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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C25D
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する C25D
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する C25D
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する C25D
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C25D
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C25D
管理番号 1335346
審判番号 訂正2017-390094  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2017-09-19 
確定日 2017-11-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3889689号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3889689号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第3889689号は、平成14年 9月24日を出願日とし、平成18年12月 8日に設定登録がなされ、平成29年 9月19日に本件訂正審判の請求がなされたものである。

第2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第3889689号の明細書、特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを認める、との審決を求めるものである。

第3 本件の訂正の内容
請求人が求めている訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
1 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記細線材は、一方または両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して、前記変形させた細線材を掴んで引っ張って除去することを特徴とする、」
と記載されているのを、
「前記細線材は、一方または両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して、前記変形させた細線材を掴んで引っ張って除去することにより、前記電着物または前記囲繞物の肉厚が50μm以下である電鋳管を製造することを特徴とする、」
と訂正する(下線部は訂正箇所を意味する。)。
(請求項1の記載を引用する請求項2?5も同様に訂正する。)

2 訂正事項2
本件特許明細書の【0011】に、
「前記細線材は、一方または両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して、前記変形させた細線材を掴んで引っ張って除去することを特徴とする、」
と記載されているのを、
「前記細線材は、一方または両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して、前記変形させた細線材を掴んで引っ張って除去することにより、前記電着物または前記囲繞物の肉厚が50μm以下である電鋳管を製造することを特徴とする、」
と訂正する(下線部は訂正箇所を意味する。)。

第4 当審の判断
1 訂正事項1について
1-1 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?5について、訂正前の請求項2?5は請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1?5は特許法第126条第3項に規定する一群の請求項である。
また、訂正後の請求項1?5は、訂正前の請求項1?5に対応するものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項である請求項1?5について訂正するものであるから、特許法第126条第3項の規定に適合する。

1-2 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「電着物または囲繞物」の肉厚が特定されていなかったものを、「50μm以下」と特定するものであって、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

1-3 新規事項の有無について
本件特許の願書に添付した明細書には、次の記載がある(下線は当審で付したものである。)。
「【0042】
細線材の除去に際して、このような方法を用いれば、例えば、直径が10μmから85μmまでの細線材を用いて、この細線材の外面に5μm以上50μm以下の肉厚を有するように形成した電着物または囲繞物からでも、細線材を除去することができる。従って、この細線材の除去方法を用いることにより、例えば、コンタクトプローブ用の管等として使用可能な微細な内径を有する電鋳管が製造できる。」
上記記載から、願書に添付した明細書には、「電鋳管」の「電着物または囲繞物」の肉厚が「50μm以下」であることが記載されているといえるので、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に適合する。

1-4 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「電着物または囲繞物」の肉厚が特定されていなかったものを、「50μm以下」と特定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に適合する。

1-5 独立特許要件について
1-5-1 訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明1」という。)について
上記「1-2 訂正の目的について」の検討によれば、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、訂正後の特許請求の範囲の請求項2?5に係る発明(以下、「訂正発明2」?「訂正発明5」という。)は、請求項1を引用するものであるから、訂正発明1が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否かについて検討する。

(A)請求人が提示した甲各号証
甲第1号証:特開2002- 80991号公報
甲第2号証:特開2001-318267号公報
甲第3号証:特公昭45-24847号公報
甲第4号証:特開2001-249252号公報
甲第5号証:特開2001-183548号公報
甲第6号証:国際公開WO01/48271号公報
甲第7号証:英国特許第1118150号公報
甲第8号証:「電気めっき及び関連処理用語」(JIS H0400:1998)
甲第9号証:特開2002-129262号公報

(B)甲第1号証?甲第9号証の記載
甲第1号証?甲第9号証には、以下の事項が記載されている。
(1)甲第1号証:特開2002- 80991号公報
(1a)「【0009】・・・芯材を用い電鋳法によって良好な内面仕上精度をもつ細孔チューブを製造するには、芯材の材質としてオーステナイト系のステンレス線を使用する。・・・芯材は・・・その表面に均等に近い厚みのニッケル電鋳層を生成させる・・・
【0010】・・・芯材の露出部分を工具等でくわえ、心材に引き抜く力を加えれば、オーステナイト系ステンレス特有の塑性加工性と電鋳層に内蔵された圧縮応力の効果によって容易に芯材を抜き取ることができ・・・良好な内面仕上精度をもつ細孔チューブを製造することができる。」

(1b)「【0019】さらにオーステナイト系ステンレス線の選択について述べる。ステンレスはその機械・物理・化学的諸特性から電鋳の基板・芯材に最も適した材料として広く用いられているが、細孔チューブを電鋳法で製造するにあたり、その芯材として使用するには、電着終了後に芯材を引き抜き除去することが容易であることが大切である。特に直径0.5ミリ以下で軸方向に長い場合、芯材には引き抜きの力に耐える引張り強さと塑性加工性が不可欠で、硬度が高過ぎ、脆性の大きい材料は引き抜きに際して破断し易い。
【0020】したがって、実験の結果、芯材に適する材質としてはSUS304に代表されるオーステナイト系ステンレス(Cr18%,Ni9%を基本とする)選択の必要性が確かめられ、・・・マルテンサイト系(低Cr系、Cr11?14%)ステンレスや・・・フェライト系(中?高Cr系、Cr17%)ステンレスでは硬度が高く脆性が大きく塑性加工性が低いため、引き抜きに際して破断することが多く、電着終了後に引き抜く必要がある芯材としては使用できない。オーステナイト系ステンレス線は引き抜きに際して、その特有の塑性加工性により軸方向の引張力により伸びを生じ断面積が減少することにより電鋳層との間に剥離が発生し、転写面を損なうことなく容易に芯材を引き抜くことができる。」

(2)甲第2号証:特開2001-318267号公報
(2a)「【0006】・・・本発明では、貫通させる光ファイバの径に対応する径の芯線を張った状態で、その周囲に電鋳により、長い素材金属円柱を形成し、素材金属円柱から所定の長さと径を有する金属円柱を形成した後、夫々の金属円柱の一端側を砥石又は切削刃により面取り加工してテーパ状の開口部を形成するものとし、この際、砥石又は切削刃は、上記テーパ状の開口部に対応するテーパ状の外形を有すると共に、その先端側に上記芯線の径よりも僅かに小径の小突起を設けた構成とし、この砥石又は切削刃により金属円柱の一端側を面取り加工する際、その先端の小突起により芯線を押し動かして、金属円柱の他端側から突出させ、突出部分を掴んで芯線を抜き取ることにより貫通孔を形成するようにしたフェルールの製造方法を提案するものである。」

(2b)「【0015】・・・芯線1は、例えば貫通させる光ファイバの径と同じ0.125mmの径のステンレス鋼線(SUS 304)とし、・・・このように電鋳により形成する素材金属円柱2の径は、フェルールとしての所定の径(例えば1.25φmm,2.00φmm,2.50φmm)に研削代として0.05?0.30mmを加えたものとし、・・・」

(3)甲第3号証:特公昭45-24847号公報
(3a)「未延伸の結晶性熱可塑性樹脂よりなる芯材料の外面に導電性を付与した後、電鋳を施し、次いで該芯材料をネツキングを起す条件下で延伸することにより、該芯材料を電鋳金属管より容易且つ完全に除去しうるものであるが、」(公報3欄12-16行)

(3b)「更に本発明を特に有利ならしめている点は、長尺の細管・金属多層管及び内面有機被覆管等を極めて容易且つ確実に作りうることである。」(公報3欄44行-4欄2行)

(3c)「また最初例えばニツケル電鍍をした後次に例えば銅電鋳を行い、しかるのち内部の高分子物質を引抜いて内部にニツケル電鍍を行なった銅電鋳管を製造するような複合金属管を製造することもできる。」(公報5欄11-15行)

(3d)「実施例1・・・かくて内径3m/m、肉厚0.5m/mの銅丸管を得た。
実施例2・・・内法断面4×2mm、肉厚0.4m/mの角電鋳管を得た。
実施例3・・・0.1mm厚にニツケル電鍍を行い、次にこの上に実施例1に示したのと同様の方法で銅電鋳を0.4m/m厚に行なつた。・・・内径1mmの内面ニツケル、外面銅の複合電鋳管をえた。
実施例4・・・内径0.5mm、肉厚0.5mmの銅管をえた。
実施例5・・・内径4mm、肉厚0.7mmの銅管をえた。
実施例6
外径2mmの未延伸ポリエチレン丸線の外面を実施例1に示した無水クロム酸-硫酸処理をした後、常温硬化型のエポキシ塗料を20ミクロン厚に施こしたのち、この外面に実施例1と同様にして銅電鋳を0.4mm厚に施こし、..内部のポリエチレンのみを延伸除去した。内径2mmで内面にエポキシ樹脂層をもつ銅管がえられた。」(公報5欄36行-7欄14行)

