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審決分類 審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H01M
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  H01M
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01M
審判 全部無効 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  H01M
審判 全部無効 2項進歩性  H01M
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  H01M
管理番号 1336410
審判番号 無効2015-800084  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-03-30 
確定日 2017-09-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5436440号発明「ナノグラフェンプレートレットを主体とするリチウムイオン電池用複合負極化合物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5436440号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?19〕について訂正することを認める。 特許第5436440号の請求項1、3?10、13?19に係る特許についての本件審判の請求は、成り立たない。 特許第5436440号の請求項2、11、12係る特許についての本件審判の請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5436440号(以下「本件特許」という。)は、2008年11月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年11月5日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願(特願2010-533179号)であって、その請求項1?19に係る発明について、平成25年12月20日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対し、請求人 小松一枝から平成27年3月30日に、請求項1?19に係る発明の特許について無効審判の請求がなされたものであるところ、審判請求以降の手続は、次のとおりである。

平成27年 7月21日付け 審判事件答弁書、訂正請求書
同年 7月29日付け 手続補正書(方式)
同年11月27日付け 審理事項通知
平成28年 1月 8日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 2月19日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 2月29日付け 審理事項通知(2回目)
同年 3月14日付け 口頭審理陳述要領書(2回目)(請求人)
口頭審理陳述要領書(2回目)(被請求人)
同年 3月18日付け 無効理由通知、職権審理結果通知
同年 4月25日付け 意見書(請求人)
同年 5月13日付け 訂正請求書、意見書(被請求人)
同年 6月23日付け 審理事項通知(3回目)
同年 7月29日付け 口頭審理陳述要領書(3回目)(請求人)
同年 9月 9日付け 口頭審理陳述要領書(3回目)(被請求人)
同年 9月15日付け 審理事項通知(4回目)
同年10月 6日付け 口頭審理陳述要領書(4回目)(請求人)
口頭審理陳述要領書(4回目)(被請求人)
同年10月13日付け 審理事項通知(5回目)
同年10月21日 口頭審理陳述要領書(5回目)(請求人)
第1回口頭審理
同年11月18日付け 上申書(被請求人)
同年12月21日付け 上申書(請求人)
平成29年 1月16日付け 無効理由通知、職権審理事項通知
同年 2月17日付け 意見書(請求人)
同年 3月 9日付け 訂正請求書、意見書(被請求人)
同年 4月20日付け 弁駁書(請求人)

第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨・本件訂正の内容
被請求人が提出した、平成29年3月9日付け訂正請求書による訂正請求(以下、同訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)の趣旨は、本件特許第5436440号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?19について訂正することを求めるというものであって、本件訂正の内容は、以下の訂正事項1?5からなるものである。
なお、被請求人が提出した、平成27年7月21日付け訂正請求書による訂正請求(同年7月29日付け手続補正書(方式)により補正されている。)、及び、平成28年5月13日付け訂正請求書による訂正請求は、本件訂正がなされたため、いずれも、特許法第134条の2第6項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記グラフェンプレートレットは、単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であり」とあるのを、「前記グラフェンプレートレットは、単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上のものであり」に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項10に「合成炭素」とあるのを、「高分子炭素」に訂正する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項12を削除する。

2 訂正の適否についての判断
(1) 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?19について、請求項2?19は、いずれも請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1?19に対応する本件訂正後の請求項1?19は、一群の請求項に該当するものである。
したがって、本件訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

(2) 訂正事項1について
訂正事項1は、「ナノスケールの・・・グラフェンプレートレット」(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)について、「長さおよび幅が1μm以上のものであり」との記載により、その長さおよび幅を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項1に関連する記載として、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0016】には、「ナノスケールのグラフェンプレートレット(NGPs)」(当審注:下線は当審が付与した。以下同様である。)と記載されており、同【0017】には、「定義によれば、一つのNGPの厚さは100ナノメートル(nm)以下であり・・・NGPの長さと幅は一般に1?20μmであるがそれよりも大きくても小さくてもよい。」と、また、同【0034】には、「NGPの長さおよび幅は、通常は1μmおよび20μmの間であるが、それより長くても短くてもよい。」と記載されているから、NGPの長さおよび幅、すなわち、ナノスケールのグラフェンプレートレットの長さおよび幅が1μm以上のものであることは、本件明細書に記載されている事項であるといえる。
したがって、訂正事項1は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。

(3) 訂正事項3について
請求項11には、「前記高分子炭素」と記載されているものの、請求項11が引用する請求項10、及び、請求項10が引用する請求項1には、上記「前記高分子炭素」が示す文言は記載されていないところ、訂正事項3は、本件訂正前の請求項10に記載された「合成炭素」を「高分子炭素」とすることにより、上記「前記高分子炭素」が引用している文言を明瞭にするものであるといえるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、本件明細書の【0022】には、「上記物質(a)?(d)に加えて非晶質炭素または高分子炭素を剥離された黒鉛に結合させることができる。その複合物質(またはその主要な活性物質およびNGPs単独)は樹脂と混合されて前駆体複合物とされる。この前駆体複合物は、通常は500?1200℃に加熱され、樹脂は高分子炭素または非晶質炭素相に変換される。このように、本発明の負極物質の組成には、非晶質炭素相または高分子炭素を含むことができる。」(当審注:下線は当審が付与した。以下同様である。)と記載されているから、訂正事項3は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。

(4) 訂正事項2、4、5について
請求項2、11、12に係る訂正事項2、4、5は、いずれも請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5) 独立特許要件について
本件無効審判は、前記第1に示したとおり、本件特許の請求項1?19を対象としているので、訂正事項1?5には、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

(6) 請求人の主張について
請求人は、平成29年4月20日付け弁駁書の2頁11行?4頁25行において、訂正事項1による訂正について、本件明細書の【0034】の「NGPの長さおよび幅は、通常は1μm?20μmの間である」との記載を根拠に、本件明細書には、厚さが100nm以下であるように機械的切断されたグラフェンプレートレットの長さおよび幅は、通常は1μm?20μmの間に分布すると記載されており、ナノグラフェンプレートレットの長さおよび幅が20μmを超えるものは、本件請求項1の発明にいうグラフェングラフェンプレートレットとしては想定されていないものであり、訂正事項1による訂正は、本件明細書の範囲内で行われたものとはいえないから、新規事項を追加するものであり認められない旨主張している。
しかし、本件明細書の【0034】には、「NGPの長さおよび幅は、通常は1μmおよび20μmの間であるが、それより長くても短くてもよい。」と記載されているから、本件明細書の記載によれば、グラフェンプレートの長さおよび幅として、20μmを超えるものも許容されているといえる。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

3 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、特許法第134条の2第3項、同法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。

第3 本件発明
前記第2で検討したとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1、3?10、13?19に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1、3?10、13?19」といい、これらをまとめて、「本件発明」ということがある。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、3?10、13?19に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ナノグラフェンプレートレットを主体とするリチウムイオン電池用負極複合化合物であって、
a)リチウムイオンの吸収と脱離が可能なマイクロメートルスケールまたはナノメートルスケールの粒子または被覆と、
b)ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレットと備え、
前記グラフェンプレートレットは、単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上のものであり、
少なくとも前記粒子または被覆は、少なくとも前記グラフェンプレートレットの一つに物理的または化学的に結合され、前記グラフェンプレートレットの量は2?90質量%であり、前記粒子または被覆の量は98?10質量%であり、
前記粒子または被覆は、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質を含み、前記活性物質は下記(a)?(e)のいずれかから選択されたものであることを特徴とするリチウムイオン電池用負極複合化合物。
(a)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、およびカドミウム(Cd)
(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、およびCdの合金または金属間化合物であって、化学量論的組成と化学量論から外れた組成を含む
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、およびCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、またはテルル化物あるいはそれらの混合物または複合物
(d)Snの塩または水酸化物
(e)上記物質の組合せ
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記グラフェンプレートレットは、比表面積が100m^(2)/gを超え、平均厚さが10nm未満であることを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項4】
前記グラフェンプレートレットは、比表面積が500m^(2)/gを超え、平均厚さが2nm未満であることを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項5】
前記粒子の寸法は5μm未満であり前記被覆の厚さは5μm未満であることを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項6】
カーボンまたはグラファイトナノ繊維、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、活性化炭素粉末、およびそれらの組合せのいずれかからなる導電性混合物をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項7】
前記粒子または被覆は、主たる成分としてSnまたはSiを含有し、SnまたはSiの含有量は、前記粒子または被覆と前記グラフェンプレートレットの総重量に対して20質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項8】
前記粒子は、Si、Ge、Sn、Cd、Sb、Pb、Bi、またはZnを含有することを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項9】
前記粒子または被覆は実質的に非晶質かナノ結晶子を含むことを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項10】
非晶質炭素、高分子炭素、カーボンブラック、コールタールピッチ、石油ピッチ、またはメソフェーズピッチであって前記粒子または被覆と物理的接触をするものをさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項11】(削除)
【請求項12】(削除)
【請求項13】
正極と、請求項1に記載の複合化合物を含有する負極と、前記正極と前記負極との間の電解質とを備え、前記複合化合物はリチウムイオンの吸収および脱離が可能であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項14】
前記正極は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウム鉄燐酸塩、リチウムバナジウム燐酸塩、の1または2以上を含有することを特徴とする請求項13に記載のリチウム二次電池。
【請求項15】
正極と、請求項9に記載の複合化合物を含有する負極と、前記正極と前記負極との間の電解質とを備え、前記複合化合物はリチウムイオンの吸収および脱離が可能であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項16】
前記複合化合物は、高分子、コールタールピッチ、石油ピッチ、またはメソフェーズピッチ、コークス、またはそれらの派生物から選択されたバインダーを含有することを特徴とする請求項13に記載のリチウム二次電池。
【請求項17】
前記複合化合物は、高分子、コールタールピッチ、石油ピッチ、またはメソフェーズピッチ、コークス、またはそれらの派生物から選択されたバインダーを含有することを特徴とする請求項15に記載のリチウム二次電池。
【請求項18】
前記複合化合物は、負極化合物1グラムに対して600mAh以上の比容量を有することを特徴とする請求項13に記載のリチウム二次電池。
【請求項19】
前記複合化合物は、負極化合物1グラムに対して1000mAh以上の比容量を有することを特徴とする請求項13に記載のリチウム二次電池。」

第4 請求人の主張及び証拠方法、並びに、当審から通知した無効理由
1 請求人の主張の概要
(1) 請求人は、「特許第5436440号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め」、審判請求書とともに甲第1号証?甲第13号証を提出し、平成28年1月8日付け口頭審理陳述要領書とともに甲第14号証を提出し、同年3月14日付け口頭審理陳述要領書(2回目)とともに甲第15号証?甲第16号証を提出し、同年4月25日付け意見書を提出し、同年7月29日付け口頭審理陳述要領書(3回目)を提出し、同年10月6日付け口頭審理陳述要領書(4回目)とともに甲第17号証?甲第21号証を提出し、同年10月21日に口頭審理陳述要領書(5回目)とともに甲第22号証?甲第25号証を提出し、同年12月21日付け上申書とともに甲第26号証を提出し、平成29年2月17日付け意見書を提出し、同年4月20日付け弁駁書を提出しており、上記提出書類及び第1回口頭審理調書によれば、請求人は、以下の無効理由を主張するものである。

ア 本件訂正前の請求項1、2、7、8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由1-1」という。)。

イ 本件訂正前の請求項1?19に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由1-2」という。)。

ウ 本件訂正前の請求項1?19に係る発明は、甲第2号証に記載された発明(甲2A発明)及び甲第3号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由2」という。)。

エ 本件訂正前の請求項1、2、7、8、13、14、18、19に係る発明は、甲第2号証に記載された発明(甲2B発明)であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由3-1」という。)。

オ 本件訂正前の請求項1?19に係る発明は、甲第2号証に記載された発明(甲2B発明)及び甲第3号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由3-2」という。)。

カ 本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正前の請求項1?19に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由4」という。)。

キ 本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正前の請求項11に係る発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由5」という。)。

(2) 請求人の主張した前記無効理由1-1?無効理由5のうち、無効理由3-1は撤回されており、また、無効理由5も、請求項10に係る訂正が認められることを前提として撤回されている(請求人提出の平成28年3月14日付け口頭審理陳述要領書(2)2頁16?17行及び同頁20?21行参照。)

(3) 請求人が提出した平成28年7月29日付け口頭審理陳述要領書(3回目)の16頁4行?17頁12行における無効理由4に関する主張は、審判請求書における当初の請求の理由の要旨を変更するものであるから、特許法第131条の2第2項の規定により、許可しないとの決定がなされている(第1回口頭審理調書の審判長2参照。)。

(4) なお、請求人が、平成28年3月14日付け口頭審理陳述要領書(2回目)の8頁22行?9頁1行において、被請求人の陳述要領書での主張により、新たに生じた無効理由であるとする、請求項1の「分離または単離されたグラフェンプレートレット」との記載についての明確性違反の無効理由は、平成28年3月18日付け無効理由通知における「1-3-1」の理由と同旨である。

(5) また、請求人は、平成29年4月20日付け弁駁書4頁下から2行?6頁17行において、平成29年3月9日付けの請求項1に係る訂正が適法であることを前提に、本件訂正後の請求項1に係る発明について、明確性違反及びサポート要件違反の無効理由を予備的に主張している。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平9-249407号公報
甲第2号証:特開平8-273660号公報
甲第3号証:特開2003-249219号公報
甲第4号証:「ケミカルエンジニヤリング」、VOL.45、NO.2、平成12年2月1日、p.89-94
甲第5号証:特開2007-91487号公報
甲第6号証:特開2006-221830号公報
甲第7号証:特開2006-164779号公報
甲第8号証:特開2007-173008号公報
甲第9号証:特開2007-123141号公報
甲第10号証:特開2007-165061号公報
甲第11号証:特開平8-339798号公報
甲第12号証:特開2001-345122号公報
甲第13号証:特開2005-353309号公報
甲第14号証:「炭素の事典」、株式会社朝倉書店、2007年4月20日、p.376?377
甲第15号証:特開2005-41742号公報
甲第16号証:X-RAY CRYSTAL ANALYSIS VOL.X、No.6、p.661?697
甲第17号証:Surface Science、264、1992年、p.261?270
甲第18号証:「グラフェンが拓く材料の新領域」、初版、株式会社エヌ・ティー・エス、2012年6月12日、p.51?64
甲第21号証:「グラフェンが拓く材料の新領域」、初版、株式会社エヌ・ティー・エス、2012年6月12日、p.34?41
甲第22号証:講談社日本語大辞典、株式会社講談社、1989年11月6日、p.955
甲第23号証:広辞苑第四版、株式会社岩波書店、1991年11月15日、p.1274
甲第24号証:炭素 TANSO、No.180、1997年、p.235?238
甲第25号証:炭素 TANSO、No.195、2000年、p.410?413
甲第26号証:マグローヒル科学技術用語大辞典改訂第3版、株式会社日刊工業新聞社、2000年3月15日、p.1108、1650

なお、請求人は、甲第19号証及び甲第20号証に係る書証の申出を撤回し、被請求人は、当該撤回について同意している(第1回口頭審理調書の請求人陳述3、被請求人陳述4参照。)。

2 当審から通知した無効理由の概要
(1) 平成28年3月18日付け無効理由
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、以下のア、イの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。

ア 本件訂正前の請求項1に記載の「複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」について、通常の意味、若しくは、被請求人が主張するとおりの意味のいずれの意味に解釈しても、明確であるとはいえないから、請求項1に係る発明、及び、請求項1を引用する請求項2?19に係る発明は明確でない(以下、「当審無効理由1-1」という。)。

イ 本件訂正前の請求項2、12は、いずれも「複合化合物」という物の発明であるが、当該請求項2、12にはその物の製造方法が記載されており、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下、「不可能・非実際的事情」という。)が存在するともいえないから、請求項2、12に係る発明は明確でない(以下、「当審無効理由1-2」という。)。

(2) 平成29年1月16日付け無効理由
本件訂正前の請求項1には、「ナノグラフェンプレートレット」の形状について、その厚さのみが特定され、その長さ及び幅が特定されておらず、具体的にどのような形状(長さ及び幅)のものまで含み得るのか不明瞭であるから、請求項1に係る発明、及び、請求項1を引用する請求項3?11、13?19に係る発明は明確でないから、本件特許は、特許法第36条第6項2号の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである(以下、「当審無効理由2」という。)。

第5 被請求人の主張の概要
被請求人は、平成27年7月21日付け審判事件答弁書及び訂正請求書を提出し、同年7月29日付け手続補正書(方式)を提出し、平成28年2月19日付け口頭審理陳述要領書とともに乙第1号証?乙第2号証を提出し、同年3月14日付け口頭審理陳述要領書(2回目)とともに乙第3号証?乙第4号証を提出し、同年5月13日付け訂正請求書及び意見書を提出し、同年9月9日付け口頭審理陳述要領書(3回目)を提出し、同年10月6日付け口頭審理陳述要領書(4回目)とともに乙第5号証?乙第7号証を提出し、同年11月18日付け上申書を提出し、平成29年3月9日付け訂正請求書及び意見書を提出し、請求人の主張する理由及び証拠、並びに、当審から通知した無効理由によっては本件特許を無効とすることはできないと主張している。

[証拠方法]
乙第1号証:米国特許第8119288号明細書
乙第2号証:本件特許に対応する米国出願(出願番号:11/982672号、公開番号:2009/0117467号、特許番号:7745047号)の審査過程において2010年3月5日付けで提出された意見書
乙第3号証:永田員也、“ポリマー/導電性粒子2相系における粒子の径や形状がパーコレーション挙動に及ぼす影響”、日本ゴム協会誌、第77巻、第2号、2004年、p.54?59
乙第4号証:甲第1号証(公開番号:特開平9-249407号公報、出願番号:特願平8-58115号)の審査過程において平成16年5月11日付けで提出された意見書
乙第5号証:早稲田嘉夫、外1名、「X線構造解析 原子の配列を求める」、第3版、株式会社内田老鶴圃、2014年3月31日、p.115?126
乙第6号証:特許第4207230号公報
乙第7号証:特開平9-241013号公報

第6 甲号証の記載事項、及び、乙号証の記載事項
1 請求人が証拠方法として提出した甲第1号証?甲第18号証、甲第21号証?甲第26号証の記載事項は、それぞれ次のとおりである。
(1) 甲第1号証(特開平9-249407号公報)
(甲1ア) 「【請求項1】 少なくとも2G以上の粉砕加速度で粉砕混合された黒鉛粒子と、固体の元素微粒子と、からなり、
該黒鉛粒子は少なくとも40原子%含まれ、該元素微粒子は900nm以下の粒径であって該黒鉛粒子中に分散して存在していることを特徴とする黒鉛複合物。
【請求項2】 前記元素微粒子の元素はLi、Al、Sn、Pb、Cd、Ag、Au、Ba、Be、Bi、Ca、Cr、Cu、K、Mn、Mo、Nb、Ni、Na、Pd、Ru、Te、Ti、Pt、Pu、Rd、Zr、Zn、Se、Sr、Sb、Si、Tl、VGeまたはSである請求項1記載の黒鉛複合物。
・・・
【請求項5】 前記元素微粒子の少なくとも一部は、前記黒鉛粒子と層間化合物を形成している請求項1記載の黒鉛複合物。
・・・
【請求項7】 前記黒鉛粒子は、ラマンスペクトル測定で得られる波数1350cm^(-1)のラマンピークの半値幅が、黒鉛構造のa軸およびb軸を含む面内の結晶粒子サイズ(nm)(以下、Laと称する)の逆数と376との積に19.0を加えて計算される値よりも小さい値である請求項1記載の黒鉛複合物。
【請求項8】 前記Laは4.0nm以下である請求項7記載の黒鉛複合物。
【請求項9】 前記Laと黒鉛構造のc軸方向の結晶粒子サイズ(nm)(以下、Lcと称する)の逆数との積が0.15以上である請求項7記載の黒鉛複合物。
【請求項10】 リチウム2次電池の電極材料として使用される請求項1記載の黒鉛複合物。」

(甲1イ) 「【0009】
【発明の実施の形態】本発明の黒鉛粒子はその粒子の模式図を図1に示すように、ほぼ同じ形状、面積を持つ炭素の層がカラム状に積層して黒鉛構造を形成する結晶性の良い結晶粒子から構成されているのが好ましい。この黒鉛の微結晶粒子はそのラマンスペクトル測定で得られる波数1350cm^(-1)のラマンピークの半値幅が、黒鉛構造のa軸およびb軸を含む面内の結晶粒子サイズ(nm)(以下、Laと称する)の逆数と376との積に19.0を加えて計算される値よりも小さい値であることが好ましい。ラマンピークの半値幅が小さいことは結晶性が高く、結晶粒子径が比較的そろっていることを意味する。なお、本発明の黒鉛粒子の好ましいラマンピークの半値幅の範囲を図2の曲線Aの左下側の範囲として示すことができる。ここで図2はその縦軸に半値幅、横軸にLaを採ったものである。
【0010】さらには、本発明の黒鉛結晶のラマンピークの半値幅はLaの逆数と341との積に10.5を加えて計算される値よりも小さい値であることがより望ましい。なお、ここでLaは4.0nm以下であることが望ましく、黒鉛の微結晶粒子構造の層の積み重なりの厚さで定義される黒鉛のc軸方向の結晶粒子サイズLcの逆数とLaとの積(La/Lc)が0.15以上であることが望ましい。ここで(La/Lc)が0.15以上であることは、具体的には、この黒鉛の微結晶が層の積み重なった方向に比べて層面内方向に長い形状をもつことを意味する。
・・・
【0013】本発明の黒鉛粒子は黒鉛を原料とし、純度の高い天然黒鉛や、高配向性熱分解黒鉛(HOPG)のような黒鉛化度の高い人造黒鉛を用いることが望ましい。本発明の元素微粒子としての元素は、LiおよびLiと合金を形成する金属および非金属がある。ここでLiと合金を形成する金属としてはAl、Sn、Pb、Cd、Ag、Au、Ba、Be、Bi、Ca、Cr、Cu、K、Mn、Mo、Nb、Ni、Na、Pd、Ru、Te、Ti、Pt、Pu、Rb、Zr、Zn、Se、Sr、Sb、TlまたはVを挙げることができる。Liと合金を形成する非金属としてはSi、GeおよびSをあげることができる。また、この元素微粒子としての元素としてはLiと合金を形成しない金属または非金属でもよい。」

