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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04N |
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管理番号 | 1336804 |
審判番号 | 不服2016-18149 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-12-02 |
確定日 | 2018-01-24 |
事件の表示 | 特願2014-256857「AV機器及びその制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月16日出願公開、特開2015-130662〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年12月19日(パリ条約による優先権主張、2014年1月7日、韓国)の出願であって、手続の概要は以下のとおりである。 拒絶理由通知 :平成27年11月13日(起案日) 手続補正 :平成28年2月17日 拒絶査定 :平成28年7月22日(起案日) 拒絶査定不服審判請求 :平成28年12月2日 手続補正 :平成28年12月2日 前置審査報告 :平成29年2月22日 第2 平成28年12月2日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成28年12月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 本件補正は、補正前の平成28年2月17日付けの手続補正による特許請求の範囲の請求項1ないし15を、本件補正による特許請求の範囲の請求項1ないし15に補正するものであるところ、本件補正は、請求項10に係る次の補正事項を含むものである(下線は補正箇所)。 (補正前の請求項10) 「【請求項10】 AV機器の制御方法であって、 ディスプレイ装置にビデオ信号及び該ビデオ信号に対応する第1オーディオ信号を出力する段階と、 前記ディスプレイ装置から前記第1オーディオ信号のフィードバック信号を受信する段階と、 前記第1オーディオ信号と前記フィードバック信号とを比較して前記ディスプレイ装置の処理遅延時間を決定する段階と、 前記決定された処理遅延時間に基づいて、前記ビデオ信号に対応する第2オーディオ信号を遅延させて出力する段階と、 を含み、 前記処理遅延時間を決定する段階は、さらに、 前記第1オーディオ信号の中にあらかじめ決められた識別区間を作成する段階と、 前記ディスプレイ装置から受信した前記第1オーディオ信号の前記フィードバック信号において前記識別区間を検出する段階と、 前記識別区間について、前記第1オーディオ信号と前記フィードバック信号との間の時間差に基づいて前記処理遅延時間を決定する段階と、 を含む、 AV機器の制御方法。」 とあるのを、 (補正後の請求項10) 「【請求項10】 AV機器の制御方法であって、 ディスプレイ装置にソース機器から受信したビデオ信号及び前記ソース機器から受信したオーディオ信号から得られた第1オーディオ信号を出力する段階と、 前記ディスプレイ装置から前記第1オーディオ信号のフィードバック信号を受信する段階と、 前記第1オーディオ信号と前記フィードバック信号とを比較して前記ディスプレイ装置の処理遅延時間を決定する段階と、 前記決定された処理遅延時間に基づいて、前記ビデオ信号に対応する第2オーディオ信号を遅延させて出力する段階と、 を含み、 前記処理遅延時間を決定する段階は、さらに、 前記第1オーディオ信号の中にあらかじめ決められた識別区間を作成する段階と、 前記ディスプレイ装置から受信した前記第1オーディオ信号の前記フィードバック信号において前記識別区間を検出する段階と、 前記識別区間について、前記第1オーディオ信号と前記フィードバック信号との間の時間差に基づいて前記処理遅延時間を決定する段階と、 を含む、 AV機器の制御方法。」 と補正する。 本件補正の請求項10に係る補正は、以下に示す補正事項を有している。 (1)補正事項1 補正前の請求項における「ビデオ信号」を、「ソース機器から受信したビデオ信号」とする補正。 (2)補正事項2 補正前の請求項における「第1オーディオ信号」を、「前記ソース機器から受信したオーディオ信号から得られた第1オーディオ信号」とする補正。 2.補正の適合性 (1)補正の目的 補正事項1は、発明特定事項である「ビデオ信号」について、「ソース機器から受信した」ものであることを限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正といえ、補正前の請求項に記載された発明と補正後の請求項に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わるものではなく同一であるといえるから、特許法第17条の2第5項第2号の規定に該当するものである。 