(4)甲第4号証:特開2001-249252号公報
(4a)「【0006】・・・フェルールは、線材の周囲に金属を堆積させて外径約1mm以下の桿状物を形成する工程と、桿状物から線材を除去する工程と、桿状物を外径1mm以下の真円に加工する工程とを経由する方法により、所望数を所定の寸法精度で廉価に製造し得る・・・」

(4b)「【0012】・・・なお、貫通孔の形状として、円形以外の形状を所望する場合には、前述の金属材料をダイスを用いて押出成形する。」

(4c)「【0015】・・・例えば、外径0.75mmのフェルールを製造する場合、直径126.8μm(真円度±0.5μm以内)のステンレス線(SUS304)を線材11とし、この線材をスルファミン酸ニッケルを含有し、pHを4.3に調整した電鋳液10に浸漬して、5時間弱通電したところ、外径0.9mm前後の桿状物が安定して得られた。」

(5)甲第5号証:特開2001-183548号公報
(5a)「【0019】線5は、鉄またはその合金、アルミニウムまたはその合金、銅またはその合金などの金属線、及びこの金属線の上に薄いハンダメッキをしたもの、及びナイロン、ポリエステルなどのプラスチック線から適宜選択使用される。・・・
【0020】・・・電鋳は、・・・10?20時間程実施し、棒状で1.0?2.5mmφ程度の太さに成長させた後、・・・
【0021】選択する線5の種類により、電鋳品の中心にある線5を引き抜くか、押し出すか、薬品で溶解するかが決定されるが、一般には薬品に溶解しにくく、引っ張り強度の高いものは、引き抜き、または押し出しを利用し、薬品に溶解しやすいものは、溶解を利用する。・・・これらのうち特に鉄の合金であるステンレス線が望ましく、実験的には0.126mmφで50?100mm程度の長さまで引き抜くことができた。」

(5b)「【0025】【実施例】・・・電鋳を1日実施して、平均で2.4mmφの太さで、・・・ニッケル電鋳品を得た。・・・加工機などで太さ2.00mm、長さ8.00mmまで加工して完成品とした。」

(6)甲第6号証:国際公開WO01/48271号公報
(6a)「光ファイバーの外径は、規格により0.125mmと定められており、従って、フェルールの内径は0.126mm程度のものになっている。・・・
均一性の問題は、フェルールの真円度、即ちフェルールの内径及び外径を如何に均一にするか、及び、同軸性、即ち、内径と外径の軸中心を如何にして一致させるかという点にある。
例えば、ステンレス製直径0.125mmの断面が円形の線を芯線として使用し、これを陰極として電源に接続して電鋳を行うと、・・・」(公報の明細書2頁16行-3頁4行)

(6b)「本発明は、特に、内径が0.126mm程度と小さいフェルールを電鋳で・・・製造する方法及び装置を提供しようとするものである。・・・本発明の製造方法は、芯線の外表面に電鋳により金属皮膜を形成し、形成された皮膜から芯線を引き抜いて金属フェルールを製造する・・・芯線は・・・ステンレス、燐青銅製の芯線に抵抗率が5×10^(-6)Ωcm以下の第一金属の薄層をメッキしその上に第二金属を所定の径まで電鋳を行ってもよい。その第一の金属として、金、銀、銅、アルミニウム及びこれらの金属を主体とする合金のいずれか、第二金属としてニッケル又はニッケルを主体とする合金を使用することができる。」(公報の明細書4頁5-20行)

(6c)「抵抗率の低い第一金属をメッキする層の厚みは、良好な電気伝導度を確保する厚みであればよく、数μm?数十μmが好適に使用される。・・・線の基質としてステンレス、燐青銅を選択し、その表面に厚さ10μm程度の銀、金、銅メッキを施したものを芯線に使用することができる。また、基質が金、銀、アルミニウム、銅又はそれらを主体とする合金を使用することもできる。芯線の表面は平滑な表面であることが好ましいが、微小な凹凸があることが多い。表面に抵抗率の低い金属をメッキすることにより、芯線の外表面が平滑になるというメリットもある。また、ステンレス線や燐青銅線は張力が高いので、フェルールから芯線を引き抜くのに好都合である。」(公報の明細書11頁15-24行)

(6d)「[実施例3]
断面が円形で径が0.126mmで長さが355mmのステンレス製の線に金(抵抗率2.05×10^(-6)Ωcm)を10μmメッキした、直径0.136mmの芯線を得た。この芯線を図2示す様に電鋳用治具にセットした。一方・・・電鋳浴に、ニッケルの金属板をセットし、電鋳浴に浸漬した。・・・電鋳により、平均約2.5mmの直径のニッケル電鋳品を得た。電鋳品は、長さ方向に沿って外径は2.5mm±0.05mmの範囲内にあり、均一な電鋳品が得られた。」(公報の明細書17頁9-16行)

(7)甲第7号証:英国特許第1118150号公報
(7a)「The present invention provides a method of manufacturing a metal article provided with a duct ,comprising the steps of electr-odepositing the metal on a mandrel formed by a metal having a high
value of permanent elongation,for example ,of more than 20%,and then removing the mandrel from the article by tensioning the mandrel
above its tensile limit.」(1頁右欄54?62行)
(当審訳:本発明は流路を備えた金属部品を製造する方法を提供するものであって、例えば20%以上である高い永久伸び値を有する金属によって形成された芯線上に金属を電着させるステップと、芯材の引っ張り限界以上に芯材を引っ張ることによって芯材を製品から除去するステップとからなる。 )

(7b)「An embodiment of the present invension will now be descri-bed by way of example, with reference to the following Example,which was used to manufacture nickel tubes approximately 280 mms long and having an inside diameter of 0.55mms, and an outside diameter of
1.1mms.」(2頁左欄12-18行)
(当審訳:本発明の1つの実施例が、長さ約280ミリメートル、内径0.55ミリメートル、外径1.1ミリメートルのニッケル管を製造するために使用される以下の例を参照しつつ説明される。)

(8)甲第8号証:「電気めっき及び関連処理用語」(JIS H0400:1998)
(8a)「1085 電鋳法 electroforming 電気めっき法による金属製品の製造、補修又は複製法。」

(9)甲第9号証:特開2002-129262号公報
(9a)「【0010】・・・本発明に係る極細銅合金線は、線径が0.01?0.1mmの極細銅合金線において、・・・熱処理により、引張強さを343MPa(35kgf/mm^(2))以上、伸びを5%以上、導電率を80IACS以上としたものである。」

(C)対比
ア 甲第6号証は、上記(6a)?(6c)によれば、内径が0.126mm程度と小さいフェルールを電鋳で製造する方法及び装置に関する発明であって、具体的には、ステンレス、燐青銅製の芯線に抵抗率が5×10^(-6)Ωcm以下の第一金属の薄層をメッキしその上にニッケル又はニッケルを主体とする第二金属を所定の径まで電鋳して金属皮膜を形成し、形成された皮膜から芯線を引き抜いて金属フェルールを製造する技術であって、第一金属として、金、銀、銅、アルミニウム及びこれらの金属を主体とする合金のいずれか、第二金属としてニッケル又はニッケルを主体とする合金を使用するもの、が記載されている。

イ ここで、芯線、第一金属及び第二金属の材質として例示されたものから、それぞれステンレス、金及びニッケルを選択して整理すると、甲第6号証には、
「ステンレス製の芯線に、第一金属として金の薄層をメッキしその上に第二金属としてニッケルを所定の径まで電鋳して金属皮膜を形成し、この皮膜から芯線を引き抜いて金属フェルールを製造する方法。」(以下、「甲6発明」という。)が記載されているといえる。

ウ 甲6発明における「ステンレス製の芯線」、「第一金属の薄層」は、それぞれ訂正発明1における「ステンレス製の細線材」、「導電層」に相当する。
また、甲6発明における「第二金属を所定の径まで電鋳」して「形成し」た「金属皮膜」は、訂正発明1における「電着物または囲繞物」に相当し、甲6発明における「金属フェルール」と訂正発明1における「電鋳管」は、共に「電鋳品」といえるから、甲6発明において「芯線を引き抜いて金属フェルールを製造すること」は、訂正発明1における「細線材を引っ張って除去する電鋳品の製造」といえ、さらに、金の電気伝導率がニッケルのそれよりも高いことは周知の事実である。

エ ここで訂正発明1と甲6発明を対比すると、両者は、
「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けたステンレス製の細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、細線材を除去して電鋳品を製造する方法であって、前記導電層は、電解メッキで形成されたものであり、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものとし、前記細線材を引っ張って除去する、電鋳品の製造方法。」である点で一致し、一方、下記の点で相違している。

相違点1:訂正発明1では、「電着物または囲繞物の内面に導電層を残したまま細線材を除去」しているのに対し、甲6発明においては、細線材の除去に際して、導電層に相当する金の薄層が電着物または前記囲繞物の内面に残っているのか否かが不明である点。

