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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1335710
審判番号 不服2016-14316  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-26 
確定日 2017-12-20 
事件の表示 特願2013-502806「ヒトの痛覚の測定の装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月13日国際公開、WO2011/126894、平成25年 6月17日国内公表、特表2013-523274〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2011年(平成23年)3月30日(パリ条約による優先権主張 2010年3月30日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成26年10月30日付けで拒絶理由が通知され,平成27年2月9日に意見書及び手続補正書が提出され,同年7月23日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年12月22日に意見書が提出され,平成28年5月17日付けで拒絶査定されたところ,同年9月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成28年9月26日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の結論]
平成28年9月26日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された(下線部は,補正箇所である。)。

「【請求項1】
痛みを客観的に測定する装置であって,
患者の身体の一領域に可変強度の電気刺激を印加するように構成された刺激装置と,
前記患者の脳の複数の領域における皮質活動のレベルを測定するように構成されたモニタリング装置と,
前記刺激装置及び前記モニタリング装置に接続されたマイクロプロセッサであって,
前記患者の脳の複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記患者の脳の複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配し,この分配に基づいて,測定された前記皮質活動のレベルを結合することにより,前記患者の脳の複数の領域における測定された前記皮質活動のレベルに対する重み付けを行って,活動測定値を取得すること,及び
前記電気刺激の強度と,前記活動測定値とを相関させることにより,客観的な痛みを特定すること,
を行うように構成された前記マイクロプロセッサと,
を備える装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の,平成27年2月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
痛みを客観的に測定する装置であって,
患者の身体の一領域に可変強度の電気刺激を印加するように構成された刺激装置と,
前記患者の脳の複数の領域における皮質活動のレベルを測定するように構成されたモニタリング装置と,
前記刺激装置及び前記モニタリング装置に接続されたマイクロプロセッサであって,
前記複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配し,この分配に基づいて,前記皮質活動のレベルを結合することにより,前記患者の脳の複数の領域に対する重み付けを行って,活動測定値を取得すること,及び
前記電気刺激の強度と,前記活動測定値とを相関させることにより,客観的な痛みを特定すること,
を行うように構成された前記マイクロプロセッサと,
を備える装置。」

2 補正の適否
(1)補正の目的
本件補正は,補正前に請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「重み付け」について,「前記患者の脳の複数の領域に対する重み付け」を「前記患者の脳の複数の領域における測定された前記皮質活動のレベルに対する重み付け」に補正することで,「重み付け」の内容を限定する補正を含むものであって,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明との産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件(明確性について)
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定に規定する要件(独立特許要件)を満たすかについて検討する。

ア 請求項の記載に,技術常識を加味して,本件補正発明における「前記患者の脳の複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記患者の脳の複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配し,この分配に基づいて,測定された前記皮質活動のレベルを結合することにより,前記患者の脳の複数の領域における測定された前記皮質活動のレベルに対する重み付けを行って,活動測定値を取得する」との記載で特定される処理がどのような処理であるのかを明確に特定できるかについて検討する。

(ア)「重み」について,痛みを客観的に測定する装置の技術分野において,「前記患者の脳の複数の領域の各々に」何らかの「重み」を「割り当て」,「前記患者の脳の複数の領域における測定された前記皮質活動のレベルに対する重み付けを行」うことは通常行なわれておらず,脳のどの領域にどのような重みを割り当てればよいかが明らかでないから,その結果,「前記患者の脳の複数の領域の各々に」何らかの「重み」を「割り当て」,「前記患者の脳の複数の領域における測定された前記皮質活動のレベルに対する重み付けを行」うとは,どのような処理であるのかを,当業者にとって明確に特定することができない。

(イ)「分配」とは,一般的に,「わけくばること。配分。「利益を平等に-する」(広辞苑第6版)ことを意味する単語であることは当業者の技術常識である。
そして,痛みを客観的に測定する装置の技術分野において,「患者の脳の複数の領域の各々から測定された皮質活動のレベル」を何かに分け配ることは,通常行われていない。
したがって,当業者にとって,「前記患者の脳の複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて」「分配」するとの記載で限定される分配方法が,どのように「重み」に基づいており,どのように分配されるべきであるかが明らかでないから,その結果,「前記患者の脳の複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記患者の脳の複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配」するとは,どのような処理であるかを,当業者にとって明確に特定することができない。

(ウ)「結合」とは,一般的に,「結び合うこと。結び合わせて一つにすること。その結びつき。「分子が-する」」(広辞苑第6版)を意味する単語であることは当業者の技術常識である。
そして,痛みを客観的に測定する装置の技術分野において,「測定された前記皮質活動のレベルを結合する」ことは通常行われていない。
したがって,「この分配に基づいて,測定された前記皮質活動のレベルを結合する」との記載で限定される結合方法が,どのように「分配」に基づいており,どのように結合されるべきであるのかが明らかでないから,その結果,「この分配に基づいて,測定された前記皮質活動のレベルを結合する」とは,どのような処理であるかを,当業者にとって明確に特定することができない。

