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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C23G
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C23G
管理番号 1335345
審判番号 無効2016-800038  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-03-31 
確定日 2017-11-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4702680号発明「マイクロ波を利用した処理装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4702680号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔3?4〕、5、6について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4702680号(以下「本件特許」という。)は、平成17年4月27日に出願(特願2005-128931号)されたものであって、その請求項1乃至4係る発明について、平成23年3月18日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対し、株式会社ニッシン(以下「請求人」という。)から平成28年3月31日に、請求項1?4に係る発明の特許について無効審判の請求がなされたものであるところ、審判請求以降の手続は、おおむね次のとおりである。

平成28年 6月14日付け 答弁書
同年 9月27日付け 審理事項通知書(1回目)
同年10月27日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年11月25日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年11月29日付け 審理事項通知書(2回目)
同年12月 8日付け 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
同年12月 8日付け 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
同年12月13日 口頭審理
平成29年 1月13日付け 上申書(被請求人)
同年 2月17日付け 上申書(請求人)
同年 3月15日付け 審決の予告
同年 5月16日付け 上申書(被請求人)
同年 5月16日付け 訂正請求書
同年 7月11日付け 弁駁書(請求人)

第2 訂正請求についての当審の判断
被請求人が平成29年5月16日に提出した訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は、「特許第4702680号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、3?6について訂正することを求める。」というものであって、本件訂正の内容は、上記平成29年5月16日付けの訂正請求書に記載されているとおり、以下の訂正事項1?5からなるものである。
なお、本件訂正前の特許請求の範囲を「訂正前特許請求の範囲」といい、本件訂正後の特許請求の範囲を「訂正特許請求の範囲」という。また、願書に添付された明細書、図面は訂正されていないので、本件訂正前後にかかわらずそれぞれ「本件明細書」、「本件図面」という。また、訂正事項の下線は当審が付加したものであり、本件訂正によって記載が変更された箇所を表す。

(1)訂正事項1
訂正前特許請求の範囲の請求項1において、
「前記プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマを前記処理室に内装した被処理物に照射し、被処理物の錆を還元する構成としたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。」と記載されているのを、
「前記プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマを前記処理室に内装した被処理物に照射し、被処理物の錆を還元する構成とし、
前記被処理物の錆が、鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆であることを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。」に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前特許請求の範囲の請求項3において、
「請求項1又は2に記載した処理装置において、」と記載されているのを、
「請求項2に記載した処理装置において、」に訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前特許請求の範囲の請求項4において、
「請求項1又は2に記載した処理装置において、
被処理物を収納させる籠状体と、この籠状体を処理室内で回転させる駆動機構とを設け、
籠状体を回転させながら被処理物の錆の還元又は有機物のクリーニング処理をする構成としたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。」と記載されているのを、
「請求項2に記載した処理装置において、
被処理物を収納させる籠状体と、この籠状体を処理室内で回転させる駆動機構とを設け、
籠状体を回転させながら前記クリーニング処理をする構成としたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。」に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前特許請求の範囲の請求項3において、
「請求項1又は2に記載した処理装置において、
前記処理室には開閉可能なドアを設け、ドアの閉成状態で、前記減圧手段、ガス供給手段、マイクロ波供給手段を動作可能に移行させるコントローラを備えたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。」と記載されているのを、請求項1を引用するものについて、独立形式に改めて
「被処理物の錆(ただし、銅の錆を除く)を還元する処理装置であって、
被処理物を取出し自在に内装する処理室を備えると共に、
前記処理室内を減圧する減圧手段、前記処理室内に少なくとも水素ガスを供給するガス供給手段、前記処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段を備えてマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるプラズマ発生手段を設け、
前記プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマを前記処理室に内装した被処理物に照射し、被処理物の錆を還元する構成とし、
前記処理室には開閉可能なドアを設け、ドアの閉成状態で、前記減圧手段、ガス供給手段、マイクロ波供給手段を動作可能に移行させるコントローラを備えたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。」との新たな請求項5とする。

(5)訂正事項5
訂正前特許請求の範囲の請求項4において、
「請求項1又は2に記載した処理装置において、
被処理物を収納させる籠状体と、この籠状体を処理室内で回転させる駆動機構とを設け、
籠状体を回転させながら被処理物の錆の還元又は有機物のクリーニング処理をする構成としたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。」と記載されているのを、請求項1を引用するものについて、独立形式に改めて
「被処理物を取出し自在に内装する処理室を備えると共に、
前記処理室内を減圧する減圧手段、前記処理室内に少なくとも水素ガスを供給するガス供給手段、前記処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段を備えてマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるプラズマ発生手段を設け、
前記プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマを前記処理室に内装した被処理物に照射し、被処理物の錆を還元する構成とし、
被処理物を収納させる籠状体と、この籠状体を処理室内で回転させる駆動機構とを設け、
籠状体を回転させながら被処理物の錆を還元する構成としたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。」との新たな請求項6とする。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否と特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前特許請求の範囲の請求項1の「被処理物の錆を還元する構成とし」との記載において、上記「被処理物の錆」が、「鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆である」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものであり、また、訂正事項1によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

イ 新規事項追加の有無
「被処理物の錆」が、「鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆である」ことについては、本件明細書の段落【0015】に「このように行われる酸化物の還元(錆落とし)処理と、殺菌処理、油、汚れ取り処理については、鉄材からなる器具や用具などの他に、ニッケル、銅、水銀、白金、銀、金、錫、鉛などの資材で構成された器具や用具などの被処理物であっても同様に処理することができる。」と、同段落【0029】に「このようにして水素プラズマ25に晒される被処理物13は、酸化物として生じている錆の酸素が水素プラズマによって化合し、その化合物H_(2)Oが水蒸気となって真空ポンプ19により処理室11外に排出される。
この結果、錆としての酸化物や水酸化物が還元されるため、錆が消失する。
例えば、酸化鉄FeOやFe_(2)O_(3)等の酸素が還元され鉄に戻る。」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否、新規事項追加の有無
訂正事項2は、訂正前特許請求の範囲の請求項3において、「請求項1又は2に記載した処理装置において、」と記載されているのを、「請求項2に記載した処理装置において、」に訂正するものであり、請求項3が引用する請求項について、請求項1又は2と特定されていたものを、請求項2のみに限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものである。また、訂正事項2によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでなく、訂正事項2が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否、新規事項追加の有無
訂正事項3は、訂正前特許請求の範囲の請求項4において、「請求項1又は2に記載した処理装置において、」と記載されているのを「請求項2に記載した処理装置において、」に訂正する事項(以下「訂正事項3-1」という。)と、「被処理物の錆の還元又は有機物のクリーニング処理をする」と記載されているのを「前記クリーニング処理をする」に訂正する事項(以下「訂正事項3-2」という。)からなるものである。
訂正事項3-1は、請求項4が引用する請求項について、請求項1又は2と特定されていたものを、請求項2のみに限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものである。
訂正事項3-2は、訂正事項3-1の訂正によって請求項4が請求項2を引用するものとなったことに伴って、処理装置の処理内容を「被処理物の錆の還元又は有機物のクリーニング処理」から「前記クリーニング処理」に限定するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、「クリーニング処理」に「前記」を付けることにより、請求項4に記載された「クリーニング処理」が、請求項2に記載されていた「被処理物に付着している有機物をクリーニング処理」を指すことを明らかにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでなく、訂正事項3が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
したがって、訂正事項3は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮と、同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、また、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否、新規事項追加の有無
訂正事項4は、訂正前特許請求の範囲の請求項3において、「請求項1又は2に記載した処理装置において、」と記載されているのを、請求項1を引用するものについて、引用関係を解消して独立形式とする訂正事項(以下「訂正事項4-1」という。)と、請求項3が引用する請求項1に記載されていた「被処理物の錆を還元する構成とした」「処理装置」について、「被処理物の錆(ただし、銅の錆を除く)を還元する処理装置」であることを特定する訂正事項(以下「訂正事項4-2」という。)からなるものである。
訂正事項4-1は、請求項3が引用する請求項について、請求項1又は2と特定されていたものを、請求項1を引用するもののみについて、引用関係を解消して独立形式にするものであるから、特許請求の範囲を減縮するとともに、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
訂正事項4-2は、訂正前の請求項3が引用する請求項1に「被処理物の錆を還元する構成とした」「処理装置」と記載されていたところ、当該「処理装置」が、「銅の錆を除く」「被処理物の錆」を「還元する」ものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものである。
また、訂正事項4によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものではなく、訂正事項4が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである
したがって、訂正事項4は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び、同第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当し、また、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否、新規事項追加の有無
訂正事項5は、訂正前特許請求の範囲の請求項4において、「請求項1又は2に記載した処理装置において、」と記載されているのを、請求項1を引用するものについて、独立形式とする訂正事項(以下「訂正事項5-1」という。)と、「被処理物の錆の還元又は有機物のクリーニング処理をする構成」と記載されているのを「錆を還元する構成」に訂正する事項(以下「訂正事項5-2」という。)からなるものである。
訂正事項5-1は、請求項4が引用する請求項について、請求項1又は2と特定されていたものを、請求項1を引用するもののみについて、引用形式を解消して独立形式にするものであるから、特許請求の範囲を減縮するとともに、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
訂正事項5-2は、訂正事項5-1の訂正に伴って、処理装置の処理内容を「被処理物の錆の還元又は有機物のクリーニング処理」から「被処理物の錆の還元」に限定するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項5によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでなく、訂正事項5が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
したがって、訂正事項5は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするもの、及び、同第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当し、また、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合する。

(6)各訂正事項の独立特許要件の適用について
本件特許無効審判事件においては、本件訂正前の全ての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項1?5に係る本件訂正後の請求項1、3?6に係る発明に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(7)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1、3、4について、請求項3、4は請求項1を引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正前の請求項1、3、4に対応する本件訂正後の請求項1、5、6は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。

(8)引用関係の解消の求めについて
上記(4)、(5)のとおり、訂正事項4、5に係る本件訂正は認められるので、本件訂正に係る請求人の求めのとおり、本件訂正後の請求項1、請求項5、請求項6はそれぞれ別の請求単位として扱われる。
なお、訂正事項2、3は引用関係の解消を目的とする訂正ではないから、訂正事項2、3に係る本件訂正後の請求項3、4は、これらが引用する本件訂正後の請求項2と別の請求単位として扱われることはない。本件訂正後の請求項2?4は一群の請求項であり、一の請求単位として扱われる。

(9)訂正についての検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項の規定、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項1、〔3?4〕、5、6について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?6」といい、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
被処理物を取出し自在に内装する処理室を備えると共に、
前記処理室内を減圧する減圧手段、前記処理室内に少なくとも水素ガスを供給するガス供給手段、前記処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段を備えてマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるプラズマ発生手段を設け、
前記プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマを前記処理室に内装した被処理物に照射し、被処理物の錆を還元する構成とし、
前記被処理物の錆が、鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆であることを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。
【請求項2】
被処理物を取出し自在に内装する処理室を備えると共に、
前記処理室内を減圧する減圧手段、前記処理室内に少なくとも水素ガスを供給するガス供給手段、前記処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段を備えてマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるプラズマ発生手段を設け、
前記プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマを前記処理室に内装した被処理物に照射し、被処理物に付着している有機物をクリーニング処理する構成としたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載した処理装置において、
前記処理室には開閉可能なドアを設け、ドアの閉成状態で、前記減圧手段、ガス供給手段、マイクロ波供給手段を動作可能に移行させるコントローラを備えたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載した処理装置において、
被処理物を収納させる籠状体と、この籠状体を処理室内で回転させる駆動機構とを設け、
籠状体を回転させながら前記クリーニング処理をする構成としたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。
【請求項5】
被処理物の錆(ただし、銅の錆を除く)を還元する処理装置であって、
被処理物を取出し自在に内装する処理室を備えると共に、
前記処理室内を減圧する減圧手段、前記処理室内に少なくとも水素ガスを供給するガス供給手段、前記処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段を備えてマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるプラズマ発生手段を設け、
前記プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマを前記処理室に内装した被処理物に照射し、被処理物の錆を還元する構成とし、
前記処理室には開閉可能なドアを設け、ドアの閉成状態で、前記減圧手段、ガス供給手段、マイクロ波供給手段を動作可能に移行させるコントローラを備えたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。
【請求項6】
被処理物を取出し自在に内装する処理室を備えると共に、
前記処理室内を減圧する減圧手段、前記処理室内に少なくとも水素ガスを供給するガス供給手段、前記処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段を備えてマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるプラズマ発生手段を設け、
前記プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマを前記処理室に内装した被処理物に照射し、被処理物の錆を還元する構成とし、
被処理物を収納させる籠状体と、この籠状体を処理室内で回転させる駆動機構とを設け、
籠状体を回転させながら被処理物の錆を還元する構成としたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。」

第4 請求人の主張と証拠方法
1 請求人の主張の概要
(1) 請求人は、「特許第4702680号特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、審判請求書とともに甲第1号証?甲第6号証を提出し、口頭審理陳述要領書(平成28年10月27日付け)とともに甲第7?11号証を提出し、口頭審理陳述要領書(2)(平成28年12月 8日付け)とともに甲第12号証を提出し、上申書を提出し、弁駁書とともに甲第13?14号証を提出している。そして、提出した上記書類及び口頭審理における主張を整理すると、請求人の主張する無効理由は以下のとおりである。

ア 無効理由1
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

イ 無効理由2
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

ウ 無効理由3
本件訂正前の請求項2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

エ 無効理由4
本件訂正前の請求項2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

オ 無効理由5
本件訂正前の請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

カ 無効理由6
本件訂正前の請求項3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

キ 無効理由7
本件訂正前の請求項4に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

ク 無効理由8
本件訂正前の請求項4に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2000-348898号公報
甲第2号証:福田永外4名,“表面波励起プラズマによる中性水素原子生成とレジストアッシングへの応用”,室蘭工業大学紀要,2004年11月,No.54,29?35頁
甲第3号証:特開平6-322163号公報
甲第4号証:特表平11-507990号公報
甲第5号証:特表2002-506128号公報
甲第6号証:特開平2-190489号公報
甲第7号証:特開2001-144090号公報
甲第8号証:特開2005-129849号公報
甲第9号証:特開2005-108916号公報
甲第10号証:特開2004-6818号公報
甲第11号証:特開2006-307255号公報
甲第12号証:マイクロ波表面波水素プラズマによる金属の還元実験の結果
甲第13号証:特許庁審査基準第III部第2章第4節特定の表現を有する請求項等についての取り扱い
甲第14号証:平成15年(ワ)第860号損害賠償請求事件判決文