相違点2:訂正発明1では、細線材を除去するに際して、「細線材は、一方または両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して、前記変形させた細線材を掴んで引っ張って除去する」のに対し、甲6発明においては、単に「芯線を引き抜」いており、引き抜くことは、上述したとおり、引っ張って取り除くことではあるが、本件発明1のように「一方または両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して、前記変形させた細線材を掴んで」いるのか否か不明である点。

相違点3:訂正発明1では、「前記電着物または前記囲繞物の肉厚が50μm以下である」のに対して、甲6発明では肉厚の範囲に関する記載がない点。

相違点4:訂正発明1においては、「電鋳品」が「電鋳管」であり、訂正発明1は「電鋳管の製造方法」に係る発明であるのに対して、甲6発明においては、「電鋳品」が「金属フェルール」」であり、甲6発明は「金属フェルールを製造する方法」に係る発明である点。

(D)判断
(1)相違点3について
ア 甲6発明に係る金属フェルールは、光ファイバー接続用のフェルールとして供されるものであり、該フェルールは、外径が0.125mmに規格化されている光ファイバーの端部同士を、高い同心性を維持しながら接続し、また、内部に収容した光ファイバー端部を保護する機能をも併せ持つものである。
また、甲第2、4及び5号証に記載される技術も甲第6号証と同様に、電鋳法によりフェルールを製造する技術に関するものであって、製造されるフェルールの外径として、甲第2号証には1.25φmm、2.00φmm、2.50φmm(摘示事項(2b)参照)が、甲第4号証には、外径が1mm以下、具体的には0.75mmのフェルールを製造するに際して、電鋳により外径0.9mm前後の桿状物を得たこと(摘示事項(4c)参照)が、また甲第5号証には、平均で約2.4mmφのニッケル電鋳品に後加工を施して太さ2.00mmのフェルール完成品を得ること(摘示事項(5b)参照)及び電鋳品としては1.0?2.5mmφ程度の太さに成長させて電鋳槽から取り出すこと(摘示事項(5a)参照)が、それぞれ記載されていることから、フェルールの外径としては、0.75mm?2.5mm程度が採用されていたということができる。

イ 一方、前述したように、光ファイバーの外径は、0.125mmに規格化されている他、シングルモード光ファイバーの導光部分であるコアの直径が10μmであることを勘案すると、フェルールの内径は、高々0.130mm程度と推定することができる。
そこで、これらの甲号証に記載されている電鋳により作成されたフェルールの肉厚を計算してみる。

ウ 前述したように、内径は高々0.130mmであるから、その半径は0.065mm=65μmである。
一方、外径は0.75mm?2.5mm(=750μm?2500μm)程度であり、半径をμm単位で表すと、375μm?1250μmであるから、この値から内径の半径値65μmを差し引いたところの、310?1185μmが電鋳管の肉厚となる。

エ また、甲第1号証は、特に用途を限定せずに、細孔チューブを製造する技術を提供するものであるが、該細孔チューブの孔径として0.5mm(請求項3)が開示される他、発明の詳細な説明中に「極細チューブの製造も容易であり、内径0.1mm 程度のチューブの製造も困難ではない。」(【0012】と記載されるに留まり、チューブの肉厚に関しては記載がない。

オ 甲第3号証も、用途を限定せずに、芯材料としてネッキングを起こす未延伸の結晶性熱可塑性高分子材料を利用して電鋳管を製造する技術を提供するものであり、実施例1?6には、下記のとおりの寸法の電鋳管が得られたことが記載されている。
・実施例1:内径3mm、肉厚0.5mm(=500μm)
・実施例2:内法断面4×2mm、肉厚0.4mm(=400μm)
・実施例3:内径1mm、肉厚0.1mm厚のニッケル+0.4mm厚の銅で合計0.5mm(=500μm)
・実施例4:内径0.5mm、肉厚0.5mm(=500μm)
・実施例5:内径4mm、肉厚0.7mm(=700μm)
・実施例6:内径2mm、肉厚0.4mm+塗布時に20μm厚のエポキシ樹脂層の厚さ(=420μm程度)

カ さらに甲第7号証の摘示事項(7b)には、内径0.55mm、外径1.1mmであるから、肉厚は(1.1-0.55)÷2=0.275mm(=275μm)の電鋳管を得たことが記載されている。

キ 甲第8号証は「電気めっき及び関連処理用語」に関するJIS規格であり、また甲第9号証は「極細銅合金線及びその製造方法」に関する文献であって、電鋳管に関する記載はない。

ク 以上述べたように、甲各号証に記載された電鋳管の肉厚は、275μm?1185μmである。

ケ 一方、訂正発明1で規定する電鋳管の肉厚は、50μm以下であり、その最大値50μmをとって、甲各号証に記載された電鋳管の肉厚の内の最小値である275μmと比較してなお、1/5.5であり、その差は225μmもある。

コ このように肉厚の薄い電鋳管が製造できることは、甲各号証の記載から明らかであったということはできないから、相違点3は、甲各号証記載の技術から当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
また、50μm以下の肉厚を有するように形成した電着物または囲繞物からは、コンタクトプローブ用の管等として使用可能な微細な内径を有する電鋳管が製造できるという明細書記載のとおりの作用効果を奏するものと認められる。

サ したがって、相違点1、2、4について検討するまでもなく、訂正発明1は、請求人が提示した甲第1号証?甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

1-5-2 訂正発明2?訂正発明5について
訂正発明2?訂正発明5は、訂正発明1を引用し、これに、さらに限定を付したものであり、訂正発明1の構成要件を全て含むものである。
したがって、訂正発明1と同様に、これらの発明が有する相違点3については、甲各号証記載の技術から当業者が容易に想到し得たものとすることはできず、したがって訂正発明2?訂正発明5は、請求人が提示した甲第1号証?甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

1-5-3 独立特許要件についてのむすび
したがって、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項5に係る発明に対して、特許出願の際に独立して特許を受けることができないとする理由を発見しないので、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

2 訂正事項2について
2-1 一群の請求項について
訂正事項2は、訂正事項1に伴って本件特許明細書の【0011】に記載されている請求項1に対応する部分について訂正するものであるから、訂正後の請求項1及び訂正後の請求項1の記載を引用する請求項2?5を含めた一群の請求項1及び請求項2?5の全てに関係する。
したがって、本件特許明細書に係る訂正は、特許法第126条第4項の規定に適合する。

2-2 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正事項1に伴って本件特許明細書の【0011】に記載されている請求項1に対応する部分について訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

2-3 新規事項の有無について
訂正事項2は、訂正事項1に伴って本件特許明細書の【0011】に記載されている請求項1に対応する部分について訂正するものであるから、「3-1 訂正事項1について」に記載したのと同様の理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に適合する。

2-4 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、訂正事項1に伴って本件特許明細書の【0011】に記載されている請求項1に対応する部分について訂正するものであるから、「4-1 訂正事項1について」に記載したのと同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に適合する。