(エ)上記(ア)-(ウ)に示したとおり,「前記患者の脳の複数の領域の各々に」何らかの「重み」を「割り当て」,「前記患者の脳の複数の領域における測定された前記皮質活動のレベルに対する重み付けを行」うこと,「前記患者の脳の複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記患者の脳の複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配」すること,及び「この分配に基づいて,測定された前記皮質活動のレベルを結合すること」が示す技術事項が明確に特定できないから,「前記患者の脳の複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記患者の脳の複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配し,この分配に基づいて,測定された前記皮質活動のレベルを結合することにより,前記患者の脳の複数の領域における測定された前記皮質活動のレベルに対する重み付けを行って,活動測定値を取得する」とは,どのような処理であるかが,当業者の技術常識を参酌しても,明確に特定することできない。

イ 次に,請求人は,平成27年2月9日に提出された意見書,平成27年12月22日に提出された意見書,及び【請求の理由】において,本願の明細書の段落【0098】-【0101】等,【0097】及び【0112】の記載に基づくものであると主張しているので,当該箇所も含めて,本願の明細書及び図面の記載について検討する。

(ア)本願の明細書及び図面において,「重み」及び「分配」という単語は使用されていない。

(イ)本願の明細書及び図面において,「結合」という単語は,段落【0023】,【0024】,【0048】及び【0056】で使用されているが,いずれも,「この分配に基づいて,測定された前記皮質活動のレベルを結合する」こととは無関係であることは,明らかである。


(ウ)上記(ア)-(イ)から,本願の明細書及び図面には,本件補正発明における「重み」,「分配」及び「結合」に関する直接的な記載はない。

(エ)また,本願の明細書及び図面には,皮質活動レベルの測定に関して,以下の記載がある(このうちの段落【0097】,【0098】-【0101】及び【0112】は,請求人の主張する箇所である。また,下線は当審で付した。)。

