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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
管理番号 1336571
審判番号 不服2016-2642  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-22 
確定日 2018-01-17 
事件の表示 特願2014- 92696「バックホールネットワークを設置するのにスマートアンテナを使用する方法及びそのシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月 4日出願公開,特開2014-161100〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2005年6月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2004年6月10日 米国,2004年10月12日 米国,2004年12月17日 米国)を国際出願日とする出願である特願2007-527650号の一部を,平成19年9月14日に新たな特許出願とした特願2007-239951号の一部を,平成24年1月31日に新たな特許出願とした特願2012-18810号の一部を,平成25年6月7日に新たな特許出願とした特願2013-120944号の一部を,平成26年4月28日に更に新たな特許出願としたものであって,平成27年10月9日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成28年2月22日に拒絶査定不服審判が請求され,その後,当審において同年7月28日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由1」という。)が通知され,同年11月2日付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成29年3月29日付けで最後の拒絶理由(以下,「当審拒絶理由2」という。)が通知され,同年7月3日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。



第2 補正の却下の決定
[結論]
平成29年7月3日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の概要
平成29年7月3日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,平成28年11月2日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1,請求項3に記載された
「【請求項1】
無線通信ノードであって,
アンテナアレイと,
前記アンテナアレイに動作可能なように結合され,第1の複数のノードおよび第2の複数のノードと無線接続を確立するように構成されたコントローラと
を備え,
前記無線通信ノードは,コアネットワークに有線で接続され,前記第1の複数のノードおよび前記第2の複数のノードは,前記コアネットワークに有線で接続されておらず,
前記コントローラは,バックホールデータを,前記無線接続を通じて前記第2の複数のノードではなく,前記第1の複数のノードに送信するようにさらに構成され,
前記コントローラは,バックホールデータを含まない,無線ビーム形成されたダウンロードデータを,前記無線接続を通じて前記第2の複数のノードに送信するようにさらに構成され,
前記コントローラは,測定されたチャネル状態に応答してビームの方向を前記第2の複数のノードに調整するようにさらに構成される,
無線通信ノード。」,
「【請求項3】
メモリをさらに備え,前記コントローラは,ビーム形成データおよび少なくとも前記第2の複数のノードについてのチャネル品質情報を格納するようにさらに構成される,請求項1の無線通信ノード。」

「【請求項1】
無線通信ノードであって,
アンテナアレイと,
前記アンテナアレイに動作可能なように結合され,1または複数のノードおよび1または複数の無線送受信ユニット(WTRU)と無線接続を確立するように構成されたコントローラと
を備え,
前記無線通信ノードは,コアネットワークに有線で接続され,前記1または複数のノードおよび前記1または複数のWTRUは,前記コアネットワークに有線で接続されておらず,
前記コントローラは,前記コアネットワークからのバックホールデータを,前記無線接続を通じて前記1または複数のノードに送信するようにさらに構成され,
前記コントローラは,無線ビーム形成されたダウンロードデータを,前記無線接続を通じて前記1または複数のWTRUに送信するようにさらに構成され,
前記コントローラは,測定されたチャネル状態に応答してビームの方向を前記1または複数のWTRUに調整するようにさらに構成される,
無線通信ノード。」,
「【請求項3】
メモリをさらに備え,前記コントローラは,ビーム形成データおよび少なくとも前記1または複数のWTRUについてのチャネル品質情報を格納するようにさらに構成される,請求項1の無線通信ノード。」
([当審注]:下線部は補正箇所を示す。)
に補正することを含むものである。