(甲1ウ) 「【0016】図4に本発明の黒鉛複合物の黒鉛粒子と元素微粒子とが微細に分散し、かつ一部の元素微粒子が黒鉛粒子と層間化合物を作っている状態を模式的に示す。本発明の黒鉛複合物を構成する黒鉛粒子は40原子%以上である必要がある。黒鉛粒子の割合が40原子%未満の場合、上記元素微粒子との微細分散が困難になる。また、黒鉛粒子の割合は99原子%以下が好ましい。上記元素微粒子の割合が1原子%未満の場合、上記元素微粒子の配合効果が少なく、黒鉛粒子単独の場合との差が少なくなる。」

(甲1エ) 「【0018】
【作用】本発明の黒鉛複合物は、黒鉛粒子の結晶性が良いためにリチウム2次電池の負極材料として使用されると、黒鉛粒子の層間に多量のリチウムイオンがインターカレートされる。さらに、水素、酸素等の不純物の量が少ないため、黒鉛粒子の末端に形成される水酸基やカルボキシル基が少なくなる。また、微細に分散した金属微粒子により導電性に優れた黒鉛複合物とすることができる。」

(甲1オ) 「【0022】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
(実施例1)黒鉛化度0.92の高配向性熱分解黒鉛(HOPG)粉末4.5gと、シリコンウエハーを粉砕し300メッシュで分級したもの1.1692g(黒鉛90原子%)とからなる原料粉末を調製し、これを遊星ボールミル(ステンレス製、容量80cc)に入れ、容器内の空気をアルゴンガスで置換して容器内を不活性雰囲気とし黒鉛の粉砕準備をした。これを150Gの粉砕加速度によって室温で0.5時間粉砕し、黒鉛粒子とシリコン微結晶からなる黒鉛複合物を得た。
【0023】得られた黒鉛複合物についてX線回折を行った。このとき、線源をCuKαとして測定を行った。測定により得られたX線回折プロファイルを図5に示す。図5で見られる鋭い回折ピークは、黒鉛複合物に含まれるシリコン微結晶によるものであり、炭化ケイ素等の副生成物を生成していないことを示す。この回折ピークより、シリコン微結晶の粒径を、数1によって求めた。なお、数1では、粒径はLで示し、回折角をθ、半値幅をβ、X線の波長をλとした。
【0024】
【数1】L=0.9(λ/β)cos^(-1)θ
その結果、黒鉛複合物中に含まれるシリコン微結晶の粒径は350nmであった。この結果より、900nm以下の粒径を有するシリコン微結晶が黒鉛複合物中に形成されていることがわかる。」

(甲1カ) 「【0032】・・・
(リチウム2次電池の作製、および電池の放電容量の測定)次に、この黒鉛複合物を4重量%のテフロン(PTFE)と混練した。そして、これら黒鉛複合物をそれぞれ、ニッケルからなる円板状の集電体(サイズ;直径15mm、厚さ50μm)上に圧縮成形して黒鉛複合物の圧粉体を集電体上に成形して試料極を形成した。これらの試料極を負極に用い、金属リチウムからなる対極(サイズ;直径15mm、厚さ1.8mm)および対照極(サイズ;2mm×0.5mm×3mm)を用い、電解液としては、エチレンカーボネイトとジエチレンカーボネイトとをそれぞれ体積比1:1で混合した溶液に1mol/lのLiPF_(6)を溶解した混合溶液1mlを用いてボタン形リチウム2次電池(サイズ;直径20mm、厚さ4mm)をそれぞれ作製した。」

(甲1キ) 「【0037】また、本発明の黒鉛複合物はLiおよびSi等の元素微粒子が微細に分散しているため、この黒鉛複合物をリチウム2次電池の負極材料として用いることにより、多量のLiと合金化した元素微粒子によりリチウムイオンが多量に充放電され、リチウム2次電池の放電容量が大きくなる。・・・」

(甲1ク) 「【図5】



(2) 甲第2号証(特開平8-273660号公報)
(甲2ア) 「【請求項1】ケイ素元素が表面に存在している炭素材料を活物質としたことを特徴とする電極。
【請求項2】該炭素材料が炭素繊維であることを特徴とする請求項1記載の電極。
・・・
【請求項4】請求項1?3のいずれかに記載の電極を負極に用いたことを特徴とする二次電池。
【請求項5】リチウム塩を電解質とした非水電解液を用いることを特徴とする請求項4記載の二次電池。」

(甲2イ) 「【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を有するものである。
【0011】「(1) ケイ素元素が表面に存在している炭素材料を活物質としたことを特徴とする電極。
【0012】(2) 上記1項に記載の電極を負極に用いたことを特徴とする二次電池。」
本発明の電極は、上記のように表面を被覆したことを特徴とするものであり、炭素材料の原料、製造法、その他の特性などは特に限定されるものではない。また、この電極を用いた二次電池の正極や電解液などのその他の構成要素も、特に限定されるものではない。
【0013】本発明において炭素材料の表面を被覆するケイ素化合物としては、特に限定されるものではなく、無機系および有機系いずれのケイ素化合物でも良い。
【0014】無機系のケイ素化合物としては、ケイ素の酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、ハロゲン化物などのほか、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属などのケイ素化合物が挙げられる。この中でもケイ素酸化物が好ましく用いられる。
・・・
【0016】・・・
炭素材料表面へのケイ素化合物の被覆方法としては、上述のような化学的被覆方法のほか、蒸着、スパッタリング、熱あるいはプラズマなどのCVD(化学蒸着法)でも被覆することが可能である。
・・・
【0018】本発明においては、上述のように様々な手法にて炭素材料表面にケイ素化合物を被覆できるものであるが、この炭素材料の表面に被覆したケイ素化合物は、その被覆状態を種々の分析方法により確認することができる。炭素材料の表面官能基と化学的に結合している場合は、X線光電子分光法(XPSもしくはESCA)によりケイ素の炭素化物あるいは酸化物として検出される。さらに、二次イオン質量分析法(SIMS)や反射赤外分光分析などにおいても分析可能である。・・・
【0019】本発明においては、ケイ素元素が表面に存在していればよいが、特に上記分析方法のうち、例えば、ESCAを用いて本発明の炭素材料を分析した場合、炭素原子数に対してケイ素原子数比が0.01以上、0.58以下であることが充放電特性向上の点で特に好ましい。
【0020】本発明の電極に用いられる炭素材料としては、原料や製法など特に限定されずに用いることができる。原料としては、石油や石炭などのコークスやピッチ、木材などの植物、天然ガスや低級炭化水素などの低分子量有機化合物、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、フェノール樹脂やフルフリルアルコール樹脂などの合成高分子などが挙げられ、これらを原料や用途に応じて耐炎化処理の後、700?3000℃で焼成する炭素化あるいは黒鉛化という処理を経て炭素材料が得られる。炭素材料の性質として、密度、結晶厚み(Lc)、結晶面間隔(d_(002) )、電気抵抗、強度、弾性率などが挙げられるが、これらは目的とする二次電池の電極特性に応じて適宜決めるべきものであり、特に限定されるものではない。これらの炭素材料の中で、ポリアクリロニトリル(PAN)から得られるPAN系炭素繊維、石炭もしくは石油などのピッチから得られるピッチ系炭素繊維、セルロースから得られるセルロース系炭素繊維、低分子量有機物の気体から得られる気相成長炭素繊維などが好ましく用いられる。特に、リチウムイオンのドーピングが良好で表面に被覆したケイ素化合物の効果が発揮できるという点で、PAN系炭素繊維、特に、東レ(株)製の”トレカ”Tシリーズ、または、”トレカ”MシリーズなどのPAN系炭素繊維やメゾフェーズピッチコークスを焼成して得られるピッチ系炭素繊維がさらに好ましく用いられる。また、いずれの炭素繊維においても、焼成温度の低い炭素繊維の場合に本発明のケイ素化合物を被覆することによる効果は大となるものである。
【0021】上記のように炭素材料として繊維を電極に用いる際には、炭素繊維を一軸方向に配置したり、布帛状やフェルト状の構造体にすることは、好ましい電極形態である。・・・
・・・
【0023】本発明の電極に炭素繊維を用いる際の炭素繊維の直径は、それぞれの形態を採り易いように決められるべきであるが、好ましくは0.01?1000μmの直径の炭素繊維が用いられ、0.1 ?10μmがさらに好ましい。また、異なった直径の炭素繊維を数種類用いることも好ましいものである。
・・・
【0025】本発明に用いられる正極は、少なくとも粉末の活物質と結着材とを含む混合物の成型体からなる。正極の活物質としては、特に限定されるものではない。例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニオブ酸リチウム、バナジン酸リチウムなどの遷移金属酸化物、硫化モリブデン、硫化チタンなどの遷移金属カルコゲン、あるいはこれらの混合物、あるいは、メルカプトチアジアゾールなどのジスルフィド化合物、また、ポリアルキレンオキシドやポリアルキレンスルフィド、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどのヘテロポリマ。ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレンなどの共役系高分子化合物などである。・・・
・・・
【0031】本発明に用いられる非水電解液中に含まれる電解質としては、特に限定されることなく用いることが可能であり、例えば、 LiClO_(4) 、LiBF_(4) 、LiPF_(6) 、LiCF_(3)SO_(3) 、 LiAsF_(6) 、LiSCN 、LiI 、 LiAlO_(4) などが挙げられる。特に、フッ素を含んだ電解質の場合に、本発明のケイ素化合物で表面を被覆した炭素材料の効果が発揮される。」

(甲2ウ) 「【0046】
【発明の効果】本発明により、表面にケイ素元素が存在した炭素材料を用いると充放電特性に優れた電極およびそれを用いた二次電池が得られる。」

(3) 甲第3号証(特開2003-249219号公報)
(甲3ア) 「【請求項1】 炭素表面に1?300nm厚さでコーティングした金属又は金属酸化物の薄膜若しくはクラスター層を含むことを特徴とするリチウム二次電池用炭素活物質。
【請求項2】 前記金属又は金属酸化物が、Li、Al、Sn、Bi、Si、Sb、Ni、Cu、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ag及びそれらの合金並びにそれらの酸化物からなる群から選択される、請求項1記載の炭素活物質。
【請求項3】 前記炭素が、黒鉛、コークス又はハードカーボンである、請求項1記載の炭素活物質。
【請求項4】 (a)100℃以下の温度でガス中で層を形成するように炭素粒子を浮遊させる工程と、(b)前記浮遊した炭素粒子層に金属塩又は有機金属化合物の溶液を噴霧して、炭素粒子上に金属塩又は有機金属化合物をコーティングする工程と、(c)前記金属塩又は有機金属化合物がコーティングされた炭素粒子を、水素、窒素及びアルゴンからなる群から選択されるガス雰囲気下で200?800℃の温度に加熱し、それにより金属又は金属酸化物をコーティングした炭素負極活物質を得る工程と、を含む請求項1記載の炭素活物質の製造方法。
【請求項5】 前記金属又は金属酸化物が、Li、Al、Sn、Bi、Si、Sb、Ni、Cu、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ag及びそれらの合金並びにそれらの酸化物からなる群から選択される、請求項4記載の方法。
・・・
【請求項9】 請求項1?3のいずれか1項記載の又は請求項4?8のいずれか1項記載の方法で製造した炭素活物質を含む炭素負極。」

(甲3イ) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、リチウム二次電池用の金属又は金属酸化物がコーティングされた炭素を含む負極活物質、その製造方法並びにそれを含む複合電極及びリチウム二次電池に関する。」

(甲3ウ) 「【0013】このような電池に注入された電解液の有機溶媒内において、本発明の炭素活物質は、良好な伝導性を有し、純粋な炭素材料の表面に形成される皮膜とは組成が異なる、安定な皮膜層を形成する。本発明の皮膜層は、電極構造中にリチウムイオンだけを挿入させて溶媒の侵入は抑制する。したがって、第1サイクル以降は、有機溶媒の分解反応はもはや起こらず、サイクル特性を改善し、よって、充放電による電極の容量低下を著しく減少することができる。また、炭素表面のクラスター又は薄膜中の金属又は金属酸化物は、従来の皮膜とは異なる組成の皮膜を電極表面に形成した後に、金属として存在する。したがって、炭素構造にリチウムが挿入されると発生する炭素格子定数の大きな変化によって生ずる電極の伝導性の低下を防止することができる。また、炭素活物質の表面へのSEI皮膜の形成を抑制することにより、電気伝導性を与える。その結果、電極の伝導性を向上することができる。」

(甲3エ) 「【0033】実施例1
100℃のオーブンで2時間乾燥させた10?100μmの大きさの炭素電極材料を、下部に多孔性の分散板及びノズルが装着された恒温コーティング槽に投入し、恒温コーティング槽の温度を100℃以下に維持した。・・・」

(4) 甲第4号証(「ケミカルエンジニヤリング」、VOL.45、NO.2、平成12年2月1日、p.89?94)
(甲4ア) 「結晶性の高い天然黒鉛は電気伝導性に優れ,絶縁性基板上の回路画描材(導電性ペースト),ブラウン管の光吸収用黒色マトリックス材等の導電性膜材料として広く用いられている^(1)).さらに近年では,パソコン,携帯電話バッテリーとして用いられるリチウムイオン二次電池の軽量負極材料として着目されている^(2)).電子材料の,微細化,軽薄短小化に対応するために,黒鉛の良好な特性(高電気伝導性,長時間安定性,耐熱性)を維持して,微小化することが重要なポイントとなる.
このためには,微粉体の接触抵抗の低減や,微細膜の電気的強度(許容電流値)を上げるために,結晶構造を維持しながら薄片状にサイズリダクション(厚さnm,大きさサブミクロンオーダのマイクロフレイクを生成)することが重要なキィテクノロジーとなる.」(89頁左欄2?17行)

(5) 甲第5号証(特開2007-91487号公報)
(甲5ア) 「【0003】
導電性材料には、単に一般的なカーボンブラックや金属紛のように球状粉体から成るものを用いるのではなく、該球状粉体をスタンプミル法等で加工し、薄片化および微粒子化された粉体が適用され始めている。この薄片状の粉体においては、該粉体の代表径と厚さとの比(「代表径/厚さ」;以下、アスペクト比と称する)によって薄片化度を評価でき、そのアスペクト比が大きくなるに連れて薄片化度は高くなり、該導電弾性物の導電性をより向上できるものとされている(例えば、非特許文献1)。
【0004】
なお、前記のアスペクト比は、薄片状の粉体の代表径や厚さをノギスやマイクロメータ等により実測して定義する方法が知られているが、例えばレーザー回折法による回折径X_(dif)や遠心沈降法による沈降径X_(st)を測定し、それら回折径X_(dif)や沈降径X_(st)を前記の代表径や厚さの換算値として適用し、該アスペクト比として定義(すなわち、回折径X_(dif)/沈降径X_(st)をアスペクト比として定義)する技術も知られている(例えば、非特許文献2)。」

(甲5イ) 「【0014】
したがって、前記のように、黒鉛粉体を導電性付与のために用いる場合において、まず黒鉛層間を拡張する目的で二元系黒鉛粉体を作成し、その二元系黒鉛粉体を粉砕して得た薄片状黒鉛粉体から成る導電性材料が適用されているものの、該導電性材料や導電弾性物が適用される技術分野の進歩に伴って、更なる改良が求められている。例えば、黒鉛粉体の結晶性を可能な限り損わないように粉砕して微粒子化し、薄片状黒鉛粉体のアスペクト比をより大きくすることが求められている。」

(甲5ウ) 「【0053】・・・ここで、X_(dif50)/X_(st50)の値を図1の回折径X_(dif)/沈降径X_(st)として適用すると、例えば試料S1のように三元系黒鉛粉体を4時間湿式粉砕した場合には回折径X_(dif)/沈降径X_(st)の値が13弱となり、アスペクト比が200?1000程度であることが読み取れ、極めて薄片化度の高い薄片状黒鉛粉体が得られることを判明した。」

(甲5エ) 「【0065】
図8に示す結果から、試料Q1,Q2,Q7?Q10,Q15においては、ストークス径X_(st)が小さくなるに連れて、体積固有抵抗値が増加する傾向を読み取れる。一方、試料R1?R4においては、試料Q1,Q2,Q7?Q10同様に、ストークス径X_(st)が小さくなるに連れて体積固有抵抗値が増加するものの、その増加傾向は該試料Q1,Q2,Q7?Q10よりも小さいことが読み取れる。
【0066】
したがって、試料R1?R4のような導電性弾性物によれば、例えば天然黒鉛粉体や二元系黒鉛粉体を粉砕して成る導電性材料を用いた導電性弾性物と比較して、より少量の導電性材料(湿潤性黒鉛粉体から成る導電性材料)によって該導電性弾性物に対し良好な導電性を付与できるため、より良好な弾性,柔軟性を得ることが可能となる。」

(6) 甲第6号証(特開2006-221830号公報)
(甲6ア) 「【請求項1】
リチウムを吸蔵放出可能な炭素材料粒子Aと、リチウムと合金化可能な材料からなる粒子Bとからなる非水電解液二次電池用負極活物質であって、
前記粒子Aは、その表面において窒素含有量が高く、
前記粒子Bは、前記粒子Aの表面に担持されていることを特徴とする負極活物質。
【請求項2】
前記粒子Bは、Siおよび/あるいはSnを含むことを特徴とする、請求項1記載の負極活物質。
・・・
【請求項5】
請求項1または2記載の負極活物質を用いることを特徴とする非水電解液二次電池。」

(甲6イ) 「【0015】
高容量材料3に含まれる元素としては、Al、Si、Zn、Ge、Cd、Sn、Pbなど多くの元素を挙げることができるが、吸蔵可能なリチウム量の多さや入手の容易さなどから、SiまたはSnが特に好ましい。SiまたはSnを含む高容量材料としては、単体の他にも、SiO_(x)(0<x<2)やSnO_(x)(0<x≦2)などの酸化物や、Ni-Si合金、Ti-Si合金、Mg-Sn合金、Fe-Sn合金など遷移金属元素との合金など、様々な材料を用いることができる。」

(7) 甲第7号証(特開2006-164779号公報)
(甲7ア) 「【請求項5】
前記カーボンブラックの比表面積は、800m^(2) /g以上であることを特徴とする請求項4記載の正極材料。」

(8) 甲第8号証(特開2007-173008号公報)
(甲8ア) 「【請求項7】
前記負極活物質は、グラファイト、カーボンブラックまたはカーボンナノチューブなどの炭素と混合されていることを特徴とする請求項1?6のいずれか1つに記載の非水電解液2次電池。」

(9) 甲第9号証(特開2007-123141号公報)
(甲9ア) 「【請求項10】
正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
前記負極は、負極集電体に、導電性粒子および結着材を有する導電性接着層を介して、負極活物質層が設けられ、
この負極活物質層は、構成元素としてケイ素を含む非晶質相を有する
ことを特徴とする電池。」

(10) 甲第10号証(特開2007-165061号公報)
(甲10ア) 「【請求項12】
前記主活物質層の金属粉末粒子表面がコールタールピッチの炭化物で被覆されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかの項に記載のリチウム二次電池用の電極構造体。」

(11) 甲第11号証(特開平8-339798号公報)
(甲11ア) 「【請求項1】 リチウムイオンを含有する非水電解質を使用する非水電解質二次電池用の負極であって、焼成することによりガラス状炭素化乃至黒鉛化する成分を高導電性炭素粉末の表面に適用した後に、非酸化性雰囲気下で500℃?3000℃で焼成することにより、前記高導電性炭素粉末の表面の少なくとも一部分に、ガラス状炭素化乃至黒鉛化した層を設けてなる粒子から構成されることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】 焼成することによりガラス状炭素化乃至黒鉛化する成分は、有機物である請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】 有機物が、ポリカルボジイミド樹脂、フェノール樹脂、ピッチ、コールタール、コークス、フラン樹脂、セルロース、ポリアクリロニトリル、レーヨン、ポリクロロアクリロニトリル等の内から選ばれた少なくとも1種の有機物である請求項2に記載の非水電解質二次電池用負極。」

(12) 甲第12号証(特開2001-345122号公報)
(甲12ア) 「【請求項5】 請求項1?4のいずれか1項に記載の二次電源の製造方法であって、X線回折法で測定した〔002〕面の面間隔が0.334?0.337nmの黒鉛系炭素表面に、有機化合物を化学蒸着法で析出させ、600?1300℃で熱処理して非晶質炭素を生成し、得られた炭素を負極に含有させることを特徴とする二次電源の製造方法。」

