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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
管理番号 1335156
異議申立番号 異議2016-700712  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-09 
確定日 2017-11-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5855796号発明「合わせガラス用中間膜、合わせガラス用中間膜の製造方法及び合わせガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5855796号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。 特許第5855796号の請求項1?3、5?14に係る特許を維持する。 特許第5855796号の請求項4に係る特許についての申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5855796号の請求項1?14に係る特許についての出願は、平成27年 3月31日(優先権主張 平成26年 3月31日、日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成27年12月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 株式会社クラレ (以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年11月28日付けで取消理由が通知され、平成29年 1月27日付けで意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成29年 3月 9日付けで特許異議申立人から意見書が提出され、平成29年 5月31日付けで取消理由が通知され、平成29年 7月27日付けで意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成29年 8月31日付けで特許異議申立人から意見書が提出されたものである。


第2 訂正請求について
1 訂正の内容
平成29年 7月27日付けの訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線部は訂正箇所)。
なお、平成29年 1月27日付けの訂正請求は、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
請求項1に
「前記第1の層は、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角が40.1°より大きい値を示す第1の層であるか、又は、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角が54.2°より大きい値を示す第1の層である」
とあるのを、
「前記第1の層は、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角が41.2°以上の値を示す第1の層であり、かつ、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角が57.4°以上の値を示す第1の層であり、前記第1の層は、マグネシウムを100ppm以下で含む」
に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項4を削除する。

(3)訂正事項3
請求項5に
「請求項1?4のいずれか1項」
とあるのを、
「請求項1?3のいずれか1項」
に訂正する。

(4)訂正事項4
請求項6に
「請求項1?5のいずれか1項」
とあるのを、
「請求項1?3及び5のいずれか1項」
に訂正する。

(5)訂正事項5
請求項9に
「請求項1?5のいずれか1項」
とあるのを、
「請求項1?3及び5のいずれか1項」
に訂正する。

(6)訂正事項6
請求項10に
「請求項1?9のいずれか1項」
とあるのを、
「請求項1?3及び5?9のいずれか1項」
に訂正する。

(7)訂正事項7
請求項13に
「請求項1?12のいずれか1項」
とあるのを、
「請求項1?3及び5?12のいずれか1項」
に訂正する。

(8)訂正事項8
請求項14に
「請求項1?12のいずれか1項」
とあるのを、
「請求項1?3及び5?12のいずれか1項」
に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書中の実施例3、6?11を、それぞれ参考例3、6?11に訂正する。
具体的には、明細書の【0170】に
「実施例2?3及び比較例1」
とあるのを、
「実施例2、参考例3及び比較例1」
に訂正する。

明細書の【0171】、【0175】にそれぞれ
「実施例4?11」
とあるのを、
「実施例4?5、参考例6?11」
に訂正する。

明細書の【0181】の【表2】に
「実施例3」
とあるのを、
「参考例3」
に訂正する。

明細書の【0182】の【表3】に
「実施例6」?「実施例11」
とあるのを、
それぞれ、「参考例6」?「参考例11」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「合わせガラス用中間膜」において、第1の層の接触角、金属元素の種類及び含有量をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
当該訂正事項は、本件明細書【0033】、【0034】及び【0116】に記載されているから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3?8について
訂正事項3?8は、選択的に引用する請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に伴って、明細書の【0170】、【0171】、【0175】、【0181】の表2及び【0182】の表3の記載を整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項1と同様に、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)一群の請求項について
上記訂正事項1?8に係る訂正前の請求項1?14は、請求項2?14が、直接又は間接的に請求項1を引用する関係にあるから、一群の請求項であり、上記訂正事項1?8は、この一群の請求項について請求されたものである。
また、訂正事項9は、この一群の請求項の全てについて明細書を訂正するものと認められる。

3 訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。


第3 特許異議申立てについて
1 本件発明の認定
本件訂正請求により訂正された本件特許の請求項1?3、5?14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」、「本件発明5」?「本件発明14」という。)は,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3、5?14に記載された以下の事項により特定されるとおりのものであると認める(下線部は、訂正箇所)。

【請求項1】
1層の構造又は2層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、
中間膜における表面層として、熱可塑性樹脂と可塑剤と金属元素とを含む第1の層を備え、
前記第1の層は、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角が41.2°以上の値を示す第1の層であり、かつ、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角が57.4°以上の値を示す第1の層であり、
前記第1の層は、マグネシウムを100ppm以下で含む、合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
前記第1の層中の前記金属元素の含有量が20ppm以上、200ppm以下である、請求項1に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の添加に由来して、前記第1の層が、前記金属元素を含む、請求項1又は2に記載の合わせガラス用中間膜。

【請求項5】
酢酸マグネシウム又は2-エチル酪酸マグネシウムの添加に由来して、前記第1の層が、前記金属元素を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
2層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、
中間膜における表面層として、熱可塑性樹脂と可塑剤とを含む第2の層を備え、
前記第1の層の第1の表面側に、前記第2の層が配置されている、請求項1?3及び5のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項7】
前記第2の層が、金属元素を含み、
前記第2の層は、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角が40.1°より大きい値を示す第2の層であるか、又は、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角が54.2°より大きい値を示す第2の層である、請求項6に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項8】
3層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、
熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する第3の層をさらに備え、
前記第1の層と前記第2の層との間に、前記第3の層が配置されている、請求項6又は7に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項9】
1層の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、
前記第1の層のみを備える、請求項1?3及び5のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項10】
前記第1の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂である、請求項1?3及び5?9のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項11】
前記第1の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂であり、
前記第2の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂である、請求項6?8のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項12】
前記第1の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂であり、
前記第2の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂であり、
前記第3の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂である、請求項8に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項13】
請求項1?3及び5?12のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜の製造方法であって、 ベント式押出機を用いて、真空ベントのゲージ圧が500mmHg以上である条件で押出成形することにより、前記第1の層を得る工程を備える、合わせガラス用中間膜の製造方法。
【請求項14】
第1の合わせガラス部材と、
第2の合わせガラス部材と、
請求項1?3及び5?12のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜とを備え、
前記第1の合わせガラス部材と前記第2の合わせガラス部材との間に、前記合わせガラス用中間膜が配置されている、合わせガラス。

2 証拠
特許異議申立人から提出された証拠は、以下の甲第1?8号証である。
甲第1号証:特開2000-211952号公報
甲第2号証:特表2002-505210号公報
甲第3号証:特許第3635635号公報
甲第4号証:特開2010-201932号公報
甲第5号証:特開2013-91793号公報
甲第6号証:特開2013-108084号公報
甲第7号証:国際公開第2008/123150号
甲第8号証:実験結果報告書(平成28年8月5日付け 株式会社クラレ 作成)

3 取消理由の概要
(1)平成28年11月28日付けの取消理由
訂正前の請求項1?14に係る特許に対して平成28年11月28日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(ア)請求項1、2、4?12、14に係る発明は、甲第8号証を参酌すると、甲第1号証に記載された、実施例3又は比較例2の中間膜から認定される発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1、2、4?12、14に係る特許は取り消されるべきものである。

(イ)請求項1?3、7、8、13に係る発明は、甲第1?8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?3、7、8、13に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)平成29年 5月31日付けの取消理由
平成29年 1月27日に訂正請求された請求項〔1?14〕に係る特許に対して平成29年 5月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

請求項1?3、5?14に係る発明は、甲第1、3、5?7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?3、5?14に係る特許は取り消されるべきものである。

4 甲第1?8号証の記載事項
(1)甲第1号証
甲第1号証には、次の事項が記載されている。
1a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリビニルアセタール樹脂100重量部、トリエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート20?60重量部及びカルボン酸のマグネシウム塩混合物0.01?0.1重量部を含有する樹脂組成物が製膜されて成る合わせガラス用中間膜であって、上記カルボン酸のマグネシウム塩混合物が、2-エチル酪酸マグネシウム/酢酸マグネシウム(重量比)=0.5?3の関係を満たす混合物であることを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項2】 ポリビニルアセタール樹脂が、ブチラール化度が66?72モル%のポリビニルブチラール樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】 少なくとも一対のガラス間に、請求項1又は請求項2に記載の合わせガラス用中間膜を介在させ、一体化させて成ることを特徴とする合わせガラス。」

1b 「【0042】第1発明及び第2発明による中間膜においては、前述したポリビニルアセタール樹脂(ブチラール化度が66?72モル%のPVBを包含する)100重量部に対し、接着力調整剤として、2-エチル酪酸マグネシウム(以下、「C6Mg」と記す)と酢酸マグネシウム(以下、「C2Mg」と記す)とから成るカルボン酸のマグネシウム塩混合物(以下、単に「マグネシウム塩混合物」と記す)0.01?0.1重量部が添加されていることが必要であり、好ましくは0.03?0.08部である。
・・・
【0044】第1発明及び第2発明においては、上記マグネシウム塩混合物が、C6Mg/C2Mg(重量比)=0.5?3の関係を満たす混合物であることが必要であり、好ましくはC6Mg/C2Mg(重量比)=1?2.5である。・・・
【0045】上記C6Mg及びC2Mgは、・・・ 中間膜とガラスとの接着力を適正な範囲に保持させる機能を有し、その結果、得られる合わせガラスの衝撃吸収性や耐貫通性は優れたものとなる。
【0046】又、上記C6Mg及びC2Mgは、C6Mg/C2Mg(重量比)=0.5?3の関係を満たす割合で併用されることにより、・・・少量の添加量で優れた接着力調整効果を発揮する。その結果、得られる合わせガラスは、優れた衝撃吸収性や耐貫通性を有するものとなり、又、吸湿による白化現象も殆ど起こさないものとなる。
【0047】上記C6Mg/C2Mg(重量比)が0.5未満であると、・・・得られる合わせガラスの周縁部に白化現象を生じ易くなり、逆にC6Mg/C2Mg(重量比)が3を超えると、中間膜とガラスとの接着力が経時変化し易くなり、得られる合わせガラスの衝撃吸収性や耐貫通性が不安定となる。
【0048】又、前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する上記マグネシウム塩混合物の添加量が0.01重量部未満であると、接着力調整効果が不十分となって、得られる合わせガラスの衝撃吸収性や耐貫通性が十分に向上せず、逆にポリビニルアセタール樹脂100重量部に対するマグネシウム塩混合物の添加量が0.1重量部を超えると、得られる合わせガラスの透明性や耐白化性が低下する。」

1c 「【0053】第1発明及び第2発明による中間膜の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、必須成分であるポリビニルアセタール樹脂(ブチラール化度が66?72モル%のPVBを包含する)、3GO及びC6Mg/C2Mg(重量比)=0.5?3の関係を満たすカルボン酸のマグネシウム塩混合物の各所定量と、必要に応じて添加される上記各種添加剤の1種もしくは2種以上の各所定量とを、例えばミキシングロールに供給し、混練して樹脂組成物を作製した後、この樹脂組成物をプレス成形機、カレンダーロール、押出機等を用いてシート状に製膜して可塑化ポリビニルアセタール樹脂膜を成形し、これを中間膜とすれば良い。
【0054】上記可塑化ポリビニルアセタール樹脂膜は、単層で中間膜とされても良いし、2枚以上が積層された状態で中間膜とされても良い。又、中間膜は単層で用いられても良いし、2枚以上が積層された状態で用いられても良い。」

1d 「【0064】(実施例1)
・・・
【0066】(2)中間膜の製造
・・・ポリビニルブチラール樹脂100部、可塑剤としてトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)39部、接着力調整剤として2-エチル酪酸マグネシウム(C6Mg)0.02部及び酢酸マグネシウム(C2Mg)0.01部をミキシングロールに供給し、混練して樹脂組成物を得た。上記樹脂組成物中のC6Mg/C2Mg(重量比)は2であった。次いで、得られた樹脂組成物をプレス成形機に供給し、温度150℃、圧力100kg/cm^(2) 、時間30分間の条件でプレス成形を行って製膜し、厚さ0.8mmの中間膜を得た。
【0067】(3)合わせガラスの作製
上記で得られた中間膜を300mm×300mmに裁断して、2枚のフロートガラス(厚さ2.5mm)間に挟着し、この挟着物を真空バッグに入れて真空度20torrで20分間保持した後、真空にしたままの状態で90℃のオーブン内に入れ、30分間保持して予備接着を行った。次いで、予備接着された挟着物を真空バッグから取り出し、オートクレーブ中で温度150℃、圧力13kg/cm^(2) の条件で本接着を行って、合わせガラスを得た。」

1e 「【0068】(4)評価
(3)で得られた合わせガラスの性能 ・・・ を以下の方法で評価した。その結果は表2に示すとおりであった。
【0069】・・・ パンメル値:-18±0.6℃の温度下に16時間放置して調温した合わせガラスを頭部が0.45Kgのハンマーで叩いて、ガラスの粒子径が6mm以下となるまで粉砕した。次いで、ガラスが部分剥離した後の中間膜の露出度を予めグレード付けした限度見本で判定し、その結果を下記表1に示す判定基準に従ってパンメル値として表した。尚、パンメル値は初期及び50℃-4週間放置後の2条件について求めた。上記パンメル値が大きいほど中間膜とガラスとの接着力が大きく、パンメル値が小さいほど中間膜とガラスとの接着力が小さい。
【0070】