2 新規事項の有無について
(1)上記補正により,請求項1の「第1の複数のノードおよび第2の複数のノード」が「1または複数のノードおよび1または複数の無線送受信ユニット(WTRU)」に変更された。これに伴い,請求項1の「前記コントローラは,測定されたチャネル状態に応答してビームの方向を前記第2の複数のノードに調整するようにさらに構成される」が「前記コントローラは,測定されたチャネル状態に応答してビームの方向を前記1または複数のWTRUに調整するようにさらに構成される」に変更され,請求項3の「前記コントローラは,ビーム形成データおよび少なくとも前記第2の複数のノードについてのチャネル品質情報を格納するようにさらに構成される」が「前記コントローラは,ビーム形成データおよび少なくとも前記1または複数のWTRUについてのチャネル品質情報を格納するようにさらに構成される」に変更された。
しかしながら,「前記コントローラは,測定されたチャネル状態に応答してビームの方向を前記1または複数のWTRUに調整する」こと(請求項1),及び「メモリをさらに備え,前記コントローラは,ビーム形成データおよび少なくとも前記1または複数のWTRUについてのチャネル品質情報を格納する」こと(請求項3)は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書等」という。)に記載も示唆もされていない。

当初明細書等には,バックホールについて以下の記載がある。
「【0003】
無線通信システムは,一般的に,基地局及び無線ネットワークコントローラなどの複数のノードを含む。ノードは,典型的に,メッシュネットワーク又はセルラーネットワークなどの有線接続によって互いに接続される。ノードは,互いに通信して,バックホールメッセージなどのメッセージを送信する。」

そして,当初明細書等には,WTRUについて以下の記載があるのみである。
「【0009】
以降,用語“WTRU”は,ユーザ装置,移動局,固定又は移動加入者ユニット,ページャー,又は,無線環境内で動作できるいずれの他のタイプの装置を含むが,これらに限定されない。以降に言及される時,用語“ノード”は,基地局,ノードB,サイトコントローラ,アクセスポイント,又は,無線環境内のインターフェイス装置のいずれかの他のタイプを含むけれど,これらには限定されない。」,
「【0013】
ノード102a-nの少なくとも一部には,少なくとも1つのスマートアンテナ(以降に詳細に説明されるような)が設けられていて,そして,通常のWTRUへのダウンロード送信及びWTRUからのアップロード受信に加えて,スマートアンテナを他のノード102a-nへのバックホールデータ送信に使用する。」,
「【0030】
・・・各ビームは,WTRUへのダウンロード及びWTRUからのアップロードの通常のトラフィックに加えて,他のノードへの無線接続として使用される。」

上記【0009】の記載によれば,本件出願において「WTRU」と「ノード」とは明確に区別されている。そして,上記【0003】の記載によれば,バックホールメッセージはノード間で通信されるものである。ここで,WTRUは,アクセスネットワークにより基地局(ノードB,アクセスポイント)にアクセスするものであって,バックホールリンクを構成するものではないことは技術常識である。
そして,上記【0013】,【0030】の記載によれば,他のノードへの無線接続とWTRUへの送受信とが少なくとも1つのスマートアンテナにより為されることが読み取れるだけであり,当初明細書等にはWTRUへの送受信に関する具体的な処理動作は一切開示されていない。
さらに,スマートアンテナを用いてるからといって必ずしも指向性ビームのみを形成するとは限らず,スマートアンテナを用いて無指向性の送受信をすることも普通に為されていることである。
してみると,WTRUに対するビームの方向を調整することが,当初明細書等に記載されているに等しいとは認められない。