「【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
少なくとも上述の課題及び/又は不利点に対処する為に,本発明は,ヒトの痛覚の測定の装置及び方法を提供することを,限定ではない目的とする。本装置及び方法は,患者の身体の一領域に可変強度の電気刺激を印加するように構成された刺激装置と,患者の脳の1つ以上の領域における皮質活動のレベルを測定するように構成されたモニタリング装置と,刺激装置及びモニタリング装置に接続されたマイクロプロセッサであって,電気刺激の強度と,患者の脳の1つ以上の領域における活動のレベルとを相関させることと,痛み強度の測定値,感覚探知閾値(SDT)の測定値,薬の鎮痛効果の測定値,薬に対する耐性の発現の兆候,鎮痛薬誘発性痛覚過敏の発現の兆候,異痛症の状態の兆候,痛み管理薬の用量対反応特性の測定値,及び痛み状態の特性化のうちの少なくとも1つを特定することと,を行うように構成されたマイクロプロセッサと,を含む。本発明のこれら及び他の目的,利点,及び特徴については,以下に書かれた説明を,添付の図面及び特許請求の範囲と併せて参照することにより,より容易に明らかになるであろう。
・・・
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は,先行技術の弱点を克服し,少なくとも後述の利点を提供するものであって,その為には,神経特異的電気刺激を皮質活動モニタリングと統合することにより,痛みの客観的,定性的,且つ定量的な測定値,感覚探知閾値(SDT),薬及び他の痛み介入の鎮痛効果,鎮痛薬及び他の痛み介入の薬力学的影響,痛み管理を目的とした,新規な治験薬及び他の介入の有効性並びに用量と反応との関係,並びに,様々な薬や痛み介入による耐性及び/又は鎮痛薬誘発毒性の発現を取得する。本発明は又,様々な痛み状態(例えば,神経障害性痛み,痛覚過敏,異痛症など)の客観的特性化を行うことを可能にする。より詳細には,神経特異的電気刺激を患者に漸増的に印加していき,刺激が特定の知覚神経線維を活性化するまで(即ち,目標神経線維において閾値活動電位が発生するまで),但し,痛みの感情的要素を誘発しないように印加していく。言い換えると,明白な痛みがなく,身体への害がまったくない状態で興奮が検出される程度まで,知覚神経線維を活性化する。そして,患者が明白な痛みを受けない為,皮質活動モニタリング技術を用いて,患者が体験する侵害受容のレベルを測定する。本発明は,これらの技術を統合して,患者が体験する侵害受容の測定レベルと,印加される神経特異的電気刺激のタイプとの直接的相関を与えることにより,その刺激に対する患者の反応の客観的,定性的,且つ定量的な測定を行うものである。
・・・
【0030】
B.皮質活動モニタリング
上述の受容器及び神経線維に加えて,体性感覚系は更に,前帯状皮質(ブロードマン24野,32野,及び33野),一次体性感覚皮質(ブロードマン3野,1野,及び2野),二次体性感覚皮質(ブロードマン5野),島皮質(ブロードマン13野及び14野),背外側前頭前皮質(ブロードマン9野及び46野),及び頭頂葉皮質(ブロードマン7野)を含む。これらの脳皮質領域は,体性感覚系内でそれぞれが異なる役割を果たす。例えば,一次体性感覚皮質(S1)は,触覚の侵害的刺激の強度情報を処理し,背外側前頭前皮質(DLPFC)は,触覚の侵害的刺激の注意的情報及び感情的情報をコード化する。従って,これらの,脳皮質領域をモニタリングすることにより,そのような刺激に対する患者の反応を測定することが可能である。そのようなモニタリング技術として,近赤外分光法(NIRS)及び脳波検査(EEG)がある。
・・・
【0032】
図3A及び図3Bに示すように,それらの測定値を用いて,患者の脳皮質領域における,特定の刺激に対する血行力学的反応をモニタリングすることが可能である。図3Aは,6Hzのサンプリング周波数(即ち,毎秒6個の測定値を取得)を用いて,生後5週間の早期新生児(即ち,月経後30週齢)から得られたデータを含んでおり,図3Bは,2Hzのサンプリング周波数(即ち,毎秒2個の測定値を取得)を用いて,生後5週間の早期新生児(即ち,月経後34週齢)から得られたデータを含んでいる。これらの図では,一次体性感覚皮質において取得されたNIRS測定値を用いて,総ヘモグロビンの変化を時間に対してプロットしている。20秒の時点で患者に刺激を印加しており,これによって,すぐ後に,対側一次体性感覚皮質において測定される総ヘモグロビンが大幅に増加している。組織の酸素化の増加は,対側一次体性感覚皮質における領域血流の増加(即ち,対側一次体性感覚皮質内の活動の増加)を表している為,図3A及び図3Bは,特定の刺激に対する患者(特に新生児及び乳幼児)の反応を測定する際のNIRSの有効性を示している。
・・・
【0035】
図4A及び図4Bに示すように,これらの測定値を用いて,様々な刺激に対する皮質反応をモニタリングすることも可能である。図4A及び図4Bは,頭皮上の位置Czにおいてガンマ帯の38-72Hzの周波数範囲で実施したEEG測定により,19-30歳の患者から得られたデータを含んでいる。図4Aは,EEGの発振を時間に対してプロットしたものであり,図4Bは,それらのEEG発振のフィッシャー(Fisher)のZ値(即ち,Znk=0.5ln[(1+rnk)/(1-rnk)])を時間に対してプロットしたものである。相関分析を行って,EEG掃引の一部分におけるEEG発振の共分散を統計的に推定し,結果として得られた相関係数(即ち,rnk)をフィッシャーのZ値に変換することにより,分析の時間間隔の間の発振反応の正規化尺度を与えている。この正規化方法の詳細な説明が,マリツェヴァ,I.等(Maltseva,I.)著,「動的メモリ動作のインジケータとしてのアルファ発振-省略された刺激の予想(Alpha oscillations as an indicator of dynamic memory operations-anticipation of omitted stimuli」,インターナショナル ジャーナル オブ サイコフィジオロジ(Int.J.Psychophysiology),36巻(3号),185-197頁,(2000年)に示されており,この内容は,参照によって,その全体があたかも本明細書に示されているかのように本明細書に組み込まれている。
【0036】
図4A及び図4Bでは,375ミリ秒の時点で患者に刺激を印加しており,これによって,ほぼ同時に,一次体性感覚皮質付近で測定されたEEG発振のZ値が著しく増加している。これらのZ値の増加は,一次体性感覚皮質の活性化(即ち,一次体性感覚皮質における活動の増加)を表している為,図4A及び図4Bは,特定の刺激に対する患者(特に新生児及び乳幼児)の反応を測定する際のEEGの有効性も示している。EEGは特に,NIRSに関して上述したことと同様の理由で,新生児及び乳幼児の痛み測定に適している。また,新生児及び乳幼児の脳は,本質的に未熟であることから,少数の明確に定義されたパターンしか表現しないが,そのことによって,これらのパターンがEEGで認識しやすくなっていることも,EEGが特に新生児及び乳幼児の痛み測定に適している理由である。
【0037】
前述の例では,一次体性感覚皮質又はその付近でNIRS及びEEGの測定値を取得することを説明したが,NIRS及びEEGの測定値は,代替として,又は追加で,他の皮質領域(例えば,背外側前頭前皮質や後頭皮質など)で取得してもよい。上述のように,一次体性感覚皮質は,触覚の侵害的刺激の強度情報を処理し,背外側前頭前皮質は,触覚の侵害的刺激の注意的情報及び感情的情報をコード化する。言い換えると,一次体性感覚皮質での活動は,痛みの侵害的要素とより強く関連付けられており,背外側前頭前皮質での活動は,痛みの感情的要素とより強く関連付けられている。背外側前頭前皮質での活動は又,プラセボ誘発性及び鎮痛薬誘発性の両方の無痛覚とも関連付けられている。後頭皮質での活動は,一般に,一次体性感覚皮質及び背外側前頭前皮質での,痛みに誘発された活動を反映しない。従って,後頭皮質での測定値は,一次体性感覚皮質及び/又は背外側前頭前皮質での測定値に対する対照標準として使用可能である。更に,一次体性感覚皮質及び背外側前頭前皮質の両方でNIRS及び/又はEEGの測定値を取得することにより,痛みの侵害的要素と感情的要素との区別,及び/又は薬誘発性無痛覚と感情誘発性無痛覚との区別を支援することが可能である。両方の場所でNIRS又はEEGを行うことも可能であり,一方の場所でNIRSを行い,別の場所でEEGを行うことも可能であり,両方の場所でEEG及びNIRSの両方を行うことも可能である。両方の場所でEEG及びNIRSの両方を行う構成では,冗長な分,高信頼度の測定値が得られる。
・・・
【0063】
