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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B43K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B43K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B43K
審判 全部申し立て 特174条1項  B43K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B43K
管理番号 1337090
異議申立番号 異議2017-700702  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-20 
確定日 2018-02-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6067653号発明「筆記具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6067653号の請求項1-6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6067653号の請求項1乃至6に係る特許についての出願は,平成14年10月31日に出願した特願2002-318261号(以下,「第1世代出願」という。)の一部を平成22年7月14日に特願2010-159669号(以下,「第2世代出願」という。)として出願し,その一部を平成25年5月1日に特願2013-096409号(以下,「第3世代出願」という。)として出願し,その一部を平成25年11月22日に特願2013-241932号(以下,「第4世代出願」という。)として出願し,その一部を平成26年11月17日に特願2014-232761号(以下,「本件特許出願」という。)として出願されたものである。
その後,平成28年12月5日に特許査定がなされ,平成29年1月6日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許について,特許異議申立人鈴野幹夫(以下,「申立人A」といい,この申立人Aによる特許異議申立を「異議A」という。),特許異議申立人古川慎二(以下,「申立人B」といい,この申立人Bによる特許異議申立を「異議B」という。),特許異議申立人大島一彦(以下,「申立人C」といい,この申立人Cによる特許異議申立を「異議C」という。)により特許異議の申立てがされ,当審において平成29年9月22日付けで取消理由を通知し,平成29年11月27日付けで意見書が提出されたものである。

2.本件発明
「【請求項1】
少なくとも可逆熱変色性インキを内蔵する筆記具であって,
前記可逆熱変色性インキは,マイクロカプセル顔料を水性媒体中に分散させた構成となっており,
前記筆記具は,キャップの頂部又は軸胴の後端部に摩擦体を備え,前記摩擦体は,消しゴムを除く弾性体であって,且つ前記筆記具のキャップ及び軸胴と異なる材料からなり,抜け力が10N以上となるように,前記筆記具のキャップの頂部又は軸胴の後端部に一体に設けられ,手動操作で擦過したときに削れカスが出ることなく摩擦熱を生じさせ,この摩擦熱により,浸透性を有する紙に形成された前記可逆熱変色性インキの像又は筆跡を剥がすことなく加熱し,発色状態から消色状態に変色させることを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記可逆熱変色性インキが少なくとも25℃?65℃の範囲に高温側変色点を有するマイクロカプセル顔料を含有することを特徴とする請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記摩擦体がシリコーンゴムからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記摩擦体が着色剤を含有することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の筆記具。
【請求項5】
前記着色剤が摩擦体全量中0.1?1.0重量%含有されることを特徴とする請求項4に記載の筆記具。
【請求項6】
前記摩擦体が凸曲面形状の擦過部を有することを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の筆記具。」
なお,請求項1に係る発明を「本件発明1」といい,項番にしたがい「本件発明2」…「本件発明6」などという。

3.取消理由の概要
当審において,請求項1乃至6に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。
理由1 請求項1および請求項1を引用する請求項2乃至6に係る特許は,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。

理由2 本願の発明の詳細な説明は,請求項1に記載された発明を実施するにあたって,当業者が実施できる程度に明確かつ十分したものではなく,請求項1および請求項1を引用する請求項2乃至6に係る特許は,特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものである。