補正事項2は、発明特定事項である「第1オーディオ信号」について、「前記ソース機器から受信したオーディオ信号から得られた」ものであることを限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正といえ、補正前の請求項に記載された発明と補正後の請求項に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わるものではなく同一であるといえるから、特許法第17条の2第5項第2号の規定に該当するものである。 (2)補正の範囲及び単一性について 補正事項1及び2は、願書に最初に添付した明細書の段落0035、及び図2の記載に基づくものである。 よって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。 また、各補正事項は、上記のように、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから、補正前の請求項に記載された発明と補正後の請求項に記載された発明とは発明の単一性の要件を満たすものといえ、本件補正は特許法第17条の2第4項の規定に適合するものである。 (3)独立特許要件 以上のように、本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものであるので、本件補正後の請求項10に記載された発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。 (3-1)本願補正発明 本件補正後の請求項10に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)は、次のとおりのものである。 なお、本願補正発明の各構成の符号は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成(A)、構成(B)などと称する。 (本願補正発明) (A)AV機器の制御方法であって、 (B)ディスプレイ装置にソース機器から受信したビデオ信号及び前記ソース機器から受信したオーディオ信号から得られた第1オーディオ信号を出力する段階と、 (C)前記ディスプレイ装置から前記第1オーディオ信号のフィードバック信号を受信する段階と、 (D)前記第1オーディオ信号と前記フィードバック信号とを比較して前記ディスプレイ装置の処理遅延時間を決定する段階と、 (E)前記決定された処理遅延時間に基づいて、前記ビデオ信号に対応する第2オーディオ信号を遅延させて出力する段階と、 を含み、 (F)前記処理遅延時間を決定する段階は、さらに、 (i)前記第1オーディオ信号の中にあらかじめ決められた識別区間を作成する段階と、 (ii)前記ディスプレイ装置から受信した前記第1オーディオ信号の前記フィードバック信号において前記識別区間を検出する段階と、 (iii)前記識別区間について、前記第1オーディオ信号と前記フィードバック信号との間の時間差に基づいて前記処理遅延時間を決定する段階と、 を含む、 (A)AV機器の制御方法。 (3-2)引用文献1の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である特開2012-191583号公報には、「信号出力装置」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。 なお、下線は強調のために当審で付したものである。 ア.「【0018】 [テレビ20の構成] 図2は、本発明の実施形態におけるテレビ20の構成を説明するブロック図である。テレビ20は、DSP(Digital Signal Processor)21、接続端子22、表示部23、放音部24、および音声出力端子25を有する。 接続端子22は、外部装置と情報の送受信の経路となるケーブルが接続される端子であり、例えば、HDMI(登録商標)の規格にしたがって構成されている。この例においては、接続端子22は、AVアンプ10に接続されたケーブルが接続され、AVアンプ10から送信されるデータを受信する。AVアンプ10から送信されるデータには、映像信号Sg、オーディオ信号Sa2およびジャンル情報Scが含まれている。接続端子22は、AVアンプ10から送信されたデータをDSP21に出力する。 (中略) 【0020】 表示部23は、表示画面を有し、DSP21から入力される再生映像信号Sgdが示す映像を表示画面に表示する。放音部24は、スピーカを有し、DSP21から入力される再生オーディオ信号Sa2dが示す音を出力する。音声出力端子25は、DSP21から入力される再生オーディオ信号Sa2dを、外部装置に出力する経路となるケーブルが接続される端子である。この例においては、AVアンプ10に接続するケーブルが接続され、AVアンプ10に対して再生オーディオ信号Sa2dを出力する。 (中略) 【0023】 音声再生部212は、入力されるオーディオ信号Sa2を遅延させて再生し、再生オーディオ信号Sa2dとして出力する。この例においては、音声再生部212は、音声出力端子25にケーブルが接続されている場合には、音声出力端子25に再生オーディオ信号Sa2dを出力し、このケーブルに接続された外部装置に再生オーディオ信号Sa2dが入力される。一方、音声出力端子25にケーブルが接続されていない場合には、音声再生部212は、放音部24に再生オーディオ信号Sa2dを出力し、放音部24から放音させる。 この例においては、AVアンプ10に接続されたケーブルが音声出力端子25に接続されているため、音声再生部212は、音声出力端子25に再生オーディオ信号Sa2dを出力し、放音部24には出力しない。 【0024】 この例においては、音声再生部212は、オーディオ信号Sa2を再生して再生オーディオ信号Sa2cとして出力する音声再生処理部2121と、再生オーディオ信号Sa2cを遅延させて再生オーディオ信号Sa2dとして出力する遅延処理部2122とを有する。音声再生処理部2121において、オーディオ信号Sa2が入力されてから再生オーディオ信号Sa2cを出力するまでの音声再生処理時間は、上述の映像再生処理時間より短い。遅延処理部2122における再生オーディオ信号Sa2cへの遅延処理における遅延時間は、この映像再生処理時間と音声再生処理時間の差分の時間として設定され、リップシンク制御を実現するようになっている。したがって、映像再生処理時間が変化すれば、設定される遅延時間も変化するようになっている。なお、音声再生部212においては、再生されたオーディオ信号に対して遅延処理が施されていたが、遅延処理を施してからオーディオ信号を再生するようにしてもよい。(後略)」 イ.「【0025】 [AVアンプ10の構成] 図3は、本発明の実施形態におけるAVアンプ10の構成を説明するブロック図である。AVアンプ10は、DSP11、接続端子12、13、音声入力端子14、およびスピーカ接続部15を有する。 接続端子12、13は、接続端子22と同様に、外部装置とデータの送受信の経路となるケーブルが接続される端子であり、例えば、HDMIの規格にしたがって構成されている。この例においては、接続端子12は、光ディスクプレイヤ30に接続されたケーブルが接続され、光ディスクプレイヤ30から送信されるデータを受信する。光ディスクプレイヤ30から送信されるデータには、映像信号Sg、オーディオ信号Sa1およびジャンル情報Scが含まれている。接続端子12は、光ディスクプレイヤ30から送信された情報をDSP11に出力する。また、接続端子13は、テレビ20(接続端子22)に接続されたケーブルが接続され、テレビ20にデータを送信する。テレビ20に送信するデータには、上述したように、映像信号Sg、オーディオ信号Sa2およびジャンル情報Scが含まれている。 【0026】 音声入力端子14は、外部装置からオーディオ信号が入力される経路となるケーブルが接続される端子である。この例においては、テレビ20(音声出力端子25)に接続するケーブルが接続され、テレビ20から再生オーディオ信号Sa2dが入力される。音声入力端子14は、入力された再生オーディオ信号Sa2dをDSP11に出力する。 【0027】 スピーカ接続部15は、外部のスピーカ装置(この例においては、スピーカ装置40)が接続される接続端子、および、オーディオ信号を増幅するアンプを有する。スピーカ接続部15は、DSP11からオーディオ信号(後述する再生オーディオ信号Sa1d)が入力される。スピーカ接続部15は、入力された再生オーディオ信号Sa1dをアンプにより増幅して、スピーカ接続部15に接続されたスピーカ装置40に出力し、スピーカ装置40から放音させる。なお、スピーカ装置40にアンプが設けられている場合には、スピーカ接続部15にアンプが設けられていなくてもよい。 (中略) 【0029】 測定音供給部112は、テレビ20におけるオーディオ信号の遅延時間を測定するための遅延測定用のオーディオ信号Sa2を生成して第1出力部114に供給する。この例においては、測定音供給部112は、信号取得部111から出力される映像信号Sgまたはジャンル情報Scを監視して、映像信号Sgのフォーマットが変わった場合、ジャンル情報Scの内容が変わった場合に、予め決められた期間、オーディオ信号Sa2を生成する。このオーディオ信号Sa2は、例えば、一定間隔で出力されるインパルス音、断続的に出力されるホワイトノイズ、音量レベルが一定周期で変化する音などの時間変化する音を示す信号であってもよいし、サイン波のような信号であってもよい。すなわち、オーディオ信号Sa2は、信号レベルの時間変動、周波数分布の時間変動など、何らかのパラメータが時間的な変動をする測定音を示す信号であれば、どのような信号であってもよい。 (中略) 【0031】 第1出力部114は、信号取得部111から映像信号Sgおよびジャンル情報Scを取得して接続端子13に出力する。