2 甲号証の記載事項
請求人が証拠方法として提出した各甲号証の記載事項は、それぞれ次のとおりである(なお、下線は当審が付与したものであり、「…」は記載の省略を表す。)。

(1) 甲第1号証(特開2000-348898号公報)の記載事項
1ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、表面波励起プラズマの生成方法に係り、特にプラズマの面積を拡大するための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、特に半導体産業界ではプラズマの利用が盛んである。具体的には、半導体製造プロセスでは、エッチング処理を始めとして、デポジション処理、アッシング処理、表面改質処理などがプラズマの利用によりドライ化され、プラズマはLSIなどに必要な微細加工技術に使われているだけでなく、現今では太陽電池や大型液晶パネル等に必要な大面積加工技術にも使われている。後者の大面積加工技術の場合、プラズマの面積拡大が必要となる。一回の処理面積が増えれば、処理回数も減り、コストダウンも図れる。もちろん、プラズマの面積が単に大きくなればよいのではなく、プラズマ密度分布(電子密度分布)が安定している(均一である)のでなければ、プラズマの大面積化が図れたことにはならない。不均一なプラズマでは、処理むらが生じて歩留りが悪くなり、結果的にコストダウンも実現できない。」

1イ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の表面波励起プラズマでも、酸素ガスまたは水素ガスを導入しながら生成する反応性プラズマの場合は、大面積化が図り難いという問題がある。表面波励起プラズマでは、マイクロ波が表面波となって伝搬するためには十分な所定のプラズマ密度(カットオフ密度)以上であることが前提となるのであるが、酸素ガスや水素ガスは、負イオン化傾向が強く、負イオン化の際にプラズマ中の電子がイオンに取り込まれて、プラズマ中の電子密度(プラズマ密度)が低下するので、マイクロ波が表面波となって伝搬することができなくなり、大面積化を達成することができないのである。
【0006】勿論、マイクロ波電力の供給量を増やして強制的にプラズマ密度を上げれば、プラズマの面積は多少は大きくなるけれども、消滅するプラズマ量も比例して増加する結果、損失の増加が著しくて、プラズマ直下やチャンバー内側壁近傍が高温になり、処理対象物(被処理物)が熱ダメージを受けるという別の問題を生じる。
【0007】本発明は、上記の事情に鑑み、酸素ガスまたは水素ガスを用いる反応性プラズマの大面積化を適切なかたちで実現することのできる表面波励起プラズマの生成方法を提供することを課題とする。」

1ウ 「【0015】請求項3の発明によりプラズマを生成する場合、チャンバー内に水素ガスを導入するとともに、水ガス(水蒸気)および希ガス族元素のガスの少なくとも一方のガスを触媒ガスとして同時に導入しながらチャンバー内を減圧雰囲気に保持しつつ、スロットアンテナからチャンバー壁に設けられている誘電体窓を介してマイクロ波電力をチャンバー内へ供給する。したがって、チャンバー内ではプラズマ化し難い水素ガスの他に、プラズマ化し易い水ガスおよび/または希ガス族元素のガスが必ず混在しており、このプラズマ化し易いガスの混在で水素ガス単独の場合に比べてプラズマ密度が高くなる結果、チャンバー内に供給されたマイクロ波が着実に表面波となって誘電体窓とプラズマとの間をプラズマの面方向へ向けて伝搬してゆくと同時に、表面波の伝搬に相伴って十分なプラズマ密度の領域がプラズマの面方向へ速やかに広がる結果、表面波励起プラズマの大面積化が実現される。
【0016】つまり、請求項3の表面波励起プラズマの生成方法の場合、プラズマ生成を促進する触媒的機能を有するガス(触媒ガス)として、水ガスおよび/または希ガス族元素のガスを水素ガスに混在させることにより、チャンバー内に供給されたマイクロ波が表面波となって伝搬できるだけのカットオフ密度以上の十分なプラズマ密度が得られるのである。プラズマの面積拡大が、マイクロ波電力の供給量増大ではなく、触媒ガスの併用によるものであるから、処理対象物の熱ダメージの原因となる温度上昇を誘発することもなく、プラズマの大面積化は適切なかたちで実現されることになる。勿論、水素ガスが主ガス(メインガス)として必ず含まれていることから生成されるプラズマは還元作用の強いプラズマとなる。」

1エ 「【0018】
【発明の実施の形態】続いて、本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。図1は本発明の実施に用いられる表面波励起プラズマ発生装置(以下、適宜「プラズマ発生装置」と略記)の構成を示すブロック図、図2はプラズマ発生装置におけるスロットアンテナを示す部分平面図である。以下、図1のプラズマ発生装置の構成を先ず説明してから、ついで本発明の実施例による表面波励起プラズマの生成について説明する。
【0019】図1のプラズマ発生装置は、表面波励起プラズマが形成される生成空間Sを有する内直径約30cmの円筒状のチャンバー1と、プラズマ生成エネルギーであるマイクロ波電力を出力するマイクロ波電力出力部2と、チャンバー1内へ必要なガスを導入するガス導入部3と、チャンバー1の上面開口を塞ぐようにして取り付けられた石英板窓(誘電体窓)4と、石英板窓4の上に設けられたSWPランチャー(マイクロ波導波管)5およびスロットアンテナ6とを備え、ガス導入部3からチャンバー1の内に必要なガスが導入されるとともに、スロットアンテナ6からチャンバー1の石英板窓4を介してマイクロ波電力が供給されて生成空間Sに表面波励起プラズマが生成される構成となっている。以下、図1のプラズマ発生装置の各部の構成をより具体的に説明する。
【0020】チャンバー1の底面1Bには排気管1Cが接続されていて、排気管1Cの下流側に介設されている真空排気機構(図示省略)によりチャンバー1の排気が行われる構成となっている。また、チャンバー1の側方にはチャンバー1の室内圧力(真空度)を測定するための真空計測部7が設けられている。さらに、チャンバー1には処理対象物を載せておくステージSTの他、処理対象物の搬入・搬出に必要な機構(図示省略)なども設けられている。マイクロ波電力出力部2は、高圧電源2Aとマイクロ波発振器2Bとを備え、例えば2.45GHzのマイクロ波電力を出力するよう構成されている。」

1オ 「【0027】なお、図1のプラズマ発生装置では、チャンバー1の上面端から10cmほど下がった位置にチャンバー1の中を上下に仕切るかたちでシールドプレート12が取り付けられている。このシールドプレート12は薄板に穴を一面に開けた所謂シールドメッシュの役割を果たすものであり、表面波励起プラズマはシールドプレート12より上側に生じることになる。」

1カ 「【0028】続いて、図1のプラズマ装置を用いて表面波励起プラズマの生成を行う本発明の実施例について説明する。
〔第1実施例〕第1実施例は請求項1,2の発明の実施例である。チャンバー1の内を排気しながら、メインガス導入系3Aから酸素ガスを導入すると同時に、触媒ガス導入系3Bから水ガス(水蒸気)を導入した。第1実施例では、触媒ガスが水ガスであるので、触媒ガス導入系3Bの方の触媒ガス源3bにヒータが配設されていて、触媒ガス源3bから適当な状態の水ガス(水蒸気)が送り出される。酸素ガスと水ガスの割合は、モル比で酸素ガス:水ガス=2:1とした。酸素ガスと水ガスが混在しているチャンバー1の生成空間Sは約1Torrの減圧雰囲気に保つようにした。
【0029】そして、マイクロ波電力出力部2から2kWのマイクロ波電力を出力した。そうすると、図3に示すように、チャンバー1の生成空間Sの略全域に渡って均一な表面波励起プラズマが生じた。生成空間Sの水平断面は直径約30cmの円形であるから、生成した表面波励起プラズマも直径約30cmの円形の大面積プラズマである。そして、生成プラズマに対する目視観察により、チャンバー1の内側壁面(石英板窓4のエッジ近傍)1Aのところも含めて均一な点灯状態が確認された。また生成した表面波励起プラズマについてプラズマ密度(電子密度)を測定した結果を図4のグラフに実線で示す。図4のグラフでは、横軸が生成空間Sの中心点OCから左右水平方向の距離を示しており、縦軸が表面波励起プラズマの電子密度を示している。さらに、酸素ガスと水ガスの割合を、モル比で酸素ガス:水ガス=10:1程度と水ガスの割合を減らした場合も、2kWのマイクロ波電力で同様に表面波励起プラズマを生成できることも確認した。
【0030】なお、第1実施例の場合、生成した表面波励起プラズマ中には、電子や酸素イオンの他に、化学反応性の高い酸素ラジカルが多数存在する。酸素ラジカルは電子が内殻から外殻へ移動しすることで活性を帯びて反応性が高まった酸素である。この酸素ラジカルは、半導体プロセスにおけるレジストのアッシング処理などに適している。図1のプラズマ発生装置の場合、シールドプレート12により酸素ラジカルが選択的に通過させられて下方のステージSTの処理対象物へ向かう。第1実施例のように酸素ガスに水ガスが含まれる場合、酸素ラジカルがチャンバー1の内壁面で消滅することが少なくなるというメリットもある。」

1キ 「【0037】〔第3実施例〕第3実施例は請求項3,4の発明の実施例である。チャンバー1の内を排気しながら、メインガス導入系3Aから水素ガスを導入すると同時に、触媒ガス導入系3BからArガスを導入した。水素ガスとArガスの割合は、モル比で水素ガス:Arガス=2:1とした。水素ガスとArガスが混在しているチャンバー1の生成空間Sは約100mTorrの減圧雰囲気に保つようにした。
【0038】そして、マイクロ波電力出力部2から2.5kWのマイクロ波電力を出力した。そうすると、やはりチャンバー1の生成空間Sの略全域に渡って均一な表面波励起プラズマが生じた。この第3実施例において、表面波励起プラズマが生成する過程を、図7を参照しながら、より具体的に説明する。図7(a)に示すように、石英板窓4からマイクロ波電力が生成空間Sに供給されると、図7(b)に示すように、石英板窓4の内面直下に局所的なプラズマが生じる。石英板窓4の内面直下の局所的なプラズマ中には水素プラズマ〔H_(2)〕と共にArイオン(Ar^(+) )の発生に伴って生じた電子eが、相当量含まれており、十分なプラズマ濃度となっている。その結果、石英板窓4から供給されるマイクロ波は、石英板窓4の内面とプラズマの間を水平方向に表面波となって伝搬する。
【0039】表面波の水平方向への伝搬は、図7(c)に示すように、プラズマの水平方向への拡張を伴いながら、さらに図7(d)に示すように、表面波はチャンバー1の内側壁面1Aへ向けて伝搬してゆく。そして、チャンバー1の内側壁面1Aに達して戻るマイクロ波により共振現象の様相を呈して、石英板窓4の内面とプラズマのと間に、いわゆるマイクロ波の表面波モードが立った状態となる結果、表面波励起プラズマは直径約30cmの円形の大面積プラズマを生成することとなる。生成した表面波励起プラズマは、目視観察により、チャンバー1の内側壁面(石英板窓のエッジ近傍)1Aのところも含めて均一な点灯状態であることが確認された。つまり、第3実施例においては、3kWでも十分なプラズマを生成できない水素ガスに2.5kW程度のマイクロ波電力で十分な濃度のプラズマを生成できるArガスを混在させることで、還元作用の強い大面積の反応性プラズマが生成できるのである。還元作用の強い大面積プラズマは、例えば半導体製造プロセスにおけるウエハの表面還元処理(表面改質処理)に威力を発揮する。
【0040】また、水素ガスとArガスの割合を、モル比で水素ガス:Arガス=1:1とArガスの割合を増やした場合も、1.5kWのマイクロ波電力で同様に還元性の十分な表面波励起プラズマを生成できることを確認した。」

1ク 「【0045】実施例では、図1のプラズマ発生装置により表面波励起プラズマを生成したが、本発明の方法の実施に用いるプラズマ発生装置は、図1のものに限らず、例えば、チャンバー1の内にシールドプレート12が設けられていないプラズマ発生装置を用いることもできる。」

1ケ 「



(2) 甲第2号証(福田永外4名,“表面波励起プラズマによる中性水素原子生成とレジストアッシングへの応用”,室蘭工業大学紀要,2004年11月,No.54,29?35頁)の記載事項

2ア 「1 はじめに
従来、半導体微細加工におけるレジスト除去工程は、酸素イオンによるアッシング(灰化)が用いられてきた。しかし、高ドーズイオン注入したレジストは、上層に緻密な炭化層を形成し、アッシング速度を低下させる。また、その緻密になった炭化層の内部にできる揮発成分によりレジストが爆発することがある。さらに高濃度のドーパント(PやAs等)を含んだレジストは、アッシングにより酸化物を形成し残渣となる。従来の灰化に依らない方法、例えば水素による反応性イオンエッチング(RIE)によれば上記の問題は回避できるが、プラズマによる基板へのダメージが懸念される。本研究では、低プラズマダメージの特性を有する表面波プラズマを用いた中性原子によるレジスト除去を試み、酸素アッシングに対する優位性を検討した。」(第29頁左欄1行?右欄第7行)

2イ 「2.1中性原子発生装置
図1に今回開発した中性原子発生装置の外観を示す。
図2に示すように、マイクロ波導入部分は、2.45GHzのマイクロ波を12インチ径(300mm)試料全体に均一に照射できるよう導波管をテーパー(コーン)構造にしている。また、本装置には高誘電体(石英およびAlNなど)窓材が用いられており、反応チャンバーと導波部を分離させている。さらに本装置は、マイクロ波励起によりTM01モードの表面波プラズマが発生するよう設計している。高誘電体窓材を使用する理由は、誘電体窓材表面上の限られた空間においてのみ高密度プラズマが発生できるようにするためである。プラズマは窓に対し垂軸方向で指数関数的に減衰する(図3)。一方、中性原子は寿命が長いので長距離拡散する。それゆえ中性原子のみ基板に照射できる。さらに、プラズマ発光モードに回転を与え、投入電力に対しプラズマ密度が比例して増加するようマイクロ波導入部に改良を施した。本装置の特徴は、(1)無磁場であるため、高密度で電子温度が低いプラズマが発生する。(2)2.45GHzのマイクロ波を使用しているので従来装置との整合性が良い。(3)構造が単純で加工コストも低い。(4)高誘電体窓材等の新材料を積極的に導入している。(5)反応ガスを切り替えることにより、表面清浄化、エッチング、酸化、窒化、高誘電体薄膜形成など幅広い半導体プロセスに応用できる。これまでレジストアッシング工程への適用可能性について検討を行ってきた。次節に具体的な実施例を示す。」(第29頁右欄第9行?第31頁左欄第28行)