1f 「【0075】(実施例3)中間膜の製造において、接着力調整剤としてのC6Mgの添加量を0.02部及びC2Mgの添加量を0.02部としたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。上記樹脂組成物中のC6Mg/C2Mg(重量比)は1であった。次いで、上記樹脂組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして中間膜及び合わせガラスを得た。
・・・
【0077】(比較例2)中間膜の製造において、接着力調整剤としてのC6Mgの添加量を0.08部及びC2Mgの添加量を0.04部としたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。上記樹脂組成物中のC6Mg/C2Mg(重量比)は2であった。又、ポリビニルブチラール樹脂100部に対するC6Mg及びC2Mgの合計添加量は0.12部であった。次いで、上記樹脂組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして中間膜及び合わせガラスを得た。
・・・
【0079】実施例2及び3、並びに、比較例1?3で得られた5種類の合わせガラス及び中間膜の性能 ・・・ を実施例1の場合と同様にして評価した。その結果は表2に示すとおりであった。」

1g 「【0080】
【表2】

【0081】表2から明らかなように、本発明による実施例1?3の中間膜を用いて製せられた実施例1?3の合わせガラスは、初期及び経時後(50℃-4週間後)のいずれにおいても適正なパンメル値、即ち中間膜とガラスとの適正な接着力を保持しており、耐貫通性に優れていた。 ・・・」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
2a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも1層のガラスと可塑化ポリビニルブチラールのシートとを含む積層体であって、前記ポリビニルブチラールは、前記ガラスの層と前記ポリビニルブチラールのシートとの間に予め選択された接着レベルを提供するための接着制御剤と、表面エネルギー改変剤とをその中に含有し、前記表面エネルギー改変剤は、前記ガラスの層と前記ポリビニルブチラールのシートと間の予め選択された接着レベルを実質的に変化させることなしに約52dyne/cm未満の全表面エネルギーを有する前記ポリビニルブチラールのシートを提供するのに十分な量で存在することを特徴とする積層体。
・・・
【請求項5】 改変剤が、中鎖から長鎖のカルボン酸の塩である。
【請求項6】 前記全表面エネルギーが35から52dyne/cmであることを特徴とする請求項1記載の積層構造体。
【請求項7】 前記接着制御剤が、有機酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属または遷移金属の塩からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1記載の積層構造体。
・・・ 」

2b 「【0009】
・・・ 接着レベルが高すぎると、積層体がモノリシックになり、衝撃が吸収できなくなる可能性があるか、または、接着力が低すぎると、衝撃時に構造体からガラスの破片が飛散してしまうことは周知である。どちらの場合にも、接着レベルの変化により、積層体は許容しがたいものになる。
【0010】
したがって本発明の目的は、積層構造体の接着レベルまたは他の重要な特性を不利な方向に変化させることなく、耐層剥離性の付与により、好ましくない虫食い状、樹枝状の層剥離のない積層構造体を提供することである。
【0011】
(発明の概要)
本発明によれば、少なくとも1層のガラスと可塑化PVBのシートとを含むガラス/接着シートの積層構造体を提供するものであり、前記PVBには、前記ガラスの層と前記PVBのシートとの間に、自動車のフロントガラス、サイドウィンドウおよび車体ガラスとして使用するのに適した、予め選択された接着レベルを提供するための接着制御剤がその中に混合されており、前記PVBはまた、前記ポリマーのバルク中に表面エネルギー改変剤を、前記ポリビニルブチラール中間層のシートが約52dyne/cm未満の全表面エネルギーを有するような量で含んでいる。」

2c 「【0013】
本発明によれば、空気を分散状態に保ち、微細な気泡が合一して層剥離に成長するのを防ぐことによって、層剥離をなくすか、またはこれを大幅に減少させる。これはPVBシートのバルクの表面エネルギーを制御することにより達成される。一般に、その表面エネルギーは約52dyne/cm未満とすべきである。積層体が自動車のフロントガラスおよび他の自動車用途に使用できるように、ガラスとPVB中間層との間の接着レベルまたはコンプライアンス、剛性、エネルギー吸収特性のようなPVB中間層の諸特性のバランスを実質的に変化させることなく非溶解空気および揮発性物質を安定化するには、約35から50dyne/cmの範囲の表面エネルギーが有効である。」

2d 「【0014】
(詳細な説明)
・・・ 広範囲の接着制御剤が、ポリビニルブチラールのシート材と共に使用できる。本発明において、PVBシートは、トリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエートまたはエステル類およびテトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエートからなる群から選ばれた相容可能な量のエステルで、またはトリエチレングリコールジ-2-エチルブチレートおよびトリエチレングリコールジ-2-ヘキサノエートのような相容可能な量の同様の分岐または非分岐のグリコールジエステルで可塑化され、接着制御剤として、アルカリまたはアルカリ土類金属カルボン酸塩、例えばギ酸塩、酢酸塩等のようなものを含んでいる。 ・・・ 他の適切な接着制御剤には、酢酸カリウム、ギ酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、ネオデカン酸マグネシウム、種々の有機酸の亜鉛およびカルシウム塩が含まれる。
【0015】
本発明には、 ・・・ 2-エチルヘキサン酸マグネシウムなどのような少なくとも炭素原子数4の中鎖から長鎖の分岐または非分岐のカルボン酸の塩など種々の表面エネルギー改変剤を使用することができる。 ・・・ 」

2e 「【0024】
表面エネルギーは当技術分野で公知の接触角法によって求められ、ここに要約する。この測定には、PVBシート材の平滑表面を用意しなければならない。PVBシート材の表面パターンは、 ・・・ PVB上の水およびヨウ化メチレンの前進および後退接触角を測定する。PVBの表面エネルギーを、下記に記載した調和平均法を使って、平均前進接触角から計算した。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、次の事項が記載されている。
3a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均アセタール化度が66?72モル%のポリビニルアセタール100重量部とトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、オリゴエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート及びテトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエートからなる群より選択される少なくとも1種の可塑剤30?50重量部とからなる可塑化ポリビニルアセタール中に、炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩及び炭素数2?100カルボン酸のカリウム塩からなる群より選択される少なくとも2種の塩が合計5ppm以上含有されてなる可塑化ポリビニルアセタール樹脂膜からなることを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
150℃で1時間放置した際の重量減少が3重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
厚さ2.0?4.0mmの2枚のガラスで挟み込んで合わせガラスを作製した後、前記合わせガラスを80℃、相対湿度95%の環境下に2週間放置した際の端辺からの白化距離が7mm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
ポリビニルアセタールは、平均ブチラール化度が66?72モル%のポリビニルブチラールであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
塩の含有量は、10?150ppmであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の合わせガラス用中間膜が用いられていることを特徴とする合わせガラス。」

3b 「【0021】
上記合わせガラス用中間膜は、上記可塑剤のほかに、炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩及び炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩からなる群より選択される少なくとも2種を含むが、これらは、接着力調整剤として用いられるものである。
・・・
【0023】
上記合わせガラス用中間膜中の炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩及び炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩からなる群より選ばれる2種以上の塩は、合わせガラス用中間膜中に合計量で5ppm以上含有されていることが好ましい。塩の含有量が5ppm未満では、得られる合わせガラス用中間膜の接着力の調整がしにくくなるからである。より好ましくは、10?150ppmである。塩の含有量が150ppmを超えた場合には、得られる中間膜の耐湿性が低下することがある。 」

3c 「【0033】
実施例1
(1)ポリビニルブチラールの合成
純水2890gに、平均重合度1700、鹸化度99.2モル%のポリビニルアルコール275gを加えて加熱溶解した。反応系を15℃に温度調節し、35重量%の塩酸201gとn-ブチルアルデヒド157gとを加え、この温度を保持しながら反応物を析出させた。その後 ・・・ 白色粉末状のポリビニルブチラールを得た。このポリビニルブチラールの平均ブチラール化度は68.5モル%であった。
【0034】
(2)合わせガラス用中間膜の製造
上記で得られたポリビニルブチラール100重量部に対し、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート39重量部を配合し、更に、酢酸マグネシウムが20ppm、2-エチル酪酸マグネシウムが40ppmの含有量となるようにこれらを添加し、ミキシングロールで充分に溶融混練した後、プレス成形機を用いて150℃で30分間プレス成形し、平均膜厚0,76mmの合わせガラス用中間膜を得た。
【0035】
(3)合わせガラスの製造
上記で得られた合わせガラス用中間膜を、その両端から透明なフロートガラス(縦30cm×横30cm×厚さ3mm)で挟み込み、これをゴムバック内に入れ、20torrの真空度で20分間脱気した後、脱気したままオーブンに移し、更に、90℃で30分間保持しつつ真空プレスした。このようにして予備圧着された合わせガラスをオートクレーブ内で135℃、圧力12kg/cm^(2)の条件で20分間圧着を行い、合わせガラスを得た。
【0036】
得られた合わせガラスを下記の評価方法で評価した。結果を表2に示した。
【0037】
評価方法1、パンメル値
中間膜のガラスに対する接着性はパンメル値で評価した。即ち、合わせガラスを-18±0.6℃の温度に16時間放置した後、これを頭部が0.45kgのハンマーで叩いてガラスの粒径が6mm以下になるまで粉砕した。ガラスが部分剥離した後の膜の露出度を予めグレード付けした限度見本で判定し、その結果を下記表1に従いパンメル値として表した。なお、パンメル値が大きい程ガラスとの接着力も大きく、パンメル値が小さい程ガラスとの接着力も小さい。
【0038】
【表1】



3d 「【0041】
実施例2
接着力調整剤として、酢酸カリウム70ppm、2-エチル酪酸マグネシウム20ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にして合わせガラスを作製し評価した。得られた結果を表2に示した。
【0042】
実施例3
接着力調整剤として、酢酸マグネシウム20ppm、2-エチルヘキシル酸マグネシウム60ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にして合わせガラスを作製し評価した。得られた結果を表2に示した。」

3e 「【0048】
【表2】



(4)甲第4号証
甲第4号証には、次の事項が記載されている。
4a 「【0001】
本発明は、複数種のポリビニルアセタール系樹脂層を積層した構造を有する熱可塑性樹脂シート及び熱可塑性樹脂シートを用いた積層体に関し、例えば車両等に用いられる合わせガラスの中間膜に好適に用いられる熱可塑性樹脂シート及び該熱可塑性樹脂シートを用いた積層体に関する。」

4b 「【0145】
(実施例1)
重合度1700のポリビニルアルコールをブチルアルデヒドでアセタール化してなるPVB(平均重合度1700、ブチラール化度68.5モル%、残存アセチル基0.7モル%)100重量部に、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)40重量部、接着力調整剤として酢酸マグネシウム/2-エチル酪酸マグネシウム混合物を樹脂組成物全量に対してマグネシウム量が50ppmになるように添加・混合し、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)を形成するための第1の樹脂を調製した。
【0146】
別途、重合度2000のポリビニルアルコールをアセトアルデヒド及びブチルアルデヒドを用いて共アセタール化することにより得られた共アセタール化ポリビニルアセタール樹脂(平均重合度2000、全アセタール化度69.5モル%、残存アセチル基1.3モル%、アセトアルデヒドによるアセタール化度37.8モル%、ブチルアルデヒドによるアセタール化度31.8モル%)100重量部に対し、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)25重量部を混合し、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)用の樹脂を調製した。
【0147】
多層押出し成形機に、上記第1,第2の樹脂を供給し、一体成形することにより、第1の外層(第1のポリビニルアセタール樹脂層(A))/内層(第2のポリビニルアセタール樹脂層(B))/第2の外層:第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の3層構造の厚さ0.75mmの熱可塑性樹脂シートを得た。」

(5)甲第5号証
甲第5号証には、次の事項が記載されている。
5a 「【0001】
本発明は、加熱ラミネート時に適切な範囲内で収縮するポリビニルアセタール系樹脂フィルムおよびその製造方法、並びに、そのフィルムを少なくとも一層に用いた多層構造体、そのフィルムを用いた太陽電池用封止材および太陽電池モジュール、そのフィルムを用いた合わせガラス用中間膜および合わせガラスに関する。」

5b 「【0053】
本発明のポリビニルアセタール系フィルムの製造方法としては、押出機を用いてフィルムを製造する方法が好適に用いられる。押出し時の樹脂温度は150?250℃が好ましく、180?230℃がより好ましい。樹脂温度が高くなりすぎるとポリビニルアセタール系樹脂が分解を起こし、揮発性物質の含有量が多くなる。逆に温度が低すぎると、やはり揮発性物質の含有量は多くなる。揮発性物質を効率的に除去するためには、押出機のベント口から減圧により、揮発性物質を除去することが好ましい。」

(6)甲第6号証
甲第6号証には、次の事項が記載されている。
6a 「【0001】
本発明は、太陽電池モジュールおよびエレクトロクロミック機能またはエレクトロルミネッセンス機能を有する合わせガラス等、酸成分による腐食の影響を受けやすい物質を含む、ガラスとの積層体に使用されるポリビニルアセタールフィルムおよびその製造方法、並びにそのフィルムを用いてなる太陽電池モジュールおよび合わせガラスに関する。」

