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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  E02D
審判 一部無効 2項進歩性  E02D
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  E02D
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E02D
管理番号 1335914
審判番号 無効2015-800184  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-09-24 
確定日 2018-01-23 
事件の表示 上記当事者間の特許第5763225号発明「鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第5763225号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1、2、3、8及び9に係る発明の特許を無効とすることを求める事件であって、手続の経緯は、以下のとおりである。

平成26年 1月14日 本件出願(特願2014-4293号)
(原出願:特願2010-99137号、
原出願日:平成22年4月22日)
平成27年 6月19日 設定登録(特許第5763225号)
平成27年 9月24日 本件無効審判請求
平成27年12月 8日 被請求人より答弁書提出
平成28年 1月29日 審理事項通知書(起案日)
平成28年 2月29日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成28年 3月31日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成28年 4月21日 口頭審理

第2 本件発明
1 本件特許発明
本件特許の請求項1、2、3、8及び9に係る発明(以下「本件発明1」などといい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1、2、3、8及び9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
下方にクランプ装置を配設した台座と、台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に形成されたチャックフレームと、チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック装置とを具備してなる鋼矢板圧入引抜機において、
前記クランプ装置は、台座の下面に形成した複数のクランプガイドに、相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに、複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり、
前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて、クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって、前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能としたことを特徴とする鋼矢板圧入引抜機。
【請求項2】
クランプピッチを428mm?772mm,412mm?588mm,300mm?500mmのいずれかの範囲に変更可能とした請求項1に記載の鋼矢板圧入引抜機。
【請求項3】
クランプ装置で先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプすることにより台座を既設のU型の鋼矢板上に定置させて、チャック装置に作業するU型の鋼矢板を挿通してチャックするとともに、先頭のU型の鋼矢板の開放された継手に、作業するU型の鋼矢板の継手を噛合させた状態において、鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがないようにチャックフレームを配置した請求項1又は2に記載の鋼矢板圧入引抜機。
【請求項8】
請求項1?7に記載したいずれかの鋼矢板圧入引抜機を使用して、
それぞれ相互に継手を噛合させて圧入した複数の既設のU型の鋼矢板の内、先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプ装置で掴んで台座を既設のU型の鋼矢板上に定置した状態において、先頭のU型の鋼矢板の開放された継手に、作業するU型の鋼矢板の継手を噛合させた状態で、継手ピッチが異なるU型の鋼矢板を圧入・引抜可能としたことを特徴とする鋼矢板圧入引抜工法。
【請求項9】
継手ピッチが異なるU型の鋼矢板として、継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても圧入・引抜可能とした請求項8に記載の鋼矢板圧入引抜工法。」