2ウ 「



2エ 「3 実験結果
最初、酸素原子によるアッシングを試みた。8 インチ(200mm)ウェハのレジスト膜厚面内均一性を、ウェハエッジより10mm 離れた4 点と中央一点の計5 点について測定した。酸素及び水素の平均アッシングレートは0.974 μm/min であった。最大値は0.995 μm/min で平均値から+2.2%の差、最小値は0.960 μm/min で平均値から-2.3%の差であり、ほぼ均一にレジストを除去できた。以上の結果から、酸素原子を用いたアッシングは、通常の酸素プラズマアッシングとほぼ同程度の特性を有していることが明らかとなった。
本研究では酸素原子および水素原子によるアッシングの優位性を調べるために、最初にイオン注入無しのレジスト(OFPR-800)除去を試みた。次に高ドーズイオン注入レジストのアッシングも行った。それぞれの実験条件は表1 および表2 に示すとおりである。」(第31頁右欄第4行?第32頁左欄第6行)

2オ 「



2カ 「



2キ 「



2ク 「



2ケ 「図5および図6に示すように、基板(ステージ)温度の上昇に伴い、アッシングレートの増加が見られる。特に150℃以上では急激な増加が確認できる。高温領域では酸素原子によるアッシングレートが高いのに対し、140?145℃で逆転し、低温領域では逆に水素によるアッシングレートの方が高くなる傾向を示す。今回、誘電体窓の材質の違いは顕著には見られなかった。」(第32頁右欄第1?8行)

2コ 「誘電体窓材に関わらず、酸素原子によるアッシングでは活性化エネルギーは0.47eV となり、一方、水素原子によるアッシングでは0.34?0.36eV となった。基底状態の酸素原子 [O(^(3)P)] 照射によるアッシングを行った他の報告では、反応の活性化エネルギーが0.50eV とほぼ同等の値が得られている。これにより、本研究での反応種はイオンや活性ラジカルではなく、基底状態の酸素原子であると考えられる。一方、水素原子によるアッシングにおいても同等のエネルギーが得られていることから、レジストアッシングの優占種が中性原子であることを意味している。水素による活性化エネルギーは酸素よりやや低い0.34eV となった。この反応では、レジスト材料を構成する炭素結合の分断および炭化水素生成エネルギーが反応に費やされると考えている。」(第33右欄第1行?最下行)

(3) 甲第3号証(特開平6-322163号公報)の記載事項
3ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はプラスチック又は金属等の被処理部材に脱脂及び/又は活性化などのプラズマ処理を施す為の回転バレル式プラズマ処理装置に関する。」

3イ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】この従来の処理装置では、プラズマ雰囲気の発生端に面する被処理部材は満足に処理されるが、その陰になる被処理部材における処理が不十分になる傾向が強く、均一なプラズマ処理が実現しないと言う問題点があった。また頻繁に繰り返される処理過程に先だって、被処理部材を処理室に整然と配列するために、多大の労力を要し、これが省力化、効率化を阻んでいた。
【0004】本願発明は上記従来技術の問題点(技術的課題)を解決する為になされたもので、各被処理部材の表面を均一に処理出来る共に、多数の被処理部材にわたって均一なプラズマ処理を実現出来るようにした回転バレル式プラズマ処理装置を提供することを目的としている。」

3ウ 「【0007】
【実施例】以下本願の実施例を示す図面について説明する。図1乃至図3において、1は床に置かれた2個の台、2は各台1に樹立させた二本の支柱、3は各支柱2の上端に水平に固定した支台で、両支台3は平行に配置されている。4は円筒形の側壁5およびその両端に取り付けられた端板6、7からなる外筒である。7aは端板7に形成された開口、7bは開口7aを気密に覆うマウント板である。8は外筒4の軸と直交する直線に沿って側壁5の外面2箇所に固定した支軸で、支台3に取り付けられた2個の軸支部9にそれぞれ軸支され、外筒4の軸を水平方向に対して傾動自在にしている。10は一方の支軸8の周りに設けたアーム元部、11はその一端が元部10に支持されているアーム、12は伸縮型のエアシリンダでそのピストンロッド13がアーム11の他端に枢着されている。14は端板6に設けられた円形の被処理部材の投入口、15は投入口14の近くにおいて側壁5に固定した一対の軸受、16は軸受15に回動自在に支持された回動軸、17は回動軸16の両端部に固着された一対の回動アーム、18は回動アームに取り付けられた円形の蓋、19は回動軸16を回動し得るようこれに連結されている揺動型のエアシリンダである。20は蓋18と端板6との間の気密を保つためのOリング、21は端板6と側壁5の間の気密を保つためのOリングで、蓋18が閉じたとき外筒4が気密になるように構成されている。なお22は組編金属材でOリング状に形成された高周波シールドで、Oリング20の外側において端板6の溝に納められている。23は側壁5に設けられた処理ガスの供給口、24は一方の支軸8を中空にすることによって外筒4の軸心位置に形成した真空排気口である。なおフレキシブル配管を用いれば、真空排気口を偏軸位置に設けることが出来る。25は蓋18に設けられた覗き窓である。
【0008】次に、26は開口部29を備える側枠28と、筒部27とからなる内筒で、処理空間Tを区画形成している。30は端板7の開口7aの周囲に装着された軸受台30aによって支持された軸受で、側枠28の側に固着されている環状受部材30bを支持することによって内筒26を回転自在に支持している。31は筒部27の端面に固定されたガイドで、側枠28と反対の側において外筒のフランジ4aの受部4bに接し、摺動自在の構成でもって内筒26を案内している。27aは筒部27の内面全周にわたって放射状に散設された被処理物攪拌用の多数の羽根である。なお被処理部材の性質によっては、この羽根を設ける代わりに筒部27の内面を緩やかな凹凸面あるいは粗面の抵抗面に形成してもよい。32はマウント板7bに取り付けられたギヤドモータ、32aはそのギヤケース、モータ32の出力ギヤに連結された図示外のピニオンは端板7を通して環状受部材30bの周囲に形成されている大歯車33の周囲に噛み合い、モータ32が内筒26を1rpm程度の低速で回転するように構成されている。34はテフロンで形成された貫通端子台で、外筒4の偏軸位置においてマウント板7bに気密に固定されている。35はプラズマ発生端で、この例においては元部35aを絶縁材製の端子台34に気密に挿通して支持し、開口7aおよび開口部29を通して処理空間Tに達している電極である。なお36は端板6の下方において支柱2に支持されたスライド状の被処理部材受である。」

3エ 「【0009】上記構成のものにあっては、エアシリンダ12を操作して図1に示されるように蓋18の側が上になるよう外筒4を傾動する。エアシリンダ19を操作して蓋18を開き、投入口14から電気接点、マイクロリレーのプラスチック製キャップ等の多数の被処理部材Mを内筒26の中へ投入し、内筒26における被処理部材Mの占積率が10%、多くても20%に達したら、蓋18を矢印方向に回動させて閉じる。なお、被処理部材としては他にパチンコ玉、各種の粉体および粒状体等極めて多種類の部材を被処理部材として投入することが出来る。…
【0010】プラズマ雰囲気においては、励起遷移により生じた紫外線放射、酸素イオン、解離あるいは励起状態の酸素原子および電子が被処理部材Mの表面に付着している油脂に当たり、これを水蒸気および二酸化炭素に分解する。これらの分解生成ガスは排気手段によって外筒4外に排出される。脱脂されたプラスチック表面はプラズマ雰囲気により酸化され活性化される。なお必要に応じて覗き窓25を通して被処理部材Mの処理状態を監視する。
【0011】内筒26が回転するにつれて、被処理部材Mは羽根27aにより内筒26の軸を通る水平面近くまで持ち上げられその後羽根27aから落下し、以後上昇落下を繰り返す。この様に羽根27aは被処理部材Mに攪拌作用を及ぼす。この攪拌作用は何れの被処理部材Mをもまた各被処理部材Mの何れの表面をも常に新鮮なプラズマ雰囲気に均一に接触させ、何れの表面も均一に処理される。」

3オ 「



(4) 甲第5号証(特表2002-506128号公報)の記載事項
5ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、脱酸、および/または、クリーニングを目的とした、大型の金属部材(12)の表面の熱処理方法に係る。本発明は、特に、圧延機から出た状態の金属シートについて、その体積性能( volume properties )を維持しつつ、表面性能( surface properties )を変えるための方法に係る。」

5イ 「【0043】
以上において説明した反応器10による金属部品12のクリーニング及び脱酸は、下記の様に行われる。
【0044】
なお、以下で説明する例において、金属部材12は、従来の駆動手段(図示せず)によって駆動される基板ホルダ14の上を移動( running over )している鋼のシートである。
【0045】
先ず、鋼のシート12を、基板ホルダ14の上に置いた後、反応室16内を、ノズル18を使用して低圧の還元性混合ガスで満たす。この還元性混合ガスの圧力は、好ましくは、1mTorrから10mTorrの範囲である。
【0046】
例えば、この還元性のガスは、水素を含有している。また、この還元性のガスは、アルゴンまたはその他の不活性ガスと水素の混合ガスであっても良い。
【0047】
本発明を実施する際に、水素は好ましいガスではあるが、他の還元性ガスも、当然、使用を想定することが可能である。
【0048】
次に、マイクロ波のエネルギーは、各アプリケータ24によって、各導入ノズル18の近傍に、同時にまたは連続させて、照射される。これによって、この領域に、静磁場(先に述べた様に、その強度は電子サイクロトロン共鳴に対応している)が形成される。即ち、静磁場は、反応室16内で、処理対象の鋼のシート12が置かれている領域から離れたこの領域に形成される。

【0052】
この様にして、分離度が高く、非常に活性に富んだ低圧水素プラズマが得られ、これによって、鋼のシートの表面処理が可能になる。」

5ウ 「【0060】
先ず、第2図を見ると、酸素及び炭素が、かなりの量で、鋼の生地とシリコンの封緘層の間の遷移領域の中に存在していることが分かる。当然、酸素は酸化物に起因するものである。これに対して、炭素は、溶剤を用いたクリーニングの後でも炭化水素による汚染が残っていることを示している。
【0061】
次に、第3図を見ると、鋼の表面(即ち、封緘層と鋼の表面との間の遷移領域)において、酸素及び炭素が大幅に減少していることが分かる。
【0062】
この様に、本発明による水素プラズマ処理によれば、元々の鉄酸化物を減らすだけではではなく、炭化水素の痕跡を取り除くこともできる。
【0063】
以上で説明した表面処理方法は、表面に残留している炭化水素を取り除き、且つ、表面の脱酸化を可能にし、更に、それに次いで行われるコーティングの付着性を相当程度改善することができる。」

5エ「



5オ「



(5) 甲第6号証(特開平2-190489号公報)の記載事項
6ア 「[産業上の利用分野]
本発明は、金属表面酸化物の除去により金属表面を清浄化する方法に関するものであるが、専らこれに制限されるものではなく、乾鑞リフロー方法(dry solder reflow process )にて金属表面を清浄化することに応用可能なものである。乾鑞リフロー方法は、使用される液体フラックスが真空処理技術と両立しないで、鑞のリフローの後で望ましくない残留物を残す恐れのあるような湿式処理の欠点を回避するものである。」(第1頁左下欄最下行?右下欄第9行)

6イ 「[課題を解決する為の手段及び作用]
広範に述べられた本発明により、金属表面を清浄化する方法が提供されるが、この方法に於ては、水素を含むガスの強力なマイクロ波周波数プラズマ内で生ずる原子水素により、酸素が金属酸化物から抽出されることによって金属表面から金属酸化物が除去される。」(第2頁右上欄下から4行?左下欄第3行)

6ウ 「原子水素が酸化された表面と相互作用する時に興味のある2つの作用が生ずる。第1に、酸素の抽出が生じて、これにより水素が化学的に表面酸化物を減少させ、自身を水蒸気に変換させ、これがポンプにより排除される。」(第2頁右下欄第4?8行)

6エ 「[実施例]
例として、本発明の乾式リフロー鑞接方法を実部する装置を示す添付図面が参照される。
さて図面を参照し、図示の装置は回転ポンプと油拡散ポンプの組合せ11及び10によって推進されるように配置された直径5.08cm(2″)の円筒形の溶融シリカ真空室1から成っている。この室内には温度監視制御を行う為の熱電対(図示せず)を有する電気加熱台2がある。この台2は基板内のオーリング・シール13を通る棒12を動かすことによって室内を上下に動かされることが出来る。この室の頂部には小さい同調可能のマイクロ波空所4に連通する円錐形部分3があり、200W、2.45GHzのマイクロ波発生器6によってこのマイクロ波空所内にプラズマ5が発生され得るようになっている。アルゴン・水素ガス混合物7がマイクロ波空所の頂部内に導入され、これの流速が精密ニードル弁によって制御されるようになっている。ガス流はプラズマ5内に発生された原子水素のスペシーズ(種類のこと)を下方に、加熱された台2上の試料チップ9のような鑞被覆試料に向って掃き流すようになされる。
穿孔された板8の形状の接地されたマイクロ波シールドがマイクロ波周波数の電場からチップの鑞接面を濾波するのに使用され、鑞の表面荷電(及びその下にある電子回路)が生じないのを確実になしている。
図示された装置を使用して乾式鑞リフロー方法を実施するに際して、試料チップ9のような試料が基層加熱台2(例えば、直径が5.08cm(2″))上に載置され、反応容器1が10^(-5)torrの基準圧力まで真空排気される。これは、液体窒素捕捉拡散ポンプ10と回転ポンプ11によって行われる。配管17を含む推進循環路内の弁14,15及び16が作動され、弁15及び16が閉じられる時に弁14が最初に作動される。このようにして、室1が回転ポンプ11によって相対的に低圧に排気される。次に、弁14が開じられて開放された弁15及び16を経てポンプ10及び11により室1が低圧に排気される。
H_(2)およびAr雰囲気10-100mtorrの間の圧力で導入されて試料がPt/PtRh熱電対によって監視された通りに63:37共晶Pb-Sn鑞の溶融点(例えば、150-160℃)以下の温度に加熱される。この温度で、2.45GHzのプラズマが反応容器内で200Wの最大出力電力を有するマイクロ波発生器6によって衝突される。これによって水素プラズマ5が何れの与えられた試験的条件に対しても試料台2の上方の反応容器内の最大容積を占めるように同調されるのである。次に鑞のリフロー温度まで加熱が続けられ、ここで酸化物の除去及びリフロー鑞接が行われるのを可能にするように保持される。一度このことが行われると(60秒よりも短い期間の後で)、プラズマが遮断されて試料がH_(2)およびAr雰囲気内で励起されるのを許される。
上述の装置は次のように作動する。
供給ガス(Ar+H_(2))が図示のようにマイクロ波プラズマ空所4の上方で反応装置に流入する。強力なマイクロ波周波数の電場がこれらのガスの分解を生じさせて、これらのガスがグロー放電(即ち、プラズマ)5になる。励起周波数(2、45GHz)はプラズマ振動周波数と同様の大きさであるから、高度の原子スペシーズが放電中にある。これらの原子スペシーズ(Ar^(*)及びH^(*))は真空ポンプ10及び11の作用によって下流に掃き流され、ここで鑞接台される試料の表面に衝突する。原子水素は鑞及び鑞接台される表面の両者の表面酸化物から酸素を抽出し、これによって清浄化された金属面を生ずるのである。試料9は次に鑞の溶解点まで加熱されてリフローが上述の条件で行われるのである。」(第3頁左下欄下から第2行?第4頁左下欄10行)