なお、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第126条第7項の規定は適用されない。

第5.むすび
したがって、本件審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第3項?第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電鋳管の製造方法及び電鋳管
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けたステンレス製の細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記電着物または前記囲繞物の内面に前記導電層を残したまま細線材を除去して電鋳管を製造する方法であって、
前記導電層は、電解メッキで形成されたものであり、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものとし、
前記細線材は、一方または両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して、前記変形させた細線材を掴んで引っ張って除去することにより、前記電着物または前記囲繞物の肉厚が50μm以下である電鋳管を製造することを特徴とする、
電鋳管の製造方法。
【請求項2】
導電層は、異なる金属によって二層にしたことを特徴とする、
請求項1記載の電鋳管の製造方法。
【請求項3】
細線材を外方に引っ張って伸ばしたときの横ひずみの変形量が断面積の5%以上であることを特徴とする、
請求項1又は2記載の電鋳管の製造方法。
【請求項4】
細線材を電着物または囲繞物から除去して形成される中空部の内形状が、断面円形状または断面多角形状を有することを特徴とする、
請求項1,2,又は3記載の電鋳管の製造方法。
【請求項5】
電着物または囲繞物はニッケルとし、導電層は金としたことを特徴とする、
請求項1記載の電鋳管の製造方法。
【請求項6】
外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造される電鋳管であって、
前記導電層は、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものとし、
前記細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状又は断面多角形状であって、前記電着物または前記囲繞物の肉厚が5μm以上50μm以下であることを特徴とする、
電鋳管。
【請求項7】
細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状を有するものは、中空部の内径が10μm以上85μm以下であり、中空部の内形状が断面多角形状を有するものは、中空部の内接円の直径が10μm以上85μm以下であることを特徴とする、
請求項6記載の電鋳管。
【請求項8】
導電層は、異なる金属によって二層にしたことを特徴とする、
請求項6又は7記載の電鋳管。
【請求項9】
電着物または囲繞物はニッケルとし、導電層は金としたことを特徴とする、
請求項6又は7記載の電鋳管。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気鋳造(本明細書では「電鋳」という)管の製造方法及び電鋳管、電鋳管を製造するための細線材に係り、更に詳しくは、微細な内径を有する電鋳管の製造方法及び電鋳管に関する。また、微細な内径を有する電鋳管を製造するための細線材に関する。
【0002】
【従来技術及びその課題】
従来からLSI等の集積回路を製造する際には、半導体パターンが設計通りに出来上がっており、電気的導通が良好であるかどうかの検査が行われている。この検査は、多数のコンタクトプローブを備えた装置(本明細書では「プローブ装置」という)を用い、コンタクトプローブのピンを形成した各電極に接触させて行われる。コンタクトプローブは、所要長さを有する極細の管の内部にバネが設けてあり、ピンを管内に進退可能に設けた構造を有している。
【0003】
ところで近年の半導体製造技術の進化は目覚ましいものがあり、集積度はますます高密度化する傾向にある。これに伴い電極の電気的導通を検査するプローブ装置においても最新の集積回路に対応できるように、コンタクトプローブの数を増やし(多ピン化)、線径も細くし(細線化)、コンタクトプローブ間の間隔もより狭く(狭ピッチ化)することが求められている。現在のコンタクトプローブ用の管は、外径が110μm、内径が88μmのものが世界最小とされている(例えば、非特許文献1参照)。
しかしながら、上記したように半導体製造技術はますます進化しているため、コンタクトプローブも更に小型化することが必要とされている。
【0004】
また、微細な内径を有する管の必要性は、半導体産業以外の例えばバイオテクノロジーや医療の分野においても高まっている。
つまり、このような微細な内径を有する管の開発は産業界全体から強く要請されている。
【0005】
本発明者は、電鋳に関する研究を行っており、以前に電鋳によって径小な管を製造することに成功している。このときの電鋳管は、中空部が断面円形状であり、内径が126μmのものである(例えば、特許文献1参照)。従って、本発明者は電鋳技術を使えば、コンタクトプローブ用の微細な内径(中空部)を有する管もつくれるのではないかとの着想を得た。
【0006】
そして更に研究を重ねたところ、直径が10μmから85μmまでの細線材を用い、この細線材の外面に最小5μmの金属の膜を付着させることに成功した。そうして、この金属から上記細線材が除去できれば、微細な内径(中空部)を有する管がつくれることを知見した。
しかし、電着(析出)させた金属から細線材を除去することは、電着した金属が細線材の外面に密着しているので、容易なことではなかった。
【0007】
【特許文献1】
特開2002-48947号公報
【非特許文献1】
日経メカニカルON LINE、2001年4月号、日経BP社、インターネット<URL:http://dm.nikkeibp.co.jp/free/nmc/kiji/h559/t559g.html>
【0008】
(本発明の目的)
本発明の目的は、
▲1▼微細な内径を有する電鋳管の製造方法及び電鋳管、この電鋳管を製造するための細線材を提供することにある。
▲2▼細線材を電着物または囲繞物から除去する際に、治具や工具等が電着物または囲繞物に引っ掛けたりできるようにして、細線材を除去し易くする電鋳管の製造方法を提供することにある。
▲3▼内面に金メッキ等の導電層を設けて、電気伝導率が電着物または囲繞物だけのときより良いようにする電鋳管の製造方法及び電鋳管、この電鋳管を製造するための細線材を提供することにある。
▲4▼内面に材質の異なる導電層を少なくとも二層以上設け、導電層相互及び電着物または囲繞物の密着性が良いようにする電鋳管の製造方法及び電鋳管、この電鋳管を製造するための細線材を提供することにある。
▲5▼中空部を複数備えた電鋳管の製造方法及び電鋳管を提供することにある。
▲6▼中空部を複数備えており、各中空部の周りを形成する部分ごとに独立して電気伝導が可能な電鋳管の製造方法及び電鋳管を提供することにある。
▲7▼細線材を除去する際において、内面に設けた導電層に引張力がかかり難くして、導電層と基線材とを分離し易くし、導電層と電着物または囲繞物との密着性が損なわれ難いようにする電鋳管の製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために講じた本発明の手段は次のとおりである。
第1の発明にあっては、
外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けたステンレス製の細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記電着物または前記囲繞物の内面に前記導電層を残したまま細線材を除去して電鋳管を製造する方法であって、前記導電層は、電解メッキで形成されたものであり、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものとし、
前記細線材は、一方または両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して、前記変形させた細線材を掴んで引っ張って除去することにより、前記電着物または前記囲繞物の肉厚が50μm以下である電鋳管を製造することを特徴とする、
電鋳管の製造方法である。
【0012】
第2の発明にあっては、
導電層は、異なる金属によって二層にしたことを特徴とする、
第1の発明に係る電鋳管の製造方法である。
【0013】
第3の発明にあっては、
細線材を外方に引っ張って伸ばしたときの横ひずみの変形量が断面積の5%以上であることを特徴とする、
第1又は2の発明に係る電鋳管の製造方法である。
【0017】
第4の発明にあっては、
細線材を電着物または囲繞物から除去して形成される中空部の内形状が、断面円形状または断面多角形状を有することを特徴とする、
第1,2,又は3の発明に係る電鋳管の製造方法である。
【0018】
第5の発明にあっては、
電着物または囲繞物はニッケルとし、導電層は金としたことを特徴とする、
第1の発明に係る電鋳管の製造方法。
【0027】
第6の発明にあっては、
外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造される電鋳管であって、
前記導電層は、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものとし、
前記細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状又は断面多角形状であって、前記電着物または前記囲繞物の肉厚が5μm以上50μm以下であることを特徴とする、
電鋳管である。
第7の発明にあっては、
細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状を有するものは、中空部の内径が10μm以上85μm以下であり、中空部の内形状が断面多角形状を有するものは、中空部の内接円の直径が10μm以上85μm以下であることを特徴とする、
第6の発明に係る電鋳管である。
第8の発明にあっては、