(13) 甲第13号証(特開2005-353309号公報)
(甲13ア) 「【請求項12】
該正極層、該無機固体電解質層および該負極層の少なくとも一層に高分子バインダーが含まれる、請求項1?11のいずれか1項に記載のリチウム電池素子。」

(14) 甲第14号証(「炭素の事典」、株式会社朝倉書店、2007年4月20日、p.376?377)
(甲14ア) 「c.構造
上述したように炭素繊維はいくつかのグレードがある.それぞれの機械的性質は,炭素繊維の構造を強く反映している.図5.25は炭素繊維の構造モデルである.図中の線は炭素芳香族平面を表す.・・・
これに対して,高性能炭素繊維中の炭素芳香族平面は繊維軸に沿って配向している.」(376頁1?7行)

(甲14イ) 図5.25で示したそれぞれの特徴的な構造は繊維破断面に明瞭に現れる.汎用炭素繊維と高弾性炭素繊維の破断面の顕微鏡写真を図5.26に示す.前者の破断面が平坦なのに対して,メソフェーズピッチでつくられる後者には,特徴的な組織が現れる^(37)).炭素芳香族平面が,繊維の中心から表面に向かって放射(ラジアル)状に配向している.繊維軸方向に対しては図5.25の高弾性率炭素繊維のように配向している.」(376頁下から3行?377頁2行)

(甲14ウ) 「

」(376頁)
(甲14エ) 「

」(376頁)

(甲14オ) 「

」(377頁)

(15) 甲第15号証(特開2005-41742号公報)
(甲15ア) 「【0057】
次ぎに、比較例1で得られた水素吸蔵材料のX線回折の測定結果を図5に示す。図5から明らかなように、比較例1では、グラファイトに起因する回折角(2θ)25度付近に、バックグラウンド強度1200CPSに対して、ピーク強度21000CPSの高いピークが観測された。従って、比較例1で得られた水素吸蔵材料は、測定結果より層間距離を換算した結果、層間距離が0.35nmであるグラファイト構造を有することが推定された。また、水素吸蔵能は0.3wt%であった。」

(16) 甲第16号証(X-RAY CRYSTAL ANALYSIS VOL.X、No.6、p.661?697)
(甲16ア) 「

」(693頁)

(17) 甲第17号証(Surface Science、264、1992年、p.261?270)
(甲17ア) 「

」(261頁8?16行)
(当審訳:STMにより、炭化水素の分解によってPt(111)上に形成されるグラファイト層の核生成、成長及び性質について新たな知見が得られた。エチレンで覆われた表面を800Kまでアニールすると、最初は該表面上に均一分散している微小なグラファイト島状部(直径約20?30Å)が形成される。さらに1000K超にアニールするとグラファイトが集積し、下方のステップの端に層が形成され、テラス部にも規則的な形状の大きい島状部が形成されることが観察された。高温下の炭化水素の分解によりPt表面に単層のグラファイトが形成されることが明らかとなった。特筆すべきことに、この「単層の」グラファイトのSTM画像ではグラファイト格子に含まれる6つの炭素原子のうち3つしか確認することができない。この結果は一般的なバルクグラファイト表面に関する非等価炭素原子の観点からは説明がつかない。グラファイト領域では超格子構造の周期性が最大22Åまで変動することが分かっているが、これは相対回転の異なるグラファイト格子とPt格子で尽数関係の次数が高くなることによる。)

(甲17イ) 「

」(263頁)
(当審訳:図2:900Kのアニール後、室温で得られたPt上グラファイトの1000Å×1000Å画像。この画像では、表面を一様に覆う20?30Åの微小な島状部が多数確認される。より大きい一部の島状部に見られる黒みを帯びた凹部が超格子構造の形成起点である。)

(甲17ウ) 「

」(264頁)
(当審訳:図3:1070Kのアニール後、室温で得られたPt上グラファイトの1000Å×1000Å画像。この画像では、テラス部に微小な島状部が多数残存し、下方のステップの端にもグラファイトの集積が見られる。この場合はグラファイト領域が十分大きいため、様々な周期性の超格子構造領域が相当程度確認される。)

(甲17エ) 「

」(264頁)
(当審訳:図4:1230Kのアニール後、室温で得られた1000Å×1000Å画像。グラファイトの大部分は下方のステップの端に存在し、テラス部には規則的な形状の大きい島状部がいくつか残存している。六角形のグラファイト島状部の各辺はPt基板の<110>方向と一致する。)

(18) 甲第18号証(「グラフェンが拓く材料の新領域」、初版、株式会社エヌ・ティー・エス、2012年6月12日、p.51?64)
(甲18ア) 「グラフェンの化学気相堆積(CVD:Chemical Vapor Deposition)法では,何らかの基板表面に原料ガスから直接にグラフェンを合成する技術である。・・・実用的なグラフェンCVD法は炭化水素に対し触媒効果を持つ基板を用いる「触媒CVD」と,マイクロ波などにより生成したラジカルを用いて触媒効果は持たない基板についてもグラフェン成長可能な「プラズマCVD」に分けられる。」(51頁2?7行)

(甲18イ) 「

」(53頁)

(19) 甲第21号証(「グラフェンが拓く材料の新領域」、初版、株式会社エヌ・ティー・エス、2012年6月12日、p.34?41)
(甲21ア) 「粘着テープからの試料の取外しには有機溶剤を用い,得られた試料を石英基板上に載せて電気伝導度などを測定した。伝導帯と価電子帯の重なり具合が試料の厚みに依存すること,厚みについては29nmにまで薄くできたことが報告されている。その後,同じグループは同様の方法で18nmの薄さにまで到達している^(2))。この厚みは,グラフェン層の枚数で考えると約50層に相当する。」(35頁2?6頁)

(20) 甲第22号証(講談社日本語大辞典、株式会社講談社、1989年11月6日、p.955)
(甲22ア) 「じょう-たい[状態]外から見た、そのときに物事のありさま。」(955頁)

(21) 甲第23号証(広辞苑第四版、株式会社岩波書店、1991年11月15日、p.1274)
(甲23ア) 「じょう-たい・・・【状態】物事がその時そうなっている(特に外面からもそれと分かる)ありさま。ようす。」(1274頁)

(22) 甲第24号証(炭素 TANSO、No.180、1997年、p.235?238)
(甲24ア) 「

」(235頁右欄16行?236頁左欄13行)
(当審訳:2.実験
本研究で測定を行った試料は全てKGの元のバルク結晶からなる。結晶のrrr値は32.3であった。本研究で使用したグラファイト結晶は良好と判断できる。
試料の調製手順は以下のとおりである。両面粘着テープで被覆したガラス板上にグラファイト結晶を固定し、この結晶表面に対し、別の両面粘着テープで被覆した小さい硬質ゴムブロックを当てて裂き、この操作を結晶が半透明になるまで繰り返した。結晶を有機溶媒中で洗浄して両面粘着テープから取り外した後は、グラファイト薄膜を水晶板上に置くだけで固定はせず、温度変化による歪みの影響が試料に及ばないようにした。
試料の厚さは、透過と厚さの理論的関係を参照しながらHe-Neレーザー波長の透過光強度を測定することにより求めた。透過光強度はグラファイトの垂直入射^(13))においてη(屈折率)=2.2、κ(吸光率)=1:4として算出した。薄膜中の均一部分を双眼顕微鏡^(9))下でブリッジ型試料に加工した。厚さの平均値からの偏差は最大20Å程度、表面積は0.05mm^(2)であった。導電性の銀塗料を電極として直径0.1mmの銀細線を試料に固定した。抵抗率は従来の四端子法により測定した。温度は4.2Kから室温までAu-Fe/クロメル熱電対を用いて測定した。)

(甲24イ) 「

」(237頁左欄)
(当審訳:図2:4.2Kの値で正規化した、各膜厚のKG試料の抵抗率と温度の関係。(a):厚さ590Å?1110Å、(b):厚さ290Å?590Å。(a)及び(b)の590Åの曲線は同じものである。実線の曲線は本文中に記載のモデルを使用して計算したものであり、290Å?590Åの実験データへの適合度が最も高い。)

(甲24ウ) 「

」(237頁右欄)
(当審訳:図4:バンドオーバーラップエネルギーE_(0)と膜厚の関係)

(甲24エ) 「

」(237頁右欄)
(当審訳:図5:定温における2つの緩和時間τ_(i)、τ_(L)の比τ_(i)Aと厚さの関係)

(甲24オ) 「

」(237頁右欄)
(当審訳:図6:緩和率1/τ_(L)、1/τ_(i)と厚さの関係)

(23) 甲第25号証(炭素 TANSO、No.195、2000年、p.410?413)
(甲25ア) 「

」(410頁左欄1?8行)
(当審訳:1.導入
グラファイト結晶は、その層構造のため簡単に裂くことができるので、我々は、その厚さがナノスケールであるかなりの薄層を実現することが期待できる。近年、我々は、実際に、約30nm?110nmの範囲の厚さの薄膜を作ることを成し遂げ、液体ヘリウム温度から室温までの電気抵抗率の温度依存性を測定した。)

(甲25イ) 「

」(410頁左欄下から6行?右欄10行)
(当審訳:2.実験
本研究で測定を行った試料は全て前回^(1))と同じキッシュグラファイト(KG)のバルク結晶からなるものであり、結晶の残留抵抗率(rrr)値は32.3であった。試料の調製手順も前回^(1))と同様であるが、試料の損傷を極力抑えるため、薄膜をブリッジ型試料に加工する手順は省略した。ホール係数及び横磁気抵抗効果の測定にはファンデルポー法^(4))を使用した。ファンデルポー法を利用すれば任意の形状の平らな試料について上記の測定を行うことが可能となる。したがって、薄膜の均一部分を使用する必要はあったが、前回使用した試料よりも面積が小さい極小試料について測定を行うことができた。磁場は4.2K?300Kの温度範囲で膜面に対して垂直に印加した。)

(甲25ウ) 「

」(411頁左欄)
(当審訳:図1:4.2Kにおける薄膜グラファイト結晶のホール係数R_(H)と磁場Bの関係。各試料の厚さは18nm、23nm、35nm、45nm。)

(甲25エ) 「

」(411頁左欄)
(当審訳:図2:4.2Kにおける薄膜グラファイト結晶の横磁気抵抗効果Δρ/ρ_(0)と磁場Bの関係。各試料の厚さは18nm、23nm、35nm、45nm。)

(甲25オ) 「

」(412頁左欄)
(当審訳:図4:様々な厚さにおける抵抗率と磁場Bの関係。低温時と高温時を比較し、温度は(a):4.2K、(b):300Kとした。)

(24) 甲第26号証(マグローヒル科学技術用語大辞典改訂第3版、株式会社日刊工業新聞社、2000年3月15日、p.1108、1650)
(甲26ア) 「分離 separation^(1),2)),segregation^(3))〔工学〕1.相を分離すること.気-液,固-気,固-液相分離などがある.2.ふるい(篩)分けで固体粒子を大きさによって分離すること.3.工程の流れを分離させておくこと.」(1650頁右欄33?36行)

(甲26イ) 「分離 separation〔化工〕蒸留,抽出などによる混合物中の液体または気体の分離.」(1650頁右欄45?46行)

(甲26ウ) 「単離 isolation〔化〕化合物や混合物から純粋な化学物質を分離すること.たとえば,蒸留,沈殿,吸収など.」(1108頁右欄49?50行)

2 乙号証の記載事項
被請求人が証拠方法として提出した乙第1号証?乙第7号証のうち、乙第4号証?乙第7号証の記載事項は、それぞれ次のとおりである。
(1) 乙第4号証(甲第1号証(公開番号:特開平9-249407号公報、出願番号:特願平8-58115号)の審査過程において平成16年5月11日付けで提出された意見書)
(乙4ア) 「2G以上の粉砕加速度で粉砕混合することにより、補正後の請求項5?7に記載の黒鉛構造が得られることは、たとえば、特開平9-241013号公報([0011]段落および実施例等参照)に記載されています。」(4頁下から8行?6行)

(2) 乙第5号証(早稲田嘉夫、外1名、「X線構造解析 原子の配列を求める」、第3版、内田老鶴圃、2014年3月31日、p.115?126)
(乙5ア) 「7.2 結晶粒の大きさと不均一歪みの測定
粉末結晶試料の平均の大きさが,0.5?10μm程度で,無秩序な方向を向いた集合体であれば,回折ピークは鋭く鮮明で,高角側ではKα二重線が分離して観測できる^([2]).このような粉末結晶試料において,通常,1個の結晶粒は複数の単結晶と見なせるような微細結晶からなり,この微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ぶ.図7.3に模式的に示すように,粒径(grain size)と結晶子の大きさとを混同しないように注意が必要である.結晶子の大きさは粒径と同じになることもあるが,粒径と結晶子は異なる物理量である.
X線構造解析の立場から結晶の大きさという場合は,通常,回折ピークをブロードにさせるような因子とかかわる大きさ,すなわち結晶子の大きさを指す.」(119頁6行?最下行)

(乙5イ) 「

」(119頁)

(乙5ウ) 「図7.5の回折X線のピークプロファイルにおいて,ピークの幅Bは,結晶の厚さtが薄くなるほど増大することが判明している.これらの関係は,次式のシェラー(Scherrer)の式として与えられている.このシェラーの式の導出は,以下のとおりである^([9]).
・・・

ピークの幅として積分幅ではなく,ピークの高さの1/2における幅を示す半価幅を採用した場合,式(7.13)にの代わりに,通常次式が用いられる.

なお,式(7.13)および式(7.14)におけるtの値は,回折ピークに対応する結晶面に対して垂直方向の結晶子の大きさを表している.」(121頁下から5行?123頁3行)

(乙5エ) 「

」(122頁)

(3) 乙第6号証(特許第4207230号公報)
(乙6ア) 「一般に、グラファイト粉末は、c軸方向が異なるいくつかの領域(多結晶粉末の結晶粒に相当)から構成され、各領域(即ち、c軸方向が同一のひとかたまりの領域)を結晶子という。」(5頁31?33行)

(乙6イ) 「得られたグラファイト粉末を、5μm以上45μm以下に篩い分けしてから、電極の作製に供した。篩い分けしたグラファイト粉末の粒度分布をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA LA-910)により測定したところ、いずれも平均粒径は15μm前後であった。」(11頁28?31行)

(乙6ウ) 「結晶子径は、マックサイエンス社製X線回折装置を用いて、加速電圧40kV、電流150mA、測定範囲20?90°の条件で測定した粉末法X線回折図の002回折ピークを日本国炭素学会で規定された学振洗に基づいて解析することにより求めた値である。」(11頁41?43行)

(4) 乙第7号証(特開平9-241013号公報)
(乙7ア) 「【0005】
・・・黒鉛構造のa軸およびb軸を含む面内の結晶粒子サイズ(nm)(以下、Laと称する)・・・
【0006】・・・なお、La、黒鉛構造のa軸およびb軸を含む面内の結晶粒子サイズ、は黒鉛構造の層面と平行方向の結晶粒子径で定義される。同様に、Lc、黒鉛構造のc軸方向の結晶粒子サイズ、は黒鉛構造の層の積み重なりの厚さで定義される。」

(乙7イ) 「【0015】
【実施例】・・・LaおよびLcは、X線回折によって得られたX線回折パターンから回折角θ、回折線の半値幅β、X線波長λを求め、これらの値からscherrerの式(結晶粒子サイズL=0.9λ/βcosθ)より求めた。・・・」

第7 当審の判断
1 まず、当審から通知した無効理由について検討する。
(1) 当審無効理由1-1について
ア 通常の意味に解釈することについて
まず、被請求人は、本件発明1の「複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」の「分離または単離」について、平成28年2月19日付け口頭審理陳述要領書3頁5?6行において、分離状態と単離状態との間には、実質的な差異はなく、「分離または単離」との表現は、類義語を繰り返しただけのものであると主張しており、この点について両当事者に争いはないから、上記「分離」と「単離」とは、同義であるとして、以下検討する。
本件発明1は、「複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」との発明特定事項を有するものであるところ、一般に「分離」とは、「分け離すこと」(広辞林<第五版>、1982年9月1日、株式会社三省堂、p.1761、広辞苑第五版、株式会社岩波書店、1998年11月11日、p.2388)を意味するものであることからすると、上記「複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」は、複数のグラフェンプレートレット同士が相互に独立して分け離された状態にあることを意味するものであると解することができる。
しかし、本件発明1における「リチウムイオン電池用負極複合化合物」が、「粒子または被覆」と、「グラフェンプレートレット」とを備えるものであり、全体としてみれば、粉体として認識されるものであることに鑑みれば、当該「リチウムイオン電池用負極複合化合物」において、複数のグラフェンプレートレット同士が相互に独立して分け離された状態のみならず、互いに隣接するグラフェンプレートレットに注目すると、物理的に接触している状態も取り得るものであることは自明の事項であるから、上記「複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」は、文言自体の通常の意味に基づいて解釈した、複数のグラフェンプレートレット同士が相互に独立して分け離された状態にあることを意味するものではないと解するのが相当である。

イ 被請求人が主張する意味に解釈することについて
(ア) 物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合)、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、不可能・非実際的事情が存在するときに限られると解するのが相当であるところ(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)、本件発明1に係る上記「複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」との記載は、製造に関して技術的な特徴が付された記載であって、「物の製造方法の記載」がある、すなわち、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するということができそうである。
しかし、上記最高裁判決が、上記不可能・非実際的事情がない限り明確性要件違反になるとした趣旨は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるが、そのような特許請求の範囲の記載は、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり、権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから、これを無制約に許すのではなく、上記不可能・非実際的事情が存在するときに限って認めるとした点にある。
そうすると、本件特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても、上記の一般的な場合と異なり、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明確であれば、あえて特許法第36条第6項第2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はない(知的財産高等裁判所判決平成28年(行ケ)第10025号参照。)。

(イ) そこで、本件発明1には、「複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」について、「単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上のもの」との構造が記載されているところ、上記「複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」と、上記構造との関係について、本件明細書の記載をみてみる。

(ウ) 本件明細書には、以下の記載がある。
「【0024】
ナノグラフェンプレートレットは、層状の黒鉛物質からなるグラフェンシートの層を層間挿入(intercalation)、剥離及び分離することで得られたものであり、黒鉛物質は、天然黒鉛、合成黒鉛、高配向熱分解黒鉛、黒鉛繊維、炭素繊維、カーボンナノ繊維、グラファイトナノ繊維、球状黒鉛または黒鉛小球、メソフェーズマイクロビーズ、メソフェーズピッチ、黒鉛コークス、高分子炭素のいずれかである。たとえば、天然黒鉛には、膨張黒鉛または安定化黒鉛の層間挿入化合物(GIC)を作製するときの一般的な条件との比較された条件下で層間挿入/酸化処理が施される。この処理は、例えば黒鉛粉を硫酸、硝酸およびカリウム過マンガン酸塩の溶液に好ましくは2?24時間浸して行う(詳細は後述する)。次いで生成物を乾燥し、GICに熱ショックをかけ(例えば1000℃で15?30秒)、剥離された黒鉛ウォームを得る。黒鉛ウォームは、剥離された黒鉛フレークが互いに接続されて連なったもので、黒鉛フレークは、1または多数のグラフェンシートを含んでいる。剥離されたグラファイトには、機械的切断が行われ(例えばエアーミル、ボールミル、または超音波処理)、剥離された黒鉛フレークは破断されてグラフェンシートに分離される(非特許文献36?49)。これらNGPsは、電気化学的活性物質粒子と混合され、あるいはプレートレットの表面に活性物質の被覆が設けられる。」
(なお、審理事項通知(2回目)の第4の1(2)イにおいて、被請求人に対して、上記「剥離された黒鉛フレーク」は、「黒鉛フレーク」の誤記ではないかと確認したところ、被請求人は、平成28年3月14日付け口頭審理陳述要領書(2回目)の3頁7?11行において、「剥離された黒鉛フレーク」は、「黒鉛フレーク」の誤記であると認める旨回答している。)
「【0034】
NGPは実質的には、一枚のグラフェン平面、または積層されてファンデルワールス力によって結合された複数枚のグラフェン平面から構成される。グラフェンシートまたは基礎平面と称される各グラフェン平面は、炭素原子の二次元六角形構造からなる。各平面は、グラファイト平面に平行な長さと幅を有しグラファイト平面に直角な厚さを有する。定義によって、NGPの厚さは、100nm以下であり、一枚のNGPシートは0.34nmである。NGPの長さおよび幅は、通常は1μmおよび20μmの間であるが、それより長くても短くてもよい。・・・」

(エ) 本件明細書の前記【0024】の記載によれば、グラフェンプレートレットは、層状の黒鉛物質からなるグラフェンシートの層を層間挿入し、剥離及び分離することにより得られるものであり、具体的な例としては、黒鉛物質に層間挿入を行って層間挿入化合物を形成し、この層間挿入化合物に熱ショックをかけて剥離した黒鉛ウォームを得て、ここで、黒鉛ウォームは、1又は多数のグラフェンシートを含む黒鉛フレークが互いに接続されて連なったものであり、この黒鉛ウォームに機械的破断(例えばエアーミル、ボールミルまたは超音波処理)を行うと、黒鉛フレークは破断されてグラフェンシートに分離され、以上によってグラフェンプレートレットが得られるものである。
また、同【0034】の記載によれば、NGPの厚さは、100nm以下であり、NGPの長さおよび幅は、通常1μm及び20μmであるが、それより長くても良いものである。
そうすると、グラフェンプレートレットは、1又は複数のグラフェンシートを含む黒鉛フレークが互いに接続されて一体的に連なったものである黒鉛ウォームから分離又は単離されることに得られるものであるから、複数のグラフェンプレートレットは、元は一体だったものから互いに分離又は単離されている状態にあるものといえる。そして、当該分離又は単離されている状態にあるグラフェンプレートレットは、単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上との構造を有するものである。
以上から、本件発明1の「複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」との記載は、元は一体だったものから「分離または単離された」ものであるとの状態を示す記載と、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上のものであ」るとの形状を示す記載とによって、その構造を明らかにしたものということができる。