2 本件特許の明細書の記載事項
本件特許の明細書には、以下のとおり記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、多様な継手ピッチの鋼矢板、特には継手ピッチにおいて200mm程度以上の差異を有する鋼矢板にも対応可能な汎用性を有する鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種土木基礎工事等における鋼矢板の圧入・引抜工事においては、振動,騒音の発生が少ない静荷重型の鋼矢板圧入引抜機が採用されている。圧入される鋼矢板として種々のタイプが提供されているが、現在わが国で広く普及している鋼矢板はU形の鋼矢板である(非特許文献1参照)。図11に示すように、U形の鋼矢板15は、ほぼU形の断面形状を有しており、ウエブ16の両端に所定の配置角度θを有するフランジ17が連接されており、フランジ17の開放端部に継手18が形成されている。
【0003】
このU形の鋼矢板15(以下、単に鋼矢板15という)では、ウエブ16が中立軸L1と平行に延びて、フランジ17は継手ピッチ19により配置角度が変化することとなる。そして、継手18を相互に噛合させて図12に示すように連続して圧入するものであり、圧入後の鋼矢板壁の中立軸L2上に継手18が位置している。鋼矢板15の継手ピッチ19は、従来400mm,500mmのものが使用されてきており、その他に600mmの広幅のものが使用されるようになっている。即ち、わが国ではU形の鋼矢板においては、継手ピッチ19として400mm,500mm,600mmの鋼矢板15が主流となっている。
【0004】
この静荷重型の鋼矢板圧入引抜機は、特許文献1に示すように、既設の鋼矢板上に定置された台座の下方に複数のクランプ部材からなるクランプ装置を設けて、このクランプ装置により既設の鋼矢板をクランプすることによって反力を得て、チャック装置によりチャックした鋼矢板を圧入引抜シリンダによって地盤に圧入・引抜している。また、特許文献2に示すように、圧入・引抜作業を行う鋼矢板の形状に応じてクランプ装置の汎用性を得るために、複数のクランプ部材の位置を入れ替えることによってクランプピッチを変更する手段も提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭63-47848号公報
【特許文献2】特開2008-267015号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JIS A 5528 熱間圧延鋼矢板
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、継手ピッチ19が一定寸法以上異なる鋼矢板15を圧入・引抜する場合には、継手ピッチ19の寸法に応じたそれぞれ専用の鋼矢板圧入引抜機を使用することが基本となっている。即ち、一定寸法範囲を超えた多様な継手ピッチの鋼矢板15、特には継手ピッチ19が400mmと600mmのように200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板15の双方を施工可能な鋼矢板圧入引抜機は提供されていない。
【0008】
その理由の第1は、作業する鋼矢板15をチャックして圧入するためのチャック装置を、最大寸法の継手ピッチ19を有する鋼矢板15をチャックして旋回できるように構成する必要があるため、一定寸法範囲を超えた最小寸法の継手ピッチを有する鋼矢板15を同一のチャック装置を使用してチャックすると、具体的には図11に示す鋼矢板15において、継手ピッチ19が600mmの鋼矢板15をチャック可能なチャック装置で、継手ピッチ19が400mmの鋼矢板15をチャックして圧入・引抜作業を行おうとすると、チャック装置が鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉して、既設の鋼矢板の内、クランプ装置でクランプした先頭の鋼矢板の開放された継手に噛合させる位置に設置することができないためである。
【0009】
その理由の第2は、鋼矢板圧入引抜機を既設の鋼矢板に自立させるとともに、既設の鋼矢板から反力を得るために既設の鋼矢板をクランプするクランプ装置が一定寸法範囲を超えた継手ピッチの寸法差を有する鋼矢板に対応してクランプできないためである。
【0010】
そこで、先ず、これらの理由の第1及び第2の詳細を明らかとする。図19は継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入している従来の鋼矢板圧入引抜機の側面図である。図において、40は従来の鋼矢板圧入引抜機であって、下方にクランプ装置3を配設して、継手ピッチ19aが600mmの既設の鋼矢板20a上に定置される台座2と、該台座2上にスライド自在に配備されたスライドベース4の上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレーム7と、該ガイドフレーム7に昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダ9が取り付けられた昇降体41と、昇降体41の下方に形成されたチャックフレーム42と、チャックフレーム42内に旋回自在に装備されるとともに鋼矢板15aを挿通してチャック可能なチャック装置43とを具備してなる。
【0011】
図19において、クランプ装置3は3本のクランプ部材3a,3b,3cを進行方向Fに対して順に配置しており、相互に継手を噛合させて圧入された既設の鋼矢板20aの上端部に跨ってクランプするとともに、先頭のクランプ部材3aが先頭の鋼矢板20a1をクランプしている。これにより鋼矢板圧入引抜機40を既設の鋼矢板20a上に定置するとともに圧入時の反力を既設の鋼矢板20aから得るようにしている。クランプ部材3a,3b,3cはそれぞれ形状及びオフセット量を異にする公知の構成である。そして、圧入する鋼矢板15aをチャック装置43に挿通してチャックするとともに、既設の先頭の鋼矢板20a1の開放された継手に、圧入する鋼矢板15aの継手を噛合させた状態で、鋼矢板圧入引抜シリンダ9を作動させて圧入作業を行う。
【0012】
チャック装置43は600mmの継手ピッチ19aの鋼矢板15aを挿通してチャックするとともに、図12に示す中立軸L2に対して左右交互に圧入するため、圧入作業の進行方向Fに対して、鋼矢板15aを1枚圧入する毎に左右交互に向きを変えて次の鋼矢板15aをチャックできるように、チャックフレーム42内において旋回する必要がある。そのため、肉厚部分を含めると外形部分の最大寸法48は直径900mm程度となる。また、チャック装置43のチャックフレーム42内に位置する部分には、旋回のためのチャックリングギア44が装備されており、昇降体41に装備されたチャック旋回モータ45の駆動軸に連結したピニオンギア46が、このチャックリングギア44と噛合することによってチャック装置43を旋回させるようにしている。そのため、チャックリングギア44を装備するチャックフレーム42の外形から、ピニオンギア46及びピニオンギア46を収納したピニオンギアボックス47が突出することとなり、この突出部分を合わせたチャックフレーム42と同一平面における外形部分の最大寸法49は直径1080mm程度となる。
【0013】
図19に示すように、600mmの継手ピッチ19aの鋼矢板15aを圧入する場合は、継手ピッチ19aに余裕があるため、チャックフレーム42やチャック装置43が鋼矢板圧入引抜機40の他の部材に干渉することがなく、クランプ装置3で既設の鋼矢板20aをクランプし、かつ、先頭のクランプ部材3aが既設の先頭の鋼矢板20a1をクランプしている状態で、作業する鋼矢板15aの継手18を既設の先頭の鋼矢板20a1の開放された継手18に噛合させて圧入・引抜作業することができる。
【0014】
次に、同一の鋼矢板圧入引抜機40を使用して継手ピッチ19bが500mmの鋼矢板15bを圧入する作業を説明する。図20は継手ピッチ19bが500mmの鋼矢板15bを圧入している従来の鋼矢板圧入引抜機40の側面図である。図において、図19と同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0015】
チャック装置43は継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを挿通してチャックできる構成であり、継手ピッチ19bの寸法が500mmと鋼矢板15aより小さい鋼矢板15bを挿通してチャックすることもできる。また、クランプ装置3もクランプ部材3a,3c,3dを設置順序を調節することによって、継手ピッチ19bが500mmの既設の鋼矢板20bを掴んで鋼矢板圧入引抜機40を定置するとともに圧入時の反力を既設の鋼矢板20bから得ることができる。
【0016】
この場合においても、図20に示すように、継手ピッチ19bが500mmの鋼矢板15bを圧入する場合は、継手ピッチ19bにまだ余裕があるため、チャックフレーム42やチャック装置43が鋼矢板圧入引抜機40の他の部材に干渉することがなく、クランプ装置3で既設の鋼矢板20bをクランプし、かつ、先頭のクランプ部材3aが既設の先頭の鋼矢板20b1をクランプしている状態で、作業する鋼矢板15bの継手18を既設の先頭の鋼矢板20b1の開放された継手18に噛合させて圧入・引抜作業することができる。
【0017】
次に、同一の鋼矢板圧入引抜機40を使用して継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入する作業を説明する。図21は継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入している従来の鋼矢板圧入引抜機40の側面図である。図において、図19と同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0018】
クランプ装置3は、4本のクランプ部材3a,3e,3a,3cを使用して、その設置順序を調節することによって、継手ピッチ19cが400mmの既設の鋼矢板20cをクランプして鋼矢板圧入引抜機40を定置するとともに圧入時の反力を既設の鋼矢板20cから得ることは可能である。また、チャック装置43も継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを挿通してチャックできる構成であり、継手ピッチ19cの寸法が400mmと鋼矢板15aより小さい鋼矢板15cを挿通してチャックすることは可能である。
【0019】
しかしながら、図21に示すように、継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入する場合は、継手ピッチ19cの寸法が、鋼矢板15aの600mmよりも200mmも小さいため、継手ピッチ19cに余裕がない。そのため、クランプ装置3で既設の鋼矢板20cをクランプし、かつ、先頭のクランプ部材3aが既設の先頭の鋼矢板20c1をクランプしている状態で、作業する鋼矢板15cの継手18を既設の先頭の鋼矢板20c1の開放された継手18に噛合させて圧入・引抜作業することができない。即ち、前記した状態を実現しようとすると、図21において干渉部分Kとして示すようにチャック装置43が台座2や先頭のクランプ部材3aに干渉し、又干渉部分Sとして示すようにチャックフレーム42のピニオンギア46及びピニオンギアボックス47の位置する突出部が台座2に干渉することとなる。そのため、継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入するための鋼矢板圧入引抜機40を使用して継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入・引抜することはできない。
【0020】
継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板を圧入するためには400mm用に外形寸法を小さくした専用のチャック装置及び該チャック装置を装備するチャックフレームを有する専用の鋼矢板圧入引抜機を使用する必要がある。即ち、継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを挿通してチャックするチャック装置及び該チャック装置を旋回可能に装備するチャックフレームの外形寸法を小さくしないと、図21に干渉部分Kや干渉部分Sとして示すようなチャック装置43及びチャックフレーム42とクランプ装置3や台座2との干渉を生じるためである。一方、継手ピッチ19cが400mm用のチャック装置には継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを挿通することが物理的に不可能であってチャックすることができない。そのため、継手ピッチ19cが400mm用の鋼矢板圧入引抜機を使用して継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入することもできない。
【0021】
よって、一定寸法範囲を超えた多様な継手ピッチの鋼矢板15、特には継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aと、継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cのように200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板15a,15cの双方を、クランプ装置3で既設の先頭の鋼矢板20a,20cをクランプし、かつ、先頭のクランプ部材3aが既設の先頭の鋼矢板20a1,20c1をクランプしている状態で、作業する鋼矢板15a,15cの継手18を既設の先頭の鋼矢板20a1,20c1の開放された継手18に噛合させて圧入作業する鋼矢板圧入引抜機は提供されていない。そのため従来は、それぞれ継手ピッチ19の寸法に応じた専用の鋼矢板圧入引抜機を準備する必要があり、汎用性に欠け、作業性が悪いばかりでなく、各現場に応じた迅速な対応・作業ができず経済性にも欠けていた。
【0022】
そこで従来、最大寸法の継手ピッチ19を有する鋼矢板15をチャック可能なチャック装置43を使用して、一定寸法範囲を超えた最小寸法の継手ピッチ19を有する鋼矢板15をチャックして圧入するための便宜的手段として、例えば、図19に示す継手ピッチ19aが600mm用の鋼矢板圧入引抜機40を使用して、図21に示す継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入するための便法が行われている。これは、図22に示すように、スライドベース4を進行方向Fに向けて伸長させることにより、既設の鋼矢板20cの内、先頭の鋼矢板20c1を鋼矢板圧入引抜機40のクランプ装置3でクランプすることなく、2番目以降の鋼矢板20c2以降をクランプした状態で(即ち、既設の先頭の鋼矢板20c1が無負荷の状態で)、鋼矢板圧入引抜機40を既設の鋼矢板20cに定置し、チャック装置43でチャックした作業する鋼矢板15cの継手18を既設の先頭の鋼矢板20c1の開放された継手18に噛合させて圧入・引抜作業を行うものである。かかる施工方法によれば、チャック装置43やチャックフレーム42が台座2やクランプ装置3と干渉することなく、1台の鋼矢板圧入引抜機40を使用して、継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aと、継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを施工することが可能とはなる。
【0023】
しかしながら、かかる既設の鋼矢板20cの先頭の鋼矢板20c1をクランプすることなく圧入作業を行う便法は、以下に説明する大きな問題点を有しており、その解決が望まれている。図23は前記した便法による作業状態を示す側面説明図である。図に示すように、先頭の鋼矢板20c1の開放された継手18に噛合させて、圧入作業する鋼矢板15cを圧入力Pで圧入施工すると噛合させた継手18部分に継手抵抗Rが働く。継手抵抗Rは鋼矢板20c1と鋼矢板15cの継手18に砂噛み等の欠陥がある場合や、既設の鋼矢板20cのねじれやゆがみ等によっても発生する。このとき、先頭の鋼矢板20c1をクランプ部材により固定できていないため、その上端が下がる場合がある。この現象を共下がりという。また、引抜作業をするときは圧入時と反対の方向の継手抵抗が発生するため、先頭の鋼矢板20c1の上端が上がる場合がある。この現象を共上がりという。即ち、既設の先頭の鋼矢板20c1をクランプすることができないため、該先頭の鋼矢板20c1の開放された継手18に作業する鋼矢板15cの継手18を噛合させて圧入・引抜を行うと、作業する鋼矢板15cと先頭の鋼矢板20c1の継手抵抗により、先頭の鋼矢板20c1が共下がり又は共上がりを起こすことがある。
【0024】