導電層は、異なる金属によって二層にしたことを特徴とする、
第6又は7の発明に係る電鋳管である。
第9の発明にあっては、
電着物または囲繞物はニッケルとし、導電層は金としたことを特徴とする、
第6又は7の発明に係る電鋳管である。
【0033】
細線材は、例えば、金属線材等のように全体が導電性材料で形成されたものを使用することもできるし、前記導電性材料の周りに導電層(例えば、メッキ等の金属やカーボン等)を設けたものを使用することもできる。また、合成樹脂線材等の絶縁性材料の細線材を用い、この周りに導電層(例えば、無電解メッキ等の金属やカーボン等)を設けて形成したもの等を使用することもできる。
更に、細線材の近傍に別体の導体を設けて、この導体に金属が電着(析出)するようにした場合では、上記した細線材の他に、更に合成樹脂線材等のように全体が絶縁性材料で形成されたもの(導電性の材料が設けられていないもの)を使用することもできる。
【0034】
電鋳によって金属が電着する箇所の材質は、導電性を有していれば特に材質は限定するものではないが、金属を電着させ易くするために電気伝導率が良好なものを使用することが好ましい。例えば、鉄、ステンレス、銅、金、銀、真鍮、ニッケル、アルミニウム、カーボン等が使用できる。
【0035】
また、細線材や、隔壁体の絶縁体を構成する絶縁性材料は、電気が極めて流れにくい不導体(絶縁体)や、温度等によって導体にも不導体にもなる半導体を用いることができる。絶縁性材料は、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、エンジニアプラスチック、化学繊維(合成繊維、半合成繊維、再生繊維、無機繊維)よりなるもの等を使用することができる。例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、モダクリル、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン三元共重合体、アセテート、トリアセテート、フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、全芳香族ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリベンズウイミダゾール、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ナイロン、アラミド、ポリウレタン、スパンデックス、ポリアルキレンパラオキシベンゾエート、ベンゾエート、ポリフルオロエチレン、プロミックス、レーヨン、キュプラ、ガラス繊維等を挙げることができる。
更に、絶縁性材料は、撚り合わせたり紡いだりしていない、いわゆるフィラメント糸を使用することもできるし、紡績糸を使用することもできる。
【0036】
電鋳管の内形状や細線材の外形状で示す「断面円形状」という用語は、厳密に断面形状が円形状であるものを意味するものではなく、実質的に円形状のものや、楕円形状のものを含む概念として使用している。
【0037】
電鋳管の内形状や細線材の外形状で示す「断面多角形状」という用語は、厳密に断面形状が多角形状であるものを意味するものではなく、例えば、角部に丸みが付けてあるようなものも含む、実質的に多角形状のものを含む概念として使用している。また、特に限定するものではないが、具体的に多角形状とは、略三角形状、略四角形状(長方形状、正方形状、菱形状、平行四辺形状を含む)、略五角形状、略六角形状等を挙げることができる。
【0038】
細線材を溶かして除去する溶剤としては、例えば、アルカリ性溶液や酸性溶液等を挙げることができる。
【0039】
電鋳管の用途としては、特に限定するものではないが、例えば、コンタクトプローブ用の管(バネを収容するケーシング)を挙げることができる。
【0040】
「中空部の周りを形成する部分」とは、電鋳による電着物または囲繞物の場合もあるし、電着物または囲繞物とは異なる材質を有し、中空部の内面に設けられた導電層(隔壁体の導電層を含む)の場合もある。
【0041】
(作 用)
本発明によれば、電鋳によって形成された電着物または囲繞物から細線材が除去できる。細線材は、▲1▼電着物または囲繞物を加熱して熱膨張させ、または細線材を冷却して収縮させることにより、電着物または囲繞物と細線材の間に隙間を形成したり、▲2▼液中に浸してまたは液をかけることにより、細線材と電着物または囲繞物が接触している箇所を滑り易くしたり、▲3▼一方または両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細線材と電着物または囲繞物の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引するか、物理的に押し遣るか、気体または液体を噴出して押し遣るかのいずれかの方法を用いて除去される。また、▲4▼熱または溶剤で溶かしても除去できる。
【0042】
細線材の除去に際して、このような方法を用いれば、例えば、直径が10μmから85μmまでの細線材を用いて、この細線材の外面に5μm以上50μm以下の肉厚を有するように形成した電着物または囲繞物からでも、細線材を除去することができる。従って、この細線材の除去方法を用いることにより、例えば、コンタクトプローブ用の管等として使用可能な微細な内径を有する電鋳管が製造できる。
【0043】
細線材に形成される端部側の電着物または囲繞物の量を多くして電鋳管を製造する方法によれば、例えば、細線材を電着物または囲繞物から引き抜いたり押し遣ったりして除去する際に、治具や工具等を電着物または囲繞物の量を多くした部分の端面等に引っ掛けたりすることができる。従って、この場合では、電着物または囲繞物を固定した状態にして細線材が除去できるようになるので、細線材が除去し易い。
【0044】
細線材を外方に引っ張って伸ばしたときの横ひずみの変形量が断面積の5%以上あるようにした電鋳管の製造方法によれば、細線材と電着物または囲繞物の間に、細線材を除去するのに十分な隙間が形成できるので、細線材が電着物または囲繞物から支障なく除去できる可能性が高い。仮に横ひずみの変形量が断面積の5%未満しかなかった場合では、隙間が十分でないので、除去に際して支障が生じる場合がある。
【0045】
外面に導電層が設けられた細線材を用い、導電層が電鋳管の内面に残るように細線材を除去する電鋳管の製造方法によれば、内面に金メッキ等を設けた電鋳管が製造できる。このような電鋳管は、例えば、内面に設ける導電層の材質によって電気伝導率が電着物または囲繞物だけのときより良好にできるので、この場合では電気を伝導するのに適した部品として使用できる。
なお、内面に電着物または囲繞物とは異なる材質の導電層が設けてある電鋳管や、外面に、電着物または囲繞物とは異なる材質の導電層が設けてある細線材についても、同様に電気伝導率が電着物または囲繞物だけのときより良い電鋳管が形成できる。
【0046】
外面側に材質の異なる導電層が少なくとも二層以上形成してある細線材を用いた電鋳管の製造方法によれば、例えば、外側の導電層を銅で構成し、銅と接する内側の導電層を金で構成して、電鋳によりニッケルが電着物または囲繞物として形成されるようにできる。この場合では、ニッケルは金よりも銅と密着性が良く、銅は金とも密着性が良いので、密着性の良好な電鋳管が形成できる。
なお、内面に電着物または囲繞物とは異なる材質の導電層が設けてあり、更に、電着物または囲繞物と上記導電層との間には、当該導電層とは異なる材質の導電層が設けてある電鋳管や、外面に、電着物または囲繞物とは異なる材質の導電層が設けてあり、更に、細線材基部材と上記導電層との間には、当該導電層とは異なる材質の導電層が設けてある細線材についても、同様に電着物または囲繞物と導電層との密着性の良好な電鋳管が形成できる。
【0047】
細線材を除去して形成される中空部を複数個備えたものは、例えば、中空部が一つしか設けられていない管を複数並べて製造されていた部品と置き換えて使用することができる。この電鋳管によれば、個々の管を並べて設置する手間を無くすことができる。また、中空部の間の間隔も電着物または囲繞物で固定されているのでずれない。
【0048】
中空部の間に、絶縁体の外面に導電層を設けて形成してある隔壁体を介在させて、各中空部の周りを形成する部分ごとに独立して電気伝導ができるようにしてあるものは、各中空部ごとに独立して電気伝導が可能である。
【0049】
両端側に導電層が設けられていない部分がある細線材は、この導電層が設けられていない部分を外方に引っ張るようにすることにより、引張力が導電層に直接かかり難くなり、導電層と基線材とが分離し易く、また、導電層と電着物または囲繞物との密着性も損なわれ難い。
【0050】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面に基づき更に詳細に説明する。
図1は本発明に係る電鋳管を製造するための電鋳装置の一例を示す断面説明図である。
まず、電鋳管を製造する電鋳装置について説明する。
【0051】
電鋳装置100は、電鋳槽10と、この電鋳槽10を内側に収容する外槽11を備えている。電鋳槽10及び外槽11は上部が開口しており、電鋳槽10内には運転時において常時電解液(電鋳液)20が供給されている。こうして電解液20が電鋳槽10の上部からあふれ出して、外槽11内に流れ込むようになっている。本実施の形態で電解液20としては、例えば、スルファミン酸ニッケル液に光沢剤やビット防止剤を加えたものを使用している。
【0052】
電鋳槽10からあふれ出て外槽11内に流れ込んだ電解液20は、濾過装置(図示省略)によって濾過され、再び電鋳槽10内に供給されている。つまり電解液20は、運転時において電鋳槽10と外槽11の間を絶えず循環している。なお、電鋳槽10に電解液20を供給する供給手段は、公知手段が使用できる(図示省略)。
【0053】
本実施の形態において電鋳槽10の上部からあふれ出している部分の電解液20は、便宜的にオーバーフロー部12と称す。電鋳装置100では、このオーバーフロー部12において電鋳が行われる。電鋳手順については後述する。
【0054】
電鋳槽10の下部には、水平アジャスター装置13が設けられている。この水平アジャスター装置13は、電鋳槽10を略水平に維持し、これにより電鋳槽10の上部全域に略水平なオーバーフロー部12が形成され、オーバーフロー部12内の各所に電解液20が均一に分布するようにできる。
