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審決分類 審判 全部申し立て 1項2号公然実施  C02F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
管理番号 1337054
異議申立番号 異議2016-700618  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-14 
確定日 2018-01-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5912353号発明「嫌気性生物処理方法及び嫌気性生物処理装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5912353号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、〔5?9〕について訂正することを認める。 特許第5912353号の請求項1ないし6、8ないし9に係る特許を維持する。 特許第5912353号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5912353号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成23年 9月 9日の出願であって、平成28年 4月 8日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1、5に係る特許について、特許異議申立人「株式会社クボタ」(以下、「申立人A」という。)によって特許異議の申立て(以下、「特許異議申立書A」という。)がされ、また、請求項1?9に係る特許について、特許異議申立人「吉田 秀平」(以下、「申立人B」という。)により特許異議の申立て(以下、「特許異議申立書B」という。)がされ、平成28年12月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年 3月 1日に意見書(以下、「特許権者意見書」という。)の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人Aから平成29年 4月 4日付けで意見書(以下、「申立人A意見書」という。)が提出され、申立人Bから平成29年 4月10日付けで意見書(以下、「申立人B意見書」という。)が提出され、平成29年 6月29日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成29年 9月 1日に意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。
なお、平成29年 9月 1日付けの訂正の請求に対する申立人A、申立人Bからの意見書の提出はなされなかった。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
平成29年 9月 1日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のア?サのとおりである。(下線部は訂正箇所である。)
なお、本件訂正請求により、平成29年 3月 1日付けの訂正の請求は特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

ア.訂正事項1について
特許請求の範囲の請求項1の「炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する生物処理工程と、前記生物処理工程で得られる処理液をろ過膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離工程」を「炭素数6以下の有機物を含有する排水を、反応槽において嫌気性下でメタン発酵する生物処理工程と、前記生物処理工程で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離工程」に訂正し、また、同請求項の「前記生物処理工程実施中は生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整する」を「前記生物処理工程実施中は生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上で生物処理を行う」に訂正する。

イ.訂正事項2について
特許請求の範囲の請求項4の「CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上又は」を削除する。

ウ.訂正事項3について
願書に添付した明細書の段落0010に記載された「炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する生物処理工程と、前記生物処理工程で得られる処理液をろ過膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離工程」を「炭素数6以下の有機物を含有する排水を、反応槽において嫌気性下でメタン発酵する生物処理工程と、前記生物処理工程で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離工程」に訂正し、また、同段落に記載された「前記生物処理工程実施中は生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整する」を「前記生物処理工程実施中は生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上で生物処理を行う」に訂正する。

エ.訂正事項4について
願書に添付した明細書の段落0013に記載された「CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上又は」を削除する。

オ.訂正事項5について
特許請求の範囲の請求項5の「炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する反応槽と、前記反応槽で得られる処理液をろ過膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離部」を「炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する反応槽と、前記反応槽で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離部」に訂正し、また、同請求項の「生物処理実施中は前記反応槽における生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整する」を「生物処理実施中は前記反応槽における生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の温度を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、前記反応槽では、CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上で生物処理が行われる」に訂正する。

カ.訂正事項6について
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

キ.訂正事項7について
特許請求の範囲の請求項8の「請求項5?7のいずれか1項に記載の嫌気性生物処理装置」を「請求項5?6のいずれか1項に記載の嫌気性生物処理装置」に訂正する。

ク.訂正事項8について
特許請求の範囲の請求項9の「前記反応槽では、CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上又はTMAH負荷5kg/m^(3)/d以上で生物処理が行われることを特徴とする請求項5?8のいずれか1項に記載の嫌気性生物処理装置」を「前記反応槽では、TMAH負荷5kg/m^(3)/d以上で生物処理が行われることを特徴とする請求項5、6又は8に記載の嫌気性生物処理装置」に訂正する。

ケ.訂正事項9について
願書に添付した明細書の段落0014に記載された「炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する反応槽と、前記反応槽で得られる処理液をろ過膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離部」を「炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する反応槽と、前記反応槽で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離部」に訂正し、また、同段落に記載された「生物処理実施中は前記反応槽における生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整する」を「生物処理実施中は前記反応槽における生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の温度を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、前記反応槽では、CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上で生物処理が行われる」に訂正する。

コ.訂正事項10について
願書に添付した明細書の段落0016を削除する。

サ.訂正事項11について
願書に添付した明細書の段落0018に記載された「CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上又は」を削除する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア.訂正事項1について
訂正事項1は、膜分離工程について、訂正前の請求項1で特定されていない、「-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力」で行うこと、及び、「反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜」によって汚泥と処理水とに分離することを新たに特定するものである。
また、生物処理工程について、訂正前の請求項1で特定されていない、「反応層において」嫌気性下でメタン発酵処理を行うこと、「排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整」すること、「排水のpHを7以上8以下の範囲に調整」すること、及び、「CODcr負荷10k/m^(3)/d以上で生物処理を行う」ことを新たに特定するものである。
したがって、当該訂正事項1は、訂正前の請求項に記載のない発明特定事項を直列的に付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件明細書の段落【0044】には、「本実施形態では、有機物含有排水を生物処理するに当たり、反応槽16内の水温を20℃以上となるように温度調整することが好ましく、28?35℃の範囲となるように温度調整することがより好ましい。」、段落【0048】には、「・・・第2反応槽17内に、膜分離装置27が設置されている。」、段落【0052】には、「・・・上記実排水を10kgTMAH/m^(3)/d(TOC負荷では5.4kgTOC/m^(3)/d)のTMAH負荷で通水した。また、0.4μmのPVDF製の中空糸膜を用いた固液分離装置を槽内に設置した第2反応槽(内容積1.2L)に、第1反応槽内の排水を供給し、0.3m/dで吸引ろ過した。」、段落【0053】には、「第1反応槽に排水を通水する際の温度は30℃、pHは7?8となるように調整した。」、段落【0055】には、「図5は、実施例1で用いたろ過膜の吸引圧力の経日変化である。・・・また、図5に示すように、ろ過膜の吸引圧力も変化することがなかった。すなわち、ろ過膜の膜目詰まりもほとんどなく、安定したフラックスでの膜処理が可能であることを確認した。」、段落【0058】には、「図8は、実施例2で用いたろ過膜の吸引圧力の経日変化である。・・・また、図8に示すように、ろ過膜の吸引圧力もほとんど変化することがなかった。すなわち、ろ過膜の膜目詰まりもほとんどなく、高負荷でも安定したフラックスでの膜処理が可能であることを確認した。」と記載されていたから、膜分離工程について、「吸引圧力」で行うこと、及び、「反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜」によって汚泥と処理水とに分離すること、生物処理工程について、「反応層において」嫌気性下でメタン発酵処理を行うこと、「排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整」すること、「排水のpHを7以上8以下の範囲に調整」すること、及び、「CODcr負荷10k/m^(3)/d以上で生物処理を行う」ことを特定する訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
また、本件明細書の図5、図8には、膜分離工程を行う際の、ろ過膜の吸引圧力について記載されており、「-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力」を特定する訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲における重複する記載を削除するために、訂正前の請求項4の「CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上又は」を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項2は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、上記訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項3は、上記訂正事項1と同様に本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

エ.訂正事項4について
訂正事項4は、上記訂正事項2に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項4は、上記訂正事項2と同様に本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

オ.訂正事項5について
訂正事項5は、膜分離部について、訂正前の請求項5で特定されていない、「-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力」で行うこと、及び、「反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜」によって汚泥と処理水とに分離することを新たに特定するものである。
また、反応槽での生物処理について、「排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整」すること、「排水のpHを7以上8以下の範囲に調整」すること、及び、「CODcr負荷10k/m^(3)/d以上で生物処理が行われる」ことを新たに特定するものである。
したがって、当該訂正事項5は、訂正前の請求項に記載のない発明特定事項を直列的に付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

上記ア.で検討したように、訂正事項5は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

カ.訂正事項6について
訂正事項6は、請求項7を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項6は、請求項7を削除するものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

キ.訂正事項7について
訂正事項7は、引用する請求項を減少するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ク.訂正事項8について
訂正事項8は、上記訂正事項5に係る訂正に伴って、特許請求の範囲における重複する記載を削除するために、訂正前の請求項8の「CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上又は」を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項8は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ケ.訂正事項9について
訂正事項9は、上記訂正事項5に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項9は、上記訂正事項5と同様に本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

コ.訂正事項10について
訂正事項10は、上記訂正事項6に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項10は、上記訂正事項6と同様に本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

サ.訂正事項11について
訂正事項11は、上記訂正事項8に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項11は、上記訂正事項8と同様に本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項11は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(3)一群の請求項について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を訂正するものであり、訂正前の請求項2?4は請求項1を直接又は間接的に引用するため、請求項1?4は一群の請求項である。
訂正事項3、4は、一群の請求項〔1?4〕ついて明細書を訂正するものである。
訂正事項5は、訂正前の請求項5を訂正するものであり、訂正前の請求項6?9は請求項5を直接又は間接的に引用するため、請求項5?9は一群の請求項である。
訂正事項9?11は、一群の請求項〔5?9〕ついて明細書を訂正するものである。
よって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?4〕、〔5?9〕について請求するものと認められる。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕、〔5?9〕について訂正を認める。

3.本件訂正発明
上記2.のとおり訂正を認めたので、訂正後の請求項1?9に係る発明のうち、削除された請求項7を除く、請求項1?6、8?9(以下「本件訂正発明1」?「本件訂正発明6」、「本件訂正発明8」、「本件訂正発明9」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものである(下線は訂正箇所である。)。

【請求項1】
炭素数6以下の有機物を含有する排水を、反応槽において嫌気性下でメタン発酵する生物処理工程と、前記生物処理工程で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離工程と、を有し、
前記生物処理工程実施中は生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、CODcr負荷10k/m^(3)/d以上で生物処理を行うことを特徴とする嫌気性生物処理方法。
【請求項2】
前記有機物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドおよびメタノールのうち少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項1に記載の嫌気性生物処理方法。
【請求項3】
前記排水を、前記有機物が単一で、前記排水中の全有機物の90重量%以上含有するように調整することを特徴とする請求項1または2に記載の嫌気性生物処理方法。
【請求項4】
前記生物処理工程では、TMAH負荷5kg/m^(3)/d以上で生物処理を行うことを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の嫌気性生物処理方法。
【請求項5】
炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する反応槽と、前記反応槽で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離部と、を有し、
生物処理実施中は前記反応槽における生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の温度を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、前記反応槽では、CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上で生物処理が行われることを特徴とする嫌気性生物処理装置。
【請求項6】
前記有機物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドおよびメタノールのうち少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項5に記載の嫌気性生物処理装置。