また,当初明細書等には,「測定されたチャネル状態に応答してビームの方向を前記1または複数のWTRUに調整する」こと,メモリが「ビーム形成データおよび少なくとも前記1または複数のWTRUについてのチャネル品質情報を格納する」ことは,直接記載されていない。
当初明細書等には,測定,調節([当審注]:当初明細書等には「調整」なる記載は存在しない。)及びメモリに関して,以下の記載がある。
「【0017】
ノード102a-nは,システム容量,データ処理能力,干渉などの観点から最良の性能を提供する,1つのビーム109a-h方向を,ダイナミックに又は複数の利用可能な位置の中からのいずれかにより選択する。ノード102a-nは一般に特定の位置に固定されている。従って,一旦,ビーム109a-h及び2つのノード102a-n間の構成が設定されると,方向及び構成が記憶されてその後に変更無しに使用できる。各ノード102a-nは他のノード102a-nとの接続のために2以上のビーム109a-hを提供することができる。無線環境とトラフィック負荷は長期間の基礎では変化するかもしれないからである。従って,各ノード102a-nは無線環境を決定するために,他のノード102a-nから受信した信号を監視し,ダイナミックにビーム方向及び信号構成を調節してシステムの性能を最適化する。
【0018】
システムの動作の一例は次の通りである。ノード102aなどの第一選択ノードはビームを生成してそれをノード102bなどの別の選択されたノードへ操縦する。これはビーム形成アンテナアレイにより典型的に行われるように,アンテナアレイに印加される複素重みを調節することにより行うことができる。同時に,ノード102aはノード102bへのリンクAの品質を測定する。リンクAの品質は,信号対雑音比,ビット又はフレームエラーレート,又は,他のある測定可能な品質インジケータとして測定できる。送信ノード102aは,最良のアンテナビーム方向,この場合にリンク品質を最大にする重みの最良組合せを見つけて,リンク品質測定及び対応するビーム方向(重み)の両方を記憶する。送信ノード102aは,これを近所の全てのノードに対して行い,そして対応する品質及びビーム情報を記憶する。」,
「【0021】
スマートアンテナ204は,コントローラ206の制御下で複数の指向性ビームを生成するための複数のアンテナ素子(図示しない)を含む。各ビームはノード202と他のノードとの間の無線接続として機能する。上述したように,ノード202は典型的には特定の位置に固定されているため,2つのノード間のビームの方向及び構成は予め定めることができ,そしてメモリ208中に記憶できる。メモリ208は,他のノード及びこれらの他のノードの各々に対するビーム方向及び構成情報のリストを維持する。ノード202がバックホールデータなどのメッセージを別のノードに送信する必要がある時,コントローラ206はメモリ208から対応するビーム方向及び構成情報を検索し,そして特定の方向に操縦された指向性ビームを生成して,ビームを使用してメッセージを送信する。」,
「【0025】
スマートアンテナの使用はノード間の融通性のあるバックホールリンクの構成が可能である。各ノードは複数の指向性ビームを生成するように構成されていて,指向性ビームを方位角のいずれの方向へ操縦することが可能なため,新しいノードがネットワーク100に追加される時,既存のノードは新しいノードへ向けられた新しいビーム方向及び構成を単に設定することにより,新しいノードへの新接続を確立できる。これに加えて,既存のノードがネットワーク100から取り除かれる時,ノードは単にメモリ208から取り除かれたノードに対する構成及びビーム方向を削除するだけでよい。本発明は,ノード間の接続を確立又は取り除くために不要な設備の追加的な設置又は除去を行う。本発明はメッシュネットワーク又はセルラーネットワークのいずれにおいて実現できることに注意すべきである。
【0026】
メッシュネットワーキングの強さの1つは,トラフィック負荷,干渉,及び個別のノード性能を含む複数の要因に依存して,ノード間に新しいリンクを作成し及び削除する能力である。図1に示すように,複数のノード102a-nはスマートアンテナを使用して互いに結合されている。図1中のノード102a-n間の線は可能なリンクA-Fを示す。制御は集中化でき,これにより少なくとも1つのノードがノード間の接続を制御するための制御ノードとして機能できる。又は,制御は非集中化でき,ここでは制御はいくつかのノード又は全てのノードにわたって分散される。もし,1つのノードが制御ノードとして指定される場合,この制御ノードは各ノードのトラフィック状態及び性能に関する情報を収集して,1つのノードから別のノードへのメッセージ送信のための最良のトラフィックルートを決定する。
【0027】
各ノード102a-nは好ましくは1つ又は複数のビーコン信号をその1つ又は複数のビーム中に送信する。これらはネットワーク動作について有用な情報を提供する。例えば,ビーコン信号は現在の電力レベル,トラフィックレベル,干渉レベル及び他のパラメータを送信する。ビーコン信号はまたアクセスの優先度,セキュリティ,識別,及びアクセス制御とセキュリティ制御情報の他の変化するタイプを含むことができる。ビーコン信号は,周期的又は非周期的に測定され,そしてパラメータは最大効率トラフィックルートを見つけるためにノード間の接続を調節するための基礎として利用される。本発明に従いスマートアンテナを使用することにより無線的にバックホール接続の少なくとも一部を形成することは,融通性を可能にし,ノード間の接続を確立しそして調節するための不要な時間と費用を減少できる。
【0028】
例えば,図1に示すように,もし第二ノード102bと第四ノード102dの間のトラフィック負荷が重過ぎる場合,他のノードは以降に詳細に説明するようにノード102b,dのビーコン信号を読むことにより,2つのノード102b,d間のトラフィック状態を認識する。もし第一ノード102aがトラフィックを第五ノード102eに配達することを望む場合,もし可能ならば,それは第二及び第四ノード102b,dを避けて,トラフィックをN番目のノード102nを経由する代替的な経路指定をする。」,
「【0031】
環境が変化して,そしてビーム方向の調節が必要なため,リンクの品質の測定と関連情報の記憶のプロセスは周期的にされる必要があるだろう。そして,ソースノードはターゲットノードへ生成された指向性ビームを送信する(ステップ308)。」