6b 「【0064】
また、本発明の可塑化ポリビニルアセタールフィルムは、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーで、120℃で30分加熱した後にフィルムに含まれるアルデヒドの3量体およびそれよりも低沸点の有機揮発分の合計量が500ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましく、200ppm以下がさらに好ましく、100ppm以下が特に好ましく、50ppm以下が最も好ましい。特に、酸化によりカルボン酸を生じるアルデヒドの単量体、2量体および3量体の合計量が300ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましく、150ppm以下がさらに好ましく、100ppm以下が特に好ましく、50ppm以下がより好ましい。」

6c 「【0075】
これらの添加剤を適宜添加し、フィルムを製造する方法は特に制限はなく、公知の方法が用いられるが、押出機を用いてフィルムを製造する方法が好適に用いられる。 ・・・ 揮発性物質を効率的に除去するためには、押出機のベント口から減圧により、揮発性物質を除去することが好ましい。」

(7)甲第7号証
甲第7号証には、次の事項が記載されている。
7a 「【0006】
本発明は、 ・・・ 製造時および取り扱い時に臭気の発生がほとんどない、ポリビニルブチラール樹脂ペレットを提供することを目的とする。」

7b 「【0027】
本発明の目的を達成するためには、溶融時に脱揮が行われる、すなわち溶融が減圧下で行われる必要がある。したがって、溶融工程には、少なくとも1ヶ所の減圧手段を備えた脱揮用のベント部を有する溶融押出し機を用いる。 ・・・ 脱揮の条件としては、減圧度が0.05MPa以上、好ましくは0.07MPa以上、さらに好ましくは0.08MPa以上である。
・・・
【0032】
・・・ 上記の方法により製造された、上記のような優れた特性を有するポリビニルブチラール樹脂ペレットが、ブチルアルデヒドおよび2-エチル-2-ヘキセナールの合計含有量が100重量ppm以下であるという特徴を有していることを見出した ・・・ 」

(8)甲第8号証
甲第8号証には、甲第1号証に記載の実施例3及び比較例2の合わせガラス用中間膜について、本件明細書【0172】?【0175】の記載の方法に倣って、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角及びエチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角は、それぞれ実施例3が41.0°及び56.3°であり、比較例2が42.1°及び56.6°であることが示されている。

5 当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号について
(ア)本件発明1について
本件発明1と、甲第1号証の実施例3及び比較例2にそれぞれ記載された合わせガラス用中間膜とを対比する。
ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角及びエチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角について、本件発明1の合わせガラス用中間膜は、それぞれ41.2°以上の値及び57.4°以上の値を示すものである。
これに対して、甲第8号証を参照すると、甲第1号証の実施例3に記載された合わせガラス用中間膜は、上記各接触角がそれぞれ41.0°及び56.3°であり、また、甲第1号証の比較例2に記載された合わせガラス用中間膜は、上記各接触角がそれぞれ42.1°及び56.6°である。
そうすると、本件発明1と、甲第1号証の実施例3に記載された合わせガラス用中間膜とは、エチレングリコール及びジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角の値がいずれも相違し、また、本件発明1と、甲第1号証の比較例2に記載された合わせガラス用中間膜とは、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角の値が相違している。

したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

(イ)本件発明2、3、5?14について
本件発明2、3、5?14は、本件発明1の特定事項の全てを含むものである。
そうすると、上記(ア)と同様の理由により、本件発明2、3、5?14は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

(2)特許法第29条第2項について
(ア)本件発明1について
本件発明1は、合わせガラス用中間膜の第1の層は、マグネシウムを100ppm以下で含むものであり、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角が41.2°以上の値を示し、かつ、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角が57.4°以上の値を示すことを特定することにより、中間膜と合わせガラス部材との接着力を効果的に良好にすることができるというものである(請求項1,本件明細書【0027】)。
また、前記第1の層は、ベント式押出機を用いて、真空ベントのゲージ圧が500mmHg以上である条件で押出成形することにより得られるというものである(本件明細書【0019】)。
そして、具体的には、実施例1、4において、マグネシウムの含有量を70ppmとした樹脂を、ベント式押出機を用いて、真空ベントのゲージ圧(ベント圧)を520mmHgの条件で押出成形して、ジヨードメタン及びエチレングリコールを用いて測定した接触角がそれぞれ42.1°及び57.4°であり、パンメル値が3.3である合わせガラス用中間膜を作成し、また、実施例2、5において、マグネシウムの含有量を80ppmとした樹脂を、ベント式押出機を用いて、真空ベントのゲージ圧(ベント圧)を700mmHgの条件で押出成形して、ジヨードメタン及びエチレングリコールを用いて測定した接触角がそれぞれ41.5°及び61.9°であり、パンメル値が2.5である合わせガラス用中間膜を作成している。

これに対して、記載事項1a?1cによれば、甲第1号証に記載された合わせガラス用中間膜は、接着力調整剤として、2-エチル酪酸マグネシウムと酢酸マグネシウムとからなるカルボン酸のマグネシウム塩混合物を0.01?0.1重量部含み、また、上記マグネシウム塩混合物は、2-エチル酪酸マグネシウム/酢酸マグネシウム(重量比)=0.5?3の関係を満たすように含むものである。
ここで、記載事項1aで規定された、ポリビニルアセタール樹脂100重量部、トリエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート20?60重量部が含まれる中間膜のマグネシウムの含有量(ppm)を計算すると、以下のとおりになる。

● マグネシウム含有量の上限値
ポリビニルアセタール樹脂100重量部
トリエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート20重量部
マグネシウム塩混合物0.1重量部
(2-エチル酪酸マグネシウム 0.033重量部
酢酸マグネシウム 0.066重量部 )
[0.033×(24.3/254.6)+0.066×(24.3/142.4)]÷[100+20+(0.1)]×10^(6) ≒ 120ppm

● マグネシウム含有量の下限値
ポリビニルアセタール樹脂100重量部
トリエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート60重量部
マグネシウム塩混合物0.01重量部
(2-エチル酪酸マグネシウム 0.0075 重量部
酢酸マグネシウム 0.0025 重量部 )

[0.0075 ×(24.3/254.6)+0.0025 ×(24.3/142.4)]÷[100+60+(0.01)]×10^(6) ≒ 7ppm

したがって、甲第1号証に記載された合わせガラス用中間膜は、マグネシウムの含有量が7ppm?120ppmの範囲内で、接着力調整剤を添加することを想定しているといえるから、マグネシウムの含有量は、本件発明1と重複している。

しかし、甲第1号証に記載された具体例である実施例1?3は、マグネシウムの含有量を上記と同様に計算すると、26?38ppmの範囲であるが、パンメル値は、5又は6であり、また、上記実施例3よりも接触角が大きい比較例2は、マグネシウムの含有量は104ppmであるが、パンメル値は4であり、本件明細書の表1と記載事項1eを参照すると、いずれも、本件明細書に記載の参考例の中間膜のパンメル値と重複する範囲のものにすぎず、当該参考例のジヨードメタン及びエチレングリコールによる接触角の少なくとも一方は、本件発明1で規定する接触角の値を充足しないから、甲第1号証において、本件発明1で規定する接触角を有する合わせガラス用中間膜が想定されているとまではいえない。

しかも、上記のとおり、本件発明1の実施例では、マグネシウムの含有量と押出成形時のベント圧を設定することにより、本件発明1で規定する接触角を得ているものであるのに対し、甲第1号証では、具体的には、樹脂組成物をプレス成型機に供給しプレス成形を行って成膜しているから、具体的な中間膜の成形方法も異なるものであって、甲第1号証に記載された中間膜にマグネシウムが本件発明1と重複する範囲で含まれているとしても、本件発明1の実施例のように押出成形時のベント圧を設定して合わせガラス用中間膜の接触角を調節していることも想定できない。

そうすると、甲第1号証の記載から、本件発明1で規定する接触角を、当業者が容易に設定し得たとはいえない。

次に、甲第2号証は、記載事項2a?2eによれば、酢酸マグネシウムなどの接着制御剤、及び2-エチルヘキサン酸マグネシウムなどの表面エネルギー改変剤を含有させることで、ポリビニルブチラールシートの中間膜の表面エネルギーを52dyne/cm未満に制御することについて記載されている。
したがって、甲第2号証には、中間膜の接触角を大きくする方向に設定することについて記載されているといえるが、マグネシウム塩を添加した具体例の記載はなく、中間膜の層を、本件発明1で規定する接触角の範囲に調節することが示唆されているとはいえない。

甲第3号証は、記載事項3c?3eによれば、接着力調整剤として、酢酸マグネシウム20ppm、2-エチルヘキシル酸マグネシウム60ppmを添加して、パンメル値3の中間膜を得ている。
本件明細書の表1と記載事項3cを参照すると、当該パンメル値は、本件発明1の実施例のパンメル値と近似しているといえる。
しかし、上記接着力調整剤の含有量は、記載事項3bによれば、中間膜中のマグネシウム塩の含有量として規定するものであるから、上記実施例3のマグネシウムの含有量は、本件発明1のマグネシウムの含有量が70ppm又は80ppmである実施例と同一であるとはいえず、また、甲第3号証の上記中間膜はプレス成形により得るものであるから、甲第3号証の記載から、本件発明1で規定する接触角を、当業者が容易に設定し得えたとはいえない。

甲第4号証は、記載事項4a、4bによれば、接着力調整剤として酢酸マグネシウム/2-エチル酪酸マグネシウム混合物を樹脂組成物全量に対してマグネシウム量が50ppmとなるように添加したポリビニルアセタール樹脂を含む2種類の樹脂を多層押出し成形機に供給し、一体成形することにより中間膜用熱可塑性樹脂シートを得たことが記載されている。
しかし、押出し成形機のベントの条件は何ら記載されていないから、甲第4号証の記載から、本件発明1で規定する接触角を、当業者が容易に設定し得えたとはいえない。

甲第5、6号証には、記載事項5a、5b及び記載事項6a?6cによれば、押出機を用いて合わせガラス用中間膜を製造する際に、揮発性物質を除去するためにベント口から減圧することが記載され、また、甲第7号証には、記載事項7a、7bによれば、ポリビニルブチラール樹脂ペレット中のブチルアルデヒド及び2-エチル-2-ヘキセナールの合計含有量を100ppm以下とするために、溶融工程では、脱揮用のベント部を有する溶融押出し機を用いて、減圧度を、好ましくは0.07MPa以上、さらに好ましく
は0.08MPa以上とすることが記載されている。
しかし、甲第5?7号証には、押出成形時のベント圧を設定することで中間膜の表面層の接触角を調節することは何ら示唆されておらず、中間膜を押出成形で製造することが周知の技術手段であるとしても、甲第5?7号証の記載から、本件発明1で規定する接触角を、当業者が容易に設定し得たとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲第1?8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明2、3、5?14について
本件発明2、3、5?14は、本件発明1の特定事項の全てを含むものである。
そうすると、上記(ア)と同様の理由により、本件発明2、3、5?14は、甲第1?8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