【請求項8】
前記排水を、前記有機物が単一で、前記排水中の全有機物の90重量%以上含有するように調整する手段を有することを特徴とする請求項5?6のいずれか1項に記載の嫌気性生物処理装置。
【請求項9】
前記反応槽では、TMAH負荷5kg/m^(3)/d以上で生物処理が行われることを特徴とする請求項5、6又は8に記載の嫌気性生物処理装置。


4.当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由の概要
平成28年12月28日付けで当審が通知した取消理由は以下の通りである。

取消理由A.訂正前の請求項1、5に係る発明が、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その発明に係る特許を取り消すべきものである。
取消理由B.訂正前の請求項1?2、4?6、9に係る発明が、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その発明に係る特許を取り消すべきものである。
取消理由C.訂正前の請求項1、4?5、7、9に係る発明が、特許法第29条第1項第2号、同法第29条第1項第3号に該当し、又は、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その発明に係る特許を取り消すべきものである。
取消理由D.訂正前の請求項1?9に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その発明に係る特許を取り消すべきものである。

(2)取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
平成29年 6月29日付けで当審が通知した取消理由は以下の通りである。

平成29年3月1日付け訂正請求書において訂正された請求項1?9に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その発明に係る特許を取り消すべきものである。

(3)証拠
申立人Aは、特許異議申立書A(平成28年 7月14日付け)において、証拠として甲第1号証?甲第4号証(以下、「刊行物1?4」という。)を提出した。
申立人Bは、特許異議申立書B(平成28年10月26日付け)において、証拠として甲第1号証?甲第7号証(以下、「刊行物5?11」という。)を提出した。
申立人Aは、申立人A意見書(平成29年 4月 4日付け)において、周知技術として参考資料1?参考資料3(以下、「刊行物12?14」という。)を提出した。
申立人Bは、申立人B意見書(平成29年 4月10日付け)において、周知技術として参考文献1?参考文献3(以下、「刊行物15?17」という。)を提出した。
なお、刊行物13と刊行物15は同一の文献である。

<刊行物>
・刊行物1(特許異議申立書A甲第1号証):特許第4006011号公報
・刊行物2(特許異議申立書A甲第2号証):特許第3662528号公報
・刊行物3(特許異議申立書A甲第3号証):特許第4200601号公報
・刊行物4(特許異議申立書A甲第4号証):特開2003-205300号公報
・刊行物5(特許異議申立書B甲第1号証):
P.J.Van Zyl, M.C.Wentzel, G.A.Ekama, K.J.Riedel、Design and start-up of a high rate anaerobic membrane bioreactor for the treatment of a low pH, high strength, dissolved organic waste water、Water Science & Technology、2008.発行、pp.291-295
・刊行物6(特許異議申立書B甲第2号証):特開2006-334587号公報
・刊行物7(特許異議申立書B甲第3号証):
A.Beaubien, M.Baty, F.Jeannot, E.Francoeur, J.Manem、Design and operation of anaerobic membrane bioreactors: development of a filtration testing strategy、Journal of Membrane Science、1996.発行、vol.109、pp.173-184
・刊行物8(特許異議申立書B甲第4号証):
師 正史、膜型メタン発酵システムの焼酎粕処理への適用、Membrane Now!、2007.発行、vol.5、pp.3-4
・刊行物9(特許異議申立書B甲第5号証):特開2010-184178号公報
・刊行物10(特許異議申立書B甲第6号証):特開2008-279385号公報
・刊行物11(特許異議申立書B甲第7号証):特開平7-184628号公報
・刊行物12(申立人A意見書参考資料1):特開2004-351324号公報
・刊行物13(申立人A意見書参考資料2):特開2010-17614号公報
・刊行物14(申立人A意見書参考資料3):特表2004-528981号公報
・刊行物15(申立人B意見書参考文献1):特開2010-17614号公報
・刊行物16(申立人B意見書参考文献2):特開2009-189943号公報
・刊行物17(申立人B意見書参考文献3):特開2008-168220号公報

(4)刊行物に記載された事項(抜粋)

取消理由通知において引用した刊行物1には、以下の事項が記載されている。
(下線は強調のために当審で付加したものである。以下同じ。)
摘記1-1:「【請求項1】
メタン発酵槽で有機性廃棄物をメタン発酵によって分解する方法であって、メタン発酵槽内の発酵液の一部を、下流側で発酵液取出ラインに接続し、上流側で濃縮発酵液返送ラインに接続し、発酵液を膜分離装置の供給側で循環させる発酵液循環ラインを備える加圧型膜分離装置によって濃縮し、膜透過液を系外に排出すると共に、濃縮された発酵液をメタン発酵槽へと返送することにより、メタン発酵槽内の発酵液の固形物濃度をメタン発酵の適値に維持する際、系外に排出される膜透過液の排出量を計測し、・・・有機性廃棄物の処理方法。」

摘記1-2:「【0012】
また、このような構成とすることにより、(1)メタン発酵液の有機物質濃度、粘度等が増加してメタン発酵液の膜処理効率が低下した場合に、メタン発酵槽への濃縮汚泥返送ラインに設けられた弁を絞ることによって、膜間差圧が増大して膜透過量を増加させ、(2)メタン発酵液の有機物質濃度、粘度等が減少してメタン発酵液の膜処理効率が上昇した場合に、メタン発酵槽への濃縮汚泥返送ラインに設けられた弁を開くことによって、膜間差圧が減少して膜透過量を減少させることが可能となる。」

摘記1-3: 「【0021】
図1は、本発明の有機性廃棄物の処理方法におけるフローを示す図である。上述したような前処理(ステップS1)を行った有機性廃棄物は、攪拌しながら所定時間酸発酵を行い、有機物を酸生成菌の働きにより酢酸、酪酸、プロピオン酸等の有機酸へと分解される(ステップS2)。
【0022】
次に、酸発酵液を適宜濃度調整及び温度調整し、嫌気性条件下でメタン発酵処理する(ステップS3)。このとき、酸発酵液中の有機酸は、メタン菌の働きによりメタンや二酸化炭素等へと分解される。メタン発酵槽内の温度は、高温メタン発酵の場合は、50?60℃、中温メタン発酵の場合は、30?40℃に調整する。
【0023】
次に、メタン発酵液の一部を取り出し、メタン発酵液の循環ラインを備える加圧型膜分離装置によって膜分離処理する(ステップS5)。メタン発酵液の膜分離処理により、メタン発酵槽内の汚泥濃度が上昇すると同時に、有機酸、アンモニア態窒素等のメタン発酵液に溶解している物質が膜透過液として加圧型膜分離装置から排出される。なお、汚泥濃度が上昇しすぎるのを防ぐため、メタン発酵液の一部は、適宜メタン発酵槽から引き抜き廃棄する(ステップS4)。」

摘記1-4:「【0040】【表1】



摘記1-5:「【0042】
SS除去率及びCODcr除去率は、加圧型膜分離装置を使用してメタン発酵液を濃縮処理し、濃縮されたメタン発酵液をメタン発酵槽に返送した場合、膜処理を行わない場合と比較して、それぞれ2.1%及び7.5%上昇した。一方、限界CODcr負荷については、3倍にまで増大し、膜分離処理を行うことによって、メタン発酵処理の迅速化が図れることが示された。」

摘記1-6:「【0045】
・・・メタン発酵液は、循環ポンプ18によって発酵液循環ライン17及び加圧型膜分離装置20の内部を循環し、平行に並べられた複数の膜19の間を通過し、膜処理によって濃縮される。・・・
【0046】
平膜19の種類としては、限外濾過膜又は精密ろ過膜が用いられる。また、平膜19の材質としては、ポリエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル等の高分子膜が好ましく、メタン生成菌の長さが0.5μm以上であることから、平均孔径は0.5μm以下であることが好ましい。」

摘記1-7:「【0053】
メタン発酵槽2に返送される濃縮されたメタン発酵液15には、メタン発酵菌が残存しており、メタン発酵槽2内のメタン発酵菌濃度を維持することができる。また、メタン発酵槽2内の有機物濃度をメタン発酵に好ましい濃度(懸濁物質濃度として5000?20000 mg/L)に維持することもできる。」

摘記1-8:「【0056】
次に、酸発酵液35がメタン発酵槽36へと送られ、メタン発酵処理される。メタン発酵槽は、30?60℃程度の温度で嫌気性雰囲気を保ったまま、所定時間滞留させる。具体的には、高温メタン発酵の場合は、50?60℃で、10?20日程度、中温メタン発酵の場合は、30?40℃で、20?40日程度滞留させる。」

摘記1-9:「【図3】



取消理由通知において引用した刊行物2には、以下の事項が記載されている。

摘記2-1:「【請求項2】
有機性汚泥、厨芥などの有機性廃棄物を生物学的液化槽に供給し、酸素含有ガスで曝気して該有機性廃棄物の一部を生物酸化し、該生物酸化熱によって槽内温度を前記有機性廃棄物の温度よりも40℃以上昇温せしめた状態で滞留させることによって有機性固形物を液化させたのち、該昇温液化処理物を酸発酵槽に嫌気的に滞留させた後にメタン発酵処理し、前記メタン発酵処理したものを固液分離し、その分離発酵残渣を物理化学的可溶化処理した後、生物学的液化槽、酸発酵槽又はメタン発酵処理に返送することを特徴とする有機性廃棄物の処理方法。
・・・
【請求項5】
有機性廃棄物を供給し、酸素含有ガスを曝気して前記有機性廃棄物の温度よりも40℃以上昇温せしめて有機性廃棄物を液化処理する生物学的液化槽、生物学的液化槽からの昇温液化処理物を嫌気的に滞留さしめて酸発酵処理する酸発酵槽、酸発酵槽からの流出物を導入してメタン発酵処理するメタン発酵槽、その後段の固液分離手段、該分離発酵残渣の物理化学的可溶化手段、可溶化物を生物学的液化槽、酸発酵槽又はメタン発酵槽に返送する返送手段を有することを特徴とする有機性廃棄物の処理装置。」