(6) 甲第7号証(特開2001-144090号公報)の記載事項
7ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体装置の製造方法に関し、特に、金属配線上の酸化物の還元方法および銅配線上の酸化銅の還元方法に関する。」

7イ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】第1の問題点は、第1の従来例において、銅配線とプラズマ窒化シリコン膜の間に、酸化銅(CuxO)が存在するために、剥がれが発生し易くなる。特に、大面積の銅配線上のプラズマ窒化シリコン膜が剥がれ易い。さらに、密着性が悪いために銅原子が界面で動き易く、エレクトロマイグレーションが劣化する。その理由は、CMPの段階及びその後のゴミ取り用の洗浄、大気放置により、表面に酸化銅(CuxO)が形成されるためである。さらに、放置時間が長いと厚い酸化銅が形成される。また、プラズマ窒化シリコン膜は成長前の酸化銅の除去はできないからである。この問題点は、第2の従来例においても同様に存在する。その理由は、銅表面上に酸化銅が存在すると、その後のシリサイド処理において、銅シリサイドが十部形成されないためである。また、形成されたとしても、酸化銅の形で存在した酸素はその後の熱処理が加えられるに従って、銅シリサイドは分解し、酸化シリコンと銅に変化する。その結果、初期の銅シリサイド層に比べて、薄くなるために密着性が劣化する。」

7ウ 「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、半導体装置に関し、その製造方法を次のとおりにすることにより、前記問題点を解決し、かつ、前記発明の目的を達成することができる。
1.シリコン基板上の絶縁膜102上に形成されたバリア層上に、銅層による配線層を形成した後、炭素又は水素のうち少なくとも一方を含むプラズマに曝し、当該配線層上の酸化銅等を還元し、金属銅へ変換し、銅層による配線層を形成する(請求項1)。
2.前記プラズマは、ヘリウムガスで希釈したメタンガスにより発生させたCH_(4)/Heプラズマである(請求項2)。
3.前記プラズマは、メタンガスのみにより発生させたCH_(4)プラズマである(請求項3)。
4.前記シリコン基板は、300℃?650℃の範囲の温度である(請求項44)。
5. 前記プラズマの発生方法が誘導結合型プラズマであり、前記シリコン基板に基板バイアス用高周波を印加する(請求項5)。」

7エ 「【0021】次に、図1(b)に第1の絶縁膜102表面上及び溝103aの内壁上に窒化チタン膜や窒化タンタル膜、タンタル膜などの何れか又は積層からなる第1のバリア層105を約10nmから約50nmの厚さで形成する。
【0022】次に、バリア膜105上全面に銅膜106を形成する。ここでは、溝103a内部にボイドが無いように埋め込むことが重要である。通常、バリア膜105を形成後にPVD(Physical Vapor Deposition)法またはCVD法により、下地となる薄い銅膜を形成し、次に、電界メッキ法により、厚い銅膜106を形成する。その後、銅膜106を固めるために、熱処理工程が加えられることがある。特に、埋め込み性を向上するために、水素等の還元雰囲気中で、熱処理工程が加えられることがある。
【0023】次に、図1(c)に示すように、第1の絶縁膜102の最上面より上に存在する余剰な銅膜及びバリア層をCMP(Chemical-Mechanical Polishing)法により除去し、ダマシン配線107aから107dを形成する。CMP後の洗浄により、表面のゴミを除去する。大気放置により、ダマシン配線107a等の表面には酸化銅108aから108dが約3nmから約10nm厚で形成される。
【0024】次に、図2(d)に示すように、図3の高密度プラズマ装置を用いて、CH_(4)、Heにより発生したプラズマ109を、銅配線表面に照射し、酸化銅108a等を還元し、金属性の銅へと変換する。ここで、プラズマ処理条件として、3%CH_(4)/He、圧力約10.67Pa(約80mTorr)下、高周波電源308に約300Wのソースパワーを印加し、高周波電源309に約10Wのバイアスパワーを印加することで、CH_(4)/Heプラズマを発生させた。処理時間は約60秒間である。このプラズマ照射後に図2(e)に示すように清浄な銅表面を持ったダマシン配線107aから107dを形成することができる。
【0025】次に、酸化銅108a等を除去後、真空状態のまま、違うチャンバーにおいて、プラズマCVD法により、ダマシン配線107a等上と第1の絶縁膜102上にシリコン窒化膜や炭化シリコン膜等からなる第2のバリア層110を約20nmから約200nmの厚さで形成する。ここで、銅が酸化せず、かつ、銅が拡散しなければ、どのような絶縁膜でも良い。
【0026】さらに、この第2のバリア層110の上に、例えば、シリコン酸化膜やフッ素添加アモルファスカーボン膜、その他低誘電率材料からなる第2の絶縁膜111をCVD法、またはスピンコート法により、約0.6μmから3μmの厚さで形成する。プラズマ処理の段階で、シリコン基板101を300℃から650℃程度の高温に保持すると、除去効果はさらに増加する。しかし、ここでの最高温度は第1の絶縁膜102の耐熱温度以下にする必要がある。ここで、Heで希釈したが、炭素と水素が存在すれば良く、CH_(4)のみで処理しても良い。さらに、炭素と水素を発生するガスならば、どのようなガスでも良い。」

7オ 「



7カ 「



(7) 甲第8号証(特開2005-129849号公報)の記載事項
8ア 「【背景技術】
【0002】
半導体集積回路等の半導体装置では、微細化に伴い、配線抵抗及び配線間容量に起因した信号伝搬遅延が大きな問題となってきている。そのため、配線抵抗及び配線間容量の低減が重要な課題となっている。
【0003】
配線抵抗の低減に対しては、低い抵抗率を有する銅配線の採用が提案されており、配線間容量の低減に対しては、低い誘電率を有する層間絶縁膜の採用が提案されている。銅配線には通常、層間絶縁膜に形成された溝に銅を埋め込んで形成されるダマシン配線が用いられ、層間絶縁膜には通常、少なくとも炭素及び水素を含んだ低誘電率絶縁膜が用いられる。また、銅配線及び層間絶縁膜が形成された表面には通常、プラズマCVD法によってストッパー絶縁膜が形成される。このストッパー絶縁膜は、銅配線中の銅の上層側への拡散を防止する機能、及び、上層側に形成される層間絶縁膜をエッチング加工する際のエッチングストッパーとしての機能を有するものである。
【0004】
上述したような銅配線を用いた場合、銅配線の表面が大気中で酸化されるという問題がある。銅配線の表面に銅酸化物層が形成されると、ストッパー絶縁膜と銅配線との間の密着性が低下し、特性や信頼性に悪影響を与えることとなる。そのため、ストッパー絶縁膜を形成する前に、銅配線の表面に形成された銅酸化物を還元する必要がある。この還元処理にはプラズマ処理が用いられるが、ストッパー絶縁膜をプラズマCVD法によって加熱状態で形成することから、プラズマ還元処理もストッパー絶縁膜形成用の処理容器内において加熱状態で行われる。
【0005】
しかしながら、プラズマ還元処理を加熱状態で行った場合、低誘電率絶縁膜(層間絶縁膜)に含まれる有機成分等がプラズマ雰囲気中の活性な水素等によって分解され、CH_(4 )等のガスとして除去されてしまう。そのため、低誘電率絶縁膜の表面にOH基等が導入され、吸湿性の非常に高いいわゆるダメージ層が形成される。その結果、ダメージ層によって配線間のリークが増大してしまうといった問題が生じる。」

8イ 「【0018】
以下、図1に示した処理装置を用いた半導体装置の製造方法について説明する。図2?図4は、本製造方法を模式的に示した断面図である。
【0019】
まず、図2に示すように、基板100を用意する。この基板100には、半導体基板101、層間絶縁膜として用いる低誘電率絶縁膜(第1の絶縁膜)102、バリアメタル膜103及び銅配線104が含まれている。なお、実際には、半導体基板101上にはMISトランジスタ等の半導体素子が形成されている。また、半導体基板101と低誘電率絶縁膜102との間に、他の絶縁膜や配線等が形成されていてもよい。図2に示すように、低誘電率絶縁膜102及び銅配線104の表面は露出しており、銅は大気中で容易に酸化されるため、銅配線104の表面には銅酸化物層104aが形成されている。
【0020】
低誘電率絶縁膜102には、少なくとも炭素及び水素を含有した絶縁膜が用いられる。本実施形態では、低誘電率絶縁膜102として、シリコン、酸素、炭素及び水素を含有した絶縁膜(以下、SiCO:H膜と略記)を用いる。例えば、原料ガスとして有機シランガス(アルキルシラン)及びO_(2) ガスを用いたプラズマCVD法によって形成された有機系の絶縁膜を、低誘電率絶縁膜102として用いることができる。この低誘電率絶縁膜は、通常のシリコン酸化膜(SiO_(2) 膜)中にメチル基が導入されたものであり、比誘電率が2.2?3.0程度と、通常のSiO_(2) 膜の比誘電率(3.9程度)よりも大幅に低い。銅配線104には、低誘電率絶縁膜102に形成された溝に銅を埋め込んで形成されるダマシン配線が用いられる。
【0021】
次に、図3に示すように、銅配線104の表面に形成された銅酸化物層104aをプラズマ処理により還元して除去する。以下、本工程について詳述する。
【0022】
まず、基板100を処理室11内に搬入し、支持台15上に基板100を載置する。支持台15に載置された基板100は、支持台15に設けられた冷却機構16によって冷却される。ここでは冷却温度を-50℃とする。なお、基板100を載置する前から支持台15を予め冷却しておいてもよいし、基板100を載置してから支持台15の冷却を始めてもよい。製造時間の短縮の観点からは、基板100を載置する前から支持台15を予め冷却しておく方がよい。
【0023】
処理室11内を真空排気した後、ガス導入口12から処理室11内にNH_(3) ガス及びN_(2) ガスを導入する。NH_(3 )ガス及びN_(2) ガスの流量は、それぞれ500sccm及び5000sccmとし、処理室11内の圧力は5Torrに調整する。続いて、高周波電源17から13.56MHz、200Wの高周波電力を供給し、20秒間のプラズマ還元処理を行う。この処理により、銅配線104の表面に形成されていた銅酸化物層104aが還元される。具体的には、NH_(3) プラズマによって形成された活性な水素によって銅酸化物(CuO)が還元されてCuとなる。
【0024】
このプラズマ処理の際に、低誘電率絶縁膜102の表面もプラズマ雰囲気に晒されることになるが、基板100が冷却されているため、プラズマ雰囲気中の活性な水素等と低誘電率絶縁膜102中の有機成分等との反応性を弱くすることができる。そのため、低誘電率絶縁膜102中の有機成分等が活性な水素等によって分解除去されるといった問題を防止することができ、低誘電率絶縁膜102表面におけるダメージ層の形成を抑制することができる。」

8ウ 「【0030】
一方、比較例として、350℃でプラズマ還元処理を施した後、同一の処理室内において350℃でストッパー絶縁膜を形成した試料を作製した。この場合には、リーク電流は2.5×10^(-8)A/cm^(2) であり、本実施形態の試料に比べてリーク電流が著しく増加していた。また、室温程度でプラズマ還元処理を行った場合にも、リーク電流は5.5×10^(-9)A/cm^(2 )と大きかった。一般に、デバイスの特性及び信頼性等の観点から、リーク電流は1.0×10^(-10)A/cm^(2) 程度以下にすることが望ましい。したがって、室温程度でプラズマ還元処理を行っても、十分な特性を得ることはできない。十分な特性を得るためには、少なくとも0℃程度以下まで、基板を冷却する必要があると考えられる。」

8エ 「



8オ 「



(8) 甲第9号証(特開2005-108916号公報)の記載事項
9ア 「【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマ発生部を具備するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、プラズマ密度が均一で且つプラズマの拡散の少ない効率の良いプラズマ発生装置を提供することを目的して、プラズマ発生用コイルを有するプラズマ発生装置において、プラズマ発生空間を囲繞するプラズマ拡散遮蔽壁を設けたことを開示し、さらにプラズマ拡散遮蔽壁がパンチングメタルであることを開示する。これによって、前記拡散遮蔽壁によって画成された空間にプラズマを生成し、前記拡散遮蔽壁の内部に封じ込めてプラズマの拡散を防止するようにしたものである。」

9イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1及び2に開示されるような単独のプラズマ源を用いて液晶パネル等の大型基板を処理するプラズマ処理装置を枚葉処理装置として製造するには大面積にわたる高均一なプラズマを形成する必要があり、装置が大型化するという不具合が生じる。
【0006】
また、特許文献3で開示されるように複数個のプラズマ発生部を処理容器の上部に設けて処理する方法では、装置が複雑となり、高価となるという不具合が生じる。
【0007】
このため、本願発明は、既存のプラズマ発生装置を用いると共に、大型の基板等の被処理体を動かしてスキャン処理可能なプラズマ処理装置を提供することにある。」