上記【0018】の記載によれば,リンクの品質の測定は,ノードと近所の全てのノードとの間のリンクについて測定されるものであって,ノードとWTRUとの間のチャネル状態を測定するものではない。また,上記【0021】の記載をみても,ビーコン信号の測定はノード間の接続を調節するために利用されるものであって,ノードとWTRUとの間のチャネル状態を測定するものではない。

また,上記【0018】の記載によれば,メモリには,リンク品質測定及び対応するビーム方向(重み)(すなわち,最良のアンテナビーム方向,この場合にリンク品質を最大にする重みの最良組合せ)の両方を記憶されるところ,上記【0017】,【0021】の記載によれば,ノード102a-nは一般(典型的)に特定の位置に固定されているために,2つのノード間のビームの方向及び構成は予め定めることができ,そしてメモリ中に記憶できるものである。したがって,メモリにリンク品質測定及び対応するビーム方向(重み)を格納できる条件として,ノード102a-nが「特定の位置に固定されている」ことが必要であると解される。
一方,【0009】の用語の定義によれば,WTRUは移動局を含むものであり,「特定の位置に固定されている」との条件を必ずしも満たすものでないから,ノードとWTRU間のビームの方向及び構成は,必ずしも予め定めることができ,メモリ中に記憶できるとは認められない。

さらに,「前記コントローラは,測定されたチャネル状態に応答してビームの方向を前記1または複数のWTRUに調整する」については,平成27年9月17日付け手続補正により補正された特許請求の範囲には,「測定されたチャネル状態に応答してビームを前記第2のノードに変更する」(請求項1),「前記第2のノードに形成されるビームは,測定されたチャネル状態に応答して変更される」(請求項6),「測定されたチャネル状態に応答してビームを前記第1および第2のノードに調整する」(請求項11),「測定されたチャネル状態に応答してビームを前記第1および第2のノードに調整する」(請求項16)と記載されており,これらについて当審拒絶理由1(<9>)にて記載不備を指摘したところ,平成28年11月2日付け手続補正で「測定されたチャネル状態に応答してビームの方向を前記第2の複数のノードに調整する」に統一されたものである。そして,平成28年11月2日付け意見書では当該補正の根拠は【0031】である旨釈明されていたが,審判請求書では「さらに,コントローラは,測定されたチャネル状態に応答してビームを第2のノードに変更するように構成されています(例えば,段落[0025]?[0028])。」と釈明されたものである。
そして,当初明細書等の上記各記載,補正の経緯及び請求人の釈明を考慮すると,「測定されたチャネル状態に応答してビームの方向を」「調整する」ことは,新しいノードの追加や既存のノードの削除等により無線環境が変化した場合にリンクの品質の測定に基づいてビーム方向の調節が必要となること,トラフィックレベルや干渉レベル等のネットワーク動作についての情報の測定に基づいて代替的な経路指定をすること,を意図しており,「測定されたチャネル状態に応答してビームの方向をあるノードから他のノードに変更する」ことを意味すると解される。ここで,上記【0003】,【0009】の記載によれば,ノード間のネットワークはバックホールネットワークを構成するものであり,「測定されたチャネル状態に応答してビームの方向を」「調整する」ことは,無線環境の変化に応じてバックホールリンクを変更するためのものと認められる。
一方,WTRUは,上述のとおり,アクセスネットワークにより基地局(ノードB,アクセスポイント)にアクセスするものであって,バックホールリンクを構成するものではない。したがって,「前記コントローラは,測定されたチャネル状態に応答してビームの方向を前記1または複数のWTRUに調整する」は,バックホールリンクを変更するものではなく,アクセスリンクの変更という新たな技術事項を導入するものであって,当初明細書等に記載された事項の範囲内のものとはいえない。