【0055】
符号4は、電鋳用の型部材(母材)となる細線材30を保持する保持治具を示している。保持治具4は、所要長さを有する水平部材40と、この水平部材40の両端側に垂下させてある一対の垂設部材41,41を備えている。保持治具4は、垂設部材41,41が電鋳槽10の側方に位置するように設けられている。
【0056】
垂設部材41,41には、所要の長さを有する棒状の線材固定部材42,43が、それぞれ略水平方向に延びて設けられている。線材固定部材42,43は、垂設部材41,41に回転可能に設けられている。一方の線材固定部材42の電鋳槽10側の端部には、電極44が設けられている。また、他方の線材固定部材43の電鋳槽10側の端部には、細線材30を引っ張るテンション装置45と、電極44が設けられている。線材固定部材42,43には、細線材30の一端と他端がそれぞれ固定されて、テンション装置45によって緊張した状態で設けられる。
【0057】
垂設部材41,41の間には、回転軸46が回転可能に架設されている。符号47は回転軸46を駆動させる駆動モータを示している。回転軸46は垂設部材41,41を貫通しており、両端側には歯車480,481が固着されている。
【0058】
上記した線材固定部材42,43は、垂設部材41,41を貫通して設けてある。垂設部材41を貫通した線材固定部材42には、歯車482が固着されている。同様に垂設部材41を貫通した線材固定部材43には、歯車483が固着されている。こうして歯車480と歯車482、歯車481と歯車483とが噛み合わせてある。従って、駆動モータ47を作動させて、回転軸46と共に歯車480,481を回転させることにより、歯車482,483と線材固定部材42,43が回転し、ひいては細線材30が回転するようにできる。細線材30の回転速度は、特に限定するものではない。例えば、15r.p.m.以下に制御される。
【0059】
線材固定部材42,43の外側の端部には、それぞれ導電性を有する電極接触部材49,49が設けられている。電極接触部材49.49は、保持治具4が電鋳槽10の上方に配置されたときに、電鋳槽10と外槽11との間に設けられた電極部14,14と接触する。電極部14,14は電源のマイナス極と接続されている。従って、電極接触部材49,49は、電極部14,14と接触した状態で、電源のマイナス極と電気的に接続された状態となる。
【0060】
符号15は電源のプラス極と電気的に接続された電極部を示している。電極部15は、電鋳槽10の底部に設けられている。電極部15は、例えば、チタン鋼からなるメッシュ状または穴あきのケース内に電鋳用の金属ペレット(例えば、ニッケルペレット)を収納して構成されたもの等が使用できる。
【0061】
電鋳装置100を使用した電鋳管の製造方法について説明する。
まず、線材固定部材42,43に細線材30の一端部と他端部をそれぞれ固定させて、線材固定部材42,43の間で細線材30を緊張した状態にする。このとき電解液20は電鋳槽10に供給されており、電鋳槽10の上部からあふれ出して(オーバーフロー部12を形成して)、外槽11内に流れ込むようになっている。また、オーバーフロー部12は、水平アジャスター装置13によって電鋳槽10を略水平にし、各所に電解液20が均一に分布するように調整されている。
【0062】
本実施の形態で細線材30は、直径50μmの断面略円形状を有するステンレス製で、外方に引っ張る略1500N/mm2の引張力をかけたときに横ひずみの変形量が断面積の10%になるものを使用した。
【0063】
次に、駆動モータ47を作動させて、回転軸46と共に歯車480,481を回転させる。これにより歯車482,483と線材固定部材42,43が回転し、細線材30が回転する。
【0064】
電極接触部材49,49を電極部14,14と接触させて、垂設部材41,41を電鋳槽10の側方に位置させ、細線材30のみをオーバーフロー部12中に浸ける。電極接触部材49,49が電極部14,14と接触することにより、電極部15が電源のプラス極と電気的に接続されているので、細線材30が電源のマイナス極と電気的に接続された状態となって電鋳が始まる。こうして細線材30の周りに金属(本実施の形態で示す電解液20によればニッケル)が電着(析出)される。細線材30の周りに電着する金属は電着物(または囲繞物)である。
【0065】
細線材30を所要時間オーバーフロー部12内に浸け、電着した金属の外径が全長にわたり略70μmになるまで電鋳する。目標外径に到達したら、細線材30をオーバーフロー部12より取り出して電鋳を止める。金属の電着量(析出量)、つまり細線材に電着する金属の肉厚は、電流や電圧、電鋳時間等によって予め制御可能である。
【0066】
電鋳装置100では、各所にて電解液20が均一に分布するようにオーバーフロー部12が調整されており、しかも、細線材30は回転させているので、仮に電解液20内の電流密度に不均一な箇所が発生した場合であっても、細線材30における金属の電着状態(析出状態)にはばらつきが生じ難い。従って、細線材30の周囲には、全長にわたって略均等な肉厚を有するように金属が電着する。これにより電鋳管は、細線材30を除去するだけで高精度のものが製造できる。
【0067】
また、電鋳装置100は、オーバーフロー部12で電鋳しており、あふれ出た電解液20は再び電鋳槽10に戻って循環している。つまり、電鋳にあたってはオーバーフロー部12が形成できれば良く、このため少量の電解液20でも電鋳を行うことが可能である。
【0068】
電鋳装置100では、細線材30を固定する線材固定部材42,43が、オーバーフロー部12の外側に配置されるので、線材固定部材42,43は電解液20に浸からない。従って、線材固定部材42,43等が電解液20と反応して不純物を発生させるようなことがない。また、電解液20が線材固定部材42,43等に付着して持ち出されてしまうこともなく、電鋳槽10から電解液20が無駄に減ることもない。
【0069】
そして、周りに金属が電着した細線材30を線材固定部材42,43から取り外し、最後に形成された電着物(囲繞物)から細線材30を除去する。
【0070】
細線材30は、外面に電着物が密着しているので、単に、細線材30を掴んで引っ張ったり、吸引したり、物理的に押し遣ったり、気体または液体を噴出して押し遣ったりするだけでは除去が困難である。従って、細線材30は、以下に示す(1)?(4)のいずれかの方法を用いて除去される。
【0071】
(1)電着物を加熱して熱膨張させ、または細線材30を冷却して収縮させて、電着物と細線材30の間に隙間を形成し、細線材30を掴んで引っ張るか、吸引するか、物理的に押し遣るか、気体または液体を噴出して押し遣るかのいずれかの方法を用いて除去する。
【0072】
(2)洗浄剤を溶解させた液体中に浸したり、この液体をかけたりして、細線材30と電着物とが接触している箇所を滑り易くする。そして、細線材30を掴んで引っ張るか、吸引するか、物理的に押し遣るか、気体または液体を噴出して押し遣るかのいずれかの方法を用いて除去する。
【0073】
(3)細線材30を一方または両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させる。そして、電着物と細線材30の間に隙間を形成し、細線材30を掴んで引っ張るか、吸引するか、物理的に押し遣るか、気体または液体を噴出して押し遣るかのいずれかの方法を用いて除去する。
【0074】
(4)細線材30を熱によって溶かしたり、またはアルカリ性溶液や酸性溶液等の溶剤によって溶かしたりして除去する。
【0075】
こうして細線材30を除去することにより、残った電着物によって微細な内径(中空部)を有する電鋳管がつくられる。この電鋳管は、コンタクトプローブ用の管等として使用可能である。
【0076】
本実施の形態では、全長にわたって略均等な肉厚を有する電着物から細線材を除去するようにしたが、これは限定するものではない。例えば、図2に示すように、電着物50の一端側に外径の大きな径大部500を形成して、細線材30を引っ張るか、吸引するか、物理的に押し遣るか、気体または液体を噴出して押し遣るかのいずれかの方法を用いて除去することもできる。このように径大部500を形成することで、引き抜いたり押し遣ったりする際において、治具や工具が径大部500の端面に引っ掛けることができる。従って、この場合では、電着物を固定した状態にして細線材30が除去できるようになるので、細線材が除去し易くなる。なお、このように一部分の電着量を多くする作業は、他の電鋳装置に移し替えられて行われることもある。
【0077】
また、上記実施の形態にて細線材30は、直径50μmの断面略円形状を有するものを使用した。しかし、細線材の太さや断面形状はこれに限定するものではない。例えば、図3に示すように断面形状が四角形等の多角形状の細線材31(角部に丸みが付けてある実質的に多角形状のものも含む)を使用することもできる。符号51は電着物である。
【0078】
上記した細線材は、断面形状が略円形状を有するものでは、外径が10μm以上85μm以下であれば、また、外形状が断面多角形状を有するものでは、内接円の直径が10μm以上85μm以下であれば、微細な内径を有する電鋳管の製造において使用できることが、本発明者の実験によりわかっている。
【0079】
また、本実施の形態で示す細線材30は、外方に引っ張る略1500N/mm2の引張力をかけたときに横ひずみの変形量が断面積の10%になるものを使用した。しかし、細線材の横ひずみの変形量は特に限定するものではない。本発明者が実験したところによれば、少なくとも断面積の5%以上の変形量があれば良いようである。
【0080】
本実施の形態では直径50μmの断面略円形状を有する細線材30の周りに、略10μmの肉厚で金属を電着させて、全体として略70μmの外径となるように形成したが、電着させる金属の肉厚は特に限定するものではない。本発明者が実験したところによれば、少なくとも略5μmの肉厚を有するように細線材30の周りに電着させることができれば、細線材30を除去した後でも電鋳管が形成できることがわかっている。
【0081】
