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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1336058
審判番号 不服2016-12958  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-29 
確定日 2018-01-04 
事件の表示 特願2015-501000「協調マルチポイントを管理するための方法およびデバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月26日国際公開、WO2013/140244、平成27年 4月27日国内公表、特表2015-512576〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)3月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年3月19日 中国)を国際出願日とする出願であって、平成27年8月24日付けで拒絶理由が通知され、同年11月26日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年4月22日付けで拒絶査定されたところ、同年8月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。


第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年8月29日付けでされた手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
平成28年8月29日付けでされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成27年11月26日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「 拡張された参照信号受信電力(eRSRP)を報告する方法であって、
複数の移送ポイントによって送信されたチャネル状態情報参照信号(CSI-RS)を受信するステップと、
測定構成に基づいて、前記複数の移送ポイントによって送信されるCSI-RSのeRSRPを測定および評価するステップと、
前記測定されたCSI-RSのeRSRPに関する測定レポートを送信するステップとを含む方法。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「 拡張された参照信号受信電力(eRSRP)を報告する方法であって、
複数の移送ポイントによって送信されたチャネル状態情報参照信号(CSI-RS)を受信するステップと、
測定構成に基づいて、前記複数の移送ポイントによって送信されるCSI-RSのeRSRPを測定および評価するステップであって、前記測定構成の測定イベントは、前記測定された移送ポイントのCSI-RSのeRSRPがしきい値より良好かどうかを決定する、ステップと、
前記測定されたCSI-RSのeRSRPに関する測定レポートを送信するステップとを含む方法。」(下線は、請求人が手続補正書において補正箇所を示すものとして付加したとおり。)

という発明(以下、「補正後の発明」という。)にすることを含むものである。


2.補正の適否
(1)新規事項の有無、補正の目的要件、シフト補正の有無
本件補正後の発明は、「測定構成に基づいて、前記複数の移送ポイントによって送信されるCSI-RSのeRSRPを測定および評価するステップ」との発明特定事項が、「測定構成に基づいて、前記複数の移送ポイントによって送信されるCSI-RSのeRSRPを測定および評価するステップであって、前記測定構成の測定イベントは、前記測定された移送ポイントのCSI-RSのeRSRPがしきい値より良好かどうかを決定する、ステップ」との発明特定事項となったものである。そうしてみると、本件補正は本願発明の発明特定事項である「測定および評価するステップ」をさらに限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に該当する。
また、上記限定の内容は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)の請求項2、及び【0021】段落に記載された事項であるから、特許法第17条の2第3項の規定にも違反しない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)、及び同法第17条の2第5項第2号(補正の目的)の規定に適合している。また、特許法第17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反しないことも明らかである。
請求項11、14、及び24についての補正も同様である。

(2)独立特許要件
本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、補正後の発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて、以下に検討する。

[補正後の発明]
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項において、「補正後の発明」として認定したとおりである。

[引用発明]
原査定の拒絶理由に引用された、Alcatel-Lucent, Alcatel-Lucent Shanghai Bell, CoMP Operation and UE Mobility, 3GPP TSG RAN WG1 meeting#68 R1-120496, 2012年2月10日(以下、「引用文献1」という。)には、「CoMP Operation(CoMPの運用)」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