以上のとおり,「前記コントローラは,測定されたチャネル状態に応答してビームの方向を前記1または複数のWTRUに調整するようにさらに構成される」(請求項1)及び「メモリをさらに備え,前記コントローラは,ビーム形成データおよび少なくとも前記1または複数のWTRUについてのチャネル品質情報を格納するようにさらに構成される」(請求項3)は,当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。
同様の記載を有する他の請求項についても,同様である。

(2)本件補正により,ノード間の送受信については「前記コントローラは,前記コアネットワークからのバックホールデータを,前記無線接続を通じて前記1または複数のノードに送信するようにさらに構成され」なる発明特定事項のみとなり,当該無線接続には「無線ビーム形成された」との限定はないから,ノード間の送受信について一切無線ビーム形成をしない(すなわち,指向性ビームを用いない)のものが本願発明に含まれることとなった。

一方,当初明細書等の【背景技術】,【解決しようとする課題】,【課題を解決するための手段】には,以下の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
無線通信システムにおいて,最も重要な問題の1つは干渉を減少することによりシステムの容量を増加することである。アレイアンテナ(スマートアンテナとして,また知られている)が,干渉を減少させ及び容量を改善するために開発されている。スマートアンテナは,複数のアンテナ素子を使用して方位角の特定方向へのみ信号を放射する指向性ビームを生成し,そして特定方向から送信された信号を選択的に検出する。スマートアンテナにより,信号がサービス範囲の狭い領域へ放射されるため無線通信システムは容量を増加でき,そして干渉を減少できる。これは,無線送信/受信ユニット(WTRU)などの他の送信機及び受信機及び基地局への過剰な干渉を生ずることがなく指向性ビームの送信電力レベルを増加できるため,システム全体の容量を増加する。
【0003】
無線通信システムは,一般的に,基地局及び無線ネットワークコントローラなどの複数のノードを含む。ノードは,典型的に,メッシュネットワーク又はセルラーネットワークなどの有線接続によって互いに接続される。ノードは,互いに通信して,バックホールメッセージなどのメッセージを送信する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,有線接続によってバックホールネットワークを設置することついては,有線接続は高価で,時間がかかり,そしてネットワークの修正又は変更に対して融通性がないという不利益が存在する。特に,メッシュネットワーキングは,ノードが互いに接続されることを必要とする。新しいノードがメッシュネットワークに追加される時,バックホールのために新しいノードへの新しい接続を設置するについて,大きな負担(費用と時間の両方の観点において)が存在する。
【0005】
従って,費用効果的で,時間の消費が少なく,そして融通性のあるバックホールネットワークを設置するための方法及びシステムへの必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は,バックホールネットワークを設置するのにスマートアンテナを使用する方法及びシステムである。本発明は,スマートアンテナを使用して,セル内通信を改良し,処理能力を増加し,そしてバックホールデータを伝達するために融通性のあるバックホールネットワークの少なくとも一部を形成する。本発明は,複数のノードを含み,そして各ノードがメッシュネットワーク内で互いに接続されている無線通信システム内で実現される。ノードの少なくとも一部は,複数の指向性ビームを生成するように構成された1つ又は複数のスマートアンテナが設けられている。1つ又は複数のスマートアンテナを持つ各ノードは,スマートアンテナを持つ他のノード及びビーム方向及びこれら他のノードへメッセージを送信するのに使用される構成情報のリストを維持する。ソースノードがターゲットノードへバックホールデータを送信する必要がある時,ソースノードはターゲットノードのためのビーム方向及び構成情報を検索して,ターゲットノードに向けられた指向性ビームによってメッセージを送信する。」