上記構成の鋼矢板圧入引抜機40を使用して鋼矢板15a,15b,15cの圧入・引抜作業を行う場合は、既設の鋼矢板20a,20b,20cの内、先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1をクランプ装置3でクランプした状態で、作業する鋼矢板15a,15b,15cの継手18を先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1の開放された継手18に噛合させた状態(以下、この状態を正規状態という)で作業することが重要である。
【0025】
この正規状態の作業姿勢であると、鋼矢板圧入引抜機40で圧入力として定格荷重をかけたときに、反力と圧入位置の距離が近いため、発生するモーメントが小さく、鋼矢板圧入引抜機40にかかる応力が小さくなる。従って、よりコンパクトな機械で圧入可能となる。また、何より先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1をクランプ装置3でクランプしているため、先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1の継手と噛合して作業する鋼矢板15a,15b,15cとの間で継手抵抗が発生して、この継手抵抗によって先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1が上下に動かされることはなく、共下がり又は共上がりすることがない。よって、施工基準に従って鋼矢板15の上端部を揃えて圧入した既設の鋼矢板の施工精度を保つことができる。
【0026】
これに対して、図22,図23に示すような正規状態ではない作業姿勢であると、正規状態の作業姿勢に比して、作業する鋼矢板15a,15b,15cを掴むチャック装置43の位置と、既設の鋼矢板20a,20b,20cをクランプするクランプ装置3の反力位置の距離が先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1の継手ピッチ19a,19b,19c分だけ遠く離れるため、同一の圧入力・引抜力をかけたときに反力側に発生するモーメントが大きいので機械にかかる応力が大きくなる。従って、正規状態での作業と同じ圧入力・引抜力をかけて施工することができないため、定格荷重が小さくなる。
【0027】
また、何より、既設の先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1をクランプ装置3でクランプしていないため、前記した継手抵抗によって先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1が共下がりや共上がりを起こして、先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1が上下に動かされ施工精度の低下や打ち直し等の手間が生じる。即ち、施工基準に従って上端部を規定高さに揃えて圧入した既設の鋼矢板20a1,20b1,20c1が、共下がりや共上がりによって上下方向に位置が変化すると、再度規定寸法に打設し直す必要がある。共下がりや共上がりの防止策として圧入後の鋼矢板20a,20b,20cと先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1とを溶接して固定する必要があり、余分な手間や材料費が発生することとなる。また、仮設の場合は引抜作業時に溶接部をガスで切断する手間がかかるとともに鋼矢板の損傷により損料も発生する。更に、共上がりした鋼矢板が鋼矢板圧入引抜機40の下面に当たり、機械を損傷させる不具合が発生することもある。
【0028】
そこで本発明はこのような従来の鋼矢板圧入引抜機が有している課題を解決し、多様な継手ピッチの鋼矢板に対応可能な汎用性を有する鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法を提供することを目的とする。
・・・(略)・・・
【発明の効果】
【0035】
本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法によれば、チャックフレームに鋼矢板の継手ピッチに対応した複数のチャック装置を着脱自在に装着可能としているため、1台の鋼矢板圧入引抜機においてチャック装置を交換して使用することにより、多様な継手ピッチを有する鋼矢板をチャックできる。また、そのチャック時において、既設の先頭の鋼矢板をクランプ装置でクランプした状態で、作業する鋼矢板を既設の先頭の鋼矢板に噛合させた正規状態において、チャック装置とクランプ装置が干渉することがない。更に、チャック装置をチャックフレーム内で旋回させるためのチャック旋回モータとピニオンギアを台座の上端面の位置する水平線より上方に配置したため、多様な継手ピッチの鋼矢板を正規状態でチャックした場合において、継手ピッチに関わりなく、チャックフレームを構成するチャック旋回モータやピニオンギアが鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがない。
【0036】
また、クランプ装置を構成する複数のクランプ部材の台座への配設箇所を組み替えて、クランプピッチを変更可能としたことによって、クランプする既設の鋼矢板が多様な継手ピッチを有していたとしても、既設の先頭の鋼矢板をクランプ装置でクランプした状態で鋼矢板圧入引抜機を既設の鋼矢板上に定置することができる。よって、多様な継手ピッチの鋼矢板、特には継手ピッチ400mm,500mm,600mmの鋼矢板に対応可能な汎用性を有し、従来の鋼矢板圧入引抜機では対応不可であった継手ピッチが600mmと400mmの継手ピッチにおいて200mm程度以上の寸法差を有する多様な鋼矢板を、それぞれ専用の鋼矢板圧入引抜機を使用することなく、汎用性を有する1台の鋼矢板圧入引抜機で圧入・引抜することができる。また、継手ピッチ400mm,500mm,600mmの鋼矢板に限ることなく、継手ピッチにおいて200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板にも適用することが可能である。
・・・(略)・・・
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下図面に基づいて本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法の実施形態を説明する。図1(A),図2(A)は本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機1の側面図、図1(B),図2(B)は同平面図である。前記した従来の鋼矢板圧入引抜機40と同一の構成については同一の符号を付して説明する。図において、1は鋼矢板圧入引抜機であって、2は台座、3は台座2の下部に配設されて、既設の鋼矢板をクランプして鋼矢板圧入引抜機1を定置するとともに、既設の鋼矢板から反力を得るためのクランプ装置である。このクランプ装置3は、台座2の下面に形成されたクランプガイド13に幅方向に摺動自在に装備される。図1の図示例では、3本のクランプ部材(3a,3b,3c)を、図2の図示例では4本のクランプ部材(3a,3e,3a,3c)をそれぞれ図に示す順に装備している。
【0039】
本発明において、鋼矢板圧入引抜機1を使用して圧入・引抜する鋼矢板は、現在わが国で最も普及しているU型であり、中でも継手ピッチ19が400mm,500mm,600mmの鋼矢板15を対象とする。また、継手ピッチ19の寸法が上記数値以外であってもU形であって継手ピッチ19が200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板15であれば対象とすることができる。その構成は図11,図12に示す通り、鋼矢板15は、ほぼU形の断面形状を有しており、ウエブ16の両端に所定の配置角度θを有するフランジ17が連接されており、フランジ17の開放端部に継手18が形成されている。
【0040】
Fは鋼矢板圧入引抜機1の直進方向を示す。台座2には鋼矢板圧入引抜機1の直進方向Fに沿ってスライドベース4が、圧入する鋼矢板15の継手ピッチ19以上の距離を摺動自在に配備されている。このスライドベース4上には支持アーム5が縦軸を中心として回動自在に軸支され、この支持アーム5の前部に設けた軸受部6を中心として回動可能なガイドフレーム7が立設されている。このガイドフレーム7は、一端が支持アーム5に軸支された傾動シリンダ(図示略)の伸縮によって軸受部6を中心として傾動可能となっている。
【0041】
ガイドフレーム7には昇降体8が昇降自在に装着されている。該昇降体8の両側には左右一対の鋼矢板圧入引抜シリンダ9が取り付けられていて、この鋼矢板圧入引抜シリンダ9の一端が前記軸受部6に軸支されており、昇降体8を上下駆動するように構成されている。昇降体8の下方にはチャックフレーム10が形成されており、このチャックフレーム10内に、図1に示す鋼矢板圧入引抜機1においては、継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aをチャックすることができる第1チャック装置11が、又図2に示す鋼矢板圧入引抜機1においては、継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cをチャックすることができる第2チャック装置12がそれぞれ旋回自在に装備されている。
【0042】
本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機1は、鋼矢板15の継手ピッチ19に対応した複数のチャック装置を装備するものである。これらの複数のチャック装置として、継手ピッチ19aが600mm用の第1チャック装置11と、継手ピッチ19cが400mm用の第2チャック装置12を、チャックフレーム10に着脱自在に装着可能とし、圧入・引抜を行う鋼矢板15の継手ピッチ19の寸法に応じて交換使用することに特徴を有する。なお、第1チャック装置11は、1台で継手ピッチ19bが500mm用の鋼矢板15bにも対応可能である。また、第1チャック装置11及び第2チャック装置12に加えて、継手ピッチ19が他のサイズとなる3つ以上のチャック装置を装備するようにしてもよい。
・・・(略)・・・
【0051】
多様な継手ピッチ19を有する鋼矢板15に対応する汎用性を鋼矢板圧入引抜機1に付与するためには、上記した通り、第1チャック装置11,第2チャック装置12やチャックフレーム10が鋼矢板圧入引抜機1の他の部材に干渉しないとともに、鋼矢板圧入引抜機1がそれぞれの継手ピッチ19を有する既設の鋼矢板20をクランプ装置3で掴んで定置して反力を得る必要がある。そこで、600mmの継手ピッチ19a,500mmの継手ピッチ19b,400mmの継手ピッチ19cの既設の鋼矢板20a,20b,20cをクランプ装置3を使用してクランプするための条件について検討する。
【0052】
図13は継手18を相互に噛合して隣接する継手ピッチ19aが600mmの既設の鋼矢板20aのウエブ16をクランプ装置3でクランプする場合を示しており、図13(A)は基準となるウエブ16の中心をクランプした場合を、図13(B)はウエブ16の反対方向の両端部をクランプした場合を、図13(C)はウエブ16の隣接する両端部をクランプした場合を示しており、それぞれクランプピッチ35aが600mm,クランプピッチ35bが772mm,クランプピッチ35cが428mmとなっている。よって、クランプ装置3のクランプピッチが428mm?772mmの範囲であれば、継手ピッチ19aが600mmの既設の鋼矢板20aをクランプして鋼矢板圧入引抜機1を定置することが可能である。
【0053】
そこで、図14に示すように、クランプガイド13a,13b,13dを使用して、クランプ部材3a,3b,3cを順に組付けたところ、クランプ部材3aと3bのクランプピッチ35dが590mm、クランプ部材3bと3cのクランプピッチ35eが570mmとなり、いずれも前記した428mm?772mmの範囲に収まった。なお、図14に示すようにクランプ部材3aは右側に、クランプ部材3bは左側にオフセットした形状であり、又クランプ部材3cは直線状の形状である。即ち、クランプ部材3a,3b,3cはそれぞれ形状及びオフセット量を異にしている。更に、クランプガイド13a,13b,13c,13dはそれぞれのピッチを異にして配置されており、クランプガイド13aと13bのピッチ38aが350mm,クランプガイド13bと13cのピッチ38bが400mm,クランプガイド13cと13dのピッチ38cが290mmに設置されている。よって、これらの各クランプガイド13a,13b,13c,13dと各クランプ部材3a,3b,3cを組み合わせることによって、多様なクランプピッチを実現することができる。
【0054】
また、図14に示す第1チャック装置11のチャック部22は正規状態におけるチャックの位置を示すものであるが、図示のように台座2や先頭のクランプ部材3aと干渉することはない。よって、継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを第1チャック装置11を使用して正規状態で圧入・引抜作業をすることができる。
【0055】
図15は継手18を相互に噛合して隣接する継手ピッチ19bが500mmの既設の鋼矢板20bのウエブ16をクランプ装置3でクランプする場合を示しており、図15(A)は基準となるウエブ16の中心をクランプした場合を、図15(B)はウエブ16の反対方向の両端部をクランプした場合を、図15(C)はウエブ16の隣接する両端部をクランプした場合を示しており、それぞれクランプピッチ36aが500mm,クランプピッチ36bが588mm,クランプピッチ36cが412mmとなっている。よって、クランプ装置3のクランプピッチが412mm?588mmの範囲であれば、継手ピッチ19bが500mmの既設の鋼矢板20bをクランプして鋼矢板圧入引抜機1を定置することが可能である。
【0056】
そこで、図16に示すように、クランプガイド13a,13b,13cを使用して、クランプ部材3a,3c,3dを順に組付けたところ、クランプ部材3aと3cのクランプピッチ36dが470mm、クランプ部材3cと3dのクランプピッチ36eが520mmとなり、いずれも前記した412mm?588mmの範囲に収まった。図16に示すようにクランプ部材3aは右側に、クランプ部材3dは左側にオフセットした形状であり、又クランプ部材3cは直線状の形状である。即ち、クランプ部材3a,3d,3cはそれぞれ形状及びオフセット量を異にしている。また、図16に示す第1チャック装置11のチャック部22は正規状態の位置を示すものであるが、図示のように台座2や先頭のクランプ部材3aと干渉することはない。よって、継手ピッチ19bが500mmの鋼矢板15bを第1チャック装置11を使用して正規状態で圧入・引抜作業をすることができる。
【0057】
図17は継手18を相互に噛合して隣接する継手ピッチ19cが400mmの既設の鋼矢板20cのウエブ16をクランプ装置3でクランプする場合を示しており、図17(A)は基準となるウエブ16の中心をクランプした場合を、図17(B)はウエブ16の反対方向の両端部をクランプした場合を、図17(C)はウエブ16の隣接する両端部をクランプした場合を示しており、それぞれクランプピッチ37aが400mm,クランプピッチ37bが500mm,クランプピッチ37cが300mmとなっている。よって、クランプ装置3のクランプピッチが300mm?500mmの範囲であれば、継手ピッチ19cが400mmの既設の鋼矢板20cをクランプして鋼矢板圧入引抜機1を定置することが可能である。
【0058】
そこで、図18に示すように、クランプガイド13a,13b,13c,13dを使用して、クランプ部材3a,3e,3a,3cを順に組付けたところ、クランプ部材3aと3eのピッチ37dが350mm、クランプ部材3eと3aのピッチ37eが400mm、クランプ部材3aと3cのピッチ37fが410mmとなり、いずれも前記した300mm?500mmの範囲に収まった。なお、図18においてクランプガイド13cに組付けたクランプ部材3aは、図14に示すクランプ部材3bを反転させて装備したものであり、クランプ部材3eは図16に示すクランプ部材3dを反転させて装備したものである。従って図18に示すクランプ部材4本を使用して図14、及び図16のクランプの構成が可能であり、経済的に優れている。また、図18に示す第2チャック装置12のチャック部32は正規状態の位置を示すものであるが、図示のように台座2や先頭のクランプ部材3aと干渉することはない。よって、継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを第2チャック装置12を使用して正規状態で圧入・引抜作業をすることができる。・・・(略)・・・」