ここまでは,NIRSセンサ514を1つだけ使用する場合について詳述したが,痛覚計500は,様々な患者(例えば,成人,小児,乳幼児,新生児,実験動物など)の様々な皮質領域(例えば,後頭皮質,一次体性感覚皮質,二次体性感覚皮質,島皮質,背外側前頭前皮質,頭頂葉皮質など)での血行力学的変化を測定するように,必要に応じて,患者の頭部の様々な場所で複数のNIRSセンサ514を利用するように構成される。また,ここまでは,2つの電流駆動回路700及び702並びに2つの光検出回路704及び706だけを使用する場合について詳述したが,痛覚計500は,NIRSセンサ514の数,並びにそれぞれのLED800及び802の中のダイの数に対応する数の電流駆動回路700及び702並びに光検出回路704及び706を含む。例えば,図5では,6個のNIRSセンサ514が与えられており,各NIRSセンサ514は,2個のLED800及び802と3個のダイとを有する。従って,図5の皮質活動モニタ504は,36個の電流駆動回路(6個のNIRSセンサ×2個のLED/NIRSセンサ×3個のダイ/LED×1個の電流駆動回路/ダイ=36個の電流駆動回路)と,12個の光検出回路(6個のNIRSセンサ×2個の光検出回路/NIRSセンサ=12個の光検出回路)とを有する。
・・・
【0079】
これらの選択のうちの幾つかの結果として,ユーザに対する指示が,痛覚計500のディスプレイ装置1006に表示される場合がある。例えば,ユーザは,成人患者に対するオピオイドの効果をモニタリングすることを選択でき,これを選択すると,ディスプレイ装置1006に幾つかの指示が表示される。これらは,例えば,患者の痛みの元ではない四肢(例えば,セグメントC7)に電極510を配置する指示,患者の後頭皮質及び体性感覚皮質(例えば,T3とT5との間,C3とP3との間,P3とO1との間,P4とO1との間)にNIRSセンサ514を配置する指示,及び/又は,患者の後頭皮質及び体性感覚皮質(例えば,P3,Pz,P4,O1,及びO2)にEEG電極1100を配置する指示である。これらの指示は,電極510,NIRSセンサ514,及び/又はEEG電極1100を配置する際にユーザをよりよく案内するグラフィカル表示(例えば,図11A及び図11Bに示したグラフィカル表示)を含んでよい。そして,これらの選択の結果として,周波数が5Hzで強度が0.50-0.80mAである電流が,その患者に印加すべき電流として選択される。この周波数及び強度は,C線維に固有であって,オピオイドによって変調される。ユーザは,電極510,NIRSセンサ514,及び/又はEEG電極1100を指示どおりに配置した後,電極510による神経特異的電気刺激の印加,並びに,NIRSセンサ514及び/又はEEG電極1100による血行力学的反応及び/又は神経生理学的反応のモニタリングの開始を痛覚計500に指示することが可能である。
・・・
【0082】
以下のシーケンスリストは,グラフィカルユーザインタフェース508によって実施される一例示的制御/分析ループ処理を示す。
1.痛覚計500のコンポーネント502-508を初期化(ブート)し,内部システム診断を実施し,システム状態をログ記録/報告し,グラフィカルユーザインタフェース508を起動する(システムエラーが,注意を要する装置動作不良を示していない場合)。
2.所望の機能を選択し,患者固有のパラメータを設定する為に,入力装置1004からユーザ入力を受け取るべく,グラフィカルユーザインタフェース508を初期化する。
3.入力装置1004から受け取った入力に基づいて,電極510,NIRSセンサ514,及び/又はEEG電極1100を配置する指示をユーザに与える。
4.電力バス906から神経選択的刺激装置502,皮質活動モニタ504,及びコンポーネントインタフェース506に電力を供給し,これらを待機モードにすることを,コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。
a.神経選択的刺激装置502の低電圧回路600及び高電圧回路602を初期化する。
b.皮質活動モニタ504の電流駆動回路700及び702,光検出回路704及び706,多重化器708,及びADC710を初期化する。
c.コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900,メモリ902,及びPIA904にあるタイマを初期化する。
5.ユーザ入力に基づいてアルゴリズムを選択し,このアルゴリズムを用いて,電気刺激のサイクル時間,神経特異的周波数及び強度を選択し,ユーザ入力に基づいて酸素測定法のパラメータを選択する。
6.ユーザからの指示を受けて,電極510による神経特異的電気刺激の印加,及びNIRSセンサ514及び/又はEEG電極1100による血行力学的反応及び/又は神経生理学的反応のモニタリングを開始する。
7.皮質活動モニタ504による血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化のモニタリングの開始を,コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。
a.神経特異的電気刺激を印加しない状態で,測定ループを開始して,皮質活動のベースライン測定値を収集する(後述のモニタリングループの説明を参照)。
b.コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900によって収集されたデータ(NIRS及び/又はEEGデータのみ)を,分析/制御ループでの更なる処理の為にグラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000に送信する。
8.収集されたデータを定量化し,その患者のベースライン値としてメモリ1002に記憶する。
9.神経選択的刺激装置502による,患者への神経特異的電気刺激の印加の開始を,コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。
a.刺激ループを開始して,神経特異的周波数及び強度の電気刺激を所定のサイクル時間にわたって印加する(後述の刺激ループの説明を参照)。
b.グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000において,電気刺激が印加されている時間の長さをクロックタイマで計測することを開始する。
c.コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900が受信したデータが,印加されている神経特異的電気刺激の強度が半有害レベルを超えていることを示した場合は,神経選択的刺激装置502による,患者への神経特異的電気刺激の印加を停止することを,コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示し,そうでない場合は,電気刺激を開始してから所定の長さの時間が経過したことをクロックタイマが示した後に,神経選択的刺激装置502による,患者への神経特異的電気刺激の印加を停止することを,コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。
d.グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000において,電気刺激が印加されて「いない」時間の長さをクロックタイマで計測することを開始する。
e.電気刺激を停止してから所定の長さの時間が経過した後に,所定の刺激サイクル数にわたってステップa-dを繰り返し,その後,神経選択的刺激装置502による,患者への神経特異的電気刺激の印加を停止することを,コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。
f.コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900によって収集されたデータ(NIRS及び/又はEEGデータ,及び刺激データ)を,分析/制御ループでの更なる処理の為にグラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000に送信する。
10.収集されたデータを定量化し,ベースライン値と比較して,その患者の神経特異的な血行力学的反応及び/又は神経生理学的反応として,グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002に記憶する。
11.比較により,神経特異的反応値が,ベースライン値より大きい所定量を超えていると判定された場合は,ステップ9及び10を,同じ神経特異的周波数及び強度で所定回数繰り返すことを,コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示し,そうでない場合は,ステップ9及び10を,神経特異的強度をより大きくした電気刺激を用いて繰り返すことを,コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。
12.NIRS及び/又はEEGデータの定量化された値を,患者の痛み関連皮質活動の,意味がわかる尺度に変換する。
13.皮質活動モニタ504による血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化のモニタリングの停止を,コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。
14.定量化された値を,患者の客観的痛み測定値として,グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002に記憶する。
15.結果の動的表示をディスプレイ装置1006に生成する。
図13は,その例示的処理の各ステップを示すフローチャートである。
・・・
【0095】
E.ヒトの痛覚の測定