6 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、平成29年 8月31日付けの意見書において、進歩性に関する主張の他に、本件明細書の実施例及び参考例を比較すると、特にエチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角は同じベント圧であっても大きくばらついているなどの理由から、本件発明1を実施することができない旨主張している(意見書8ページ)。
しかし、実施例及び参考例は、マグネシウムの含有量をそれぞれ変更して中間膜を作製して接触角を測定したものであり、同じベント圧であっても接触角はマグネシウムの含有量に応じて当然変動することが想定され、また、実施例1、2、4、5では、上記5に記載したとおり、マグネシウムの含有量に応じてベント圧を調節して本件発明1で規定する接触角が得られたことが記載されているから、本件明細書の発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1?3、5?14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3、5?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項4に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4に対する特許異議の申立については、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
合わせガラス用中間膜、合わせガラス用中間膜の製造方法及び合わせガラス
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラスを得るために用いられる合わせガラス用中間膜及び合わせガラス用中間膜の製造方法に関する。また、本発明は、上記合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
合わせガラスは、一般に、外部衝撃を受けて破損してもガラスの破片の飛散量が少なく、安全性に優れている。このため、上記合わせガラスは、自動車、鉄道車両、航空機、船舶及び建築物等に広く使用されている。上記合わせガラスは、2つのガラス板の間に合わせガラス用中間膜を挟み込むことにより、製造されている。
【0003】
上記合わせガラス用中間膜としては、1層の構造を有する単層の中間膜と、2層以上の構造を有する多層の中間膜とがある。
【0004】
上記合わせガラス用中間膜の一例として、下記の特許文献1には、アセタール化度が60?85モル%のポリビニルアセタール樹脂100重量部と、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の内の少なくとも一種の金属塩0.001?1.0重量部と、30重量部を超える可塑剤とを含む遮音層が開示されている。この遮音層は、単層で中間膜として用いられ得る。
【0005】
さらに、下記の特許文献1には、上記遮音層と他の層とが積層された多層の中間膜も記載されている。遮音層に積層される他の層は、アセタール化度が60?85モル%のポリビニルアセタール樹脂100重量部と、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の内の少なくとも一種の金属塩0.001?1.0重量部と、30重量部以下である可塑剤とを含む。
【0006】
特許文献1では、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩としては、K、Na及びMgの塩が挙げられている。
【0007】
また、下記の特許文献1には、ポリビニルアセタール樹脂と、可塑剤と、カルボン酸の金属塩と、有機酸とを含有する樹脂組成物より形成されている中間膜が開示されている。
【0008】
特許文献2では、カルボン酸の金属塩として、Mg、Ca及びZnの塩が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-070200号公報
【特許文献2】特開平5-186250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
合わせガラスにおいて、中間膜とガラス板との接着力が低すぎると、合わせガラスが外部衝撃を受けて破損しやすくなり、ガラスの破片が飛散しやすくなる。中間膜とガラス板との接着力が高すぎると、中間膜とガラス板とが同時に割れやすくなる。従って、合わせガラスの安全性を高めるためには、中間膜とガラス板との接着力をある範囲に調整する必要がある。自動車に用いられる合わせガラスでは、中間膜とガラス板との接着力をある範囲に調整することは、自動車事故等の際に、乗員及び物品が合わせガラスに衝突する時の衝撃を吸収したり、乗員及び物品が合わせガラスを貫通するのを防いだりすることに大きな役割を果たす。また、建築物に用いられる合わせガラスでは、中間膜とガラス板との接着力をある範囲に調整することは、外部からの飛来物によって合わせガラスが破損してもガラスの破片を飛散し難くしたり、外部からの飛来物が、合わせガラスを貫通するのを防いだりすることに大きな役割を果たす。
【0011】
中間膜とガラス板との接着力を調整するために、特許文献1,2では、接着力調整剤が用いられている。
【0012】
しかしながら、従来の接着力調整剤を用いて合わせガラスを作製したとしても、中間膜とガラス板との接着力を良好に制御することが困難なことがある。
【0013】
本発明の目的は、合わせガラスにおいて、中間膜と合わせガラス部材との接着力を効果的に良好にすることができる合わせガラス用中間膜及び合わせガラス用中間膜の製造方法を提供することである。また、本発明は、上記合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の広い局面によれば、1層の構造又は2層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、中間膜における表面層として、熱可塑性樹脂と可塑剤と金属元素とを含む第1の層を備え、前記第1の層は、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角が40.1°より大きい値を示す第1の層であるか、又は、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角が54.2°より大きい値を示す第1の層である、合わせガラス用中間膜が提供される。
【0015】
本発明に係る合わせガラス用中間膜のある特定の局面では、前記第1の層中の前記金属元素の含有量が20ppm以上、200ppm以下である。
【0016】
本発明に係る合わせガラス用中間膜のある特定の局面では、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の添加に由来して、前記第1の層が、前記金属元素を含む。
【0017】
本発明に係る合わせガラス用中間膜のある特定の局面では、前記金属元素が、多価金属元素である。
【0018】
本発明に係る合わせガラス用中間膜のある特定の局面では、酢酸マグネシウム又は2-エチル酪酸マグネシウムの添加に由来して、前記第1の層が、前記金属元素を含む。
【0019】
本発明に係る合わせガラス用中間膜のある特定の局面では、前記第1の層が、ベント式押出機を用いて、真空ベントのゲージ圧が500mmHg以上である条件で押出成形することにより得られる。
【0020】
本発明に係る合わせガラス用中間膜のある特定の局面では、前記合わせガラス用中間膜は、2層以上の構造を有し、中間膜における表面層として、熱可塑性樹脂と可塑剤とを含む第2の層を備え、前記第1の層の第1の表面側に、前記第2の層が配置されている。
【0021】
本発明に係る合わせガラス用中間膜のある特定の局面では、前記第2の層が、金属元素を含み、前記第2の層は、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角が40.1°より大きい値を示す第2の層であるか、又は、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角が54.2°より大きい値を示す第2の層である。
【0022】
本発明に係る合わせガラス用中間膜のある特定の局面では、前記合わせガラス用中間膜は、3層以上の構造を有し、熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する第3の層をさらに備え、前記第1の層と前記第2の層との間に、前記第3の層が配置されている。
【0023】
本発明に係る合わせガラス用中間膜のある特定の局面では、前記合わせガラス用中間膜は、1層の構造を有し、前記第1の層のみを備える。
【0024】
前記第1の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。前記第2の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。前記第3の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。
【0025】
本発明の広い局面によれば、上述した合わせガラス用中間膜の製造方法であって、ベント式押出機を用いて、真空ベントのゲージ圧が500mmHg以上である条件で押出成形することにより、前記第1の層を得る工程を備える、合わせガラス用中間膜の製造方法が提供される。
【0026】
本発明の広い局面によれば、第1の合わせガラス部材と、第2の合わせガラス部材と、上述した合わせガラス用中間膜とを備え、前記第1のガラス部材と前記第2のガラス部材との間に、前記合わせガラス用中間膜が配置されている、合わせガラスが提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る合わせガラス用中間膜は、1層の構造又は2層以上の構造を有し、中間膜における表面層として、熱可塑性樹脂と可塑剤と金属元素とを含む第1の層を備え、上記第1の層は、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角が40.1°より大きい値を示す第1の層であるか、又は、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角が54.2°より大きい値を示す第1の層であるので、本発明に係る合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスにおいて、中間膜と合わせガラス部材との接着力を効果的に良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る合わせガラス用中間膜を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の第2の実施形態に係る合わせガラス用中間膜を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、図1に示す合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスの一例を模式的に示す断面図である。
【図4】図4は、図2に示す合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスの一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0030】
本発明に係る合わせガラス用中間膜(本明細書において、「中間膜」と略記することがある)は、1層の構造又は2層以上の構造を有する。本発明に係る中間膜は、1層の構造を有していてもよく、2層以上の構造を有していてもよく、3層以上の構造を有していてもよい。本発明に係る中間膜は、熱可塑性樹脂と可塑剤と金属元素とを含有する第1の層を備える。本発明に係る中間膜は、第1の層のみを備える単層の中間膜であってもよく、第1の層と他の層とを備える多層の中間膜であってもよい。本発明に係る中間膜は、中間膜における表面層として、上記第1の層を備える。
【0031】
本発明に係る中間膜では、上記第1の層は、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角が40.1°より大きい値を示す第1の層であるか、又は、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角が54.2°より大きい値を示す第1の層である。
【0032】
本発明に係る中間膜では、上記の構成が備えられているので、本発明に係る中間膜を用いた合わせガラスにおいて、中間膜と合わせガラス部材との接着力を効果的に良好にすることができる。中間膜と合わせガラス部材との接着力を良好にすることができる結果として、合わせガラスの耐貫通性を高めることができる。合わせガラスの耐貫通性を効果的に高めるためには、第1の層に金属元素を含ませることに加えて、第1の層における接触角が上記の範囲を満足するようにすればよいことが、本発明者により見出された。
【0033】
中間膜と合わせガラス部材との接着力をより一層効果的に良好にする観点からは、中間膜、第1の層及び第2の層のそれぞれにおいて、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角は好ましくは40.2°以上、より好ましくは40.4°以上、更に好ましくは40.6°以上、特に好ましくは41°以上、最も好ましくは41.2°以上である。中間膜、第1の層及び第2の層のそれぞれにおいて、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角の上限は特に限定されないが、上記接触角は、好ましくは60°以下、より好ましくは55°以下、更に好ましくは50°以下、特に好ましくは45°以下、最も好ましくは43°以下である。
【0034】
中間膜と合わせガラス部材との接着力をより一層効果的に良好にする観点からは、中間膜、第1の層及び第2の層のそれぞれにおいて、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角は好ましくは54.5°以上、より好ましくは54.9°以上、更に好ましくは55°以上、特に好ましくは55.5°以上、最も好ましくは57.4°以上である。中間膜、第1の層及び第2の層のそれぞれにおいて、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角の上限は特に限定されないが、上記接触角は、好ましくは70°以下、より好ましくは65°以下、更に好ましくは64°以下、特に好ましくは63°以下、最も好ましくは62°以下である。
【0035】
上記接触角は、表面層における外表面にて測定される。測定装置として、協和界面科学社製「DropMaster500」を用いることができる。また、上記接触角は、具体的には、以下のようにして測定される。
【0036】
(測定環境)温度23℃、相対湿度50%
【0037】
(測定方法)ジヨードメタンもしくはエチレングリコールを注射器に採取し、針先へ2.0μLの液滴を作製する。作製した液滴を中間膜に接触させ、中間膜上へ液滴を形成する。中間膜上へ液滴を形成した1秒後に液滴の画像を撮影する。この液滴の画像を解析することでθ/2法により接触角を算出する。10回の測定の平均値を接触角とする。なお中間膜は測定前に測定環境にて24時間保持する。
【0038】
なお、本発明では、表面層及び中間膜の表面形状ではなく、表面層及び中間層を構成する物質自体の性質(含有成分の組み合わせ及び含有成分の存在状態など)を示す指標として、上記接触角を定義している。このため、接触角を測定するための層又は中間膜の接触角を測定する際には、表面層及び中間膜の表面が平滑である状態で測定することが好ましい。
【0039】
接触角を測定するための層又は中間膜が、エンボス加工によって表面に凹凸を有する場合に、透明フロートガラスとポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと接触角を測定するための層又は中間膜とポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと透明フロートガラスとをこの順で積層した後、得られた積層体を加熱オーブン内で70℃に加熱し、ニップロール(ロール圧力0.44 MPa、線速1m/分)を通過させた後、透明フロートガラス及びPETフィルムを剥離して、上記接触角を求めることが好ましい。
【0040】
上記中間膜は、2層以上の構造を有していてもよく、第1の層に加えて第2の層を備えていてもよい。上記中間膜は、中間膜における表面層として、第2の層を備えることが好ましい。上記中間膜は、中間膜にける表面層として、熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する第2の層を備えることが好ましい。第1の層が、中間層における一方側の表面層であり、第2の層が、中間層における他方側の表面層であることが好ましい。上記中間膜が上記第2の層を備える場合に、上記第2の層の第1の表面側に、上記第1の層が配置される。この場合に、上記第1の層と上記第2の層とは直接積層されていてもよく、上記第1の層と上記第2の層との間に他の層(後述する第3の層など)が配置されていてもよい。
【0041】
上記中間膜は、3層以上の構造を有していてもよく、第1の層及び第2の層に加えて第3の層を備えていてもよい。上記中間膜は、熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する第3の層を備えることが好ましい。上記中間膜が上記第2の層を備える場合に、上記第1の層と上記第2の層との間に、上記第3の層が配置される。この場合に、上記第1の層と上記第3の層とは直接積層されていてもよく、上記第1の層と上記第3の層との間に他の層が配置されていてもよい。上記第2の層と上記第3の層とは直接積層されていてもよく、上記第2の層と上記第3の層との間に他の層が配置されていてもよい。
【0042】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明する。
【0043】
図1に、本発明の第1の実施形態に係る合わせガラス用中間膜を模式的に断面図で示す。
【0044】
図1に示す中間膜11は、2層以上の構造を有する多層の中間膜である。中間膜11は、合わせガラスを得るために用いられる。中間膜11は、合わせガラス用中間膜である。中間膜11は、第1の層1と、第2の層2と、第3の層3とを備える。第3の層3の第1の表面3aに、第1の層1が配置されており、積層されている。第3の層3の第1の表面3aとは反対の第2の表面3bに、第2の層2が配置されており、積層されている。第1の層1と第2の層2との間に、第3の層3が配置されており、挟み込まれている。第3の層3は中間層である。第1の層1の第1の表面1b側に、第3の層3及び第2の層2がこの順で並んで配置されている。第1の層1及び第2の層2はそれぞれ、保護層であり、本実施形態では表面層である。従って、中間膜11は、第1の層1と第3の層3と第2の層2とがこの順で積層された多層構造(第1の層1/第3の層3/第2の層2)を有する。
【0045】
なお、第1の層1と第3の層3との間、及び、第3の層3と第2の層2との間にはそれぞれ、他の層が配置されていてもよい。第1の層1と第3の層3、及び、第3の層3と第2の層2とはそれぞれ、直接積層されていることが好ましい。他の層として、ポリエチレンテレフタレート等を含む層が挙げられる。
【0046】
第1の層1は、熱可塑性樹脂と可塑剤と金属元素とを含む。第2の層2は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、可塑剤を含むことが好ましい。第1の層1は、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角が40.1°より大きい値を示す第1の層であるか、又は、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角が54.2°より大きい値を示す第1の層である。第2の層2は、金属元素を含むことが好ましい。第2の層2は、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角が40.1°より大きい値を示す第2の層であるか、又は、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角が54.2°より大きい値を示す第2の層であることが好ましい。第3の層3は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、可塑剤を含むことが好ましい。
【0047】
図2に、本発明の第2の実施形態に係る合わせガラス用中間膜を模式的に断面図で示す。
【0048】