9ウ 「【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、既存のプラズマ発生部を用いて高密度プラズマを発生させ、この高密度プラズマをパンチングメタルに形成されたライン状の孔から、移動する被処理体に対して放出してスキャン処理することにより、大型の被処理体に対して簡単な構造で、高速且つ高均一なプラズマ処理を全面に渡って実施することができるものである。これによって、例えばリール式のTABテープのような非常に長い基板にも処理することが可能となるものである。
【0014】
また、孔を設けたパンチングメタルに、導電性材料でできた遮蔽壁を設けたことにより、パンチングメタルの孔を通過したラジカルが効率よく被処理体と反応できるようになるため、処理速度及び均一性を向上させることができるものである。また、遮蔽壁の配設位置や長さ等の条件を変えることにより、被処理体に対して最適な作業条件を設定することが可能となるものである。」

9エ 「【実施例1】
【0016】
本願発明の実施例に係るプラズマ処理装置1は、プラズマ発生部2と、プラズマ処理部3とによって構成される。この実施例では、プラズマ源に表面波プラズマを用いたが、ECRプラズマやICP等であっても良いものである。また、プラズマ源に高密度プラズマを用いることによって高速処理が可能となる。
【0017】
前記プラズマ発生部2は、例えば直流電力をマイクロ波に変換するマグネトロン21と、このマグネトロン21で発生したマイクロ波を伝達する導波管22と、導波管22によって伝達されるマイクロ波を所定の箇所に集中させて表面波プラズマ28を発生させるアンテナ部23と、石英等の絶縁材料から形成される窓部24と、この窓部24を介して前記アンテナ部23と対峙する位置にプラズマ生成空間25を画成する第1の真空容器26と、前記プラズマ生成空間25に所定の気体を導入させるガス導入管27とによって少なくとも構成される。

【0019】
前記プラズマ生成空間25と前記真空処理空間32の間には、図2で示すようなパンチングメタル40が配される。このパンチングメタル40は、導電性物質によって形成され、その中央には直径方向にライン状、長方形状に複数の孔41が配設される。この複数の孔41の形成領域は、前記被処理体30の移動方向Mに対して垂直方向に長手方向を有し、移動方向に沿って短手方向を有する長方形形状をしている。
【0020】
以上の構成のプラズマ処理装置1において、先ず被処理体30を可動台31に搭載して、前記可動台31をパンチングメタル40の下方位置まで移動させる。そして、真空引きを行って、所定のガス(この実施例では、酸素+四弗化炭素)をガス導入管27からプラズマ生成空間25へ導入し、マグネトロン21から例えば2.45GHzのマイクロ波を発振して、導波管22及びアンテナ23を介して前記ガスを励起し、前記プラズマ生成空間25にプラズマを生成する。そして、前記パンチングメタル40によって、被処理体にダメージを与えるマイクロ波やイオンが遮断されると共に、パンチングメタル40に形成の孔からラジカルや励起されないガス成分が通過して、被処理体30を処理するものである。」

9オ 「



(9) 甲第10号証(特開2004-6818号公報)の記載事項
10ア 「【0026】
本発明において用いるプラズマ照射装置の1例を図1に示すが、本発明はこれにのみ制限されるものではなく、本発明の作用効果が発揮される限り適宜形式のものを使用できる。
【0027】
図中、マグネトロン(図示せず)によって生成された2.45GHz のマイクロ波10が矩形導波管12を通して、さらにスロットアンテナ14から石英窓16を介して、真空容器18に入射してそこで表面波プラズマが生成される。
【0028】
図示装置の場合、マイクロ波の出力は最大で3kw であり、圧力が50?250Paの領域で安定した高密度プラズマが得られる。
プラズマ照射装置20における圧力は適宜調整可能となっている。
【0029】
プラズマ照射装置20に導入する水素の流量は、例えば、10ml/min?500ml/minの間に設定できる。装置内の圧力の設定は導入する水素の流量と排気側バルブをそれぞれ調節することによっておこなう。
【0030】
プラズマ照射装置20のプラズマ発生部22とサンプル30の間にはパンチングされた金属板(遮蔽板)24が挿入されている。遮蔽板24はアースされているので、プラズマ内で生成したイオンはそこでトラップされ、サンプル30まで到達するのは水素ラジカルおよび水素分子となる。」

10イ 「



(10) 甲第12号証(マイクロ波表面波水素プラズマによる金属の還元実験の結果)の記載事項
平成28年12月 8日付けの口頭審理陳述要領書(2)には、甲第12号証について、以下の説明がなされている。
12ア 「5.2
甲第1号証記載の装置で金属(銅、鉄)の錆を消去する実験を行ったので、その結果を甲第12号証として提出する。
甲第12号証では、甲第1号証記載の装置を用い、下記条件でマイクロ波表面波水素プラズマを発生させて金属(銅板、鉄板)の錆を消去する実験を行った。
なお、金属のマスク用にシリコンウエハを用い、シリコンウエハの固定用に粘着ポリイミドテープ(薄い黄色)を用いた。
実験結果として、銅板、鉄板のいずれも錆を消去することができた。

・シールドプレート無し

銅板、鉄板ともバーナーで加熱し、酸化膜(錆)を形成した。」(口頭審理陳述要領書(2)の第3頁第2?20行)

第5 被請求人の主張と証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、答弁書を提出し、口頭審理陳述要領書(平成28年11月25日付け)を提出し、口頭審理陳述要領書(2)(平成28年12月 8日付け)を提出し、上申書とともに乙第1?3号証を提出することにより、請求人の主張する理由及び証拠によっては本件発明を無効とすることはできないと主張している。

[証拠方法]
乙第1号証:鉄の錆の状況を示す写真
乙第2号証:鬼頭毅外5名,“水素の化学的圧縮技術における酸化鉄の水素還元プロセスの速度論的評価”,Journal of Japan Society of Energy and Resources,2012年3月,Vol.33,No.2,通巻192号,10?15頁
乙第3号証:実験成績証明書

第6 当審の判断
請求人の主張する無効理由1?無効理由8についての当審の判断を以下に示す。最初に、甲第1号証を主引例とする新規性進歩性に関する、無効理由1、2、5、7について検討し、次に、甲第2号証を主引例とする新規性進歩性に関する、無効理由3、4、6、8について検討する。

1 無効理由1、2、5、7(甲第1号証を主引例とする新規性進歩性)について
甲第1号証を主引用例とする無効理由1、2、5、7について検討する。

(1)甲第1号証に記載された発明
上記第4 2(1)の甲第1号証から摘記した上記1ア?1ケから、以下ア?ケの事項が記載されていると認められる。
ア 上記1アによれば、甲第1号証には、LSIに必要な微細加工技術や、太陽電池、液晶パネル等の大面積加工技術において、表面改質処理等にプラズマが使われていることが記載されている。

イ 上記1イによれば、甲第1号証において、発明が解決しようとする課題は、上記アのプラズマによる表面改質処理等を行うために、大面積の処理が可能で、被処理物が熱ダメージを受けない、表面波励起プラズマの生成方法を提供することである。

ウ 上記1ウには、表面波励起プラズマの大面積化を実現するために、チャンバー内でプラズマ化し難い水素ガスの他に、プラズマ化し易い水ガスおよび/または希ガス族元素のガスを混在させており、大面積化のためにマイクロ波電力を増大させる必要がないので、被処理物の熱ダメージの原因となる温度上昇を誘発しないことが記載されている。

エ 上記1エには、水素ガスの他に、プラズマ化し易いガスを混在させることによって、大面積の処理が可能で、被処理物が熱ダメージを受けないようにすることが可能であるプラズマ発生装置が記載されており、当該プラズマ発生装置は以下の構成を有するものである。
すなわち、このプラズマ発生装置は、上記1ケの図1に示されているものであって、表面波励起プラズマが形成される生成空間Sを有する円筒状のチャンバー1と、マイクロ波電力を出力するマイクロ波電力出力部2と、チャンバー1内へ必要なガスを導入するガス導入部3と、チャンバー1の上面開口を塞ぐようにして取り付けられた石英板窓(誘電体窓)4と、石英板窓4の上に設けられたマイクロ波導波管5およびスロットアンテナ6とを備え、ガス導入部3からチャンバー1の内に必要なガスが導入されるとともに、スロットアンテナ6からチャンバー1の石英板窓4を介してマイクロ波電力が供給されて生成空間Sに表面波励起プラズマが生成されるように構成されており、さらに、チャンバー1には被処理物を載せておくステージSTが設けられており、不図示の被処理物の搬入・搬出機構と、不図示の、チャンバー1の排気を行う、排気管1Cの下流側に介設された真空排気機構が設けられている。

オ 上記1オによれば、上記エに記載した生成空間Sは、シールドプレート12が、チャンバー1の中を上下に仕切るかたちで取り付けられることにより画成されており、当該シールドプレートとは、一面に穴を設けた薄板からなり、いわゆるシールドメッシュの役割を果たすものである。

カ 上記エ、オの検討事項も考慮すると、上記1ケの図1から、チャンバー1はシールドプレート12によって上下に仕切られており、シールドプレート12よりも上側が生成空間Sとして画成されており、シールドプレート12よりも下側の空間には、ステージSTに載置された被処理物が配置されることが見て取れる。なお、シールドプレート12よりも下側の上記空間は、被処理物に対してプラズマ処理をする空間であるから、この空間を以下「処理空間」という。
また、図1から、チャンバー1の上部には、マイクロ波導波管5、スロットアンテナ6及び石英板窓4が設けられていることが見て取れる。

キ 上記エで検討した、被処理物の搬入・搬出機構は、被処理物を上記処理空間内に搬入し、また、処理終了後に上記処理空間から外部へ搬出するための機構であると解される。

ク 上記1キには、図1に記載されたプラズマ発生装置を用いた、第3実施例の処理方法であって、チャンバー1内に導入するガスを水素ガス及びArガスとし、2.5kWのマイクロ波電力を出力すると、生成空間Sの略全域に亘って均一な還元作用の強い表面波励起プラズマが生じ、この還元作用の強い大面積プラズマによって、半導体ウエハの表面還元処理を行うことが記載されている。

ケ 上記1オによれば、表面波励起プラズマはシールドプレート12より上側、すなわち、生成空間S内に生じるものであり、また、上記1カの段落【0030】によれば、第1実施例の方法において、表面波励起プラズマ中には、イオン、電子、ラジカルが含まれているが、これらのうち、ラジカルが選択的にシールドプレートを通過して、ステージST上の被処理物に向かうものである。
一方、甲第1号証には、第3実施例の方法におけるシールドプレートの機能については記載されていないが、第3実施例と第1実施例はガスの種類が違うだけで、シールドプレートのシールドメッシュとしての機能は同じと考えられるので、第3実施例の方法が実施される図1のプラズマ発生装置においても、第1実施例と同様に、水素ガス及びArガスから生成される表面波励起プラズマ中に含まれるイオン、電子、ラジカルのうち、ラジカルが選択的に被処理物である半導体ウエハに向かうものであるといえる。
なお、表面波励起プラズマ中に含まれるイオンや電子はシールドプレートを通過せず、ラジカルが選択的に通過することは、甲第9号証の段落【0020】及び甲第10号証の段落【0030】にも記載されているように、プラズマ処理装置の技術分野における技術常識である。
また、被請求人が提出した平成28年11月25日付けの口頭審理陳述要領書の第5頁の5?9行には、「甲第1号証の図1に記載されているプラズマ発生装置では、シールドプレート12の上側(生成空間S)に表面波励起プラズマ(電子、イオン、中性粒子)が生成され、そのシールドプレート12の下側にはエネルギーの少ない中性粒子が抽出され、この中性粒子によって半導体ウエハ等の表面還元処理が行われる」と記載しており、電子とイオンはシールドプレート12を通過せず、通過するものはエネルギーの少ない中性粒子であることを認めている。

コ 上記ア?ケの検討事項に基づき、被処理物である半導体ウエハに対して表面還元処理が行われる、第3実施例の方法を実施しているプラズマ発生装置に注目して、本件発明1の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、次のプラズマ発生装置(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「搬入・搬出機構によって搬入又は搬出される被処理物が配置される処理空間と、シールドプレート12によって前記処理空間と仕切られた生成空間Sとからなるチャンバー1を備えるとともに、
チャンバー1の排気を行う真空排気機構、チャンバー1内へ水素ガス及びArガスを導入するガス導入部3、マイクロ波電力を出力するマイクロ波電力出力部2、チャンバー1の上部に設けられたマイクロ波導波管5、スロットアンテナ6及び石英板窓4を備え、
ガス導入部3からチャンバー1内に水素ガス及びArガスが導入されるとともに、スロットアンテナ6から石英板窓4を介してマイクロ波電力が供給されることにより生成空間Sに表面波励起プラズマが生成され、
前記表面波励起プラズマに含まれるイオン、電子、ラジカルのうち、ラジカルが選択的に前記シールドプレート12を通過して、被処理物である半導体ウエハの表面還元処理を行う、プラズマ発生装置。」

(2)本件発明1について
(2-1)本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「搬入・搬出機構によって搬入又は搬出される被処理物が配置される処理空間」「からなるチャンバー1」は、「チャンバー1」内に「被処理物」を取り出し自在に内装する処理室であるといえるから、本件発明1の「被処理物を取出し自在に内装する処理室」に相当する。

イ 甲1発明の「チャンバー1の排気を行う真空排気機構」、「チャンバー1内へ水素ガス及びArガスを導入するガス導入部3」は、それぞれ、本件発明1の「処理室内を減圧する減圧手段」、「処理室内に少なくとも水素ガスを供給するガス供給手段」に相当する。

ウ 甲1発明の「マイクロ波電力を出力するマイクロ波電力出力部2」は、当該マイクロ波電力を生成空間Sすなわちチャンバー1に供給するものであるから、本件発明1の「処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段」に相当する。

エ 甲1発明において、「ガス導入部3からチャンバー1内に水素ガス及びArガスが導入されるとともに、スロットアンテナ6から石英板窓4を介してマイクロ波電力が供給されることにより生成空間S」に生成される「表面波励起プラズマ」は、マイクロ波を水素ガスに導入することにより生成される表面波プラズマであるから、本件発明1の「マイクロ波表面波水素プラズマ」に相当する。