本発明の痛覚計は,実践上は,以下のことに使用可能である。(1)痛みと,有害及び半有害の刺激に対する反応とを客観的に定量化する。(2)そのような刺激及び他の臨床的に関連する刺激に対する反応としてのSDT及び/又は痛みスコアを決定する。(3)薬及び他の痛み介入の鎮痛効果,並びに,痛み管理を目的とした新薬及び/又は治験薬の有効性並びに用量と反応との関係をモニタリングする。(4)鎮痛薬及び他の介入に対する耐性の発現を特定する。(5)痛みの診断的特性化を行う。これらは全て,患者における痛みの総合的管理の指針になる。以下では,ヒトの痛覚の測定の,これらの形式のそれぞれについて個別に説明する。
【0096】
i.痛みの客観的定量化
本発明の皮質活動モニタリング機能性は,痛みの感情的要素を,痛みの実際の侵害的要素から分離することを可能にする。痛みの感情的要素は,神経選択的刺激装置502を用いて,患者が侵害を知覚しない活動電位を特定の神経線維で発生させることにより(即ち,半有害電気刺激を発生させることにより)除去される。結果としての,これらの神経線維の神経支配は患者には知覚されないが,本発明の皮質活動モニタ504は,その刺激に対する反応としての,患者の脳皮質領域における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化を測定することが可能である。これらの測定値は,痛みの侵害的要素を痛みの感情的要素と分離することが可能であり,言葉での主観的定量化及び/又は医師の主観的観察を必要としない為,半有害電気刺激に対する患者の反応の客観的測定量を与える。
【0097】
その測定値から痛みの感情的要素を更に除去することが可能であり,これは,侵害的痛みに関連する特定の脳皮質領域(即ち,一次体性感覚皮質)及び感情的痛みに関連する特定の脳皮質領域(即ち,背外側前頭前皮質)における皮質活動をモニタリングすることにより,可能である。これら2つの領域における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化を互いに相関付けることにより,感情的要素と侵害的要素との間の関係が特定される。従って,有害刺激を手動印加したこと,及び/又は患者の体調の結果として,患者が実際に痛みを知覚している場合は,感情的要素を侵害的要素と分離することにより,患者の実際の侵害的痛みの,より正確な,且つ,より客観的な測定量を与えることが可能である。
【0098】
ii.SDT及び痛みスコアの決定
本発明は,従来の,PPTやPTTなどの装置/方法とは異なる検査パラダイムを用いる。即ち,継続時間が自己制御式である神経特異的電気刺激を利用してSDT及び痛みスコアを決定する点が異なり,刺激の強度は,皮質活動モニタ504で測定される血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化の客観的測定値に基づいて制御される。一般的に遭遇する臨床的に妥当な,痛みを伴う(又は有害な)刺激に対する血行力学的反応及び/又は神経生理学的反応をまとめたものを,対照標準(例えば,刺激なし)又は他の基準反応とともに用いて,SDT及び/又は痛みスコアを評価及び報告する際に対照する痛みスケールを作成する。この検査パラダイムは又,手動印加される有害刺激を含めることを可能にしており,上述のように,手動印加される有害刺激は,その感情的要素を分離することが可能であり,これによって,侵害的痛みの客観的測定値を与えることが可能である。グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002に記憶されているルックアップテーブル(又はスケール)を用いて,特定の周波数及び強度の電気刺激におけるSDT値及び痛みスコアを患者に対応付けることにより,それらの周波数及び強度の電気刺激での,その患者についての血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化の測定量に対応するSDT値又は痛みスコアを特定することが可能である。複数の患者について痛みスコア及び/又はSDTを決定する為に使用可能な,基準反応のライブラリを形成する為に,患者ごとの既知の生理学的相違に基づいて,様々な患者に対応する様々なルックアップテーブルが用意される。
【0099】
図16に示すように,これらのルックアップテーブルは,臨床評価(例えば,臨床試験,患者エンカウンタなど)を経て定義される。より具体的には,複数の異なる患者に,複数の異なるレベルの刺激を印加し,皮質活動モニタ504を用いて,それらの患者の脳皮質領域における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化を測定する。この刺激には有害刺激が含まれ,有害刺激は,神経選択的刺激装置502を用いて印加してよく,従来の熱刺激,化学刺激,又は機械的刺激として印加してもよい。神経選択的刺激装置502は,一般には,半有害刺激以外のものを印加することには使用されない為,臨床試験中に有害刺激を印加することが可能になるように構成された別個の「臨床試験」モードを持つことになる。このモードは又,患者が体験した痛みを定量化する為の入力を,グラフィカルユーザインタフェース508の入力装置1004から受けるように構成される。これらの定量化結果を,皮質活動モニタ504で測定された血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化のレベルと突き合わせることにより,様々な生理学的特性を有する様々な患者(例えば,様々な年齢,体重,病状,病歴などを有する患者)に対応するSDT値の範囲が特定される。
【0100】
様々な患者ごとに決定されたこれらのSDT値範囲を用いて,ルックアップテーブルを作成する。そして,これらのルックアップテーブルにある各範囲を用いて,後から評価される患者についてのSDTを特定する。これは,後から評価される患者について測定された血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化のレベルを,後から評価される患者と類似の生理学的特性を有する事前評価された患者について得られたSDTに対応する,ルックアップテーブル内の値と突き合わせることによって行う。図16に示したように,又,痛覚計ソフトウェアの制御/分析ループに関して上述したように,それらのルックアップテーブルを用いて患者を後から評価する処理は,刺激が何も印加されていない状態での患者における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化のベースラインレベルを測定し,これを対照標準として使用することを含む。次に,神経選択的刺激装置502を用いて,神経特異的電気刺激を印加する。これは,皮質活動モニタ504で測定される血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化が当該SDT範囲に収まるまで行う。次に,その患者における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化の閾値レベルを取得する為に使用された神経特異的電気刺激の,対応する周波数及び強度を,その患者のSDTと関連付け,その患者の今後の評価で使用する為に,グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002に記憶する。
【0101】
ルックアップテーブルの定義に使用する評価は有害刺激の印加を含む為,これらの評価は,生理学的特性が異なる様々な患者ごとのSDT範囲を確立することに特化して設計された臨床評価の間に行うことが好ましい。次に,適切なルックアップテーブルを用いて痛覚計500を事前プログラムし,その後,痛覚計500の他の臨床設定を行う。これによって,痛覚計500は,それらの,半有害刺激のみを印加する他の臨床設定で利用可能になる。痛みスコア用のルックアップテーブルは,ほぼ同様の方法で定義及び使用が可能である。
・・・
【0112】
脳の様々な皮質領域にNIRSプローブ及び/又はEEG電極1100を配置することにより,様々な刺激に対する,感覚的な(例えば,体性感覚皮質の)特異反応,視覚的な(例えば,後頭皮質の)特異反応,及び感情的な(例えば,背外側前頭前皮質の)特異反応を認識及び特定することが可能になる。脳の様々な領域からNIRS及び/又はEEG反応の測定値を取得することにより,有害刺激に対するヒトの反応の要素(例えば,痛みの侵害的要素と感情的要素)が区別され,そのような反応に対するベースライン及び/又は対照標準の測定値が得られる。これらの信号の処理は,最終的には次のことの為に行われる。(1)痛みと,有害及び半有害の刺激に対する反応とを客観的に定量化する。(2)そのような刺激及び他の臨床的に関連する刺激に対する反応としてのSDT及び/又は痛みスコアを決定する。(3)痛み治療を目的とした鎮痛薬及び他の介入の効果をモニタリングする。(4)鎮痛薬及び他の介入に対する耐性の発現を特定する。(5)痛みの診断的特性化を行う。これらは全て,患者における痛みの総合的管理の指針になる。結論としての痛覚計500は,グラフィカルユーザインタフェース508及びディスプレイ装置1006を備えたコンパクトな造りであって,各種の臨床環境に組み込むことが容易であり,他の診断モダリティと組み合わせて,又は他の診断モダリティの補助として用いることが可能である。」