図2に示す中間膜11Aは、1層の構造を有する単層の中間膜である。中間膜11Aは、第1の層である。中間膜11Aは、合わせガラスを得るために用いられる。中間膜11Aは、合わせガラス用中間膜である。
【0049】
中間膜11A(第1の層)は、熱可塑性樹脂と可塑剤と金属元素とを含む。中間膜11A(第1の層)は、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角が40.1°より大きい値を示す中間膜(第1の層)であるか、又は、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角が54.2°より大きい値を示す中間膜(第1の層)である。
【0050】
以下、本発明に係る中間膜を構成する上記第1の層(単層の中間膜を含む)、上記第2の層及び上記第3の層の詳細、並びに上記第1の層、上記第2の層及び上記第3の層に含まれる各成分の詳細を説明する。
【0051】
(ポリビニルアセタール樹脂又は熱可塑性樹脂)
上記第1の層(単層の中間膜を含む)は、熱可塑性樹脂(以下、熱可塑性樹脂(1)と記載することがある)を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂(1)として、ポリビニルアセタール樹脂(以下、ポリビニルアセタール樹脂(1)と記載することがある)を含むことが好ましい。上記第2の層は、熱可塑性樹脂(以下、熱可塑性樹脂(2)と記載することがある)を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂(2)としてポリビニルアセタール樹脂(以下、ポリビニルアセタール樹脂(2)と記載することがある)を含むことが好ましい。上記第3の層は、熱可塑性樹脂(以下、熱可塑性樹脂(3)と記載することがある)を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂(3)として、ポリビニルアセタール樹脂(以下、ポリビニルアセタール樹脂(3)と記載することがある)を含むことが好ましい。上記熱可塑性樹脂(1)と上記熱可塑性樹脂(2)と上記熱可塑性樹脂(3)とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。上記熱可塑性樹脂(1)、上記熱可塑性樹脂(2)及び上記熱可塑性樹脂(3)はそれぞれ、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記ポリビニルアセタール樹脂(1)と上記ポリビニルアセタール樹脂(2)と上記ポリビニルアセタール樹脂(3)とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。上記ポリビニルアセタール樹脂(1)、上記ポリビニルアセタール樹脂(2)及び上記ポリビニルアセタール樹脂(3)はそれぞれ、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0052】
上記熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂及びポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。これら以外の熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0053】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、例えば、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより製造できる。上記ポリビニルアルコールは、例えば、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。上記ポリビニルアルコールのけん化度は、一般に70?99.9モル%である。
【0054】
上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは200以上、より好ましくは500以上、より一層好ましくは1500以上、更に好ましくは1600以上、特に好ましくは2600以上、最も好ましくは2700以上、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3500以下である。上記平均重合度が上記下限以上であると、合わせガラスの耐貫通性がより一層高くなる。上記平均重合度が上記上限以下であると、中間膜の成形が容易になる。
【0055】
上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K6726「ポリビニルアルコール試験方法」に準拠した方法により求められる。
【0056】
上記ポリビニルアセタール樹脂に含まれるアセタール基の炭素数は特に限定されない。上記ポリビニルアセタール樹脂を製造する際に用いるアルデヒドは特に限定されない。上記ポリビニルアセタール樹脂におけるアセタール基の炭素数は3?5であることが好ましく、3又は4であることがより好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂におけるアセタール基の炭素数が3以上であると、中間膜のガラス転移温度が充分に低くなる。
【0057】
上記アルデヒドは特に限定されない。上記アルデヒドとして、一般には、炭素数が1?10のアルデヒドが好適に用いられる。上記炭素数が1?10のアルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、及びベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド又はn-バレルアルデヒドが好ましく、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド又はイソブチルアルデヒドがより好ましく、n-ブチルアルデヒドが更に好ましい。上記アルデヒドは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0058】
上記ポリビニルアセタール樹脂(1)及び上記ポリビニルアセタール樹脂(2)の水酸基の各含有率は、好ましくは25モル%以上、より好ましくは28モル%以上、更に好ましくは29モル%以上、好ましくは35モル%以下、より好ましくは32モル%以下、特に好ましくは31モル%以下である。上記水酸基の含有率が上記下限以上であると、中間膜の接着力がより一層高くなる。また、上記水酸基の含有率が上記上限以下であると、中間膜の柔軟性が高くなり、中間膜の取扱いが容易になる。
【0059】
上記ポリビニルアセタール樹脂(3)の水酸基の含有率(水酸基量)は、好ましくは17モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは22モル%以上、好ましくは30モル%以下、より好ましくは27モル%未満、更に好ましくは25モル%以下である。上記水酸基の含有率が上記下限以上であると、中間膜の接着力がより一層高くなる。特に、上記ポリビニルアセタール樹脂(3)の水酸基の含有率が20モル%以上であると反応効率が高く生産性に優れ、また27モル%未満であると、合わせガラスの遮音性がより一層高くなる。また、上記水酸基の含有率が上記上限以下であると、中間膜の柔軟性が高くなり、中間膜の取扱いが容易になる。
【0060】
上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率は、水酸基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率で示した値である。上記水酸基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6726「ポリビニルアルコール試験方法」に準拠して、測定することにより求めることができる。
【0061】
上記ポリビニルアセタール樹脂(1)及び上記ポリビニルアセタール樹脂(2)の各アセチル化度は、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.5モル%以上、好ましくは10モル%以下、より好ましくは2モル%以下である。上記アセチル化度が上記下限以上であると、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤との相溶性が高くなる。上記アセチル化度が上記上限以下であると、中間膜及び合わせガラスの耐湿性が高くなる。
【0062】
上記ポリビニルアセタール樹脂(3)のアセチル化度(アセチル基量)は、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、より一層好ましくは7モル%以上、更に好ましくは9モル%以上、好ましくは30モル%以下、より好ましくは25モル%以下、更に好ましくは15モル%以下である。上記アセチル化度が上記下限以上であると、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤との相溶性が高くなる。上記アセチル化度が上記上限以下であると、中間膜及び合わせガラスの耐湿性が高くなる。特に、上記ポリビニルアセタール樹脂(3)のアセチル化度が0.1モル%以上、25モル%以下であると、耐貫通性に優れる。
【0063】
上記アセチル化度は、主鎖の全エチレン基量から、アセタール基が結合しているエチレン基量と、水酸基が結合しているエチレン基量とを差し引いた値を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率で示した値である。上記アセタール基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠して測定できる。
【0064】
上記ポリビニルアセタール樹脂(1)及び上記ポリビニルアセタール樹脂(2)の各アセタール化度(ポリビニルブチラール樹脂の場合にはブチラール化度)は、好ましくは55モル%以上、より好ましくは67モル%以上、好ましくは75モル%以下、より好ましくは71モル%以下である。上記アセタール化度が上記下限以上であると、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤との相溶性が高くなる。上記アセタール化度が上記上限以下であると、ポリビニルアセタール樹脂を製造するために必要な反応時間が短くなる。
【0065】
上記ポリビニルアセタール樹脂(3)のアセタール化度(ポリビニルブチラール樹脂の場合にはブチラール化度)は、好ましくは47モル%以上、より好ましくは60モル%以上、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。上記アセタール化度が上記下限以上であると、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤との相溶性が高くなる。上記アセタール化度が上記上限以下であると、ポリビニルアセタール樹脂を製造するために必要な反応時間が短くなる。
【0066】
上記アセタール化度は、アセタール基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率で示した値である。上記アセタール化度は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、算出され得る。
【0067】
なお、上記水酸基の含有率(水酸基量)、アセタール化度(ブチラール化度)及びアセチル化度は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により測定された結果から算出することが好ましい。但し、ASTM D1396-92による測定を用いてもよい。ポリビニルアセタール樹脂がポリビニルブチラール樹脂である場合は、上記水酸基の含有率(水酸基量)、上記アセタール化度(ブチラール化度)及び上記アセチル化度は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により測定された結果から算出され得る。
【0068】
合わせガラスの耐貫通性をより一層良好にする観点からは、上記ポリビニルアセタール樹脂(3)は、アセチル化度(a)が8モル%以下であり、かつアセタール化度(a)が66モル%以上であるポリビニルアセタール樹脂(A)であるか、又はアセチル化度(b)が8モル%を超えるポリビニルアセタール樹脂(B)であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂(3)は、上記ポリビニルアセタール樹脂(A)であってもよく、上記ポリビニルアセタール樹脂(B)であってもよい。
【0069】
上記ポリビニルアセタール樹脂(A)のアセチル化度(a)は8モル%以下、好ましくは7.5モル%以下、より好ましくは7モル%以下、更に好ましくは6.5モル%以下、特に好ましくは5モル%以下、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.5モル%以上、更に好ましくは0.8モル%以上、特に好ましくは1モル%以上である。上記アセチル化度(a)が上記上限以下及び上記下限以上であると、可塑剤の移行を容易に制御でき、合わせガラスの遮音性がより一層高くなる。
【0070】
上記ポリビニルアセタール樹脂(A)のアセタール化度(a)は66モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは70.5モル%以上、更に好ましくは71モル%以上、特に好ましくは71.5モル%以上、最も好ましくは72モル%以上、好ましくは85モル%以下、より好ましくは83モル%以下、更に好ましくは81モル%以下、特に好ましくは79モル%以下である。上記アセタール化度(a)が上記下限以上であると、合わせガラスの遮音性がより一層高くなる。上記アセタール化度(a)が上記上限以下であると、ポリビニルアセタール樹脂(A)を製造するために必要な反応時間を短縮できる。
【0071】
上記ポリビニルアセタール樹脂(A)の水酸基の含有率(a)は好ましくは18モル%以上、より好ましくは19モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、特に好ましくは21モル%以上、好ましくは31モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは29モル%以下、特に好ましくは28モル%以下である。上記水酸基の含有率(a)が上記下限以上であると、上記第3の層の接着力がより一層高くなる。上記水酸基の含有率(a)が上記上限以下であると、合わせガラスの遮音性がより一層高くなる。
【0072】
上記ポリビニルアセタール樹脂(B)のアセチル化度(b)は、8モル%を超え、好ましくは9モル%以上、より好ましくは9.5モル%以上、更に好ましくは10モル%以上、特に好ましくは10.5モル%以上、好ましくは30モル%以下、より好ましくは28モル%以下、更に好ましくは26モル%以下、特に好ましくは24モル%以下である。上記アセチル化度(b)が上記下限以上であると、合わせガラスの遮音性がより一層高くなる。上記アセチル化度(b)が上記上限以下であると、ポリビニルアセタール樹脂(B)を製造するために必要な反応時間を短縮できる。
【0073】
上記ポリビニルアセタール樹脂(B)のアセタール化度(b)は好ましくは50モル%以上、より好ましくは53モル%以上、更に好ましくは55モル%以上、特に好ましくは60モル%以上、好ましくは80モル%以下、より好ましくは78モル%以下、更に好ましくは76モル%以下、特に好ましくは74モル%以下である。上記アセタール化度(b)が上記下限以上であると、合わせガラスの遮音性がより一層高くなる。上記アセタール化度(b)が上記上限以下であると、ポリビニルアセタール樹脂(B)を製造するために必要な反応時間を短縮できる。
【0074】
上記ポリビニルアセタール樹脂(B)の水酸基の含有率(b)は好ましくは18モル%以上、より好ましくは19モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、特に好ましくは21モル%以上、好ましくは31モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは29モル%以下、特に好ましくは28モル%以下である。上記水酸基の含有率(b)が上記下限以上であると、上記第3の層の接着力がより一層高くなる。上記水酸基の含有率(b)が上記上限以下であると、合わせガラスの遮音性がより一層高くなる。
【0075】
上記ポリビニルアセタール樹脂(1)、上記ポリビニルアセタール樹脂(2)及び上記ポリビニルアセタール樹脂(3)はそれぞれ、ポリビニルブチラール樹脂であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂(A)及び上記ポリビニルアセタール樹脂(B)はそれぞれ、ポリビニルブチラール樹脂であることが好ましい。
【0076】
(可塑剤)
上記第1の層(単層の中間膜を含む)は、可塑剤(以下、可塑剤(1)と記載することがある)を含む。上記第2の層は、可塑剤(以下、可塑剤(2)と記載することがある)を含むことが好ましい。上記第3の層は、可塑剤(以下、可塑剤(3)と記載することがある)を含むことが好ましい。ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤との併用により、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む層の合わせガラス部材又は他の層に対する接着力が適度に高くなる。上記可塑剤は特に限定されない。上記可塑剤(1)と上記可塑剤(2)と上記可塑剤(3)とは同一であってもよく、異なっていてもよい。上記可塑剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0077】
上記可塑剤としては、一塩基性有機酸エステル及び多塩基性有機酸エステル等の有機エステル可塑剤、並びに有機リン酸可塑剤及び有機亜リン酸可塑剤などの有機リン酸可塑剤等が挙げられる。なかでも、有機エステル可塑剤が好ましい。上記可塑剤は液状可塑剤であることが好ましい。
【0078】
上記一塩基性有機酸エステルとしては、グリコールと一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコールエステル等が挙げられる。上記グリコールとしては、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール及びトリプロピレングリコール等が挙げられる。上記一塩基性有機酸としては、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、n-ノニル酸及びデシル酸等が挙げられる。
【0079】
上記多塩基性有機酸エステルとしては、多塩基性有機酸と、炭素数4?8の直鎖又は分岐構造を有するアルコールとのエステル化合物等が挙げられる。上記多塩基性有機酸としては、アジピン酸、セバシン酸及びアゼライン酸等が挙げられる。
【0080】
上記有機エステル可塑剤としては、トリエチレングリコールジ-2-エチルプロパノエート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジ-n-オクタノエート、トリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペート、エチレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,3-プロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,4-ブチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルペンタノエート、テトラエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリレート、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ヘプチルとアジピン酸ノニルとの混合物、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ヘプチルノニル、セバシン酸ジブチル、油変性セバシン酸アルキド、及びリン酸エステルとアジピン酸エステルとの混合物等が挙げられる。これら以外の有機エステル可塑剤を用いてもよい。上述のアジピン酸エステル以外の他のアジピン酸エステルを用いてもよい。
【0081】
上記有機リン酸可塑剤としては、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート及びトリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0082】
上記可塑剤は、下記式(1)で表されるジエステル可塑剤であることが好ましい。
【0083】
【化1】