「・DL RSRP measured by the UE - If a TP has its own cell ID, the DL RSRP measurement can provide a suitable indication of radio link quality for determining whether to associate with the TP, in the same way as existing UE mobility procedures. For the case when TPs share the same cell ID, there are proposals to specify a new RSRP measurement based on CSI-RS [4]. Each UE would be configured with a “Candidate set” of non-zero power CSI-RS resources (corresponding to the TPs in its vicinity). For example in Figure 2, the UE could be configured with non-zero power CSI-RS resources of all TPs in the vicinity (e.g., CSI-RS-1, CSI-RS-2, CSI-RS-3, CSI-RS-4, CSI-RS-5, and CSI-RS-9). One way to achieve this is to configure the CSI-RS resources corresponding to all the TPs of the UE’s current cell (for example MeNB-1 could configure CSI-RS-1, CSI-RS-2, and CSI-RS-3 for the UE in Figure 2, and to use an existing event trigger mechanism, such as Event A4, to include additional CSI-RS resources from a neighboring cell. The UE will measure RSRP from all the configured CSI-RS resources and trigger reporting events when the defined condition is met. The candidate set of CSI-RS resources would be updated when the UE moves to a different coverage area. The advantage of this approach is that UE RSRP measurements would be available from all potentially relevant TPs. However, since rate matching would be performed around all configured CSI-RS resources (including both zero and non-zero power CSI-RS resources), the overhead from excluded REs in the CSI-RS subframe could become high if the number of configured CSI-RS resources were too high.」
(当審訳:「・UEによって測定されるDL RSRP - TPがそれ自身のセルIDを有する場合、DL RSRP測定は、既存のUEモビリティ手順と同じ方法で、TPに関連付けるかどうかを決定するための無線リンク品質の適切な表示を提供することができる。 TPが同じセルIDを共有する場合、CSI-RS [4]に基づいた新しいRSRP測定を指定する提案がある。各UEは、非ゼロ電力CSI-RSリソース(その近傍のTPに対応する)の「候補セット」で構成されることになる。例えば、図2において、UEは、周辺(例えば、CSI-RS-1、CSI-RS-2、CSI-RS-3、CSI-RS-4、CSI-RS-5、およびCSI-RS-9)のすべてのTPの非ゼロ電力により構成される。これを達成する1つの方法は、UEの現在のセルのすべてのTPに対応するCSI-RSリソースを構成し(例えば、図2においてMeNB-1はCSI-RS-1、CSI-RS-2、およびCSI-RS-3)、隣接セルからの追加のCSI-RSリソースを含めるために、イベントA4のような既存のイベントトリガメカニズムを使用する。UEは、設定されたすべてのCSI-RSリソースからRSRPを測定し、定義された条件が満たされたときに報告イベントをトリガする。CSI-RSリソースの候補セットは、UEが異なるカバレッジエリアに移動するときに更新される。このアプローチの利点は、UEのRSRP測定が、潜在的に関連性のあるすべてのTPから利用可能であるということである。しかし、レートマッチングが全ての構成されたCSI-RSリソース(ゼロおよび非ゼロの電力CSI-RSリソースを含む)のまわりで実行されるので、CSI-RSサブフレーム内の除外されたREからのオーバーヘッドは、構成されたCSI-RSリソースが高すぎる。」)(「2.1 CoMP configuration and reconfiguration」欄参照)
当審注:上記摘記事項には「One way to achieve this is to configure the CSI-RS resources corresponding to all the TPs of the UE’s current cell (for example MeNB-1 could configure CSI-RS-1, CSI-RS-2, and CSI-RS-3 for the UE in Figure 2, and to use an existing event trigger mechanism, such as Event A4, to include additional CSI-RS resources from a neighboring cell.」(下線部に注意)と記載され、括弧「)」が抜けているが、文意から「・・・・corresponding to all the TPs of the UE’s current cell (for example MeNB-1 could configure CSI-RS-1, CSI-RS-2, and CSI-RS-3 for the UE in Figure 2), and to use ・・・・.」の誤記であると解した。

上記摘記事項から、次のことがいえる。

a.上記摘記事項の、「DL RSRP measured by the UE(UEによって測定されるDL RSRP)」、及び「The UE will measure RSRP from all the configured CSI-RS resources and trigger reporting events when the defined condition is met.(UEは、設定されたすべてのCSI-RSリソースからRSRPを測定し、定義された条件が満たされたときに報告イベントをトリガする。)」との記載から、UEがRSRPを測定し、測定したRSRPを報告していることは明らかである。したがって、引用文献1には、UEがRSRPを報告する方法が記載されているということができる。
また、測定したRSRPを報告しているから、これは測定したCSI-RSのRSRPに関する報告を送信しているということができる。