上記記載事項の特に下線部から,明細書及び図面には,測定された皮質活動のレベルがどのように処理されるかについては,「収集されたデータを定量化」(【0082】段落),「侵害的痛みに関連する特定の脳皮質領域(即ち,一次体性感覚皮質)及び感情的痛みに関連する特定の脳皮質領域(即ち,背外側前頭前皮質)における皮質活動をモニタリングすることにより,可能である。これら2つの領域における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化を互いに相関付けることにより,感情的要素と侵害的要素との間の関係が特定される」(【0097】段落),「脳の様々な領域からNIRS及び/又はEEG反応の測定値を取得することにより,有害刺激に対するヒトの反応の要素(例えば,痛みの侵害的要素と感情的要素)が区別され,そのような反応に対するベースライン及び/又は対照標準の測定値が得られる」(【0112】段落)と記載されているに留まり,「重み付け」,「分配」及び「結合」を行なっているかどうかを含めた具体的なデータ処理の手法が記載されていない。

したがって,上記指摘箇所を含む本願の明細書及び図面のすべての記載を参酌しても,本件補正発明における「患者の脳の複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記患者の脳の複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配し,この分配に基づいて,測定された前記皮質活動のレベルを結合することにより,前記患者の脳の複数の領域における測定された前記皮質活動のレベルに対する重み付けを行って,活動測定値を取得すること」が表す技術事項は,当業者に明確に把握できない。