【0084】
上記式(1)中、R1及びR2はそれぞれ、炭素数2?10の有機基を表し、R3は、エチレン基、イソプロピレン基又はn-プロピレン基を表し、pは3?10の整数を表す。上記式(1)中のR1及びR2はそれぞれ、炭素数5?10の有機基であることが好ましく、炭素数6?10の有機基であることがより好ましい。
【0085】
上記可塑剤は、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート(3GH)又はトリエチレングリコールジ-2-エチルプロパノエートを含むことが好ましく、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート又はトリエチレングリコールジ-2-エチルブチレートを含むことがより好ましく、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエートを含むことが更に好ましい。
【0086】
(遮熱性化合物)
上記中間膜は、遮熱性化合物を含むことが好ましい。上記第1の層は、遮熱性化合物を含むことが好ましい。上記第2の層は、遮熱性化合物を含むことが好ましい。上記第3の層は、遮熱性化合物を含むことが好ましい。上記遮熱性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0087】
成分X:
上記中間膜は、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物及びアントラシアニン化合物の内の少なくとも1種の成分Xを含むことが好ましい。上記第1の層は、上記成分Xを含むことが好ましい。上記第2の層は、上記成分Xを含むことが好ましい。上記第3の層は、上記成分Xを含むことが好ましい。上記成分Xは遮熱性化合物である。上記成分Xは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0088】
上記成分Xは特に限定されない。成分Xとして、従来公知のフタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物及びアントラシアニン化合物を用いることができる。
【0089】
上記成分Xとしては、フタロシアニン、フタロシアニンの誘導体、ナフタロシアニン、ナフタロシアニンの誘導体、アントラシアニン及びアントラシアニンの誘導体等が挙げられる。上記フタロシアニン化合物及び上記フタロシアニンの誘導体はそれぞれ、フタロシアニン骨格を有することが好ましい。上記ナフタロシアニン化合物及び上記ナフタロシアニンの誘導体はそれぞれ、ナフタロシアニン骨格を有することが好ましい。上記アントラシアニン化合物及び上記アントラシアニンの誘導体はそれぞれ、アントラシアニン骨格を有することが好ましい。
【0090】
中間膜及び合わせガラスの遮熱性をより一層高くする観点からは、上記成分Xは、フタロシアニン、フタロシアニンの誘導体、ナフタロシアニン及びナフタロシアニンの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、フタロシアニン及びフタロシアニンの誘導体の内の少なくとも1種であることがより好ましい。
【0091】
遮熱性を効果的に高め、かつ長期間にわたり可視光線透過率をより一層高いレベルで維持する観点からは、上記成分Xは、バナジウム原子又は銅原子を含有することが好ましい。上記成分Xは、バナジウム原子を含有することが好ましく、銅原子を含有することも好ましい。上記成分Xは、バナジウム原子又は銅原子を含有するフタロシアニン及びバナジウム原子又は銅原子を含有するフタロシアニンの誘導体の内の少なくとも1種であることがより好ましい。中間膜及び合わせガラスの遮熱性を更に一層高くする観点からは、上記成分Xは、バナジウム原子に酸素原子が結合した構造単位を有することが好ましい。
【0092】
上記成分Xを含む層(第1の層、第2の層又は第3の層)100重量%中、上記成分Xの含有量は、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.005重量%以上、更に好ましくは0.01重量%以上、特に好ましくは0.02重量%以上、好ましくは0.2重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下、更に好ましくは0.05重量%以下、特に好ましくは0.04重量%以下である。上記成分Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、遮熱性が充分に高くなり、かつ可視光線透過率が充分に高くなる。例えば、可視光線透過率を70%以上にすることが可能である。
【0093】
遮熱粒子:
上記中間膜は、遮熱粒子を含むことが好ましい。上記第1の層は、上記遮熱粒子を含むことが好ましい。上記第2の層は、上記遮熱粒子を含むことが好ましい。上記第3の層は、上記遮熱粒子を含むことが好ましい。上記遮熱粒子は遮熱性化合物である。遮熱粒子の使用により、赤外線(熱線)を効果的に遮断できる。上記遮熱粒子は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0094】
合わせガラスの遮熱性をより一層高める観点からは、上記遮熱粒子は、金属酸化物粒子であることがより好ましい。上記遮熱粒子は、金属の酸化物により形成された粒子(金属酸化物粒子)であることが好ましい。
【0095】
可視光よりも長い波長780nm以上の赤外線は、紫外線と比較して、エネルギー量が小さい。しかしながら、赤外線は熱的作用が大きく、赤外線が物質に吸収されると熱として放出される。このため、赤外線は一般に熱線と呼ばれている。上記遮熱粒子の使用により、赤外線(熱線)を効果的に遮断できる。なお、遮熱粒子とは、赤外線を吸収可能な粒子を意味する。
【0096】
上記遮熱粒子の具体例としては、アルミニウムドープ酸化錫粒子、インジウムドープ酸化錫粒子、アンチモンドープ酸化錫粒子(ATO粒子)、ガリウムドープ酸化亜鉛粒子(GZO粒子)、インジウムドープ酸化亜鉛粒子(IZO粒子)、アルミニウムドープ酸化亜鉛粒子(AZO粒子)、ニオブドープ酸化チタン粒子、ナトリウムドープ酸化タングステン粒子、セシウムドープ酸化タングステン粒子、タリウムドープ酸化タングステン粒子、ルビジウムドープ酸化タングステン粒子、錫ドープ酸化インジウム粒子(ITO粒子)、錫ドープ酸化亜鉛粒子、珪素ドープ酸化亜鉛粒子等の金属酸化物粒子や、六ホウ化ランタン(LaB_(6))粒子等が挙げられる。これら以外の遮熱粒子を用いてもよい。なかでも、熱線の遮蔽機能が高いため、金属酸化物粒子が好ましく、ATO粒子、GZO粒子、IZO粒子、ITO粒子又は酸化タングステン粒子がより好ましく、ITO粒子又は酸化タングステン粒子が特に好ましい。特に、熱線の遮蔽機能が高く、かつ入手が容易であるので、錫ドープ酸化インジウム粒子(ITO粒子)が好ましく、酸化タングステン粒子も好ましい。
【0097】
上記酸化タングステン粒子は、下記式(X1)又は下記式(X2)で一般に表される。上記中間膜では、下記式(X1)又は下記式(X2)で表される酸化タングステン粒子が好適に用いられる。
【0098】
W_(y)O_(z) ・・・式(X1)
【0099】
上記式(X1)において、Wはタングステン、Oは酸素を表し、y及びzは2.0<z/y<3.0を満たす。
【0100】
M_(x)W_(y)O_(z) ・・・式(X2)
【0101】
上記式(X2)において、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta及びReからなる群から選択される少なくとも1種の元素、Wはタングステン、Oは酸素を表し、x、y及びzは、0.001≦x/y≦1、及び2.0<z/y≦3.0を満たす。
【0102】
中間膜及び合わせガラスの遮熱性をより一層高くする観点からは、酸化タングステン粒子は、金属ドープ酸化タングステン粒子であることが好ましい。上記「酸化タングステン粒子」には、金属ドープ酸化タングステン粒子が含まれる。上記金属ドープ酸化タングステン粒子としては、具体的には、ナトリウムドープ酸化タングステン粒子、セシウムドープ酸化タングステン粒子、タリウムドープ酸化タングステン粒子及びルビジウムドープ酸化タングステン粒子等が挙げられる。
【0103】
中間膜及び合わせガラスの遮熱性をより一層高くする観点からは、セシウムドープ酸化タングステン粒子が特に好ましい。中間膜及び合わせガラスの遮熱性を更に一層高くする観点からは、該セシウムドープ酸化タングステン粒子は、式:Cs_(0.33)WO_(3)で表される酸化タングステン粒子であることが好ましい。
【0104】
上記遮熱粒子の平均粒子径は好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.02μm以上、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.05μm以下である。平均粒子径が上記下限以上であると、熱線の遮蔽性が充分に高くなる。平均粒子径が上記上限以下であると、遮熱粒子の分散性が高くなる。
【0105】
上記「平均粒子径」は、体積平均粒子径を示す。平均粒子径は、粒度分布測定装置(日機装社製「UPA-EX150」)等を用いて測定できる。
【0106】
上記遮熱粒子を含む層(第1の層、第2の層又は第3の層)100重量%中、上記遮熱粒子の含有量は、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは1重量%以上、特に好ましくは1.5重量%以上、好ましくは6重量%以下、より好ましくは5.5重量%以下、更に好ましくは4重量%以下、特に好ましくは3.5重量%以下、最も好ましくは3.0重量%以下である。上記遮熱粒子の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、遮熱性が充分に高くなり、かつ可視光線透過率が充分に高くなる。
【0107】
上記遮熱粒子を含む層(第1の層、第2の層又は第3の層)は、上記遮熱粒子を0.1g/m^(2)以上、12g/m^(2)以下の割合で含有することが好ましい。上記遮熱粒子の割合が上記範囲内である場合には、遮熱性が充分に高くなり、かつ可視光線透過率が充分に高くなる。上記遮熱粒子の割合は、好ましくは0.5g/m^(2)以上、より好ましくは0.8g/m^(2)以上、更に好ましくは1.5g/m^(2)以上、特に好ましくは3g/m^(2)以上、好ましくは11g/m^(2)以下、より好ましくは10g/m^(2)以下、更に好ましくは9g/m^(2)以下、特に好ましくは7g/m^(2)以下である。上記割合が上記下限以上であると、遮熱性がより一層高くなる。上記割合が上記上限以下であると、可視光線透過率がより一層高くなる。
【0108】
(金属元素)
上記中間膜は、金属元素を含む。上記第1の層は、金属元素を含む。上記第2の層は、金属元素を含むことが好ましい。上記中間膜、上記第1の層及び上記第2の層はそれぞれ、金属塩の添加に由来して、上記金属元素を含むことが好ましい。上記金属塩の使用により、中間膜と合わせガラス部材との接着力を良好にし、かつ合わせガラスの耐貫通性を効果的に高めることができる。上記金属元素は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0109】
上記金属塩は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であることが好ましい。この場合に、アルカリ金属塩とアルカリ土類金属塩との内の一方のみを用いてもよく、双方を用いてもよい。なお、アルカリ土類金属塩にはマグネシウム塩が含まれる。
【0110】
上記金属塩は、炭素数2?16の有機酸のアルカリ金属塩又は炭素数2?16の有機酸のアルカリ土類金属塩であることがより好ましく、炭素数2?16のカルボン酸マグネシウム塩又は炭素数2?16のカルボン酸カリウム塩であることが更に好ましい。
【0111】
上記炭素数2?16のカルボン酸マグネシウム塩及び上記炭素数2?16のカルボン酸カリウム塩としては特に限定されないが、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸カリウム、2-エチル酪酸マグネシウム、2-エチルブタン酸カリウム、2-エチルヘキサン酸マグネシウム及び2-エチルヘキサン酸カリウム等が挙げられる。
【0112】
中間膜と合わせガラス部材との接着力をより一層効果的に良好にする観点からは、上記金属元素は、多価金属元素であることが好ましい。中間膜と合わせガラス部材との接着力をより一層効果的に良好にする観点からは、上記中間膜、上記第1の層及び上記第2の層はそれぞれ、アルカリ土類金属塩の添加に由来して、上記金属元素を含むことが好ましい。
【0113】
中間膜と合わせガラス部材との接着力をより一層効果的に良好にする観点からは、上記中間膜、上記第1の層及び上記第2の層はそれぞれ、酢酸マグネシウム又は2-エチル酪酸マグネシウムの添加に由来して、上記金属元素を含むことが好ましい。この場合に、酢酸マグネシウムと2-エチル酪酸マグネシウムとの内の一方のみを用いてもよく、双方を用いてもよい。中間膜と合わせガラス部材との接着力をより一層効果的に良好にする観点からは、酢酸マグネシウムと2-エチル酪酸マグネシウムとの双方を用いることが好ましい。
【0114】
中間膜と合わせガラス部材との接着力をより一層効果的に良好にする観点からは、上記金属元素は、Mgを含むことが特に好ましく、Mgであることが最も好ましい。
【0115】
上記金属元素を含む層(第1の層、第2の層又は第3の層)における上記金属元素の合計の含有量及びMgの合計の含有量は、好ましくは5ppm以上、より好ましくは10ppm以上、更に好ましくは20ppm以上、好ましくは300ppm以下、より好ましくは250ppm以下、更に好ましくは200ppm以下、特に好ましくは100ppm以下である。上記金属元素の含有量の合計が上記下限以上及び上記上限以下であると、中間膜とガラス板との接着性又は中間膜における各層間の接着性をより一層良好に制御でき、合わせガラスの耐貫通性を効果的に高めることができる。
【0116】
上記金属元素を含む層(第1の層、第2の層又は第3の層)におけるMgの含有量は、好ましくは5ppm以上、より好ましくは10ppm以上、更に好ましくは20ppm以上、好ましくは300ppm以下、より好ましくは250ppm以下、更に好ましくは200ppm以下、特に好ましくは100ppm以下である。Mgの合計が上記下限以上及び上記上限以下であると、中間膜とガラス板との接着性又は中間膜における各層間の接着性をより一層良好に制御でき、合わせガラスの耐貫通性を効果的に高めることができる。
【0117】
(紫外線遮蔽剤)
上記中間膜は、紫外線遮蔽剤を含むことが好ましい。上記第1の層は、紫外線遮蔽剤を含むことが好ましい。上記第2の層は、紫外線遮蔽剤を含むことが好ましい。上記第3の層は、紫外線遮蔽剤を含むことが好ましい。紫外線遮蔽剤の使用により、中間膜及び合わせガラスが長期間使用されても、可視光線透過率がより一層低下し難くなる。上記紫外線遮蔽剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0118】
上記紫外線遮蔽剤には、紫外線吸収剤が含まれる。上記紫外線遮蔽剤は、紫外線吸収剤であることが好ましい。
【0119】
上記紫外線遮蔽剤としては、例えば、金属系紫外線遮蔽剤、金属酸化物系紫外線遮蔽剤、ベンゾトリアゾール系紫外線遮蔽剤、ベンゾフェノン系紫外線遮蔽剤、トリアジン系紫外線遮蔽剤、マロン酸エステル系紫外線遮蔽剤、シュウ酸アニリド系紫外線遮蔽剤及びベンゾエート系紫外線遮蔽剤等が挙げられる。
【0120】
上記金属系紫外線吸収剤としては、例えば、白金粒子、白金粒子の表面をシリカで被覆した粒子、パラジウム粒子及びパラジウム粒子の表面をシリカで被覆した粒子等が挙げられる。紫外線遮蔽剤は、遮熱粒子ではないことが好ましい。
【0121】
上記紫外線遮蔽剤は、好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線遮蔽剤、ベンゾフェノン系紫外線遮蔽剤、トリアジン系紫外線遮蔽剤又はベンゾエート系紫外線遮蔽剤であり、より好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線遮蔽剤又はベンゾフェノン系紫外線遮蔽剤であり、更に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である。
【0122】
上記金属酸化物系紫外線吸収剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン及び酸化セリウム等が挙げられる。さらに、上記金属酸化物系紫外線吸収剤に関して、表面が被覆されていてもよい。上記金属酸化物系紫外線吸収剤の表面の被覆材料としては、絶縁性金属酸化物、加水分解性有機ケイ素化合物及びシリコーン化合物等が挙げられる。
【0123】
上記絶縁性金属酸化物としては、シリカ、アルミナ及びジルコニア等が挙げられる。上記絶縁性金属酸化物は、例えば5.0eV以上のバンドギャップエネルギーを有する。
【0124】
上記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(BASF社製「TinuvinP」)、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール(BASF社製「Tinuvin320」)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール(BASF社製「Tinuvin326」)、及び2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール(BASF社製「Tinuvin328」)等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が挙げられる。紫外線を吸収する性能に優れることから、上記紫外線遮蔽剤はハロゲン原子を含むベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤であることが好ましく、塩素原子を含むベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤であることがより好ましい。
【0125】
上記ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、オクタベンゾン(BASF社製「Chimassorb81」)等が挙げられる。
【0126】
上記トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、ADEKA社製「LA-F70」及び2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール(BASF社製「Tinuvin1577FF」)等が挙げられる。
【0127】
上記マロン酸エステル系紫外線遮蔽剤としては、2-(p-メトキシベンジリデン)マロン酸ジメチル、テトラエチル-2,2-(1,4-フェニレンジメチリデン)ビスマロネート、2-(p-メトキシベンジリデン)-ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル4-ピペリジニル)マロネート等が挙げられる。
【0128】
上記マロン酸エステル系紫外線遮蔽剤の市販品としては、Hostavin B-CAP、Hostavin PR-25、Hostavin PR-31(いずれもクラリアント社製)が挙げられる。
【0129】
上記シュウ酸アニリド系紫外線遮蔽剤としては、N-(2-エチルフェニル)-N’-(2-エトキシ-5-t-ブチルフェニル)シュウ酸ジアミド、N-(2-エチルフェニル)-N’-(2-エトキシ-フェニル)シュウ酸ジアミド、2-エチル-2’-エトキシ-オキシアニリド(クラリアント社製「SanduvorVSU」)などの窒素原子上に置換されたアリール基などを有するシュウ酸ジアミド類が挙げられる。
【0130】
上記ベンゾエート系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート(BASF社製「Tinuvin120」)等が挙げられる。