また、第1出力部114は、測定音供給部112からオーディオ信号Sa2を取得して接続端子13および遅延測定部116に出力する。これにより、映像信号Sg、オーディオ信号Sa2およびジャンル情報Scは、ケーブルを介して接続されたテレビ20へ出力される。」 ウ.「【0032】 遅延音取得部115は、音声入力端子14から再生オーディオ信号Sa2dを取得し、遅延測定部116に出力する。この再生オーディオ信号Sa2dは、上述したように、テレビ20の音声再生部212において遅延されたオーディオ信号Sa2に対応する。」 エ.「【0033】 遅延測定部116は、第1出力部114から入力されたオーディオ信号Sa2と、遅延音取得部115から入力された再生オーディオ信号Sa2dとを比較して、時間的なずれ量を測定する。遅延測定部116は、例えば、オーディオ信号Sa2がインパルス音である場合には、インパルス信号の時間的なずれ量を測定すればよい。このずれ量は、第1出力部114からオーディオ信号Sa2が出力されてから、遅延測定部116に再生オーディオ信号Sa2dが入力されるまでの時間に相当する。以下、このずれ量を測定時間dtという。テレビ20における音声のトータルの遅延時間(音声再生処理時間+遅延処理部2122に設定された遅延時間)は映像再生処理時間と等しくなる様に制御されるため、測定時間dtは、概ね映像再生処理時間に相当する時間となる。遅延測定部116は、測定時間dtを遅延制御部117に出力する。 【0034】 遅延制御部117は、信号取得部111から入力されるオーディオ信号Sa1に対して、設定された遅延時間Tdで遅延処理を施して再生し、再生オーディオ信号Sa1dとして第2出力部118に出力する。遅延制御部117は、オーディオ信号Sa1の再生において、音響効果を付与するなどの信号処理を行ってもよく、この場合には、信号処理に要する時間を遅延時間Tdから減じて遅延処理を施してもよい。 遅延制御部117は、遅延処理における遅延時間Tdについて、遅延測定部116から取得した測定時間dtに応じて設定する遅延制御を行う。 (中略) 【0039】 図3に戻って説明を続ける。第2出力部118は、遅延制御部117から入力された再生オーディオ信号Sa1dをスピーカ接続部15に出力する。これにより、スピーカ装置40は、再生オーディオ信号Sa1dが入力され放音する。このとき、テレビ20の音声再生部212におけるリップシンク制御されたオーディオの遅延時間に対応して測定された測定時間dtに応じて、遅延制御部117がオーディオ信号Sa1に対して遅延処理を施しているから、テレビ20の表示画面に表示される映像の内容と、スピーカ装置40から放音される内容との時間的なずれ量が少なくなり、リップシンク制御が実現される。また、音声再生部212における遅延時間が変更されても、それに追従してリップシンク制御が実現される。(後略)」 オ.「【0041】 <変形例> 以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以下のように、さまざまな態様で実施可能である。 [変形例1] 上述した実施形態においては、測定音供給部112は、生成されたオーディオ信号を、遅延測定用のオーディオ信号Sa2として第1出力部114に供給していたが、信号取得部111から出力されるオーディオ信号Sa1を取得して、遅延測定用のオーディオ信号Sa2として供給してもよい。またこの場合、オーディオ信号Sa1をそのまま使用しても良いが、加工しても良い。加工処理は様々な処理が可能であり、例えば、信号レベルを変化させる処理、周波数分布を変化させる処理、一部期間のみ出力させる処理などである。このように、測定音供給部112は、オーディオ信号Sa1を用いて、遅延測定用のオーディオ信号Sa2を第1出力部114に供給してもよい。(後略)」 (3-3)引用文献1に記載される発明及び技術 ア.引用文献1に記載される発明 引用文献1に記載された発明を以下に認定する。 (ア)引用文献1の上記(3-2)イ、ウ、エには、AVアンプ10の動作について記載されており、AVアンプ10が当該記載のとおり動作するように制御することが記載されているといえる。よって、引用文献1には、AVアンプ10の制御方法についての発明が記載されている。 (イ)引用文献1の上記(3-2)イの記載によれば、AVアンプ10は、光ディスクプレイヤ30から映像信号Sgとオーディオ信号Sa1を取得し、テレビ20に光ディスクプレイヤ30から取得した映像信号SgとAVアンプ10の測定音供給部112が生成した遅延測定用のオーディオ信号Sa2を出力する。 (ウ)引用文献1の上記(3-2)ア、ウの記載によれば、AVアンプ10は、テレビ20においてオーディオ信号Sa2を遅延させて再生した再生オーディオ信号Sa2dをテレビ20から取得する。 (エ)引用文献1の上記(3-2)イ、エの記載によれば、AVアンプ10は、オーディオ信号Sa2と再生オーディオ信号Sa2dを比較して、時間的なずれ量dtを測定し、光ディスクプレイヤ30から取得したオーディオ信号Sa1に対して、時間的なずれ量dtに応じて設定された遅延時間Tdで遅延処理を施して再生し、再生オーディオ信号Sa1dとして出力する。 また、時間的なずれ量dtは、概ねテレビ20の映像再生処理時間に相当する時間となっており、時間的なずれ量dtに応じて、AVアンプ10がオーディオ信号Sa1に対して遅延処理を施しているから、テレビ20の表示画面に表示される映像の内容と、スピーカ装置40から放音される内容との時間的なずれ量が少なくなり、リップシンク制御が実現される。 (オ)引用文献1の上記(3-2)イの記載によれば、AVアンプ10の測定音供給部112が生成するオーディオ信号Sa2は、一定間隔で出力されるインパルス音、断続的に出力されるホワイトノイズ、音量レベルが一定周期で変化する音などの時間変化する音を示す信号や、サイン波のような信号など、信号レベルや周波数分布などのパラメータが時間的な変動をする測定音を示す信号である。 また、引用文献1の上記(3-2)エの記載のとおり、引用文献1には、オーディオ信号Sa2と再生オーディオ信号Sa2dとの比較について、「例えば、オーディオ信号Sa2がインパルス音である場合には、インパルス信号の時間的なずれ量を測定すればよい。」と例示されている。 すなわち、引用文献1には、一定の周期を有するインパルス音、音量レベルが一定周期で時間変化する音のような測定音を示す信号である遅延測定用のオーディオ信号Sa2を生成し、再生オーディオ信号Sa2dにおける対応する測定音との時間的なずれ量を測定することが記載されているといえる。 (カ)まとめ 上記(ア)ないし(オ)によると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (引用発明) (a)AVアンプの制御方法であって、 (b)光ディスクプレイヤから映像信号とオーディオ信号を取得し、テレビに光ディスクプレイヤから取得した映像信号及びAVアンプが生成した遅延測定用のオーディオ信号を出力し、 (c)テレビから遅延測定用のオーディオ信号がテレビにおいて遅延された再生オーディオ信号を取得し、 (d)遅延測定用のオーディオ信号とテレビから取得した再生オーディオ信号とを比較してテレビの映像再生処理時間に相当する時間的なずれ量を測定し、測定された時間的なずれ量に応じて遅延時間を設定し、 (e)設定された遅延時間で、光ディスクプレイヤから取得したオーディオ信号に対して遅延処理を施して出力することにより、当該オーディオ信号とテレビに表示される映像信号との時間的なずれ量を少なくし、 (f)時間的なずれ量を測定するにあたり、 (i)遅延測定用のオーディオ信号として、一定の周期を有するインパルス音、音量レベルが一定周期で時間変化する音のような測定音を示す信号を生成し、 (ii)遅延測定用のオーディオ信号とテレビから取得した再生オーディオ信号における対応する測定音との時間的なずれ量を測定する、 (a)AVアンプの制御方法。 イ.引用文献1に記載される技術 引用文献1の上記(3-2)オの記載によれば、引用文献1には、「AVアンプ10は、測定音供給部112が生成するオーディオ信号を遅延測定用のオーディオ信号Sa2として出力することに代えて、光ディスクプレイヤ30から取得したオーディオ信号Sa1を加工して遅延測定用のオーディオ信号Sa2として出力すること」、「加工処理は、信号レベルを変化させる処理、周波数分布を変化させる処理、一部期間のみ出力させる処理などであること」が記載されている。 すなわち、引用文献1には、「AVアンプが遅延測定用のオーディオ信号を生成することに代えて、光ディスクプレイヤから取得したオーディオ信号を、一部期間のみ出力させるなどの加工処理を施して、遅延測定用のオーディオ信号とする技術」が記載されている。 (3-4)対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 ア.本願補正発明の構成(A)と引用発明の構成(a)との対比 引用発明の「AVアンプ」はAV機器であるから、引用発明の「AVアンプの制御方法」は、本願補正発明の「AV機器の制御方法」と一致する。 イ.本願補正発明の構成(B)と引用発明の構成(b)との対比 引用発明の「テレビ」、「光ディスクプレイヤ」、「映像信号」は、それぞれ本願補正発明の「ディスプレイ装置」、「ソース機器」、「ビデオ信号」に相当する。 また、引用発明の「AVアンプが生成した遅延測定用のオーディオ信号」は、「ディスプレイ装置」に出力されるオーディオ信号である点で、本願補正発明の「第1オーディオ信号」と共通するものである。 よって、引用発明における、「テレビに光ディスクプレイヤから取得した映像信号及び遅延測定用のオーディオ信号を出力」することは、本願補正発明と「ディスプレイ装置にソース機器から受信したビデオ信号及び第1オーディオ信号を出力する段階」という点で共通する。 