第3 請求人の主張
請求人は、本件発明1、2、3、8及び9の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、平成28年2月29日付け口頭審理陳述要領書を参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。

1 無効理由の概要
(1)無効理由1(分割出願の要件違反に基づく、新規性欠如)
本件発明1、2、3、8及び9は、特許法第44条第1項の分割要件を満たしていないため、出願日の遡及は認められず、甲第2号証(原出願の公開公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とされるべきものである。
(2)無効理由2(分割出願の要件違反に基づく、進歩性欠如)
本件発明1、2、3、8及び9は、特許法第44条第1項の分割要件を満たしていないため、出願日の遡及は認められず、甲第2号証(原出願の公開公報)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とされるべきものである。
(3)無効理由3(サポート要件違反)
本件発明1、2、3、8及び9は、本件明細書に記載された発明ではないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。
(4)無効理由4(実施可能要件違反)
本件発明1、2、3、8及び9は、本件明細書に実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。

(証拠方法)
提出された証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:特願2010-99137の特許願、明細書、特許請求の範囲、要約書、及び図面
甲第2号証:特開2011-226209号公報
甲第3号証の1:「WP100AC」のカタログ
甲第3号証の2:「TILTPILER WP-100 取扱説明書(平成17年10月版31号機?)」(表紙、目次、14?16頁、30?31頁、68?69頁)
甲第3号証の3:報告書(WP100AC)、株式会社技研製作所 島内一
甲第4号証の1:「SCU-600M」のカタログ
甲第4号証の2:「SCU-400M」のカタログ
甲第4号証の3:「SCU-600M 取扱説明書」(表紙、パイラー編の目次、パイラー編の15?18頁、クランプ爪交換要領の目次、クランプ爪交換要領の3頁)
甲第4号証の4:報告書(SCU-600M、400M)、株式会社技研製作所 池田敏夫
甲第5号証:「鋼矢板 設計から施工まで」、改訂新版、2000年3月発行(表紙、まえがき、3頁、6頁、奥付)

2 具体的な主張
(1)無効理由1について
ア 本件原出願当初明細書(甲第1号証)に記載された発明は、請求項4に記載された、「チャックフレームに複数のチャック装置を、それぞれ着脱自在に装着可能とし、複数のチャック装置はそれぞれ、鋼矢板の挿通孔と、挿通孔に挿通された鋼矢板をチャックするチャック部と、チャック装置を旋回させるために挿通孔の外周に配備されたチャックリングギアを有し、チャックリングギアとして同一形状のものを採用するとともに、それぞれ異なる継手ピッチの鋼矢板に対応したチャック部を有する」構成を必須とする鋼矢板圧入引抜機の発明であり、この構成を備えない発明は、原出願当初明細書に記載されていない。
しかるに、本件発明1?3は、いずれも、上記構成を必須要件としない発明であり、しかも、原出願当初明細書に記載のない「クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって、前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能としたことを特徴とする」鋼矢板圧入引抜機の発明であるから、原出願当初明細書に記載されていない発明について特許出願がなされており、特許法44条1項の分割要件を満たしていない違法なものであるので、特許法44条2項の適用がなく、その出願日は分割出願(平成26年1月14日)の日となる。
その結果、本件発明1?3はいずれも、原出願の公開公報である特開2011-226209号公報(甲第2号証)に記載された発明を包含しており、新規性欠如の無効理由がある。(請求書2頁10行?3頁3行)
イ 1台の鋼矢板圧入引抜機のクランプピッチを変更して400mm鋼矢板にも600mm鋼矢板に対応することは従来技術で可能になっていたが、従来技術では400mm鋼矢板につき既設の鋼矢板の先頭をクランプすると、チャック装置の干渉のために作業ができず、この点が、先頭からクランプすることができないという意味である。
すなわち、本件発明1の真の課題は、600mm鋼矢板用のチャック部を400mm鋼矢板に使用し、400mm鋼矢板の先頭の鋼矢板をクランプすることが、チャック部との干渉のために不可能であったという点のみにある。(請求書27頁下から5行目?28頁5行)
ウ 本件発明1は、鋼矢板の幅に制限されず先頭の鋼矢板をクランプすることができる鋼矢板圧入引抜機を対象としているが、チャック装置の干渉という課題を解決する手段を特定していない。請求項1の文言上、「クランプピッチを変更すること」が課題解決手段であるかのごとくであるが、クランプピッチを変更することは、異なる寸法の鋼矢板のクランプを可能にする手段であって、チャック装置の干渉を解決する手段でないことは、明細書の記載から明らかである。(請求書29頁12?19行)
エ 本件出願(本件発明1)が、原出願に基づき特許を取得したチャック装置を交換可能にする発明以外の手段により、600mm鋼矢板にも400mm鋼矢板にも使用可能であり、かつ、先頭の鋼矢板をクランプして圧入作業のできる装置を包括的にカバーする発明として出願されたことは明らかである。しかしながら、チャック装置を交換可能にする以外の手段は、原出願当初明細書に記載も示唆もされていないのであるから、本件出願は分割出願として不適法である。(請求書40頁下から5行目?41頁2行)
(2)無効理由2について
無効理由1と同じ理由により、本件発明1?3はいずれも、特許法44条1項の分割要件を満たしていない違法なものであるので、特許法44条2項の適用がなく、その出願日は分割出願(平成26年1月14日)の日となる。
その結果、本件発明1?3はいずれも、原出願の公開公報である特開2011-226209号公報(甲第2号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから、進歩性欠如の無効理由がある。(請求書3頁6?13行)
(3)無効理由3について
本件明細書には、発明の課題を解決するために、請求項4に記載された「チャックフレームに複数のチャック装置を、それぞれ着脱自在に装着可能とし、複数のチャック装置はそれぞれ、鋼矢板の挿通孔と、挿通孔に挿通された鋼矢板をチャックするチャック部と、チャック装置を旋回させるために挿通孔の外周に配備されたチャックリングギアを有し、チャックリングギアとして同一形状のものを採用するとともに、それぞれ異なる継手ピッチの鋼矢板に対応したチャック部を有する」構成が必須であることを記載し、この構成なしに発明の課題を解決し得ることを記載していない。
しかるに、本件発明1?3は、上記構成を必須要件としない発明であり、しかも、本件明細書に記載のない「クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって、前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能としたこと」を課題解決手段とする発明であるから、いずれも、サポート要件(特許法36条6項1号)に適合しない。(請求書3頁16行?4頁3行)
(4)無効理由4について
本件明細書には、請求項4に記載された「チャックフレームに複数のチャック装置を、それぞれ着脱自在に装着可能とし、複数のチャック装置はそれぞれ、鋼矢板の挿通孔と、挿通孔に挿通された鋼矢板をチャックするチャック部と、チャック装置を旋回させるために挿通孔の外周に配備されたチャックリングギアを有し、チャックリングギアとして同一形状のものを採用するとともに、それぞれ異なる継手ピッチの鋼矢板に対応したチャック部を有する」構成を備える発明については、実施例に記載があるが、この構成を備えず、「クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって、前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能としたこと」を要件とする本件発明1?3につき、発明の効果を得るように実施することを可能にする記載が見出されないので、実施可能要件(特許法36条4項1号)に適合しない。(請求書4頁6?20行)