【0131】
期間経過後の可視光線透過率の低下をより一層抑制する観点からは、上記紫外線遮蔽剤を含む層(第1の層、第2の層又は第3の層)100重量%中、上記紫外線遮蔽剤の含有量は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上、更に好ましくは0.3重量%以上、特に好ましくは0.5重量%以上、好ましくは2.5重量%以下、より好ましくは2重量%以下、更に好ましくは1重量%以下、特に好ましくは0.8重量%以下である。特に、上記紫外線遮蔽剤を含む層100重量%中、上記紫外線遮蔽剤の含有量が0.2重量%以上であることにより、中間膜及び合わせガラスの期間経過後の可視光線透過率の低下を顕著に抑制できる。
【0132】
(酸化防止剤)
上記中間膜は、酸化防止剤を含むことが好ましい。上記第1の層は、酸化防止剤を含むことが好ましい。上記第2の層は、酸化防止剤を含むことが好ましい。上記第3の層は、酸化防止剤を含むことが好ましい。上記酸化防止剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0133】
上記酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤等が挙げられる。上記フェノール系酸化防止剤はフェノール骨格を有する酸化防止剤である。上記硫黄系酸化防止剤は硫黄原子を含有する酸化防止剤である。上記リン系酸化防止剤はリン原子を含有する酸化防止剤である。
【0134】
上記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤又はリン系酸化防止剤であることが好ましい。
【0135】
上記フェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス-(4-メチル-6-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス-(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデン-ビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス-(2-メチル-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,3-トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェノール)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,3’-t-ブチルフェノール)ブチリックアッシドグリコールエステル及びビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルベンゼンプロパン酸)エチレンビス(オキシエチレン)等が挙げられる。これらの酸化防止剤の内の1種又は2種以上が好適に用いられる。
【0136】
上記リン系酸化防止剤としては、トリデシルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(デシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチル-6-メチルフェニル)エチルエステル亜リン酸、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、及び2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチル-1-フェニルオキシ)(2-エチルヘキシルオキシ)ホスホラス等が挙げられる。これらの酸化防止剤の内の1種又は2種以上が好適に用いられる。
【0137】
上記酸化防止剤の市販品としては、例えば住友化学工業社製「スミライザーBHT」、チバガイギー社製「イルガノックス1010」等が挙げられる。
【0138】
中間膜及び合わせガラスの高い可視光線透過率を長期間に渡り維持するために、上記中間膜100重量%中又は酸化防止剤を含む層(第1の層、第2の層又は第3の層)100重量%中、上記酸化防止剤の含有量は0.1重量%以上であることが好ましい。また、酸化防止剤の添加効果が飽和するので、上記中間膜100重量%中又は上記酸化防止剤を含む層100重量%中、上記酸化防止剤の含有量は2重量%以下であることが好ましい。
【0139】
(他の成分)
上記第1の層、上記第2の層及び上記第3の層はそれぞれ、必要に応じて、難燃剤、帯電防止剤、顔料、染料、耐湿剤、蛍光増白剤及び赤外線吸収剤等の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0140】
(合わせガラス用中間膜の他の詳細)
本発明に係る合わせガラス用中間膜の厚みは特に限定されない。実用面の観点、並びに遮熱性を充分に高める観点からは、中間膜の厚みは、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.25mm以上、好ましくは3mm以下、より好ましくは1.5mm以下である。中間膜の厚みが上記下限以上であると、合わせガラスの耐貫通性が高くなる。
【0141】
上記第1の層及び上記第2の層の各厚み(μm)の中間膜全体の厚み(μm)に対する比は好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.7以下、更に好ましくは0.5以下である。すなわち、合わせガラス用中間膜の厚みをT(μm)としたときに、上記第1の層及び上記第2の層の各厚みは、好ましくは0.1T以上、より好ましくは0.2T以上、好ましくは0.9T以下、より好ましくは0.7T以下、更に好ましくは0.5T以下である。上記第1の層及び上記第2の層の各厚みが上記下限以上であると、各層間の接着力及び中間膜と合わせガラス部材との接着力が良好になりやすい。中間膜が、第1の層と第2の層と第3の層との3層の構造を有する場合には、第1の層及び第2の層の合計厚み(μm)の中間膜全体の厚み(μm)に対する比は好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.9以下である。厚み比が上記上限以下であると、合わせガラスの厚みが薄くなり、中間膜及び合わせガラスの取り扱い性がより一層高くなる。
【0142】
本発明に係る中間膜の製造方法としては特に限定されない。本発明に係る中間膜の製造方法としては、単層の中間膜の場合に、樹脂組成物を押出機を用いて押出する方法が挙げられる。本発明に係る中間膜の製造方法としては、多層の中間膜の場合に、各層を形成するための各樹脂組成物を用いて各層をそれぞれ形成した後に、例えば、得られた各層を積層する方法、並びに各層を形成するための各樹脂組成物を押出機を用いて共押出することにより、各層を積層する方法等が挙げられる。連続的な生産に適しているため、押出成形する製造方法が好ましい。
【0143】
上記中間膜、上記第1の層及び上記第2の層はそれぞれ、ベント式押出機を用いて、真空ベントのゲージ圧が500mmHg以上である条件で押出成形することにより得られることが好ましい。この場合には、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角及びエチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角を上記の範囲に制御することが容易である。本発明では、上記のようにゲージ圧を高く設定して、中間膜を得ることが好ましい。
【0144】
中間膜の製造効率が優れることから、上記第1の層と上記第2の層とに、同一のポリビニルアセタール樹脂が含まれていることが好ましく、上記第1の層と上記第2の層とに、同一のポリビニルアセタール樹脂及び同一の可塑剤が含まれていることがより好ましく、上記第1の層と上記第2の層とが同一の樹脂組成物により形成されていることが更に好ましい。
【0145】
上記中間膜は、両側の表面の内の少なくとも一方の表面に凹凸形状を有することが好ましい。上記中間膜は、両側の表面に凹凸形状を有することがより好ましい。上記の凹凸形状を形成する方法としては特に限定されず、例えば、エンボスロール法、カレンダーロール法、及び異形押出法等が挙げられる。中でも定量的に一定の凹凸模様である多数の凹凸形状のエンボスを形成することができることから、エンボスロール法が好ましい。
【0146】
(合わせガラス)
図3は、図1に示す合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスの一例を模式的に示す断面図である。
【0147】
図3に示す合わせガラス31は、第1の合わせガラス部材21と、第2の合わせガラス部材22と、中間膜11とを備える。中間膜11は、第1の合わせガラス部材21と第2の合わせガラス部材22との間に配置されており、挟み込まれている。
【0148】
中間膜11の第1の表面11aに、第1の合わせガラス部材21が積層されている。中間膜11の第1の表面11aとは反対の第2の表面11bに、第2の合わせガラス部材22が積層されている。第1の層1の外側の表面1a(第1の表面1bとは反対の第2の表面)に第1の合わせガラス部材21が積層されている。第2の層2の外側の表面2aに第2の合わせガラス部材22が積層されている。
【0149】
図4は、図2に示す合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスの一例を模式的に示す断面図である。
【0150】
図4に示す合わせガラス31Aは、第1の合わせガラス部材21と、第2の合わせガラス部材22と、中間膜11Aとを備える。中間膜11Aは、第1の合わせガラス部材21と第2の合わせガラス部材22との間に配置されており、挟み込まれている。
【0151】
中間膜11Aの第1の表面11aに、第1の合わせガラス部材21が積層されている。中間膜11Aの第1の表面11aとは反対の第2の表面11bに、第2の合わせガラス部材22が積層されている。
【0152】
このように、本発明に係る合わせガラスは、第1の合わせガラス部材と、第2の合わせガラス部材と、中間膜とを備えており、該中間膜が、本発明に係る合わせガラス用中間膜である。本発明に係る合わせガラスでは、上記第1の合わせガラス部材と上記第2の合わせガラス部材との間に、上記中間膜が配置されている。
【0153】
上記合わせガラス部材としては、ガラス板及びPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等が挙げられる。合わせガラスには、2枚のガラス板の間に中間膜が挟み込まれている合わせガラスだけでなく、ガラス板とPETフィルム等との間に中間膜が挟み込まれている合わせガラスも含まれる。合わせガラスは、ガラス板を備えた積層体であり、少なくとも1枚のガラス板が用いられていることが好ましい。上記第1の合わせガラス部材が、ガラス板又はPETフィルムであり、上記第2の合わせガラス部材が、ガラス板又はPETフィルムであり、上記第1の合わせガラス部材及び上記第2の合わせガラス部材の内の少なくとも一方が、ガラス板であることが好ましい。
【0154】
上記ガラス板としては、無機ガラス及び有機ガラスが挙げられる。上記無機ガラスとしては、フロート板ガラス、熱線吸収板ガラス、熱線反射板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、及び線入り板ガラス等が挙げられる。上記有機ガラスは、無機ガラスに代用される合成樹脂ガラスである。上記有機ガラスとしては、ポリカーボネート板及びポリ(メタ)アクリル樹脂板等が挙げられる。上記ポリ(メタ)アクリル樹脂板としては、ポリメチル(メタ)アクリレート板等が挙げられる。
【0155】
上記合わせガラス部材の厚みは、好ましくは1mm以上、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。また、上記合わせガラス部材がガラス板である場合に、該ガラス板の厚みは、好ましくは1mm以上、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。上記合わせガラス部材がPETフィルムである場合に、該PETフィルムの厚みは、好ましくは0.03mm以上、好ましくは0.5mm以下である。
【0156】
上記合わせガラスの製造方法は特に限定されない。例えば、上記第1の合わせガラス部材と上記第2の合わせガラス部材との間に、中間膜を挟んで、押圧ロールに通したり、又はゴムバッグに入れて減圧吸引したりして、上記第1の合わせガラス部材と上記第2の合わせガラス部材と中間膜との間に残留する空気を脱気する。その後、約70?110℃で予備接着して積層体を得る。次に、積層体をオートクレーブに入れたり、又はプレスしたりして、約120?150℃及び1?1.5MPaの圧力で圧着する。このようにして、合わせガラスを得ることができる。上記合わせガラスの製造時に、第1の層と第3の層と第2の層とを積層してもよい。
【0157】
上記中間膜及び上記合わせガラスは、自動車、鉄道車両、航空機、船舶及び建築物等に使用できる。上記中間膜及び上記合わせガラスは、これらの用途以外にも使用できる。上記中間膜及び上記合わせガラスは、車両用又は建築用の中間膜及び合わせガラスであることが好ましく、車両用の中間膜及び合わせガラスであることがより好ましい。上記中間膜及び上記合わせガラスは、自動車のフロントガラス、サイドガラス、リアガラス又はルーフガラス等に使用できる。上記中間膜及び上記合わせガラスは、自動車に好適に用いられる。上記中間膜は、自動車の合わせガラスを得るために用いられる。
【0158】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明する。本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0159】
以下の材料を用意した。
【0160】
(熱可塑性樹脂)
ポリビニルアセタール樹脂(PVB1)(平均重合度が1700であるポリビニルアルコールを、n-ブチルアルデヒドでアセタール化することにより得られるポリビニルブチラール樹脂、水酸基の含有率30.8モル%、アセチル化度0.7モル%、アセタール化度(ブチラール化度)68.5モル%)
【0161】
なお、水酸基の含有率、アセチル化度及びアセタール化度(ブチラール化度)はJIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により測定した。なお、ASTM D1396-92により測定した場合も、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法と同様の数値を示した。
【0162】
(可塑剤)
トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)
【0163】
(紫外線遮蔽剤)
Tinuvin326(2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、BASF社製「Tinuvin326」)
【0164】
(酸化防止剤)
H-BHT(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、堺化学工業社製「H-BHT」)
【0165】
(金属元素を含む金属塩)
Mg混合物1(2-エチル酪酸マグネシウムと酢酸マグネシウムとの50:50(重量比)混合物)
2-エチル酪酸マグネシウム
酢酸カリウム
【0166】
(実施例1)
第1の層を形成するための組成物の作製:
ポリビニルアセタール樹脂(PVB1)100重量部と、可塑剤(3GO)40重量部と、紫外線遮蔽剤(Tinuvin326)0.2重量部と、酸化防止剤(H-BHT)0.2重量部と、Mg混合物1を得られる中間膜中で金属元素濃度(Mg濃度)が70ppmとなる量とを、ミキシングロールで充分に混合し、第1の層を形成するための組成物を得た。
【0167】
中間膜の作製:
第1の層を形成するための組成物を、ベント式押出機を用いて、真空ベントのゲージ圧(ベント圧)が520mmHgである条件で、押出成形することにより、第1の層(厚み760μm)のみの単層の中間膜(厚み760μm)を作製した。
【0168】
接着力評価用の合わせガラスの作製:
洗浄及び乾燥した2つの透明フロートガラス(縦15cm×横15cm×厚さ2.5mm)を用意した。この2つのガラス板の間に、得られた中間膜を挟み込み、積層体を得た。得られた積層体をバック内に入れ、常温(23℃)で933.2hPaの減圧度にて、真空バッグ内の脱気を行った。続いて、脱気状態を維持したまま、真空バッグを100℃まで昇温し、温度が100℃まで到達した後20分間保持した。その後、真空バッグを自然冷却により冷却し、温度が30℃まで低下したことを確認し、圧力を大気圧に開放した。
【0169】
上記真空バッグ法により仮圧着された合わせガラスを、オートクレーブを用いて、135℃、圧力1.2MPaの条件で20分間圧着し、合わせガラスを得た。
【0170】
(実施例2、参考例3及び比較例1)
第1の層を形成するための組成物に用いる配合成分の種類及び含有量を、下記の表2に示すように設定したこと、並びに中間膜の製造時のベント圧を下記の表2に示すように設定したこと以外は実施例1と同様にして、中間膜及び合わせガラスを得た。
【0171】
(実施例4?5、参考例6?11及び比較例2)
第1の層を形成するための組成物に用いる配合成分の種類及び含有量を、下記の表3に示すように設定したこと、並びに中間膜の製造時のベント圧を下記の表3に示すように設定したこと以外は実施例1と同様にして、中間膜を得た。
【0172】
接触角測定用の中間膜の作製:
2つのPETフィルム(東レ社製「ルミラーT60」、縦15cm×横15cm×厚さ100μm)及び洗浄及び乾燥した2つの透明フロートガラス(縦15cm×横15cm×厚さ2.5mm)を用意した。2つのガラス板の間に、2枚のPETフィルム挟み込み、さらにその内側に得られた中間膜を挟み込み、積層体を得た。得られた積層体は、ガラス板/PETフィルム/中間膜/PETフィルム/ガラス板の積層構造を有する。得られた積層体をバック内に入れ、常温(23℃)で933.2hPaの減圧度にて、真空バッグ内の脱気を行った。続いて、脱気状態を維持したまま、真空バッグを100℃まで昇温し、温度が100℃まで到達した後20分間保持した。その後、真空バッグを自然冷却により冷却し、温度が30℃まで低下したことを確認し、圧力を大気圧に開放した。
【0173】
上記真空バッグ法により仮圧着された合わせガラスを、オートクレーブを用いて、135℃、圧力1.2MPaの条件で20分間保持し、PETフィルムにより平面を滑らかにした中間膜を得た。
【0174】
(評価)
(1)接触角の測定
(測定環境)温度23℃、相対湿度50%
【0175】
(測定方法)ジヨードメタンもしくはエチレングリコールを注射器に採取し、針先へ2.0μLの液滴を作製した。作製した液滴を中間膜に接触させ、中間膜上へ液滴を形成した。このとき、実施例4?5、参考例6?11及び比較例2では、PETフィルムから剥がされた中間膜に、作成された液滴を接触させた。中間膜上へ液滴を形成した1秒後に液滴の画像を撮影した。この液滴の画像を解析することでθ/2法により接触角を算出した。10回の測定の平均値を接触角とした。なお中間膜は測定前に測定環境にて24時間保持した。
【0176】
測定装置として、協和界面科学社製「DropMaster500」を用いた。
【0177】
(2)浸漬ヘイズ
接触角の測定に用いた中間膜を23℃のイオン交換水へ10時間浸漬し、取り出して水分をふき取り、ヘイズメーター(東京電色社製「TC-HIIIDPK」)を用いて、JIS K6714に準拠して、ヘイズ値を測定した。測定を2回行い、それらの平均値を浸漬ヘイズの値とした。
【0178】
(3)接着力(パンメル)
得られた合わせガラスを、-18℃±0.6℃で16時間保管した。保管後の合わせガラスの中央部(縦15cm×横15cmの範囲)を、頭部が0.45kgのハンマーで打って、粉砕されたガラスの粒径が6mm以下になるまで粉砕した。合わせガラスの中央部(縦15cm×横15cmの範囲)を粉砕した後、中間膜の露出度(面積%)を測定し、下記表1によりパンメル値を求めた。6回の測定値の平均値をパンメル値として採用した。
【0179】
【表1】