ただし、「第1オーディオ信号」に関し、本願補正発明では「前記ソース機器から受信したオーディオ信号から得られた第1オーディオ信号」であるのに対して、引用発明では「AVアンプが生成した遅延測定用のオーディオ信号」である点で、両者は相違する。 ウ.本願補正発明の構成(C)と引用発明の構成(c)との対比 引用発明の「再生オーディオ信号」は、AVアンプからテレビに出力された遅延測定用のオーディオ信号がテレビにおいて遅延され、AVアンプに戻される信号であるから、本願補正発明の「第1オーディオ信号のフィードバック信号」に相当する。 よって、引用発明における、「テレビから遅延測定用のオーディオ信号がテレビにおいて遅延された再生オーディオ信号を取得」することは、本願補正発明の「前記ディスプレイ装置から前記第1オーディオ信号のフィードバック信号を受信する段階」と一致する。 エ.本願補正発明の構成(D)と引用発明の構成(d)との対比 上記ウにおいて検討したように、引用発明の「再生オーディオ信号」は本願補正発明の「第1オーディオ信号のフィードバック信号」に相当するものであるから、引用発明において、「遅延測定用のオーディオ信号と再生オーディオ信号とを比較してテレビの映像再生処理時間に相当する時間的なずれ量を測定」することは、本願補正発明における「前記第1オーディオ信号と前記フィードバック信号とを比較して前記ディスプレイ装置の処理遅延時間を決定する段階」に相当する。 オ.本願補正発明の構成(E)と引用発明の構成(e)との対比 引用発明の「光ディスクプレイヤから取得したオーディオ信号」は、構成(b)にあるように、光ディスクプレイヤから映像信号と同時に取得したオーディオ信号であるから、映像信号に対応するオーディオ信号といえ、本願補正発明の「第2オーディオ信号」に相当するものである。 よって、引用発明において、「設定された遅延時間で、光ディスクプレイヤから入力されたオーディオ信号に対して遅延処理を施して出力」することは、本願補正発明における「前記決定された処理遅延時間に基づいて、前記ビデオ信号に対応する第2オーディオ信号を遅延させて出力する段階」に相当する。 カ.本願補正発明の構成(F)と引用発明の構成(f)との対比 引用発明の「時間的なずれ量を測定する」ことは、本願補正発明の「処理遅延時間を決定する段階」に相当することは、上記エにおいて認定したとおりである。 まず、本願補正発明の「識別区間」について確認すると、本願明細書の段落【0048】には、「すなわち、AV機器11からディスプレイ装置12に出力される第1オーディオ信号は、第1オーディオ信号内の特定地点を識別可能にする少なくとも一つの識別区間を含むことができる。識別区間は周期的であってもよい。AV機器11は、識別区間に基づいて、第1オーディオ信号とそのフィードバック信号との位相差を判断して処理遅延時間を決定することができる。」と記載されており、「識別区間」は、「周期的なものであり、第1オーディオ信号とそのフィードバック信号との位相差を判断することを可能とする区間」である。 ここで、引用発明の「遅延測定用のオーディオ信号」は、「一定の周期を有するインパルス音、音量レベルが一定周期で時間変化する音のような測定音を示す信号」であり、この「一定の周期を有するインパルス音、音量レベルが一定周期で時間変化する音のような測定音」は、周期的なものであり、遅延測定用のオーディオ信号とテレビから取得した再生オーディオ信号とにずれが生じていれば、その周期的な信号の位相差を検出することを可能とする音と認められる。 よって、引用発明の「一定の周期を有するインパルス音、音量レベルが一定周期で時間変化する音のような測定音」は、本願補正発明の「識別区間」を備えているものといえる。 また、当該測定音を生成するにあたり、あらかじめ当該測定音を決めておくことは当然であるから、引用発明において、「遅延測定用のオーディオ信号として、一定の周期を有するインパルス音、音量レベルが一定周期で時間変化する音のような測定音を示す信号を生成」することは、本願補正発明における「前記第1オーディオ信号の中にあらかじめ決められた識別区間を作成する段階」に相当する。 また、引用発明において、「遅延測定用のオーディオ信号とテレビから取得した再生オーディオ信号における対応する測定音との時間的なずれ量を測定する」にあたり、周期的な測定音の周期、すなわち区間を検出することは明らかであり、その区間の時間的なずれ量、すなわち時間差を測定しているものである。 よって、引用発明において、「遅延測定用のオーディオ信号とテレビから取得した再生オーディオ信号における対応する測定音との時間的なずれ量を測定する」ことは、本願補正発明における「前記ディスプレイ装置から受信した前記第1オーディオ信号の前記フィードバック信号において前記識別区間を検出する段階」に相当する。 そして、引用発明は、周期的な測定音の区間の時間差を測定し、前記ディスプレイ装置の処理遅延時間を決定しているのであるから、「前記識別区間について、前記第1オーディオ信号と前記フィードバック信号との間の時間差に基づいて前記処理遅延時間を決定する段階」を有しているといえる。 