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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B05C
管理番号 1335553
審判番号 不服2017-5962  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-26 
確定日 2018-01-09 
事件の表示 特願2012-246019「ロールコータ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月27日出願公開、特開2013-126655、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年11月8日(優先権主張平成23年11月14日)の出願であって、平成28年5月31日付けで拒絶理由が通知され、平成28年8月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年1月20日付けで拒絶査定がされ、それに対して平成29年4月26日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は次のとおりである。

●理由2(進歩性:特許法第29条第2項)について
・請求項1ないし3
・刊行物1ないし3

刊行物1ないし3について、特に以下の部分を参照。
刊行物1:実用新案登録請求の範囲,P.6,P.8,P.10?P.12,第2図,第3図
刊行物2:特許請求の範囲,0018,0023,図1,図2
刊行物3:実用新案登録請求の範囲,0008,第3図

請求項1について、刊行物1には、コータパン(塗料10)内の塗工液(塗料12)をピックアップロール(供給ロール14)で汲み上げ、汲み上げた塗工液をアプリケータロール(塗装ロール18)に転写し、アプリケータロールに転写した塗工液を鋼帯(鋼帯16)に転写するロールコータであって、板状体の側部にアプリケータロール外周面側に突き出た鉤形部を有すると認められる第一の塗工液掻き取り板(ドクターブレード20)を、アプリケータロールがピックアップロールに転接してから鋼帯と転接するまでの間(A-B間)のアプリケータロール側面に当接させて、アプリケータロール側面に付着した塗工液を掻き取るようにしたロールコータが記載されており、第一の塗工液掻き取り板(ドクターブレード20)を、アプリケータロールがピックアップロールに転接してから鋼帯と転接するまでの間(A-B間)のアプリケータロール側面に当接させる際に、「ピックアップロールの浸漬深さ以上の長さ」で当接させることについての直接的な記載がない点で相違する。
当該相違点について、刊行物1に記載のロールコータは、第一の塗工液掻き取り板(ドクターブレード20)により、アプリケータロールの端面に回り込んだ塗料の掻き取りを行うものであると認められるところ、当該アプリケータロールの端面に回り込んだ塗料の掻き取りを確実に行うために、掻き取り板をアプリケータロールの側面にどの程度当接させるかは、当業者が適宜好適化し得る事項にすぎない(なお、第3図においては、第一の塗工液掻き取り板は、アプリケータロールの側面に、ピックアップロールの浸漬深さと同程度の長さで当接させている。)
出願人は意見書において、塗工液の飛散を抑える効果について主張しているところ、アプリケータロールの端部に存在する塗液を掻き取ることで、該部分からの塗液の飛散を防止し得ることは、引用例3に記載されているし、ロールの回転を伴う(遠心力の発生)ロールコータに係る技術分野の当業者であれば、容易に予測し得ることと認められるから、出願人の意見書における主張を考慮しても、請求項1に係る発明の効果が格別顕著であるとはいえない。
請求項2について、刊行物2には、コータパン内の塗工液をピックアップロールで汲み上げ、汲み上げた塗工液をアプリケータロールに転写し、アプリケータロールに転写した塗工液を鋼帯に転写するロールコータにおいて、アプリケータロール回転方向が鋼帯走行と同じ方向であり、板状体の側部にピックアップロール外周面側に突き出た部位を有する第二の塗工液掻き取り板を、ピックアップロールのコータパン引上げ部からピックアップロール頂部までの間のピックアップロール側面に当接させることが記載されており、刊行物1及び刊行物2の記載に基づいて、アプリケータロール回転方向が鋼帯走行と同じ方向とし、板状体の側部にピックアップロール外周面側に突き出た鉤形部を有する第二の鉤形塗工液掻き取り板を、ピックアップロールのコータパン引上げ部からピックアップロール頂部までの間のピックアップロール側面に当接させる構成とすることは、当業者が容易に想到することである。
その効果も、刊行物1及び2の記載から、当業者が予測し得るものである。
請求項3について、拒絶理由通知書で引用した刊行物3には、コータパン内の塗工液をピックアップロールで汲み上げ、汲み上げた塗工液を被塗物に転写するロールコータにおいて、板状体の側部にピックアップロール外周面側に突き出た鉤形部を有する第二の鉤形塗工液掻き取り板を、ピックアップロール側面に当接させて、塗工液の飛散防止等を図ることが記載されており、また、刊行物1においても、ピックアップロール(供給ロール)に取り付ける第2ドクターブレード(第二の掻き取り板)の形状をカギ状のものとし得ることについても記載されているから、板状体の側部にピックアップロール外周面側に突き出た鉤形部を有する第二の鉤形塗工液掻き取り板を、ピックアップロールのコータパン引上げ部からピックアップロール頂部までの間のピックアップロール側面に当接させる構成とすることは、当業者が容易に想到することである。
その効果も、刊行物1及び3の記載から、当業者が予測し得るものである。
したがって、この出願の請求項1ないし3に係る発明は、拒絶理由通知書で引用した刊行物1ないし3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。