4.判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 理由1について(特許法第36条第6項第1号)
本願の発明の詳細な説明の段落【0015】には「本発明の摩擦体1により可逆的に変色される可逆熱変色像及び筆跡を形成する可逆熱変色性インキ6は,発色状態から加熱により消色する加熱消色型,発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型,又は,消色状態から加熱により発色し,発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型等種々のタイプで構成する…」と記載され,
同段落【0016】には「また,筆記具2に内蔵される可逆熱変色性インキ6に含有される可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は,従来より公知の(イ)電子供与性呈色性有機化合物,(ロ)電子受容性化合物,及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体,の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させたものが有効であり,発色状態からの加熱により消色する加熱消色型としては,本出願人が提案した,特公昭51-44706号公報,特公昭51-44707号公報,特公平1-29398号公報等に記載のものが利用できる。」と記載されている。(下線は当審で引いた。以下同じ。)
つまり,本願の発明の詳細な説明には,紙に形成された像又は筆跡を発色状態から消色状態に変色させる「可逆熱変色性インキ」を本願発明に用いること,並びに,そのような「可逆熱変色性インキ」が公知技術であったことが記載されている。
したがって,本件発明1における発明特定事項である「紙に形成された前記可逆熱変色性インキの像又は筆跡を?発色状態から消色状態に変色させる」ことは,発明の詳細な説明に記載されており,請求項1に係る特許は特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。
また,「紙に形成された前記可逆熱変色性インキの像又は筆跡を?発色状態から消色状態に変色させる」ことが,発明の詳細な説明に記載されている以上,請求項1を引用する請求項2乃至6に係る特許についても特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。

イ 理由2について(特許法第36条第4項第1号)
上記「ア 理由1(特許法第36条第6項第1号)について」で述べたとおり,本願の発明の詳細な説明には,紙に形成された像又は筆跡を発色状態から消色状態に変色させる「可逆熱変色性インキ」を本願発明に用いること,並びに,そのような「可逆熱変色性インキ」が公知技術であったことが記載されている。
したがって,本願の発明の詳細な説明は,本件発明1を実施するにあたって,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されており,請求項1に係る特許は,特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものではない。
また,「紙に形成された前記可逆熱変色性インキの像又は筆跡を?発色状態から消色状態に変色させる」ことが,発明の詳細な説明に記載されている以上,本願の発明の詳細な説明は,本件発明1を引用する本件発明2乃至6を実施するにあたって,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていることになることは当然であり,請求項2乃至6に係る特許は,特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものではない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 異議Aの概要
異議申立書の第2?4頁の「理由の要点」と記された表には,「特許法第17条の2第3項」,
「特許法第36条第4項第1号」,「特許法第36条第6項第1号」,「特許法第36条第6項第2号」,「特許法第29条第1項第3号」の5つに区分された申立理由が記載されている。
異議申立書の第10?27頁には,「ウ 補正が不適法である理由」,「エ 記載不備の理由1」,「オ 記載不備の理由2」,「カ 記載不備の理由3」,「キ 分割要件違反」の5つに区分された申立理由が記載されている。
そして,両者の内容を総合的に見ると以下のとおりとなる。
理由A-1 (ウ 補正が不適法である理由)
平成28年8月5日付け手続補正書により行われた補正によって,補正後の請求項1乃至6に係る発明は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲を超えている。
よって,上記補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものではない。

理由A-2 (エ 記載不備の理由1)
請求項1の「筆跡を剥がすことなく」及び「削れカスが出ることなく」という記載は明確ではなく,「削れカスが出ることなく摩擦熱を生じさせ」ること及び「可逆熱変色性インキの像又は筆跡を剥がすことなく加熱」することは,摩擦体の材質又は構成を何ら特定するものではないから,本件発明1乃至6は,明確ではない。

理由A-3 (オ 記載不備の理由2)
「消しゴムを除く弾性体」が如何なる性質を有するものか明確ではないことから,「消しゴムを除く弾性体」として特定されていない本件発明1,2,4乃至6は,明確ではない。また,本件発明1,2,4乃至6は,発明の詳細な説明に記載したものでもなく,発明の詳細な説明が,当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものでもない。

理由A-4 (カ 記載不備の理由3)
摩擦体がシリコーンゴムとして特定されていない本件発明1,2,4乃至6は,明確ではない。また,本件発明1,2,4乃至6は,発明の詳細な説明に記載したものでもなく,発明の詳細な説明が,当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものでもない。