これらの記載を勘案すると,当初明細書等に記載されている技術事項は,ノード間接続を有線接続に代えてスマートアンテナを用いた指向性ビームによる無線接続とすることにより,有線接続に係る諸問題を解決するものであるから,ノード間接続に指向性ビームを用いないものが課題を解決し得るとは認められない。したがって,ノード間の送受信について一切無線ビーム形成をしない(すなわち,指向性ビームを用いない)ことを含むこととした本件補正は,当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。


3 補正の目的要件について
上記2のとおり,本件補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないが,更に進んで上記補正の目的について検討する。
上述のとおり,本件出願において「WTRU」と「ノード」とは明確に区別されており,本件補正前の「第2のノード」が「WTRU」の誤記であったとする合理的な根拠はなんら見出せない。したがって,「第1の複数のノードおよび第2の複数のノード」を「1または複数のノードおよび1または複数の無線送受信ユニット(WTRU)」に変更する補正は,特許法第17条の2第4項第3号の誤記の訂正とはいえない。また,本件補正前には,請求項1にはWTRUは発明特定事項として存在していないから,上記補正は,特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮とはいえない。また,上記補正は,明らかに,特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除に該当しない。また,当審拒絶理由2(後記「第3」参照。)において指摘したのは,請求項1については「コントローラは,バックホールデータを含まない,無線ビーム形成されたダウンロードデータを,前記無線接続を通じて前記第2の複数のノードに送信する」点であり,「前記コントローラは,測定されたチャネル状態に応答してビームの方向を前記第2の複数のノードに調整する」点については指摘していないから,特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明にも該当しない。
したがって,上記補正の目的は,特許法第17条の2第4項各号に規定されたいずれの事項にも該当しない。


4 結語
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項及び同第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 当審において通知した拒絶理由
当審拒絶理由2の概要は,以下のとおりである。

[理由a](サポート要件)
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求項1,請求項5,請求項9,請求項13記載の「バックホールデータを含まない,ダウンロードデータを第2の複数のノードに前記無線接続を通じて送信する」点に関して,明細書の記載では,バックホールデータを複数のノードに送信することは記載されているが,バックホールデータを含まないダウンロードデータをノードに送信することは記載されていない。
特に,ダウンロードに関しては,【0030】段落に,「・・・各ビームは,WTRUへのダウンロード及びWTRUからのアップロードの通常のトラフィックに加えて,他のノードへの無線接続として使用される。」との記載はあるが,このダウンロードは,「WTRU」へのダウンロードであり,ノードへのダウンロードデータを送信することを示すものではない。
そして,ノード間での送信において,「バックホールデータ」の送信以外に,「バックホールデータを含まない」「ダウンロードデータ」を送信するとの記載もなく,当該事項は明細書の記載から自明な事項とも認められない。
よって,当該事項が含まれる請求項1,5,9,13に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。また,請求項1,5,9,13を引用している請求項2-4,6-8,10-12,14-16に係る発明についても,同様である。

[理由b](明確性)
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1,請求項5,請求項9,請求項13記載の「バックホールデータを含まない,ダウンロードデータを第2の複数のノードに前記無線接続を通じて送信する」点に関して,「バックホールデータ」とは,通信分野においてノード間及びその上位のコアネットワークとデータを送受信するための回線をバックホール回線と称しており,そのバックホール回線を流れるデータをバックホールデータであると解するのが自然である。してみると,ノード間のバックホール回線を流れるデータとして,バックホールデータ以外に,「バックホールデータを含まないダウンロードデータ」が流れるのは,不自然であり,また,ノード間を流れる「バックホールデータを含まないダウンロードデータ」が,どのようなデータであるのか,明細書の記載を参酌しても不明確ある。
よって,請求項1,5,9,13に係る発明は明確でない。また,請求項1,5,9,13を引用している請求項2-4,6-8,10-12,14-16に係る発明についても,同様である。