<刊行物等一覧>
1.実願昭58-201275号(実開昭60-108378号)のマイクロフィルム
2.特開2007-7640号公報
3.実願平4-58312号(実開平6-15758号)のCD-ROM

第3 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、出願当初の明細書及び平成28年8月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)。

「 【請求項1】
コータパン内の塗工液をピックアップロールで汲み上げ、汲み上げた塗工液をアプリケータロールに転写し、アプリケータロールに転写した塗工液を鋼帯に転写するロールコータにおいて、板状体の側部にアプリケータロール外周面側に突き出た鉤形部を有する第一の鉤形塗工液掻き取り板を、アプリケータロールがピックアップロールに転接してから鋼帯と転接するまでの間のアプリケータロール側面にピックアップロールの浸漬深さ以上の長さで当接させて、アプリケータロール側面に付着した塗工液を掻き取るようにしたことを特徴とするロールコータ。
【請求項2】
アプリケータロール回転方向が鋼帯走行と同じ方向であり、
さらに、板状体の側部にピックアップロール外周面側に突き出た鉤形部を有する第二の鉤形塗工液掻き取り板を、ピックアップロールのコータパン引き上げ部からピックアップロール頂部までの間のピックアップロール側面に当接させ、ピックアップロール側面に付着した塗工液を掻き取るようにしたことを特徴とする請求項1記載のロールコータ。
【請求項3】
アプリケータロール回転方向が鋼帯走行方向と逆の方向であり、
さらに、板状体の側部にピックアップロール外周面側に突き出た鉤形部を有する第二の鉤形塗工液掻き取り板を、ピックアップロールとアプリケータロールの転接部からピックアップロール頂部までの間のピックアップロール側面に当接させ、ピックアップロール側面に付着した塗工液を掻き取るようにしたことを特徴とする請求項1記載のロールコータ。」

第4 刊行物
1.刊行物1(実願昭58-201275号(実開昭60-108378号)のマイクロフィルム)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物1には、「帯状体の部分塗装装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

(1)刊行物1の記載事項
1a)「本考案は、帯状体の部分塗装装置に係り、特に、コイルを巻き戻した金属帯状体の片面又は両面に、塗膜厚さが約3μm?100μmの、ペイントによる、1条又は2条以上のストライプ状の部分塗装を、連続的に施す際に用いるのに好適な、帯状体の部分塗装装置の改良に関する。」(明細書第2ページ第4ないし9行)

1b)「第1図は本考案の実施例が採用された部分塗装ラインの概略工程を示す。巻回されてコイル状になつていた鋼帯16は、矢示Zの方向に巻き戻され、部分塗装装置によつて部分塗装がなされた後に、再び巻回される。
このような工程にあつて、この実施例は、第2図?第4図に示すように、周面の一部が、塗料パン10の塗料12内に浸漬され、回転によって塗料12を掬い上げるスチール製供給ロール14と、該供給ロール14と当接する供給当接部Aで供給ロールから塗料12の供給を受けると共に、被塗装鋼帯16の一部と当接する塗装当接部Bで鋼帯16に該塗装当接部Bに相当する部分塗装を行うゴム製の塗装ロール18と、を備えた鋼帯の部分塗装装置Xにおいて、前記塗装ロールの幅W_(1)を、意図する塗装幅W_(0)よりも若干広く形成すると共に、塗装幅W_(0)よりはみ出した部分の塗料12を、該塗料が塗装当接部Bへ至る前に、塗装幅W_(0)まで掻き取るための第1ドクターブレード20を設け、且つ、前記供給ロール14の有効幅W_(2)を、前記W_(1)とした塗装ロール幅より若干狭く、且つ、塗装幅W_(0)と同等幅に形成すると共に、該供給ロール14の有効幅W_(2)を常に一定に維持するための第2ドクターブレード22を設けたものである。」(明細書第6ページ第7行ないし第7ページ第10行)