理由A-5 (キ 分割要件違反)
平成28年8月5日付け手続補正書により行われた補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものではなく,原出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内でないものを含むから,本件特許出願は適法な分割出願ではなく,本件特許出願の出願日は,原出願の出願日に遡及しない
よって,本件発明1乃至6は,本件特許出願の現実の出願日よりも前に公開されている原出願の特許公開公報に記載された発明である。

申立人Aは,以下の証拠を提出している。
甲第1号証:特開2004-148744号公報(第1世代出願の公開公報)
甲第2号証:広辞苑 第5版 1998年11月11日 岩波書店発行 「消しゴム」,「弾性」及び「弾性体」の項目
甲第3号証:機械工学事典 初版 1997年8月20日 日本機械学会発行 「弾性」及び「弾性体」の項目
甲第4号証:知財高裁平成21年9月30日判決(平成21年(行ケ)第10041号)

イ 異議Bの概要
理由B-3(特許法第17条の2第3項)
平成28年3月25日付け手続補正書により行われた補正によって,補正後の請求項1乃至6に係る発明は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲を超えている。
よって,上記補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものではない。

なお,申立人Bの主張する異議申立理由のうち,
「理由B-1(特許法第36条第6項第1号)
請求項1の「発色状態から消色状態に変色させる」は,本件特許発明の発明の詳細な説明に記載されていない。」,
「理由B-2(特許法第36条第4項第1号)
請求項1の「発色状態から消色状態に変色させる」ことについて,どのような成分を用いれば実施できるかについて全く記載がない。
よって,発明の詳細な説明は,当業者が請求項1乃至6に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。」については,上記取消理由の「理由1」,「理由2」にそれぞれ対応する。

申立人Bは,以下の証拠を提出している。
甲第1号証:特開2004-148744号公報(第1世代出願の公開公報)
甲第2号証:特許第6067653号公報(本件特許出願の特許公報)

ウ 異議Cの概要
理由C-1(特許法第29条第2項(特許法第44条第1項))
平成28年8月5日付け手続補正書により行われた補正によって,補正後の請求項1に係る発明は,原出願の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲を超えているから,本件特許出願は適法な分割出願ではなく,本件特許出願の出願日は,原出願の出願日に遡及しない。
よって,本件発明1乃至6は,本件特許出願の現実の出願日よりも前に公開されている原出願の特許公開公報の内容に基づき当業者が容易に発明できたものである。

理由C-2(特許法第36条第4項第1号)
請求項1の「消しゴムを除く弾性体」は,発明の詳細な説明を参酌しても材質が不明であり,「筆跡を剥がすことなく」及び「削れカスが出ることなく」は,発明の詳細な説明を参酌しても具体的な構成を限定せず不明である。
よって,発明の詳細な説明は,当業者が本件発明1乃至6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

理由C-3(特許法第36条第6項第1号)
請求項1の「消しゴムを除く弾性体」について,本件特許の明細書及び図面には参酌すべき記載がない。
よって,本件発明1乃至6は,発明の詳細な説明に記載したものではない。

理由C-4(特許法第36条第6項第2号)
請求項1の「消しゴムを除く弾性体」は明確ではない。
よって,本件発明1乃至6は,明確ではない。

申立人Cは,以下の証拠を提出している。
甲第1号証:特開2014-54851号公報(第4世代出願の公開公報)
甲第2号証:特開2013-166387号公報(第3世代出願の公開公報)
甲第3号証:特開2010-260359号公報(第2世代出願の公開公報)
甲第4号証:特開2004-148744号公報(第1世代出願の公開公報)
甲第5号証:特開2015-71305号公報(本件特許出願の公開公報)
甲第6号証:平成28年3月25日付け意見書及び手続補正書,平成28年6月15日付け拒絶理由通知書,平成28年7月21日付け面接記録,及び平成28年8月5日付け意見書及び手続補正書(本件特許出願の審査に係るもの)