オ 上記ウ、エの検討事項を勘案すると、甲1発明の「マイクロ波電力を出力するマイクロ波電力出力部2、チャンバー1の上部に設けられたマイクロ波導波管5、スロットアンテナ6及び石英板窓4」は、本件発明1の「処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段を備えてマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるプラズマ発生手段」に相当する。

カ 「被処理物に照射」されるものは、甲1発明では、「前記表面波励起プラズマに含まれるイオン、電子、ラジカルのうち、前記シールドプレート12を選択的に通過したラジカル」であるが、本件発明1では、「マイクロ波表面波水素プラズマ」そのものであるところ、当該「マイクロ波表面波水素プラズマ」は、水素ガスを励起して生成されたプラズマであり、技術常識によれば、当該プラズマ中には、イオン、電子、ラジカルが含まれているので、これらイオン、電子、ラジカルの全てが照射されるものである。したがって、甲1発明と本件発明1は、「プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマ」に含まれる少なくとも「ラジカル」を「前記処理室に内装した被処理物に照射」する点で共通している。

キ 甲1発明において「被処理物である半導体ウエハの表面還元処理を行う」ことと、本件発明1において「被処理物の錆を還元する構成とし」、「前記被処理物の錆が、鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆であること」は、いずれも、被処理物を還元処理する点で共通している。

ク 甲1発明の「プラズマ発生装置」は、マイクロ波を利用して被処理物を処理する装置であるから、本件発明1の「マイクロ波を利用した処理装置」に相当する。

ケ 以上から、本件発明1と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「被処理物を取出し自在に内装する処理室を備えると共に、
前記処理室内を減圧する減圧手段、前記処理室内に少なくとも水素ガスを供給するガス供給手段、前記処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段を備えてマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるプラズマ発生手段を設け、
前記プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマに含まれる少なくともラジカルを前記処理室に内装した被処理物に照射し、被処理物を還元処理する構成としたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。」

≪相違点1≫
「処理室に内装した被処理物に照射」するものが、本件発明1では、「プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマ」であるのに対し、甲1発明では、「前記表面波励起プラズマに含まれるイオン、電子、ラジカルのうち、前記シールドプレート12を選択的に通過したラジカル」である点。
≪相違点2≫
「還元処理」の内容が、本件発明1では「鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆」である「被処理物の錆を還元する」ことであるのに対して、甲1発明では「半導体ウエハの表面還元処理」を行うことである点。

(2-2)相違点についての判断
上記相違点1、2のうち、最初に相違点2について検討し、その後で相違点1について検討する。

(2-2-1)相違点2について
甲第1号証には、実施例3における「半導体製造プロセスにおけるウエハの表面還元処理」の詳細については記載されていない。
そこで、半導体製造プロセスにおけるウエハの表面還元処理について、当該技術分野の技術常識に基づいて検討するに、特に錆を還元するようなウエハの表面還元処理としては、ウエハ上にダマシン配線として知られる銅配線を形成する際、銅は大気中で酸化し易く、銅配線表面が酸化して酸化銅が形成されるが、このような酸化銅を残したままにすると不都合を起こすので、還元性のプラズマを照射することによって酸化銅を除去することが、当業者にはよく知られている(要すれば、上記第4の2の(6)、(7)を参照のこと。)。
しかしながら、このようなダマシン配線上の酸化銅は、銅の錆であって、「鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆」ではない。
また、ダマシン配線上の酸化銅除去のための表面還元処理以外に、ウエハ上の錆(もしくは金属酸化物)を還元除去するような処理であって、特に、当該錆(もしくは金属酸化物)が、「鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆」であるような処理が周知であるともいえないし、そのような処理についてはいずれの甲号証にも記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、「半導体ウエハの表面還元処理」として「鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆」を還元除去するようにすること、すなわち、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(2-2-2)相違点1について
ア 甲1発明の認定の基礎となった、甲第1号証の第3実施例で使用される上記1ケの図1記載のプラズマ発生装置において、そのチャンバー1は、シールドプレート12によって仕切られて、シールドプレート12より上側は生成空間Sとして画成されており、下側は処理空間として画成されている。そして、当該プラズマ発生装置において、上記(1)ケで検討したように、表面波励起プラズマ中に含まれるイオンや電子はシールドプレートを通過しないが、ラジカルは選択的に通過して被処理物に照射されることにより、当該被処理物に対して表面還元処理が行われるものである。

イ 一方、甲第1号証の上記1クには、実施例において用いられるプラズマ発生装置として、シールドプレート12が設けられないものを用いることができるとも記載されているので、甲1発明のプラズマ発生装置において、上記1クの記載に基づいて、シールドプレート12を設けないものとすることが当業者にとって容易になし得ることであるといえるかについて、以下検討する。

ウ 上記アに記載したように、シールドプレート12は、表面波励起プラズマ中に含まれるイオンや電子はシールドプレートを通過させず、ラジカルを選択的に通過させる機能を有するので、被処理物には、イオンや電子は照射されず、ラジカルのみが照射されるものである。したがって、甲1発明においては、イオンや電子が照射されないために、被処理物はイオンや電子が照射されるよりも受け取るエネルギーが小さいので、反応は穏やかとなり、被処理物の温度上昇が抑制され、その結果、被処理物のダメージが低減されているといえる。つまり、シールドプレート12は、被処理物に高エネルギーのイオンや電子を照射しないようにすることにより、反応を穏やかにし、被処理物の温度上昇を抑制し、被処理物へのダメージを低減するために使用されるものであるということができる。なお、シールドプレートを利用することにより被処理物のダメージが低減されることは、例えば、上記9エの段落【0020】に「前記パンチングメタル40によって、被処理体にダメージを与えるマイクロ波やイオンが遮断される」と記載されているように、当業者には周知の技術事項である。

エ 逆に、基板の温度を高くするほど、プラズマによる還元処理の効率が高くなることも当業者には周知である。例えば、上記7エの段落【0026】には、酸化銅の還元を行うプラズマ処理について、「プラズマ処理の段階で、シリコン基板101を300℃から650℃程度の高温に保持すると、除去効果はさらに増加する。」と記載されており、シリコン基板の温度を高くしてプラズマ処理をすることにより、還元処理の効果がより高くなることが示されている。

オ つまり、上記ウの検討によれば、甲1発明においてシールドプレート12が設けられているのは、被処理物である半導体ウエハに対して、プラズマ処理によるダメージを低減して、低温で、穏やかな還元処理を行うためであるが、その一方で、上記イに記載したように、シールドプレート12を設けないようにすることもできる。このことは、被処理物には、有機物のように高温・高エネルギーによるダメージを受け易いものもある一方で、金属素材や無機材料など高温・高エネルギーによるダメージを受け難いものもあるので、高温・高エネルギーによってダメージを受け難い被処理物については、上記エに記載したように、プラズマ処理の効果を高くするとの観点から、シールドプレートを設けないようにすることができることを意味しているといえる。

カ そこで、仮に、甲1発明における被処理物として、半導体ウエハに代えて、金属や無機材料のようにプラズマの高温処理によるダメージを受け難いものに代えるなら、プラズマによる還元処理の効率を上げる観点から、甲1発明において、シールドプレートを設けないようにすることは可能であるといえるかもしれない。しかしながら、甲1発明は、その認定の基礎とした甲第1号証の実施例3についての記載(上記1キ参照。)から見て、半導体ウエハの表面還元処理を行うことを目的とする発明であるから、甲1発明において、被処理物として半導体ウエハに代えて、金属素材や無機材料からなる被処理物とすることは、上記目的から逸脱することになるので、そのような置き換えは、当業者が容易になし得ることであるとはいえないし、その結果、甲1発明において、シールドプレートを設けないようにすることが容易であるともいえない。

キ また、半導体ウエハの表面還元処理が、半導体ウエハ上に形成された銅配線上の銅酸化物を還元除去する処理である場合について検討すると、例えば、甲第7号証の上記7エの段落【0026】には、酸化銅の還元を行うプラズマ処理について、「シリコン基板101を300℃から650℃程度の高温に保持すると、除去効果はさらに増加する。」と記載されており、還元処理の効果を高めるために、シリコン基板の温度を高くしてプラズマ処理をすることが記載されているから、甲1発明において、シールドプレートを設けないようにする動機付けとなり得る事項が示されているとはいえる。
しかしながら、高温でのプラズマ処理は、半導体ウエハ上に設けられた層間絶縁膜にダメージ層が形成されてリーク電流が増大する等のデメリットがあることが周知であること(要すれば、上記8アの段落【0005】参照のこと。)も考慮すると、甲1発明においてシールドプレートを設けないようにすることが容易になし得ることであるとは、直ちにはいうことができず、その結果、「処理室に内装した被処理物に照射」するものを「プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマ」にすること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが容易であるともいえない。
なお、仮に、甲1発明において、半導体ウエハの表面還元処理が、半導体ウエハ上に形成された銅配線上の銅酸化物の還元除去処理であり、当該処理の効率を上げるために、シールドプレートを設けないようにすることで、「処理室に内装した被処理物に照射」するものを「プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマ」となし得るとしても、その結果得られる発明は、銅の錆を還元する処理装置であって、本件発明1のような「被処理物の錆が、鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆」である「被処理物の錆を還元する」処理装置を得ることはできない。

ク 以上から、甲1発明において、チャンバー1からシールドプレート12を設けないようにすることにより、被処理物に表面波励起プラズマに含まれるイオン、電子、ラジカルの全てが照射されるようにすること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(2-2-3)相違点1と相違点2の総合的な検討
上記(2-2-1)では相違点1について、上記(2-2-2)では相違点2について検討したが、相違点1と相違点2は相互に関連するので、これらを総合した観点からも検討する。
本件発明1の処理装置において、還元処理の対象は、「鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆」を備えた被処理物であり、そのような被処理物とは、本件明細書の段落【0001】の記載を参照すると、「医療器具、調理器具」のような「鉄、ニッケル、白金、銀及び金」の金属を成形した器具であると解することができ、このような金属の器具は高温・高エネルギーのプラズマを照射してもダメージを受けることがないものであり、高温・高エネルギーのプラズマを照射することによって高い効率で還元処理が可能なものであるから、シールドプレートを設けずに、被処理物に対して「プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマ」を照射しているものであるといえる。
一方、甲1発明の処理装置において、還元処理の対象は、半導体ウエハであり、その表面にはサブミクロンの精度で微細加工された金属配線や有機物からなる絶縁層等が形成されているため、高温・高エネルギーのプラズマを照射するとダメージを受けて、半導体装置としての機能が劣化したり喪失したりするものであり、低温・低エネルギーのプラズマによる、穏やかな処理を行う必要があるから、シールドプレートを設けることによって、被処理物に対して「前記表面波励起プラズマに含まれるイオン、電子、ラジカルのうち、前記シールドプレート12を選択的に通過したラジカル」を照射しているものであるといえる。
つまり、本件発明1と甲1発明は、単に処理装置の用途もしくは被処理物が異なるばかりでなく、被処理物の特性に応じたプラズマを照射するために、シールドプレートの有無という処理装置の構成上の相違も有しており、その結果、被処理物に照射するプラズマのエネルギーの強度や被処理物の温度も相違するものである。
してみると、本件発明1と甲1発明は、「マイクロ波表面波水素プラズマ」を発生する装置という点では共通しているものの、用途や被処理物のみならず、装置の構造も相違しているものであるから、本件発明1と甲1発明は全く相違する発明であり、甲1発明において、装置の構造上の相違を意味する相違点1と、用途や被処理物の相違を意味する相違点2について、当該相違点1及び相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、容易になし得るものであるとは到底いうことができない。

(2-2-4)相違点についての判断のまとめ
以上より、本件発明1は、甲1発明と相違点1及び相違点2において相違しており、また、甲1発明において、相違点1及び相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることは、甲第1号証の記載に基づいて、当業者が容易になし得ることであるともいえない。

(2-3)請求人の意見について
請求人は、上記訂正事項1によって訂正された請求項1の特定事項「被処理物の錆が、鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆である」について、弁駁書で以下の4つの主張をしているので、これら主張について検討する。
なお、弁駁書では「甲第1号証に記載された発明」について、それが具体的にどのような発明として認定されたものであるかは記載されていないが、審決の予告でなされた「甲1発明」の認定について何も意見を述べておらず、弁駁書第4頁に記載された<相違点1>、<相違点2>は、それぞれ審決の予告に記載した≪相違点1≫、≪相違点2≫と同じであるから、「甲第1号証に記載された発明」とは、審決の予告で認定した「甲1発明」、すなわち、上記(1)コで認定した「甲1発明」のことであると解される。

(2-3-1)請求人の第1の主張
ア 請求人は、弁駁書の第4?5頁の(3)(3-1)において、「甲第1号証に記載された発明は、『半導体ウエハ上の表面還元処理』としてウエハ上の銅配線表面の銅酸化膜のプラズマによる還元除去を行うことに特化した発明のみを開示しているのではない。『プラズマはLSIなどに必要な微細加工技術に使われているだけでなく、現今では太陽電池や大型液晶パネル等に必要な大面積加工技術にも使われている。』との記載を鑑みれば、プラズマは、ウエハ上の銅配線表面の銅酸化膜だけに限らず、例えば、太陽電池に使用される銀配線の表面の銀酸化膜のプラズマによる還元処理に、甲第1号証に記載された発明を適用可能である」と主張しているので、当該主張(以下「第1の主張」という。)について以下検討する。

イ 上記アに記載のとおり、請求人は、「太陽電池に使用される銀配線の表面の銀酸化膜のプラズマによる還元処理」(以下「銀酸化膜の還元処理」という。)に甲第1号証に記載された発明を適用可能であると主張しているが、上記「銀酸化膜の還元処理」を記載した文献が全く提示されていないので、「銀酸化膜の還元処理」が具体的にどのような処理であるか不明であるし、本件特許に係る出願の出願時に公知であったかも不明である。また、「銀酸化膜の還元処理」に、どのような理由で「甲第1号証に記載された発明」すなわち「甲1発明」を適用するかも不明である。
したがって、請求人の上記第1の主張は、具体的な検討が可能な程度に十分に記載されていないため、これを採用することができない。