1c)「又、第1ドクターブレード20は、矩形の一部がカギ状に切欠かれた形状とされ、塗装ロール18のロール幅方向及び端面18Aの深さ方向の塗料12を同時に掻き取れるようになつている。この実施例では、端面の深さ方向の掻き取り量を約7?8mmとしてある。」(明細書第8ページ第1ないし6行)

1d)「第1図に示すように、鋼帯16は当初巻回されてコイル状になつている。塗装動作が開始されると、該鋼帯16は、図示せぬ搬送手段によつて巻き戻され、図中矢印Z方向に移動し始め、図示せぬ各種前処理工程を経て本考案に係る部分塗装装置Xへと送られる。
部分塗装装置Xでは、第2図?第4図に示すように、周面の一部が塗料パン10の塗料12内に浸漬された供給ロール14が、回転させられることによつて塗料12がW_(2)の幅で掬い上げられ、供給当接部Aにおいて塗装ロール18に有効幅W_(2)の塗料12の供給・受渡しが行われる。
この際、当接によつてはみ出された塗料12が若干供給当接部Aから滲み出ると共に、塗装ロール18上で盛り上がりが生ずるが、供給ロール14の有効幅W_(2)が少なくとも塗装幅W_(0)に確保されていることにより、この盛り上がりは塗装ロール18上の塗装幅W_(0)の外側に生ずることになる。又、塗装ロール18の幅W_(1)が該供給ロール14の有効幅W_(2)よりも若干広く形成しであるため、このはみ出された塗料12が塗装ロール18の端部18Aに回り込むことはない。
供給当接部Aにおいて供給ロール14から供給・受渡された塗料12は、塗装当接部Bにおいて鋼帯16の塗装が行われる前に、第1ドクターブレード20によつて意図する塗装幅W_(0)になるまでその端部の塗料が掻き落される。この結果、塗装当接部Bにおいては、端部における余分な塗料が全く付着していない状態で塗装が行われることになり、部分塗装は正確な寸法で、且つ、厚さも均一に行われることになる。」(明細書第9ページ第5行ないし第10ページ第15行)

1d)上記1c)及び1d)並びに第3図の記載から、矩形の一部がカギ状に切欠かれ、塗装ロール18のロール幅方向側に突き出た形状の第1ドクターブレード20を、塗装ロール18が供給ロール14に当接してから鋼帯16と当接するまでの間の塗装ロール18端面18Aに当接させて、塗装ロール18の端面18Aに付着した塗料を掻き取ることが分かる。

(2)引用発明
上記(1)及び図面からみて、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「塗料パン10内の塗料12を供給ロール14で掬い上げ、掬い上げた塗料12を塗装ロール18に供給・受渡し、塗装ロール18に供給・受渡された塗料12を鋼帯16に部分塗装を施す帯状体の部分塗装装置において、矩形の一部がカギ状に切欠かれ、塗装ロール18のロール幅方向側に突き出た形状の第1ドクターブレード20を、塗装ロール18が供給ロール14に当接してから鋼帯16と当接するまでの間の塗装ロール18端面18Aに当接させて、塗装ロール18端面18Aに付着した塗料を掻き取るようにした帯状体の部分塗装装置。」