ウ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
理由A-1について (ウ 補正が不適法である理由)
補正後の請求項1における「消しゴムを除く弾性体」について検討する。
まず,「消しゴムを除く弾性体」は,請求項1の文脈からみて本件発明1の「摩擦体」を特定するための発明特定事項の一部でしかないことは明らかである。
また,本件発明1における「摩擦体」は,請求項1の発明特定事項により限定されるとおり,「筆記具のキャップ及び軸胴と異なる材料からなり,抜け力が10N以上となるように,前記筆記具のキャップの頂部又は軸胴の後端部に一体に設けられ,手動操作で擦過したときに削れカスが出ることなく摩擦熱を生じさせ,この摩擦熱により,浸透性を有する紙に形成された前記可逆熱変色性インキの像又は筆跡を剥がすことなく加熱し,発色状態から消色状態に変色させる」ことができ,さらに「消しゴム」としての用途を持たない弾性体のことであって,「消しゴムを除く全ての弾性体」を包含することを意味するものではないことは明らかである。
そして,本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0007】には,「前記筆記具2に設けられる摩擦体1としては,汎用の弾性体を用いることができるが,シリコーンゴムであることが好ましい。」と,記載されているとおり,摩擦体には「汎用の弾性体を用いることができる」こと,及び「シリコーンゴム」は,その「汎用の弾性体」として好適な実施例であることが記載されている。
また,同段落【0008】には「前記シリコーンゴムは,熱変色像を剥がすことなく繰返し可逆的に変色させることができるのに対して,消しゴムや他のゴム類では,擦過した際,字消し力が高いため熱変色像の擦過部分が剥がれてしまい,変色効果が損なわれる。そのため,前記消しゴムや他のゴム類を用いる場合にはコーティング層等を設けて像を保護することが好ましい。」と,記載されているとおり,「擦過した際,字消し力が高いため熱変色像の擦過部分が剥がれてしまい,変色効果が損なわれる」ため,「コーティング層等を設けて像を保護することが好ましい」という「消しゴムや他のゴム類」は,本件発明に用いるには適当でない性質を有するゴムであると記載されている。
つまり,この段落【0008】における「他のゴム類」は,「シリコーンゴムや消しゴムを除く,全てのゴム類」を包含するものではなく,「擦過した際,字消し力が高いため熱変色像の擦過部分が剥がれてしまい,変色効果が損なわれる」ため,「コーティング層等を設けて像を保護することが好ましい」という,本件発明に用いるには適当でない性質を有するゴムを意味していることは自明である。
したがって,本願の願書に最初に添付した明細書には,摩擦体に汎用の弾性体を用いることを許容しつつも,「擦過した際,字消し力が高いため熱変色像の擦過部分が剥がれてしまい,変色効果が損なわれる」ため,「コーティング層等を設けて像を保護することが好ましい」という,本件発明に用いるには適当でない性質を有するゴムを排除することが記載されているといえるから,「消しゴムを除く弾性体」という記載により,又は発明の詳細な説明において「他のゴム類」を削除したことにより,本件発明1乃至6における摩擦体において,用いるには適当でない性質を有するゴムが包含されるようになったものではない。
したがって,上記補正によって補正された事項は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項に基づいたものであって,願書に最初に添付した明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではなく,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。
よって,平成28年8月5日付け手続補正書により行われた補正によって,補正後の請求項1乃至6に係る発明は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲を超えたとは認められず,上記補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであるから,理由A-1にかかる主張は理由がない。