(オ) したがって、本件発明1は、特許法第36条第6項第2号との関係で問題とされるべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームとみる必要はなく、この点を理由に請求項の記載が明確でない(不可能・非実際的事情がなく、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさない)とすることはできない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、平成28年10月6日付け口頭審理陳述要領書(4回目)の2頁17行?3頁14行において、本件発明の「前記グラフェンプレートレットは、単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であ」るとの形状は、公知の様々な方法で製造することができるものであり、例えば、甲第17号証、甲第18号証に示されるように、CVD法(気相化学成長法)によっても製造することができ、このCVD法で製造されたグラフェンプレートレットは、原料ガスから製造されるものであって、元は一体だったものから分離または単離されたものではないから、複数のグラフェンプレートレットが、それぞれの形状からみて、元は一体だったものから分離または単離されたものであることを認識することはできないので、単に状態を示しているとはいえず、上記「分離または単離された」との記載は、製造に関して技術的な特徴が付された記載に該当する旨主張している。
そこで、上記主張について検討するに、本件発明の「グラフェンプレートレット」は、前記イ(エ)で検討したように、元は一体だったものから分離または単離されたものであって、例えば、1又は複数のグラフェンシートを含む黒鉛フレークが互いに接続されて一体的に連なったものである黒鉛ウォームを機械的に破断することによって、複数のグラフェンプレートレットに分離されるものであるから、上記「グラフェンプレートレット」は、元は一体だったグラフェン同士が分離した面を備えているといえる。
一方、甲第17号証の前記(甲17ア)、及び、甲第18号証の前記(甲18ア)には、基板上に直接グラフェン(グラファイト)を成長することが記載されているから、「グラフェンプレートレット」は、CVD法によっても製造できるといえるものの、当該CVD法によって製造されたグラフェンプレートレットは、基板上に直接成長するものであるから、その表面は、基板にコンフォーマルな、グラフェンが成長した面を備えているといえる。
そうすると、本件発明の「グラフェンプレートレット」は、元は一体だったグラフェン同士が分離した面を備えているものであるのに対し、CVD法によって製造されたグラフェンプレートレットは、基板にコンフォーマルな、グラフェンが成長した面を備えているものであって、両者の表面形状は異なっているといえるから、それぞれの表面形状から、両者の違いを認識できるものと認められる。
そして、本件発明1の「複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」との記載は、前記イ(エ)で検討したように、元は一体だったものから「分離または単離された」ものであるとの状態を示すものであって、製造に関して技術的な特徴が付された記載には該当しない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

エ 以上のとおりであるから、請求項1に係る発明は明確である。
また、請求項1を引用する請求項3?10、13?19に係る発明も、同様の理由により明確である。

(2) 当審無効理由1-2について
当審無効理由1-2についての対象である請求項2、12は、いずれも本件訂正により削除されたから、当審無効理由1-2は解消している。

(3) 当審無効理由2について
本件訂正により、請求項1には、「グラフェンプレート」の「厚さが100nm以下であ」ることに加えて、「長さおよび幅が1μm以上であ」ることが特定されたから、「グラフェンプレート」の形状は明確となった。
したがって、請求項1に係る発明は明確である。
また、請求項1を引用する請求項3?10、13?19に係る発明も、同様の理由により明確である。

(4) 小括
以上のとおり、請求項1、3?10、13?19に係る発明は明確であるから、請求項1、3?10、13?19に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反して、特許されたものではないため、これらの特許を、当審から通知した無効理由によって無効にすることはできない。

2 次に、無効審判請求人が主張する無効理由について検討する。
(1) 甲号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
(ア) 甲第1号証の実施例である前記(甲1オ)には、高配向性熱分解黒鉛粉末4.5gと、シリコンウエハーを粉砕し300メッシュで分級したもの1.1692gとからなる原料粉末を調製し、これをボールミルに入れ、不活性雰囲気で、150Gの粉砕加速度によって室温で0.5時間粉砕し、黒鉛粒子とシリコン微結晶からなる黒鉛複合物を得たこと、その結果、黒鉛複合物中に含まれるシリコン微結晶の粒子は350nmであったことが記載されており、ここで、黒鉛複合物中の黒鉛粒子の量及びシリコン微結晶の量をそれぞれ計算すると、黒鉛粒子の量は、4.5/(4.5+1.1692)×100=79.4質量%、シリコン微結晶の量は、1.1692/(4.5+1.1692)×100=20.6質量%となる。

(イ) また、甲第1号証の前記(甲1カ)には、黒鉛複合物を負極に用いてリチウム2次電池を作製したことが記載されている。

そうすると、甲第1号証には、「粒径が350nmのシリコン微結晶と、
黒鉛粒子とからなり、
前記黒鉛粒子の量は79.4質量%であり、前記シリコン微結晶の量は、20.6質量%である、
リチウム2次電池用負極に用いる黒鉛複合物。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(ウ) 請求人の主張について
a 請求人は、平成28年7月29日付け口頭審理陳述要領書(3回目)の2頁下から8行?5頁11行において、甲第1号証の【0009】、【0010】(前記(甲1イ)参照)。)に記載されている「結晶粒子」及び「黒鉛の微結晶粒子」は、いずれも、「黒鉛粒子」のことを意味し、「黒鉛粒子」の厚さは、「約26.7nm以下」であると認定できる旨主張している。

a-1 そこで、前記aの主張について検討するに、まず、乙第5号証の前記(乙5ア)には、「粉末結晶試料において,通常,1個の結晶粒は複数の単結晶と見なせるような微細結晶からなり,この微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ぶ.図7.3に模式的に示すように,粒径(grain size)と結晶子の大きさとを混同しないように注意が必要である。結晶子の大きさは粒径と同じになることもあるが,粒径と結晶子は異なる物理量である.」と記載され、同(乙5イ)の図7.3には、結晶の粒径と結晶子の模式図が示されている。
そうすると、1個の結晶粒は、複数の、単結晶と見なせる微結晶である結晶子からなり、粒子の大きさ(粒径)と結晶子の大きさは異なる物理量といえる。
また、乙第6号証の前記(乙6ア)の記載によれば、グラファイト粉末は、一般に複数の結晶子からなるものであるといえ、同(乙6イ)及び(乙6ウ)の記載によれば、グラファイト粉末の粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定されるものであるのに対し、結晶子径は、X線回折装置を用いて測定した粉末法X線回折図の002回折ピークを日本国炭素学会で規定された学振洗(当審注:「学振洗」は「学振法」の誤記である。)に基づいて解析することにより求められるものであることが記載されている。ここで、上記グラファイトが黒鉛であることは技術常識であり、上記のとおり、グラファイト粉末は、結晶子径ではなくて、粒径が測定されるものであるから、黒鉛粒子であると認められる。
以上から、黒鉛粒子と結晶子とは、一般に異なるといえる。

a-2 次に、甲第1号証の【0009】、【0010】には、La及びLcについては、それぞれ、「黒鉛構造のa軸およびb軸を含む面内の結晶粒子サイズ(nm)(以下、Laと称する)」、「黒鉛の微結晶粒子構造の層の積み重なりの厚さで定義される黒鉛のc軸方向の結晶粒子サイズLc」と記載されていることから、上記「黒鉛の微結晶粒子」とは、a軸及びb軸を含む面内の層がc軸方向に積み重なったものであり、それは、乙第6号証の前記(乙6ア)の「一般に、グラファイト粉末は、c軸方向が異なるいくつかの領域(多結晶粉末の結晶粒に相当)から構成され、各領域(即ち、c軸方向が同一のひとかたまりの領域)を結晶子という」との記載からすると、「c軸方向が同一のひとかたまりの領域」、すなわち、「結晶子」のことであるといえる。
そうすると、上記【0009】に記載の「黒鉛の微結晶粒子構造の層の積み重なりの厚さで定義される黒鉛のc軸方向の結晶粒子サイズLc」は、結晶子のc軸方向のサイズであると解するのが相当である。

a-3 以上から、甲第1号証の【0009】、【0010】に記載されている「結晶粒子」及び「黒鉛の微結晶粒子」は、いずれも、「結晶子」のことを意味するものであって、「黒鉛粒子」のことを意味するものであるとはいえない。
したがって、請求人の前記aの主張は、裏付けのない主張にすぎない。

a-4 また、仮に、甲第1号証の【0009】、【0010】に記載されている「結晶粒子」及び「黒鉛の微結晶粒子」が、いずれも、「黒鉛粒子」のことを意味するものであるとしても、同【0010】には、「ここでLaは4.0nm以下であることが望ましく、黒鉛の微結晶粒子構造の層の積み重なりの厚さで定義される黒鉛のc軸方向の結晶粒子サイズLcの逆数とLaとの積(La/Lc)が0.15以上であることが望ましい。」との記載に続いて、「ここで(La/Lc)が0.15以上であることは、具体的には、この黒鉛の微結晶が層の積み重なった方向に比べて層面内方向に長い形状をもつことを意味する。」と記載されている。
ここで、(La/Lc)が0.15以上であるとの関係を満たす、例えば、(La/Lc)=0.15の場合、黒鉛の微結晶は、層の積み重なった方向に比べて層面内方向に短い形状をもつこととなり、(La/Lc)が0.15以上であることは、必ずしも、黒鉛の微結晶が層の積み重なった方向に比べて層面内方向に長い形状をもつことを意味するとはいえない。
そして、黒鉛の微結晶が層の積み重なった方向に比べて層面内方向に長い形状をもつためには、【0010】の上記記載とは異なり、(La/Lc)が1よりも大きいことが必要な条件である。
そうすると、【0010】の上記記載は、不合理であり、この不合理な【0010】の記載に基づいて、Lcの値、すなわち、黒鉛粒子の厚さを断定的に導出することは合理性を欠いている。
更に、請求人は、前記aの主張を、例えば、ボールミルによって粒子径が4.0nm以下の黒鉛粒子を得ることができることを認定し得る客観的かつ具体的な証拠によって裏付けているわけでもないから、請求人の前記aの主張は、合理的な主張であるとはいえない。

b 請求人は、平成28年7月29日付け口頭審理陳述要領書(3回目)の7頁16行?8頁下から7行において、仮に、甲第1号証の【0010】の記載から、黒鉛粒子の厚さが算出されないにしても、甲第1号証の実施例1における黒鉛複合物のX線プロファイルである図5(前記(甲1ク)参照。)には、Siによるピークが観察されているにもかかわらず、黒鉛に特徴的な26.4度付近のピークが見られないから、上記図5には、黒鉛の結晶性が著しく失われていることが示されており、このことは、グラフェンシートの積層方向の繰り返しパターンが失われていること、すなわち、黒鉛の厚さが減少していることに起因するものであり、実施例1の粉砕が極めて過酷な条件であることを踏まえれば、その厚さが100nm以下のものを含むことは、当業者であれば当然理解する旨主張している。
しかし、甲第1号証の前記(甲1ク)の図5には、以下に示すとおり(矢印(↓)で図示)、26.4度付近のピークは見られるから、同図5には、黒鉛の結晶が著しく失われていることが示されているとはいえず、請求人の上記主張は、合理性を欠いている。


c 以上のとおりであるから、請求人の前記a及びbの主張は採用できないので、甲第1号証には、前記(イ)で認定したとおりの甲1発明が記載されていると認められる。

イ 甲第2号証に記載された発明
(ア) 甲第2号証の前記(甲2ア)の請求項1、4及び5の記載によれば、ケイ素元素が表面に存在している炭素材料は、負極活物質であって、この負極活物質は、リチウムイオン電池に用いられることは明らかである。
したがって、甲第2号証には、「ケイ素元素が表面に存在している炭素材料からなるリチウムイオン電池用負極活物質。」の発明(以下、「甲2A発明」という。)が記載されていると認められる。

(イ) 甲第2号証の【課題を解決するための手段】である前記(甲2イ)の【0011】、【0012】、【0018】?【0021】、【0023】及び【0031】の記載によれば、好ましい直径が0.01?1000μmの炭素繊維である炭素材料の表面は、化学的被覆方法や蒸着、スパッタリング、熱あるいはCVD(化学蒸着法)によるケイ素化合物で被覆され、炭素原子数に対してケイ素原子数比が0.01以上、0.58以下とすることが好ましいとされているから、ケイ素化合物は、炭素材料と物理的又は化学的に結合されているといえ、また、ケイ素化合物が被覆されている炭素材料は、負極活物質であって、この負極活物質は、リチウムイオン電池に用いられることは明らかである。
したがって、甲第2号証には、「炭素材料と、
前記炭素材料の表面を被覆するケイ素化合物とからなり、
前記炭素材料は、直径0.01?1000μmの炭素繊維であり、
前記ケイ素化合物は、前記炭素材料と物理的又は化学的に結合され、前記炭素材料中の炭素原子数に対する前記ケイ素化合物中のケイ素原子数比が0.01以上、0.58以下である、
リチウムイオン電池用負極活物質。」の発明(以下、「甲2B発明」という。)が記載されていると認められる。

(2) 無効理由1-1及び1-2について
ア 本件発明1と甲1発明との対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲第1号証の前記(甲1オ)の【0022】の記載によれば、甲1発明の「黒鉛粒子」は、高配向性熱分解黒鉛粉末を原料とし、ボールミルで粉砕することにより得られたものであるから、高配向性の黒鉛粒子であるといえ、当該高配向性の黒鉛粒子が、グラフェンシートを重ねた層からなっていることは技術常識である。
一方、本件発明1の「グラフェンプレートレット」は、「単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層」である。
したがって、甲1発明の「黒鉛粒子」と、本件発明1の「ナノグラフェンプレートレット」とは、「単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層」及び「グラフェン」である点で共通する。

(イ) 甲1発明の「粒径が350nmのシリコン微結晶」は、ナノスケールの粒子であるといえる。
そして、本件発明1において、「ケイ素(Si)」は、「リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質」であるところ、甲第1号証の前記(甲1イ)の【0013】には、Liと合金を形成する非金属として、Siが挙げられており、また、同(甲1キ)には、「また、本発明の黒鉛複合物はLiおよびSi等の元素微粒子が微細に分散しているため、この黒鉛複合物をリチウム2次電池の負極材料として用いることにより、多量のLiと合金化した元素微粒子によりリチウムイオンが多量に充放電され、リチウム2次電池の放電容量が大きくなる。」と記載されていることからすると、甲1発明の「粒径が350nmのシリコン微結晶」は、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質であるといえる。
したがって、甲1発明の「粒径が350nmのシリコン微結晶」は、本件発明1の「リチウムイオンの吸収と脱離が可能な」「ナノメートルスケールの粒子」に相当する。
また、甲1発明の「粒径が350nmのシリコン微結晶」は、本件発明1の「リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質」、及び、「下記(a)?(e)のいずれかから選択されたもの」、「(a)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、およびカドミウム(Cd)
(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、およびCdの合金または金属間化合物であって、化学量論的組成と化学量論から外れた組成を含む
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、およびCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、またはテルル化物あるいはそれらの混合物または複合物
(d)Snの塩または水酸化物
(e)上記物質の組合せ」のうちの「ケイ素(Si)」に相当する。

(ウ) 甲1発明の「リチウム2次電池用負極に用いる黒鉛複合物」は、粒径が350nmのシリコン微結晶と、黒鉛粒子とからな」るものであるから、複合化合物であるといえる。
したがって、甲1発明の「リチウム2次電池用負極に用いる黒鉛複合物」は、本件発明1の「リチウムイオン電池用負極複合化合物」に相当する。

(エ) 甲1発明の「リチウム2次電池用負極に用いる黒鉛複合物」において、「前記黒鉛粒子の量は79.4質量%であり、前記シリコン微結晶の量は、20.6質量%である」から、「リチウム2次電池用負極に用いる黒鉛複合物」は、黒鉛粒子を主体とするものであるといえる。
また、甲1発明の「リチウム2次電池用負極に用いる黒鉛複合物」における「黒鉛粒子の量」である「79.4質量%」は、本件発明1の「リチウムイオン電池用負極複合化合物」における「ナノグラフェンの量」である「2?90質量%」の範囲に含まれており、また、甲1発明の「リチウム2次電池用負極に用いる黒鉛複合物」における「シリコン微結晶の量」である「20.6質量%」は、本件発明1の「リチウムイオン電池用負極複合化合物」における「粒子」「の量」である「98?10質量%」の範囲に含まれている。

(オ) 以上から、両者は、「グラフェンを主体とするリチウムイオン電池用負極複合化合物であって、
a)リチウムイオンの吸収と脱離が可能なナノメートルスケールの粒子と、
b)グラフェンと備え、
前記グラフェンは、単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって、
前記グラフェンの量は79.4質量%であり、前記粒子の量は20.6質量%であり、
前記粒子は、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質を含み、前記活性物質はケイ素(Si)であるリチウムイオン電池用負極複合化合物。」である点で一致し、以下の2点で相違する。

相違点1-1: 「リチウムイオン電池用負極複合化合物」において「主体」となる「グラフェン」が、本件発明1では、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」であるのに対して、甲1発明では、「黒鉛粒子」である点。

相違点1-2: 「リチウムイオン電池用負極複合化合物」において「主体」となる「グラフェン」以外のものが、本件発明1では、「少なくとも前記粒子または被覆」であり、「少なくとも前記グラフェンプレートレットの一つに物理的または化学的に結合され」ているのに対して、甲1発明では、「粒径が350nmのシリコン微結晶」であるが、「黒鉛粒子」と「物理的または化学的に結合され」ているか明らかではない点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点1-1について
a 前記ア(ア)での検討からすると、甲1発明の「黒鉛粒子」はグラフェンであるといえるところ、甲第1号証の前記(甲1オ)の【0022】の記載によれば、当該「黒鉛粒子」は、高配向性熱分解黒鉛粉末を遊星ボールミルで粉砕したものであるから、元は一体だったものから分離または単離されたグラフェン、すなわち、複数の分離または単離されたグラフェンであるといえるものの、甲第1号証には、「黒鉛粒子」の形状及びサイズ(厚さ、長さおよび幅)について、明瞭に認識できるような記載はなく、また、上記【0022】に記載された方法によって得られた「黒鉛粒子」が、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」であることを裏付ける証拠も提示されていない。
したがって、甲1発明の「黒鉛粒子」は、本件発明1の「ナノグラフェンプレートレット」であり、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」に相当するともいえない。
したがって、相違点1-1は、実質的な相違点である。

b そこで、相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項が、甲1発明及び甲第3号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて導出できるかについて検討する。
甲第1号証には、「黒鉛粒子」の形状及びサイズ(厚さ、長さおよび幅)について、明瞭に認識できるような記載はないから、当該「黒鉛粒子」を、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」とすることを動機付ける根拠がない。
また、請求人が提出したいずれの証拠をみても、リチウムイオン電池用複合化合物の黒鉛粒子を、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」とすることは記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明の「黒鉛粒子」を、「ナノグラフェンプレートレット」であって、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」とすること、すなわち、相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

c この点について、請求人は、平成28年7月29日付け口頭審理陳述要領書(3回目)の8頁下から6行?9頁3行において、仮に、「単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であるグラフェンプレートレットを備える」点が一致点ではなく相違点であったとしても、甲第3、4、5号証の記載を見て、黒鉛粒子の厚さを100nm以下まで薄片化することを動機付けられるから、相違点にかかる構成を想到することには格別の困難性はなく、また、本件明細書には、グラフェンプレートレットの厚さを100nm以下とすることの臨界的意義について何ら記載されていない旨主張し、さらに、平成28年12月21日付け上申書10頁下から5行?最下行において、甲第1号証の【0010】には、黒鉛の微結晶が板状であることが示唆されているから、厚さが100nm以下(例えば、100nm)である場合に、「長さおよび幅が1μm以上」とすることも当業者が適宜なし得た事項である旨主張している。
そこで、甲第3号証?甲第5号証、甲第1号証の記載事項について、順に検討する。

c-1 甲第3号証の前記(甲3ア)?(甲3エ)には、電極の導電性を向上させるために、リチウム二次電池用炭素活物質の表面に1?300nm厚さで金属又は金属酸化物の薄膜若しくはクラスター層をコーティングすること、及び、炭素電極材料の大きさが10?100μmであることが記載されているものの、甲第3号証には、炭素活物質として、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」を用いることは記載も示唆もされていないから、甲第3号証の記載から、甲1発明における「黒鉛粒子」の厚さを100nm以下まで薄片化することを動機付けられるとはいえない。

c-2 甲第4号証の前記(甲4ア)には、結晶性の高い天然黒鉛は電気伝導性に優れ、リチウムイオン二次電池の軽量負極材として着目されており、電子材料の、微細化、軽薄短小化に対応するために、黒鉛の良好な特性(高電気伝導性、長時間安定性、耐熱性)を維持して、微小化することが重要なポイントとなり、そのためには、微粉体の接触抵抗の低減や、微細膜の電気的強度(許容電流値)を上げるために、結晶構造を維持しながら薄片状にサイズリダクション(厚さnm、大きさサブミクロンオーダのマイクロフレイクを生成)することが重要なキィテクノロジーとなることが記載されているから、甲第4号証には、リチウムイオン二次電池の負極材として用いられる薄片状の天然黒鉛の厚さをnmオーダーとすることが記載されているといえるから、甲第4号証の記載から、甲1発明における「黒鉛粒子」の厚さを100nm以下まで薄片化することが動機付けられるといえなくもない。
しかし、上記「大きさサブミクロンオーダ」とは、天然黒鉛の結晶性を維持しながら薄片状にサイズリダクションしたマイクロフレイクの、長さおよび幅が1μmよりも小さいことを意味することは明らかであるから、甲第4号証には、薄片状の天然黒鉛の長さおよび幅を1μm以上とすることは記載も示唆もされていない。
したがって、甲第4号証の記載から、甲1発明の「黒鉛粒子」を、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

c-3 甲第5号証の前記(甲5ア)?(甲5ウ)には、黒鉛粉体を導電性付与のために用いる場合に、代表径と厚さとの比(アスペクト比)によって薄片化度を評価でき、そのアスペクト比が大きくなるに連れて薄片化度は高くなり、該導電弾性物の導電性をより向上できること、回折径X_(dif)/沈降径X_(st)をアスペクト比として定義する技術が知られていること、アスペクト比が200?1000程度であれば、極めて薄片化度が高いといえることが記載されているものの、甲第5号証には、黒鉛粉体を負極活物質に用いること、及び、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」とすることは記載も示唆もされていないから、甲第5号証の記載から、甲1発明における「黒鉛粒子」の厚さを100nm以下まで薄片化することを動機付けられるとはいえない。

c-4 前記(1)ア(ウ)aで検討したように、甲第1号証の【0010】に記載されている「黒鉛の微結晶粒子」は、「結晶子」のことを意味するものであって、「黒鉛粒子」のことを意味するものであるとはいえないから、同【0010】の記載から、黒鉛粒子の長さおよび幅を導出することはできないし、また、仮に、同【0010】の「黒鉛の微結晶粒子」が、「黒鉛粒子」のことを意味するものであるとしても、同【0010】の「ここで(La/Lc)が0.15以上であることは、具体的には、この黒鉛の微結晶が層の積み重なった方向に比べて層面内方向に長い形状をもつことを意味する。」との記載は不合理であるから、この不合理な【0010】の記載に基づいて、Laの値、すなわち、黒鉛粒子の長さおよび幅を断定的に導出することは合理性を欠いている。

c-5 以上のとおりであるから、甲第3号証?甲第5号証、甲第1号証の記載から、甲1発明の「黒鉛粒子」を、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、請求人の前記cの主張は採用できない。