b.上記摘記事項の「The UE will measure RSRP from all the configured CSI-RS resources and ・・・.(UEは、設定されたすべてのCSI-RSリソースからRSRPを測定し、・・・)」との記載によれば、UEはCSI-RSを受信してRSRPを測定しているといえる。また、上記摘記事項の「Each UE would be configured with a “Candidate set” of non-zero power CSI-RS resources (corresponding to the TPs in its vicinity). For example in Figure 2, the UE could be configured with non-zero power CSI-RS resources of all TPs in the vicinity (e.g., CSI-RS-1, CSI-RS-2, CSI-RS-3, CSI-RS-4, CSI-RS-5, and CSI-RS-9).(各UEは、非ゼロ電力CSI-RSリソース(その近傍のTPに対応する)の「候補セット」で構成されることになる。例えば、図2において、UEは、周辺(例えば、CSI-RS-1、CSI-RS-2、CSI-RS-3、CSI-RS-4、CSI-RS-5、およびCSI-RS-9)のすべてのTPの非ゼロ電力により構成される。)」との記載を参照すれば、各UEは複数のTPからCSI-RSを受信しているといえ、TPがCSI-RSを送信していることも明らかである。

c.上記摘記事項の「One way to achieve this is to configure the CSI-RS resources corresponding to all the TPs of the UE’s current cell・・・・, and to use an existing event trigger mechanism, such as Event A4, to include additional CSI-RS resources from a neighboring cell. The UE will measure RSRP from all the configured CSI-RS resources and trigger reporting events when the defined condition is met. (これを達成する1つの方法は、UEの現在のセルのすべてのTPに対応するCSI-RSリソースを構成し・・・、隣接セルからの追加のCSI-RSリソースを含めるために、イベントA4のような既存のイベントトリガメカニズムを使用する。UEは、設定されたすべてのCSI-RSリソースからRSRPを測定し、定義された条件が満たされたときに報告イベントをトリガする。)」との記載によれば、測定に際してイベントA4のような既存のイベントトリガメカニズムが使用されていることが明らかである。

したがって、摘記した引用文献1の記載を総合すると、引用文献1には以下のような発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明)
「 RSRPを報告する方法であって、
UEは複数のTPが送信したCSI-RSを受信し、
複数のTPが送信したCSI-RSのRSRPをイベントA4のような既存のイベントトリガメカニズムにより処理し、
測定したCSI-RSのRSRPに関する報告を送信する、方法。」


[対比]
補正後の発明を引用発明と対比すると、

a.引用発明は「RSRP」を報告する方法であって、補正後の発明のように拡張された参照信号受信電力(eRSRP)であることは明示されていないが、「拡張された参照信号受信電力(eSRSP)」も「参照信号受信電力(SRSP)」であるということはできるから、補正後の発明も引用発明も「参照信号受信電力(SRSP)」を報告する方法という点では共通する。

b.補正後の発明の「移送ポイント」に関しては、特許請求の範囲の記載のみでは用語の意義が定かではない。そこで本願明細書を参酌すると、本願明細書には次のように記載されている。
「【0015】セル1つだけまたは同じセル内の移送ポイント1つだけが、UEにサービスを提供する従来技術と異なり、CoMP通信システムでは、複数のセルまたは同じセル内の複数の移送ポイントがUEにサービスを提供する。協調セルまたは同じセル内の協調移送ポイントは、UEにCoMPソリューションを提供する協働セットを形成する。一般的に、これらのセルは同じ周波数帯域に属する。CoMP以外では、UEは、同じ周波数帯域の複数のセルまたは同じセル内の複数の移送ポイントからデータを受信する必要はなく、代わりに、UEは、単一のセル(すなわち主なセル)から物理ダウンリンク共有チャネル(PDSCH)および物理ダウンリンク制御チャネル(PDCCH)だけを受信する必要がある。他の態様では、既存の仕様において、RSRPは、単にCRSに基づいて測定され、その結果、異なる移送ポイントのRSRPに対する測定レポートを提供することができず、CoMPを維持するためにRSRPを使用することができない。
【0016】技術の開発および標準の更新のために、同じ機能を持つコンポーネントは通常、異なる名前を持つことに注意されたい。たとえば、LTEでは、当業者にとって、移送ポイントの言外の意味は、一般的に、移送ポイント、ポート、RHHなどを含む。」
当該記載からみて、「移送ポイント」は、CoMP通信システムにおいては、複数のセルまたは同じセル内に複数存在し、UEにCoMPソリューションを提供する協働セットを形成する送信ポイントとして理解できる。
一方、引用発明における「TP」は、上記摘記事項中の「For the case when TPs share the same cell ID,・・・(TPが同じセルIDを共有する場合・・・)」、「・・・corresponding to all the TPs of the UE’s current cell・・・(・・・UEの現在のセルのすべてのTPに対応する)」との記載によれば、セル内に複数存在すると解され、またCoMP動作を行っていることに照らせば技術常識からみて送信ポイントといえる。したがって、引用発明の「TP」は補正後の発明の「移送ポイント」に相当する。

