同じ。)には、以下の発明が記載されている。
ア.実施例14(申立人がいう「甲1発明1」が記載された実施例)には、
「ポリL-乳酸(PLLA)フィルムの片面に、塗布層用組成物を乾燥後の接着剤層の厚みが200nmとなるように塗布を行って得た二軸配向ポリL-乳酸単層フィルムであり
塗布層用組成物は、アクリル、ポリエステル、粒子、濡れ剤、添加剤を、得られる接着剤層における各成分の固形分比率が、アクリル25質量%、ポリエステル62質量%、粒子3質量%、濡れ剤5質量%、添加剤5質量%となるように、各成分を混合し、イオン交換水で希釈して作成し、
アクリルは、メチルメタクリレート30モル%/2-イソプロペニル-2-オキサゾリン30モル%/ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリレート10モル%/アクリルアミド30モル%で構成されているアクリル樹脂(Tg=50℃)を用い、アクリル樹脂は、四つ口フラスコに、イオン交換水302部を仕込んで窒素気流中で60℃まで昇温させ、次いで重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5部、亜硝酸水素ナトリウム0.2部を添加し、更にモノマー類である、メタクリル酸メチル23.3部、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン22.6部、ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリル酸40.7部、アクリルアミド13.3部の混合物を3時間にわたり、液温が60?70℃になるよう調整しながら滴下させ、滴下終了後も同温度範囲に2時間保持しつつ、撹拌下に反応を継続させ、次いで冷却して固形分が25%のアクリルの水分散体により得たものであり、
ポリエステルは、酸成分が2,6-ナフタレンジカルボン酸63モル%/イソフタル酸32モル%/5-ナトリウムスルホイソフタル酸5モル% 、グリコール成分がエチレングリコール90モル%/ジエチレングリコール10モル%で構成されているポリエステル(Tg=76℃、平均分子量12000)を用い、このポリエステルは、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル42部、イソフタル酸ジメチル17部、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル4部、エチレングリコール33部、ジエチレングリコール2部を反応器に仕込み、これにテトラブトキシチタン0.05部を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃にコントロールして加熱し、生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行い、次いで反応系の温度を徐々に255℃まで上昇させ系内を1mmHgの減圧にして重縮合反応を行い、ポリエステルを得たものである、二軸配向ポリL-乳酸単層フィルム。」(以下、「甲1(実施例14)発明」という。)が記載されている。

イ.また、比較例1(申立人がいう「甲1発明2」が記載された比較例)には、
「ポリL-乳酸(PLLA)フィルムの導電層Mを有しない側の表面に、エポキシ系接着剤を塗布して厚み2μmの接着剤層を形成した、積層フィルム。」(以下、「甲1(比較例1)発明」という。)が記載されている。

(2)本件発明1と甲1(実施例14)発明を対比して検討する。
ア.本件発明1と甲1(実施例14)発明とは、本件発明1の表面層に含まれる重合体が、三次元架橋構造を有する重合体であるのに対し、甲1(実施例14)発明の接着剤層に、そのような構造を有する重合体を含むのか不明である点(以下、「相違点1」という)で、少なくとも相違する。

イ.この相違点1について検討すると、甲1の実施例14の「接着剤層」は、アクリルとポリエステルを含むが、これらの樹脂の間で、三次元架橋構造を形成するとの直接の記載はないし、架橋させるための反応を行っているとも記載されていない。そもそも、「接着剤層」は、それぞれ重合体となったアクリルとポリエステルを混合して作成されるから、これらの樹脂の間で、三次元架橋構造を形成し得るラジカル重合性基が存在するとも直ちにいえるものでもない。(特許権者の意見書6頁8?21行)