キ.まとめ 上記アないしカの対比結果をまとめると、本願補正発明と引用発明との[一致点]と[相違点]は以下のとおりである。 [一致点] AV機器の制御方法であって、 ディスプレイ装置にソース機器から受信したビデオ信号及び第1オーディオ信号を出力する段階と、 前記ディスプレイ装置から前記第1オーディオ信号のフィードバック信号を受信する段階と、 前記第1オーディオ信号と前記フィードバック信号とを比較して前記ディスプレイ装置の処理遅延時間を決定する段階と、 前記決定された処理遅延時間に基づいて、前記ビデオ信号に対応する第2オーディオ信号を遅延させて出力する段階と、 を含み、 前記処理遅延時間を決定する段階は、さらに、 前記第1オーディオ信号の中にあらかじめ決められた識別区間を作成する段階と、 前記ディスプレイ装置から受信した前記第1オーディオ信号の前記フィードバック信号において前記識別区間を検出する段階と、 前記識別区間について、前記第1オーディオ信号と前記フィードバック信号との間の時間差に基づいて前記処理遅延時間を決定する段階と、 を含む、 AV機器の制御方法。 [相違点] 「第1オーディオ信号」に関し、本願補正発明では「前記ソース機器から受信したオーディオ信号から得られた第1オーディオ信号」であるのに対して、引用発明では「AVアンプが生成した遅延測定用のオーディオ信号」である点。 (3-5)相違点の判断 上記(3-3)イに示したように、引用文献1には、「AVアンプが遅延測定用のオーディオ信号を生成することに代えて、光ディスクプレイヤから取得したオーディオ信号を、一部期間のみ出力させるなどの加工処理を施して、遅延測定用のオーディオ信号とする技術」が記載されており、引用発明にこの技術を適用し、遅延測定用のオーディオ信号を、光ディスクプレイヤから取得して加工したものとすること、すなわち、相違点に係る「前記ソース機器から受信したオーディオ信号から得られた第1オーディオ信号」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (3-6)効果等について 本願補正発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願補正発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える格別顕著なものがあるとは認められない。 (3-7)まとめ 以上のように、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明、及び引用文献1に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成28年12月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成28年2月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載した事項により特定されるものであるところ、その請求項10に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1に示した(補正前の請求項10)に記載された事項により特定されるとおりのものである。 2.引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、並びに、その記載事項は、上記第2の2(3-2)に示したとおりであり、引用文献1に記載された発明(引用発明)は、上記第2の2(3-3)アに認定したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、上記第2の1(1)及び(2)で摘示した本願補正発明に追加された限定事項を省いたものである。 そうすると、上記第2の2(3-4)の「対比」における検討を援用すると、本願発明の特定事項は引用発明と全て一致するものであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項10に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-08-22 |
結審通知日 | 2017-08-29 |
審決日 | 2017-09-11 |
出願番号 | 特願2014-256857(P2014-256857) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H04N)
P 1 8・ 575- Z (H04N) P 1 8・ 113- Z (H04N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 後藤 嘉宏、富樫 明 |
特許庁審判長 |
篠原 功一 |
特許庁審判官 |
渡辺 努 清水 正一 |
発明の名称 | AV機器及びその制御方法 |
代理人 | 伊東 忠彦 |
代理人 | 大貫 進介 |
代理人 | 伊東 忠重 |