摘記2-2「【0020】
液化槽2は1槽ではなく3?4槽の多段直列槽にすると、供給原料ショートパスがなくなり、さらに効果的な可溶化、液化がおきるので好ましい。液化槽2は、具体的には槽の下部から酸素含有ガスを水中に散気する、いわゆる曝気槽の構造のものが使用されるが、活性汚泥法における曝気槽とは反応の内容がかなり異なっている。
次に温度が60?70℃程度に上昇し、溶解性BOD成分を多量に含んだ液化槽流出液4をメタン発酵槽5に供給すると、その流出液の温度が高いため、驚くべきことに、メタン発酵槽5を人為的に加温することなく、温度50?57℃の範囲の高温メタン発酵処理を進ませることができ、きわめて大きな省エネ効果が得られる。
なお、図1において、8は固液分離装置、9は処理水、10は発酵残渣(分離汚泥)、14は発酵残渣8の物理化学的可溶化処理装置、11は有機性廃棄物1の残部のメタン発酵槽5への供給分、12は発酵残渣10の可溶化処理装置14への供給配管、13は発酵残渣10のメタン発酵槽5への供給配管であり、また可溶化物15は返送配管によりメタン発酵槽5へ送られるが、これらの機能についてはあとで詳細に説明する。
【0021】
次に、図2のように液化槽2の流出液を嫌気的に滞留させると(酸発酵槽16)、液化槽2の流出液4の糖類などの有機物が、温度が高いために速やかに酢酸などの有機酸に転換され、さらにメタン発酵が効果的に進む。メタン発酵処理液の固液分離装置8は沈殿分離、浮上分離、膜分離などの任意の手段を適用すればよいが、膜分離が最も好ましい。」

摘記2-3:「【0030】【表1】

【0031】
以上の条件で、汚泥を図1の工程の系外に処分することなく1年間連続試験を行った。この結果、運転開始10日後の液化槽の3槽の平均濃度は7300mg/リットルであったが、1年後でも液化槽内の汚泥濃度は7600mg/リットルであり、1年後のメタン発酵槽内汚泥濃度は15400mg/リットルであった。この結果、系内で汚泥の蓄積は認められず、投入した余剰汚泥のすべてが消滅した。
また、メタン発酵槽から発生した消化ガス発生量は、投入余剰汚泥1kg・SSあたり0.22m^(3) であり、多量の消化ガス(組成:メタン75%、炭酸ガス25%)が回収できた。
膜分離水の水質はSSゼロ、BOD0.5mg/リットル以下と非常に良好であり、後処理が不要であった。」

摘記2-4:「【図2】



取消理由通知において引用した刊行物3には、以下の事項が記載されている。

摘記3-1:「【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の有機性汚泥の嫌気性消化処理方法は、有機性汚泥をオゾン処理した後嫌気性消化処理する方法において、オゾン処理に先立ち、有機性汚泥を曝気する工程を有する有機性汚泥の嫌気性消化処理方法であって、嫌気性消化処理汚泥を固液分離し、分離汚泥の一部を嫌気性消化処理工程に返送することを特徴とする。」

摘記3-2:「【0024】
オゾン処理により酸化分解を行ったオゾン処理汚泥は、次いで嫌気性消化槽3に導入して嫌気性消化処理する。この嫌気性消化処理においては、汚泥の有機酸醗酵、メタン醗酵で汚泥が可溶化ないし分解される。この嫌気性消化処理温度は30?60℃とするのが好ましい。このうち、30?40℃では中温性のメタン醗酵菌が、また45?60℃では高温性のメタン醗酵菌が働いて有機酸醗酵の結果、生成した酢酸、水素をメタンに変換する。この嫌気性消化処理は、有機酸醗酵とメタン醗酵とを別の反応槽で行う2相方式であっても良く、またこれらの両反応を同じ槽内で行う1相方式であっても良い。また、この嫌気性消化槽3の滞留時間は5?40日、特に10?20日とするのが好ましい。
【0025】
なお、嫌気性消化処理においてはpH6?8の範囲に維持するのが好ましく、従って、オゾン処理において酸オゾン処理を行った場合のように、汚泥のpHが低い場合には、適宜水酸化ナトリウム、石灰、炭酸ナトリウム等のアルカリを添加することによりpH調整を行う。
【0026】
嫌気性消化槽3からの嫌気性消化処理水は、通常の場合、沈殿槽や加圧浮上槽、遠心分離機、精密濾過膜分離装置、限外濾過膜分離装置等の固液分離装置4で固液分離され、分離液が処理水として系外へ排出される。この固液分離に当り、特に、図1(b)に示す如く、分離汚泥の返送を行う場合、メタン醗酵菌が酸素に弱いため加圧浮上や沈殿分離等では汚泥が空気に触れないことが好ましい。また、遠心分離では分離液中のSSの低減のため、高分子凝集剤を併用することが好ましい。」

摘記3-3:「【0038】
その結果、3ヶ月経過後の嫌気性消化槽中の汚泥濃度は16.2g/Lとなり、3ヶ月間汚泥の引き抜きなしで運転したにもかかわらず、殆ど汚泥濃度の上昇はなかった。なお、遠心分離により得られた分離水の汚泥濃度は57mg/Lと著しく低かった。」

摘記3-4:「【図1】(b)



取消理由通知において引用しなかった刊行物4には、以下の事項が記載されている。

摘記4-1:「【0003】メタン発酵法の一適用例である膜型メタン発酵槽では、メタン発酵汚泥を膜で固液分離して分離液だけを発酵槽外へ取り出すことで、発酵汚泥とともにSS(メタン菌)が槽外へ過剰に流出することを防止してメタン発酵槽内のTS(トータルソリッド)濃度を高く保持している。」

摘記4-2:「【0008】上記した構成において、膜型メタン発酵槽では発酵汚泥のTS濃度を高く維持できることが特長であり、発酵槽の効率(単位容積当たりの処理量)から見ると、TS濃度(微生物濃度)は高い方が望ましいが、TS濃度が高くなるほどに発酵汚泥の粘性が高くなる。」

摘記4-3:「【0017】このように、吸引負圧を指標として吸引手段の運転を制御することにより、発酵槽内のTS濃度をメタン発酵の適値に維持する。吸引負圧(真空度)が設定範囲の上限値を超えた時に、膜分離液の引抜量を減少させて流入する有機性液状廃棄物による希釈でTS濃度を低下させても、吸引負圧(真空度)が設定範囲内に復帰せずに上限値を超えた値を継続する場合には、膜が目詰まりしたと判断し、逆洗等のメンテナンスを行う。」

取消理由通知において引用した刊行物5には、以下の事項が記載されている。

摘記5-1:第291頁第1行?第3行(表題)
「Design and start-up of a high rate anaerobic membrane bioreactor for the treatment of a low pH, high strength,dissolved organic waste water」
(日本語訳)「低PH、高濃度、溶解性の有機性排水の処理のための高速嫌気性膜型生物反応槽の設計およびスタートアップ」

摘記5-2:第291頁第6行?第16行
「A Submerged Membrane Anaerobic Reactor (SMAR) is being developed for the treatment of waste water originating in Sasol’s coal to fuel synthesis process. The laboratory-scale SMAR uses A4-size submerged flat panel ultrafiltration membranes to induce a 100% solids-liquid separation. Biogas gets extracted from the headspace above the anaerobic mixed liquor and reintroduced through a coarse bubble diffuser below the membrane. This induces a gas scour on the membranes that avoids biomass immobilization and membrane fouling. The substrate is a high strength(18gCOD/l)petrochemical effluent consisting mostly of C_(2) to C_(6) short chain fatty acids with a low pH. Because of this, the pH of the reactor has to be controlled to a pH of 7.1. Organic Loading Rates of up to 25kgCOD/m^(3)_(reactor volume)/d has been observed with effluent COD normally<500mgCOD/l and FSA<50mgN/l with no particulates>0.45μm at hydraulic retention times of 17 hours.98% of the COD is converted to methane and the remainder to biomass.」
(日本語訳)「液中膜嫌気反応槽(SMAR)は、サソール社の石炭を石油に合成するプロセスにより発生する排水処理のために開発されたものである。研究室スケールのSMARでは、A4サイズの液中平板パネル高性能膜が使用されており、この膜は固体と液体を100%分離する。バイオガスは、嫌気混合溶液の上部のヘッドスペースから抽出され、膜の下に設置された粗い散気装置から再導入される。これにより、膜の表面がガス洗浄され、バイオマスの固定化や膜ファウリングを防止する。基質は高濃度(18gCOD/l)の石油化学排水であり、主にC_(2)からC_(6)の短鎖脂肪酸を含み、低pHである。よって、反応槽のpHを7.1に制御する必要がある。有機物供給速度としては、一般的なCODである500mgCOD/l未満、FSA50mgN/l未満、0.45μm超の粒子のない状態、水力学的滞留時間17時間において、25kgCOD/m^(3)反応槽容積/dまで観察された。CODの98%はメタンとバイオマスの残渣に変換された。」

摘記5-3:第292頁右欄第1行?第5行
「The synthetic feed has a composition based on the Fischer-Tropsch Acid Water (FTAW) produced at the Sasol 2 & 3 plants in Secunda, South Africa.This stream comprises mostly C_(2)-C_(6) SCFAs and some methanol and ethanol.」
(日本語訳)「合成流は、南アフリカのセクンダにあるサソール社の2&3プラントで得られたフィッシャー・トロプシュ反応の酸溶液(FTAW)に基づく組成を有している。この流れは、主成分としてC_(2)からC_(6)の短鎖脂肪酸と、少量のメタノールとエタノールを含有する。」

摘記5-4:第294頁図3




取消理由通知において引用した刊行物6には、以下の事項が記載されている。

摘記6-1:「【0030】
「嫌気性消化装置」は、メタンガスを生成する偏性嫌気性細菌を培養するために、トップカバーによって空気から完全に隔離されたバイオリアクターを意味する。」

摘記6-2:「【0051】
(実施例4)
第四の応用例は嫌気性MBR(図4)であり、これは室温から70℃までの間の温度で機能する。このMBRは、反応槽の上端にカバーを有しており、空気は供給されない。場合によっては、ミキサー(3)を用いて、機械的攪拌が行われてもよい。水中の膜(図4a)の場合、ヘッドスペース(4)の気体は、膜を洗浄するために槽の底へ再循環される。もし膜が外部に設けられている場合(図4b)、汚泥循環ポンプ(9)が使用される。この嫌気性消化装置は、単独で、あるいは曝気反応槽と組み合わせて使用することができる。活性汚泥浮遊物質(MLSS)のレベルは、3,000?30,000mg/Lに維持され、流入水のCODは200?100,000mg/Lである。」