第4 当審の判断
本願明細書には,バックホールデータを複数のノードに送信することは記載されているが,「バックホールデータを含まない,ダウンロードデータ」をノードに送信することは記載されていない。
そして,本願明細書には,「バックホールデータ」,「バックホールメッセージ」,「バックホール情報」等の用語が使用されており,これらについて明確な定義は為されていないが,通信分野において,ノード間及びノードとその上位のコアネットワークとの間でデータを送受信するためのリンクを構成するネットワークをバックホールネットワークと称しており,そのバックホールネットワークを介して送受信されるデータがバックホールデータであると解するのが自然である。そして,あるノードからあるWTRUにダウンロードされるダウンロードデータも,当該コアネットワークから当該ノードまでは,バックホールネットワークを介してバックホールデータとして送受信され,あるWTRUからあるノードにアップロードされるアップロードデータも,当該ノードからコアネットワークまでは,バックホールネットワークを介してバックホールデータとして送受信されることは,技術常識である。
当該解釈は,本願明細書の「ノードは,互いに通信して,バックホールメッセージなどのメッセージを送信する。」(【0003】),「ソースノードがターゲットノードへバックホールデータを送信する必要がある時,ソースノードはターゲットノードのためのビーム方向及び構成情報を検索して,ターゲットノードに向けられた指向性ビームによってメッセージを送信する。」(【0006】),「通常のWTRUへのダウンロード送信及びWTRUからのアップロード受信に加えて,スマートアンテナを他のノード102a-nへのバックホールデータ送信に使用する。」(【0013】),「換言すると,ノードがスマートアンテナの助けにより無線でバックホール情報を送信する時,このバックホール情報は最終的にコアネットワーク110へハイブリッドノード102nを経由して配達される。従って,ハイブリッドノード102nは,無線バックホール接続によりバックホール情報をノードへ送信及び受信でき,一方,それはバックホール情報をコアネットワーク110へ送信及び受信する。従って,ブリッジを形成する。」(【0014】),「ノード202がバックホールデータなどのメッセージを別のノードに送信する必要がある時,コントローラ206はメモリ208から対応するビーム方向及び構成情報を検索し,そして特定の方向に操縦された指向性ビームを生成して,ビームを使用してメッセージを送信する。」(【0021】),「ノード202は,同時に複数の他のノードへバックホールデータを送信するために2以上の指向性ビームを生成する。」(【0023】),「本発明は,融通性のある無線メッシュネットワークを提供するという利点を有するのみならず,バックホール情報(典型的に有線を介して送信された)がまたスマートアンテナを介して同じ融通性のあるリンクを経由して今送信される。」(【0029】),「各ビームは,WTRUへのダウンロード及びWTRUからのアップロードの通常のトラフィックに加えて,他のノードへの無線接続として使用される。」(【0030】)等々の「バックホール」,「ダウンロード」,「アップロード」に関する各記載とも矛盾することなく整合するものである。
また,当該解釈は,審判請求書における「バックホールは,分散サイト,典型的にはアクセスポイント,より集中化されたポイントの間のトラフィックを運ぶことに関係するものと定義することができます。階層型電気通信網において,ネットワークのバックホール部分は,コアネットワークと,階層型ネットワークのアクセスネットワークまたはエッジネットワークとの間の中間リンクを含みます。」との主張,及び平成28年11月2日付け意見書における「「バックホールデータ」は技術用語であり,当業者には知られている用語であるものと思料します。バックホールデータは,分散型のサイト(典型的には,アクセスポイント)間で送信されるトラフィックを分類するために使用されます。階層型の通信ネットワークにおいて,ネットワークのバックホール部分は,定義上は,コアネットワークと,階層型ネットワークのアクセスネットワークまたはエッジネットワークとの間の中間リンクを含むものです。」とも矛盾するものではない。
してみると,ノード間で送受信されるデータは,最終的にWTRUにダウンロードされるダウンロードデータや,WTRUからアップロードされたアップロードデータを含め,バックホールネットワークを介して送受信されるバックホールデータであるから,「バックホールデータを含まない,無線ビーム形成されたダウンロードデータを,前記無線接続を通じて前記第2の複数のノードに送信する」なる事項は技術的に意味不明であり,発明の詳細な説明に記載されたものともいえない。
したがって,当審拒絶理由2の上記理由a,bのとおり,本件出願は,特許請求の範囲の記載に不備があり,特許法第36条第6項第1号,第2号に規定する要件を満たしていない。