本実施の形態で細線材30はステンレス製のものを使用し、この細線材30の周りに金属を直接電着させるようにした。しかし、電鋳装置100で使用可能な細線材は、導電性を有するようにしてあれば特に限定するものではなく、例えば、芯部を金属や合成樹脂等でつくり、その外面に導電層(メッキ(金属層(膜))やカーボン等)を設けたもの等を使用することもできる。このような細線材を使用することにより、例えば、図4に示すように、外周面に金メッキ321を設けた細線材32に電着物52を形成した場合では、金メッキ321を電着物52の内周面に残して、基線材320のみを除去することも可能である。この場合では、内周面に金メッキ321が施された電鋳管が形成できる。
【0082】
内周面に金メッキ321が施された電鋳管は、金メッキ321を設けないときよりも電気伝導率を良くすることができるので、例えば、コンタクトプローブ用の管等の電気を伝導するのに適した部品として使用できる。
【0083】
更に例えば、細線材は、上記したメッキ等による導電層の外周側に、更にこれとは材質の異なる他の導電層を設けたものを使用することもできる。例えば、電鋳により電着する金属がニッケルであり、金メッキ331の外周側に銅メッキ332が設けられた細線材33の周りに電着物53を形成した場合(図5参照)では、ニッケルは金よりも銅と密着性が良く、銅は金とも密着性が良いので、基線材330のみを除去して、ニッケルと銅と金が密着性の良好な状態で接着された電鋳管が形成できる。この電鋳管の内周面には金メッキ331が露出している。
【0084】
このように外周部に導電層(例えば、金メッキ)が設けられた細線材を、断面積が小さくなるように変形させて析出した金属から除去する場合では、図6に示すように細線材34の両端側に導電層(例えば、金メッキ340)を設けない部分(マスキング部341,341)を形成し、この導電層を設けていない部分を引っ張るようにすることが好ましい。このようにすることで引張力が導電層に直接かかり難くなり、導電層と基線材とが分離し易く、また、導電層と電着物54との密着性も損なわれ難い。
【0085】
図7は本発明に係る電鋳管を製造するための電鋳装置の他の例を示す断面説明図、
図8は図7で示す電鋳装置で使用する製造用治具を示す分解斜視説明図、
図9は図8で示す製造用治具を使用して製造される電鋳管を示す拡大断面説明図である。電鋳装置101は、細線材を縦方向(図7において垂直方向)に緊張した状態で設けるタイプのものである。
【0086】
電鋳装置101は、電鋳槽60を備えている。電鋳槽60は、内部に槽部61を有し、上方が開口した箱状に形成してある。電鋳槽60の上縁部には、外方に拡がる蓋載置部62が全周にわたり設けてあり、蓋載置部62には蓋体64が電鋳槽60の開口部を塞ぐように被せられている。
【0087】
槽部61の上方には掛止部63が設けてある。掛止部63には、電源のプラス極と電気的に接続された陽極部66が取り付けてある。陽極部66には収容体660が取り付けられており、収容体660には多数のニッケル球が詰められている。符号65は、電源のマイナス極と電気的に接続された陰極部を示している。陰極部65には、後述する製造用治具8と接続するための陰極線650が下方に垂らして設けてある。
【0088】
本実施の形態では収容体660にニッケル球を詰めるようにしたが、収容体660に詰めるものはこれに限定するものではなく、析出させる金属の種類に応じて選択される。例えば、ニッケル、鉄、銅、コバルトなどを使用することができる。また、形状や構造も特に限定するものではない。
【0089】
槽部61の内部には治具固定用枠体7が収容してある。治具固定用枠体7には製造用治具8が五段に積み重ねて設けてある。
【0090】
電鋳槽60の槽部61には電解液21が充填してある。電解液21は、陽極部66及び治具固定用枠体7が完全に浸かるように入れてある。本実施の形態で電解液21は、スルファミン酸ニッケルを主成分とするものを使用している。
【0091】
図8を参照する。製造用治具8は複数本の細線材35が張設可能であり、複数の中空部を有する電鋳管を製造するためのものである。なお、本実施の形態で示す細線材35は、電鋳装置100で使用したものと同じものを使用したので、説明は省略する。
【0092】
製造用治具8は所要長さを有する板状の治具本体80を備えている。治具本体80の略中央部には、貫通した開口部81が形成されている。図8において上下端側となる治具本体80の両端側(短辺側)には、細線材35を固定する固定部材82,83が、幅方向に所要間隔をもって複数個(具体的には8箇所ずつ)設けられている。本実施の形態で固定部材82,83はビス状のものを使用したが、これは特に限定するものではない。
【0093】
また、固定部材82,83より更に内側の部分には、固定部材82,83が設けられた間隔よりも更に間隔を幅狭にして、それぞれ案内ピン84が複数個(具体的には8箇所ずつ)設けられている。
【0094】
更に、案内ピン84より内側の部分となる開口部81の近傍には、細線材35の張設位置を決めるための位置決め部材85,85が設けられている。位置決め部材85,85は、治具本体80の幅と略同じ長さを有する帯状の板状体であり、略中央部分には細線材35を嵌め入れるためのV字状の溝(図では外れ防止部材850(後述)で覆われており見えない)が形成されている。この溝は、位置決め部材85の全幅(図8において上下方向)にわたって、また長さ方向(図8において左右方向)に複数個(具体的には8箇所に)連設して形成されている。
【0095】
各位置決め部材85の上面側には、この位置決め部材85と略同じ幅を有するが、長さの短い板状体で形成された外れ防止部材850を設けて、嵌めた細線材35が溝から外れないようにしてある。本実施の形態で位置決め部材85の溝は、隣り合う細線材35との間に10μmの隙間が設けられるように形成したが、これは限定するものではなく、細線材35の間隔は適宜設定可能である。
【0096】
製造用治具8には、複数本(具体的には8本)の細線材35が取り付けられる。各細線材35は次のようにして取り付けられる。
まず、細線材35の他端(図8において下側)に引張バネ86を取り付ける。そして、細線材35の一端(図8において上側)を固定部材82で止める。固定部材82で止めた細線材35は、隣接する案内ピン84,84の間を通して、各位置決め部材85に形成してある溝に嵌めて、位置決め部材85,85間に架け渡す。
【0097】
溝に嵌めた細線材35の他端側は、上端側と同様に隣接する案内ピン84,84の間を通して、引張バネ86を固定部材83で止める。細線材35は、引張バネ86の引張力によって、細線材35の開口部81と対応した部分が緊張した状態となって取り付けられる。
【0098】
なお、製造用治具8において細線材35は、隣り合うものとの間に10μmの隙間を有して取り付けられているが、図8で上記間隔は理解を容易にするために誇張して表している。
【0099】
符号87は隔壁部材88を取り付けるための保持部材を示している。保持部材87は、開口部81の開口形状と略同じ大きさを有する長方形状の板状体で形成してある。
【0100】
隔壁部材88は、保持部材87の図8における上下方向の長さと略同じ長さを有しており、厚みの薄い帯状形状を有している。詳しくは隔壁部材88は、略8μmの厚みを有する絶縁基部材880を備え、絶縁基部材880の表裏面に略2?3μmの厚みを有するメッキ等による導電層(膜)881が設けられた構造を有している。導電層881を形成する材質は、導電性を有していれば良く、特に限定するものではない。しかし、電鋳による電着物と密着性(接着性)が良好な性質を有するものが好ましい。
【0101】
隔壁部材88は、導電層881が対向するように所要間隔を設けて複数個(具体的には7個)並べて、保持部材87の表面の略中央部に、図8の上下方向の全長に延びて着脱可能に取り付けてある。本実施の形態で隔壁部材88は、上記した細線材35が略10μmの隙間を形成して治具本体80に取り付けられるようにしたので、これと対応するように同じく略10μmの間隔で取り付けてある。
【0102】
隔壁部材88が設けられた保持部材87は、開口部81を縦断して張設してある細線材35間に、隔壁部材88を側方(矢印方向)から差し込んで入れ、細線材35の張力によって隔壁部材88が狭持されることで治具本体80に取り付けられる。つまり、細線材35と隔壁部材88(詳しくは導電層881)は接触している。
【0103】
製造用治具8は、保持部材87を上記したようにして治具本体80に取り付け、電気が細線材35に流れるように陰極線650を接続(図8では図示省略)した後に、槽部61の治具固定用枠体7内に収容して、電解液21中に浸けて電鋳する。なお、具体的な説明は省略するが、製造用治具8のうち開口部81以外の箇所には、電解液21が浸からないようにマスキング処理が施される。
【0104】
電鋳装置101によれば、通電することにより細線材35の周りと導電層881の表面に電着物が形成される。そして、電着物55により細線材35と隔壁部材88が、所要の程度囲繞されたところで電鋳を止める。電着物55の電着量(析出量)は、電流や電圧、電鋳時間等によって予め制御可能である。
【0105】
電鋳を止めた製造用治具8は電解液21から取り出され、再び、治具本体80と保持部材87に分解される。このとき隔壁部材88は、析出した電着物55によって細線材35の間にて固定されているので、保持部材87から分離される。その後、電着物55により一体にされた細線材35と隔壁部材88を治具本体80より取り外す。
【0106】
そして、電着物55と隔壁部材88に機械加工を施して形状を整えて(図9参照)、電着物55から細線材35を除去する。なお、細線材35の除去は、上記電鋳装置100で製造されたものと同様の方法で行うので、説明は省略する。
こうして中空部が複数個(具体的には8個)ある電鋳管がつくられる。
【0107】
この電鋳管は、細線材35を除去して形成された中空部の間に、仕切るように隔壁部材88が介在させてあるので、各中空部の周りを形成する部分ごとに独立して電気伝導が可能である。
【0108】
なお、電鋳装置101でも、芯部を金属や合成樹脂等でつくり、その外面に導電層(メッキ(金属層(膜))やカーボン等)が設けられた細線材を使用することができる。更に、細線材の断面形状等も、電鋳装置101で示した細線材と同様に特に限定するものではない。
【0109】
本実施の形態では細線材35の間に隔壁部材88を設けて電鋳したが、これは限定するものではなく、例えば、隔壁部材を設けず、細線材のみの状態で電鋳することも可能である。
【0110】
電鋳管は、上記実施の形態で示す電鋳装置100,101以外の他の形態の電鋳装置を使用して製造することもできる。また、電鋳装置で使用する製造用治具の種類も特に限定するものではない。