(イ) 相違点1-2について
a 本件明細書の【0016】には、「本発明は、リチウム二次電池用負極(アノード)複合物質化合物である。化合物は、ナノスケールのグラフェンプレートレット(NGPs)が混合された電気化学的に活性な物質を含み、活性な物質とNGPsは、リチウムイオンの吸収と脱離が可能であることを特徴とする。」と記載され、また、同【0036】には、「電気化学的活物質(例えばSi粒子やフィルム)は、NGPsに接触しているか、結合されている」と記載されていることからすると、本件発明1における、「少なくとも前記粒子・・・は、少なくとも前記グラフェンプレートレットの一つに物理的・・・に結合され」ているとの状態は、グラフェンプレートレットと粒子を単に混合して、両者が物理的に接触している状態を含み得るといえる。
一方、甲第1号証の前記(甲1オ)の【0022】に記載されている黒鉛粒子とシリコン微結晶の製造工程によれば、甲1発明の「黒鉛粒子」と「シリコン微結晶」とが混合されていることは明らかであるから、両者は物理的に接触している状態となっているものと認められる。
そうすると、甲1発明は、少なくともシリコン微結晶は、少なくとも黒鉛粒子の一つに物理的に結合されているといえるものの、前記(ア)aで検討したように、甲1発明の「黒鉛粒子」は、本件発明1の「ナノグラフェンプレートレット」に相当するとはいえないから、相違点1-2は、実質的な相違点である。

b そこで、相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項が、甲1発明及び甲第3号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて導出できるかについて検討するに、前記(ア)bで検討したように、甲1発明の「黒鉛粒子」を、「ナノグラフェンプレートレット」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、甲1発明において、少なくとも微結晶シリコンを、少なくともナノグラフェンプレートレットの一つに物理的に結合させること、すなわち、相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(ウ) よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 本件発明3?10、13?19について
請求項1の全ての発明特定事項を有する本件発明3?10、13?19と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも前記相違点1-1及び1-2で相違している。
そうすると、前記イで検討したのと同様の理由により、無効理由1-1(特許法第29条第1項第3号)の対象である本件発明7、8は、甲第1号証に記載された発明ではないし、また、無効理由1-2(特許法第29項第2項)の対象である本件発明3?10、13?19は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

エ 小括
以上のとおり、請求項1、7、8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ではないし、また、請求項1、3?10、13?19に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1、7、8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものではないし、また、請求項1、3?10、13?19に係る特許は、同法同条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
したがって、これらの特許を、無効理由1-1及び1-2によって無効とすることはできない。

(3) 無効理由2について
ア 本件発明1と甲2A発明との対比・判断
(ア) 本件発明1の「ナノグラフェンプレートレット」は、炭素材料であるから、甲2A発明の「炭素材料」と、本件発明1の「ナノグラフェンプレートレット」とは、炭素材料である点で共通する。

(イ) 甲2A発明の「リチウムイオン二次電池用負極活物質」は、「ケイ素元素が表面に存在している炭素材料からなる」ものであるから、「炭素材料」を主体とするものであるといえる。

(ウ) 甲2A発明の「ケイ素元素」は、「炭素材料」の「表面に存在」するものであるから、「炭素材料」を被覆しているといえる。
そして、本件発明1において、ケイ素(Si)は、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質であるところ、甲2A発明の「ケイ素元素」は、「リチウムイオン二次電池用負極活物質」を構成するものであるから、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質であると認められる。
したがって、甲2A発明の「炭素材料」の「表面に存在」する「ケイ素元素」は、本件発明1の「リチウムイオンの吸収と脱離が可能な」「粒子または被覆」に相当する。
また、甲2A発明の「ケイ素元素」は、「リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質」、及び、「下記(a)?(e)のいずれかから選択されたもの」、「(a)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、およびカドミウム(Cd)
(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、およびCdの合金または金属間化合物であって、化学量論的組成と化学量論から外れた組成を含む
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、およびCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、またはテルル化物あるいはそれらの混合物または複合物
(d)Snの塩または水酸化物
(e)上記物質の組合せ」のうちの「ケイ素(Si)」に相当する。

(エ) 甲2A発明の「リチウムイオン二次電池用負極活物質」は、「ケイ素元素が表面に存在している炭素材料からなる」ものであるから、複合化合物であるといえる。
したがって、甲2A発明の「リチウムイオン二次電池用負極活物質」は、本件発明1の「リチウムイオン電池用負極複合化合物」に相当する。

(オ) 以上から、両者は、「炭素材料を主体とするリチウムイオン電池用負極複合化合物であって、
a)リチウムイオンの吸収と脱離が可能な被覆と、
b)炭素材料と備え、
前記被覆は、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質を含み、前記活性物質はケイ素(Si)であるリチウムイオン電池用負極複合化合物。」である点で一致し、以下の4点で相違する。

相違点2-1: 「リチウムイオン電池用負極複合化合物」において「主体」となる「炭素材料」が、本件発明1では、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」であり、「前記グラフェンプレートレットは、単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上のものであ」るのに対し、甲2A発明では、単に「炭素材料」であり、その構造や大きさが明らかではない点。

相違点2-2: 「被覆」について、本件発明1は、「マイクロメートルスケールまたはナノメートルスケール」であるのに対して、甲2A発明は、「ケイ素元素」のスケールがどの程度であるのか明らかではない点。

相違点2-3: 「炭素材料」と「被覆」との関係について、本件発明1は、「被覆」が、「少なくとも前記グラフェンプレートレットの一つに物理的または化学的に結合され」ているのに対し、甲2A発明は、「ケイ素化合物」が、「炭素材料の表面を被覆する」ものの、物理的または化学的に結合しているか明らかでない点。

相違点2-4: 「炭素材料」と「被覆」の質量比について、本件発明1は、「前記グラフェンプレートレットの量は2?90質量%であり、前記粒子または被覆の量は98?10質量%であ」るのに対し、甲2A発明は、それが明らかでない点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点2-1について
a 甲2A発明の「炭素材料」について、甲第2号証の前記(甲2イ)の【0020】には、「炭素材料の性質として、密度、結晶厚み(Lc)、結晶面間隔(d002 )、電気抵抗、強度、弾性率などが挙げられるが、これらは目的とする二次電池の電極特性に応じて適宜決めるべきものであり、特に限定されるものではない。」と記載されている。
しかし、甲第2号証には、上記「炭素材料」として、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」を用いることは記載も示唆もされていない。
また、請求人が提出したいずれの証拠をみても、リチウムイオン二次電池用負極活物質である炭素材料として、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」を用いることは記載も示唆もされていない。
したがって、甲2A発明の「炭素材料」として、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」を用いること、すなわち、相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

b この点について、請求人は、平成28年7月29日付け口頭審理陳述要領書(3回目)の10頁下から11行?11頁3行、11頁21行?最下行において、甲第2号証の請求項2等には、炭素材料が炭素繊維であることが例示されており、炭素繊維は、グラフェンシートを重ねたものであるから、甲2A発明においても、グラフェンプレートレットを積層した炭素材料を用いて「グラフェンプレートレットを主体とする」炭素材料との構成とすることは、当業者が容易になし得た事項であり、また、甲第3、4、5号証の記載を見た当業者は、炭素材料の厚さを薄くすること、具体的には、ナノスケールとすることを動機付けられるから、甲2A発明においても「ナノグラフェンプレートレットを主体とする」炭素材料とするとともに、その厚さを100nm以下とすることに格別の困難性はなく、しかも、甲第2号証には、炭素材料について、「本発明の電極に炭素繊維を用いる際の炭素繊維の直径は、それぞれの形態を採り易いように決められるべきであるが、好ましくは0.01?1000μmの直径の炭素繊維が用いられ、0.1 ?10μmがさらに好ましい。また、異なった直径の炭素繊維を数種類用いることも好ましいものである。」(【0023】)と記載されており、グラフェンシートを重ねた層の厚さが炭素繊維の直径よりも小さいことは、自明であるから、甲2A発明において、相違点2-3の「100nm」以下との構成を採用することは当業者が容易になし得た事項である旨主張し、さらに、平成28年12月21日付け上申書11頁2?8行において、当業者は、炭素繊維として、甲第14号証の図5.25(a)の高強度の場合に示されるようなグラフェンシートが積層されて板状となったものが方向を揃えて配置されたものを適宜用いることができ、「板状」を「長さおよび幅が1μm以上」とすることも当業者が適宜なし得た事項である旨主張している。
そこで、甲第2号証?甲第5号証、甲第14号証の記載事項について、順に検討する。

b-1 甲第2号証の前記(甲2ア)の【請求項2】には、「炭素材料が炭素繊維であること」が記載されており、同(甲2イ)の【0020】には、炭素材料の中で石炭もしくは石油などのピッチからなるピッチ系炭素繊維が好ましく用いられることも記載されている。
ここで、甲第14号証の前記(甲14ア)には、図5.25は炭素繊維の構造モデルであって、図中の線は炭素芳香族平面を表すこと、及び、高性能炭素繊維中の炭素芳香族平面は繊維軸に沿って配向していることが記載されており、この記載のとおり、同(甲14ウ)の図5.25の(a)高性能品の図には、高弾性率及び高強度のいずれも、炭素芳香族平面が繊維軸に沿って(図の上下方向に沿って)配向していることが看取できる。
また、同(甲14イ)には、メソフェーズピッチでつくられる高弾性炭素繊維は、図5.26の繊維破断面に示すように炭素芳香族平面が、繊維の中心から表面に向かって放射(ラジアル)状に配向しており、繊維軸方向に対しては図5.25のように配向していることが記載されており、この記載のとおり、同(甲14ウ)の図5.25では、高弾性率の炭素繊維は、炭素芳香族平面が積層していることが看取でき、また、同(甲14エ)の図5.26、及び、同(甲14オ)の図5.27では、ラジアル構造の高弾性率炭素繊維は、その断面において、炭素芳香族平面が、繊維の中心から表面に向かって放射状に配向していることが看取できる。そして、上記破断面及び断面(以下、単に「断面」という。)とは、繊維軸方向に対して垂直な面である。
さらに、同図5.26の(c)高弾性率炭素繊維(ラジアル構造)の写真、及び、同図5.27のラジアルの図によれば、高弾性率炭素繊維の断面の形状は、円形若しくは扇形である。
そうすると、ピッチ系炭素繊維は、炭素芳香族平面が、繊維の中心から表面に向かって放射状に配向しており、かつ、繊維軸方向に対して垂直な断面の形状が円形若しくは扇形であるから、その形状は、文字どおり繊維状のものであるといえるだけであり、当該炭素繊維は、グラフェンシートを重ねたものであるとの請求人の前記主張を裏付け得る技術事項は、甲第14号証には見当たらない。
一方、本件発明1の「ナノグラフェンプレートレット」は、「単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」であって、長さ又は幅に対する厚さの比、すなわち、アスペクト比が1μm/100nm=10以上であるから、その形状は、文字どおりプレート状のものであるといえる。
以上から、甲第2号証に記載されているピッチ系炭素繊維の形状は、繊維状であるのに対し、本件発明1の「ナノグラフェンプレートレット」の形状は、プレート状であるから、両者の形状は明らかに異なっている。
したがって、甲第2号証に記載されているピッチ系炭素繊維は、「ナノグラフェンプレートレット」であるとはいえないし、また、「単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」であるともいえない。
したがって、甲2A発明の「炭素材料」が、ピッチ系炭素繊維であるとしても、当該「炭素材料」を、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」とすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

b-2 前記(2)イ(ア)c-1で検討したように、甲第3号証には、炭素活物質として、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」を用いることは記載も示唆もされていない。また、前記(2)イ(ア)c-2で検討したように、甲第4号証には、薄片状の天然黒鉛の長さおよび幅を1μm以上とすることは記載も示唆もされていない。さらに、前記(2)イ(ア)c-3で検討したように、甲第5号証には、黒鉛粉体を負極活物質に用いること、及び、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」とすることは記載も示唆もされていない。
したがって、甲第3号証?甲第5号証の記載から、甲2A発明において、「ナノグラフェンプレートレットを主体とする」炭素材料とするとともに、その厚さを100nm以下、長さおよび幅を1μm以上とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

b-3 甲第14号証の前記(甲14ア)には、図5.25は炭素繊維の構造モデルであって、図中の線は炭素芳香族平面を表すことが記載されており、同(甲14ウ)の図5.25(a)には、高強度炭素繊維の構造モデルが示されているものの、同図の高強度炭素繊維においては、「炭素化」と記載されているから、同図中の線がグラフェンシートを示すものあるとは限らないし、また、当該構造モデルは、立体的な構造を示すものではないから、板状であることを示しているともいえない。
したがって、甲2A発明の炭素繊維として、同図5.25(a)の高強度炭素繊維を用いたとしても、グラフェンシートが積層されて板状となったものが得られるとはいえない。

b-4 以上のとおりであるから、甲第2号証?甲第5号証、甲第14号証の記載から、甲2A発明の「炭素材料」を、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」とすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、請求人の前記bの主張は採用できない。

(イ) 相違点2-3及び相違点2-4について
相違点2-3及び相違点2-4は、いずれも「炭素材料」と「被覆」に関するものであるところ、前記(ア)で検討したように、甲2A発明の「炭素材料」を、「ナノグラフェンプレートレット」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、同様の理由により、甲2A発明において、相違点2-3及び相違点2-4に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(ウ) 以上から、相違点2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3?10、13?19について
請求項1の全ての発明特定事項を有する本件発明3?10、13?19と甲2A発明とを対比すると、両者は、少なくとも前記相違点2-1?2-4で相違している。
そうすると、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明3?10、13?19は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
以上のとおり、請求項1、3?10、13?19に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1、3?10、13?19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
したがって、これらの特許を、無効理由2によって無効とすることはできない。

(4) 無効理由3-2について
無効理由3-1は、前記第4の1(2)に示したとおり、撤回されているので、無効理由3-2について検討する。
ア 本件発明1と甲2B発明との対比
本件発明1と甲2B発明とを対比する。
(ア) 本件発明1の「ナノグラフェンプレートレット」は、炭素材料であるから、甲2B発明の「直径0.01?1000μmの炭素繊維であ」る「炭素材料」と、本件発明1の「ナノグラフェンプレートレット」とは、炭素材料である点で共通する。

(イ) 甲2B発明の「リチウムイオン二次電池用負極活物質」は、「直径0.01?1000μmの炭素繊維であ」る「炭素材料」と、「前記炭素材料の表面を被覆するケイ素化合物とからな」るものであるから、「炭素材料」を主体とするものであるといえる。

(ウ) 甲2B発明の「ケイ素化合物」は、ケイ素を含むものである。
そして、本件発明1において、ケイ素(Si)は、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質であるところ、甲2B発明の「ケイ素化合物」は、「リチウムイオン二次電池用負極活物質」を構成するものであるから、「ケイ素化合物」に含まれるケイ素は、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質であると認められる。
したがって、甲2B発明の「前記炭素材料の表面を被覆するケイ素化合物」は、本件発明1の「リチウムイオンの吸収と脱離が可能な」「被覆」に相当する。
また、甲2B発明の「ケイ素化合物」に含まれるケイ素は、本件発明1の「リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質」、及び、「下記(a)?(e)のいずれかから選択されたもの」、「(a)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、およびカドミウム(Cd)
(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、およびCdの合金または金属間化合物であって、化学量論的組成と化学量論から外れた組成を含む
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、およびCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、またはテルル化物あるいはそれらの混合物または複合物
(d)Snの塩または水酸化物
(e)上記物質の組合せ」のうちの「ケイ素(Si)」に相当する。

(エ) 甲2B発明の「前記炭素材料の表面を被覆する」「前記ケイ素化合物は、前記炭素材料と物理的又は化学的に結合され」ているのに対し、本件発明1の「少なくとも前記粒子または被覆は、少なくとも前記グラフェンプレートレットの一つに物理的または化学的に結合され」ていることから、甲1発明と本件発明1とは、少なくとも被覆は、少なくとも炭素材料の一つに物理的にまたは化学的に結合されている点で共通する。

(オ) 甲2B発明の「リチウムイオン二次電池用負極活物質」は、「炭素材料」と、「前記炭素材料の表面を被覆するケイ素化合物とからな」るものであるから、複合化合物であるといえる。
したがって、甲2B発明の「リチウムイオン二次電池用負極活物質」は、本件発明1の「リチウムイオン電池用負極複合化合物」に相当する。

(カ) 以上から、両者は、「炭素材料を主体とするリチウムイオン電池用負極複合化合物であって、
a)リチウムイオンの吸収と脱離が可能な被覆と、
b)炭素材料と備え、
少なくとも前記被覆は、少なくとも前記炭素材料の一つに物理的または化学的に結合され、
前記被覆は、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質を含み、前記活性物質はケイ素(Si)であるリチウムイオン電池用負極複合化合物。」である点で一致し、以下の3点で相違する。

相違点3-1: 「リチウムイオン電池用負極複合化合物」において「主体」となる「炭素材料」が、本件発明1では、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「前記グラフェンプレートレットは、単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」であるのに対し、甲2B発明では、「直径0.01?1000μmの炭素繊維」である点。

相違点3-2: 「被覆」について、本件発明1は、「マイクロメートルスケールまたはナノメートルスケール」であるのに対して、甲2B発明は、「ケイ素化合物」のスケールがどの程度であるのか明らかではない点。

相違点3-3: 「炭素材料」と「被覆」の質量比について、本件発明1は、「前記グラフェンプレートレットの量は2?90質量%であり、前記粒子または被覆の量は98?10質量%であ」るのに対し、甲2B発明は、「前記炭素材料中の炭素原子数に対する前記ケイ素化合物中のケイ素原子数比が0.01以上、0.58以下である」点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点3-1について
a 前記(3)イ(ア)b-1で検討したように、甲第2号証に記載されているピッチ系炭素繊維の形状は、文字どおり繊維状のものであるのに対し、本件発明1の「ナノグラフェンプレートレット」の形状は、文字どおりプレート状のものであるところ、甲2B発明の「炭素繊維」の形状も、上記ピッチ系炭素繊維の形状と同様に、文字どおり繊維状のものであるといえる。
したがって、甲2B発明の「炭素繊維」は、本件発明1の「ナノグラフェンプレートレット」であるとはいえないし、また、「単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」であるともいえない。

b また、甲第2号証には、「炭素繊維」に代えて、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」を用いることは記載も示唆もされていない。
更に、請求人が提出したいずれの証拠をみても、リチウムイオン二次電池用負極活物質である炭素繊維に代えて、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」を用いることは記載も示唆もされていない。
したがって、甲2B発明の「炭素繊維」に代えて、「ナノグラフェンプレートレット」であり、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上の」「ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレット」を用いること、すなわち、相違点3-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(イ) 相違点3-3について
相違点3-3は、「炭素材料」と「被覆」の質量比に関するものであるところ、前記(ア)bで検討したように、甲2B発明の「炭素繊維」に代えて、「ナノグラフェンプレートレット」を用いることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、同様の理由により、甲2B発明において、相違点3-3に係る本件発明1の発明特定事項とすることも、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(ウ) 以上から、相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2B発明及び甲第3号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3?10、13?19について
請求項1の全ての発明特定事項を有する本件発明3?10、13?19と甲2B発明とを対比すると、両者は、少なくとも前記相違点3-1?3-3で相違している。
そうすると、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明3?10、13?19は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
以上のとおり、請求項1、3?10、13?19に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1、3?10、13?19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
したがって、これらの特許は、無効理由3-2によって無効とすることはできない。