エ なお、仮に、「甲第1号証に記載された発明」が、上述のとおり当審が認定した「甲1発明」を意味しており、さらに、太陽電池の製造における「銀酸化膜の還元処理」を記載した公知の文献が提示されている、とした場合について検討すると、「甲1発明」は、半導体ウエハの表面還元処理を行うプラズマ発生装置についての発明であって、太陽電池の処理を行う装置ではないし、半導体ウエハにおいて銀配線を使用することが周知であるともいえないから、太陽電池の製造技術である「銀酸化膜の還元処理」に、半導体ウエハの処理装置である「甲1発明」を適用するための動機付けを見出すことができない。

オ また、甲第1号証には、上記アに記載のとおり、「太陽電池や大型液晶パネル等に必要な大面積加工技術」(以下「大面積加工技術」という。)と記載されているけれども、請求人は、審判請求書において、甲第1号証に記載された発明として、第3実施例に基づく発明を認定しているのみであって、上記大面積加工技術についての発明を認定をしていないので、仮に、甲第1号証に記載された発明として、新たに、上記大面積加工技術についての発明を認定した場合には、新たな無効理由の主張に該当し、審判請求書の要旨を実質的に変更するものとなる恐れがある。

カ したがって、請求人の上記第1の主張は採用することができない。

(2-3-2)請求人の第2の主張
ア 請求人は、弁駁書の第5頁の(3-2)において、「鉄板表面の鉄酸化膜のプラズマによる還元処理に、甲第1号証に記載された発明を適用可能である」と主張している(以下「第2の主張」という。)ので、当該主張について以下検討する。

イ 甲1発明は、被処理部材を半導体ウエハとして、その表面還元処理を行うためのプラズマ発生装置に係る発明であって、被処理部材として銅板や鉄板を処理する装置ではないから、甲第12号証に示されているように、銅板や鉄板をバーナーで加熱することによって形成された酸化膜(錆)が、マイクロ波表面波水素プラズマを照射することによって消去できるとしても、甲1発明において、被処理部材として銅板や鉄板に適用する動機が見出せないし、請求人はこの点について十分な説明をしていない。

ウ したがって、請求人の上記第2の主張は採用することができない。

(2-3-3)請求人の第3の主張
ア 請求人は、弁駁書の第5?7頁の(3-3)において、「本件訂正発明1に係る処理装置は、用途限定が付されているものの、用途限定がその用途に特に適した物を意味していない場合であって、本件訂正発明1の発明特定事項と、甲第1号証に記載された事項とが、用途限定以外の点で相違しないのであるから、両者を異なる発明であると判断すべきではない。」と主張している(以下「第3の主張」という。)ので、当該主張について以下検討する。

イ 上記(2-1)と(2-2)で検討したように、本件発明1と甲1発明とは、上記相違点1と相違点2で相違しており、相違点2については用途を限定していると解することは可能であるとしても、相違点1は、甲1発明がチャンバー1内にシールドプレート12を備えているという、装置の構造上の特徴に基づく相違点であり、本件発明1と甲1発明とでは、被処理物に与える温度、エネルギーや作用が異なるので、処理の内容も異なるものであるといえる。つまり、相違点1については、用途限定の違いを示しているものと解することはできない。

ウ したがって、本件発明1と甲1発明とは用途限定以外の点で相違しないとの前提に基づく上記第3の主張は採用することができない。

(2-3-4)請求人の第4の主張
ア 請求人は、弁駁書の第7?8頁の(3-4)において、平成15年(ワ)第860号の判決を根拠として、「処理装置の客観的な構成のほかに、鉄、ニッケル、白金、銀及び金の還元の用途や使用方法に用いることが記載されているが、その用途や使用方法に適するようにするために処理装置の構成が特定の構成に限られることがないので、それらの用途や使用方法の記載は、発明の構成を更に限定するものではないというべきであるということになる。本件訂正発明1の構成は、処理装置の客観的な構成を記載した部分によって明らかにされているとものと解すべきである。」と主張している(以下「第4の主張」という。)ので、当該主張について以下検討する。

イ 本件発明1の「前記被処理物の錆が、鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆である」なる特定事項は、請求人の主張するように、本件発明1の処理装置の用途を特定していると考えることもできる。しかしながら、本件発明1において、上記「鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆」を備えた被処理物とは、本件明細書の段落【0001】の記載を参照すると、「医療器具、調理器具」のように被処理物自体が上記「鉄、ニッケル、白金、銀及び金」から形成されており、高温・高エネルギーのプラズマを照射してもほとんどダメージを受けないものであるのに対して、甲1発明では、被処理物が高温・高エネルギーのプラズマの照射に対してダメージを受け易い半導体ウエハであるのみならず、チャンバー1内にシールドプレート12を設けることによって、被処理物である半導体ウエハの温度が上がりすぎてダメージを受けないように調整されているという処理装置としての構造上の特徴も有しているものである。

ウ してみると、処理装置の用途、もしくは対象とする被処理物が、「鉄、ニッケル、白金、銀及び金」から形成されたものであるか、「半導体ウエハ」であるかによって、被処理物に照射するプラズマのエネルギーや、被処理物の設定温度が相違しているのみならず、装置の構造上の特徴としてシールドプレートの有無の点でも相違しているので、本件発明1と甲1発明は、単に処理装置の用途が異なるのみでなく、当該用途に応じた処理装置の構造上の相違や、被処理物に照射するプラズマのエネルギーの設定や、被処理物の設定温度が相違しているものであるといえる。

エ したがって、本件発明1は、上記アに判示された「その用途や使用方法に適するようにするために処理装置の構成が特定の構成に限られることがない」ものに該当するとはいえず、本件発明1において「用途や使用方法の記載は、発明の構成を更に限定するものではない」ともいえない。

オ よって、上記第4の主張は採用することができない。

(2-4)判断の結論
以上の検討から、本件発明1は、甲1発明と相違点1及び相違点2において相違しているから、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
また、甲1発明において、相違点1及び相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることは、甲第1号証の記載に基づいて、当業者が容易になし得ることであるともいえない。

(3)本件発明5について
(3-1)本件発明5と甲1発明との対比
ア 上記(2-1)の検討を参照すると、本件発明5と甲1発明は次の点で相違している。

≪相違点3≫
「処理室に内装した被処理物に照射」するものが、本件発明5では、「プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマ」であるのに対し、甲1発明では、「前記表面波励起プラズマに含まれるイオン、電子、ラジカル」のうち、「前記シールドプレート12を選択的に通過」した「ラジカル」である点。
≪相違点4≫
「処理装置」が行う処理が、本件発明5では「銅の錆を除く」「被処理物の錆を還元する」ことであるのに対して、甲1発明では「半導体ウエハの表面還元処理」することである点。
≪相違点5≫
「処理装置」が、本件発明5では「前記処理室には開閉可能なドアを設け、ドアの閉成状態で、前記減圧手段、ガス供給手段、マイクロ波供給手段を動作可能に移行させるコントローラを備え」るものであるのに対して、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。

(3-2)相違点についての判断
(3-2-1)相違点3について
相違点3は、上記(2-1)で検討した相違点1と同じであるから、上記(2-2-2)で検討した理由と同じ理由によって、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(3-2-2)相違点4について
甲第1号証には、実施例3における「半導体製造プロセスにおけるウエハの表面還元処理」の詳細については記載されていない。
そこで、半導体製造プロセスにおけるウエハの表面還元処理について、当該技術分野の技術常識に基づいて検討するに、特に錆を還元するようなウエハの表面還元処理としては、ウエハ上にダマシン配線として知られる銅配線を形成する際、銅は大気中で酸化し易く、銅配線表面が酸化して酸化銅が形成されるが、このような酸化銅を残したままにすると不都合を起こすので、還元性のプラズマを照射することによって酸化銅を除去することが、当業者にはよく知られている(要すれば、上記第4の2の(6)、(7)を参照のこと。)。
しかしながら、このようなダマシン配線上の酸化銅は、銅の錆であって、「銅の錆を除く」錆ではない。
また、ダマシン配線上の酸化銅除去のための表面還元処理以外に、ウエハ上の錆(もしくは金属酸化物)を還元除去するような処理であって、特に、当該錆(もしくは金属酸化物)が、「銅の錆を除く」錆であるような処理が当業者に周知であるともいえないし、そのような処理についてはいずれの甲号証にも記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、「処理装置」が行う処理として「銅の錆を除く」錆を還元除去するようにすること、すなわち、相違点4に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(3-3)判断の結論
以上の検討から、甲1発明において、相違点3及び相違点4に係る本件発明5の特定事項とすることは、甲第1号証の記載に基づいて、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、相違点5について検討するまでもなく、本件発明5は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明6について
(4-1)本件発明6と甲1発明との対比
ア 上記(2-1)の検討を参照すると、本件発明6と甲1発明は次の点で相違している。

≪相違点6≫
「処理室に内装した被処理物に照射」するものが、本件発明6では、「プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマ」であるのに対し、甲1発明では、「前記表面波励起プラズマに含まれるイオン、電子、ラジカルのうち、前記シールドプレート12を選択的に通過したラジカル」である点。
≪相違点7≫
「処理装置」が行う処理が、本件発明6では「被処理物の錆を還元する」ことであるのに対して、甲1発明では「半導体ウエハの表面還元処理」することである点。
≪相違点8≫
「処理装置」が、本件発明6では「被処理物を収納させる籠状体と、この籠状体を処理室内で回転させる駆動機構とを設け、籠状体を回転させながら被処理物の錆を還元する」ものであるのに対して、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。

(4-2)相違点についての判断
ア まず、相違点8について検討を行う。

イ 本件発明6の特定事項である「籠状体」について、本件明細書の記載に基づいて確認する。本件明細書の段落【0033】の記載「籠状体26は、図4に示すように、周囲を網状線で覆った直方体とし、その一面が蓋面26aとして形成してある。すなわち、蓋面26aを開いて籠状体26に被処理物13を収納させる。なお、蓋面26aは閉めた状態で係止するようにしてある。また、籠状体26は円筒状に形成することもできる。」によれば、「籠状体」とは、周囲を網状線で覆った直方体または円筒状の物体であり、その内部に被処理物を収納するものである。また、「籠状体」外部で生成されたマイクロ波表面波水素プラズマを、「籠状体」内部の被処理物に供給できるように、「籠状体」は網状、すなわち多数の孔を有しているものということができる。

ウ また、広辞苑(岩波書店、1998年11月11日第五版発行、第486頁)によれば、「籠」とは「竹や籐・藺・柳・針金などの線状のもので編んだり組んだりした器物」を意味している。

エ したがって、本件訂正後の請求項6に記載された「籠状体」とは、針金などの線状のもので編んだ網状の物体であり、多数の孔を有しているものであると認められる。

オ 一方、甲第3号証には、プラズマ処理装置において被処理部材に対し均一なプラズマ処理を行うことのできる、回転バレル式プラズマ処理装置が記載されており、上記3ウの記載を参照すると、図3から、当該回転バレル式のプラズマ処理装置は、被処理部材Mを収納する処理空間Tを区画形成している内筒26を備えており、上記内筒26は、側枠28と筒部27とからなるものであること、を見て取ることができる。

カ また、上記3ウの段落【0008】には、筒部27の内面全周にわたって被処理物攪拌用の多数の羽根が設けられるか、羽根を設ける代わりに筒部27の内面を緩やかな凹凸面あるいは粗面の抵抗面に形成してもよいと記載されていることから、筒部27はその内面は、網状の物体から構成されているものではなく、多数の孔を有しているものであるともいえない。

キ したがって、甲第3号証の内筒26は、本件請求項4に記載された「籠状体」に該当するものであるということはできない。

ク また、甲第3号証に記載された回転バレル式プラズマ処理装置は、上記3エによると、被処理部材Mを均一にプラズマ処理するために、被処理部材Mを収納した内筒26を回転することによって、当該被処理部材Mを攪拌するものであり、被処理部材Mは例示されているパチンコ玉のように攪拌によってもダメージや破損のおそれのない部材であるといえる。

ケ そこで、甲1発明に、甲第3号証に記載された内筒を組み合わせることができるかを検討するに、甲1発明は、被処理物が半導体ウエハであって、当該ウエハの表面(おもてめん)側にプラズマが照射されれば十分であり、当該ウエハの裏面側にプラズマ照射をする必要がなく、ウエハ全体を均一にプラズマ処理する必要のないものであるから、甲1発明に、均一なプラズマを行うために被処理物を回転し攪拌するための内筒を組み合わせる動機がない。
また、仮に、甲1発明に内筒を組み合わせる動機があったとしても、半導体ウエハを内筒に入れて回転し攪拌すると、半導体ウエハが破損することが明らかであるから、そのような組み合わせをするはずがないし、また、組み合わせた内筒は、そもそも、上記キに検討したように、本件特許の請求項4に記載された「籠状体」に該当するものでもない。
したがって、甲1発明において、甲第3号証に記載された内筒を組み合わせる動機は無く、仮に組み合わせる動機があったとしても、その結果甲1発明が「籠状体」を備えるものとはならない。
そして、その他のいずれの甲号証にも、「籠状体」を設けることについて記載したものはない。

コ 以上の検討から、甲1発明において、相違点8に係る本件発明6の特定事項を備えたものとすることが、当業者が容易になし得ることであるということはできない。

(4-3)判断の結論
以上の検討から、甲1発明において、相違点8に係る本件発明6の特定事項とすることは、甲第1号証の記載に基づいて、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、相違点6、7について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)無効理由1、2、5、7についての検討のまとめ
(5-1)無効理由1について
上記(1)?(2)で検討したように、甲1発明は、相違点1、2の点において本件発明1と相違している。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、無効理由1によって、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。

(5-2)無効理由2について
上記(1)?(2)で検討したように、甲1発明は、相違点1、2の点において、本件発明1と相違しており、甲1発明において、相違点1、2に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることができたものではない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、無効理由2によって、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。

(5-3)無効理由5について
上記(3)で検討したように、甲1発明は、相違点3?5の点において、本件発明5と相違しており、甲1発明において、相違点3、4に係る本件発明5の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることができたものではない。
したがって、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、無効理由5によって、本件発明5に係る特許を無効とすることはできない。

(5-4)無効理由7について
上記(4)で検討したように、甲1発明は、相違点6?8の点において、本件発明6と相違しており、甲1発明において、相違点8に係る本件発明6の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることができたものではない。
したがって、本件発明6は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、無効理由7によって、本件発明6に係る特許を無効とすることはできない。