第4 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張に対して、概ね以下のとおり反論している(平成27年12月8日付け答弁書、平成28年3月31日付け口頭審理陳述要領書を参照。)。

1 本件発明について
(1)本件発明の解決課題
ア 本件発明は、「従来の鋼矢板圧入引抜機が有している課題を解決し、多様な継手ピッチの鋼矢板に対応可能な汎用性を有する鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法を提供すること」を目的としている(【0028】)。
イ 本件明細書では、「正規状態」(既設の先頭の鋼矢板をクランプ装置でクランプした状態で、作業する鋼矢板を先頭の鋼矢板の開放された継手に噛合させた状態)での施工を実現するためには、「理由の第1/チャック機構の問題」(【0008】)と「理由の第2/クランプ機構の問題」(【0009】)を解決することを課題として提起している。
課題1(「理由の第1/チャック機構の問題」(【0008】)の解決):多様な継手ピッチを有する鋼矢板を(継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても)、「正規状態」においてチャックすること(【0008】【0035】【0051】【0065】)。
課題2(「理由の第2/クランプ機構の問題」(【0009】)の解決):クランプする既設の鋼矢板が多様な継手ピッチを有していたとしても(継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても)、既設の先頭の鋼矢板をクランプ装置でクランプした状態で鋼矢板圧入引抜機を既設の鋼矢板上に定置すること(【0009】【0036】【0066】)。
ウ 本件発明は、「課題2」を解決するものである。(答弁書4頁19行?5頁23行、9頁18?19行)

2 無効理由について
(1)無効理由1及び2について
ア 本件出願の当初明細書は、原出願の当初明細書及び分割直前の明細書と実質的に同一の明細書であり、又図面も原出願の当初図面及び分割直前の図面と共通である。もとより、本件発明の発明特定事項も本件出願の当初明細書に記載された事項によって構成されている。
イ そのため、本件出願は分割出願の実体的要件を満たしていることは明らかであり、出願日は原出願の出願日が適用される。
ウ 甲第2号証(原出願の公開公報)を引用例とする本件発明1、2、3、8及び9に対する無効理由1及び2は明らかに理由がない。(答弁書13頁下から6行?14頁2行)
(2)無効理由3について
請求人は、本件発明の課題は、「チャック装置の干渉という問題を解決すること」と主張しているが、本件発明の直接の課題は、「課題2」であり、この「課題2」を解決する手段は、本件明細書において実施形態を含めて詳細にサポートされている。(答弁書14頁19行?21行)
(3)無効理由4について
本件発明は、請求人の主張するように、「クランプピッチを変更するが、チャック装置の交換可能を必要としない発明」ではない。本件発明は、「チャック装置の交換を必要としない」ことを発明特定事項としていない。本件発明の直接の課題は、「課題2」であり、本件発明はこの「課題2」を解決する手段を提供する発明である。この「課題2」を解決する手段は、明細書において実施形態を含めて実施可能に詳細に記載されている。(答弁書16頁7?12行)
(4)クランプ装置について
ア 請求人は、公知技術を参照したとしても、チャック装置を交換可能にすることなく、クランプピッチの変更によって、継手ピッチ600mm、500mm、400mmのいずれの鋼矢板についても、既設の鋼矢板の先頭をクランプして作業することを可能にすることはできないと主張しているが、本件明細書【0020】にも記載した通り、継手ピッチに応じて専用のチャック装置及び該チャック装置を装備するチャックフレームを使用することは公知であり、例えば、本件明細書に記載した本件発明を実施した鋼矢板圧入引抜機に従来技術として記載した「鋼矢板の継手ピッチに応じたチャック装置及び該チャック装置を装備するチャックフレームを使用する」ことを適用すれば、被請求人の提供した「特定チャック機構(請求項4)」によることなく、「正規状態」において継手ピッチが600mm、500mm、400mmのいずれの鋼矢板であってもチャックすることができる。(答弁書16頁16行?17頁3行)
イ 本件明細書に記載するように、鋼矢板の継手ピッチに応じてチャック装置やチャックフレームを交換するのは専らクランプ装置等の鋼矢板圧入引抜機を構成する他の部材との干渉の問題を解決するためである。そこで、従来技術によれば、チャックフレームとチャック装置を一体として、鋼矢板の継手ピッチに応じて交換することが可能であり、又請求項4及び本件明細書において提供するチャックフレームを共有化した「特定チャック機構(請求項4)」を採用して実施することも可能である。更に、チャック装置やチャックフレームを交換しなくても、その材質や形状,強度等の設計事項を適切に選択すれば、同様の結果をもたらすことも可能であり、本件発明を特定する上において、「チャック装置の交換を必要とすること」或いは「チャック装置の交換を必要としないこと」が必須の特定事項となるものではない。(陳述要領書2頁下から5行?3頁5行)