エ 小括
以上のとおり,本件補正発明は明確でないから,本件補正後の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(3)本件補正についてのむすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反してなされたものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年9月26日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-11に係る発明は,平成27年2月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-11に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,明細書及び図面の記載からみて,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のものである。再掲すれば,以下のとおり(下線は,平成27年2月9日にされた手続補正による追加部分を示す。)。

「【請求項1】
痛みを客観的に測定する装置であって,
患者の身体の一領域に可変強度の電気刺激を印加するように構成された刺激装置と,
前記患者の脳の複数の領域における皮質活動のレベルを測定するように構成されたモニタリング装置と,
前記刺激装置及び前記モニタリング装置に接続されたマイクロプロセッサであって,
前記複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配し,この分配に基づいて,前記皮質活動のレベルを結合することにより,前記患者の脳の複数の領域に対する重み付けを行って,活動測定値を取得すること,及び
前記電気刺激の強度と,前記活動測定値とを相関させることにより,客観的な痛みを特定すること,
を行うように構成された前記マイクロプロセッサと,
を備える装置。」


第4 原査定の概要
原査定の概要は,次のとおりである。
理由(1)
平成27年2月9日付けでした手続補正は,下記の点で国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文,国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては,当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下,翻訳文等という。)(誤訳訂正書を提出して明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあっては,翻訳文等又は当該補正後の明細書,特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。

理由(2)
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由(1)について,具体的には,次の指摘がされている。
「出願人の指摘する段落0097,0112には,(患者の脳の)複数の領域の各々に重みを割り当てることする記載されていないことから,これら段落の記載,さらには,上記拒絶理由において摘記した段落[0098]?[0101]を参酌しても,「複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配し,この分配に基づいて,前記皮質活動のレベルを結合することにより,前記患者の脳の複数の領域に対する重み付けを行って,活動測定値を取得すること」が国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際特許出願の図面に記載されているとは認められない。
さらに,出願人が指摘する,「この例では,侵害的な痛みについての測定値を得るために,一次体性感覚皮質からの皮質活動のレベルには,より大きな重みが与えられ,他方,背外側前頭前皮質からの皮質活動のレベルには,より小さな重みが与えられます。」なる見解や「これら記載を総合すれば,侵害的痛みに関連する特定の脳皮質領域(一次体性感覚皮質)及び感情的痛みに関連する特定の脳皮質領域(背外側前頭前皮質)における皮質活動をモニタリングし,これら2つの領域における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化を互いに相関付けることにより,感情的要素と侵害的要素との間の関係を特定し」ている点は,複数の領域の各々に重みを割り当てることと直接的な関連性があるとは認められず,そもそも「感情的要素と侵害的要素との間の関係」は,感情的要素なるものを要件としていない請求項1に係る発明の内容と関連するものではない。したがって,意見書の内容を考慮しても,理由1における拒絶の理由は,解消されない。」

理由(2)について,具体的には,次の指摘がされている。
「理由1における拒絶の理由は,「理由1にも指摘したとおり,補正後の請求項1に記載された『前記複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配し,この分配に基づいて,前記皮質活動のレベルを結合することにより,前記患者の脳の複数の領域に対する重み付けを行って,活動測定値を取得すること』については,発明の詳細な説明に何の説明もないため,上記記載において,重みを割り当てること,レベルを分配すること,レベルを結合することいった事項が,いかなる処理を意味するのか不明である」というものである。
「前記複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配し,この分配に基づいて,前記皮質活動のレベルを結合することにより,前記患者の脳の複数の領域に対する重み付けを行って,活動測定値を取得すること」という事項については,明細書の翻訳文において何ら説明されていないことから,その意味するものは依然として不明である。」(当審注:「理由1における拒絶の理由は」は「理由2における拒絶の理由は」の誤記であることは明らかである。)