c.補正後の発明には、「測定構成に基づいて」測定等を行うことについて、また「評価」を行うことについて、さらに「前記測定構成の測定イベントは、前記測定された移送ポイントのCSI-RSのeRSRPがしきい値より良好かどうかを決定する」ことについて特定がなされているに対して、引用発明にはこれに対応する明確な記載はなく、イベントA4のような既存のイベントトリガメカニズムにより処理されることが記載されているのみであるが、複数の移送ポイントによって送信されるCSI-RSのRSRPを測定するステップを有しているといえる点では両者は共通する。

d.引用発明における「測定したCSI-RSのRSRPに関する報告」は、「eRSRPに関する」ものと記載されてはいないものの、「測定したCSI-RSのRSRPに関する測定レポート」といえる点では補正後の発明の「測定された移送ポイントのCSI-RSのeRSRP」に対応する。

したがって、両者は以下の点で一致ないし相違すると認める。

(一致点)
「 参照信号受信電力(RSRP)を報告する方法であって、
複数の移送ポイントによって送信されたチャネル状態情報参照信号(CSI-RS)を受信するステップと、
前記複数の移送ポイントによって送信されるCSI-RSのRSRPを測定するステップと、
前記測定されたCSI-RSのRSRPに関する測定レポートを送信するステップとを含む方法。」

(相違点1)
「参照信号受信電力(RSRP)」に関して、補正後の発明では「拡張された参照信号受信電力(eRSRP)」となっているのに対して、引用発明では「拡張された参照信号受信電力(eRSRP)」であることが明示されていない点。

(相違点2)
補正後の発明では、「測定構成に基づいて」測定と評価を行っているのに対して、引用発明には「測定構成に基づいて」いる点と「評価」を行っている点について明記されておらず、さらに補正後の発明では「前記測定構成の測定イベントは、前記測定された移送ポイントのCSI-RSのeRSRPがしきい値より良好かどうかを決定する」のに対して、引用発明では「イベントA4のような既存のイベントトリガメカニズムにより処理」している点。