(5) 無効理由4について
ア 請求人の主張
請求人が主張する無効理由4に係る特許法第36条第6項第1号違反は、次のとおりである(審判請求書61頁下から8行?63頁20行)。
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するかの判断は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載したものとを実質的に対比・検討することにより行われる。請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かを調べ、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると判断された場合は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載したものとが、実質的に対応しているとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定に違反することとなる。
そして、請求項は、発明の詳細な説明に記載された一又は複数の具体例に対して拡張ないし一般化した記載とすることができるが、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えないものとして拡張ないし一般化できる程度は、各技術分野の特性により異なり、物の有する機能・特性等と、その物の構造との関係を理解することが困難な技術分野(例:化学物質)では、それらの関係を理解することが比較的容易な技術分野(例:機械、電気)に比べ、発明の詳細な説明に記載された具体例から拡張ないし一般化できる範囲は狭くなる傾向がある。
これらのことを本件に当てはめると、本件発明が解決しようとする課題は、「長いサイクル寿命と、高い可逆的容量と、低い非可逆的容量とを備えたリチウムイオン電池用負極を提供する」ことである。本件発明は、物の有する機能・特性等と、その物の構造との関係を理解することが困難な技術分野に属するものであり、請求項に記載された構成から、発明の奏する効果をただちに理解することはできない。
すなわち、本件発明1における、「前記粒子または被覆は、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質を含み、前記活性物質は下記(a)?(e)のいずれかから選択されたものである」について、粒子、被覆、(a)?(e)のいずれを選択しても、本件発明が、発明の課題が解決できることを、何ら説明が記載されていなくても、当業者が認識できるとはいえない。
そこで、「前記粒子または被覆は、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質を含み、前記活性物質は下記(a)?(e)のいずれかから選択されたものである」と発明の課題の解決との関係についての説明について検討する。
本件明細書の記載を精査するに、この点については、段落[0016]に「電気化学的に活性な物質は、微粉末の形態・・・および/またはフィルム(被覆)の形態・・・であり、グラフェンプレートレットと接触または固着している。」と記載され、段落[0038]に、「本発明の電気化学的活物質は、好ましくは以下の物質群から選択される。
(1)・・・Li_(4-4.4)Si(3829?4200mAh/g)、・・・が選択された。
(2)Si、Ge、Sn、・・・、合金または金属間化合物。
(3)Si、Ge、Sn・・・の酸化物、炭化物、窒化物・・・
(4)Snの塩または水酸化物、例えばSnSO_(4)(600mAh/g)、・・・」と、化合物名が列記されているだけであり、粒子と被覆といった形態およびこれらの化合物と、「長いサイクル寿命と、高い可逆的容量と、低い非可逆的容量とを備えたリチウムイオン電池用負極を提供する」との発明の課題との関係は一切説明されていない。
さらに、実施例を見ても、
(a)金属として、Sn粒子、Si被膜、炭素コートSi粒子及びSnナノ粒子、
(b)合金または金属間化合物として、Si_(x)Sn_(q)M_(y)C_(z)等、
(c)酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、またはテルル化物あるいはそれらの混合物または複合物として、Sn、Pb、Ge、Si、Cdの酸化物等、
(d)Snの塩または水酸化物として、スズ塩化物
が記載されているものの、
(a)金属として、非炭素コートSi粒子、Sn被膜、Biの粒子又は被膜等、
(b)合金または金属間化合物として、Biの合金または金属化合物等、
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、およびCdのセレン化物、またはテルル化物あるいはそれらの混合物または複合物等、
(d)Snの塩または水酸化物として、Snの水酸化物、
(e)上記物質の組み合わせ
は、記載されていない。そして、本件明細書には、実施例の記載を拡張ないし一般化することを担保する技術常識や理論的説明は何も記載されていない。
従って、本件発明1及び本件発明2?19は、実施例の記載から拡張ないし一般化できる範囲を超えており、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反する。

イ 判断
(ア) 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから(知的財産高等裁判所特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照。)、このような観点に立って、以下検討する。

(イ) 特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比する。
a まず、本件明細書の発明の詳細な説明の記載について検討する。
a-1 本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

(本件ア) 「【技術分野】
【0001】
・・・
本発明は、ナノグラフェンプレートレットを主体とする二次電池用、特にリチウムイオン電池用の複合負極化合物に関する。」

(本件イ) 「【0007】
炭素ないし黒鉛基負極物質に加え、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、金属、合金、金属間化合物などリチウム原子およびイオンを収容可能な無機物質が負極への適用を検討されている。特に、組成式Li_(a)A(AはAlのような金属で「a」は0<a#5を満たす)で表されるリチウム合金は負極物質の候補として検討されている。そのような負極物質は、例えばLi_(4)Si(3829mAh/g)、Li_(4.4)Si(4200mAh/g)、Li_(4.4)Ge(1623mAh/g)、Li_(4.4)Sn(993mAh/g)、Li_(3)Cd(715mAh/g)、Li_(3)Sb(660mAh/g)、Li_(4.4)Pb(569mAh/g)、LiZn(410mAh/g)、Li_(3)Bi(385mAh/g)といった高い理論容量を有する。・・・」

(本件ウ) 「【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記した従来技術は、リチウムイオン電池の負極に必要とされる特性の全てないし殆どを有するものではない。したがって、長いサイクル寿命と、高い可逆的容量と、低い非可逆的容量とを備えたリチウムイオン電池用負極が要望されている。そのような物質を容易に製造することができる方法も要望されている。」

(本件エ) 「【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、リチウム二次電池用負極(アノード)複合物質化合物である。化合物は、ナノスケールのグラフェンプレートレット(NGPs)が混合された電気化学的に活性な物質を含み、活性な物質とNGPsは、リチウムイオンの吸収と脱離が可能であることを特徴とする。電気化学的に活性な物質は、微粉末の形態(500μmより小さく、好ましくは200μmより小さく、最も好ましくは1μmより小さい)、および/またはフィルム(被覆)の形態(好ましくは厚さが100nmより薄い)であり、グラフェンプレートレットと接触または固着している。
【0017】
NGPは、グラフェン面の単一のシートまたはグラフェン面の複数のシートを重ねた層であってファンデルワールス力によって互いに結合したものである。各グラフェン面は、グラフェンシートまたは基礎面と同義であり、炭素原子が二次元で六角形をなす構造を有している。各プレートは、黒鉛面に平行な長さと幅を有し、黒鉛面と直交する厚さを有している。定義によれば、一つのNGPの厚さは100ナノメートル(nm)以下であり、単一のシートからなるNGPは0.34nmという薄さである。NGPの長さと幅は一般に1?20μmであるがそれよりも大きくても小さくてもよい。NGPsは、無数の電気伝導路を形成し導電性を向上させ、負極の内部抵抗を低減する。NGPsの柔軟性と強度は、電気化学的に活性な物質からなる粒子または被覆の膨張および収縮の理想的な吸収ないし緩衝として機能する。NGPs自体はリチウムの吸収と脱離も可能である(これについては後述する)。
【0018】
電気化学的に活性な物質は、下記(a)?(e)のいずれかから選択されたものである。
(a)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、カドミウム(Cd)、好ましくは薄いフィルム(被覆)またはマイクロメートルスケールまたはナノメートルスケールの粒子の形態の結晶体または非晶質構造であり、被覆は好ましくは厚さが10μm未満でより好ましくは1μm未満のもの。
【0019】
(b)Si,Ge,Sn,Pb,Sb,Bi,Zn,Al,またはCdの合金または金属間化合物であって、化学量論的組成と化学量論から外れた組成を含む。
【0020】
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、またはCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、またはテルル化物あるいはそれらの混合物(酸化物どうしの化合物や複合酸化物を含む)または複合物。たとえば、SnOまたはSnO_(2)は、B、Al、P、Si、Ge、Ti、Mn、Fe、またはZnの酸化物と混合され、次いで熱処理が施されて複合酸化物とされる。複合酸化物は、メカニカルアロイング(例えばSnOおよびB_(2)O_(3)の混合物に対するボールミル)によっても得ることができる。SnOまたはSnO_(2)を単独で用いることは理論的容量が大きいことから推奨される。鉄の酸化物またはリン酸塩は、Li_(6)Fe_(2)O_(3)が1,000mAh/gという理論容量を有することから推奨される。最初のサイクルにおけるFe_(3)PO_(7)の容量は800mAh/gに達することが判明している。SnS_(2)の容量は620mAh/gという容量であり充放電サイクルの下で安定である。
【0021】
(d)Snの塩または水酸化物。例えば可逆的容量が600mAh/gのSnSO_(4)、Sn_(2)PO_(4)Cl(40サイクル後で300mAh/g)、Sn_(3)O_(2)(OH)_(2)(300mAh/g)などがある。
【0022】
上記物質(a)?(d)に加えて非晶質炭素または高分子炭素を剥離された黒鉛に結合させることができる。その複合物質(またはその主要な活性物質およびNGPs単独)は樹脂と混合されて前駆体複合物とされる。この前駆体複合物は、通常は500?1200℃に加熱され、樹脂は高分子炭素または非晶質炭素相に変換される。このように、本発明の負極物質の組成には、非晶質炭素相または高分子炭素を含むことができる。あるいは、非晶質炭素相は、化学的蒸気蒸着、化学的蒸気浸透、または有機前駆物質を熱分解して得ることもできる。
【0023】
上記(a)?(d)に例示した電気化学的に活性な物質は、微粒子または薄フィルムの形態で負極物質として単独でまたは高分子バインダーとともに用いられたとき、破砕とサイクル安定性の低さという問題に直面する。NGPsと混合して複合物質を構成すれば、得られた負極は、黒鉛の可逆的容量(372mAh/g)よりもかなり高い可逆的容量と、低い非可逆的容量ロスと、低い内部抵抗と、早い充放電時間を示す。NGPsは機械的に柔軟であり、リチウムの侵入および侵出によってもたらされる応力および歪みを吸収ないし緩和する作用を有するものと推察される。活性物質流失の大きさまたは被覆の厚さは1μm未満であるから、リチウムイオンの移動距離が短縮される。負極はリチウムを速やかに収容するとともに放出するので高出力である。このことは、電気自動車のような高出力な用途に用いられる電池にとって大きな利点である。NGPsは、活性物質粒子どうしを分離または単離する機能も有し、微粒子どうしが含着または焼結するのを防止する。また、その量が体積比のしきい値(浸透状態)に達すると、NGPsは連続した電子伝導路を形成し、内部エネルギー損失と内部発熱を著しく低下させる。
【0024】
ナノグラフェンプレートレットは、層状の黒鉛物質からなるグラフェンシートの層を層間挿入(intercalation)、剥離及び分離することで得られたものであり、黒鉛物質は、天然黒鉛、合成黒鉛、高配向熱分解黒鉛、黒鉛繊維、炭素繊維、カーボンナノ繊維、グラファイトナノ繊維、球状黒鉛または黒鉛小球、メソフェーズマイクロビーズ、メソフェーズピッチ、黒鉛コークス、高分子炭素のいずれかである。・・・
【0025】
・・・分離されたNGPsは、プレートレットと他の成分、すなわち本発明の説明で引用した電気化学的に活性な粒子ないし被覆との間で均一な混合が容易である。・・・」

(本件オ) 「【発明を実施するための形態】
・・・
【0037】
電気化学的活物質(例えばSi粒子やフィルム)は、NGPsに接触しているか、結合されている。・・・
・・・
【0041】
本発明では、NGPsを電気化学的活物質と混合して得られる混合物は、再圧縮に供されて、活物質粒子またはコーティングが(バインダー有り/無しにて)さらにNGPs間の空間に保持される統合アノード構造を形成する。好ましくは、NGPs量は2重量%?90重量%であり、粒子またはコーティング量は98重量%?10重量%である。・・・」