第5 無効理由1(分割出願の要件違反に基づく、新規性欠如)の検討
1 分割要件の適否について
(1)原出願当初明細書の記載事項
本件の原出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(甲第1号証、以下「原出願当初明細書」という。)には、以下のとおり記載されている(下線は審決で付した。)。
ア 発明が解決しようとする課題
「【0007】
従来、継手ピッチ19が一定寸法以上異なる鋼矢板15を圧入・引抜する場合には、継手ピッチ19の寸法に応じたそれぞれ専用の鋼矢板圧入引抜機を使用することが基本となっている。即ち、一定寸法範囲を超えた多様な継手ピッチの鋼矢板15、特には継手ピッチ19が400mmと600mmのように200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板15の双方を施工可能な鋼矢板圧入引抜機は提供されていない。
【0008】
その理由の第1は、作業する鋼矢板15をチャックして圧入するためのチャック装置を、最大寸法の継手ピッチ19を有する鋼矢板15をチャックして旋回できるように構成する必要があるため、一定寸法範囲を超えた最小寸法の継手ピッチを有する鋼矢板15を同一のチャック装置を使用してチャックすると、具体的には図11に示す鋼矢板15において、継手ピッチ19が600mmの鋼矢板15をチャック可能なチャック装置で、継手ピッチ19が400mmの鋼矢板15をチャックして圧入・引抜作業を行おうとすると、チャック装置が鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉して、既設の鋼矢板の内、クランプ装置でクランプした先頭の鋼矢板の開放された継手に噛合させる位置に設置することができないためである。
【0009】
その理由の第2は、鋼矢板圧入引抜機を既設の鋼矢板に自立させるとともに、既設の鋼矢板から反力を得るために既設の鋼矢板をクランプするクランプ装置が一定寸法範囲を超えた継手ピッチの寸法差を有する鋼矢板に対応してクランプできないためである。」
「【0028】
そこで本発明はこのような従来の鋼矢板圧入引抜機が有している課題を解決し、多様な継手ピッチの鋼矢板に対応可能な汎用性を有する鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法を提供することを目的とする。」
イ 課題を解決するための手段
「【0032】
更に、チャック装置を旋回させるために、チャックフレームにチャック旋回モータと該チャック旋回モータの駆動軸に連結したピニオンギアを装備し、該ピニオンギアをチャックリングギアに噛合させるとともに、チャック旋回モータとピニオンギア及びピニオンギアを収納したピニオンギアボックスを台座の上端面の位置する水平線より上方に配置した構成、クランプ装置は、既設の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプ部材からなり、該複数のクランプ部材の台座への配設箇所を組み替えることによって、クランプピッチを変更可能とした構成を提供する。」
ウ 発明の効果
「【0035】
本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法によれば、チャックフレームに鋼矢板の継手ピッチに対応した複数のチャック装置を着脱自在に装着可能としているため、1台の鋼矢板圧入引抜機においてチャック装置を交換して使用することにより、多様な継手ピッチを有する鋼矢板をチャックできる。また、そのチャック時において、既設の先頭の鋼矢板をクランプ装置でクランプした状態で、作業する鋼矢板を既設の先頭の鋼矢板に噛合させた正規状態において、チャック装置とクランプ装置が干渉することがない。更に、チャック装置をチャックフレーム内で旋回させるためのチャック旋回モータとピニオンギアを台座の上端面の位置する水平線より上方に配置したため、多様な継手ピッチの鋼矢板を正規状態でチャックした場合において、継手ピッチに関わりなく、チャックフレームを構成するチャック旋回モータやピニオンギアが鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがない。
【0036】
また、クランプ装置を構成する複数のクランプ部材の台座への配設箇所を組み替えて、クランプピッチを変更可能としたことによって、クランプする既設の鋼矢板が多様な継手ピッチを有していたとしても、既設の先頭の鋼矢板をクランプ装置でクランプした状態で鋼矢板圧入引抜機を既設の鋼矢板上に定置することができる。よって、多様な継手ピッチの鋼矢板、特には継手ピッチ400mm,500mm,600mmの鋼矢板に対応可能な汎用性を有し、従来の鋼矢板圧入引抜機では対応不可であった継手ピッチが600mmと400mmの継手ピッチにおいて200mm程度以上の寸法差を有する多様な鋼矢板を、それぞれ専用の鋼矢板圧入引抜機を使用することなく、汎用性を有する1台の鋼矢板圧入引抜機で圧入・引抜することができる。また、継手ピッチ400mm,500mm,600mmの鋼矢板に限ることなく、継手ピッチにおいて200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板にも適用することが可能である。」
エ 発明を実施するための形態
「【0038】
以下図面に基づいて本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法の実施形態を説明する。図1(A),図2(A)は本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機1の側面図、図1(B),図2(B)は同平面図である。前記した従来の鋼矢板圧入引抜機40と同一の構成については同一の符号を付して説明する。図において、1は鋼矢板圧入引抜機であって、2は台座、3は台座2の下部に配設されて、既設の鋼矢板をクランプして鋼矢板圧入引抜機1を定置するとともに、既設の鋼矢板から反力を得るためのクランプ装置である。このクランプ装置3は、台座2の下面に形成されたクランプガイド13に幅方向に摺動自在に装備される。図1の図示例では、3本のクランプ部材(3a,3b,3c)を、図2の図示例では4本のクランプ部材(3a,3e,3a,3c)をそれぞれ図に示す順に装備している。
【0039】
本発明において、鋼矢板圧入引抜機1を使用して圧入・引抜する鋼矢板は、現在わが国で最も普及しているU型であり、中でも継手ピッチ19が400mm,500mm,600mmの鋼矢板15を対象とする。また、継手ピッチ19の寸法が上記数値以外であってもU形であって継手ピッチ19が200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板15であれば対象とすることができる。その構成は図11,図12に示す通り、鋼矢板15は、ほぼU形の断面形状を有しており、ウエブ16の両端に所定の配置角度θを有するフランジ17が連接されており、フランジ17の開放端部に継手18が形成されている。
【0040】
Fは鋼矢板圧入引抜機1の直進方向を示す。台座2には鋼矢板圧入引抜機1の直進方向Fに沿ってスライドベース4が、圧入する鋼矢板15の継手ピッチ19以上の距離を摺動自在に配備されている。このスライドベース4上には支持アーム5が縦軸を中心として回動自在に軸支され、この支持アーム5の前部に設けた軸受部6を中心として回動可能なガイドフレーム7が立設されている。このガイドフレーム7は、一端が支持アーム5に軸支された傾動シリンダ(図示略)の伸縮によって軸受部6を中心として傾動可能となっている。
【0041】
ガイドフレーム7には昇降体8が昇降自在に装着されている。該昇降体8の両側には左右一対の鋼矢板圧入引抜シリンダ9が取り付けられていて、この鋼矢板圧入引抜シリンダ9の一端が前記軸受部6に軸支されており、昇降体8を上下駆動するように構成されている。昇降体8の下方にはチャックフレーム10が形成されており、このチャックフレーム10内に、図1に示す鋼矢板圧入引抜機1においては、継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aをチャックすることができる第1チャック装置11が、又図2に示す鋼矢板圧入引抜機1においては、継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cをチャックすることができる第2チャック装置12がそれぞれ旋回自在に装備されている。」
「【0052】
図13は継手18を相互に噛合して隣接する継手ピッチ19aが600mmの既設の鋼矢板20aのウエブ16をクランプ装置3でクランプする場合を示しており、図13(A)は基準となるウエブ16の中心をクランプした場合を、図13(B)はウエブ16の反対方向の両端部をクランプした場合を、図13(C)はウエブ16の隣接する両端部をクランプした場合を示しており、それぞれクランプピッチ35aが600mm,クランプピッチ35bが772mm,クランプピッチ35cが428mmとなっている。よって、クランプ装置3のクランプピッチが428mm?772mmの範囲であれば、継手ピッチ19aが600mmの既設の鋼矢板20aをクランプして鋼矢板圧入引抜機1を定置することが可能である。
【0053】
そこで、図14に示すように、クランプガイド13a,13b,13dを使用して、クランプ部材3a,3b,3cを順に組付けたところ、クランプ部材3aと3bのクランプピッチ35dが590mm、クランプ部材3bと3cのクランプピッチ35eが570mmとなり、いずれも前記した428mm?772mmの範囲に収まった。なお、図14に示すようにクランプ部材3aは右側にオフセットした形状であり、又クランプ部材3cは直線状の形状である。更に、クランプガイド13a,13b,13c,13dはそれぞれのピッチを異にして配置されており、クランプガイド13aと13bのピッチ38aが350mm,クランプガイド13bと13cのピッチ38bが400mm,クランプガイド13cと13dのピッチ38cが290mmに設置されている。よって、これらの各クランプガイド13a,13b,13c,13dと各クランプ部材13a,13b,13cを組み合わせることによって、多様なクランプピッチを実現することができる。
【0054】
また、図14に示す第1チャック装置11のチャック部22は正規状態におけるチャックの位置を示すものであるが、図示のように台座2や先頭のクランプ部材3aと干渉することはない。よって、継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを第1チャック装置11を使用して正規状態で圧入・引抜作業をすることができる。
【0055】
図15は継手18を相互に噛合して隣接する継手ピッチ19bが500mmの既設の鋼矢板20bのウエブ16をクランプ装置3でクランプする場合を示しており、図15(A)は基準となるウエブ16の中心をクランプした場合を、図15(B)はウエブ16の反対方向の両端部をクランプした場合を、図15(C)はウエブ16の隣接する両端部をクランプした場合を示しており、それぞれクランプピッチ36aが500mm,クランプピッチ36bが588mm,クランプピッチ36cが412mmとなっている。よって、クランプ装置3のクランプピッチが412mm?588mmの範囲であれば、継手ピッチ19bが500mmの既設の鋼矢板20bをクランプして鋼矢板圧入引抜機1を定置することが可能である。
【0056】
そこで、図16に示すように、クランプガイド13a,13b,13cを使用して、クランプ部材3a,3c,3dを順に組付けたところ、クランプ部材3aと3cのクランプピッチ36dが470mm、クランプ部材3cと3dのクランプピッチ36eが520mmとなり、いずれも前記した412mm?588mmの範囲に収まった。また、図16に示す第1チャック装置11のチャック部22は正規状態の位置を示すものであるが、図示のように台座2や先頭のクランプ部材3aと干渉することはない。よって、継手ピッチ19bが500mmの鋼矢板15bを第1チャック装置11を使用して正規状態で圧入・引抜作業をすることができる。
【0057】
図17は継手18を相互に噛合して隣接する継手ピッチ19cが400mmの既設の鋼矢板20cのウエブ16をクランプ装置3でクランプする場合を示しており、図17(A)は基準となるウエブ16の中心をクランプした場合を、図17(B)はウエブ16の反対方向の両端部をクランプした場合を、図17(C)はウエブ16の隣接する両端部をクランプした場合を示しており、それぞれクランプピッチ37aが400mm,クランプピッチ37bが500mm,クランプピッチ37cが300mmとなっている。よって、クランプ装置3のクランプピッチが300mm?500mmの範囲であれば、継手ピッチ19cが400mmの既設の鋼矢板20cをクランプして鋼矢板圧入引抜機1を定置することが可能である。
【0058】
そこで、図18に示すように、クランプガイド13a,13b,13c,13dを使用して、クランプ部材3a,3e,3a,3cを順に組付けたところ、クランプ部材3aと3eのピッチ37dが350mm、クランプ部材3eと3aのピッチ37eが400mm、クランプ部材3aと3cのピッチ37fが410mmとなり、いずれも前記した300mm?500mmの範囲に収まった。なお、図18においてクランプガイド13cに組付けたクランプ部材3aは、図14に示すクランプ部材3bを反転させて装備したものであり、クランプ部材3eは図16に示すクランプ部材3dを反転させて装備したものである。従って図18に示すクランプ部材4本を使用して図14、及び図16のクランプの構成が可能であり、経済的に優れている。また、図18に示す第2チャック装置12のチャック部32は正規状態の位置を示すものであるが、図示のように台座2や先頭のクランプ部材3aと干渉することはない。よって、継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを第2チャック装置12を使用して正規状態で圧入・引抜作業をすることができる。
【0059】
なお、継手ピッチ19cが400mmの既設の鋼矢板20cをクランプする場合は、4本のクランプ部材3a,3e,3a,3cを使用している。これは鋼矢板20cの継手ピッチ19cが400mmと狭いために、クランプする4本の既設の鋼矢板20cの幅方向の長さの合計を1600mm(400mm×4)として、硬質地盤においても十分な反力を得るためである。
【0060】
次に上記した構成の鋼矢板圧入引抜機1を使用して多様な継手ピッチ19を有する鋼矢板15の圧入・引抜工法を説明する。図1(A)は継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入・引抜している状態を示しており、継手ピッチ19aが600mmの既設の鋼矢板20aにクランプ部材3a,3b,3cを使用してクランプピッチを調節した上で鋼矢板圧入引抜機1の台座2を定置している。そして、チャックフレーム10には、継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを挿通してチャックすることが可能な第1チャック装置11を装備している。そして、圧入・引抜する鋼矢板15aを第1チャック装置11の挿通孔21に挿通し、チャック部22でチャックし、既設の先頭の鋼矢板20a1を先頭のクランプ部材3aでクランプした状態において、該先頭の鋼矢板20a1の開放された継手18に作業する鋼矢板15aの継手18を噛合させた状態で昇降体8を上下動させて、鋼矢板15aを圧入・引抜する。
【0061】
このとき、継手ピッチ19aは600mmと余裕があるため、直径900mm程度のチャック部22がクランプ部材3aに干渉することがなく、又チャックフレーム10内で第1チャック装置11を旋回させるためのピニオンギア26やピニオンギアボックス27が台座2等の鋼矢板圧入引抜機1の他の部材に干渉することがなく、正規状態において作業をすることができる。また、同様に第1チャック装置11を使用して継手ピッチ19bが500mmの鋼矢板15bも圧入・引抜することができる。
【0062】
従来の継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入・引抜する専用の鋼矢板圧入引抜機40を使用して、対象とする継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aとともに、継手ピッチ19bが500mmの鋼矢板15bを圧入・引抜することは可能であった。しかしながら、従来は、継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入・引抜する鋼矢板圧入引抜機40を使用して、継手ピッチ19において200mm程度以上の差異を有する継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを、既設の先頭の鋼矢板20c1をクランプ装置3でクランプした状態において、該先頭の鋼矢板20c1の開放された継手18に作業する鋼矢板15cの継手18を噛合させた状態で、圧入・引抜することはできなかった。
【0063】
これに対して、本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機1を使用すれば、継手ピッチ19において200mm程度以上の差異を有する継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入・引抜することが可能である。図2(A)は継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入・引抜している状態を示しており、継手ピッチ19cが400mmの既設の鋼矢板20cにクランプ部材3a,3e,3a,3cを使用してクランプピッチを調節した上で鋼矢板圧入引抜機1の台座2を定置している。そして、チャックフレーム10には、継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを挿通してチャックすることが可能な第2チャック装置12を装備している。よって、圧入・引抜する鋼矢板15cを第2チャック装置12の挿通孔31に挿通し、チャック部32でチャックし、既設の先頭の鋼矢板20c1をクランプ装置3でクランプした状態において、該先頭の鋼矢板20c1の開放された継手18に作業する鋼矢板15cの継手18を噛合させた状態で昇降体8を上下動させて、鋼矢板15cを圧入・引抜することができる。
【0064】
このとき、継手ピッチ19cは400mmと寸法が小さいが、そのチャック部32の直径も700mmと、第1チャック装置11のチャック部22の直径900mmに比して小さくなっているため、このチャック部32がクランプ部材3aに干渉することがなく、又チャックフレーム10内で第2チャック装置12を旋回させるためのピニオンギア26やピニオンギアボックス27が台座2等の鋼矢板圧入引抜機1のその他の部材に干渉することがなく、正規状態において作業をすることができる。よって、本発明にかかる鋼矢板圧入引抜機1によれば、第1チャック装置11と第2チャック装置12を交換使用することによって、継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aと、継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを正規状態において圧入・引抜することが可能である。」