【0180】
詳細及び結果を下記の表2,3に示す。
【0181】
【表2】

【0182】
【表3】

【0183】
なお、1層構造の合わせガラス用中間膜の具体的な実施例を示した。2層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であっても、第1の層が上述した構成を備えていれば、1層構造の合わせガラス用中間膜と同様に、本発明の効果が得られることを確認した。また、第1の層に上述した構成を採用し、更に第2の層における接触角を上記のように制御することで、本発明の効果がより一層効果的に得られることを確認した。
【符号の説明】
【0184】
1…第1の層
1a…外側の表面(第2の表面)
1b…第1の表面
2…第2の層
2a…外側の表面
3…第3の層
3a…第1の表面
3b…第2の表面
11…中間膜
11A…中間膜(第1の層)
11a…第1の表面
11b…第2の表面
21…第1の合わせガラス部材
22…第2の合わせガラス部材
31…合わせガラス
31A…合わせガラス
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1層の構造又は2層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、
中間膜における表面層として、熱可塑性樹脂と可塑剤と金属元素とを含む第1の層を備え、
前記第1の層は、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角が41.2°以上の値を示す第1の層であり、かつ、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角が57.4°以上の値を示す第1の層であり、
前記第1の層は、マグネシウムを100ppm以下で含む、合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
前記第1の層中の前記金属元素の含有量が20ppm以上、200ppm以下である、請求項1に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の添加に由来して、前記第1の層が、前記金属元素を含む、請求項1又は2に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
酢酸マグネシウム又は2-エチル酪酸マグネシウムの添加に由来して、前記第1の層が、前記金属元素を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
2層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、
中間膜における表面層として、熱可塑性樹脂と可塑剤とを含む第2の層を備え、
前記第1の層の第1の表面側に、前記第2の層が配置されている、請求項1?3及び5のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項7】
前記第2の層が、金属元素を含み、
前記第2の層は、ジヨードメタンを用いて液滴法で測定した接触角が40.1°より大きい値を示す第2の層であるか、又は、エチレングリコールを用いて液滴法で測定した接触角が54.2°より大きい値を示す第2の層である、請求項6に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項8】
3層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、
熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する第3の層をさらに備え、
前記第1の層と前記第2の層との間に、前記第3の層が配置されている、請求項6又は7に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項9】
1層の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、
前記第1の層のみを備える、請求項1?3及び5のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項10】
前記第1の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂である、請求項1?3及び5?9のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項11】
前記第1の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂であり、
前記第2の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂である、請求項6?8のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項12】
前記第1の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂であり、
前記第2の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂であり、
前記第3の層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂である、請求項8に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項13】
請求項1?3及び5?12のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜の製造方法であって、 ベント式押出機を用いて、真空ベントのゲージ圧が500mmHg以上である条件で押出成形することにより、前記第1の層を得る工程を備える、合わせガラス用中間膜の製造方法。
【請求項14】
第1の合わせガラス部材と、
第2の合わせガラス部材と、
請求項1?3及び5?12のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜とを備え、
前記第1の合わせガラス部材と前記第2の合わせガラス部材との間に、前記合わせガラス用中間膜が配置されている、合わせガラス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-31 
出願番号 特願2015-521174(P2015-521174)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C03C)
P 1 651・ 121- YAA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山崎 直也  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 後藤 政博
山本 雄一
登録日 2015-12-18 
登録番号 特許第5855796号(P5855796)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 合わせガラス用中間膜、合わせガラス用中間膜の製造方法及び合わせガラス  
代理人 田口 昌浩  
代理人 森住 憲一  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 特許業務法人宮▲崎▼・目次特許事務所  
代理人 田口 昌浩  

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