(本件カ) 「【0069】
実施例1(試料1a、1b及び比較試料1a、1b)
名目上サイズ45μmのAsbury Carbons社(アメリカ合衆国、ニュージャージー州、08802、アスバリー、オールドメインストリート、405)製の天然グラファイトフレークを約14μmまで粉砕した(試料1)。発煙硝酸(>90%)、硫酸(95?98%)、塩素酸カリウム(98%)及び塩化水素酸(37%)を含む本実験に用いられた化学薬品は、Sigma-Aldrich社から購入して用いた。
【0070】
マグネティックスターラーバーを含む反応フラスコに、硫酸(360mL)及び硝酸(180mL)を仕込み、氷浴中に浸漬して冷却した。この酸混合物を15分間冷却しつつ攪拌し、凝集を防ぐために激しく攪拌しながらグラファイト(20g)を添加した。グラファイト粉末を十分に分散させた後、突然の温度上昇を避けるため15分を超えてゆっくりと塩素酸カリウム(110g)を添加した。室温で48時間攪拌した反応混合物からガスの発生を許容するために、反応フラスコにゆるく蓋をした。反応の終了において、8Lの脱イオン水を混合物に注ぎいれ、濾過した。発泡性グラファイト試料を回収するために、スラリーを噴霧乾燥した。1,000度に予熱された管状炉に、乾燥された発泡性グラファイトをすばやく移し、剥離グラファイトウォームを得るために、約40秒間石英チューブ内に放置した。次いで、NGPsを得るために、フレークの分解及びグラフェンシートの分離のためにウォームに対して超音波処理(80W1時間)を行った。Branson社製S450超音波破砕機を用いた。
【0071】
試料1a:このように調製されたNGPs約5gを、窒素雰囲気下のガラスフラスコ内でSnCl_(2)25gと混合した。この混合物を約10時間370度で加熱した。生成物を1分間蒸留水ですすぎ、1時間大気乾燥した。乾燥された生成物を1,000度で1時間予熱し、グラファイトウォームの気孔中に配置された約55重量%のSnナノ粒子を含む生成物を得た。
【0072】
比較試料1a:NGPsを存在させることなく同様の方法でSnナノ粒子を調製した。アノード部材の調製におけるバインダ材料(2.2重量%のスチレン/ブタジエンゴム及び1.1重量%のカルボキシルメチルセルロース)によりこれらの粒子を結合した。ベースラインアノード材料への再圧縮によってSn粒子を含まずバインダ材料を用いたNGPsを作製した。
【0073】
試料1a、比較試料1a、ベースラインNGPアノード試料及び理論予想モデル(混合規定のルールに基づく)の可逆的容量を図3に示す。予想は、次式にしたがって2つの電気化学活性材料(Sn及びNGPs)間に相乗効果がないとの仮説に基づいたものである。
C_(hybrid)=f_(Sn)C_(Sn)+f_(NGP)C_(NGP)
式中、C_(hybrid)はハイブリッド材料の予想された固有容量、f_(Sn)及びf_(NGP)はそれぞれSn粒子及びNGPの重量フラクション、C_(Sn)及びC_(NGP)はそれぞれSn粒子のみ及びNGPsのみの固有容量である。NGPsにより保持された際のSn粒子においては、それぞれの成分のみにより達成されるものよりもはるかに優れた、固有容量の相乗効果が得られることは明らかである。これは非常に意外で印象的な結果である。
【0074】
試料1b:Si粉末約5gをタングステン加熱ボート中に載置した。室温で10^(-7)torrの圧力に減圧及び3時間維持された真空チャンバーに、30cm×5cmの石英プレートに支持されたNGPs約5g及びSiを載せたタングステンボートを固定した。融点を僅かに超えるまでSiを加熱するために、タングステンボートに直接電流を通した。グラファイトウォームプレート付近に固定された石英結晶微量天秤を用いて析出厚さを計測することにより蒸発を制御した。析出率が約2Å/minとなるよう制御した。これにより、NGPs上にコートされたSi薄膜を含むハイブリッド材料が生成された。Si真空析出前後の重量測定は、複合材料がSi23重量%及びNGPs77重量%からなることを示した。
【0075】
比較試料1b:30μm厚さのNiフォイル表面上にSi薄膜をコートし、得られたSiコートNiフォイルをリチウムイオン電池におけるアノードとして用いた。SiコートフォイルにNiリードワイヤをスポット溶接し、1cm×1cm角に切断した。用いた電解質は、プロピレンカーボネートに溶解された1MのLiClO_(4)であった。低電流の充電放電サイクル特性を評価するために、3電極を備えたパイレックス(登録商標)円柱状セルを用い、参照及び対電極として純金属Liフォイルを用いた。
【0076】
図4におけるデータは、固有容量の劇的な損失がNi支持Siフィルム試料で生じたことを示している。しかしながら、1,000サイクル後であっても、NGP支持Siフィルムはなお非常に高い固有容量を維持している。両方の場合において、固有容量はSi重量のみに基づいて計算され、保持または支持重量は計測されなかった。SEM試験は、Niフォイル上に支持されたSiフィルムが第1サイクル後に分断及び(支持層からの)層剥離を示したことを表している。この劣化現象はNGP支持Siフィルムでは観測されなかった。
【0077】
実施例2(試料2a?2e及び比較試料2a?2e)
試料2a,2b,2c,2d及び2eのNGPは試料1で用いられた工程と同様の工程にしたがって調製された。出発グラファイト材料は、それぞれ高配向ピロリン酸グラファイト(HOPG)、グラファイトファイバ(AmocoP-100グラファイト化カーボンファイバ)、グラファイトカーボンナノファイバ(オハイオ州セドベリーのApplied Science, Inc.社製、Polygraph-III)、球状グラファイト(中国青島のHuaDong Graphite社製)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMBs)(大阪ガス社製MCMB2528)であった。試料1と同様の条件下でNGPsを得るために、これら4タイプの層状グラファイト材料を挿入、剥離及び分離した。
【0078】
これらの試料の対応電気化学活性粒子には、MO又はMO_(2)タイプ、M=Sn,Pb,Ge,Si又はCdの金属酸化物から得られた材料が含まれる。活性材料は以下のステップにしたがって調製されてもよい。(1)酸化スズ(SnO)粉末及び窒化リチウム(Li_(3)N)粉末を、SnO_(3)モルに対してLi_(3)N2モルの化学量論比で混合し、(2)ステップ(1)の粉末混合物を遊星ボールミル(ニュージャージー州クリフトンのGlen Mills社のModelPM-400)内に供給し、SnO及びLi_(3)Nが結晶性SnO及びLi_(3)NのX線回折パターンの完全な消失及びその後の非晶質Li_(2)O及び結晶性SnのX線回折パターンの出現により特徴付けられた状態に到達するまで粉砕を行った。ボールミル工程は一般に大気温度で1?2日間継続し、(3)粉砕した粉末を試料2aで(すなわち、HOPGから)得られたNGPと混合し、得られた粉末混合物を約200μmのアノード層を形成するように圧延した。層は約72重量%のLi_(2)O-Sn混合物及び28重量%のNGPからなる。比較試料2aは約5%の樹脂バインダで結合されたLi_(2)O-Sn混合粉末から調製された。
【0079】
試料2b?2eは、それぞれグラファイトファイバ、グラファイトカーボンナノファイバ(GNF)、球状グラファイト(SG)及びMCMBからNGPsと組み合わせて用いられた電気化学活性材料として、それぞれPb,Ge,Si及びCdから得られた。
【0080】
比較試料2a?2eは、NGPsに保持されず、アノードの調製における樹脂バインダにより結合されただけの同様に作製された粉末混合物から得られた。
【0081】
図5にまとめられた試料2a及び比較試料2aの固有容量のデータは、Sn及びLi_(2)OのNGP保持混合物が対応樹脂バインダ結合材料よりも良好なサイクル反応を有することを示している。非可逆度=(初期放電容量-Nサイクル後の放電容量)/(初期放電容量)を定義することにより、試料2a及び比較試料2aはそれぞれ4.3%及び33.3%の容量度(N=20)を示す。試料2b、2c、2d及び2eの非可逆度はそれぞれ5.8%、5.1%、6.1%及び4.6%である。これに対して、比較試料2b、2c、2d及び2eはそれぞれ25.6%、26.2%、27.3%及び25.6%である。
【0082】
実施例3(試料3a?3c及び比較試料3a?3c)
特許文献21の方法にしたがって、硫酸、硝酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムとともに天然グラファイトフレーク(オリジナルサイズ200メッシュ、中国青島のHuaDong Graphite社製、約15μmに粉砕、試料3aとした)の挿入及び酸化により付加グラファイト挿入化合物(GIC)を調製した。この実施例においては、グラファイト1gに対して、22mlの濃硫酸、2.8gの過マンガン酸カリウム及び0.5gの硝酸ナトリウムを用いた。グラファイトフレークを混合溶液中に浸漬し、30度で約1時間反応を行った。過熱及び他の安全性の問題を避けるためには、公知の制御方法で硫酸に過マンガン酸カリウムを徐々に添加することが重要である。反応の終了には、混合物を脱イオン水に注ぎ、濾過した。次いで、濾液のpHが約5になるまで、脱イオン水で繰り返し試料を洗浄した。スラリーを噴霧乾燥し、60度で24時間真空乾燥機内で貯蔵した。剥離グラファイトフレークのウォームを得るために、窒素ガスで満たされた石英チューブ中で得られたGICを1,050度の温度に35秒間曝した。次に、NGPsを得るためにフレークの分解及びグラフェンシートの分離のための超音波破砕処理(85W1時間)をウォームに行った。
【0083】
これらの実施例における電気化学活性粒子は、(q+x)>(2y+x)、x>0を満たすSi_(x)Sn_(q)M_(y)C_(z)タイプ組成物であり、Mはマンガン、モリブデン、ニオブ、タングステン、タンタル、鉄、銅、チタニウム、バナジウム、クロム、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、イットリウム及びこれらの組み合わせから選択された1以上の金属であり、Si、Sn、M及びC成分は少なくとも1つの非晶質又はナノ結晶相を含む多相マイクロ構造の形態に配置される。実施例として、アルゴン雰囲気下遊星ボールミル(ニュージャージー州クリフトンのGlen Mills社のModelPM-400)を用いて、45mLタングステンカーバイド容器内で28タングステンカーバイドボール(5/16インチ、約108g)とともにシリコンチップ、コバルト粉末及びグラファイト粉末を4時間ボールミルすることにより試料3aを調製した。次いで、容器を開放し、固められた粉末のかたまりを破砕し、アルゴン雰囲気中で粉砕を追加時間続けた。タングステンカーバイド容器の温度は大気冷却により約30度に維持した。生成物はおおよそSi_(73)Co_(23)C_(4)であることが測定された。
【0084】
試料3b及び3cは、以下の相違を除いて試料3aと同様の一般的な工程により調製された。シリコン粉末(325メッシュ)、スズ粉末(<10ミクロン)及びCo又はNi金属粉末(コバルト1.6ミクロン、ニッケルAlcan Metal Powder社製タイプ123)を用いた。アルゴン雰囲気中で14タングステンカーバイドボール(直径0.415mm、総重量約54g)とともにボールミルにより試料3b及び3cを16時間粉砕した。得られた生成物はそれぞれSi_(74)Sn_(2)Co_(24)及びSi_(73)Sn_(2)Ni_(25)であった。
【0085】
試料3a?3cとしては、ボールミル後調製された微粉末生成物に樹脂バインダ2重量%を追加してNGPsと別々に混合し、次いで、厚さ約200μmのアノードシートを調製するように100psigの水圧で冷押圧した。比較試料3a?3cに対しては、微粉末生成物はNGPsに保持されておらず、アノードの調製における樹脂バインダにより結合しているにすぎなかった。40サイクル後の試料3a、3b及び3cの可逆的容量はそれぞれ1,160,1,222及び1,213mAh/gであった。10サイクル後の比較試料3a、3b及び3cの可逆的容量はそれぞれ782,740及び892mAh/gであった。これらのクラスの材料は、体積変化に誘導される粒子断片化、あるいは、粒子ー粒子又は粒子-集電体の接触損失の傾向が少ないと考えられる非晶質及びナノ結晶相を主に有することを特徴としている。このデータは、これらのタイプの電気化学活性材料でさえNGP保持によりさらに保護されることを明確に示している。
【0086】
実施例4(試料4a、4b及び比較試料4a、4b)
試料3で調製された5gのNGPsを試料4a及び4bの調製に用いた。化学量論的量のそれぞれCu及びCoのような遷移金属とともにLi_(3)Nを混合することにより電気化学活性粉末を調製した。Li_(3-x)Cu_(x)N及びLi_(3-x)Co_(x)Nのような窒化物を得るために、2日間操作された遊星ボールミルの容器内に粉末混合物を別々に封入した。参照電極としてLi金属を用いて0?1.4Vの電圧範囲において0.5mA/cm^(2)の一定電流密度でセルを操作した際に、25重量%のNGPsに保持されたLi_(3-x)Cu_(x)Nの可逆的容量(例えばx=0.4)及びLi_(z-x)Co_(x)Nの可逆的容量(例えばx=0.3)がそれぞれ732mAh/g及び612mAh/gに達したことを観測した。これに対して、(5%PVDFバインダで結合した)活性材料のみを用いた際の2つの電極の可逆的容量はそれぞれ約650mAh/g及び560mAh/gであった。
【0087】
実施例5(試料5a及び比較試料5a)
試料3で調製されたNGPsの同一バッチを試料5に用いた。
試料5a:ツインアーク蒸着技術を用いて研究室で平均粒径80nmのナノ結晶Siを作製した。熱気相蒸着(TVD)により炭素コートSiを調製した。反応管内に配置された石英プレート上にナノ粉末を支持した。ベンゼン気相及び窒素ガスをそれぞれ2mL/min及び1L/minの流速で反応管(1,000度)内に供給した。このような高温で、有機気相を蒸着し、Si粒子の表面上に炭素を析出した。炭素コートシリコンの平均粒径は約84nmであった(炭素約13重量%)。試料5aとして設計された複合材料を作製するために炭素コートSi粒子をドライブレンドした。NGPの存在なしに樹脂バインダにより結合した対応アノード材料を比較試料5aとして設計した。
【0088】
炭素コートSiは、例えば京都大学の研究グループにより、リチウムイオン電池材料として研究されている(非特許文献9及び10)。800mAh/gを超える高可逆的容量、高クーロン効率、良好な繰り返し性、EC及びPC電解質との満足な適合性、グラファイトよりも良好な熱安定性等を備えるリチウムイオン電池用アノード材料として炭素コートSiの優れた電気化学的性能を示す。外層の炭素コートは、Si電極の表面上における電解液の分解を抑制するだけではなく、リチウム挿入後にSi粒子がほとんど拡張されなくともSi粒子周辺の一体的で連続した電気接触ネットワークを提供することにより、電気化学的性能の改良において非常に重要な役割を担っていると考えられた。しかしながら、これらの研究者は、炭素コートSiのリチウム容量を1,200mAh/g未満に制御した場合には、満足な適合性が得られることを示唆している。非特許文献10参照。
【0089】
(Li_(3.25)Siの合金に対応するSiの1gにつき)約3,100mAh/gにリチウム容量を増量することによって、大きな体積変化により炭素コートSi粒子の繰り返し性が満たされないことがわかった。しかしながら、約20重量%のNGPsを添加することにより、繰り返し性を顕著に改良できた。図6は4セットの固有容量のデータである。(◆で示された)シリーズ1はSiのグラム当たり(炭素重量は含まれていない)で計算された固有容量を有する樹脂バインダにより結合されたC被覆Si粒子である。(■で示された)シリーズ2はSiのグラム当たり(炭素及びグラフェンの重量は含まれていない)で計算された固有容量を有する20重量%のNGPsに保持されたC被覆Si粒子である。(△で示された)シリーズ3はSi+Cのグラム当たりで計算された固有容量を有する樹脂バインダにより結合されたC被覆Si粒子である。(×で示された)シリーズ4はSi+C+NGPのグラム当たりで計算された固有容量を有する20重量%のNGPsによる保持されたC被覆Si粒子である。シリーズ1とシリーズ2とのデータの比較は、NGPに保持された炭素コートSi粒子が良好なサイクル性能を提供することを示している。さらに、シリーズ3とシリーズ4とのデータの比較は、付加NGPの重量を考慮に入れた後でさえ、NGPに保持された炭素コートSiが充電放電の7サイクル後にNGP保持なしに炭素コートSi粒子より高い固定容量を提供することを示している。
【0090】
実施例6(試料6a?6f及び比較試料6a?6f)
試料3で調製されたNGPsの同一バッチを試料6に用いた。
試料6a:3:7の重量比でNGPs+CNFsの表面上にナノSnSb合金を析出した。NGPs及びCNFsについては、NGP粒子80重量%+CNF(Applied Sciences社製)20重量%とした。(樹脂バインダの添加なしに)アノードに付加的な機械的完全性を付与するためにCNFsを添加した。要するに、SbCl_(3)及びSnCl_(2)・H_(2)O(99%)を5:4のモル比で混合し、0.5M溶液を調製するためにグリセリンに溶解した。次いで、この溶液にNGP+CNF粒子を添加した。混合溶液又は懸濁液を0.0?1.0度に冷却した。溶液を攪拌しつつ95%の化学量論的量のZn粉末(99.9%)を溶液に徐々に添加した。最後に、エタノールによる洗浄及び濾過後、55度真空下で生成物を乾燥した。
【0091】
比較試料6aとしては、NGPs/CNFsを含まないナノSnSb粒子を同様の方法で調製した。微粉末生成物はNGPsに保持されず、アノードの調製における樹脂バインダによって結合された。100サイクル後、試料6aの非可逆度は5.2%であるのに対し、比較試料6aの非可逆度は21.5%であることがわかった。
【0092】
試料6b:低温でグリセリン溶液における還元方法によりSnナノ粒子を調製し、SbCl_(3)をグリセリンに溶解して0.5M溶液を調製した。次いで、この溶液にNGPsを添加して懸濁液を調製した。この懸濁液を0.0?1.0度に冷却した。続いて、攪拌しつつ95%の化学量論適量のZn粉末を溶液にゆっくり添加した。最後に、エタノールによる洗浄及び濾過後、50度真空下で黒い生成物を乾燥した。生成物は、NGPsを良好に混合し、圧縮したSiナノ粒子を含む複合材料であった。
【0093】
比較試料6bとしては、NGPsを含まないナノSnSb粒子を同様の方法で調製した。微粉末生成物はNGPsに保持されず、アノードの調製における樹脂バインダによって結合された。100サイクル後、試料6bの非可逆度は5.5%であるのに対し、比較試料6bの非可逆度は25.5%であることがわかった。
【0094】
試料6c:水溶液中における無電解めっき法によりNi-Sn-P/グラフェン複合材料を調製した。まず、室温で攪拌後金属前駆体として化学量論適量のSnSO_(4)(99%)、NiSO_(4)・6H_(2)O(98%)及びNaH_(2)PO_(2)・H_(2)O(95%)を水溶液に溶解した。次いで、金属前駆体溶液にNGP粒子を素早く添加し、溶液を40分間80度で連続攪拌した。pH値調整バッファとしてコハク酸ナトリウム溶液を用いた。濾液のpHが蒸留水と同じになるまで生成物を蒸留水で洗浄し、濾過した。次いで、生成物を室温真空で乾燥した。試料6cにおけるNGP含有量は約33重量%であった。NGP含有量の効果を理解するために、それぞれ約10重量%、5重量%及び2重量%含有した追加試料(比較試料6c-I?6c-III)を調製した。試料6c並びに比較試料6c-I、6c-II及び6c-IIIの非可逆度はそれぞれ4.9%、4.8%、4.9%及び21.3%であることがわかった。これは、効果的なクッション又は保護効果に達するためには、NGPの最小量として2%(好ましくは少なくとも5%)必要であることを意味している。
【0095】
試料6d:SnSナノ粒子の調製の開始材料には、スズ(II)塩化物(SnCl_(2)・2H_(2)O)、硫酸ナトリウム水和物(Na_(2)S・9H_(2)O)及びエチレングリコール(C_(2)H_(6)O_(2))が含まれる。一般的な工程においては、磁気攪拌により硫酸ナトリウム水和物1.07g及びスズ(II)塩化物1.0gを別々に十分量のエチレングリコールに溶解した。次いで、ゆっくり攪拌しつつ硫酸ナトリウム水和物溶液にスズ(II)塩化物溶液を一滴ずつ添加した。滴下によりSnS粒子が形成されて、溶液が半透明から徐々に濃くなった。上記の全ての操作は60度以上で行った。次に、反応溶液にNGP粒子を添加した。完全な混合の後、得られた溶液を150度で24時間温度調整した。最後に、黒褐色のSnS/NGP粒子を遠心分離により回収し、脱イオン水により洗浄し、80度で1日間乾燥した。
【0096】
比較試料6dとしては、NGPsを含まないナノSnSb粒子を同様の方法で調製した。微粉末生成物はNGPsに保持されず、アノードの調製における樹脂バインダによって結合された。100サイクル後、試料6dの非可逆度は5.6%であるのに対し、比較試料6dの非可逆度は22.5%であることがわかった。
【0097】
試料6e:カーボンエーロゲルの合成には、レゾルシノール(C_(6)H_(6)O_(2))、ホルムアルデヒド(CH_(6)O)及びNH_(3)・H_(2)Oを用いた。1:2のモル比でレゾルジノール及びホルムアルデヒドを脱イオン水に投入し、攪拌した。次いで、pH値を6.5に調整するために、この水溶液にNH_(3)・H_(2)Oを添加した。その結果、85度の温度調整容器内にレゾルシノール-ホルムアルデヒド溶液を配置した。溶液が粘着性となり、オレンジ色になった場合に、(試料6dと同様に)調製されたSnS粒子をレゾルシノール-ホルムアルデヒドゾルと混合し、数分間磁性攪拌した。次に、グラフェンプレートレット表面上にコートされたSnS分散レゾルシノール-ホルムアルデヒドゲルフィルムを得るために、粘性ゾルをNGPsと混合し、得られた液体を85度の温度調整容器内で24時間配置した。合成ゲルフィルムを窒素雰囲気下650度で1.5時間炭化した。SnS/C複合フィルムにおけるSnS含有量は炭化前後の重量損失から求められ、72重量%である。NGPsを用いることなく同様に比較試験6eを調製した。500サイクル後の試料6eの非可逆度は64%であるのに対し、100サイクル後の比較試料6eの非可逆度は25.5%であることがわかった。
【0098】
試料6f:700度で一連のSnO_(2)-カーボンナノ-複合体をその場で合成するために、スプレー熱分解技術を用いた。その場スプレー熱分解工程は、化学反応が短時間で完了し、結晶が大きく成長しすぎるのを防ぐことを確実にする。スプレー前駆体としてSnCl_(2)・2H_(2)O及びショ糖の溶液を用いた。SnCl_(2)・2H_(2)O/ショ糖において、飽和ショ糖水溶液とスズ(II)塩化物脱水物(Aldrich社、98%)の1Mエタノール溶液とをそれぞれ100:0,60:40,40:60及び10:90の重量比で混合することによりスプレー前駆体を調製した。700度の垂直型のスプレー熱分解反応器を用いて、純SnO_(2)試料及びSnO_(2)-炭素複合体をその場で得た。この工程により、非晶質カーボンマトリクス内に均質に分布された超微ナノ結晶性SnO_(2)を得た。試料6fを得るために、C-SnO_(2)複合粒子を約23%のNGP粒子とともにドライブレンドし、次いで、僅かに圧縮した。NGPsを用いないアノード材料を比較試料6fとした。100サイクル後、試料6fの非可逆度は6.7%であるのに対し、比較試料6fの非可逆度は27.5%であることがわかった。
【0099】
実施例7(試料7a、7b及び比較試料7a、7b)
垂直のスプレー熱分解装置を用いて、別々の実験において、ナノ構造のCo_(3)O_(4)C及びCo_(3)O_(4)粉末を調製した。600度の大気開放の2m石英管内に超音波ノズルを通して3mL/minで大気温度の0.2M硝酸コバルト水溶液を噴霧することによりCo_(3)O_(4)粉末を得た。Co_(3)O_(4)C粉末の調製において、前駆体溶液には0.05Mショ糖及び0.2M硝酸コバルトを含んだ。この溶液の熱分解の実験条件は、Co_(3)O_(4)粉末で記載されたものと同一であった。全ての最終粉末生成物の組成をX線回折(XRD)により確認した。試料7a及び7bをそれぞれ得るために、Co_(3)O_(4)C及びCo_(3)O_(4)粉末を別々に乾燥し、NGPsを混合した。NGPsなしに樹脂バインダを用いた対応アノードをそれぞれ比較試料7a及び7bとした。100サイクル後、試料7aの非可逆度は6.3%であるのに対し、比較試料7aの非可逆度は24.8%であることがわかった。100サイクル後、試料7bの非可逆度は6.4%であるのに対し、比較試料7bの非可逆度は27.3%であることがわかった。」

(本件キ) 「【図3】



(本件ク) 「【図4】



(本件ケ) 「【図5】



(本件コ) 「【図6】



a-2 前記(本件ウ)の記載によれば、本件発明が解決すべき課題は、「長いサイクル寿命と、高い可逆的容量と、低い非可逆的容量とを備えたリチウムイオン電池用負極」を提供することであるといえる。

a-3 ここで、前記(本件ア)には、技術分野として、本件発明は、ナノグラフェンプレートレットを主体とするリチウムイオン電池用複合負極化合物に関するものであることが記載されており、また、前記(本件エ)及び(本件オ)には、前記a-2で示した課題を解決するための手段、及び、発明を実施するための形態について、以下の事項が記載されている。

a-3-1 本件発明は、リチウム二次電池用負極(アノード)複合物質化合物であって、当該化合物は、ナノスケールのグラフェンプレートレット(当審注:本件明細書では、「ナノスケールのグラフェンプレートレット」について、「NGP」と「NGPs」の表記が混在して記載されているが、以下、まとめて「NGP」ともいう。)が混合された電気化学的に活性な物質を含み、活性な物質とNGPは、リチウムイオンの吸収と脱離が可能であること(【0016】)、NGPは、グラフェン面の単一のシートまたはグラフェン面の複数のシートを重ねた層であって、NGPの厚さは100ナノメートル(nm)以下であること、NGPの長さと幅は一般に1?20μmであるがそれよりも大きくても小さくてもよいこと(【0017】)。

a-3-2 電気化学的に活性な物質は、下記(a)?(e)のいずれかから選択されたものであって、マイクロメートルスケールまたはナノメートルスケールの粒子または被覆であること(【0018】)。
(a)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、カドミウム(Cd)(【0018】)、
(b)Si,Ge,Sn,Pb,Sb,Bi,Zn,Al,またはCdの合金または金属間化合物であって、化学量論的組成と化学量論から外れた組成を含む(【0019】)。
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、またはCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、またはテルル化物あるいはそれらの混合物(酸化物どうしの化合物や複合酸化物を含む)または複合物(【0020】)。
(d)Snの塩または水酸化物(【0021】)。
なお、上記【0018】には、「下記(a)?(e)」と記載されているが、この記載以降には、「(e)」についての具体的な記載はない。

a-3-3 NGPは、層状の黒鉛物質からなるグラフェンシートの層を層間挿入(intercalation)、剥離及び分離することで得られたものであること、すなわち、NGPは分離されたものであること(【0024】、【0025】)。
ここで、前記1(1)アで検討したように、「分離」と「単離」は同義である。

a-3-4 電気化学的活物質は、NGPに接触しているか、結合されていること(【0037】)。
ここで、上記「電気化学的活物質」は、前記a-3-2における「電気化学的に活性な物質」のことであって、「マイクロメートルスケールまたはナノメートルスケールの粒子または被覆」のことであるといえ、また、上記「電気化学的活物質」が、NGPに接触しているか、結合されていることは、上記「電気化学的活物質」が、NGPに物理的又は化学的に結合されていることであるといえる。

a-3-5 NGP量は2重量%?90重量%であり、粒子またはコーティング量は98重量%?10重量%であること(【0041】)。
ここで、上記「粒子またはコーティング」の「コーティング」とは、前記a-3-2の「粒子または被覆」の「被覆」であることは明らかである。