(2)適否の検討
ア 本件発明1は、上記第2の1の請求項1に記載された事項から特定されるものであって、請求人の主張に沿って分説すると次のとおりである。

A:下方にクランプ装置を配設した台座と、
B:台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、
C:該ガイドフレームに昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、
D:昇降体の下方に形成されたチャックフレームと、
E:チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック装置とを具備してなる鋼矢板圧入引抜機において、
F:前記クランプ装置は、台座の下面に形成した複数のクランプガイドに、相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに、
G:複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり、
H:前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて、クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって、前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能としたことを特徴とする
I:鋼矢板圧入引抜機。

イ そして、本件発明1の構成要件AないしE、I(鋼矢板圧入引抜機の構成)については、上記(1)で摘記した原出願当初明細書の段落【0038】ないし【0041】に記載されている。

ウ また、本件発明1の構成要件FないしG(クランプ装置の構成)については、上記(1)で摘記した原出願当初明細書の段落【0032】、【0036】、【0052】ないし【0059】に記載されている。

エ さらに、本件発明1は、原出願の分割直前の明細書にも記載されている。すなわち、本件出願(分割出願)は、本件の原出願が平成25年3月28日付け手続補正書で補正された後の平成26年1月14日に分割出願されたものであるところ(原出願の補正は当該補正のみである)、上記補正は、特許請求の範囲と明細書の段落【0029】ないし【0034】、【0050】を補正するものであって、段落【0029】ないし【0034】は特許請求の範囲に対応する【課題を解決するための手段】であり、また、段落【0050】の補正は軽微なもので技術事項を実質的に変更するものではないから、原出願の分割直前の明細書の記載は、原出願当初明細書の記載と実質的に同一であるといえる。なお、上記ウで根拠とした段落【0032】は補正されているが、その補正内容は、チャック装置に係る事項を削除したもので、クランプ装置に係る事項はそのままである。

オ 以上のとおりであるから、本件発明1は、原出願当初明細書及び原出願の分割直前の明細書に記載されたものであるので、特許法第44条第1項の分割要件を満たしている。

カ 本件発明2、3、8及び9は、上記第2の1の請求項2、3、8及び9に記載された事項から特定されるものであって、本件発明1を直接又は間接的に引用し、構成要件を加えて限定するものであるが、それぞれの発明で特定(限定)した構成要件については、以下のとおり原出願当初明細書に記載されているから、特許法第44条第1項の分割要件を満たしている。
(ア)本件発明2で特定(限定)された構成要件は、上記(1)で摘記した原出願当初明細書の段落【0052】、【0055】、【0057】に記載されている。
(イ)本件発明3で特定(限定)された構成要件は、上記(1)で摘記した原出願当初明細書の段落【0052】ないし【0059】に記載されている。
(ウ)本件発明8で特定(限定)された構成要件は、上記(1)で摘記した原出願当初明細書の段落【0060】ないし【0064】に記載されている。
(エ)本件発明9で特定(限定)された構成要件は、上記(1)で摘記した原出願当初明細書の段落【0060】ないし【0064】に記載されている。