【0111】
本実施の形態で示す具体的な寸法(大きさ、長さ)を表す数値は、理解を容易にするために記載したものであって、特に寸法を限定する意図はない。例えば、細線材の径、電着物の肉厚、細線材の変形量や引張力、導電層(膜)(メッキ等)の厚み、隔壁部材の厚み等がある。これらの寸法は、範囲を設定したものについてはその範囲内において、任意に設定可能である。
【0112】
本実施の形態では、細線材の外面に電鋳による金属を電着させて細線材を覆うようにしたものを示したが、これは限定するものではなく、例えば、細線材の近傍に通電可能な導体(金属等)を設けて、この導体に電鋳による金属を電着させることで、細線材も電着する金属によって覆われるようにして電鋳管をつくることもできる。
【0113】
上記実施の形態において電解液は、スルファミン酸ニッケルを主成分とするものを使用したが、電解液はこれに限定するものではなく、析出させる金属の種類に応じて選択される。電着(析出)する金属としては、例えばニッケル又はその合金、鉄又はその合金、銅又はその合金、コバルト又はその合金、タングステン合金、微粒子分散金属等の金属をあげることができる。また、上記金属を析出させる電解液としては、例えば塩化ニッケル、硫酸ニッケル、スルファミン酸第一鉄、ホウフッ化第一鉄、ピロリン酸銅、硫酸銅、ホウフッ化銅、ケイフッ化銅、チタンフッ化銅、アルカノールスルフォン酸銅、硫酸コバルト、タングステン酸ナトリウムなどの水溶液を主成分とする液、または、これらの液に炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化ホウ素、酸化ジルコニウム、チッ化ケイ素、アルミナ、ダイヤモンドなどの微粉末を分散させた液が使用される。
【0114】
また、電鋳槽内には電解液を攪拌するための攪拌手段を設けることもできる。攪拌手段としては、例えば、空気の噴き出しによるもの、電解液を吸い込み、再び電解槽内に吐き出すもの、回転可能な攪拌羽根(プロペラ)、超音波、振動等を使用することができる。しかし、攪拌手段はこれらに限定するものではない。
【0115】
本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。
【0116】
【発明の効果】
本発明は上記構成を備え、次の効果を有する。
(a)本発明によれば、電鋳によって形成された電着物または囲繞物から細線材が除去できる。細線材は、▲1▼電着物または囲繞物を加熱して熱膨張させ、または細線材を冷却して収縮させることにより、電着物または囲繞物と細線材の間に隙間を形成したり、▲2▼液中に浸してまたは液をかけることにより、細線材と電着物または囲繞物が接触している箇所を滑り易くしたり、▲3▼一方または両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細線材と電着物または囲繞物の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引するか、物理的に押し遣るか、気体または液体を噴出して押し遣るかのいずれかの方法を用いて除去される。また、▲4▼熱または溶剤で溶かしても除去できる。
細線材の除去に際して、このような方法を用いれば、例えば、直径が10μmから85μmまでの細線材を用いて、この細線材の外面に5μm以上50μm以下の肉厚を有するように形成した電着物または囲繞物からでも、細線材を除去することができる。従って、この細線材の除去方法を用いることにより、例えば、コンタクトプローブ用の管等として使用可能な微細な内径を有する電鋳管が製造できる。
【0117】
(b)細線材に形成される端部側の電着物または囲繞物の量を多くして電鋳管を製造する方法によれば、例えば、細線材を電着物または囲繞物から引き抜いたり押し遣ったりして除去する際に、治具や工具等を電着物または囲繞物の量を多くした部分の端面等に引っ掛けたりすることができる。従って、この場合では、電着物または囲繞物を固定した状態にして細線材が除去できるようになるので、細線材が除去し易い。
【0118】
(c)細線材を外方に引っ張って伸ばしたときの横ひずみの変形量が断面積の5%以上あるようにした電鋳管の製造方法によれば、細線材と電着物または囲繞物の間に、細線材を除去するのに十分な隙間が形成できるので、細線材が電着物または囲繞物から支障なく除去できる可能性が高い。仮に横ひずみの変形量が断面積の5%未満しかなかった場合では、隙間が十分でないので、除去に際して支障が生じる場合がある。
【0119】
(d)外面に導電層が設けられた細線材を用い、導電層が電鋳管の内面に残るように細線材を除去する電鋳管の製造方法によれば、内面に金メッキ等を設けた電鋳管が製造できる。このような電鋳管は、例えば、内面に設ける導電層の材質によって電気伝導率が電着物または囲繞物だけのときより良好にできるので、この場合では電気を伝導するのに適した部品として使用できる。
なお、内面に電着物または囲繞物とは異なる材質の導電層が設けてある電鋳管や、外面に、電着物または囲繞物とは異なる材質の導電層が設けてある細線材についても、同様に電気伝導率が電着物または囲繞物だけのときより良い電鋳管が形成できる。
【0120】
(e)外面側に材質の異なる導電層が少なくとも二層以上形成してある細線材を用いた電鋳管の製造方法によれば、例えば、外側の導電層を銅で構成し、銅と接する内側の導電層を金で構成して、電鋳によりニッケルが電着物または囲繞物として形成されるようにできる。この場合では、ニッケルは金よりも銅と密着性が良く、銅は金とも密着性が良いので、密着性の良好な電鋳管が形成できる。
なお、内面に電着物または囲繞物とは異なる材質の導電層が設けてあり、更に、電着物または囲繞物と上記導電層との間には、当該導電層とは異なる材質の導電層が設けてある電鋳管や、外面に、電着物または囲繞物とは異なる材質の導電層が設けてあり、更に、細線材基部材と上記導電層との間には、当該導電層とは異なる材質の導電層が設けてある細線材についても、同様に電着物または囲繞物と導電層との密着性の良好な電鋳管が形成できる。
【0121】
(f)細線材を除去して形成される中空部を複数個備えたものは、例えば、中空部が一つしか設けられていない管を複数並べて製造されていた部品と置き換えて使用することができる。この電鋳管によれば、個々の管を並べて設置する手間を無くすことができる。また、中空部の間の間隔も電着物または囲繞物で固定されているのでずれない。
【0122】
(g)中空部の間に、絶縁体の外面に導電層を設けて形成してある隔壁体を介在させて、各中空部の周りを形成する部分ごとに独立して電気伝導ができるようにしてあるものは、各中空部ごとに独立して電気伝導が可能である。
【0123】
(h)両端側に導電層が設けられていない部分がある細線材は、この導電層が設けられていない部分を外方に引っ張るようにすることにより、引張力が導電層に直接かかり難くなり、導電層と基線材とが分離し易く、また、導電層と電着物または囲繞物との密着性も損なわれ難い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る電鋳管を製造するための電鋳装置の一例を示す断面説明図。
【図2】電着物の一端側に径大部を形成した状態を示す説明図。
【図3】断面略四角形状を有する細線材の周りに電着物を形成した状態を示す断面説明図。
【図4】外周面に導電層を設けた細線材の周りに電着物を形成した状態を示す断面説明図。
【図5】外周面に材質の異なる導電層を二層設けた細線材の周りに電着物を形成した状態を示す断面説明図。
【図6】両端側に導電層を設けない部分を形成した細線材の周りに電着物を形成した状態を示す説明図。
【図7】本発明に係る電鋳管を製造するための電鋳装置の他の例を示す断面説明図。
【図8】図7で示す電鋳装置で使用する製造用治具を示す分解斜視説明図。
【図9】図8で示す製造用治具を使用して製造される電鋳管を示す拡大断面説明図。
【符号の説明】
100,101 電鋳装置
10 電鋳槽
11 外槽
12 オーバーフロー部
13 水平アジャスター装置
14 電極部
15 電極部
20 電解液
21 電解液
30,31,32,33,34,35 細線材
320 基線材
321 金メッキ
330 基線材
331 金メッキ
332 銅メッキ
340 金メッキ
341 マスキング部
4 保持治具
40 水平部材
41 垂設部材
42 線材固定部材
43 線材固定部材
44 電極
45 テンション装置
46 回転軸
47 駆動モータ
480,481 歯車
482,483 歯車
49 電極接触部材
50,51,52,53,54,55 電着物
500 径大部
60 電鋳槽
61 槽部
62 蓋載置部
63 掛止部
64 蓋体
65 陰極部
650 陰極線
66 陽極部
660 収容体
7 治具固定用枠体
8 製造用治具
80 治具本体
81 開口部
82 固定部材
83 固定部材
84 案内ピン
85 位置決め部材
850 外れ防止部材
86 引張バネ
87 保持部材
88 隔壁部材
880 絶縁基部材
881 導電層
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-10-26 
結審通知日 2017-10-30 
審決日 2017-11-13 
出願番号 特願2002-278121(P2002-278121)
審決分類 P 1 41・ 851- Y (C25D)
P 1 41・ 856- Y (C25D)
P 1 41・ 854- Y (C25D)
P 1 41・ 853- Y (C25D)
P 1 41・ 841- Y (C25D)
P 1 41・ 855- Y (C25D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 瀧口 博史  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 金 公彦
河本 充雄
登録日 2006-12-08 
登録番号 特許第3889689号(P3889689)
発明の名称 電鋳管の製造方法及び電鋳管  
代理人 溝内 伸治郎  
代理人 岩坪 哲  
代理人 速見 禎祥  
代理人 速見 禎祥  
代理人 岩坪 哲  
代理人 溝内 伸治郎  

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