第5 当審の判断
1 理由(2)について
本願発明における「前記複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配し,この分配に基づいて,前記皮質活動のレベルを結合することにより,前記患者の脳の複数の領域に対する重み付けを行って,活動測定値を取得すること」についても,本件補正発明における「前記患者の脳の複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記患者の脳の複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配し,この分配に基づいて,測定された前記皮質活動のレベルを結合することにより,前記患者の脳の複数の領域における測定された前記皮質活動のレベルに対する重み付けを行って,活動測定値を取得する」について上記第2 2(2)で検討したのと同様の理由により,明細書及び図面のすべての記載を考慮し,当業者の技術常識に基づいても,明確でない。

したがって,本願の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 理由(1)について
上記第5 1で検討したとおり,請求項1の記載は不明確なものではあるが,原査定の理由(1)についても,以下,検討する。

ア 平成27年2月9日にされた手続補正の内容
平成27年2月9日にされた手続補正による補正は,請求項1について,
「痛みを客観的に測定する装置であって,
患者の身体の一領域に可変強度の電気刺激を印加するように構成された刺激装置と,
前記患者の脳の1つ以上の領域における皮質活動のレベルを測定するように構成されたモニタリング装置と,
前記刺激装置及び前記モニタリング装置に接続されたマイクロプロセッサであって,前記電気刺激の強度と,前記患者の脳の前記1つ以上の領域における活動のレベルとを相関させることと,痛み強度の測定値,感覚探知閾値(SDT)の測定値,薬の鎮痛効果の測定値,薬に対する耐性の発現の兆候,鎮痛薬誘発性痛覚過敏の発現の兆候,異痛症の状態の兆候,痛み管理薬の用量対反応特性の測定値,及び痛み状態の特性化のうちの少なくとも1つを特定することと,を行うように構成された前記マイクロプロセッサと,
を備える装置。」
とあるのを,上記第3 1にあるように補正することを含むものであって,請求項1についての補正事項を整理すると,以下のとおりである。

(補正事項1)補正前の発明特定事項である「患者の脳の1つ以上の領域」を「患者の脳の複数の領域」に補正する。

(補正事項2)補正前の発明特定事項である「前記電気刺激の強度と,前記患者の脳の前記1つ以上の領域における活動のレベルとを相関させることと,痛み強度の測定値,感覚探知閾値(SDT)の測定値,薬の鎮痛効果の測定値,薬に対する耐性の発現の兆候,鎮痛薬誘発性痛覚過敏の発現の兆候,異痛症の状態の兆候,痛み管理薬の用量対反応特性の測定値,及び痛み状態の特性化のうちの少なくとも1つを特定することと」を「前記電気刺激の強度と,前記活動測定値とを相関させることにより,客観的な痛みを特定すること,を行うように構成された前記マイクロプロセッサ」に補正する。

(補正事項3)新たに「前記複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配し,この分配に基づいて,前記皮質活動のレベルを結合することにより,前記患者の脳の複数の領域に対する重み付けを行って,活動測定値を取得すること」を追加する。

このうち,上記補正事項3について,当該事項が,翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであるか否かを検討する。

イ 本願の翻訳文等に記載された事項
本願の明細書及び図面は,補正がされていないため,翻訳文等に記載された事項は,上記第2 2(2)イで摘記したとおりのものである。

ウ 判断
上記第2 2(2)イ(ア)-(ウ)で指摘したとおり,翻訳文等には,「前記複数の領域の各々に」「重み」を「割り当て」ること,「前記複数の領域の各々に割り当てられた重みに基づいて,前記複数の領域の各々から測定された前記皮質活動のレベルを分配」すること及び「この分配に基づいて,前記皮質活動のレベルを結合する」処理を行うことに関する直接的な記載はない。

そして,上記第2 2(2)イ(エ)で検討したのと同様の理由により,翻訳文等には,測定された皮質活動のレベルがどのように処理されるかについては,「収集されたデータを定量化」(【0082】段落),「侵害的痛みに関連する特定の脳皮質領域(即ち,一次体性感覚皮質)及び感情的痛みに関連する特定の脳皮質領域(即ち,背外側前頭前皮質)における皮質活動をモニタリングすることにより,可能である。これら2つの領域における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化を互いに相関付けることにより,感情的要素と侵害的要素との間の関係が特定される」(【0097】段落),「脳の様々な領域からNIRS及び/又はEEG反応の測定値を取得することにより,有害刺激に対するヒトの反応の要素(例えば,痛みの侵害的要素と感情的要素)が区別され,そのような反応に対するベースライン及び/又は対照標準の測定値が得られる」(【0112】段落)と記載されているに留まり,「重み付け」,「分配」及び「結合」を行なっているかどうかを含めた具体的なデータ処理の手法が記載されていない。

すると,補正事項3で追加された処理が,翻訳文等に開示されていたものであるとは認められない。

したがって,上記補正事項3は,翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項ではない。

エ まとめ
以上のとおりであるから,上記補正事項3について,当該事項が,翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであって,当該補正事項を含む平成27年9月2日にされた請求項1の手続補正は,翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない


第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第36条第6項第2号又は特許法第17条の2第3項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-19 
結審通知日 2017-07-25 
審決日 2017-08-07 
出願番号 特願2013-502806(P2013-502806)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 55- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 裕司  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 松岡 智也
▲高▼見 重雄
発明の名称 ヒトの痛覚の測定の装置及び方法  
代理人 鵜飼 健  
代理人 井上 正  
代理人 河野 直樹  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 飯野 茂  
代理人 野河 信久  
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