(3)請求人の主張について
ア 請求人は、本件発明1の真の課題は、600mm鋼矢板用のチャック部を400mm鋼矢板に使用し、400mm鋼矢板の先頭の鋼矢板をクランプすることが、チャック部との干渉のために不可能であったという点のみであり、また、本件発明1は、チャック装置を交換可能にする発明以外の手段により、600mm鋼矢板にも400mm鋼矢板にも使用可能であり、かつ、先頭の鋼矢板をクランプして圧入作業のできる装置を包括的にカバーする発明であるが、本件原出願当初明細書(甲第1号証)に記載された発明は、本件特許の請求項4に記載された構成(「チャックフレームに複数のチャック装置を、それぞれ着脱自在に装着可能とし、複数のチャック装置はそれぞれ、鋼矢板の挿通孔と、挿通孔に挿通された鋼矢板をチャックするチャック部と、チャック装置を旋回させるために挿通孔の外周に配備されたチャックリングギアを有し、チャックリングギアとして同一形状のものを採用するとともに、それぞれ異なる継手ピッチの鋼矢板に対応したチャック部を有する」構成)を必須とする鋼矢板圧入引抜機の発明であって、チャック装置を交換可能にする以外の手段は、本件原出願当初明細書(甲第1号証)には記載も示唆もされていないから、本件出願は分割出願として不適法である旨主張する。

しかしながら、請求人の主張は以下のとおり採用できない。
(ア)本件原出願当初明細書(甲第1号証)には、「その理由の第1は、作業する鋼矢板15をチャックして圧入するためのチャック装置を、最大寸法の継手ピッチ19を有する鋼矢板15をチャックして旋回できるように構成する必要があるため、一定寸法範囲を超えた最小寸法の継手ピッチを有する鋼矢板15を同一のチャック装置を使用してチャックすると、具体的には図11に示す鋼矢板15において、継手ピッチ19が600mmの鋼矢板15をチャック可能なチャック装置で、継手ピッチ19が400mmの鋼矢板15をチャックして圧入・引抜作業を行おうとすると、チャック装置が鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉して、既設の鋼矢板の内、クランプ装置でクランプした先頭の鋼矢板の開放された継手に噛合させる位置に設置することができないためである。」(【0008】)、「その理由の第2は、鋼矢板圧入引抜機を既設の鋼矢板に自立させるとともに、既設の鋼矢板から反力を得るために既設の鋼矢板をクランプするクランプ装置が一定寸法範囲を超えた継手ピッチの寸法差を有する鋼矢板に対応してクランプできないためである。」(【0009】)、及び、「そこで本発明はこのような従来の鋼矢板圧入引抜機が有している課題を解決し、多様な継手ピッチの鋼矢板に対応可能な汎用性を有する鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法を提供することを目的とする。」(【0028】)と記載されているように、チャック装置に係る課題の他に、既設の鋼矢板をクランプするクランプ装置が一定寸法範囲を超えた継手ピッチの寸法差を有する鋼矢板に対応してクランプできないことを課題(クランプ装置に係る課題)とし、その課題を解決し、多様な継手ピッチの鋼矢板に対応可能な汎用性を有する鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法を提供することを目的とすることが記載されていると認められる。
(イ)そして、そのようなクランプ装置に係る課題を解決する手段として、上記(2)で述べたように、本件原出願当初明細書(甲第1号証)の段落【0052】?【0059】には、鋼矢板の継手ピッチが400mm、500mm、600mmのいずれであっても既設の鋼矢板の先頭からクランプ可能であるクランプ装置が具体的に記載されている。
(ウ)以上のとおり、本件原出願当初明細書には、クランプ装置に係る課題を認識し、その課題を解決する(手段を有する)クランプ装置を備えた鋼矢板圧入引抜機、すなわち本件発明1が記載されているといえる。
(エ)また、本件発明のクランプ装置は、チャック装置の構成とは関係なく、鋼矢板の継手ピッチが400mm、500mm、600mmのいずれであっても既設の鋼矢板の先頭からクランプすることが可能であって、クランプ装置自体の機能及び作用効果は、チャック装置の構成とは無関係に働くものといえる。
(オ)請求人は、チャック装置を交換可能にする以外の手段は、本件原出願当初明細書(甲第1号証)には記載も示唆もされていないから、本件出願は分割出願として不適法であると主張するが、上記(イ)ないし(エ)で述べたように、本件発明1で特定されているクランプ装置は、本件原出願当初明細書(甲第1号証)に記載されているものであり、また、クランプ装置に係る課題を解決するとともに、それ自体の機能及び作用効果は、チャック装置の構成とは無関係に働くものであるから、本件発明1がクランプ装置に特徴を有する発明であることを踏まえれば、本件原出願当初明細書に記載されたもので足りるといえる。
また、本件発明1が鋼矢板圧入引抜機であることを踏まえても、本件原出願当初明細書には、チャック装置を交換して鋼矢板を圧入引抜できる鋼矢板圧入引抜機の実施例(具体的な構成)が記載されているので、本件発明1は本件原出願当初明細書に記載されているといえる。
なお、当業者であれば、本件原出願当初明細書(甲第1号証)に記載されている従来技術、実施例から、本件特許の請求項4に記載の構成以外の手段も容易に着想し得るといえる。

2 新規性について
本件発明は、上記1で述べたように、分割要件を満たすものであるから、出願日の遡及は認められる。
したがって、請求人が本件の出願日が遡及しないことを前提として提出した甲第2号証(本件原出願の公開公報)は、本件出願日前に頒布された刊行物ではない。
よって、本件発明1、2、3、8及び9は、請求人が主張する理由及び証拠により新規性がないとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

第6 無効理由2(分割出願の要件違反に基づく、進歩性欠如)の検討
本件発明は、上記第5の1で述べたように、分割要件を満たすものであるから、出願日の遡及は認められる。
したがって、請求人が本件の出願日が遡及しないことを前提として提出した主引例である甲第2号証(本件原出願の公開公報)は、本件出願日前に頒布された刊行物ではない。
よって、本件発明1、2、3、8及び9は、請求人が主張する理由及び証拠により進歩性がないとはいえず、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

第7 無効理由3(サポート要件違反)の検討
1 本件発明1について
本件発明1の構成要件AないしE、I(鋼矢板圧入引抜機の構成)については、上記第2で摘記した本件特許明細書の段落【0038】ないし【0041】に記載されている。
また、本件発明1の構成要件FないしG(クランプ装置の構成)については、上記第2で摘記した本件特許明細書の段落【0052】ないし【0059】に記載されている。
以上のとおりであるから、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしている。

2 本件発明2、3、8及び9について
本件発明2、3、8及び9は、上記第2の1の請求項2、3、8及び9に記載された事項から特定されるものであって、本件発明1を直接又は間接的に引用し、構成要件を加えて限定するものであるが、それぞれの発明で特定(限定)した構成要件についても、上記第2で摘記した本件特許明細書の段落【0052】ないし【0064】に記載されているから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしている。

3 請求人の主張について
請求人は、本件発明1?3は、本件特許の請求項4に記載の構成要件を必須要件としない発明であり、しかも、本件特許明細書に記載のない「クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって、前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能としたこと」を課題解決手段とする発明であるから、いずれも、サポート要件に適合しない旨主張する。

しかしながら、請求人の主張は、上記第5の1の(3)で述べたことと同様の理由で採用できない。

第8 無効理由4(実施可能要件違反)の検討
1 本件発明1について
本件発明1の構成要件AないしE、I(鋼矢板圧入引抜機の構成)についての具体的な構成は、上記第2で摘記した本件特許明細書の段落【0038】ないし【0041】に記載されている。
また、本件発明1の構成要件FないしG(クランプ装置の構成)についての具体的な構成は、上記第2で摘記した本件特許明細書の段落【0052】ないし【0059】に記載されている。
以上のとおりであるから、本件発明1は、本件特許明細書に実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしている。

2 本件発明2、3、8及び9について
本件発明2、3、8及び9は、上記第2の1の請求項2、3、8及び9に記載された事項から特定されるものであって、本件発明1を直接又は間接的に引用し、構成要件を加えて限定するものであるが、それぞれの発明で特定(限定)した構成要件についての具体的な構成は、上記第2で摘記した本件特許明細書の段落【0052】ないし【0064】に記載されているから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしている。

3 請求人の主張について
請求人は、本件特許明細書には、請求項4に記載された構成を備える発明については、実施例に記載があるが、この構成を備えず、「クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって、前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能としたこと」を要件とする本件発明1?3につき、発明の効果を得るように実施することを可能にする記載が見出されないので、実施可能要件に適合しない旨主張する。

しかしながら、請求人の主張は、上記第5の1の(3)で述べたことと同様の理由で採用できない。

第9 むすび
以上のとおり、上記第5ないし第8において検討したとおり、本件発明1、2、3、8及び9について、請求人の主張する無効理由1ないし4には無効とする理由がないから、その特許は無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-14 
結審通知日 2016-06-16 
審決日 2016-06-28 
出願番号 特願2014-4293(P2014-4293)
審決分類 P 1 123・ 113- Y (E02D)
P 1 123・ 537- Y (E02D)
P 1 123・ 121- Y (E02D)
P 1 123・ 536- Y (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 富山 博喜  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 小野 忠悦
赤木 啓二
登録日 2015-06-19 
登録番号 特許第5763225号(P5763225)
発明の名称 鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 齋藤 誠二郎  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 増井 和夫  
代理人 田中 幹人  

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