2.刊行物2(特開2007-7640号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物2には、「ペースト塗布装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)刊行物2の記載事項
2a)「【0016】
(第1実施例、図1?図4参照)
第1実施例であるペースト塗布装置は、図1に示すように、キャリアテープ1に所定の間隔で保持されたチップ部品2の搬送経路の左右に、ペースト容器10、ペースト塗布ホイール11、ペーストホイール12を設けたものである。チップ部品2はペーストホイール12の外周面に接触するように搬送される。
【0017】
即ち、ペースト塗布ホイール11及びペーストホイール12はそれぞれ矢印方向に周速度が合致するように、外周面どうしが近接した状態で回転駆動される。ペーストホイール12の外周面には、図3に示すように、ペーストが付着される4本の溝12aがラジアル方向に形成されている。
【0018】
本第1実施例においては、図2(A)に示すように、ペースト塗布ホイール11の下部が容器10に満たされたペーストPから引き上げられる部分に、一対の掻取りブレード16が設けられている。この掻取りブレード16はペースト塗布ホイール11の周縁部両側面と接触するように設けられ、ペースト塗布ホイール11の周縁部両側面に付着したペーストを掻き取って直ちに容器10へ戻す作用を奏する。また、ペーストホイール12にはその外周面に規制ブレード13の先端が接触するように設けられている。
【0019】
以上の構成において、ホイール11,12がそれぞれ矢印方向に回転駆動されるとともに、キャリアテープ1が矢印A方向に搬送されると、ペースト容器10に満たされている電極用のペーストPは、ペースト塗布ホイール11の外周面及び両側面に付着して容器10から引き上げられる。このとき、ホイール11の周縁部両側面に付着したペーストは掻取りブレード16にて掻き取られ、ペーストホイール12の溝12aを充填するのに十分な量のペーストがホイール11の外周面上に残され、それ以外のペーストは容器10へ戻される。
【0020】
ペースト塗布ホイール11の外周面に付着したペーストは該ホイール11の回転に伴ってペーストホイール12にその溝12aに収納されるように転写される。ペーストホイール12に供給されたペーストは規制ブレード13によって余剰分がホイール12の外周面から掻き落とされる。即ち、規制ブレード13を通過したホイール12の外周面には、ペーストが転写されることなく、溝12aのみにペーストが収納される。そして、ペーストホイール12の溝12aに収納されたペーストは該ホイール12の外周面がチップ部品2の端面を摺擦する際、チップ部品2の端面に塗布され、外部電極とされる。」(段落【0016】ないし【0020】)

(2)刊行物2技術
上記(1)及び図面の記載からみて、刊行物2には以下の技術(以下、「刊行物2技術」という。)が記載されている。

「ペースト容器10内のペーストPをペースト塗布ホイール11に付着させ、付着したペーストをペーストホイール12に転写し、ペーストホイール12に転写されたペーストをチップ部品2の端面に塗布するペースト塗布技術において、ペースト塗布ホイール11の周縁部両側面に付着したペーストを掻取りブレード16に接触させて、掻取るようにしたペースト塗布技術。」

3.刊行物3(実願平4-58312号(実開平6-15758号)のCD-ROM)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物3には、「ロールコーティング装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)刊行物3の記載事項
3a)「【0002】
【従来の技術】
ロールコーティング装置は、塗料、ワックス、接着剤等の塗布液を、Al製板材等の被塗布材に連続的に塗布する装置である。
以下に、このロールコーティング装置を図3を参照して具体的に説明する。
ロールコーティング装置は、塗布液2を貯留するコーターパン1、コーターパン1内の塗布液2を汲み上げ被塗布材8に塗布する為のピックアップロール3とアプリケーターロール9とから構成されている。
前記のコーターパン1内に貯留した塗布液2中に、軸を水平に支持したピックアップロール3の下部が浸漬されており、前記ピックアップロール3を回転することにより、前記塗布液2を前記ピックアップロール3のロール面に付着させて汲み上げ、このロール面に付着した塗布液2を、前記ピックアップロール3の上方に、軸を水平にして配置した、回転するアプリケーターロール9のロール面に転着し、前記塗布液2が転着されたアプリケーターロール9のロール面に、走行する被塗布材8を接触させて、前記転着された塗布液2を被塗布材8に連続的に塗布する装置である。」(段落【0002】)