摘記6-3「【図4】



取消理由通知において引用した刊行物7には、以下の事項が記載されている。

摘記7-1:第173頁第1行?第2行(表題)
「Design and operation of anaerobic membrane bioreactors: development of a filtration testing strategy」
(日本語訳)「嫌気性膜型生物処理槽の設計と操作:フィルター試験方法の発展」

摘記7-2:第174頁右欄第4行?第8行
「Variation of the organic loading was imposed to the process by varying the concentration of the feed, the COD(acetate)、nitrogen(NH_(4)Cl)、and phosphorous(K_(2)HPO_(4)) ratio being maintained constant at 200/5/1.」
(日本語訳)「供給物として、COD(酢酸)、窒素(NH_(4)Cl)、リン(K_(2)HPO_(4))を200/5/1の比で維持されたものを用いて、その供給物の濃度を変えることにより、有機物の充填の変化をプロセスに課した。」

摘記7-3:第174頁図1





摘記7-4:第176頁図5





取消理由通知において引用した刊行物8には、以下の事項が記載されている。

摘記8-1:第3頁左欄第4行?第6行
「弊社では、液中膜をメタン発酵処理プロセスに組み込んだ膜型メタン発酵システム(以下、膜メタン)を独自開発し、ユニット又はプラントとして販売している。」

摘記8-2:第3頁左欄第20行?第22行
「膜メタンの処理対象物の例としては、アルコール蒸留廃液や、乳製品、シロップ、ジャガイモなどが挙げられ、実績もこれら、特に焼酎粕に多くなっている。」

摘記8-3:第3頁右欄第27行?第30行
「4 .事例紹介
鹿児島県薩摩川内市の山元酒造と田苑酒造では、平成18年度NEDO熱利用フィールドテスト事業共同研究補助(約50%)を受け、膜メタン設備を導入して頂いた。」

摘記8-4:第4頁左欄第11行?右欄第2行
「発酵温度は55℃とする、いわゆる高温発酵であり、37℃前後で発酵させる中温発酵に比べて処理速度が速く、メタン発酵槽の小型化を図る膜メタンに適している。CODcr容積負荷は15kg/m^(3)以上の高い値を実現している。メタン発酵汚泥のMLSS濃度は30000mg/L前後まで膜で濃縮するが、好気汚泥に比べて分解(無機化)が進んでおり、粘性はきわめて低いため、汚泥による膜間閉塞は起こし難い。」

摘記8-5:第4頁右欄第7行?第9行
「このような高負荷のメタン発酵方式では、微量栄養塩類の添加が欠かせないが・・・」

摘記8-6:第3頁図1




取消理由通知において引用した刊行物9には、以下の事項が記載されている。

摘記9-1:「【0033】
図1は、本実施形態に係る嫌気性生物処理装置の構成の一例を示す模式図である。図1に示すように、嫌気性生物処理装置1は、原水槽10、調整槽12、嫌気性生物処理槽14、分離槽16、窒素処理槽18、処理水槽20、を備える。調整槽12は、第1調整槽12a、第2調整槽12bを備えているが、必ずしも複数備える必要はなく、単槽であってもよい。」

摘記9-2:「【0036】
嫌気性生物処理槽14としては、主にアルキルアンモニウム塩を嫌気的に生物処理することができるものであればよく、UASB方式、EGSB方式等に代表されるグラニュールを利用した上向流汚泥床式の嫌気性生物処理槽や、担体を使用した固定床式又は流動床式の嫌気性生物処理槽等が利用可能である。嫌気性生物処理に利用される担体の種類は、特に制限されるものではないが、例えば、ポリウレタン等のスポンジ担体、ポリビニルアルコール(PVA)等のゲル担体、繊維状担体、不織布成型品、ポリプロピレン製等の成型品等が挙げられる。また、嫌気性生物処理に利用される種汚泥としては、特に制限されるものではないが、例えば、食品工場、飲料工場、製紙工場、化学工場、畜産排水処理等で使用される嫌気処理汚泥、グラニュール、又は下水処理場の消化汚泥等が挙げられる。なお、運転時にグラニュール量が増加せず減少するような傾向の場合には、鉄やカルシウム塩、フライアッシュ等の核となる物質、または凝集剤、有機物等のグラニュールの形成を促進する物質を添加することが好ましい。」

摘記9-3:「【0045】
本実施形態では、アルキルアンモニウム塩含有排水を生物処理するに当たり、pHが6.5?9.0の範囲、好ましくは7.0?8.0の範囲となるように、pH調整剤流入ライン28から調整槽12にpH調整剤を供給する。アルキルアンモニウム塩含有排水のpHが上記範囲外であると、生物処理によるアルキルアンモニウム塩の分解反応速度が低下する。また、従来、嫌気性生物処理においては、アンモニア阻害を抑制するために、pH6.5?7の弱酸性が好ましいとされていたが、アルキルアンモニウム塩の処理に関しては、pH7?8の弱アルカリ側で、最も処理性能が良くなる。これは、本発明者らが初めて明らかにしたことである。ここで、上記範囲にpH調整する際には、アルキルアンモニウム塩含有排水中のアルキルアンモニウム塩濃度を20000mg/L以下、有機体窒素及びアンモニア性窒素の総濃度を3900mg-N/L以下とすることが好ましい。」

摘記9-4:「【0047】
本実施形態では、アルキルアンモニウム塩含有排水を生物処理するに当たり、嫌気性生物処理槽14内の水温を20℃以上、好ましくは28?35℃の範囲となるように温度調整する。嫌気性生物処理によるアルキルアンモニウム塩の分解は、20℃未満でも可能であるが、20℃未満であると、分解反応速度が低下してしまうため、水温を上記範囲に調整する。上記温度調整方法は、特に制限されるものではないが、例えば、蒸気流入ライン32から蒸気を調整槽12(例えば第2調整槽12b)に供給することで、嫌気性生物処理槽14内の水温を調整してもよいし、嫌気性生物処理槽14にヒータを設置して、ヒータの熱により嫌気性生物処理槽14内の水温を調整しても良い。また、例えば、加温した希釈水を供給することで、嫌気性生物処理槽14内の水温を調整してもよい。また、例えば、アルキルアンモニウム塩の分解によりメタンガスが発生するが、通常の嫌気処理同様に脱硫処理を実施後、メタンガスボイラーで熱エネルギとして回収し、該熱エネルギを嫌気性生物処理槽14に供給し、水温を調整してもよい。ここで、上記範囲に嫌気性生物処理槽14内の水温を調整する際には、アルキルアンモニウム塩含有排水中のアルキルアンモニウム塩濃度を20000mg/L以下、有機体窒素及びアンモニア性窒素の総濃度を3900mg-N/L以下とすることが好ましい。」

摘記9-5:「【0051】
本実施形態の処理対象となるアルキルアンモニウム塩は、例えば、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、メチルトリエチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチルエチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムハイドロオキサイド(即ち、コリン)、トリエチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムハイドロオキサイド、ジエチルジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムハイドロオキサイド、メチルトリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムハイドロオキサイド、エチルトリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムハイドロオキサイド、テトラ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムハイドロオキサイド、及びその塩類等が挙げられる。本実施形態では、特に、半導体製造工場、液晶製造工場から排出されるテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)、トリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムハイドロオキサイド(即ち、コリン)の処理に好適である。」

摘記9-6:「【0056】
(実施例1)
内容積100mLのバイアル瓶に、濃度5000mg/LのTMAH含有排水(pH7、微生物栄養剤を含む)を47.5mL、嫌気性汚泥(汚泥濃度20000mg/L)を2.5mL入れ、総液量50mLとした。本バイアル瓶内を窒素パージした後にアルミキャップを施し密閉し、35℃にて振騰培養した。表1に、実施例1における嫌気性生物処理前後のTMAH濃度をまとめた。また、嫌気性生物処理によるTMAHの分解に伴い、メタンを含むガスが発生するため、定期的に発生ガス量をシリンジにて測定し、ガス発生量及び該ガス中のメタン濃度を表1にまとめた。」

摘記9-7:「【図1】



取消理由通知において引用した刊行物10には、以下の事項が記載されている。

摘記10-1:「【0016】
上述した通り、グラニュール汚泥を用いる嫌気性処理法である種の産業排水を処理すると、処理時間の経過に伴ってグラニュール汚泥が崩壊する場合がある。こうした排水としては、例えばパルプ製造過程で排出される蒸発凝縮水(エバポレート・コンデンサ)がある。蒸発凝縮水は、メタノールを主体とする有機物含有水であり、全CODcr成分の70質量%以上、通常は90質量%程度がメタノールで占められる。」

刊行物11には、以下の周知技術が記載されている。

摘記11-1:「【0002】
【従来の技術】焼酎蒸留廃液などの発酵廃液には、分子量の大きい蛋白性成分および低分子量のエタノールその他のアルコール、エステル類などが高濃度に共存し、また繊維かす等の懸濁固形物も含まれるため、その濃度はCODまたはBOD値にして数万ppmに達するものもある。従来、高CODまたはBODの廃液の処理方法として、嫌気性発酵、遠心分離とMF法(精密ろ過膜法)またはRO法(逆浸透膜法)との組合わせ、液体噴霧燃焼法または濃縮後に堆肥化、飼料化する方法などが提案され、開発が進められている。しかし、これらの方法はまだ経済性等の点で確立されたプロセスとして完成されていない。」

申立人A意見書の参考資料1として提示された刊行物12には、以下の事項が記載されている。

摘記12-1:「【0070】
有機性廃棄物としては、表2に示す組成の、果物、野菜、肉、魚、卵、米、パンなどの配合比を決めた生ごみに、水道水を加えてカッターミキサー(AICOH製)で調整し、これを1.5倍の水道水で希釈し、更にカッターミキサーで調整して得た模擬生ごみスラリーを用いた。生ゴミスラリーの性状を表3に示す。生ゴミの組成は、年間を通じて入手可能な食材を中心に選定した。」

摘記12-2:「【0073】
メタン発酵槽14としては、容量5リットルの発酵槽を使用し、メタン発酵槽14内の上部空間に、分離膜21として、旭化成製の中空糸膜(材質:ポリフッ化ビニリデン、公称孔径0.1μm、外径1.3mm、内径0.7mm、長さ250mm)を90本束ねて結束部にシリコンシール剤(GE東芝シリコーン製)を用いて作成した膜モジュール(膜面積0.09m^(3))を配置した。」