理由A-2について (エ 記載不備の理由1)
本件発明は,明細書及び図面全体から,一般的な筆記具に係る発明であって,特殊な用途を目的とするものでないことは明らかである。
とすれば,請求項1の「筆跡を剥がすことなく(加熱し)」は,一般的な筆記の状態において「可逆熱変色性インキの像又は筆跡を加熱し,発色状態から消色状態に変色させる」際に,常識的な範囲において,像又は筆跡を「剥がすことなく(加熱し)」と限定しているのであって,それ自体明確である。
さらに,「消しゴムを除く弾性体」という記載から,甲第2号証に定義される一般的な消しゴムが,紙に形成された像又は筆跡を剥がすことで消去することに比べて,本件発明においては常識的な範囲において,像又は筆跡を「剥がすことなく(加熱し)」としていることも明らかである。
また,「削れカスが出ることなく(摩擦熱を生じさせ)」も同様に,一般的な筆記の状態において「手動操作で擦過したときに摩擦熱を生じ」させる際に,常識的な範囲において「削れカスが出ることなく(摩擦熱を生じさせ)」と限定しているのであって,それ自体明確である。
さらに,「消しゴムを除く弾性体」という記載から,甲第2号証に定義される一般的な消しゴムが,紙に形成された像又は筆跡を消去する際に,消しゴム自身が削れることに比べて,本件発明においては常識的な範囲において,摩擦体が「削れカスが出ることなく(摩擦熱を生じさせ)」としていることも明らかである。
したがって,本件発明1乃至6は,明確であって,理由A-2にかかる主張は理由がない。

理由A-3について (オ 記載不備の理由2)
「理由A-1について」で述べたように,「消しゴムを除く弾性体」は,「摩擦体」を限定する発明特定事項の一部にすぎない。
つまり,本件発明1における「消しゴムを除く弾性体」は,摩擦体を「消しゴムを除く全ての弾性体」で構成することを意味するものではなく,請求項1の発明特定事項により限定されるとおり,「筆記具のキャップ及び軸胴と異なる材料からなり,抜け力が10N以上となるように,前記筆記具のキャップの頂部又は軸胴の後端部に一体に設けられ,手動操作で擦過したときに削れカスが出ることなく摩擦熱を生じさせ,この摩擦熱により,浸透性を有する紙に形成された前記可逆熱変色性インキの像又は筆跡を剥がすことなく加熱し,発色状態から消色状態に変色させる」ことができ,さらに「消しゴム」としての用途を持たない弾性体で構成することを意味しているから,それ自体明確である。
また,「理由A-1について」で述べたように,「消しゴムを除く弾性体」は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項に基づく記載であるから,本件発明1,2,4乃至6は,発明の詳細な説明に実質的に記載されたものである。
さらに,「消しゴムを除く弾性体」が明確であって,発明の詳細な説明に実質的に記載したものである以上,発明の詳細な説明が,当業者が本件発明1,2,4乃至6の実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえない。
したがって,理由A-3にかかる主張は理由がない。

理由A-4について (カ 記載不備の理由3)
「理由A-1について」で述べたように,本件発明の摩擦体は,請求項1に記載された発明特定事項を満すような「汎用の弾性体」を用いることができ,「シリコーンゴム」は,その「汎用の弾性体」として好適な実施例にすぎないものであって,発明が解決しようとする課題である段落【0004】に記載された「オーバーコート層等の保護部材を必要とせず,可逆熱変色性インキにより形成された像や筆跡を剥がすことなく第1状態から第2状態に変色させ得ると共に,摩擦による損耗を起こしにくく,繰返し使用による持久性が高い摩擦体を提供しようとする」を踏まえると,「シリコーンゴム」は,発明特定事項として必須のものではないことは明らかである。
また,申立人Aが主張する本件発明6の発明特定事項である「摩擦体が凸曲面形状の擦過部を有する」に関しては,摩擦体の擦過部(擦過したときに紙面と接触する部位)を「凸曲面形状」とすれば,そうでないものと比べて,段落【0010】に記載された「筆跡を剥がすことなく,適度な柔らかさで擦過できる。また,筆跡との接触角度によらず一定の接触面積が得られ,広域を擦過することなく目的の部分のみを擦過できると共に,摩擦体1自体の磨耗性を低減でき,熱の発生効率が高められるので,削れカスが出ることなく,変色させたい部分を的確且つ容易に変色できる。」という効果を,より奏することができるという意味であって,該「凸曲面形状」も「シリコーンゴム」と同様に発明特定事項として必須のものではないことは明らかである。
よって,本件発明1に摩擦体の材料又は形状を特定していないから,本件発明1,2,4乃至6は,明確でないとはいえない。
また,本件発明1,2,4乃至6は,発明の詳細な説明に記載したものであって,発明の詳細な説明が,当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものである。
したがって,理由A-4にかかる主張は理由がない。