3b)「【0005】
以下に、本考案のロールコーティング装置を図を参照して具体的に説明する。
図1は、本考案のロールコーティング装置のピックアップロール部分の態様例を示す斜視図である。
コーターパン1内に貯留された塗布液2に、軸を水平に支持した、回転するピックアップロール3の下部が浸漬されており、塗布液2の液面直上の前記ピックアップロールの端面4と前記端面寄りのロール面5に、鍵型のブレード6がピックアップロール3の両側にそれぞれ1本づつ当接されている。前記鍵型のブレード6は支持棒7を介してコーターパン1の壁部に固定されている。
【0006】
前記ロールコーティング装置において、コーターパン1内の塗布液2は、ピックアップロール3の端面4とロール面5に付着しピックアップロール3の回転に伴い上方に汲み上げられる。ピックアップロール3に付着した塗布液2のうち、ピックアップロールの端面4及び端面寄りのロール面5に付着した塗布液2は、前記の鍵型ブレード6により掻き落とされる。前記鍵型ブレード6は塗布液2の液面直上に配置されるので、掻き落とされた塗布液2が落下しても飛沫が高く上がることも又塗布液面が乱れることもなく、従って塗布ムラのない高品質の被塗布材が得られる。
本考案の装置にて用いるブレードには、前述の鍵型のものの他、図2に示したような平板型のブレード6をロール端面4に付着した塗布液2のみを掻き取るように配置して用いても、飛沫防止効果が十分認められる。
本考案において、ピックアップロールへのブレードの当接位置は、塗布液の液面から 100mm以下の高さにするのが、飛沫の発生を確実に抑えられて好ましい。」(段落【0005】及び【0006】)

(2)刊行物3技術
上記(1)及び図面の記載からみて、刊行物3には以下の技術(以下、「刊行物3技術」という。)が記載されている。

「コーターパン1内の塗布液2をピックアップロール3で汲み上げ、汲み上げた塗布液2をアプリケーターロール9に転着し、アプリケーターロール9に転着した塗布液2を被塗布材8に塗布するロールコーティング技術において、ピックアップロール3の端面4と端面寄りのロール面5に当接する鍵型のブレード6により、ピックアップロール3の端面4及び端面寄りのロール面5に付着した塗布液2を掻き落とすようにしたロールコーティング技術。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「塗料パン10」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明1における「コータパン」に相当し、以下同様に、「塗料12」は「塗工液」に、「供給ロール14」は「ピックアップロール」に、「掬い上げ」は「汲み上げ」に、「供給・受渡」は「転写」に、「塗装ロール18」は「アプリケータロール」に、「鋼帯16」は「鋼帯」に、「鋼帯16に部分塗装を施す」ことは「鋼帯に転写する」ことに、「帯状体の部分塗装装置」は「ロールコータ」に、「矩形の一部がカギ状に切欠かれ、塗装ロール18のロール幅方向側に突き出た形状の第1のドクターブレード20」は「板状体の側部にアプリケータロール外周面側に突き出た鉤型部を有する第一の鉤型塗工液掻き取り板」に、「当接」は「転接」に、「塗装ロール18端面18A」は「アプリケータロール側面」に、それぞれ相当する。
したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「コータパン内の塗工液をピックアップロールで汲み上げ、汲み上げた塗工液をアプリケータロールに転写し、アプリケータロールに転写した塗工液を鋼帯に転写するロールコータにおいて、板状体の側部にアプリケータロール外周面側に突き出た鉤形部を有する第一の鉤形塗工液掻き取り板を、アプリケータロールがピックアップロールに転接してから鋼帯と転接するまでの間のアプリケータロール側面に当接させて、アプリケータロール側面に付着した塗工液を掻き取るようにしたロールコータ。」

[相違点]
本願発明1においては、第一の鉤形塗工液掻き取り板を、アプリケータロールがピックアップロールに転接してから鋼帯と転接するまでの間のアプリケータロール側面に「ピックアップロールの浸漬深さ以上の長さで」当接させるものであるのに対し、引用発明においては、第1ドクターブレード20を、塗装ロール18が供給ロール14に当接してから鋼帯16と当接するまでの間の塗装ロール18端面18Aに当接させるものの、「ピックアップロールの浸漬深さ以上の長さで」当接させるか否か不明である点。