申立人B意見書の参考文献2として提示された刊行物16には、以下の事項が記載されている。

摘記16-1:「【0019】
本発明者らは、低濃度の有機物含有原水への浸漬膜活性汚泥処理の適用について検討した。この結果、実施例において後述するように、世界的に実績の多いポリエチレン(PE)製の平膜型浸漬膜では非常に短期で吸引圧力が発生するため、実用化できないという問題を明確にした。これに対し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製などの逆洗可能な中空糸型浸漬膜を適用することで、従来排水処理で適用されているフラックス(0.4m/day)を確保しながら、安定して良好な処理を行えることを明確にした。この結果、従来、低濃度の有機物含有原水の処理回収システムで問題となっていた浸漬膜の目詰まり、RO膜の目詰まりによる運転トラブル、アルカリ運転に伴うコストの増加を解決して、運転管理が容易で安定した水処理を実施することが可能となった。」

摘記16-2:「【0034】
<浸漬膜>
浸漬膜は生物反応槽12内に浸漬し、浸漬膜の吸引ろ過によって生物処理水を得ることができるが、生物反応槽12の後段に別途、膜分離槽を設けて、そこに浸漬膜を浸漬することもできる。本実施形態では、定期的に逆洗可能な形態、すなわち中空糸膜を用いる。平膜では端部破損のおそれがあるため逆洗が困難である。浸漬膜としては、精密ろ過膜あるいは限外ろ過膜を用いることができる。浸漬膜の材質は、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などが適用でき、膜の詰まりにくさなどの点からPVDFが好ましい。膜の孔径は0.1μm以下が好ましい。膜の透過流速は、0.1?0.8m/hr程度で運転することができ、より好ましくは0.2?0.6m/hrの範囲で運転することができる。」


(4)特許法第29条第1項第3号第29条第2項について(刊行物1を主引例とした場合、取消理由Aに対応)
ア.本件発明1、5
摘記1-1、1-3?1-9から、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「メタン発酵槽で有機性廃棄物をメタン発酵によって分解する有機性廃棄物の処理方法であって、酢酸、酪酸、プロピオン酸等の有機酸へと分解した酸発酵液を適宜濃度調整及び温度調整し、嫌気性条件下のメタン発酵槽内で30℃?40℃の中温でメタン発酵処理する発酵処理工程と、発酵処理工程の後に加圧型膜分離装置によって膜分離処理を行う膜分離処理工程とを有し、メタン発酵槽内の有機物濃度をメタン発酵に好ましい濃度(懸濁物質濃度として5000?20000mg/L)に維持し、限界CODcr容積負荷を18k/m^(3)/dとする有機性廃棄物の処理方法」

ここで、引用発明1の「酢酸、酪酸、プロピオン酸」は本件発明1の「炭素数6以下の有機物」であり、「メタン発酵処理」を「嫌気性下」で行っているから、引用発明1の「酢酸、酪酸、プロピオン酸等の有機酸へと分解した酸発酵液を適宜濃度調整及び温度調整し、嫌気性条件下のメタン発酵槽内でメタン発酵処理する発酵処理工程」を有する「有機性廃棄物の処理方法」は、本件発明1の「炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する生物処理工程」を有する「嫌気性生物処理方法」に相当し、引用発明1の「有機物濃度(懸濁物質濃度)」は、本件発明1の「生物汚泥濃度」に相当する。
また、摘記1-2、1-3から、メタン発酵槽の有機物濃度はメタン発酵処理中に調整されているものといえる。

よって、本件発明1と、引用発明1とを対比すると、
「炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する生物処理工程と、前記生物処理工程で得られる処理液をろ過膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離工程と、を有し、
前記生物処理工程実施中は生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整する嫌気性生物処理方法」
の点で両者は一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1は、生物処理工程で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離工程を行っているのに対し、引用発明1は、どの程度の吸引圧力であるのか、及び、ろ過膜の材料及び構造が不明である点。
相違点2:本件発明1は、炭素数6以下の有機物を含有する排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、CODcr負荷10k/m^(3)/d以上で生物処理を行っているのに対し、引用発明1は、酢酸、酪酸、プロピオン酸等の有機酸へと分解した酸発酵液を30℃?40℃の中温でメタン発酵処理すること、及び、限界CODcr容積負荷が18k/m^(3)/dであることは記載されているが、pHは不明である点。

上記相違点について検討する。

相違点1に関し、刊行物1には、膜分離について、吸引圧力、ろ過膜の材料及び構造について何等記載されておらず、どの程度の吸引圧力にするのかは、ろ過膜の材料及び構造を含む様々な条件に応じて設定されるものであるため、平成29年6月29日付けで取消理由(決定の予告)で記載したように、有機物を含有する排水を生物処理した後に膜分離するためのろ過膜としてPVDF製の中空糸膜を用いることが本願の出願前から周知の技術(刊行物12?17)であったとしても、さらに、吸引圧力を-7kPa以上0kPa未満とする理由を見い出すことができない。
また、相違点2に関し、刊行物1には、有機酸へと分解した酸発酵液の水温を28℃以上35℃以下、及び、pHを7以上8以下の範囲に調整することについて何等記載されておらず、当該数値範囲に変更ないし設定する動機付けも存在していない。
そして、他の文献(刊行物2?11)にも、生物処理工程で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離工程、及び、炭素数6以下の有機物を含有する排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、CODcr負荷10k/m^(3)/d以上で生物処理工程を行うことについて記載も示唆もなく、技術常識とも認められないから、上記相違点1、2は実質的な相違点である。

さらに、本件明細書には、「生物処理工程で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する」、「生物処理工程実施中は生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、CODcr負荷10k/m^(3)/d以上で生物処理を行う」という本件発明1の各構成を満たす実施例が、炭素数6以下の有機物を含む排水の嫌気性生物処理において、高負荷で安定して処理を行うことができることが記載されており、刊行物1に記載も示唆もない効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、刊行物1に記載されたものではなく、また、刊行物1、刊行物2?11、及び、周知技術に基いて、当業者が容易になし得た発明であるともいえない。

また、本件発明1の嫌気性生物処理方法と本件発明5の嫌気性生物処理装置との特定事項の相違点は、方法の発明と装置の発明との間のカテゴリーの相違による表現の違いであり、上記本件発明1に関する判断は、本件発明5についても同様である。

イ.本件訂正発明2?4、6、8?9
本件訂正発明2?4、6、8?9は、本件訂正発明1、5をより限定した発明であるから、上記アと同様の理由により、刊行物1に記載されたものではなく、また、刊行物1、刊行物2?11、及び、周知技術に基いて、当業者が容易になし得た発明であるともいえない。

(5)特許法第29条第1項第3号第29条第2項について(刊行物2又は刊行物3を主引例とした場合、取消理由Aに対応)

摘記2-1?2-4、3-1?3-4に記載したように、刊行物2、刊行物3のいずれにも、「生物処理工程で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する」ことについて記載されておらず、また、「生物処理工程実施中は生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、CODcr負荷10k/m^(3)/d以上で生物処理を行う」ことについて、一部の条件が重複していることが記載されているだけで、全ての条件を当該数値範囲に変更ないし設定する動機付けが存在しておらず、技術常識とも認められないから、刊行物2、刊行物3のいずれも、本件発明1と実質的な相違点を有する。

そして、上記(4)と同様に、本件発明1、5は、刊行物2に記載された発明ではなく、また、刊行物2、刊行物1、3?11、及び、周知技術に基いて、当業者が容易になし得た発明であるともいえない。

刊行物3を主引例とした場合についても上記(4)と同様に、本件発明1、5は、刊行物3に記載されたものではなく、また、刊行物3、刊行物1?2、4?11、及び、周知技術に基いて、当業者が容易になし得た発明であるともいえない。

(6)特許法第29条第1項第3号第29条第2項について(刊行物5を主引例とした場合、取消理由Bに対応)

摘記5-1?5-4に記載したように、刊行物5には、「生物処理工程で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する」ことについて記載されておらず、また、「生物処理工程実施中は生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、CODcr負荷10k/m^(3)/d以上で生物処理を行う」ことについて、一部の条件が重複していることが記載されているだけで、全ての条件を当該数値範囲に変更ないし設定する動機付けが存在しておらず、技術常識とも認められないから、刊行物5は、本件発明1と実質的な相違点を有する。

そして、上記(4)と同様に、本件発明1?2、4?6、9は、刊行物5に記載されたものではなく、また、刊行物5、刊行物1?4、6?11、及び、周知技術に基いて、当業者が容易になし得た発明であるともいえない。

(7)特許法第29条第1項第2号第29条第1項第3号第29条第2項について(刊行物8を主引例とした場合、取消理由C、Dに対応)

摘記8-1?8-6に記載したように、刊行物5には、「生物処理工程で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する」ことについて記載されておらず、また、「生物処理工程実施中は生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、CODcr負荷10k/m^(3)/d以上で生物処理を行う」ことについて、一部の条件が重複していることが記載されているだけで、全ての条件を当該数値範囲に変更ないし設定する動機付けが存在しておらず、技術常識とも認められないから、刊行物8は、本件発明1と実質的な相違点を有する。

そして、上記(4)と同様に、本件発明1、4?5、9は、刊行物8に記載された発明でも、公然実施された発明でもなく、また、本件発明2?3、6、8も、刊行物8、刊行物1?7、9?11、及び、周知技術に基いて、当業者が容易になし得た発明であるともいえない。

(8)特許法第29条第2項について(刊行物9を主引例とした場合、取消理由Dに対応)

摘記9-1?9-5に記載したように、刊行物9には、「生物処理工程で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する」ことについて記載されておらず、また、「生物処理工程実施中は生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、CODcr負荷10k/m^(3)/d以上で生物処理を行う」ことについて、一部の条件が重複していることが記載されているだけで、全ての条件を当該数値範囲に変更ないし設定する動機付けが存在しておらず、技術常識とも認められない。

そして、上記(4)と同様に、本件発明1?6、8?9は、刊行物9、刊行物1?8、10?11、及び、周知技術に基いて、当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