[判断]
上記相違点1について検討する。
本願の明細書に次の記載がある。
あ.「【0003】
第3世代パートナーシップ・プロジェクト(3GPP)で確認された重要なシナリオは、マクロ・セルの有効範囲において、各リモート無線ヘッド(RRH)によって作成される移送/受信ポイントは、マクロ・セルと同じセル識別子を持つということである。このシナリオでは、UEにデータを送信したり、またはUEからデータを受信したりするために、ネットワークは1つまたは複数の送信ポートを使用することができる。CoMP構成を促進し、ネットワークが崩壊するのを防ぐために、ネットワークは、UEによって提供されるこれらのポートに関する測定情報により協働セット(cooperating set)を確立するために適切なポートを選択し、協働セットを維持する必要がある。
【0004】
現在のプロトコル仕様によれば、参照信号受信電力(RSRP)は、測定周波数帯域でセル固有の参照信号(CRS)を運ぶリソースの電力貢献の線形平均として定義される。要するに、CRSのRSRPに対する測定だけが提供される。たとえば、3GPPのTS36.211[3]仕様によれば、アンテナ・ポート0にマッピングされたCRSは、RSRPを決定するために使用される。アンテナ・ポート1にマッピングされたCRSをUEが確実に検出できる場合、アンテナ・ポート1にマッピングされたCRSは、RSRPを一緒に決定するためにも使用することができる。上記の重要なシナリオでは、RRHのいずれもCRSを送信しないため、UEは、異なるRRHの経路損失値を取得することができず、マクロ・セルによって管理される基地局は、UEに対する適切なCoMP協働セットまたはCoMP測定セットを選択することができない。したがって、基地局がマルチポイントの協働セットまたは測定セットを管理するのを支援するために、異なるRRHを区別できる測定機構を開発する必要がある。」
い.「【0017】
本発明の一実施形態は、CoMPにおける移送ポイント/協働ポイントのCSI-RSのeRSRPのための測定機構、および測定に基づいてCoMP構成のために維持を提供する。eRSRPは、従来のRSRPとは異なり、CRSの測定に限定されず、代わりに、eRSRPは、任意の参照信号の測定に使用することができ、RSRPおよび/または参照信号の受信された品質を含む。」

上記あ.の記載によれば、現在のセル固有の参照信号(CRS)を測定する参照信号受信電力(RSRP)では、移送ポイント毎に得ることが出来ず、CoMP協働セットまたはCoMP測定セットの選択に利用できないという課題が存在する。これを、上記い.の記載に照らせば、従来のRSRPとは異なり、CRSの測定に限定しないことにより、移送ポイント毎に測定できるようにしたものがeRSRP、つまり「拡張されたRSRP」であると理解できる。
そうしてみると、引用発明におけるRSRPも、上記[引用発明]の項で摘記した記載を参照すれば、現在のセルのすべてのTPに対応するCSI-RSリソースからRSRPを測定し、CoMP動作を行うものであるから、補正後の発明のeRSRPと機能に差異はない。そして、これはすべてのTPに対応できるように拡張された参照信号受信電力ということができるから、補正後の発明の「拡張された参照信号受信電力(eRSRP)」と変わるところはない。
したがって、相違点1は実質的に相違するとはいえない。