(2)相違点の判断
上記相違点について検討する。
本願発明1における、第一の鉤形塗工液掻き取り板を、アプリケータロール側面にピックアップロールの浸漬深さ以上の長さで当接させることの技術的意義について、明細書の記載を参酌すると、本願の明細書の段落【0028】ないし【0030】には、以下の記載がある。
「【0028】
ピックアップロール3の下部は、塗工液2に浸漬されているので、コータパンから引き上げられた直後のピックアップロール側面には、ピックアップロール3の浸漬深さ(図1中の寸法A)に対応する幅(ピックアップロール外周からの幅)の塗工液2が付着する。ピックアップロール回転による遠心力でピックアップロール3の側面に付着した塗工液2は側面外周側に移動し、液膜が厚くなる。ピックアップロール側面外周側に移動した塗工液はアプリケータロール4との転接部でアプリケータロール側面に移動する。第一の鉤形塗工液掻き取り板7がないと、アプリケータロール側面に移動した塗工液はロール側面外周側に移動し、その量が次第に増加し、飛散するようになる。
【0029】
第一の鉤形塗工液掻き取り板7の基部7aをアプリケータロール側面に当接させて側面に付着した塗工液を掻き取ることで、アプリケータロール側面の塗工液の付着量レベルが低いレベルに維持され、アプリケータロール4から塗工液が飛散しなくなる。
【0030】
ピックアップロール側面からアプリケータロール側面に移動する際の塗工液の幅(ロール外周からの幅)は、ピックアップロールの浸漬深さに対応する幅(図1中の寸法A)より小さくなっている。鉤形塗工液掻き取り板7のロール側面への当接部長さ(基部7aの長さ、図2中の寸法a)は、ピックアップロールの浸漬深さ以上の長さであればよく、ピックアップロール側面からアプリケータロール側面に移動する塗工液の幅等に応じた適宜の長さにすればよい。」
上記記載によれば、刊行物1には、ピックアップロール3の浸漬深さに対応する幅で付着した塗工液2が、遠心力で側面外周側に移動して、アプリケータロール4との転接部でアプリケータロール側面に移動するが、その際のアプリケータロール側面における塗工液の幅は、ピックアップロール3の浸漬深さに対応する幅より小さいことが記載されており、アプリケータロール側面に、少なくともピックアップロールの浸漬深さと同じ長さで鉤型塗工液掻き取り板を当接させることにより、アプリケータロール4の側面に付着した塗工液が飛散しなくなることが理解できる。
そうすると、本願発明の課題である「アプリケータロールからの塗工液の飛散を防止できるロールコータを提供する(段落【0010】)」ことは、本願発明1における、第一の鉤形塗工液掻き取り板を、アプリケータロールがピックアップロールに転接してから鋼帯と転接するまでの間のアプリケータロール側面に「ピックアップロールの浸漬深さ以上の長さで当接させる」という発明特定事項により解決されるものと認められる。
一方、刊行物1ないし刊行物3には、本願発明1の発明特定事項である「第一の鉤形塗工液掻き取り板を、アプリケータロールがピックアップロールに転接してから鋼帯と転接するまでの間のアプリケータロール側面にピックアップロールの浸漬深さ以上の長さで当接させる」との事項、及び当該事項により、「アプリケータロールからの塗工液の飛散を防止できるロールコータを提供する」ことができるという技術思想について開示も示唆もない。

したがって、本願発明1は、引用発明、刊行物2技術及び刊行物3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2及び3について
本願の特許請求の範囲における請求項2及び3は、請求項1の記載を直接又は間接的に、かつ、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本願発明2及び3は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。

したがって、本願発明2及び3は、本願発明1と同様の理由で、引用発明、刊行物2技術及び刊行物3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし3に係る発明は、いずれも引用発明、刊行物2技術及び刊行物3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-12-19 
出願番号 特願2012-246019(P2012-246019)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B05C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 安藤 達也  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 冨岡 和人
佐々木 芳枝
発明の名称 ロールコータ  
代理人 井上 茂  

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