(9)取消理由通知で採用しなかった他の理由について
申立人Bは訂正前の請求項3、8について、「前記排水を、前記有機物が単一で、前記排水中の全有機物の90重量%以上含有するように調整する」と記載されているが、本件明細書には、排水中の有機物の組成及び含有量を調整するための具体的な手段が記載されていないため、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない旨の特許異議の申立てを行った。
しかしながら、本件明細書の記載からみて、有機物が単一で、全有機物の90重量%以上含有するような組成に排水を調整することができれば任意の手段を用いることが可能であるといえ、上記排水の調製は、例えば、膜分離のような周知の手段で調製し得るようなものであり、上記組成に調製された排水は、当業者が想到できないような特殊な手段でなければ実現できないような特殊な組成の排水とまではいえない。
よって、訂正前の請求項3、8及び本件発明3、8のいずれについても、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしてないとはいえない。

5.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1?6、8?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?6、8?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
なお、本件請求項7に係る特許に対してなされた特許異議申立については、訂正により申立の対象となる請求項が存在しないものとなった。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
嫌気性生物処理方法及び嫌気性生物処理装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素数6以下の有機物等を含有する排水を嫌気性下で生物処理する生物処理方法及び生物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子産業工場やパルプ製造工場、化学工場から排出される炭素数6以下、具体的にはメタノール、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(以下、TMAHと呼ぶ場合がある)、エタノール、アセトアルデヒド、酢酸等の有機物を主成分とする排水を高負荷で嫌気処理する場合、グラニュール汚泥を利用したUASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)やEGSB(Expanded Granular Sludge Blanket)等が適用されている。
【0003】
通常の嫌気処理では、高分子の糖質、タンパク質、脂質を低分子に分解する嫌気性加水分解菌や有機酸を生成する酸生成細菌が生成するバイオポリマー等の架橋効果がグラニュールの生成、維持に重要な働きをしていると考えられている。さらに、糸状性のメタン生成細菌であるMethanosaeta属がグラニュール化の骨格となるとも言われており、グラニュール形成に重要な存在である。
【0004】
ところが、炭素数の小さい有機物を分解する場合、嫌気性加水分解菌や酸生成細菌が少なく、メタン生成細菌が主要な生物相となる。さらに、メタノールやTMAH等では糸状性のメタン生成細菌であるMethanosaeta属より、糸状性でないメタン生成細菌であるMethanosarcina属やMethanobacteriumu属が優占し易く、グラニュール汚泥が微細化し崩れる傾向がある。グラニュール汚泥が微細化し崩れると反応槽内の汚泥が流出し処理が不安定となる。
【0005】
従来、これらの対策の具体例としては、例えば、高分子凝集剤を添加する方法、亜硝酸や硝酸を添加する方法、酢酸を添加する方法、デンプンやグルコースを添加する方法、糖蜜やアルコールを添加する方法等が提案されている(例えば、特許文献1?6参照)。
【0006】
また、電子産業工場から排出されるジメチルスルホキシド、モノエタノールアミン、TMAHを含む排水を嫌気性下でメタン発酵させて生物処理した後、ろ過膜により固液分離処理する方法が提案されている(例えば、特許文献7,8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4193310号公報
【特許文献2】特開2008-279383号公報
【特許文献3】特許第2563004号公報
【特許文献4】特開2008-279385号公報
【特許文献5】特開2010-274207号公報
【特許文献6】特開2009-255067号公報
【特許文献7】特開2010-17614号公報
【特許文献8】特開2010-17615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1?6に記載の方法では、高分子凝集剤や硝酸、有機物などを外部から添加する必要があるため、それら薬剤の適切な管理が必要である。また、特許文献7,8に記載の方法では、薬剤の添加は行われないものの、低濃度排水系において低負荷処理を行うものである。
【0009】
そこで、本発明の目的は、炭素数6以下の有機物を含む排水の嫌気性生物処理において、高負荷で安定して処理を行うことができる嫌気性生物処理方法及び嫌気性生物処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の嫌気性生物処理方法は、炭素数6以下の有機物を含有する排水を、反応槽において嫌気性下でメタン発酵する生物処理工程と、前記生物処理工程で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離工程と、を有し、前記生物処理工程実施中は生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上で生物処理を行う。
【0011】
また、前記嫌気性生物処理方法において、前記有機物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドおよびメタノールのうち少なくともいずれか一方であることが好ましい。
【0012】
また、前記嫌気性生物処理方法において、前記排水を、前記有機物が単一で、前記排水中の全有機物の90重量%以上含有するように調整することが好ましい。
【0013】
また、前記嫌気性生物処理方法において、前記生物処理工程では、TMAH負荷5kg/m^(3)/d以上で生物処理が行われる場合に有効である。
【0014】
また、本発明の嫌気性生物処理装置は、炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する反応槽と、前記反応槽で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応構内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離部と、を有し、生物処理実施中は前記反応槽における生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の温度を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、前記反応槽では、CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上で生物処理が行われる。
【0015】
また、前記嫌気性生物処理装置において、前記有機物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドおよびメタノールのうち少なくともいずれか一方であることが好ましい。
【0016】(削除)
【0017】
また、前記嫌気性生物処理装置において、前記排水を、前記有機物が単一で、前記排水中の全有機物の90重量%以上含有するように調整する手段を有することが好ましい。
【0018】
また、前記嫌気性生物処理装置において、前記反応槽では、TMAH負荷5kg/m^(3)/d以上で生物処理が行われる場合に有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、炭素数6以下の有機物を含む排水の嫌気性生物処理において、高負荷で安定して処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係る嫌気性生物処理装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】本実施形態に係る嫌気性生物処理装置の構成の他の一例を示す模式図である。
【図3】本実施形態に係る嫌気性生物処理装置の構成の他の一例を示す模式図である。
【図4】実施例1により得られる処理水中のTMAH濃度及びTMAH負荷である。
【図5】実施例1で用いたろ過膜の吸引圧力の経日変化である。
【図6】比較例1により得られる処理水中のTMAH濃度及びTMAH負荷である。
【図7】実施例2により得られる処理水中のメタノール濃度及びCODcr負荷である。
【図8】実施例2で用いたろ過膜の吸引圧力の経日変化である。
【図9】実施例3の嫌気性汚泥の汚泥濃度と粘度との関係をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0022】
図1は、本実施形態に係る嫌気性生物処理装置の構成の一例を示す模式図である。図1に示すように、嫌気性生物処理装置1は、原水第1ライン10、原水槽12、原水第2ライン14、反応槽16、処理液排出ライン19、処理水排出ライン20、ガス排出ライン22、濃縮水返送ライン24、膜分離装置26、栄養剤供給装置、pH調整剤供給装置、を備える。本実施形態の栄養剤供給装置は、栄養剤貯槽30、栄養剤供給ライン32から構成されている。本実施形態のpH調整剤供給装置は、pH調整剤貯槽34、pH調整剤供給ライン36から構成されている。但し、各供給装置の構成は、溶液を排水に供給することができるものであれば上記構成に制限されるものではなく、例えば、溶液の流量を自在に調節するために、各供給ラインにポンプを設置することが好ましい。原水槽12内には、撹拌装置38が設けられており、撹拌装置38等で濃度の均一化を行うことが好ましい。
【0023】
原水槽12の原水導入口(不図示)には、原水第1ライン10が接続されている。栄養剤貯槽30の栄養剤排出口(不図示)と原水槽12の栄養剤供給口(不図示)間は、栄養剤供給ライン32により接続され、pH原水槽12のpH調整剤排出口(不図示)と原水槽12のpH調整剤供給口(不図示)間は、pH調整剤供給ライン36により接続されている。また、原水槽12の原水排出口(不図示)と反応槽16間は、原水第2ライン14により接続されている。なお、反応槽16側の原水第2ライン14の接続位置は反応槽16の下部であることが好ましい。
【0024】
反応槽16内には、気固液分離装置(以下、GSSと呼ぶ場合がある)が設けられている。気固液分離装置は、互いに逆方向に傾斜する仕切り板40a,40bを備え、その上部内側に固液分離部42が形成される。仕切り板40a,40bの下端部は隔離しており、連通路44が形成され、また、仕切り板40a,40bの一方の下端部は他方の下端部の下側を覆い、浮上するガスが連通路44から固液分離部42に入るのを阻止する構造となっている。固液分離部42には越流式の処理液取出部46が設けられており、処理水取出部46の処理水排出口(不図示)には、処理水排出ライン20が接続されている。また、反応槽16の頂部には、ガス排出ライン22が接続されている。
【0025】
反応槽16としては、有機物を含む排水を嫌気性下で生物処理することができるものであればよいため、図1の反応槽16のように槽内にGSSを設置した混合型の反応槽に限定されるものではなく、槽内にGSSを設置しない混合型の反応槽等であってもよい。
【0026】
反応槽16内には、嫌気性下での生物処理に先立ち、該生物処理に利用される種汚泥を投入することが望ましい。種汚泥としては、特に制限されるものではないが、例えば、食品工場、飲料工場、製紙工場、化学工場、畜産排水処理等で使用される嫌気性汚泥、グラニュール、又は下水処理場の消化汚泥等が挙げられる。
【0027】
反応槽16の処理液排出口(不図示)と膜分離装置26の処理液供給口(不図示)間は処理液排出ライン19が接続されている。また、膜分離装置の処理水排出口(不図示)には、処理水排出ライン20が接続されている。また、膜分離装置26の濃縮水排出口(不図示)と原水槽12の濃縮水供給口(不図示)間は、濃縮水返送ライン24により接続されている。