上記相違点2について検討する。
測定や報告を行う際に一定の手順に従って行うことは一般的な技術事項にすぎず、UEに測定や報告を行わせるシステムにおいても、例えば、原査定の拒絶理由に引用された、Evolved Universal Terrestrial Radio Access (E-UTRA); Radio Resource Control (RRC); Protocol specification (Release 10), 3GPP TS 36.331 V10.5.0 (2012-03), 2012年3月14日(以下、「引用文献2」という。)に、
「5.5.1 Introduction」の欄に「The UE reports measurement information in accordance with the measurement configuration as provided by E-UTRAN. E-UTRAN provides the measurement configuration applicable for a UE in RRC_CONNECTED by means of dedicated signalling, i.e. using the RRCConnectionReconfiguration message.」
(当審訳: UEは、E-UTRANによって提供される測定構成に従って測定情報を報告する。 E-UTRANは、専用シグナリング、すなわちRRCConnectionReconfigurationメッセージを使用して、RRC_CONNECTED内のUEに適用可能な測定構成を提供する。)とあるように、測定構成に従って行うことが記載されている。そうしてみると、引用発明においても測定構成に基づいて行うようにすることは適宜構成できた程度の事項にすぎない。
また、引用発明はイベントA4のような既存のイベントトリガメカニズムを使用するものであり、イベントA4については、例えば上記引用文献2にも、
「5.5.4.5 Event A4 (Neighbour becomes better than threshold)
The UE shall:
1> consider the entering condition for this event to be satisfied when condition A4-1, as specified below, is fulfilled;
1> consider the leaving condition for this event to be satisfied when condition A4-2, as specified below, is fulfilled;
Inequality A4-1 (Entering condition)
Mn+Ofn+Ocn-Hys>Thresh
Inequality A4-2 (Leaving condition)
Mn+Ofn+Ocn+Hys<Thresh
The variables in the formula are defined as follows:
Mn is the measurement result of the neighbouring cell, not taking into account any offsets.
Ofn is the frequency specific offset of the frequency of the neighbour cell (i.e. offsetFreq as defined within measObjectEUTRA corresponding to the frequency of the neighbour cell).
Ocn is the cell specific offset of the neighbour cell (i.e. cellIndividualOffset as defined within measObjectEUTRA corresponding to the frequency of the neighbour cell), and set to zero if not configured for the neighbour cell.
Hys is the hysteresis parameter for this event (i.e. hysteresis as defined within reportConfigEUTRA for this event).
Thresh is the threshold parameter for this event (i.e. a4-Threshold as defined within reportConfigEUTRA for this event).
Mn is expressed in dBm in case of RSRP, or in dB in case of RSRQ.
Ofn, Ocn, Hys are expressed in dB.
Thresh is expressed in the same unit as Ms.」
(5.5.4.5 イベントA4(隣接セルがしきい値よりも良くなる)
1>以下の条件A4-1が満たされた場合、この事象の入力条件が満たされると考える。
1>以下の条件A4-2が満たされた場合に、このイベントが成立するための離脱条件を考慮する
不等式 A4-1 (入力条件)
Mn+Ofn+Ocn-Hys>Thresh
不等式 A4-2 (退出条件)
Mn+Ofn+Ocn+Hys<Thresh
Mnは、オフセットを考慮せずに、隣接セルの測定結果である。
Ofnは、隣接セルの周波数の周波数特有のオフセットである(すなわち、隣接セルの周波数に対応するmeasObjectEUTRA内で定義されるoffsetfreq)。
Ocnは、隣接セルのセル固有のオフセットである(すなわち、measObjectEUTRA内で定義されるcellIndividualOffset)であり、隣接セルに対して構成されていない場合にはゼロに設定される。
Hysは、このイベントのヒステリシスパラメータである(すなわち、このイベントのreportConfigEUTRA内で定義されたヒステリシス)。
Threshはこのイベントのしきい値パラメータである(つまり、このイベントのreportConfigEUTRAで定義されたa4しきい値)。
Mnは、RSRPの場合はdBm、RSRQの場合はdBで表される。
Ofn、Ocn、HysはdBで表される。
Threshは、Msと同じ単位で表される。)
(当審注:タイトルの「5.5.4.5 Event A4 (Neighbour becomes better than threshold)」における「Neighbour」は、文意から「Neighbour cell」と解した。)
とあるように、補正後の発明の「しきい値」に相当する「Thresh」と比較を行う技術である。そして同様の記述が引用文献2の旧バージョンである2010年12月21日公開のEvolved Universal Terrestrial Radio Access (E-UTRA); Radio Resource Control (RRC); Protocol specification (Release 10), 3GPP TS 36.331 V10.0.0 (2010-12)にも記載されていることを勘案すれば、当該技術は周知の技術にすぎない。そして、上記比較を行うことは補正後の発明の「評価する」ことに相当する。そうしてみると、相違点2とした構成は、引用発明において周知技術を参酌することにより、当業者が適宜構成できた程度のものにすぎない。

そして、補正後の発明が奏する効果も、引用発明及び周知技術から、容易に予測できる範囲内のものである。

よって、補正後の発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定によって、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。


3.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 本願発明について
1.本願発明
平成28年8月29日付けでされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は上記「第2 補正の却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりのものである。


2.引用発明
引用発明は、上記「第2 補正の却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で引用発明として認定したとおりである。


3.対比・判断
本願発明は補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2 補正の却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で検討したとおり、引用発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-08 
結審通知日 2017-08-10 
審決日 2017-08-23 
出願番号 特願2015-501000(P2015-501000)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 廣川 浩阿部 圭子▲高▼橋 徳浩  
特許庁審判長 近藤 聡
特許庁審判官 山本 章裕
川口 貴裕
発明の名称 協調マルチポイントを管理するための方法およびデバイス  
代理人 吉澤 弘司  
代理人 岡部 讓  

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