ウ.申立人の主張について検討する。
(ア)申立人は、特許異議申立書及び回答書とともに、甲5(「プラスチック・機能性高分子材料事典」、産業調査会、2004年2月20日初版第1刷、432頁)、甲6(三田達監訳、「高分子大辞典」、丸善株式会社、平成6年9月20日発行、190頁)、甲7(「14504の化学商品」、化学工業日報社、2004年1月27日発行、1094頁、1430頁)、甲8(柳原栄一著、「接着技術のはなし」、株式会社日本実業出版社、1997年2月28日初版発行、18頁)を提出し、アクリル中の「2-イソプロペニル-2-オキサゾリン」のオキソザリン基と、ポリエステル中のカルボキシル基が反応し、三次元架橋構造を形成する旨主張する。(特許異議申立書35頁6行?末行、回答書2頁8行?9頁8行)
しかし、甲1の実施例14のポリエステル合成における、酸成分とジオール成分のモル比を比較すると、ジオール成分の方が多く、合成されたポリエステルの末端は「アルコール性水酸基」である可能性が高いし、そもそも、実施例14のポリエステルの酸成分は、「2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル42部、イソフタル酸ジメチル17部、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル4部」であり、末端がメチル基で封止されているから、申立人のいうように、ポリエステルの末端は「カルボキシル基」とはならないはずである。(特許権者の意見書4頁下から10行?6頁7行)
(イ)また、申立人は意見書を提出し、甲9(「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、1989年12月22日初版第1刷、90?91頁、178?179頁)に基づき、甲1の実施例14のポリエステルの熱分解により、末端にカルボキシル基を生じる旨主張する。(申立人の意見書4頁14行?5頁13行)
しかし、甲9に熱分解するとして示されているのはPETであり、ポリエステルではないから、甲9の記載事項をもって、直ちに甲1の実施例14のポリエステルが、熱分解により末端にカルボキシル基を生じるとはいえない。
(ウ)よって、実施例14のポリエステルにカルボキシル基が存在することをもって、そのカルボキシル基がオキソザリン基と反応し、三次元架橋構造を形成するとの申立人の主張は採用することはできない。
(エ)さらに、申立人は、意見書において、甲10(特開平9-39181号公報)、甲11(特開昭62-104838号公報)を提出し、甲1の実施例14のポリエステルには「スルホン酸ナトリウム基」が、アクリルには「アミド基」が存在し、これらがオキソザリン基と反応するとも主張する。(申立人の意見書6頁1行?7頁7行)
しかし、上記(ア)で述べたように、甲1の実施例14のアクリルとポリエステルに、「スルホン酸ナトリウム基」や「アミド基」が三次元架橋構造を形成し得るラジカル重合性基として存在するとは必ずしもいえない

エ.よって、甲1記載の実施例14の「接着剤層」は、本件発明1のように三次元架橋構造を有する重合体を含むものではないから、相違点1は実質的な相違点である。

(3)本件発明1と甲1(比較例1)発明を対比すると、本件発明1の表面層が「カルボニル基を含み且つ重合体を含み、前記重合体が、(メタ)アクリル基を有する化合物の重合体」であるのに対し、甲1(比較例1)発明はエポキシ系接着剤である点(以下、「相違点2」という。)で、少なくとも相違する。
そして、甲1には、エポキシ系接着剤が、(メタ)アクリル基を有する化合物の重合体を含むとは記載されておらず、相違点2は実質的な相違点である。