【0028】
膜分離装置26内にはろ過膜が設けられている。このろ過膜は、主に反応槽16により処理された処理液中の汚泥等を分離することができるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、限外ろ過膜(UF膜)や精密ろ過膜(MF膜)等が挙げられる。膜分離装置26のモジュール形成は特に制限されるものではなく、例えば、中空糸膜を束ねたモジュール形式、平膜をユニット化した形式等が採用される。また、本実施形態では、膜分離装置26は、反応槽16の槽外に設けられる槽外型であるが、これに制限されるものではなく、後述するように槽内に設けられる槽内型であってもよい。但し、反応槽16とは個別に膜分離装置26のろ過膜を洗浄又は交換することができる等の運転管理の面で、槽外型の膜分離装置が好ましい。槽外型の膜分離装置の場合、後述する生物汚泥によるろ過膜の目詰まりを防止する等の点で、例えば、クロスフロー型で膜面線流速を0.1?3m/sの範囲とすることが好ましい。
【0029】
本実施形態の嫌気性生物処理装置1の動作について説明する。
【0030】
まず、炭素数6以下の有機物を含有する排水が原水第1ライン10から原水槽12に供給される。そして、該排水が原水第2ライン14から反応槽16内へ導入される。反応槽16では、炭素数6以下の有機物が、嫌気性下で生物汚泥によりメタン発酵処理され、メタン、炭酸イオン等に分解される。前述した通り、通常、炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下で生物処理すると、反応槽内の生物汚泥の粒子が微細化され(特にグラニュール汚泥において顕著)、反応槽16から処理水と共に生物汚泥が流出し、その後段の膜分離装置に用いられるろ過膜の目詰まりが生じやすくなる。したがって、従来では、嫌気性下での生物処理と、ろ過膜を用いた固液分離処理(膜処理)を併用した嫌気MBR(Membrane Bioreactor)により、炭素数6以下の有機物を含有する排水を継続して安定に処理すること、UASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)やEGSB(Expanded Granular Sludge Blanket)等のグラニュールを用いた処理と同等の高負荷処理を実現することは困難であった。しかし、発明者らは鋭意検討の結果、炭素数6以下の有機物を含有する排水を適切な運転条件で嫌気性生物処理することにより、高濃度の汚泥を保持しつつ、微生物汚泥の過度な粘度上昇が抑制されて、後段のろ過膜の細孔に生物汚泥が詰まり難くなることを見出した。これにより、高負荷でも安定した処理を実現できる。
【0031】
本実施形態では、炭素数6以下の単一の有機物が、全体の有機物の90重量%以上含まれている排水を嫌気性下で生物処理する場合に特に有効である。
【0032】
したがって、電子産業工場やパルプ製造工場、化学工場等から排出される排水中に、例えば、TMAH、メタノール、及びその他の炭素数7以上の有機物が含まれている場合には、排水を反応槽16に投入する前(実質的には原水第1ライン10に投入する前)に、TMAHが全体の有機物の90重量%以上含まれる排水、メタノールが全体の有機物の90重量%以上含まれる排水に分別処理しておく。そして、例えば、TMAHが全体の有機物の90重量%以上含まれる排水を反応槽16に投入し、生物処理を行う。上記分別処理は炭素数6以下の単一の有機物の含有率が上記範囲を満たすような処理であれば、特に制限されるものではない。
【0033】
本実施形態の排水中に含まれる炭素数6以下の有機物は、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、ジメチルジエチルアンモニウムヒドロキシド、イソプロピルアルコール(IPA)、メタノール、モノエタノールアミン、酢酸、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)等が挙げられる。本実施形態では、特に、半導体製造工場等から排出されるテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、メタノールの処理に好適である。
【0034】
また、反応槽16に供給される排水中に、炭素数6以下の単一の有機物、例えばTMAHが、全体の有機物の90重量%以上含まれていれば、その他の炭素数6以下の有機物や、炭素数7以上の有機物を含んでいてもよい。炭素数7以上の有機物は、例えば、例えば、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド(即ち、コリン)等が挙げられる。
【0035】
上記でも説明したように、反応槽16では、排水中の有機物が嫌気性下で生物処理されることによって、メタン、炭酸イオン等に分解される。そして、生物処理された液(生物汚泥等も含む)が連通路44から固液分離部42に入り、固液分離された処理液は越流して処理液取出部46へ流れ、処理液排出ライン19から取り出される。反応槽16で発生するメタン等のガスは、仕切り板40a,40bに遮られて固液分離部42には流入せず、反応槽16を上昇し、ガス排出ライン22から取り出される。
【0036】
処理液排出ライン19を流れる処理液は、膜分離装置26に流入し、汚泥と処理水とに分離される。そして、処理水は膜分離装置26から排出され、処理水排出ライン20を通り、系外へ排出される。また、膜分離装置26内の濃縮水(汚泥も含む)は、濃縮水返送ライン24から原水槽12に供給される。これにより、原水槽12から反応槽16へ濃縮水が供給されるため、反応槽16内の汚泥濃度の減少を容易に防止することが可能となる。
【0037】
本実施形態では、反応槽16内に消化汚泥やグラニュール等を投入すること、膜分離装置26内の濃縮水(生物汚泥も含む)を反応槽16に供給する等して、反応槽16内の汚泥濃度を15000?35000mg/Lの範囲に調整する。また、生物処理により汚泥は増加するため、汚泥濃度が35000mg/Lを超過した場合は、反応槽16及び膜分離装置の濃縮水を反応槽16に供給するラインの少なくとも一方から、汚泥の一部を引き抜いて、反応槽16内の汚泥濃度を15000?35000mg/Lの範囲に調整する。反応槽16内の汚泥濃度が15000mg/L未満であると、高負荷で生物処理を行うことができない場合がある。ここで、「高負荷処理」とは、例えば、10kg/m^(3)/d以上のCODcr負荷又は5kg/m^(3)/d以上のTMAH負荷で嫌気性生物処理を行うことをいう。また、反応槽16内の汚泥濃度が35000mg/Lを超えると、生物汚泥の粘度が上昇し、後段のろ過膜の目詰まりを引き起こして、結果的に高負荷での処理ができない場合がある。
【0038】
以下に、本実施形態の嫌気性生物処理のその他の条件の一例について説明する。
【0039】
本実施形態では、反応槽16に流入する際(生物処理する際)の排水中の炭素数6以下の単一の有機物濃度を10000mg/L以下とすることが好ましく、2000mg/L以上から5000mg/L以下の範囲とすることが好ましい。反応槽16に流入する際の排水中の炭素数6以下の単一の有機物濃度が、10000mg/Lを超えると、生物処理の際、有機物の分解反応速度が遅くなる場合がある。本実施形態において、原水槽12に供給された排水中の炭素数6以下の単一の有機物濃度が、10000mg/Lを超える場合等には、生物処理後の処理水の一部を濃縮水返送ライン24から原水槽12に供給して、10000mg/L以下の濃度に希釈することが望ましい。
【0040】
本実施形態では、例えば、処理水排出ライン20等に生物処理後の処理水中の有機物濃度を検出するセンサを設置してもよい。そして、検出した有機物濃度に基づいて、反応槽16に流入する際の炭素数6以下の単一の有機物濃度を推定し、その推定値に基づいて、炭素数6以下の単一の有機物濃度が上記範囲となるように、処理水の供給量を決定することが好ましい。また、例えば、原水槽12又は原水第1ライン10等に有機物濃度を検出するセンサを設置してもよい。また、上記生物処理した処理水に代えて、例えば、工業用水、放流水、又は工場内で設備がある場合にはアンモニア廃液、IPA廃液の蒸留等から得られる蒸留処理水(凝縮水)等の希釈水を用いて、排水の希釈を行ってもよい。蒸留処理水は、水温が40℃と高いことから、反応槽16を加温し、有機物の分解反応を促進させることができる点で好ましい。
【0041】
本実施形態では、有機物含有排水を生物処理するに当たり、排水のpHは6.5?9.0の範囲が好ましく、7.0?8.0の範囲がより好ましい。排水のpH調整は、例えば、pH調整剤供給ライン36から原水槽12にpH調整剤を供給することにより行われる。有機物含有排水のpHが上記範囲外であると、生物処理による有機物の分解反応速度が低下する場合がある。また、従来、TMAH等のアルキルアンモニウム塩を嫌気性生物処理する場合においては、アンモニア阻害を抑制するために、pH6.5?7の弱酸性が好ましいとされていたが、TMAH等のアルキルアンモニウム塩の処理に関しては、pH7?8の弱アルカリ側で、最も処理性能が良くなる。
【0042】
本実施形態で用いられるpH調整剤としては、塩酸等の酸剤、水酸化ナトリウム等のアルカリ剤等特に制限されるものではない。また、pH調整剤は、例えば、緩衝作用を持つ重炭酸ナトリウム、燐酸緩衝液等であってもよい。
【0043】
本実施形態では、嫌気性生物汚泥の分解活性を良好に維持するために、例えば、栄養剤供給ライン32から原水槽12に栄養剤を供給することが好ましい。栄養剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、炭素源、窒素源、その他無機塩類等が挙げられる。
【0044】
本実施形態では、有機物含有排水を生物処理するに当たり、反応槽16内の水温を20℃以上となるように温度調整することが好ましく、28?35℃の範囲となるように温度調整することがより好ましい。嫌気性生物処理による有機物の分解は、20℃未満でも可能であるが、20℃未満であると、分解反応速度が低下してしまうため、水温を上記範囲に調整することが好ましい。上記温度調整方法は、特に制限されるものではないが、例えば、蒸気を原水槽12に供給することで、反応槽16内の水温を調整してもよいし、反応槽16にヒータを設置して、ヒータの熱により反応槽16内の水温を調整しても良い。また、例えば、加温した希釈水を供給することで、反応槽16内の水温を調整してもよい。また、例えば、炭素数6以下の有機物の分解によりメタンガスが発生するが、通常の嫌気処理同様に脱硫処理を実施後、メタンガスボイラーで熱エネルギとして回収し、該熱エネルギを反応槽16に供給し、水温を調整してもよい。
【0045】
図2は、本実施形態に係る嫌気性生物処理装置の構成の他の一例を示す模式図である。図2に示す嫌気性生物処理装置2において、図1に示す嫌気性生物処理装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。図2に示す嫌気性生物処理装置2では、反応槽16内に膜分離装置27が設けられており、膜分離装置27の処理水排出口(不図示)に処理水排出ライン20が接続されている。なお、本実施形態では、反応槽16内に固液分離装置は設置されていない。
【0046】
本実施形態でも、前述したように、炭素数6以下の有機物が含まれている排水が反応槽16内に供給され、汚泥濃度を15000?30000mg/Lに調整された嫌気性下で生物処理される。その結果、反応槽16内の生物汚泥の微細化は緩和され、また生物汚泥の粘度の増加も抑制される。その結果、反応槽16内に膜分離装置27を設置した場合でも、膜分離装置27のろ過膜の目詰まりを抑制することができるため、高負荷での処理が可能となる。
【0047】
反応槽16内に設置する分離膜装置27としては、例えば、多数の中空糸膜が束ねられ、筒状ケース内に平行に延びるように収容された中空糸膜モジュールとすることが好ましい。なお、束ねられた中空糸膜は、その両端部が筒状ケース内で接着用樹脂を用いて互いに接着固定される。
【0048】