以上の記載事項をまとめると、前記課題を解決するための手段は、
「ナノグラフェンプレートレットを主体とするリチウムイオン電池用負極複合化合物であって、
リチウムイオンの吸収と脱離が可能なマイクロメートルスケールまたはナノメートルスケールの粒子または被覆と、
ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレットと備え、
前記グラフェンプレートレットは、単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1?20μmでそれよりも大きくても小さくてもよいものであり、
前記粒子または被覆は、前記グラフェンプレートレットに物理的または化学的に結合され、
前記グラフェンプレートレットの量は2?90質量%であり、前記粒子または被覆の量は98?10質量%であり、
前記粒子または被覆は、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質を含み、前記活性物質は下記(a)?(d)のいずれかから選択されたものであることを特徴とするリチウムイオン電池用負極複合化合物。
(a)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、カドミウム(Cd)
(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、またはCdの合金または金属間化合物であって、化学量論的組成と化学量論から外れた組成を含む
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、またはCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、またはテルル化物あるいはそれらの混合物または複合物
(d)Snの塩または水酸化物」
であるといえる。

a-4 また、本件発明の実施例である前記(本件カ)、及び、実施例に関する図面である前記(本件キ)?(本件コ)には、実施例1?7について、リチウムイオン電池のアノード(負極)に、ナノグラフェンプレートレット及び特定の活性物質を用いたもの(試料)と、特定の活性材料のみ(比較試料)を用いたものについて、それぞれの電池特性が記載されており、各実施例の試料及び比較試料と電池特性についての記載をまとめると、以下のとおりである。

a-4-1 実施例1(【0069】?【0076】、【図3】及び【図4】)
試料1a(Snナノ粒子、NGP)は、比較試料1a(Snナノ粒子のみ、NGPのみ)よりも、可逆的容量が高く、また、試料1b(Si薄膜、NGP)は、比較試料1b(Si薄膜)よりも、1000サイクル後であっても、非常に高い固有容量を維持している。

a-4-2 実施例2(【0077】?【0081】及び【図5】)
試料2a(Li_(2)O-Sn混合物、NGP)は、比較試料2a(Li_(2)O-Sn混合物)よりも良好なサイクル反応を有し、また、20サイクル後の非可逆度は、試料2a(Li_(2)O-Sn混合物、NGP)、比較試料2a(Li_(2)O-Sn混合物)は、それぞれ4.3%、33.3%であり、試料2b(Li_(2)O-Pb混合物、NGP)、試料2c(Li_(2)O-Ge混合物、NGP)、試料2d(Li_(2)O-Si混合物、NGP)、試料2e(Li_(2)O-Cd混合物、NGP)は、それぞれ5.8%、5.1%、6.1%、4.6%であるのに対して、比較試料2b(Li_(2)O-Pb混合物)、比較試料2c(Li_(2)O-Ge混合物)、比較試料2d(Li_(2)O-Si混合物)、比較試料2e(Li_(2)O-Cd混合物)は、それぞれ25.6%、26.2%、27.3%、25.6%である。

a-4-3 実施例3(【0082】?【0085】)
40サイクル後の試料3a(Si_(73)Co_(23)C_(4)、NGP)、試料3b(Si_(74)Sn_(2)Co_(24)、NGP)、試料3c(Si_(73)Sn_(2)Ni_(25)、NGP)の可逆的容量は、それぞれ1,160Ah/g、1,222Ah/g、1,213mAh/gであり、10サイクル後の比較試料3a(Si_(73)Co_(23)C_(4))、比較試料3b(Si_(74)Sn_(2)Co_(24))、比較試料3c(Si_(73)Sn_(2)Ni_(25))の可逆的容量は、それぞれ782Ah/g、740Ah/g、892mAh/gである。

a-4-4 実施例4(【0086】)
試料4a(Li_(3-x)Cu_(x)N(x=0.4)、NGP)の可逆的容量、試料4b(Li_(3-x)Co_(x)N(x=0.3)、NGP)の可逆的容量は、それぞれ732mAh/g、612mAh/gであり、これに対して、比較試料4a(Li_(3-x)Cu_(x)N(x=0.4))、比較試料4b(Li_(3-x)Co_(x)N(x=0.3))の可逆的容量はそれぞれ約650mAh/g、560mAh/gである。

a-4-5 実施例5(【0087】?【0089】及び【図6】)
試料5a(炭素コートSi粒子、NGP)は、比較試料5a(炭素コートSi粒子)よりも良好なサイクル性能であり、また、NGPの重量を考慮に入れても、試料5aは、比較試料5aよりも、充電放電7サイクル後の固定容量は高い。

a-4-6 実施例6(【0090】?【0098】)
(a) 100サイクル後、試料6a(ナノSnSb合金、NGP+CNF)の非可逆度は5.2%であるのに対し、比較試料6a(ナノSnSb合金)の非可逆度は21.5%であり、試料6b(SnSbナノ粒子、NGP)(当審注:【0092】では、試料6bの原料として「Snナノ粒子」と「SbCl_(3)」とを用いているから、「Siナノ粒子」は、「SnSbナノ粒子」の誤記であると認められる。)の非可逆度は5.5%であるのに対し、比較試料6b(ナノSnSb粒子)の非可逆度は25.5%である。
(b) 試料6c(Ni-Si-P、NGP)のNGP含有量を、約33重量%、約10重量%、5重量%、2重量%とした不可逆度は、それぞれ4.9%、4.8%、4.9%、21.3%であり、これは、効果的なクッション又は保護効果を達するためには、NGPの最小量として2%(好ましくは5%)必要であることを意味する。
(c) 100サイクル後、試料6d(SnSナノ粒子、NGP)の非可逆度は5.6%であるのに対し、比較試料6d(SnSナノ粒子)(当審注:【0095】によれば、試料6dには「SnSナノ粒子」を調製することが記載されており、そのあとの【0096】には、「比較試料6dとしては、NGPsを含まないナノSnSb粒子を同様の方法で調製した」と記載されていることからすると、上記「ナノSnSb粒子」は、「SnSナノ粒子」の誤記であると認められる。)の非可逆度は22.5%である。
(d) 500サイクル後、試料6e(SnS、NGP)の非可逆度は64%であるのに対し、100サイクル後の比較試料6e(SnS)の非可逆度は25.5%であり(当審注:ここでは試料6eの非可逆度の方が、比較試料の非可逆度よりも大きいから、「64%」なる数値は明らかに誤っており、他の試料の非可逆度が全て一桁の数値であることを参酌すると、上記「64%」は「6.4%」の誤記である蓋然性が高い。)。
(e) 100サイクル後、試料6f(C-SnO_(2)複合粒子、NGP)の非可逆度は6.7%であるのに対し、比較試料6f(C-SnO_(2)複合粒子)の非可逆度は27.5%である。

a-4-7 実施例7(【0099】)
100サイクル後、試料7a(ナノ構造Co_(3)O_(4)C粉末、NGP)の非可逆度は6.3%であるのに対し、比較試料7a(ナノ構造Co_(3)O_(4)C粉末)の非可逆度は24.8%であり、試料7b(ナノ構造Co_(3)O_(4)粉末、NGP)の非可逆度は6.4%であるのに対し、比較試料7b(ナノ構造Co_(3)O_(4)C粉末)の非可逆度は27.3%である。

a-5 前記a-4-1?a-4-7によれば、本件明細書に記載されている実施例1?7は、前記a-3で示したリチウムイオン電池用複合負極化合物における、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質の一例として、Snナノ粒子、Si薄膜、Li_(2)O-Sn混合物、Li_(2)O-Pb混合物、Li_(2)O-Ge混合物、Li_(2)O-Si混合物、Li_(2)O-Cd混合物、Si_(73)Co_(23)C_(4)、Si_(74)Sn_(2)Co_(24)、Si_(73)Sn_(2)Ni_(25)、Li_(3-x)Cu_(x)N(x=0.4)、Li_(z-x)Co_(x)N(x=0.3)、炭素コートSi粒子、ナノSnSb合金、SnSbナノ粒子、Ni-Si-P、SnSナノ粒子、SnS、C-SnO_(2)複合粒子、ナノ構造Co_(3)O_(4)C粉末、ナノ構造Co_(3)O_(4)粉末が、前記a-2に示した「長いサイクル寿命と、高い可逆的容量と、低い非可逆的容量とを備えたリチウムイオン電池用負極」を提供するとの課題を解決できることを裏付けるものであるといえる。

a-6 そして、本件明細書の前記(本件イ)の「炭素ないし黒鉛基負極物質に加え、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、金属、合金、金属間化合物などリチウム原子およびイオンを収容可能な無機物質が負極への適用を検討されている。特に、組成式Li_(a)A(AはAlのような金属で「a」は0<a#5を満たす)で表されるリチウム合金は負極物質の候補として検討されている。そのような負極物質は、例えばLi_(4)Si(3829mAh/g)、Li_(4.4)Si(4200mAh/g)、Li_(4.4)Ge(1623mAh/g)、Li_(4.4)Sn(993mAh/g)、Li_(3)Cd(715mAh/g)、Li_(3)Sb(660mAh/g)、Li_(4.4)Pb(569mAh/g)、LiZn(410mAh/g)、Li_(3)Bi(385mAh/g)といった高い理論容量を有する。」との記載、同(本件エ)の【0020】の「鉄の酸化物またはリン酸塩は、Li_(6)Fe_(2)O_(3)が1,000mAh/gという理論容量を有することから推奨される。最初のサイクルにおけるFe_(3)PO_(7)の容量は800mAh/gに達することが判明している。SnS_(2)の容量は620mAh/gという容量であり充放電サイクルの下で安定である。」との記載、同【0021】の「Snの塩または水酸化物。例えば可逆的容量が600mAh/gのSnSO_(4)、Sn_(2)PO_(4)Cl(40サイクル後で300mAh/g)、Sn_(3)O_(2)(OH)_(2)(300mAh/g)などがある。」との記載によれば、これらの記載に例示された材料が、いずれも、リチウムイオンの吸収と脱離が可能であることは自明の事項である。
また、甲第1号証の前記(甲1イ)の【0013】の「本発明の元素微粒子としての元素は、LiおよびLiと合金を形成する金属および非金属がある。ここでLiと合金を形成する金属としてはAl、Sn、Pb、Cd、Ag、Au、Ba、Be、Bi、Ca、Cr、Cu、K、Mn、Mo、Nb、Ni、Na、Pd、Ru、Te、Ti、Pt、Pu、Rb、Zr、Zn、Se、Sr、Sb、TlまたはVを挙げることができる。Liと合金を形成する非金属としてはSi、GeおよびSをあげることができる。」との記載、甲第2号証の前記(甲2イ)の【0013】、【0014】の「本発明において炭素材料の表面を被覆するケイ素化合物としては、特に限定されるものではなく、無機系および有機系いずれのケイ素化合物でも良い。
無機系のケイ素化合物としては、ケイ素の酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、ハロゲン化物などのほか、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属などのケイ素化合物が挙げられる。」との記載、甲第3号証の前記(甲3ア)の【請求項2】の「前記金属又は金属酸化物が、Li、Al、Sn、Bi、Si、Sb、Ni、Cu、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ag及びそれらの合金並びにそれらの酸化物からなる群から選択される、請求項1記載の炭素活物質。」との記載、甲第6号証の前記(甲6イ)の【0015】の「高容量材料3に含まれる元素としては、Al、Si、Zn、Ge、Cd、Sn、Pbなど多くの元素を挙げることができるが、吸蔵可能なリチウム量の多さや入手の容易さなどから、SiまたはSnが特に好ましい。SiまたはSnを含む高容量材料としては、単体の他にも、SiO_(x)(0<x<2)やSnO_(x)(0<x≦2)などの酸化物や、Ni-Si合金、Ti-Si合金、Mg-Sn合金、Fe-Sn合金など遷移金属元素との合金など、様々な材料を用いることができる。」との記載によれば、これらの記載に示された材料が、リチウムイオン電池の負極に用いられること、すなわち、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活物質であることは、本件出願時において技術常識であるといえる。
したがって、前記a-3で示した(a)?(d)の物質が、いずれもリチウムイオンの吸収と脱離が可能な活物質であることは、当業者であれば当然に認識し得るものである。
そして、上記(a)?(d)の物質を組合せたもの(以下、「(e)上記物質の組合せ」という。)についても、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活物質であることは、当業者にとって明らかである。

a-7 以上から、前記a-3で示した、
「ナノグラフェンプレートレットを主体とするリチウムイオン電池用負極複合化合物であって、
リチウムイオンの吸収と脱離が可能なマイクロメートルスケールまたはナノメートルスケールの粒子または被覆と、
ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレットと備え、
前記グラフェンプレートレットは、単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1?20μmでそれよりも大きくても小さくてもよいものであり、
前記粒子または被覆は、前記グラフェンプレートレットに物理的または化学的に結合され、
前記グラフェンプレートレットの量は2?90質量%であり、前記粒子または被覆の量は98?10質量%であり、
前記粒子または被覆は、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質を含むリチウムイオン電池用負極複合化合物」
において、前記活性物質として下記(a)?(e)の物質のいずれかから選択された、いずれの活性物質を用いても、前記a-4-1?a-4-7における実施例1?7の試料と同様に、前記a-2に示した課題を解決できることは、本件明細書に接した当業者であれば十分に理解し得るものである。
(a)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、カドミウム(Cd)
(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、またはCdの合金または金属間化合物であって、化学量論的組成と化学量論から外れた組成を含む
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、またはCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、またはテルル化物あるいはそれらの混合物または複合物
(d)Snの塩または水酸化物
(e)上記物質の組合せ

a-8 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載、及び、前記技術常識によれば、前記a-7で示した、本件明細書に記載されているリチウムイオン電池用負極複合化合物は、当業者であれば前記a-2に示した課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

b 一方、本件発明1は、前記第3に示したとおりのものであり、再掲すると以下のとおりである。
「【請求項1】
ナノグラフェンプレートレットを主体とするリチウムイオン電池用負極複合化合物であって、
a)リチウムイオンの吸収と脱離が可能なマイクロメートルスケールまたはナノメートルスケールの粒子または被覆と、
b)ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレットと備え、
前記グラフェンプレートレットは、単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上のものであり、
少なくとも前記粒子または被覆は、少なくとも前記グラフェンプレートレットの一つに物理的または化学的に結合され、前記グラフェンプレートレットの量は2?90質量%であり、前記粒子または被覆の量は98?10質量%であり、
前記粒子または被覆は、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質を含み、前記活性物質は下記(a)?(e)のいずれかから選択されたものであることを特徴とするリチウムイオン電池用負極複合化合物。
(a)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、およびカドミウム(Cd)
(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、およびCdの合金または金属間化合物であって、化学量論的組成と化学量論から外れた組成を含む
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、およびCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、またはテルル化物あるいはそれらの混合物または複合物
(d)Snの塩または水酸化物
(e)上記物質の組合せ」

c そうすると、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載、及び、前記技術常識に照らして、当業者が前記課題を解決できると認識できる範囲内にあることは明らかである。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
また、請求項1を引用する請求項3?10、13?19に係る発明も同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明である。

d 小括
以上のとおり、請求項1、3?10、13?19に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、請求項1、3?10、13?19に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものではない。
したがって、これらの特許を、無効理由4によって無効とすることはできない。

(6) 請求人の予備的主張(前記第4の1(5)参照。)について
明確性違反について
請求人は、平成29年4月20日付け弁駁書(以下、単に「弁駁書」という。)の5頁2行?下から3行において、本件訂正後の請求項1の文理解釈によれば、「前記グラフェンプレートレット」は、個々のグラフェンプレートレットの「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上のものであ」ると解されるのに対し、本件明細書の具体的なサイズの記載は、実施例1及び3において、メッシュ分級によるサイズ(すなわち、最大サイズ)を用いていることに鑑みると、本件明細書では、サイズは最大サイズのことを意味するとも解されるから、本件訂正後の請求項1の「前記グラフェンプレートレット」は、メッシュ分級によるサイズ(すなわち、最大サイズ)が、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上のものであ」ると解されるため、本件訂正後の請求項1の「前記グラフェンプレートレットは、・・・厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上のものであ」るとの発明特定事項は不明確である旨主張している。
しかし、本件明細書の実施例3(【0082】)の「硫酸、硝酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムとともに天然グラファイトフレーク(オリジナルサイズ200メッシュ、中国青島のHuaDong Graphite社製、約15μmに粉砕、試料3aとした)の挿入及び酸化により付加グラファイト挿入化合物(GIC)を調製した。・・・剥離グラファイトフレークのウォームを得るために、窒素ガスで満たされた石英チューブ中で得られたGICを1,050度の温度に35秒間曝した。次に、NGPsを得るためにフレークの分解及びグラフェンシートの分離のための超音波破砕処理(85W1時間)をウォームに行った。」との記載からすると、メッシュ分級によるサイズで示されているのは、ナノグラフェンプレートレットの原料である「天然グラファイトフレーク」のサイズであって、ナノグラフェンプレートレット自体のサイズではない。
また、同実施例1(【0069】?【0070】)には、メッシュ分級によるサイズについては何ら記載されていない。
そして、本件明細書のその他の記載を見ても、ナノグラフェンプレートレットのサイズが、メッシュ分級によるサイズや最大サイズであるとの記載は見当たらないし、また、本件明細書において、サイズとは、メッシュ分級によるサイズや最大サイズのことを意味するとの記載も見当たらない。
そうすると、本件明細書の記載に基づいても、本件発明1の「前記グラフェンプレートレット」は、メッシュ分級によるサイズ若しくは最大サイズが、「厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上のものであ」ると解することはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

イ サポート要件違反について
請求人は、弁駁書の6頁1行?15行において、本件訂正後の請求項1は、前記グラフェンプレートレットは、・・・厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上のものであり、」と下限値のみを特定するものであり、厚さが100nm以下である(ように機械的切断された)グラフェンプレートレットとして、長さおよび幅として20μm以上を超えるものを全て含むと規定するものであるのに対し、本件明細書の【0034】には、厚さが100nm以下であるように機械的切断されたグラフェンプレートレットの長さおよび幅は、通常は1μm?20μmの間に分布すると記載されており、本件明細書において、グラフェンプレートレットの長さおよび幅が20μmを超えるものは、本件発明1にいうグラフェンプレートレットとしては想定されていないから、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張している。
しかし、前記第2の2(6)で検討したように、本件明細書の記載によれば、グラフェンプレートの長さおよび幅として、20μmを超えるものも許容されているといえる。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

第8 まとめ
以上のとおり、請求項1、3?10、13?19に係る特許は、請求人の主張する無効理由及び証拠、並びに、当審から通知した無効理由によっては、無効とすることができない。
また、請求項2、11、12に係る特許は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項2、11、12に係る発明に対する無効理由1-1?無効理由5については、無効審判の請求の対象が存在しなくなったから、本件特許の請求項2、11、12についての無効審判の請求は、特許法第135条の規定により却下する。
そして、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノグラフェンプレートレットを主体とするリチウムイオン電池用負極複合化合物であって、
a)リチウムイオンの吸収と脱離が可能なマイクロメートルスケールまたはナノメートルスケールの粒子または被覆と、
b)ナノスケールの複数の分離または単離されたグラフェンプレートレットと備え、
前記グラフェンプレートレットは、単層のグラフェンシートまたはグラフェンシートを重ねた層であって厚さが100nm以下であって、長さおよび幅が1μm以上のものであり、
少なくとも前記粒子または被覆は、少なくとも前記グラフェンプレートレットの一つに物理的または化学的に結合され、前記グラフェンプレートレットの量は2?90質量%であり、前記粒子または被覆の量は98?10質量%であり、
前記粒子または被覆は、リチウムイオンの吸収と脱離が可能な活性物質を含み、前記活性物質は下記(a)?(e)のいずれかから選択されたものであることを特徴とするリチウムイオン電池用負極複合化合物。
(a)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、およびカドミウム(Cd)
(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、およびCdの合金または金属間化合物であって、化学量論的組成と化学量論から外れた組成を含む
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、およびCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、またはテルル化物あるいはそれらの混合物または複合物
(d)Snの塩または水酸化物
(e)上記物質の組合せ
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記グラフェンプレートレットは、比表面積が100m^(2)/gを超え、平均厚さが10nm未満であることを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項4】
前記グラフェンプレートレットは、比表面積が500m^(2)/gを超え、平均厚さが2nm未満であることを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項5】
前記粒子の寸法は5μm未満であり前記被覆の厚さは5μm未満であることを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項6】
カーボンまたはグラファイトナノ繊維、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、活性化炭素粉末、およびそれらの組合せのいずれかからなる導電性混合物をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項7】
前記粒子または被覆は、主たる成分としてSnまたはSiを含有し、SnまたはSiの含有量は、前記粒子または被覆と前記グラフェンプレートレットの総重量に対して20質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項8】
前記粒子は、Si、Ge、Sn、Cd、Sb、Pb、Bi、またはZnを含有することを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項9】
前記粒子または被覆は実質的に非晶質かナノ結晶子を含むことを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項10】
非晶質炭素、高分子炭素、カーボンブラック、コールタールピッチ、石油ピッチ、またはメソフェーズピッチであって前記粒子または被覆と物理的接触をするものをさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の複合化合物。
【請求項11】(削除)
【請求項12】(削除)
【請求項13】
正極と、請求項1に記載の複合化合物を含有する負極と、前記正極と前記負極との間の電解質とを備え、前記複合化合物はリチウムイオンの吸収および脱離が可能であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項14】
前記正極は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウム鉄燐酸塩、リチウムバナジウム燐酸塩、の1または2以上を含有することを特徴とする請求項13に記載のリチウム二次電池。
【請求項15】
正極と、請求項9に記載の複合化合物を含有する負極と、前記正極と前記負極との間の電解質とを備え、前記複合化合物はリチウムイオンの吸収および脱離が可能であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項16】
前記複合化合物は、高分子、コールタールピッチ、石油ピッチ、またはメソフェーズピッチ、コークス、またはそれらの派生物から選択されたバインダーを含有することを特徴とする請求項13に記載のリチウム二次電池。
【請求項17】
前記複合化合物は、高分子、コールタールピッチ、石油ピッチ、またはメソフェーズピッチ、コークス、またはそれらの派生物から選択されたバインダーを含有することを特徴とする請求項15に記載のリチウム二次電池。
【請求項18】
前記複合化合物は、負極化合物1グラムに対して600mAh以上の比容量を有することを特徴とする請求項13に記載のリチウム二次電池。
【請求項19】
前記複合化合物は、負極化合物1グラムに対して1000mAh以上の比容量を有することを特徴とする請求項13に記載のリチウム二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-07-14 
結審通知日 2017-07-20 
審決日 2017-08-01 
出願番号 特願2010-533179(P2010-533179)
審決分類 P 1 113・ 841- YAA (H01M)
P 1 113・ 854- YAA (H01M)
P 1 113・ 537- YAA (H01M)
P 1 113・ 855- YAA (H01M)
P 1 113・ 851- YAA (H01M)
P 1 113・ 121- YAA (H01M)
P 1 113・ 113- YAA (H01M)
P 1 113・ 852- YAA (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植前 充司  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 河本 充雄
小川 進
登録日 2013-12-20 
登録番号 特許第5436440号(P5436440)
発明の名称 ナノグラフェンプレートレットを主体とするリチウムイオン電池用複合負極化合物  
復代理人 赤井 吉郎  
代理人 山口 雄輔  
代理人 阿部 達彦  
代理人 阿部 達彦  
復代理人 赤井 吉郎  
代理人 杉村 憲司  
代理人 塚中 哲雄  

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