2 無効理由3、4、6、8(甲第2号証を主引例とする新規性進歩性)について
甲第2号証を主引用例とする無効理由3、4、6、8について検討する。

(1)甲第2号証に記載された発明
ア 上記2アによれば、甲第2号証には、半導体微細加工におけるレジスト除去工程に関して、低プラズマダメージの特性を有する表面波プラズマを用いた中性原子によるレジスト除去について記載されている。

イ 上記2イによれば、図2に記載された中性原子発生装置は、導波管を介して2.45GHzのマイクロ波が反応チャンバーに導入されるものであり、石英又はAlNからなる高誘電体窓材によって反応チャンバーと導波部が分離されている。

ウ 上記イの検討事項を踏まえると、上記2ウの図2から、誘電体窓によって導波部(円形導波管)から分離された反応チャンバーを備え、前記導波部にはマイクロ波が導入され、前記反応チャンバーの左上部から「ガス流入」し、前記反応チャンバーの右側から「ウエハー挿入」し、前記反応チャンバーの下側から「排気」している中性原子発生装置が見て取れる。

エ 上記イに記載したように、反応チャンバー上部の導波部からマイクロ波が導入されるということは、中性原子発生装置には、マイクロ波を供給するための、図2に不図示の「マイクロ波供給手段」が接続されていることは明らかである。

オ 上記ウで記載したように、反応チャンバーの上部空間の左上部から「ガス流入」するということは、中性原子発生装置には、反応チャンバーにガスを供給するための、図2に不図示の「ガス供給手段」が接続されていることは明らかである。

カ 上記ウで記載したように、反応チャンバーの右側から「ウエハー挿入」することから、中性原子発生装置には、ウエハーを反応チャンバーに挿入し、また、反応チャンバーから排出するための手段(以下「ウエハ挿入・排出手段」という。)が設けられていることは明らかである。

キ 上記ウで記載したように、反応チャンバーの処理空間の下側から「排気」して、上記2オ、2カに記載されているようにチャンバ内を133Paに減圧し得ることから、中性原子発生装置には、不図示の、反応チャンバーを減圧する手段(以下「減圧手段」という。)が接続されていることは明らかである。

ク 上記2エ、2オ、2カ、2キ、2クによれば、酸素原子又は水素原子によるアッシングを行うために、図2の中性原子発生装置の反応チャンバーに酸素又は水素が供給されていることから、上記オの検討も勘案すると、上記「ガス供給手段」は、酸素ガス又は水素ガスを供給する手段であるといえる。なお、酸素ガスと水素ガスは同時に供給されるのではなく、別々に供給され得ることは、上記2キの図5と、上記2クの図6のいずれにおいても、酸素プラズマによるアッシングレートと水素プラズマによるアッシングレートの変化が別々にプロットされていることから明らかである。

ケ 上記2イによれば、中性原子発生装置に導波部を介してマイクロ波を導入すると、誘電体窓表面上の限られた空間においてのみ高密度プラズマが発生し、当該高密度プラズマのうち寿命が長い中性原子のみがウエハに照射されることによってウエハのアッシングが行われる。

コ 上記ア?ケの検討事項に基づき、水素ガスを供給してアッシングを行う場合に注目して、本件発明2の記載ぶりに則して整理すると、甲第2号証には、次の中性原子発生装置(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ウエハ挿入・排出手段によって挿入または排出されるウエハが配置される反応チャンバーを備えるとともに、
前記反応チャンバーを減圧する減圧手段、前記反応チャンバーに水素ガスを供給するガス供給手段、前記反応チャンバー上部の導波部にマイクロ波を供給するマイクロ波供給手段、導波部、誘電体窓を備え、
前記マイクロ波供給手段からマイクロ波を導入すると、前記誘電体窓表面上の限られた空間においてのみ高密度プラズマが発生し、当該高密度プラズマのうち寿命が長い中性原子のみがウエハに照射されることによってウエハのアッシングが行われる、中性原子発生装置。」

(2)本件発明2と甲2発明との対比
本件発明2と甲2発明とを対比する。
ア 甲2発明の「ウエハ」は、本件発明2の「被処理物」に相当する。

イ 甲2発明の「ウエハ挿入・排出手段によって挿入または排出されるウエハが配置される反応チャンバー」は、「反応チャンバー」内に被処理物である「ウエハ」を取り出し自在に内装する処理室であるといえるから、本件発明2の「被処理物を取出し自在に内装する処理室」に相当する。

ウ 甲2発明の「反応チャンバーを減圧する減圧手段」、「反応チャンバーに水素ガスを供給するガス供給手段」は、それぞれ、本件発明2の「処理室内を減圧する減圧手段」、「処理室内に少なくとも水素ガスを供給するガス供給手段」に相当する。

エ 甲2発明の「反応チャンバー上部の導波部にマイクロ波を供給するマイクロ波供給手段」は、当該マイクロ波が導波部及び誘電体窓を介して反応チャンバーに供給されるものであるから、本件発明2の「処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段」に相当する。

オ 甲2発明において、「水素ガス」が供給され、「前記マイクロ波供給手段からマイクロ波を導入すると、前記誘電体窓表面上の限られた空間においてのみ」発生する「高密度プラズマ」は、上記2イの「本装置は、マイクロ波励起によりTM01モードの表面波プラズマが発生するよう設計している」との記載によれば、「水素ガス」がマイクロ波励起された「表面波プラズマ」である。したがって、甲2発明において発生する「高密度プラズマ」は、本件発明2の「マイクロ波表面波水素プラズマ」に相当する。

カ 上記エ、オの検討事項を勘案すると、甲2発明の「前記反応チャンバー上部の導波部にマイクロ波を供給するマイクロ波供給手段、導波部、誘電体窓」は、本件発明2の「処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段を備えてマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるプラズマ発生手段」に相当する。

キ 「被処理物に照射」されるものは、甲2発明では、「高密度プラズマのうち寿命が長い中性原子のみ」であるが、本件発明2では、「マイクロ波表面波水素プラズマ」そのものであるところ、当該「マイクロ波表面波水素プラズマ」は、水素ガスを励起して生成されたプラズマであり、技術常識によれば、当該プラズマ中には、イオン、電子、中性原子が含まれているので、これらイオン、電子、中性原子の全てが照射されるものである。したがって、甲2発明と本件発明2は、「プラズマ発生手段」が発生する「マイクロ波表面波水素プラズマ」に含まれる少なくとも「中性原子」を「前記処理室に内装した被処理物に照射」する点で共通している。

ク 甲2発明において、ウエハのアッシングとは、ウエハ上に形成されたレジストを除去することであり、また、技術常識に照らせば、レジストは有機物であるから、甲2発明において「ウエハのアッシング」を行うことは、本件発明1において「被処理物に付着している有機物をクリーニング処理」することに相当する。

ケ 甲2発明の「中性原子発生装置」は、マイクロ波を利用して被処理物であるウエハを処理する装置であるから、本件発明1の「マイクロ波を利用した処理装置」に相当する。

コ 以上から、本件発明2と甲2発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「被処理物を取出し自在に内装する処理室を備えると共に、
前記処理室内を減圧する減圧手段、前記処理室内に少なくとも水素ガスを供給するガス供給手段、前記処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段を備えてマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるプラズマ発生手段を設け、
前記プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマに含まれる少なくとも中性原子を前記処理室に内装した被処理物に照射し、被処理物に付着している有機物をクリーニング処理する構成としたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。」

≪相違点9≫
「処理室に内装した被処理物に照射」するものが、本件発明2では「プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマ」であるのに対し、甲2発明では、「高密度プラズマのうち寿命が長い中性原子のみ」である点。

(3)相違点9についての検討
ア 甲第2号証の上記2アによれば、従来、レジストを除去するために、反応性イオンエッチングを利用すると、プラズマによる基板へのダメージがあるため、甲2発明においては、低プラズマダメージの特性を有する表面波プラズマを用いた中性原子によるレジスト除去を試みたものである。

イ したがって、甲2発明において、被処理物であるウエハに中性原子のみを照射しているのは、ウエハ本体へのダメージを低減するためであり、仮に、中性原子のみでなく、イオンや電子を含むプラズマの全てをウエハに照射すると、ウエハ本体にダメージを与えることになり、甲2発明の技術的意義を損なうこととなるから、甲2発明において、被処理物であるウエハに照射するものを、中性原子のみでなく、マイクロ波表面波水素プラズマとすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

ウ 以上から、甲2発明において、相違点9に係る本件発明2の特定事項を備えたものとすることが、当業者が容易になし得ることであるということはできない。

(4)請求項2を引用する請求項3に係る発明についての検討
請求項2を引用する請求項3に係る発明、すなわち、本件発明2の特定事項の全てを備える本件発明3と、甲2発明を対比すると、少なくとも、上記相違点9で相違する。
そして、上記(3)で検討した理由と同様の理由により、甲2発明において相違点9に係る本件発明3の特定事項を備えたものとすることが、当業者が容易になし得ることであるということはできないから、請求項3で新たに特定された事項について検討するまでもなく、本件発明3は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)請求項2を引用する請求項4に係る発明についての検討
請求項2を引用する請求項4に係る発明、すなわち、本件発明2の特定事項の全てを備える本件発明4と、甲2発明を対比すると、少なくとも、上記相違点9で相違する。
そして、上記(3)で検討した理由と同様の理由により、甲2発明において相違点9に係る本件発明4の特定事項を備えたものとすることが、当業者が容易になし得ることであるということはできないから、請求項4で新たに特定された事項について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第2号証と甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)無効理由3、4、6、8についての検討のまとめ
(6-1)無効理由3について
上記(1)?(2)で検討したように、甲2発明は、相違点9において、本件発明2と相違している。
したがって、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、無効理由3によって、本件発明2に係る特許を無効とすることはできない。

(6-2)無効理由4について
上記(3)で検討したように、甲2発明において、相違点9に係る本件発明2の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるということはできない。
したがって、本件発明2は、甲第2号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、無効理由4によって、本件発明2に係る特許を無効とすることはできない。

(6-3)無効理由6について
上記(4)で検討したように、本件発明3は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、無効理由6によって、本件発明3に係る特許を無効とすることはできない。

(6-4)無効理由8について
上記(5)で検討したように、本件発明4は、甲第2号証と甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、無効理由8によって、本件発明3に係る特許を無効とすることはできない。

第7 まとめ
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔3?4〕、5、6について訂正することを認める。
請求人の主張する無効理由1?8及び提出した証拠方法によっては、本件特許の請求の範囲の請求項1?6に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を取出し自在に内装する処理室を備えると共に、
前記処理室内を減圧する減圧手段、前記処理室内に少なくとも水素ガスを供給するガス供給手段、前記処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段を備えてマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるプラズマ発生手段を設け、
前記プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマを前記処理室に内装した被処理物に照射し、被処理物の錆を還元する構成とし、
前記被処理物の錆が、鉄、ニッケル、白金、銀及び金の錆であることを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。
【請求項2】
被処理物を取出し自在に内装する処理室を備えると共に、
前記処理室内を減圧する減圧手段、前記処理室内に少なくとも水素ガスを供給するガス供給手段、前記処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段を備えてマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるプラズマ発生手段を設け、
前記プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマを前記処理室に内装した被処理物に照射し、被処理物に付着している有機物をクリーニング処理する構成としたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載した処理装置において、
前記処理室には開閉可能なドアを設け、ドアの閉成状態で、前記減圧手段、ガス供給手段、マイクロ波供給手段を動作可能に移行させるコントローラを備えたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載した処理装置において、
被処理物を収納させる籠状体と、この籠状体を処理室内で回転させる駆動機構とを設け、
籠状体を回転させながら前記クリーニング処理をする構成としたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。
【請求項5】
被処理物の錆(ただし、銅の錆を除く)を還元する処理装置であって、
被処理物を取出し自在に内装する処理室を備えると共に、
前記処理室内を減圧する減圧手段、前記処理室内に少なくとも水素ガスを供給するガス供給手段、前記処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段を備えてマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるプラズマ発生手段を設け、
前記プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマを前記処理室に内装した被処理物に照射し、被処理物の錆を還元する構成とし、
前記処理室には開閉可能なドアを設け、ドアの閉成状態で、前記減圧手段、ガス供給手段、マイクロ波供給手段を動作可能に移行させるコントローラを備えたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。
【請求項6】
被処理物を取出し自在に内装する処理室を備えると共に、
前記処理室内を減圧する減圧手段、前記処理室内に少なくとも水素ガスを供給するガス供給手段、前記処理室内にマイクロ波電力を供給するマイクロ波供給手段を備えてマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるプラズマ発生手段を設け、
前記プラズマ発生手段が発生するマイクロ波表面波水素プラズマを前記処理室に内装した被処理物に照射し、被処理物の錆を還元する構成とし、
被処理物を収納させる籠状体と、この籠状体を処理室内で回転させる駆動機構とを設け、
籠状体を回転させながら被処理物の錆を還元する構成としたことを特徴とするマイクロ波を利用した処理装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-09-06 
結審通知日 2017-09-11 
審決日 2017-09-28 
出願番号 特願2005-128931(P2005-128931)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (C23G)
P 1 113・ 113- YAA (C23G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國方 康伸  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 土屋 知久
池渕 立
登録日 2011-03-18 
登録番号 特許第4702680号(P4702680)
発明の名称 マイクロ波を利用した処理装置  
復代理人 柳元 八大  
復代理人 中村 敏夫  
代理人 倉内 義朗  
復代理人 石井 秀和  
復代理人 土井 伸次  
復代理人 石野 忠志  
復代理人 石野 忠志  
復代理人 柳元 八大  
復代理人 矢田 歩  
復代理人 大石 敏弘  
復代理人 坂本 智弘  
復代理人 宮本 陽子  
復代理人 矢田 歩  
代理人 宇治 美知子  
復代理人 中村 敏夫  
代理人 小池 寛治  
復代理人 朴 志恩  
復代理人 土井 伸次  
復代理人 朴 志恩  
復代理人 石井 秀和  
代理人 小池 寛治  
復代理人 坂本 智弘  
復代理人 宮本 陽子  
復代理人 渡辺 浩司  
代理人 向林 伸啓  
復代理人 渡辺 浩司  
復代理人 大石 敏弘  

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