ここで,請求人は,審判請求書において「バックホールデータは,グローバルネットワークに接続可能な端末よりもむしろ,グローバルネットワーク自身から生じる,またはそこに向かうデータを構成します。本願発明では,ユーザデータ(ビーム形成されたデータ)とバックホールデータ(無線バックホールデータ)とを区別しており,本願発明のコントローラは,両方のタイプのデータを無線で交換することができます。」と主張し,平成28年11月2日付け意見書においては更に「換言すれば,バックホールデータは,グローバル設定を含む,グローバルネットワークとの間で伝送される制御情報です。これは引用発明の「中継経路設定パケット」とは異なるものです。」と主張している。
しかしながら,本願明細書には,そのようなことは記載も示唆もされておらず,「グローバル設定」,「グローバルネットワーク」なる概念自体,意味不明であるし,バックホールデータが制御情報のみであるとする合理的な根拠も見出せない。また,ユーザデータは,ノード間を送受信される間はバックホールデータであり,ターゲットノードからWTRUに送受信される際はダウンロードデータ又はアップロードデータであって,送受信されるネットワークにより呼称を変えているだけであって,データの内容自体に差異はない。そして,上記「第2 2(2)」にて述べたように,本願発明書にはノード間で送受信されるバックホールデータをビーム形成されたデータとすることは記載されているが,ノードからWTRUに送信されるユーザデータのみをビーム形成されたデータとすることは記載されておらず,また,無線バックホールデータをビーム形成されたデータとしないことも記載されていない。したがって,上記主張は,本願明細書の記載に基づかないものであり,採用できない。


なお,当審拒絶理由2に「審判請求人から平成28年11月2日付けで提出された意見書及び補正書によって,先に通知した拒絶理由が解消されたものと合議体が認めたものではないことにご留意下さい。」と付記されているように,上記本願明細書の記載に基づかない主張に係るバックホールデータに関して,当審拒絶理由1は解消していない。
そして,進歩性に関して,請求人は平成29年7月3日付け意見書にて,「しかしながら,引用文献1には,コアネットワークに有線接続されている無線ノードであって,コアネットワークからのバックホールデータをコアネットワークに有線接続されていない1または複数のノードに無線で送信するように構成された無線ノードについて開示も示唆もされておりません。・・・引用文献1に記載されているアップリンクトラヒックおよびダウンリンクトラヒックは,ユーザデータであり,バックホールデータではありません。平成28年11月2日付けの意見書でも述べたように,バックホールデータは,(アップリンクおよびダウンリンク)ユーザデータとは異なります。本願発明は,ユーザデータ(本願発明における「ダウンロードデータ」)およびバックホールデータを明確に区別しており,本願発明のコントローラは,両方のタイプのデータをワイヤレスに送信することができます。引用文献1には,この類の送信スキームについて開示も示唆もしておりません。・・・本願発明に記載されているようなバックホールデータとは異なり,これらのユーザデータは,「端末局」から生じ,あるいは「端末局」に終端します。当業者が引用文献1に記載の発明に基づいて本願発明のような構成に想到することは著しく困難であり,先の拒絶理由4は解消されるものと思料します。」と主張するが,バックホールデータとユーザデータの相違に関する主張は上述のとおり本願明細書の記載に基づかないものであり,採用できない。すなわち,平成28年11月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明と特開2003-18083号公報な記載された発明との間には,請求人が主張するような相違は認められない。



第5 むすび
以上のとおり,本件出願は,特許請求の範囲の記載に不備があり,特許法第36条第6項第1号,第2号に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-10 
結審通知日 2017-08-15 
審決日 2017-09-04 
出願番号 特願2014-92696(P2014-92696)
審決分類 P 1 8・ 561- WZ (H04B)
P 1 8・ 537- WZ (H04B)
P 1 8・ 57- WZ (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 聖子  
特許庁審判長 近藤 聡
特許庁審判官 菅原 道晴
山本 章裕
発明の名称 バックホールネットワークを設置するのにスマートアンテナを使用する方法及びそのシステム  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
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