図3は、本実施形態に係る嫌気性生物処理装置の構成の他の一例を示す模式図である。図3に示す嫌気性生物処理装置3において、図1に示す嫌気性生物処理装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態の嫌気性生物処理装置3には、複数の反応槽が設けられている。具体的には、第1反応槽16と、第2反応槽17が設けられている。そして、第2反応槽17内に、膜分離装置27が設置されている。また、図3に示すように、第1反応槽16の処理水排出口(不図示)と第2反応槽17の処理水供給口(不図示)との間には、処理液排出ライン19が接続されている。また、膜分離装置27の濃縮水排出口(不図示)と第1反応槽16の濃縮水供給口(不図示)との間には濃縮水返送ライン24が接続されている。さらに、膜分離装置27の処理水排出口(不図示)には処理水排出ライン20が接続されている。
【0049】
図3に示す嫌気性生物処理装置では、炭素数6以下の単一の有機物が含まれている排水が第1の反応槽16内に供給され、汚泥濃度を15000?3000mg/Lに調整された嫌気性下で生物処理される。また、第1反応槽16内の排水、第1反応槽16内で生物処理された処理液は処理液排出ライン19から第2反応槽17内へ供給される。そして、第2反応槽17内でも有機物を含む排水が嫌気性下で生物処理されると共に、第2反応槽17内の膜分離装置27により、処理液中の生物汚泥が除去される。膜分離処理された濃縮水の一部は濃縮水返送ライン24から第1反応槽16内に返送されることにより、例えば、第1反応槽16内の汚泥濃度が調整される。膜分離装置27により固液分離された処理水は処理水排出ライン20から系外へ排出される。
【0050】
本実施形態でも、前述したように、炭素数6以下の単一の有機物が含まれている排水が第1反応槽16及び第2反応槽17内に供給され、嫌気性下で生物処理される。その結果、第1反応槽16及び第2反応槽17内の生物汚泥の微細化は緩和され、また生物汚泥の粘度の増加も抑制される。その結果、第2反応槽17内に膜分離装置27を設置した場合でも、膜分離装置27のろ過膜の目詰まりを抑制することができるため、高負荷での処理が可能となる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
実施例1の試験は図3に示す嫌気性生物処理装置を用いて行った。実施例1において生物処理される排水は、半導体工場から排出されたTMAH含有の実排水であり、全体の有機物の90重量%以上がTMAHとなるように分別処理したものである。そして、この実排水中のTMAH濃度を8000mgTMAH/Lになるように調整した。次に、内容積1.5Lの第1反応槽に種汚泥として嫌気性汚泥(汚泥濃度23000mg/L)を添加した後、上記実排水を10kgTMAH/m^(3)/d(TOC負荷では5.4kgTOC/m^(3)/d)のTMAH負荷で通水した。また、0.4μmのPVDF製の中空糸膜を用いた固液分離装置を槽内に設置した第2反応槽(内容積1.2L)に、第1反応槽内の排水を供給し、0.3m/dで吸引ろ過した。固液分離処理は、7分吸引ろ過、1分停止のサイクルで行った。
【0053】
第1反応槽に排水を通水する際の温度は30℃、pHは7?8となるように調整した。また、栄養剤(85%リン酸)を0.16mL、微量元素(オルガノ(株)製のオルガミン10)を5mL/L、Ni、Coを各0.4mg/L添加した。
【0054】
(比較例1)
比較例1は、嫌気性グラニュールを用いたUASB処理装置に、実施例1と同じ排水を通水して、排水処理を行った。なお、UASBから排出される処理水をUASB処理装置に流入する際の排水に供給して、排水中のTMAH濃度を8000mgTMAH/Lになるように調整した。処理装置立ち上げ時は、UASB処理装置に流入する際の排水に工水を供給してTMAH濃度を調整した。処理装置立ち上げ時のTMAH負荷を1kgTMAH/m^(3)/dとし、処理状況を確認しながら増加させた。その他の処理条件は、実施例1と同様に行った。
【0055】
図4は、実施例1により得られる処理水中のTMAH濃度及びTMAH負荷である。図5は、実施例1で用いたろ過膜の吸引圧力の経日変化である。また、図6は、比較例1により得られる処理水中のTMAH濃度及びTMAH負荷である。図4に示すように、実施例1では、TMAH負荷が10kgTMAH/m^(3)/d(TOC負荷では5.4kgTOC/m^(3)/d)と高負荷で処理を行っても、実施例1により得られる処理水、すなわち、膜分離装置から排出された処理水中のTMAH濃度は30日経過しても上昇することなく、高負荷でも安定してTMAHを除去することが可能であるとわかった。また、図5に示すように、ろ過膜の吸引圧力も変化することがなかった。すなわち、ろ過膜の膜目詰まりもほとんどなく、安定したフラックスでの膜処理が可能であることを確認した。一方、比較例1では、通水開始から10日程度までは、3kgTMAH/m^(3)/dのTMAH負荷で、比較例1により得られる処理水中のTMAH濃度もほとんど上昇することはなかった。しかし、通水開始から14日以降では、UASB処理装置内の嫌気性グラニュールが微細化して、UASB処理装置から流出し、UASB処理装置から排出された処理水中のTMAH濃度は上昇した。通水開始から20日目では、TMAH除去率は50%程度に低下し、安定した処理を行うことができなくなった。
【0056】
(実施例2)
実施例2において生物処理される排水は、半導体工場から排出されたメタノール含有の実排水であり、全体の有機物の90重量%以上がメタノールとなるように分別処理したものである。そして、この実排水中のTMAH濃度を10000mg/Lになるように調整した。次に、内容積1.5Lの第1反応槽に種汚泥として嫌気性汚泥(汚泥濃度23000mg/L)を添加した後、上記実排水を12kgCODcr/m^(3)/d(TOC負荷では3.2kgTOC/m^(3)/d)のCODcr負荷で通水した。また、0.4μmのPVDF製の中空糸膜を用いたろ過装置を槽内に設置した第2反応槽(内容積1.2L)に、第1反応槽内の排水を供給し、0.3m/dで吸引ろ過した。
【0057】
第1反応槽に排水を通水する際の温度は30℃、pHは7?8となるように調整した。また、栄養剤(オルガノ(株)製、オルガミンNP-51)を0.3g/L、微量元素(オルガノ(株)製のオルガミン10)を3mL/L、Ni、Coを各0.3mg/L添加した。
【0058】
図7は、実施例2により得られる処理水中のメタノール濃度及びCODcr負荷である。図8は、実施例2で用いたろ過膜の吸引圧力の経日変化である。図7に示すように、実施例2では、CODcr負荷が10kgCODcr/m^(3)/d(TOC負荷では3.2kgTOC/m^(3)/d)と高負荷で処理を行っても、実施例2により得られる処理水、すなわち、膜分離装置から排出された処理水中のメタノール濃度は25日経過しても上昇することなく、安定してメタノールを除去することが可能であるとわかった。また、図8に示すように、ろ過膜の吸引圧力もほとんど変化することがなかった。すなわち、ろ過膜の膜目詰まりもほとんどなく、高負荷でも安定したフラックスでの膜処理が可能であることを確認した。
【0059】
(実施例3)
実施例3では、内容積1.5Lの第1反応槽に投入する嫌気性汚泥の汚泥濃度を0?40000mg/Lまで変化させ、各汚泥濃度における粘度を測定した。嫌気性汚泥の汚泥濃度は、工水による希釈や遠心分離による濃縮で調整し、汚泥粘度は粘度計(リオン(株)製、ビスコテスタVT-03E)を用いて測定した。
【0060】
図9は、実施例3の嫌気性汚泥の汚泥濃度と粘度との関係をまとめた図である。図9に示すように、汚泥濃度(MLSS)が35000mg/Lを超えると、汚泥粘度が急激に上昇することを確認した。これにより反応槽内の汚泥濃度が35000mg/L以下となるように運転管理することで、後段の膜分離装置の膜の目詰まりをより抑制するため、高負荷での処理が可能となると言える。
【符号の説明】
【0061】
1?3 嫌気性生物処理装置、10 原水第1ライン、12 原水槽、14 原水第2ライン、16 第1反応槽、17 第2反応槽、19 処理液排出ライン、20 処理水排出ライン、22 ガス排出ライン、24 濃縮水返送ライン、26,27 膜分離装置、30 栄養剤貯槽、32 栄養剤供給ライン、34 pH調整剤貯槽、36 pH調整剤供給ライン、38 撹拌装置、40a,40b 仕切り板、42 固液分離部、44 連通路、46 処理液取出部。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数6以下の有機物を含有する排水を、反応槽において嫌気性下でメタン発酵する生物処理工程と、前記生物処理工程で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離工程と、を有し、
前記生物処理工程実施中は生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の水温を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上で生物処理を行うことを特徴とする嫌気性生物処理方法。
【請求項2】
前記有機物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドおよびメタノールのうち少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項1に記載の嫌気性生物処理方法。
【請求項3】
前記排水を、前記有機物が単一で、前記排水中の全有機物の90重量%以上含有するように調整することを特徴とする請求項1または2に記載の嫌気性生物処理方法。
【請求項4】
前記生物処理工程では、TMAH負荷5kg/m^(3)/d以上で生物処理を行うことを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の嫌気性生物処理方法。
【請求項5】
炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する反応槽と、前記反応槽で得られる処理液を、-7kPa以上0kPa未満の吸引圧力で、前記反応槽内に設けられたPVDF製の中空糸膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離部と、を有し、
生物処理実施中は前記反応槽における生物汚泥濃度を、15000mg/L以上30000mg/L未満の範囲に調整し、前記排水の温度を28℃以上35℃以下の範囲に調整し、前記排水のpHを7以上8以下の範囲に調整し、前記反応槽では、CODcr負荷10kg/m^(3)/d以上で生物処理が行われることを特徴とする嫌気性生物処理装置。
【請求項6】
前記有機物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドおよびメタノールのうち少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項5に記載の嫌気性生物処理装置。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記排水を、前記有機物が単一で、前記排水中の全有機物の90重量%以上含有するように調整する手段を有することを特徴とする請求項5?6のいずれか1項に記載の嫌気性生物処理装置。
【請求項9】
前記反応槽では、TMAH負荷5kg/m^(3)/d以上で生物処理が行われることを特徴とする請求項5、6又は8に記載の嫌気性生物処理装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-26 
出願番号 特願2011-197441(P2011-197441)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C02F)
P 1 651・ 537- YAA (C02F)
P 1 651・ 112- YAA (C02F)
P 1 651・ 113- YAA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 紀史近野 光知松井 一泰金 公彦  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 山本 雄一
中澤 登
登録日 2016-04-08 
登録番号 特許第5912353号(P5912353)
権利者 オルガノ株式会社
発明の名称 嫌気性生物処理方法及び嫌気性生物処理装置  
代理人 特許業務法人森本国際特許事務所  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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