理由A-5について (キ 分割要件違反)
「理由A-1について」で述べたとおり,平成28年8月5日付け手続補正書により行われた補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであるから,本件特許出願は適法な分割出願であって,本件特許出願の出願日は,原出願(第1世代出願)の出願日に遡及する。
したがって,本件特許出願の原出願(第1世代出願:甲第1号証)の特許公開公報は,本件特許の出願前に頒布された刊行物ではなく,理由A-5にかかる主張は理由がない。

理由B-3について (特許法第17条の2第3項)
請求人Bは,具体的には,平成28年3月25日付け手続補正書により,請求項1において「前記摩擦体は,消しゴムを除く弾性体であって」と補正したことをもって,新規事項の追加に該当する旨,主張している。(特許異議申立書第29頁下から4行?第30頁下から3行)
そして,理由B-3に係る上記主張は,申立人Aが主張する理由A-1と実質的に同じである。
「理由A-1について」で述べたとおり,平成28年8月5日付け手続補正書により行われた補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであるから,平成28年3月25日付け手続補正書により,請求項1において「前記摩擦体は,消しゴムを除く弾性体であって」と補正したことも,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものと認められ,新規事項の追加に該当するものではない。
したがって,上記手続補正書により行われた補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲を超えるものではなく,理由B-3にかかる主張は理由がない。

理由C-1について (特許法第29条第2項(特許法第44条第1項))
「理由A-1について」で述べたとおり,平成28年8月5日付け手続補正書により行われた補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであるから,本件特許出願は適法な分割出願であって,本件特許出願の出願日は,原出願(第1世代出願)の出願日に遡及する。
したがって,本件特許出願の原出願(第1世代出願:甲第4号証)の特許公開公報は,又は第2世代出願(甲第3号証),又は第3世代出願(甲第2号証),又は第4世代出願(甲第1号証)の特許公開公報は,本件特許の出願前に頒布された刊行物ではなく,理由C-1にかかる主張は理由がない。

理由C-2について (特許法第36条第4項第1号)
「理由A-3について」で述べたとおり,「消しゴムを除く弾性体」は,それ自体明確であるし,発明の詳細な説明が,当業者が本件発明1乃至6の実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものである。
「理由A-2について」で述べたとおり,「筆跡を剥がすことなく」及び「削れカスが出ることなく」は,それ自体明確であるし,発明の詳細な説明が,当業者が本件発明1乃至6の実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものである。
したがって,理由C-2にかかる主張は理由がない。

理由C-3について (特許法第36条第6項第1号)
「理由A-3について」で述べたとおり「消しゴムを除く弾性体」は,それ自体明確であるし,発明の詳細な説明に実質的に記載されたものである。
したがって,本件発明1乃至6は,発明の詳細な説明に記載したものであって,理由C-3にかかる主張は理由がない。

理由C-4について (特許法第36条第6項第2号)
「理由A-3について」で述べたとおり,「消しゴムを除く弾性体」は,それ自体明確である
したがって,本件発明1乃至6は,明確であって,理由C-4にかかる主張は理由がない。

6.むすび
したがって,請求項1乃至6に係る特許は,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては,取り消すことができない。
また,他に請求項1乃至6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-31 
出願番号 特願2014-232761(P2014-232761)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B43K)
P 1 651・ 55- Y (B43K)
P 1 651・ 537- Y (B43K)
P 1 651・ 536- Y (B43K)
P 1 651・ 113- Y (B43K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮本 昭彦  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 吉村 尚
藤本 義仁
登録日 2017-01-06 
登録番号 特許第6067653号(P6067653)
権利者 株式会社パイロットコーポレーション パイロットインキ株式会社
発明の名称 筆記具  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 特許業務法人 津国  
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