(4)すると、本件発明1は、甲1(実施例14)発明でも甲1(比較例1)発明でもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
また、結晶性高分子圧電体に積層される「表面層」について、「カルボニル基を含み且つ重合体を含み、前記重合体が、(メタ)アクリル基を有する化合物の重合体であって三次元架橋構造を有する重合体」とすることを示唆する記載は、甲2?11のいずれにも存在しない。
そして、「カルボニル基を含み且つ重合体を含み、前記重合体が、(メタ)アクリル基を有する化合物の重合体であって三次元架橋構造を有する重合体」とすることにより、「表面層がカルボニル基を含むことで、規格化分子配向MORcが前記範囲である圧電体との密着力に優れる。また、表面層における前記重合体が三次元架橋構造を有することが好ましい。三次元架橋構造を有することで、圧電体との密着性を更に向上させることができる。」(本件特許明細書の段落【0127】)との格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(5)本件発明2?5、7?16、18、19は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、本件発明1が、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明2?5、7?14、18、19は、甲1に記載された発明ではなく、本件発明2?5、7?16、18、19は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(6)したがって、本件発明1?5、7?14、18、19は甲1に記載された発明でないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないとすることはできない。
また、本件発明1?5、7?16、18、19は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、本件発明1?5、7?16、18、19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5、7?16、18、19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求により、請求項6、17に係る特許は削除されたため、請求項6、17に対して申立人がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子配向を有する結晶性高分子圧電体と、
引張弾性率Ec(GPa)及び厚さd(μm)の関係が下記式(A)を満たす表面層と、
を有し、
前記結晶性高分子圧電体は、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcが2.0?10.0であり、
前記表面層は、前記結晶性高分子圧電体に少なくとも一部が接触するよう配置され、カルボニル基を含み且つ重合体を含み、
前記重合体が、(メタ)アクリル基を有する化合物の重合体であって三次元架橋構造を有する重合体である、積層体。
0.6≦Ec/d・・・式(A)
【請求項2】
前記式(A)におけるEc/dが、36以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記表面層の厚さdが0.01μm?10μmである、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記表面層の引張弾性率Ecが0.1GPa?1000GPaである、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項5】
前記表面層が、アクリル系化合物、メタクリル系化合物、ビニル系化合物、アリル系化合物、ウレタン系化合物、エポキシ系化合物、エポキシド系化合物、グリシジル系化合物、オキセタン系化合物、メラミン系化合物、セルロース系化合物、エステル系化合物、シラン系化合物、シリコーン系化合物、シロキサン系化合物、シリカ-アクリルハイブリット化合物、シリカ-エポキシハイブリット化合物、金属、及び金属酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料を含む、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項6】 (削除)
【請求項7】
前記結晶性高分子圧電体は、可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であり、且つ25℃において応力-電荷法で測定した圧電定数d_(14)が1pC/N以上である、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項8】
前記結晶性高分子圧電体の可視光線に対する内部ヘイズが13%以下である、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項9】
前記結晶性高分子圧電体のマイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと、前記結晶性高分子圧電体のDSC法で得られる結晶化度と、の積が40?700である、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項10】
前記結晶性高分子圧電体が、カルボニル基及びオキシ基の少なくとも一方の官能基を有する繰り返し単位構造を有する高分子を含む、請求項1または請求項2に記載の積層体。
【請求項11】
前記結晶性高分子圧電体は、重量平均分子量が5万?100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含み、且つDSC法で得られる結晶化度が20%?80%である、請求項1に記載の積層体。
【請求項12】
前記ヘリカルキラル高分子が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である、請求項11に記載の積層体。
【化1】

【請求項13】
前記ヘリカルキラル高分子は、光学純度が95.00%ee以上である、請求項11または請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
前記結晶性高分子圧電体は、前記ヘリカルキラル高分子の含有量が80質量%以上である、請求項11または請求項12に記載の積層体。
【請求項15】
前記結晶性高分子圧電体は、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する重量平均分子量が200?60000の安定化剤を含み、前記ヘリカルキラル高分子100重量部に対して前記安定化剤が0.01重量部?10重量部含まれる、請求項11または請求項12に記載の積層体。
【請求項16】
前記安定化剤が、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる官能基を1分子内に1つ有する、請求項15に記載の積層体。
【請求項17】 (削除)
【請求項18】
前記重合体が、活性エネルギー線照射により硬化された活性エネルギー線硬化樹脂である、請求項1に記載の積層体。
【請求項19】
20mgの前記結晶性高分子圧電体を0.6mLの重水素化クロロホルムに溶解させた溶液について^(1)H-NMRスペクトルを測定し、測定された^(1)H-NMRスペクトルに基づき、下記式(X)により、前記結晶性高分子圧電体に含まれる高分子のアクリル末端の比率を求めたときに、
前記高分子のアクリル末端の比率が、2.0×10^(-5)?10.0×10^(-5)である、請求項1に記載の積層体。
前記高分子のアクリル末端の比率 = 前記高分子のアクリル末端に由来するピークの積分値/前記高分子の主鎖中のメチンに由来するピークの積分値 ・・・ 式(X)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-31 
出願番号 特願2015-511289(P2015-511289)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 113- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 相田 元  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 井上 茂夫
蓮井 雅之
登録日 2016-06-24 
登録番号 特許第5956677号(P5956677)
権利者 三井化学株式会社
発明の名称 積層体  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  

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